(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法のための中性子源
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547657
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(85)【翻訳文提出日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 US2019057884
(87)【国際公開番号】W WO2020101858
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521177072
【氏名又は名称】アデルファイ・テクノロジー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーストルップ,メルビン・アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クレイグ・マシュー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,アラン・シー
(72)【発明者】
【氏名】ギャリー,チャールズ・ケビン
(72)【発明者】
【氏名】グワン,ヤオ・ゾン
(72)【発明者】
【氏名】堀井 良雄
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ・ジュニア,グレン・エマーソン
(72)【発明者】
【氏名】古久保 雄二
(72)【発明者】
【氏名】山田 直之
(72)【発明者】
【氏名】古村 翔太郎
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC07
4C082AE01
4C082AG03
4C082AG42
4C082AR01
(57)【要約】
中性子発生装置は、減速材料のプレ減速材ブロックと、加速チャンバと、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、イオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、プレ減速材ブロック内へ延伸する一次および二次分離ウェルと、一次分離ウェルの下端部に位置付けられる水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックの表面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを有する。イオン引き出しアイリスを通じて引き出されるイオンは、チタンターゲットに衝撃を与えるように加速されて、プレ減速材ブロックを通過しプレ減速材ブロックにより減速されるエネルギーのある中性子を作り出す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子発生装置であって、
上面、下面、第1および第2の端、第1および第2の側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、
上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、
加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、
加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、
プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、
プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、
加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、
加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、
加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、
プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングと
を備え、
イオン引き出しアイリスを通じて引き出されるイオンが、一次分離ウェルの下端部においてチタンターゲットに衝撃を与えるように加速されて、プレ減速材ブロックを通過しプレ減速材ブロックにより減速されるエネルギーのある中性子を作り出し、チタンターゲットから電気的に接地された要素までの表面に沿った任意の経路が、一次および二次分離ウェルによって必然的に最大限にされる、中性子発生装置。
【請求項2】
プレ減速材ブロックの材料が、超高分子量ポリエチレン(UHMWPEまたはUHMW)、または高密度ポリエチレン(HDPE)、またはポリテトラフルオロエテン(PTFE)である、請求項1に記載の中性子発生装置。
【請求項3】
一次および二次分離ウェルの表面が、連続曲線で形成され、高電圧フラッシュオーバに対する耐性を強化するために粗くされる、請求項2に記載の中性子発生装置。
【請求項4】
ターゲットを冷却する冷却水を提供する、プレ減速材ブロックの第2の端からチタンターゲットまでプレ減速材ブロックを縦に通る送水および戻り水チャネルをさらに備える、請求項1に記載の中性子発生装置。
【請求項5】
ターゲットを実質的な負のDC電圧にバイアスするために、プレ減速材ブロックを縦に通ってターゲットまで実現された高電圧バスバーに結合される、プレ減速材ブロックの第2の端における高電圧オスコネクタのためのメスソケットをさらに備える、請求項1に記載の中性子発生装置。
【請求項6】
プレ減速材ブロックの第1および第2の側面の両方が、高さの少なくとも一部分について垂直から30度だけ内向きに角度付けされて、6つの中性子発生装置が、角度付けされた側面が完全に隣接して置かれることを可能にし、中心点の周りに閉じた環を形成する、請求項1に記載の中性子発生装置。
【請求項7】
プレ減速材ブロックの第1および第2の側面の両方が、高さの少なくとも一部分について垂直から45度だけ内向きに角度付けされて、8つの中性子発生装置が、角度付けされた側面が完全に隣接して置かれることを可能にし、中心点の周りに閉じた環を形成する、請求項1に記載の中性子発生装置。
【請求項8】
ボロン中性子がん治療システムであって、
被験者のための中央治療チャンバを有する二次減速材と、
6つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、
6つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、高さの少なくとも一部分に沿って30度だけ内向きに角度付けされた対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備え、
6つの中性子発生装置が、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、中性子発生装置の角度付けされた側部が完全に隣接して、二次減速材の周りに位置付けられる、ボロン中性子がん治療システム。
【請求項9】
減速材料の6つの略長方形のスペーシングブロックをさらに備え、1つのスペーサブロックが、スペーサブロックの側部が中性子発生装置の角度付けされた側部と完全に隣接して、各隣接する中性子発生装置の間に置かれる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
二次減速材が、中性子発生装置と中央治療チャンバとの間の全容積を充填するように成形される、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
二次減速材が、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
二次減速材が、重水を充填された容器である、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
二次減速材が、粒状の減速材料を充填された容器である、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
ボロン中性子がん治療システムであって、
被験者のための中央治療チャンバを有する二次減速材と、
8つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、
8つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、高さの少なくとも一部分に沿って45度だけ内向きに角度付けされた対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備え、
8つの中性子発生装置が、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、中性子発生装置の角度付けされた側部が完全に隣接して、二次減速材の周りに位置付けられる、ボロン中性子がん治療システム。
【請求項15】
減速材料の8つの略長方形のスペーシングブロックをさらに備え、1つのスペーシングブロックが、スペーシングブロックの側部が中性子発生装置の角度付けされた側部と完全に隣接して、各隣接する中性子発生装置の間に置かれる、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
二次減速材が、中性子発生装置と中央治療チャンバとの間の全容積を充填するように成形される、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
二次減速材が、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
二次減速材が、重水を充填された容器である、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
二次減速材が、粒状の減速材料を充填された容器である、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
ボロン中性子がん療法(BNCT)のためのボロン源を評価するための治療システムであって、
被験者のための中央治療チャンバを有する略正方形の二次減速材と、
4つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、
4つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、対向する平行な側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備え、
4つの中性子発生装置が、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、略正方形の二次減速材の周りに位置付けられる、治療システム。
【請求項21】
二次減速材が、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
二次減速材が、重水を充填された容器である、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
二次減速材が、粒状の減速材料を充填された容器である、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
ボロン中性子がん治療システムであって、
中央治療チャンバを除いて液体または粒状の減速材料を充填され、平行な上面および下面を有する減速材チャンバと、
複数の中性子発生装置と、
中性子発生装置のための機械的な調節可能キャリアとを備え、
複数の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備え、
中性子発生装置のための機械的な調節可能キャリアは、各キャリアが、1つの中性子発生装置を支持し、中性子発生装置を中央治療チャンバの方へ、および中央治療チャンバから離れる方へ並進させること、ならびに中性子発生装置を、減速材チャンバの平行な上面および下面の平面に平行な平面において回転させることを可能にされ、
モジュール式発生装置および機械的な調節可能キャリアが、減速材チャンバの液体または粒状の減速材料に完全に浸漬される、ボロン中性子がん治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年6月27日に出願した米国仮特許出願第61/571,406号の優先権を主張する、2012年6月25日に出願した、現在は放棄された米国出願第13/532,447号の優先権を主張する、2017年5月2日に米国特許第9636524号として発行された、2014年2月26日に出願した米国出願第14/190,389号の優先権を主張する、2017年4月17日に出願した同時継続中の米国出願第15/488,983号の一部継続出願(CIP)である。本出願はまた、2018年10月24日に出願した米国特許出願第62/749,875号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、がんのためのボロン中性子捕捉療法のための装置および方法の技術的分野にある。
【背景技術】
【0003】
ボロン中性子捕捉療法(BNCT)は、熱中性子が、がん腫瘍の破壊のためがん療法に使用されていることから、当該技術分野において新規ではない。これらの中性子は、がん部位に置かれているボロン-10と相互作用する。中性子がボロンと相互作用して分裂事象を作り出し、これによりアルファ粒子およびリチウム核が作成される。これらの大量のイオン化した粒子が次いで放出され、近くのがん腫瘍細胞の化学結合を破壊する。現在のところ、原子炉または加速器内で作成される中性子は、BNCT治療に好適な中性子エネルギースペクトルを成形する減速材を通過する。減速材、次いで患者の組織を通過する間、中性子は、衝突により低速化され、低エネルギー熱中性子になる。熱中性子は、がん部位においてボロン-10核と反応し、複合核(励起されたボロン-11)を形成し、次いでこれが、リチウム-7およびアルファ粒子に即座に崩壊する。アルファ粒子およびリチウムイオンの両方が、反応のごく近傍に、およそ5‐9ミクロメートルの範囲で、または大まかに1つの細胞直径の厚さで、密集したイオン化をもたらす。このエネルギーの放出が周囲のがん細胞を破壊する。この技術は、放射線損傷が短い範囲にわたって生じ、したがって正常な組織は免れ得るため、有利である。
【0004】
ガドリニウムも、その非常に高い中性子捕捉断面積が理由で、中性子捕捉療法(NCT)における捕捉剤として検討され得る。いくつかのガドリニウム化合物が、脳腫瘍を撮像するための造影剤として頻繁に使用されている。腫瘍は、ガドリニウムの大部分を吸収しており、ガドリニウムをNCTのための優れた捕捉剤にしている。したがって、GNTCも、本発明の実施形態における変形として検討され得る。
【0005】
中性子エネルギー範囲Eの以下の定義は、医療、商用、および科学的な応用のために中性子を作り出すおよび使用する分野における当業者によりしばしば使用されるものである:高速中性子(E>1MeV)、熱外中性子(0.5eV<E<1Mev)、および熱中性子(E<0.5eV)。
【0006】
BNCTは、多形性膠芽腫(GBM)などの以前は治療不可能であったがんを治療する可能性を有する。米国では、脳腫瘍は、29歳未満の男性および20歳未満の女性における、がんに関連した死亡の2番目に多い原因である。GBMは、ほぼすべての場合に死に至り、現在まで効果的な治療は知られていない。原発性脳腫瘍に起因して、年間およそ13,000人が死亡している。
【0007】
グリア芽細胞が励起される場所で従来の薬が使用される場合、新たな腫瘍が、多くの場合は原発腫瘍部位から離れたところで、ほぼ例外なく再発する。したがって、効果的な放射線療法は、大容積を包含しなければならず、放射線は均一に分布されなければならない。従来の放射線治療は、通常、有害すぎてGBMに対しては役立たない。
【0008】
分布した腫瘍の場合、効果的な放射線療法は、大容積を包含しなければならず、放射線は均一に分布されなければならない。これは、肝臓がんの場合にも当てはまる。肝臓は、多くの原発性腫瘍からの転移の最もよく見られるターゲットである。原発性および転移性肝臓がんは通常、特に多数の個々の腫瘍の切除後に、死に至る。従来の放射線治療または化学療法に対する切除不可能な肝細胞がんの奏効率も非常に乏しい。しかしながら、最近の結果は、低エネルギー中性子により衝撃を与えられることになる、10B化合物による肝臓全体の熱中性子照射が、肝転移すべてを破壊するための一方法であり得ることを示す。
【0009】
BNCTにおける最近の研究は、中性子捕捉療法が、多数の異なるがんを治療するために使用され得ることを示している。BNCTは、従来のガンマ放射線で以前に照射された部位で再発する手術不可能な局所進行性の頭頸部がんの治療において効果的かつ安全であることが分かっている。したがって、BNCTは、幅広いがんのために検討され得る。BNCTは、がん部位への線量がγ-放射線源により作り出されるものよりも大いに強化され得ることから、そのように将来有望である。これは、中性子-ボロン反応が短距離(5‐9um距離)放射線の放射を作り出すという事実の結果であり、結果的に、正常な組織は免れ得る。加えて、ボロンは、10以上もの高い腫瘍対脳濃縮比を達成することができ、それにより異常な組織を優先的に破壊する。
【0010】
BNCTは、中性子を作り出すために原子炉または加速器のいずれかを使用して試験されており、これは大半の臨床環境においては実用的または入手可能ではない。原子炉はまた、理想の中性子スペクトルを作り出さず、γ放射線で汚染される。
【0011】
融合発生装置は、重水素-重水素(DD)または重水素-三重水素(DT)反応から高速中性子を作り出し、一般に、加速器および原子炉よりも小さく安価である。こうして作り出された高速中性子は、例えば、水または他の水素を有する材料を使用して、熱または熱外中性子エネルギーへと減速または低速化されなければならない。
【0012】
融合中性子発生装置は、3つの基本構成要素:イオン源、電子シールド、およびターゲットを伴う加速構造体を有する。イオンは、現代の高電圧電源によって容易に送達され得る、40kVから200kVの高電位差を使用してイオン源から通常はチタンターゲットへ加速される。電子シールドは、通常、イオン源とチタンターゲットとの間に配設される。このシールドは、正D+イオンがチタンターゲットにぶつかるときに発生されている電子を反跳するように電圧バイアスされる。このことは、これらの電子がイオン源にぶつかり、電子加熱に起因してそれに損傷を与えることを防ぐ。
【0013】
ターゲットは、D+またはT+イオンを容易に吸収し、水素化チタンを形成するチタンなどの重水素D+または三重水素T+吸収材を使用する。後続のD+またはT+イオンが、これらの埋め込まれたイオンにぶつかり、融合し、DD、DT、またはTT反応をもたらし、高速中性子を放出する。
【0014】
先行技術は、放射性三重水素および高加速力の必要性を伴うDT反応の使用が必要とされる融合発生装置を提案することを試みている。療法治療の妥当な時間内に療法のための十分な熱中性子を達成するには高収率の高速中性子/秒が必要とされた。熱外中性子流束を達成するためのこれらの先行技術スキームは、設計において連続的または平面的である:単一の高速中性子発生装置の後に減速材が続き、その後に患者が続く。残念ながら、中性子は頭部の片側から入っていくため、平面的な中性子照射システムは、高い表面または皮膚被ばく量、および脳内へより深いほど減少する中性子被ばく量を引き起こす。脳は、均一に照射されず、がん部位は、それらが平面ポートから離れるほど、より低い熱中性子吸収量を有する。
【0015】
従来の平面的な中性子照射システム14およびその動作は、先行技術とラベル付けされた
図1に示される。高速中性子22から熱中性子30への変換は、一連のステップにおいて起こる。まず、高速中性子22は、円筒状の高速中性子発生装置20によって作り出され、次いで減速手段18に入り、ここでそれらは、弾性散乱を受ける(減速材料の原子の核との衝突)。これが、高速中性子を熱外中性子24エネルギーへ下げる。熱外24および熱中性子30の混合物が、平面ポート16から放射され、次いで患者の頭部26に入る。熱外中性子24は、患者の脳内で依然としてさらに減速され、熱中性子へとさらに減速され、最終的には、腫瘍部位においてボロンによって捕捉される。核分裂反応が生じ、アルファ線およびLi-7イオンが放出され、腫瘍細胞を破壊する。
【0016】
熱外および熱中性子は、コリメーティング手段28を形成する中性子吸収材料から形成される平面ポート16を通って患者の頭部に到達する。熱および熱外中性子は、患者の頭部に片側においてぶつかり、多くの中性子は逃げて、使用されない。1つの逃げている中性子38が代表として示される。これは、妥当な療法または治療時間(例えば、30分)の間に十分な熱中性子を作り出すためには大量の高速中性子が作り出されることを必要とする非効率的なプロセスである。
【0017】
高収率の高速中性子を達成するためには、平面的な中性子照射システム14は、極めて高い加速パワー(例えば、0.5から1.5メガワット)を有するDD融合反応、または同じ加速パワーでは中性子収率においておよそ100倍の増大を有するDT反応のいずれかを使用することを必要とする。
【0018】
三重水素の使用は、多くの安全性および保守問題を有する。三重水素ガスは、放射性であり、一旦それが表面に触れると除去することは極めて困難である。高速中性子を作り出す技術において、これは、発生装置が密閉されること、および完全に密閉される真空を達成するための手段を有することを必要とする。発生装置ヘッドは、容易に保守されることができず、通常、その寿命は、2000時間未満に制限される。このことは、発生装置ヘッドが交換を必要とする前に治療され得る患者の数が少なくなることから、臨床動作のためのこの発生装置の可能な使用を低減させる。
【0019】
その一方で、DD融合反応の使用は、当業者が、粗引きおよびターボポンプを伴う活発にポンピングする真空手段を使用することを可能にする。その後、発生装置は、修理のために開けることができ、その寿命は延長される。このことが、DD融合反応中性子発生装置を臨床用途に最適にする。DD融合反応の欠点は、先行技術の方法によって必要とされる所望の中性子収率を達成するためには高加速力が必要とされることである。がん部位において適切な熱中性子流束を作り出す効率を改善することは、臨床および病院環境においてBNCTを達成するのに必要不可欠である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Current Status of Neutron Capture Therapy(2001)IAEA-TECDOC-1223
【非特許文献2】Yamamoto,O;Takuma,T;Fukuda,M;Nagata,S;Sonoda,T“Improving withstand voltage by roughening the surface of an insulating spacer used in vacuum,”IEEE TRANSACTIONS ON DIELECTRICS AND ELECTRICAL INSULATION(2003)、10(4):550-556
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の実施形態において、中性子発生装置であって、上面、下面、第1および第2の端、第1および第2の側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備える、中性子発生装置が提供される。イオン引き出しアイリスを通じて引き出されるイオンは、一次分離ウェルの下端部においてチタンターゲットに衝撃を与えるように加速されて、プレ減速材ブロックを通過しプレ減速材ブロックにより減速されるエネルギーのある中性子を作り出し、チタンターゲットから電気的に接地された要素までの表面に沿った任意の経路が、一次および二次分離ウェルによって必然的に最大限にされる。
【0022】
1つの実施形態において、プレ減速材ブロックの材料は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPEまたはUHMW)、または高密度ポリエチレン(HDPE)、またはポリテトラフルオロエテン(PTFE)である。また、1つの実施形態において、一次および二次分離ウェルの表面は、連続曲線で形成され、高電圧フラッシュオーバに対する耐性を強化するために粗くされる。1つの実施形態において、本発生装置は、ターゲットを冷却する冷却水を提供する、プレ減速材ブロックの第2の端からチタンターゲットまでプレ減速材ブロックを縦に通る送水および戻り水チャネルをさらに備える。
【0023】
1つの実施形態において、中性子発生装置は、ターゲットを実質的な負のDC電圧にバイアスするために、プレ減速材ブロックを縦に通ってターゲットまで実現された高電圧バスバーに結合される、プレ減速材ブロックの第2の端における高電圧オスコネクタのためのメスソケットをさらに備える。また、1つの実施形態において、プレ減速材ブロックの第1および第2の側面の両方は、高さの少なくとも一部分について垂直から30度だけ内向きに角度付けされて、6つの中性子発生装置が、角度付けされた側面が完全に隣接して置かれることを可能にし、中心点の周りに閉じた環を形成する。また、1つの実施形態において、プレ減速材ブロックの第1および第2の側面の両方は、高さの少なくとも一部分について垂直から45度だけ内向きに角度付けされて、8つの中性子発生装置が、角度付けされた側面が完全に隣接して置かれることを可能にし、中心点の周りに閉じた環を形成する。
【0024】
本発明の別の態様において、ボロン中性子がん治療システムであって、被験者のための中央治療チャンバを有する二次減速材と、6つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、6つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、高さの少なくとも一部分に沿って30度だけ内向きに角度付けされた対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備える、ボロン中性子がん治療システムが提供される。6つの中性子発生装置は、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、中性子発生装置の角度付けされた側部が完全に隣接して、二次減速材の周りに位置付けられる。
【0025】
1つの実施形態において、本システムは、減速材料の6つの略長方形のスペーシングブロックをさらに備え、1つのスペーシングブロックが、スペーシングブロックの側部が中性子発生装置の角度付けされた側面と完全に隣接して、各隣接する中性子発生装置の間に置かれる。また、1つの実施形態において、二次減速材は、中性子発生装置と中央治療チャンバとの間の全容積を充填するように成形される。1つの実施形態において、二次減速材は、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである。1つの実施形態において、二次減速材は、重水を充填された容器である。また、1つの実施形態において、二次減速材は、粒状の減速材料を充填された容器である。
【0026】
本発明のさらに別の態様において、ボロン中性子がん治療システムであって、被験者のための中央治療チャンバを有する二次減速材と、8つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、8つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、高さの少なくとも一部分に沿って45度だけ内向きに角度付けされた対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備える、ボロン中性子がん治療システムが提供される。8つの中性子発生装置は、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、中性子発生装置の角度付けされた側面が完全に隣接して、二次減速材の周りに位置付けられる。
【0027】
1つの実施形態において、このシステムは、減速材料の8つの略長方形のスペーシングブロックをさらに備え、1つのスペーシングブロックが、スペーシングブロックの側部が中性子発生装置の角度付けされた側部と完全に隣接して、各隣接する中性子発生装置の間に置かれる。1つの実施形態において、二次減速材は、中性子発生装置と中央治療チャンバとの間の全容積を充填するように成形される。1つの実施形態において、二次減速材は、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである。1つの実施形態において、二次減速材は、重水を充填された容器である。また、1つの実施形態において、二次減速材は、粒状の減速材料を充填された容器である。
【0028】
本発明のさらに別の態様において、ボロン中性子がん療法(BNCT)のためのボロン源を評価するための治療システムであって、被験者のための中央治療チャンバを有する略正方形の二次減速材と、4つの実質的に同一の中性子発生装置とを備え、4つの実質的に同一の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、対向する平行な側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、垂直軸に直角に加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備える、ボロン中性子がん療法(BNCT)のためのボロン源を評価するための治療システムが提供される。4つの中性子発生装置は、各加速チャンバの軸が治療チャンバの中央を通過し、略正方形の二次減速材の周りに位置付けられる。
【0029】
このシステムの1つの実施形態において、二次減速材は、固体減速材料の1つのブロックまたは複数のブロックである。1つの実施形態において、二次減速材は、重水を充填された容器である。また、1つの実施形態において、二次減速材は、粒状の減速材料を充填された容器である。
【0030】
本発明のさらにもう1つの態様において、ボロン中性子がん治療システムであって、中央治療チャンバを除いて液体または粒状の減速材料を充填され、平行な上面および下面を有する減速材チャンバと、複数の中性子発生装置と、中性子発生装置のための機械的に調節可能なキャリアとを備え、複数の中性子発生装置各々が、上面、下面、第1および第2の端、対向する側面、第1の長さ、第1の長さより実質的に小さい第1の幅、ならびに第1の厚さを有する減速材料のプレ減速材ブロックと、上面に垂直の垂直軸を伴う、プレ減速材ブロックの第1の端に隣接するプレ減速材ブロックの上面まで一方の端において密閉される、第1の直径を実質的にプレ減速材ブロックの第1の幅とする円筒状の加速チャンバであって、加速チャンバが、プレ減速材ブロックから離れる第2の端において高さおよびトップカバーを有する、円筒状の加速チャンバと、加速チャンバに係合し、加速チャンバを中程度に高い真空状態にする真空ポンプと、加速チャンバの垂直軸上で加速チャンバのトップカバーを通るイオン引き出しアイリスを通って加速チャンバ内へ開くプラズマイオンチャンバと、プラズマイオンチャンバに重水素ガスを提供するガス源と、プラズマイオンチャンバ内のガスをイオン化するマイクロ波エネルギー源と、加速チャンバの垂直軸を中心とする、上面からプレ減速材ブロック内へ実質的距離を延伸する円筒状の一次分離ウェルと、加速チャンバの第1の直径内で、一次分離ウェルの実質的距離よりいくらか小さい深さまで、一次分離ウェルを囲む実質的に中空円筒の形状にある二次分離ウェルと、加速チャンバの軸に直交するターゲット面を有する水冷式チタンターゲットディスクであって、ターゲットディスクが、分離ウェルの直径よりも実質的に小さい直径を有し、分離ウェルの下端部に位置付けられ、実質的な負のDC電圧にバイアスされる、水冷式チタンターゲットディスクと、プレ減速材ブロックのすべての露出面を被覆する電気的に接地された金属クラッディングとを備え、中性子発生装置のための機械的に調節可能なキャリアは、各キャリアが、1つの中性子発生装置を支持し、中性子発生装置を中央治療チャンバの方へ、および中央治療チャンバから離れる方へ並進させること、ならびに中性子発生装置を、減速材チャンバの平行な上面および下面の平面に平行な平面において回転させることを可能にされる、ボロン中性子がん治療システムが提供される。モジュール式発生装置および機械的に調節可能なキャリアは、減速材チャンバの液体または粒状の減速材料に完全に浸漬される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】患者の脳内に熱中性子を導入するための平面幾何形状の断面図である(先行技術)。
【
図2】多数の高速中性子発生装置が、均一な熱中性子線量を患者の頭部内へ導入するために半球状の減速材の周りにどのように配置されるかの実施形態の断面図である。
【
図3】多数の高速中性子発生装置が、高中性子線量を患者の頭部内へ発展させるために本発明の実施形態においてどのように使用されるかの斜視図である。
【
図4】中性子照射システムの内部の内側の、患者の頭部を伴う
図3の構成の断面図である。
【
図5】平面および半球状の減速材(放射状の源)幾何形状についての頭部(皮膚)の表面からの距離に応じての線量率(Gy equivalent/hr)のグラフである。
【
図6】本発明の実施形態における半球状の(放射状の源)および平面の減速材幾何形状についての頭部(皮膚)の表面からの距離に応じての治療可能比のグラフである。
【
図7A】肝臓または身体の他の器官のための円筒状の中性子照射システムの実施形態の断面図である。
【
図7B】肝臓または身体の他の器官のための円筒状の中性子照射システムの斜視図である。
【
図8】中性子発生装置が肝臓または身体の他の器官において熱中性子流束を最大限にするために独立して制御され得る、中性子照射システムの実施形態のうちの1つの断面図である。
【
図9】互いに独立して制御され得る中性子発生装置を使用する照射システムの断面の簡略化した図である。
【
図10】単位cmでの肝臓の軸に沿った距離に応じての治療可能比のグラフである。
【
図11】単位cmでの肝臓の軸に沿った距離に応じての線量率のグラフである。
【
図12A】本発明の実施形態におけるモジュール式中性子発生装置の斜視図である。
【
図12B】ターボ真空ポンプの軸に直角に、加速チャンバの軸に沿って取られた
図12Aのモジュールの斜視断面図である。
【
図12C】ターボ真空ポンプの軸に沿って取られた
図12Aのモジュールの斜視断面図である。
【
図13A】本発明の実施形態における、減速材および患者のためのチャンバの周りに配置される6つのモジュール式発生装置の平面図である。
【
図13B】本発明の実施形態における、6つのモジュール式中性子発生装置を使用した
図13のシステムの斜視図である。
【
図13C】8つのモジュール式発生装置を使用しており、1つは照射システムが本発明の実施形態においてどのように組み立てられるかを示すために取り除かれた状態にある、円筒状の中性子照射システムの斜視図である。
【
図13D】本発明の実施形態における、流体減速材を伴い、脳内のがん部位への線量を最大限にするように配置されるモジュール式発生装置の平面図である。
【
図14A】本発明の実施形態における、8つのモジュール式中性子発生装置を伴う、ヘルメット減速材および中性子反射体の内側の人間の頭部(疑似)を伴う中心筒の簡略化されたほぼ図式の図である。
【
図14B】
図14Aの14B-14Bの区切り線に沿って取られた簡略化されたほぼ図式の断面図である。
【
図15】本発明の実施形態における、疑似(頭部)をまたぐ水平位置に応じての予測される水平線量当量率(Sv/hr)を示すグラフである。
【
図16A】4つのモジュールを採用する小動物用中性子放射線システムのためのモジュールの斜視図である。
【
図16B】
図16Aの小動物用中性子照射システムの簡略化された上部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の説明において、その一部を形成する添付図面について参照がなされ、これは、本発明が実践され得る例示的な特定の実施形態により示される。他の実施形態が利用され得ること、および本発明の範囲から逸脱することなく構造的変更がなされ得ることを理解されたい。
【0033】
がん部位への熱中性子の均一な送達
患者の頭部にわたって均一に分布される極めて高い熱中性子流束を達成するために、例えば、半球状の幾何形状が、本発明の1つの実施形態において使用される。この固有の幾何形状は、高速中性子源を減速材の周りに円をなして配置し、減速材の半径厚さは、最大熱中性子流束を患者の脳へ送達するように最適化される。この実施形態は、従来の平面的な中性子照射システムの必要とされる高速中性子収率および線間電圧入力電力の、1/20倍以内の均一な熱中性子線量を作り出す。この構成は、比較的安全な重水素-重水素(DD)融合反応(放射性三重水素なし)、および中程度の電力(50から100kW)で動作する商用の高電圧電源を使用することを可能にする。
【0034】
図2は、本発明の1つの実施形態による半球状の中性子照射システム36の断面図である。多数の高速中性子発生装置68が、半球状の減速材34を囲み、今度はこれが患者の頭部26を囲む。チタンターゲット52は、半球状の減速材34の外周に分布される。減速材34および高速中性子発生装置68を囲むのは、高速中性子反射体44である。
【0035】
減速材34においては、7LiF、高密度ポリエチレン(HDPE)、および重水などの減速材料は、患者の頭部の周りに成形される半球状に成形される。照射目的のための半球状の減速材の最適な厚さは、材料の核構造および密度に依存する。
【0036】
図3は、患者の頭部が半球状の照射システム36内に挿入され、台54上の患者58の斜視図を示す。患者58は、その頭部が半球状の減速材34内に挿入され、台54の上に横たわっている。減速材を囲むのは、鉛またはビスマスなどの中性子反射材料44である。
【0037】
再び
図2を参照すると、高速中性子22が、高速中性子発生装置68によって作り出される。発生装置68は、チタンターゲット52およびイオン源50からなる。イオンビームは、イオン源50によって作り出され、半球状の減速材34に埋め込まれているチタンターゲット52の方へ加速される。DD融合反応がターゲットにおいて生じ、2.5MeV高速中性子22を作り出す。
【0038】
高速中性子22は、減速材34に入り、ここで高速中性子22は、減速材原子の核との衝突により弾性散乱される。これが、それらをいくつかの衝突後に熱外中性子24エネルギーへと低速化する。これらの熱外中性子24は、患者の頭部26に入り、ここで熱外中性子24は、熱中性子30エネルギーへとさらに減速される。これらの熱中性子30は、次いで、がん部位においてボロン-10核によって捕捉され、融合事象および近位のがん細胞の死を結果としてもたらす。
【0039】
高速中性子22は、チタンターゲット52から等方的にすべての方向に放射される。外向きに進む高速中性子42は、高速中性子反射体44によって反射し戻されるが(反射された中性子48)、内向きに進む高速中性子40は、熱外エネルギーへと減速され、患者の頭部26に入り、ここで中性子の熱エネルギーへのさらなる減速が生じる。
【0040】
防護遮蔽体56のシェルも
図2に示される。いくつかの実施形態において、これは、患者およびオペレータの両方を、中性子、x線、およびガンマ放射線に起因する過度な照射から遮蔽するのに必須であり得る。遮蔽体は、抑制することを希望する放射成分に応じて様々な材料で作製され得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、高速中性子反射体44は、鉛またはビスマスで作製される。高速中性子反射体はまた、半球状の中性子照射システム36からの放射されたガンマ線および中性子を低減させるために遮蔽手段として作用する。当業者が理解するように、ガンマ線吸収または他の中性子反射体手段が、不要かつ危険な放射線が患者58およびオペレータに到達するのを低減させるために、半球状の中性子照射システム36の周りに層で置かれ得る。
【0042】
半球状の減速材34、高速中性子反射体44、および頭部26は、患者の頭部内に熱中性子を集中させるように一緒に作用する。患者の頭部および減速材34は、単一の減速材として連携して作用する。減速材料および幾何形状の注意深い選択により、熱中性子の均一な線量が、患者の頭部にわたって達成され得、ボロン薬剤が投与される場合、大きく均一な治療可能比が達成され得る。
【0043】
本発明は、高速中性子およびガンマ線寄与を最小限にしながら、頭部への熱中性子の均一な線量をもたらす。この性能を打ち出すための高速中性子の必要量は、先行技術の平面的な中性子照射システム(
図1を参照)のものと比較して低減される。
【0044】
本発明の実施形態における半球状の中性子照射システム36の断面斜視図は、
図4に示される。この断面図は、患者の頭部26および半球状の中性子照射システム36を直接通った放射状切断のものである。この実施形態に示されるように、チタンターゲット52を有するイオン源50からなる10個の高速中性子発生装置68は、半球状の減速材34および患者の頭部26を放射状に囲んでいる。この実施形態におけるチタンターゲット52は、減速材34を囲むチタンの連続したベルトである。チタンターゲットはまた、
図2に示されていたように、区分され得る。この実施形態におけるイオン源は、高速中性子反射体44に埋め込まれる。
【0045】
患者の頭部26において最大熱中性子流束を達成するために減速材34に対して選択することができるいくつかの材料が存在する。HDPE、重水(D2O)、グラファイト、7LiF、およびAlF3の性能が、モンテカルロ中性粒子(MCNP)シミュレーションを使用して分析された。一般には、患者の頭部(または他の身体部分もしくは器官)における最大熱流束を発生する、各減速材料について最適な厚さが存在する。熱中性子/(cm2‐s)は、これらの材料について、減速材厚さd3に応じて計算されたものであり、d4=25cmであり、高速中性子反射体44は、d1=50cm厚であり、鉛で作製される。本発明のすべての計算において見られるように、すべての高速中性子発生装置68からこのエリアにぶつかる高速中性子収率を合わせたものは、MCNPでは1011n/sになると仮定される。最適な厚さ、厚さの範囲、および最大熱中性子流束(E<0.5eV)は、様々な減速材料について表1に与えられる。これらは、減速材の全体寸法を決定するのを助けるために与えられるおよその値である。
【0046】
【0047】
治療可能比の計算も重要であり、問題となっている器官(脳、肝臓)および患者の体重に依存する。HDPEは、最も高い流束を与えるが、それは、7LiFと比較して低い治療可能比を与える。設計者は、中性子照射システムのための最適な幾何形状を決定するために、これに類似した計算を行うことが期待される。
【0048】
MCNPシミュレーションが、患者58に対する送達線量および治療可能比を決定し、それを平面的な中性子照射システムと比較するために使用された。1つのシミュレーションにおいて、減速材34は、厚さがd3=25cmである7LiFからなる。減速材の内径(頭部のための穴)は、d4=25cmである。半球状の高速中性子反射体44と半球状の減速材34との間の間隔は、d2=10cmである。頭部は、28cm×34cmであると仮定される。高速中性子反射体44は、1つの実施形態においては、d1=20cm厚の鉛で作製される。d1の値が厚いほど腫瘍線量率が増大する。10cmの厚さでは、腫瘍線量率は、50cmの厚さにおける値の約半分である。高速中性子発生装置68は、1011n/秒の全収率を放射すると仮定される。チタンターゲット52を合わせたものは、1401cm2の全中性子放射エリアを与える。
【0049】
MCNPシミュレーションにおいて、BPA(ボロノフェニルアラニン)が、送達薬剤として使用された。腫瘍中のボロンの濃度は、68.3μg/gmであったが、健康な組織は、19μg/gmであった。Gy equivalent/hrでの計算された中性子線量率は、皮膚から頭部の中心までの距離に応じて
図5にプロットされる。計算された線量率は、ガンマ放射線療法に使用されるもの、典型的にはセッション当たり1.8から2.0Gyに匹敵する。同じ被ばく量の場合、3Gy equivalent/hrの速度で、セッションの長さは、30から40分になる。これらのセッション時間は、患者が経験するのに妥当であるとみなされる。
【0050】
このシミュレーションについて、半球状の中性子照射システムについての治療可能比は、皮膚から頭蓋骨の中心までの距離に応じて
図6にプロットされる。治療可能比は、送達された腫瘍線量を健康な組織への最大線量で割ったものと定義される。3よりも大きい治療可能比は、がん療法にふさわしいとみなされる。
【0051】
従来の平面的な中性子照射システムは、等価の線量率および治療可能比を達成するためには、より大きい高速中性子収率(10
12から10
13n/s)を必要とする。
図5では、
図1の平面的な中性子照射システム14が、同じ高速中性子源(10
11n/s)を使用した、本発明の1つの実施形態における半球状の中性子照射システム36(
図2、
図3、
図4)のものと比較される。
図5から分かるように、半球状の中性子照射システム(
図5では放射状の源と呼ばれる)は、従来の平面的な中性子照射システム14のものの約20倍の線量率を達成する。平面的な幾何形状は、同じ結果を達成するためには、2×10
12n/sの高速中性子源を必要とする。実際、DD融合発生装置が使用される場合、平面的な源は、ウォールプラグ電力において20倍の増大、または2.0MWという、ひどく大きい電力要件を必要とする。
【0052】
加えて、
図5から分かるように、頭部中央をわたる±5cmの距離上で、半球状の中性子照射システム36は、被ばく量における10%未満の変動を有する。最大治療可能比を維持することが望まれ、および腫瘍が脳にわたって分布されていることがあるGBMの治療には、均一な線量率が極めて重要である。
【0053】
本発明の実施形態における半球状の中性子放射線システム36はまた、脳にわたってより均一な治療可能比(
図6)を与える。この比は、放射状の源についてはより均一であり、平面的な源(
図1)の高速中性子収率の1/20しか必要としない。
【0054】
代替の実施形態においては、他の材料が、半球状の減速材34のために使用され得る。当業者が知っているように、高密度ポリエチレン(HDPE)、重水(D2O)、グラファイト、および7LiFも使用され得る。加えて、材料の組み合わせ(例えば、40%Alおよび60%AlF3)も使用され得る。異なる厚さd1の減速材が、中性子流束を最適化して、最も高い治療可能比を与えるために使用され得る。
【0055】
用語「中性子発生装置または源」は、中性子の発生のための広範なデバイスを網羅することが意図される。最も安価かつ最も小型の発生装置は、水素の同位体(例えば、三重水素および重水素)を、適度の加速エネルギーを使用して一緒に加速することにより、融合することによって中性子を作り出す「融合中性子発生装置」である。これらの融合中性子発生装置は、小型であり、方向づけされた中性子ビームを作り出すことができる線形加速器と比較して比較的安価である。
【0056】
他の実施形態は、円筒状のターゲットにおいて中性子を発生するために使用されるプラズマイオン源の選択に依存する。これらは、(1)ループRFアンテナを使用したRF駆動のプラズマイオン源、(2)マイクロ波駆動の電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマイオン源、(3)RF駆動のらせんアンテナプラズマイオン源、(4)多重カスププラズマイオン源、および(5)ペニングダイオードプラズマイオン源である。すべてのプラズマイオン源は、高速中性子発生のための重水素または三重水素イオンを作成するために使用され得る。
【0057】
肝臓および他のがん部位のための円筒状の照射システム
図7Aおよび
図7Bは、肝臓76などの、患者58の他の器官および部分を照射するために円筒状の幾何形状を使用する本発明の別の実施形態を示す。
図7Aは、円筒状の中性子照射システム62の断面図であり、
図7Bは、同じ実施形態の斜視図である。この実施形態では、8つの高速中性子発生装置68が円筒状の減速材46を囲む。これらの発生装置68はすべて、それらの高速中性子を減速材の表面において放射する。円筒状の高速中性子反射体44は、円筒状の減速材46を囲む。
【0058】
半球状の減速材34の場合のように、円筒状の減速材62は、7LiF、高密度ポリエチレン(HDPE)、および重水など、よく知られている減速材料からなり得る。これらは、患者を囲む円筒状に成形される。中性子捕捉目的のための円筒減速材の最適な厚さは、材料核構造および密度に依存する。
【0059】
この実施形態では、融合中性子発生装置は、高速中性子を供給するために使用される。高速中性子発生装置68は、前と同じようにチタンターゲット52およびイオン源50からなる。チタンターゲットは、円筒状の減速材46と連続的である。イオンビーム60は、チタンターゲット52へのDC高電圧(例えば、100kV)を使用して加速され、このチタンターゲット52において高速中性子がDD融合反応から作り出される。高速中性子は、減速材上のチタンターゲット52から等方的に放射され、一部は高速中性子反射体44へと外に移動し、その他は内向きに移動して、熱外または熱エネルギーへと即時に減速される。反射されたものは、円筒状の減速材46へと戻り、ここでそれらは、熱外および熱エネルギーへ減速されて、最終的に患者58へと向かう。
【0060】
円筒状の中性子照射システム62は、従来の平面的な中性子照射システムと比較して、患者の身体(例えば、肝臓)の一区域の均一な照明を可能にする。脳の場合、身体自体が減速プロセスの部分として作用し、円筒状の減速材46から入ってくる熱外中性子を熱平衡化する。
【0061】
当業者が理解するように、咽喉および頸部腫瘍などの他のがんは、システム36などの半球状の中性子照射システムによって効果的に照射され得る。減速材の厚さおよび材料含有量は、患者に入る中性子の所望のエネルギーを最大限にするように調節され得る。例えば、咽頭および頸部腫瘍の場合、減速材は、身体の表面近くの腫瘍の熱中性子照射を最大限にするために重水素化ポリエチレンまたは重水(D2O)で作製され得る。中性子のより深い貫通のためには、減速材をAlF3で作製して、熱外中性子を作り出す場合がある。これらは、肝臓に到達して、その器官の均一な照明を作り出すのに最適である。
【0062】
セグメント化された減速材
さらに別の実施形態において、セグメント化された減速材を有する高速中性子源は、肝臓または他のがん部位にわたって均一な線量を達成するために個々に移動され得る。この幾何形状は、以前の線形設計の必要とされる高速中性子収率および線間電圧入力電力の、1/10から1/20倍で均一な熱中性子線量を作り出す。これもまた、比較的安全な重水素-重水素(DD)融合反応(放射性三重水素なし)、および中程度の電力(≦100kW)で動作する市販の高電圧電源の使用を可能にする。
【0063】
本発明の実施形態におけるセグメント化された中性子照射システム70は、
図8に示される。各々がくさび形の減速材74を有する10個の高速中性子発生装置68が、患者58を囲む。各減速材の正確な形状は、様々であり得、他の幾何形状のものであってもよい。各発生装置および減速材の対は、肝臓、器官、または身体部分にわたる中性子流束の均一性を達成するために、他のものとは独立して移動され得る。
【0064】
くさび形の減速材74の間には、さらなる減速材料(「フィラー減速材料」72)が挿入されて、大きな単一の減速材を形成する。「フィラー」減速材料72は、AlF3などの重水または動力付き減速材料であり得る。減速材料のパイ形状のフィラーもまた、くさび形の減速材74の間の空間内へ適合され得る。中性子は容易に散乱することから、中性子減速効率の過度の損失なしに、くさび形の減速材74とパイ形状のフィラーとの間には何らかの空間が存在し得る。
【0065】
各高速中性子発生装置68からの中性子収率および各高速中性子発生装置68の位置は、肝臓または身体部分にわたる均一性を達成するために調節され得る。発生装置の位置および中性子収率は、患者の身体内の特定の場所において所望の放射線量を達成するように変更され得る。がんは身体のいかなる部分にも位置し得ることから、この恩恵は、がん部位における線量を最適化するのに特に有用であり得る。
【0066】
高速中性子/減速材システム全体を囲んでいるのは、円筒状の高速中性子反射体44である。高速中性子は、高速中性子発生装置68によって作り出され、減速材74に入り、ここで高速中性子は、減速材原子の核との衝突により弾性散乱され、これが、何回かの衝突後にそれらを熱外エネルギーへと低速化する。他の実施形態と同様に、これらの熱外中性子は、患者58および肝臓76に入り、それらは、熱中性子エネルギーへとさらに減速される。
【0067】
様々な実施形態における本発明は、高速中性子およびガンマ線寄与を最小限にしながら、熱中性子の均一な線量を肝臓、器官、または身体部分に提供する。この性能を打ち出すための必要とされる高速中性子の数(例えば、2×1011n/s)は、ここでも、先行技術の平面的な中性子照射システムに必要とされるもの(例えば、2×1013n/s)と比較して低減される。
【0068】
セグメント化された設計の別の実施形態が
図9に示される。中性子照射システム78の形状は、楕円形であり、内側の楕円形減速材96に埋め込まれた分布したターゲットとして示される6つの高速中性子源を伴う。高速中性子22は、等方的にすべての方向に放射される。外向きに移動するそれらの高速中性子22は、高速中性子反射体44によって反射して戻されるが(矢印48を参照)、内向きに進む高速中性子22は、熱外エネルギーへと減速され、肝臓76に入り、ここで中性子の熱エネルギーへのさらなる減速が生じる。内側の楕円形減速材96、外側の楕円形減速材98、反射体44、および患者の身体58は、熱中性子を減速させ、患者の肝臓76内に集中させるように一緒に作用する。減速材および高速中性子源90、92、94の注意深い位置付けにより、均一な線量が、患者の肝臓にわたって達成され得、ボロン薬剤が腫瘍に投与されることにより、優れた治療可能比が達成され得る。
【0069】
図9における楕円形の中性子照射システム78は、楕円形減速材96の内側の患者58の簡略化した断面図である。この断面図は、患者の胴体および減速材および高速中性子発生装置システムを直接通った放射状切断のものである。視覚的な単純性を維持するため、チタンターゲットのみが示され、イオン源は示されない。したがって、6つの高速中性子源は、3つの平坦なチタンターゲット90、92、94によって代表される。残りの高速中性子発生装置は示されない。他の構成要素(例えば、プラズマイオン源)は、分析において無視される。くさび形の減速材74(
図8で使用される)も
図9には示されない。
【0070】
中性子照射システムの単純なシミュレーションでは、ターゲット90、92、94は、高速中性子源であり、楕円形材料96(例えば、AlF3、LiF)内に配置される。減速材料96、高速中性子反射体44、および患者の身体58の効果は、中性子が中性子照射システムにおいてどれくらい速く熱中性子へ変換されたかを決定するために、モンテカルロN粒子(MCNP5)輸送コードを使用して計算された。
【0071】
被ばく量計算は、肝臓の中心軸に沿って行われた。高速中性子源(チタンターゲット)は、面積が2cm×2cmであり、各々が、10
11/N n/sを作り出し、Nは源の数である。人間の身体58寸法は、主軸に沿って35.5cm、および短軸に沿って22.9cmである。内側の楕円形減速材96は、
7LiFで作製され、10cm厚である一方、外側の減速材98は、AlF
3で作製され、40cm厚である。高速中性子反射体44は、50cm厚の鉛で作製される。ボロン-10濃度は、健康な組織では19.0μg/g、腫瘍では68.3μg/gである。6つの源は、単位cmで、(-15,18.06,0)、(-15,-18.06,0)、(-17,17,0)、(-17,-17,0)、(0,15.85,0)、(0,-15.85,0)に位置する。これらの測定は、点(-15,0,0)から(-5,0,0)まで肝臓76の軸に沿って行われる。x方向において、最初の2つの源90は、
図9に示される肝臓の左端を中心とし、2つの源92は、身体の端を中心とし、第3の2つ94は、原点の上下に位置する。原点は、
図9では小十字+として肝臓の平面において身体の中心に示される。
【0072】
図10は、肝臓の軸に沿った距離に応じてプロットされる、大きい単一の線量についての治療可能比、および多数の小さい線量についての治療可能比(健康な組織への光子線量は含まれない)を示す。光子線量は、被ばく間にいくらかの時間量が存在する場合は無視され得る。身体の健康な細胞の多くは、被ばく間に自己修復および回復することができる。予測される治療可能比は、多数の被ばくへの分割があるとき、これらの2つの曲線の間である。このシミュレーションでは、ここでもBPAが、腫瘍では68.3μg/gm、および健康な組織では19μg/gmでのボロンの濃度で、送達薬剤として使用された。
【0073】
図11は、x次元に沿って約±6%の変動を伴って、腫瘍に対する極めて均一な被ばく量を有するという目標が達成されたことを示す。計算された線量率は、ガンマ放射線療法に使用されるもの、典型的には、合計中性子収率を2×10
11から3×10
11n/sに増大させる場合、1時間当たり1.8から2.0Gy equivalentに匹敵する。したがって、およそ2×10
11から3×10
11n/sで、治療可能比および腫瘍に対する均一な被ばく量を得ることが可能である。30から40分のおよそ10から20回の治療が必要とされ、良好な治療可能比、被ばく量の均一性、および治療間の健康な組織の修復の機会を伴う。
【0074】
繰り返しになるが、平面的な中性子照射システムは、それらを駆動するためには高い高速中性子収率を必要とする。発明者らに知られている1つの先行技術システムにおいては、3×1013n/sの高速中性子源が、~1‐2時間の現実的な治療時間を得るために必要とされる。収率1014n/sを有するD-T中性子源を使用すると、許容できる治療時間が得られた(単一ビームで30から72分、および異なる方向の3つのビームで63から128分)。しかしながら、これらは、現実的なウォールプラグ電力では達成することが不可能な収率である。半球状および円筒状の中性子照射システムのための50から100kWの代わりに、DT発生装置を伴う平面的な幾何形状では、適切な収率を達成するために最低でも0.5MWかかる。これらは、クリニックおよび病院にとっては高電力である。
【0075】
当業者が知っているように、咽喉および頸部腫瘍などの他のがんは、中性子照射システムによって効果的に照射され得る。減速材の厚さおよび材料含有量は、患者に入る中性子の所望のエネルギーを最大限にするように調節され得る。例えば、咽頭および頸部腫瘍では、減速材は、身体の表面近くの腫瘍の熱中性子照射を最大限にするために重水素化ポリエチレンまたは重水(D2O)で作製され得る。中性子のより深い貫通のためには、減速材をAlF3で作製して、熱外中性子を作り出す。これらは、肝臓に到達して、その器官の均一な照明を作り出すのに最適である。
【0076】
モジュール式発生装置
導入
図8および
図9に示されるように、多数のモジュール式発生装置が、減速材料に閉じ込められ得、がん腫瘍の場所において熱中性子流束を最大限にするように配置され得る。高速2.5MeV中性子は、あまりに多くの中性子が、がんへの進行時に健康な組織による捕捉により失われることなくがん部位へ貫通するエネルギー(通常、熱外)へ低速化(減速)されなければならない。これらのモジュール式発生装置は、独立した中性子源として作用し、各々が、それぞれ個々のビームのエネルギー、方向、および強度の調節により最適化され得る。モジュール式発生装置は、ある部位を、特定の被験者の構成要素の場所および構造に適合させるように構成され得る。これは、がん腫瘍の場所にも当てはまる。
【0077】
中性子のエネルギーもまた、減速材料を加えること、または減じることによって調節され得る。これは、中性子源と統合された固定ビーム線を通常有する単一ビームLINACまたは原子炉を用いるよりも容易に行われ得る。先行技術において、何らかの調節が行われ得るが、はるかに小さい本発明の実施形態におけるDD融合発生装置は、方向、強度、および減速においてより多くの自由度を有し得る。これは、医師が中性子放射線を患者のがんに合わせて調整するのを支援するという追加の便益を有する。
【0078】
線形加速器および原子炉との比較
本発明の様々な実施形態におけるモジュール式発生装置はまた、がん照射システムの機械的構造を形成し得、およびその部分であり得る。これは、中性子源をがん部位および病気のある身体部分のできる限り近くに移動させ、中性子源の効率的な使用を結果としてもたらすという追加の便益を有する。中性子は、モジュール式発生装置から4π立体角に放射されているため、がん部位に近いほど、よりいっそうの高速中性子流束が利用されている。線形加速器(LINAC)は、いくらかコリメーションされるが、がん部位から遠く、この利点を提供することができない。
【0079】
数メートル長以上であり得、大きいマイクロ波電源を含み得る線形加速器と比較して、本発明の実施形態におけるDD融合源は、1メートル長未満であり、ソリッドステートのマイクロ波源または小さい安価な単一の電子レンジマグネトロンのいずれかであり得る小型マイクロ波源を備える。本発明の実施形態における加速器構造体は、小型であり、また、中性子ビーム調整の第1の段階を作り出すために5‐10cmの高密度ポリエチレン(HDPE)または15‐20cmのポリテトラフルオロエテン(PTFE)テフロンからのみ追加するプレ減速材118を含む。これらの実施形態におけるプレ減速材は、いくつかの図を参照して以下に教示されるように、各モジュール式発生装置の統合された部分である。代替の実施形態において、AlF3、MgF2、7LiF、およびFluental(商品名)などの他のプレ減速材料が使用され得る。
【0080】
中性子生成のための、より小さく非毒性のあまり複雑でないターゲット
本発明の実施形態におけるモジュール式DD融合発生装置118は、中性子を作り出すために小さいチタンターゲット(例えば、水冷式の銅フィンに支えられた直径5cmのチタンのディスク)を使用する。ターゲットは、モジュール式発生装置と呼ばれる、本出願における装置の統合された部分であるプレ減速材上に直接支持される。従来の技術におけるリニアック(Linac)および他の方法は、複雑な冷却および回転を必要とする、より大きな、または毒性の、ターゲットを使用する。例えば、Neutron Therapeuticsにより使用される中性子源は、2.6MeV静電陽子加速器、および中性子を発生するための回転式の固体リチウムターゲットを有する。その先行技術のプロセスにおいて、リチウムは、放射性および毒性になり、空気にさらされると、それは崩壊する。この先行技術の源は、大型加速器によって作り出される強力な2.8MeV陽子ビーム内で回転される大型Liディスクを収容する大型ターゲットチャンバを有する。リチウム車輪(wheel)は、直径およそ2メートルであり、機械的ロボット工学手段によって除去されるパイ形状の区域に分割されている。本発明の実施形態において、Tiターゲットは、比較的小さい直径(~5cm)であり、典型的には、6‐8つのねじによりプレ減速材ブロックに装着され、Viton「O」リングによりブロックに密閉される。本発明の実施形態におけるTiターゲットは、容易に手動で除去および交換され得る。それらはまた、長い寿命を有し、4000時間以上も故障なしに試験されている。
【0081】
原子炉は、熱い炉心を維持するためにかなりの量の遮蔽(水およびコンクリート)ならびに冷却システムを伴う大型構造体である。炉は、第一に、エネルギー増幅器を使用してエネルギーが上昇されなければならない熱中性子を提供し、次いで中性子ビームは、最小のガンマ放射線を有する熱外中性子を作り出すためにIAEA基準へ向上されなければならない。
【0082】
健康な組織への貫通および最小の損傷のために中性子エネルギーを最適化すること
3cm以上の、被験者における深さにある腫瘍の場合、減速材の目標は、人間のターゲット内へ最低でも数センチメートル貫通するのに十分なエネルギーを提供すると同時に人間の組織により損害を与えるより高いエネルギーを回避するために、エネルギーを皮膚において約10keVにクラスタさせる中性子ビームを提供することである。熱外エネルギーへの高変換は、HDPE内でおよそ5cmの厚さにおいて生じるが、それはまた、高収率の熱中性子、および健康な組織を皮膚のところで損傷することができる2.2MeVガンマ線を作り出す。
【0083】
モジュール式発生装置
本発明の実施形態において、モジュール式発生装置は、非常に重要な構成要素である。モジュール式発生装置は、先行技術においては別個の機能であった多数の機能を組み合わせる。これらの統合された機能は、中性子生成およびビーム調整の両方を含む。
図12Aは、本発明の実施形態における個々のモジュール式発生装置118の斜視図である。
【0084】
図12Bは、イオンビーム発生および格納のための加速チャンバ100の軸に沿って取られた、およびモジュール式発生装置118の部分であるターボ真空ポンプ124の軸に対して直角の、
図12Aのモジュール式発生装置118の断面である。
図12Cは、加速チャンバ100の軸に沿って、およびターボ真空ポンプ124の軸に沿って取られた、
図12Bの断面に対して直角の、
図12Aのモジュール式発生装置118の断面である。各モジュール式発生装置118は、他のモジュール式発生装置とは独立して動作することができ、各々が、中性子を発生するためのすべての必要な構成要素を保有する。さらに、様々なモジュール式発生装置は、以下の可能な詳細に説明されるような隣接する発生装置またはスペーシング減速材など、プロジェクトの他の構築ブロックに係合するように成形されるプレ減速材を有し得る。
【0085】
図12A、
図12B、および
図12Cに見られるように、各モジュール式発生装置118は、エネルギーのある中性子のエネルギーを減速させることで知られている材料で作製されるプレ減速材108を備える。大半の実施形態において、プレ減速材は、特定の目的のためにかなり複雑な形状を伴う、材料の固体ブロックである。モジュール式発生装置118は、3つの重要な要素:(1)重水素イオン源102、(2)加速チャンバ100であって、これを通じて重水素イオンが加速され得る、加速チャンバ100、および(3)重水素イオンによって衝撃を与えられて高エネルギー中性子を作り出すチタンターゲット106(
図12Bおよび
図12Cに示される)を有する。重水素イオン源102は、ケーブル178によって接続される、装着されたマイクロ波源160、およびマイクロ波スラグ同調器172を有する。重水素ガスは、加速チャンバの上端においてプラズマイオンチャンバ174内へゆっくりと漏出し、ここでマイクロ波エネルギーがガスをイオン化し、重水素D+イオンを作成する。
【0086】
ガスは、マイクロ波エネルギーによってイオン化され、重水素(D+)イオンが作成され、イオン引き出しアイリス138を通って出て加速チャンバ100内へ、および電子抑制シュラウド180を通って加速され、この電子抑制シュラウド180は、逆流電子がプラズマ源内へ戻るように加速され、これにより装置に損傷を与え得ることがないようにする。電子は、加速チャンバ内に作成されている重水素ガス内のD+イオンの衝突によって作成されている。
【0087】
重水素イオンは、正に帯電され、ターゲット106は、120kVから220kVのレベルまで負に帯電され、D+イオンは、負にバイアスされたターゲット106に強力に引き付けられる。加速チャンバ100は、約10-6トールの1つの実施形態において中程度の真空を提供するターボ真空ポンプ124に接続され、D+イオンの散乱を、それらが引き出しアイリス138からターゲット106へ進む際に最小限にする。チタンターゲット106は、プレ減速材108の、UHMW、HDPE、またはテフロンであり得るプレ減速材料内に埋め込まれたチャンバの底において、一次(primary)電気絶縁ウェル181内に位置付けられる。一次電気絶縁ウェルを囲む二次(secondary)電気絶縁ウェル182がさらに存在する。一次および二次電気絶縁ウェル内の減速材料の表面は、いかなる表面電荷も任意の方向をとる湾曲経路をたどらせる波型の絶縁体として見られ得る。目的は、電子がターゲットから加速チャンバ100壁または任意の接地要素へ進むことを防ぐため、およびその表面経路内での表面電気破壊またはフラッシュオーバを回避するために、非常に長い表面経路を提供することである。当業者が知っているように、ウェルは、電気絶縁経路を形成する。追加の波形またはウェルが、経路を長くするために追加され得る。
【0088】
プレ減速材108は、ターゲットへおよびターゲットからの高電圧バスバー122および流体冷却チャネル120を有する。高電圧は、高電圧バスバーに接続される高電圧レセプタクル130を介して導入される。プレ減速材108は、HV絶縁体として、および高い負バイアスにおけるターゲット106のための機械的支持として作用する。プレ減速材108は、プレ減速材プラスチックを通じた高電圧破壊を最小限にするために、接地電位にある金属クラッディング140を有する。動作中、イオンビーム内のD+イオンは、チタンターゲット106に引き付けられ、ここで高速(2.5MeV)中性子が、結果として生じるDD融合反応において作り出される。
【0089】
図13Aは、6つのモジュール式発生装置118のアセンブリを例証しており、プレ減速材108は、同様に減速材料で作製されるスペーサ128によって離間される。
図13Bは、
図13Aの構成を斜視図で示す。
図13Cは、1つのモジュール式発生装置118がアセンブリから除去された、
図13Bの構成を示す。
図13Dは、モジュール式発生装置が、がん部位の最大照射に位置付けられるように並進および回転機構に搭載され得る構成を示すより図式的な例証である。
図13A-
図13Dに示されるように、本発明の実施形態におけるモジュール式発生装置は、プレ減速材を伴う照射中性子源の完全な移動可動なシステムを形成するようにアレイで構成され得る。例えば、
図13A-
図13Cに示されるように、アレイの最も単純な構成において、モジュール式発生装置は、人間の胴体または身体部分の周りに円を形成し得る。モジュール式発生装置は、
図13Dでは人間の脳として例証される身体部分146を中心としない場合があるがん部位148への中性子流束を最大限にするために、被験者の周りの3次元アレイ内へ移動され得る。したがって、身体の外形、形状、およびサイズ、ならびにがんの場所および分布に応じて、モジュール式発生装置は、がんへの線量を最大限にし、他の身体部分への線量を最小限にするために、形状および腫瘍位置に適合するように移動され得る。
図13Dを参照すると、モジュール式発生装置118の回転150および並進151は、モジュール式発生装置118に装着される電気モータにより達成され得る。
【0090】
プレ減速材の7つの機能
チタンターゲットがプレ減速材上にあるため(減速の第1の段階)、ターゲットから入ってくる高速中性子は、プレ減速材に直ちに入り、熱または熱外エネルギーへ素早く減速される。プレ減速材はまた、機械的支持、高電圧供給、およびチタンターゲットへの冷却流体輸送を提供する。これを達成し得る例示的なプレ減速材料は、テフロンおよびHDPEである。テフロンおよびHDPEの両方は、
図12Cに示されるように、HVおよび冷却流体をTiターゲットへ輸送するために使用されるべきHVバスバー122および水チャネル120も支持することができる優れた高電圧誘電体である。
図12A、
図12B、
図12Cに示されるように、単一の発生装置118は、加速チャンバ100、重水素イオンを放射するイオン源102、チタンターゲット106、およびプレ減速材108からなる。プレ減速材108はまた、高電圧(例えば、80kVから300kV))をチタンターゲット106に送達する高電圧バスバー122のための高電圧絶縁体、および冷却流体をチタンターゲット106に送達する水チャネル120であるという機能を提供する。高電圧は、高電圧電源から標準HVレセプタクル130を通ってバスバー122へ、次いでチタンターゲット106へ送達され、これらのすべてがプレ減速材108に搭載される。
【0091】
本発明の様々な実施形態において、プレ減速材108は、7つの機能:(1)減速、(2)チタンターゲットの機械的支持、(3)ターゲットへの冷却流体輸送、(4)ターゲットへの高電圧輸送、(5)最小限の表面フラッシュオーバ、(6)および高真空容器(壁)の一部分を、ガス放出なし(7)で実施する。これらの7つの属性は、高速中性子源と患者との間の距離および材料の量のかなりの低減を可能にし、患者に送達される最大限の中性子流束を維持するのを助ける。
【0092】
被験者の周りのモジュール式発生装置
図13A-
図13Dは、発生装置がどのように構成され得るかを示す。
図13Aでは、6つのモジュール式発生装置118は、二次減速材112の周りに環を形成し、二次減速材112、スペーサ128、およびプレ減速材108によって形成される構造体の部分である。プレ減速材108および二次減速材112は、中性子を熱外エネルギーへと低速化することによって減速機能を提供する(機能#1)。これらの要素はまた、発生装置および減速材システム全体のための機械的支持を提供する(機能#2)。
【0093】
二次減速材112はまた、プレ減速材の直後にモジュール式発生装置に直接装着される別個の区域であり得、各々が、
図13Aにあるように環112である代わりに、他とは別個である。
【0094】
図12B-
図12Cに示されるように、流体輸送(機能#3)は、許容可能な動作温度にターゲットを維持するために冷却流体をターゲット106に送達するチャネル120を通じて供給される。各発生装置には、別個の冷却流体入力および出力が備わっており、冷却流体は、
図12A-
図12Cに示されるコネクタ132を通じて提供される。このように、プレ減速材は、流体輸送を提供する(機能#4)。高電圧は、プレ減速材108を通過する高電圧バス122を介して送達される(機能4、高電圧輸送)。HDPE、UHMW、およびテフロンは、優れた絶縁体であり、高電圧フラッシュオーバに耐える(機能#6)。3つすべてが、過剰なガス放出なしに真空システムにおいて使用され得、システムの真空を維持することを助け得る(機能#7)。これらの7つの機能の達成が、非常に小型かつ柔軟な中性子源を提供する。
【0095】
二次減速材
二次減速材112(
図13A-
図13C)は、がん部位への最大線量のために最大流束および中性子エネルギーの両方を最適化する多数の減速材料のうちの任意の1つ、またはそれらの組み合わせを備え得る。選択(材料、サイズ、および形状)は、被験者におけるがんの深さおよびがん部位における所望の線量に応じて様々であり得る。二次減速材は、例えば咽頭および頸部がんへの熱中性子の送達の場合はD
2O(重水)、または脳腫瘍への熱外中性子の送達の場合はAlF
3およびテフロンの組み合わせであり得る。IAEAによる高速の熱およびガンマ放射の推奨レベルは表1に与えられる。
【0096】
【0097】
これらのIAEA推奨値は、他の医療用途のために食品医薬品局(FDA)によって人間における使用が認可されているp-ボロノフェニルアラニン(BPA)などの従来の薬に依存する。がん部位へのより高いボロン濃度の送達は、開発される予定の新薬にある程度依存し得、より低いパワーの、あまり効率的ではない中性子ビームが使用されることを可能にし得る。治療時間もより高速になり得ることから、中性子ビーム品質もそれほど高い必要はない。本発明の実施形態におけるDD融合発生装置は、比較的低いビーム流束を有し、したがって、それらががん療法のために使用されることを可能にする。
【0098】
いくつかの実施形態において、多数のモジュール式発生装置は、治療のための被験者を保持する中央チャンバを囲む二次減速材の周りに分布され得、完全に統合されたマルチイオンビームシステムの代替を提供し、いくつかの環境においては特定の便益を有し得る。便益は、(1)故障し、修理の必要のある、単一の発生装置を素早く交換する能力、ならびに(2)発生装置の、互いに対する、減速材に対する、および被験者に対する整列(alignment)を変更する能力を含み得る。被験者に関して、発生装置の整列は、がん部位における中性子の線量分布および密度を最適化し得ると同時に、装置の外側または被験者の健康な組織内へ放射され得るガンマ線などのスプリアス放射を最小限にする。
【0099】
先行技術において、原子炉および加速器中性子源が使用される場合、国際原子力機関(IAEA)のための2001年に開発されたBNCTのためのIAEA基準を満たすために、高品質中性子ビームの達成に対して細心の注意が払われていた(Current Status of Neutron Capture Therapy(2001)IAEA-TECDOC-1223。本発明の実施形態において、多数のモジュール式DD融合発生装置が使用される場合、これらの基準は緩和され得る。IAEA仕様は、すべてのがんおよび身体の場所のために使用される単一の中性子ビームが存在すると仮定する。これは、3つの中性子エネルギー(熱、熱外、および高速中性子)のための標準値を結果としてもたらす。減速材および中性子スペクトルシフタは、次いで、入力仕様として特定の高速中性子源のためのこれらの値を達成するように設計される。これは、利用可能な高速中性子を経済的に使用することができず、それで、それらの一部を、IAEAの普遍的なスペックを達成するために無駄にし得る先行技術における設計を結果としてもたらす。本発明の実施形態におけるDD融合源などの発生装置では、早期の計算は、単一のDD融合発生装置が、減速プロセスへの必要とされる高速中性子入力を達成する難しさを有することを示している。そのため、本発明の実施形態において、多数の発生装置の使用は、身体の1つの場所にビームが入るようにする代わりに、利用可能な総高速中性子収率を増大させ、減速された線量が身体のより広いエリア上で分布されることを可能にする。例えば、
図13Dに示されるように、中性子nは、多くの方向から頭部に入っている。これは、がん部位への適切な熱外流束を依然として達成しながら、頭部の皮膚上の任意の1つの点における熱中性子流束の低減を可能にする。早期の先行技術の原子炉BNCT実験において、熱中性子流束は、被験者の皮膚をやけどさせた。
【0100】
特定のがんに使用される中性子について検討するとき、最大流束をがん部位に向けることが望ましく、したがって、治療されることになる特定のがんについて検討しなければならない。これは、人間の身体の場所および深さを含む。それらの比較的小さいサイズおよび大きい中性子収率が理由で、本発明の実施形態におけるモジュール式発生装置は、特に、がん部位におけるそれらの流束を最大限にするように位置付けられることによりこれを達成することができる。
【0101】
本発明の実施形態において、発生装置は、がん部位における流束を最大限にするために患者の身体のできるだけ近くに置かれるため、より全体論的な問題が存在する。各モジュール式発生装置のための多数のパラメータが存在する:(例えば、中性子流束、中性子エネルギー、身体に対する位置)。単一の中性子ビームパイプから出るもの(1998 IAEA基準、表1)だけが検討すべき唯一のものではない。身体部分は今や、本発明の新規の実施形態において、すべての方向に照射され得、中性子強度は、単一のビームLINACまたは原子炉を用いたものよりも良好な流束およびさらにより最適な中性子エネルギーを達成するために、各モジュール式発生装置において調節され得る。各中性子ビームの方向は、各モジュール式発生装置118を回転および変位させることによって調節され得る。各モジュール式発生装置の収率は、加速器電圧およびイオンビーム電流を変化させることによって電子的に調節され得る。減速材サイズは、先行技術と比較して比較的小さく小型であるため、各モジュール式発生装置118の中性子スペクトルは、異なる減速材料および厚さの選択によって調節され得る。
【0102】
必要なビーム品質を下げること
本発明の実施形態において、被験者の身体は、多数の方向から中性子により衝撃を与えられる。中性子は、身体部分のすべての側から来ることができ、このことは、各ビームが横断しなければならない距離の量を最小限にする。皮膚にぶつかる望ましくない中性子は、今や、より大きいエリア上で分布され、単位面積あたりの有害成分(例えば、ガンマ線、ならびに熱および高速中性子)の皮膚線量を低減する。これらの成分は、単純に、皮膚のより大きいエリア上で送達される。これは、単一ビームにより達成されるものよりも高くなるが、皮膚のより大きいエリア上の有害成分の低減を伴う、がん部位における線量の調節を可能にする。
【0103】
先行技術における単一ビームの場合、露出ごとに患者を回転させることができると論じる可能性があるが、生じ得る患者の動きに起因して、中性子は、本発明のマルチビーム実施形態ほどは正確に置かれない。配置のたびに、患者は、単一中性子ビームに対して注意深く再配向されなければならず、これは、患者の注意深い配置を必要とする。
【0104】
本発明の実施形態において、多数のビーム方向、および各モジュール式発生装置の中性子流束を調節する能力は、有害成分を低減しながら、がん部位への最適な送達を可能にする。例えば、がんが脳の左葉に位置する場合、腫瘍への中性子流束は、その腫瘍の方向に熱外中性子を送達するように調節され得る。各モジュール式発生装置中性子流束は、加速器の高電圧またはイオンビーム電流を変化させることによって、ならびに並進および回転によって、素早く調節され得るため、これは、コンピュータプログラムによって決定される送達によって容易に行われ得る。本発明において、制御コンピュータは、イオンビーム電流、加速電圧、および出力中性子収率をモニタし、これらは自動的に調節され得る。
【0105】
本発明の実施形態における小さいモジュール式発生装置は、がん部位へのより高い濃度のボロンのための新規のボロン薬送達方法を利用することができる。より高い濃度のボロンは、必要とされる中性子線量を下げ、より短い送達時間を必要とする。がん部位へのより高いボロン濃度は、本発明の実施形態におけるモジュール式DD融合発生装置など、より低い中性子収率を有する中性子発生装置の使用を可能にする。
【0106】
各モジュール式発生装置118は、他の発生装置とは独立して中性子を作り出すことができる独立したデバイスである。これは、全ての利用可能なパワーPがN個の発生装置上で分布されることを可能にし、熱負荷が、例えばチタンターゲットに損傷を与えることなく(リチウムを使用した単一のターゲットデバイスとは異なり)安全に分布されることを結果としてもたらす。単位面積当たりの中性子の数が単位ターゲット面積当たりのイオンビーム出力により固定されるため、1つの例では、6つのモジュール式発生装置が存在し、チタンターゲット当たりの合計熱負荷を分布させる。
【0107】
被験者における腫瘍を適切に治療するためには、大量の中性子が必要とされる。温度管理および安定性の理由のため、DD融合発生装置は、現在のところ、4×10
10n/秒未満の高速中性子収率に制限される。中性子収率を増大させるため、中性子発生装置の数は、本発明の実施形態において、増大され得る。プレ減速材108は、より多くのモジュール式発生装置が治療されるべき被験者の周りに適合され得るように成形され得る。
図13Aによって示される例では、共通の二次減速材112、被験者キャビティ116、および被験者134の周りに等しく離間して配置される6つの発生装置が存在する。プレ減速材108のものと同じであり得る減速材料(例えば、テフロンまたはポリエチレン)からなるスペーシングブロック128は、被験者キャビティ118に適合するための適切な間隔を提供するように各プレ減速材間に置かれる。
図13A内のプレ減速材における
図12Aに示されるようなくさび角度αは、患者の周りの円に適合することができるプレ減速材108を有するモジュール118の数、および表面が患者にどれくらい近づき得るかを決定する。例えば、6つの発生装置の場合くさび角度α=30°、および8つの発生装置の場合α=22.5°である。
【0108】
流体減速材を有する移動可能な源
モジュール式発生装置のシステムの1つの実施形態が
図13Aおよび
図13Bに示される。
図13Aにおいて、円筒(または環)内に適合する6つのモジュール式中性子発生装置118の平面図が示される。
図13Bでは、斜視図が示される。モジュール式発生装置はまた、被験者の身体内の特定の場所において線量を最大限にし、選択した身体器官にがん療法を送達するために、他のパターンで構成され得る。本発明のいくつかの実施形態において、モジュール式発生装置は、最適化された場所へ電気モータおよび機械的手段によって移動されて、ボロン生体内分布テスト生検および病態解析、陽電子放射型コンピュータ断層撮影法(PET-CT)、コンピュータ断層撮影法(CT)、または磁気共鳴画像法(MRI)によって決定されるようながん部位および腫瘍プロファイルへ最大線量を提供し得る。
【0109】
移動可能なモジュール式発生装置の間に減速材料を利用することができる。臨床システムの場合、モジュール式発生装置の間に減速材料が存在しなければならない。理想的には、材料は、モジュール式発生装置の新規の場所へと素早く位置を定めることができ、また減速材料であり得る。
図13Dに示されるように、液体減速材156は、モジュール式発生装置118を囲むために使用され得、二次減速材として作用する。減速材料は、移動可能なモジュール式発生装置の間に示される。液体は、適切な液体容器に含まれる。良好な減速特性も有する液体が使用され得、移動するときにモジュール式発生装置によって容易に変位される。例えば、非導電性の熱的および化学的に安定した流体である、異なる等級の3M(TM)Fluorinert(TM)電子液体(例えば、FC-40)が、発生装置の間に挿入され得る。テフロンのように、それは、それを優れた減速材にしているフッ素原子を主として含み、水素は含まない。
【0110】
減速の段階
本発明の実施形態における多数のモジュール式発生装置の使用は、減速材料の効率的な使用、減速材および遮蔽材料のサイズの低減、ならびにしたがって、システム全体のサイズの低減を可能にする。それはまた、中性子源を患者の近くに持ってきて、限られた数の中性子をより効率的な方式でがん部位に向けることによって、高速中性子の必要とされる流束密度を低減する。被験者の身体もまた、減速プロセスの方程式の部分となる。中性子が多数の方向から来るということは、局所的な皮膚線量および健康な組織の局所化された身体線量を低減させる。1つの場所において身体内へ来るよりも、中性子は、身体の周りおよそ360度から来る。
【0111】
本発明の実施形態における高速中性子の減速は、3ステッププロセスである。第1のステップ(1)において、プレ減速材108は、最小量のガンマ放射線がプロセスにおいて作り出され、できるだけ短い距離で高速中性子のエネルギーを低減するように作用する。プレ減速材はまた、(2)高電圧および(3)冷却流体を高速中性子生成チタンターゲット106に輸送するための媒体としての役割を果たす。これらの3つの機能((1)減速、(2)流体輸送、および(3)高電圧輸送)を組み合わせることが、高速中性子源と患者との間の距離および材料の量を低減し、最終的に患者に送達される最大中性子流束を維持することを助ける。部分的に低速化された中性子は、次いで、二次減速材112へと移行することができ、この二次減速材112が、例えば水素からのガンマ線の過度の発生なしに低速化プロセスを継続する。小動物モデルの場合、選択された減速材は、重水(D2O)であり得る。中性子エネルギー低減は、水素からなる材料が使用された場合に生じる~2.2MeVガンマ線の発生なしにD2Oによって継続される。
【0112】
人間の身体における3cmを超える深さの腫瘍を照射する場合、中性子は、熱外中性子エネルギーへ減速される必要がある。人間の身体もまた、部分的な最終減速材として作用する。したがって、熱外エネルギー中性子は、それらが身体を移動する際にさらに低速化され、最終的には、腫瘍部位において熱エネルギーへと低速化される。当業者は、減速が、中性子エネルギーの変動または広がりを伴う、中性子エネルギーを低減する統計上のランダムなプロセスであることを理解するだろう。本プロセスはまた、健康な細胞に損傷を与える望ましくないガンマ線成分(例えば、中性子の水素捕捉からの2.2MeVガンマ線)を結果としてもたらし得る。本発明の実施形態において、減速材料の選択は、(1)皮膚における過剰な熱エネルギー成分、(2)減速材料の費用および可用性、ならびに(3)有害なガンマ線成分を低減しながら、がん部位への最大貫通を達成するために、身体の皮膚における中性子の所望のエネルギーに少なくとも部分的に依存する。各発生装置のエネルギー、収率、方向、および減速は、減速材料、発生装置の電圧、および加速電流から決定され得る。先行技術とは異なり、減速材の寸法、および含有量は、素早く変更され得る。本発明のいくつかの実施形態において、液体減速材(例えば、Fluorinert FC40)または粒状の(例えば、AlF3)減速材が使用され得る。モジュール式発生装置は、液体または粒状の減速材料内に位置付けられ、そこでそれらは、機械的手段により、異なるがん部位の間で素早く自由に移動することができる。先行技術において、減速材およびシールドは、大きく、大規模で、通常は単一のビーム原子炉または線形加速器に対して固定される。患者は、通常、固定された中性子源に対して移動される。
【0113】
液体または粒状の減速材料を使用することが、熱および高速中性子を最小限にしながら熱外エネルギーへの高速中性子のより効率的な低減を可能にする。プレ減速材料の選択は、最適な中性子ビーム品質にとって重要である。一般的に言えば、ビーム品質は、がん部位における熱中性子の生成を伴う放射線の有害成分の最小化だけでなく、皮膚表面における高速および熱中性子の最小化にも関与する。このプロセスにおいて、ガンマ線が作り出され、がん部位に応じて、高速中性子は、それらが身体を貫通し、健康な組織の最小照射を伴って熱中性子を腫瘍部位に送達するように、正しいエネルギーへ変換されなければならない。
【0114】
中性子を熱エネルギーへ減速させることは、皮膚が損傷されることを結果としてもたらし得る。実際、皮膚への熱中性子線量は、腫瘍への線量よりも大きい場合がある。中性子が身体を通過する際、身体自体が、中性子を減速させ、吸収する。減速材料の選択は、高速中性子を熱エネルギーへあまりに素早く減速させすぎない材料を必要とする。熱中性子は、皮膚に損傷を与え得、水素原子が減速プロセスに存在する場合、損傷を与えるガンマ線も作り出される。減速材のように、人間の身体もまた、中性子を減速させ、吸収する。所望の必要とされる貫通深さは、身体内の腫瘍の場所に依存する。シミュレーションは、皮膚で始まる熱中性子の貫通が、大部分の中性子が吸収される前に、3から5cmの貫通深さを結果としてもたらすことを示す。
【0115】
臨床機械のためのテフロン減速材
プレ減速材として使用されるとき、テフロン(PTFE)は、上に列挙された7つの機能のうちの6つを満足することができる。実際、属性のうちのいくつかにおいては、テフロンが秀でる。例えば、テフロンは、原子の水素を有さないため、ガンマ線生成が回避されるが、HDPEの使用は、水素を有し、したがって、2.2MeVガンマ線成分が追加されそれらを伴って、熱中性子減速を最大限にする。プレ減速材料としてのHDPEの選択は、Tiターゲットから短い距離において熱中性子の生成を結果としてもたらす一方、テフロンの使用は、身体内へのより深い貫通のための熱外中性子の生成生および2.2MeVガンマ線なしを可能にする、2.5MeVからのより遅い速度の中性子エネルギー低減を結果としてもたらす。
【0116】
テフロンは、表面アーク(フラッシュオーバまたは表面放電)が高電圧を一瞬ショートさせる最小限の高電圧を有し得、テフロン表面に対する損傷およびおそらくは高電圧電源に対する損傷を引き起こし得る。これは、主に材料問題であり、構造的な問題(加速器の形状ならびにテフロン形状および構造)ではない。高電圧デバイス内の真空における固体絶縁体に沿った表面放電は、陽極と陰極との間の最大電圧を決定する。真空における固体絶縁体の電圧ホールドオフ能力は、通常、同様の寸法の真空ギャップのものよりも小さい。O.Yamamotoら(Yamamoto,O;Takuma,T;Fukuda,M;Nagata,S;Sonoda,T“Improving withstand voltage by roughening the surface of an insulating spacer used in vacuum,”IEEE TRANSACTIONS ON DIELECTRICS AND ELECTRICAL INSULATION(2003)、10(4):550-556)は、テフロン、PMMA、およびSiO2などの誘電体の表面絶縁強度を、誘電体の表面を粗くすることによって改善するための単純で信頼性の高い方法について研究した。いくつかの実験結果は、真空において、絶縁スペーサの表面に沿った帯電がフラッシュオーバに先行することを明らかにした。帯電は、電子が、陰極、絶縁体、および真空が出会うトリプルジャンクションから放出され、陽極に向かって伝播し、絶縁体表面に沿って二次電子放出なだれ(SEEA)を引き起こすプロセスを通じて起こる。誘電体(例えば、テフロンまたはHDPE)は、バッテリまたはコンデンサのように電荷を保持し、次いでそれを表面に沿って放出することができる。これは、中性子発生装置の加速チャンバ100の真空チャンバの内側の絶縁体および減速材としてのテフロンおよびHDPEなどのプラスチックの使用を制限する。
【0117】
テフロンにわたる短い距離(10mm)について、Yamamotoは、表面を粗くすること(例えば、紙やすりまたはサンドブラスティングにより)が様々なプラスチック(テフロンおよびHDPEなど)の帯電に影響を及ぼし、これは粗さが増大するにつれて減少する、ということを発見した。Yamamotoは、最大37.8μmの粗さを使用したが、より低い電圧勾配およびより小さい誘電体厚さ(10mm)を使用していた。本発明の実施形態における研究は、テフロンのより大きい表面(例えば、距離8インチ)が、5ミクロン以上の粗さ値(roughness value)で粗くされ、フラッシュオーバなしに~2cmより大きい距離について150‐220kVの高電圧を達成し得ることを見出している。
【0118】
より重要なことには、粗くする方法は、以前に使用されていた時間のかかる調整なしにより高い絶縁強度を与える。これは、著しい利点を提供し、本発明の実施形態における発生装置をより素早く動作可能にする。
【0119】
必要とされる最大電界強度に応じて、粗くするプロセスによる調整は、数分または数日かかり得る。1MVm-1未満では、調整プロセスは比較的高速である。1から10MVm-1の間では、調整プロセスはより長くかかる。調整がどう進んでいるかをモニタする最良の方法は、時間当たりの過渡的な放電(またはスパーク)の数を記録することである。非常に高い電界では、アークレートは、時間当たり数アークより良くなることがない場合がある。許容アークレートは、用途に依存する。高電圧破壊(アーク)を許容することができない場合、システムは、まず、より高い電界へ調整されなければならず、次いで電圧が動作レベルまで低減されるとき、アークレートはほぼゼロまで降下する。10MVm-1を上回る非常に高い電界強度の場合、ゼロのアークレートを与えるように電極を調整することは非常に困難である。電極形状および材料組成は、これらの電界レベルにおいて非常に重要になる。
【0120】
減速プロセスにおける人間の身体の重要性
人間の身体は、がん部位において熱外中性子を熱エネルギーへ低減させるための減速材として作用する。人間の身体による中性子エネルギー低減の量は、身体内の腫瘍の深さに少なくとも部分的に依存する。これが、患者への送達のための最大中性子流束を決定する。中性子のエネルギーの所望の低減は、人間の身体内の腫瘍の深さに依存する。例えば、咽頭および頸部がんでは、熱エネルギーへの中性子エネルギーの低減が、がん部位への最大線量のために望ましい。小動物モデルの場合、熱エネルギーも望ましい。
【0121】
皮膚(表皮)からがん部位までの身体内の寸法は、様々であり得、依然として主に熱エネルギーにありながら、がんへの貫通のために中性子エネルギーが十分に大きいことを必要とし、ボロンによる捕捉およびがん細胞の破壊を可能にする。小動物モデルまたは人間における皮膚がんの場合、中性子は、熱エネルギーにあり得る。身体内のより深い深さにあるがんの場合、熱外中性子(0.025から0.4eV)が使用され得る。
【0122】
例えば膵臓腫瘍など、胴体内の深い腫瘍の場合、熱外中性子が必要とされる。膵臓腫瘍は、胴体内深くにあり、腫瘍まで貫通するためには身体への入り口において熱外中性子を必要とする。熱外中性子の減速は、それらが身体を通過する際に生じる。様々な実施形態におけるシミュレーションは、身体を貫通する熱外中性子を作り出し、それらが最大中性子流束で腫瘍の深さに到達するときまでに熱化する、テフロン、7LiF、およびAlF3など、正しい厚さの材料が存在することを示す。本発明の実施形態において、これは、皮膚における熱中性子の生成を最小限にしながら生じる。
【0123】
人間の身体に一致するための臨床機械の形状
機械内の患者用チャンバの形状は、がん部位への放射線を最大限にするために人間の身体部分に適合するように輪郭形成され得る。形状は、照射されることになる身体部分および腫瘍の場所に依存する。
図13Dに示されるように、グリア芽腫148(脳がん)の場合、モジュール式発生装置118は、頭部146の周りの閉じた環内に構成され、これが、脳内のがん部位148への中性子流束を最大限にし得る。各発生装置の強度は、健康な組織への線量を最小限にしながら、腫瘍への最大熱中性子を達成するために様々であり得る。上で論じたように、本発明の実施形態における応用は、がん部位からの各発生装置の距離の制御を可能にする。がん部位は、放射線手段(CTスキャン)および/またはMRIを使用してマッピングされ得る。次いで、治療計画プロトコルが臨床中性子源の最適な使用のために決定され得る。それで、各中性子発生装置から来る中性子の強度は、様々であり得、それぞれ個々の発生装置の場所は、最適化され得る。
【0124】
図13Dに示されるように、モジュール式発生装置を囲む減速材の改善は、水素(ガンマ線生成源)を含まないがフッ素、炭素、または窒素のような中くらいの原子番号の原子を有する液体156を伴い、モジュール式発生装置を吊るす、または囲むことである。様々な種類のFluorinert(商品名)、FC-70もしくはFC-40、またはFC3839が使用され得る。流体は、モジュール式発生装置の間に置かれ得、機械的手段によって、各モジュール式発生装置は、ある程度まで他の発生装置とは独立して移動することができる。この流体はまた、モジュール式発生装置からいくらかの熱を吸収することができる。
【0125】
図13Dに示されるように、モジュール式発生装置を囲む減速材の改善は、水素(ガンマ線生成源)を含まないがフッ素、炭素、または窒素のような中くらいの原子番号の原子を有する液体156により、モジュール式発生装置を吊るす、または囲むことである。様々な種類のFluorinert(商品名)、FC-70もしくはFC-40、またはFC3839が使用され得る。流体は、モジュール式発生装置の間に置かれ得、機械的手段によって、各モジュール式発生装置は、ある程度まで他の発生装置とは独立して移動することができる。この流体はまた、モジュール式発生装置からいくらかの熱を吸収することができる。
【0126】
発生装置整列
本発明の実施形態において、
図13Dに見られるように、各スタンドアローン発生装置は、例えば、がん部位において最大流束および中性子分布を与えるように位置付けられ、整列され得る。各発生装置は、がんの場所および分布に応じて、がん部位における最適な中性子流束が達成されるように、発生装置が機械的に移動され、位置付けられ得るのに十分にサイズおよび重量が小さい。発生装置は、半径厚さが最大熱中性子流束をがん部位に送達するように最適化される減速材の周りに構成され得る。照射されている身体部分に応じて、幾何形状は、円形または楕円形であり得る。減速材料および半径厚さを選択することにより、熱中性子をがん部位に送達することができる。
【0127】
図14Aは、人間の頭部のBNCTのために多数のモジュール式発生装置118を使用する例示的な臨床中性子源の軸上図を示す。この例は、8つのモジュール式発生装置118、および反射および遮蔽材料(例えば、グラファイト144)と結合された色々な減速材料を使用する。二次減速材(166および170)は、1つ多数以上の材料からなり得る。1つの実施形態においては、二次減速材と同じ材料、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW)、または(PTFE(テフロン))からなる減速材スペーシングブロック128が存在する。これらの材料のブロックは、モジュール式発生装置の間に適合し、各発生装置のプレ減速材に隣接する。それらは、機械的スペーサならびに減速材構成要素として作用する。モジュール式発生装置118の間および後ろの、この領域の外側は、中性子反射体およびシールドとしての役割を果たすために、グラファイトまたは鉛144のいずれかを充填される。
【0128】
図14Bはまた、上部および下部の発生装置を通る線に沿って取られた
図14Aの装置の測断面図を示す。追加の減速材料が、プレ減速材の少し上に延在して、モジュール式発生装置の前後に存在する。本発明の例では、患者の頭部のために利用可能な円筒状の空間164は、深さ52cmおよび直径30cmである。この空間には、患者の皮膚への大きすぎる熱中性子線量を遮断するために1‐mmのカドミニウム162が敷かれ得る。シールド162も
図14Aに示される。他の実施形態において、この空間には、
6LiFが敷かれ得る。
【0129】
図14Aおよび
図14Bに例証されるような例示的な構成は、40%Alおよび60%AlF
3(166)の多数の層、ならびに
7LiFまたはD
2Oのいずれかの追加の減速シリンダ170からなる二次減速材を有する。これらの材料は、
図14A内では同心円状の環となるように示される。
7LiFまたはD
2Oは高価であり得るため、厚さは、
7LIFまたはD
2Oのいずれかを過剰に使用することなく所望の中性子ビーム品質を得るために変えられた。
図14Aおよび
図14Bに示される例では、2つの区域間の厚さ比は変更され、合計減速材厚さは34cmであり、源は原点(脳の中心)からR=52.5cmである。このようにこれらの材料を変えることを行う効果は、
図15においてグラフにプロットされる。
【0130】
反射体材料グラファイト144は、この例では30cm厚であり、2.5MeV源の前のテフロン168の厚さtは、変えられ得、減速材の部分170は、7LiFまたはD2Oのいずれかである。tが変わると、減速材のAl/AlF3166の厚さが変わり、他のすべての寸法は一定のままである。ターゲットは、テフロン168、UHMW、またはHDPEに埋め込まれる。源は、直径5.0cmの重水素イオンビームによって衝撃を与えられているチタンターゲット106である。各ターゲットは、4×1010中性子/秒を放射している。8つのモジュール式発生装置118は、3.2×1011n/sの総放射量を放射する。
【0131】
腫瘍および健康な組織(例えば、皮膚)における10Bの集中化があり得ることが分かっている。10B腫瘍濃度は、50ppmであると仮定される一方、健康な組織における10Bは、15ppmである。腫瘍における10Bについての相対的生物学的効果比(RBE)は、2.7であり、健康な組織では1.3である。腫瘍および健康な組織の線量は、中性子RBEのためのNRCおよびICRPモデルを使用して計算される。材料7LiFが、最良の成能を出し、D2Oが2番目に最良であった。
【0132】
これらの例における重要な主な目的は、がんに対して十分な線量の中性子を与えると同時に、健康な組織への線量を最小限にしてそれに損傷を与えないことである。
図15は、tについて単位cmで異なる値を有する減速材、および二次減速材における
7LiFまたはD
2Oのいずれかについての性能を示す。縦座標Rは、健康な組織皮膚線量に対する原点における腫瘍線量の比であり、がんの部位であると仮定した、脳の中心における腫瘍線量である。
図15を見て分かるように、
7LiFは、D
2Oより性能が優れている。最良の性能は、R=1.9、および1.4Sv/hrを超過した腫瘍線量である。RBEの結果は、少ない割合の高速中性子が、Rについて高値を得るために必須であること;また、妥当な数の熱外中性子が、ターゲットを貫通するために必要とされることである。したがって、
7LiFおよびD
2Oの組み合わせは、いずれかの材料単独の場合よりも性能が優れている。
【0133】
小動物中性子源の必要性
BNCTのためのボロン送達剤の開発は進行中であり、高優先度の難しいタスクである。いくつかのボロン-10含有送達剤が、BNCTにおける潜在的な使用のために調製されている。新規の化学合成技術の開発、ならびに効果的な薬物に必要とされる生化学的要件およびそれらの送達方法についての増大した知識により、多種多様の新規ボロン剤が出現しているが、それらの中でも2つのみ、オロノフェニルアラニン(BPA)およびボロカプテイトナトリウム(BSH)が、臨床的に使用されており、US FDA認証を有する。患者由来の異種移植片(patient-derived xenograft)(PDX)は、原発性腫瘍を患者からマウスまたは小動物モデルに移植することによって作成される。次いで、がん部位への薬剤の送達および有効性の試験が実施され得る。先行技術では、原子炉および線形加速器構造体からのビーム線のみが使用され得る。したがって、本発明の実施形態にあるような小さい研究室用中性子源は、新規ボロン送達薬剤およびがん部位を破壊することにおけるそれらの有効性の開発および試験において有益である。
【0134】
臨床送達システムと比較して、発生装置118などのより少ない数のスタンドアローン発生装置が、マウスなどの小動物のための送達システムのために必要とされる。使用されるモジュール式発生装置は、α=0のスラブ側壁角を有する(
図12Aで規定されるαを参照)。二次減速材は、重水(D
2O)の別個の容器であり得る。
【0135】
小動物ターゲットは実際に小さいため、二次減速材容積は低減され得、小型モジュール式発生装置がその近くへ移動され得、モジュール式発生装置が動物ターゲットのより近くにあることを可能にする。したがって、がん部位における中性子流束は増大され、減速材料およびサイズの適切な選択により、依然として中性子をIAEA基準へ減速させることができる。加えて、より近くに移動させることにより、がん部位において高い熱中性子流束を依然として維持しながら、発生装置の数は低減され得る。
【0136】
小動物源のための新規技術の本発明の例では、がん部位において十分な熱中性子を放射するために4つのモジュール式発生装置118を使用することができる。我々は、α=0のスラブ側壁角を有する12A、B、Cのモジュール式発生装置を使用することができる。これは、プレ減速材108を長方形直方体(または「長方形スラブ」)にする。
図16Aは、そのような長方形プレ減速材108を有するモジュール式発生装置の斜視図であり、
図16Bに示されるような、長方形アレイにおける4つの発生装置の構成に好適である。
図16Bでは、4つのモジュール式発生装置は、二次減速材112の周りに配置され、二次減速材112は、1つの実施形態において、重水または粒状の減速材料の容器であり得る。
図16Cは、
図16Bの切断線4 16C-16Cに沿って取られた、
図16Bの構成の断面図である。モジュール式発生装置のために以前に注釈された要素が、
図16A、
図16B、および
図16Cにおいて再使用される。
【0137】
図16Dは、4つの発生装置118が小さい重水減速材112から戻されている分解組立図である。各発生装置118は、チタンターゲット106を伴う高速中性子発生装置を伴うプレ減速材108を有する。重水素イオンビームは、プラズマイオン源102によって発生され、加速チャンバ100内でチタンターゲット106へ加速され、ここでDD融合反応が生じて高速2.5MeV中性子を放出する。この説明は、本明細書内の説明または他の実施形態にすべて共通である。発生された中性子は、プレ減速材108を通過し、ここでそれらは、熱中性子エネルギーへと部分的に減速される。次いでそれらは、減速材ブロック112へと移り、ここでそれらは、さらに減速され、高速中性子のエネルギーを熱中性子エネルギーへと低減する。次いで、熱中性子は、円筒状のマウスチャンバ114に入り、ここでそれらは、小動物116に入る。
【0138】
プレ減速材は、HDPEまたはUHMWプラスチックにおける水素との衝突を介して高速中性子を散乱させることによって、高速中性子を熱中性子へと低速化するように設計される。2.5MeV中性子が横断しなければならない距離は、およそ3から5cmであり、中性子のおよそ50%が、熱中性子として分類されようにそれらのエネルギーを十分に失う。熱および高速中性子成分の両方を含むこれらの中性子は、次いで、減速材ボックス112内へと進み、ここでそれらは、重水素原子との衝突によりさらに減速される。大まかに言うと、水素原子を伴うHDPEは、短い距離上で中性子を熱エネルギーへと減速させ;熱化された中性子は、次いで、円筒状のチャンバ114を貫通し、それらは小動物116を置く。小動物モデルは、がん部位へのボロンの送達を試験するために使用される。
【0139】
プレ減速材の場合、高密度ポリエチレン(HDPE)が、最大流束の熱中性子を作り出すのに最適である。臨床発生装置の場合のように、がん部位において最大熱流束を作り出すことが望ましい。マウスは、小さい物体であり、がん部位への熱中性子の貫通は、容易に達成され得る。熱エネルギーへの高速中性子の減速は、健康な細胞にとって有害であるガンマ放射線の最小限の生成を伴って望まれる。当業者が理解するように、水素原子は、高速中性子の散乱において優れており、減速材料における最も短い経路長内での熱エネルギーへの中性子の減速を結果としてもたらす。実際、5‐6cmの高密度ポリエチレン(HDPE)またはUHMWプラスチックの使用は、2.5MeV中性子の約50%の熱エネルギーへの減速を結果としてもたらす。HDPE内のより長い距離による中性子のさらなる減速は、より多くの高速中性子が熱エネルギーに変換されることを結果としてもたらす。しかしながら、これは、中性子が4π立体角で放射されているため、利用可能である総流束(n/cm2)の低減を結果としてもたらす。中性子の水素捕捉は、高エネルギーガンマ放射線を作り出し、これは、健康な細胞およびがん細胞の両方にとって破壊的である。中性子をさらに熱化するために別の減速材を追加することは、重水(D2O)の使用により達成される。
【0140】
当業者は、本出願に説明される実施形態が例示であり、制限ではないことを理解するものとする。多くの変形が、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される本発明の範囲内に十分に入り得る。
【国際調査報告】