(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/28 20060101AFI20220119BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20220119BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20220119BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220119BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20220119BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220119BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20220119BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/12
C23C2/26
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/60
C22C21/02
C22C38/00 302A
C21D9/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529861
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 KR2019016769
(87)【国際公開番号】W WO2020111884
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152575
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0156853
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジン-クン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨル-レ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
【テーマコード(参考)】
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB05
4K027AB13
4K027AB48
4K027AC64
4K027AC73
4K027AE02
4K027AE03
4K027AE22
4K042AA25
4K042BA08
4K042BA11
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
本発明は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、上記めっき層は、上記素地鋼板の表面に形成され、Fe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を含む合金化層、及び上記合金化層上に形成され、厚さが上記めっき層の厚さの10%未満であるアルミニウム層を含み、上記めっき層の厚さは5~20μmであり、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素が10重量%以下である、熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼板を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼板であって、
素地鋼板、及び前記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、
前記めっき層は、
前記素地鋼板の表面に形成され、Fe
3Al、FeAl(Si)、Fe
2Al
5及びFeAl
3のいずれか一つ以上を含む合金化層、及び
前記合金化層上に形成され、厚さが前記めっき層の厚さの10%未満であるアルミニウム層を含み、
前記めっき層の厚さは5~20μmであり、
前記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素が10重量%以下である、アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層は、重量%で、素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた合金組成を100%とするとき、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき層は、重量%で、Mg:1.1%以下をさらに含む、請求項2に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項4】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含む、請求項4に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間プレス成形部材であって、
素地鋼板上にFeAl(Si)及びFe
3Alのいずれか一つ以上からなる拡散層が形成され、
前記拡散層の厚さが前記めっき層の全体厚さの90%以上である、熱間プレス成形部材。
【請求項7】
前記熱間プレス成形部材内の拡散性水素含有量が0.1ppm以下であり、前記熱間プレス成形部材のスポット溶接の電流範囲が1kA以上である、請求項6に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項8】
熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階、
前記素地鋼板を、重量%で、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して片面当たり10~40g/m
2のめっき量でめっきしてアルミニウムめっき鋼板を得る段階、
アルミニウムめっきの直後、640℃以上の温度まで0.1~5℃/秒の冷却速度で初期冷却を行う段階、及び
前記初期冷却後に連続して670~900℃の加熱温度範囲で1~20秒維持して熱処理するオンライン(on-line)合金化によってアルミニウム系めっき鋼板を得る段階を含む、アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウムめっき浴は、重量%で、Mg:1.1%以下をさらに含む、請求項8に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項8に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含む、請求項10に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、石油エネルギー資源の枯渇及び環境に関する関心の高まりに伴い、自動車の燃費向上に対する規制は、日々、強化されつつある。材料的側面から、自動車の燃費を向上させるための1つの方法として、用いられる鋼板の厚さを減少させる方法が挙げられるが、厚さを減少させる場合には、自動車の安全性に問題が生じる可能性があるため、鋼板の強度向上が確保される必要性がある。
【0003】
このような理由から、高強度鋼板に対する需要が継続的に発生し、様々な種類の鋼板が開発されている。ところが、かかる鋼板は、それ自体が高い強度を有するため加工性が不良であるという問題がある。すなわち、鋼板の等級別に強度と延伸率の積は常に一定の値を有する傾向を有していることから、鋼板の強度が高くなる場合には、加工性の指標となる延伸率が減少するという問題がある。
【0004】
かかる問題を解決するために、熱間プレス成形法が提案されている。熱間プレス成形法は、鋼板を加工しやすい高温で加工した後、これを低い温度で急冷することにより、鋼板内にマルテンサイトなどの低温組織を形成させ、最終製品の強度を高める方法である。この場合、高い強度を有する部材を製造するとき、加工性の問題を最小限に抑えることができるという利点がある。
【0005】
ところが、上記熱間プレス成形法によると、鋼板を高温で加熱する必要があることから鋼板の表面が酸化するにつれ、プレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程が追加されるという問題がある。かかる問題点を解決するための方法として、特許文献1が提案されている。この発明では、アルミニウムめっきを行った鋼板を熱間プレス成形または常温成形した後、加熱し急冷する過程(単に「後熱処理」とする)を用いている。アルミニウムめっき層が鋼板表面に存在するため、加熱時に鋼板が酸化することはない。
【0006】
一方、熱間プレス成形を経る場合、鋼板は1000MPa以上、場合によっては、1400MPa以上の強度を有することができ、最近では強度に対する要求水準がさらに高くなって、1800MPa以上の強度を有する場合もある。しかし、鋼板の強度が高くなると、水素遅延破壊に敏感になって少量の水素を含有する場合にも、鋼板が破断に至ることもある。また、アルミニウムめっき鋼板を熱間プレス成形する場合、鋼板の素地鉄から表面のめっき層までFeの拡散が起こるようになり、めっき層に合金化が起こり、このような合金化層によって熱間プレス成形時に浸透した水素が容易に抜けず、熱間プレス成形部材の耐水素特性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面としては、水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス成形用アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体的な事項から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面によるアルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、上記めっき層は、上記素地鋼板の表面に形成され、Fe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を含む合金化層、及び上記合金化層上に形成され、厚さが上記めっき層の厚さの10%未満のアルミニウム層を含み、上記めっき層の厚さは5~20μmであり、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素が10重量%以下である。
【0011】
上記めっき層は、重量%で、素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた合金組成100%とするとき、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0012】
上記めっき層は、重量%で、Mg:1.1%以下をさらに含むことができる。
【0013】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0014】
上記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含むことができる。
【0015】
本発明の他の一側面による熱間プレス成形部材は、上述したアルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間プレス成形部材であって、素地鋼板上にFeAl(Si)及びFe3Alのいずれか一つ以上からなる拡散層が形成され、上記拡散層の厚さが上記めっき層の全体厚さの90%以上であることができる。
【0016】
上記熱間プレス成形部材は、部材内の拡散性水素含有量が0.1ppm以下であり、上記熱間プレス成形部材のスポット溶接の電流範囲が1kA以上であることができる。
【0017】
本発明の他の一側面によるアルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、素地鋼板を用意する段階、上記素地鋼板を重量%で、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して片面当たり10~40g/m2のめっき量にめっきしてアルミニウムめっき鋼板を得る段階、アルミニウムめっきの直後、640℃以上の温度まで0.1~5℃/秒の冷却速度で初期冷却を行う段階、及び上記初期冷却後、連続して670~900℃の加熱温度範囲で1~20秒維持し、熱処理するオンライン(on-line)合金化を介してアルミニウム系めっき鋼板を得る段階を含む。
【0018】
上記アルミニウムめっき浴は、重量%で、Mg:1.1%以下をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0019】
上述したように、本発明は、熱間プレス成形前のアルミニウム系めっき鋼板において、アルミニウムめっき浴のSi含有量を調節し、めっき層の厚さを適宜制御した後、これを合金化させることで、熱間プレス成形部材で素地鋼板上に殆どが拡散層からなるめっき層を形成して、熱間プレス成形部材の耐水素抵抗性及びスポット溶接性を向上させることができる効果がある。
【0020】
また、めっき浴の組成のうちSi含有量を調節し、めっき層の厚さを薄く形成することにより、めっき層を形成した直後に連続して熱処理するオンライン(on-line)合金化熱処理を可能とし、製造コストが削減され、生産性が向上したアルミニウム系めっき鋼板の製造方法を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一側面による製造方法が実現された製造装置を概略的に示したものである。
【
図2】発明例4によって製造されたアルミニウム系めっき鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図3】比較例7によって製造されたアルミニウム系めっき鋼板の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図4】発明例4によって製造されたアルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形した後のめっき断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図5】比較例7によって製造されたアルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形した後のめっき断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一側面による熱間プレス用アルミニウム系めっき鋼板について詳細に説明する。本発明において、各元素の含有量を示すとき、特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。また、結晶や組織の割合は、特に異なって表現しない限り、面積を基準とする。
【0023】
[アルミニウム系めっき鋼板]
本発明の一実施形態によるアルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、上記めっき層は、素地鋼板の表面に形成され、Fe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を含む合金化層、及び上記合金化層上に形成され、厚さが上記めっき層の厚さの10%未満のアルミニウム層を含み、上記めっき層の厚さは5~20μmであり、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素が10重量%以下であることを特徴とする。
【0024】
まず、本発明の一実施形態によるアルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含む。また、上記めっき層は、上記素地鋼板の表面に形成され、Fe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を含む合金化層、及び上記合金化層上に形成されたアルミニウム層を含む。
【0025】
本発明の一実施形態によると、上記合金化層はFe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を含むことができる。また、上記合金化層はFe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を主に含むことができる。
【0026】
具体的に、本発明の一実施形態によると、上記合金化層はFe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上を50%以上含むことができ、80%以上含むことが好ましく、90%以上含むことがより好ましく、95%以上含むことが一層好ましい。
【0027】
すなわち、本発明の一実施形態によると、上記合金化層はFe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3のいずれか一つ以上の合金相を主に含み、不可避に含まれる不純物及びめっき浴に含まれる余地がある他の元素も少量含むことができる。
【0028】
例えば、本発明においてMgを添加すると、合金化層のうちAl-Fe系合金相にMgが一部含まれることもでき、合金化層はAl-Fe-Mg系合金相を含む他の合金相も含むことができる。
【0029】
素地鋼板にアルミニウムめっきした後、合金化熱処理を行うと、素地鋼板のFeがAl含有量の高いアルミニウムめっき層に拡散する。その結果、素地鋼板上には、拡散の結果、形成されたAl及びFeの金属間化合物から主になる合金化層が形成されることができる。これに制限されるものではないが、上記合金化層を主になすAl-Fe系金属間化合物の合金相としては、Fe3Al、FeAl(Si)、Fe2Al5及びFeAl3などが挙げられる。上述した合金化層上には元々めっき層成分と同一であるか、素地鋼板から少量拡散したFeを含むアルミニウム層が存在することもでき、場合によっては、完全合金化によって上記アルミニウム層は存在しないこともある。
【0030】
上記めっき層の厚さは5~20μmであることができる。上記めっき層の厚さが5μm未満であると、耐食性が低下し、これに対し、上記めっき層の厚さが20μmを超えると、溶接性が低下する問題が生じる。したがって、本発明において、上記合金めっき層の厚さは、5~20μmに制限することが好ましい。一方、上記めっき層の厚さは、6.2~19.5μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0031】
一方、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDS(Glow Discharge Spectrometer、グロー放電分析装置)を用いて測定した酸素が10重量%以下であることができ、7.4重量%以下であることがより好ましい。すなわち、本発明において、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素は、小さいほど好ましいため、下限は別に限定しなくてもよい。但し、本発明の一実施形態によると、誤差の範囲を含み、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDSを用いて測定した酸素は、0%超過10重量%以下であることができ、或いは0%超過7.4%以下であることができる。
【0032】
本発明では、アルミニウムめっき層を合金化する際、溶融アルミニウムめっき後に冷却せず昇温して、短い時間で合金化熱処理を行うため、めっき層の表面の酸素含有量が高くなることを効果的に抑制することができる。めっき層の表面の酸素含有量が10重量%を超えると、めっき鋼板の表面品質が低下することがある。一方、めっき層の表面での酸素含有量は、少ないほど有利であるため、その下限は別に制限しなくてもよい。
【0033】
一方、上記めっき層内の表面側、そして合金化層上には、主にアルミニウムからなるアルミニウム層が形成されていてもよい。本発明において、上記アルミニウム層の厚さは、上記めっき層の厚さの10%未満に制御することができ、場合によっては、十分な合金化がなされてアルミニウム層が存在しないこともある(すなわち、めっき層の厚さの0%も含む)。アルミニウム系めっき鋼板において、アルミニウム層と合金化層との間の界面は、不安定であるため、アルミニウム層の厚さがめっき層の厚さの10%以上と厚いと、合金化熱処理後に巻取るとき、アルミニウム層の剥離が発生するおそれがある。一方、アルミニウム層の厚さは、小さいほど好ましいため、その下限は別に限定しなくてもよい。一方、上記アルミニウム層の厚さは、小さいほど好ましいため、上記アルミニウム層の厚さは、5%未満であることがより好ましく、1%未満であることがより好ましく、0%であることが一層好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態によると、上記めっき層は、重量%で、素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた残りの合金組成を100%とするとき、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。上記Siは、めっき層内でFeとの合金化を均一にする役割を果たし、このような効果を得るためには、少なくとも4%を超えて含まれる必要がある。一方、SiはFeの拡散を抑制する役割も果たすため、15%を超えて含有される場合、Feの拡散が過度に抑制され、本発明が所望するめっき層構造が得られなくなる。上記Si含有量は、4.5~14.1%であることが好ましく、6~13%であることがより好ましく、8~11%であることが一層好ましい。
【0035】
また、非制限的な一実施形態として、上記めっき層は、選択的に重量%で1.1%以下のMgをさらに含むことができる。Mgは添加される場合、めっき鋼板の耐食性を向上させる役割を果たし、合金化速度を増加させる効果も得られる。但し、上記Mg含有量が1.1%を超える場合には、合金化した後、及び/または熱間プレス成形後の表面に多量のMg酸化物が生成され、溶接性が低下する問題が生じることがあるため、本発明ではMg含有量を1.1%以下に制限することができる。また、上記Mgを0.9%以下に制限することがより好ましく、場合によっては、上記Mgを0.1%以下に制限することができる。また、場合によっては、上記めっき層はMgを含まなくてもよい。
【0036】
本発明の一実施形態によると、素地鋼板は、熱間プレス成形用鋼板として熱間プレス成形に使用される場合、特に制限しなくてもよい。但し、一つの非制限的な例を挙げると、素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、及びN:0.02%以下を含む組成を有することができる。
【0037】
C:0.04~0.5%
上記Cは、熱処理部材の強度を向上させるための必須元素であって、適正量で添加することができる。すなわち、熱処理部材の強度を十分に確保するために、上記Cは0.04%以上添加することができる。上記C含有量の下限は0.1%以上であることが好ましい。但し、その含有量が高すぎると、冷延材を生産する場合、熱延材を冷間圧延する際に熱延材の強度が高すぎ、冷間圧延性が大きく低下するだけでなく、スポット溶接性を大きく低下させるため、十分な冷間圧延性及びスポット溶接性を確保するために0.5%以下添加することができる。また、上記C含有量は、0.45%以下であることができ、0.4%以下に制限することがより好ましい。
【0038】
Si:0.01~2%
上記Siは、製鋼において脱酸剤として添加される必要があるだけでなく、熱間プレス成形部材の強度に最も大きく影響を与える炭化物の生成を抑制する役割を果たす。本発明では、熱間プレス成形におけるマルテンサイトの生成後に、マルテンサイトラス(lath)粒界に炭素を濃化させて残留オーステナイトを確保するために0.01%以上の含有量で添加することができる。また、圧延後の鋼板にアルミニウムめっきを行う際に、十分なめっき性を確保するために、上記Si含有量の上限を2%に定めることができる。上記Si含有量を1.5%以下に制限することも好ましい。
【0039】
Mn:0.01~10%
上記Mnは、固溶強化の効果を確保することができるだけでなく、熱間プレス成形部材においてマルテンサイトを確保するための臨界冷却速度を下げるために、0.01%以上の含有量で添加することができる。また、鋼板の強度を適切に維持することにより、熱間プレス成形工程の作業性を確保し、製造コストを削減し、スポット溶接性を向上させるという点から、上記Mn含有量は10%以下に制限することができる。上記Mn含有量は、9%以下であることが好ましく、場合によっては、8%以下であることができる。
【0040】
Al:0.001~1.0%
上記Alは、Siと共に製鋼において脱酸作用を行って、鋼の清浄度を高めることができ、上記効果を得るために、0.001%以上の含有量で添加することができる。また、Ac3温度が高すぎないようにして熱間プレス成形に必要な加熱が適切な温度範囲で行われるようにするために、上記Al含有量は、1.0%以下に制限することができる。
【0041】
P:0.05%以下
上記Pは、鋼内に不純物として存在し、できるだけその含有量が少ないほど有利である。したがって、本発明において、P含有量を0.05%以下に制限することができ、0.03%以下に制限することが好ましい。Pは少ないほど有利である不純物元素であるため、その含有量の上限を特に定める必要はない。但し、P含有量を過度に下げるためには、製造コストが上昇するおそれがあるため、これを考慮すると、その下限を0.001%とすることができる。
【0042】
S:0.02%以下
上記Sは、鋼中不純物として部材の延性、衝撃特性、及び溶接性を阻害する元素であるため、最大含有量を0.02%に制限し、さらに0.01%以下に制限することが好ましい。また、その最小含有量が0.0001%未満であると、製造コストが上昇するおそれがあるため、その含有量の下限を0.0001%とすることができる。
【0043】
N:0.02%以下
上記Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であって、スラブの連続鋳造時にクラック発生に対する敏感度を減少させ、衝撃特性を確保するためには、その含有量が少ないほど有利であることから、0.02%以下含むことができる。下限を特に定める必要はないが、製造コストの上昇などを考慮すると、N含有量を0.001%以上に定めることができる。
【0044】
本発明では、必要に応じて選択的に上述した鋼の組成に加えて、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに添加することができる。
【0045】
Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%
上記Cr、Mo及びWは、硬化能の向上と、析出強化の効果による強度及び結晶粒微細化を確保することができるため、これらの1種以上を含有量の合計基準で0.01%以上添加することができる。また、部材の溶接性を確保するために、その含有量を4.0%以下に制限することもできる。なお、これら元素の含有量が4.0%を超えると、効果が飽和するため、含有量を4.0%以下に制限することができる。
【0046】
Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%
上記Ti、Nb及びVは、微細析出物の形成によって熱処理部材の鋼板の向上と、結晶粒微細化によって残留オーステナイトの安定化、及び衝撃靭性の向上に効果があるため、これらのうち1種以上を含有量の合計で0.001%以上添加することができる。但し、その添加量が0.4%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、過度な合金鉄の添加によってコストの上昇を招くおそれがある。
【0047】
Cu+Ni:0.005~2.0%
上記Cu及びNiは、微細析出物を形成して強度を向上させる元素である。上述した効果を得るために、これらのうち一つ以上の成分の合計を0.005%以上にすることができる。但し、その値が2.0%を超えると、過度なコスト増加となるため、その上限を2.0%とすることができる。
【0048】
Sb+Sn:0.001~1.0%
上記Sb及びSnは、Al-Siめっきのための焼鈍熱処理において、表面に濃化してSiまたはMn酸化物が表面に形成されることを抑制することで、めっき性を向上させることができる。このような効果を得るためには0.001%以上添加することができる。但し、その添加量が1.0%を超えると、過度な合金鉄のコストがかかるだけでなく、スラブの粒界に固溶し、熱間圧延時のコイルのエッジ(edge)クラックを誘発させる可能性があるため、その上限を1.0%とする。
【0049】
B:0.0001~0.01%
上記Bは、少量の添加でも硬化能を向上させるだけでなく、旧オーステナイト結晶粒界に偏析されて、P及び/またはSの粒界偏析による熱間プレス成形部材の脆性を抑制することができる元素である。したがって、Bは0.0001%以上添加することができる。但し、0.01%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間圧延において脆性をもたらすため、その上限を0.01%とすることができる。一実施形態では、上記B含有量を0.005%以下にすることができる。
【0050】
上述した成分以外の残部としては、鉄(Fe)及び不可避不純物が挙げられるが、熱間プレス成形用鋼板に含まれることができる成分であれば、特に追加的な添加を制限しない。
【0051】
上述した構成のめっき層からなるアルミニウム系めっき鋼板を880~950℃の温度範囲で3~10分の熱処理後に、熱間プレス成形して熱間プレス成形部材を製造すると、めっき層の90%以上がFeAlSi及びFe3Alのいずれか一つ以上からなる拡散層で形成されることができるため、熱間プレス成形時に鋼材内に浸透した水素が容易に抜け出し、鋼材内の拡散性水素含有量が0.1ppm以下を満たして耐水素の特性を向上させることができる。また、スポット溶接の電流範囲が1kA以上を満たしてスポット溶接性を向上させることができる。
【0052】
次に、本発明の他の一側面による熱間プレス成形用アルミニウム系めっき鋼板の製造方法を詳細に説明する。但し、下記熱間プレス成形用アルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、一例示であるだけであって、本発明の熱間プレス成形用アルミニウム系めっき鋼板が必ずしも本製造方法によって製造される必要があるというわけではなく、如何なる製造方法であっても本発明の特許請求の範囲を満たす方法であれば、本発明の各実施形態を実現するのに何ら問題がないことに留意する必要がある。
【0053】
[アルミニウム系めっき鋼板の製造方法]
本発明の他の一側面によるアルミニウム系めっき鋼板は、熱間圧延または冷間圧延された素地鋼板の表面に重量%で、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴を用い、片面当たり10~40g/m2のめっき量で溶融アルミニウムめっきを行い、めっき工程に連続して初期冷却した後、すぐに熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことで得られる。
【0054】
アルミニウムめっき鋼板を得る段階
本発明の一実施形態では、素地鋼板を用意し、上記素地鋼板を重量%で、Si:4%超過15%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して素地鋼板の表面に片面当たり10~40g/m2のめっき量でアルミニウムをめっきすることで、アルミニウムめっき鋼板を得ることができる。一方、上記めっき量は15~38g/m2であることがより好ましい。また、選択的にめっき前の鋼板に対して焼鈍処理を行うこともできる。
【0055】
上記Siは、めっき層内でFeとの合金化を均一にする役割を果たす元素であって、上記効果を得るためには、少なくとも4%を超えて含むことができる。但し、SiはFeの拡散を抑制する役割を果たすため、15%を超えて含有する場合、合金化速度が低下して十分な合金化を得ることが難しい。したがって、本発明において、めっき浴に含まれるSi含有量は4%超過15%以下に制限することができる。一方、上記Si含有量は、4.5~14.1%であることが好ましく、6~13%であることがより好ましく、8~11%であることが一層好ましい。
【0056】
一方、非制限的な一実施形態として、上記アルミニウムめっき浴には、Mgが選択的に添加されることができる。上記Mgは、アルミニウム系めっき鋼板の耐食性を向上させる役割を果たし、また、合金化速度を増加させる役割も果たす。但し、上記Mgが1.1%を超えて含まれると合金化した後、及び/または熱間プレス成形後の表面に多量のMg酸化物が生成され、溶接性が低下する問題が生じるおそれがある。したがって、本発明において選択的に含まれるMg含有量は、1.1%以下に制限することができる。一方、上記Mgを0.9%以下に制限することがより好ましく、場合によっては、0.1%以下に制限することができる。また、場合によっては、上記めっき浴はMgを含まないことができる。
【0057】
初期冷却段階
上記アルミニウムめっき後、640℃以上の温度範囲まで0.1~5℃/秒の冷却速度で初期冷却を行うことができる。また、上記初期冷却は、より好ましくは640~680℃の温度範囲で行うことができ、上記冷却速度は1~4℃/秒であることができる。
【0058】
本発明において、アルミニウムめっき後の初期冷却は、均一な合金層を形成させる手段である点で重要である。冷却終了温度が640℃未満であると、後続のオンライン合金化熱処理で合金化のために、より多くの出力を加える必要があるため、設備の負荷が発生するおそれがあるという問題がある。
【0059】
一方、冷却速度が0.1℃/秒未満であると、めっき表面に凝固層が十分に生成されず、オンライン合金化の際、不均一な合金化が行われ、鋼板の表面特性が低下する問題を引き起こすおそれがある。これに対し、冷却速度が5℃/秒を超えると、過度にめっき層が冷却され、合金化のための所定温度を確保するために設備の負荷及び時間が長くなって、生産性を阻害するおそれがある。
【0060】
合金化熱処理してアルミニウム系めっき鋼板を得る段階
上記初期冷却後すぐに連続して熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことができる。また、合金化熱処理時の加熱温度範囲は、670~900℃であることができ、維持時間は1~20秒であることができる。
【0061】
本発明において、オンライン合金化熱処理は、
図1に示された概略図から分かるとおり、溶融アルミニウムめっき後に昇温して熱処理する工程を意味する。本発明によるオンライン合金化熱処理方式では、溶融アルミニウムめっき後のめっき層が冷却されて固まる前に合金化のための熱処理が開始されるため、短い時間で合金化が可能である。従来公知のアルミニウムめっき鋼板のめっき層の成分系では、合金化の速度が遅くて、短い時間内に十分に合金化を完了させることができなかったため、めっき後すぐに熱処理するオンライン(on-line)合金化方法を適用することが難しかった。しかし、本発明では、合金化速度に影響を与えるめっき浴成分、特にSi含有量及びめっき層の厚さを薄く形成することで1~20秒の短い熱処理時間にも関わらず、アルミニウムめっき層の合金化を効果的に完了することができる。
【0062】
上記加熱温度は、熱処理される鋼板の表面温度を基準とする。加熱温度が670℃未満であると、合金化が不十分になる問題が生じるおそれがある。これに対し、加熱温度が900℃を超えると、合金化の後に冷却させ難く、冷却速度を速くする場合は、素地鋼板の強度が非常に高くなる問題が生じるおそれがある。したがって、合金化熱処理時の加熱温度は、670~900℃に制限することが好ましく、680~880℃であることがより好ましく、700~800℃であることが一層好ましい。
【0063】
一方、合金化熱処理時の維持時間は、1~20秒に制限することができる。本発明における維持時間は、鋼板で上記加熱温度(偏差±10℃を含む)が維持される時間を意味する。上記維持時間が1秒未満であると、加熱時間が短すぎて、十分な合金化が行われない。これに対し、上記維持時間が20秒を超えると、生産性が低下しすぎる問題が生じるおそれがある。したがって、合金化熱処理時の維持時間は、1~20秒に制限することが好ましく、1.5~18秒であることがより好ましく、1~10秒であることが一層好ましい。
【0064】
上述のとおり、合金化を完了してから、熱間プレス成形を行い、成形部材として製造することができる。このとき、熱間プレス成形は、当該技術分野で一般的に用いられる方法を利用することができ、例えば、本発明によるアルミニウム系めっき鋼板を880~950℃の温度範囲で3~10分加熱した後、プレス(press)を用いて、上記加熱された鋼板を所望する形状に熱間成形することができるが、これに限定されるものではない。また、熱間プレス成形部材の素地鋼板の組成は、上述したアルミニウム系めっき鋼板の素地鋼板の組成と同一であることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0066】
(実施例)
まず、素地鋼板に下記表1の組成を有する熱間プレス成形用冷間圧延鋼板を用意し、上記素地鋼板表面に、下記表2に示しためっき浴組成及びめっき浴温度660℃でアルミニウムめっきを実施した。以後、下記表2に示した初期冷却及び合金化熱処理条件で初期冷却及び合金化熱処理を実施した。
【0067】
そして、合金化熱処理後に冷却した後、上記方法によって得られたアルミニウム系めっき鋼板の合金化めっき層の構造を光学顕微鏡または走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、めっき層及び合金化層の厚さを確認した。
【0068】
また、めっき層の剥離有無は60mm×60mm試験片を直径が5mmであるパンチを用いて3点曲げ試験をし、曲げ角度が30度であるとき、めっき層の剥離が発生する場合を×、発生しない場合を〇と表示した。
【0069】
また、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDS(米国LECO社GDS 850A使用)を用いて酸素含有量を測定し、下記表3に示した。
【0070】
【0071】
【0072】
以後、それぞれのアルミニウム系めっき鋼板について大気雰囲気において、930℃で6分間鋼板を加熱した後、熱間プレス成形を行って熱間プレス成形部材を得た。その後、上記部材のめっき層構造を観察して拡散層の厚さの割合を測定し、拡散性水素含有量及びスポット溶接性を測定して表3に示した。拡散性水素含有量は、ガスクロマトグラフィー法を用いて試験片を300℃まで加熱して放出される水素含有量を測定し、スポット溶接性はISO 18278に基づいて評価し、電流範囲を分析した。
【0073】
【0074】
上記表1~3から分かるとおり、発明例1~9は、本発明で提示するアルミニウムめっき条件、めっき層及びアルミニウム層の厚さの条件、合金化熱処理条件をすべて満たし、部材における拡散層の厚さの割合が90%以上であり、これにより、部材内の拡散性水素含有量が0.1ppm以下であり、スポット溶接の電流範囲が1kA以上を満たして水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れたことが確認できる。
【0075】
しかし、比較例1は、初期冷却が本発明の範囲から外れて過度に冷却され、これにより、670℃未満の低い温度で合金化熱処理が実施されて合金化が不十分になった。その結果、めっき層の剥離が観察され、部材内の拡散性水素含有量が0.1ppmを超えた。一方、比較例2は、合金化熱処理温度が高すぎる場合であって、合金化は十分に行われたが、表層の酸素含有量が高くなりすぎて、スポット溶接性が低下した。
【0076】
一方、比較例3~6は、それぞれ合金化熱処理温度や時間が本発明の範囲から外れた場合である。比較例3及び4は、合金化熱処理温度が低いか時間が十分でない場合であって、めっき層の剥離が観察され、合金化が十分に起こらず、アルミニウム層の厚さがめっき層の厚さの10%以上に形成された。比較例5及び6は、過度の合金化熱処理が実施された場合であって、十分な合金化が行われたが、スポット溶接性が低下したことが確認できる。
【0077】
比較例7は、過度のめっき量でアルミニウムめっきされた場合であって、めっき層の厚さが厚くなりすぎて合金化が十分に行われず、このため、拡散性水素含有量が高くなり、水素脆性の抵抗性が低下した。
【0078】
一方、比較例8は、Mg含有量が過度に添加された場合であって、表面に多量のMg酸化物が生成されて表層の酸素含有量が高く測定され、スポット溶接性が0.2kAと非常に低下したことが確認された。また、比較例9は、Si含有量が未達の場合であって、合金化層が厚く形成され、スポット溶接性も低下した。
【0079】
以上で説明したように、本発明の詳細な説明では、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変形が可能であることはもちろんである。したがって、本発明の権利範囲は説明された実施例に限定されるものではなく、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによって定められなければならない。
【符号の説明】
【0080】
1 熱処理炉
2 アルミニウムめっき浴
3 初期冷却装置
4 合金化熱処理装置
【国際調査報告】