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特表2022-509930抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびそれらの使用
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  • 特表-抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびそれらの使用 図1
  • 特表-抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびそれらの使用 図2
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  • 特表-抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびそれらの使用 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-25
(54)【発明の名称】抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220118BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220118BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220118BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220118BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220118BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12P21/08
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/46
A61P35/00
A61K39/395 T
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525680
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 CN2019117114
(87)【国際公開番号】W WO2020098599
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】201811337068.3
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516174219
【氏名又は名称】江蘇恒瑞医薬股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】516174208
【氏名又は名称】上海恒瑞医薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI HENGRUI PHARMACEUTICAL CO., LTD
【住所又は居所原語表記】NO. 279 WENJING ROAD, MINHANG DISTRICT, SHANGHAI 200245, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】曹 卓暁
(72)【発明者】
【氏名】付 雅媛
(72)【発明者】
【氏名】許 志賓
(72)【発明者】
【氏名】張 利敏
(72)【発明者】
【氏名】胡 斉悦
(72)【発明者】
【氏名】陶 維康
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BB12
4C085CC23
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗CD73抗体、その抗原結合フラグメントおよびその使用を提供する。具体的には、特定のCDR領域を有するマウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗CD73抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。また、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物、ならびにCD73関連疾患の診断薬および治療薬としての使用も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD73に特異的に結合する抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントであって、ここで、該抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントが軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含み、該軽鎖可変領域が、配列番号27、28および29にそれぞれ示される軽鎖LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含むか、または配列番号27、28および29にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するLCDR変異体を含み、かつ該重鎖可変領域が、
i) 配列番号10、11および12にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号10、11および12にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体;
ii) 配列番号16、17および18にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号16、17および18にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体;あるいは、
iii) 配列番号22、67および24にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号22、67および24にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体
を含む、ヒトCD73に特異的に結合する抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
10-9M以下の解離平衡定数でヒトCD73に結合する、請求項1に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
iv) 配列番号10、11、12、13、14および15にそれぞれ示す、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;
v) 配列番号16、17、18、19、20および21にそれぞれ示す、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;あるいは
vi) 配列番号23、68、69、70、71、72、73、74、75または76に示すHCDR2ならびに配列番号22、24、25、14および26にそれぞれ示すHCDR1、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3
を含む、請求項1または2に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
抗体が、マウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
マウス抗体またはキメラ抗体もしくはそれらの抗原結合フラグメントが、次の(A)から(C):
(A) 配列番号4に示す重鎖可変領域および配列番号5に示す軽鎖可変領域を含む、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント;
(B) 配列番号6に示す重鎖可変領域および配列番号7に示す軽鎖可変領域を含む、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント;ならびに
(C) 配列番号8に示す重鎖可変領域および配列番号9に示す軽鎖可変領域を含む、抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント
からなる群より選択される何れか1つである、請求項4に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
抗体がヒト化抗体であり、該抗体の軽鎖フレームワーク領域(FR)および重鎖フレームワーク領域(FR)がそれぞれ、ヒト生殖系列の軽鎖および重鎖またはそれらの変異体配列に由来する;好ましくは、ヒト化抗体が、次の(D)から(F):
(D) 配列番号10、11、12、13、14および15にそれぞれ示すHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域および軽鎖フレームワーク領域であって、ここで該重鎖フレームワーク領域が、6Q、10G、30K、37V、44G、49Gおよび94Gからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含み、該軽鎖フレームワーク領域が、36L、42G、44I、60K、69S、71Yおよび85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含む;
(E) 配列番号16、17、18、19、20および21にそれぞれ示すHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域および軽鎖フレームワーク領域であって、ここで、該重鎖フレームワーク領域が、38K、44G、48I、66K、67A、69Lおよび71Aからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含み、該軽鎖フレームワーク領域が、36L、42G、44I、66R、71Yおよび85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含む;ならびに、
(F) 配列番号23、68、69、70、71、72、73、74、75または76に示されるHCDR2、ならびに配列番号22、24、25、14および26にそれぞれ示すHCDR1、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域および軽鎖フレームワーク領域であって、ここで、該重鎖フレームワーク領域が、38M、44S、48I、67A、69L、71V、73K、82A Rおよび94Tからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含み、該軽鎖フレームワーク領域が、36L、42G、44L、69S、70Dおよび71Yからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を含む、
からなる群より選択される何れか1つを含む、
ここで、該復帰突然変異部位が、Kabat番号付け基準に従って番号付けされる、
請求項4に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
ヒト化抗体が、配列番号30、41または49に示す重鎖可変領域またはその変異体を含む、請求項6に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
重鎖可変領域変異体が、配列番号30、41または49に示す重鎖可変領域のFR領域内に1-10個のアミノ酸復帰突然変異を含む;好ましくは、重鎖可変領域変異体が、次の(G)から(I):
(G) 配列番号30に示す重鎖可変領域のFR領域内におけるE6Q、V10G、S30K、I37V、L44G、A49GおよびR94Gからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する重鎖可変領域変異体;
(H) 配列番号41に示す重鎖可変領域のFR領域内におけるR38K、R44G、M48I、R66K、V67A、I69LおよびR71Aからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する重鎖可変領域変異体;ならびに
(I) 配列番号49に示す重鎖可変領域のFR領域内におけるR38M、G44S、M48I、V67A、M69L、R71V、T73K、S82A RおよびR94Tからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する重鎖可変領域変異体、
からなる群より選択される何れか1つである、
請求項7に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
抗体が、次の(J)から(L):
(J) 配列番号30、37、38、39または40に示す重鎖可変領域;
(K) 配列番号41、45、46、47または48に示す重鎖可変領域;および
(L) 配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65または66に示す重鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つの重鎖可変領域を含む、
請求項6から8のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
抗体が、配列番号31、42または50に示す軽鎖可変領域もしくはその変異体を含む、請求項6に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
軽鎖可変領域変異体が、配列番号31、42または50に示す軽鎖可変領域のFR領域内に1-10個のアミノ酸復帰突然変異を有する;好ましくは、軽鎖可変領域変異体が、次の(M)から(O):
(M) 配列番号31に示す軽鎖可変領域のFR領域内におけるY36L、K42G、P44I、S60K、T69S、F71YおよびT85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する軽鎖可変領域変異体;
(N) 配列番号42に示す軽鎖可変領域のFR領域内におけるY36L、K42G、P44I、G66R、F71YおよびT85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する軽鎖可変領域変異体;および
(O) 配列番号50に示す軽鎖可変領域のFR領域内におけるY36L、K42G、P44L、T69S、E70DおよびF71Yからなる群より選択される1以上の復帰突然変異を有する軽鎖可変領域変異体
からなる群より選択される何れか1つである、
請求項10に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
抗体が、次の(P)から(R):
(P) 配列番号31、32、33、34、35または36に示す軽鎖可変領域;
(Q) 配列番号42、43または44に示す軽鎖可変領域;および
(R) 配列番号50、51、52または53に示す軽鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つの軽鎖可変領域
を含む、請求項6、10および11のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
抗体またはその抗原結合フラグメントが、次の(S)から(U):
(S) 配列番号30、37、38、39もしくは40に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号30、37、38、39もしくは40に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、ならびに配列番号31、32、33、34、35もしくは36に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号31、32、33、34、35もしくは36に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域;
(T) 配列番号41、45、46、47もしくは48に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号41、45、46、47もしくは48に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、ならびに配列番号42、43もしくは44に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号42、43もしくは44に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域;ならびに
(U) 配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65もしくは66に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65もしくは66に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、ならびに配列番号50、51、52もしくは53に示すアミノ酸配列を有するか、または配列番号50、51、52もしくは53に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つの重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む;好ましくは、該抗体またはその抗原結合フラグメントが、次の(V)から(X):
(V) 配列番号39に示す重鎖可変領域および配列番号36に示す軽鎖可変領域;
(W) 配列番号41に示す重鎖可変領域および配列番号43に示す軽鎖可変領域;ならびに
(X) 配列番号61に示す重鎖可変領域および配列番号52に示す軽鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つを含む、
請求項6から12のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
抗体が、定常領域を含む;好ましくは、該抗体の重鎖定常領域が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4またはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の変異配列に由来し、該抗体の軽鎖定常領域が、ヒトκ鎖、λ鎖またはそれらの変異配列に由来する;より好ましくは、該抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号77に示されるか、または配列番号77と少なくとも85%の配列同一性を有し、かつ該抗体の軽鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号78に示されるか、または配列番号78と少なくとも85%の配列同一性を有する、
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項15】
抗体が、次のiv)からvi):
iv) 配列番号79に示す配列を有するか、または配列番号79と少なくとも85%同一の配列を有する重鎖、ならびに配列番号80に示す配列を有するか、または配列番号80と少なくとも85%同一の配列を有する軽鎖を含む、抗CD73抗体;
v) 配列番号81に示す配列を有するか、または配列番号81と少なくとも85%同一の配列を有する重鎖、ならびに配列番号82に示す配列を有するか、または配列番号82と少なくとも85%同一の配列を有する軽鎖を含む、抗CD73抗体;ならびに
vi) 配列番号83に示す配列を有するか、または配列番号83と少なくとも85%同一の配列を有する重鎖ならびに配列番号84に示す配列を有するか、または配列番号84と少なくとも85%同一の配列を有する軽鎖を含む、抗CD73抗体;
からなる群より選択される何れか1つである、請求項14に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項16】
抗原結合フラグメントが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、二重特異性抗体およびdsFvからなる群より選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
ヒトCD73への結合について、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントと競合する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子。
【請求項19】
請求項18に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項20】
請求項19に記載のベクターで形質転換することにより得られる宿主細胞であって、ここで、該宿主細胞が、原核細胞および真核細胞からなる群より選択され、好ましくは真核細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞である、宿主細胞。
【請求項21】
増殖に適する条件下で適切な培地中で請求項20に記載の宿主細胞を培養すること、該培地から該宿主細胞により発現される抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを回収し、精製することを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントの作製方法。
【請求項22】
請求項1から17のいずれか一項に記載の抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項18に記載の核酸分子、および1以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項23】
請求項1から17のいずれか一項に記載の抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項22に記載の医薬組成物を、試験すべきサンプルと接触させて、
試験すべきサンプル中のヒトCD73の存在またはレベルを判定すること
を含む、試験すべきサンプル中のヒトCD73を検出するためのインビトロの方法。
【請求項24】
疾患または障害の処置または予防のための医薬の製造を目的とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント、または請求項18に記載の核酸分子、または請求項22に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
疾患または障害がヒトCD73に関連する、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
疾患または障害が、腫瘍である、好ましくは乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌または胃癌である、請求項24または25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジーの分野に属する。より具体的には、本発明は、抗CD73抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、本明細書の記載に関係する背景情報を提供するが、必ずしも先行技術を構成するものではない。
【0003】
細胞外-5’-ヌクレオチダーゼ(エクト-5’-ヌクレオチダーゼ、EC3.1.3.5、エクト-5’-NT)としても知られるCD73は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を介して膜に固定された糖タンパク質である。CD73は、内皮細胞、リンパ球、Tregなど、ヒト身体のさまざまな組織および細胞の表面に広く発現されている。最近の研究では、CD73が様々な腫瘍で高発現していることが分かっている。多くの研究により、CD73が腫瘍の発生および発達に密接に関係していることが確認されている。
【0004】
ヒトCD73をコードする遺伝子は、第6q14-q21染色体上に位置している。CD73の進化は比較的保守的であり、ヒトCD73をコードするDNA配列は、マウスDNA配列と86%の相同性を有する。CD73遺伝子は57kbpからなり、コード領域の長さは1,725bpである。CD73ゲノムのプロモーター領域配列のG+C比は比較的高く、CD73ゲノムは、1つのcAMP応答要素(eRE)、5つのSp-1結合部位、2つのAp-2結合部位、1つの低酸素応答要素(HRE)および1つのTCF/LEF結合部位を含む、多くの転写因子の結合部位を含む。プロモーターの上流領域には、3つのGATAボックス、2つのMyoD部位、IgHおよびNF-κb結合部位ならびに3つのC-EBP部位が存在する。ヒトCD73前駆体タンパク質は574個のアミノ酸残基からなる。CD73分子のN末端のアミノ酸残基1-26およびC末端のアミノ酸残基550-574を切除後、アミノ酸残基27-549は成熟CD73を構成し、分子量約70KDのサブユニットを形成する。2つのサブユニットが生物学的活性を有するホモダイマーを構成する。成熟CD73は、5つのN-結合型グリコシル化部位を含み、C末端のアミノ酸配列はGPIアンカー配列であり、ここで、523位のセリンがアンカー部位として機能し、GPIを介して細胞の外膜に固定されている。CD73は、内因性のホスホリパーゼCによるGPIの加水分解により、細胞膜表面から脱落し、アデノシンの産生を減少させることができる。
【0005】
CD73は、ヒト内皮細胞などの組織細胞およびリンパ球の表面に広く発現している。CD73は細胞外ヌクレオチダーゼ活性を有し、AMPを加水分解してアデノシンを生成し、免疫抑制効果を発揮する。アデノシンが受容体に結合することで、血管形成の促進、組織の虚血再灌流障害を防ぎ、炎症と免疫応答を阻害することができる。最近、アデノシンがヒト血管内皮細胞の炎症反応を抑制することが発見されている。また、CD73は非加水分解活性を有し、細胞接着およびシグナル伝達に関与している。
【0006】
CD73は、腫瘍の発生および発達に重要な役割を果たしている。CD73は、腫瘍血管形成に関与している。関連研究では、B16F10黒色腫細胞を有するC57BL/6マウスにおいて、CD73がインビボでの新生血管形成を促進することが示されている。CD73の薬理学的阻害により、新生血管の数を減らし、新生血管の成熟を妨げることができ、それにより黒色腫の血管形成を減らすことができる。また、別の研究では、腫瘍を有するマウスを抗CD73モノクローナル抗体で処置すると、腫瘍の血管形成を低減できることがわかっている。CD73はまた、その酵素的機能および非酵素的機能に基づき、微小血管内皮細胞の遊走を促進して管状構造を形成することもできる。CD73は、細胞増殖タンパク質D1を上方制御することで、上皮細胞の増殖を誘導する。また、CD73が産生するアデノシンは、A2A受容体による組織の低酸素化を介して、VEGFの産生および放出を促進し、新生血管形成を補助することができる。
【0007】
次に、CD73が腫瘍細胞の増殖を促進できることが、インビボおよびインビトロの研究で示されている。ZHIらの研究結果(Cancer Sci, 2010, 101(12): 2561-2569)では、CD73の発現をsiRNAで阻害することで、細胞周期およびアポトーシスを阻害し、それにより乳癌細胞の増殖および分化を抑制できることが示されている。CD73酵素活性の特異的阻害剤である5’-α,β-メチレン-アデノシン二リン酸(APCP)の使用はまた、用量依存的に腫瘍細胞の増殖を阻害することができる。CD73をトランスフェクトした乳癌細胞におけるCD73の過剰発現は、細胞の生存率を高め、細胞周期を促進した。ある研究者は、APCPが神経膠腫細胞の増殖を30%減少させることができるのに対し、アデノシンは細胞増殖を35%増加させることができることを見出した。Stagg Jら(PNAS, 2010, 107(4):1547-1552)は、悪性度の高い膀胱癌細胞ではCD73の活性が有意に上昇していることを発見し、プリンシグナル伝達経路が膀胱腫瘍の形成を促進することを確認している。さらに、CD73は、結腸癌細胞、黒色腫細胞およびリンパ腫細胞の増殖を促進することもできる。最近の研究では、上方制御されたCD73発現を有する白血病Tリンパ球が、TRAILにより誘導されるアポトーシスを特異的に阻害し、細胞内に複数の薬剤に対する耐性を誘導することで、腫瘍細胞の生存を促進することがわかっている。
【0008】
さらに、腫瘍細胞の表面に発現する腫瘍由来のCD73は、腫瘍の免疫回避の重要な理由となっている。RYZHOVら(J Immunol, 2011, 187(11):6120-6129)もまた、腫瘍内のCD73がMDSC(骨髄由来免疫抑制細胞)の侵襲および凝集に関連しているが、一方、MDSCはT細胞の活性化を阻害する未熟な骨髄細胞であることも見出した。腫瘍微小環境中のアデノシンはまた、Tregが免疫活動を抑制するのにも役立つ。従って、CD73は免疫応答を抑制することにより、間接的に腫瘍の進行を促進することができる。
【0009】
腫瘍における上記の役割に加えて、CD73は腫瘍の転移にも密接に関連していることがわかっている。腫瘍の転移に必要な第一条件は、腫瘍細胞の移動能力を高めるために攻撃的な表現型を獲得することを意味する。CD73と転移関連マーカーとの関連性が発見されている。CD73レベルは、非転移性前立腺癌と比較して、リンパ転移性前立腺癌の患者で有意に高く、このことはCD73が腫瘍細胞の転移プロセスにおいて重要な役割を果たしている可能性を示している。XIONGら(Cell Tissue Res, 2014, 355(2):365-374)は、CD73が腫瘍細胞の間葉系形質転換を誘導することで、転移および侵襲を促進できることを示している。STAGGとWangら(Cancer Res, 2011, 71(8): 2892-2900; J Cancer Res Clin Oncol, 2008, 134(3): 365-372)は、CD73欠損マウスがB16F10黒色腫を静脈注射した後の肺転移腫瘍の発生にインビボで抵抗性を示し、CD73欠損宿主が腫瘍T細胞特異的抗原の腫瘍内へのホーミングを増強できることを見出した。腫瘍患者における臨床治験ではまた、腫瘍におけるCD73の過剰発現が、胃癌、前立腺癌および悪性黒色腫の転移と関連していることを明らかにした。以上の結果から、宿主CD73および腫瘍CD73の両方が腫瘍の転移を顕著に促進できることが証明され、一方で、CD73欠損宿主における腫瘍転移に対する抵抗性は、内因性の抗腫瘍免疫の増強に関係している。
【0010】
現在、CD73関連抗体は、US9938356、US9605080、WO2016075099、WO2017152085、WO2017064043およびWO2018013611などの特許出願に記載されている。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明者らは、多数の試験を経て、新規な抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを開発した。
【0012】
ある態様において、本明細書は、ヒトCD73に特異的に結合する抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを開示しており、ここで、該抗体は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含み、
該軽鎖可変領域は、配列番号27、28および29にそれぞれ示される軽鎖LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含むか、または配列番号27、28および29にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するLCDR変異体を含み、かつ
その重鎖可変領域は、
i) 配列番号10、11および12にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号10、11および12にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体;
ii) 配列番号16、17および18にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号16、17および18にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体;あるいは、
iii) 配列番号22、67および24にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3または配列番号22、67および24にそれぞれ示される配列に対して3個以下のアミノ酸変異を有するHCDR変異体
を含む。
【0013】
ある態様において、上記の“3個以下のアミノ酸変異”とは、3個、2個、1個または0個のアミノ酸変異を意味する。
【0014】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、10-7Mに等しいかまたはそれ以下の解離平衡定数でヒトCD73に結合する。ある態様において、10-8M、10-9M、10-10Mまたは10-11Mに等しいかまたはそれ以下の解離平衡定数でヒトCD73に結合する。
【0015】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、
iv) 配列番号10、11、12、13、14および15にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;
v) 配列番号16、17、18、19、20および21にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;あるいは
vi)配列番号23、68、69、70、71、72、73、74、75または76に示されるHCDR2ならびに配列番号22、24、25、14および26にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3
を含む。
【0016】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、
vii) 配列番号22、23、24、25、14および26にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;
viii)配列番号22、71、24、25、14および26にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3;あるいは
ix) 配列番号22、76、24、25、14および26にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3
を含む。
【0017】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、組換え抗体、好ましくはマウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である。
【0018】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、次の(A)から(C):
(A)配列番号4に示される重鎖可変領域および配列番号5に示される軽鎖可変領域を含む抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント;
(B)配列番号6に示される重鎖可変領域および配列番号7に示される軽鎖可変領域を含む抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント;ならびに
(C)配列番号8に示される重鎖可変領域および配列番号9に示される軽鎖可変領域抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント
に定義される何れかの抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントから選択されるマウス抗体またはキメラ抗体である。
【0019】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、抗体はヒト化抗体であり、該抗体の軽鎖フレームワーク領域(FR)および重鎖フレームワーク領域(FR)はそれぞれ、ヒト生殖細胞由来の軽鎖および重鎖またはその変異配列(複数可)に由来している。好ましくは、該ヒト化抗体は、次の(D)から(F):
(D)配列番号10、11、12、13、14および15のそれぞれに示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域(複数可)および軽鎖フレームワーク領域(複数可)であって、ここで、該重鎖フレームワーク領域(複数可)は、6Q、10G、30K、37V、44G、49Gおよび94Gからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含み、該軽鎖フレームワーク領域(複数可)は、36L、42G、44I、60K、69S、71Yおよび85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含む;
(E)配列番号16、17、18、19、20および21にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域(複数可)および軽鎖フレームワーク領域(複数可)であって、ここで、該重鎖フレームワーク領域(複数可)は、38K、44G、48I、66K、67A、69Lおよび71Aからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含み、該軽鎖フレームワーク領域(複数可)は、36L、42G、44I、66R、71Yおよび85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含む;
(F)配列番号23、68、69、70、71、72、73、74、75または76に示されるHCDR2、ならびに配列番号22、24、25、14および26にそれぞれ示すHCDR1、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、ならびに重鎖フレームワーク領域(複数可)および軽鎖フレームワーク領域(複数可)であって、該重鎖フレームワーク領域(複数可)は、38M、44S、48I、67A、69L、71V、73K、82A Rおよび94Tからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含み、該軽鎖フレームワーク領域(複数可)は、36L、42G、44L、69S、70Dおよび71Yからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を含む;ここで、復帰突然変異の位置は、Kabatの番号付け基準に従って番号付けされる、
からなる群より選択される何れか1つを含む。本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、抗体は、配列番号30、41もしくは49に示される重鎖可変領域またはその変異体(複数可)を含む。
【0020】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、重鎖可変領域変異体は、配列番号30、41または49に示される重鎖可変領域のFR領域(複数可)上に1~10個のアミノ酸復帰突然変異(複数可)を有する。
【0021】
ある態様において、本発明の重鎖可変領域変異体は、次の(G)-(I):
(G)配列番号30に示される重鎖可変領域のFR領域上のE6Q、V10G、S30K、I37V、L44G、A49GおよびR94Gからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する重鎖可変領域変異体;
(H)配列番号41に示される重鎖可変領域のFR領域上のR38K、R44G、M48I、R66K、V67A、I69LおよびR71Aからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する重鎖可変領域変異体;ならびに
(I)配列番号49に示される重鎖可変領域のFR領域(複数可)上のR38M、G44S、M48I、V67A、M69L、R71V、T73K、S82ARおよびR94Tからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する重鎖可変領域変異体
からなる群より選択される何れか1つである。
【0022】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、次の(J)-(L):
(J)配列番号30、37、38、39または40に示される重鎖可変領域;
(K)配列番号41、45、46、47または48に示される重鎖可変領域;および
(L)配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65または66に示される重鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つの重鎖可変領域を含む。
【0023】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、抗体は、配列番号31、41もしくは50に示される軽鎖可変領域またはその変異体(複数可)を含む。
【0024】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、軽鎖可変領域変異体は、配列番号31、41または50に示される軽鎖可変領域のFR領域(複数可)上に1~10個のアミノ酸復帰突然変異(複数可)を有する。
【0025】
ある態様において、本明細書に記載の軽鎖可変領域変異体は、次の(M)-(O):
(M)配列番号31に示される軽鎖可変領域のFR領域(複数可)上の36L、42G、44I、60K、69S、F71YおよびT85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する軽鎖可変領域変異体;
(N)配列番号42に示される軽鎖可変領域のFR領域(複数可)上のY36L、K42G、P44I、G66R、F71YおよびT85Dからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する軽鎖可変領域変異体;ならびに
(O)配列番号50に示される軽鎖可変領域のFR領域(複数可)上のY36L、K42G、P44L、T69S、E70DおよびF71Yからなる群より選択される1以上の復帰突然変異(複数可)を有する軽鎖可変領域変異体
からなる群より選択される何れか1つである。
【0026】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、次の(P)-(R):
(P)配列番号31、32、33、34、35または36に示される軽鎖可変領域;
(Q)配列番号42、43または44に示される軽鎖可変領域;および
(R)配列番号50、51、52または53に示される軽鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つの軽鎖可変領域を含む。
【0027】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、次の(S)-(U):
(S)配列番号30、37、38、39もしくは40のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号41、45、46、47もしくは48と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域、および配列番号31、32、33、34、35もしくは36のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号42、43もしくは44と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域;
(T)配列番号41、45、46、47もしくは48のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号41、45、46、47もしくは48と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域、および配列番号42、43もしくは44のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号42、43もしくは44と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域;ならびに
(U)配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65もしくは66のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号49、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65もしくは66と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域、および配列番号50、51、52もしくは53のアミノ酸配列に示されるか、または配列番号50、51、52もしくは53と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域
からなる群より選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。
【0028】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、次の(V)-(X):
(V)配列番号39に示される重鎖可変領域および配列番号36に示される軽鎖可変領域;
(W)配列番号41に示される重鎖可変領域および配列番号43に示される軽鎖可変領域;ならびに
(X)配列番号61に示される重鎖可変領域および配列番号52に示される軽鎖可変領域
からなる群より選択される何れか1つを含む。
【0029】
ある態様において、本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、定常領域(複数可)を含む。
【0030】
ある態様において、本発明の抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体であって、その重鎖定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4またはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の変異配列(複数可)に由来し、そして軽鎖定常領域は、ヒトκ鎖、λ鎖もしくはその変異配列(複数可)に由来する。
【0031】
ある態様において、本発明の抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、配列番号77に示されるか、または配列番号77と少なくとも85%の配列同一性を有し、そして軽鎖定常領域のアミノ酸配列は、配列番号78に示されるか、または配列番号78と少なくとも85%の配列同一性を有する。
【0032】
ある態様において、少なくとも85%の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を意味する。
【0033】
ある態様において、少なくとも85%の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、1以上のアミノ酸(複数可)の欠失、挿入または置換変異により得られるものを含む。
【0034】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、抗体は、次のiv)~vi):
iv) 配列番号79に示されるか、または配列番号79と少なくとも85%の配列同一性を有する重鎖および配列番号80に示されるか、または配列番号80と少なくとも85%の配列同一性を有する軽鎖を含む抗CD73抗体;
v) 配列番号81に示されるか、または配列番号81と少なくとも85%の配列同一性を有する重鎖および配列番号82に示されるか、または配列番号82と少なくとも85%の配列同一性を有する軽鎖を含む抗CD73抗体;ならびに
vi) 配列番号83に示されるか、または配列番号83と少なくとも85%の配列同一性を有する重鎖および配列番号84に示されるか、または配列番号84と少なくとも85%の配列同一性を有する軽鎖を含む抗CD73抗体
からなる群より選択される何れか1つである。
【0035】
本発明のある態様において、少なくとも85%の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を意味する。
【0036】
ある特定の態様において、少なくとも85%の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、1以上のアミノ酸(複数可)の欠失、挿入または置換変異により得られるものを含む。ある特定の態様において、少なくとも85%の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、抗体の軽鎖または重鎖アミノ酸配列(複数可)のフレームワーク領域(複数可)または定常領域(複数可)中における1以上のアミノ酸(複数可)の欠失、挿入または置換変異により得られる。
【0037】
本発明の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントのある態様において、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、二重特異性抗体およびdsFvからなる群より選択される。
【0038】
ある態様において、本明細書は、ヒトCD73への結合について上記の抗体または抗原結合フラグメントの何れかと競合するか、あるいは上記の抗体または抗原結合フラグメントの何れかと同じヒトCD73エピトープおよび/またはサルCD73エピトープに結合する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを記載する。
【0039】
ある態様において、本明細書は、上記の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントの何れか1つをコードする核酸分子を記載する。
【0040】
ある態様において、本明細書は、上記の核酸分子を含むベクターを記載する。
【0041】
ある態様において、本明細書は、上記の組換えベクターを形質転換することにより得られる宿主細胞を記載する。この宿主細胞は、原核細胞および真核細胞からなる群より選択される。ある態様において、宿主細胞は真核細胞である。ある態様において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。宿主細胞は、ヒト胚性幹細胞、受精卵および生殖細胞など、完全な個体に発達することができるヒト細胞を含まない。
【0042】
ある態様において、本明細書は、上記の何れかの抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法であって、増殖に適する条件下、適切な培地中で上記の宿主細胞を培養し、その培地から抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを回収および精製する工程を含む方法を記載する。
【0043】
ある態様において、本明細書は、上記の宿主細胞の何れか1つにより発現される抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは核酸分子、および1以上の薬学的に許容される担体(複数可)、賦形剤(複数可)または希釈剤(複数可)を含む医薬組成物を記載する。
【0044】
ある態様において、該医薬組成物は、単位用量で0.01重量%~99重量%の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを含み得る。ある態様において、該医薬組成物は、単位用量で0.1-2000mgのモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。他の態様において、該医薬組成物は、単位用量で1-1000mgのモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0045】
ある態様において、本明細書は、試験すべきサンプル中のヒトCD73を検出するためのインビトロの方法であって、上記の試験すべきサンプルを抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の何れかと接触させること;および
試験すべきサンプル中のヒトCD73の存在またはレベルを判定する工程
を含む方法を記載する。
【0046】
ある態様において、本明細書は、疾患または障害の処置または予防のための医薬の製造における上記の抗CD73抗体もしくは抗原結合フラグメント、核酸分子または医薬組成物の何れかの使用を記載する。ある態様において、記載の疾患または障害は、CD73関連疾患または障害である。
【0047】
ある態様において、CD73関連疾患または障害は、細胞増殖性疾患であり、ある態様において、該細胞増殖性疾患は腫瘍である。
【0048】
ある態様において、腫瘍は、乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌および胃癌からなる群より選択される。ある態様において、腫瘍は、転移性腫瘍である。
【0049】
ある態様において、本明細書は、CD73関連疾患または障害の処置または予防のための方法であって、対象に治療的有効量の上記の抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメント、それをコードする核酸分子、あるいはそれを含む医薬組成物を投与することを含む方法を記載する。ある態様において、該疾患は細胞増殖性疾患である。ある態様において、該細胞増殖性疾患は腫瘍である。ある態様において、該腫瘍は、乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌および胃癌からなる群より選択される。ある態様において、該腫瘍は転移性腫瘍である。
【0050】
ある態様において、本明細書は、疾患(細胞増殖性疾患など)の処置または予防のための、抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメント、それを含む医薬組成物、またはそれをコードする核酸分子を記載する。該処置または予防は、薬学的に有効量の上記の抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメント、医薬組成物または核酸分子を対象に投与することを含む。ある態様において、細胞増殖性疾患は腫瘍である。ある態様において、腫瘍は、乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌および胃癌からなる群より選択される。ある態様において、腫瘍は転移性腫瘍である。
【0051】
ある態様において、本明細書は、医薬として用いるための、上記の抗CD73抗体もしくはその抗原結合フラグメント、それをコードする核酸分子、またはそれを含む医薬組成物を記載する。好ましくは、該医薬は、ヒトCD73関連疾患または障害の処置または予防に使用できる。より好ましくは、該医薬は、細胞増殖性疾患、好ましくは腫瘍、より好ましくは乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌または胃癌の処置に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1:ヒトCD73タンパク質への抗CD73抗体の結合のELISA結果。
図2図2:カニクイザルCD73タンパク質への抗CD73抗体の結合のELISA結果。
図3図3:MDA-MB-231細胞への抗CD73抗体の結合アッセイの結果。
図4図4:MDA-MB-231細胞における酵素活性を阻害する抗CD73抗体の実験結果。
図5図5:CD4+ T細胞のインビトロ増殖を誘導する抗CD73抗体の実験結果。
図6図6:MDA-MB-231腫瘍担持マウスにおける異種移植腫瘍の腫瘍体積に対する抗CD73抗体の効果。
図7図7:肺転移MDA-MB-231-Lucに対する抗CD73抗体の阻害実験であって、縦軸は肺の腫瘍の生物発光値を示す。
図8図8:肺転移MDA-MB-231-Lucに対する抗CD73抗体の阻害実験であって、縦軸は肺腫瘍の相対的な生物発光値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
詳細な説明
抗CD73抗体については関連文献に記載されているが、臨床用途のために市販されているCD73抗体製品は存在しない。本発明者らは、多数の実験後、良好な生物学的活性を有する新規な抗CD73抗体またはその抗原結合フラグメントを開発した。
【0054】
本発明をより理解しやすくするために、特定の技術用語および科学用語を次に具体的に定義する。本明細書で明示的に定義されない限り、本明細書で用いる全ての他の技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0055】
本明細書で用いるアミノ酸の3文字コードおよび1文字コードは、J. biol. chem, 243, p3558(1968)に記載されている通りである。
【0056】
本明細書で用いる“抗体”とは、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖が鎖間ジスルフィド結合で結合した4つのペプチド鎖構造を形成する免疫グロブリンを意味する。免疫グロブリンの重鎖定常領域は、異なるアミノ酸組成および配列を有しているため、異なる抗原性を示す。従って、免疫グロブリンは、重鎖μ、δ、γ、αおよびεにそれぞれに対応する、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEの5つのタイプまたは免疫グロブリンアイソタイプに分類できる。ヒンジ領域のアミノ酸組成や重鎖ジスルフィド結合の数および位置に応じて、同じタイプのIgはさらに異なるサブタイプに分けることができ、例えば、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分けられる。軽鎖は、異なる定常領域に基づいてκ鎖またはλ鎖に分けられる。5種類のIgのそれぞれは、κ鎖またはλ鎖を有し得る。
【0057】
本明細書中、本明細書に記載の抗体軽鎖は、軽鎖定常領域をさらに含んでいてよく、該軽鎖定常領域は、ヒトまたはマウスのκ鎖、λ鎖またはそれらの変異体(複数可)を含む。
【0058】
本明細書中、本明細書に記載の抗体重鎖は、重鎖定常領域をさらに含んでいてよく、該重鎖定常領域は、ヒトまたはマウスのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらの変異体(複数可)を含む。
【0059】
抗体の重鎖および軽鎖のN末端に隣接する約110個のアミノ酸配列は、可変領域(Fv領域)と呼ばれる高度に可変な領域であり、C末端に近い残りのアミノ酸配列は、定常領域と呼ばれる比較的安定した領域である。可変領域には、3つの超可変領域(HVR)および比較的保守的な配列を有する4つのフレームワーク領域(FR)が含まれる。抗体の特異性を決定する3つの超可変領域は、相補性決定領域(CDR)としても知られている。軽鎖可変領域(LCVR)および重鎖可変領域(HCVR)のそれぞれは、3つのCDR領域と4つのFR領域からなり、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置されている。軽鎖の3つのCDR領域は、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を意味し、重鎖の3つのCDR領域は、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を意味する。本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントのLCVR領域およびHCVR領域のCDRアミノ酸残基の数および位置は、既知のKabatの番号付け基準に従う(LCDR1-3、HCDR1-3)。
【0060】
用語“相補性決定領域”、“CDR”または“超可変領域”とは、主に抗原結合に寄与する、抗体の可変ドメインに存在する6つの超可変領域の1つを意味する。一般的に、各重鎖可変領域には3つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3)が存在し、各軽鎖可変領域には3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3)が存在する。CDRのアミノ酸配列の境界は、“Kabat”の番号付け基準(Kabat et al. (1991), “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, 5th edition, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD参照)、“Chothia”の番号付け基準(Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273:927-948参照)およびImmunoGenTics (IMGT)の番号付け基準(Lefranc MP, Immunologist, 7, 132-136 (1999); Lefranc, MP, etc, Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003), etc)を含む、種々の周知の方法で決定することができる。例えば、古典的なフォーマットの場合、Kabat基準に従うと、重鎖可変ドメイン(VH)のCDRアミノ酸残基は、31-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)および95-102(HCDR3)と番号付けされ、軽鎖可変ドメイン(VL)のCDRアミノ酸残基は、24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)および89-97(LCDR3)と番号付けされる。Chothia基準に従うと、VHのCDRアミノ酸残基は、26-32(HCDR1)、52-56(HCDR2)および95-102(HCDR3)と番号付けされ、VLのアミノ酸残基は、26-32(LCDR1)、50-52(LCDR2)および91-96(LCDR3)と番号付けされる。KabatとChothiaの両方を組み合わせてCDRを定義すると、CDRは、ヒトVHのアミノ酸残基26-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)および95-102(HCDR3)およびヒトVLのアミノ酸残基24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)および89-97(LCDR3)からなる。IMGT基準に従うと、VHのCDRアミノ酸残基は、通常、26-35(CDR1)、51-57(CDR2)および93-102(CDR3)と番号付けされ、VLのCDRアミノ酸残基は、通常、27-32(CDR1)、50-52(CDR2)および89-97(CDR3)と番号付けされる。IMGT基準に従うと、抗体のCDR領域を、IMGT/DomainGap Align Programを用いて決定することができる。
【0061】
本発明の抗体としては、マウス抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体が挙げられ、好ましくはヒト化抗体である。
【0062】
本明細書で用いる用語“マウス抗体”とは、当技術分野の知識および技術に従って調製された、例えば、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体を意味する。調製の際には、対象にCD73抗原を注射し、その後、所望の配列または機能特性を有する抗体を発現するハイブリドーマを分離する。本発明の好ましい態様において、マウスCD73抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウスκ鎖、λ鎖もしくはその変異体(複数可)の軽鎖定常領域をさらに含むか、またはマウスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4もしくはその変異体(複数可)の重鎖定常領域をさらに含む。
【0063】
用語“キメラ抗体”とは、ある種(例えば、マウスなど)の抗体可変領域(複数可)と他の種(例えば、ヒトなど)の抗体定常領域(複数可)とを融合して形成された抗体であり、このキメラ抗体は、マウス抗体による免疫反応を軽減することができる。キメラ抗体を作製するには、まず、特異的なマウスモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを樹立し、そのマウスハイブリドーマから可変領域遺伝子をクローニングした後、必要に応じてヒト抗体から定常領域遺伝子をクローニングする。マウス可変領域遺伝子とヒト定常領域遺伝子を連結させてキメラ遺伝子を形成し、これを発現ベクターに挿入する。最終的に、キメラ抗体分子は、真核生物系または原核生物系で発現される。本発明の好ましい態様において、CD73キメラ抗体の抗体軽鎖は、ヒトκ鎖、λ鎖またはその変異体(複数可)の軽鎖定常領域をさらに含む。CD73キメラ抗体の抗体重鎖は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体(複数可)の重鎖定常領域をさらに含む。好ましくは、ヒトIgG1、IgG2もしくはIgG4、またはアミノ酸変異(複数可)(YTEやS228Pなど)を有するIgG1、IgG2もしくはIgG4の変異体(複数可)の重鎖定常領域を含む。
【0064】
CDR移植抗体を含む、用語“ヒト化抗体”とは、ヒト抗体可変領域フレームワーク中にマウスCDR配列を移植して作製された抗体、すなわち、異なるタイプのヒト生殖細胞系抗体フレームワーク配列で作製された抗体を意味する。ヒト化抗体は、多数のマウスタンパク質成分を含むキメラ抗体によって引き起こされる異種反応を回避することができる。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系の抗体遺伝子配列を網羅した公的なDNAデータベースや、公開されている文献から入手することができる。例えば、ヒト重鎖可変領域遺伝子および軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞DNA配列は、“VBase”ヒト生殖細胞配列データベース(www.mrccpe.com.ac.uk/vbaseで利用可能)、ならびにKabat, EA, et al. 1991 Sequences of Proteins of Immunoligocal Interest, 5th Edに見出され得る。免疫原性の低下による活性の低下を回避するために、ヒト抗体可変領域のフレームワーク配列は、活性を維持するために最小限の逆変異(reverse mutation)(複数可)または復帰突然変異(back mutation)(複数可)を受け得る。本発明のヒト化抗体はまた、ファージディスプレイによりCDR親和性成熟が行われたヒト化抗体も意味する。免疫原性の低下による活性の低下を回避するために、ヒト抗体可変領域は、活性を維持するために最小限の逆変異(複数可)または復帰突然変異(複数可)を受けることができ、これは、ヒト抗体に由来するFR領域上のアミノ酸残基(複数可)が、対応する位置の元の抗体のアミノ酸残基(複数可)に変異することを意味する。
【0065】
CDRの移植は、フレームワーク残基が抗原と接触することにより、CD73抗体またはその抗原結合フラグメントの抗原に対する親和性の低下をもたらし得る。かかる相互作用は、高度な体細胞変異に起因する可能性がある。従って、ドナーフレームワークのアミノ酸をヒト化抗体フレームワークに移植することが必要な場合もある。非ヒトCD73抗体またはその抗原結合フラグメントに由来する抗原結合に関与するアミノ酸残基は、マウスモノクローナル抗体の可変領域の配列および構造を確認することで同定することができる。ドナーCDRフレームワークと生殖細胞系との間で異なるアミノ酸残基は、関連性があると考えられる。最も近縁の生殖細胞系を決定できない場合は、サブタイプにより共有される共通配列に整列させるか、または高い類似性を有するマウス配列の共通配列に整列させることができる。希少なフレームワーク残基は、体細胞での高い変異の結果であると考えられ、結合に重要な役割を果たしている。
【0066】
用語“アミノ酸変異”とは、元のタンパク質またはポリペプチドと比較した時、タンパク質またはポリペプチド変異体におけるアミノ酸変化または変異を意味し、これらには元のタンパク質またはポリペプチドを基準にした1以上のアミノ酸挿入、欠失または置換が含まれる。例えば、“3個以下のアミノ酸変異を有する変異体”とは、元のタンパク質またはポリペプチドと比較した時、3個、2個、1個または0個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を意味する。
【0067】
用語、抗体の“抗原結合フラグメント”または“機能的フラグメント”とは、抗原(例えば、CD73)に特異的に結合する能力を有する抗体の1以上のフラグメントを意味する。完全長抗体のフラグメントは、特定の抗原に結合する機能を達成するために使用できることが示されている。抗体の“抗原結合フラグメント”に含まれる結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメントであるFabフラグメント、(ii)2つのFabフラグメントがヒンジ領域にてジスルフィド架橋で結合した2価のフラグメントであるF(ab’)断片、(iii)抗体の1つのアームのVHドメインおよびVLドメインからなるFvフラグメント、(iv)VHドメイン(複数可)からなる、単一ドメインまたはdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature341: 544-546)、(v) 鎖間ジスルフィド結合を介してVHとVLから形成された安定な抗原結合フラグメントであるdsFv、(vi)scFv、dsFvおよびFabなどのフラグメントを含むダイアボディ、二重特異性抗体および多重特異性抗体、が挙げられる。さらに、FvフラグメントのVLドメインおよびVHドメインは2つの別個の遺伝子にコードされており、それらが組換え法を用いて合成リンカーで連結されることにより、VLドメインおよびVHドメインが対になって一価の分子が形成された単一タンパク質鎖を生成することができる(単鎖Fv(scFv)と称される;例えば、Birdら (1988) Science 242:423-426;および、Hustonら (1988) Proc. Natl. Acad. Sci USA 85:5879-5883参照)。かかる一本鎖抗体も、用語、抗体の“抗原結合フラグメント”に包含されることが意図される。このような抗体は、当技術分野で知られている常套技術を用いて得られ、無傷の抗体の場合と同様の方法を用いて機能的フラグメントをスクリーニングする。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、または無傷の免疫グロブリンを酵素的もしくは化学的に破壊することによって製造することができる。抗体は、異なるアイソタイプ、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM抗体の形態であり得る。
【0068】
本発明の抗原結合フラグメントとしては、Fab、F(ab’)、Fab’、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(二重特異性抗体)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)等が挙げられる。
【0069】
Fabは、IgG抗体分子をパパイン(H鎖224位のアミノ酸残基を切断する)で処理して得られる抗体フラグメントである。得られたフラグメントは、H鎖のN末端側の約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した、分子量約50,000の抗原結合活性を有する抗体フラグメントである。
【0070】
本発明のFabは、本発明のモノクローナル抗体(ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域アミノ酸配列または立体構造に結合する)をパパインで処理することにより作製できる。さらに、Fabは、抗体のFabをコードするDNAを原核生物の発現ベクターまたは真核生物の発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物または真核生物に導入してFabを発現させることにより製造することができる。
【0071】
“F(ab’)”とは、IgGのヒンジ領域にある2つのジスルフィド結合の下流部分をペプシンで消化して得られる、分子量約100,000の抗原結合活性を有する抗体フラグメントを意味する。F(ab’)は、ヒンジ領域で連結された2つのFabを含む。
【0072】
本発明のF(ab’)は、本発明のモノクローナル抗体(ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域アミノ酸配列または立体構造に結合する)をパパインで処理することにより作製できる。また、F(ab’)は、次に記載のFab’をチオエーテル結合またはジスルフィド結合を介して結合させることにより作製できる。
【0073】
Fab’は、分子量が約50,000の抗原結合活性を有する抗体フラグメントであり、これは、上記のF(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる。本発明のFab’は、CD73を特異的に認識し、その細胞外領域アミノ酸配列または立体構造に結合する本発明のF(ab’)をジチオスレイトールなどの還元剤で処理することにより作製できる。
【0074】
さらに、Fab’は、抗体のFab’をコードするDNAを原核生物の発現ベクターまたは真核生物の発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物または真核生物に導入してFab’を発現させることにより作製することができる。
【0075】
“一本鎖抗体”、“一本鎖Fv”、“scFv”とは、抗体重鎖可変ドメイン(または領域;VH)と抗体軽鎖可変ドメイン(または領域;VL)がリンカーで連結された分子を意味する。このようなscFv分子は、NH-VL-リンカー-VH-COOHまたはNH-VH-リンカー-VL-COOHの一般的な構造を有する。先行技術における適当なリンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列またはその変異体(複数可)、例えば、1~4反復を有する変異体(Holligerら(1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448)からなる。本発明で用いることができる他のリンカーは、Alfthan et al. (1995), Protein Eng. 8:725-731、Choi et al. (2001), Eur. J. Immunol. 31:94-106、Hu et al. (1996)、Cancer Res. 56:3055-3061、Kipriyanov et al. (1999), J. Mol. Biol. 293:41-56 およびRoovers et al. (2001), Cancer Immunolに記載されている。
【0076】
本発明のscFvは、次の工程により作製できる:ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域または立体構造に結合する本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを得て、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入し、次いで、該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入してscFvを発現させる。
【0077】
ダイアボディ(Diabody)は、scFvが2量体化した抗体フラグメントであり、2価の抗原結合活性を有する抗体フラグメントである。2価の抗原結合活性において、2つの抗原は同じであっても異なっていてもよい。
【0078】
本発明のダイアボディは、次の工程により作製できる:ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域または立体構造に結合する本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、リンカーペプチドの長さが8アミノ酸残基以下となるようにscFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入した後、該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入して、ダイアボディを発現させる。
【0079】
dsFvは、VHおよびVLのそれぞれの1つのアミノ酸残基をシステイン残基で置換した後、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合を介して置換されたポリペプチドを結合させることによって得られる。システイン残基で置換されるアミノ酸残基は、公知の方法(Protein Engineering, 7, 697 (1994))に従い抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0080】
本発明のdsFvは、次の工程により作製できる:ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域または立体構造に結合する本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを得て、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入した後、該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入してdsFvを発現させる。
【0081】
本開示のCDR含有ペプチドは、次の工程により作製できる:ヒトCD73を特異的に認識し、その細胞外領域アミノ酸配列またはその立体構造に結合する本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入した後、該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入してペプチドを発現させる。CDR含有ペプチドはまた、Fmoc法やtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0082】
本明細書で用いる用語“抗体フレームワーク(FR)”とは、VLまたはVHの何れかの可変ドメインの一部を意味し、この可変ドメインの抗原結合ループ(CDR)の主鎖(scaffold)として機能する。基本的に、FRはCDRのない可変ドメインである。
【0083】
用語“エピトープ”または“抗原決定基”とは、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位(例えば、CD73分子上の特異的な部位)を意味する。エピトープは、一般的には、少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個または15個の連続した、または連続していないアミノ酸を含み、独特の空間的構造を有する。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G.E. Morris, Ed. (1996)参照。
【0084】
用語“特異的に結合する(specifically bind to)”、“選択的に結合する(selectively bind to)”、“選択的に結合する(selectively binds to)”または“特異的に結合する(specifically binds to)”とは、抗体が抗原上の所定のエピトープに結合することを意味する。一般的には、抗体は、約10-7M未満、例えば、約10-8M、10-9M、10-10M、または10-11M、あるいはそれ以下の親和性(KD)で結合する。
【0085】
用語“KD”または“Kd”は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味する。一般的には、本発明の抗体は、Biacore装置の表面プラズマ共鳴(SPR)技術によって決定される、例えば、約10-7M未満、例えば、約10-8M、10-9Mまたは10-10Mあるいはそれ以下の解離平衡定数(KD)でヒトCD73に結合する。
【0086】
用語“競合”が、同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば、中和抗原結合タンパク質または中和抗体)が用いられる場合、抗原結合タンパク質間で競合が起こることを意味し、これは、試験される抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその免疫学的機能的フラグメント)が、対照抗原結合タンパク質(例えば、リガンドまたは対照抗体)の共通抗原(例えば、CD73抗原またはそのフラグメント)に対する特異的結合を阻止または阻害(例えば、低減)するアッセイによって決定されることを意味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを決定するために、多種の競合結合アッセイが利用可能である。これらのアッセイは、例えば、固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al, 1983, Methods in Enzymology 9: 242-253参照)、固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al, 1986, J. Immunol. 137: 3614-3619; Cheung, et al, 1990, Virology176: 546-552参照)、固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press参照)、I-125標識を用いた固相直接標識RIA(例えば、Morel et al, 1988, Molec. Immunol. 25: 7-15参照)、固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Cheung, et al, 1990, Virology 176: 546-552参照);および、直接標識RIA(Moldenhauer et al, 1990, Scand. J. Immunol. 32: 77-82)が挙げられる。一般的には、このアッセイは、非標識の試験抗原結合タンパク質および標識された対照抗原結合タンパク質の両方に結合することができる精製抗原の使用を伴う(抗原は固相表面または細胞表面にある)。競合阻害は、試験抗原結合タンパク質の存在下で固相表面または細胞表面に結合したラベルの量を測定することによって決定される。通常、試験抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(抗原結合タンパク質と競合する)には、次のものが含まれる:対照抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質;および、対照抗原結合タンパク質が結合するエピトープに十分に近いエピトープに結合する抗原結合タンパク質であって、2つのエピトープが空間的に干渉して結合を妨げる抗原結合タンパク質。競合結合を決定する方法に関するさらなる詳細は、本明細書の実施例に記載されている。一般的には、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、対照抗原結合タンパク質の共通抗原に対する特異的結合のうち、少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、またはそれ以上を阻害(例えば、減少)する。いくつか場合、結合は、少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、またはそれ以上阻害される。
【0087】
本明細書で用いる用語“核酸分子”とは、DNA分子およびRNA分子を意味する。核酸分子は、一本鎖でも二本鎖でもよく、好ましくは二本鎖DNAである。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれたとき、“作動可能に連結”されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、コーディング配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作動可能に連結されていると考えられる。
【0088】
用語“ベクター”とは、それが連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。一態様において、ベクターは“プラスミド”であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る円形の二本鎖DNAループを意味する。別の態様において、ベクターはウイルスベクターであり、ここで、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得る。本明細書に記載のベクターは、それらが導入された宿主細胞内で自己複製することが可能であり(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーマル哺乳動物ベクター)、または宿主細胞への導入時に該宿主細胞のゲノムに統合され、それによって宿主ゲノムとともに複製されてもよい(例えば、非エピソーマル哺乳動物ベクター)。
【0089】
抗体および抗原結合フラグメントを作製および精製する方法は、当技術分野でよく知られており、例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, chapters 5-8 and 15などに記載されている。例えば、マウスにヒトCD73またはそのフラグメントを免疫し、得られた抗体を、当技術分野でよく知られている常套法を用いて、再変性、精製およびアミノ酸配列の解析を行うことができる。また、抗原結合フラグメントも常套法で調製することができる。本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、非ヒト抗体由来のCDR領域に1以上のヒトフレームワーク領域を組み込むように設計されている。ヒトFR生殖細胞配列は、ImMunoGeneTics(IMGT)からそのウェブサイトhttp://imgt.cines.frを介して、またはMOEソフトウェアを用いてIMGTヒト抗体可変生殖細胞遺伝子データベースに対して整列させることにより、The Immunoglobulin Facts, 2001, ISBN012441351から得ることができる。
【0090】
用語“宿主細胞”とは、発現ベクターが導入された細胞を意味する。宿主細胞は、細菌、微生物、植物または動物の細胞を含み得る。形質転換されやすい細菌としては、大腸菌やサルモネラ菌などの腸内細菌科のメンバー、枯草菌などのバシラス科のメンバー、肺炎球菌、連鎖球菌、インフルエンザ菌などが挙げられる。適当な微生物としては、Saccharomyces cerevisiaeおよびPichia pastorisが挙げられる。適当な動物宿主細胞株としては、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)およびNS0細胞が挙げられる。
【0091】
本発明の人工抗体または抗原結合フラグメントは、公知の方法で調製および精製することができる。例えば、重鎖および軽鎖をコードするcDNA配列をクローニングし、GS発現ベクターに改変することができる。組換え免疫グロブリンを発現するベクターは、その後、CHO細胞に安定的にトランスフェクションされ得る。より推奨される先行技術として、哺乳動物発現系は、特にFc領域の高度に保存されたN末端部位において、抗体のグリコシル化をもたらし得る。ヒトCD73に特異的に結合する抗体を発現させることで、安定したクローンが得られた。陽性クローンは、抗体生産用のバイオリアクターにおいて、無血清の培養液で増殖させることができる。抗体が分泌された培養液は、通常の方法で精製することができる。例えば、バッファーで改変したプロテインAまたはGセファロース FFカラムで精製してもよい。非特異的結合成分は洗い流される。結合した抗体をpH勾配で溶出し、抗体フラグメントをSDS-PAGEで検出した後、プールする。抗体は、一般的な技術を用いてろ過し、濃縮してもよい。可溶性の混合物および凝集物は、サイズ排除またはイオン交換などの一般的な技術を用いて効果的に除去してもよい。その後、得られた製品を直ちに、例えば、-70℃で凍結させるか、または凍結乾燥してもよい。
【0092】
動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、臓器または生物学的液体に用いられる“投与”および“処置”とは、外因性医薬、治療薬、診断薬または組成物を動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、臓器または生物学的液体と接触させることを意味する。“投与”および“処置”は、例えば、治療法、薬物動態法、診断法、研究法および実験法などを意味し得る。細胞の処置には、試薬と細胞を接触させること、ならびに試薬と細胞液を接触させることが含まれ、該細胞液は細胞と接触している。“投与”および“処置”とはまた、例えば、細胞の、試薬、診断薬、結合組成物または他の細胞とのインビトロまたはエクスビボでの処置を意味する。“処置”とは、ヒト、動物または研究対象に用いられる場合、治療的処置、予防的または防止的処置、研究用途および診断用途を意味する。
【0093】
本明細書で用いる“処置する”とは、本発明の結合化合物の何れかを含む組成物などの治療剤を、その治療剤が既知の治療活性を有する1以上の疾患症状を有する患者に体内又は体外に投与することを意味する。一般的には、治療剤は、臨床的に測定可能な程度で1以上の疾患症状の緩解を誘発するか、またはそのような症状の進行を阻害することによって、処置される患者または集団のかかる症状を軽減するために有効な量で投与される。特定の疾患症状を軽減するのに有効な治療薬の量(“治療的有効量”とも呼ばれる)は、患者の病状、年齢および体重などの種々の要因や、患者に所望の応答を誘発する薬剤の能力に応じて変化し得る。疾患症状が軽減されたかどうかは、その症状の重篤度または進行状況を評価するために医師または他の医療提供者によって通常使用される何れかの臨床測定によって評価することができる。本発明の一態様(例えば、治療方法または製造品)は、すべての対象において標的疾患症状(複数可)を緩和するのに有効ではないかもしれないが、スチューデントのt検定、カイ二乗検定、MannおよびWhitneyによるU検定、Kruskal-Wallis検定(H検定)、Jonckheere-Terpstra検定ならびにWilcoxon検定などの当技術分野で知られている何らかの統計的検定によって決定される、統計的に有意な数の対象において標的疾患症状を軽減するはずである。
【0094】
“保存的修飾”または“保存的置換もしくは置換”とは、タンパク質のアミノ酸を、タンパク質の生物学的活性を変えることなく頻繁に改変できるように、類似の特性(例えば、電荷、側鎖のサイズ、疎水性/親水性、主鎖の立体構造および剛性など)を有する他のアミノ酸で置換することを意味する。当業者は、一般的に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換が、生物学的活性を実質的に変化させないことを認識している(例えば、Watson et al. (1987) Molecular Biology of the Gene, The Benjamin/Cummings Pub. Co., p. 224 (4th Ed.)参照)。さらに、構造的または機能的に類似のアミノ酸との置換は、生物学的活性を破壊する可能性が低い。例示的な保存的置換を次の表に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
“有効量”には、病状の症状または兆候を改善または予防するのに十分な量を意味する。また、有効量とは、診断を可能にする、または診断を容易にするのに十分な量を意味する。特定の患者または動物対象に対する有効量は、処置すべき状態、患者の全体的な健康状態、投与経路および投与量ならびに副作用の重篤度などの要因に応じて変わり得る。有効量とは、重大な副作用または毒性作用を回避する最大用量または投与プロトコルのことである。
【0097】
“外因性物質”とは、状況に応じて生物、細胞またはヒトの外部で生成される物質を意味する。“内因性物質”とは、状況に応じて細胞、生物またはヒト体内で生成される物質を意味する。
【0098】
本明細書に記載の“変異配列”とは、本発明のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を適当な置換、挿入または欠失により改変した後、本発明のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と種々の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を意味する。本明細書に記載の配列同一性は、少なくとも85%、90%または95%であり得て、限定されない例としては、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%が挙げられる。
【0099】
用語“相同性”、“同一性”および“一致性”は、本明細書中で互換的に用いられ、2つのポリヌクレオチド配列間または2つのポリペプチド配列間の配列類似性を意味する。比較すべき2つの配列の両方において、ある位置が同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置が同じ塩基によって占められている場合、その分子はその位置において相同であると見なされる。2つの配列間の相同性パーセントは、2つの配列が共有する一致または相同な位置の数を、比較対象となるすべての位置の数で割って、100を掛けた関数である。例えば、2つの配列が最適にアラインメントされているとき、2つの配列の10個の位置のうち6個が一致または相同であれば、この2つの配列は60%相同であり、2つの配列の100個の位置のうち95個が一致または相同であれば、この2つの配列は95%相同であると考えられる。一般的に、比較は、2つの配列がアライメントされて最大パーセントの相同性が得られるよう行われる。本発明のある特定の態様において、抗体配列は、少なくとも85%の配列同一性を有する。他の特定の態様において、少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。他の特定の態様において、90%、95%または99%あるいはそれ以上の配列同一性を有する。他の特定の態様において、少なくとも95%の配列同一性を有する。特定の配列同一性を有する上記のアミノ酸配列は、1以上のアミノ酸の欠失、挿入または置換から得ることができる。
【0100】
本明細書で用いる表現“細胞”、“細胞株”および“細胞培養物”は、本明細書中で互換的に用いられ、全てのそのような表記はすべてその子孫を含む。従って、用語“形質転換体”および“形質転換細胞”には、継代数に関わらず、初代対象細胞およびそれに由来する培養物が含まれる。また、また、意図的または意図的でない突然変異により、すべての子孫がDNA含有量において正確に同一ではない可能性があることも理解されるべきである。このようにしてスクリーニングされた、最初に形質転換された細胞と同じ機能的活性または生物学的活性を有する変異体の子孫は、この用語の範囲内に包含される。別々の表記が意図されている場合、それは文脈から明確に理解され得る。
【0101】
本明細書で用いる“ポリメラーゼ連鎖反応”または“PCR”は、例えば米国特許第4,683,195号に記載されているように、核酸、RNAおよび/またはDNAの特定の部分を微量に増幅する手順または技術を意味する。一般的に、目的の領域の末端またはそれを超える部分の配列情報は、オリゴヌクレオチドプライマーが設計できるように利用可能であり、これらのプライマーは、増幅されるテンプレートの反対側の鎖と同一または類似の配列となる。2つのプライマーの5’末端ヌクレオチドは、増幅される物質の末端と同一である。PCRは、特定のRNA配列、全ゲノムからの特定のDNA配列および全細胞RNA、バクテリオファージまたはプラスミド配列などから転写されたcDNAを増幅するために用いることができる。一般的には、Mullis et al. (1987) Cold Spring Harbor Symp. Ouant. Biol. 51:263; Erlich ed., (1989) PCR TECHNOLOGY (Stockton Press, NY)参照。本発明で用いられるPCRは、試験核酸サンプルを増幅するポリメラーゼ反応法の一例であるが、唯一の例ではないと考えられる。この方法は、核酸の特定の部分を増幅または生成するために、核酸ポリメラーゼと共にプライマーとして機能する既知の核酸配列を用いることを含む。
【0102】
“何れかの”または“要すれば”とは、後に続く事象または状況が発生し得るが、必ずしも生じないことを意味し、この記述には、その事象または状況が発生し得るが、発生しない場合が含まれる。例えば、“要すれば、1~3個の抗体重鎖可変領域を含んでいてよい”は、特定の配列を有する抗体重鎖可変領域が存在し得るが、存在しない場合を含むことを意味する。
【0103】
“医薬組成物”とは、本発明の1以上の抗体またはその抗原結合フラグメントと、生理学的/薬学的に許容される担体(複数可)および賦形剤(複数可)などの他の化学成分とを含む混合物を意味する。本発明の医薬組成物は、生物への投与を促進し、活性成分の吸収を容易にし、それによって生物学的効果を発揮することを目的とする。
【0104】
本明細書で用いる“予防”には、疾患関連症状(複数可)の発症を遅らせること、および/または疾患が発症する、もしくは発症が予想されるこれらの症状の重篤度を軽減させることが含まれる。この用語にはまた、また、既存の症状(複数可)の緩和、さらなる症状の予防、およびこれらの症状の原因となる要因の緩和もしくは予防も含まれる。従って、この用語は、疾病に罹患している脊椎動物対象に有益な結果が得られたことを意味する。
【0105】
さらに、本発明は、CD73関連疾患を処置するための薬剤を含み、この薬剤は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体フラグメントを有効成分として含む。
【0106】
CD73関連疾患とは、CD73に関連する疾患(例えば、CD73を発現する細胞に起因する疾患、またはCD73の異常発現に起因する疾患)であれば特に限定されず、例えば、ヒトCD73に結合する本発明の分子によって抑制可能な細胞増殖性疾患などが挙げられる。ある態様において、細胞増殖性疾患は腫瘍である。ある態様において、腫瘍は、乳癌、神経膠腫、膀胱癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺癌または胃癌である。ある態様において、腫瘍は、転移性腫瘍である。
【0107】
さらに、本発明は、ヒトCD73を特異的に認識する本発明の抗体または抗体フラグメントを有効成分とする、CD73の免疫検出法または判定方法、CD73の免疫検出用または判定用試薬、CD73発現細胞の免疫検出法または判定方法、およびCD73に関連する疾患を診断するための診断薬に関する。
【0108】
本発明において、CD73の量を検出または測定する方法は、何れかの公知の方法であってよい。例えば、イムノアッセイ法または免疫検出法が挙げられる。
【0109】
イムノアッセイ法または免疫検出法とは、標識抗原または標識抗体を用いて、抗体または抗原の量を検出または測定する方法である。イムノアッセイ法または免疫検出法の例としては、放射性物質で標識した免疫-抗体法(RIA)、酵素イムノアッセイ法(EIAまたはELISA)、蛍光イムノアッセイ法(FIA)、発光イムノアッセイ法、ウェスタンブロッティング法、物理化学的方法などが挙げられる。
【0110】
本発明の抗体または抗体フラグメントを用いてCD73発現細胞を検出または測定することにより、上記のCD73関連疾患を診断することができる。
【0111】
本発明のポリペプチドを発現する細胞は、公知の免疫検出法、例えば、免疫沈降法、蛍光細胞染色法、免疫組織染色法などにより検出することができる。さらに、FMAT8100HTSシステム(Applied Biosystem)を用いた蛍光抗体染色法などの方法を用いることもできる。
【0112】
本発明において、CD73を検出または測定されるサンプルは、CD73を発現する細胞を含むことが可能なものであれば特に限定されず、例えば、組織細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、便、組織液、培養液などが挙げられる。
【0113】
必要な診断方法に応じて、本発明の抗体またはその抗体フラグメントを含む診断薬はまた、抗原-抗体反応を行うための試薬または反応を検出するための試薬を含んでいてよい。抗原-抗体反応を行うための試薬としては、緩衝液、塩類などが挙げられる。検出用の試薬としては、イムノアッセイ法または免疫検出法に一般的に用いられる薬剤、例えば、モノクローナル抗体、抗体フラグメントまたはその複合体を認識する標識二次抗体、ならびに標識に対応する基質などが挙げられる。
【0114】
本明細書の実施例で提供される抗CD73抗体または抗原結合フラグメントは、CD73に特異的であり、ヒトCD73と高い親和性を有し、ここで、ヒト化抗CD73抗体または抗原結合フラグメントは、大幅に低減された免疫原性を示し、マウス抗体の特異性を完全に維持し、より高い親和性を有し、優れたインビボおよびインビトロ活性を有している。
【0115】
本明細書の実施例で提供される抗CD73抗体または抗原結合フラグメントは、好ましい代謝動態特性およびバイオアベイラビリティを有する。
【0116】
発明の詳細な説明
次の実施例は、本発明をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書の実施例において特定の条件が示されていない実験方法は、一般的に従来の条件に従って行われ、例えば、Sambrook et al., Antibodies: Laboratory Manual、Molecular Cloning、Cold Spring Harborに記載の条件、あるいは材料または製品の製造者が推奨する条件に従って行われる。出典が特に示されていない試薬は、市販の試薬である。
【実施例
【0117】
実施例1.CD73抗原の調製
I.抗原のデザインおよび発現
ヒトCD73タンパク質(Uniprot番号:P21589)を本発明のCD73のテンプレートとして用いて、本発明に関わる抗原および検出タンパク質のアミノ酸配列を設計した。要すれば、CD73タンパク質を種々のタグと融合させ、pTT5ベクターまたはpTargetベクターに別個にクローニングし、そして293細胞で一過性に発現させるか、またはCHO細胞で安定的に発現させることで、本発明の抗原および検出タンパク質が得られた。以下のCD73抗原は、他に特記しない限り、ヒトCD73を意味する。
【0118】
ヒトCD73の全長配列は、免疫および検出のためのCD73過剰発現細胞株を構築するために用いることができ、その具体的な配列は、配列番号1に示すとおりである:
【表2】

(特記:下線部はシグナルペプチド、イタリック部はヒトCD73の細胞外領域、および二重下線部はプロペプチドを表す)
【0119】
CD73-3フラグ(CD73成熟タンパク質の細胞外ドメインと3つのフラグタグの融合タンパク質)は、免疫化に用いることができ、その具体的な配列は配列番号2に示すとおりである。
【表3】

(特記:下線部はシグナルペプチド、イタリック部はヒトCD73の細胞外領域、および二重下線部は3つのFlagタグを表す)
【0120】
CD73-Myc-His(CD73成熟タンパク質の細胞外ドメインとMycタグおよびHisタグの融合タンパク質)は、検出に用いることができ、その具体的な配列は配列番号3に示す通りである:
【表4】

(特記:下線部はシグナルペプチド、イタリック部はヒトCD73の細胞外領域、および二重下線部はMyc-Hisタグを表す)
【0121】
さらに、カニクイザルCD73/NT5Eタンパク質(Hisタグ)は、Sino Biological(カタログ番号90192-C08H-50)から購入した。
【0122】
II.CD73関連組換えタンパク質の精製ならびに抗ヒトCD73ハイブリドーマ抗体および組換え抗体の精製
1.プロテインG親和性クロマトグラフィーによるハイブリドーマ上清の分離および精製
マウスハイブリドーマ上清の精製は、プロテインG親和性クロマトグラフィーで行うのが好ましい。培養ハイブリドーマを遠心分離して上清を集め、上清の体積を基準にして10-15%(体積比)の1M Tris-HCl(pH8.0-8.5)を該上清に添加してpHを中性に調整した。プロテインGカラムを3-5 x カラム容量の6M塩酸グアニジンで洗浄し、次いで3-5 x カラム容量の純水で洗浄した。該カラムを、3-5 x カラム容量の、1×PBS (pH7.4)緩衝液系などの平衡化バッファー(equilibrium buffer)で洗浄した。細胞上清を結合のために低流速で添加し、該流速は、保持時間が約1分またはそれ以上になるように制御された。UV吸収がベースラインに低下するまで、3-5 x カラム容量の1×PBS(pH7.4)でカラムを洗浄した。サンプルを0.1M 酢酸/酢酸ナトリウム(pH3.0)緩衝液で溶出させ、溶出ピークをUV検出に応じてプールした。1M Tris-HCl(pH8.0)でpHを5~6に調整した後、溶出物を後の使用のために保存した。溶出物には、当業者に周知の方法に従って溶媒置換を行うことができ、例えば、限外濾過管を用いた限外濾過濃縮によって溶液を所望の緩衝系に置換したり、G-25脱塩カラムなどの分子排除カラムを用いて溶液を所望の緩衝系に置換したり、または高分解能の分子排除カラム(Superdex 200など)を用いて溶出物から凝集成分を除去してサンプルの純度を向上させたりすることができる。
【0123】
2.プロテインA親和性クロマトグラフィーによる抗体の精製
初めに、抗体を発現させた細胞培養上清を高速で遠心分離し、上清を回収した。プロテインA親和性カラムを3-5 x カラム容量の6M塩酸グアニジンで洗浄した後、3-5 x カラム容量の純水で洗浄した。カラムを3-5 x カラム容量の1×PBS(pH7.4)緩衝系を平衡バッファーとして用いて平衡化した。細胞上清を低流速で添加し、保持時間が約1分またはそれ以上になるように流速を制御した。結合終了後、UV吸収がベースラインに低下するまで、3-5 x カラム容量の1×PBS(pH7.4)でカラムを洗浄した。サンプルを0.1M酢酸/酢酸ナトリウム(pH3.0-3.5)緩衝液で溶出させ、UV検出に応じて溶出ピークをプールした。溶出物を、1M Tris-HCl(pH8.0)でpHを5-6に調整した後、後で使用するために保存した。溶出物には、当業者に周知の方法に従って溶液置換を行うことができ、例えば、限外濾過管を用いた限外濾過濃縮により溶液を所望の緩衝系に置換したり、G-25脱塩カラムなどの分子排除カラムを用いて溶液を所望の緩衝系に置換したり、または高分解能の分子排除カラム(Superdex200など)を用いて溶出物から凝集成分を除去してサンプルの純度を向上させたりすることができる。
【0124】
3.ニッケルカラムによる、ヒトCD73、CD73-Myc-His、CD73-3Flagおよび他のCD73関連組み換えタンパク質の精製
細胞発現上清サンプルを高速で遠心分離して不純物を除去した後、緩衝液をPBSに置き換えて、イミダゾールを終濃度5mMになるように添加した。5mMのイミダゾールを含むPBS溶液でニッケルカラムを平衡化し、2~5×カラム容量で洗浄した。交換後の上清サンプルをカラムに添加して結合させ、選択した媒体は異なる会社のニッケルカラムであってよい。A280の読み取り値がベースラインに下がるまで、5mMイミダゾールを含むPBS溶液でカラムを洗浄した。クロマトグラフィーカラムをPBS+10mMイミダゾールで濯いで、非特異的に結合したタンパク質を除去し、溶出液を回収した。300mMイミダゾールを含むPBS溶液で目的タンパク質を溶出させ、溶出ピークを回収した。
【0125】
回収した溶出物を、濃縮後、ゲルクロマトグラフィーSuperdex200(GE)でさらに精製し、PBSを移動相とし、凝集体および不純物タンパク質のピークを除去し、目的物の溶出ピークを回収した。得られたタンパク質を、電気泳動、ペプチドマッピングおよびLC-MSで同定し、確認したタンパク質を使用のためにアリコート化した。
【0126】
実施例2.抗ヒトCD73モノクローナル抗体の調製
I. 免疫化
抗ヒトCD73モノクローナル抗体を、マウスを免疫化して調製した。実験にはSJL白色マウス(雌、6~8週齢)を用いた(Beijing Charles River Laboratory animal Technology Co., Ltd., animal production license number: SCXK (Beijing) 2012-0001)。飼育環境はSPFレベルである。購入後、マウスを、実験室環境で1週間、12/12時間の明暗サイクル、温度20-25℃、湿度40-60%で飼育した。その後、環境に適応したマウスを次のスキームで免疫した。免疫抗原は、CD73(配列番号1)を過剰発現させたCHO細胞とした。
【0127】
免疫化プロトコル:マウスにCD73を過剰発現させたCHO細胞株を1×10細胞/マウス/回で腹腔内注射により免疫した。細胞を回収し、PBSで1×10/mlに希釈して、0日目に100μl/マウスを腹腔内(IP)注射し、その後14日毎にブースター免疫を行った。21日目、35日目、49日目および63日目に血液サンプルを集め、マウス血清中の抗体価をELISA法で測定した。7~9回の免疫後、高い血清抗体価がプラトーに達したマウスを、脾臓細胞融合(splenocyte fusion)のために選択した。脾臓細胞融合の3日前に、生理食塩水で調製したCD73-3Flag抗原溶液を50μg/マウスで腹腔内注射(IP)し、ブースター免疫を行った。
【0128】
II.脾臓細胞融合(Spleen cell fusion)
脾臓リンパ球と骨髄腫Sp2/0(ATCC(登録商標) CRL-8287(商標))を、最適化されたPEGが介在する融合手順で融合させてハイブリドーマ細胞を得た。融合したハイブリドーマ細胞を、完全培地(20%FBS、1×HAT、1×OPIを含むDMEM培地)に0.5-1×10細胞/mlの密度で再懸濁し、96ウェルプレートに100μl/ウェルで播種し、37℃および5%COにて3-4日間培養した後、100μl/ウェルのHAT完全培地を補い、ピンポイント様のクローン(pinpoint-like clone)が形成されるまで3-4日間培養を継続した。上清を除去し、200μl/ウェルのHT完全培地(20%FBS、1×HTおよび1×OPIを含むRPMI-1640培地)を添加し、37℃および5%COにて3日間培養した後、ELISAによる検出を行った。
【0129】
III.ハイブリドーマ細胞のスクリーニング
ハイブリドーマ細胞の増殖密度に応じて、ハイブリドーマ培養上清を結合ELISA法で検出した(実施例3参照)。結合ELISAアッセイで検出された陽性ウェルから採取した細胞上清に対して、MDA-MB-231細胞結合アッセイおよび細胞酵素活性阻害アッセイを行った(実施例4参照)。MDA-MB-231細胞結合アッセイおよび細胞酵素活性阻害アッセイの両方に陽性の細胞の一部を適時に増殖させて凍結保存した。他の細胞は、単一細胞クローンが得られるまで2~3回サブクローニングした。
【0130】
CD73結合ELISA、MDA-MB-231細胞結合アッセイ、MDA-MB-231細胞酵素活性阻害アッセイはまた、それぞれのサブクローニングごとに行う必要があった。ハイブリドーマクローンを、上記アッセイによるスクリーニングによって得た。さらに、無血清細胞培養を用いる方法で抗体を作製した。この抗体を精製例(Purification Example)にしたがって精製し、試験例(Test Example)に用いた。
【0131】
IV.陽性ハイブリドーマクローンの配列決定
陽性ハイブリドーマから配列をクローニングする方法は次の通りである。対数増殖期のハイブリドーマ細胞を回収した。RNAをTrizol(Invitrogen, カタログ番号15596-018)を用いてキットの指示書に従って抽出し、PrimeScript(商標) Reverse Transcription kit(Takara, カタログ番号2680A)を用いて逆転写した。逆転写の結果得られたcDNAを、マウスIg-Primer Set(Novagen, TB326 Rev. B 0503)を用いてPCR増幅させ、増幅産物を業者に送って塩基配列を決定した。配列決定後、マウス抗CD73抗体mab108、mab110およびmab127を得た。可変領域のアミノ酸配列は次の通りである。
【表5】
【0132】
上記のmab108抗体可変領域配列、mab110抗体可変領域配列およびmab127抗体可変領域配列において、FR配列はイタリック体、下線はKabatの番号付け基準に従って決定されたCDR配列であり、配列順はFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。
【0133】
【表6】
【0134】
このようにして得られた本発明の抗体mab108、mab110およびmab127は、数個のアミノ酸の違いを有するのみで、高度に類似した軽鎖CDR領域を有する。これらの軽鎖CDR領域は、次の一般式で表すことができる:抗体軽鎖LCDR1は、配列番号27に示す:RASQDIGXLNであり、ここで、XはDまたはNから選択され、XはRまたはSから選択される;LCDR2は、配列番号28に示す:ATXLDSであり、ここでXはFまたはSから選択され、XはRまたはSから選択される;LCDR3は、配列番号29に示す:XQYAXWTであり、ここでXはLまたはQから選択され、XはSまたはGから選択され、XはFまたは不存在から選択され、XはSまたはPから選択される。
【0135】
V.ヒトIgG1キメラ抗体の作製
ハイブリドーマスクリーニングで得られた上記候補分子mab108、mab110およびmab127を増幅させ、塩基配列を決定して可変領域をコードする塩基配列を得た。配列決定により得られた配列をもとにフォワードプライマーおよびリバースプライマーを設計し、配列決定される遺伝子をテンプレートとして、PCRにより各抗体のVH/VK遺伝子フラグメントを構築した。次いで、相同組換えを介して発現ベクターpHr(シグナルペプチドおよびhIgG1/hkappa定常領域遺伝子(CH1-Fc/CL)フラグメントを含む)に挿入して、組換えキメラ抗体VH-CH1-Fc-pHr/VL-CL-pHrの全長の発現プラスミドを構築し、3種のキメラ抗体CH108、CH110およびCH127を得た。
【0136】
VI.マウス抗ヒトCD73抗体のヒト化
MOEソフトウェア(Molecular Operating Environment)を用いてIMGT(http://imgt.cines.fr)のヒト抗体可変生殖細胞系遺伝子データベースと照合し、マウス抗体と高い相同性を有するヒト生殖細胞系重鎖可変領域遺伝子および軽鎖可変領域遺伝子をテンプレートとして選択した。FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順に、マウス抗体CDRを対応するヒトテンプレートに移植して可変領域配列を形成した。必要に応じて、フレームワーク配列中のアミノ酸(複数可)をマウス抗体に対応するアミノ酸に逆変異させ、ヒト化抗CD73モノクローナル抗体を得た。
【0137】
1.mab108のヒト化
1.1 mab108フレームワークの選択
マウス抗体mab108では、ヒト化のための軽鎖テンプレートは、IGKV1-17*01およびhjk4.1であり、ヒト化のための重鎖テンプレートは、IGHV2-26*01およびhjh4.1であった。それぞれのマウス抗体mab108CDRをヒトテンプレートに移植し、mab108のヒト化抗体であるHab108を得た。その可変領域配列は次の通りである。
【表7】

特記:上記のHab108抗体配列中、イタリック体はFR配列を示し、下線部はKabatの番号付け基準に従って決定されたCDR配列を示し、そして配列順はFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。
【0138】
1.2 mab108のヒト化抗体用の復帰突然変異デザイン:
必要に応じて、mab108のヒト化抗体FR領域配列中のアミノ酸を、マウス抗体に対応するアミノ酸に復帰突然変異させた。具体的に設計した復帰突然変異を表2に示す。
【表8】

特記:“移植”とは、マウス抗体のCDRをヒト生殖細胞系のFR領域の配列に移植したことを表し、Y36Lは“移植”の36位のYがLに復帰突然変異されたことを表し、その他も同様に解釈できる。
【0139】
1.3 mAb108のヒト化抗体:
表2に示すように、mab108のヒト化抗体を復帰突然変異させると可変領域が得られた。可変領域の組合せにより、種々のmab108のヒト化抗体が最終的に得られた。各抗体の可変領域のアミノ酸配列は次の通りである:
【表9】

特記:Hab108.64は、mab108のヒト化抗体を表し、Hab108.64は、Hab108.VL6に示される軽鎖可変領域と、Hab108.VH4に示される重鎖可変領域を有する。その他も同様に解釈できる。
【0140】
mAb108のヒト化抗体の特定の可変領域配列は次の通りである:
【表10】
【0141】
2.mab110のヒト化
2.1 mab110フレームワークの選択
マウス抗体mab110について、ヒト化のための軽鎖テンプレートは、IGKV1-17*01およびhjk4.1であり、かつヒト化のための重鎖テンプレートは、IGHV1-3*01およびhjh6.1であった。マウス抗体mab110 CDRのそれぞれをヒトテンプレートに移植し、mab110のヒト化抗体であるHab110を得た。その可変領域配列は次の通りである。
【表11】

特記:上記のHab110抗体配列において、イタリック体はFR配列を示し、下線部はCDR配列を示し、そして配列順はFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。
【0142】
2.2 mab110用の復帰突然変異デザイン:
必要に応じて、mab110のヒト化抗体FR領域配列中のアミノ酸を、マウス抗体に対応するアミノ酸に復帰突然変異させた。具体的に設計した復帰突然変異を表4に示す。
【表12】

特記:“移植”とは、マウス抗体のCDRをヒト生殖細胞系のFR領域の配列に移植したことを表し、Y36Lは“移植”の36位のYがLに復帰突然変異されたことを表し、その他も同様に解釈できる。
【0143】
2.3 mAb110のヒト化抗体:
表4に示すmab110のヒト化抗体のために設計された復帰突然変異を組み合わせ、次いで、さらにヒト重鎖定常領域および軽鎖定常領域と再結合させた。mab110の種々のヒト化抗体が最終的に得られ、そしてその可変領域アミノ酸配列を次に示す:
【表13】

特記:Hab110.21は、mab110のヒト化抗体を表し、Hab110.21は、Hab110.VL2に示される軽鎖可変領域と、Hab110.VH1に示される重鎖可変領域を有する。その他も同様に解釈できる。
【0144】
mAb110のヒト化抗体の特定の可変領域配列は次の通りである:
【表14】
【0145】
3.mab127のヒト化
3.1 mab127フレームワークの選択
マウス抗体mab127について、ヒト化のための軽鎖テンプレートは、IGKV1-17*01およびhjk4.1であり、かつヒト化のための重鎖テンプレートは、IGHV1-46*01およびhjh6.1であった。マウス抗体mab127 CDRのそれぞれをヒトテンプレートに移植し、mab127のヒト化抗体であるHab127を得た。その可変領域配列は次の通りである。
【表15】

特記:上記のHab127抗体配列において、イタリック体はFR配列を示し、下線部はCDR配列(Kabatの番号付け基準に従って決定され、注釈を付けたもの)を示し、そして配列順はFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。
【0146】
3.2 mab127用の復帰突然変異デザイン:
必要に応じて、mab127のヒト化抗体FR領域配列中のアミノ酸を、マウス抗体に対応するアミノ酸に復帰突然変異させた。具体的に設計した復帰突然変異を表6に示す。
【表16】

特記:“移植”とは、マウス抗体のCDRをヒト生殖細胞系のFR領域の配列に移植したことを表し、Y36Lは“移植”の36位のYがLに復帰突然変異されたことを表し、その他も同様に解釈できる。
【0147】
3.3 mAb127のヒト化抗体:
表6に示すmab127のヒト化抗体のために設計された復帰突然変異を組み合わせ、次いで、さらにヒト重鎖定常領域および軽鎖定常領域と再結合させた。mab127の種々のヒト化抗体が最終的に得られ、そしてその可変領域アミノ酸配列を次に示す。
【表17】

特記:Hab127.11は、mab127のヒト化抗体を表し、Hab127.11は、Hab127.VL1に示される軽鎖可変領域と、Hab127.VH1に示される重鎖可変領域を有する。その他も同様に解釈できる。
【0148】
mAb127のヒト化抗体の特定の可変領域配列は次の通りである。
【表18】
【0149】
3.4 mab127のヒト化抗体のホットスポット変異:
mab127重鎖HCDR2の抗体構造に基づくNNGに対して、コンピュータシミュレーション法によりアミノ酸変異を行った。好ましい態様の1つでは、Hab127.VH1 HCDR2のNNGに対してアミノ酸変異を行った。変異後のHab127.VH1の配列は次の通りである。
【表19】
【0150】
ホットスポット変異後のmab127のヒト化抗体HCDR2アミノ酸配列の一般式は、配列番号67に示す通りである:RIYH X9 X10X11DTFYSQKFKG、ここで、X9はN、Q、LまたはHから選択され、X10はN、Q、L、T、K、EまたはHから選択され、X11はVまたはGから選択される。好ましくは、ホットスポット変異後のmab127のヒト化抗体HCDR2アミノ酸配列は、配列番号68~76に示す通りである:
配列番号68:RIYHNQGDTFYSQKFKG;
配列番号69:RIYHNLGDTFYSQKFKG;
配列番号70:RIYHNTGDTFYSQKFKG;
配列番号71:RIYHNKGDTFYSQKFKG;
配列番号72:RIYHNEGDTFYSQKFKG;
配列番号73:RIYHNHGDTFYSQKFKG;
配列番号74:RIYHQNVDTFYSQKFKG;
配列番号75:RIYHLNVDTFYSQKFKG;
配列番号76:RIYHHNVDTFYSQKFKG。
【0151】
【表20】


特記:Hab127.31dは、mab127のヒト化抗体を表し、Hab127.31dは、Hab127.VL3に示される軽鎖可変領域と、Hab127.VH1dに示される重鎖可変領域を有する。その他も同様に解釈できる。
【0152】
4.抗ヒトCD73ヒト化抗体の構築および発現
プライマーを設計し、各ヒト化抗体のVH/VK遺伝子フラグメントをPCRで構築した後、相同組換えにより発現ベクターpHr(シグナルペプチドおよび定常領域遺伝子(CH1-Fc/CL)フラグメントを有する)に挿入し、完全長抗体VH-CH1-Fc-pHr/VK-CL-pHrの発現ベクターを構築した。ヒト化抗体の場合、定常領域は、ヒトκ鎖、λ鎖またはその変異体の軽鎖定常領域から選択することができ、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体の重鎖定常領域から選択することができる。限定されない例としては、抗体の機能を向上させるために、ヒトIgG1、IgG2またはIgG4の定常領域を最適化することが挙げられる。例えば、D265A、N297A、L234A/L235AまたはL234F/L235Eなどの定常領域の点変異により、抗体のADCCを低下させることができ、P331Sまたはその近傍の変異、ならびにS228P、F234AおよびL235Aなどの定常領域の変異により、抗体のCDCを低下させることができる。
【0153】
例示的な抗ヒトCD73ヒト化抗体定常領域の配列は次の通りである:
重鎖定常領域のアミノ酸配列は、配列番号77に示す通りである:
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPASIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
抗ヒトCD73 ヒト化抗体の軽鎖定常領域のアミノ酸配列は、配列番号78に示す通りである:
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC。
【0154】
例示的な抗ヒトCD73 ヒト化抗体完全長アミノ酸配列は、次の通りである:
Hab108.64 抗体重鎖アミノ酸配列は、配列番号79に示す通りである:
EVTLKQSGPGLVKPTETLTLTCTVSGFSLSSYGIQWVRQPPGKGLEWLGVIWSGGSADYNAAFISRLTISKDTSKSQVVLTMTNMDPVDTATYYCAGQYGSVWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPASIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
Hab108.64 抗体軽鎖アミノ酸配列は、配列番号80に示す通りである:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIGDRLNWLQQKPGGAIKRLIYATSSLDSGVPKRFSGSGSGTEYTLTISSLQPEDFATYYCLQYAGSWTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC.
Hab110.21 抗体重鎖アミノ酸配列は、配列番号81に示す通りである:
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYTMHWVRQAPGQRLEWMGYINPNSFYIEYNQKFKDRVTITRDTSASTAYMELSSLRSEDTAVYYCARGDYDLFYDMDNWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPASIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
Hab110.21 抗体軽鎖アミノ酸配列は、配列番号82に示す通りである:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIGNSLNWLQQKPGKAIKRLIYATFRLDSGVPSRFSGSRSGTEYTLTISSLQPEDFATYYCQQYASFPWTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC.
Hab127.31d 抗体重鎖アミノ酸配列は、配列番号83に示す通りである:
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTAYFMNWVRQAPGQGLEWMGRIYHNKGDTFYSQKFKGRVTMTVDKSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCATSYVGDWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPASIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
Hab127. 31d 抗体軽鎖アミノ酸配列は、配列番号84に示す通りである:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIGDSLNWLQQKPGGALKRLIYATSSLDSGVPSRFSGSGSGTEYTLTISSLQPEDFATYYCLQYASFPWTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC.
【0155】
実施例3.抗CD73抗体の結合活性の検出
1.抗CD73抗体のヒトCD73タンパク質への結合のELISAアッセイ;
抗CD73抗体のヒトCD73タンパク質への結合を、ELISAアッセイで試験した。ビオチン化したCD73融合タンパク質を、96ウェルマイクロタイタープレート上にコーティングされたストレプトアビジンと結合することで、該マイクロタイタープレート上に固定化した。抗体を添加した後のシグナル強度を用いて、CD73に対する抗体の結合活性を測定した。具体的な試験手順は次の通りである:
【0156】
ストレプトアビジン(Sigma, カタログ番号S4762-5MG)をPBS、pH7.4(Shanghai BasalMedia, カタログ番号B320)緩衝液で3μg/mlの濃度に希釈し、96ウェルマイクロタイタープレート(Corning, カタログ番号CLS3590-100EA)に50μl/ウェルずつ添加し、37℃のインキュベーターで2時間培養した。液体を捨て、250μl/ウェルのブロッキング液(5%スキムミルク(BD skim milk, カタログ番号232100)をPBSで希釈したもの)を加え、37℃のインキュベーターで3時間、または4℃にて一晩(16-18時間)インキュベートしてブロッキングを行った。ブロッキング後、ブロッキング液を捨て、プレートをPBST緩衝液(0.05% tween-20を含むPBS、pH7.4)で5回洗浄した後、50μl/ウェルの0.5μg/mlビオチン化CD73-myc-his融合タンパク質(Tojin Chemical、カタログ番号LK03、ビオチン化方法はキットの指示書に従う)をサンプル希釈液(1%BSA含有PBS, pH7.4)で希釈して加え、37℃にて1時間または4℃にて一晩、インキュベーター内で培養した。培養終了後、反応液をマイクロタイタープレートから取り出し、PBSTで5回洗浄した後、種々の濃度の各試験抗体(精製ハイブリドーマ抗体またはヒト化抗体、サンプル希釈液で希釈)を50μl/ウェルで添加し、37℃のインキュベーターで1時間培養した。培養終了後、プレートをPBSTで5回洗浄し、サンプル希釈液で希釈したHRP標識ヤギ抗マウス2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号115-035-003)またはヤギ抗ヒト2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号109-035-003)を50μl/ウェル添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB発色基質(KPL, カタログ番号52-00-03)を加え、室温で5-10分インキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, VERSA max)を用いて波長450nmの吸光度値を読み取り、GraphPad Prism 5でデータを解析した。ヒトCD73タンパク質に対する抗CD73抗体の結合度をEC50値として算出した。試験結果を図1および表9に示す。
【0157】
【表21】
【0158】
試験結果は、本発明の抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64が、何れもヒトCD73タンパク質に対して良好な結合活性を有しており、3つの抗CD73抗体のヒトCD73タンパク質に対するEC50値は、何れも陽性対照抗体CPX006(特許出願WO2018013611に開示されている抗体CPX-006)のEC50値よりも低いことを示す。
【0159】
2.抗CD73抗体のカニクイザルCD73タンパク質への結合を示すELISAアッセイ
カニクイザルCD73タンパク質に対する抗CD73抗体の交差結合活性をELISAアッセイで試験した。カニクイザルCD73融合タンパク質を96ウェルのマイクロタイタープレートに直接コーティングした。抗体を添加した後のシグナル強度を用いて、カニクイザルCD73に対する抗体の結合活性を測定した。具体的な試験手順は次の通りである:
【0160】
カニクイザルCD73(Sino Biological, カタログ番号90192-C08H)をPBS、pH7.4(Shanghai BasalMedia, カタログ番号B320)緩衝液で2μg/mlの濃度に希釈し、96ウェルマイクロタイタープレートに50μl/ウェルで添加し、37℃のインキュベーターで2時間培養した。液体を捨て、250μl/ウェルのブロッキング液(5%スキムミルクをPBSで希釈したもの)を加え、37℃のインキュベーターで3時間、または4℃にて一晩(16-18時間)培養してブロッキングを行った。ブロッキング終了後、ブロッキング液を捨て、PBST緩衝液でプレートを5回洗浄した後、種々の濃度の各試験抗体(精製ハイブリドーマ抗体またはヒト化抗体をサンプル希釈液で希釈したもの)を50μl/ウェル添加し、37℃のインキュベーターで1時間インキュベートした。培養終了後、プレートをPBSTで5回洗浄し、サンプル希釈液で希釈したHRP標識ヤギ抗マウス2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号115-035-003)またはヤギ抗ヒト2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号109-035-003)を50μl/ウェル添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB発色基質(KPL, カタログ番号52-00-03)を加え、室温で5-10分インキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, VERSA max)を用いて波長450nmの吸光度値を読み取り、GraphPad Prism 5でデータを解析した。抗CD73抗体のサルCD73に対する結合性をEC50値として算出した。試験結果を図2および表10に示す。
【0161】
【表22】
【0162】
試験結果は、本発明の抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64が、何れもサルCD73タンパク質に対して良好な結合作用を有することを示す。
【0163】
3.抗CD73抗体のMDA-MB-231細胞への結合アッセイ
抗CD73抗体の、ヒトCD73を高度に発現する腫瘍細胞株MDA-MB-231への結合を、ELISAアッセイで試験した。MDA-MB-231細胞を96ウェルのマイクロタイタープレートに直接コーティングした。抗体添加後のシグナル強度を用いて、MDA-MB-231細胞に対する抗体の結合活性を判定した。具体的な試験手順は次の通りである:
【0164】
MDA-MB-231細胞(ATCC, カタログ番号HTB-26)を96ウェルプレート(Corning, カタログ番号CLS3599-100EA)に6×10/ml、100μl/ウェルの密度で播種し、一晩培養した。上清を捨て、プレートをPBSで3回洗浄した後、100μl/ウェルlの細胞免疫固定液(Beyotime, カタログ番号P0098)を加え、室温で30分間固定した後、プレートをPBSで4回洗浄した。液体を捨て、250μl/ウェルのブロッキング液(5%スキムミルクをPBSで希釈したもの)を加え、37℃のインキュベーターで3時間培養した。ブロッキング終了後、ブロッキング液を捨て、PBST緩衝液でプレートを5回洗浄し、種々の濃度の各試験抗体を50μl/ウェル添加し、37℃のインキュベーターで1時間インキュベートした。培養終了後、プレートをPBSTで5回洗浄し、サンプル希釈液で希釈したHRP標識ヤギ抗マウス2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号115-035-003)またはヤギ抗ヒト2次抗体(Jackson Immuno Research, カタログ番号109-035-003)を50μl/ウェル加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB発色基質(KPL, Cat No.52-00-03)を加え、室温で5-15分インキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, VERSA max)で波長450nmの吸光度値を読み取り、GraphPad Prism 5でデータを解析した。CD73を過剰発現させたMDA-MB-231細胞に対する抗CD73抗体の結合性をEC50値として算出した。試験結果を図3および表11に示す。
【0165】
【表23】
【0166】
試験結果は、本発明の抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64が、何れも腫瘍細胞株MDA-MB-231に対して良好な結合作用を有することを示す。
【0167】
4.抗CD73抗体のBiacore検出
この試験において、Biacore装置を用いて、ヒト化抗CD73抗体のヒトCD73(huCD73)およびサルCD73(cynoCD73)に対する親和性を調べた。
【0168】
一定量の試験抗体をプロテインAバイオセンシングチップ(カタログ番号29127556, GE)で親和性捕捉した後、一定濃度のヒトまたはサルのCD73抗原をチップ表面に添加した。反応シグナルをBiacore装置(Biacore T200, GE)でリアルタイムに検出し、結合および解離曲線を作成した。各サイクルの最後に、解離が完了した後、バイオセンサーチップを洗浄し、グリシン-HCl、pH1.5(カタログ番号BR-1003-54, GE)で再生させた。アッセイのための泳動バッファーは、1×HBS-EPバッファー溶液(カタログ番号BR-1001-88, GE)であった。
【0169】
試験で得られたデータを、GE Biacore T200 Evaluation version 3.0ソフトウェアを用いて(1:1)Langmuirモデルに当てはめ、親和性の値を得た。詳細を表12および表13に示す。
【0170】
【表24】

【表25】
【0171】
【表26】
【0172】
試験結果は、本発明の抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64が何れも、ヒトCD73およびサルCD73に高親和性で結合することを示す。
【0173】
実施例4.酵素活性の阻害における抗CD73抗体の活性の試験
抗CD73抗体の酵素活性阻害効果を化学発光法を用いて測定し、この方法は、ヒトCD73を高度に発現しているMDA-MB-231細胞において、抗体の酵素活性阻害活性を検出するために用いた。抗体をMDA-MB-231細胞に添加し、CD73酵素活性に対する阻害効果を、CD73酵素の活性基質の残存量を測定することにより判定した。具体的な試験手順は次の通りである。
【0174】
MDA-MB-231細胞(ATCC, HTB-26)を96ウェルプレートに2×10/mlの密度で100μl/ウェルずつ播種し、一晩培養した。上清を捨て、プレートをPBSで1回洗浄した後、様々な濃度の各試験抗体(精製ハイブリドーマ抗体またはヒト化抗体、細胞培養液(RPMI-1640、Hyclone社、カタログ番号SH30809.01)で希釈したもの)を50μl/ウェル添加し、37℃のインキュベーターで0.5時間培養した。その後、アデノシン-5’-一リン酸(Sigma, カタログ番号A1752-5MG, 細胞培養液で希釈)を50μl/ウェル添加し、COインキュベーターで37℃にて3時間培養した。インキュベーション終了後、反応液25μl/ウェルを新しい96ウェルプレート(PerkinElmer, カタログ番号6005290)に移し、5’-アデノシン三リン酸(Sigma, カタログ番号A7699-5MG, 細胞培養液で希釈したもの)を25μl/ウェル添加し、最後にCellTiter Glo(Promega, カタログ番号G7573)を50μl/ウェル添加した。化学発光値をCytation5(Biotek社)で読み取り、データをGraphPad Prism5で解析し、抗CD73抗体によるMDA-MB-231細胞の酵素活性の阻害をIC50値として算出した。
【0175】
【表27】
【0176】
試験結果は、本発明の抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64が何れも、CD73(腫瘍細胞MDA-MB-231で発現される)のその基質に対する酵素活性を顕著に阻害し得ることを示し、酵素活性に対する最大阻害効果は、陽性対照抗体であるMEDI9447(特許出願WO2016075099に開示されている抗体MEDI9447を参照)よりも高いことを示す(図4参照)。酵素加水分解のIC50値は、陽性対照抗体であるCPX006よりも顕著に低く(表14参照)、このことは、本発明の抗CD73抗体が、2つの陽性対照抗体であるMEDI9447およびCPX006よりもCD73酵素活性を阻害する能力が高いことを示している。
【0177】
実施例5.抗CD73抗体により誘導されるCD4T細胞増殖のインビトロ試験
CD4マイクロビーズ(CD4 microspheres, Miltenyi Biotec, カタログ番号130-045-101)を用いて、ヒト全血から調製したPBMCからCD4T細胞を分離および精製した。CD4T細胞をCell Proliferation Dye eFluor(商標) 670 (Invitrogen, カタログ番号65-0840)で染色した。染色したCD4T細胞にHuman CD3/CD28 Dynabeads (CD3/CD28 immunomagnetic beads, Gibco, カタログ番号11131D)および150U/mlの組換えヒトIL-2 (PeproTech, カタログ番号200-02)を添加して活性化した後、丸底96ウェルプレートに1ウェルあたり50,000個(1ウェルあたり80μl)の細胞を添加し、37℃、5% COのインキュベーターにて1時間インキュベートした。次に、CD73抗体または対照分子(MEDI9447、CPX006陽性対照、培地ブランク対照、アイソタイプヒトIgG陰性対照を含む)を10μlずつ各ウェルに加え、終濃度を100ng/ml、10ng/ml、1ng/ml、0.1ng/mlとし、37℃、5%COのインキュベーターで1時間プレインキュベートした後、後にAMP(アデノシン-5’-一リン酸ナトリウム、SIGMA、カタログ番号A1752-1G)を終濃度400μMとなるように各ウェルに10μlずつ添加し、37℃、5%COのインキュベーターで4日間培養した。CD4T細胞の培養に用いた培地は、X-VIVO(商標) 15無血清培地(Lonza社、カタログ番号04-418QCN)であった。4日後、フロー緩衝液(2.5%FBSを含むPBS)で細胞を洗浄し、フローサイトメトリーで細胞を検出してAPC蛍光値を求めた。
【0178】
試験結果を図5に示す。この結果は、非活性化CD4T細胞は増殖しないことを示す。活性化細胞については、ブランク対照ウェル(培地のみ)では約80%のCD4T細胞が増殖するのに対し、400μM AMPはCD4T細胞の増殖を顕著に阻害し、約5%の細胞しか増殖しない。抗CD73抗体Hab110.21、Hab127.31dおよびHab108.64は、程度の差こそあれ、AMPによるCD4T細胞の増殖阻害効果を逆転させることができる。
【0179】
実施例6:動物における抗CD73抗体のインビボ生物活性
1.抗CD73抗体によるMDA-MB-231皮下異種移植腫瘍の阻害試験
試験方法:MDA-MB-231(ATCCバンク)細胞100μl(2.0×10個)を50匹のNSGマウス(B-NDG(登録商標)マウス、Beijing Biocytogene Biotechnology Co., Ltd.より購入)の右脇腹に皮下接種した。腫瘍発生後(~160mm)、体重または腫瘍体積が大きすぎたり小さすぎたりするマウスは除外した。残ったマウスを、表15に示すように、腫瘍量に基づいて6群に無作為に分けた(1群当たり6匹)。2人のボランティアの血液からPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells)を分離し、刺激を与えずに1:1の割合で混合した。0.715×10/100μlをマウスの腹腔内に注射した。翌日から、本発明の抗CD73抗体および対照分子(アイソタイプヒトIgGブランク対照、MEDI9447陽性対照、CPX006陽性対照を含む)を、週2回、合計3週間、腹腔内に注射した。週に2回、腫瘍量および体重を測定し、データを記録した。グループ分けおよび投与量を表15に示す。
【0180】
【表28】

特記: i.p.は、腹腔内注射を意味する。
Excel統計ソフトウェアを用いた:平均値はavg(Average)として計算した;SD(標準偏差)値はSTDEVとして計算した;SEM(Standard Error of Mean)値はSTDEV/SQRT(Square root)(各群の動物数)として計算した;グラフ作成にはGraphPad Prismソフトウェアを用いた;データの統計分析にはTwo-way ANOVA(二元配置分散分析)またはOne-way ANOVA(一元配置分散分析)を用いた。
【0181】
腫瘍体積(V)は、次の式に従って算出した:V=1/2×Llong×Lshort 2
相対体積(RTV)=VT/V0
腫瘍抑制率(%)=(C RTV -T RTV)/CRTV(%)
式中、VおよびVは、それぞれ試験開始時と終了時の腫瘍体積を表す。CRTVおよびTRTVは、それぞれ試験終了時のブランク対照群(ビークル)および試験群の相対的な腫瘍体積を表す。
【0182】
試験結果は次の通りである。
D1からD20まで、1週間に2回皮下注射を行い、抗CD73抗体のMDA-MB-231腫瘍に対する増殖阻害効果を検出した。その試験結果を表16および図6に示す。各群のマウスの体重は大きく変化しなかった。アイソタイプのヒトIgGブランク対照群と比較すると、MEDI9447群、CPX006群、Hab110.21群、Hab127.31d群、Hab108.64群の腫瘍阻害率は、それぞれ16%、18%、36%、33%、25%であった。Hab110.21群、Hab127.31d群、Hab108.64群は、MDA-MB-231腫瘍の増殖を有意に抑制することができる(p<0.01)。
【0183】
【表29】
【0184】
2.抗CD73抗体による肺転移性MDA-MB-231-Lucの阻害試験
試験方法:
MDA-MB-231-LUC細胞(Caliper、USA)を培養し、接種前にヒトアイソタイプIgGまたはCD73抗体と共に2時間インキュベートし、抗体の終濃度を10μg/mlとした後、200μl(2.5×10細胞)をNSGマウスの各尾静脈に注入した。表17に示すように、マウスを4グループに分け、1グループあたり5~7匹のマウスを用いた。2人のボランティアの血液からPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells)を分離し、刺激を与えずに1:1の割合で混合した。0.57×10/100μlをマウスの腹腔内に注射した。翌日から、週2回、計3週間、腹腔内に抗体を注射した。週に2回、インビボで生物発光値を測定し、体重を測定し、データを記録した。グループ分けおよび投与量を表17に示す。
【0185】
【表30】

特記: i.p.は、腹腔内投与を意味する。
【0186】
Excel統計ソフトを用いた:各動物群の体重と腫瘍の生物発光量ROI値(対象領域(region of interest);単位p/s(photons per second、単位時間当たりに動物の体表から放出される光子の数))を両方とも、平均±SEMで表した。グラフ作成にはGraphPad Prismソフトウェアを使用し、データは2方向ANOVAで統計的に分析した。
【0187】
相対的肺生物発光値:相対的ROI(R-ROI)=ROIT/ROI0、ROITは試験終了時の肺の生物発光値、ROI0は試験開始時の肺の生物発光値。
腫瘍阻害率(%)=(T R-ROI -C R-ROI)/C R-ROI (%)
式中、TR-ROIおよびCR-ROIは、それぞれ試験終了時の投与群および対照群の相対的な肺の生物発光値である。
【0188】
試験結果:
D1からD18まで、週に2回皮下注射を行い、抗CD73抗体の肺転移MDA-MB-231-Lucの阻害効果を検出した。試験結果を表18、図7および図8に示す。ヒトイソタイプIgGブランク対照群と比較すると、Hab110.21群、Hab127.31d群およびHab108.64群の腫瘍阻害率は、それぞれ61%(p<0.001)、60%(p<0.001)および78%(p<0.001)であった。何れの群も、MDA-MB-231-LUC細胞の肺転移および増殖を有意に阻害することができる。
【0189】
【表31】
【0190】
実施例7:マウスにおける抗CD73抗体のインビボ薬物動態試験
18匹のC57マウス(雌)をSippr-BK Lab Animal Co.Ltd.から購入した。実験室の環境に4日間順応させ、餌と水を自由に摂取させ、12時間/12時間の明暗サイクルで、温度16~26℃、相対湿度40~70%の環境下に置き、体重が18g~22gになった時点で投与を開始した。試験日に、マウスを6群に等分し、3群には尾静脈(IV)から試験薬(Hab108.64、Hab110.21、Hab127.31d)を注射し、残りの3群には試験薬(Hab108.64、Hab110.21、Hab127.31d)を皮下注射(SC)した。投与量は3mg/kgとし、投与体積は10mL/kgとした。
【0191】
投与前、および投与後5分、8時間、1日、2日、4日、7日、10日、14日、21日および28日の各時点で採血した。各動物から、抗凝固剤を加えずに約0.1mlの全血を採取した。採血した血液を4℃で30分置き、1000gで15分間遠心した後、上清をEPチューブに移し、-80℃で保存した。
【0192】
血清中の抗体濃度をELISA法で検出し、試験薬の薬物動態パラメータをWinnolinソフトウェアで算出した。試験結果を表19に示す。この結果から、本発明のHab108.64、Hab110.21およびHab127.31dは、良好なインビボ安定性および高いバイオアベイラビリティを有し、皮下注射に適していることがわかった。
【0193】
【表32】

特記: 用量(Dose:投与量)、Cmax(最高血中濃度)、AUC 0-∞(薬物-時間曲線下面積)、Bioavailability(バイオアベイラビリティ)、t1/2(h):半減期(時間単位)、T1/2(d):半減期(日単位)、RSD(相対標準偏差)、IV(静脈内注射)、Sc(皮下注射)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】