(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-25
(54)【発明の名称】グラフェン積層構造
(51)【国際特許分類】
C01B 32/194 20170101AFI20220118BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220118BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20220118BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220118BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20220118BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C01B32/194
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B7/12
B32B27/06
H05K9/00 W
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531494
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 US2019063869
(87)【国際公開番号】W WO2020113176
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509270225
【氏名又は名称】ザ・リサーチ・ファウンデーション・フォー・ザ・ステート・ユニヴァーシティー・オブ・ニュー・ヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】マシュー エイサマン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン フォークソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ アンドレード
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
5E321
【Fターム(参考)】
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5E321GG05
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(57)【要約】
提供されるのは、グラフェン積層組成物及びアーキテクチャを形成する方法である。方法は、(i)1つ以上の平面グラフェンシートを含むグラフェン構造を第1の中間層材料と接触させることと、(ii)導電材料を堆積させることであって、導電材料は、グラフェンの縁及び第1の中間層の一端に沿って堆積される、堆積させることと、(iii)グラフェン構造を第2の中間層材料と接触させることと、を含む。また、提供されるのは、改善された機械強度、電気移動度、及び光透過性を有するドープされたグラフェン膜を含むグラフェン積層体構造である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層体を形成する方法であって、
(i)1つ以上の平面グラフェンシートを含むグラフェン構造を第1の中間層材料と接触させることと、
(ii)導電材料を堆積させることであって、前記導電材料は、前記グラフェンの縁及び前記第1の中間層の一端に沿って堆積される、前記堆積させることと、
(iii)前記グラフェン構造を第2の中間層材料と接触させることと、
を備えた、前記方法。
【請求項2】
前記グラフェン構造と前記第1の中間層材料及び前記第2の中間層材料のうちの少なくとも1つとの間に液体接着剤溶液を更に備えた、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体接着剤溶液は、熱により硬化される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上のグラフェンの層の間に1つ以上のスペーサ層を更に備えた、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記中間層は、1つ以上のポリマを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマは、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマから構成されたグループから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンから構成されたグループから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記液体接着剤溶液は、溶剤及びポリマを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマは、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマから構成されたグループから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンから構成されたグループから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記中間層の一方または両方は、アルカリ金属塩を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩内の陽イオンは、Na、Cs、Li、K、及びRbから構成されたグループから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属塩内の陰イオンは、過塩素酸塩、沃化物、及び炭酸塩から構成されたグループから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記グラフェンシートは、アルカリ金属イオンによりインターカレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記グラフェン構造は、1~50個の平面グラフェンシートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ以上の平面グラフェンシートは、個々に前記中間層材料に塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ以上の平面グラフェンシートは、多層グラフェンの成長として前記中間層に塗布され、前記多層グラフェンは、1~50個の平面グラフェンシートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(ii)及び(iii)は両方とも1~5回直列に繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記グラフェンシート及び前記アルカリ金属イオンから形成された化合物は、LiC
72、LiC
36、LiC
18、LiC
12、及び/またはLiC
6から構成されたグループから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記導電材料は、金属テープまたは接着テープから構成されたグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記金属は、銅、銀、またはアルミニウムから構成されたグループから選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
導電材料の前記堆積は、物理気相成長、熱蒸着、スパッタリング、及びプレーティングから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記液体接着剤は、130℃~160℃の範囲にある最終温度に硬化される、請求項3に記載の方法。
【請求項24】
前記最終温度は、約5分~約4時間の間に保持される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
EMIシールディングをもたらすグラフェン積層体であって、
第1の中間層と第2の中間層との間の1つ以上のグラフェンの層と、
前記グラフェンの縁及び前記中間層の一端に沿った導電材料と、
を備えた、前記グラフェン積層体。
【請求項26】
前記グラフェン構造と前記第1の中間層の材料及び前記第2の中間層の材料のうちの少なくとも1つとの間に液体接着剤溶液を更に備えた、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項27】
前記液体接着剤溶液は、熱により硬化される、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項28】
1つ以上のグラフェンの層の間に1つ以上のスペーサ層を更に備えた、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項29】
前記中間層は、1つ以上のポリマから成っている、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項30】
前記ポリマは、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマから構成されたグループから選択される、請求項29に記載のグラフェン積層体。
【請求項31】
前記ポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンから構成されたグループから選択される、請求項30に記載のグラフェン積層体。
【請求項32】
前記接着剤容液は、溶剤及びポリマを含む液体溶液である、請求項26に記載のグラフェン積層体。
【請求項33】
前記ポリマは、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマから構成されたグループから選択される、請求項32に記載のグラフェン積層体。
【請求項34】
前記ポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンから構成されたグループから選択される、請求項33に記載のグラフェン積層体。
【請求項35】
前記第1の中間層は、アルカリ金属塩を更に含む、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項36】
前記アルカリ金属塩内の陽イオンは、Na、Cs、Li、K、Rbから構成されたグループから選択される、請求項35に記載のグラフェン積層体。
【請求項37】
前記アルカリ金属塩内の陰イオンは、過塩素酸塩、沃化物、及び炭酸塩から構成されたグループから選択される、請求項35に記載のグラフェン積層体。
【請求項38】
前記グラフェンシートは、アルカリ金属イオンによりインターカレートされる、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項39】
前記グラフェン構造は、アルカリ金属イオンによりインターカレートされた1~50個の平面グラフェンシートを含む、請求項38に記載のグラフェン積層体。
【請求項40】
前記グラフェンシート及び前記アルカリ金属イオンから形成された化合物は、LiC
72、LiC
36、LiC
18、LiC
12、及び/またはLiC
6などから構成されたグループから選択される、請求項39に記載のグラフェン積層体。
【請求項41】
前記導電材料は、金属テープまたは接着テープから構成されたグループから選択される、請求項25に記載のグラフェン積層体。
【請求項42】
前記金属は、銅、銀、またはアルミニウムから構成されたグループから選択される、請求項41に記載のグラフェン積層体。
【請求項43】
EMIシールディング、並びに耐衝撃性、耐爆性、及び耐弾性のうちの少なくとも1つ以上をもたらす積層されたガラスパネルであって、前記積層されたガラスパネルは、請求項25に記載のグラフェン積層体の1つ以上のシートの間で結合された2つ以上のガラス片を含む、前記積層されたガラスパネル。
【請求項44】
EMIシールディング、並びに耐衝撃性、耐爆性、及び耐弾性のうちの少なくとも1つ以上をもたらす積層されたガラスパネルであって、前記積層されたガラスパネルは、請求項25に記載のグラフェン積層体の1つ以上のシートの間で結合された2つ以上のガラス片及びポリカーボネート片を含む、前記積層されたガラスパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改善された機械強度、電気移動度、及び光透過性を有するグラフェン積層組成物及びアーキテクチャ、並びにグラフェン積層組成物及びアーキテクチャを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の用途は、光学的に透過であり(視覚的な明瞭さのために)、強度が高く(保護、セキュリティ、及び長寿命のために)、並びに導電性である(電磁気干渉の減少、すなわち、EMIシールディングのために)積層窓材料を必要とする。例えば、軍事用途及びセキュリティ用途は、耐弾及び耐爆の両方であり、電磁気放射の透過を遮断する、光学的に透過な窓を必要とすることが多い。EMIシールディングの能力を有する窓は典型的には、透過基板(それらに限定されないが、ガラス積層体、アクリル積層体、及びガラスポリマ積層体を含む)上の導電金属もしくは導電材料(それらに限定されないが、銅または銀を含む)または透過基板に組み込まれた導電金属もしくは導電材料の薄膜または格子から成る。
【0003】
EMIシールディング膜は、シールディング効果と光透過性との間の固有のトレードオフを有する。所与の材料に対し、材料をより厚くすることによって、シールディング効果を増大させることができるが、光透過性を減少させる。最新技術に対して、所与のシールディング効果のためのより高い光透過性を得る新たな材料が望まれる。
【0004】
積層ガラスアーキテクチャ(例えば、耐弾ガラス及び/または耐爆ガラス)は、同様のトレードオフの影響を受け、より厚みのあるガラスの層もしくはより厚みのあるプラスチックの層、または追加のガラスの層もしくは追加のプラスチックの層を追加することによって、防弾性及び防爆性を改善することができるが、光透過性及び物理的重量を減少させる。標準的なアーキテクチャに組み込まれるとき、同一の保護のためのより高い光透過性を得る新たな材料が望まれる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、例えば、積層窓に組み込まれるとき、EMIシールディングをもたらすグラフェン積層構造を形成する方法を提供することである。別の目的は、EMIシールディングをもたらすグラフェン積層体及び積層された窓パネルを提供することである。別の態様では、発明は、EMIシールディング、並びに耐衝撃性、耐爆性、及び耐弾性のうちの少なくとも1つ以上をもたらす、積層された窓パネルを提供する。
【0006】
発明は、グラフェン積層体を生成する方法を提供し、方法は、(i)1つ以上の平面グラフェンシートを含むグラフェン構造を第1の中間層材料と接触させることと、(ii)導電材料を堆積させることであって、導電材料は、グラフェンの縁及び第1の中間層の一端に沿って堆積される、堆積させることと、(iii)グラフェン構造を第2の中間層材料と接触させることと、を含む。
【0007】
発明は、第1の中間層と第2の中間層との間の1つ以上のグラフェンの層と、グラフェンの縁及び中間層の一端に沿った導電材料と、を含むグラフェン積層構造を更に提供する。グラフェン積層構造は、EMIシールディングをもたらし、好ましくは、耐衝撃性、耐爆性、及び耐弾性のうちの少なくとも1つ以上をもたらすよう、積層窓構造に組み込まれる。
【0008】
図面の以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の更なる特徴及び利点と共に、本発明のより完全な理解が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】2A~2Dは、導電接地材料についての例示的な空間的な実施形態の表示である。
【
図4】代替的な積層されたガラスパネルの概略図である。
【
図5】追加の代替的な積層されたガラスパネルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で提供されるのは、改善された機械強度、電気移動度、及び光透過性を有する、ドープされたグラフェン膜を含むグラフェン積層構造である。更に提供されるのは、ドープされたグラフェン膜を含むグラフェン積層体を形成する方法である。
【0011】
また、提供されるのは、第1の中間層と第2の中間層との間に挿入された1つ以上のグラフェンの層と、グラフェン層の少なくとも1つの縁に沿った導電材料と、を含むグラフェン積層構造である。
【0012】
また、提供されるのは、第1の中間層と第2の中間層との間に挿入された1つ以上のグラフェンの層と、グラフェン層の少なくとも1つの縁に沿った導電材料と、第1の中間層及び/または第2の中間層に隣接した1つ以上のガラスパネルまたは1つ以上のポリカーボネートパネルと、を含む積層窓である。
【0013】
グラフェン膜は、機械強度、電気移動度、及び光透過性(全ての視認可能な波長にわたって層ごとに2.3%の吸収率)を1つの材料に組み込む。ポリマの強度を増大させるためにグラフェン膜が示されてきた。しかしながら、グラフェンが高性能のEMIシールディング材料の役割を果たすために、膜の平面に十分に高い導電性(グラフェン移動度及びキャリア濃度の積と比例した)を有する必要がある。移動度に関して、グラフェンに対して引き合いに出されることが多い極端に高い移動度の値は、基板と接触しているのではなく、それがサスペンドされることを条件とする。基板と接触しているときに高い値の移動度を達成することは、移動度の値を減少させることがある基板の相互作用を通じたグラフェンの電荷キャリアの分散に対する制御を伴う。キャリア濃度に関して、本来の(ドープされていない)グラフェンは、低いキャリア濃度を有する。高性能としての役割を果たす、十分に高いキャリア濃度を達成するために、グラフェンをドープすることによって(電荷キャリアとしての役割を果たすよう電子をドネートし、または正孔が電荷キャリアとしての役割を果たすように電子をボローする)EMIシールディングを改善することができる。層ごとに2.3%の光透過度を変えることなく、十分に高い値のキャリア濃度にグラフェンをドープすることができ、よって、強度の高いEMIシールディングをもたらす高度に光学的に透過なグラフェン膜の可能性を広くする。非常に強くドープされた、多層グラフェンを有するアルカリ金属の層間化合物(LiC6など)も形成することができ、電子による伝導帯状態の占有に起因して、光吸収度が層ごとに2.3%を下回って著しく減少する。
【0014】
本明細書で使用される用語「グラフェン」は、相互に共有結合された複数の炭素原子から形成された多環芳香族分子を指す。共有結合された炭素原子は、反復単位として6員環を形成してもよく、または5員環及び7員環のうちの少なくとも1つを更に含んでもよい。したがって、グラフェン内で、共有結合された炭素原子(概して、sp2交配を有する)は、単層を形成する。グラフェンは、グラフェンに包含することができる5員環及び/または7員環の数に従って決定される様々な構造を有してもよい。グラフェンは、単層(単層グラフェン)または多層(多層グラフェン、数層グラフェンとも称されることがある)を有してもよい。多層グラフェン内のグラフェン層は各々、約340pmを占有し、よって、多層グラフェン(1~50個の層)は、約0.3nm~約170nmの厚みを有してもよく、または、他の態様では、約1nm~約30nmの厚みを有してもよい。それらの層の間隔は、インターカレートされていない多層グラフェンに対してLiC6について約10%(層ごとに340pm~370pm)だけ増大する。
【0015】
本明細書で使用されるように、用語「ドープする」は、共役化合物、例えば、グラフェンなどの多環芳香族炭素化合物に導電性をもたらすよう、共役結合π軌道の一部に電子を供給し、または共役結合π軌道の一部から電子を除去することによって、電荷キャリアを提供する工程を指す。ここで、電子を付加し、または電子を除去する工程は「ドープする」と称される。
【0016】
本明細書で使用される用語「ドーパント」は、有機ドーパント、無機ドーパント、または上述したものの少なくとも1つを含む組み合わせを指す。
【0017】
図1は、例えば、(i)第1の中間層材料に隣接した1つ以上の平面グラフェンシートを含むグラフェン構造と、(ii)グラフェンの縁及び第1の中間層の一端に沿った導電材料と、(iii)第2の中間層材料と、を含む例示的なグラフェン積層構造の表示を提供する。
【0018】
図1のグラフェン積層構造は、例えば、(i)1つ以上の平面グラフェンシートを含むグラフェン構造を第1の中間層材料と接触させ、(ii)導電材料を堆積させ、導電材料は、グラフェンの縁及び第1の中間層の一端に沿って堆積され、(iii)グラフェン構造を第2の中間層材料と接触させる、ことによって形成されてもよい。実施形態では、ステップ(ii)及び(iii)は、1~5回直列に繰り返されてもよい。
【0019】
例示的な実施形態に従って、グラフェン積層体は、第1の中間層102、グラフェン構造104、第2の中間層106、導電材料108、及び任意選択で導電タブ110を含む。
【0020】
第1の中間層材料及び第2の中間層材料は、同一の材料または異なる材料であってもよい。中間層は、ポリマ、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマから成ることが好ましい。好ましいポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンを含む。
【0021】
一態様では、中間層のうちの1つ以上は、隣接したグラフェンの導電性を増大させるドーパントを更に含む。中間層内のドーパントは、隣接したグラフェン層内の電荷キャリアの濃度を増大させる役割を果たす。更なる実施形態では、ドーパントは、アルカリ金属塩であってもよい。塩のアルカリ金属は、Na、Cs、Li、K、及びRbから選択されてもよい。更なる態様では、アルカリ金属塩内の陰イオンは、過塩素酸塩、沃化物、及び炭酸塩であってもよい。一態様では、アルカリ金属塩は、MClO4またはMIであり、Mは、Li、Na、またはKであってもよい。アルカリ金属の濃度は、約2重量%~約45重量%(w/w)の範囲にある。実施形態では、アルカリ金属イオンは、MC72、MC36、MC18、MC12、及び/またはMC6(すなわち、LiC72、LiC36、LiC18、LiC12、及び/またはLiC6)を形成するよう、多層グラフェンの層の間でインターカレートする。
【0022】
別の態様では、アルカリ金属ドーパントは、グラフェン積層構造へのその組み込みの前に、グラフェン構造104にインターカレートされる。アルカリ金属ドーパントは、Na、Cs、Li、K、及びRbであってもよいと共に、Li、Na、及びKであることが好ましい。グラフェンは、例えば、グラフェンを適切な電解質溶液と接触させることによって、アルカリ金属ドーパントによりドープされてもよい。アルカリ金属への対イオンは、グラフェン構造の成形加工及び使用の条件の下に非反応であり、且つ安定しているいずれかの陰イオンであってもよい。好ましい対イオンは、ClO4
-及びPF6
-を含む。電解質溶液は、アルカリ金属塩についての溶剤を更に含む。好ましい溶剤は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、及びそれらの混合物を含む。アルカリ金属塩は、0.5M~2Mの濃度、またはMC72、MC36、MC18、MC12、及び/もしくはMC6(すなわち、LiC72、LiC36、LiC18、LiC12、及び/もしくはLiC6)、好ましくはMC6を形成するのに十分な濃度にある電解質溶液に存在してもよい。電解質溶液は、電解質溶液内で高濃度のアルカリ金属を維持する、金属箔などの金属源と更に接触していてもよい。一実施形態では、多層グラフェンは、1:1wtの比率のEC/DEC(炭酸エチレン及び炭酸ジエチルにあるヘキサフルオロリン酸リチウム溶液)内で1M~1.2MのLiPF6と接触していると共に、電解質は、Li金属箔と接触している。アルカリ金属イオンは、多層グラフェンにインターカレートされる(例えば、LiC72、LiC36、LiC18、LiC12、及び/またはLiC6を形成する)。インターカレートされたグラフェンは次いで、本明細書で提供されるような積層構造を形成するために使用される。このケースでは、中間層は好ましくは、追加のアルカリ金属イオンを含まない。
【0023】
実施形態では、グラフェン構造104と第1の中間層102及び第2の中間層106のうちの少なくとも1つとの間に液体接着剤溶液が塗布される。液体接着剤は好ましくは、溶剤及び1つ以上のポリマを含む。ポリマは、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリクロロエチレン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリチオ尿素、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PTFE、ポリ酢酸エチル、ポリ酢酸ビニル、及びフッ素ポリマを含む。好ましいポリマは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、熱硬化性エチレン酢酸ビニル、ポリカーボネート、及びポリエチレンを含む。好ましい溶剤は、水、クロロベンゼン、アセトン、メタノール、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ヘキサン、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、クロロホルム、酢酸、2-メトキシエタノール、n-ブチルアミン、またはそれらの組み合わせを含む。液体接着剤溶液は、熱により硬化されてもよい。実施形態では、液体接着剤溶液は、約130℃~約160℃の範囲にある最終温度に硬化され、最終温度は、約5分~約4時間の間に保持されてもよい。接着剤は、上記説明されたように、隣接したグラフェンの導電性を増大させるドーパントを更に含んでもよい。
【0024】
実施形態では、グラフェン積層体は、グラフェン層のうちの1つ以上の間に1つ以上のスペーサ層を含んでもよい。
【0025】
グラフェン構造104は、化学気相成長(CVD)によって作成されてもよい。この工程では、グラフェンは、適切な温度(~1000C~1100C)及び圧力(~1mTorr10Torr)において、一般的には水素と混合されたメタンなどの炭化水素前駆物質の分解を通じて触媒金属基板上で形成される。(G.Deokar et al.,Towards high quality CVD graphene growth and transfer,Carbon,89,82-92(2015);N.C.Bartelt and K.F.McCarty,Graphene growth on metal surfaces,MRS Bulletin,37,1158-1165(2012))。適切な金属基板は、銅、ニッケル、白金、またはイリジウムであってもよい。均一な単層グラフェンシートを達成するために、銅基板が使用されることが最も多い。多層グラフェンに対して、銅またはより一般的にはニッケルのいずれかが選択される。それらの特定の金属は、それらがグラフェン成長のための触媒としての機能を果たすことと、グラフェンのその同様の格子面間隔に起因して、材料の間の最小の格子面不整合しかもたらさないことの両方であるように選択される。
【0026】
グラフェン構造104は、1~50個の平面グラフェンシートを含む。1~50個のグラフェンシートは、個々に、または多層グラフェンの成長として中間層材料に塗布されてもよい。一態様では、グラフェンシートは、アルカリ金属イオンによりインターカレートされる。
【0027】
導電材料108は、接地源をもたらす。実施形態では、導電材料108は、金属テープまたは接着テープであってもよい。代表的な金属は、銅、銀、及びアルミニウムを含む。導電材料は、物理気相成長、熱蒸着、スパッタリング、またはプレーティングによって堆積されてもよい。導電材料108は、多数の空間的方位においてグラフェンの縁に沿って堆積されてもよい。導電材料の考えられる空間的方位の例が
図2A~2Dに示される。例えば、導電材料は、グラフェンの境界の周りに、1つの縁に沿って、または縁に沿った1つのスポット上に存在してもよいが、発明は、それらの例示的なパターンに限定されない。導電材料とグラフェンとの間の小さな重なりは、十分な電気接点を可能にするために好ましい。2Dに示される実施形態では、グラフェンは、中間層の全領域にわたって1つの連続したシートでなくてもよいが、それらの隣接した縁に沿ってタイルをつなぐ導電材料によりタイル状にされてもよい。
【0028】
説明される方法は、EMIシールディングをもたらすグラフェン積層体を作成するために使用されてもよく、グラフェン積層体は、第1の中間層と第2の中間層との間の1つ以上のグラフェンの層と、グラフェンの縁及び中間層の一端に沿った導電材料と、を含む。
【0029】
実施形態では、発明は、EMIシールディング、並びに耐衝撃性、耐爆性、及び耐弾性のうちの少なくとも1つ以上をもたらす積層された窓パネルを提供し、積層された窓パネルは、
図1のグラフェン積層構造の1つ以上のシートの間で結合された2つ以上のガラスのシート及び/または2つ以上のポリカーボネートのシートを含む。
図3に示されるように、積層された窓パネルは、1つ以上のガラスの層または1つ以上のポリカーボネートの層302を含み、積層体は、ガラスの層、もしくはポリカーボネートの層、またはガラスの層及びポリカーボネートの層の両方を含んでもよい。積層されたガラスパネルは、前に定義されたように、1つ以上の中間層304を更に含む。積層されたガラスパネルは、1つ以上のグラフェン構造(複数可)306及び導電材料308を更に含む。グラフェン構造は、1~50個のグラフェンの層を含んでもよい。
図3の積層窓の好ましい実施形態では、グラフェン構造306の各々は、好ましくはアルカリ金属イオンによりインターカレートされた、1~50個グラフェン層を有する多層グラフェンの膜から構成される。グラフェン構造306は、中間層/多層グラフェンの複数の積層体(すなわち、中間層/多層グラフェン/中間層/多層グラフェン/中間層/…、など)を更に含んでもよい。
【0030】
図面における様々な実施形態の特定の方位は、例示のみを目的としており、実施形態は、いくつかの用途において示された方位に対して回転してもよい。この実施例は、
図4に示され、グラフェン構造は、のこぎり歯パターンにおいて角度付けられる。グラフェン構造が入射するRF放射の反射を介してEMIシールディングを著しくもたらすので、のこぎり歯パターンは、例えば、前方および後方に反射することによって、放射を捕捉することができる隣接したグラフェン構造の間で空洞を生成するのではなく、積層構造の縁に拒絶された電力を反射する。
【0031】
図4はまた、構造の縁に反射されたRF放射を吸収する任意選択のRF吸収層309を示す。放射吸収材料は、入射するRF放射を吸収するよう特別に設計され、形状付けられた材料である。任意選択のRF吸収層は、泡状炭素、炭化ケイ素、及び/またはカーボンナノチューブなど、RF放射を吸収する任意の適切な材料(複数可)から成ってもよい。発泡炭素放射吸収材料は、0.05%~0.1%の混合した導電性カーボンブラック(カルボニル鉄球形粒子及び/またはりん状黒鉛粒子)が詰め込まれた耐火発泡ウレタンから構成されてもよい。
【0032】
層全体を角度付けるのではなく(または、並行して)、
図5に示されるように、グラフェン構造の表面を構造化することによって、構造の縁への拒絶された電力を分岐するこの同一の効果も達成することができる。それらの構造は、cmスケールのパターンまで、数十マイクロなどにあるパターニングの最上部において数マイクロ程度のパターニングを有する階層であってもよい。
図5は、グラフェン構造306が構造化した(または、パターニングした)ガラスパネル310の概略図を示す。それらの構造は、中間層へのパターニングをスタンピングまたはエッチングすることによって形成されてもよい。グラフェン構造が中間層と接触するとき、中間層の下位にある空間的構造を仮定して、それは、中間層を等角に被膜する。
図5が正方形パターニングを示すと共に、パターニングは、のこぎり歯、三角形、半球形などを含むいずれかの形状であってもよい。
【0033】
本明細書で提供される説明、及び以下の特許請求の範囲は、構造が図面の特定の方位にあるかどうか、またはそのような方位に対して回転するかどうかに関わらず、様々な特徴の間の関係を説明したいずれかの構造に関連する。
【0034】
添付の表示の断面図は、断面の平面内の特徴を示すにすぎず、図面を簡易化するために、断面の平面の背後の材料を示さない。
【国際調査報告】