(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】結合剤噴射法において結合剤として使用するための熱架橋性組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20220119BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20220119BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220119BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20220119BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20220119BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220119BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220119BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220119BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220119BHJP
C08L 77/12 20060101ALI20220119BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220119BHJP
【FI】
B29C64/314
B22F10/14
B22F3/02 M
B22F10/64
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y80/00
C08L67/00
C08L77/00
C08L77/12
B33Y70/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528901
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2019082675
(87)【国際公開番号】W WO2020109358
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】102018220611.2
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504415913
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツア フォルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】ハイン セバスチャン ボリス
(72)【発明者】
【氏名】アウムント-コップ クラウス
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL22
4F213WL29
4F213WL55
4F213WW06
4J002CF011
4J002CL001
4J002CL081
4J002DA066
4J002DJ016
4J002DM006
4J002HA08
4K018CA09
(57)【要約】
本発明は、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを製造するための1又は2種以上のモノマーであって、少なくとも1種のモノマーが少なくとも三官能性である、上記1又は2種以上のモノマーを含む液体組成物の、結合剤噴射法における結合剤としての使用に関する。本発明はさらに、結合剤噴射による成形体の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを製造するための1又は2種以上のモノマーであって、少なくとも1種のモノマーが少なくとも三官能性である、上記1又は2種以上のモノマー、
- 溶媒、
を含む液体組成物の、結合剤噴射による付加製造における結合剤としての使用。
【請求項2】
前記ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドが重縮合により製造される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記少なくとも三官能性のモノマーが、少なくとも3個の官能基A
1、A
2及びA
3を有する化合物(官能基A
1、A
2及びA
3は互いに独立に、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基若しくは前記カルボン酸基の塩、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基であり、官能基A
1、A
2及びA
3は同一であるか又は異なることができ;又は、官能基A
1~A
3のうちの2つが一緒に、カルボン酸無水物基又は環状エーテル基、特にエポキシ基を形成し、3つ目の官能基が、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基若しくは前記カルボン酸基の塩、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基である。)である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記少なくとも三官能性のモノマーが、少なくとも3個のヒドロキシ基を有するポリオール;芳香族トリヒドロキシ化合物;少なくとも3個のアミン基を有するポリアミン;ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3であるヒドロキシカルボン酸;アミノ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3であるアミノ酸;ヒドロキシアミノ酸;少なくとも3個のカルボン酸基を有するポリカルボン酸;又は前記化合物のうちの少なくとも2種の混合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記液体組成物が、少なくとも三官能性のモノマーとして、
(a)少なくとも3個のヒドロキシ基を有するポリオール、及び/又は、少なくとも3個のアミン基を有するポリアミン;並びに
(b)以下の化合物のうちの少なくとも1つ:
(b1)ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるヒドロキシカルボン酸、
(b2)アミノ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるアミノ酸、
(b3)ヒドロキシアミノ酸、
(b4)少なくとも3個、より好ましくは3~4個のカルボン酸基を含むポリカルボン酸又は前記ポリカルボン酸の無水物、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記液体組成物が1又は2種以上の二官能性モノマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記二官能性モノマーが、以下の化合物(i)~(iii):
(i)官能基A及び官能基Bを有する化合物
(- 官能基Aはアミノ基又はヒドロキシ基であり、
- 官能基Bは、カルボン酸基若しくは前記カルボン酸基の塩、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基である。);
(ii)官能基A及び官能基A’を有する化合物(官能基A及びA’は互いに独立に、カルボン酸基若しくは前記カルボン酸基の塩、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基であり、官能基A及びA’は同一であるか又は異なることができ、又は、官能基A及びA’は一緒にカルボン酸無水物基を形成する。);
(iii)官能基B及び官能基B’を有する化合物(官能基B及びB’は互いに独立に、ヒドロキシ基又はアミノ基であり、官能基B及びB’は同一であるか又は異なることができ、又は、官能基B及びB’は一緒に環状エーテル基を形成する。);
のうちの1種又はこれらの化合物のうちの少なくとも2種の混合物である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
結合剤噴射による成形体の製造方法であって、
(i)粉末層を、造形プラットフォーム上、又は、先に堆積させた粉末層上に堆積させ、
(ii)請求項1~7の一項に記載の液体組成物を、工程(i)で堆積させた前記粉末層上の定められた部分にプリントし、
(iii)前記プリント工程(ii)に付した前記粉末層上にさらなる粉末層を堆積させ、請求項1~7の一項に記載の液体組成物を、前記さらなる粉末層上の定められた部分にプリントし、
(iv)任意に、前記成形体の製造に必要とされるさらなる粉末層を堆積させ、請求項1~7の一項に記載の液体組成物を、前記さらなる粉末層のそれぞれの定められた部分にプリントし、
(v)プリンティングにより付与された前記組成物を熱処理することによりポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを形成させ、成形体中の粉末が前記ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドにより結合されている前記成形体を得る、
上記方法。
【請求項9】
前記粉末が、金属粉末、セラミック粉末、石英砂粉末又はプラスチック粉末又はこれらの粉末のうちの少なくとも2種の混合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(iv)の熱処理が少なくとも130℃の温度で行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(v)の後、1又は2以上のさらなる熱処理工程を行って、熱分解により前記成形体から前記ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを除去し、かつ前記粉末を焼結する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
- 粉末、及び
- 前記粉末を接着するポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドであって、請求項1~7の一項において規定されている1又は2種以上の少なくとも三官能性のモノマー及び任意に1又は2以上の二官能性モノマーの重合により得られる、上記ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミド
を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末結合剤噴射法において熱硬化性結合剤として使用可能な液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
標準規格EN ISO/ASTM 52921:2017は、付加製造プロセスを以下のカテゴリーに定めている。
- 「材料吐出堆積(Material Extrusion)」:造形材料がノズル又は開口部から選択的に吐出される付加製造法
- 「液槽光重合(Vat Photopolymerization)」:容器内で液体造形材料を光重合によって選択的に硬化させる付加製造法
- 「材料噴射堆積(Material Jetting)」:造形材料の液滴を選択的に堆積させる付加製造法
- 「結合剤噴射(Binder Jetting)」:粉末を固化させるために液体結合剤を選択的に付与(又は適用、又は噴射)(apply)する付加製造法
- 「シート積層(Sheet Lamination)」:物体を形成するために材料の層を層間接着させる付加製造法
- 「粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)」:エネルギーの位置選択的導入(例えばレーザービームによる)を使用して粉末床の定められた領域を融解させる付加製造法
- 「指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition)」:一点に集中させた熱エネルギーを使用して材料の堆積位置でその材料を溶融により接着させる付加製造法
【0003】
結合剤噴射法は「3Dプリンティング」とも呼ばれる(例えば、VDIガイドラインVDI 3405、2014年12月)。
【0004】
結合剤噴射による付加製造の場合、液体結合剤はプリントヘッドを通して粉末床に付与する。したがって、粉末床を一層ずつ積み上げ、堆積させた各粉末層のあらかじめ定めた範囲に結合剤を局所的にプリントすることにより、CADファイルを使って事前に作成した部品を製造する。これはパウダーベッド方式のプロセスであるため、「3D粉末プリンティング」及び「粉末結合剤噴射」という別の用語が使われることもある。粉末は例えば、金属粉末、セラミック粉末又はプラスチック粉末、又は「砂」(例えば石英砂粉末)である。プリントした後、結合剤を硬化させることにより、結合剤により粉末粒子が所望の形状に結合した、加工可能なグリーン部品を製造する。焼結方式のプロセスの場合、余分な粉末を除去した後に結合剤を熱で除去し、部品を焼結工程に付し、それにより高密度の成形体を得る。
【0005】
結合剤噴射法において使用するための結合剤の適切な特性は、プリントしようとする結合剤による粉末床の湿潤性、プリントヘッド内でノズルを詰まらせることなくプリンティングシステム内での結合剤の滞留時間が長いこと、結合剤を正確に付与できること、結合剤の速乾性及び比較的低い温度での急速な硬化、プリンティング後に架橋反応を制御可能であること、粉末粒子への結合剤の良好な接着、グリーン状態の部品の(すなわち硬化した結合剤を含む粉末の)高い強度、並びに粉末ベースの成形体を焼結する前に硬化した結合剤を残留物を残さず熱で除去可能であることである。
【0006】
WO2018/111885A1は、ポリビニルアルコール及び溶媒を含む、結合剤噴射法のための結合剤を記載している。
【0007】
DE102006038858A1は、メタクリレート及び/又はスチレンを主成分とする、又はポリウレタン樹脂又はエポキシ樹脂を含む、結合剤を使用する結合剤噴射法を記載している。
【0008】
DE102013018182A1及びDE102015006363A1は、結合剤がノボラック系及び/又はレゾール系、すなわちフェノール-ホルムアルデヒド重縮合物プレポリマーを含む結合剤噴射法を記載している。
【0009】
DE102016121760A1は、結合剤が、糖質、アラビアゴム、樹脂、セルロース繊維、ワックス、カゼイン、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアセテート、ゴム、セルロース、ポリアクリレート、PVB、PVP、PVA又はビニルピロリドン-ビニルアセテートコポリマーを含む、結合剤噴射法を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
結合剤噴射法のための結合剤として好適であり、特に、プリントヘッド内でノズルを詰まらせることなくプリンティングシステム内での長い滞留時間を可能にし、比較的低い温度で急速な乾燥及び急速な硬化を可能にし、かつ、硬化後に、高強度のグリーン体(すなわち高いグリーン強度を示す)が得られ、熱により除去し易い、硬化性組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、
結合剤噴射法における結合剤として、
- ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを製造するための1又は2種以上のモノマーであって、少なくとも1種のモノマーが少なくとも三官能性である、上記1又は2種以上のモノマー、
- 溶媒、
を含む液体組成物を使用することによって解決される。
【0012】
モノマーは、重合反応によってポリマーを形成することができる化合物である。したがってポリマーの繰り返し単位は、重合に使用されたモノマーに由来する。IUPAC(IUPAC Compendium of Chemical Terminology、Gold Book、Version2.3.3、2014、p.606:「Functionality of a Monomer」)は、モノマーの官能性を、ポリマー中でそのモノマーが形成可能な結合の数と定義している。官能性F=2を有するモノマー(すなわち二官能性モノマー)だけが使用される場合、線状ポリマーが得られる。重合において官能性F≧3を有するモノマー(すなわち少なくとも三官能性であるモノマー)も使用される場合は、ポリマー鎖中に分岐点が生じ、分岐した又は3次元架橋されたポリマーが得られる。
【0013】
本発明において、結合剤噴射に使用できる液体組成物は、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを製造するための1又は2種以上のモノマー(すなわち、反応してポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生成することができるモノマー)を含む。当業者に知られているように、ポリエステルは、エステル基を介して連結された繰り返し単位を有するポリマーであり、ポリアミドは、アミド基を介して連結された繰り返し単位を有するポリマーである。ポリマーが、エステル基を介して連結された繰り返し単位だけでなくアミド基を介して連結された繰り返し単位も含む場合、このポリマーはポリエステルアミドである。したがって液体組成物中に存在するモノマーは、反応してエステル基又はアミド基を形成することができる化合物である。そのようなモノマーは当業者に知られている。こうしたモノマーは、重縮合によって既知の通り反応して、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生成する。
【0014】
当業者に知られているように、ポリエステル合成又はポリアミド合成のための二官能性モノマーは、それ自体と、又は別のモノマーと反応して、最大で2つのエステル基又はアミド基を形成することができ、一方、例えば三官能性モノマーは、ポリマー鎖中で3つのエステル基又はアミド基を形成することができる。
【0015】
液体組成物は官能性F≧3を有する少なくとも1種のモノマー、すなわち少なくとも三官能性であるモノマーを含むため、組成物の硬化により、分岐した又は3次元架橋されたポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドが生じる。以下にも記載するように、液体組成物は、任意に、1又は2種以上の二官能性モノマーも含んでもよい。
【0016】
少なくとも三官能性のモノマー、及び存在する場合、二官能性モノマーは、重縮合によって既知の通り反応して、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生成する。当業者は、そのような重縮合に好適な反応条件を認識している。モノマーはアクリレートでもメタクリレートでもないことが好ましい。
【0017】
以下にもより詳細に記載するように、驚くべきことに、本発明において、
- 本発明の液体組成物は、プリントヘッド内でノズルを詰まらせることなくプリンティングシステム内での長い滞留時間を可能にすることができ、
- 比較的低い温度で急速な乾燥及び急速な硬化を可能にし、
- 硬化したポリエステル又はポリアミド又はポリエステルアミドは非常に安定に粉末粒子を結び付けることによって高い強度のグリーン体をもたらし、さらに熱により除去し易い
ことが見出された。
【0018】
この特性プロファイルのおかげで、上記で規定した液体組成物は、結合剤噴射法において結合剤として使用するための優れた適性を有する。
【0019】
すでに上記に記載したように、結合剤噴射法は、プリントヘッドを介して粉末層の定められた領域にプリントすることによって液体結合剤を付与する付加製造法である。粉末床を一層ずつ造形し、堆積させた各粉末層の所定の部分に結合剤を局所的に付与することにより、最終的に、所定の成形体(すなわち、CADファイルを使って作成した成形体)を製造する。結合剤噴射法は「3Dプリンティング」とも呼ばれる(例えば、VDIガイドラインVDI3405、2014年12月)。これはパウダーベッド方式のプロセスであるため、「3D粉末プリンティング」及び「粉末結合剤噴射」という別の用語が使われることもある。
【0020】
熱処理(硬化)の結果として、少なくとも三官能性のモノマー、及び存在する場合、二官能性モノマーは反応して、分岐した又は3次元架橋されたポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生じる。以下により詳細に記載されているように、この熱処理は、例えば、先に堆積させた粉末層上に液体結合剤がプリントされるたびに行うことができ、又は成形体の製造に必要とされる粉末層をすべて堆積及びプリントした後で最後に行われてもよい。可能な限り最も効率的にこのプロセスを実施するために、成形体の製造に必要とされる粉末層をすべて造形チャンバー内に堆積させた後で初めて、粉末層へのプリンティングにより付与された結合剤の全体量を熱処理によって硬化させることが好ましい。
【0021】
ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを得るためのモノマーの重合は、重縮合により既知の態様で起こる。
【0022】
硬化させ未結合の粉末を除去した後、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドにより粉末粒子が互いに結合した成形体が得られる。粉末はこの場合、通常、未焼結状態である。ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドにより結び付いた未焼結の粉末を含むこの種の成形体を、以下ではグリーン体とも称する。
【0023】
上述したように、液体結合剤組成物は、少なくとも三官能性である、すなわち、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドのポリマー鎖中でエステル基又はアミド基を介して少なくとも3つの隣接した繰り返し単位と連結することができる、少なくとも1種のモノマーを含む。上記少なくとも1種の三官能性モノマーとして、「架橋剤モノマー」という別の用語が以下で使用される。
【0024】
分岐したポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドの製造に好適な、官能性F≧3を有するモノマーは、当業者に知られている。
【0025】
上記少なくとも三官能性のモノマーは、例えば、少なくとも3個の官能基A1、A2及びA3を有する化合物[官能基A1、A2及びA3は互いに独立に、ヒドロキシ基、アミノ基(特に-NH2)、カルボン酸基(すなわち-C(O)OH)若しくは前記カルボン酸基の塩(例えばアンモニウム塩NH4
+)、カルボン酸エステル基(すなわち-C(O)OR)又はハロゲン化アシル基(すなわち-C(O)X(式中、X=ハライド))であり、官能基A1、A2及びA3は同一であるか又は異なることができ、又は、官能基A1~A3のうちの2つは一緒に、カルボン酸無水物基又は環状エーテル基(例えばエポキシ基)を形成し、3つ目の官能基は、上述の官能基(すなわち、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基若しくは前記カルボン酸基の塩、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基)のうちの1つである。]である。
【0026】
官能基A1~A3のうちの1つがカルボン酸エステル基である場合、例えば、以下の式を有することができる:
-C(O)OR[式中、RはC1~8アルキル(好ましくはC1~4アルキル、より好ましくはC1~2アルキル)又はアリール(例えば置換又は未置換のフェニル基)である。]。
【0027】
架橋剤モノマーが四官能性である場合、化合物は、例えば、さらなる官能基A4も有することができる(A4は上述の官能基A1~A3に関して規定された通りである。)。
【0028】
架橋剤モノマーが官能性F=nを有する場合、化合物は例えば、n個の官能基A1~Anを含む(これらの官能基のそれぞれは、上述の官能基A1~A3に関して規定されている通りである。)。架橋剤モノマーは、例えば、3~6、より好ましくは3~4の官能性Fを有する。
【0029】
上記少なくとも三官能性の架橋剤モノマーは、例えば、少なくとも3個のヒドロキシ基を有するポリオール(例えば3~6個のヒドロキシ基);芳香族トリヒドロキシ化合物;少なくとも3個のアミノ基(例えば3~6個のアミノ基)を有するポリアミン;ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3(例えば3~6、より好ましくは3~4)であるヒドロキシカルボン酸;アミノ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3(例えば3~6、より好ましくは3~4)であるアミノ酸;ヒドロキシアミノ酸;少なくとも3個(例えば3~6個、好ましくは3~4個)のカルボン酸基を含むポリカルボン酸若しくは前記ポリカルボン酸の無水物;又は前記化合物のうちの少なくとも2種の混合物である。カルボン酸基はまた、塩の形態で(例えばNH4
+塩として)存在することもできる。アミノ基は特に、-NH2である。
【0030】
ポリオールは例えば、グリセロール;ペンタエリトリトール;ジ(ペンタエリトリトール);トリメチロールプロパン;ビス(2,2-ジメチロールブチル)エーテルとも称される、ジ(トリメチロールプロパン);糖アルコール(特に、キシリトール、トレイトール、エリトリトール、マンニトール又はソルビトールなどのC4~C6糖アルコール);イノシトールなどの環状ポリオール;糖(特にC5~6糖、すなわちペントース又はヘキソース);分岐ポリエーテルポリオール;又はこれらの化合物のうちの少なくとも2種の混合物である。ポリオールは、グリセロール又はペンタエリトリトール又はこれらの2種のポリオールの混合物であることが好ましい。
【0031】
芳香族トリヒドロキシ化合物は例えば、トリヒドロキシベンゼンである。
【0032】
ポリアミンは、例えば、ジアルキレントリアミン、トリアルキレンテトラアミン、線状若しくは分岐ポリエーテルアミン、芳香族トリアミン、又は前記化合物のうちの少なくとも2種の混合物である。
【0033】
ジアルキレントリアミン及びトリアルキレンテトラアミンは、例えば、以下の式を有する:
R2R1N-(CH2)u-(N(R3)-CH2)v)x-N(R4)-(CH2)w-NR5R6
(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに独立に、水素又はC1~4アルキル、好ましくは水素であり、
xは、0又は1であり、
u、v及びwは互いに独立に、2~6である)。
【0034】
ジアルキレントリアミンの場合はx=0であり、一方、トリアルキレンテトラアミンの場合はx=1である。
【0035】
芳香族トリアミンは、例えば、未置換又は置換メラミンである。
【0036】
ヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計は、例えば3~4である。これに関して挙げられる例は、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、タルトロン酸、酒石酸、メバロン酸、又はこれらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも2種の混合物である。好ましい実施形態において、ヒドロキシカルボン酸は、クエン酸又はリンゴ酸又はこれらの2種のヒドロキシカルボン酸の混合物である。
【0037】
アミノカルボン酸(アミノ酸)中のアミノ基及びカルボン酸基の合計は、例えば3~4であるが、ヒドロキシ基は存在しない。これに関して、例えば以下を挙げることができる:アスパラギン酸、グルタミン酸又はリシン。
【0038】
ヒドロキシアミノ酸は、アミノ基及びカルボン酸基に加えて、少なくとも1つのヒドロキシ基を含む。これに関して、例えばセリンを挙げることができる。
【0039】
少なくとも3個のカルボン酸基を有するポリカルボン酸は、例えば、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸;オキサロコハク酸;アコニット酸;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸;芳香族トリカルボン酸、例えばトリメリット酸、ヘミメリット酸若しくはトリメシン酸など;又はこれらのポリカルボン酸のうちの少なくとも2種の混合物である。ポリカルボン酸はまた、任意に、カルボン酸基のうちの2つが反応してカルボン酸無水物基を形成している無水物の形態でも存在することができる。ポリカルボン酸はヒドロキシ基及び/又はアミノ基を含まないため、ヒドロキシ又はアミノカルボン酸ではない。
【0040】
好ましい実施形態において、液体結合剤組成物は、架橋剤モノマーとして、
(a)少なくとも3個、より好ましくは3~6個のヒドロキシ基を有するポリオール、及び/又は、少なくとも3個、より好ましくは3~6個のアミン基を有するポリアミン、並びに
(b)以下の化合物のうちの少なくとも1種:
(b1)ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるヒドロキシカルボン酸、
(b2)アミノ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるアミノ酸、
(b3)ヒドロキシアミノ酸、
(b4)少なくとも3個(例えば3~6個、より好ましくは3~4個)のカルボン酸基を含むポリカルボン酸又は前記ポリカルボン酸の無水物、
を含む。
【0041】
好ましいポリオール、ポリアミン、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシアミノ酸及びポリカルボン酸に関して、上記に述べたことが参照され得る。
【0042】
液体結合剤組成物は、架橋剤モノマーとして、好ましくは、
(a)少なくとも3個、より好ましくは3~6個のヒドロキシ基を有するポリオール、例えばグリセロール又はエリトリトール又はそれらの混合物、
(b)ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるヒドロキシカルボン酸、例えば、クエン酸又はリンゴ酸又はこれらの2種のヒドロキシカルボン酸の混合物
を含む。
【0043】
別の好ましい実施形態において、液体結合剤組成物は、架橋剤モノマーとして、
(a)少なくとも3個、より好ましくは3~6個のヒドロキシ基を有するポリオール、例えばグリセロール又はエリトリトール又はそれらの混合物、
(b)少なくとも3個(例えば3~6個、より好ましくは3~4個)のカルボン酸基を含むポリカルボン酸又は前記ポリカルボン酸の無水物、例えば、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸;オキサロコハク酸;アコニット酸;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸;芳香族トリカルボン酸、例えばトリメリット酸、ヘミメリット酸若しくはトリメシン酸など;又はこれらのポリカルボン酸のうちの少なくとも2種の混合物、
を含む。
【0044】
液体組成物はまた、任意に、1又は2種以上の二官能性モノマーを含むことができる。ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドの製造に好適な二官能性モノマーは、基本的には当業者に知られている。
【0045】
例えば、二官能性モノマーは、官能基A及び官能基Bを有する化合物(以下では二官能性AB型モノマーとも称する)であり、
- 官能基Aは、アミン基(特に-NH2)又はヒドロキシ基(すなわち-OH)であり、
- 官能基Bは、カルボン酸基(すなわち-C(O)OH)若しくは前記カルボン酸基の塩(例えばアンモニウム塩NH4
+)、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基(すなわち-C(O)X(式中、X=ハライド、例えばClなど))である。
【0046】
官能基Bがカルボン酸エステル基である場合、例えば、以下の式を有することができる:
-C(O)OR[式中、RはC1~8アルキル(好ましくはC1~4アルキル、より好ましくはC1~2アルキル)又はアリール(例えば置換又は未置換のフェニル基)である]。
【0047】
Aがヒドロキシ基である場合、二官能性モノマーは、例えば、ヒドロキシカルボン酸若しくは前記カルボン酸の塩(例えば、アンモニウム塩NH4
+)、ヒドロキシカルボン酸エステル又はヒドロキシアシルクロリドである。
【0048】
ヒドロキシカルボン酸は、例えば、以下の式を有する:
HO-C(H)R-(CH2)x-C(O)OH
[式中、
Rは、H、C1~4アルキル(好ましくはメチル又はエチル)又はフェニルであり、
xは、0、1又は2である。]。
【0049】
これに関して、例えば以下の化合物を挙げることができる:グリコール酸、乳酸、マンデル酸、β-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸。
【0050】
ヒドロキシカルボン酸エステルは、例えば、以下の式を有する:
HO-C(H)R1-(CH2)x-C(O)OR2
[式中、
R1は、H、C1~4アルキル(好ましくはメチル又はエチル)又はフェニルであり、
R2は、C1~4アルキル、好ましくはメチル又はエチルであり、
xは、0、1又は2である。]。
【0051】
これに関して、例えば、以下を挙げることができる:乳酸メチル及び乳酸エチル。
【0052】
ハロゲン化ヒドロキシアシルは、例えば、以下の式を有する:
HO-C(H)R-(CH2)x-C(O)X
[式中、
Rは、H、C1~4アルキル(好ましくはメチル又はエチル)又はフェニルであり、
Xは、ハロゲン原子、例えばClであり、
xは、0、1又は2である。]。
【0053】
Aがアミノ基(特に-NH2)である場合、二官能性モノマーは、例えば、アミノ酸、アミノカルボン酸エステル又はアミノアシルクロリドである。これに関して、例えば、以下を挙げることができる:グリシン、アラニン又はグリシンのC1~4アルキルエステル(例えば、グリシンエチルエステル)。
【0054】
別の例示的な実施形態では、二官能性モノマーは、官能基A及び官能基A’を有する化合物(以下では二官能性AA’型モノマーとも称する)[官能基A及びA’は互いに独立に、カルボン酸基(すなわち-C(O)OH)若しくは前記カルボン酸基の塩(例えばアンモニウム塩NH4
+)、カルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基(すなわち-C(O)X(式中、X=ハライド、例えばClなど))であり、官能基A及びA’は同一であるか又は異なることができ、又は、官能基A及びA’は一緒にカルボン酸無水物基を形成する。]。
【0055】
官能基A又はA’がカルボン酸エステル基である場合、これは、例えば以下の式を有することができる:
-C(O)OR[式中、RはC1~8アルキル(好ましくはC1~4アルキル、より好ましくはC1~2アルキル)又はアリール(例えば置換又は未置換のフェニル基)である。]。
【0056】
A=A’の場合、二官能性AA’型モノマーは、例えば、ジカルボン酸若しくは前記ジカルボン酸の塩、ジカルボン酸エステル又はハロゲン化ジアシルである。A≠A’の場合、二官能性AA’型モノマーは、例えば、さらなる官能基としてカルボン酸エステル基又はハロゲン化アシル基も有するモノカルボン酸である。
【0057】
ジカルボン酸は、飽和又は不飽和ジカルボン酸であることができる。
【0058】
飽和ジカルボン酸は、例えば、以下の式を有する:
HOOC-(CH2)x-COOH
(式中、Xは0~4、より好ましくは0~2である)。
【0059】
飽和ジカルボン酸の例として、シュウ酸及びコハク酸を挙げることができる。
【0060】
不飽和ジカルボン酸の例は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸である。不飽和ジカルボン酸は、好ましくはマレイン酸である。
【0061】
2つのジカルボン酸基が反応して無水物基を形成している場合、AA’型の二官能性モノマーはまた、無水物、例えば無水マレイン酸の形態でも存在することができる。
【0062】
別の例示的な実施形態では、二官能性モノマーは、官能基B及び官能基B’を有する化合物(以下では二官能性BB’型モノマーとも称される)[官能基B及びB’は互いに独立に、ヒドロキシ基又はアミノ基であり、官能基B及びB’は同一であるか又は異なることができ、又は、官能基B及びB’は一緒に環状エーテル基(例えばエポキシ基)を形成する。]。
【0063】
二官能性BB’型モノマーにおいて、B=B’であることが好ましい。この場合、二官能性BB’型モノマーはジオール又はジアミンである。しかしながら、本発明の目的のために、B及びB’は異なることもでき、よって二官能性モノマーIIは例えば、アミノアルコール(すなわちアミノ基及びヒドロキシ基を有する化合物)である。
【0064】
ジオールは、例えば、アルカンジオール(例えばC2~6-アルカンジオール)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又は、これらの化合物のうちの少なくとも2種の混合物である。
【0065】
アルカンジオールは、例えば、1,2-アルカンジオール(例えばエチレングリコール又はプロピレングリコール)、1,3-アルカンジオール又は1,4-アルカンジオールである。
【0066】
ポリエチレングリコールは、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又はテトラエチレングリコールである。しかしながら本発明の目的のために、高級ポリエチレングリコール、例えば以下の式のものを使用することも可能である:
HO-CH2-CH2-[O-CH2-CH2]x-OH
(式中、x=4~800)。
【0067】
ジアミンは、例えば、アルカンジアミン(例えばC2~8-アルカンジアミン、より好ましくはC2~6-アルカンジアミン)であり、これは線状又は分岐状であることができる。線状アルカンジアミンは、例えば以下の式を有することができる:
H2N-CH2-CH2-(CH2)x-NH2
(式中、xは0~6、より好ましくは0~4である)。
【0068】
これに関して挙げられる例は、エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンである。
【0069】
上記のAB、AA’及びBB’型の二官能性モノマーは、存在する場合、個別に、あるいは互いに組み合わせて存在することができ、例えば1又は2種以上のAB型のモノマー、又は、少なくとも1種のBB’モノマーと組み合わせた少なくとも1種のAA’モノマーであることができる。
【0070】
本発明の例示的な実施形態において、液体結合剤組成物は、
(a)少なくとも3個、より好ましくは3~6個のヒドロキシ基を有するポリオール、例えばグリセロール又はエリトリトール又はそれらの混合物、
(b)ヒドロキシ基及びカルボン酸基の合計が少なくとも3、より好ましくは3~4であるヒドロキシカルボン酸、例えば、クエン酸又はリンゴ酸又はこれらの2種のヒドロキシカルボン酸の混合物、
(c)二官能性モノマーとして機能するジカルボン酸(例えば、シュウ酸若しくはコハク酸などの飽和ジカルボン酸、又は、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸)若しくは前記ジカルボン酸の無水物又はアミノ酸(例えばグリシン又はアラニン)、
を含む。
【0071】
別の例示的な実施形態では、液体結合剤組成物は、
(a)少なくとも3個、より好ましくは3~6個のヒドロキシ基を有するポリオール、例えばグリセロール又はエリトリトール又はそれらの混合物、
(b)少なくとも3個(例えば3~6個、より好ましくは3~4個)のカルボン酸基を含むポリカルボン酸若しくは前記ポリカルボン酸の無水物、例えばプロパン-1,2,3-トリカルボン酸;オキサロコハク酸;アコニット酸;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸;芳香族トリカルボン酸、例えばトリメリット酸、ヘミメリット酸若しくはトリメシン酸など;又はこれらのポリカルボン酸のうちの少なくとも2種の混合物、
(c)二官能性モノマーとして機能するジカルボン酸(例えば、シュウ酸若しくはコハク酸などの飽和ジカルボン酸、又は、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸)若しくは前記ジカルボン酸の無水物又はアミノ酸(例えばグリシン又はアラニン)、
を含む。
【0072】
上記の少なくとも三官能性のモノマー、及び存在する場合、二官能性モノマーは、重縮合により既知の通り反応して、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生成する。そのような重縮合に好適な反応条件は当業者に知られている。例として、重縮合は、粉末に付与された液体組成物を、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃、例えば130℃~230℃、より好ましくは160℃~210℃、特に好ましくは170℃~200℃の範囲内の温度で熱処理することにより起こる。
【0073】
液体組成物のpHは広範囲にわたって様々であることができる。pHは、酸性、中性又は塩基性であることができる。
【0074】
液体組成物が1又は2種以上の二官能性モノマーも含む場合、この二官能性モノマーの上記少なくとも三官能性のモノマーに対するモル比は、広範囲にわたって様々であることができる。例えば、少なくとも三官能性のモノマーであるモノマーの全量の、二官能性モノマーの全量に対するモル比は、1/20~100/1、より好ましくは1/10~10/1である。
【0075】
上述したように、液体組成物は1又は2種以上の溶媒を含む。溶媒は、例えば、水又は有機溶媒、特に極性有機溶媒、例えばC1~4アルコール(例えばエタノール又はイソプロパノール)又はアセトンなど、又はこれらの溶媒のうちの少なくとも2種の混合物である。水が存在する場合、溶媒の全量に対するその比率は、4~50体積%である。
【0076】
液体組成物中の上記少なくとも三官能性のモノマー及び場合により存在する二官能性モノマーの全濃度は、比較的広範囲にわたって様々であることができる。例えば液体組成物中のモノマーの全濃度は、10重量%~50重量%、より好ましくは15重量%~35重量%の範囲内である。
【0077】
液体組成物は任意に、さらなる添加剤を含むことができる。これに関して挙げられる例は、湿潤助剤、殺菌剤、流動助剤、発泡防止剤、可塑剤、防錆剤及び化学安定剤又は流動性安定剤である。
【0078】
本発明はまた、結合剤噴射による成形体の製造方法であって、
(i)粉末層を、造形プラットフォーム上、又は先に堆積させた粉末層上に堆積させ、
(ii)上記の液体組成物を、工程(i)で堆積させた前記粉末層の定められた部分にプリントし、
(iii)前記プリント工程(ii)に付した前記粉末層上にさらなる粉末層を堆積させ、上記の液体組成物を、前記さらなる粉末層の定められた部分にプリントし、
(iv)任意に、前記成形体の製造に必要とされるさらなる粉末層を堆積させ、上記の液体組成物を、前記さらなる粉末層のそれぞれの定められた部分にプリントし、
(v)プリンティングにより付与された液体組成物を熱処理することにより、ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを形成させ、成形体中の粉末がポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドにより結合されている成形体を得る、
上記方法にも関する。
【0079】
粉末の結合剤として機能する液体組成物の成分及び特性に関して、上記で述べたものを参照することができる。
【0080】
すでに上記に記載したように、結合剤噴射法は付加製造法である。粉末層を一層ずつ堆積させ、堆積させた各粉末層のあらかじめ定めた範囲に結合剤を局所的に付与することにより、最終的に、定められた成形体(すなわちCADファイルを使って作成した成形体)を得る。結合剤噴射法の別の用語として「3Dプリンティング」が使用される(例えば、VDIガイドラインVDI3405、2014年12月)。これはパウダーベッド方式のプロセスであるため、「3D粉末プリンティング」及び「粉末結合剤噴射」という用語も使われることがある。
【0081】
結合剤噴射法に好適な装置及びプリンタは当業者に知られている。液体結合剤組成物は、例えば、プリントヘッド(例えばピエゾプリントヘッド)を介してプリントすることによって粉末層に付与される。粉末層をプリントした後、かつ新しい粉末層を堆積させる前に、通常、造形プラットフォームを新しい粉末層の厚さ分低くする。
【0082】
液体組成物は官能性F≧3を有する少なくとも1種のモノマー、すなわち少なくとも三官能性であるモノマーを含むため、組成物の熱処理(「硬化」)により、分岐した又は3次元架橋されたポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドが生じる。
【0083】
熱処理により形成されたポリエステル又はポリアミド又はポリエステルアミドが、粉末粒子を互いに接着することにより、寸法安定性のある成形体が得られる。
【0084】
モノマーを反応させて(例えば重縮合により)ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを生じさせることができる好適な温度は当業者に知られているか、又は、任意にルーティンの実験により決定することができる。
【0085】
例えば、プリンティングにより付与された前記組成物の熱処理は、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃、例えば130℃~230℃、より好ましくは160℃~210℃、特に好ましくは170℃~200℃の範囲内の温度で行われる。
【0086】
例えば、工程(v)は、成形体の製造に必要とされる粉末層をすべて堆積させ、それぞれに結合剤組成物をプリントした後に行われる。したがって、工程(v)は、工程(iii)の後に、又は、成形体の製造に工程(iv)でさらなる粉末層の堆積が必要とされる場合は、工程(iv)の後に、行われることが好ましい。
【0087】
本発明の結合剤噴射法を用いて、様々な異なる粉末を成形体に加工することが可能である。例えば、粉末は、金属(金属粉末)、プラスチック又は無機材料の粉末、例えばセラミック材料(セラミック粉末)又は砂(例えば石英粉末)の粉末である。結合剤噴射などのパウダーベッド方式のプロセスに好適な粉末の粒子径は当業者に知られている。例えば、金属粉末は、1μm~200μmの範囲内の体積基準d50値を有することができ、セラミック粉末は、10nm~200μmの範囲内の体積基準d50値を有することができるが、本発明の目的のために、より大きい又はより小さいd50値を有する粉末を使用することもまた可能である。本発明の方法において使用される粉末状材料はまた顆粒であってもよい。
【0088】
工程(v)で得られる成形体中の粉末は通常、未焼結である。未焼結の粉末及びポリエステル又はポリアミド又はポリエステルアミドにより形成されるこの成形体に関して、グリーン体又は圧粉体(グリーンコンパクト)という用語もまた以下で使用される。本発明の結合剤噴射法により得られるグリーン体は、高い機械的強度により特徴付けられる。
【0089】
グリーン体は例えば、鋳造用の中子として使用することができる。
【0090】
硬化後、グリーン体から結合していない粉末を除去することができる。
【0091】
工程(v)の後、熱分解により成形体からポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドを除去するために、かつ粉末を焼結する(特に粉末が金属粉末又はセラミック粉末である場合)ために、任意に、1又は2以上の熱処理工程を行うこともまた可能である。ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドの熱分解及び粉末の焼結に好適な温度は知られているか、又は、当業者の一般的な専門知識に基づいて当業者が判断することができる。グリーン体中のポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドの熱分解及び/又は粉末の焼結は、例えば、粉末の要件に合わせて調整した不活性、還元又は酸化雰囲気(金属粉末の場合は好ましくは不活性又は還元雰囲気)中で行うことができる。
【0092】
本発明はさらに、
- 粉末、及び
- 粉末を接着するポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドであって、1又は2種以上の上記少なくとも三官能性のモノマー及び任意に1又は2種以上の上記二官能性モノマーの重合により得られる、上記ポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミド
を含む成形体に関する。
【0093】
粉末及びポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミド、さらにそれらの製造に使用されるモノマーの好ましい特性に関して、上記で述べたものを参照することができる。
【0094】
官能性F≧3を有する少なくとも1種のモノマー、すなわち少なくとも三官能性である1種のモノマーを重合で使用するため、成形体中に存在し粉末を接着するポリエステル、ポリアミド又はポリエステルアミドは3次元架橋されている。
【0095】
成形体中の粉末は、好ましくはまだ未焼結の形態である。この場合、グリーン体又は圧粉体という用語は成形体にも使用することができる。
【0096】
本発明はさらに、上記の液体組成物を含むプリンタに関する。
【0097】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に記載される。
【実施例】
【0098】
以下の組成の液体結合剤を使用した:
1.9重量%のグリセロール、16.1重量%のクエン酸、2.0重量%のグリシン、75重量%のイソプロパノール。硬化中に起こるポリエステル合成において、グリセロール及びクエン酸は、官能性が少なくとも3であるモノマーとしての役割を果たした(グリセロール:三官能性モノマー;クエン酸:四官能性モノマー)。
【0099】
使用した粉末はステンレス鋼粉末であった。
【0100】
結合剤噴射用の造形チャンバー内で、ステンレス鋼粉末を造形プラットフォームに一層ずつ堆積させ、堆積させた各粉末層のあらかじめ定めた部分に液体結合剤をプリントした。成形体の製造に必要とされる粉末層をすべて堆積させた後、180℃の温度で3時間、硬化を行った。
【0101】
硬化により高い機械的強度のグリーン体が得られた。
【0102】
本発明の液体結合剤組成物により、プリントヘッド内でノズルを詰まらせることなくプリンティングシステム内での長い滞留時間が可能となり、かつ、粉末層のプリント後、比較的低い温度での急速な乾燥に加えて急速な硬化が可能となり、結果として高い強度のグリーン体(すなわち高いグリーン強度)が得られる。この結合剤はさらに、硬化後に熱により除去し易く、このことは、焼結後、問題となる硬化した結合剤の残留物を含有しない成形体を得ることが可能であることを意味する。
【国際調査報告】