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特表2022-509180腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する為の組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(54)【発明の名称】腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する為の組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220113BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220113BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20220113BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220113BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220113BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K9/51
A61K47/60
A61K47/59
A61K38/02
A61K31/716
A61K38/21
A61K38/20
A61K31/7105
A61K48/00
A61P35/00
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529374
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 US2019063462
(87)【国際公開番号】W WO2020112913
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】62/771,309
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】サクセナ,タルン
(72)【発明者】
【氏名】ベラコンダ,ラヴィ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD21
4C076EE17
4C076EE23
4C076EE49
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA03
4C084BA44
4C084DA14
4C084DA22
4C084DA24
4C084DA25
4C084MA43
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086EA20
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA43
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
【解決手段】 組成物が提供され、前記組成物は(1)ナノ粒子;(2)任意で、リンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)腫瘍周囲細胞を活性化して前記腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発するように構成されたリガンドを含む。
【効果】 幾つかの態様では、前記組成物の被験者への投与は、浸潤性の腫瘍を遮断し及び封じ込めることが可能な環境を生成し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、前記組成物は抱合体を含み、前記抱合体は(1)ナノ粒子;(2)任意で、リンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)リガンドを含み、前記リガンドは、腫瘍周囲細胞における以下の実体の少なくとも1つを標的化し:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;及び(vii)TNF-α受容体;及び(viii)IL-2受容体、及びそれによって前記腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発するように構成され、及び前記抱合体は約50nm~約200nmの平均直径を有する、組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子は金ナノ粒子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リンカー及び/若しくはマスキング剤は、PEG、PEG誘導体、若しくは親水性ポリカーボネートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記リガンドは、腫瘍周囲細胞におけるToll様受容体2及びToll様受容体4の少なくとも1つを標的とするように構成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記リガンドは、ペプチドグリカン、LPS、ザイモサン、Pam3CSK4、アミロイド-ベータペプチド、リポテイコ酸、HMGB1、熱ショックタンパク質、CSF-1R阻害剤、LPS+IFN-γ、キシロシド、IFN-γ、TNF-α、IL-2、リポカリン2、及びmiRNA-155のうちの1以上、それらの組み合わせ、又はそれらの何れか1つ若しくは組み合わせからの抽出物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記抱合体は、(1)金ナノ粒子;(2)PEG;及び(3)ザイモサン抽出物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
組成物であって、前記組成物は(1)ナノ粒子;及び(2)リガンドを含み、前記リガンドは、腫瘍周囲細胞における以下の実体のうちの少なくとも1つを標的化するように構成され:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;(vii)TNF-α受容体;及び(viii)IL-2受容体、及び前記ナノ粒子は、(a)前記リガンドと共に抱合体を形成する;及び(b)前記リガンドを被包する、のうちの少なくとも1つであり、及び前記抱合体及び/若しくは被包体は向上された透過性及び保持性効果を示すのに十分な平均直径を有する、組成物。
【請求項8】
PEG、PEG誘導体、親水性ポリカーボネート、若しくはその誘導体を更に含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子は金ナノ粒子を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記抱合体及び/若しくは被包体は約50nm~約200nmの平均直径を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記リガンドは、ペプチドグリカン、LPS、ザイモサン、Pam3CSK4、アミロイド-ベータペプチド、リポテイコ酸、HMGB1、熱ショックタンパク質、CSF-1R阻害剤、LPS+IFN-γ、キシロシド、IFN-γ、TNF-α、IL-2、リポカリン2、及びmiRNA-155のうちの1以上、それらの組み合わせ、又はそれらの何れか1つ若しくは組み合わせからの抽出物を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は抱合体を含み、前記ナノ粒子は金ナノ粒子を含み、及び前記リガンドはザイモサン抽出物を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
腫瘍周囲細胞を活性化して前記腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する方法であって、前記方法は、有効量の組成物をそれを必要とする被験者に投与することを含み、前記組成物は抱合体を含み、前記抱合体は(1)ナノ粒子;(2)任意で、前記ナノ粒子の循環時間を向上し及び前記ナノ粒子の前記被験者の血流からのクリアランスを防止するように構成されたリンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)リガンドを含み、前記リガンドは腫瘍周囲細胞における以下の実体の少なくとも1つを標的化し:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;及び(vii)TNF-α受容体、及びそれによって前記腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発するように構成されている、方法。
【請求項14】
前記抱合体はEPR効果を示すのに十分な平均直径を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子は金ナノ粒子を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記抱合体は約50nm~約200nmの平均直径を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記リガンドは、ペプチドグリカン、LPS、ザイモサン、Pam3CSK4、アミロイド-ベータペプチド、リポテイコ酸、HMGB1、熱ショックタンパク質、CSF-1R阻害剤、LPS+IFN-γ、キシロシド、IFN-γ、TNF-α、IL-2、リポカリン2、及びmiRNA-155のうちの1以上、それらの組み合わせ、又はそれらの何れか1つ若しくは組み合わせからの抽出物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子は金ナノ粒子を含み、及び前記リガンドはザイモサン抽出物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記実体は、GBM腫瘍に隣接した腫瘍周囲間質細胞におけるToll様受容体2である、請求項19に記載の方法。
【請求項20】
前記投与は間質性CSPG発現を刺激する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連の米国出願データ
本出願は、2018年11月26日出願の米国特許仮出願番号第62/771,309号の優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する為の組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍の処置及び転移の防止は未だに課題となっている。このことは特に、その腫瘍が従来の手段ではアクセスし難い場合に言えることである。一例として、原発性脳腫瘍は、それらが脳の外側に転移することは滅多にないという点で他に類を見ない。それにもかかわらず、脳腫瘍は、高い罹患率及び、部分的にはそれらの局在性及び局所的に浸潤性であることが多い増殖に起因する、高い死亡率を特徴とする。神経膠細胞から生ずる腫瘍である神経膠腫は、全ての原発性脳腫瘍のほぼ30%、及び全ての悪性のものの80%を占め、原発性脳腫瘍による死亡原因の大部分を占める。WHOグレードIV神経膠腫-多型神経膠芽腫(GBM)-は、最も悪性の且つ頻繁に発生する神経膠腫である。新たにGBMと診断された患者にとって、最適治療計画は、最大限に安全且つ実行可能な腫瘍塊の切除と、それに続く同時併用的及び補助的テモゾロミド(TMZ)プラス放射線療法と、それに続くTMZ単独である。これらの方策にもかかわらず、GBM患者の生存率は低迷が続いており、ここ50年に渡りほとんど改善していない。このことの重大な理由は、GBMが高度に浸潤性であり、深く及び脳の雄弁な領域内に浸潤して、切除を極めて危険にし得るということである。従って、脳腫瘍を処置する為の、及び具体的には神経膠腫を処置する為の、改善された方法が必要とされている。
【0004】
脳腫瘍浸潤の極めて重要な決定因子は、その細胞外基質(ECM)である。一般に、ECMは神経系損傷の病態生理学において鍵を握る成分である。外傷性の脳若しくは脊髄損傷後に形成される神経膠瘢痕のECMは、軸索再生に対して抑制的である。神経膠瘢痕ECMは、共有結合されたタンパク質-コンドロイチン硫酸(CS)グリコサミノグリカン(GAG)多糖複合体の多様なファミリーであるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類(CSPG類)に富む。CSPG類の成長促進若しくは抑制/忌避効果は主に、CSPG類を形成する種々のCS-GAG類によって発揮される。外傷性の脳若しくは脊髄損傷の部位の周りのCSPGに富む神経膠瘢痕の形成は、極めて重要な障壁を提供して、炎症を鎮め、及び傷害部位を「遮断する(walling-off)」ことによって組織損傷の広範な広がりを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このことを念頭に置いて、必要とされるものは、外傷性CNS(中枢神経系)傷害の続発症を再現する刺激を介して腫瘍周囲細胞を標的化し及び活性化して、腫瘍周囲細胞による瘢痕形成の誘発によって浸潤性の腫瘍成長若しくは広がりを遮断する及び封じ込めることのできる環境を生成する為の、組成物及び方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この概要は、発明を実施するための形態において更に後述する概念の選択を導入する為に提供される。この概要は、特許請求された主題の鍵となる若しくは必須の特徴を特定することを意図せず、この概要はまた、特許請求された主題の範囲を限定することの補助として用いられることも意図しない。
【0007】
本技術は、腫瘍周囲細胞の瘢痕形成を誘発して、癌細胞の成長を遅延させ、癌細胞を封じ込め、及び/若しくは処置位置からの癌細胞の広がりを実質的に防止する為の、組成物及び方法に関する。本技術の幾つかの態様は、外傷性CNS傷害の続発症を再現する刺激をもって腫瘍周囲細胞を標的化し及び活性化することによって、腫瘍周囲細胞の瘢痕形成を誘発する為の組成物及び方法に関する。腫瘍周囲細胞のこのような活性化は、腫瘍細胞に対して少なくとも部分的に不透過性である既存の腫瘍を包囲する障壁若しくは壁を作り出し、それによって浸潤性の腫瘍の成長若しくは広がりを妨害する。
【0008】
一態様では、本技術は、(1)ナノ粒子;(2)任意で、リンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)腫瘍周囲細胞を活性化してその腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発するように構成されたリガンド、を含む(compromising)組成物に関する。
【0009】
一態様では、本技術は、抱合体、被包体、若しくは両方を含む組成物に関する。前記抱合体、被包体、若しくは両方は、(1)ナノ粒子;(2)任意で、循環時間を増大させ及びナノ粒子の血流からのクリアランスを防止するように構成されたリンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)リガンドを含んで(compromise)よく、前記リガンドは、腫瘍周囲細胞における以下の実体のうちの少なくとも1つを標的化するように構成される:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;(vii)腫瘍壊死因子α(TNF-α)受容体;及び(viii)IL-2受容体。前述の態様の幾つかにおいて、前記リンカー及び/若しくはマスキング剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体、若しくは親水性ポリカーボネートを含んでよい。追加的に若しくは代替的に、前述の態様の幾つかにおいて、前記抱合体、被包体、若しくは両方は約50nm~約200nmの平均直径を有する。
【0010】
一態様では、組成物が提供され、前記組成物は、(1)ナノ粒子、及び(2)リガンド含み、前記リガンドは、腫瘍周囲細胞における以下の実体の少なくとも1つを標的化するように構成され:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;(vii)TNF-α受容体;及び/若しくは(viii)IL-2受容体、及び前記ナノ粒子は、(a)リガンドと共に抱合体を形成する;及び(b)前記リガンドを被包する、の少なくとも1つであり、及び前記抱合体及び/若しくは被包体は、静脈内に導入された場合に、向上された透過性及び保持性(enhanced permeability and retention:EPR)効果を示し及び腫瘍周囲空間に局在化するのに十分な平均直径を有してよい。一態様では、前記組成物はPEG、PEG誘導体、親水性ポリカーボネート、若しくはその誘導体を更に含む。
【0011】
前述の態様の幾つかを包含する本技術の幾つかの態様によると、前記ナノ粒子は約5nm~200nmの間の平均直径を有する金ナノ粒子を含んでよい。幾つかの態様では、前記ナノ粒子は約50nm~200nmの間の平均直径を有するリポソームである。
【0012】
前述の態様の何れかを包含する本技術の幾つかの態様によると、前記リガンドは、ペプチドグリカン、リポポリサッカライド(LPS)、ザイモサン、Pam3CSK4、アミロイド-ベータペプチド、リポテイコ酸、高移動度群ボックス1(HMGB1)、熱ショックタンパク質、CSF-1R阻害剤、LPS+IFN-γ、キシロシド、IFN-γ、TNF-α、IL-2、リポカリン2、及びmiRNA-155のうちの1以上、それらの組み合わせ、又はそれらの何れか1つ若しくは組み合わせから抽出若しくは誘導されるペプチド若しくは他の混合物を含んでよい。一態様では、前記リガンドは本明細書においては「Zpep」と称するザイモサン抽出物である。
【0013】
一態様では、抱合体を含む組成物が提供され、前記抱合体は、(1)金ナノ粒子;(2)リンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)Zpepを含む。
【0014】
別の態様では、本明細書において提供される抱合体及び被包体の調製の為の方法が提供される。
【0015】
本技術の幾つかの態様によると、腫瘍周囲細胞を活性化して瘢痕形成を誘発する為の方法が提供される。一態様では、この活性化は、前記腫瘍周囲細胞による、神経及び神経膠の移動に対して抑制的であるECM分子の産生のようなプロセスによって定義され得る。一態様では、前記方法は、ナノ粒子組成物を腫瘍の極近いところにある標的細胞に、その細胞を活性化し及び瘢痕形成を刺激する為に投与することを含む。一態様では、前記方法は、ポリペプチドでコーティングされた金ナノ粒子をGBM腫瘍の極近いところにある標的間質細胞に、その細胞を活性化し及び間質性コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)発現を刺激する為に投与すること含む。
【0016】
本技術の幾つかの態様は、腫瘍周囲組織の瘢痕形成を誘発することによって腫瘍成長若しくは腫瘍の広がりを遅延させる若しくは実質的に防止する為の方法を包含する。幾つかの態様では、瘢痕形成を誘発することは、腫瘍の極近くにある細胞を標的とする組成物を、その細胞を活性化し及び瘢痕形成を刺激する為に、患者に投与することを含む。幾つかの態様では、前記組成物は、1以上のナノ粒子と、腫瘍周囲細胞を活性化し及びそれらの瘢痕形成を誘発するように構成された前記ナノ粒子によって保持された1以上のリガンドとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲は下記の図面を参照することによってより容易に理解され得る。
図1a】乃至
図1e】神経膠瘢痕形成の確立されたインビトロモデルにおける、腫瘍細胞の忌避に対するCSPG類の効果を示す図である。
図2a】乃至
図2f】神経膠細胞活性化に対するZpepの効果を示す図である。
図3a】乃至
図3c】生体内での腫瘍周囲のCSPGの発現を刺激する為に、金ナノ粒子、PEG、及びZpepを含む抱合体(この抱合体は本明細書では「AuNP-Z」と称する)を用いることの効果を示す図である。
図4a】乃至
図4b】生体内で腫瘍を拘束する為にAuNP-Zを用いることの効果を示す図である。
図5a】乃至
図5c】腫瘍の成長を縮小する為にAuNP-Zを用いることの効果を示す図である。
図6a】乃至
図6c】AuNP-Zに対する生体内応答のプロテオーム解析の結果を示す図である。
図7】AuNP-Z処置動物の、対照に対する、遺伝子セットエンリッチメント解析の結果を示す図である。
図8】AuNP-Z処置動物の、対照に対する、過剰発現解析の結果を示す図である。
図9】AuNP、AuNP-PEG、及びAuNP-Z処置動物におけるアストロサイト活性化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本技術は、腫瘍周囲細胞の瘢痕形成を誘発して、癌細胞の成長を遅延させ、癌細胞を封じ込め、及び/若しくは処置位置からの癌細胞の広がりを実質的に防止する為の、組成物及び方法に関する。本技術の幾つかの態様は、外傷性CNS傷害の続発症を再現する刺激を用いて腫瘍周囲細胞を標的化し及び活性化することにより、腫瘍周囲細胞の瘢痕形成を誘発する為の組成物及び方法に関する。腫瘍周囲細胞のこのような活性化は、既存の腫瘍の周りに腫瘍細胞に対して不透過性である局所的な障壁若しくは壁を作り出し、それによって浸潤性の腫瘍の成長若しくは広がりを少なくとも部分的に制限する。
【0019】
本技術の幾つかの態様は、(1)ナノ粒子;(2)任意で、リンカー及び/若しくはマスキング剤;及び(3)腫瘍周囲細胞を活性化してその腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発するように構成されたリガンド、を含む(compromises)組成物を包含する。幾つかの態様では、前記組成物はリンカー及び/若しくはマスキング剤を含まず、及び前記ナノ粒子及び前記リガンドのみを含む。
【0020】
幾つかの態様では、前記組成物は、共有結合されたタンパク質-コンドロイチン硫酸(CS)グリコサミノグリカン(GAG)多糖複合体類の多様なファミリーであるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類(CSPG類)の産生を活性化するように構成されてよい。CSPGの産生を活性化することは、脳癌(GBM等)の広がりを遅延させ若しくは防止する為に特に有益であり得る。脳腫瘍浸潤の極めて重要な決定因子は、その細胞外基質(ECM)である。一般に、ECMは神経系損傷の病態生理学において鍵を握る成分である。外傷性脳若しくは脊髄損傷後に形成される神経膠瘢痕のECMは軸索再生に対して抑制的である。CSPG類の成長促進若しくは抑制/忌避効果は主に、CSPG類を形成する種々のCS-GAGによって発揮される。外傷性脳若しくは脊髄損傷の部位の周りのCSPGに富む神経膠瘢痕形成は、極めて重要な障壁を提供して、炎症を鎮め、及び傷害部位を「遮断する(walling-off)」ことによって組織損傷の広範な広がりを防止する。以下に、本技術の組成物及び方法に関する更なる詳細を記載する。
【0021】
ナノ粒子
幾つかの態様では、好適なナノ粒子は約50nm~200nmの間の平均直径を有することとなる。一部の実施形態では、好適なナノ粒子は、EPR効果を利用してGBM等の血管形成された腫瘍の腫瘍周辺を標的とし及びそこに蓄積するように構成されることとなる。
【0022】
幾つかの態様では、前記ナノ粒子は金ナノ粒子である。金ナノ粒子は、ペイロード送達を改善し及び標的化する為に、薬物の体内分布を病的な臓器、組織、及び細胞に対して最適化することが知られている。ナノ粒子は困難な送達部位(脳、網膜、腫瘍、細胞内小器官)の為に特に有用である。ナノ粒子の性能は、粒子の大きさ及び表面官能性に依存する。好適な金ナノ粒子は広く知られており、テッドペラ社(Ted Pella, Inc.)製のコロイド状金製品番号15701-1~15714-20が挙げられる。具体的な態様では、好適な金ナノ粒子として、テッドペラ社(Ted Pella, Inc.)から購入される製品番号15708(60nm直径)を挙げてよい。他の態様では、任意の好適な鉄、シリカ、若しくは乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolic acid):PLGA)ナノ粒子を、金ナノ粒子と組み合わせて若しくは金ナノ粒子に替えて使用してよい。例えば、好適な酸化鉄ナノ粒子としては、シグマアルドリッチ社(Sigma Alrdrich, Inc.)製の製品番号747327、747424、747254、747343、7476319、747300、747408、747416、790508、747335、747432、747459、747467、及び747440、並びにポリ(ビニルアルコール)ナノ粒子を挙げてよい。好適なシリカミクロスフィアとしては、例えば、ポリサイエンス社(Polysciences, Inc.)製の製品番号24320-15、24298-10、24040-10、及び24041-10を挙げてよい。好適なPLGAナノ粒子としては、例えば、シグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich, Inc.)製のデグラデクス(Degradex)(登録商標)製品番号805092及び805106を挙げてよい。
【0023】
別の態様では、前記ナノ粒子はリポソームを含んでよい。「リポソーム」とは、本明細書で使用する場合、一般に、内部空洞を含有する球状の若しくは概して球状の粒子をいう。リポソームの壁は脂質の二重層を含み得る。これらの脂質はリン脂質であり得る。多数の脂質及び/若しくはリン脂質を使用してリポソームを作製してよい。一例は、疎水性の及び極性の頭部基部分を有する両親媒性脂質であり、これらは、リン脂質に例示されるように、水中で自発的に二重層ビヒクルを形成してよく、又はこれらは、それらの疎水性部分を二重層膜の内側の疎水性領域と接触させ、及びそれらの極性頭部基部分を前記膜の外側の極性表面に配向させて、安定的に脂質二重層に組み込まれてもよい。幾つかの態様では、好適なリポソームとしては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,785,568号に開示されるものを挙げてよい。
【0024】
リンカー及びマスキング剤
前記リンカーは、前記ナノ粒子を前記標的化リガンドと関連付けることになる任意の化合物であってよい。幾つかの態様では、前記リンカーは前記ナノ粒子、前記リガンド、若しくは両方に対する共有結合を形成してよい。幾つかの態様では、前記リンカーと、前記ナノ粒子、リガンドの何れかとの、若しくは両方との相互作用は非共有結合的(例えば、ハイドロゲル結合、親和力等)である。より一般には、前記リンカーは、各端部に官能基を有する分子であってよく、その端部によってリンカーはリガンドをナノ粒子の本体に結合させる。前記リンカーは切断可能であっても切断可能でなくてもよい。前記リンカーはまた、前記リガンドの一部であってよく、その場合には、前記リガンドは直接前記ナノ粒子に接続されてよい。
【0025】
幾つかの態様では、前記抱合体は、前記ナノ粒子及びリガンドに結び付くだけでなく、免疫系によって除去されることから前記粒子を保護するマスキング剤を含んでよい。幾つかの態様では、前記リンカー及び/若しくはマスキング剤はポリマーであってよい。具体的な態様では、前記リンカー及び/若しくはマスキング剤はPEG、PEG誘導体、若しくは親水性ポリカーボネートであってよい。前記ポリマーは、様々な分子量の何れかを有することができる。一例では、前記ポリマーはPEGを有し、及びこのPEG鎖は約1,000~10,000Daの間の分子量を有する。
【0026】
リガンド
幾つかの態様では、好適なリガンドは、(i)前記ナノ粒子と抱合体を形成し、前記ナノ粒子により被包され、若しくは他の態様で前記ナノ粒子と関連付けられることになり;及び(ii)腫瘍周囲細胞を活性化してその腫瘍周囲細胞による瘢痕の付着(scar deposition)を誘発するように構成される、任意のリガンドを包含する。
【0027】
一態様では、好適なリガンドは、腫瘍周囲細胞における下記の実体のうちの少なくとも1つを標的化するように構成されたものを包含する:(i)Toll様受容体2;(ii)Toll様受容体4;(iii)CSF-1受容体;(iv)IFN-γ受容体1;(v)IFN-γ受容体2;(vi)キシロシルトランスフェラーゼ;(vii)TNF-α受容体;及び(viii)IL-2受容体。
【0028】
なお別の態様では、前記リガンドは、ペプチドグリカン、LPS、ザイモサン、Pam3CSK4、アミロイド-ベータペプチド、リポテイコ酸、HMGB1、熱ショックタンパク質、CSF-1R阻害剤、LPS+IFN-γ、キシロシド、IFN-γ、TNF-α、IL-2、リポカリン2、及びmiRNA-155の1つ以上から選択される。用語「リガンド」は更にそれらの抽出物を包含する。例えば、前記リガンドは水溶性であり且つタンパク質画分を含むザイモサン抽出物(Zpep)を含んでよい。好ましくは、前記抽出物はタンパク質画分を、適用時に約25μg/mLの濃度を提供するのに十分な量で含む。前記タンパク質画分は、ザイモサン中に日常的に見られる任意のタンパク質を含んでよい。前記タンパク質画分は、タンパク質、タンパク質断片、ポリペプチド、若しくはそれらの組み合わせを含んでよい。
【0029】
酵母細胞壁調製物であるザイモサンは、脳に直接注入された場合にミクログリア及びアストロサイトを特異的に活性化し、物理的傷害の続発症をその非存在下で再現する。ミクログリア条件培地はアストロサイトを活性化し及びZpepの直接添加はアストロサイトを活性化せず、Zpepが生体内のマクロファージ及び恐らくは他の骨髄系細胞を介してその炎症効果を発揮したことを示した。故に、用語「誘発する」は、直接的に引き起こすことを意味してよく、及び内在性のプロセスを活性化し、それがひいては所望の効果を引き起こすことを意味してもよい。
【0030】
「標的化分子」は、前記リガンドを特定の場所若しくは細胞の種類に標的化する若しくは向けるように働く化合物を意味する。一般に、標的化分子は、特異的な標的エピトープ若しくは受容体に特異的に結合する。「特異的に結合する」とは、非標的細胞は前記リガンドと特異的に相互作用しないか又は前記リガンドによって極弱くしか認識されないということを意味する。幾つかの態様では、標的化分子は、細胞表面受容体に対するリガンドの全て若しくは一部(例えば、結合部分)である。好適なリガンドとしては、細胞表面受容体に結合するリガンド類の全て若しくは官能基部分が挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
腫瘍周囲細胞における「実体」とは、細胞の表面内若しくは表面上の任意の部分を意味する。前記実体は細胞表面受容体であるか、又は適切なリガンドと相互作用する任意の分子であってよい。或いは、前記実体は腫瘍周囲細胞上と記載されてもよく、並びに腫瘍周囲細胞の細胞膜内に埋め込まれていてもよい。
【0032】
「腫瘍周囲の」とは、腫瘍に近接している任意の細胞を意味する。前記細胞は腫瘍に直接隣接していてもよく、腫瘍と接触していてもよく、又は腫瘍の近くにあってもよい。
【0033】
「腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する」若しくはその反復により、任意の腫瘍周囲細胞の本明細書に記載される組成物への暴露が或るプロセスを開始させ、それによって瘢痕形成プロセスが生ずるということが意味される。このプロセスは結果として腫瘍と健康な組織との間に壁をもたらす。この壁はその誘発された腫瘍周囲細胞により生成され、及びその腫瘍周囲細胞及び他の成分を包含し得る。
【0034】
向上された透過性及び保持性(enhanced permeability and retention:EPR)効果とは、腫瘍の漏出性の脈管構造(向上された透過性)及び不十分なリンパ排出(保持性)に起因する、腫瘍内でのナノ粒子の優先的な蓄積を描写している。免疫系から遮蔽されたナノ粒子が血流を進む場合、それらが前記漏出性の腫瘍脈管構造を通過する度に、それらは血管から腫瘍中へと漏出し、及び複数回の通過により経時的に、それらは腫瘍中に蓄積する。前記粒子は、腫瘍の不十分なリンパ排出及び血管排出に起因して、それらが他の貪食性の細胞によって貪食される、若しくは溶解され/崩壊されるまで、又は腫瘍中の成熟した脈管構造若しくはリンパ排出が確立されるまで、腫瘍中に保持される。
【0035】
別の態様では、本明細書中に提供される抱合体及び被包体の調製の為の方法が提供される。
【0036】
なお別の態様では、腫瘍周囲細胞を活性化してその腫瘍周囲細胞による瘢痕形成を誘発する為の方法が提供される。一態様では、前記方法は、腫瘍の極近くにある標的細胞に、その細胞を活性化し及び瘢痕形成を刺激する為に、ナノ粒子組成物を投与することを含む。一態様では、前記方法は、GBM腫瘍に近接した標的間質細胞に、その細胞を活性化し及び間質のCSPG発現を刺激する為に、ポリペプチドでコーティングされた金ナノ粒子を投与することを含む。
【0037】
一態様では、瘢痕形成の内在機構を活用し、腫瘍の細胞以外の細胞の挙動を調節することによって腫瘍の成長を緩やかにする為の、組成物及び方法が提供される。具体的な態様においては、金ナノ粒子を介したEPR効果を用いて間質空間における抑制性CSPG発現を誘発する為の内在機構を標的化する為の組成物及び方法が提供される。
【0038】
一態様では、腫瘍拘束の為の方法が提供される。具体的な態様では、腫瘍拘束の為の前記方法は部分的に、アストロサイト、ミクログリア、及び/若しくは、CSPGの産生、の活性化に頼る。
【0039】
本開示の原理の理解を促進する目的で、具体的な、可能な態様を参照してきた。例えば、本明細書に記載された態様は主に、GBM腫瘍に近接する標的間質細胞への、その細胞を活性化し及び間質性CSPG発現を刺激する為の、Zpepでコーティングされた金ナノ粒子の投与を対象とする。しかしながら、本開示の範囲をこれらに制限することは意図されていない。むしろ、本発明者らは、本明細書に開示されたナノ粒子-リガンドの組み合わせの各々の、瘢痕形成を誘発し及び従って腫瘍の拘束を誘発するように任意の腫瘍周囲細胞に標的化する為の使用を企図している。
【0040】
冠詞「a」及び「an」は、当該冠詞の文法上の目的語の1つ若しくは2つ以上(即ち、少なくとも1つ)を参照する為に使用される。例として、「an element」は、少なくとも1つの要素を意味し及び2つ以上の要素を包含することができる。
【0041】
「約」は、所望の結果に影響を及ぼすことなく所与の値がその終点を「僅かに上回る」若しくは「僅かに下回る」場合があるということを提供することによって、数値範囲の終点に対して柔軟性(flexibility)を提供する為に使用される。
【0042】
用語「包含する、含む(including)」、「含む(comprising)」、若しくは「有する(having)」、及びそれらの変型形態の本明細書における使用は、その後に挙げられる要素、及びそれらの等価物、並びに追加の要素を包含することを意味する。特定の要素を「包含する、含む(including)」、「含む(comprising)」、若しくは「有する(having)」として記載される態様はまた、それらの特定の要素「から本質的に成る(consisting essentially of)」及び「から成る(consisting of)」としても企図される。本明細書で使用する場合、「及び/若しくは、及び/又は(and/or)」は、関連の列挙事項の1以上の任意の及び全ての可能な組み合わせ、並びに選択肢(alternative)(「or」)において解釈される場合の組み合わせの欠如を指す及び包含する。
【0043】
本明細書で使用する場合、伝統的な語句「から本質的に成る(consisting essentially of)」(及び文法上の変形形態)は、特許請求された発明の記載された材料若しくは工程「及び基本的な及び新規な特徴(類)に実質的な影響を及ぼさない材料若しくは工程」を包含するとして解釈されるべきである。ハーツ(Herz)の件、537F.2d549、551-52、190、米国特許審判決録(U.S.P.Q)461、463(関税特許控訴裁(CCPA)、1976年)(強調は原文中)を参照のこと。米国特許審査基準(MPEP)§2111.03も併せて参照のこと。このように、用語「から本質的になる」は、「含む(comprising)」と等価であると解釈すべきではない。
【0044】
更に、本開示は、幾つかの態様では、任意の特徴若しくは特徴の組み合わせが除外され若しくは省略されることが可能であるということを企図している。例えば、複合物が成分A、B、及びCを含むと明細書に記載されている場合、A、B、若しくはC、又はそれらの組み合わせの何れかが単独で若しくは任意の組み合わせにおいて省略され及び権利放棄されることが可能であるということが明確に意図される。
【0045】
値の範囲の記載は単に、別途記述しない限り、その範囲内の各別個の値に個々に言及する簡単な方法としての役割を果たすことが意図されており、及び各別個の値は、それがあたかも個々に記載されたかのように本明細書に組み込まれる。例えば、濃度範囲が1%~50%と記載された場合、2%~40%、10%~30%、若しくは1%~3%等の値が、本明細書中に明確に列挙されているということが意図されている。これらは具体的に意図されているものの単なる例であり、及び列挙された下限値及び上限値の間及びそれらを包含する数値の全ての可能な組み合わせが本開示において明確に記述されているものとみなされる。
【0046】
別途規定しない限り、全ての技術的用語は本開示が属する技術分野の当業者に共通に理解される意味と同じ意味を有する。
【0047】
本明細書で使用する場合、「処置」、「療法」、及び「治療計画」は、患者により呈示される若しくは患者が影響を受けやすい場合がある疾病、障害、若しくは生理的状態に対応して行われる臨床的介入を指す。処置の狙いは、症状の緩和若しくは予防、疾病、障害、若しくは状態の進行若しくは悪化の遅延若しくは停止、及び/又は疾病、障害、若しくは状態の寛解を包含する。処置の狙いは、癌組織の進行を遅延させること、癌組織のより従来的な処置に対する感受性を増進させること、又は癌組織に向けた化学療法及び/若しくは放射線療法の副作用を低減させることを包含し得る。用語「効果的な量」若しくは「治療上効果的な量」とは、有益な若しくは望ましい生物学的及び/若しくは臨床的結果をもたらすのに十分な量をいう。
【0048】
用語「疾病」は、本明細書で使用する場合、有機体の一部に影響を及ぼす構造若しくは機能の任意の異常状態及び/若しくは障害を包含するがこれらに限定されない。それは、伝染病等の外的因子によって、若しくは癌、癌転移等のような内的機能障害によって引き起こされ得る。
【0049】
「投与」は、ヒト、霊長動物、哺乳動物、哺乳類被験者、動物、獣医学の被験者、プラセボ被験者、研究被験者、実験被験者、細胞、組織、臓器、若しくは生物体液に適用される場合、外因性のリガンド、試薬、プラセボ、小分子、医薬品、治療薬、診断薬、若しくは組成物(例えば、本明細書において提供されるような、金ナノ粒子:リンカー:リガンド抱合体)の被験者、細胞、組織、臓器、若しくは生物体液等への接触を指すが、それに限定されない。
【0050】
当該技術分野で既知であるように、癌は一般に、制御されない細胞成長とみなされる。本態様の方法は、任意の癌を包囲する腫瘍周囲組織に影響を及ぼし、及びその任意の転移/移動を妨害する若しくは防止する為に使用することができる。幾つかの態様では、前記癌は固形腫瘍を含む。例としては、限定されないが、原発性及び転移性の両方を包含する、乳癌、前立腺癌、結腸癌、扁平細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、子宮頸癌(cervical cancer)、胃腸癌、膵癌、神経膠芽腫、肝癌、膀胱癌、肝細胞腫、結腸直腸癌、子宮頸癌(uterine cervical cancer)、子宮内膜癌、唾液腺癌、中皮腫、腎癌、外陰癌、膵癌、甲状腺癌、肝細胞癌、皮膚癌、黒色腫、ぶどう膜黒色腫、脳癌(例えば、GBM)、神経芽細胞腫、種々のタイプの頭部及び頸部癌、ユーイング肉腫、末梢性神経上皮種、副腎皮質癌、直腸癌、食道癌、甲状腺癌、胃癌、中皮腫、精巣癌等が挙げられる。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「被験者」及び「患者」は本明細書において交換可能に使用され、及びヒト及び非ヒト動物の両方を指す。本開示の用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物、及び、例えば非ヒト霊長動物、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等の非哺乳動物を包含する。
【0052】
本明細書に記載される組成物は、単独で若しくは薬剤的に許容される賦形剤と組み合わせて、適切な応答を誘発するのに十分な量で被験者に投与されることができる。前記応答は、限定されないが、特異的免疫応答、非特異的免疫応答、特異的及び非特異的の両方の応答、先天性の応答、原発性免疫応答、適応免疫、二次免疫応答、記憶免疫応答、免疫細胞活性化、免疫細胞増殖、免疫細胞分化、及びサイトカインの発現を含むことができる。幾つかの態様では、前記応答は、CSPG類を産生する為の間質細胞の活性化を含む。
【0053】
幾つかの態様では、本開示は、被験者に有効量のプロテオグリカンを投与することにより前記被験者における処置を提供する為の方法を提供する。「有効量」は本明細書で使用する場合、治療上若しくは予防上の利益を提供する量を意味する。本明細書において提供されるような抱合体若しくは被包体の有効量は、医師が、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染若しくは転移の程度、及び患者(被験者)の状態における個々の違いを考慮して、決定することができる。一般に、本明細書に記載される抱合体若しくは被包体を含む医薬組成物は、1~1011粒子/kg体重、好ましくは2~1010粒子/kg体重(これらの範囲内の全ての整数値を包含)の用量(dosage)において投与されてよいと記述することができる。抱合体若しくは被包体はそれらの用量で複数回投与されてもよい。前記抱合体若しくは被包体は、静脈内、腫瘍内、皮下、及び腹腔内投与を包含する当該技術分野において一般に知られた技術を用いて投与されることができる。特定の患者に対する最適な用量及び処置計画は、疾病の兆候に対して患者を観察し、及びそれに応じて処置を調節することによって医学の当業者により容易に決定されることができる。
【0054】
本明細書に記載される抱合体若しくは被包体の有効量は、1回の投薬量(dose)において与えられ得るが、1回の投薬量に制限されない。故に、前記投与は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20回、又はそれ以上の、前記組成物の投与とすることができる。本方法において2回以上の投与が存在する場合、前記投与は、1分、2分、3、4、5、6、7、8、9、10、若しくはそれより多い分数の時間間隔によって、約1時間、2時間、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間等の間隔によって、離間されることができる。時間数の文脈において、用語「約」は、プラス若しくはマイナス、30分以内の任意時間の間隔を意味する。前記投与はまた、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、及びそれらの組み合わせの時間間隔により離間されることができ、投与間の数週間若しくは数ヶ月間さえも包含する。本発明は、時間において等しく離間された投薬間隔に限定されず、1日、4日、7日、及び25日における投与からなるプライミングスケジュール(単に非限定例を提供)等の、等しくない間隔における投薬(doses)を包含する。
【0055】
「薬剤的に許容される賦形剤」若しくは「診断上許容可能な賦形剤」としては、限定されないが、滅菌蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、アミノ酸系緩衝剤、若しくは重炭酸緩衝液が挙げられる。選択される賦形剤及び使用される賦形剤の量は、投与の様式に依存することになる。投与は注射、点滴、若しくはそれらの組み合わせを含む。
【0056】
特定の被験者/患者の為の有効量は、処置されている状態、患者の健康全般、投与の経路及び投薬量、及び副作用の重篤度等の要因に依存して変わり得る。処置及び診断の方法の為のガイダンスが入手可能である(例えば、メイナード(Maynard)ら(1996年)「よき臨床診療の為の標準操作手順の手引き(A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice)」、インターファームプレス(Interpharm Press)、フロリダ州、ボカラトン(Boca Raton);デント(Dent)(2001年)「よき研究室及びよき臨床診療(Good Laboratory and Good Clinical Practice)」、アーチパブリッシング(Urch Publ.)、英国、ロンドンを参照のこと)。
【0057】
本開示の抱合体及び被包体は、投薬量(dose)若しくは用量(dosages)において投与されることができ、各投薬量は少なくとも100抱合体若しくは被包体/kg体重以上;ある態様においては1000抱合体若しくは被包体/kg体重以上;通常は少なくとも10,000抱合体若しくは被包体;より通常は少なくとも100,000抱合体若しくは被包体;最も通常は少なくとも1,000,000抱合体若しくは被包体;しばしば少なくとも10,000,000抱合体若しくは被包体;よりしばしば少なくとも100,000,000抱合体若しくは被包体;典型的には少なくとも1,000,000,000抱合体若しくは被包体;普通には少なくとも10,000,000,000抱合体若しくは被包体;便利には少なくとも100,000,000,000抱合体若しくは被包体;及び時には少なくとも1,000,000,000,000抱合体若しくは被包体/kg体重を含む。
【0058】
例えば、1回/週、2回/週、3回/週、4回/週、5回/週、6回/週、7回/週、2週に1回、3週に1回、4週に1回、5週に1回等の投薬スケジュールが、本発明の為に利用可能である。前記投薬スケジュールは、例えば、1週、2週、3週、4週、5週、6週、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、及び12ヶ月の全期間に渡る投薬を包含する。
【0059】
上記投薬スケジュールのサイクルが提供される。このサイクルは約、例えば、7日毎;14日毎;21日毎;28日毎;35日毎;42日;49日毎;56日毎;63日毎;70日毎;等で反復されることが可能である。サイクル間に非投薬の間隔が発生することも可能であり、その間隔は約、例えば、7日;14日;21日;28日;35日;42日;49日;56日;63日;70日;等とすることができる。この文脈では、用語「約」は、プラス若しくマイナス1日、プラス若しくはマイナス2日、プラス若しくはマイナス3日、プラス若しくはマイナス4日、プラス若しくはマイナス5日、プラス若しくはマイナス6日、又はプラス若しくはマイナス7日を意味する。
【0060】
本開示による抱合体及び被包体は、1以上の治療/抗癌剤/療法と併用して投与されてもよい。治療/抗癌剤/療法との併用投与の為の方法は当該技術分野において周知されている(ハードマン(Hardman)ら(編)(2001年)グッドマン及びギルマンの治療学の薬理学的基礎(Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics)、第10版、ニューヨーク州、ニューヨーク、マグロウヒル(McGraw-Hill);プール(Poole)及びパターソン(Peterson)(編)(2001年)「高度診療の為の薬物治療学:実践的アプローチ」(Pharmacotherapeutics for Advanced Practice: A Practical Approach)、リッピンコット(Lippincott)、ウィリアムス アンド ウィルキンス(Williams & Wilkins)、ペンシルベニア州、フィラデルフィア;チャブナー(Chabner)及びロンゴ(Longo)(編)(2001年)「癌化学療法及び生物学療法(Cancer Chemotherapy and Biotherapy)」リッピンコット(Lippincott)、ウィリアムス アンド ウィルキンス(Williams & Wilkins)、ペンシルベニア州、フィラデルフィア)。
【0061】
併用投与は、或る個人における同時の投与を指す必要はなく、むしろ、複数の治療薬の投与が単一の処置計画の結果である限りにおいて、数時間、又は更には数日、数週、若しくはより長く、離間された投与を包含してよい。前記併用投与は、本開示の抱合体及び被包体を代替の剤/療法の前、後、若しくはそれと同時に投与することを含んでよい。一処置スケジュールにおいては、本開示の抱合体及び被包体が、複数日数プロトコルにおける最初の投薬(dose)として与えられ、代替の剤/療法がその後の投与日に与えられてもよく;又は、代替の剤/療法が複数日数プロトコルにおける最初の投薬として与えられて、本開示の抱合体若しくは被包体がその後の投与日に与えられてもよい。他方で、代替の剤/療法及び本開示の抱合体及び被包体が、複数日数プロトコルにおける交互の日に投与されてもよい。これは、可能な投与プロトコルの限定的なリストを意味するものではない。
【0062】
本開示の更に別の態様は、被験者における癌の移動を減少させる及び/若しくは防止する方法であって、前記癌の移動が減少され及び/若しくは防止されるように、本明細書において提供される抱合体若しくは被包体の治療上有効な量を前記被験者に投与することを、含む、から成る、若しくはから本質的に成る方法を提供する。
【0063】
幾つかの態様では、前記方法は更に前記被験者に抗癌療法を投与することを含む。幾つかの態様では、前記抗癌療法は放射線、化学療法、免疫療法、手術、ホルモン療法、標的療法、合成致死、誘発腫瘍移動、免疫療法、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0064】
幾つかの態様では、かかる組成物及び方法は、浸潤性GBM等の浸潤性の腫瘍の為の、放射線、化学療法、手術、ホルモン療法、標的療法、合成致死、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願番号第13/814,009号及び同第16/432,475号に記載されるもののような設計された腫瘍移動、免疫療法、及びそれらの組み合わせ等のアジュバント介入を補完し得る。
【0065】
以下の実施例は例示の為に提供され及び限定の為ではない。
【実施例
【0066】
当業者は、本明細書に開示されたこの及び他のプロセス及び方法に関して、そのプロセス及び方法において実施される機能は異なる順番で実施されてもよいことを理解するであろう。更に、概説された工程及び操作は単に例として提供され、及び開示された態様の本質を損なわない限り、それらの工程及び操作の幾つかは任意であってよく、組み合わされてより少ない数の工程及び操作となされてもよく、又は追加の工程及び操作へと拡張されてもよい。
【0067】
方法
細胞株及び培養手順:
U87細胞(ヒトグリオーマ、HTB-14)、F98細胞(フィッシャーラットグリオーマ、CRL-2397)、EOC細胞(マウスミクログリア、CRL-2469)、LADMAC細胞(マウスマクロファージ/単球、CRL-2420)、及びC8D1A細胞(マウス小脳アストロサイト、CRL-2541)をATCCから購入し、及び各細胞株に特化した指示に従い維持した。CRL-2469細胞株は、30ng・ml-1リコンビナントマウスCSF-1(416-ML-010、R&Dシステムズ(R&D Systems))若しくはLADMAC細胞からの条件培地の何れかを有する、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(DMEM;コーニング(Corning))及び10%FBS中で培養した。全ての細胞を、別途注記しない限り、37℃で5%COを用いて成長させ、トリプシン-EDTA0.05%を用いて継代し、及びそれぞれの完全細胞培養培地(ATCC推奨)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ(Gibco))中に維持した。幾つかの実験について注記するように、U87細胞は、エフェクテントランスフェクション試薬(Effectene Transfection Reagent(クイアゲン(Qiagen))を用いたeGFP発現プラスミドによるトランスフェクション、及び更に、G418サルフェート(Gemini)による安定なトランスフェクタントの選択を介して、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)を安定に発現するようにした。
【0068】
スポットアッセイ:
14mmガラス底ペトリ皿(インビトロサンエンティフィック(In vitro Scientific)、カリフォルニア州、サニーベール(Sunnyvale))の調製を、既知の方法をほとんど改変せずに用いて行った。短く言うと、表面をポリ-L-リジン(PLL、超純水中1:10希釈)(シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich))でコーティングし及び37℃にて一晩インキュベートした。翌日に、その表面を滅菌水で3度すすぎ、及び完全に乾燥させた。種々の濃度のアグリカン、ウシ血清アルブミン(BSA)、及び、テキサスレッド(Texas Red)(インビトロゲン(Invitrogen))を有するフィブロネクチンを、前記調製表面上に2μLの量でスポッティングし、完全に乾燥させた。標準成長培地中に懸濁された80,000のU87mg細胞(eGFPを安定的に発現)をチャンバに注意深く加えた。24時間後、その細胞を4%パラフォルムアルデヒド及び0.4Mスクロース溶液で15分間固定し、CS-56(シグマ(Sigma)C8035、1:250)について免疫染色した。GAG側鎖の効果を判定する為に、アグリカンスポットを広範囲に渡りcABCで処理した(1U/mL;3~5時間、37℃;シグマ(Sigma))。cABCを吸引し、PBSで濯いだ後、80,000のeGFP+U87mg細胞を上述と同様に蒔いた。24時間後、細胞を固定し、2B6(生化学工業(Seikagaku)、1:250)及びCS-56(1:200)について免疫染色した。
【0069】
Zpep抽出:
ザイモサン(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)、250mg)を液体窒素中で急速冷凍し、乳鉢と乳棒を用いて微細な粉末へと粉砕した。この粉砕したザイモサンをTRIS-HCl(0.5M)、CHAPS(1%)、DTT(1%)、及びPMSFを含有する抽出緩衝剤(10mL)に加えた。抽出プロセスを、室温(rt)にて穏やかな撹拌下で一晩続けた。翌日、この試料を5000×gで10分間遠心分離して上清を回収した後、洗浄し、濃縮し、及び10kDa遠心スピンカラム(EMDミリポア(EMD Millipore)、アミコンウルトラ(Amicon Ultra)-15)を用いメーカーの指示に従って透析した(3×)。ナノドロップ(NanoDrop)デバイスを用いてタンパク質濃度を決定した。Zpepアリコートは更なる使用まで-20℃にて保存した。
【0070】
インビトロ実験:
Zpepをインビトロにて25μg/mLの濃度で用いた。(図の凡例に指示された)時点における亜硝酸塩の生成をグリース(Griess)試薬システム(G2930、プロメガ(Promega))を用いて評価した。当該技術分野で既知の通りにTLR2遮断実験を行った。抗TNF-α酵素結合免疫吸着法(ELISA)キットをメーカーの指示(BDバイオサイエンス(BD Biosciences)、レイバイオテック(RayBiotech))の通りに用いてTNF-αのレベルを評価した。多重フリューダイムシステム(multiplexed Fluidigm system)にて定量リアルタイムPCRを行い、データを既知の方法に従い解析した。プライマーはフリューダイム社(Fluidigm Inc.)から購入した。
【0071】
金ナノ粒子抱合体(AuNP-Z):
金ナノ粒子(AuNP)をテッドペラ社(Ted Pella, Inc.)から購入した(60nm直径、15708-6)。PEG-チオール(MPEG-SH-20K-1g)をレイサンバイオ(Laysan Bio)から購入した。全ての反応は超純DI水(18MΩcm-1)中で行った。各動物が投薬量当たりに受容したAuNPの量は、57マイクログラム(=1mlの60nmAuNP、2.6×10e10粒子/mlの濃度)であった。各AuNPが30,000のPEG-SH分子を受容するようなPEG-SH濃度を算出した。Zpep及びPEG-SHを、以下のようにしてAuNPへと抱合させた:PEGを超純DDI水中に溶解した。Zpepを1mg/mlにて再構成して、各動物が100マイクログラムの最終投薬量を受容し得るようにした(ザイモサンの初期濃度に基づく、及び100%抱合効率を想定)。Zpepを3mMのトリス塩基バッファ中に懸濁させた。AuNPを遠心分離にかけ(12000×g、20分)及び超純DDI水中に再懸濁させた。このAuNP、PEG-SH、及びZpepを組み合わせ、rtにて一晩、回転試験管ホルダー上に静置した。粒子を個々の投薬量へと等分し及び遠心分離(12,000×g、20分)によって2度洗浄した後、生体内尾静脈注射用に滅菌生理食塩水中に、若しくは物性決定用に超純DDI水中に再懸濁させた。既知の手法により、動的光散乱法及び紫外可視分光法を行った。
【0072】
腫瘍接種:
全ての実験はジョージア工科大学(the Georgia Institute of Technology)及びデューク大学(Duke University)における動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)により承認された。ローウィット(Rowett)ヌードラット若しくはフィッシャー(Fischer)ラット(175~200g、雄、チャールズリバーラボラトリーズ(Charles River Laboratories))にU87mg(80,000細胞)若しくはF98腫瘍細胞(10,000細胞)をそれぞれ接種した。これらの動物を5%イソフルランを用いて麻酔し、外科手技の間2~3%イソフルランで維持した。これらの動物を定位固定装置に配置した。頭部に1cmの切り込みを入れた。頭蓋から骨膜を切断除去した。頭蓋中、ブレグマから2mm側方及び2mm後方に穴を開けた。10μLのハミルトンシリンジに取り付けた26ゲージ針を脳の表面から2mmの深さに挿入し及び0.5mm後退させた。5μLのDMEM(血清を含まない)中の腫瘍細胞を自動シリンジポンプを用いて1uL/分の速度で注入した。追加で2分間、針を所定位置に保った後、除去し及び閉合した。神経膠芽腫による苦痛の症状を呈している動物をケタミン(1mL/kg)、キシラジン(0.17mL/kg)、及びアセプロマジン(0.37mL/kg)で麻酔し、生理的PBS、その後4%パラフォルムアルデヒドを経心腔的に灌流した。これらの脳を解剖し及び4%パラフォルムアルデヒド中で一晩インキュベートし、及び0.01%のアジ化ナトリウムを含有する30%スクロース中に保存した。プロテオミクス及び組織学に指定されたコホート用には、麻酔した動物に生理的PBS、その後生理的10%ホルマリンを経心腔的に灌流し、及びrt(即ち室温)にて10%ホルマリン中に保存した。
【0073】
MRIイメージング:
ラットを麻酔して、パラビジョン(ParaVision)ソフトウェアにより動作するブルーカーファーマスキャン(Bruker Pharmascan)7-T(ブルーカーバイオスピンMRI(Bruker BioSpin MRI))中に配置し、頭部コイルとして38mmクワドラチャ検波ボリュームコイルを用いた。これらの動物を2%イソフルランを用いて麻酔し、自作の揺りかご中に配置して、動物頭部をMRIコイル内に容易に配置できるようにした。リフォーカスエコー(RARE)シーケンス(RAREファクター、6;有効エコー時間、36ミリ秒;繰り返し時間[TR]、4,200秒;スキャン当たりのアベレージ数、2;全取得時間、6分)による急速イメージングを用いて、高品質T2強調画像の急速な取得が達成された。256×256マトリックス及び0.5mmのスライス厚さを有する40mm×40mmの視野を用いて、40の横方向スライスのスラブを記録した。RARE画像取得の直前に記録されたパイロットスキャンを用いて、腫瘍細胞の注入部位をカバーするようにこのスラブを配列した。腫瘍の移植後ほぼ毎週MR画像を取得して、腫瘍の成長若しくは退縮をチェックした。更なる画像加工及び腫瘍体積計算の為に、イメージJ(ImageJ)ソフトウェア(FIJI、バージョン2.0)を用いた。T2強調画像中に腫瘍境界に続く関心領域(ROI)を手動で描いた。全ての画像スライスのROI内のボクセル体積を足し合わせることによって全腫瘍体積を算出した。安楽死の日にMRIができなかった場合には、直線状の腫瘍成長率を想定して死亡時の腫瘍体積を外挿した。
【0074】
デューク(Duke)プロテオミクスでのプロテオミクス及びメタボロミクスの共有供給源:
9匹のラット:グループ当たり3匹の異なる動物、全部で3グループ、の脳からの、予めホルマリン中で固定しておいたU87mg腫瘍を、周囲正常組織からマクロ解剖した。各々の湿潤重量を注記した。1mLの50mM重炭酸アンモニウム(AmBic)を各腫瘍に加え、750rpmで振盪しながら80℃で55分間加熱した。AmBicを除去し、2回目の濯ぎの為に別の1mLのAmBicを加えた。次いでこの2回目の濯ぎをピペット除去し、及び前記腫瘍を室温で完全に放冷した(<5分)。各腫瘍を遠心分離管に移し、及び50mMのAmBic中8Mの尿素を湿潤重量mg当たり10μL加えた。次いでこの組織を、目に見える組織片がなくなるまで、ティッシュティアリングを通して採取し(taken through tissue tearing)、及びこの試料をホモジナイズした。次いでこの試料を、氷上で、動力レベル3、5秒バースト、各3バーストでプローブ超音波処理した。各ホモジネートについてブラッドフォードアッセイ(Bradford assay)により濃度を決定した。各試料から50μgを取り出し、及び濃度を50mMのAmBic中8M尿素中で標準化した。その後、続く溶液中トリプシン消化の為に、1.8M尿素を得るのに十分なAmBicを各々に加えた。試料を10mMジチオスレイトール(DTT)中で32℃で45分間還元し、25mMのヨードアセトアミド(IAA)中で暗所でrtにて30分間アルキル化し、及び各々にトリプシンを1:50の酵素対タンパク質の比率で加えて750rpmで振盪しながら32℃で一晩消化させた。翌朝、トリフルオロ酢酸を用いて試料を酸性化し、0.5%TFA最終濃度(0.5% TFA final)を得、及びC18SPEクリーンアップ(ウォーターズ(Waters)Sep-Pak Vac、50mgカートリッジ、製品番号WAT054955)を通して採取した。アセトニトリルの一部をスピードバキューム(Speed Vac)によりエバポレートした後、残存する抽出物を一晩の凍結乾燥により乾燥状態とした。その後試料を25fmol/μLの酵母アルコール脱水素酵素サロゲートスタンダードを含有する1%TFA/2%ACN、200μL中で再構築した。等体積の全ての試料を混合することによってQCプールを調製した。
【0075】
定量質量分析:
試料当たりのペプチド消化物について、定量一次元液体クロマトグラフィ、タンデム質量分析法(1D-LC-MS/MS)を行い、加えて、コンディショニングラン及びQCプールの分析も行った。ナノエレクトロスプレーイオン化源を介してQイグザクティブプラス(QExactive Plus)高解像度精密質量タンデム質量分析装置(サーモ(Thermo))に連結されたナノアクイティUPLCシステム(nanoACQUITY UPLC system)(ウォーターズ(Waters))を用いて、試料を分析した。シンメトリー(Symmetry)C18 180μm×20mmトラッピングカラム(99.9/0.1v/vH2O/MeCNにて、5μL/分)上に試料を捕捉し、次いで1.7μmのアクイティ(Acquity)HSS T3 C18 75μm×250mmカラム(ウォーターズ(Waters))を用い、0.1%ギ酸を有する5~40%MeCN/H2Oの90分グラジエントを用いて、400nL/分の流量及び55℃のカラム温度で分析的分離を行った。QイグザクティブプラスMS(QExactive Plus MS)上でのデータ収集を、m/z375から1600までの70,000解像度(@m/z200)フルMSスキャンを用いたデータ依存型取得モードにおいてターゲットAGC値1e6イオンで行い、その後17,500解像度(@m/z200)における10MS/MSスキャンを用いてターゲットAGC値5e4イオンで行った。20-sダイナミックエクスクルージョンを採用した。試料注入当たりの全分析サイクル時間は、およそ2時間であった。12回の全UPLC-MS/MS分析(3回の反復QC注入を含め)の後、データをロゼッタエルシデータ(Rosetta Elucidator)v4.0(ロゼッタバイオソフトウェア社(Rosetta Biosoftware、Inc.))にインポートし、及び分析値を、(エルシデータ(Elucidator))におけるピークテラー(PeakTeller)アルゴリズムを用いて、検出されたイオンの精密質量及び保持時間(「特徴」)に基づき整列させた。全てのランに渡る整列された特徴の選択されたイオンクロマトグラムの曲線下面積(AUC)に基づき、相対的なペプチドの豊富さを算出した。エルシデータ(Elucidator)を利用してフラグメントイオンスペクトルを生成し、及びマスコットサーバー(Mascot Server)(v2.5、マトリクスサイエンス(Matrix Sciences))によりデータベース検索を行った。2つのデータベース:ホモサピエンス分類学を用いたスイスプロット(Swissprot)データベース及びラット分類学を用いたNCBIレファレンス配列(refseq)データベース(両方とも2016年8月ダウンロード)に対してMS/MSデータを検索し、酵母ADH1、ウシ血清アルブミン、及びウシアルファカゼインを含む内部標準として一般に使用される追加のタンパク質を用い、並びに偽陽性率の決定の為に等数の逆シーケンス(「デコイ」)を用いた。データベース検索パラメータとして、Cysにおける固定修飾(カルバミドメチル)及びAsnとGlnにおける可変修飾(脱アミド)及びMetにおける可変修飾(酸化)、ミスクリーベージ数2、前駆体許容差5ppm、及び生成物許容差0.2Da、並びに酵素特異性としてのトリプシンが含まれた。エルシデータ(Elucidator)におけるペプチドプロフェット(Peptide Prophet)アルゴリズムを用いた個々のペプチドスコアリングの後、データを0.9%ペプチド偽陽性率にて注解した。
【0076】
プロテオミクス差次的発現:
プロテオミクスについて、タンパク質レベル強度(PLI)の倍率変化間の比較を用いて、条件(Z:AuNP-Z;P:AuNP-P;C:対照、AuNPなし;n=3)間で差次的に発現された(DE)タンパク質を決定した。統計的比較ツールQPROT(v1.3.3)72(nburnin:2,000;niters:10,000;normalized:true)を使用して、条件間で対にして比較された各同定されたタンパク質についてのz統計及びFDRを算出した。このz統計から、パイソン(Python)(バージョン2.7.11、アナコンダ(Anaconda)2.2.0;https://www.python.org/)を用いてp値を得た。特定の条件間倍率変化比較についてFDR<0.05となったタンパク質を、統計的に有意であるとみなし、その条件対についてDEであるとして処理した。
【0077】
パスウェイ過剰発現解析:
このDEタンパク質をプレフィルターにかけ、絶対倍率変化が2倍未満であるタンパク質を除去した。各条件対について、g:プロファイラー(profiler)バージョン:r1730_e88_eg35(http://biit.cs.ut.ee/gprofiler/)を用いて遺伝子オントロジーを行った。ラット及びホモサピエンスの両方のデータセットを使用した。厳密に相同性のタンパク質に関しては種の簡潔な(parsimonious)帰属(assignment)は当てにならないので、ラット若しくはヒトの何れかと同定されたタンパク質のサブセットだけでなく、全てのタンパク質について(種に関係なく)各々の種のデータセットを実行した。検索は遺伝子オントロジー、KEGG、リアクトーム(Reactome)、及びレギュラトリーモチーフデータベース(Regulatory Motif databases)を含み、及び有意性については内蔵のg:SCS閾値を用いた。デフォルトの設定を用いた。パイソン(Python)による視覚化の為の追加の遺伝子オントロジー情報を得る為に、クイックGO(QuickGO)(https://www.ebi.ac.uk/QuickGO)ウェブサービスを使用した。
【0078】
パスウェイエンリッチメント解析:
遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)リリース(Release)3.0(http://www.broadinstitute.org/gsea)を使用してパスウェイエンリッチメント解析を行った。精選された(c2.all.v6.0)及び遺伝子オントロジー(c5.all.v6.0)データセットに対して、各条件対についてのランク付けスキームとして倍率変化方向に従って符号付けされたQPROT p値の負対数を用いて、プレランク(pre-ranked)解析を行った。遺伝子記号衝突(collision)の場合には最も低いp値を有するアイソフォームを選択した。最大及び最小パスウェイサイズ除外基準をそれぞれ1,000及び5に設定したこと以外は、デフォルトの設定を使用した。
【0079】
免疫組織化学、免疫蛍光法、及び顕微鏡法:
IHC及びIFに使用した全ての抗体は図の説明中に列挙した。固定され凍結された脳組織を厚さ14μmの薄片に切断し、既知の方法を用いて免疫蛍光用に調製した。ツァイスアキシビジョン(Zeiss Axiovision)倒立顕微鏡にて切片を撮像した。IHCについては、エモリーウィンシップパソロジーコアラボ(the Emory Winship Pathology Core Lab)にて既知の方法を用いて組織を加工した。パラフィン埋設ブロックからの組織を厚さ5μmの薄片に切断した。DAB染色キット(Wako(現・富士フィルム和光純薬株式会社))を用いメーカーのプロトコルに従ってIHCを行った。ハママツナノズーマー(Hamamatsu Nanozoomer)2.0HTを用いて全スライドスキャニングを行った。
【0080】
グラフ作成及び統計学:
全てのグラフはプリズム(Prism)7(グラフパッド社(Graphpad Inc.))、パイソン(Python)、若しくはMATLAB(登録商標)(バージョン9、マスワークス(Mathworks)、マサチューセッツ州)において作成した。図のパネルのレイアウトはイラストレーター(Illustrator)(アドビ社(Adobe Inc.))を用いて行った。グラブズ検定(Grubb’s test)により示された場合、異常値は省略した。適切な場合には、プリズム(Prism)7において、スチューデントt検定(Student’s t-tests)若しくは一元配置分散分析(one-way ANOVA)(図の凡例に記載の通り)とその後の事後検定を実施した。生存分析もプリズム(Prism)7において行い、及びマンテルコックスログランク検定(Mantel-Cox log rank test)を用いて有意性を評価した。
【0081】
実施例1:CSPG類を使用したGBM細胞の忌避(図1(a)~(e))
腫瘍細胞の忌避におけるCSPG類の効果を判定する為に、神経膠瘢痕形成の確立されたインビトロモデル、即ち、プロトタイプの抑制性CSPG、アグリカンを用いたスポットアッセイを使用した。アグリカンは神経膠瘢痕の構成成分であり、及びCS-GAGのファミリーの全てにより硫酸化される為に、アグリカンを選択した。結果を図1(a)に示す(スケールバーは50μmである)。緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するU87mgGBM細胞を使用した。「DAPI」は、核染色4’,6-ジアミジノ-2-フェニリンドールを示し、及び「CS56」は無傷のCSPG類を染色する抗体である。CS56+アグリカンのスポット(1mg/ml、2ulスポット)は腫瘍細胞を忌避している:点線(「マージ」)は、右端のズームされた領域(スケールバーは200μm)を特定し、腫瘍細胞がアグリカンによりもたらされた境界を超えることが少なくとも部分的に妨げられるということが確認された。
【0082】
CSPG類はそれらの抑制効果を主にCS-GAG側鎖を介して発揮する為、コンドロイチナーゼABC(cABC)を使用してCS-GAG鎖を酵素的に消化して切断し、前記境界がCS-GAG側鎖の非存在下で維持されるか否かを判定した。結果を図1(b)に示す。2B6は、アグリカンのコンドロイチナーゼABC(chABC)による酵素消化後のGAG断片(stub)を染色する抗体である。腫瘍細胞はchABC消化時にアグリカンによってもたらされたスポット境界を超えることができ、CSPG類がそれらの忌避効果をCS-GAGを介して媒介するということが示され、また神経膠瘢痕の主要な抑制性構成成分であるCSPG類が、インビトロでのGBM細胞の浸潤に対する生化学的障壁に寄与したということが確認された。
【0083】
CSPG類の腫瘍周囲発現を刺激する為に、フィッシャーラットに高度に運動性の同系F98GBM細胞及びザイモサンを同時注入した。図1(c)は、ザイモサンビーズ/穿刺(stab)注入部位及びF98腫瘍接種部位を示す。腫瘍接種の21日後に動物を犠牲にした。
【0084】
図1(d)に示すように、F98腫瘍細胞を対照穿刺の領域から除外した。神経膠細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)は各アストロサイトについての免疫蛍光染色である。穿刺創傷(白い矢頭により示す)は腫瘍の成長を部分的に忌避したが、腫瘍のマイクロサテライト移動(赤い矢頭により示す)を防ぐことはできなかった。それに対して、ザイモサンビーズは、図1(e)(ズームされた切片(section)、スケールバーは200μm)に示されるように、劇症性のグリオーシス及び空洞形成(白い矢頭)を引き起こし及び腫瘍をコンパクトな塊として残存させた。対照動物では、腫瘍は穿刺部位から離れたマイクロサテライトを形成し、及びザイモサンビーズで処理された動物では、腫瘍細胞は、ビーズ注入部位の境界内に拘束された。ザイモサン注入は、堅牢なアストログリアの活性化を引き起こし、アストログリア瘢痕形成が生体内で腫瘍細胞移動を大いに封じ込め及び拘束したことを示した。
【0085】
実施例2:Zpepを用いたTLR2の活性化(図2(a)~(f))
ザイモサンの脳腫瘍への直接注入は複数の理由、例えば、頭蓋内注入に起因する傷害のリスク及び腫瘍周辺の不完全な被覆に起因して、実用的ではない。ナノ粒子はEPR効果を行使してGBM等の血管形成された腫瘍を標的化し、及び腫瘍を拘束する為に理想的な場所である腫瘍周辺に蓄積するので、ザイモサンを有するナノ粒子はこれらの課題を排除する為には理想的である。故に、ザイモサンポリペプチド(Zpep)を含む水溶性の混合物をザイモサンビーズから抽出した。ZpepのEOCマウスミクロ神経膠細胞への添加は、時間と共に増大する一酸化窒素の生成(窒化物アッセイにより分析)(グリース(Griess)アッセイ、図2(a))、及びTNF-αの生成(図2(b))を引き起こした。ザイモサンはTLR2刺激である為、TLR2関連パスウェイのZpep活性化を判定した。哺乳動物細胞によるザイモサン認識はTLR2及びβグルカン受容体デクチンにより媒介される。EOC細胞をZpepへの暴露前にラミナリン(デクチンが媒介する認識を遮断することができる可溶性βグルカン)若しくはTLR2遮断抗体により処理した。TLR2の遮断は、EOC細胞による一酸化窒素生成の減少をもたらしたが、デクチンの遮断ではそうならず、ZpepがザイモサンのTLR2活性化特性を維持するということ(図2(c))、及びZpep抽出物が何れの水不溶性βグルカン類も含有していなかったということを示した。ZpepのEOC細胞への添加は、ミクログリアの活性化に関連する遺伝子、即ち、炎症性遺伝子転写物の堅牢な上方制御を引き起こした(図2(d))。加えて、Zpepはザイモサンのアストロサイトに対する予期される応答-即ち、ザイモサンはアストロサイトを直接活性化することができないが、ザイモサンに暴露されたミクログリアの分泌因子を通してアストロサイトを活性化する-を模倣する。これらの性質は下記により確認された:Zpepの直接添加は古典的にC8D1Aアストロサイトを活性化することはできなかった(図2(e)、(f))ものの、Zpepに暴露されたEOC細胞からの条件培地は、一酸化窒素の生成及び炎症性遺伝子の上方制御によって評価された通り(図2(e)、(f))、堅牢なアストロサイト活性化を誘発した(「CM」はEOC条件培地を示す)。総合すれば、これらのデータは、Zpepがザイモサンに類似した生物学的性質を現し及び神経膠細胞において堅牢な炎症を引き起こすことを示している。
【0086】
実施例3:AuNPZを用いた生体内での腫瘍周囲CSPG発現の刺激(図3(a)~(c))
本明細書に記載するように、AuNP(直径60nm)の表面をZpep及び20kDaPEGで修飾して炎症性ナノ粒子(AuNP-Z)を作製した。ポリペプチドのAuNP表面への抱合を紫外可視分光法により評価した。図3(a)に示されるように、PEGの単独添加はレッドシフトをもたらさなかった(ネイキッドAuNP及びAuNP-Pについての535nmにおけるピーク吸光度)。しかしながら、Zpepの添加は4~5nmの小さなレッドシフトを引き起こした(AuNP-Zについての540nmにおけるピーク吸光度)。AuNP(直径60nmコア)の動的光散乱が、PEG添加時(直径100nm)及びZpep添加時(直径90nm)にAuNPの流体力学的半径の増大を示した。
【0087】
生体内で腫瘍周囲CSPG発現を引き起こす為のAuNP抱合体の容量を試験する為に、F98神経膠腫を有するフィッシャーラットに、腫瘍接種6日後(6DPI)にZpep付きAuNP(100μgのZpep)を静脈内注射し、20DPIにラットを犠牲にした。図3(b)に示すように、F98腫瘍を有するが何れの処置も受けていない動物からの対照組織切片(b)は、低いアストロサイト活性化(GFAP染色)及び低いCSPG産生(CS56染色)を示した。逆に、図3(c)に示しように、Zpep処置動物からの切片は堅牢なアストロサイト活性化及びCSPG産生を示した。(スケールバー:50μm)
【0088】
実施例4:AuNP-Zを用いた生体内での腫瘍の拘束(図4(a)~(b))
F98神経膠腫を有するフィッシャーラットに、腫瘍接種の6日後(6DPI)にAuNPを静脈内注射し、20DPIにラットを犠牲にした。図4(a)に示されるように、F98腫瘍を有し及びPEG付きAuNPのみを受けた動物からの組織切片は、低いアストロサイト活性化(GFAP染色)及び低いCSPG産生(CS56染色)を現した。図4(b)の全スライドスキャンに示されるように、AuNP-Zを受けた動物は、より小さく及びより拘束された腫瘍を有していた。腫瘍は紅い点線の丸で輪郭を描かれている。拘束は腫瘍細胞がどのくらい密に充填されているかの定量アセスメントとして判定される。(スケールバーは図4(a)では100μm、図4(b)では2mmである。)
【0089】
このように、AuNP-Zを与えられた動物は、ザイモサンビーズの直接注入で観察されたもの(図1(e))と同様に、より小さなコンパクトな腫瘍を示した(図4(b))。反応性アストロサイトのマーカーである神経膠細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)の、及びCSPG類(CS56抗体)の免疫蛍光染色は、対照及びAuNP-Pグループにおいては弱かった(図3(b)及び図4(a))。しかしながら、CS56及びGFAP免疫反応性はAuNP-Zグループにおいては強く(図3(c))、腫瘍内及び腫瘍周辺における高い反応性を有したが、これは非移動性の神経膠腫を思わせる現象である。総合すれば、これらのデータは、AuNP-Z粒子の全身投与が生体内における脳腫瘍周辺のCSPG及びGFAP発現の向上を誘発し、このようにしてそれらの腫瘍を拘束したことを示している。
【0090】
実施例5:AuNP-Zを用いた腫瘍成長の遅延及び封じ込め(図5(a)~(c))
異種U87腫瘍を有するローウィット(Rowett)ヌード(RNU)ラットに、9DPIに開始する単一投薬(SD)若しくは二重投薬(DD)で、AuNP、AuNP-PEG、及びAuNP-Zを静脈内注射した。図5(a)に示すように、5つの実験グループ全てについて腫瘍体積を縦軸にプロットした。9DPIに開始され死亡するまでほぼ毎週撮像を行った動物のMRI画像から、腫瘍体積を計算した。腫瘍を有するラットの脳に渡る0.5mmスライス上の腫瘍の輪郭を描きその体積(mm3)を算出することによって、MRI画像を成長について解析した。SD及びDDグループについて投薬計画のタイムラインが示されている。点線は対照グループにおける動物の死亡時点でのメジアン体積を示す。成長曲線における各ドットは、腫瘍体積が算出されたMRIセッションを示している。AuNP-Z投与はより遅い腫瘍成長に繋がり、AuNP-Zを受けた動物における体積は有意に小さかった(AuNP-Z SDにおける134±100mm3 対 対照グループにおける311±109mm3)(図5(a))。AuNP投与の2、3日後、腫瘍は成長率において上向いたように見えた(図5(a))為、初期投薬量を等しく半分に分けて、9DPI及び13DPIに動物に注射した。この投薬計画は、単一投薬コホートと比較して、更により小さな及びより遅い腫瘍成長に繋がった(AuNP-Z DDにおいて86±35mm3)(図5(b)及び5(c))。図5(b)は、図5(a)における5つの実験グループの末期の体積をまとめた箱ひげ図を示す。AuNP-Z投与は他のグループと比較して有意に腫瘍の成長を縮小した。図5(c)は、腫瘍注射部位における実験グループの代表的なT2重み付けMRI画像を示している。同じ動物についての9、16、及び23DPIにおける画像が示されている。(*p<0.05;一元配置分散分析(one-way ANOVA)(クラスカル・ウォルス(Kruskal-Wallis)検定)と、その後の未修正のダンポストホック検定(the Uncorrected Dunn’s post-hoc test))
【0091】
実施例6:AuNP-Zに対する生体内応答のプロテオーム解析(図6(a)~(c))
腫瘍生検のプロテオーム解析により、AuNP-Z投与が、細胞接着、エキソサイトーシス、抗原プロセッシング、白血球媒介免疫、及び細胞外細胞構造に関与するタンパク質の増加に繋がったことが示された(図6、7、及び8)。全く対照的に、AuNP-PEG粒子の投与は、連続した腫瘍増殖を示す、代謝物の生成、エネルギー導出、細胞輸送、及びCNS成長に関与するタンパク質の上方制御に繋がった。総合すれば、これらのデータは、AuNP-Z投与がより小さな悪性神経膠腫に繋がり、これは部分的には炎症及び細胞クラスター形成に関連するパスウェイの制御により媒介されたということを示している。
【0092】
図6(a)は、AuNP-Z処置動物における、対照に対する、タンパク質の差時的発現を示すボルケーノプロットを示している(有意に差時的に発現されたタンパク質は赤いドットによって示されている)。各ドットは独自に同定されたタンパク質の目録(accession)を表している。有意性閾値(Significance threshold)を<0.05の偽陽性率(FDR)及び±2倍よりも大きな倍率変化に設定した。これらのタンパク質は、図6(b)及び(c)に列挙されたパスウェイに関与する。図6(b)は、AuNP-Zグループにおいて、対照に対して有意に大きな比率を占めるパスウェイの選択リストである。図6(c)は、GSEA分析からの、AuNP-Zグループにおける全ての有意に強化された(enriched)パスウェイのリストである。DEは差次的発現を指し、ORAは過剰発現解析を指し、及びNESは正規化エンリッチメントスコアを指す。
【0093】
実施例7:プロテオミクスデータのGSEA(図7及び8)
プロテオミクスデータのGSEAは細胞増殖抑制性の非移動性挙動に関連するパスウェイの強化(enrichment)を示していた。図7は、AuNP-Z処置動物の対照に対する遺伝子セットエンリッチメント解析の結果を示している。パスウェイ及び有意に強化されたコア遺伝子が示されている。図8はAuNP-Z処置動物の対照に対する過剰発現解析の結果を示している。パスウェイ及び有意に差次的に発現されたコア遺伝子が示されている。例えば、E-カドヘリン及びMHCクラスパスウェイが生体内でのAuNP-Z投与時に上方制御された。AuNP-Z投与は、E-カドヘリン発現に関連しているタンパク質の強化を引き起こした。AuNP-Z投与は、MHCクラスI及びIIの上方制御に関連したパスウェイ、並びに補体シグナリング及びFc-受容体に媒介された食作用に関連したパスウェイの強化に繋がった。ミクログリアの細胞毒性機能及び食作用機能に関連するパスウェイは、ミクログリアに対して、補体受容体及びFcγ受容体の発現の上方制御を要求する。それに対して、AUNP-PEGを投薬された動物は、腫瘍成長を許容する静止状態の微小環境を思わせる、神経細胞間情報伝達及びシナプス伝達に関連するパスウェイの強化を示した。全体として、プロテオーム解析は、細胞接着、移動、及び免疫活性化の制御に関与するZpepの作用様式の方向を指している。
【0094】
実施例8:金ナノ粒子及びAuNP-Z処置動物におけるアストロサイト活性化(図9
図9は、AuNP、AuNP-PEG、及びAuNP-Z処置動物におけるアストロサイト活性化を示している。特に、図9は、正常の脳組織と腫瘍塊との間の境界におけるアストロサイト活性化を示している。個々のカラーマイクログラフは固有の動物を表している。各カラーマイクログラフの下の偽色茶色チャネル画像は、GFAP反応性によって評価された場合のアストロサイト活性化を示している。全てのグループに活性化されたアストロサイトが存在している一方で、AuNP-Z処置動物は、腫瘍塊の内部及び外側の両方でアストロサイトの活性化を示しており、他のグループと比べてより緻密なGFAP染色を有する。(スケールバーは200μmである。)
図1
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図9
【国際調査報告】