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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-25
(54)【発明の名称】電池用伝導性ポリマー電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20220118BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220118BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220118BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20220118BHJP
   H01M 50/431 20210101ALI20220118BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20220118BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/0568
H01M50/426
H01M50/411
H01M50/431
H01M50/443 M
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530861
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(85)【翻訳文提出日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019082968
(87)【国際公開番号】W WO2020109505
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】1872144
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イダルゴ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】プレ,ドミニク
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021EE01
5H021EE03
5H021EE10
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH07
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM07
5H029AM16
5H029DJ09
5H029DJ16
5H029EJ03
5H029EJ08
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ06
5H029HJ11
5H029HJ20
(57)【要約】
本発明は、リチウム-ポリマー電池に使用することを意図した有機-有機複合材料の形態の固体ポリマー電解質に関する。本発明はまた、そのような電解質を製造するための方法に関する。この電解質は、リチウムポリマー電池又は「全固体」電池、特にイオン伝導性セパレータに関するものを作製することを特に意図している。したがって、本発明はまた、そのようなポリマー電解質を含む電池セパレータ、その製造方法、及びこの電解質を組み込んだ電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃未満の温度で動作する電池のための固体ポリマー電解質であって、
・50000g/mol超の分子質量を有する、多孔質フィルムの形態の熱可塑性ポリマー、
・前記熱可塑性ポリマーのフィルムに含浸させる、イオン伝導体であるオリゴマー、及び
・1種以上のリチウム塩、
を含む電解質。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーが、一般式:-[(CR-CR)-](式中、R、R、R及びRは独立して、H、F、CH、Cl、Br又はCFであり、これらの基の少なくとも1つがF又はCFである)の化合物である、請求項1に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロペン)、ポリ(フッ化ビニリデン-co-トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ter-トリフルオロエチレン-ter-クロロトリフルオロエチレン)及びポリ(フッ化ビニリデン-ter-トリフルオロエチレン-ter-1,1-クロロフルオロエチレン)から選択されるフルオロポリマーである、請求項1又は2のいずれかに記載の固体ポリマー電解質。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーが、構造単位のVDF/TrFEモル比が9~0.1、好ましくは4~1の範囲のP(VDF-TrFE)コポリマーである、請求項1~3のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーが、VDFのモル含有量が40%~95%の範囲であり、TrFEのモル含有量が5%~60%の範囲であり、CTFEのモル含有量が0.5%~20%の範囲であるP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーである、請求項1~3のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項6】
前記オリゴマーが、基-CR-O(式中、Rは、H、アルキル、アリール又はアルケニルである)を含む、請求項1~5のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項7】
前記オリゴマーが、ポリエチレングリコールタイプの少なくとも1つの基を有する、請求項6に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項8】
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO);六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF);四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF);リチウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール-1-イド(LiTDI);リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI);リチウムN-フルオロスルホニル-トリフルオロメタンスルホニルアミド(Li-FTFSI);リチウムトリス(フルオロスルホニル)メチド(Li-FSM);リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI);リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB);リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB);リチウム3-ポリスルフィドスルホラン(LiDMDO)、又はそれらの混合物から選択される1種以上のリチウム塩を含む、請求項1~7のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項9】
前記固体ポリマー電解質の総重量に基づいて、前記熱可塑性ポリマーが、10%~90%、好ましくは20%~80%の範囲の量で存在し、前記オリゴマーが、90%~10%、好ましくは80%~20%の範囲の量で存在する、請求項1~7のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項10】
熱可塑性ポリマーの前記多孔質フィルムが以下の工程を含む方法により製造された、請求項1~9のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質:
-前記熱可塑性ポリマーと、相互に混和性である前記ポリマーに対する溶媒及び前記ポリマーに対する非溶媒を含むビヒクルとを含むインクを提供すること;
-基材上に前記インクを堆積すること;
-前記溶媒及び前記非溶媒を含む前記ビヒクルを蒸発させること。
【請求項11】
25℃において少なくとも0.1mS/cmのイオン伝導度を有する、請求項1~10のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーのフィルムの細孔が、走査型電子顕微鏡によって測定して、0.1~10μm、好ましくは0.2~5μm、より好ましくは0.3~4μmの平均直径を有する、請求項1~11のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項13】
前記オリゴマーが、5000g/mol以下、及び優先的には2000g/mol以下の数平均分子質量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の固体ポリマー電解質。
【請求項14】
前記リチウム塩を前記伝導性オリゴマーに溶解し、次いで前記熱可塑性ポリマーのフィルムにこの溶液を含浸させることからなることを特徴とする、請求項1~13のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質を製造する方法。
【請求項15】
請求項1~13のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質を含むことを特徴とする、リチウム-ポリマー電池用セパレータ。
【請求項16】
最大50質量%の無機粒子をさらに含み、前記粒子が、導電性セラミック、室温で本質的に非導電性又は非常に難導電性であるフィラー、及び2000超の比誘電率を有するフィラーから選択される、請求項15に記載のセパレータ。
【請求項17】
リチウム金属からなるアノード、カソード、及び当該2つの電極の間に配置されたセパレータを含むリチウム-ポリマー電池であって、前記セパレータが、請求項1~13のうちの一項に記載の固体ポリマー電解質を含むことを特徴とする、リチウム-ポリマー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の分野に関し、より詳細には、リチウムポリマー電池及び「全固体」電池として公知の電池に関する。これらの電池は、Na又はLiなどのアルカリ金属カチオン、Ca又はMgなどのアルカリ土類金属カチオン、又は最後にアルミニウムを電解質に含むことができる。
【0002】
より詳細には、本発明は、このような電池に使用することを意図した有機-有機複合材料の形態の固体ポリマー電解質に関する。本発明はまた、そのような電解質を製造するための方法に関する。この電解質は、リチウムポリマー電池又は「全固体」電池、特にイオン伝導性セパレータに関するものを作製することを特に意図している。したがって、本発明はまた、そのようなポリマー電解質を含む電池セパレータ、その製造方法、及びこの電解質を組み込んだ電池に関する。
【背景技術】
【0003】
通常のリチウムイオン電池は、溶媒及びリチウム塩に基づく可燃性液体電解質を含む。コンピュータ、タブレット又は携帯電話(スマートフォン)などの電子消費者製品の分野だけでなく、特に電気自動車による輸送の分野でもこの種の電池の使用が増加していることを考えると、これらのリチウム電池の安全性を向上させ、製造コストを削減することが大きな課題となっている。
【0004】
この問題を解決するために、近年、可燃性液体電解質に代わる固体ポリマー電解質(SPEとしても知られる)を含むリチウムポリマー電池が研究されている。したがって、液体溶媒を含まない固体ポリマー電解質SPEは、従来のLiイオン電池のような可燃性液体成分の使用を回避し、より薄くより柔軟な電池の製造を可能にする。
【0005】
SPEは、固有イオン伝導度が低いにもかかわらず、例えば三次元マイクロ電池などの小型用途、及び電気自動車などの大規模エネルギー貯蔵用途の両方に大きな可能性を示している。
【0006】
現在、固体ポリマー電解質として最も一般的に使用されるポリマーは、ポリエーテル、例えばPEOとしても知られるポリ(エチレンオキシド)である。しかしながら、これらのポリマーは、特に室温に近い温度で容易に結晶化するという欠点を有し、これはポリマーのイオン伝導度を非常に著しく低下させる効果を有する。このため、これらのポリマーが挿入された電池の使用は、最低温度60℃においてのみ可能となる。しかしながら、このような電池を室温で、さらには負の温度でも使用できることが好都合と思われる。さらに、これらのPEOは高度に親水性であり、特にリチウム塩の存在下で可塑化する傾向があり、その機械的安定性を低下させる。
【0007】
脂肪族ポリカーボネートもまた、SPEのためのホストポリマーマトリックスとして研究されてきた。この目的のために、環状カーボネートを開環によって重合して、固体形態の直鎖状高分子カーボネートを生成することができる。このようなエチレンカーボネートポリマーは、リチウムイオンLiを伝導するための電解質として調製され、首尾よく使用されているが、エチレンカーボネートなどの5員環式カーボネートはその安定性により、制御された重合の理想的な候補とはならない。エチレンカーボネートの重合には脱炭酸が伴い、カーボネートとエチレンオキシドとのコポリマーが生じるからである。[G.Rokicki et al.,Prog.Polym.Sci.25(2000)259-342]。
【0008】
D.Brandell,Solid State Ionics 262(2014)738-742の論文は、スズジオクタノエートで開始されるトリメチレンカーボネート(TMC)モノマーの開環による、PTMCとしても知られるポリ(トリメチレンカーボネート)のバルク重合による調製を記載している。得られたポリマーは、368000g/molの分子質量、1.36の多分散性を有し、7%未満の残留モノマーを含有する。このようなポリマーは非晶質であり、-15℃という比較的低いガラス転移温度を有する。同様に、the Journal of Power Sources 298(2015)166-170,D.Brandell et al.に掲載された論文は、カプロラクトンとトリメチレンカーボネートとの共重合により、-63.7℃の低いガラス転移温度を有する非晶質イオン伝導性ポリマーを得ることが可能になることも記載している。しかしながら、これらの文献に記載されているポリマーは、電池用の固体ポリマー電解質として使用するには依然として危険である。残留モノマー量が多いと、可燃性のリスクが存在するからである。最後に、これらの2つの文献に記載されているポリマーは、特に電極における機械的安定性の問題を回避するために、100000g/molよりもはるかに高い数平均分子質量を有し、それにより、金属集電体から外れることがない。しかしながら、ポリマーの分子質量が高いほど、これはその鎖の移動度及びそのイオン伝導度にとってより有害である。
【0009】
有機触媒を介して、共重合されていても又は共重合されていなくてもよいポリエステル及びポリカーボネートを得ることを可能にする、制御されたリビング性の選択的重合方法がさらに開発された。この場合、有機触媒は、MSA(メタンスルホン酸)又はTfOH(トリフルオロメタンスルホン酸)などの有機物であり、すなわち重合は、スズ塩などの金属誘導体の導入なしに行われる。
【0010】
メタンスルホン酸(MSA)は、ε-カプロラクトン(ε-CL)又はトリメチレンカーボネート(TMC)の重合において非常に効率的であることが証明されており、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)は、β-ブチロラクトン(BBL)の制御された重合を行うために選択される有機触媒である。
【0011】
WO2008/104723及びWO2008/10472、並びにまた“Organo-catalyzed ROP of ε-caprolactone:methanesulfonic acid competes with trifluoromethanesulfonic acid”,Macromolecules,2008,volume 41,pages 3782-3784と題された論文は、特に、ε-カプロラクトンの重合のための触媒としてのメタンスルホン酸の効率を実証した。前記文献はまた、アルコール型のプロトン性開始剤と組み合わせて、MSAがε-カプロラクトン環状モノマーの制御された重合を促進することができることを記載している。特に、プロトン性開始剤は、平均モル質量及び鎖末端の精密な制御を可能にする。
【0012】
高いイオン伝導度を有するオリゴマーが公知であるが、それらは機械的強度を有さない。低いガラス転移温度(Tg)が導電率を改善するために求められているが、これは機械的特性を犠牲にして起こる。逆に、それらがより良好である場合、それはモル質量が増加したため、又はポリマーが結晶性を示すためである。
【0013】
したがって、本出願人は、低温、すなわち室温でも、さらに負の温度であっても、典型的には+60℃~-20℃の間の温度において十分なイオン伝導度を有する固体ポリマー電解質を調製するための解決策を求め、これを行うために、機械的機能と伝導機能とを分離することを選択した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2008/104723号
【特許文献2】国際公開第2008/10472号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】G.Rokicki et al.,Prog.Polym.Sci.25(2000)259-342
【非特許文献2】D.Brandell,Solid State Ionics 262(2014)738-742
【非特許文献3】the Journal of Power Sources 298(2015)166-170,D.Brandell et al.
【非特許文献4】“Organo-catalyzed ROP of ε-caprolactone:methanesulfonic acid competes with trifluoromethanesulfonic acid”,Macromolecules,2008,volume 41,pages 3782-3784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服することである。本発明は、特に、60℃未満、及び-20℃まで低下し得る低温であっても十分なイオン伝導度を有する固体ポリマー電解質の提案を対象とする。
【0017】
これを行うために、電解質の伝導性部分は、可能な限り小さい結晶化度、及び電池の意図される動作温度未満のガラス転移温度を有する必要がある。ポリマー電解質材料はまた、粒子の良好な凝集、及び集電体への良好な接着をもたらす電極を調製可能にする必要がある。
【0018】
ポリマー電解質材料はまた、十分な電気化学的安定性(使用されるカソード材料に応じた電位)及び想定される作動温度範囲にわたって十分なイオン伝導度を有するセパレータを調製可能にしなければならない。
【0019】
本発明はまた、そのような材料を合成するための、迅速、簡単及び安価に実施できる方法の提案を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第一の態様によれば、本発明は、60℃未満の温度で機能する電池に使用されることを意図した固体ポリマー電解質であって、
-50000g/mol超の分子質量を有する、多孔質フィルムの形態の熱可塑性ポリマー、
-前記熱可塑性ポリマーのフィルムに含浸させる、イオン伝導体であるオリゴマー、及び
-1種以上のリチウム塩、
を含む電解質に関する。
【0021】
一実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、一般式:-[(CR-CR)-](式中、R、R、R及びRは独立して、H、F、CH、Cl、Br又はCFであり、これらの基の少なくとも1つはF又はCFであることが理解されよう)の化合物である。
【0022】
一実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、圧電特性、強誘電特性、焦電特性又はリラクサー強誘電特性を特徴とする。
【0023】
固体ポリマー電解質組成物に含まれる熱可塑性ポリマーは、多孔質フィルムの形態で調製される。
【0024】
前記多孔質フィルムを調製する方法は、以下の工程を含む:
-熱可塑性ポリマーと、相互に混和性である前記ポリマーに対する溶媒及び前記ポリマーに対する非溶媒を含むビヒクルとを含むインクを提供すること;
-基材上に前記インクを堆積すること;
-前記溶媒及び前記非溶媒を含む前記ビヒクルを蒸発させること。
【0025】
本発明による固体ポリマー電解質は、熱可塑性ポリマーのフィルムに含浸させるオリゴマーを含む。一実施形態によれば、このイオン伝導性オリゴマーは、熱可塑性ポリマーとの物理的又は化学的親和性を有する少なくとも1つの基を有する。
【0026】
本発明はまた、上述の固体ポリマー電解質を含むことを特徴とする、リチウムポリマー電池用のセパレータに関する。
【0027】
本発明の別の主題は、リチウム金属からなるアノードとカソードとの間に配置された、上述の固体ポリマー電解質に基づくセパレータを含むリチウムポリマー電池である。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、層のスタックを含み、前記スタックが、優先的にリチウム金属からなるアノード、カソード及びセパレータを含み、前記セパレータが上述の固体ポリマー電解質を含むことを特徴とするリチウム電池に関する。
【0029】
本発明は、先行技術の欠点を克服することを可能にする。本発明は、より詳細には、低温でも十分なイオン伝導度を有する固体ポリマー電解質を提供する。
【0030】
これは、熱可塑性ポリマーに対する親和性を有する少なくとも1つの官能基を有するイオン伝導性オリゴマーが含浸された、半結晶性熱可塑性ポリマーの多孔質フィルムからなる有機-有機複合ポリマー材料の実装によって達成される。
【0031】
この種のポリマー電解質は、非常に簡単で迅速及び安価な方法に従って製造される。この方法は、単に、非常に温和な温度で行われ得る溶解、乾燥及び含浸操作を含む。
【0032】
ポリマー電解質のイオン伝導度は、測定が熱可塑性ポリマーのガラス転移温度から離れた高い温度で行われる場合に比例して高くなる。熱可塑性ポリマー骨格が機械的強度の維持を可能にするという事実を考慮すると、伝導と機械的強度(機械的弾性率)機能とは切り離して考えることになる。
【0033】
本発明の固体ポリマー電解質は、電池の充放電サイクル中の機械的安定性を保証し、過度に長い鎖によりイオン伝導度を損なうことなく、リチウムの挿入/脱挿入に伴う体積変動中の電極の凝集の維持を可能にする。これまで、特にPEOによるこのサイズ安定性の問題を解決するためには、非常に長い鎖を有するポリマーを製造し、電極の機械的安定性を確保する必要があった。しかしながら、ポリマーの分子質量のこの増加は、その鎖の移動度及びそのイオン伝導度を犠牲にして起こる。
【0034】
機械的機能及び伝導機能を切り離して考えると、これらの検討事項によるさらなる限定はないと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を以下でさらに詳細に説明する。
【0036】
本発明は、60℃未満の温度で機能する電池に使用されることを意図した固体ポリマー電解質であって、
・50000g/mol超の分子質量を有する、多孔質フィルムの形態の熱可塑性ポリマー、
・前記熱可塑性ポリマーのフィルムに含浸させる、イオン伝導体であるオリゴマー、及び
・1種以上のリチウム塩、
を含む電解質に関する。
【0037】
熱可塑性ポリマーのフィルム
「ポリマー」という用語は、共有結合を介して互いに接続された1種以上のモノマーの配列からなる高分子を意味する。この用語は、本明細書において、ホモポリマー、2種の異なる構成単位からなるコポリマー、及び3種以上の異なる構成単位からなるコポリマーを包含する。使用される「熱可塑性ポリマー」という用語は、加熱されると流動性、液体又はペースト状の流体になり、熱及び圧力の印加によって新しい形状をとることができるポリマーを指す。本発明の熱可塑性ポリマーは、非晶質又は半結晶性であってもよい。
【0038】
有利には、熱可塑性ポリマーは良好な機械的特性を有し、架橋することができる。「良好な機械的特性」という用語は、最大作動温度において、少なくとも1MPa、好ましくは少なくとも10MPaのヤング率を意味する。
【0039】
熱可塑性ポリマーは、50000g/mol超の数平均分子質量を有する。一実施形態により、熱可塑性ポリマーは、100000g/mol超、好ましくは200000g/mol超の数平均分子質量を有する。分子量は、ASTM D 1238(ISO1133)に従って、10kgの荷重下、230℃でメルトフローインデックス(10分)を測定することによっても評価することができる。これらの条件下で測定されたMFIは、0.2~20g/10分の間、好ましくは0.5~10g/10分の間であり得る。
【0040】
一実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、一般式:-[(CR-CR)-](式中、R、R、R及びRは独立して、H、F、CH、Cl、Br又はCFであり、これらの基の少なくとも1つはF又はCFであることが理解されよう)の化合物である。
【0041】
一実施形態によれば、前記熱可塑性ポリマーは、前記モノマー-(CR-CR)-のホモポリマーである。一実施形態によれば、前記熱可塑性ポリマーは、以下のホモポリマー:[-(CH-CF)-]である。
【0042】
一実施形態によれば、前記熱可塑性ポリマーは、2種の異なる構成単位を有するコポリマー、又は3種の異なる構成単位を有するターポリマー、又は前記モノマーに由来する単位及び少なくとも1種の他のコモノマーに由来する単位を含む4種以上の異なる構成単位を有するコポリマーである。少なくとも2種の異なる構成単位を有するこれらのコポリマーは、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーである。以下の本文では、「コポリマー」という用語は、少なくとも2種の異なる構成単位からなる任意のコポリマーを示すために使用される。
【0043】
一実施形態によれば、フルオロポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)から得られる単位と、式CX=CX(式中、X、X、X及びXの中の各基は、H、Cl、F、Br、I、及び1~3個の炭素原子を含む、任意選択で部分的に又は全体的にハロゲン化されているアルキル基から独立して選択される)の少なくとも1種の他のモノマーから得られる単位とを含むポリマーであり、好ましくは、フルオロポリマーは、フッ化ビニリデンから得られる単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,1-クロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから選択される少なくとも1種のモノマーから得られる単位とを含み、並びにより好ましくは、フルオロポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロペン)、ポリ(フッ化ビニリデン-co-トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ter-トリフルオロエチレン-ter-クロロトリフルオロエチレン)、及びポリ(フッ化ビニリデン-ter-トリフルオロエチレン-ter-1,1-クロロフルオロエチレン)から選択される。
【0044】
好ましくは、熱可塑性ポリマー又はコポリマーは、10%~90%の間、好ましくは20%~70%の間の結晶化度を有する半結晶性である。
【0045】
一実施形態によれば、これらの熱可塑性ポリマーは、圧電特性、強誘電特性、焦電特性又はリラクサー強誘電特性を有することを特徴とする。
【0046】
一実施形態によれば、そのようなポリマーはP(VDF-TrFE)コポリマーであり、構造単位のVDF/TrFEモル比は9~0.1の間、好ましくは4~1の間である。
【0047】
コポリマーの好ましい例は、式P(VDF-TrFE)の、80/20モル組成を有し、1kHzの周波数及び室温で測定して9~12程度の相対誘電率を有するものである。
【0048】
別の実施形態によれば、そのようなポリマーは、VDFのモル含有量が40%~95%の範囲であり、TrFEのモル含有量が5%~60%の範囲であり、CTFEのモル含有量が0.5%~20%の範囲であるP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーである。
【0049】
ターポリマーの好ましい例は、65/31/4のモル組成を有し、融点(m.p.)が130℃であり、相対誘電率が50℃及び1kHzにおいて60に等しいものである。
【0050】
固体ポリマー電解質組成物に含まれる熱可塑性ポリマーは、多孔質フィルムの形態で調製される。いくつかの技術によりこれを行うことが可能であるが、本出願人は溶媒/非溶媒経路を支持した。
【0051】
本発明の多孔質フィルムの製造は、以下の工程を含む:
-熱可塑性ポリマーと、相互に混和性である前記ポリマーに対する溶媒及び前記ポリマーに対する非溶媒を含むビヒクルとを含むインクを提供すること;
-基材上に前記インクを堆積すること;
-前記溶媒及び前記非溶媒を含む前記ビヒクルを蒸発させること。
【0052】
これらの最後の2つの工程は、固体フィルムが形成されるまで、室温又は室温に近い温度で行われる。堆積又はコーティング方法は、好ましくは、遠心(スピンコーティング)、噴霧又は霧化(スプレーコーティング)、特にバー又はフィルムスプレッダによるコーティング(バーコーティング)、スロットダイでのコーティング(スロットダイコーティング)、浸漬(ディップコーティング)、ロール印刷(ロールツーロール印刷)、スクリーン印刷、フレキソ印刷、平版印刷又はインクジェット印刷によって行われるコーティングである。
【0053】
非溶媒は、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0054】
溶媒は、ケトン、エステル、特に環状エステル、ジメチルスルホキシド、リン酸エステル、例えばリン酸トリエチル、カーボネート、エーテル、例えばテトラヒドロフラン、及びそれらの混合物からなる群から選択され、溶媒は、好ましくは酢酸エチル、メチルエチルケトン、γ-ブチロラクトン、リン酸トリエチル、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0055】
一実施形態では、溶媒はγ-ブチロラクトンであり、非溶媒はベンジルアルコールであるか、又は溶媒は酢酸エチルであり、非溶媒はベンジルアルコールであるか、又は溶媒はメチルエチルケトンであり、非溶媒はベンジルアルコールである。
【0056】
このようにして得られる多孔質フィルムは、0.1~10μm、好ましくは0.2~5μm、より好ましくは0.3~4μmの平均直径を有する細孔を含む。平均細孔径は、走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0057】
前記多孔質膜の実際の調製のための操作に関して、上記のアプローチは、インクの調製、その堆積及びその乾燥のみを含み、その後、多孔質膜が作製される。この方法は、電子用途のための膜の性能品質を低下させ得る化合物である水からの沈殿を必要としないという利点を有する。
【0058】
イオン伝導性オリゴマー
本発明による固体ポリマー電解質は、熱可塑性ポリマーのフィルムに含浸させるオリゴマーを含む。
【0059】
オリゴマー又はオリゴマー分子は、モノマーとポリマーとの間の中間化合物であり、その構造は本質的に小さな複数のモノマー単位を含む。オリゴマーは、一般に、5~100の範囲の数のモノマー単位及び/又は5000g/mol以下の数平均分子質量を有する。モノマー単位の数は、通常、50未満であり、又は30でさえある。数平均分子質量は、特に、4000g/mol、又は3000g/mol、又はさらには2000g/mol未満であり得る。
【0060】
このオリゴマーはイオン伝導体であり、すなわち、有利にはLi塩の存在下で25℃において少なくとも0.1mS/cmのイオン伝導度を有する。これは、必然的に純粋な液体形態であるか、又は溶媒に溶解されなければならない。一実施形態によれば、イオン伝導性オリゴマーは、熱可塑性ポリマーに対する親和性を有する機能を有する。一実施形態によれば、オリゴマーは、有利には基-CR-Oを含み、式中、Rは:H、アルキル、アリール又はアルケニルであり、好ましい基はHのものである。
【0061】
一実施形態によれば、オリゴマーは、ポリエチレングリコール(PEG)タイプの少なくとも1種の基を有する。これらのオリゴマーの中でも、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートが有利である。これらの製品のうちの1つ、Sartomer製のSR 550を以下に示す:
【0062】
【化1】
【0063】
固体ポリマー電解質
固体ポリマー電解質は、25℃において少なくとも0.1mS/cmの十分なイオン伝導度を有する。
【0064】
熱可塑性ポリマーのフィルム及びオリゴマーに加えて、固体ポリマー電解質は1種以上のリチウム塩を含有する。
【0065】
本技術がリチウム系技術である場合、オリゴマーに溶解する電解質塩は、以下:六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO);六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF);四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF);リチウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール-1-イド(LiTDI);リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI);リチウムN-フルオロスルホニル-トリフルオロメタンスルホニルアミド(Li-FTFSI);リチウムトリス(フルオロスルホニル)メチド(Li-FSM);リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI);リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB);リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB);リチウム3-ポリスルフィドスルホラン(LiDMDO)、又はそれらの混合物の、1種以上から選択される。
【0066】
本発明による固体ポリマー電解質において、固体ポリマー電解質の総重量に基づいて、熱可塑性ポリマーは、10%~90%、好ましくは20%~80%の範囲の量で存在し、オリゴマーは、90%~10%、好ましくは80%~20%の範囲の量で存在する。
【0067】
本発明はまた、リチウム塩を伝導性オリゴマーに溶解し、次いで熱可塑性ポリマーのフィルムにこの溶液を含浸させることからなることを特徴とする、ポリマー電解質を製造する方法に関する。
【0068】
熱可塑性ポリマーは架橋されていても又は架橋されていなくてもよい。架橋の場合、これは、フリーラジカル発生剤などの架橋剤を使用して熱的に行われ、その中では、アゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)又は過酸化物、例えば、Luperox(登録商標)26を挙げることができる。
【0069】
本発明はまた、上述の固体ポリマー電解質を含むことを特徴とする、リチウムポリマー電池用のセパレータに関する。
【0070】
一実施形態によれば、セパレータにおいて、固体ポリマー電解質は、セルロース、ポリオレフィン又はポリアクリロニトリルなどの多孔質支持体上に堆積される。その厚さは、4~50ミクロンの間、優先的には7~35ミクロンの間、さらにより優先的には10~20ミクロンの間である。
【0071】
一実施形態によれば、セパレータはまた、最大50質量%の無機粒子を含んでもよい。
【0072】
一実施形態によれば、これらの粒子は、導電性セラミック、例えば、硫黄系セラミックLiS-P(LiSとPとのモル比が1~3の間)及びその誘導体、Al、Ga、Ge又はBaがドープされていてもよいラクナ型Li3xLa2/3-xTiOの(通常型AIIIVの)ペロブスカイト、Ta、W、Al又はTiがドープされていてもよいLiLaZr12型のガーネット、Ti、Ge、Al、P、Ga又はSiがドープされていてもよいNASICON型LiGe(PO又はLiTi(POのセラミック、及びOH又はBaがドープされていてもよいLiOCl又はNaOCl型のアンチペロブスカイトから選択される。
【0073】
一実施形態によれば、これらの粒子は、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びそれらの混合物など、室温で本質的に非導電性又は本質的に非常に難導電性であるフィラーから選択される。
【0074】
一実施形態によれば、これらの粒子は、バリウム、ストロンチウム及びチタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ジルコニウム及びチタン酸鉛、並びにそれらの混合物などの、2000超の比誘電率を有するフィラーから選択される。
【0075】
セパレータは、伝導性鎖の移動を促進する薬剤などの他の添加剤、特にスクシノニトリルを含有してもよい。
【0076】
本発明の別の主題は、リチウム金属からなるアノードとカソードとの間に配置された、上述の固体ポリマー電解質に基づくセパレータを含むリチウムポリマー電池である。
【0077】
別の態様によれば、本発明は、層のスタックを含み、前記スタックが、優先的にリチウム金属からなるアノード、カソード及びセパレータを含むリチウム電池に関する。
【0078】
カソードは下記のもので構成される:
-35質量%~98質量%の間の電気化学的活性材料。より具体的には、電気化学的活性材料は、限定するものではないが、以下の材料の少なくとも1つから選択される:リチウム化リン酸鉄(LFP);リチウム化ニッケルマンガンコバルト(NMC)酸化物;リチウム化ニッケルコバルトアルミニウム(NCA)酸化物;リチウム化酸化マンガン(LMO);リチウム化ニッケルマンガン(LM)酸化物;リチウム化コバルト酸化物(LCO)、硫黄;又はそれらの混合物。電子伝導を改善するために、リン酸鉄又はリン酸マンガンなどの難伝導性材料を炭素の層で被覆してもよい;
-0.15質量%~25質量%の間の、以下の炭素系フィラーの少なくとも1つから選択される伝導性添加剤:カーボンブラック;シングルウォール又はマルチウォールカーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;グラファイト;グラフェン;フラーレン;又はその混合物;
-20質量%~60質量%の間のポリマー電解質;
-任意選択で、0~5質量%の間の、以下の結合剤の少なくとも1つから選択される、粒子を一緒に結合し、機械的強度及び集電体への接着性を改善するポリマー:ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)並びにその誘導体及びコポリマー;カルボキシメチルセルロース(CMC);スチレンブタジエンゴム(SBR);ポリ(エチレンオキシド)(PEO);ポリ(プロピレンオキシド)(PPO);ポリグリコール;又はそれらの混合物。
【0079】
このようなカソードの集電体は、アルミニウム、炭素被覆アルミニウム又は炭素から作製される。
【0080】
アノードは下記のもので構成される:
-リチウム金属、グラファイト、リチウム化酸化チタン(LTO)、ケイ素、ケイ素-炭素複合材、又はグラフェンで処理されていてもよい電気化学的活性材料。電子伝導を改善するために、活性材料を炭素で被覆してもよい;
-0.15質量%~25質量%の間で存在する、以下の炭素系フィラーの少なくとも1つから選択される伝導性添加剤:カーボンブラック;シングルウォール又はマルチウォールカーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;グラファイト;グラフェン;フラーレン;又はその混合物;
-15質量%~60質量%の間のポリマー電解質。
【0081】
そのようなアノードの集電体は、銅、炭素又はニッケルで作られているが、Li金属技術では、Li箔はそれ自体の集電体であることが想定される。
【0082】
アノード及び/又はカソードの構成に含まれる伝導性添加剤は、炭素系フィラーから選択することができる。本発明によれば、「炭素系フィラー」という用語は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン及びカーボンブラック、又は任意の割合のそれらの混合物から形成された群からの元素を含むフィラーを意味する。本発明によれば、「グラフェン」という用語は、平坦で分離された別個のグラファイトシートを意味するが、拡大解釈すれば、1~数十枚の間のシートを含み、平坦又は多少波状の構造を有する集合体も意味する。したがって、この定義は、FLG(数層グラフェン(Few Layer Graphene))、NGP(ナノサイズ化グラフェンプレート(Nanosized Graphene Plate))、CNS(カーボンナノシート(Carbon NanoSheets))及びGNR(グラフェンナノリボン(Graphene NanoRibbons))を包含する。他方、それぞれ、1つ以上のグラフェンシートの同軸的な巻き上げ、及びこれらのシートの乱層積層で構成されるカーボンナノチューブ及びナノファイバー、並びに数十枚を超えるシートを含む集合体で構成されるグラファイトは除外される。
【0083】
好ましくは、炭素系フィラーは、カーボンナノチューブ単独又はグラフェンとの混合物である。
【0084】
カーボンナノチューブ(CNT)は、シングルウォールタイプ(SWCNT)、ダブルウォールタイプ又はマルチウォールタイプ(MWCNT)のものであってよい。ダブルウォールナノチューブは、特に、Flahaut,E.et al,“Gram-scale CCVD synthesis of double-walled carbon nanotubes.”(2003)Chemical Communications(No.12)pages 1442-1443に記載されているように調製することができる。マルチウォールナノチューブは、その一部として、WO03/02456に記載されているように調製することができる。ナノチューブは、通常、0.1~100nm、好ましくは0.4~50nm、さらに良好には1~30nm、又はさらには10~15nmの範囲の平均直径を有し、有利には0.1~10μmの長さを有する。それらの長さ/直径比は、好ましくは10より大きく、通常は100より大きい。それらの比表面積は、例えば、100~300m/gの間、有利には200~300m/gの間であり、それらの見かけ密度は、特に0.05~0.5g/cmの間、より優先的には0.1~0.2g/cmの間であり得る。マルチウォールナノチューブは、例えば、5~20枚のシート(又はウォール)、より優先的には7~10枚のシートを含み得る。
【0085】
未加工カーボンナノチューブの一例は、Arkema社からGraphistrength(登録商標)C100の商品名で特に市販されている。又は、これらのナノチューブを、精製及び/又は処理(例えば、酸化)及び/又は粉砕及び/又は官能化して、その後、本発明による方法で使用してもよい。未処理又は粉砕ナノチューブは、それらを残留鉱物及び金属不純物から遊離させるために、硫酸溶液を用いて洗浄することによって精製することができる。精製は、不活性雰囲気下で、高温(2200℃超)における熱処理によって行ってもよい。ナノチューブの酸化は、有利には、ナノチューブを次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることによって、又は600~700℃の温度で大気酸素に曝露することによって行われる。ナノチューブの官能化は、ビニルモノマーなどの反応性単位をナノチューブの表面にグラフトすることによって実施することができる。
【0086】
使用されるグラフェンは、化学蒸着又はCVDによって、好ましくは混合酸化物に基づく粉末触媒を使用する方法に従って得ることができる。これは、50nm未満、好ましくは15nm未満、より優先的には5nm未満の厚さを有し、10~1000nm、優先的には50~600nm、より優先的には100~400nmのミクロン未満の横方向寸法を有する粒子の形態であることを特徴とする。これらの粒子の各々は、一般に、1~50枚、好ましくは1~20枚、より好ましくは1~10枚のシートを含む。グラフェンを調製するための様々な方法が文献で提案されており、これは、機械的剥離及び化学的剥離として知られている方法を含み、それぞれ、接着テープ(Geim A.K.,Science,306:666,2004)を用いて、又は硝酸と組み合わせた硫酸などの試薬を使用し、グラファイトシートの間にインターカレートし、グラファイトシートを酸化して、超音波の存在下で水中で容易に剥離することができる酸化グラファイトを形成することによって、グラファイトシートを連続した層で剥離することからなる。別の剥離技術は、分散液中のグラファイトを界面活性剤の存在下で超音波に供することからなる(US7824651)。グラフェン粒子は、長手方向軸に沿ってカーボンナノチューブを切断することによっても得ることができる(“Micro-Wave Synthesis of Large Few-Layer Graphene Sheets in Aqueous Solution of Ammonia”,Janowska,I.et al.,NanoResearch,2009 or “Narrow Graphene Nanoribbons from Carbon Nanotubes”,Jiao L.et al.,Nature,458:877-880,2009)。グラフェンを調製するさらに別の方法は、真空下での炭化ケイ素の高温分解からなる。最後に、一部の著者は、任意選択で無線周波数発生器(RF-CVD)と組み合わせた化学蒸着(CVD)によってグラフェンを合成する方法を記載している(Dervishi et al.,J.Mater.Sci.,47:1910-1919,2012)。
【0087】
フラーレンは、球体、楕円体、チューブ(ナノチューブとして公知)又は環状の幾何学的形状に似た幾何学的形状をとることができる、炭素のみで構成された、又は実質的に炭素のみで構成された分子である。フラーレンは、例えば、60個の炭素原子から形成された球状の化合物であるC60フラーレン、C70、化学構造が修飾されて可溶性になったフラーレン誘導体である式メチル[6,6]-フェニル-C61-ブチレートのPCBM、式メチル[6,6]-フェニル-C71-ブチレートのPC 71-BMから選択することができる。
【0088】
カーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブと同様に、遷移金属(Fe、Ni、Co、Cu)を含む触媒で水素の存在下、500℃~1200℃の温度で分解される炭素系源から出発する化学蒸着(又はCVD)によって製造されるナノフィラメントである。カーボンナノファイバーは、多かれ少なかれ組織化されたグラファイト領域(又は乱層状スタック)から構成され、その平面は、繊維の軸に対して可変の角度で傾斜している。これらのスタックは、一般に100nm~500nm又はそれ以上の範囲の直径を有する構造を形成するために、プレートレット、フィッシュボーン又は積層皿の形態をとることができる。本発明による方法では、直径100~200nm、例えば約150nm(昭和電工製のVGCF(登録商標))、有利には長さ100~200μmのカーボンナノファイバーが好ましい。
【0089】
さらに、使用することができる炭素系フィラーは、カーボンブラックであり、これは、重質石油生成物の不完全燃焼によって工業的に製造されるコロイド状炭素系材料であり、炭素球及びこれらの球の凝集体の形態であり、その寸法は一般に10~1000nmの間である。
【0090】
非常に有利には、これらの伝導性添加剤は、0.25質量%~25質量%の間の含有量で各電極の組成物に添加される。
【実施例
【0091】
以下の実施例は、本発明を限定することなく例示する。
【0092】
[実施例1]
p(VDF-TrFE)コポリマーのフィルムを、10gのPiezotech製FC20コポリマーを75gのγ-ブチロラクトン及び15gのベンジルアルコールからなる溶媒混合物に溶解することによって調製し、次いでスライドガラス上に堆積させ、得られた4cm×2cmのフィルム、すなわち0.0664gを乾燥させる。次いで、このフィルムに、23.1mgのLiTFSIが予め溶解された0.097gのSR550をグローブボックス内で含浸させる。この量は、EO/Li=13に相当する。
【0093】
30秒未満で、SR550は孔隙内に吸収される。次いで、フィルムを50℃のオーブン中に一晩放置する。
【0094】
[実施例2]
実施例1の操作を、比EO/Li=17について繰り返す。
【0095】
[実施例3]
実施例1の操作を、比EO/Li=25について繰り返す。
【0096】
[実施例4]
イオン伝導度を、電気化学インピーダンス分光法により決定する。材料を、漏れ防止セル内側の2つのステンレス鋼電極(実測厚さは100μm程度)の間に配置する。フィルムの調製及びセルの組み立ては、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行う。サンプルとステンレス電極との良好な接触を確保するために、セルを80℃で1時間維持する。実際の測定は、EIS Bio-Logic VMP 3ポテンショスタット/ガルバノスタットを1Hz~1MHzの間で500mVの振幅で使用して行う。
【0097】
3つの実施例について見出された値を以下の表1に報告する。この値はEO/Li比にほとんど依存せず、これは工業的外挿に関する利点であることが分かる。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例5]
電気化学的安定性は、電解質が電気化学的分解に耐える能力を表す。電気化学的安定性測定を、実施例2に従って調製されたコポリマーのフィルムのサンプル上の2.01cmの面積でSUS 316 Lステンレス鋼を作業面として使用して、CR 2032型ボタン電池(2つの電極)において60℃で実施した。
【0100】
使用する電気化学的方法は、1mV/sの掃引速度で行われる低速サイクリックボルタンメトリーである。この方法は、酸化電流を電圧の関数として示しており、電流が0に近づくたびに、ポリマー電解質の動作電圧は安定している。電気化学的安定性は4.5Vに等しい。曲線I=f(V)は0Vまで完全に平坦である。
【国際調査報告】