(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-25
(54)【発明の名称】イオン感応性電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/414 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
G01N27/414 301V
G01N27/414 301U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529455
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2019081951
(87)【国際公開番号】W WO2020109110
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516296566
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セザール・パスクアル・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】セレーナ・ロッロ
(57)【要約】
ISFET又はISFETベースのセンサは、ソース端子と、ドレイン端子と、ソース端子とドレイン端子との間のトランジスタチャネルと、を含む。ISFET又はISFETベースのセンサは、ソース端子とドレイン端子との間に延びるフィンであって、トランジスタチャネルを含むフィンであり、分析対象溶液との界面を形成するための電荷感応性表面を有する対向面、及び電荷感応性表面と、フィンの対向面の間の中央に位置するトランジスタチャネルとの間の絶縁隔壁を有するフィンもまた含む。トランジスタチャネルは、高さと幅の比が少なくとも10である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISFET又はISFETベースのセンサであって、
ソース端子、ドレイン端子、及び前記ソース端子と前記ドレイン端子との間のトランジスタチャネルと、
前記ソース端子と前記ドレイン端子との間に延びるフィンであって、前記トランジスタチャネルを含む前記フィンであり、分析対象溶液との界面を形成するための電荷感応性表面を有する対向面、及び前記電荷感応性表面と、前記フィンの前記対向面の間の中央に位置する前記トランジスタチャネルとの間の絶縁隔壁を有する前記フィンと、
を含むとともに、
前記トランジスタチャネルが、前記ソース端子から前記ドレイン端子に延びる長さ、並びに、前記長さに横方向に延びる幅及び高さを有し、前記トランジスタチャネルは、高さと幅の比が少なくとも10であり、幅が50nmから300nmまでの範囲にあり、高さが500nmから10μmまでの範囲にあり、長さが5μmから30μmまでの範囲にある、ISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項2】
前記絶縁隔壁が酸化物層を含む、請求項1に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項3】
前記酸化物層の厚さが30nm以下である、請求項2に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項4】
前記絶縁隔壁がSiO
2層、Al
2O
3層、又はHfO
2層を含む、請求項2又は3に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項5】
前記絶縁隔壁が、前記電荷感応性表面をイオン選択的又は分子選択的にする表面機能化を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項6】
前記フィンが半導体基板、例えば、Si基板から突き出ている、請求項1~5のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項7】
前記トランジスタチャネルがpドープシリコンで形成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項8】
前記トランジスタチャネルがnドープシリコンで形成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項9】
ジャンクションレス電界効果トランジスタとして実装される、請求項1~8のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項10】
前記トランジスタチャネルは、高さと幅の比が少なくとも15である、請求項1~9のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項11】
前記フィンは、幅が50nmから250nmまでの範囲にあり、且つ/又は高さが1μmから5μmまでの範囲にあり、且つ/又は長さが7μmから20μmまでの範囲にある、請求項1~10のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサ。
【請求項12】
イオン感応性又は分子感応性デバイスであって、
請求項1~11のいずれか一項に記載のISFET又はISFETベースのセンサと、
分析対象溶液を受け入れるためのチャンバであって、前記ISFET又はISFETベースのセンサの前記フィンが、中に突き出ているように配置されている前記チャンバと、
前記分析対象溶液に接触するように配置された基準電極と、
を含む、イオン感応性又は分子感応性デバイス。
【請求項13】
マイクロ流体タンパク質センサ、マイクロ流体生体分子センサ、マイクロ流体DNAセンサなど、請求項12に記載のイオン感応性又は分子感応性デバイスとして実装されるマイクロ流体センサ。
【請求項14】
請求項12に記載の複数のイオン感応性又は分子感応性デバイス、及び/又は請求項13に記載のマイクロ流体センサを含む、マイクロ流体プラットフォーム。
【請求項15】
請求項12に記載のイオン感応性又は分子感応性デバイス、請求項13に記載のマイクロ流体センサ、又は請求項14に記載のマイクロ流体プラットフォームを使用する方法であって、前記分析対象溶液が前記チャンバに導かれるとともに、前記分析対象溶液が前記チャンバに対して静止しているときに、前記ISFET又はISFETベースのセンサのコンダクタンスに依存する電気量が測定される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、化学種及び生物種を検出するためのセンサ、特に、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:ion-sensitive field effect transistor)、並びに、このようなトランジスタを実装するデバイス、例えば、DNA-ISFET、免疫ISFET、酵素FET、等々を含むISFETベースのバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ISFETは、溶液中のイオン濃度を測定するために構成された電界効果トランジスタ(FET:field-effect transistor)である。ISFETベースの(バイオ)センサはISFETの修正版であり、グローバル電荷、又は導通チャネルに局所的に影響を与えるグローバルニュートラルなローカル電荷を持つ特定の(生体)分子を選択的に捕捉するように、界面が機能化されている。
【0003】
ISFETは、pH測定及びイオン測定用のガラス電極に代わるものとして、最初に1970年代に開発された。ISFETの構造は、ゲート誘電体が分析対象溶液にさらされているため、溶液中のイオンがゲート電位に影響を及ぼし、ソース-ドレイン電流を静電的に制御するという点を除き、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の構造に類似している。分析対象溶液と接触する基準電極を使用して、分析対象溶液の電位を判定する。基準電極で固定された電位(基準電位)の場合、ゲート誘電体の表面電位だけがpHとともに変化し、ソース-ドレイン電流もまた変化する。
【0004】
シリコンナノワイヤ(NW:nanowire)ベースのFETが、化学種及び生物種を検出するための新世代のラベルフリーのリアルタイムセンサ向けに考案されている。シリコンNWは、三次元で構成されることにより、平面ISFET(いわゆるリボン型ISFET)よりも効率的に、超低濃度の分子を検出するようになっている。これは、拡散が制限されたプロセスでの、すなわち、低濃度の標的イオンでのゲーティングが良くなること、及びジオメトリがより効率的になることによる。DNA及びタンパク質を含む様々な生体分子に対して、低い検出限界が示されている。SiNWベースのISFETは、半導体業界の製造方法を使用しており、フットプリント、動作電流及び電圧が低いため、相補型金属酸化膜半導体(CMOS:complementary metal oxide semiconductor)回路と互換性を有する。これにより、例えば、パーソナライズされた精密医療といったような、大規模な多重化を必要とする用途に適したものとなる。
【0005】
静電容量が小さいことにより、SiNW ISFETは応答時間が短いため、それらはリアルタイム感知であると認められている。しかしながら、実際には、電解質溶液中のイオンの静電遮蔽という制限がある。この理由で、ほとんどの実験では、等張条件で定温放置した後に、イオン強度の低い液体で洗浄してから測定するという2つのプロセスを組み合わせている。
【0006】
(特許文献1)は、「FinFET」と呼ばれる、感知環境(液体、気体、固体)に完全に浸漬されたデバイスを開示している。提案されているデバイスは、NW ISFETの変形である。このデバイスは、バルクシリコン基板の表面から垂直方向に突き出ているシリコンフィンを含む。デバイスの垂直構造及びマルチゲート制御により、平面型の比較対照物であるISFET、及び一般的なSiNWに比べて、安定性が高くなり、信号対雑音比が高くなる。開示されているFinFETの高さと幅の比は、約3になる。フィンは、底部がテーパ状になっているか、又は基板から完全に外れた状態で製造されている。それに応じて、FinFETのトランジスタチャネルは、空隙及び/又はシリコン酸化物によって、互いに、そしてシリコン基板から電気的に絶縁されている。したがって、トランジスタチャネルは、事実上、垂直方向に伸びた断面を有するナノワイヤに相当する。(特許文献1)は、FinFETの製造方法もまた開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0268189A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SiNW-FETには、それでもなお繰返し精度及び信頼性の問題がある。それらのトランジスタチャネルの断面積が小さいため、製造及び機能化上の欠陥が、NWのパンク及び不均一性につながるリスクが高くなる。このため、NWの組成及び均一性を制御するために努力しなければならない。SiNWは、比較的小さい信号を生成することにより、抵抗性の高いデバイスを分極するために電圧を昇圧する必要があるため、集積化の難易度が高くなっている。NWアレイを並列で測定すると、総信号を増やし、信頼性の欠如を軽減する可能性がある。この手法のマイナス面は、デバイス全体のフットプリントが大きくなるということである。このように、並列のNWのアレイは、拡散が制限されたプロセスで分析対象の濃度が低いと効率が低下するという欠点があり、フットプリントが大きくなるため、大規模な多重化にはあまり適していない。
【0009】
本発明の一態様の目的は、上記で明らかにした課題を軽減する代替的なISFETを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、ISFET又はISFETベースのセンサは、
-ソース端子、ドレイン端子、及びソース端子とドレイン端子との間のトランジスタチャネルと、
-ソース端子とドレイン端子との間に延びるフィンであって、トランジスタチャネルを含むフィンであり、分析対象溶液との界面を形成するための電荷感応性表面を有する対向面、及び電荷感応性表面と、フィンの対向面の間の中央に位置するトランジスタチャネルとの間の絶縁隔壁を有するフィンと、
を含む。
【0011】
トランジスタチャネル、すなわち、導電率が分析対象の濃度の関数として変化するフィンの内部にある領域は、高さと幅の比が少なくとも10であり、幅が50nmから300nmまでの範囲にあり、高さが500nmから10μmまでの範囲にあり、長さが5μmから30μmまでの範囲にある。本発明の文脈において使用される寸法表示に関して、「長さ」とは、ソース端子からドレイン端子まで延びる方向を指し、「高さ」及び「幅」は、長さに対して横方向である。より具体的には、「幅」とは、ISFET又はISFETベースのセンサの基板の長さに対して横方向であり、且つ基板に平行な方向を指し、「高さ」とは、長さに対して横方向であり、且つ、基板に垂直な方向を指す。トランジスタチャネルは、概して平面状とすることができるが、曲線状の長さの広がりを有する場合もあることに留意されたい。幅及び高さは、トランジスタチャネルの長さ全体にわたって均一であることが好ましい。或いは、幅及び高さは、トランジスタチャネルの中央部分全体にわたって均一である場合があり(端部がテーパ状になっている場合がある)-この場合には、高さと幅の比は、中央部分で測定されることになる。中央部分の長さは、トランジスタチャネルの全長の少なくとも3分の2になるのが好ましい。
【0012】
フィンは、標的分析対象濃度範囲(分析対象の最大及び最小検出可能濃度)に応じて、(幅、高さ、長さ、トランジスタチャネルのドーピング(ドーパント種及び濃度)、絶縁隔壁の厚さ及び材料、等々の点で)構成されることが好ましい。ISFET又はISFETベースのセンサが空乏モード(depletion-mode)トランジスタ(すなわち、分析対象の濃度が高くなると導電率が低下する)として設計されている場合、フィンは、求められる最大の分析対象の濃度に対して所望の感度を有するように、且つ、完全な空乏に達するように構成されることが好ましい。理論による束縛を望まないが、高感度(低い検出限界)に達するためには、ISFET又はISFETベースのセンサのサイズを小型化しなければならないことは経験則である。このため、高アスペクト比のフィン(及びトランジスタチャネル)を有するISFETであれば、NW ISFETと比較して検出限界が大幅に悪化することが予測される。しかしながら、本発明者らは、意外にも、本発明によるISFET又はISFETベースのセンサは、感度を大幅に悪化させないだけでなく、信頼性が向上し、信号対雑音比が高くなることによる恩恵も受けることを見出した。ISFET又はISFETベースのセンサの寸法により、デバイスが、ヌクレオチド、ヌクレオチド結合部位、ペプチド、タンパク質又はタンパク結合部位による機能化に特に適したものになることが認識されるであろう。実際、利用可能な表面は、取得可能な機能化部位の数が十分に多く、機能化部位の密度の小さな欠陥又は統計的変動が、ISFET又はISFETベースのセンサの応答関数に及ぼす影響は、小さいか又は無視できる程度になっている。したがって、所与の製造バッチのISFET又はISFETベースのセンサは、本質的に同じ応答関数を有することが期待できる。利用可能な表面が小さければ、機能化部位の立体効果及び/又は密度の統計的変動が応答関数に大きな影響を及ぼす可能性があり、各デバイスを個別に較正する必要があるだけでなく、場合によっては、仕様要件を満たさない高い割合のデバイスを拒絶することが必要になる。寸法が大きくなり、したがって、利用可能な表面が大きくなると、ISFET又はISFETベースのセンサの感度が低下する可能性があり、標的分析対象濃度が低いこと、及び/又はマイクロ流体の流れがない場合に体積が小さいことを特徴とする用途にはあまり適さなくなる。
【0013】
本発明によるISFETの一実施形態は、完全に導電性の状態から、約pH8台の範囲でほぼ完全に空乏化された状態になるように、(寸法及びドーピングに関して)構成されたpドープトランジスタチャネルを有するpHセンサとして実装された。分析対象の静電効果と、フィンの物理的な高さとの間の関係は、ISFETの性能に対する深い因果関係を有する。フィンの表面積が大きいことにより、トランジスタチャネル内の電荷キャリアの移動度が二次元になり、NW ISFETと比較した場合、表面欠陥がトランジスタ性能に及ぼす影響の減少につながる。この構成の選択により、従来のNW(又はNWアレイ)と比較して断面積が大きくなり、線形応答が向上した大きな出力電流に対応できる。試験ISFETのサイズがNWに比べて大きくなっても、感度が大幅に低下することはなかった。nドープ又はpドープSiトランジスタチャネルを有するISFET又はISFETベースのセンサの場合、その中のドーパント濃度は、最大で5・1017/cm3になることが好ましい。
【0014】
このように、本明細書に提示されているISFET又はISFETベースのセンサは、NWベースのセンサの利点を平面デバイスの信頼性と組み合わせつつ、その一方で、特定の実施形態では、三次元バイオセンサの利点もまた保つことができる。
【0015】
絶縁隔壁は、酸化物層を含むことが好ましい。酸化物層は、厚さが30nm以下、例えば、25nm以下、20nm以下、又は15nm以下、10nm以下であることが好ましい。酸化物層は、二元又は三元酸化物、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、ZrO2、CeO2、DyScO3、LaAlO3、GdScO3、LaScO3、HfO2、La2O3、TiO2、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、及びこれらの組み合わせを含むか、又はそれらで構成することが可能である。二元酸化物の中では、SiO2、Al2O3及びHfO2が好適であるが、その理由は、SiO2は、Siとの界面が良好であるため、Al2O3は、原子層堆積(ALD:atomic layer deposition)プロセスで最も一般的に実装されている酸化物のうちの1つであるため、そしてHfO2は、誘電率が高く、Siとのバンドオフセットが大きく、熱力学的及び動力学的に安定しており、Siとの界面が良好であるためである。これに加えて、又はこの代わりに、絶縁隔壁は、酸化物でない誘電体、例えば、Si3N4を含む場合がある。
【0016】
絶縁隔壁は、電荷感応性表面を特定の種のイオン又は(生体)分子に対して選択的にする表面機能化を含むことが好ましい。機能化層は、特定のイオン又は生体分子(例えば、DNA、RNA、PNA鎖及びアプタマーのようなヌクレオチド、抗体又は抗体フラグメント、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又はタンパク質フラグメント、選択的な糖類、酵素)がそこに結合することを可能にする表面を提供し得る。(生体)分子はイオンである(すなわち、正味の全体的な電荷を持っている)必要はないが、トランジスタチャネルに影響を与えるローカル電荷を持っているグローバルニュートラルである可能性があることは注目に値し得る。
【0017】
フィンは、半導体基板、例えば、Si基板から突き出ていることが好ましい。
【0018】
トランジスタチャネルは、nドープシリコンで形成される場合がある。或いは、pドープシリコンで形成される場合もある。トランジスタチャネルは、蓄積モード又は空乏モードではさらに作用する場合がある。
【0019】
ISFET又はISFETベースのセンサは、ジャンクションレス電界効果トランジスタとして、すなわち、トランジスタチャネルとソースとの間、及びトランジスタチャネルとドレインとの間にそれぞれドーピング濃度勾配を設計せずに実装されることが好ましい。ジャンクションレス電界効果のトランジスタは、通常、高濃度にドープされたSiナノワイヤとして実装され、このナノワイヤは、トランジスタがオフになったときにキャリアを完全に空乏化させるのに十分な細さである。しかしながら、本開示の文脈では、ジャンクションレス電界効果トランジスタは、ナノワイヤのような一次元ではなく、二次元(トランジスタチャネルが完全に空乏化されていない場合)でのキャリア移動度を可能にするナノフィンによって実装される。
【0020】
トランジスタチャネルは、高さと幅の比が少なくとも15であることが好ましい。それよりも高い高さと幅の比、例えば、20、25、30、又はもっとその上であっても除外されない。
【0021】
フィンは、幅が50nmから250nmまでの範囲にあることが好ましい。高さもまた、1μmから5μmまでの範囲にあることが好ましい。
【0022】
トランジスタチャネルの長さは、7μmから20μmまでの範囲にあることが好ましい。トランジスタチャネルの中央部分(一定の幅及び高さを有する)の長さは、3μmから20μmまでの範囲にあることが好ましく、5μmから18μmまでの範囲にあることがより好ましい。
【0023】
本発明のさらなる一態様は、イオン感応性又は分子感応性デバイスであって、
-本明細書に記載のISFET又はISFETベースのセンサと、
-分析対象溶液を受け入れるためのチャンバであって、ISFET又はISFETベースのセンサのフィンが、中に突き出ているように配置されているチャンバと、
-分析対象溶液に接触するように配置された基準電極又は疑似基準電極と、
を含む、イオン感応性又は分子感応性デバイスに関する。
【0024】
好適な一実施形態によれば、イオン感応性又は分子感応性デバイスは、マイクロ流体センサ、例えば、マイクロ流体タンパク質センサ、マイクロ流体生体分子センサ、又はマイクロ流体DNAセンサを含む。
【0025】
本発明のまださらなる一態様は、複数のイオン感応性デバイス及び/又はマイクロ流体センサを含むマイクロ流体プラットフォームに関する。
【0026】
本発明のやはりさらなる一態様は、イオン感応性又は分子感応性デバイス、マイクロ流体センサ、又はマイクロ流体プラットフォームを使用する方法であって、分析対象溶液がチャンバに導かれるとともに、分析対象溶液がチャンバに対して静止しているときに、ISFET又はISFETベースのセンサのコンダクタンスに依存する電気量(例えば、ソース端子とドレイン端子との間の電圧降下及び/又は電流)が測定される方法に関する。
【0027】
本明細書では、「含む(comprise)」という動詞、及び「からなる(comprised of)」という表現は、「少なくとも~で構成された(consist at least of)」又は「含む(include)」を意味する非限定的な移行句として使用される。「垂直方向の(vertical)」及び「水平方向の(horizontal)」という用語は、絶対的な向きを指定すると解釈されるのではなく、基板に垂直な向き、又は平行な向きをそれぞれ指すものである。
【0028】
添付の図面は、本発明のいくつかの態様を図示し、詳細な説明とともに、本発明のいくつかの態様の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態によるISFETの概略的な部分斜視図である。
【
図3】2キャパシタ式モデルによる電解質/誘電体界面、及び誘電体/半導体界面を図示したものである。
【
図5】標的イオンの濃度が低い電解質に浸漬したときの、本発明の一実施形態によるISFETのトランジスタチャネルを図示したものである。
【
図6】標的イオンの濃度が高くなったときの、
図5のトランジスタチャネルを図示したものである。
【
図7】標的イオンの濃度がさらに高くなったときの、
図5のトランジスタチャネルを図示したものである。
【
図8】本発明に従う3つの試験ISFETの伝達特性(左側の図)、及びpHの関数としてのフラットバンド電圧(右側の図)を示したものである。
【
図9】分析対象溶液のpH値が異なる場合の、固定基準電圧における3つの試験ISFETの出力特性(グラフ(a)、(b)、及び(c))、異なる固定値の基準電位における電解質pHの関数としての試験デバイスのコンダクタンス(グラフ(d)、(e)、及び(f))、並びに相対的なコンダクタンスの変化(グラフ(g)、(h)、及び(i))を示したものである。
【
図10】試験ISFETのうちの1つのコンダクタンス対表面電位Ψ
0(又は最上部の目盛りで表示されたpH)の変化と、高さと幅のアスペクト比が1であるナノワイヤのコンダクタンスとの比較を示したものである。
【
図11】それぞれの断面積に対して正規化された
図10のコンダクタンスを示したものである。
【
図12】試験ISFETのうちの1つの電流対時間特性(グラフ(a):pHを変動させた場合、グラフ(c):基準電圧を変動させた場合、グラフ(d):pHは変動させたが、電解質の濃度が異なる場合)、及びグラフ(a)の測定値に対応する分析対象イオンの拡散時間(グラフ(b))を示したものである。
【
図13】ジオメトリ構成が異なるISFETに向けてのイオン又は分子の拡散を図示したものである。
【
図14】イオン選択的又は分子選択的表面機能化を含むISFETベースのバイオセンサのフィンの断面図である。
【
図15】表面機能化の第1の変形形態による
図14の詳細部Aを概略的に強調したものである。
【
図16】表面機能化の第2の変形形態による
図14の詳細部Aを概略的に強調したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態によるISFET10を図示したものである。ISFET10(以下、FinFETも同様)は、ソース端子12と、ドレイン端子14と、ソース端子12とドレイン端子14との間に延びるフィン16と、を含む。フィン16は、その中にトランジスタチャネル18を含むが、このトランジスタチャネルは、1つ又は複数の誘電体層、例えば、酸化物層を含む絶縁隔壁であって、電荷感応性(例えば、イオン感応性)表面22を有する絶縁隔壁20によって、分析対象溶液から隔てられている。トランジスタチャネルは、フィン16の対向する横方向の面24と26の間の中央に位置している。絶縁隔壁20は、フィン16の横方向の面24、26、及び狭い上面28を覆っている。フィン16は、半導体基板30から突き出ており、この半導体基板から、誘電体層32によってフィン16が電気的に絶縁されている。ソース領域及びドレイン領域は、不活性化層33内に封入され、分析対象溶液中の短絡を防いでいる。
【0031】
トランジスタチャネル18は、高さと幅の比が、少なくとも10以上、例えば、12、15、20、25又はもっとその上である。
【0032】
図14~
図16は、
図1及び
図2に示されているFinFET10の変形形態を図示したものである。具体的には、
図14~
図16のFinFETは、フィン16の絶縁隔壁20上の表面機能化38を含む。表面機能化38により、電荷感応性表面22はイオン選択的又は分子選択的になり、すなわち、特定の分子種だけが表面に結合することが可能になる。それ以外のすべてに関しては、
図14~
図16のフィン16の構造は、
図1及び
図2に示されている構造と同じである。
【0033】
図15は、分析対象に特有の受容体42で構成された表面機能化38の第1の変形形態を概略的に図示したものである。
図16は、第2の変形形態を概略的に図示したものであり、表面機能化38は、分析対象に特有の受容体42だけでなく、(例えば、ポリエチレングリコールの)防汚コーティング40もまた含む。様々なタイプの表面機能化が存在するので、本発明は、表面機能化の特定の種類に限定されない。
【0034】
分析対象のイオン濃度(この例ではH+)の関数としてのトランジスタチャネル18の挙動を、分析対象溶液と接触するSiO2バリア層で覆われたpドープSiトランジスタチャネルについて以下で論じることにする。半導体内部の空乏領域の幅WDは、化学的平衡及び静電気的平衡を考慮したモデルによって説明することができる。第1の効果は、プロトン化又は脱プロトン化することが可能な、プロトンと酸化物表面のシラノール群との相互作用である。化学的平衡では、表面に電荷があると、表面電位Ψ0が発生する。この表面電位と、分析対象溶液のpHとの間の関係は、ネルンスト式(Nernst equation)によって説明される。
【0035】
【0036】
式中、kは、ボルツマン定数(Boltzmann constant)であり、Tは、Kにおける温度であり、qは、素電荷であり、pHBは、バルクのpHであり、αは、酸化物のバッファ容量及び二重層静電容量を考慮した感度パラメータである。
【0037】
静電気的平衡は、半導体内部の電荷キャリアの再分配によって達せられる。これは、ポアソン方程式(Poisson equation)によって説明することができる。
【0038】
【0039】
式中、Ψsは、酸化物/半導体界面の電位であり、ρは、全空乏の近似ではドーピング(N
A)に等しい半導体内部の電荷密度であり、ε
0は、電気定数(真空誘電率)であり、ε
Siは、シリコンの比誘電率である。2つの平衡現象間の関係は、2キャパシタ式モデルによって説明することができ、酸化物及び空乏領域は、
図3及び
図4に図示されているような、直列のキャパシタと見なされる。平衡状態では、キャパシタは、等しい電荷Q
ox及びQ
Dを持つ。
Q
ox=(Ψ
0-V
fg-Ψ
S)C
ox=Ψ
SC
D=Q
D 式3
式中、V
fgは、通常、基準電極を通して電解質に印加される前面ゲート電位であり、C
oxは、酸化物の面積静電容量(
【0040】
【0041】
式中、toxは、酸化物の厚さを表す)であり、CDは、空乏層の面積静電容量である。
【0042】
【0043】
式2及び式3を組み合わせると、WDは、Ψ0と、半導体のドーパント密度NA及び感知用酸化物の厚さなどの製造パラメータと、の関数として表現することができる。
【0044】
【0045】
式1により、W
Dもまた、pH、N
A、及びt
oxの関数として表現することができる。酸性条件(プロトン濃度が高く、pHが低い)のpドープ半導体の場合、トランジスタチャネルの空乏領域の幅は、塩基性条件よりも大きくなる。ISFETが一定である場合、W
Dは、pHのみの関数になる。これは、シリコン酸化膜表面がさらにプロトン化されることで、フィンの内部に反発的な電界が発生することにより、説明することができる。
図5、
図6、及び
図7は、周囲の溶液のpHを減少させるためのトランジスタチャネルの空乏領域34の増加(したがって、導電領域36の減少も)を図示したものである。
【0046】
トランジスタチャネルのコンダクタンス(G)の変動は、WDを使用してオームの法則によって計算し、導電領域36の断面積の有効な変化を計算することができる。
【0047】
【0048】
式中、σは、バルクシリコンの導電率を表し、△Sは、導電断面積の変動を表し、Lは、チャネルの長さを表し、wは、トランジスタチャネルの高さを表し、hは、トランジスタチャネルの高さを表す。
【実施例】
【0049】
本発明によるSi FinFETは、厚さ2±0.1μmの、導電率0.115Ω・cm(等価ドーピング1017/cm3)のシリコンデバイス層(<110>配向)、及びUltrasil Corporation製の厚さ1μmの埋め込みSiO2を有するpドープ絶縁体上シリコン(SOI:silicon-on-insulator)基板上に、異方性ウェットエッチングすることにより製造された。
【0050】
大気圧で純酸素流量200sccm、及び1000℃で190秒間、急熱化学蒸着(RTCVD:Rapid Thermal Chemical Vapour Deposition)反応器を使用して、基板の上にSiO2の薄層(厚さ40nm)を成長させた。次に、厚さ200nmのma-N2043の負電子ビーム(eビーム)レジスト層を2000rpmで1分間スピン成形した。レジストを120℃で5分間ベーキングした。XENOSリソグラフィシステムを装備したFEI-HELIOS顕微鏡を使用して、FinFETのデザインのパターニングを行った。手動で撹拌しながらma-D現像液中で1分間現像した後、反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)により、25Wのプラズマを75トル(Torr)の圧力で使用して、15分間パターンを転写し、パターンの外側に数nmのエッチングされていないSiO2を残し、その後、これを希薄なHFの等方性処理によって除去し、滑らかなシリコン表面を残した。続いて、25重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、8.5容量%のイソプロピルアルコール水溶液中で、43±1℃で自動撹拌(250rpm)の下でサンプルをウェットエッチングした。エッチングは、パターニングされた領域の外側でデバイス層が完全に除去されるまで行われた。続いて、HFでマスクを除去した。続いて、RTCVDを使用して、20nmのSiO2層を成長させた。オーム性接触は、走査型UVレーザリソグラフィ(SLL:scanning UV laser lithography)によってパターニングされた。デバイスへのリード接点を画定するために、第2のSLLステップが行われた。これらは、メサのオーム性接触の段差を克服するために、eビーム蒸着(5nmのTi、次に、50nmのAu)と、それに続く100nmのコンフォーマルスパッタリングの組み合わせを使用して堆積された。SU-8フォトレジストを用いたUV SSLパターニングを使用して、感知領域以外の領域をすべて不活性化した。続いて、各サンプルをプリント回路基板にマウントし、ワイヤボンディングした。金属ワイヤは、医療級の市販の液体エポキシ接着剤Loctite Hysol M-31CLを使用して不活性化した。
【0051】
得られたフィンは、測定された全長(L)が14μmであった。フィンの高さ(h)は、2μmであった。以下では、上述したように製造された、150、170、及び190nmのフィン幅(W)をそれぞれ有するFinFETについて、より詳細に論じることにする。アスペクト比W/hは、13.3(「デバイス1」の場合)、11.8(「デバイス2」の場合)、及び10.5(「デバイス3」の場合)であった。
【0052】
2線式構成を使用してKeithley 2614HB DCソースメータを用いて電気的特性評価を行い、電流-電圧(I-V)曲線を得た。FinFETは、カロメル基準電極(BioLogic R-XR300)を使用して分極した。電解質は、開始時のpHが2.5の、1:1の緩衝液(0.1Mのリン酸カリウム、クエン酸、ホウ酸溶液と0.1Mの硝酸カリウム溶液)の混合物であり、より塩基性のpH値に向けて0.1MのKOH溶液で滴定された。すべての緩衝液の溶媒は、Milli-Q水であった。市販の較正済みpHセンサ(Sentron S1600)を使用して、pH及び温度をモニタリングした。実験の温度は、ホットプレートに置かれた槽を使用することにより、一定に保たれた。
【0053】
pドープFinFETは、プロトンのような正電荷の場合、空乏モードで作用する。FinFETの出力特性及び伝達特性は、一定のpH=7で測定された。デバイスは、基準電極電圧(Vref)にコヒーレントな依存性を有する線形のドレインソース電流特性対ドレインソース電圧特性(Ids対Vds)を示した。ドレイン電流は、フィンの幅と相関関係があった。FinFETを流れる電流は、p型ISFETで予測されるように、基準電圧が低下すると増加した。測定された出力特性及び伝達特性から、基準電圧及びドレイン電圧へのドレイン電流の明らかな依存性を観察することができた。試験FinFETは、最大相互コンダクタンスが263±0.06nSであり、これは、NWベースのISFETの値に匹敵するものであった。
【0054】
基本的な特性評価の後、FinFETのpH変動に対する応答を試験した。伝達特性は、一定のV
ds(50mV)で、V
refを-1.5から1.5Vに掃引し、手動滴定によって電解質のpHを酸性の値から塩基性の値へと変動させることによって測定した。得られた伝達特性(
図8(a)、(c)、及び(e))は、分析対象溶液のpHが高くなるにつれてドレイン電流が増加することを示している。
【0055】
異なる電解質pH値でのFinFETの対応するフラットバンド電圧(V
fb)は、伝達特性の一次導関数を計算することによって評価した。具体的には、相互コンダクタンス(δI
ds/δV
ref)の最小値から、pHの関数としてのV
fbの値を計算した。最小値のより正確な位置を得るために、ガウス関数を用いて相互コンダクタンスを最小値近辺でフィッティングした。電解質のpHの関数としてのV
fbが、3つの試験FinFETについて
図8(b)、(d)、及び(f)に示されている。FinFETのフラットバンド電圧は、pHが高くなるにつれて増加した。フィンの表面における表面ヒドロキシル基の脱プロトン化により、トランジスタチャネルの多数電荷キャリア(正孔)が増加し、これが空乏領域の減少につながる。得られたプロットから、3つの試験FinFETについて、フラットバンド電圧が、pHの関数として平均変化率が22±1mV/pHで変化したことを導き出すことができる。得られた感度は、予測された感度(約30~35mV/pH)よりも低かった。理論による束縛を望まないが、本発明者らは、これを、多目的処理チャンバでの感知用酸化物の成長中に生じた欠陥によるものであると説明した。
【0056】
図9のグラフ(a)、(b)、及び(c)は、分析対象溶液の異なるpH値について、固定基準電圧V
ref=0Vでの、3つの試験FinFETの出力特性を示したものである。ワイヤ中のコンダクタンスは、pHが高くなるにつれて増加した。デバイスのI
ds特性対V
ds特性は、試験したpH範囲(pH=4からpH=10まで)にわたってほぼ線形のままであり、広範囲にわたる良好なオーム性挙動を反映している。さらに、異なるpH値でコンダクタンス値を評価した。グラフ(d)、(e)、及び(f)は、異なる固定値V
ref(-100mVから100mVまで、50mV刻みで)における電解質のpHの関数としての、試験デバイスのコンダクタンスを示したものである。V
refが低下するにつれて、コンダクタンスの増加が観察される。これは、半導体中の正電荷キャリアが誘引電界を経て、フィンの導電断面積が連続的に大きくなった結果であると解釈することができる。デバイスのコンダクタンスは、pHが高くなるにつれて、ほぼ直線的に増加した。
【0057】
相対的なコンダクタンス変化△G%=((G-G
0)/G
0))%は、異なる基準電位V
refで、それぞれのpHステップごとに評価された(
図9、(g)、(h)、及び(i))。これは、寸法が小さくなり、空乏領域の影響が大きくなったために、幅の狭いFinFETでは大幅に高くなった。これは、酸化物の表面電位が変化してもすべてのデバイスで同様の感度が得られた、伝達特性で観察された挙動とは対照的である。デバイス1は、△G%の実質的に線形の増加もまた示し、pHからのコンダクタンスの二次関数的依存性を反映している。△G%の傾きもまた、印加された基準電圧V
refとともに大きくなった。対照的に、デバイス2及びデバイス3は、pHの関数としてほとんど一定の△G%を示した。この挙動は、電解質と接触する2つの方向でゲーティングが発生するために二次関数的依存性を示すNWに関する知見とは、明らかに対照的である。フィンはアスペクト比が10を超えるため、空乏領域(W
D)は、水平方向ではコンダクタンスに影響を与えるが、垂直方向では、影響は、(無視できるほどではないとしても)はるかに小さくなる(h-W
Dの相対的な変化は、W-W
Dの相対的な変化よりもはるかに小さい)。これは、FinFETの伝達特性ではなく、出力特性を測定することが有利であることを示唆している。
【0058】
FinFETデバイス2で得られた結果を、アスペクト比が1:1であるナノワイヤの計算と比較した。
図10は、FinFETデバイス2のコンダクタンス対表面電位Ψ
0の変化を示したものである(相当するpHは最上部の目盛りで示されている)。実験データ(黒丸)を、高さ/幅アスペクト比が約12.7の使用されるFinFETの理論モデル(式4及び式5)にフィッティングした。このシミュレーションを用いて、酸化物の厚さのパラメータ及びチャネルドーピングのパラメータが引き出され、それらは、酸化物の成長中に実行される楕円偏光法の較正(計算及び実験データでは、20nm)、並びに製造者によって表示されたドーピングと非常に良く一致していることが分かった(フィッティング:2・10
17cm
-3、製造者情報:1-3・10
17cm
-3)。同じパラメータで計算されたアスペクト比が1:1のNW ISFETの曲線もまた、図に示されている。NWのシミュレートされた応答は、考察された表面電位の変化に対してほぼ横這いである。
【0059】
図11は、断面積に対して正規化された
図10のコンダクタンスを再現したものである。これは、FinFETデバイスを、同じ断面積になる13個のナノワイヤからなるNWアレイと比較することと同等である。曲線をより大きな表面電位の変化に外挿して、完全に導電性であり、且つ完全に空乏化されたデバイスを実現している(グラフの点線部分)。いずれのデバイスも、大体同じ表面電位で絶縁性となる(したがって、それらは同じようなダイナミックレンジを有することになる)。しかしながら、上記で言及した効果により、FinFETがより優れた線形性を提示することが認められる場合がある。すなわち、ナノワイヤでは、空乏化は、ワイヤの2つの物理的な横方向の寸法(W及びh)に等しく依存するのに対し、FinFETでは、空乏化は、はるかに大きな程度で幅(W)に依存し、ダブルゲート効果をもたらすが、空乏化の垂直成分の影響は比較的小さい。その結果、コンダクタンスの変化はほぼ線形である。結論として、数個のNWを並列接続すると、同等の電流を提供することができるが、同等の断面積を有するFinFETの方が、線形性に優れ、フットプリントが小さく、全pH範囲の感度を最適化する。
【0060】
最後に、FinFETの電流特性対時間特性を調べた。FinFETデバイス2に対して一定のV
ds(200mV)及びV
ref(0V)で、リアルタイムでドレイン電流測定を実施した。一定のpHにおける電流は、長時間の作用時間の間、安定したままであった(3000秒、観察されたドリフトは1nA未満)。ヒステリシスの影響を調べるために、複数回のサイクルで電解質のpHを最小2.55から最大11.4まで変動させた。加えて、pH測定は、pH値が異なる溶液間でセンサを移動させて、リアルタイムモードで行われた。これらの実験の間、温度は、氷槽中で零℃近くに保たれた。FinFETの応答は、電解質(濃度:0.1M)のpHを10.5とそれよりも低い9.4から3.1までの範囲のpH値との間で数回循環させたときに、再現可能であることが観察された(
図12(a))。I
dsの最大値のわずかなドリフトが観察された。これは、pHの変化及び/又はヒステリシスが不完全であることが原因であった可能性がある。
【0061】
これらの測定の間、FinFETデバイスが平衡に達する整定時間を観察した。電流測定値対時間測定値を使用して、電解質のpHを値10.5から7.9、6.2、4.5、及び3.1に変動させたときの、この整定時間をそれぞれ測定した(
図12(a))。応答を以下の指数関数を用いてフィッティングした。
【0062】
【0063】
式中、A
1、t
s、及びy
0は、フィッティングパラメータを表す。t
sは、特徴存続時間に相当し、整定時間と見なされた。整定時間は
図12(b)に示されており、コンマ数秒のオーダーで特徴的な時間があったことが分かる。整定時間の起源としての容量性効果を切り捨てるために、基準電圧を変化させることによって、リアルタイム応答を測定した(
図12(c))。具体的には、基準電極電圧は、複数回のサイクルで0から24、96、及び165mVに上昇させたが、これは、pHの変化によって生み出された表面電位の変化に相当する。ここでも、一定のドレイン電圧及びpH値で、時間に対してドレイン電流を測定した。電流は、特定のV
refで安定しており、調べたV
ref値のいずれにおいても整定時間は観察されなかった。電解質のイオン強度に起因する整定時間への寄与は、異なる電解質濃度でリアルタイム応答を測定することによって、切り捨てることができた。
図12(d)は、電解質の濃度が1mMの場合の時間の関数としてのI
dsを示したものである。2つの異なる電解質濃度で得られたリアルタイムpH応答は類似しており、したがって、電解質の濃度の変化は、まったく影響しないか、又は、無視できる影響にすぎないと結論付けることができる。
【0064】
理論による束縛は望まないものの、本発明者らは、整定時間をプロトン拡散の効果として解釈している。拡散時間に対応するプロトン拡散距離もまた評価され、
図12(b)に表示されている。計算は、水中のプロトンの拡散定数を考慮に入れて行われた(D
H+=9・10
-9m
2/秒)。得られた拡散時間の間に、プロトンはセンサ表面に向かって0.5mmから1mmに拡散する。これらの距離は、フィンの高さよりも数桁大きい。これは拡散が制限されたプロセスでは、特に興味深いことである。本発明によるFinFETは、分子又はイオンが近距離から(すなわち、通常濃度又は高濃度で)到来する場合、平面センサのように挙動し、一方、分子又はイオンが遠距離から到達する場合、それらの三次元構成が低濃度における整定時間という拡散制限を大幅に改善する、ということが言える。この見地から、本発明によるFinFETは、バイオセンサとしての実装には特に興味深いものになっている。
【0065】
イオン又は分子は、センサに付着している限り感知されることで、溶液中の分子を空乏化し、センサ付近に分子の勾配を生み出す。
図13は、異なる時間及び異なるタイプのセンサの拡散フロントを示している。図示されている拡散フロントは、過渡現象中には、すなわち、分析対象のイオン又は分子がセンサ表面に引き寄せられるという事実のために、分析対象の濃度が一時的に不均一である場合には、等濃度平面と同一視することができる。高濃度では、整定時間は短く、大部分のイオン又は分子は、センサの付近から到来する。平面ISFETの場合(
図13(A))には、拡散フロントは、センサに垂直な一次元で変化する。NWの場合(
図13(B))には、拡散フロントは、やはりセンサに垂直だが2つの方向で変化する。それに応じて、センサに向かって移動してきたイオン又は分子は、二次元から中に入ってくるイオン又は分子によって置き換えることができる。
図13(C)は、数個のNWが並列に接続されたNWアレイの場合に起こることを示している。高濃度では、拡散フロントは、各センサに垂直な方向からも到来する(挿入図に示されている拡大部分)が、濃度が低くなると、(検出限界に達するのに必要なイオン又は分子は、さらに遠方から到来するため)整定時間が長くなり、拡散フロントは、平面ISFETの拡散フロントのように見える。これは、フラクタルフラストレーション拡散として理解されており、これによりNWマイクロアレイは通常、良好な信号対雑音比を有するものの、単一のNWに関しては、その感度の一部を失う。FinFET(
図13(D))の場合には、高濃度(挿入図の拡大部分)では、センサ付近の拡散フロントは、2面から到来しているものの、平面ISFETの拡散フロントと同様になる。低濃度では、イオン又は分子は、拡散フロントが2方向で変化する、センサからさらに遠く離れたところから到来する。これにより、FINFETは、関心対象となる低検出限界の範囲では効率的になる。
【0066】
ブラウン運動に従って、拡散時間(τ)に関連付けされた拡散距離(LD)は、次のように表現することができる。
【0067】
【0068】
前述したように、本発明によるセンサの拡散距離の測定結果は、
図12(b)に(右側の縦軸)報告されており、水中のプロトンの拡散定数Dは、D=9・10
-9m
2/秒として使用された。プロトンがそこからFinFET表面に向かって拡散するさらなる距離は、0.5mmから1mmまで変動し、これは、センサの高さよりも3桁大きい。FinFETで観察された整定時間の変化が小さい(標準偏差と同等である)理由は、プロトンの拡散が速いためであると考えられている。拡散定数が遅く、定温放置時間が数時間になる可能性があるDNA又はタンパク質のような、関心対象となる可能性のある他の分析対象は、初期濃度に応じて、拡散の発生の仕方が異なる挙動を有する可能性がある。初期濃度が高いとき、分析対象は、表面の付近からセンサに到達することができ、二重ゲート効果(「1D拡散」)をともなってセンサの表面に平行な平面状の濃縮フロント上で拡散する。低濃度では、長い定温放置時間に関連して、センサに到達する分析対象は、さらに遠くの領域から生じ、拡散は2D(半円筒形)になる(
図13(D))。他の分析対象の質量輸送におけるFINFETの考えられる影響を大まかに比較するために、本発明者らは、ヘモグロビン及び21ヌクレオチドのDNA鎖の拡散係数を使用したが、分子はプロトンと同様に信号に寄与することになる(表面電位の変化が同じ)と考察した。この近似値の範囲内であれば、43秒でFINFETは、これらの生体分子の場合、プロトンの場合よりも3桁少ない濃度を検出することになり、一方、0.1nM(pH10のプロトン濃度に近い)を検出する場合、平衡に達するまでに必要な時間は、10
4秒のオーダーである。同じ近似値を使用して、本発明者らは、平面ISFETの場合(
図13(A))の結果と、単一のNW(
図13(B))の場合の結果とを比較した。平面ISFETの場合、本発明者らは、43秒で、生体分子の場合、μMのオーダーの濃度が検出可能であり、一方、NWの場合、検出限界は1nMをやや上回ると推定した。同様に、0.1nMの濃度を検出するのに要する時間は、平面ISFET及びNWでそれぞれ、10
6秒及び10
3秒となる。これとは対照的に、すぐ近傍の分析対象の濃度が減少すると、FinFETは従来のISFETのような挙動から、2Dでのより効率的な拡散に変化することで、低濃度でゆっくりと拡散する分子を測定するときに有利になる。
【0069】
本明細書では、特定の実施形態を詳細に説明してきたが、当業者であれば、本開示の全体的な教示に照らして、それらの詳細に対する様々な修正及び代替的形態を開発し得ることを認識するであろう。したがって、開示されている特定の配置は、例示のみを意図しており、本発明の範囲に関して限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びそのすべての均等物の全範囲に与えられるものとする。
【符号の説明】
【0070】
10 ISFET
12 ソース端子
14 ドレイン端子
16 フィン
18 トランジスタチャネル
20 絶縁隔壁
22 電荷感応性表面
24、26 フィンの横方向の面
28 上面
30 半導体基板
32 誘電体層
33 不活性化層
34 空乏領域
36 導電領域
38 表面機能化
40 防汚コーティング
42 受容体
【国際調査報告】