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特表2022-509853フェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池
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  • 特表-フェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(54)【発明の名称】フェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   C07D 241/36 20060101AFI20220117BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20220117BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C07D241/36
H01M8/02
H01M8/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530812
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 KR2019016361
(87)【国際公開番号】W WO2020111725
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152003
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511123485
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】カン、テ ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】シン、ドン ミョン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ギ ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ、キュ ナム
(72)【発明者】
【氏名】カン、ギ ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク、ス ヨン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ジ オン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG17
5H126JJ00
5H126JJ06
(57)【要約】
本発明は、特定の置換基を有するフェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池に関する。前記フェナジン系化合物は、2段階の可逆的な酸化還元反応を起こし得るマルチレドックス有機物質であるとともに非水系溶媒に対する高い溶解度を示すところ、前記フェナジン系化合物を含むことで高いエネルギー密度を発現することができるレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池を提供することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表示されることを特徴とする、フェナジン系化合物:
【化1】
化学式1において、
及びXは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に酸素(O)、硫黄(S)又はケイ素(Si)であり、
及びRは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキル基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリール基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキルアリール基;又はアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリールアルキル基であり、
及びRは、同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキレン基であり、
、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基(-OH)、ニトロ基(-NO)、トリフルオロメチル基(-CF)、アルコキシ基、アルキル基、ヘテロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
【請求項2】
前記R及びRは、それぞれ独立的に、(C-C20)アルキル基、(C-C20)アリール基、(C-C20)アルキル(C-C20)アリール基又は(C-C20)アリール(C-C20)アルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載のフェナジン系化合物。
【請求項3】
前記R及びRは、それぞれ独立的にメチル基、エチル基又はプロピル基であることを特徴とする、請求項1に記載のフェナジン系化合物。
【請求項4】
及びRは、それぞれ独立的に、(C-C)アルキレン基であることを特徴とする、請求項1に記載のフェナジン系化合物。
【請求項5】
前記化学式1で表示される化合物は、5,10-ビス(2-メトキシエチル)-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-bis(2-methoxyethyl)-5,10-dihydrophenazine、BMEPZ)であることを特徴とする、請求項1に記載のフェナジン系化合物。
【請求項6】
請求項1に記載のフェナジン系化合物を含む溶質;及び溶媒を含むことを特徴とする、レドックスフロー電池用電解液。
【請求項7】
前記フェナジン系化合物は、カソード活物質であることを特徴とする、請求項6に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項8】
循環電圧電流法(Cyclic Voltammetry)を通じて、前記フェナジン系化合物を含む電解液を対象として-0.5V~+1.0Vで50mVs-1以上の速度で走査したとき、電圧-電流曲線上に2個の酸化還元ピークが現われることを特徴とする、請求項6に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項9】
前記溶媒は、前記フェナジン系化合物に対する溶解度が0.1M以上10M以下であることを特徴とする、請求項6に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項10】
前記溶媒は、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、フルオロエチレンカーボネート、エタノール及びメタノールからなる群より選択された少なくとも1種以上の溶媒を含むことを特徴とする、請求項9に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか一項に記載の電解液を含むことを特徴とする、レドックスフロー電池。
【請求項12】
下記の化学式2で表示される有機化合物を含むアノード活物質をさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載のレドックスフロー電池。
【化2】
化学式2において、
13、R14、R15、R16及びR17は、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基(-OH)、ニトロ基(-NO)、トリフルオロメチル基(-CF)、アルコキシ基、アルキル基、ヘテロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
【請求項13】
前記アノード活物質は、メナジオン(menadione、MD)を含むことを特徴とする、請求項12に記載のレドックスフロー電池。
【請求項14】
循環電圧電流法(Cyclic Voltammetry)を通じて、前記アノード活物質を含む電解液を対象として-2.0V~-0.5Vで50mVs-1以上の速度で走査したとき、電圧-電流曲線上に2個の酸化還元ピークが現われることを特徴とする、請求項12に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、フェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池に関し、マルチレドックス物質であとともに溶媒に対する溶解度に優れたフェナジン系化合物、それを含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
レドックスフロー電池(Redox flow battery:RFB)は、電解液に溶解されている活物質、すなわち、レドックスカップル(Redox Couple)の酸化還元反応を用いる二次電池である。このようなレドックスフロー電池は、大容量化が可能であり、維持補修費用が少なく、常温で作動可能であり、容量と出力をそれぞれ独立的に設計し得る特徴があるので、次世代の大容量保存装置として脚光を浴びている。
【0003】
レドックスフロー電池の核心素材のうち一つである電解液は、可逆的な酸化還元反応が可能な活物質を溶媒に溶解させた溶液であり、前記活物質の種類によって多様なレドックスフロー電池が構成される。現在まで開発された主要なレドックスカップルには、Fe/Cr、V/V、V/Br、Zn/Br、Zn/Ceなどがあり、これらは水を溶媒に用いる水系レドックスカップルである。このような水系基盤の電解液を用いるレドックスフロー電池の場合、作動電位が水分解電位領域に限定されるので、駆動電圧が低いためエネルギー密度が低いという短所を有している。
【0004】
このような短所を解消するために、電解液の溶媒を非水系溶媒に代替し、前記非水系溶媒に溶解された状態でカソードとアノードで酸化-還元反応を経て高いエネルギー密度を発現し得る有機系活物質に対する研究が試みられてきた。
【0005】
このような従来の技術として、特許文献1(大韓民国公開特許公報第10-2014-0071603号)は、全有機系活物質(all organic redox couple)を含むレドックスフロー電池用電解液に対して記載している。特許文献1によるレドックスフロー電池は、電解液の溶媒に非水系溶媒を用いることができ、この場合、高い作動電圧を得ることができる。したがって、前記電池は、レドックスカップルとして転移金属を用いるフロー電池に比べて高いエネルギー効率を示すことができる。
【0006】
しかし、特許文献1に提示された有機系活物質は、単一酸化還元反応のみ可能なシングルレドックス物質であるという限界点がある。すなわち、特許文献1に提示された活物質を含む電解液の循環電圧電流曲線を見ると、酸化還元ピークが各物質当たり1個しか出ない。この場合、高いエネルギー密度を発現するためには、活物質を多く溶かして高い濃度の電解液を使用する必要があるが、濃度が高くなると、電解液の粘度が上がることになり、これはセル性能に致命的に作用することになる。
【0007】
他の従来の技術として、特許文献2(US20170062842 A1)は、5,10-ジメチル-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-Dimethyl-5,10-dihydrophenazine、DMPZ)などのような有機レドックス物質を用いたレドックスフロー電池に対して記載している。前記DMPZは、2個の窒素部分が酸化還元モチーフとして作用して2段階の可逆的な電気化学的活性を示すマルチレドックス物質である。すなわち、前記DMPZを溶解させた電解液から得られた循環電圧電流曲線を見ると、DMPZ一つの物質から2個の酸化還元ピークを得ることができる。これによって、同一濃度の電解液の場合、前記DMPZが特許文献1に提示された有機系活物質より高いエネルギー密度を発現することができる。しかし、前記DMPZは、アセトニトリルなどのような非水系溶媒に対する溶解度が低いので、これを用いて製造した電解液を含むレドックスフロー電池の場合、発現可能な最大エネルギー密度が低いという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】KR1020140071603 A
【特許文献2】US20170062842 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためのもので、2段階の可逆的な酸化還元反応を起こし得るマルチレドックス有機物質であるとともに溶媒に対する溶解度が高いフェナジン系化合物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、前記フェナジン系化合物を含むレドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施状態は、下記の化学式1で表示されるフェナジン系化合物を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
化学式1において、
及びXは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に酸素(O)、硫黄(S)又はケイ素(Si)であり、
及びRは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキル基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリール基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキルアリール基;又はアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリールアルキル基であり、
及びRは、同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキレン基であり、
、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基(-OH)、ニトロ基(-NO)、トリフルオロメチル基(-CF)、アルコキシ基、アルキル基、ヘテロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
【0014】
本発明の他の実施状態は、前記フェナジン系化合物を含む溶質;及び溶媒;を含むレドックスフロー電池用電解液を提供する。
【0015】
本発明の他の実施状態は、前記電解液を含むレドックスフロー電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるフェナジン系化合物は、2段階の可逆的な酸化還元反応を起こし得るマルチレドックス物質である。したがって、前記フェナジン系化合物を活物質で含む本発明による電解液は、1段階の酸化還元のみを起こす従来のシングルレドックス物質を含む電解液に比べて高いエネルギー密度を発現するレドックスフロー電池を提供することができる。
【0017】
また、本発明によるフェナジン系化合物は、非水系溶媒に対する溶解度が顕著に高い。したがって、前記フェナジン系化合物は、より多くの量が非水系溶媒に溶解され得、最大エネルギー密度が高いレドックスフロー電池用電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施例1によって製造された5,10-ビス(2-メトキシエチル)-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-bis(2-methoxyethyl)-5,10-dihydrophenazine、BMEPZ)の1H-NMR(nuclear magnetic resonance)分析結果である。
図2図2は、本発明の実施例1によって製造されたBMEPZの13C-NMR分析結果である。
図3図3は、実施例2によって製造されたカソード電解液に対する電圧-電流曲線を示したグラフである。
図4図4は、実施例3によって製造されたアノード電解液に対する電圧-電流曲線を示したグラフである。
図5図5は、実施例3によって製造された組み合わせ電解液に対する電圧-電流曲線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に対して詳しく説明する。
【0020】
本明細書で、ある部分がある構成要素を「含む」という際、これは特に反対する記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0021】
また、本明細書に記載した用語「アルキル基」は、炭素及び水素原子のみで構成された1価の直鎖、分枝鎖又は環鎖の飽和炭化水素基を意味するもので、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基などを含むが、これに限定されない。
【0022】
また、本明細書に記載した用語「アリール基」は、一つの水素除去により芳香族炭化水素から誘導された有機基を意味するもので、単一又は融合環系を含む。前記アリール基の具体的な例は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フルオレニル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、フルオランテニル基などを含むが、これに限定されない。
【0023】
また、本明細書に記載した用語「アルキルアリール基」は、アリール基の1以上の水素がアルキル基により置換された有機基を意味するもので、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、iso-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、iso-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基などを含むが、これに限定されない。
【0024】
また、本明細書に記載した用語「アリールアルキル基」は、アルキル基の1以上の水素がアリール基により置換された有機基を意味するもので、フェニルプロピル基、フェニルヘキシル基などを含むが、これに限定されない。
【0025】
本明細書で前記「アルキルアリール基」及び「アリールアルキル基」は、上述したアルキル基及びアリール基の例示の通りであり得るが、これに限定されない。
【0026】
本明細書で「アセタール基(acetal group)」は、アルコールとアルデヒドの結合により形成される有機基、すなわち、一つの炭素に二つのエーテル(-OR)結合を有する置換基を意味し、メトキシメトキシ基、1-メトキシエトキシ基、1-メトキシプロピルオキシ基、1-メトキシブチルオキシ基、1-エトキシエトキシ基、1-エトキシプロピルオキシ基、1-エトキシブチルオキシ基、1-(n-ブトキシ)エトキシ基、1-(イソ-ブトキシ)エトキシ基、1-(2級-ブトキシ)エトキシ基、1-(3級-ブトキシ)エトキシ基、1-(シクロへキシルオキシ)エトキシ基、1-メトキシ-1-メチルメトキシ基、1-メトキシ-1-メチルエトキシ基などを含むが、これに限定されない。
【0027】
本明細書で「エーテル基(ether group)」は、少なくとも1個のエーテル結合(-O-)を有する有機基であり、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基、2-ブトキシエチル基、2-フェノキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、3-メトキシプロピル基、3-ブトキシプロピル基、3-フェノキシプロピル基、2-メトキシ-1-メチルエチル基、2-メトキシ-2-メチルエチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基、2-ブトキシエチル基、2-フェノキシエチル基などを含むが、これに限定されない。
【0028】
本明細書で「アルキレン基」は、脂肪族飽和炭化水素のうち他の2個の炭素原子に結合する2個の水素原子を除外して生ずる2価の原子団を意味するもので、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などを含むが、これに限定されない。
【0029】
本明細書において、「ハロゲン基」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
【0030】
本明細書で「アルコキシ基(alkoxy group)」は、直鎖、分枝鎖又は環鎖のアルキル基に酸素原子が結合して構成された原子団を意味するもので、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、i-プロピルオキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシなどを含むが、これに限定されない。
【0031】
本明細書で「ヘテロアルキル基」は、アルキル基内の炭素原子(末端の炭素原子含み)が1個以上のヘテロ原子に置換されたアルキル基を意味するもので、前記ヘテロ原子は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、リン(P)などを含むが、これに限定されない。
【0032】
本明細書で「ハロアルキル基」は、アルキル基の1個以上の水素がハロゲン基によって置換された有機基を意味するもので、フルオロメチル基、ブロモメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基などを含むが、これに限定されない。
【0033】
本明細書で「マルチレドックス物質」は、循環電圧電流法を用いて電解液を50mVs-1以上の速度で走査したとき、2個以上の酸化還元ピークが可逆的に現われる物質を意味し、「シングルレドックス物質」とは、同一条件下で1個の酸化還元ピークのみ可逆的に現われる物質を意味する。
【0034】
本発明の一実施状態は、下記の化学式1で表示されるフェナジン系化合物を提供する。
【0035】
【化2】
【0036】
化学式1において、
及びXは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に酸素(O)、硫黄(S)又はケイ素(Si)であり、
及びRは、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキル基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリール基;アセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキルアリール基;又はアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアリールアルキル基であり、
及びRは、同一であるか相異であり、それぞれ独立的にアセタール基又はエーテル基に置換又は非置換されたアルキレン基であり、
、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基(-OH)、ニトロ基(-NO)、トリフルオロメチル基(-CF)、アルコキシ基、アルキル基、ヘテロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
【0037】
本発明の一実施状態によると、前記R及びRは、それぞれ独立的に、(C-C20)アルキル基、(C-C20)アリール基、(C-C20)アルキル(C-C20)アリール基又は(C-C20)アリール(C-C20)アルキル基であってもよい。ただし、フェナジン系化合物の溶解度を考慮したとき、前記R及びRは、それぞれ独立的にメチル基、エチル基又はプロピル基であってもよい。
【0038】
本発明の一実施状態によると、R及びRは、それぞれ独立的に、(C-C)アルキレン基であってもよい。このように、R及びRが炭素数が1以上5以下のアルキレン基である場合、溶媒に対する優れた溶解度を示すと共に速い酸化還元反応速度を示し得るので好ましい。
【0039】
本発明によるフェナジン系化合物は、置換基効果によって非水系溶媒に対する高い溶解度を有し得、これによって、最大エネルギー密度が高いレドックスフロー電池用非水系電解液を提供することができる。また、前記フェナジン系化合物は、非水系溶媒に溶解された状態で2段階の可逆的な酸化還元反応を起こし得るマルチレドックス物質であるので、前記フェナジン系化合物を活物質で用いる場合、一層高いエネルギー密度を有するレドックスフロー電池を提供することができる。具体的に、前記フェナジン系化合物の酸化還元反応のメカニズムを説明すると、下記の化学反応式1の通りである。ただし、下記の化学反応式1は、本発明の一実施状態による化学反応式、例えば、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12が全て水素である場合を示す。
【0040】
【化3】
【0041】
前記化学反応式1に示したように、本発明によるフェナジン系化合物は、分子構造内に存在する二つの窒素部分が酸化還元のモチーブとして作用する。これによって、順次的に2回の酸化還元反応が進行され、結果的に、2段階の可逆的な電気化学的活性を示す。このような化合物を溶媒に溶解させて製造された電解液の場合、循環電圧電流法で酸化還元反応するとき、電圧-電流曲線上に2個の酸化還元ピークが出ることができる。具体的に、図3には、本発明の一実施状態によるフェナジン系化合物を用いて製造した電解液に対する電圧-電流曲線が示されている。
【0042】
本発明の一実施状態によると、前記化学式1で表示される化合物は、5,10-ビス(2-メトキシエチル)-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-bis(2-methoxyethyl)-5,10-dihydrophenazine、BMEPZ)であってもよい。具体的に、前記BMEPZの合成方法を説明すると、下記の化学反応式2によって、まず、フェナジン(phenazine)が5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-dihydrophenazine)に転換され、前記5,10-ジヒドロフェナジンと2-クロロエチルメチルエーテル(2-chloroethyl methyl ether)の反応により最終的にBMEPZが合成され得る。このように合成されたBMEPZは、既存のレドックスフロー電池で有機活物質として用いられていた5,10-ジメチル-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-Dimethyl-5,10-dihydrophenazine、DMPZ)に比べて非水系溶媒に対して10倍以上の高い溶解度を有し得るので、高いエネルギー密度を有するレドックスフロー電池を提供することができる。
【0043】
【化4】
【0044】
本発明の他の実施状態は、前記フェナジン系化合物を含む溶質;及び溶媒を含むレドックスフロー電池用電解液を提供する。
【0045】
本発明の一実施状態によると、前記フェナジン系化合物は、カソード活物質であってもよい。具体的に、前記フェナジン系化合物は、相対的に高いポテンシャル領域で酸化還元反応が進行される有機化合物であるので、カソード活物質に適用することが好ましく、前記フェナジン系化合物より低いポテンシャル領域で酸化還元反応する有機化合物をアノード活物質で構成すると、全有機系レドックスフロー電池(all organic redox flow battery)を具現することができる。
【0046】
本発明の一実施状態によると、循環電圧電流法(Cyclic Voltammetry)を通じて、前記フェナジン系化合物を含む電解液を対象として-0.5V~+1.0Vで50mVs-1以上の速度で走査したとき、電圧-電流曲線上に2個の酸化還元ピークが現われ得る。これは、前記化学反応式2に記載したように、前記フェナジン系化合物の分子構造内に存在する二つの窒素部分が酸化還元のモチーブとして作用して順次的に2回の酸化還元反応を進行するから現われる現象であり得る。このようなフェナジン系化合物は、同一条件下で1個の酸化還元ピークのみ現われる有機物に比べて高いエネルギー密度を発現するレドックスフロー電池を提供することができる。
【0047】
本発明の一実施状態によると、前記溶媒は、前記フェナジン系化合物に対する溶解度が0.1M以上10M以下であってもよく、具体的に、0.1M以上5M以下、又は0.1M以上1.0M以下であってもよい。前記フェナジン系化合物の溶解度が前記範囲に含まれる場合、適正粘度を有する電解液を提供するとともに優れたエネルギー密度を有するレドックスフロー電池を提供することができるので好ましい。
【0048】
本発明の一実施状態によると、前記溶媒は、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、フルオロエチレンカーボネート、エタノール及びメタノールからなる群より選択された少なくとも1種以上の溶媒を含むことができる。また、前記溶媒に水系溶媒を混合して用いることができ、前記水系溶媒は、硫酸、塩酸及びリン酸からなる群より選択された少なくとも1種以上を含むことができる。
【0049】
本発明の他の実施状態は、前記電解液を含むレドックスフロー電池を提供する。このとき、前記レドックスフロー電池は、アノード活物質をさらに含むことができる。前記アノード活物質としては、当該分野において一般的に用いられる酸化還元可能な有機分子として、前記フェナジン系化合物より低い電位領域で酸化還元反応するものであれば、制限なしに用いられ得る。
【0050】
本発明の一実施状態によると、前記レドックスフロー電池は、下記の化学式2で表示される有機化合物を含むアノード活物質をさらに含むことができる。
【0051】
【化5】
【0052】
化学式2において、
13、R14、R15、R16及びR17は、互いに同一であるか相異であり、それぞれ独立的に水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基(-OH)、ニトロ基(-NO)、トリフルオロメチル基(-CF)、アルコキシ基、アルキル基、ヘテロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
【0053】
本発明の一実施状態によると、循環電圧電流法(Cyclic Voltammetry)を通じて、前記アノード活物質を含む電解液を対象として-0.2V~-0.5Vで50mVs-1以上の速度で走査したとき、電圧-電流曲線上に2個の酸化還元ピークが現われ得る。すなわち、前記アノード活物質も前記フェナジン系化合物と同様に分子構造内に酸化還元のモチーブとなる元素が2個含まれたマルチレドックス物質であってもよい。このように2個の酸化還元ピークを2個有しているアノード活物質を、2個の酸化還元ピークを有する前記フェナジン系化合物(カソード活物質)と組み合わせて電解液を構成すると、最適のエネルギー密度を有するレドックスフロー電池を提供することができるので、好ましい。
【0054】
本発明の一実施状態によると、前記アノード活物質は、メナジオン(Menadione)を含むことができる。前記メナジオン(menadione、MD)は、前記フェナジン系化合物より低い電位領域で2段階の可逆的な酸化還元反応を起こし得るマルチレドックス有機物質であるので、好ましいアノード活物質として用いられ得る。
【0055】
本発明によるレドックスフロー電池用電解液は、支持電解質をさらに含むことができる。前記支持電解質は、電解液に伝導度を付加的に付与するために添加されるものであって、当該分野において一般的に用いられるものを制限なしに用いることができる。例えば、前記支持電解質は、アルキルアンモニウム塩、リチウム塩及び及びナトリウム塩からなる群より選択される1種以上であってもよい。このとき、前記アルキルアンモニウム塩は、PF 、BF 、AsF 、ClO 、CFSO 、CFSO 、C(SOCF 、N(CFSO 及びCH(CFSO からなる群より選択される一つの陰イオンと、テトラアルキルアンモニウム陽イオンでアルキルがメチル、エチル、ブチル又はプロピルであるアンモニウム陽イオンの組み合わせからなり得る。前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiN(CFSO(略称「LiTFSI」)及びLiCH(CFSOからなる群より選択される1種以上であってもよい。そして、前記ナトリウム塩は、NaPF、NaBF、NaAsF、NaClO、NaCFSO、NaCF3、NaC(SOCF)、NaN(CFSO及びNaCH(CFSOからなる群より選択される1種以上であってもよい。前記支持電解質は、当該分野で一般的に用いられる範囲内で用いられ得、例えば、前記支持電解質は、電解液のうち0.1M~2Mの濃度で用いられ得る。
【0056】
一方、前記レドックスフロー電池は、本発明による電解液を含むということ以外は、当該分野において一般的に用いられる構造で制限なしに構成され得る。具体的に、前記レドックスフロー電池は、前記電解液が注入されたスタック;前記スタック内に配置されたカソード、セパレータ及びアノード;前記スタックの外部に位置して前記電解液を貯蔵する電解液タンク;前記タンクと前記スタックの間で電解液を循環させるために用いられるポンプ;を含むことができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を参照して詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、多様な形態に変形され得、本発明の範囲が下で記述する実施例によって限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界で平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供される。
【0058】
[実施例1:BMEPZの合成]
フェナジン(phenazine)2gと亜ジチオン酸ナトリウム(sodium hydrosulfite、Na)20gをエタノール50mLと蒸溜水200mLの混合液に溶かした後、75℃で10分間撹拌した後に精製して、5,10-ジヒドロフェナジンを1.8g収得した。
【0059】
その後、前記5,10-ジヒドロフェナジン1.8gと2-クロロエチルメチルエーテル(2-chloroethyl methyl ether)11.4mLをn-ブチルリチウム溶液(2.5M in hexane)11mLとテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)25mLの混合液に溶かした後、25℃で12時間の間撹拌した後に精製して、5,10-ビス(2-メトキシエチル)-5、10-ジヒドロフェナジン(5,10-bis(2-methoxyethyl)-5,10-dihydrophenazine、BMEPZ)2.07gを収得した。
【0060】
前記BMEPZの1H-NMR及び13C-NMRスペクトラムをそれぞれBruker Advznce-300及びAdvznce-500 NMRスペクトロメーターで測定し、その測定値を下記に示し、前記1H-NMR及び13C-NMRスペクトラムをそれぞれ図1及び2に示した。このようにして得られたBMEPZの化学式は、下記の通りである。
【0061】
【化6】
【0062】
1H-NMR(300MHz、C6D6)δ(ppm):6.60-6.57(m、4H)、6.31-6.28(m、4H)、3.43(t、J=6.3Hz、4H)、3.25(t、J=6.3Hz、4H)、2.99(s、6H)。
【0063】
13C-NMR(125MHz、C6D6)δ(ppm):137.75、111.84、69.15、59.03、46.35。
【0064】
[実施例2:BMEPZを含む電解液の製造]
前記実施例1によって製造されたBMEPZ 0.01Mを溶媒に溶解させてカソード電解液を製造した。このとき、溶媒としては、0.1Mのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート(tetrabutylammonium hexafluorophosphate、TBAPF)が含まれたアセトニトリル溶液を用いた。
【0065】
[実施例3:BMEPZ及びMDを組み合わせた電解液の製造]
メナジオン(menadion、MD、Sigma-aldrich社)0.01Mを溶媒に溶解させてアノード電解液を製造した。このとき、溶媒としては、0.1MのTBAPFが含まれたアセトニトリル溶液を用いた。
【0066】
その後、前記アノード電解液と前記実施例2によって製造されたカソード電解液を1:1の体積比で混合して組み合わせ電解液を製造した。
【0067】
[比較例1:DMPZ準備]
市販中の5,10-ジメチル-5,10-ジヒドロフェナジン(5,10-Dimethyl-5,10-dihydrophenazine、DMPZ)(Tokyo Chemical Industry CO.,LTD.)を購入して準備した。前記DMPZの化学式は、下記の通りである。
【0068】
【化7】
【0069】
<評価方法>
1.溶解度
前記実施例1及び比較例1によって提供されたフェナジン系化合物を0.1MのTBAPFが含まれたアセトニトリル溶液に溶かし、最大限溶解され得るフェナジン系化合物の量を確認し、その結果を下記の表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
前記表1を参照すると、実施例1によって製造されたフェナジン系化合物の場合、比較例1によるフェナジン系化合物に比べて溶解度が顕著に高いことが確認できる。
【0072】
2.電気化学的特性の分析
実施例2及び実施例3によって製造されたカソード電解液、アノード電解液及び組み合わせ電解液の電気化学的特性の分析のために循環電圧電流法(cyclic voltammetry)を用いた。
【0073】
上記各電解液を用いて走査速度を300mVs-1にして実験を進行した。循環電圧電流曲線を測定するためのセルは、基準電極(reference electrode)としては、溶媒であるアセトニトリル(acetonitrile)にAgNOを0.3M溶かしたAg/Ag電極を用い、作用電極(working electrode)としては、カーボンフェルトを用い、補助電極(counter electrode)としては、白金を用いて構成した。
【0074】
図3図5には、それぞれ実施例2及び3によって製造されたカソード電解液、アノード電解液及び組み合わせ電解液に対する電圧-電流曲線が示されている。
【0075】
前記図3を参照すると、電圧-電流曲線上の-0.5V~+1.0V電位領域で2個の酸化還元ピークが現われることが分かり、それから前記フェナジン系化合物が二つの電子が反応するレドックスフロー電池の活物質として使用可能であることを確認した。
【0076】
前記図4を参照すると、電流-電圧曲線上の-2.0V~-0.5V電位領域で2個の酸化還元ピークが現われることが分かり、それから前記MDが二つの電子が反応するレドックスフロー電池の活物質として使用可能であることを確認した。
【0077】
また、図5を参照すると、電圧-電流曲線上の右側に現われた2個の酸化還元ピークがBMEPZに該当するピークであり、左側に現われた2個の酸化還元ピークがMDに該当する酸化還元ピークである。したがって、相対的に高いポテンシャル領域で酸化還元反応をするBMEPZがカソード活物質で構成され、相対的に低いポテンシャル領域で酸化還元反応をするMDがアノード活物質で構成され得る。
【0078】
以上のように、本発明は限定された実施例と図面によって説明したが、本発明は、これによって限定されず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者であれば、本発明の技術思想と下に記載する特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることを理解するはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】