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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(54)【発明の名称】発現系、組み換え細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/67 20060101AFI20220113BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220113BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220113BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20220113BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C12N15/67 Z
C12P21/02 C
C12N5/10
C12N15/52 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547967
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 IB2019059076
(87)【国際公開番号】W WO2020084528
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/749,789
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521177418
【氏名又は名称】セレキシス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】プウルセル,ルシル
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,オードリー
(72)【発明者】
【氏名】レ フォーン,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ファゲテ,セヴェリン
(72)【発明者】
【氏名】カラブレーゼ,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】レガメイ,アレクサンドレ
(72)【発明者】
【氏名】マーモッド,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】パラッゾリ,ファビエン
(72)【発明者】
【氏名】ジロ,ピエール-アライン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA26
4B065CA44
(57)【要約】
高産生クローンにおいて構成的に上方制御される遺伝子のトランスクリプトーム分析を、関心のあるタンパク質の産生増加能についてそれぞれ評価した。これらの遺伝子の生成物(代謝影響生成物(MIP))、例えばアクチン、Erp27、Erp57、Foxa1、PPAR、Ca3及びTagapは、シグナル伝達、タンパク質フォールディング、細胞骨格組織化及び細胞生存などの異なる機能カテゴリーにサブ分類され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの調節配列の制御下で少なくとも1つのMIPをコードする少なくとも1つの核酸を含む少なくとも1つの代謝影響生成物(MIP)発現ベクターを含む、真核発現系。
【請求項2】
コードされるMIPが、
-少なくとも1つの転写因子、好ましくはFoxa1(フォークヘッドボックスタンパク質A1)などのパイオニア転写因子又は少なくとも1つのPPAR(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)などの脂肪酸代謝に関与する少なくとも1つの転写因子、
-例えばCasc3などの、RNA翻訳を調節する少なくとも1つの因子及び/又は
-アクチンなどの少なくとも1つの構造タンパク質及び/又はErp27(小胞体タンパク質27)などのタンパク質フォールディングタンパク質、又はErp57(小胞体タンパク質57)などの個々のタンパク質フォールディングタンパク質と相互作用するタンパク質、
-Tagap(T細胞活性化GTPase活性化タンパク質)、Rassf9(Ras結合ドメインファミリーメンバー9)、及び/又はClstn3(カルシンテニン3)などのシグナル伝達、小胞輸送及び又は細胞接着活性に関与する少なくとも1つのタンパク質、
-CDK15(サイクリン依存性キナーゼ15)又はCa3(炭酸脱水酵素3)などの細胞生存及び/又は増殖に関与する少なくとも1つのタンパク質、
-CFLAR(CASP8及びFADD様アポトーシス調節因子)又はSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)などのアポトーシスに関与する少なくとも1つのタンパク質、及び/又は
-GCLM(グルタミン酸-システインリガーゼ調整因子サブユニット)又はGGCT(ガンマ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ)などのグルタチオン異化反応に関与する少なくとも1つのタンパク質、
である、請求項1に記載の真核発現系。
【請求項3】
前記少なくとも1つのMIPが、少なくとも1つのPPAR、特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγを含む、請求項1又は2に記載の真核発現系。
【請求項4】
前記少なくとも1つのMIPが、Ca3、Rassf9、Tagap又はそれらの組み合わせなどの、Foxa1及び/又はFoxa1の二次的MIPを含む、請求項1~3の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項5】
前記少なくとも1つのMIPが、アクチンである、請求項1~4の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項6】
前記少なくとも1つのMIPが、Erp27及び任意選択的にErp57を含むタンパク質フォールディングタンパク質である、請求項1~5の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項7】
前記少なくとも1つの調節配列が、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGK及び、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGKの発現レベルを有するプロモーター及びそれらの組み合わせの群から選択されるプロモーターである、請求項1~6の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項8】
前記少なくとも1つのMIPが、少なくとも1つの一次MIP及び一次若しくは二次MIPのどちらでもない少なくとも1つの、又は2つ又は3つのさらなるMIPを含む、請求項1~7の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項9】
少なくとも2つ、3つ、4つ、5つの又はそれより多いMIPを含む、請求項1~8の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項10】
前記MIP発現ベクターが、前記MIPをコードする核酸の第1のITR(反転された末端反復)上流及び第2のITR下流をさらに含む、請求項1~9の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項11】
前記少なくとも1つの調節配列が、任意選択的に前記第1のITRと第2のITRの間に、特異なMARエレメント又はMARコンストラクトを含む、MAR1-68及び/又はMAR X-29などの、MARエレメント又はMARコンストラクトを含む、請求項1~10の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項12】
前記MIP発現ベクターが、トランスポゾンドナーベクターでありかつ前記発現系が、トランスポサーゼ発現ヘルパーベクター又はmRNAをさらに含む、請求項1~11の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項13】
関心のあるタンパク質をコードする核酸の挿入に適応された少なくとも1つの制限酵素切断部位を含みかつナトリウム-マルチビタミン輸送体SLC5A6などの抗生物質耐性遺伝子及び/又はビタミン輸送タンパク質を任意選択的にさらに含む担体ベクターを含む、請求項1~12の何れか1項に記載の真核発現系。
【請求項14】
前記トランスポサーゼ発現ヘルパーベクターが、上流及び下流で非翻訳末端領域(UTR)に、任意選択的に隣接される、PBトランスポサーゼをコードする配列を含む、請求項12又は13に記載の真核発現系。
【請求項15】
(a)請求項1~14の何れか1項に記載の真核発現系の発現ベクターを細胞に遺伝子移入すること及び/又は
MIPを発現する遺伝子のタンパク質産物の少なくとも1つの活性化因子を前記真核細胞に添加すること、及び
(b)関心のあるタンパク質を含む担体ベクターを前記細胞に遺伝子移入すること
を含む方法。
【請求項16】
前記真核細胞に添加される前記少なくとも1つの活性化因子が、ベザフィブラートなどの、少なくとも1つ、2つ又は全てのPPAR特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγの活性化因子である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記関心のあるタンパク質のMA/EL(最大の抑止される/発現レベル)が、1.5xのML(最大のレベル)を超える、2xのMLを超える又はさらには2.5x若しくは3xのMLを超える、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
1つの容器中に、請求項1~17の何れか1項に記載の真核発現系を、かつ第2の容器中に、前記系の使用方法の説明書を含む、キット。
【請求項19】
少なくとも1つのMIPの少なくとも1つの活性化因子をさらに含み、前記MIPが好ましくは、少なくとも1つのPPAR、特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγであり、かつ前記活性化因子が、ベザフィブラートなどの、少なくとも1つ、2つ又は全てのPPARの活性化因子である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
請求項1~14の何れか1項に記載の真核発現系を含む組み換え真核細胞。
【請求項21】
前記細胞が、少なくとも1つのMIPを含むMIP発現ベクター又はその一部で少なくとも安定に遺伝子移入され、かつ好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項20に記載の組み換え真核細胞。
【請求項22】
CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGK及び、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGKの発現レベルを有する外因性又は組み換え内因性プロモーター及びその組み合わせの群から選択される少なくとも1つの外因性プロモーターの制御下の少なくとも1つの内因性MIPを含む、組み換え真核細胞。
【請求項23】
前記少なくとも1つのMIPが、プロモーターラダーのプロモーターの組み合わせの制御下にある、請求項22に記載の組み換え真核細胞。
【請求項24】
関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子を発現する組み換え真核細胞の産生のための請求項1~14の何れか1項に記載の真核発現系の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
組み換え導入遺伝子の発現の相当な向上は、組み換えタンパク質、特に組み換え治療用タンパク質を発現する細胞の産生能を着実に強化してきた(Farrell,McLoughlin,Milne,Marison,& Bones,2014;Kim,Kim,& Lee,2012;Wurm,2004)。
【0002】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、組み換え治療用タンパク質産生のための、広く使用される宿主細胞ファクトリーである。これらは、ヒト様翻訳後修飾の生成するそれらの能力及び化学的に定義される培地中にて浮遊状態で高密度に増殖するそれらの能力を含む、いくつかの長所を提供する。さらに、CHO細胞は、組み換え治療用タンパク質の産生のための安全な宿主であると考えられる(Hansen,Pristovsek,Kildegaard,& Lee,2017)。
【0003】
細胞工学は現在までのところ、最大生存細胞密度を上昇させること及び培養持続時間を延長させることによって、生存可能な細胞濃度の時間積分を向上させること、並びにCHO細胞の比生産性を向上させることに主に焦点を当ててきたが、これは、両パラメーターが組み換え治療用タンパク質の容積産生能に対する決定要因であるからである(Farrell et al.,2014;Kim et al.,2012)。これは特に、アポトーシス、代謝、細胞周期及び分泌などの様々な細胞機能に関与する遺伝子発現を調整することにより達成された(Fischer,Handrick,& Otte,2015)。
【0004】
しかし、いくつかの細胞プロセスは、CHO細胞において最適ではないか、又は治療用タンパク質産生にとって限定的なままであり、従って、特異的な遺伝子の過剰発現、下方制御又はノックアウトにより改善され得るということは、このような集中的な研究の対象となっていない(Baek,Kim,Park,& Lee,2015;Hansen et al.,2017)。
【0005】
小胞体(ER)におけるタンパク質フォールディングは特に、治療用タンパク質産生にとってきわめて重要な段階であり、それは従って広く研究されてきた(Hansen et al.,2017)。タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、ネイティブジスルフィド結合形成を触媒する酵素であり、従ってタンパク質フォールディングを促進する。PDIはまた、誤って形成されたジスルフィド結合の再編成にも関与する(Wang,Wang,& Wang,2015)。いくつかの研究がPDI過剰発現におけるいくつかの治療用タンパク質の比生産性の上昇を報告した一方で、他の研究は、比生産性又はタンパク質タイターにおいて影響がないこと又はさらにはそれを低下させることを観察した(Borth,Mattanovich,Kunert,& Katinger,2005;Davis,Schooley,Rasmussen,Thomas,& Reddy,2000;Hayes,Smales,& Klappa,2010;Johari,Estes、Alves,Sinacore,& James,2015;Mohan,Park,Chung,& Lee,2007;Pybus et al.,2014)。PDIファミリーの別のメンバーであるErp57も、治療用タンパク質産生の改善におけるその可能性について調べられた。Erp57は、2つのERレクチンシャペロンカルレティキュリン(CRT)及びカルネキシン(CNX)との相互作用を介してグリコシル化タンパク質のジスルフィド結合形成を誘発する。(Tannous,Pisoni,Hebert,& Molinari,2015)。CHO細胞由来のErp57の又はCNX及びCRTの両方の上方制御は、CHO細胞においてトロンボポエチンの比生産性を上昇させることが見出された(Chung,Lim,Hong,Hwang,& Lee,2004;Hwang,Chung,& Lee,2003)。しかし、Erp57のマウスバージョンの発現は、α-アンチトリプシンの及びC1エステラーゼ阻害剤の比生産力を低下させた(Hansen et al.,2015)。これらの矛盾した影響は、個々の酵素発現レベル、起源並びに発現された治療用タンパク質によるものであり得る(Hansen et al.,2017)。
【0006】
治療用タンパク質産生をおそらく改善するためにその発現が調整され得る多量の遺伝子を考えて、より網羅的な工学的ストラテジーは、遺伝子発現の主要な調節因子として作用し得る転写因子の発現に焦点を合わせてきた(Gutierrez-Gonzalez et al.,2019)。特に、ERストレス関連転写因子、sXBP1、sATF6、ATF4及びCHOPの過剰発現は、様々な治療用タンパク質の比生産性及び/又はタイターをうまく向上させたが(Becker,Florin,Pfizenmaier,& Kaufmann,2008;Cain et al.,2013;Gulis,Simi,de Toledo,Maranhao,& Brigido,2014;Haredy et al.,2013;Ku,Ng,Yap,& Chao,2008;Nishimiya,Mano,Miyadai,Yoshida,& Takahashi,2013;Ohya et al.,2008;Pybus et al.,2014;Tigges & Fussenegger,2006)、矛盾する結果がsXBPI過剰発現において得られた(Ku et al.,2008;Rahimpour et al.,2013)。さらに、多くの細胞プロセスに対し多面的な影響を有するジンクフィンガー転写因子であるYY1の過剰発現は、CHO細胞における抗体タイターの上昇をもたらした(Tastanova et al.,2016)。
【0007】
これらの進歩にもかかわらず、治療用タンパク質に関係なく、その上方又は下方制御が一致して好ましい効果をもたらし得るCHO細胞活性を同定することは、今までのところ困難である。さらに、わずかなチャイニーズハムスター遺伝子しか、治療用タンパク質産生を向上させるそれらの可能性について調べられていない。同時に、臨床及び治療での使用のために十分なタイターで発現させることが依然として困難である、ますます多くのキメラ又は改変治療用タンパク質がある(Hansen et al.,2017)。
【0008】
ビタミンB5輸送タンパク質用の発現ベクターの遺伝子移入と組み合わせた、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞培地中のビタミンB5の欠乏がどのように、「発現容易な」(ETE)トラスツズマブ抗体、並びに他の状況では治療用タンパク質産生に十分なレベルで発現され得ない「発現困難な」(DTE)タンパク質、例えばインフリキシマブを含む、組み換えタンパク質を非常に高レベルで発現できる細胞変異体の同定を可能にするかについては以前に記載された(国際公開第2016/156574号パンフレット、米国特許出願公開第20180066268号明細書)。
【0009】
しかし、これらの高生産性で高効率の細胞は依然として、全ての安定に遺伝子移入され、かつ選択される細胞の非常に小さい割合であり、従って同定及び単離することは今もなお難しい。本文書及び/又は添付の文献目録で言及される、特許及び特許出願公開を含む刊行物は、それらの全体において参照により本明細書中に組み込まれる。
【0010】
関心のある分子の産生において永久的により効果的である細胞株、特にCHO細胞株を構築するために、このような所望の産生特性を付与するこれらの高生産細胞の特定の改変を同定することが当技術分野で必要とされている。このような特性を有する発現系及び細胞を生成するために、高産生細胞において見出される特定の改変の知識を使用することも当技術分野で必要とされている。本明細書中に記載の発明は、これ及び他のニーズに取り組む。
【発明の概要】
【0011】
MIP(即ち代謝に影響する生成物)を発現する発現ベクター/系の使用、特にMIP又はMIPの組み合わせを発現するための、好ましくはCHO細胞などの哺乳動物細胞の代謝を改善するための、より具体的には例えば関心のあるタンパク質、好ましくは治療用タンパク質の産生の増加を引き起こす哺乳動物細胞の代謝を改善するためのそれらの使用が、本明細書中で開示される。MIPを発現するために操作された細胞も本明細書中で開示される。MIP候補は表1に列挙され、好ましくは図1Dに列挙される細胞機能に関係する。
【0012】
MIPは好ましくは、mPPARα及び/又はFoxa1転写因子、m(マウス)PPARα及び/又はFoxa1活性化CHO細胞遺伝子又はヒトホモログなどのホモログ、アクチンなどの構造タンパク質、mRNA翻訳などの細胞の基礎代謝、Tagap、Rassf9、Erp27、Erp57、Clstn3などのシグナル伝達及び輸送活性に関与するタンパク質、細胞生存タンパク質CDK15及びCa3、CFLAR又はSOD1などのアポトーシスに関与するタンパク質、GCLM又はGGCTなどのグルタチオン異化反応に関与するタンパク質、又はそれらの特異的な組み合わせを含む。本発明の細胞は、上記MIP又はMIPヒトホモログを過剰発現し、及び/又はベザフィブラートPPARアゴニスト及び他の化学又は生物学的アゴニストなどの、上記MIP活性を上昇させる化学物質で処理される。
【0013】
一実施形態では、本発明は、少なくとも1つの調節配列の制御下で少なくとも1つのMIPをコードする少なくとも1つの核酸を含む少なくとも1つの代謝影響生成物(MIP)発現ベクターを含む真核発現系を対象とし、ここでMIPは好ましくは表1の1つであり、特に:
-少なくとも1つの転写因子、より好ましくはパイオニア転写因子、例えばFoxa1(フォークヘッドボックスタンパク質A1)又は脂肪酸代謝に関与する少なくとも1つの転写因子、例えば少なくとも1つのPPAR(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)、
-RNA翻訳を調節する少なくとも1つの因子、例えばCasc3など、及び/又は
-少なくとも1つの構造タンパク質、例えばアクチン、及び/又はタンパク質フォールディングタンパク質、例えばErp27(小胞体タンパク質27)、又は個々のタンパク質フォールディングタンパク質と相互作用するタンパク質、例えばErp57(小胞体タンパク質57)、
-シグナル伝達、小胞輸送及び又は細胞接着活性に関与する少なくとも1つのタンパク質、例えばTagap(T細胞活性化GTPase活性化タンパク質)、Rassf9(Ras結合ドメインファミリーメンバー9)、及び/又はClstn3(カルシンテニン3)、
-細胞生存及び/又は増殖に関与する少なくとも1つのタンパク質、例えばCDK15(サイクリン依存性キナーゼ15)又はCa3(炭酸脱水酵素3)、
-アポトーシスに関与する少なくとも1つのタンパク質、例えばCFLAR(CASP8及びFADD様アポトーシス調節因子)又はSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)及び/又は
-グルタチオン異化反応に関与する少なくとも1つのタンパク質、例えばGCLM(グルタミン酸-システインリガーゼ調整因子サブユニット)又はGGCT(ガンマ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ)
である。
【0014】
少なくとも1つのMIPは、少なくとも1つのPPAR、特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγ及び/又はFoxa1、アクチン、任意選択的にErp57と組み合わせたErp27を含み得る。少なくとも1つの調節配列は、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGKの群から選択されるプロモーター、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGKの発現レベルを有するプロモーター及びそれらの組み合わせであり得る。
【0015】
少なくとも1つのMIPは、少なくとも1つの(例えば2又は3つを含む)一次MIP及び、一次MIPでも二次MIPでもない少なくとも1又は2又は3つのさらなるMIPを含み得る。1つの真核発現系において、少なくとも2、3、4、5又はそれを超えるMIPがあり得る。MIP発現ベクターは、MIPをコードする核酸の第1のITR(末端逆位配列)上流及び第2のITR下流をさらに含み得る。少なくとも1つの調節配列は、任意選択的に第1のITRと第2のITRとの間に、特異なMARエレメント又はMARコンストラクトを含む、MAR1-68及び/又はMARX-29などの、MARエレメント又はMARコンストラクトを含み得る。MIP発現ベクターはトランスポゾンドナーベクターであってよい。発現系は、トランスポサーゼ発現ヘルパーベクター又はmRNAをさらに含み得る。トランスポサーゼ発現ヘルパーベクターは、任意選択的に非翻訳末端領域(UTR)が上流及び下流に隣接する、PB(piggybac)トランスポサーゼコード配列を含み得る。
【0016】
真核発現系は、関心のあるタンパク質をコードする核酸の挿入に適応された少なくとも1つの制限酵素切断部位を含む担体ベクターをさらに含み得る。担体ベクターは、抗生物質耐性遺伝子及び/又はナトリウム-マルチビタミン輸送体SLC5A6などのビタミン輸送タンパク質をさらに含み得る。担体ベクターのエレメントは、発現系の別のベクターの一部でもあり得る。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、
(a)本明細書中で開示される発現系の発現ベクターの何れか1つを細胞に遺伝子移入すること、及び/又は
MIPを発現する遺伝子のタンパク質産物の少なくとも1つの活性化因子を真核細胞に添加すること、及び
(b)任意選択的に、関心のあるタンパク質を含む担体ベクターを細胞に遺伝子移入すること
を含む方法を対象とする。
【0018】
真核細胞に添加される少なくとも1つの活性化因子は、少なくとも1つ、2つ又は全てのPPAR、特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγ、の活性化因子、例えばベザフィブラートであり得る。関心のあるタンパク質のMA/ELは、1.5xよりも大きい、2xMLよりも大きい、又はさらに2.5x若しくは3xMLよりも大きくてよい。
【0019】
ある実施形態では、本発明は、1つの容器中に、先行する請求項の何れか1項に記載の上記真核発現系を含み、第2の容器中に、上記系を使用する方法の説明書を含むキットを対象とする。本キットは、少なくとも1つのMIPの少なくとも1つの活性化因子をさらに含み得、ここでMIPは、好ましくは少なくとも1つのPPAR、特にPPARα、PPARβ/δ又はPPARγであり、活性化因子は、少なくとも1つ、2つ又は全てのPPARの活性化因子、例えばベザフィブラートであり得る。
【0020】
本発明はまた、ある実施形態では、本明細書中で開示される真核発現系の何れかを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの、組み換え真核細胞も対象とする。細胞は、MIP発現ベクター又は少なくとも1つ、少なくとも2つ、3つ又は4つのMIPを含むその一部分を安定的に遺伝子移入され得る。
【0021】
本発明はまた、少なくとも1つの外因性プロモーターの制御下で少なくとも1つの内因性又は外因性MIPを含む真核細胞も対象とし、この外因性プロモーターは、プロモーターラダーの一部であり得、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGK及び、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ、SV40、RSV、PGKの発現レベルを有する外因性又は組み換え内因性プロモーター及びそれらの組み合わせの群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】トランスクリプトーム分析を通じたMIPの同定。 (A)関心のある発現容易な(ETE)又は発現困難な(DTE)タンパク質を産生する、非選択、B5選択及び抗生物質選択細胞を比較する、RNASeqによるトランスクリプトーム分析の概説。(B)ここではETE細胞における、選択されたB5標的遺伝子の2つの主要な発現パターンを表すグラフ。遺伝子発現は、RNASeq分析からの遺伝子読み取りデータ数に相当する。(C)トラスツズマブ産生について、CHO-M野生型(WT)細胞と比較して、及び細胞ポリクローナルと比較してトラスツズマブ高産生クローンで上方制御される転写物の同定。32個の遺伝子によりコードされる51個のmRNAを同定した。(D)トランスクリプトーム分析及び文献スクリーニングを通じて同定された候補遺伝子の機能クラス(表1参照)。
図2】関心のある発現容易な(ETE)のタンパク質に対する候補MIPの効果:トラスツズマブ産生。 (A)クローンを、トランスクリプトーム分析に対して使用されるトラスツズマブポリクローナル集団から単離した(図1C参照)。流加培養法において速い細胞分裂速度を維持した中程度の産生クローンTras6及びTras14を、次の実験で使用した。(B)Tras14クローンにおける候補MIPの安定過剰発現後の流加培養第6日(白色バー)、第9日(灰色バー)及び第11日(黒色バー)での発現容易な(ETE)トラスツズマブ抗体の産生。SRP14過剰発現を陽性対照として使用し(LeFourn et al.,2013)、GFPを発現するか又は空のベクターを遺伝子移入した細胞を陰性対照として使用した。(C)流加培養第11日でのトラスツズマブ抗体の産生。増加する量の特定のMIPを発現する安定な細胞を、トラスツズマブクローンにおいて増加量のMIPプラスミドを遺伝子移入することにより得た。(D)トラスツズマブクローンにおけるFoxa1の安定な過剰発現後の流加培養第13日でのトラスツズマブ抗体の産生。(E)Foxa1一次MIPの過剰発現における、Ca3及びRassf9二次MIPの発現上昇を例示するための、Foxa1(白色バー)、GFP(灰色バー)を安定に遺伝子移入された細胞における、及び非遺伝子移入細胞(黒色バー)における、Foxa1、Ca3及びRassf9の相対発現。RNAを、流加培養第8日に抽出した。
図3】関心のある発現困難な(DTE)タンパク質に対する候補MIPの効果:インフリキシマブ発現。 MIPを、発現困難な(DTE)インフリキシマブ抗体を発現する組み換えクローンにおいて安定に過剰発現させた。(A)候補遺伝子過剰発現後の、流加培養第9日(灰色バー)及び第11日(黒色バー)でのインフリキシマブ抗体の産生。空ベクターを遺伝子移入した細胞を陰性対照として使用した。(B)流加培養第0日、(白色バー)、第6日(薄灰色バー)、第9日(黒色バー)及び第11日(濃灰色バー)での、細胞の生存細胞密度。
図4】PPARにより調節されることが分かったB5標的遺伝子を強調する概略図を提供する。
図5】発現容易な(ETE)細胞におけるPPAR活性化試験:B5分泌細胞における内因性PPARアゴニスト。 プロモーターがPPAR応答性エレメント(PPRE)を含有するPPAR-レポーターDsRed遺伝子を使用するPPAR一過性活性化アッセイ。(A)抗生物質(AB)選択ETE細胞及びB5-選択ETE(トラスツズマブ)細胞にペルオキシソーム増殖剤応答エレメント(PPRE)-DsRedレポーターを一過性に遺伝子移入したか、又はPPREレポーター及びマウスPPARαを同時遺伝子移入した。DsRed活性をBFP2マーカーに対し標準化した(材料及び方法参照)。(B)PPAR一過性アッセイに対する陰性対照は、PPREレポーターなしのDsRed活性に相当する。パネルA及びBからのデータは、4回の独立した実験からの補正DsRed活性の平均蛍光±SEを表す。統計:P≦0.05及び**P≦0.02(片側t検定;対応のある試料)。(C)一過性PPARα活性化データを説明する概略図。
図6】発現容易な(ETE)クローンでのPPAR活性化試験:外因性汎PPARアゴニストの効果 (A)流加培養(+ベザフィブラート)3日後の、未処理(対照)又は10mMベザフィブラートPPARαリガンドで処理したETEクローン(トラスツズマブ)。候補遺伝子発現を、RT-qPCRにより第6日に定量した。(B)ETE細胞を、1日流加培養後に10mMベザフィブラートで処理し、IgGタイターを10日後に測定。データは、4回の独立した実験からの平均±SEである。P≦0.05及び**P≦0.02(t検定;両側;独立試料、不等分散)。
図7】発現困難な(DTE)細胞でのPPARα過剰発現 抗生物質選択DTE(インフリキシマブ)細胞にマウスPPARαを、又は空ベクターを安定に遺伝子移入した。遺伝子発現、IgGタイター及び細胞生存能の分析を、DTEクローンを空ベクター細胞及びPPARα過剰発現細胞(PPARα_OE)と比較して行った。(A)未処理細胞又はベザフィブラート(BEZA)処理細胞でのPPARα標的、PPARα及びIgG(qRT-PCR)の遺伝子発現。ベザフィブラートを流加培養第1日に10mMで添加した。RNAを流加培養第6日に抽出した。非選択又はB5飢餓培地中でのインフリキシマブIgG比生産性(B)及び細胞生存能(C)を例示する。細胞を、非選択又はB5飢餓培地中で5日間、細胞210個/mLの出発量で、12ウェルプレート中で培養し、次いで非選択培地に移した。IgG比生産性(PCD)を次に、非選択培地中での3日間の培養にわたり測定した。各測定は、3回の独立した培養の結果である。統計:P≦0.05及び**P≦0.02(t検定;片側;独立試料、不等分散)。
図8】PPARα MIPを過剰発現するか又はしない抗生物質又はB5選択CHO細胞の代謝分析。ビタミンB5(図8A)、乳酸(図8B)、アセチルCoA(図8C)及びケトン(3-ヒドロキシ酪酸)(図8D)を、示されるように、ピューロマイシン又はB5選択ポリクローナル細胞プールにおいて、LC-HRMS(高解像度質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー)により定量した。データは、4回の独立した生物実験からの±SEを示す。統計:P≦0.05及び**P≦0.02(両側t検定;対応試料)。これらの代謝物のレベルをまた、抗生物質選択DTE(インフリキシマブ)細胞で、マウスPPARα発現ベクター(PPARa_OE)又は空ベクターを安定に遺伝子移入したDTE細胞プールで定量した(図8E~8H)。データは、3回の技術的な独立実験からの±SEを示す。統計:P≦0.05及び**P≦0.02(両側t検定;等分散)。
図9】ETE及びDTE CHO細胞におけるACTC1過剰発現。 ETE(トラスツズマブ、「TRAS」)及びDTE(Fc-融合タンパク質)細胞にアクチンをコードするチャイニーズハムスターACTC1 cDNA又は空ベクターを安定に遺伝子移入した。遺伝子発現及びIgGタイターの分析を、ETEクローン(対照)を空ベクター細胞及びACTC1過剰発現細胞(ACTC1_OE)と比較して行った。(A)ACTC1、IgG軽鎖(Lc)及び重鎖(He)遺伝子発現(qRT-PCR)。各測定は、2回の独立した培養の結果である。(B)IgG比生産性(PCD)、即ち分泌されるIgGのピコグラム/細胞及び/日)を、非選択培地中での3日間の培養にわたり測定する。(C)DTE Fc-融合タンパク質における産生(Ctrl=対照、空ベクター)。
図10】IgG1-ベバシズマグ(bevacizumag)発現CHO-Mクローン、Fc-融合-発現CHO-Mクローン及びFab-酵素融合発現クローンの分泌に対する、CFLAR、GCLM及びACTC1の個々の発現又は合わせた発現の効果。 ベバシズマグ(bevacizumag)発現クローン(図10A)、fc-融合発現クローン(図10B)及びfab-酵素-融合発現クローン(DTE)(図10C)に、様々な個々の転位性CFLAR(CASP8及びFADD様アポトーシス調節因子)、GCLM(グルタミン酸-システインリガーゼ調節サブユニット)、ACTC1発現ベクター又はそれらの組み合わせを再遺伝子移入した。得られた細胞プールの比生産性を次に、3又は4日ごとに、調整されたバッチにおいてそれらの継代培養を通じて評価した。結果を、それらの個々のベバシズマブ-又はFc-融合-対照細胞PCD値(pg/細胞/日)の%として示した。
図11】治療用タンパク質産生に対するErp27及び/又はErp57過剰発現の効果。 発現容易な又は発現困難な治療用タンパク質を産生するクローンにErp27又はErp57発現ベクターを安定に遺伝子移入したか、又はErp27及びErp57発現ベクターの両方を同時遺伝子移入した。遺伝子発現、細胞増殖、細胞生存能及びタンパク質産生を、安定なポリクローナル集団(パネルa~e)で、又はクローン(パネルf~h)で、流加培養において評価した。(a)qRT-PCRにより評価した、流加培養第0日及び第8日での非遺伝子移入親CHO細胞におけるそれらのレベルに対する倍率変化として表した、Tras産生クローンでのErp27及びErp57mRNAレベルの定量。エラーバーをSDとして示し、n=3、p値を、独立した片側t検定を使用して決定した。(b)Tras産生クローン(親Trasクローン)にErp27及び/又はErp57発現ベクターを安定に遺伝子移入し、分泌トラスツズマブ抗体のタイターを、流加培養終了時に、細胞培養上清から決定した。GFP発現ベクターを遺伝子移入した細胞を、対照として使用した。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。(c)親Trasクローンに、プラスミドの総量を一定に維持するための空ベクターとともに低下する量のErp27発現ベクターを安定に遺伝子移入した。空ベクタープラスミドを遺伝子移入した細胞を、対照として使用した。トラスツズマブタイターを、流加培養法の終了時に決定した。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。(d)インフリキシマブ産生クローンを、示されるように、親クローン又はErp27及び/又はErp57の、又はGFP発現ベクターの遺伝子移入後に得られた派生細胞集団の何れかを使用して、流加培養中に得られた分泌モノクローナル抗体タイターについて特徴づけた。タイターを、中央値(中央のバー)及び25~50%及び50~75%四分位数(箱)とともにテューキー箱ひげ図として示す。ひげは、最小値及び最大値まで伸び、1.5倍四分位間範囲内に留まる。(e)パネルdで分析された流加培養法の生存細胞密度。エラーバーをSDとして示し、独立した片側t検定(パネルd及びe、n>4)。(f)エタネルセプト産生クローンにErp27及びErp57発現ベクターを、又は対照として空ベクターを安定に遺伝子移入した。細胞コロニーを、ClonePix(登録商標)装置を使用して単離し、最大エタネルセプト分泌ハロを有するクローンを単離し、流加培養終了時にエタネルセプトタイターについて特徴づけた。対照細胞と比較したタイター倍率変化を、パネルdについてテューキー箱ひげ図として例示する。(g、h)パネルfで分析された流加培養の生存細胞密度及び細胞生存能。エラーバーはSEMを示す、パネルf~h(n≧8)。
図12】Tras産生に対するFoxa1過剰発現の効果。 Tras産生クローンにFoxa1又はGFP発現ベクターを安定に遺伝子移入した。トラスツズマブタイター(a)、生存細胞密度(b)及び細胞生存能(c)を、10日間の流加培養中に評価した。n=5、独立した片側t検定。タイターを、図2について記載されるようにテューキー箱ひげ図として例示し、一方でエラーバーをSDとして示す(パネルb、c)。(d)図1cで同定されたFoxa1標的遺伝子及び他の関連遺伝子のmRNAレベルのRT-qPCR分析を、流加培養法第8日にFoxa1過剰発現細胞、GFP発現細胞又は親Trasクローンにおいて行った。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある片側t検定。(e)流加培養第0日での、Foxa1過剰発現細胞、GFP発現細胞又は親Trasクローンにける、Foxa1、Ca3、Rassf9及びTagap mRNAレベルのRT-qPCR定量。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある片側t検定。(f)流加培養第0、3、6、8及び9日での、Foxa1過剰発現細胞及び親Trasクローンでの、カルボキシ-HDCFDAを使用した細胞内ROSレベルの評価。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。
図13】Tras産生に対するCa3、Rassf9及びTagap過剰発現の効果。Tras産生Tras6クローンにCa3、Rassf9、Tagap又はGFP発現ベクターを安定に遺伝子移入した。トラスツズマブタイター(a)、生存細胞密度(b)及び細胞生存能(c)を、10日間の流加培養中に決定した。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した両側t検定。(d)Ca3-、Rassf9-又はTagap-発現安定集団におけるRT-qPCR分析による候補遺伝子のmRNAレベルの定量。データを、対照GFP発現細胞におけるmRNAレベルと比較して示す。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある両側t検定。(e)Trasクローンに、プラスミドの総量を一定に維持するための空ベクターと一緒に様々な量のCa3発現ベクターを安定に遺伝子移入した。これらの細胞から得られたトラスツズマブタイターを、流加培養終了時に評価した。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。
図14】インフリキシマブ産生に対するFoxa1過剰発現の影響。 インフリキシマブ産生クローンにFoxa1又はGFP発現ベクターを安定に遺伝子移入し、インフリキシマブタイター(a)、生存細胞密度(b)及び細胞生存能(c)を、9日間の流加培養法中に評価した。n=5、独立した片側t検定。タイターを、図2(パネルa)について記載するように示し、一方でエラーバーをSDとして示す(パネルb、c)。(d)流加培養第3、6、7及び8日での、Foxa1過剰発現細胞についての、及び親インフリキシマブ産生クローンについての、カルボキシ-HDCFDAを使用した細胞内ROSレベルの評価。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。(e)流加培養第6日での、Foxa1過剰発現細胞、GFP発現細胞での、又は親インフリキシマブクローンでの、Foxa1、Ca3、Rassf9及びTagap mRNAレベルのRT-qPCR定量。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある片側t検定。
図15】インフリキシマブ産生に対するTagap過剰発現の効果。 インフリキシマブ産生クローンにTagap又はGFP発現ベクターを安定に遺伝子移入し、インフリキシマブタイター(a)、生存細胞密度(b)及び細胞生存能(c)を、9日間の流加培養法中に評価した。n=4、独立した片側t検定。タイターを、図2について記載するように示す。エラーバーを、パネルb、cについてSDとして示す。(d)RT-qPCRによる流加培養第6日での、Tagap-過剰発現細胞、GFP-発現細胞での、又は親クローンでの、Foxa1、Ca3、Rassf9及びTagap mRNAレベルのRT-qPCR定量。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある両側t検定。
図16】RNASeq分析から得られた、又はqPCR分析を使用した、候補遺伝子のmRNAレベル。 親CHO細胞、Trasポリクローナル細胞及びTras高産生(HP)クローンにおけるErp27(a)、Foxa1(b)、Ca3(c)及びTagap(d)のmRNAレベルをRNASeqにより分析し、転写物/キロベースミリオン(TBM)で示すか、又はRT-qPCRを使用して分析。データを、親CHO細胞と比較して与える。エラーバーをSDとして示す。3つの生物学複製物をTras高産生クローンに対して使用し、一方で3つの技術的複製物を、親CHO細胞に対して、及びTras産生ポリクローナル細胞集団に対して使用した。
図17】発現容易な又は発現困難な治療用タンパク質を産生する及びErp27、Erp57又はその両方を過剰発現する細胞の流加培養法分析及びmRNAレベル。 流加培養法中のErp27及び/又はErp57に対する発現ベクターを安定に遺伝子移入したトラスツズマブ産生クローンの生存細胞密度(a)及び細胞生存能(b)。エラーバーをSDとして示し、n=3、独立した片側t検定。qRT-PCRによる異なる細胞集団中でのErp27(c)及びErp57(d)mRNAレベルの定量。データを、対照GFP-発現細胞のmRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示し、n=3。(e)プラスミドの総量を一定に維持するための空ベクターとともに漸減量のErp27発現ベクターを安定に遺伝子移入したTrasクローンにおけるqRT-PCRによるErp27mRNAレベルの定量。データを、対照細胞におけるErp27mRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示す、n=2。(f及びg)Erp27及びErp57用の発現ベクターを安定に遺伝子移入したインフリキシマブ産生クローンにおけるErp27及びErp57 mRNAレベルのqRT-PCR定量。データを、対照細胞におけるmRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示し、n=2。(h)流加培養中に分析した異なる細胞集団の細胞生存能。エラーバーをSDとして示し、独立した片側t検定、n≧4。
図18】流加培養法中の候補遺伝子及びトラスツズマブHC及びLC導入遺伝子のmRNAレベル。 (a)トラスツズマブ(Tras)産生クローンにおける流加培養法第0日及び第8日でのFoxa1、Rassf9、Ca3及びTagap mRNAレベルのRT-qPCR定量。データをCHO細胞でのmRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示し、n=3。(b)流加培養法第8日での、Foxa1過剰発現細胞、GFP発現細胞における、又は親TrasクローンにおけるTras重鎖(HC)及び軽鎖(LC)mRNAレベルのRT-qPCR定量。データを、対照GFP-発現細胞でのmRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある片側t検定。
図19】トラスツズマブ及びCa3 mRNAレベルの分析。 (a)Cas3、Rassf9及びTagap過剰発現細胞におけるTras免疫グロブリン重及び軽鎖mRNAレベルのRT-qPCR定量。データを、対照GFP発現細胞でのTras重鎖及び軽鎖mRNAレベルと比較して与える。エラーバーをSDとして示し、n=3、対応のある片側t検定。(b)様々な量のCa3発現ベクター及びプラスミドの総量を一定に維持するための空ベクターを安定に遺伝子移入したTrasクローンでのCa3 mRNAレベルのRT-qPCR定量。データを、対照GFP-発現細胞におけるCa3 mRNAレベルと比較して与える。
図20】ビタミンB5選択後のACTC1及びTAGAP遺伝子の発現。 (a)及び(b)において、図は、非遺伝子移入非選択親対照細胞(C)を、抗生物質選択又B5選択に供され、かつトラスツズマブ(ETE、パネルa)及びインターフェロン-ベータ(DTE、パネルb)を発現する遺伝子移入細胞と比較した、ACTC1及びTAGAP mRNAレベルのトランスクリプトームRNAシーケンシング(RNA-Seq)分析を示す。遺伝子移入細胞の選択後に、培養物を非選択完全培地中で増殖させ、トータルmRNAを単離し、ハイスループットシーケンシングに供してB5選択過程に供された細胞集団において上方制御される遺伝子を同定した。相対的mRNAレベルは、RNA-Seq分析からの正規化リードカウントに対応する。(c)ACTC1及びTAGAP遺伝子発現に対するSLC5A6過剰発現及びB5欠乏による選択の効果。細胞に、SLC5A6発現ベクターあり又はなしでACTC1又はTAGAP発現ベクター及びピューロマイシン耐性遺伝子を同時遺伝子移入し、その後培養物を、それぞれB5欠乏培地(B5欠乏)中又はピューロマイシン存在下(抗生物質選択)の何れかで選択した。選択した細胞を非選択培地に移し、続いてRT-qPCRによりACTC1及びTAGAP mRNAの定量を行った。B5欠乏により選択された細胞のmRNAレベルを、抗生物質選択細胞のレベルに対して正規化した。(d)パネルCについて記載のように遺伝子移入し選択した細胞のビタミンB5含量を、バッチ培養6日後にLC-MSにより測定した。(e)SLC5A6発現ベクターなし又はありで抗生物質耐性遺伝子を遺伝子移入し、抗生物質選択に供した細胞のACTC1及びTAGAP mRNAレベルの比較。相対的mRNAレベルをRT-qPCRにより決定し、抗生物質耐性細胞のレベルに対し正規化した。データは、3~5つの生物学的複製物の平均±SEMである。抗生物質選択に関して、P≦0.05;**P≦0.02(t検定;片側)。
図21】TAGAPを過剰発現するETE産生細胞におけるACTC1レベル。 トラスツズマブ抗体を発現するピューロマイシン選択クローンにCHO TAGAP発現ベクター又は空ベクター及びブラスチシジン耐性遺伝子を安定に再遺伝子移入し、ブラスチシジン耐性で選択した。得られた安定なポリクローナル細胞プールを使用して、RT-qPCRによるTAGAP相対mRNAレベル(a);及びACTC1タンパク質レベル(b)を評価した。総タンパク質抽出物の免疫ブロットをACTC1又はGAPDHマウス抗体により探索した。ACTC1シグナルの比率を、ImageJにより定量して、GAPDHに対し正規化した。データは3回の反復物の平均蛍光±SEMを表す。**空ベクターを遺伝子移入した細胞に対して、P≦0.02(t検定;両側)。
図22】組み換えタンパク質産生細胞におけるACTC1の過剰発現 (a)インフリキシマブ抗体を発現するピューロマイシン選択クローンにCHO ACTC1発現ベクター又は空ベクター及びブラスチシジン耐性遺伝子を安定に再遺伝子移入し、ブラスチシジン耐性について選択した。得られた安定な細胞プールを使用して、RT-qPCRによりACTC1の相対mRNAレベルを定量した。(b)パネルBの細胞プールからの総タンパク質抽出物の免疫ブロットを、ACTC1又はGAPDHマウス抗体で探索した。GAPDHと比較したACTC1に対するシグナルの比率を、ImageJを使用して定量した。(c)パネルCの免疫ブロット膜の総タンパク質のレッドポンソー染色。データは3回の反復物の平均値±SEMを示す。
図23】ACTC1を過剰発現する細胞におけるDTE組み換えタンパク質産生。 (a)、(b)及び(c)において、図は、ACTC1又は空発現ベクターを安定に再遺伝子導入した、抗生物質選択免疫グロブリンガンマ(IgG)発現クローンを示し、得られた安定細胞プールのIgG比生産性を、別の抗生物質に対する耐性についての選択後に測定した。エタネルセプトFc-融合(Enbrel(登録商標))(パネルA)、ベバシズマブlgG1(パネルB)及びインフリキシマブlgG1(パネルC)の比生産性を、3回の反復物の平均値±SEMとして、分泌されたIgGのピコグラム/細胞及び/日として与える。(d)パネルCで分析した細胞のインフリキシマブIgGのレベルを、非選択培地中で3日間にわたり、流加培養条件下で評価し、ここで細胞培養の培地中で放出されたIgGのタイターは、3回の生物学的反復物の平均±SEMを表す。(e)ACTC1発現又は空ベクターを遺伝子移入したインフリキシマブ発現細胞のプールの乳酸含量を、LC-MSアッセイを使用して2つの独立した細胞プールからのバッチ培養の3日後に測定した。乳酸濃度は、3回の技術的反復からの平均値±SEMを表す。空ベクターに対して、P≦0.05及び**P≦0.02(t検定;両側)。
図24】ACTC1過剰発現細胞の特徴評価 トラスツズマブ発現CHO細胞クローンにCHO ACTC1発現ベクター又は空発現ベクターと一緒に抗生物質耐性プラスミドを安定に再遺伝子移入した。安定に遺伝子移入した抗生物質耐性細胞を次に選択し、そこからさらなる分析のためにクローンを単離した。(a)RT-qPCRにより決定したACTC1相対的mRNAレベルの定量。(b)図25aの免疫ブロット膜の総タンパク質のレッドポンソー染色。(c)図25bで行われる、10日間の流加培養にわたるクローンの生存細胞密度。
図25】ACTC1過剰発現細胞の生産性の特徴評価 トラスツズマブ発現クローンにCHO ACTC1又は空の発現ベクターを安定に再遺伝子移入し、細胞クローンをさらなる分析のために単離した。(a)ACTC1又はGAPDHマウス抗体で標識した総タンパク質抽出物の免疫ブロット。ヒストグラムは、Image Jを使用して評価した、GAPDHに対するACTC1シグナルの比を示す。ポンソーレッド染色膜を図24aで示す。(b)培養上清中の分泌IgGタイターを,流加培養の13日間にわたりダブルサンドイッチELISAにより評価した。
図26】ETEクローンにおけるアクチン重合化レベル。 (a)ACTC1を過剰発現する代表的なトラスツズマブクローン(ACTC1_Clone2)からの、又は空の発現ベクターを遺伝子移入した対照クローン(Empty_Clone2)からの細胞におけるF-アクチンの代表的なSir-アクチン蛍光染色。未染色細胞を陰性対照として使用した。(b)フローサイトメトリー分析からのSir-アクチン染色の平均蛍光シグナル。 全部で2x10個の細胞を、1つの状態あたり分析した。グラフで例示されるデータは、4つの独立したクローンのアッセイからの平均±SEMを表す。P<0.05(t検定;両側;不等分散)。
図27】ETEクローンにおけるアクチン重合化レベル。 フローサイトメトリーから得られた、試験した全てのトラスツズマブクローン、ACTC1を過剰発現するクローン(ACTC1_クローン)からの又は空の発現ベクターを遺伝子移入した対照クローン(空_クローン)からの細胞でのF-アクチンのSir-アクチン蛍光ヒストグラム。未染色細胞を陰性対照として使用した。
図28】それらのF-アクチン重合化レベルによる治療用タンパク質産生細胞プールの選別。 (a)SiR-アクチン染色により処理したトラスツズマブ発現ポリクローナル集団のフローサイトメトリー分析の代表的なヒストグラム。未染色対照及び他の分析を図S4で示す。全部で510個の細胞を、取得ごとに分析し、この中で、細胞0.4~1.410個を、示されるように、それらの低、中又は高アクチン重合化(pol.)レベルに従いサイトフルオロメトリーにより選別した。(b)選択した細胞を抗生物質含有培地に移し、続いて、免疫蛍光染色サイトフルオロメトリーによるIgG細胞表面提示の分析を行った。(c)パネルBの選別細胞のIgG分泌アッセイ。ヒストグラムは、6つの細胞プールからの平均値±SEMを表す。**低アクチン重合化カテゴリーと比較してP≦0.02(t検定;両側;対応あり)。
図29】それらのアクチン重合化レベルに従うトラスツズマブ発現細胞プールの選別 図5のレジェンドに記載のとおりの、Sir-アクチン染色により処理したトラスツズマブポリクローナル集団のフローサイトメトリー分析の代表的ヒストグラム。上のヒストグラムは未染色対照細胞に相当し、下のものは、独立したSir-アクチン染色細胞プールのサイトメトリー分析を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
高産生細胞、従って関心のあるタンパク質を産生する細胞、例えば、標準的培地で増殖する対応する細胞よりも高レベルでのビタミン欠乏細胞、における特異的なオルタネーション(alternation)を同定した。特に、関心のあるタンパク質産生の所望のレベルを支持する代謝因子。代謝においてどのような変化が、CHO細胞の稀なサブ集団における特異的なCHO細胞遺伝子の過剰発現からもたらされるか又はそれに関連付けられるかを調べた。このようにして、関心のあるタンパク質の高産生能に関連したCHOタンパク質合成の増加と結びつけられるCHO細胞遺伝子発現の変化を同定した:生成物、特にその合成が高い組み換えタンパク質産生と関連したタンパク質を、代謝影響生成物(MIP)、特にRNAコードタンパク質と呼んだが、非コードRNAとも呼ぶ。従って、ビタミンB5選択又は従来の手段の何れかを用いて選択した高産生CHO細胞のmRNAレベルを比較して、高産生細胞の特異的なホールマークであるmRNAレベル変化を同定した。
【0024】
図1は、様々なタイプの選択された高産生細胞と対照細胞の間で行った細胞選択アプローチ及び比較を例示する。
【0025】
表1は、様々なアプローチにより同定された候補MIPコード遺伝子のリストを提供する。代謝関連MIPは、PPAR又はFoxa1のような転写因子などの調節タンパク質であり得ることに留意すべきであり、それらの上昇したmRNA及びタンパク質レベルは、次に、脂質及び糖異化反応遺伝子又は例えばmRNA翻訳機構の構成成分、アクチンなどの細胞の構造タンパク質又はCa3又はCDK15などの細胞生存因子をコードする同化遺伝子などの、それらの標的遺伝子並びに代謝遺伝子そのものの発現を活性化し得る。
【0026】
実際に細胞代謝特性の向上を引き起こす遺伝子及びタンパク質を同定するために、候補MIPを、例えば治療用タンパク質を発現するCHO細胞において発現させて、その発現上昇が関心のあるタンパク質産生の向上を引き起こすか否かを決定した(図2~3)。他のMIP(例えば二次MIP)の発現に対するFoxa1又はPPARなどの過剰発現調節MIP(例えば一次MIP)の効果、及びそれらが、細胞代謝、例えば脂質、アセチルCoAなどの脂質前駆体及び乳酸などの副産物の代謝を合わせて改善し、それにより細胞の代謝適応度をおそらく改善し、それが次に治療用IgGなどの関心のあるタンパク質の産生をさらに増加させ得るか否かを評価した。或いは、アクチンなどの過剰発現構造MIPが合成増加をもたらし、それにより関心のあるタンパク質の産生をもたらすか否かも試験した。これらの図は、一部であるが全てではないMIP候補が、発現容易な(ETE)トラスツズマブ抗体及び/又は発現困難な(DTE)インフリキシマブ抗体の産生を増加できることを例示する。ある特定のMIPは、1つの、例えば治療用タンパク質の産生を改善するが、別の治療用タンパク質の産生は改善しないことが明らかにされ得た。
【0027】
本発明による、哺乳動物細胞、例えば組み換え哺乳動物細胞などを含む真核細胞は、細胞培養条件下で維持可能である。このタイプの細胞の非限定例は、NS0及びSp2/0細胞を含む、HEK293(ヒト胚性腎臓)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞及びマウス骨髄腫細胞である。CHO細胞の修飾型はCHO-K1及びCHO pro-3を含む。好ましい一実施形態では、SURE CHO-M細胞(商標)株(SELEXIS SA,Switzerland)を使用する。これらの真核細胞の細胞性タンパク質は、真核細胞に遺伝子移入されている関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子の発現を支持する。これらの細胞性タンパク質は、とりわけ、脂質代謝、シグナル伝達、タンパク質輸送、転写及び翻訳、細胞輸送、タンパク質修復、タンパク質フォールディング及び細胞接着に関与し、これらは全て、関心のあるタンパク質をコードするこれらの導入遺伝子の発現のために必要とされ、他の種、例えばヒトなどにおいて、代謝影響生成物(MIP)、特にタンパク質としてそれらの対応物であるものとみなされ、また表1で示されるもののような非コードRNAともみなされる。これらのMIPを発現する1つ以上の導入遺伝子(MIP導入遺伝子)は、本明細書中に記載のMIP真核発現ベクターを介して細胞に付加され得る。或いは、又はさらに、内在性MIP発現(即ち1つ以上のMIPをコードする細胞のゲノムにおける核酸の発現)は、PPARアゴニストベザフィブラートなどの、MIPを発現する内在性遺伝子を含む、MIPの発現に直接又は間接的に影響を及ぼす1つ以上の物質の添加を介して、又はプロモーター交換を介して刺激されてよく、ここでこのような内在性MIPは異なる外因性プロモーター又は内在性プロモーターの調節下に置かれ、プロモーターのそれぞれがこのようなMIPの特異的な発現レベルと関連し、従ってこのような内在性MIPの発現を変更するために使用され得る。好ましくは、本発明による選択されるMIPは、その発現が、細胞が選択されるMIPの1つ以上を含むベクターを遺伝子移入されていない場合の導入遺伝子の発現レベルを超えるレベルで発現される、関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子も有する(一般に、本明細書中で担体ベクターと呼ぶ、個々のベクター上であるが、必ずしもではない)細胞をもたらす、MIPである。MIPをコードする核酸は一般に、細胞又はヒト対応物のコード配列(CDS)を含むか又はそれからなる。表1はいくつかのMIPを示す。
【0028】
一次MIPは、それらの標的遺伝子の、及び二次MIPの発現を上昇させ、調節タンパク質、例えば次のものなどを含む:
Foxa1(フォークヘッドボックスタンパク質A1)は、胚発生、分化した組織における組織特異的な遺伝子発現の確立及び遺伝子発現の調節に関与する転写因子であり、「パイオニア」因子として作用すると考えられ、それ故に他のタンパク質に対して凝縮クロマチンを開くと考えられ、Foxa1の場合は、ヌクレオソームコアヒストンとの相互作用を介し、それにより標的エンハンサー及び/又はプロモーター部位でリンカーヒストンを置き換えると考えられる。
【0029】
PPAR(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)は、リガンド活性化転写因子である。PPARは主に、3つのサブタイプ;α、β/δ及びγで存在し、これらのそれぞれは、多様な脂肪酸(FA)及びFA由来分子の生理学的作用に介在し、FA代謝に関与する。PPAR-β/δの活性化は脂肪酸代謝を促進する。従って、PPARファミリーは、細胞におけるエネルギーホメオスタシス及び代謝機能において主要な調節の役割を果たす。全てのPPARは、レチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体化し、標的遺伝子のDNA上の特異的な領域に結合する。これらのDNA配列は、PPRE(ペルオキシソーム増殖因子ホルモン反応エレメント)と呼ばれる。PPREのコンセンサス配列は、単一のヌクレオチドスペーサーと一方向的に並べられる2つのAG-GTCA-様配列から構成される。一般に、この配列は、遺伝子のプロモーター領域で生じ、PPARがそのリガンドを結合するとき、標的遺伝子の転写が遺伝子に応じて増減する。PPREを伴うプロモーター領域、TATAボックス及び転写開始部位は、抑制的なクロマチン構造に位置し得る。PPAR/RXR/コリプレッサー複合体へのリガンドの結合は、リガンド活性化PPAR/RXR複合体からのコリプレッサーの放出を引き起こす。活性化PPAR/RXR複合体は、PPREに結合し、クロマチンでの構造変化を誘発し、ヒストンH1が放出される。PPRE結合PPAR/RXRは、活性化補助因子-アセチルトランスフェラーゼ複合体をプロモーターへ標的化する。活性化補助因子-アセチルトランスフェラーゼ複合体は、ヒストン尾部をアセチル化し(Ac)、それにより転写活性構造を生じさせる。さらなる転写因子(TF)及びRNA Pol II開始複合体が、到達可能なプロモーターに動員され、転写が開始される。図4は、PPARにより制御されると見出されたB5標的遺伝子を強調し、その殆どは脂質代謝へと最終的に供給される。
【0030】
PPARを活性化する内在性リガンド(内在性アゴニスト)は、遊離脂肪酸及びエイコサノイドを含む。PPARは、多くの薬物の分子標的でもある(外因性アゴニスト)。例えばフィブラート、例えばクロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベザフィブラート及びフェノフィブレートなどはPPARαを活性化する。これらは、高トリグリセリドを特徴とするコレステロール障害に適応される。ベザフィブラートは、PPARβ/δ及びPPARγである他のタイプのPPARも活性化し、従って汎PPAR活性化因子とみなされる。抗糖尿病チアゾリジンジオン(TZD)はPPARγを活性化し、糖尿病などインスリン抵抗性を特徴とする疾患に対して使用される。GW501516(GW-501、516、GW1516、GSK-516としても知られる)はPPARδ受容体アゴニストである。合成化学ペルフルオロオクタン酸はPPARαを活性化し、一方で合成ペルフルオロノナン酸は、PPARα及びPPARγの両方を活性化する。
【0031】
二次MIPは、PPAR及び/又はFoxa1などの一次MIPの過剰発現の結果として発現されるMIPである。本明細書中の他の箇所に記載のように、閾値レベルを超えて関心のあるタンパク質を発現する細胞は、閾値レベルを超えて関心のあるタンパク質を発現しなかった細胞で観察されないレベルでPPAR及び無関係のMIPを発現しただけでなく、その発現がHmgcs2、Acot1及びCyp4a14などのPPARにより影響を受けることが知られているか又はそのように考えられたMIPも発現した。Ca3及びRassf9は、Foxa1転写標的であり、従って二次MIPであり得る。以下で論じたMIPは二次MIPであってもよいし又はそうでなくてもよい。
【0032】
構造MIP
細胞骨格は、細胞形状及び機械的変形への抵抗性(Mays,Beck,& Nelson,1994)、タンパク質合成(Hudder,Nathanson,& Deutscher,2003)、タンパク質輸送及び分泌(Paavilainen,Bertling,Falck,& Lappalainen,2004;Stamnes,2002)、細胞成分の連結(Knull & Walsh,1992)及び代謝チャネリング(Aon & Cortassa、2002)などの、複数の細胞プロセスに必要とされるアクチン微小繊維、微小管及び中間径フィラメントのネットワークを含む。さらに、モノクローナル抗体産生の増加は、アクチン、チューブリン又はアクチニン結合コフィリンなどの細胞骨格タンパク質の顕著な増加と相関した(Dinnis et al.,2006)。最近の試験は、アクチンフィラメント発現増加などの、細胞骨格の主要な変化に付随する細胞外付着マトリクスの破壊により、接着細胞から浮遊CHO細胞が発生したことを示しており、これは、インテグリンとの適正な相互作用、ずり応力に対する抵抗性及び浮遊での細胞増殖に必要とされる(Walther,Whitfield,& James,2016)。従って、アクチンフィラメントレベルの細胞骨格組織化及び調整は、mRNA翻訳からタンパク質分泌まで、浮遊細胞の適応性及び組み換えタンパク質発現に影響し得る。
【0033】
構造MIPは、細胞構造に直接寄与し、例えばアクチンを含む。アクチン単量体は重合化して、複数の多様な細胞プロセスでの基本的役割を有するダイナミックネットワークへと編成するフィラメントを形成する。アクチンネットワークの代謝回転は、細胞移動、細胞接着、細胞形態の変化、小胞輸送及び細胞質分裂を含む、複数の細胞プロセスを推進する。ACTC1は、心臓サルコメア細フィラメントの主要なタンパク質であり、これは心臓の筋収縮機能に寄与する。一致して、ACTC1欠乏は心疾患に主に関連付けられている(Debold et al.,2010;Wang et al.,2016)。
【0034】
シグナル伝達、小胞輸送活性及び細胞接着に関与するMIPは、例えばTagap(T細胞活性化GTPase-活性化タンパク質)、Rassf9(Ras結合ドメインファミリーメンバー9)を含む。
【0035】
Rassf9遺伝子によりコードされるタンパク質は核周囲エンドソームに局在する。このタンパク質は、ペプチジルグリシンアルファアミド化モノオキシゲナーゼと会合し、分泌又はエンドソーム経路を介してこの酵素の輸送に関与し得る。Clstn3(カルシンテニン3)は、カルシウム介在性シナプス後シグナルを調整し得る。
【0036】
TAGAPは、シグナル伝達タンパク質であるだけでなく、細胞骨格組織化(上記ACTC1参照)にも関与する。このようにTAGAPは、胸腺細胞の接着喪失及び胸腺細胞及びT細胞の細胞骨格再組織化に関与する(Connelly et al.,2014;Duke-Cohan et al.,2018)。TAGAP遺伝子の変更は、様々な自己免疫疾患と関連付けられている(Eyre et al.,2010)。
【0037】
mRNA翻訳などの細胞の基礎的代謝に関与するMIPは、例えばアスパラギニル-t-RNAシンテターゼを含む(さらなる例については表1参照)。
【0038】
タンパク質フォールディングに関与するタンパク質(タンパク質フォールディングタンパク質も)は、シャペロン活性を有すると考えられるErp27(小胞体タンパク質27.7kDa)を含み、ERp57は、小胞体(ER)の内腔タンパク質及びタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーのメンバーである。ERP44は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼでもあり、小胞体-ゴルジ界面でのタンパク質品質管理に関与する。
【0039】
細胞生存及び/又は増殖タンパク質は、細胞増殖、アポトーシス、細胞分化及び胚発生を調節するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼの大きなファミリーに属するCDK15(サイクリン依存性キナーゼ15)を含む。Ca3(炭酸脱水酵素3)は、二酸化炭素の可逆的な水和に関与する。
【0040】
アポトーシスに関与するタンパク質は、CFLAR(CASP8及びFADD様アポトーシス調節因子)又はSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)を含む。
【0041】
グルタチオン異化反応に関与するタンパク質は、GCLM(グルタミン酸-システインリガーゼ修飾因子サブユニット)又はGGCT(ガンマグルタミルシクロトランスフェラーゼ)を含む。
【0042】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの真核細胞(本明細書中で真核宿主細胞又は単に宿主細胞とも呼ぶ)は、組み換え治療用タンパク質の産生のための工業的工程で広く使用されている。例えばCHO細胞、NSO、BHK及びヒト胚腎臓-293(HEK-293)の生存能は、ビタミン取り込みに依存する。哺乳動物細胞は、それらを合成し得ず、従って哺乳動物はそれらを、その食事から得なければならない。ビタミンの主要な機能は、アセチル-CoA生合成などの様々な酵素反応において補助因子又は補酵素として作用することである。流加培養バイオリアクター産生状態中のビタミン欠乏が、分泌された組み換え治療用タンパク質のタイターに関して、細胞クローンの生存能及びそれらの生産性を向上させるために使用され得ることが示された。これらの効果は、例えばB5又はHビタミンのレベルを低下させることにより得られた。ビタミン代謝タンパク質は、細胞においてビタミン利用可能性を向上させ得、特にビタミン輸送タンパク質は選択可能マーカーとして働き得る。従って、その最も単純な形態で、あるビタミンが欠乏している培地中で、選択可能マーカーとしてそれぞれのビタミン輸送タンパク質を発現する組み換え真核細胞は、それぞれのビタミン輸送タンパク質を発現しない細胞よりも良好に増殖し得る。ナトリウム-マルチビタミン輸送体SLC5A6は、B5及びHビタミンの両方に対する輸送タンパク質として特徴づけられている。ビタミン代謝タンパク質の他の例は、パントテン酸キナーゼ1、2又は3を含む。パントテン酸キナーゼは、補酵素A(CoA)の生合成における重要な調節酵素である。
【0043】
導入遺伝子は、本発明の状況で使用される場合、ある種のタンパク質をコードする単離デオキシリボヌクレオチド(DNA)配列である。MIPの場合、導入遺伝子DNA配列は、非コードRNAもコードし得る。導入遺伝子という用語は、本発明の状況において、遺伝子移入を介して真核宿主細胞などの細胞に導入されるDNA配列を指す場合に使用される。従って、導入遺伝子は常に外因性であるが、異種であっても又は相同であってもよい。
【0044】
外因性核酸は、本明細書中で使用される場合、参照される核酸が宿主細胞に導入されることを意味する。外因性核酸の起源は、発現する相同の又は異種の核酸であり得る。対応して、内在性という用語は、遺伝子移入前に宿主細胞中に存在する核酸分子を指す。異種核酸という用語は、宿主細胞の種以外の起源に由来する核酸分子を指し、一方で相同核酸という用語は、宿主細胞と同じ種由来の核酸分子を指す。従って、本発明による外因性核酸は、異種の又は相同の核酸の何れか又は両方を利用し得る。例えば、ヒトインターフェロン遺伝子のcDNAは、CHO細胞中で異種外因性核酸であるが、HeLa細胞では相同外因性核酸である。同様に、表1で示されるMIPをコードする遺伝子は、CHO細胞にベクターを介して導入される場合、外因性核酸であり、このような外因性核酸は異種(例えばヒト、マウス、E.コリ(E.coli))又は相同(例えばクリセチュラス・グリセウス(Cricetulus griseus))である。
【0045】
MIP導入遺伝子とは別に、本発明によるいくつかの導入遺伝子は、治療用タンパク質、従って免疫グロブリン(Ig)及びFc融合タンパク質を含む治療活性があるタンパク質などの、関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子である。インフリキシマブ(Remicade)又は第VIII凝固因子などのある特定の免疫グロブリンは、細胞内のボトルネックの特徴が殆ど不明なため、発現させることが著しく困難である。本発明のMIP発現ベクター、組み換え真核細胞及び方法を活用して、これらのボトルネックが同定され得、及び/又は除かれ得る。
【0046】
関心のあるタンパク質などの導入遺伝子を発現するクローンの、IgG生産性などの比生産性は、一般に第3日~第7日の産生相中に計算される積分生存細胞数(IVCD)に対するIgG濃度の勾配として決定され、pg/細胞及び/日(pcd)として表される。
【0047】
発現容易な(ETE)導入遺伝子、特に治療用タンパク質などの関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子は、10pcdを上回るレベルでCHOにおいて、標準培地中で発現される。ETE導入遺伝子の例はトラスツズマブ抗体である。
【0048】
発現困難な(DTE)導入遺伝子、特にタンパク質、特に治療用タンパク質などの関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子は、一般に10pcdを下回るレベルでCHOにおいて標準培地中で発現される。DTE導入遺伝子の例は、インフリキシマブIgG1(Remicade)、エタネルセプトFc-融合(Enbrel(登録商標))又はベバシズマブ又は第VIII凝固因子などの他の分泌タンパク質、並びにインターフェロンベータタンパク質をコードする導入遺伝子である。本明細書中で使用される場合、導入遺伝子という用語は、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター又はエンハンサーなどの非転写隣接領域を含まない。
【0049】
本発明によるベクターは、別の核酸、例えばMIPをコードする核酸などを細胞中に輸送できる核酸分子である。例えば、プラスミドは、あるタイプのベクターであり、レトロウイルス又はレンチウイルスは別のタイプのベクターである。ある実施形態では,ベクターは遺伝子移入前に直線化される。
【0050】
MIP発現ベクターは、発現ベクターに組み込まれたMIPの効率的な転写をもたらす、プロモーター、エンハンサー、遺伝子座調節領域(LCR)、マトリクス付着領域(MARs)、足場付着領域(SAR)、インスレーターエレメント及び/又は核マトリクス付着DNAなどの調節配列を含む。これらの制御調節配列は常には外因性であり、しばしば異種である(以下参照)。
【0051】
プロモーターは、コード配列の発現を制御できるDNA配列を指す。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は近位及びより離れた上流エレメントを含み、後者のエレメントはエンハンサーと呼ばれることが多い。従って、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激し得、相同又は異種であり得る、DNA配列である。
【0052】
MIP発現ベクター、また本明細書中で開示される何らかの他のベクター又は組み換え細胞は、CMV、EF1アルファ、CMV/EF1アルファ融合プロモーター、SV40、RSV、PGK及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上のプロモーターを含み得、これは、例えばそれぞれのプロモーターに特異的な発現レベルでMIPの何れか1つ又はその組み合わせを発現するために使用され得る。例えば、プロモーターCMV/EF1アルファ(一般に非常に強力なプロモーターと呼ばれる)は、CMV/EF1アルファプロモーター)に特異的な第1の発現レベル(=CMV/EF1アルファプロモーター発現レベル+/-5%又は10%)でそれぞれの遺伝子を発現するために使用され得、一方でプロモーターCMV(一般に、全長である場合は強力なプロモーターと呼ばれ(本明細書中で以後、「CMVプロモーター」)は、発現低下のための修飾全長CMVプロモーターとして提供される場合は弱いプロモーターと呼ばれ(「最小CMVプロモーター」と呼ばれることがある)、第2の発現レベル(=CMVプロモーター発現レベル+/-5%又は10%)でそれぞれの遺伝子を発現させるために使用され得、このとき、第1の発現レベルは、CMVプロモーターに特異的な第2の発現レベルを超える。発現させようとする関心のあるタンパク質のタイプに依存して、1つ又は他のプロモーターを使用し得る。これらのプロモーターは、ある特定の実施形態で誘導可能である。異なるプロモーターが、最低2つのプロモーターを含むプロモーターラダーの一部であり得る。
【0053】
1つ以上のプロモーターの導入及び/又は宿主細胞内の1つ以上のプロモーターの変異体の生成(本明細書中で「組み換えプロモーター」と呼ぶ)を含むプロモーター交換は、複数の発現レベル(例えばプロモーターラダー)、又は異なる調節特性(例えば選択遺伝子に対するより厳しい制御調節)を示し、例えば、CHO細胞などの真核細胞(宿主細胞)にとって内在性であるMIPの発現レベルを変化させるためにも使用され得る。
【0054】
プロモーターラダーは、プロモーター活性のレベルが異なる複数のプロモーターを含む。プロモーターラダーは、プロモーターの制御下で遺伝子の発現レベル、例えば第1の発現レベルを超える第2の発現レベル、を提供する活性とそれぞれ結び付けられる、2、3、4、5つ又はそれを超えるプロモーターを含み得る。プロモーターラダーは、内因性MIPの遺伝子と結びつけられ得るが、外因性対応物とも結びつけられ得る。ラダーは、ある特定のレベルで関心のある生成物を発現する導入遺伝子の発現のために必要とされるMIPレベルに依存して、プロモーターの切り替えを可能にする。このようなラダーは、異なるタイプのこのような導入遺伝子の状況で使用される発現レベルを最適化するためにも使用され得る。
【0055】
本発明による担体ベクターは、関心のあるタンパク質を発現する導入遺伝子を細胞に輸送するように適応された発現ベクターである。これは、調節配列も含み一般に、関心のあるタンパク質をコードする核酸及び任意選択的に抗生物質耐性遺伝子及び/又はナトリウムーマルチビタミン輸送体SLC5A6などのビタミン輸送タンパク質の挿入に適応される少なくとも1つの制限酵素切断部位を有する。発現ベクターはまた、複製起点も含有し得る。当業者が容易に理解するであろうように、関心のあるタンパク質を発現する導入遺伝子もMIPベクターに組み込まれ得る。
【0056】
トランスポゾンは、「カットアンドペースト」又は「コピーアンドペースト」機序を介してベクターと染色体の間で効率的に転位する、動く遺伝子エレメントである。転位中に、トランスポゾン系のトランスポサーゼ(例えばPiggyBacトランスポゾン系のPBトランスポサーゼ)は、トランスポゾンの両端に位置するトランスポゾン特異的な末端逆位反復配列(ITR)(何れかのトランスポゾン系に対して5’-及び3’ITRがある)を認識し、その含有物を元の部位から動かし、それらを染色体部位、例えばTTAA染色体部位などに組み込む。例えばPiggyBacトランスポゾン系の強力な活性は、2つのITRの間にある関心のある遺伝子が標的ゲノムに容易に移動することを可能にする。PiggyBacトランスポゾン系は、例えば、その全体において参照により本明細書中に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0154070号明細書に記載される(米国特許出願公開第2015/0361451号明細書も参照)。非ウイルスベクターの中で、トランスポゾンは、宿主ゲノム内の複数の遺伝子座で高頻度にDNA配列のシングルコピーを組み込むそれらの能力のため、魅力的である。ウイルスベクターとは異なり、いくつかのトランスポゾンは、優先的に細胞性遺伝子の近くに組み込まないことが報告され、従ってこれらは有害な突然変異を導入する可能性がより低い。さらに、トランスポゾンは、容易に作製され、取り扱われ、逆方向反復配列に隣接するカーゴDNAを含有するトランスポゾンドナーベクター/プラスミド(又は単に「トランスポゾンベクター」及びトランスポサーゼ-発現ヘルパーベクター/プラスミド(本明細書中で「トランスポサーゼ発現ベクター」とも呼ぶ。)又はmRNAから一般に構成される。いくつかのトランスポゾン系は、内因性トランスポゾンコピーを妨害することなく様々な細胞株でDNAを移動させるように開発された。例えば、元来イラクサギンウワバ(cabbage looper moth)から単離されたPiggyBac(PB)トランスポゾンは、カーゴDNAを様々な哺乳動物細胞中に効率的に転位させる。トランスポゾンドナープラスミドにおいて、エピジェネティック調節エレメントが、プラスミドベクター上で導入遺伝子の付近に置かれる場合に不要なエピジェネティック効果からカーゴDNAを守るために使用され得る。例えば、MARは、強力なヒトMAR1-68及びMAR X-29エレメントにより例示されるように、ヘテロクロマチン抑制を防ぎながら、カーゴDNAゲノム組み込み及び転写を向上させ得る。これらは、インスレーターとしても作用し得、それにより近隣の細胞性遺伝子の活性化を防ぐ。MARエレメントは従って、プラスミド又はウイルスベクターに関して、高く持続的な発現を媒介するために使用されてきた(その全体において参照により本明細書中に具体的に組み込まれる、米国特許出願公開第2015/0361451号明細書を参照)。
【0057】
MARエレメント(MAR配列又はMARとも呼ばれる)は、境界又はインスレーターエレメント、例えばcHS4、遺伝子座調節領域(LCR)、安定化抗リプレッサー(STAR)エレメント、ユビキタスに作用するクロマチンオープニング(UCOE)エレメントなど、又はヒストン修飾因子、例えばヒストンデアセチラーゼ(HDAC)も含む、エピジェネティック調節因子エレメントのより広い群に属する。
【0058】
MARエレメントは、それらが主に基づく同定されたMARに基づき定められ得る:従ってMARコンストラクトは、そのヌクレオチドの大部分(50%+、好ましくは60%、70%又は80%)がMAR S4に基づくMARエレメントである。A及びT含量が高いなどのいくつかの単純な配列モチーフは、MARS内で多く見出されてきた。一般的に見られる他のモチーフは、A-box、T-box、DNA巻き戻しモチーフ、SATB1結合部位(H-box、A/T/C25)及び脊椎動物又はショウジョウバエに対するコンセンサストポイソメラーゼII部位である。
【0059】
MARは一般に、核マトリクスが付着する真核染色体のDNA中の配列として特徴づけられる。MARの特性は、それらの一次構造によって部分的にのみ定められる。例えばATリッチ領域などのMARエレメントで見られる典型的な一次構造は、三次構造、即ちMARの機能を定めるある特定の湾曲をもたらすことが知られている。従って、MARは、それらの一次構造によってのみ定められるのではなく、それらの二次、三次構造、例えばそれらの湾曲の度合い及び/又は溶融温度などの物理的特性によっても定められることが多い。
【0060】
MARエレメントでよく見られるようなAT/TA-ジヌクレオチドに富む屈曲DNA領域(本明細書中で以後、「ATリッチ領域」と呼ぶ)は、多数のA及びTを、特にジヌクレオチドAT及びTAの形態で含む屈曲DNA領域である。好ましい実施形態では、これは、屈曲した二次構造を有しながら、100連続塩基対のストレッチ上で少なくとも10%のジヌクレオチドTA及び/又は少なくとも12%のジヌクレオチドAT、好ましくは100連続塩基対のストレッチ上で(又はATリッチ領域がより短い長さである場合、個々のより短いストレッチ上で)少なくとも33%のジヌクレオチドTA及び/又は少なくとも33%のジヌクレオチドATを含有する。しかし、「ATリッチ領域」は、約30ヌクレオチド以下くらい短くてよいが、好ましくは約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、約150、約200、約250、約300、約350又は約400ヌクレオチド長またはそれより長い。
【0061】
いくつかの結合部位も、SATB1結合部位(H-box、A/T/C25)及び脊椎動物に対するコンセンサストポイソメラーゼII部位(RNYNNCNNGYNGKTNYNY)(配列番号154)又はショウジョウバエに対するもの(GTNWAYATTNATNNR)(配列番号:155)など、比較的高いA及びT含量を有することが多い。しかし、結合部位のクラスターを含む、結合部位領域(モジュール)、特にTFBS領域は、領域の屈曲パターンの比較により、A及びT含量が高いMARエレメントからのAT及びTAジヌクレオチドリッチ領域(「ATリッチ領域」)とは容易に区別され得る。例えばヒトMAR1_68の場合、後者は約3.8又は約4.0を超える平均屈曲度を有し得、一方でTFBS領域は、約3.5又は約3.3を下回る平均屈曲度を有し得る。同定されたMARの領域は、本明細書中の他の箇所に記載のような相対融解温度などであるが限定されない、代替的な手段によっても確認され得る。しかし、このような値は、種特異的であり、従って種間で変わり得、例えばより低いものであり得る。従って、それぞれのAT及びTAジヌクレオチドリッチ領域は、約3.2~約3.4又は約3.4~約3.6又は約3.6~約3.8などの、より低い屈曲度を有し得、TFBS領域は、約2.7未満、約2.9未満、約3.1未満、約3.3未満などの、相対的により低い屈曲度を有し得る。SMAR ScanIIにおいて、それぞれより低い領域サイズが、当業者により選択される。
【0062】
いくつかの好ましい同定されたMARエレメントとしては、これら及び他のMARエレメントの配列の開示に対して本願に参照により具体的に組み込まれる国際公開第2005040377号パンフレット及び米国特許出願公開第20070178469号明細書で開示されるような全てのそれらの未熟型を含む、MAR1_68、MAR X_29、MAR1_6、MAR S4、MAR S46が挙げられるが限定されない。ニワトリリゾチームMARも好ましい実施形態である(MARエレメントのその開示に対して本明細書中にまた具体的に組み込まれる米国特許第7,129,062号明細書を参照)。
【0063】
ベクターが特異なMARを含むと言われる場合、これは、このベクターにおいて1つのMARがあり、このベクター内に同じ又は異なるタイプ又は構造の何れかの他のMARがないことを意味する。このような特異なMARは、ある実施形態では、例えば導入遺伝子組み込み部位と3’ITRの間に、例えば関心のあるタンパク質をコードする導入遺伝子の組み込み部位の下流に位置する。ある実施形態では、このような導入遺伝子は、MIPをコードするCDSであり、5’ITRと3’ITRの間に位置する。MARは、MIPをコードするCDSの3’末端でポリアデニル化シグナルに続き、ポリアデニル化部位と3’ITRの間に位置する。CMVプロモーター及び/又はCMV/EF1アルファ融合プロモーターなどのプロモーターは、5’ITR及びMIPをコードするCDSに位置する。
【0064】
遺伝子移入は、本明細書中で使用される場合、裸の又は精製された核酸又は、細胞へ、特に哺乳動物細胞を含む真核細胞へ特異的な核酸を運ぶベクタ’ ’ーを含む、核酸の導入を指す。何らかの公知の遺伝子移入方法が、本発明の状況で使用され得る。これらの方法のいくつかは、細胞に核酸を持ち込むために生体膜の透過性を促進することを含む。突出した例は、エレクトロポレーション又はマイクロポレーションである。本方法は、それ自身により使用され得るか、又は、宿主細胞への核酸の流入率を選択的に促進するために、音波、電磁気及び熱エネルギー、化学的透過性促進因子、圧力などにより支持され得る。リポフェクション又はウイルス(形質導入とも呼ばれる)及び化学に基づく遺伝子移入を含む担体に基づく遺伝子移入などの、他の遺伝子移入方法も、本発明本発明の範囲内である。しかし、細胞の内部に核酸を持ち込むあらゆる方法を使用し得る。一過性遺伝子移入細胞は、短時間の期間、遺伝子移入RNA/DNAを運び/発現し、それを伝えない。安定な遺伝子移入細胞は遺伝子移入DNAを継続的に発現し、それを伝え:外因性核酸は細胞のゲノムに組み込まれる。本発明による安定な遺伝子移入細胞は、例えば、その中でMIP導入遺伝子がトランスポゾンベクターでの遺伝子移入の後で細胞のゲノムの一部になる、細胞を含む。
【0065】
完全培地中で増殖する細胞は、標準的な濃度で利用可能な全てのビタミンを有する。標準的な濃度を、本明細書中で1Xと呼ぶ。B1、B5及びH(1X)について標準的濃度を、それぞれ7.5μM、2.5μM及び0.5μMに設定した。B5は、CHO細胞に対して10-4X~10-3X(0.25~2.5nM)前後の増殖制限濃度範囲を有すると決定され、一方で10-2X以上の濃度は正常な培養物増殖を可能にした。B1の制限濃度は、CHO細胞の場合10-5X(15pM)~10-4X(150pM)であると決定され、一方でそれは、Hに対して10-5X(5pM)よりも低かった。
【0066】
上記ビタミンの制限濃度を有する培地(限定培地又は欠乏培地)中で、濃度は、完全培地(1X)中に存在する個々のビタミンの上記標準濃度に対して、1X未満、例えば10-1X、10-2X、10-3X、10-4X、10-5Xである。ビタミンの濃度は、濃度が標準参照培地中の濃度を超える場合、飽和しているとみなされる(本明細書中で「飽和培地」とも呼ばれる)(例えば完全培地中で見出される量の2X、3X、4X、5X又は10X)。
【0067】
本発明は、とりわけ、制限培地中で細胞の増殖及び/又は分裂が抑止され得、かつ細胞が最大の抑止された/発現レベル([g/1]での「MA/EL」)で関心のあるタンパク質の産生を引き起こすMIPを生成する、という事実を利用する。関心のあるタンパク質が、細胞抑止中に産生されるMIPをコードする遺伝子の1つ以上とともに細胞に同時遺伝子移入される場合、関心のあるタンパク質は、1つ以上のMIPが存在しないとき/細胞増殖及び/又は分裂が抑止されないとき、同じタイプの細胞により発現されるタンパク質の最大レベル([g/1]での「ML」)を超え得るMA/ELで産生され得る。MA/ELは、1,5xMLよりも大きいか、2xMLよりも大きいか、又はさらに2.5x若しくは3xMLよりも大きい。例えば、MIPと同時遺伝子移入されない組み換えCHO細胞などの、組み換え細胞により発現される、抗体などの関心のあるタンパク質のMLが約1g/Lの抗体であり得る一方で、1つ以上のMIPも発現する組み換え細胞により発現される抗体などの、関心のあるタンパク質のMA/ELは、約1.5g/L又は2g/Lの抗体又はそれを超え得る。
【0068】
発現系/ベクターは一般に、関心のあるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターで形質転換される真核細胞(宿主細胞、本明細書中で組み換え真核細胞とも呼ばれる)の選択を促進する、選択可能マーカー遺伝子を含有する。遺伝子により発現される選択可能なマーカー(又は「選択可能なタンパク質」)は、抗生物質耐性に基づくことが多い。例えばピューロマイシン耐性選択発現カセットは、ピューロマイシンの添加を介して、カセットで首尾よく形質転換されている細胞を同定するために使用され得る。しかし、抗生物質に対する耐性のない選択も可能である。本発明の状況において、ビタミン代謝タンパク質、特にビタミン輸送タンパク質は、単独又は他の選択可能マーカーとの組み合わせの何れかで選択可能マーカーとして働き得る。従って、その最も単純な形態で、B5(パントテン酸)、ビタミンB1(チアミン)及び/又はH(B8又はビオチン)などの1つのビタミンを欠く培地中で、選択可能マーカーとして個々のビタミン輸送タンパク質を発現する組み換え真核細胞は、個々のビタミン輸送タンパク質を発現しない細胞よりも良好に増殖し得る。しかし、本明細書中で論じられるように、標準的な培地中でさえも、ビタミン輸送タンパク質は、増殖の長所をもたらし、従って選択可能マーカーとして使用され得る。本発明の発現系は、例えば抗生物質耐性に基づく選択可能マーカー遺伝子に加えて、選択可能マーカーとして、ビタミン代謝タンパク質、特にビタミン輸送タンパク質、例えばナトリウム-マルチビタミン輸送体SLC5A6を含有し得る。
【0069】
本明細書中で開示されるポリヌクレオチド及びタンパク質配列と50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%を超える配列同一性を有する核酸及びタンパク質もまた、単独で又は本明細書中で開示される何らかの系(例えばベクター及び細胞)、細胞、方法及びキットの一部としての何れかで、本発明の一部である。本発明の核酸は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9個の又はそれを超えるヌクレオチドだけ、何れかの野生型配列とは異なり得る。多くの例において、個々の遺伝子/cDNAのCDSから構成される核酸が好ましい。
【0070】
配列同一性という用語は、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性の目安を指す。一般に、配列は、最大の一致が得られるように並べられる。「同一性」は、それ自体、当技術分野で認識される意味を有し、公開されている技術を用いて計算され得る(例えば:Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;及びSequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991を参照)。2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列間の同一性を測定するための多くの方法が存在する一方で、「同一性」という用語は当業者にとって周知である(Carillo,H.&Lipton,D.,SIAM J Applied Math 48:1073(1988))。
【0071】
何らかの特定の核酸分子が、例えばMIPをコードするある特定の核酸配列又はその一部と少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるか否かは、最初の配列アライメントのためのDNAsisソフトウェア(Hitachi Software,San Bruno,Calif.)など公知のコンピュータプログラム、続いて複数の配列アライメントのためのESEEバージョン3.0 DNA/タンパク質配列ソフトウェアを従来のように使用して決定し得る。
【0072】
アミノ酸配列が、例えばタンパク質の形態のMIP又はその一部と少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるか否かは、BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix,Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive、Madison,Wis.53711)などの公知のコンピュータプログラムを従来のように使用して決定し得る。BESTFITは、2つの配列間の相同性の最良のセグメントを見つけるために、Smith及びWatermanのローカル相同性アルゴリズム、Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)を使用する。多くのMIPは、よく研究されており、1つの、しかし多くは複数の保存領域を有する。当業者が認めるように、核酸/タンパク質配列の変化は好ましくは、排他的ではないが、個々のMIPのこのような保存領域外であることが好ましい。
【0073】
特定の配列が本発明による参照配列と例えば95%同一であるか否かを決定するために、DNAsis、ESEE、BESTFIT又は何らかの他の配列アライメントプログラムを使用する場合、パラメーターは、同一性のパーセンテージが参照核酸又はアミノ酸配列の全長にわたり計算され、かつ参照配列でのヌクレオチド総数の最大5%の相同性におけるギャップが許可されるように、設定される。
【0074】
導入遺伝子発現に対する選択されたMIPの影響
上記で論じられるように、Foxa1は一般に、過剰発現される場合、細胞生存能、生存細胞密度及び発現容易な及び発現困難な治療用タンパク質両方の産生を増加させる。この効果は、Foxa1介在性Tagap上方制御に割り当てられ得る。実際に、過剰発現される場合、Tagapは生存細胞密度を一時的に上昇させ得、発現容易な及び発現困難な治療用タンパク質のタイターの上昇が観察された。
【0075】
Tagapは、Rho GTPase活性化タンパク質(GAP)ファミリーのシグナル伝達タンパク質メンバーである。胸腺細胞において、それは活性RhoAの存在量を調節し、従って細胞骨格再構成及びβ1-インテグリン介在性接着の放出を促進し皮質から髄質への胸腺細胞の移動を可能にすることが示された(Duke-Cohan et al.,2018)。さらに、Tagap及び心筋アクチンアルファ(ACTC1)が、非常に高レベルで治療用タンパク質を産生するビタミンB5選択細胞において上方制御されることが分かり、Tagap過剰発現がACTC1の発現を上昇させ、これが続いて様々な治療用タンパク質の産生を増加させることが示された。従って、CHO浮遊細胞において、TAGAPは、細胞表面インテグリンへの細胞内細胞骨格シグナルに対する介在因子として機能し得、故に細胞増殖、生存能及び浮遊への適合を改善し得る。
【0076】
興味深いことに、球状のインテグリンクラスター化並びにアクチン含量の増加及び球状アクチン外筒の形成が、浮遊適応CHO細胞において観察された(Walther,Whitfield,& James,2016)。Tagapの発現上昇は従って、懸濁環境中のアクチン介在性の細胞適合を向上させることに寄与し得る。Tagap上方制御は、アクチン細胞骨格が分泌経路の制御に関与するので、治療用タンパク質分泌の改善にも寄与し得る(Stamnes,2002)。特に、Tras高産生クローンで上方制御される別の候補遺伝子、Arhgap42(Rho GTPase活性化タンパク質42)は、Rho GTPase活性化タンパク質であり、それは、アクチンストレス繊維及び接着斑に局在しかつ細胞運動性を促進することが示された(Hu et al.,2018;Luo et al.,2017)。さらに、Arhgap42はFoxa1標的遺伝子でもある。従って、Arhgap42発現は、好ましくはタイター及び生存細胞密度を上昇させるための、本発明の範囲内でもある。
【0077】
上記のように、ACTC1(アクチンアルファ心筋1)遺伝子は、心筋アルファアクチン合成に関与することが知られている。これは、CHO細胞などの組み換え真核細胞によるETE及びDTE治療用タンパク質の発現及び分泌を改善するためにも作用する。ACTC1レベルの上昇が全体的なアクチン重合化の低下を伴うことが観察され、細胞骨格の組織化が治療用タンパク質の発現又は分泌を制御するか又はこれに影響を与えることを示唆する。この観察を裏付けるために、自然に低下したアクチン重合化レベルを有するCHO細胞プールが、顕著により高いレベルの組み換えタンパク質を分泌することが示された。アクチン過剰発現細胞による治療用タンパク質の放出増大はIgG軽鎖及び重鎖mRNAの増加を伴わなかったので(データは示さない)、このアクチンの影響は転写後であると結論づけられた。
【0078】
データは、ACTC1過剰発現が過剰なアクチン単量体を蓄積し、これがG/F-アクチンとの細胞内バランスを撹乱し得、それにより観察されたF-アクチン重合形態の減少を引き起こすことを裏付ける。アクチンダイナミクス及び遺伝子発現の相互関係は、哺乳動物細胞において既に提案されている。例えば、F-アクチン破壊を誘発する化学剤での初代マウス細胞の処理が、翻訳及びタンパク質合成の広い阻害を誘発したこと及びこれが細胞ストレス応答を活性化したことが分かった(Silva,Sattlegger,& Castilho,2016)。ここで、自然発生的な又はACTC1過剰発現に誘発された何れかのアクチン重合化の減少は、CHO細胞による組み換えタンパク質発現の上昇にむしろ介在したこと、及び細胞分裂又は生存能を損なわなかったことが示され得た。F-アクチン脱重合化は、小胞及びタンパク質輸送を促進し得るアクチンアセンブリーのターンオーバーを誘発し得ることが推測され得る。例えば、コリフィンは、アクチン再組織化を誘導するアクチン脱重合タンパク質であり、それにより低分子及び小胞輸送の開口分泌を促進する(Birkenfeld,Kartmann,Betz,& Roth,2001)。同様に、より低いレベルの重合化アクチンについて選択されたCHO浮遊細胞は、より高い細胞骨格再組織化を示し得、これが次に組み換えタンパク質分泌を向上させ得る。しかし、及びACTC1過剰発現の別の好ましい効果は、早期解糖の細胞毒性乳酸副産物の蓄積を減少させることである。乳酸蓄積と細胞骨格の相互関係は、細胞骨格の撹乱が乳酸輸送体及び卵母細胞による移入を阻害できることを示す報告によって示唆され(Tosco,Faelli,Gastaldi,Paulmichl,& Orsenigo,2008)、CHO細胞アクチン脱重合化が毒性の細胞内乳酸濃縮物の蓄積を防ぎ得ることを示唆する。
【0079】
全体的に見て、いくつかの機序は、CHO細胞などの真核細胞によるタンパク質産生に対するアクチン過剰発現のポジティブな効果を説明し得、これは、これらの細胞の基礎的代謝及び解糖による、並びにタンパク質分泌の潜在的な活性化によるエネルギー産生の両方に関係し得る。要するに、ACTC1過剰発現及び/又はSiR-アクチン染色及び細胞選別を用いたF-アクチン重合化の自然発生的変化についてのアッセイは両方とも、安定な細胞プールからの高発現CHO細胞の単離を促進するために使用し得ることが示され得る。
【0080】
細胞骨格タンパク質及び細胞骨格組織化の調整を、バイオテクノロジー的目的のためにタンパク質産生を向上させるために使用し得ることが示され得る。
【0081】
上で記載のように、Erp27は、非フォールディングタンパク質に選択的に結合し、ERにおいてジスルフィドイソメラーゼErp57と相互作用するタンパク質である(Alanen et al.,2006;Kober et al.,2013)。また上で記されるように、Foxa1は、様々な器官の発生に関与するパイオニア転写因子である(Zaret & Carroll,2011)。これらのMIPの特異的な組み合わせの発現は、流加培養における細胞密度及び生存能の上昇、発現容易な並びに発現困難な治療用タンパク質のより高い産生及び活性酸素種の低下を引き起こすことが示され得、高効率の治療用タンパク質産生に対する新しい道をもたらす。表2は、親CHO細胞に対する、及びTrasポリクローナル細胞(PC)に対する、Tras高産生クローン(HPC)で上方制御される遺伝子を示す(図11~15)。
【0082】
ER局在タンパク質Erp27は、発現容易な及び発現困難な治療用タンパク質の両方の高レベル産生に関与するものとして同定された。Erp27はPDIファミリーの酸化還元-不活性メンバーであるという事実にもかかわらず、それは非フォールディングタンパク質に選択的に結合しかつジスルフィドイソメラーゼErp57と相互作用するので、おそらくタンパク質フォールディングに寄与すると思われる(Alanen et al.,2006;Kober et al.,2013)。著しく発現困難なタンパク質は、ミスフォールディングする傾向があり、非フォールディングタンパク質応答(UPR)は、発現困難なタンパク質の発現時に活性化されることが示された(Hansen et al.,2017で概説)。従って、Erp27及びErp57過剰発現はおそらく、ミスフォールディングされた発現困難なタンパク質の蓄積を減少させることに直接寄与し、それによりUPR誘導性アポトーシスを防ぐか又は遅らせる。これは、発現困難なタンパク質を発現する細胞におけるErp27及びErp57同時過剰発現時の細胞生存能及び生存細胞密度の上昇をよく説明する。Erp27及びErp57がERストレス時に上方制御されることが示された一方で(Bargsted,Hetz,& Matus,2016;Kober et al.,2013)、この上方制御は、大量のミスフォールディング組み換えタンパク質を取り扱うのに十分ではないかも知れない。治療用タンパク質の収量を向上させることに加えて、Erp27及びErp57の過剰発現はまた、抗体品質が細胞生存能と一緒に低下することが分かったので、生成物の品質の問題も防ぎ得る。(Kaneko,Sato,& Aoyagi,2010)。その一方で、トラスツズマブ抗体の高産生は、完全なUPR応答を惹起せず(Le Fourn et al.,2014)、これは、Erp57と組み合わせた、又は組み合わせないErp27過剰発現が細胞生存能を向上させず、これらの状態では生存細胞密度に対し影響がなかったか又は殆どなかったという知見と一致する。それにもかかわらず、CHO細胞のフォールディング能は、Erp27の適度の過剰発現がトラスツズマブタイターを増加させたという事実により示されるように、依然としてこれらの状態におけるボトルネックに相当し得る。
【0083】
ERにおけるタンパク質フォールディングがいくつかの治療用タンパク質の産生に対する制限段階であることが明らかにされた一方で、矛盾する結果が、治療用タンパク質産生に対するPDI及びErp57過剰発現の影響に関して発表された(Hansen et al.,2017で概説)。Ca3上方制御が、発現容易な及び発現困難なタンパク質高産生クローンにおいて、並びにFoxa1過剰発現細胞において、及び比較的低い程度でTagap過剰発現細胞において観察された。特に、Ca3は、H誘導性アポトーシスを阻害すること及びH誘導性ROS活性を低下させることが示された(Raisanen et al.,1999;Shi et al.,2018)。それは低酸素ストレスに対し細胞を保護することも示された(Di Fiore et al.,2018で概説)。重要なことに、ROSの蓄積が流加培養中に観察され、酸化ストレスが抗体の収率及びガラクトシル化に影響することが示された(Ha,Hansen,Kol,Kildegaard,& Lee,2018)。さらに、流加培養中の抗酸化剤バイカレイン又はS-スルホシステインの添加は、流加培養において細胞生存能及び抗体産生を改善した(Ha et al.,2018;Hecklau et al.,2016)。一致して、発明者らは、流加培養の最終日中のFoxa1過剰発現細胞中でのROS蓄積の低下、及び細胞生存能上昇を発見した。対照的に、Ca3過剰発現がTrasタイターの上昇をもたらした一方で、発明者らは、細胞生存能に対するポジティブ効果を全く観察しなかった。可能な説明は、Ca3が適正なレベルで過剰発現されなかったということである。細胞生存能のFoxa1介在性の上昇は他の遺伝子の活性化を必要とするという可能性もある。可能な候補はCDK15であり、それはTras高産生クローンにおいても上方制御され、かつアポトーシスから細胞を保護することが示されたが(Park,Kim,Kim,& Chung,2014)、CDK15がFoxa1標的遺伝子であるか否かはまだ調べられていない。
【0084】
最後に、Rassf9上方制御も、発現容易な及び発現困難な高産生クローンにおいて並びにFoxa1過剰発現細胞において観察された。Rassf9は、エンドソームのリサイクルと関連することが示され、複合的な膜タンパク質とのその相互作用を介して小胞輸送を調節することが提案された(Chen,Johnson,& Milgram,1998)。その過剰発現はTras14に対してのみ治療用タンパク質タイターの上昇をもたらし、Tras6については上昇させないが、これが治療用タンパク質の分泌に関与するという可能性がある。
【0085】
全体的に見て、いくつかのCHO細胞遺伝子の上方制御が、様々な発現容易な及び発現困難な治療用タンパク質の産生収率の改善に寄与することが観察され得る。興味深いことに、これらのCHO遺伝子のいくつかは、Foxa1転写活性化因子により上方制御されると思われる。従って発明者らは、Foxa1発現上昇が高レベル治療用タンパク質産生に好ましい転写プログラムを誘発し得、かつこれが関心のある組み換えタンパク質の産生を改善するための好都合なアプローチを提供すると結論づける。本発明は非限定例により以下で説明する。
【0086】
実施例
MIP候補選択
RNA Seq概要
B5選択中に細胞で起こる遺伝的及び代謝的変化を解読した。そのようにするために、非選択細胞とB5、及び非選択細胞と抗生物質を比較して、RNASeqによるトランスクリプトーム分析(図1A)を行った。その発現がAB選択とB5選択の間で顕著に上方制御された遺伝子(P>0.5で少なくとも1.5倍上昇)を同定し、ETE及びDTE組み換え細胞株の両方で検出した。B5選択標的としての31個の遺伝子候補を見出した(表1)。
【0087】
これらの遺伝子の発現パターンを2つのカテゴリーに分類し得る(図1B)。候補遺伝子の殆どを含んだ第1のカテゴリーは、抗生物質(AB)選択時に組み換えタンパク質を遺伝子移入した後、遺伝子発現低下を示した(上のグラフ)。しかし、遺伝子発現は、B5選択組み換え細胞において改善された。この発現パターンに対する仮説は、遺伝子転写が、高量で組み換えタンパク質を産生するための細胞機構に対する競合ゆえに困難であるということであった。それどころか、B5選択は全般的な細胞適応度及び代謝を改善し得、これは標的遺伝子発現の改善をもたらし得る。
【0088】
第2の発現パターン(図1B下のグラフ)について、標的遺伝子が、非遺伝子移入細胞と比較した場合、AB及びB5選択細胞の両方において誘導され、B5選択細胞において発現がより高かった。この場合、標的遺伝子は、組み換えタンパク質に応答して誘導され得、組み換えタンパク質産生及び細胞からの分泌の異なる段階の何れかに関与し得るか、又は炎症応答により引き起こされる解毒過程の一部であり得る。
【0089】
B5選択は、酵素及びトランスポーターなどの主に代謝遺伝子において変化を誘導した(9個/31個の標的遺伝子)。B5選択はB5欠乏による一次代謝の変化に基づくので、相当な数の標的遺伝子が多様な細胞代謝の一部であることが予想された。
【0090】
驚くべきことに、これらの遺伝子の5個は脂質代謝に関与した。文献をより深く見ることにより、発明者らは、それらの3個、Hmgcs2、Acot1及びCyp4a14が、共通の転写因子、PPARの標的であったことを見出した(Rakhshandehroo et al.,2010)。
【0091】
ヒドロキシメチルグルタリルCoAシンターゼ2(Hmgcs2)は、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAと縮合させてHMG-CoAを形成することによりケトン体生成の第1の反応を触媒する、ミトコンドリアのタンパク質をコードする。これは、飢餓動物の肝臓における脂肪酸の代謝運命を決定する(Vila-Brau et al.,2011)。
【0092】
Acot1は、遊離脂肪酸及び補酵素A(CoASH)へのアシル-CoAの加水分解を触媒する、アシル-CoAチオエステラーゼをコードする。これは長鎖脂肪酸代謝に関与する。
【0093】
チトクロムP450であるCyp4a14は、マウスにおいて肝臓損傷、炎症及び線維症に関与することが示されている(Zhang,2017)。
【0094】
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)は、核ホルモン受容体のスーパーファミリーに属するリガンド活性化転写因子であり、栄養ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たす(Kersten et al.,2000)。3つの異なるPPARサブタイプ:PPARα、RRARβ/δ及びPPARγが知られている。全てのPPARが核内受容体RXRとヘテロ二量体を形成し、続いてその標的遺伝子のプロモーターに位置するPPAR応答エレメント(PPRE)配列に結合する。PPARによる転写の活性化は、PPARへのリガンド結合、標的遺伝子へのPPARの結合、コリプレッサーの除去及び活性化補助因子の動員、クロマチン構造のリモデリング及び最終的には遺伝子転写の促進を含む多くの異なる段階に依存する(Michalik et al.,2006)。PPARは、脂質及び炭水化物代謝、血管生物学、組織修復、細胞増殖及び分化及び性差において機能する遺伝子発現を調節する(Wahli et al.,2012)。従って、研究は、B5選択とPPAR標的活性化をもたらすPPAR活性化の間にリンクがあるか否かを調べるために、PPAR及びPPAR標的に焦点を当てた。
【0095】
注目された別の標的遺伝子は、アクチン合成に関与するACTC1遺伝子であった。細胞骨格組織化は、タンパク質の合成及び分泌などの多くの細胞構成成分(Hudder et al.,2003)又は代謝ネットワークの安定性(Aon及びCortassa,2002)にとって重要である。従って、組み換えタンパク質産生の増加は、分泌経路(ERシャペロン)及び代謝機序(Dinnis et al.,2006)の向上と一緒に細胞骨格の向上と相関し得る。最近の試験は、浮遊CHO細胞が、それらの皮質下アクチン外筒を強化するために、それらの細胞骨格の再組織化により接着細胞から発達したことを示した(Walther,2016)。従って、アクチン調整は、浮遊細胞適応度及び組み換えタンパク質産生に影響を有し得る。
【0096】
治療用タンパク質に対する高生産性と関連する遺伝子の同定
CHO細胞による高レベルでの治療用タンパク質の産生に関連する発現変化を示す遺伝子を同定し、治療用タンパク質産生を改善するための新しい細胞操作候補として試験した。この目的のため、トランスクリプトーム分析を行って、3つの異なるタイプの細胞を比較した:高い細胞密度を維持し、細胞あたり及び1日あたり分泌されるTras 19.3pg(pg/細胞/日)の平均の比生産性及び細胞4330万個/mLの平均最大生存細胞密度(VCD)を示しながら高レベルで発現容易なトラスツズマブ(Tras)抗体を産生するCHO細胞クローンを分析した。これらの細胞株を、導入遺伝子を安定に発現する細胞の抗生物質選択後に得られたTrasポリクローナル細胞集団(比生産性7.4pg/細胞/日、細胞3630万個/mLの最大VCD)と、及び非遺伝子移入親CHO細胞と、比較した(図1c)。
【0097】
候補遺伝子を、2つの基準に従い選択した:最初の113個のmRNAを選択し、それらは親CHO細胞と比較した場合、Tras高産生クローンで顕著に上方制御された(図1c)。ポリクローナルTras発現細胞プールと比較した場合に高産生クローンで上方制御された1774個のmRNAも選択した。51個のmRNAが、両基準と一致し、その上方制御された発現がTras高生産性と関連し得る32個の遺伝子に対応することが分かった。(図1c、表2)。候補遺伝子のmRNAレベルの変化を、RT-qPCRを使用して異なる試料においてさらに確認した(図16、データは示さない)。驚くべきことに、オントロジー分析は、候補タンパク質コード遺伝子がシグナル伝達及び細胞接着に大きく関連したことを示した(表2、図1d)。タンパク質フォールディング(Erp27)、細胞生存(Ca3、Cdk15、Vegfd)、細胞増殖(Clstn3)、小胞輸送(Rassf9、Clstn3)及び細胞骨格組織化(Mybpc2、Tagap、Arhgap42)に関与する遺伝子も同定したが、これらは、治療用タンパク質産生に影響することが以前に提案された細胞機能である(表2、図1d、Baek et al.,2015;Fischer et al.,2015;Hansen et al.,2017)。興味深いことに、これらの候補遺伝子の殆どが、親CHO細胞におけるそれらの発現と比較した場合、別の発現容易な抗体、ベバシズマブ及び発現困難なインターフェロンベータタンパク質を高レベルで産生するCHO細胞クローンにおいても上方制御された(データは示さない)。これは、候補遺伝子上方制御が高トラスツズマブ抗体生産性を示す細胞にのみ関連するのではないことを示し、従って、このような候補遺伝子が様々な発現容易及び発現困難治療用タンパク質の高レベル産生に関与し得ることを示唆した。
【0098】
ETE及びDTE CHO細胞株の産生に対する、PPAR、ACTC1のポジティブ効果及び様々な起源の他のMIP候補のポジティブ効果の概説を、図4~10で例示する。
【0099】
図1及び表2は次のことを示す:
・トラスツズマブ高生産性と関連する遺伝子は、タンパク質フォールディング、細胞生存、小胞輸送及び細胞骨格リモデリングに関与する遺伝子を含む。
・パイオニア転写因子であるFoxa1は、トラスツズマブ高産生クローンにおいて上方制御され、治療用タンパク質産生に好都合である転写応答を活性化し得る。
・B5選択は、脂質代謝遺伝子における変化を誘導した。
・PPAR転写因子は、いくつかのB5標的脂質遺伝子の調節因子であると思われる。
・アクチン産生を通じた細胞骨格調節及び形態は、細胞適応度及び組み換えタンパク質産生に寄与し得る。
【0100】
コメント図1及び表1:
トランスクリプトーム分析を、トラスツズマブ高生産性と関連する遺伝子を同定するために行った。この分析において、CHO-M WT細胞と比較してトラスツズマブ高産生クローンで上方制御された遺伝子を選択し、トラスツズマブ産生についてポリクローナルである細胞と比較した(図1C)。高生産性に関連する32個の遺伝子を同定した(候補遺伝子、表1)。重要なことに、これらの遺伝子の発現はトラスツズマブ高生産性の原因又は結果であり得る。さらなる焦点を、それらの機能に基づいて治療用タンパク質生産性を改善し得る可能性のある候補遺伝子に当てた(図1D)。
【0101】
トラスツズマブ(ETE)及びインフリキシマブ(DTE)産生に対するこれらの異なるMIP Erp27、Erp57、Ca3、CDK15、Rassf9、Clstn3、Tagap及びFoxa1)の影響の概要を、図2及び3で提供する。
【0102】
治療用タンパク質高産生クローンで見出されたMIP候補
候補遺伝子の過剰発現はトラスツズマブ産生を上昇させる(図2):
図2A図2Eは、発現容易な(ETE)抗体であるトラスツズマブ産生に対する候補MIPの影響を示す。この目的のために、速い細胞分裂を維持する2つのトラスツズマブ中産生クローンを、トランスクリプトーム分析のために使用したトラスツズマブポリクローナル集団から単離した。これらのクローンに、MIP発現のためにプラスミドを安定に遺伝子移入した(Tagap、Rassf9、Erp27、Erp57、Erp27+Erp57、Clstn3、CDK15、Ca3及びFoxa1)。トラスツズマブ産生を、流加培養の様々な時間でこれらの安定集団において評価した。SRP14の過剰発現を陽性対照として使用し、GFPを発現するか又は空のベクターを遺伝子移入した細胞を陰性対照として使用した。Rassf9、Foxa1及びCa3の過剰発現はトラスツズマブ産生を上昇させた一方で、Erp57、Clstn3及びCDK15過剰発現及びErp27及びErp57同時過剰発現はトラスツズマブ産生に影響しなかった。Tagap過剰発現は、トラスツズマブ産生に対する可変であるが時にポジティブな効果を有した。強く過剰発現される場合、Erp27はトラスツズマブ産生を低下させ、僅かに過剰発現される場合、それはトラスツズマブ産生を増加させた。データベースによれば、Ca3及びRassf9はFoxa1転写標的である。Ca3及びRassf9の過剰発現は実際に、Foxa1過剰発現細胞において見出された。これらの結果は、Foxa1過剰発現がトラスツズマブ産生を改善する遺伝子の転写を誘導することを強く示唆する。
【0103】
まとめると、以下のことが分かった:
・Rassf9、Ca3及びFoxa1過剰発現は、トラスツズマブ産生を向上させる。
・強く過剰発現される場合、Erp27はトラスツズマブ産生を低下させ、一方で僅かに過剰発現される場合、これはトラスツズマブ産生を上昇させる。
・Erp57、Clstn3及びCDK15の過剰発現及びErp27及びErp57の同時過剰発現は、トラスツズマブ産生に影響しない。
・Foxa1転写応答はトラスツズマブ産生に対して好都合な環境を生じさせ得る。
【0104】
特異的な候補MIPの過剰発現は、発現困難な(DTE)抗体である、インフリキシマブ産生を増加させる(図3):
図3A及び図3Bは、発現困難な(DTE)抗体、インフリキシマブ産生に対する候補MIPの影響を示す。インフリキシマブ産生クローンに、MIP発現のためにプラスミドを安定に遺伝子移入した。インフリキシマブの産生を、流加培養の異なる時間でこれらの安定集団において評価した。空ベクターを遺伝子移入した細胞を陰性対照として使用した。Erp27又はErp57の発現はインフリキシマブ産生を増加させなかった一方で、Erp27及びErp57の同時発現又はTagapの発現は、インフリキシマブ産生を増加させた。生存細胞密度は、流加培養第9日及び第11日でTagap及びErp27+Erp57を過剰発現する細胞についてより高かった。
【0105】
まとめると、Tagapの過剰発現及びErp27及びErp57の同時過剰発現は流加培養第6日及び第9日に生存細胞密度を上昇させ、インフリキシマブ産生を向上させることが分かった。
【0106】
Erp27は、非フォールディングタンパク質に結合する、小胞体に存在するタンパク質である(Kober et al.,2013)。タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)として最初に注解されたにもかかわらず、Erp27は酸化還元活性が全くない。特に、Erp27は、PDIの非触媒性b及びb’ドメインを含有するが、これは、ジチオール-ジスルフィド交換を触媒するのに必要とされるCXXC活性部位を欠く(Alanen et al.,2006)。それはしかし、PDI Erp57と相互作用することが知られており、これがジスルフィド結合形成を惹起する(Alanen et al.,2006)。Erp57の発現上昇は特に、CHO細胞においてトロンボポエチン生産性を上昇させることが見出された(Hwang et al.,2003)。
【0107】
単独で又はErp57とのErp27過剰発現は治療用タンパク質産生を改善する。
Erp27がインビトロ及びインビボでジスルフィドイソメラーゼErp57に結合することが示されたので(Alanen et al.,2006)、Erp27-Erp57複合体が治療用タンパク質フォールディングに関与し、産生の利点をもたらすという仮説が立てられた。
【0108】
この仮説を、トラスツズマブ分泌レベルに対するErp27及びErp57過剰発現の影響を評価することにより評価した。この目的のために、クローンを、トランスクリプトーム分析のために以前使用されたトラスツズマブポリクローナル集団から単離し、流加培養で速い細胞分裂速度を維持しながら高生産性(ポリクローナル集団の場合の1.8倍)を示すクローンを選択した。特に、このクローンのErp27 mRNAレベルは、流加培養第0日又は第8日に親CHO細胞と比較した場合、3~6倍上方制御されることが分かった(図11a)。その一方、Erp57 mRNAレベルは、第0日でCHO親細胞及びTras産生クローンと同様であり、一方でクローンにおいて僅かな1.2倍の上方制御が、第8日に観察された。このクローンにErp27及び/又はErp57発現ベクター又は対照としてGFP発現ベクターを安定に遺伝子移入し、選択したTrasのレベルを、ポリクローナル集団の流加培養法中に評価した。
【0109】
Erp27同時発現あり又はなしでのErp57過剰発現時に、生存細胞密度は流加培養法第6日に上昇し、一方で細胞生存能は第10日に低下した(図17a、b)。全体的に、Erp57過剰発現細胞のTrasタイターレベルは、対照細胞と同様であった(図11b)。その一方、流加培養中の増殖及び細胞生存能は、Erp27過剰発現により影響されなかった(図17a、b)。しかし、Erp27過剰発現は、Trasレベルの低下をもたらし、これはまたErp57同時発現時にも認められた(図11b)。Erp27過剰発現はTras産生クローンと比較した場合Erp27 mRNAレベルの非常に大きな増加をもたらしたことが見出され(図17c~d)、このような過剰発現レベルがこれらのタンパク質活性の代謝的な不均衡をもたらし、従ってTras発現をむしろ減少させることを示唆する。安定に遺伝子移入された細胞におけるErp27発現ベクターの量は、したがって漸減された。実際に、Trasレベルの14%の上昇がErp27の過剰発現低下時に観察された(図11c及び図17e)。全体的に、この結果は、Erp27の過剰発現を調整することがTras産生を増加させたことを示した。
【0110】
トランスクリプトーム分析は、Erp27mRNA発現が高レベルで発現困難なインターフェロンベータを発現するクローンにおいても増加されたことが示したので(データは示さない)、発現困難な治療用タンパク質の産生に対するErp27及びErp57過剰発現の影響が何であるかをさらに評価した。インフリキシマブキメラ免疫グロブリン(Infli)及びエタネルセプトFc-融合を、発現困難な治療用タンパク質の2つのさらなる例として使用した。Trasについて得られた結果と対照的に、InfliタイターはErp27過剰発現時に影響を受けず、むしろインフリキシマブ発現クローンでのErp57過剰発現時に低下した(図11d及び17f、g)。しかし、Erp27及びErp57の同時過剰発現は、それぞれ流加培養第9日及び第11日に、GFP発現対照細胞と比較して、インフリキシマブタイターの61%及び72%の上昇をもたらした(図2d)。さらに、Erp27及びErp57同時過剰発現は、流加培養第9日に生存細胞密度及び細胞生存能の上昇をもたらした(図11e及び17h)。
【0111】
エタネルセプト産生クローンにおけるErp27及びErp57同時過剰発現の効果も評価した。Erp27及びErp57を同時発現する単一サブクローンを単離し、それらの生産を、ClonePix(登録商標)細胞コロニーイメージング装置を使用して評価した。最も幅広いエタネルセプト分泌ハロを示す細胞コロニーを、Erp27及びErp57過剰発現又は対照細胞集団から単離し、派生した細胞クローンを流加培養においてエタネルセプト産生について評価した。生存細胞密度及び細胞生存能はErp27及びErp57過剰発現時に促進され、生存細胞の平らな相が延長し、タイターが37%上昇した(図11f~h)。まとめると、これらの結果は、Erp27の中程度の過剰発現が発現容易治療用タンパク質の産生を増加させること、及びErp27及びErp57の合わせた過剰発現が生存細胞密度、細胞生存能及び異なる発現困難な治療用タンパク質を産生する細胞のタイターを促進し得ることを裏付ける。
【0112】
Foxa1過剰発現は、トラスツズマブ産生を増加させ、酸化ストレスを低下させる。
驚くべきことに、トラスツズマブ高産生に関連する32個の遺伝子の中で、Foxa1と呼ばれるパイオニア転写因子があることが分かった。Foxa1は、治療用タンパク質産生に好ましい転写応答を活性化し得る。Foxa1は抑制的なヘテロクロマチン構造に結合し得、ここでそれは他の転写因子と独立して遺伝子発現を動けるようにし得る(概説として、Zaret & Carroll,2011を参照)。それは、肝臓、膵臓、肺及び前立腺などの異なる器官の発生に関与する(Friedman & Kaestner,2006)。従って、発明者らは、Foxa1がTrasなどの治療用タンパク質の産生に好都合な転写プログラムを活性化し得るという仮説を立てた。
【0113】
一致して、Foxa1 mRNA発現は、流加培養法の第0日及び第8日に親CFIO細胞と比較して、Trasクローンにおいて上昇し、それぞれ1.5及び2.1倍の上方制御があった(図18a)。3倍の上方制御が、トランスクリプトーム分析において親CFIO細胞対照と比較してTras高産生クローンで観察され、従って、Foxa1発現がさらに上昇され得ることを示唆する(表2参照)。従ってTras産生クローンにFoxa1発現ベクターを安定に遺伝子移入した。強いCMV/EF1アルファプロモーター制御下でのFoxa1の安定な発現は、抗生物質介在選択中の細胞死の上昇をもたらした(データは示さない)。しかし、最小CMVプロモーターによるこの強いプロモーターの置換は、この不要な効果を抑止し、Foxa1過剰発現時に最終Trasタイターを57%上昇させ(図12a)、一方でFoxa1 mRNAは、流加培養第0日及び第8日にそれぞれ40倍及び14倍上方制御された(図12d、e)。流加培養における細胞増殖は、Foxa1過剰発現を対照細胞と比較した場合に、第6日まで同様であった一方で、Foxa1過剰発現細胞は、第9日まで分裂し続け、平均3100万個/mLの生存細胞密度に到達し、一方で対照細胞は第8日に細胞1900万個/mLでピークに達した(図12b)。さらに、Foxa1過剰発現細胞の生存能は、第9日まで90%を上回ったままであり、一方で対照細胞生存能は第7日から低下し、第9日には75%を下回った(図12c)。
【0114】
Ca3、Rassf9及びTagapは、Tras産生クローンにおいてFoxa1過剰発現時に上方制御される。
いくつかの研究は、流加培養法において細胞生存を延長させることにより生産性が改善され得ることを明らかにした(概説についてはKim et al.,2012を参照)。同定された32個の遺伝子の中で、Ca3及びCDK15(図2b参照)は細胞生存を促進する。Ca3は、酸化ストレスから細胞を保護することにおいて作用し(Di Fiore et al.,2018)、一方でCDK15は、アポトーシスから細胞を保護する(Park et al.,2014)。これらのタンパク質の過剰発現は従って、流加培養において細胞の寿命を延長させ得、従って生産性を改善する。
【0115】
治療用タンパク質分泌におそらく関与し得る輸送小胞において見出された2つのタンパク質、Rassf9及びClstn3にさらなる焦点を当てた(Chen et al.,1998;Rindler et al.,2007)。
【0116】
Tagapは、胸腺細胞の接着喪失及び胸腺細胞及びT細胞の細胞骨格再組織化に関与するシグナル伝達タンパク質である(Connelly et al.,2014;Duke-Cohan et al.,2018)。同様に、アクチンに対して、Tagap過剰発現は、浮遊に対する細胞適応を改善し得、細胞骨格再組織化を惹起し得、従って分泌を改善する。特に、TagapはB5選択細胞においても過剰発現された。
【0117】
Foxa1がパイオニア転写因子であるという事実は、それがトラスツズマブ重鎖(HC)及び軽鎖(LC)導入遺伝子の転写を直接上昇させ得ることを示唆した。しかし、トラスツズマブHC及びLC mRNAレベルで顕著な変化はFoxa1過剰発現時に観察されなかった(図18b)。Foxa1が介在するトラスツズマブタイターの上昇が、Tras高産生クローンにおいてまた上方制御されるCHO細胞遺伝子の転写活性化の結果によるものであることを確認すること(表2)。Harmonizome(登録商標)ウェブポータルを、可能性のあるFoxa1標的遺伝子を同定するために使用した(Rouillard et al.,2016)。従って、Tras高産生クローンで上方制御されると同定された25個のタンパク質コード遺伝子のうち11個は、Foxa1遺伝子そのものを含み、Foxa1標的遺伝子であることが予想された(表2)。従って発明者らは、これらの遺伝子がトラスツズマブ産生クローンにおいてFoxa1過剰発現時に上方制御されたか否かを試験し、Ca3及びRassf9が流加培養第8日にFoxa1過剰発現時に高度に上方制御され、一方で他のFoxa1の可能性のある標的遺伝子の発現は顕著に変化しなかったことを明らかにした。(図12)。さらに、Erp27はFoxa1過剰発現細胞において上方制御されなかった一方で、Tagap候補遺伝子の上方制御が観察され、これはまた非常に高レベルで治療用タンパク質を産生するビタミンB5選択細胞において上方制御されることも分かった。特に、流加培養第0日にFoxa1過剰発現細胞においてRassf9、Ca3及びTagap mRNA上方制御もあり、それらの上方制御がFoxa1過剰発現細胞において第8日に観察される高細胞増殖の結果ではなかったことを示唆する(図12e)。Ca3は酸化ストレスから細胞を保護することが示されているので(Di Fiore,Monti,Scaloni,De Simone,& Monti,2018で概説)、細胞内活性酸素種(ROS)のレベルを、反応性蛍光色素カルボキシ-HDCFDAを使用して評価した。興味深いことに、第3日に、Foxa1過剰発現細胞においてROSレベルの僅かな上昇があった一方で、ROSレベルは第6、8及び9日にFoxa1過剰発現細胞で低下した(図12f)。
【0118】
Ca3及びTagap過剰発現はトラスツズマブ産生を上昇させる。
Foxa1過剰発現に起因するTrasタイター上昇がCa3、Rassf9及び/又はTagap上方制御の結果であるか否かを試験するために、3つの候補遺伝子をTras産生クローンにおいて安定に過剰発現させ、流加培養から得られたTrasタイターを評価した。一致して、より高いTrasタイターがTras産生クローンにおいてTagap過剰発現時に得られ、一方でCa3又はRassf9の過剰発現からは影響が検出されなかった(図13a)。生存細胞密度の上昇が、Tagap過剰発現時、培養第6及び第8日に観察され、最大生存細胞密度は第8日に細胞3100万個/mLであった(図13b)。しかし、細胞生存能は、第9日から始まって強く低下した(図13c)。Tagap過剰発現時のTras産生の増加は、流加培養法延長時の細胞生存能低下がTagap過剰発現から観察されたにもかかわらず、Foxa1過剰発現時に得られたレベルと同様であり、タイターは1331μg/mLであった(図12a~c及び13a~c)。Tras HC及びLCの僅かな発現上昇(それぞれ1.6及び1.3)も、Tagap過剰発現時に観察された(図19a)。
【0119】
興味深いことに、Ca3発現の10倍の上昇もTagap過剰発現時に観察された(図13d)。Ca3過剰発現単独の影響の欠如が好ましくない発現レベルに起因するものであり得るか否かを評価するために(図13a~c)、安定な細胞株を確立するために使用した発現ベクター量を滴定した。トラスツズマブタイターの僅かな上昇が、より高いCa3過剰発現レベル時に得られたが、一方で生存細胞密度及び生存能は影響されなかった(図13e及び図19b及びデータは示さない)。結論として、Tagap過剰発現はFoxa1介在性のトラスツズマブタイター上昇を繰り返し、一時的に生存細胞密度を向上させ得る一方で、それは流加培養の終了時に細胞生存能をむしろ低下させた。従って、全体的に、培養中の細胞生存能及び細胞増殖に対する及びタンパク質タイターに対するFoxa1のポジティブ効果は、いくつかの標的遺伝子の発現に対するその影響に起因し得ると結論づけられた。
【0120】
Foxa1は発現困難な治療用タンパク質の産生も改善する。
発現困難なインフリキシマブの分泌に対するFoxa1過剰発現の影響をさらに評価した。印象的なことに、インフリキシマブ産生はFoxa1過剰発現時に2倍近くになり、Foxa1 mRNAレベルが8.2倍上昇したときに、378μg/mLの平均タイターが観察された(図14a、e)。特に、Foxa1過剰発現細胞は、第6日から始まる第9日までの生存細胞密度の顕著な上昇を示し、第7日に細胞1220万個/mLの最大生存細胞密度に到達し、一方で対照細胞は、細胞860万個/mLの生存細胞密度にしか達しなかった(図14b)。一致して、発明者らは、細胞生存能はFoxa1発現細胞において顕著に高いままであり、対照細胞で第7日から観察される細胞生存能の破壊を防いだことを認めた(図14c)。これにはFoxa1過剰発現細胞における第7及び8日でのROS蓄積の低下が付随した(図14d)。Tras産生クローンでのFoxa1過剰発現時に観察されたものと同様に、Ca3、Rassf9及びTagap mRNAレベルもFoxa1過剰発現時に上方制御された(図14e)。一致して、発明者らは、Tagap過剰発現時にインフリキシマブ産生の45%上昇を得、283μg/mLの平均タイターをもたらした(図15a)。従ってTagap過剰発現がFoxa1介在性のTrasタイター上昇を繰り返し得る一方で、それはFoxa1誘導性インフリキシマブタイター上昇を部分的にしか模倣しなかった。Tras産生クローンについて観察されるように、Tagap過剰発現は、インフリキシマブクローンに対する生存細胞密度の急激な上昇をもたらし、最大生存細胞密度は第6日で細胞1200万個/mLであった(図15b)。しかし、Foxa1過剰発現細胞とは対照的に、細胞生存能はTagap過剰発現時に殆ど不変のままであった(図15c)。特に、インフリキシマブ産生クローンにおけるTagap過剰発現は、Ca3 mRNAレベルの上方制御ももたらした(図15d)。まとめると、これらの結果は、Foxa1過剰発現がCHO細胞での発現困難並びに発現容易治療用タンパク質の産生レベルを上昇させるために使用され得ること、及びこの効果が一部にはFoxa1介在性のTagap発現レベル上昇に起因し得ることを示した。
【0121】
B5選択で見出されたMIP候補(PPAR)
図5A及び図5Bは、PPREレポーター配列あり又はなしでのABとB5選択細胞の間で観察されたDsRed(Discosoma sp.Red)活性の顕著な上昇を示し、DsRed発現がPPAR活性化から独立して誘導されることを示す。この誘導は、AB選択細胞を超えるB5の全体的な適応性向上により説明され得る。
【0122】
しかし、mPPARαを外部から添加した場合、DsRed活性は、PPREレポーターの制御下にあるときのみB5選択細胞において顕著により高くなった。この結果は、B5選択が、細胞により飢餓ストレスとして感知され得るおそらくB5選択中に、未知のPPARアゴニストを構成的に産生する安定な細胞を生じたことを示す。従って、外因性PPARαは、AB選択細胞と比較した場合、B5選択細胞でより大きく活性化された。
【0123】
要約:
・未同定PPARアゴニストが、B5飢餓選択中に蓄積した。
・B5選択細胞でのより良好な適応度は、抗生物質選択細胞と比較して、全体的に良好な遺伝子発現をもたらす。
・外因性PPARαの活性化は、B5選択細胞においてより高く、抗生物質選択細胞と比較してより高いPPAR標的遺伝子発現をもたらす。
【0124】
図6A及び図6Bは、ベザフィブラート(2-[4-[2-(4-クロロベンズアミド)エチル]フェノキシ]-2-メチルプロパン酸)の活性を示す。ベザフィブラートは、一般的なPPAR汎アゴニストであることが報告されている(Wilson et al.,2000;Inoue et al.,2002)。
【0125】
それは既に、抗高脂血症薬として臨床で使用されている。3日間の流加培養後のETEへのベザフィブラート添加は、RNA-Seqスクリーニングで見出されたPPAR標的遺伝子HmgCs2及びAcot1並びに既知のPPAR標的DBI1、Ascl1(Rakhshandehroo et al.,2010)及びRXR核内受容体を誘導する(図6A)。Cyp4a14は、ベザフィブラート添加時に誘導されず、これは、他のアゴニスト又はPPARを通じた他の調節がこの遺伝子の発現を制御している可能性があることを意味し得る。興味深いことに、B5標的Slc22a14は、ベザフィブラートに応答して活性化された。Slc22a14遺伝子は、マウス雄妊孕性に関与していることが示されている(Maruyama,2016)が、PPAR応答と関連する機能は記載されていない。
【0126】
流加培養第3日でのベザフィブラートの添加は、流加培養過程中に飢餓ストレスに供する場合、細胞生存を顕著に改善したが(データは示さない)、IgG産生の改善は、通常の流加培養の栄養条件において観察されなかった(流加培養についてはM&M参照)。流加培養の第3日は細胞分裂の指数関数期に相当する。流加培養過程中のより早期(第1日)のベザフィブラートの添加は、流加培養終了時の組み換えタンパク質について有益であることが示された(図6B)。
【0127】
DTE細胞でもベザフィブラートを試験した。しかし、同じ標的遺伝子が誘導されるにもかかわらず、細胞産生及び適応性は改善されなかった。従って、ベザフィブラートを通じたPPAR活性化及び標的遺伝子誘導は、発現困難なタンパク質を合成する細胞のボトルネックを克服するには十分ではないと思われる。
【0128】
ベザフィブラートは、全てのPPAR活性化に対し強く幅広い効果を有するため、高濃度で細胞分裂及び代謝を変化させ得るので、ETE及びDTE細胞の両方でベザフィブラートを増量することは、細胞の分裂、生存能の両方及び組み換えタンパク質産生に対し何ら有益な効果を示さない(データは示さない)。
【0129】
まとめると次のことが分かった(図6参照):
・B5選択により同定されたPPAR標的は、CHO細胞において化学的に誘導され得る。
・B5標的として強調されるSlc22a14輸送体は、新しいPPAR標的であることが示される。
・この誘導は、ETE細胞におけるより良好なIgG産生をもたらす。
・DTEタンパク質を発現する組み換え細胞は、ベザフィブラート誘導により影響されない。
【0130】
完全非ストレス培地中で増殖させる場合、PPARα過剰発現(例えばPPARα_OE)は、野生型及び空ベクター細胞と比較して、PPAR標的遺伝子発現及びIgG産生における差異を何ら示さなかった。しかし、ベザフィブラートを添加した場合、PPARα_OE中に存在する外因性PPARαが活性化され、続いてPPAR-標的遺伝子並びにRXR核因子及びIgG軽及び重鎖の転写を誘導した(図7A)。この増加は、PPARα_OE細胞のより高いIgG生産性をもたらした(図7B)。
【0131】
まとめると次のことが分かった(図7A及びB):
・外因性PPARの活性化は、改善された細胞適応性を有するDTE細胞を生成させ得、これはDTE治療用タンパク質産生向上をもたらす。
【0132】
まとめると次のことが分かった(図8A~D):
・乳酸は、B5選択細胞において減少する。
・PPAR過剰発現は、CHO細胞において乳酸含量低下をもたらす。
【0133】
B5選択で見出されたMIP候補(アクチン)
図9は既に、アクチン遺伝子の過剰発現は、改善された治療用タンパク質産生を有するETE細胞を生成したことを示す。Fc融合発現クローンに転位性ACTC1発現ベクターを再遺伝子移入した。得られた細胞プールの比生産性を次に、3又は4日ごとのバッチ条件でのそれらの継代培養を通じて評価した。結果を、Fc-融合-対照細胞PCD値に対するPCDの倍率変化として表した。この結果は、浮遊CHO細胞におけるアクチン過剰発現は、細胞骨格組織化及び重合化を調整することにより治療用タンパク質産生及び分泌を改善し得ることを示唆する。
【0134】
さらなる実験において、CHO細胞に、ビタミンB5輸送体SLC5A6と一緒に又は対照としての抗生物質耐性遺伝子と一緒に、「発現容易な」(ETE)トラスツズマブ又は「発現困難な」(DTE)インフリキシマブ又はエタネルセプト(Enbrel(登録商標))治療用タンパク質をコードする発現ベクターを同時細胞移入した。細胞を次に、それぞれ、B5欠乏培地中で生存するためのそれらの適性について又は抗生物質耐性について選択し、異なって発現される細胞性遺伝子を、RNAシーケンシングにより同定した。抗生物質選択後、ACTC1及びTAGAPの両方の発現は非遺伝子移入細胞よりも低かったが、その一方でそれらはB5選択後に上昇した(図20a及び20b)。SLC5A6発現及びビタミンB5飢餓後のTAGAP発現の上昇を、抗生物質又はB5選択の何れかを使用して単離された4個の独立したトラスツズマブ発現CHO細胞株を使用して検証した(図20c)。
【0135】
B5選択後の遺伝子誘導は、以前の試験で見られるように、選択過程中に起こるB5飢餓(Pourcel et al.,2019)により、SLC5A6が細胞へのより高いビタミンB5取り込みを媒介するので(図20d)、SLC5A6そのものの過剰発現により、又は両効果の組み合わせにより引き起こされ得る。B5は、中枢代謝及びエネルギー代謝における重要な要因であるアセチルCoAに対する必須の補因子であり、これは細胞骨格制御に関連し得る。これらの可能性を区別するために、SLC5A6輸送体を過剰発現する細胞株をB5欠乏なしで作製し、それは、SLC5A6発現上昇はACTC1遺伝子を顕著に上方制御するために十分であることを示し、一方でTAGAP発現の有意でない上昇を認めた(図20e)。従って、B5選択過程は、SLC5A6過剰発現が介在するB5細胞内移入増加によりACTC1遺伝子発現を活性化し得、一方でTAGAP発現の顕著な増加は、SLC5A6過剰発現及びB5飢餓の両方の組み合わせを必要とした。TAGAP過剰発現がACTC1 mRNA及びタンパク質蓄積を増加させたことも観察され(図21)、B5選択過程に起因するACTC1発現上昇は部分的にTAGAPの上方制御によるものであり得ることを示唆する。
【0136】
組み換えタンパク質発現に対するACTC1過剰発現の効果を、いくつかのDTEタンパク質、例えばエタネルセプト(Enbrel(登録商標))Fc-融合又はベバシズマブ又はインフリキシマブIgG1などを発現する抗生物質選択細胞クローンにおいて、並びにETEトラスツズマブ免疫グロブリンを発現するクローンにおいて評価した。これらの細胞クローンに、別の抗生物質選択遺伝子と一緒にACTC1コード配列を再遺伝子移入し、続いてACTC1を過剰発現する抗生物質耐性細胞の選択を行った(図22a~c)。得られた細胞プールの比生産性を次に、3~4日後、バッチ培養条件で評価し、CHO細胞によるDTEタンパク質の産生に対するACTC1高レベル発現のポジティブ効果を示唆した(図23a~c)。インフリキシマブ産生ACTC1過剰発現細胞プールにおけるさらなる分析は、10日間の流加培養後にIgGタイターの顕著な上昇を示した(図23d)。
【0137】
次にACTC1を過剰発現する個々のクローンを分析した。そうするために、トラスツズマブ産生クローンにACTC1又は空の発現ベクターを再遺伝子移入し、単一コロニーを、Clonepix(登録商標)装置を使用して拾った。空ベクターが遺伝子移入された8個のクローン及び24個のACTC1発現クローンを、ACTC1転写物蓄積について検証し、その中で4個の対照クローン及び4個のACTC1高発現クローンを、さらなる分析のために無作為に拾った(図24a)。ACTC1タンパク質過剰発現を、ウエスタンブロットにより検証した(図25a及び24b)。この4個のACTC1過剰発現クローンの中で、3個は、空ベクタークローンと比較した場合、流加培養法13日後に最大IgGタイターを示した(図25b及び24c)。
【0138】
ACTC1過剰発現により誘発される治療用タンパク質分泌上昇が、細胞代謝の変化によるものであり得るか否かを決定するために、発明者らは、一次代謝マーカーを、ACTC1過剰発現細胞プールの質量分析により測定した。特に、発明者らは、治療用タンパク質産生に対するボトルネックとしてよく明らかにされている、解糖の早期の段階の毒性副産物である乳酸の蓄積を評価した(Lao&Toth,1997)。これは、対照細胞と比較した場合、バッチ培養において3日後にACTC1過剰発現細胞による乳酸蓄積の強い減少を明らかにした(図2e)。全体的に、発明者らは従って、ACTC1遺伝子過剰発現が様々な治療用タンパク質の分泌を顕著に改善した、かつこの効果は毒性乳酸代謝副産物の蓄積の減少に関連し得る、と結論付けた。
【0139】
組み換えタンパク質の分泌におけるアクチン重合化レベルの意義
発明者らは次に、アクチン重合化状態がACTC1過剰発現により影響を受け得るか否かを評価した。そうするために、発明者らはSiR-アクチン染色を利用したが、これはF-アクチンに特異的に結合し(Lukinavicius et al.,2014)、アクチン重合化に比例する染色細胞の蛍光レベルを生じる。対照クローンに対する、ACTC1及びトラスツズマブ発現クローンのSiR-アクチン-染色の比較は、ACTC1過剰発現クローンでよりも対照クローンでのより高い蛍光を明らかにし、アクチン重合化レベルがACTC1過剰発現により顕著に低下されたことを示す(図26a、b及び27)。
【0140】
アクチン重合化が組み換えタンパク質発現に影響し得るか否かをさらに評価するために、トラスツズマブタンパク質を発現するが、ACTC1ベクター遺伝子移入に供されなかった2つの独立したCHO細胞ポリクローナル集団をSiR-アクチンで染色した。染色した細胞を次に、それらの低、中又は高蛍光レベルに従い3つの独立した細胞バッチにおいて、選別して、各蛍光レベルについて6個の細胞プールを得た(図28a及び29)。重合化アクチンの低、中及び高レベルを示す細胞のIgG分泌レベル及びIgG比生産性を次に、評価した(図28b、c)。高SiR-アクチン染色細胞は、低SiR-アクチンを示す細胞よりも顕著に低いIgG発現レベルを示し、従って、アクチン重合化レベルが低い細胞ほど、ACTC1過剰発現なしでも、より高い組み換えタンパク質分泌を媒介するという結論を支持する。
【0141】
異なる治療用タンパク質発現CHOクローンの分泌に対するMIPの個々の又は組み合わせた発現の効果
コメント図10
ベバシズマブ発現クローン(図10A)、fc-融合発現クローン(図10B)及びfab-酵素-融合発現クローン(図10C)に、様々な個々の転位性CFLAR-、GCLM-、ACTC1-発現ベクター又はそれらの組み合わせを再遺伝子移入した。得られた細胞プールの比生産性を次に、3~4日ごとの調整したバッチでのそれらの継代培養を通じて評価した。結果を、それらの個々のベバシズマブ又Fc融合対照細胞PCD値の%として表した(pg-1.細胞-1.日-1)。
【0142】
要約図10
・CHO細胞による治療用タンパク質の分泌は、CFLAR、GCLM、ACTC1発現ベクターなどのMIPを発現するベクターの遺伝子移入後に増加した。
【表1】
【表2】
1親CHO細胞と比較して、及びTrasポリクローナル細胞と比較して、Tras高産生細胞クローンで上方制御される遺伝子を、次の基準に従い選択した:log2倍率変化>0.5及びp値<0.05。

2Harmonizomeウェブポータル(Rouillard et al.,2016)を使用して得られた、ChIP-seqデータセット(ENCODE Transcription Factor Targetsデータセット)及び低又は高スループット転写因子機能試験(TRANSFAC Curated Transcription Factor Targets Dataset)に従いFoxa1標的遺伝子として列挙される遺伝子。
【表3】
【表4】
【0143】
材料及び方法
MIP候補選択及び探索
候補遺伝子配列及びDNAベクターコンストラクト
RNAseq MIP候補のゲノム及びcDNA配列を、NCBI BLASTソフトウェアを使用して、マウスにおける相同遺伝子のアライメント後に決定した。転写物配列及び対応する遺伝子の蓄積を、SELEXIS CHO-M遺伝子発現データベースを使用して決定した。
【0144】
CHO-M(SURE CHO-M細胞株(商標)(SELEXIS Inc.,San Francisco,USA))、cDNAライブラリを、GoScript Reverse Transcription System(Promega)を使用して、10個のCHO-M細胞から単離される1μgトータルRNAからの逆転写(Nucleo-Spin(商標)RNAキット;Macherey-Nagel)により増幅した。
【0145】
MIPコード配列(CDS)を、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を切り出しそれをMIP CDSで置き換えることにより、pBSK_ITR_BT+_EGFP_X29_ITRベクター(SELEXIS Inc.,San Francisco,USA)にクローニングした。
【0146】
ベクターを次のように構築した:CDSを、制限部位を有するプライマーを使用してATGから終止までPCR(PHUSION High-Fidelity DNA Polymerase;Finnzymes,THERMO FISHER SCIENTIFIC)によりCHO-M cDNAライブラリから増幅した。次に、cDNA産物及びpBSK_ITR_BT+_EGFP_X29_ITRベクターを、対応する制限酵素により二重消化した。最後に、cDNAを、同じ制限酵素での消化後にGFP配列が切り出されたpBSK_JTR_BTベクターにライゲーションした。
【0147】
pBSK_ITR_BT+_EGFP_X29_ITRベクターは、CMV/EF1アルファプロモーター及びBGHポリアデニル化シグナル、それに続くhMAR X-29から構成される発現カセットを含む。発現カセットには、piggyBacトランスポゾンの逆末端配列が隣接する。
【0148】
GFPタンパク質を、コード配列上流のヒトサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びヒトグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、それに続くサルウイルス40(SV40)ポリアデニル化シグナル、ヒトガストリンターミネーター及びSV40エンハンサーから構成される真核発現カセットを使用して発現した(Le Fourn et al.,2013)。pSG5_PPARαベクターを、Issemann及びGreen,1990から得た。
【0149】
ブラスチシジンベクター(pBlast)は、pRc/RSVプラスミドに由来するSV40プロモーター制御下でブラスチシジン耐性遺伝子を含有する(INVITROGEN/LIFE TECHNOLOGIES)。
【0150】
RNASeq分析
RNASeq分析のために使用した細胞は次のとおりである:
-CHO-M WT細胞
-ピューロマイシン及びB5で又はピューロマイシン単独で選択される、エタネルセプト(ENBREL)Fc-融合(発現困難な)を発現するポリクローナル細胞集団。
-ピューロマイシン及びB5で又はピューロマイシン単独で選択される、トラスツズマブIgG(発現容易な)を発現するポリクローナル細胞集団。
-ピューロマイシンで選択される、トラスツズマブIgG(発現容易な)を発現するクローン。
-ピューロマイシンで選択される、ベバシズマブIgG(発現容易な)を発現するクローン。
-ピューロマイシンで選択される、インターフェロンベータ(発現困難な)を発現するクローン。
【0151】
これらの細胞を、抗生物質選択を行わずにスピンチューブ中で4日間増殖させた。トータルRNAを、NucleoSpin RNAキット(Macherey-Nagel)を使用して細胞から単離した。RNA品質を、Fragment Analyzer(Advanced Analytical)を使用して評価した。RNA-seqライブラリ調製を、Illumina TruSeq(登録商標)stranded mRNA-seq reagents(ILLUMINA)を使用して、全部cDNAに逆転させた0.5μg~1μgを使用して、達成した。RNA-seqライブラリ100nt対末端のシーケンシングを、Illumina HiSeq 2500(登録商標)で行った。読み取りデータを、CHO-K1トランスクリプトームにマッピングした(RefSeq,2014)。
【0152】
細胞培養、安定な形質転換及び安定なポリクローナル株分析
浮遊チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-M)を、加湿空気中、37℃、5%CO2にてL-グルタミン(PAA,Austria)及びHTサプリメント(GIBCO,INVITROGEN LIFE SCIENCES)を補給したSFM4CHO Hyclone血清不含培地(SFM,THERMO SCIENTIFIC)中の浮遊培養において維持した。これらの実験のために使用される他の細胞培地は、ビタミンB1(チアミン塩酸塩;SIGMA ALDRICH)、ビタミンB5(DL-パントテン酸カルシウム;TCI)及びビタミンH(ビオチン、SIGMA ALDRICH)を補給したDeficient BalanCD CHO-M Growth A(B-CDmin;Irvine Scientific)である。
【0153】
CHO-M細胞に、製造者の推奨に従い、エレクトロポレーション(NEONDEVICES,INVITROGEN)によりpBSK-MIP、pBlast及びpCS2-U5-PBU3 IgG1-Hc又はIgG1-Lc発現ベクターを遺伝子移入した。安定な細胞株の産生を、3週間にわたり7.5μg/mLのブラスチシジンを補完したSFM4CHO培地を使用して達成した。
【0154】
GFP又はIgGを発現するGFP及びIgG1産生細胞ポリクローナル株を、次のようなさらなる実験のために選択した:ブラスチシジン選択の場合、細胞を、2週間にわたり10mg/mLブラスチシジンを補給したSFM培地中で播種し、次いでSFM培地が入ったウェルに5日間移し、次にSFM培地入りの50mLスピンチューブに移した。
【0155】
ピューロマイシン、次にB5での細胞の二重選択の場合、ポリクローナル安定細胞株を最初にピューロマイシンで選択し、次に細胞を、7日間にわたりB5選択培地中にて24ウェルプレート中細胞2万個/mLで播種し(B-CD完全培地を陰性対照として使用した)、次に7日間にわたりSFM完全培地ウェルに移し、次いでSFM培地が入ったピンチューブ(pin tube)に播種した。
【0156】
GFP陽性細胞の蛍光細胞及び蛍光密度のパーセンテージを、CyAn ADPフローサイトメーター(BECKMAN COULTER)を使用してフローサイトメトリー分析により決定した。細胞培養上清中の免疫グロブリン濃度を、サンドイッチELISAにより測定した。GFP、IgG1Lc、IgG1Hc及びMIP転写物蓄積を、分析前にRT-定量PCRアッセイにより確認した。
【0157】
表面IgG提示を、フローサイトメトリー(Beckman Coulter(商標))を使用してFACS分析により評価した。IgGを発現する安定なクローンを、FACS Aria III(BD)上での細胞選別により得て、増殖させ、IgG産生レベルについて分析した(サンドイッチELISA)。
【0158】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体反応エレメント(PPRE)及びPPAR活性化の測定のための一過性アッセイ
一過性遺伝子移入アッセイを次のように行った:CHO細胞に、pSG5_PPARαベクターなし又はありで、PPRE-TK-DsRed(Michalik lab.,University of Lausanneにより提供)又はTK-DsRed(PPRE配列を前のベクターから切り出した)を遺伝子移入した。pE-BFP2-Nuc(2xNLS)を内部遺伝子移入対照として使用した。それは、最小CMVプロモーターの制御下のeBFP2(高感度青色蛍光タンパク質2)コード配列及び核局在化配列NLSを含有する。細胞を、遺伝子移入後、Beckman Coulter Gallios Cell counter(登録商標)を使用してフローサイトメトリーにより48時間観察し、シグナルを、Kaluza Acquisition(登録商標)ソフトウェアにより分析した。DsRed活性(検出:638nm)を、BFP2マーカー(検出488nm)に対し標準化した。
【0159】
流加培養性能評価
流加培養における増殖及びIgG分泌性能を、次の変更を行ってLe Fourn et al.,2013に従い行った:MIPの発現のために安定に遺伝子移入したIgG産生クローンを、50mLファルコンにおいて5mL培地中で細胞30万個/mLで播種した。生存細胞密度及びIgGタイター(g/L)を、3、6、8、9、10及び13日後に評価した。
【0160】
定量的PCR分析
定量的PCR(qPCR)分析のために、トータルRNAを10個の細胞から抽出し、GoScript Reverse transcription System(Promega)を使用してcDNAに逆転写した。転写物蓄積を、LightCycler(登録商標)480SYBR Green I Master及びLightCycler 480II機器(Roche)を使用してqPCRにより定量した。転写レベルをSDHAハウスキーピング遺伝子に対し正規化した。
【0161】
代謝産物分析(代謝産物抽出、試料量正規化)
代謝産物抽出
代謝産物定量のために、細胞ペレットを、最良の中間物として1000μLの予め冷却したMeOH:HO(4:1、v/v)溶媒混合物で抽出して、タンパク質を効率的に沈殿させ、代謝を不活性化し、幅広い範囲の極性代謝物を抽出した。試料を次に、プローブ超音波処理して(4パルスx5sec)、細胞を完全に溶解させ、代謝産物抽出を改善した。タンパク質沈殿を促進するために、試料を-20℃で1時間温置し、続いて4℃にて13,000rpmで15分間遠心分離した。得られた上清を収集し、真空濃縮器(LABCONCO,Missouri,US)中で蒸発乾固した。次いで試料抽出物を、100μLのMeOH:水(4:1)中で再構成し、LC-MS系に注入した。
【0162】
タンパク質定量
タンパク質ペレットを蒸発させ、短時間プローブ超音波(5パルスx5sec)を使用して、20mM Tris-HCl(pH7.5)、4Mグアニジン塩酸塩、150mM NaCI、1mM Na EDTA、1mM EGTA、1%Triton、2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mMベータグリセロリン酸、1mM NaCO、1μg/mLロイペプチン中で溶解させた。BCAタンパク質アッセイキット(THERMO SCIENTIFIC,Masschusetts,US)を使用して、総タンパク質濃度を測定した(A562nm)(HIDEX,Turku,Finland)。
【0163】
データ取得-LC-HRMS
抽出試料を、70,000半値全幅(FWHM)の質量分解能で稼働するQ-Exactive(登録商標)機器(Quadrupole Orbitrap(登録商標)質量分析装置)(THERMO FISHER SCIENTIFIC)を使用して、負イオン化モードで高解像度質量分析(HILIC-HRMS)と組み合わせた親水性相互作用液体クロマトグラフィーにより分析した。代謝産物を、ZIC pHILIC(100mm、2.1mm I.D.及び5μm粒径)カラムを使用してクロマトグラフィーで分離した。移動相は、A=pH9.3の水中20mM酢酸アンモニウム及び20mM NHOH及びB=100%ACNから構成された。90%B(0~1.5分)から50%Bに下げる直線的勾配溶出を適用し(1.5分~8分)、続いて均一濃度段階(8分~11分)及び45%Bへの直線的勾配(11分~12分)を適用した。これらの条件を3分間保持した。最後に、最初のクロマトグラフィー条件を、カラム再平衡化のための9分間の運転後の操作として確立した。流速は300μL/min、カラム温度30℃及び試料注入体積2.5μLであった。ESIソース条件を次のように設定した:プローブヒーター温度200℃、シースガス60a.u.、補助ガス15a.u.、キャピラリー温度280℃及びESIスプレー電圧-3600V。フルスキャンモードを収集モードとして使用して、乳酸、ピルビン酸、3-ヒドロキ酪酸及びパントテン酸を定量し、一方でアセチル-CoAを、衝突エネルギーとして30eVを用いて、並行反応モニタリング(PRM)収集モードを使用して定量した。
【0164】
データ処理
生のLC-HRMSデータを、Thermo Fisher Scientificソフトウェア(Xcalibur 4.0 QuanBrowser(登録商標)、THERMO FISHER SCIENTIFIC)を使用して処理した。代謝産物定量を、外部の較正曲線を使用して行った。
【0165】
統計学的分析
結果を、平均±平均の標準誤差(SEM)又は平均±標準偏差(SD)として表す。統計学的分析を、片側又は両側スチューデントt検定を使用して行った。図パネル中の星印は、統計学的確率を指す。0.05未満の統計学的確率値を有意とみなした。
【0166】
次のための、材料及び方法:
異なる治療用タンパク質発現CHOクローンの分泌に対するMIPの個々の発現又はそれらの組み合わせの発現の効果の評価
CFLAR、GCLM、ACTC1:
DNAベクターコンストラクト
PBトランスポサーゼ発現ベクターpCS2+U5V5PBU3は、ゼノパス・ラエビス(Xenopus laevis)ベータグロブリン遺伝子の5’及び3’非翻訳末端領域(UTR)に囲まれるPBトランスポサーゼコード配列を含有する。このプラスミドを、次のように構築した:pBSSK/SB10(Dr S.Iviesの厚意により提供)からの3’UTR 317bp断片を、pCS2+U5(INVITROGEN/LIFE Technologies,Paisley,UK)に挿入して、pCS2+U5U3を得た。PBトランスポサーゼコード配列(2067bp、GenBank受入番号:EF587698)を、ATG:生合成(Merzhausen,Germany)により合成し、2個のUTRの間でpCS2+U5U3骨格にクローニングした。PB対照ベクターは、未修飾pCS2+U5プラスミドに対応する(図10、左パネル)。異なるトランスポゾンベクターを、ATG:生合成(Merzhausen,Germany)により合成されたPB235bp3’及び310bp5’末端逆位配列(ITRs)をpBluescript SK-プラスミド(pBSK ITR3’-ITR5’、図1、右パネル)に導入することにより作製した。pRc/RSVプラスミドからのSV40プロモーター(INVITROGEN/LIFE Technologies)制御下のピューロマイシン耐性遺伝子(PuroR)を次に、2つのITRの間に挿入した。この試験で使用したMAR 1-68及びMAR X-29エレメント、ピューロマイシン耐性及びGFP遺伝子は、前に記載のとおりであった。
【0167】
CHO細胞株の細胞培養、安定な遺伝子移入及びサブクローニング
浮遊チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1)を、加湿空気中、37℃、5%CO2中でL-グルタミン(PAA,Austria)及びHTサプリメント(GIBCO,INVITROGEN life sciences)を補給したSFM4CHO Hyclone血清不含培地(THERMO SCIENTIFIC)中で維持した。CHO-K1細胞に、製造者の推奨に従い(Neon devices,Invitrogen)、エレクトロポレーションによりピューロマイシン耐性遺伝子を有する関心のある組み換えタンパク質発現ベクターを遺伝子移入した。2日後、細胞を、10μg/mLのピューロマイシンを含有する培地中、T75プレートに移し、細胞を2週間、選択下でさらに培養した。ベバシズマブIgG、Fc融合又は循環ホルモンを発現する安定な個々の細胞クローンを次に、限界希釈により作製し、増やし、増殖性能及び産生レベルについて分析した。最大タンパク質レベルを発現するベバシズマブIgG-、Fc-融合産生細胞クローンを、さらなる生化学実験のために選択した。循環ホルモン発現CHOMクローンを、SDS-PAGE及び免疫ブロッティングにより分析した。
【0168】
これらのクローンのいくつかに次に、以下に記載のようにエレクトロポレーションにより、様々な代謝改善タンパク質(MIP)発現ベクター及びブラスチシジン耐性遺伝子を有するプラスミドを同時遺伝子移入した。細胞を次に、上記のように、2週間、10μg/mLのブラスチシジンを含有する培地中で培養した。安定なクローンを限界希釈により単離し、増殖及び産生について分析する前に、clonepix装置を使用してクローンを単離した。
【0169】
細胞培養及び遺伝子移入分析
CHO-M細胞を、加湿空気中、37℃、5%COでL-グルタミン(PAA,Austria)及びHTサプリメント(GIBCO,INVITROGEN life sciences)を補給したSFM4CHO Hyclone血清不含培地(THERMO SCIENTIFIC)中で、浮遊培養において維持した。これらの細胞に、製造者(Neon devices,INVITROGEN)の推奨に従い、エレクトロポレーションによりトランスポゾンドナープラスミドを遺伝子移入した。組み換えタンパク質分泌レベルの定量を、前に記載のようなバッチ培養から行った(Le Fourn et al.,2013を参照)。簡潔に述べると、免疫グロブリンを発現する細胞集団を、7日間にわたり37℃にて5%CO加湿インキュベーター中で、50mLミニバイオリアクターチューブ(TPP,Switzerland)へのバッチ培養において評価した。細胞培養上清中の免疫グロブリン濃度を、サンドイッチELISAにより測定した。
【0170】
或いは、2個のクローンを、ClonePix(登録商標)装置を使用して、3つのIgGのそれぞれを発現する非選別及び非選択集団から単離した。簡潔に述べると、半固形培地を使用して単一細胞を固定し、高量のIgGを分泌するコロニーを、埋め込みの10日後に拾った。これらの細胞株を、180rpmでオービタル振盪しながら、37℃及び5%COで維持した加湿インキュベーターにおいて、ペプトン含有増殖培地(8mMグルタミンを補給したHyclone SFM4CHO)中で細胞3x10個/mLの密度で、スピンチューブバイオリアクターにおいて3~4日ごとに継代した。
【0171】
ポリクローナル細胞集団を評価する場合に、IgGタイターを、細胞1x10個/mLの細胞密度で播種し50mLスピンチューブバイオリアクターにおいて5mLの完全培地中で6日間増殖させた細胞から決定した。或いは、クローン集団の振盪フラスコ培養物を、細胞3x05個/mLの密度でSFM4CHO培地に接種して流加培養産生過程を開始した。流加培養産生アッセイを、0rpmで振盪しながら37℃及び5%COで維持した加湿インキュベーターにおいて、125mL振盪フラスコ中、培養体積25mLで又は50mL TPP培養チューブ中で培養体積5mLで行った(25mL振盪フラスコ及びスピンチューブ)。産生を、第0日、3日及び6~8日に化学的に定義された濃縮フィード(HYCLONE、Cell Boost 5、52g/L)の最初の培養体積の16%を与えることにより10日間行った。培養操作中はグルタミン及びグルコース供給を適用しなかった。培養物の生存能及び生存細胞密度(VCD)を、GUAVA(登録商標)機器(MILLIPORE)を使用して毎日測定した。二重サンドイッチELISAアッセイを使用して、培地に分泌されたMAb濃度を決定した。
【0172】
バッチ及び流加培養
ベバシズマブIgG-、Fc-融合及び循環ホルモンを発現する個々のクローンの増殖及び産生性能を、7日間の、5%CO加湿インキュベーター中37℃の50mLミニバイオリアクター(TPP,Switzerland)へのバッチ培養において評価した。細胞培養第3、第4及び第7日に、細胞密度及び生存能を、Guava EasyCyte(登録商標)フローサイトメトリーシステム(MILLIPORE)を使用して決定した。細胞培養上清中のIgGタイターを、サンドイッチELISAにより測定した。細胞密度(Cv.mL 1)及びIgGタイター値(pg.mL)を、指定の処理時間試料採取日にプロットした。
【0173】
組み換えタンパク質発現クローンのIgG比生産性を、第3~第7日(産生期)から計算した積分生存細胞数(IVCD)に対するMIP濃度の勾配として決定し、pg/細胞及び/日(pcd)として表した。流加培養産生培養のために、細胞を、SFM4CHO Hyclone血清不含培地25mL中、125mL振盪フラスコに0.3x10個/mLで播種した。培養を、撹拌しながら37℃及び5%COで維持した。培養物に市販のHyclone Feed(THERMO SCIENTIFIC)を毎日与えた。細胞密度及びIgG産生を毎日評価した。
【0174】
Erp27及びErp57:
DNAベクターコンストラクト
候補遺伝子コード配列(CDS)を得るために、トータルRNAをNucleoSpin(商標)RNAキット(MACHEREY-NAGEL)を使用してCHO-M細胞(SURE CHO-M Cell Line(商標),Selexis SA,Switzerland)から単離した。逆転写を、GoScript Reverse transcription System(Promega)を使用して行った。候補遺伝子CDSを、pBSK_ITR_BT+_X29_ITR(pBSK_ITR)又はpBSK_ITR_Blastベクターに挿入した。pBSK_ITRベクターは、CMV/EF1アルファプロモーター及びBGHポリアデニル化シグナルとそれに続くhMAR X-29から構成される発現カセットを含む(Le Fourn,Girod,Buceta,Regamey,& Mermod,2014)。発現カセットにはpiggyBacトランスポゾンの末端逆位配列が隣接する。pBSK_ITR_Blastベクターにおいて、SV40プロモーター制御下のブラスチシジン耐性遺伝子をhMAR X-29の後に挿入した。Erp27及びErp57が発現困難なタンパク質発現細胞において又はErp27若しくはCa3過剰発現の滴定時に過剰発現された実験において、pBSK_ITRプラスミドを使用し、細胞に、SV40プロモーター制御下でブラスチシジン耐性を有するプラスミドを同時遺伝子移入した。他の実験において、pBSK_ITR_Blastベクターを使用した。Foxa1が過剰発現された実験において、CMV/EF1アルファプロモーターを、Foxa1及びGFP両方の発現のために最小CMVプロモーターにより置き換えた。piggyBacトランスポサーゼ発現ベクター(pCS2+U5V5PBU3)は、以前に記載された(Ley et al.,2013)。
【0175】
活性酸素種分析
細胞内活性酸素種(ROS)レベルを、6-カルボキシ-2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタート(カルボキシ-HDCFDA,THERMOFISHER SCIENTIFIC)を使用することにより検出した。流加培養の異なる日に、200万個の細胞を30分間、50μMカルボキシ-HDCFDAを含有するPBS中で温置した。細胞を次に、遠心分離し、1mL PBS中で再懸濁し、DAPIで染色して、死細胞を排除した。カルボキシ-HDCFDA蛍光を、DAPI陰性細胞集団中でフローサイトメトリーにより分析した(Gallios(登録商標),BECKMAN COULTER)。
【0176】
細胞培養、安定な形質転換及び安定なポリクローナル株の分析
細胞を、5%COの加湿インキュベーター中、37℃で、5%HyClone Cell Boost5サプリメント(GE HEALTHCARE)、8mM L-グルタミン(PAA,Austria)及び1X HTサプリメント(GIBCO)を補給したSFM4CHO Hyclone血清不含培地(GE Healthcare)中の浮遊培養で維持した。トラスツズマブ又はインフリキシマブ抗体を産生するポリクローナルCHO-M細胞を作製し、以前に記載のように特徴を評価した(Le Fourn et al.,2014)。IgG発現安定クローンを、FACSAria II(BD)での細胞選別により得て、増殖させ、サンドイッチELISAによりIgG産生レベルについて分析した。候補遺伝子を過剰発現する安定な細胞株を、製造者のプロトコール(Neon(登録商標)transfection system 100μL Kit,INVITROGEN)に従いエレクトロポレーションを使用して、pBSK_ITR CDS、pBlast及びpCS2+U5V5PBU3を、又はpBSK_ITR_Blast_CDS及びpCS2+U5V5PBU3をトラスツズマブ又はインフリキシマブ産生クローンに再遺伝子移入することにより得た。安定な挿入がある細胞を、3又は7.5μg/mLのブラスチシジン(INVIVOGEN)を使用して選択した。エタネルセプト産生クローンについて、Erp27及びErp57を同時発現する単サブクローンを単離し、それらの産生を、ClonePix細胞コロニーイメージング装置を使用して評価した。最も広いエタネルセプト分泌ハロを示す細胞コロニーを、Erp27及びErp57過剰発現又は対照細胞集団から単離した。
【0177】
ACTC1及びTAGAP:
DNAベクターコンストラクト
ACTC1及びTAGAP遺伝子のゲノム及びcDNA配列を、NCBI BLASTソフトウェアを使用してマウスにおける相同遺伝子に対してアライメントした後で決定した。転写物配列RNAseq分析を、Selexis SA CHO K1細胞(CHO-M)に対し行った。cDNAライブラリを、GoScript(登録商標)Reverse transcription System(PROMEGA)を使用して、10個のCHO-M細胞から単離される1μgトータルRNAからの逆転写により作製した(NucleoSpin(商標)RNAキット;MACHEREY-NAGEL)。ACTC1及びTAGAPコード配列(CDS)をpBSK_ITR_BT+_EGFP_X29_ITR転位性発現ベクター(Le Fourn,Girod,Buceta,Regamey,& Mermod,2014)にクローニングし、pBSK-ACTC1及びpBSK-TAGAP発現ベクターを得た。pBSK_ITR_BT+_EGFP_X29_ITRベクターは、CMV/EF1アルファ融合プロモーター及びBGHポリアデニル化シグナルとそれに続くhMAR X-29から構成される発現カセットを含む。発現カセットにはpiggyBacトランスポゾンの末端逆位配列が隣接する。ブラスチシジンベクター(pBlast)は、pRc/RSVプラスミド(Invitrogen/Life Technologies)を起源とするSV40プロモーターの制御下でブラスチシジン耐性遺伝子を含有する。
【0178】
細胞培養及び安定な遺伝子移入
CHO K1細胞を、加湿空気中、37℃、5%COにてL-グルタミン(PAA,Austria)及びHTサプリメント(GIBCO,INVITROGEN LIFE SCIENCES)を補給したSFM4CHO Hyclone(登録商標)血清不含培地(SFM,ThermoScientific(商標))中での浮遊培養において維持した。これらの実験のために使用した他の細胞培地は、ビタミンB1(チアミン塩酸塩;SIGMA ALDRICH)、ビタミンB5(DL-パントテン酸カルシウム;TCI)及びビタミンH(ビオチン、SIGMA ALDRICH)を補給したDeficient BalanCD CHO Growth A(B-CDmin(登録商標);IRVINE SCIENTIFIC)である。CHO細胞に、製造者の推奨(NEONDEVICES,INVITROGEN)に従いエレクトロポレーションにより、pBSK-ACTC1又はTAGAP、pBlast及びpCS2-U5-PBU3 IgG1-Hc又はIgG1-Lc発現ベクターを遺伝子移入した。安定な細胞株の産生を、3週間にわたり7.5μg/mLのブラスチシジンを補完したSFM4CHO培地中で遺伝子移入細胞を培養することにより達成した。IgGを発現するポリクローナル細胞集団を、次のようにさらなる実験のために選択した:ブラスチシジン選択のため、細胞を2週間にわたり10μg/mLブラスチシジンを補給したSFM4CHO培地中で播種し、次に5日にわたり非補給培地を含有するウェルに培養し、次に50mLスピンチューブに移した。
【0179】
安定なポリクローナル及びモノクローナル株の分析
流加培養性能評価、IgG細胞表面染色、IgG細胞分泌アッセイ及びビタミンB5代謝産物定量を、前に記載のように(Pourcel et al.,2019)行った。簡潔に述べると、流加培養におけるIgG分泌性能試験を、以前に報告されているように(Le Fourn et al.,2014)行った。細胞表面IgGのアッセイは以前に報告されたとおりであり(Brezinsky et al.,2003)、組み換えIgGタンパク質を発現する細胞プールを、Molecular Devices(登録商標)からのClonePix(商標)FL Imagerを使用してサブクローニングした。ビタミンB5代謝産物定量のために、細胞ペレットを1mLの冷MeOH:HO(4:1、v/v)溶媒混合物で抽出し、次にプローブ超音波処理した。-20℃で1時間の温置とそれに続く15分間の4℃で13,000rpmの遠心分離後に得られた上清を収集し、蒸発乾固し、次いで100μL MeOH:水(4:1)中で再構成し、LC-MSシステムに注入した。タンパク質ペレットを蒸発させ、短時間のプローブ超音波処理を使用して20mM Tris-HCl(pH7.5)、4Mグアニジン塩酸塩、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1%Triton、2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mMベータ-グリセロリン酸、1mM NaVO、1μg/mLロイペプチン中で溶解させた。抽出した試料を、70,000半値全幅の質量解像力で稼働するQ-Exactive(登録商標)機器(Thermo Fisher Scientific(登録商標))を使用する負イオン化モードにおいて、HILIC-HRMSにより分析した。生のLC-HRMSデータを、Thermo Fisher Scientific(登録商標)ソフトウェア(Xcalibur(登録商標)4.0QuanBrowser(登録商標),THERMO FISFIER SCIENTIFIC)を使用して処理した。代謝産物定量を、外部較正曲線を使用して行った。
【0180】
RNA RT-PCR及びシーケンシングRNA-seq分析
RNA逆転写及びリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)分析のために、トータルRNAを細胞10個から抽出し、ポリTプライマーを使用してcDNAに逆転写した。転写物蓄積を、EUROGENTEC Inc.からのSYBR Green-Taqポリメラーゼキット及びABI Prism 7700PCR装置(APPLIED BIOSYSTEMS)を使用してqPCRにより定量した。転写物レベルをGAPDHハウスキーピング遺伝子に対し正規化した。B5選択及びピューロマイシン選択CHO細胞のRNASeq分析は以前に記載のとおりであった(Pourcel et al.,2019)。
【0181】
簡潔に述べると、トータルRNAを、i)親CHO細胞、ii)B5欠乏/ピューロマイシン選択又はピューロマイシン選択単独に供した、インターフェロンベータ及びB5輸送体SLC5A6発現ベクターを発現するCHO細胞クローン、iii)B5欠乏/ピューロマイシン選択又はピューロマイシン選択単独で前のように選択された、トラスツズマブ及びSLC5A6発現ベクターを発現するCHO細胞プールから抽出した。cDNAを、Illumina TruSeq(登録商標)stranded mRNA-seq reagent(ILLUMINA)を使用して、トータルRNA 0.5μg~1μgから得た。RNA-seqライブラリ100nt対末端を、Illumina HiSeq 2500(登録商標)でシーケンシングした。読み取りデータを、CHO-K1トランスクリプトームに対しマッピングした(RefSeq,2014)。
【0182】
タンパク質試料調製及び免疫ブロッティング
トータルアクチン含量を次のように評価した。タンパク質抽出を、PBS中で洗浄した細胞10個から行い、その後、細胞ペレットを、RIPA溶解緩衝液(150Mm NaCl、50mM Tris-HCl pH8.0、1%NP-40、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)中に再懸濁し、30分間撹拌した。細胞残屑を、遠心分離(5分、15.000g)によりペレット化し、上清を収集した。タンパク質試料の等体積を、6~14%SDS/Pageゲル、Mini-Protean Tetra Gel(Bio-Rad)及びMini trans Blot Cell(Bio-Rad)を使用する変性ゲル電気泳動及び免疫ブロッティング用に処理し、タンパク質を、ニトロセルロース膜上にブロッティングした。膜を室温で1時間、5%スキムミルク粉末入りのTBST(Tris Base 20mM、NaCl 135mM、Tween-20 0.1%、pH7.6)中でブロッキング処理した。膜を次に、抗アルファ-心臓アクチンポリクローナル抗体(PA5-21396,Invitrogen、希釈1:500)又は抗GAPDH(sc-32233,SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY、希釈1:500)とともに一晩温置し、次にHRP結合二次抗体、抗マウス(G21040,Invitrogen、希釈1:1000)とともに1時間温置した。タンパク質バンドを、SuperSignal West Pico PLUS(登録商標)(34580,THERMO SCIENTIFIC)及びChemiDoc(登録商標)Imaging System(BIO-RAD)を使用することにより可視化した。得られたタンパク質バンド強度を、ImageJ(登録商標)(NIH,Bethesda,MD)のFIJI分布により定量した。
【0183】
蛍光活性化細胞選別によるアクチン重合化の分析
重合化アクチン(F-アクチン)のレベルを、SFM中で細胞2x10個/mLを播種し、5%COで37℃にて3日間培養することにより開始した細胞培養において評価した。細胞10個の3つのアリコートを各培養から収集し、細胞を、200nMのSiR-アクチン(CY-SC001(登録商標),SPIROCHROME)を補給した新鮮培地中に再懸濁し、37℃、5%COで4時間温置した。細胞を次に、FACS(BD FACS Aria II,BD BIOSCIENCES,San Jose,CA)により選別し、それらの蛍光レベルに依存して細胞を選別した(Abs 652nm、Em674nm;低、中及び高蛍光)。これらの細胞集団を増加させ、さらなる分析まで37℃、5%COで維持した。
【0184】
本発明の系(ベクター/細胞など)、方法及びキットは、様々な実施形態の形態で組み込まれ得、本明細書中で開示されるものはそのうちごく一部のみであることが認められよう。他の実施形態が存在し、本発明の精神から逸脱しないことが当業者により認められよう。従って、記載される実施形態は例示的であり、限定するものとして解釈されるべきではない。
【0185】
文献目録
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【手続補正書】
【提出日】2021-09-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022509451000001.app
【国際調査報告】