(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(54)【発明の名称】癌治療における変異p53遺伝子を標的とするホウ酸鉛ナノ粒子の使用及びこれらのナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/22 20060101AFI20220117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220117BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
A61K33/22
A61P35/00
C01B35/12 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521433
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(85)【翻訳文提出日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 TR2018050669
(87)【国際公開番号】W WO2020086014
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512081166
【氏名又は名称】イェディテペ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】YEDITEPE UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】サヒン フィクレッティン
(72)【発明者】
【氏名】タスリ パキゼ ネスリハン
(72)【発明者】
【氏名】キルバス オグズ カーン
(72)【発明者】
【氏名】ハヤル タハ バートゥ
(72)【発明者】
【氏名】ボズクルト バトゥハン ターハン
(72)【発明者】
【氏名】ブルブル ベルナ
(72)【発明者】
【氏名】ベヤズ セダ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086HA02
4C086HA05
4C086HA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、p53変異乳癌細胞株T47Dに対する選択的な抗癌活性に起因する治療目的でのナノサイズのホウ酸鉛化合物の使用に関する。本発明のナノサイズのホウ酸鉛の合成方法は、水酸化ナトリウム及びホウ酸によりホウ酸緩衝液を調製する工程と、硝酸鉛(及び好ましくはPEG)を撹拌により蒸留水に溶解する工程と、上記ホウ酸緩衝液を硝酸鉛(及び好ましくはPEG)の溶液と混合する工程と、得られた溶液を蒸留水で洗浄し乾燥して、不純物を除去する工程とを備える。
【選択図】
図1(A)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞に対する選択的な毒性効果のために癌の治療に使用されるナノサイズのメタホウ酸鉛化合物。
【請求項2】
p53変異乳癌細胞株T47Dに対する選択的な毒性効果のためにこれらの癌細胞の治療に使用される請求項1に記載のナノサイズのメタホウ酸鉛化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法であって、
水酸化ナトリウム及びホウ酸を蒸留水に溶解し互いに混合し、ホウ酸緩衝液(NaOH/H
3BO
3緩衝液)を得る工程と、
硝酸鉛を、別のビーカー中で撹拌により蒸留水に溶解する工程と、
前記硝酸鉛の溶液を前記ホウ酸緩衝液と混合する工程と、
得られた生成物を蒸留水で洗浄し、次いで乾燥させて不純物を除去する工程と
を備える、ナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項4】
室内条件で適用される請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項5】
水酸化ナトリウム及びホウ酸が1:2の化学量論比で前記水の中で混合される請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項6】
ホウ酸緩衝液が反応媒体のpH値を9~9.5に維持する請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項7】
前記硝酸鉛の溶液及び前記ホウ酸緩衝液を混合する工程において、前記2つの溶液が、メカニカルスターラーの下で2000rpmで30分間撹拌される請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項8】
得られた生成物を洗浄及び乾燥して不純物を除去する工程において、前記生成物が蒸留水で4回洗浄され、次いで60℃で24時間乾燥される請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項9】
10mmolの硝酸鉛が20mlの水に溶解される請求項3に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項10】
硝酸鉛が水に溶解される場合、PEG(ポリエチレングリコール)も前記硝酸鉛と一緒に水に溶解される請求項3から請求項8のいずれか1項に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【請求項11】
硝酸鉛及びPEG(400~20000Da)が200mlの蒸留水に1:1.5の化学量論比で溶解される請求項10に記載のナノサイズのホウ酸鉛化合物の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p53変異乳癌細胞株T47Dに対するナノサイズのホウ酸鉛化合物の選択的な抗癌活性に起因する治療目的でのナノサイズのホウ酸鉛化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホウ酸鉛(PbxByOzHt-PbxByOz)は、触媒及び中性子-γ線捕捉材料の両方として使用される能力に加えてそれらの優れた光学的特性及び光電特性に起因して、研究者の大きな注目を集めており、ホウ酸鉛は、種々の合成方法を用いて合成が試みられてきた。しかしながら、これらの化合物の健康への影響及び生物学的応用は今までのところ調べられたことがないということが認めらる。文献にある従来の固体状態法、ゾルゲル法及びソルボサーマル合成(溶媒熱合成)法を用いて合成されたホウ酸鉛化合物のうちのいくつかは、以下のとおりである:PbB4O7、Pb(BO2)2.H2O、Pb6B10O21、Pb3B10O18.2H2O、Pb2[B5O9]OH.H2O、Pb5B3O8(OH)3.H2O、Pb6B12O24.H2O、Pb2B3O5.5(OH)2,[Pb3(B3O7)].NO3、Pb6B11O18(OH)9及びPb6B6O15。
【0003】
公知のように、上記材料の多くの物理的特性は、ミクロンサイズからナノサイズへ移ると変わり、より高い性質を獲得する。それゆえ、ホウ酸鉛化合物のナノサイズ合成が重要性を増しているが、文献におけるこれらの化合物の合成に関する研究は非常に限られたままである。これらの研究のうちの1つは、特許文献1に開示されるマイクロ波共沈殿法によってホウ酸鉛を得ている。この合成では、ホウ酸ナトリウム溶液及び硝酸鉛溶液が、2-エチルヘキシルスルホスクシネートの存在下で、適切な化学量論的割合で混合され、得られた混合物は、500Wの出力で、35~45℃の温度で1.5~2時間、実験室型マイクロ波の中でマイクロ波線に曝される。得られた生成物は蒸留水及びエタノールで洗浄され、次いで60℃のオーブン中で10時間乾燥されて、不純物が除去される。第2の研究は、特許文献2に開示されるソルボサーマル法によってナノサイズのPb3B10O16(OH)4化合物を合成することについてである。この合成では、酢酸鉛溶液及びホウ酸溶液が、ピリジンの存在下で、適切な化学量論比で混合され、媒質のpHはアンモニア溶液を用いて調整された。得られた混合物はオートクレーブに移されて、230度で12時間加熱された。得られた生成物は蒸留水及びエタノールで洗浄され、60度で12時間加熱された。
【0004】
癌は、細胞の制御されない増殖及び分裂から生じる疾患の一般的な名称である。癌細胞は身体のほとんどの組織で生成されることが可能であるが、生成される癌細胞は、血液によって身体の異なる部分へ転移することができる。癌は6つの基本的な特徴を有する。これらは以下のとおりである。
1. 自ら成長因子を合成する、
2. 成長阻害シグナルを回避する、
3. プログラム細胞死に抵抗して生存するための他の方法を見つける
4. 無限に増殖する能力を持つ、
5. 維持のために新しい血管を作る能力(血管新生)
6. 血管を介した他の組織への浸潤及び転移[非特許文献1]。
【0005】
これらの6つの特徴が明らかになってから11年後、HanahanとWeinbergにより最新の論文が発表され、癌の特徴の数が10に増えた。追加された4つの特徴は以下のとおりである。
7. 不規則な代謝経路を持つ、
8. 変異を起こしやすい不安定なゲノムを持つ、
9. 免疫系を回避する、
10. 腫瘍を促進する炎症[非特許文献2]
【0006】
これらの10項目の特性は、癌関連死の主な原因であり、統計的には、癌は心血管疾患に次いで2番目に多い死因となっている。世界中の科学者が最も注目している問題の一つである癌の治療法を見つけ出し、患者を治療するために、毎年数十億ドルが費やされている。NCI(National Cancer Institute、米国国立癌研究所)でサポートされている抗癌剤は250種類に過ぎないが、これらの抗癌剤ではすべて、23種類の副作用が知られている。
【0007】
2018年にPaula Garcia Calaviaらが行った研究では、乳癌に対するラクトースフタロシアニン官能化金ナノ粒子の光力学的効果を調べた。同研究での炭水化物であるラクトースは、金ナノ粒子の安定化と、ガレクチン-1受容体を介した乳癌細胞の標的指向化の両方に使用された。MDA-MB-231乳腺癌細胞株及び健常な乳房上皮MCF-10Aを比較した結果、金ナノ粒子は、ガレクチン-1受容体が過剰に発現している腺癌細胞株を選択的に死滅させたが、MCF-10A細胞株には影響を与えないことが観察された[非特許文献3]。
【0008】
Hekmat A.らが2012年に発表した論文では、T47D及びMCF-7乳癌細胞株に対する銀ナノ粒子及びドキソルビシンの組み合わせの効果が、ヒト子宮内膜幹細胞と比較して示された。T47D細胞株に対して0.3μMのドキソルビシン及び10μMの銀ナノ粒子を組み合わせて使用すると、死亡率が60%となることが確認された。MCF-7細胞株では、同じ組み合わせの結果、死亡率は49%であった[非特許文献4]。
【0009】
ナノテクノロジー生成物は、細胞の約1千~1万分の1の大きさで、その特徴から、受容体や一部の酵素などの生体分子に類似している。その小さなサイズのおかげで、ナノ粒子は、細胞内外の多くの分子と容易に相互作用することができる。ナノ粒子は、20ナノメートルよりも小さいので、血管から出やすく体内のあらゆる場所に移動しやすく(EPR効果:enhanced permeability and retention)、このように体内の任意のすべての部分に移動しやすいということは、癌細胞を特定してその治療を完全にナノ粒子に委ねることができる可能性があるため、非常に重要である。しかしながら、癌の種類によっては、血管の透過性が変化することでEPR効果の割合が低下する場合がある[非特許文献5]。さらに、このようなアクセスのしやすさの結果として、癌細胞の特定が不可欠となる。そうしないと、ナノ粒子は癌細胞と一緒に健康な細胞も殺してしまうことになるからである。この点で、患者に好適なナノ粒子を設計することは重要である。
【0010】
ナノ粒子の製剤化研究は、癌の治療における現在の方法を改善できるため、研究者の注目と関心を集めている。
【0011】
外科的手術及び/又は化学療法が癌の治療によく用いられる。外科的手術が完全かつ効果的な結果をもたらす場合もあるが、通常は、長期的に生き残って癌化を引き起こす可能性のある癌細胞の存在の可能性を考慮して、手術後に化学療法剤が投与される。通常、化学療法は、癌細胞だけでなく健康な細胞にもダメージを与え、多くの副作用を引き起こす。化学療法の影響を最も受けるのは、体内で増殖率の高い細胞で、そのような細胞は、毛髪細胞、骨髄で作られる血液細胞、消化器系の細胞である。化学療法後によく見られる副作用は以下のとおりである。
・疲労感・倦怠感:これは、血液細胞が侵されることで生じる貧血によって主に引き起こされるが、原因が精神的なものであるものも含まれる。
・吐き気及び嘔吐:これは、薬剤に対する過敏症に起因する場合もあるが、精神的な原因によるものも含まれる。
・脱毛:細胞が急速に増殖するために化学療法によって悪影響を受ける抜け毛は、患者が意気消沈する最も大きな理由の1つである。
・血液値の低下:化学療法によって骨髄が侵されると、血液細胞が著しく減少する。この減少の結果として組織に十分な量の酸素が供給されなくなるため、免疫力の低下や血液凝固障害等の多くの副作用が現れる。
・口内炎:化学療法剤によって口内に炎症性のびらん(口内炎)ができることがある。治療中は、患者は、極端に熱い飲み物や冷たい飲み物を避け、口腔内の衛生状態に細心の注意を払う必要がある。
・下痢及び便秘:さまざまな化学療法剤に対する消化器系の細胞の反応の結果、下痢や便秘が認められることがある。この状況は、ほとんどの場合は食事によって軽減することができるが、場合によっては重度の下痢となり、点滴による水分補給が必要になることもある。
・皮膚と爪の変化:化学療法剤には、皮膚の色が濃くなる、皮膚が剥がれる、赤くなる、皮膚が乾燥するなどの副作用がある。また、爪が割れやすくなったり、爪の色が濃くなったりすることが認められることがある。特に、皮膚の剥がれは、免疫力の低下した患者では開放創を引き起こすので、皮膚の剥がれには注意するべきである。
・睡眠障害:睡眠障害は、通常、心理的な理由で起こるが、特に化学療法の治療過程で体を休めることができないと、化学療法の効果が低下するだけでなく、患者の精神的な健康も損なわれる。
【0012】
治療の成功率を高めるために、化学療法を外科的手術及びその他の方法と組み合わせて使用する必要があること、並びに患者ごとに異なる副作用の多さ及び予測不可能さから、科学者たちは新しい治療方法を求めている。現在の治療方法を改善し、副作用を軽減するために開始された研究では、ナノ粒子が注目されている。
【0013】
これらのすべてに加えて、現在の技術では、ナノ粒子は、公知の化学物質と組み合わせて使用されるか(ナノ粒子を使用しなくても、上記化学物質は癌を選択的に死滅させることができるが、この場合は、影響を高めることを目的としている)、又は細胞がナノ粒子を認識できるように、ブドウ糖の補給によって標的指向化(ターゲティング)が行われる。グルコースの必要性はすべての細胞に共通しているため、より多くの癌細胞だけを比例して死滅させることができれば、健康な細胞にダメージを与えることはない。さらには、上述のように、多くのナノ粒子のEPR効果により、非癌細胞に制御されずに入り込むことができるナノ粒子は、これらの細胞の健康に危険を及ぼす可能性がある。
【0014】
最新技術水準の出願である特許文献3は、エアロゲルを用いた陽電子放射断層撮影の応用とそのエアロゲルの製造方法を開示する。この発明の目的は、癌細胞等の異常組織の位置を高精度に特定することができる陽電子放射断層撮影を提供することである。エアロゲルの製造に使用される原料の1つは酸化鉛であり、この目的のために、ホウ酸鉛をも含むグループに属する鉛塩が使用される。
【0015】
最新技術水準の出願である特許文献4は、感染症及び癌の治療のための、薬学的に許容される亜鉛ナノ粒子を開示する。亜鉛ナノ粒子は、有意な量の他の金属又は金属酸化物を含まない元素の亜鉛を含むコアを有する。この発明の亜鉛ナノ粒子の別の用途は、診断及びイメージングである。亜鉛ナノ粒子は、固有の自動蛍光能力を有しているため、感染症及び腫瘍等の部位を画像化するために使用することができる。X線イメージング等の状況で有用であるので、鉛(II)をも含むグループから選択されたイオンを使用することができる。
【0016】
最新技術水準の出願である特許文献5は、ホウ酸鉛化合物及びホウ酸鉛の非線形光学結晶、並びにその調製方法を開示する。このホウ酸鉛化合物は、Pb4O(BO3)2の化学式及び962.38の分子量を有し、固相反応法を用いて合成される。化合物中の鉛及びホウ素のモル比は2:1であり、鉛含有化合物は炭酸鉛、硝酸鉛、酸化鉛、酢酸鉛又はシュウ酸鉛であり、ホウ素含有化合物はホウ酸又は酸化ホウ素である。
【0017】
癌及びそれに伴う生理的障害に対する本発明のナノサイズのホウ酸鉛化合物の効果については、文献の中に刊行物及び特許が存在しないことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】中国特許出願公開第1562840号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第105568378号明細書
【特許文献3】特開2005-300232号公報
【特許文献4】国際公開第2011022350号パンフレット
【特許文献5】中国特許出願公開第103046113号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Hanahan,D.及びR.A.Weinberg (2000)、Cell 100(1):57-70
【非特許文献2】Hanahan,D.及びR.A.Weinberg (2011)、Cell 144(5):646-674
【非特許文献3】Garcia Calavia,P.、I.Chambrier、M.J.Cook、A.H.Haines、R.A.Field及びD.A.Russell (2018)、J Colloid Interface Sci 512:249-259
【非特許文献4】Hekmat,A.、A.A.Saboury及びA.Divsalar (2012)、J Biomed Nanotechnol 8(6):968-982
【非特許文献5】Fang,J.、H.Nakamura及びH.Maeda (2011)、Adv Drug Deliv Rev 63(3):136-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、ナノサイズのホウ酸鉛化合物を、癌細胞に対する選択的な毒性効果のために、治療プロセスに使用することである。
【0021】
本発明の別の目的は、緩衝沈殿合成法を用いてナノサイズのホウ酸鉛化合物を初めて合成することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、これらの化合物をインビボでの生物学的応用に使用するために、これらの化合物が100nm未満のサイズを有することを可能にすることである。
【0023】
本発明の別の目的は、高温、長い反応時間、高圧、あらゆる種類の照射を必要とせずに実施できることという事実により、水熱(ハイドロサーマル)/ソルボサーマル合成法やマイクロ波沈殿合成法と比較してはるかに簡単で経済的、かつ製造に適した合成法を使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の目的を達成するために開発された「癌治療における変異p53遺伝子を標的とするホウ酸鉛ナノ粒子の使用及びこれらのナノ粒子の製造方法」は、添付の図に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1(A)】
図1(A)は、Hacat(健康な対照角化細胞)の細胞における生存率に対するナノサイズのホウ酸鉛の様々な濃度の効果のグラフ表示である。
【
図1(B)】
図1(B)は、T47D(乳癌)の細胞における生存率に対するナノサイズのホウ酸鉛の様々な濃度の効果のグラフ表示である。
【
図1(C)】
図1(C)は、MCF7(乳癌)の細胞における生存率に対するナノサイズのホウ酸鉛の様々な濃度の効果のグラフ表示である。
【
図1(D)】
図1(D)は、A549(肺癌)の細胞における生存率に対するナノサイズのホウ酸鉛の様々な濃度の効果のグラフ表示である。
【
図2】
図2は、p53変異を有するT47D細胞株及びp53変異を有さないMCF7細胞株の鉛ナノ粒子処理後の遺伝子発現変化をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応で表したものである。(結果は、ナノ粒子を与えていない細胞の対照と、ガーディアン(守護者)遺伝子とも呼ぶこともできるGAPDH遺伝子の発現レベルで正規化した上で判定された)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、癌細胞に対する選択的な毒性効果のために癌の治療に使用されるナノサイズのメタホウ酸鉛化合物に関する。本発明の範囲内では、p53変異乳癌細胞株T47Dに対する選択的な抗癌効果(毒性効果)のために、ナノサイズのホウ酸鉛化合物は、これらの癌細胞の治療の目的で使用される。
【0027】
癌治療プロセスで使用するために開発されたナノサイズ(100nm未満)のホウ酸鉛化合物の合成。本発明の範囲では、緩衝沈殿法を用いて室内条件で行われる。この合成方法の工程は以下のとおりである。
1)水酸化ナトリウム及びホウ酸を1:2の化学量論比で蒸留水に溶解し互いに混合し、pH値が9~9.5で、反応媒体のpH値をこの範囲内に維持する能力を有するホウ酸緩衝液(NaOH/H3BO3緩衝液)を調製する。
2)硝酸鉛(及び好ましくはPEG(400~20000Da))を、別のビーカー中で200mlの蒸留水に1:1.5の化学量論比で再度溶解する。硝酸鉛(及び好ましくはPEG)溶液とホウ酸緩衝液とを、メカニカルスターラーの下で、2000rpmで30分間撹拌する。
3)得られた生成物を蒸留水で4回洗浄し、次いで60℃で24時間乾燥させて不純物を除去する。
【0028】
PEGは生体適合性の界面活性剤である。上述の方法では、PEG等の界面活性剤を使用せずに反応を行うことも可能である。この場合、ビーカー中で20mlの水に10mmolの硝酸鉛を溶かすだけである。反応にPEGを使用する目的は、より小さな粒子サイズを持つホウ酸鉛ナノ粒子を得ることである。
【0029】
本発明に従って合成されたナノサイズのホウ酸鉛化合物の粒子サイズは、100nm未満である。100nm未満の粒子サイズにより、これらの化合物をインビボでの生物学的応用に用いることができる。
【0030】
使用した合成法は、高温、長い反応時間、高圧、あらゆる種類の照射を必要とせずに実施できるという事実により、水熱/ソルボサーマル合成法やマイクロ波沈殿合成法と比較して、はるかに簡便で経済的、かつ製造に適した方法である。
【0031】
媒体に添加するPEG(ポリエチレングリコール)は、生体適合性の界面活性剤である。これにより、得られる粒子をより小さなサイズ(50nm以下)で得ることができ、水に容易に分散させることができる。ホウ酸鉛化合物を生物学的応用で使用することができるために、及びより小さなナノ粒子を得るために、反応中又は反応後に分子量の異なるPEG及び他の生体適合性界面活性剤を使用することができる。
【0032】
本発明に係るナノ粒子を形成するためのこの緩衝沈殿法は、これまで文献で知られていた従来の沈殿法のある部分を改良して得られた、唯一の金属ホウ酸塩を合成するための新規な沈殿法である。この方法の最大の特徴は、ホウ酸塩源として用いた水酸化ナトリウム/ホウ酸緩衝液が、反応全体にわたって、媒体のpH値を9~9.5に維持することができることである。この合成法は、ホウ酸鉛得るためだけでなく、他のすべての(+2)及び(+3)の荷電金属ホウ酸塩を得るためにも使用できる。この合成法を用いて合成可能な他の金属ホウ酸塩化合物の金属は以下のとおりである:Ca+2、Mn+2、Ni+2、Co+2、Cu+2、Zn+2、Sr+2、Ba+2、Sc+3、Fe+3、Cr+3、Al+3、Y+3、La+3、Ce+3、Pr+3、Nd+3、Sm+3、Eu+3、Gd+3、Tb+3、Dy+3、Ho+3、Er+3、Tm+3、Yb+3、Lu+3、Bi+3、Tl+3。ここに挙げた例は、この合成法により得ることができる他の金属ホウ酸塩の例である。
【実施例】
【0033】
実験による研究
細胞毒性実験
調製したナノ粒子の細胞生存率への影響は、文献に示されているMTS(material testing systems、物質試験システム)法を用いて測定した。製品に使用されている分子は、単独で又は組み合わせて培地中で調製し、96ウェル培養プレートに播種したT47D(乳癌)、MCF7(乳癌)、A549(肺癌)及びHacat(健康な対照の角化細胞)の各細胞に、各ウェルあたり4000細胞の濃度でカウントして加えた。分子の毒性に対する細胞の反応は、3日間の細胞生存率を測定することによって決定した。細胞生存率は、細胞のミトコンドリアデヒドロゲナーゼ酵素活性を測定するMTSと呼ばれる方法を用いて測定した。培地と一緒にMTS物質を細胞に加えると、有色のホルマザン結晶が形成され、これが細胞生存率の指標となる。生じた色の変化を、ELISAプレートリーダーを用いた吸光度測定に基づいて評価した。得られた結果を解析した。
【0034】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応アッセイは、ナノ粒子で処理した細胞の遺伝子レベルの変化を観察するために行う。これらの変化は、形態学的レベルと遺伝子発現レベルの両方である。使用したプライマーは、Primer BLASTソフトウェア(The National Center for Biotechnology(NCBI、米国国立生物工学情報センター)を用いて設計した。組み合わせたゲルを加えた細胞から全RNAを分離し、cDNAを合成した。合成したcDNAをプライマーとFermentas Maxima SYBR Green混合物製品の中で最終容量が20μlになるように混合し、BIO-RAD装置を用いて遺伝子の発現レベルを分析した。
【0035】
参考文献一覧
[1]. Hanahan,D.及びR.A.Weinberg (2000)、「The hallmarks of cancer」、Cell 100(1):57-70.
[2]. Hanahan,D.及びR.A.Weinberg (2011)、「Hallmarks of cancer: the next generation」、Cell 144(5):646-674.
[3]. Garcia Calavia,P.、I.Chambrier、M.J.Cook、A.H.Haines、R.A.Field及びD.A.Russell (2018)、「Targeted photodynamic therapy of breast cancer cells using lactose-phthalocyanine functionalized gold nanoparticles」、J Colloid Interface Sci 512:249-259.
[4]. Hekmat,A.、A.A.Saboury及びA.Divsalar (2012)、「The effects of silver nanoparticles and doxorubicin combination on DNA structure and its antiproliferative effect against T47D and MCF7 cell lines」、J Biomed Nanotechnol 8(6):968-982.
[5]. Fang,J.、H.Nakamura及びH.Maeda (2011)、「The EPR effect: Unique features of tumor blood vessels for drug delivery, factors involved, and limitations and augmentation of the effect」、Adv Drug Deliv Rev 63(3):136-151.
【国際調査報告】