IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マティムの特許一覧

特表2022-510347アミノ酸の存在下で二酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法
<>
  • 特表-アミノ酸の存在下で二酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法 図1
  • 特表-アミノ酸の存在下で二酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】アミノ酸の存在下で二酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20220119BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C01G25/02
C01G25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531375
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(85)【翻訳文提出日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2019082930
(87)【国際公開番号】W WO2020109477
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】1872183
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521234917
【氏名又は名称】マティム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アマンディーヌ・ヴニエ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・コンポシルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル・コメサーニャ-エルモ
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AD10
4G048AE06
4G048AE08
(57)【要約】
本発明は、水の存在下、7未満のpH、及びアミン官能基に対する酸官能基の比が1以上で存在する少なくとも4個の炭素原子を含む少なくとも1つのアミノ酸の存在下で、ジルコニウムIV化合物を水熱処理することにより、二酸化ジルコニウムZrO2のナノ粒子を製造する方法に関する。本発明はまた、水中で40質量%の濃度で測定される、400nmで20%以上、800nmで95%以上の可視スペクトルの透過率を示す、二酸化ジルコニウムナノ粒子にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下、7未満のpH、及びアミン官能基に対する酸官能基の比が1以上である少なくとも4個の炭素原子を含む少なくとも1つのアミノ酸の存在下で、ジルコニウムIV化合物を水熱処理することにより、二酸化ジルコニウムZrO2のナノ粒子を調製する方法。
【請求項2】
水熱処理が、100℃以上の温度、及び2MPa以下の圧力で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジルコニウムIV化合物が、ハロゲン化ジルコニウムから成る群から選択され、好ましくはジルコニウムIV化合物がオキシ塩化ジルコニウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アミノ酸が、アミノブタン酸、アミノペンタン酸、及びアミノヘキサン酸から成る群、好ましくは4-アミノ酪酸、ノルバリン、5-アミノ吉草酸、及び6-アミノカプロン酸から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸が、in situで加水分解により、有利にはラクタムの群から、有利にはピロリドン、N-メチルピロリドンから成る群から選択されるアミノ酸前駆体から生成されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水熱処理の水が、ジルコニウムIV化合物の水和した形態のみから得られることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水熱処理が、0.1MPa~0.6MPaの圧力で行われることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸が、ジルコニウムIV化合物に対して1~50、有利には3~30のモル比で存在することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水熱処理が、1つ又は複数のドーパント源、好ましくはイットリウム源、及び/又はセリウム源、及び/又はガドリニウム源の存在下で行われることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
20℃で10mmの光路長により、水中で40質量%の濃度で測定される、400nmで20%以上、800nmで95%以上の可視透過率を示す、二酸化ジルコニウムナノ粒子。
【請求項11】
水中で40質量%の濃度で、1~10mPa.s、有利には2~8mPa.s、更により有利には2~6mPa.sの粘度を示すことを特徴とする、請求項10に記載の二酸化ジルコニウムナノ粒子。
【請求項12】
水中の分散体において、40質量%の濃度で1.40以上及び1.90以下、65質量%の濃度で1.50以上及び2.00以下の屈折率を示すことを特徴とする、請求項10又は11に記載の二酸化ジルコニウムナノ粒子。
【請求項13】
水中の分散体において、1~7、より有利には1~4、更により有利には1~2、更により有利には1~1.5の分散体指数を示すことを特徴とする、請求項10から12のいずれか一項に記載の二酸化ジルコニウムナノ粒子。
【請求項14】
2.0~2.2、有利には2.10~2.15の屈折率を有することを特徴とする、請求項10から13のいずれか一項に記載の二酸化ジルコニウムナノ粒子。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか一項に記載の二酸化ジルコニウムZrO2のナノ粒子を含む分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸の存在下で行われる水熱処理により二酸化ジルコニウムナノ粒子を調製する方法に関する。本発明は、特に分散体の形態の、これらのナノ粒子の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な工業分野において二酸化ジルコニウム(ジルコニア)ナノ粒子に対する強い関心がある。二酸化ジルコニウムZrO2のナノ粒子を調製する技術の1つは、ジルコニウム化合物、特にジルコニウムの酸化度が4であるジルコニウム塩を水熱処理することにある。したがって、水熱処理によるZrO2粒子の調製の際、ジルコニウムは酸化も還元もされず、その酸化の度合いは変化しない。
【0003】
二酸化ジルコニウムは、結晶の形態であり、温度、ドーパントの存在、及び結晶のサイズに応じて、3種の異なる結晶構造:単斜晶、正方晶、及び立方晶を有する。ナノメートルサイズの粒子について、正方相及び立方相はX線回折測定法(XRD)により区別するのが困難であり、先行技術及び本発明の説明において、それらは共に「正方晶/立方晶」の名前で分類される。単斜晶相は他の2つと容易に区別される。調製方法を調整することにより、これらの結晶構造のいずれかを優先させることが可能である。
【0004】
しかしながら、結晶化度、コロイド安定性、狭い多分散性、及び透明性に関して改善された特性を示す二酸化ジルコニウムナノ粒子の安定した分散体の調製は、依然として現実的な課題である。実際に、これまで利用可能な方法のほとんどが、コロイド安定性を有する粒子のサイズを弱く制御しており、これは大幅に改善することができる。特に、これらの分散体は一般に高いレベルの凝集を示し、これは所望の最終製品の特性に悪影響を与える。
二酸化ジルコニウムナノ粒子は特にナノコンポジット及びセラミック材料の調製において使用することができる。
【0005】
セラミック材料及びセラミック複合材の場合、添加剤として、主成分、又は第2の成分としての二酸化ジルコニウムのコロイド分散体の使用は、微細構造及び多孔性をより良好に制御できることから、改善された光学特性、熱的特性、及び機械的特性を得ることを可能にし得る。コロイド分散体の使用は、そのような分散体を必要としない方法と比較して熱処理の温度を低下させることを可能にし、このことは複合材においてより良好に分散されたより微細なミクロ構造又は結晶を一般に得ることを可能にする。
【0006】
これらのセラミックの用途の中で、緻密な又はナノ多孔性のコーティング、ジルコニアに基づく高透過率ナノセラミックの製造、ジルコニア/アルミナに基づくナノコンポジットの製造、焼結添加剤としての使用、2D及び3D印刷用のセラミックインクの調製を挙げることができる。
【0007】
ナノコンポジットの場合、二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体は一般にモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はプレポリマー樹脂と混合される。高い割合のジルコニアナノ粒子を含有するナノコンポジット材料は、マトリックスと比較して向上した屈折率、耐摩耗性、弾性率、及び放射線不透過性、並びに低減された収縮を示す。同時に、ナノ粒子がマトリックス中で凝集しておらず十分に小さいサイズを有する場合、ナノコンポジット材料は可視光において高い透過率を維持することができる。材料の全透過率(T)は、一定の厚さの前記材料を通って透過した光束の入射光束に対する比に相当し、0~1の値又は対応するパーセンテージ(T%)で表すことができる。
【0008】
これらの複合材の用途の中で、歯科分野(複合材、ニス、接着剤)、光学、電子機器及びエネルギー(高屈折率、反射防止、及びスクラッチ防止コーティング)、照明(デバイスから光を取り出すための高屈折率コーティング、例えば、OLED、及びHB-LED)、及び化粧品を挙げることができる。
【0009】
更に、これらの用途に関連して、ナノ粒子の分散体から得られる複合材料の美的外観を著しく変化させないように、分散体が高い可視透過率を有することが好ましい。
【0010】
これまで安定した分散体が利用可能であるにもかかわらず、それらの調製に付随する技術的問題に主に起因して、それらは一般にナノ粒子においてはあまり濃縮されない。実際に、高濃度では、二酸化ジルコニウムナノ粒子は凝集する傾向があり、一方分散体はゲル化する。加えて、一般に、二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体の透過率は二酸化ジルコニウムナノ粒子の濃度が増加するにつれて低下する。
【0011】
欧州特許第2,371,768B1号は、30質量%の濃度において、400nmで最大44.3%、800nmで最大98.2%の透過率、及び25℃で20mPa.s未満の粘度を示す、酸化ジルコニウムの水性分散体を記載している。
【0012】
米国特許出願公開第2005/123465号の文献は、ZrO2粒子の分散体を調製する方法及びカプロン酸によるそれらの改質の方法を記載している。この方法は、ZrO2コロイドのコロイド分散体を得る工程、及びこれをアミノカプロン酸を含有する溶液と混合する工程から成る。これはアミノ酸の存在下での水熱処理による合成ではない。
【0013】
仏国特許第2,899,906号の文献は、アセチルアセトン、プロパノール、及びパラトルエンスルホン酸の存在下における、ジルコニウムテトライソプロポキシドからの金属酸化物のナノ粒子の調製を記載している。ZrO2粒子が得られたら、それらをアミノカプロン酸と混合させてもよい。これはアミノ酸の存在下での水熱処理ではない。
【0014】
Linら(Materials Chemistry and Physics、206 (2018年)、136~143頁)は、LEDを封入するためのジルコニアとシリコーンに基づくハイブリッド化合物を記載している。このハイブリッド化合物から得られるフィルムは、400~800ナノメートルの波長で95%を超える透過率を示す。
【0015】
Perreiraら(Materials Chemistry and Physics、152 (2015年)、135~146頁)は、ジルコニウムIV化合物、及びヒ素III型ドーパント、及び/又はL-システインを塩基性pHにおいてアルコール中、室温で混合することによる、ZrO2に基づく粒子の合成を記載している。これは酸性pHにおける水熱処理ではない。
【0016】
いずれにしても、使用者が粉末製品を扱う必要がない限り、二酸化ジルコニウムナノ粒子において濃縮された分散体を得ることは、これらのナノ粒子の取り扱いを容易にすることを可能にする。実際に、粉末を得ることが梱包及び輸送に関して有利であることがわかったとしても、濃縮された分散体はそれが安定しているならばナノ粒子の取り扱いを容易にする。
【0017】
一方で、分散体の安定性は、均一に分散しているナノ粒子の投入量の制御を可能にする。最終的に、ナノ粒子の透明分散体を得ることは、特定の分野において、例えば歯科分野において特に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第2,371,768B1号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/123465号
【特許文献3】仏国特許第2,899,906号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Linら、Materials Chemistry and Physics、206 (2018年)、136~143頁
【非特許文献2】Perreiraら、Materials Chemistry and Physics、152 (2015年)、135~146頁
【非特許文献3】J. Humlicek、「Data Analysis for Nanomaterials: Effective Medium Approximation、Its Limits and Implementations」、Ellipsometry at the Nanoscale、2013年、145~178頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
同様に、文献に記載される、このタイプの材料を調製する方法は実験条件(圧力、温度、又は水熱処理時間)を含み、これは工業規模でのそれらの実施を困難にする。あらゆるこれらの制限を考慮すると、比較的おだやかな合成条件を維持しながら、良好なコロイド分散体、良好な透過率、及び良好な結晶化度を有する相当量のZrO2ナノ粒子を生産することが可能な技術的方法の開発は、依然として探求しようとする主題である。そのため、そのような開発はそれ自体が、多くの技術分野において特に興味を引く材料であるジルコニアの高品質ナノ分散体の工業化において、非常に重要な前進となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
出願人は、きわめて予想外にも、アミノ酸の存在下で水熱処理により二酸化ジルコニウムナノ粒子を調製することにより、合成条件を和らげ二酸化ジルコニウムナノ粒子の濃度及び分散体の品質を高めることが可能であることを見出した。
【0022】
より具体的には、本発明は、水の存在下、7未満のpH、及びアミン官能基に対する酸官能基の比が1以上である少なくとも4個の炭素原子を含む少なくとも1つのアミノ酸の存在下で、ジルコニウムIV化合物を水熱処理することにより、二酸化ジルコニウムZrO2のナノ粒子を調製する方法に関する。
【0023】
本発明はまた、水中で40質量%の濃度で測定される、400nmで20%以上、800nmで95%以上の可視透過率を有する二酸化ジルコニウムナノ粒子にも関する。
【0024】
本発明はまた、二酸化ジルコニウムZrO2の前記ナノ粒子の分散体にも関する。これらのナノ粒子は、従来の安定化剤により、又は酸官能基/アミン官能基の比が1以上である少なくとも4個の炭素原子を含む少なくとも1つのアミノ酸により、安定化させることができる。より正確には、ZrO2のナノ粒子の分散体は、最大80質量%のZrO2ナノ粒子を含むことが可能であり、40質量%の分散体において、有利には400nmの波長で20%から最大83%までの範囲、有利には800nmの波長で95%から最大99.9%までの範囲の透過率を有することが可能である。
【0025】
前記分散体はまた、水中で40質量%において有利には1mPa.s以上及び10mPa.s以下の非常に低い粘度も有する。更に、分散体はより高濃度で高い透過率を維持する。65質量%の分散体は、400nmの波長では15%から、有利には45%から、最大で75%までの範囲、800nmでは85%から、有利には95%から、最大で99%までの範囲の透過率を有する。更に、前記分散体は、有利には40質量%の濃度では1.40以上、65質量%の濃度では1.50以上の高い屈折率を有する。
【0026】
更に、水による精製後の分散体は、有利には15質量%以下、より有利には8質量%以下、更により有利には5質量%以下、更により好ましくは3.5質量%以下、の非常に低レベルの有機物質を有する。
【0027】
また、前記分散体は、有利には1~7、より有利には1~4、更により有利には1~2、更により有利には1~1.5の非常に低い分散指数も有する。
【0028】
本発明はまた、アミノ酸安定化剤を有する粉末形態のナノ粒子にも関する。特に、粉末は上記の分散体を乾燥させることにより得られる。以下、「粒子」という用語も、ZrO2ナノ粒子を表すのに使用することができる。
【0029】
本発明及び本発明から得られる利点は、本発明を限定しないで説明するために示される以下の図及び実施例から明らかとなることになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例16の二酸化ジルコニウムナノ粒子のTEM像を示す図である。
図2】本発明による分散体の様々な試料の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
ジルコニウムIV化合物
上記で示すように、本発明による方法は、ジルコニウムIV化合物の水熱処理により二酸化ジルコニウムナノ粒子を得ることを可能にする。
有利には、本発明による方法で使用されるジルコニウムIV化合物は、ハロゲン化ジルコニウムから成る群から選択される。好ましくは、ジルコニウムIV化合物はオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)である。
【0032】
好ましい実施形態において、ジルコニウムIV化合物は、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)等の、水和した形態である。水和した形態のジルコニウムIV化合物により供給される水分子が十分である場合があり、そのため水熱処理を行うために水を加える必要がないので、この実施形態は有利である。
【0033】
特定の実施形態において、水熱処理の水はジルコニウムIV化合物の水和した形態のみから得られる。
【0034】
本発明による方法で使用されるジルコニウムIV化合物は二酸化ジルコニウムではないことに注意するべきである。
【0035】
アミノ酸
本発明によれば、アミノ酸は少なくとも4個の炭素原子、有利には4~12個の炭素原子、より有利には4~6個の炭素原子を含む。
アミノ酸のアミン官能基は、第1級、第2級、又は第3級であってもよい。しかし、第1級アミン官能基が好ましい。第2級及び第3級アミン官能基の考えられる炭素原子はアミノ酸の炭素原子の数に算入される。
【0036】
アミノ酸の酸官能基はカルボン酸官能基C(=O)OHであり、その炭素原子はアミノ酸の炭素原子の数に算入される。
【0037】
アミノ酸は直鎖状又は分岐鎖であってもよい。しかし有利には直鎖状である。
【0038】
アミノ酸は水熱処理の条件(温度、圧力)に影響を与えるだけでなく、多分散性、及び二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体の可視範囲の透過率にも影響を与える。
【0039】
本発明によれば、水熱処理は酸官能基/アミン官能基の比が1以上であるアミノ酸の存在下で行われる。この比は好ましくはおよそ1である。
【0040】
実際には、出願人は、アミノ酸が酸官能基よりも多くのアミン官能基を有する場合、安定した二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体を得ることは不可能であることに気づいた。したがって、リジン等のアミノ酸は、本発明の条件下で安定している二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体を得ることを可能にしない。
特定の実施形態において、アミノ酸はいくつかの酸官能基及びいくつかのアミン官能基を含んでいてもよい。
【0041】
別の特定の実施形態において、アミノ酸はいくつかの酸官能基及び1つのアミン官能基を含んでいてもよい。
【0042】
好ましい実施形態において、アミノ酸は1つの酸官能基及び1つのアミン官能基を含む。
【0043】
別の特定の実施形態において、いくつかのアミノ酸をこの方法で使用してもよい。
【0044】
したがって、アミノ酸は好ましくは、単独で又は混合物として、アミノブタン酸、アミノペンタン酸、アミノヘキサン酸、アミノヘプタン酸、アミノオクタン酸、アミノノナン酸、アミノデカン酸、アミノウンデカン酸、及びアミノデカン酸から成る群から、より好ましくはアミノブタン酸、アミノペンタン酸、及びアミノヘキサン酸から成る群から、更により好ましくは単独で又は混合物として、4-アミノ酪酸とも呼ばれる4-アミノブタン酸、ノルバリンとも呼ばれる2-アミノペンタン酸、5-アミノ吉草酸とも呼ばれる5-アミノペンタン酸、及び6-アミノカプロン酸とも呼ばれる6-アミノヘキサン酸から成る群から選択される。
【0045】
特定の実施形態において、アミノ酸はin situで加水分解によりアミノ酸前駆体から生成される。「アミノ酸前駆体」という用語は、アミン官能基及び酸官能基の両方は有しておらず、水の存在下、本発明による水熱処理の条件下でアミノ酸へ転化させることができる分子を意味すると理解される。言い換えれば、この特定の実施形態において、アミノ酸は反応媒体中に導入されない。加水分解されたときにアミノ酸を生成する化合物のみが導入される。
【0046】
アミノ酸前駆体の好ましいファミリーは、ラクタムのファミリーである。したがって、有利には、アミノ酸前駆体は、ピロリドン及びN-メチルピロリドン(NMP)から成る群から選択される。
【0047】
別の特定の実施形態において、この方法はアミノ酸及びアミノ酸前駆体の存在下で行われる。したがって、この実施形態において、この方法は2種のアミノ酸源を用いて行われる。前駆体から得られるアミノ酸は、そのままの状態で導入されるアミノ酸と同じであってもよく、又は異なるアミノ酸であってもよい。
【0048】
酸を単独で、アミンを単独で、又はその2つの混合物で使用すると、アミノ酸又はアミノ酸の混合物を使用するのと同じ利点は得られないことに注意するべきである。
【0049】
本発明とは異なる方法により得られるジルコニアナノ粒子のアミノ酸による官能化は、水熱処理の際にアミノ酸又はアミノ酸の混合物を使用するのと同じ利点をもたらさないことに注意するべきである。言い換えれば、アミノ酸の非存在下でジルコニア粒子を調製し、次いでこれらの粒子をアミノ酸により官能化すると、本発明によるZrO2ナノ粒子の特性を有する粒子を得ることができない。
【0050】
水熱処理操作条件
本発明によれば、ジルコニウムIV化合物に水熱処理を施して二酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する。この処理は不活性雰囲気下(例えばアルゴン下又は窒素下)で、又は空気中で、有利には空気中で行うことができる。
【0051】
有利には、水熱処理は、100℃以上、好ましくは150℃以上、より有利には170~220℃、更により有利には180~200℃の温度で行われる。
【0052】
当業者は、特に選択される温度及び圧力の関数として、いかにして水熱処理の継続時間を選択するかを知っている。一般に、水熱処理の継続時間が長くなると、結晶形態のナノ粒子の良好な生成を確実にするのに必要な方法の温度を低下させることができる。例として、継続時間は48時間未満であってもよく、又は更には24時間未満であってもよい。好ましい実施形態によれば、継続時間は60分~180分であってもよい。
【0053】
しかし、実験条件によっては、水熱処理を確実にするのに温度の上昇で十分である場合がある。これは特に、水熱処理が少なくとも180℃の温度で、例えば有利には数℃毎分、より有利にはおよそ10℃毎分の十分に遅い上昇によって行われる場合に当てはまる。
【0054】
したがって、本発明による方法を連続的に又はバッチ式(「バッチ」法)で実施することが可能である。
【0055】
当業者は、選択される方法の実施方法及びナノ粒子製造に関する所望の収率に応じて、いかにして実験条件を適合させるか、特に水熱処理の際の温度及び継続時間だけでなく温度の上昇をいかにして適合させるかを知ることになる。
【0056】
好ましくは、水熱処理は、0.1MPa以上の圧力で行われる。有利には、水熱処理は、2MPa以下、より好ましくは0.1~2MPa、更により好ましくは0.12~1.5MPa、更により好ましくは0.15~0.6MPaの圧力で行われる。したがって、水熱処理は0.1MPa~0.6MPaの圧力で行うことができる。
【0057】
したがって、アミノ酸の使用は、先行技術の方法と比較して有利な条件下で稼働させることを可能にし、このことはより安価な装置を使用することを可能にする。例えば、0.6MPaの最大圧力を得るのにオートクレーブサイズの装置を使用することができる。
【0058】
一般に、水熱処理の圧力は反応に使用される温度及び化合物から生じる。場合により、圧力は有利には不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンによって上昇させてもよい。
【0059】
この処理は7未満のpHで、より有利にはpH1~6で、更により有利にはpH3~5で行われる。しかし、アミノ酸の他に、この方法は有利にはブレンステッド酸を導入せずに行われる。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、ジルコニウムIV化合物と水との反応が、H+イオンの生成により反応媒体を酸性化させる可能性がある。有利には、水熱処理を行う前にブレンステッド酸塩基は導入されない。
【0060】
水熱処理がさらなる水の存在下で行われる場合、アミノ酸濃度は有利には1~13mol.l-1、より有利には1.5~4mol.l-1である。やはりさらなる水の存在下で、ジルコニウムIV濃度は有利には0.1~8mol.l-1、より有利には0.5~2mol.l-1である。
【0061】
既に示したように、本発明による方法は水和した形態で使用されるジルコニウムIV化合物によって行われてもよく、この場合、水を加える必要はない。言い換えれば、水を供給することが可能であっても、水和した形態のジルコニウムIV化合物の水分子の数は水熱処理を行い二酸化ジルコニウムナノ粒子をもたらすのに十分である。したがって、特定の実施形態において、水はジルコニウムIV化合物の水和した形態のみから得られる。この実施形態はアミノ酸前駆体が使用される場合にも適用可能である。
【0062】
この特定の実施形態において、使用される水の量を大幅に減少させてもよいという事実に加えて、出願人が圧力を大幅に低下させることができることに気づいたために、特に有利である。実際に、この特定の実施形態において、0.1MPa以上及び0.6MPa以下、より有利には0.4MPa以下の圧力で水熱処理を行うことが可能である。
【0063】
水を加えずに水熱処理を行うと一般には粘性のペーストが生じる。驚くことに、この粘性のペーストは容易に水中に分散させることができ、二酸化ジルコニウムナノ粒子の安定した分散体を得ることができる。
【0064】
有利には、アミノ酸はジルコニウムIV化合物に対して少なくとも1、より有利には1~50、更により有利には2~50、更により有利には3~30のモル比で存在する。
【0065】
アミノ酸のジルコニウム化合物に対するモル比が1未満である場合、加えられるアミノ酸の量は合成されるナノ粒子の表面全体と相互作用するのに十分ではない。この不足は、安定化剤の非存在下での水性媒体中のジルコニウム前駆体の水熱処理により得られるものと同様の、異方性単斜晶系ZrO2ナノ粒子の多分散性凝集物の生成を引き起こす。
【0066】
有利には、二酸化ジルコニウムナノ粒子に、遷移金属、例えばイットリウム及び/又はランタニド、例えばガドリニウム及び/又はセリウム、より詳細にはこれらの金属の酸化物、好ましくはY2O3、CeO2、又はGd2O3を含めた、異なるドーパントをドープすることができる。これを行うために、水熱処理は、1つ又は複数のドーパント源、好ましくはイットリウム源、及び/又はセリウム源、及び/又はガドリニウム源の存在下で行われてもよい。好ましくは、イットリウム源はYCl3である。好ましくは、セリウム源はCeCl3である。好ましくは、ガドリニウム源はGdCl3である。
一般に、ドーパント源は水和されていてもよく、又は水和されていなくてもよい。
【0067】
一般に、ドーピング元素源はジルコニウムIVに対して最大で20mol%、有利には最大で12mol%、及び有利には0.1mol%以上、より有利には1mol%以上で導入される。したがって、ドーピング元素源は特に0.1~20mol%であってもよい。
【0068】
一般に、ドーピング元素源は水熱処理の前に反応媒体へ導入される。
【0069】
ドーピングは特定の特性を改善することを可能にする。例えばイットリウム、セリウム、及びガドリニウムの場合、ドーピングは特に粒子のサイズ、モルフォロジー、及び結晶相を改質することを可能にする。一般に、これらの元素の制御されたドーピングにより、粒子はより小さいサイズ、より高い正方相の含量、及びより球状のモルフォロジーを示す。更に、これらのナノ粒子から緻密なセラミック材料を製造する際、ドーピング元素の存在が、ドーピング率に応じて、正方相を室温において準安定状態で安定化させることも可能にし、クラックがなく注目すべき機械的特性である靱性及び耐破損性を有する固体セラミック材料を得ることを可能にする。ドーパントの量を増加させて高イオン導電性又は高透過率を有する材料を得ることにより、立方相も材料の一部又はすべてにおいて安定化させることができる。焼結熱処理の際、ドーピング元素の存在が、結晶粒の成長を制限してより微細なミクロ構造を得ることを可能にし、多くの場合に硬度の向上及び機械的特性の向上を伴う。
【0070】
本発明による方法は、ZrO2ナノ粒子を精製する工程も含んでいてもよい。この工程は例えば水により洗浄する及び/又はすすぐことにより行ってもよい。特に、この工程は官能化剤及び/又は安定化剤としてナノ粒子と相互作用しないアミノ酸分子を除去することを可能にする。
【0071】
ZrO2ナノ粒子は、例えば粉末を得るために乾燥させることにより単離させてもよい。次いでそれらを流体中、例えば水、アルコール、特にグリセロール又はプロピレングリコール中に分散させてもよい。
【0072】
ZrO2ナノ粒子
既に述べたように、本発明は、アミノ酸で安定化され、40質量%の分散体において400nmの波長で有利には20%から最大83%まで、有利には800nmの波長で95%から最大99.9%までの範囲の透過率を示す、最大80質量%までの範囲の二酸化ジルコニウムナノ粒子の水中分散体にも関する。本発明はまた、有利にはアミノ酸で安定化された、粉末形態のナノ粒子にも関する。アミノ酸は有利には水熱処理により得られる。
【0073】
透過率とは、全透過率、すなわち直接透過率(「直線透過率」に相当する)及び間接的透過率(「拡散透過率」に相当する)の和を指す。
【0074】
分散体の全透過率は一般に、20℃の水中で、例えばダブルビーム分光光度計、例えばJASCO社のV-670モデル等により、室温で測定される。10mmの光路長を有する石英キュベットを使用する。ZrO2ナノ粒子を水中に所望の濃度で分散させる。脱イオン水を満たしたセルについて測定される透過率に対するパーセンテージとして記載される、分散体について測定される透過率値は、可視領域(380~780nm)を含めた200nm~1000nmの範囲の入射波長の増加関数である。例えば、600nmで測定される値は400nmで測定される値よりも大きくなり、800nmで測定される値よりも小さくなる。固定波長での全透過率値は一般に、ナノ粒子の濃度が減少するにつれて増加する。一方で、全透過率はZrO2ナノ粒子の濃度に比例せず、異なる波長における透過率の間に相関はない。言い換えれば、異なる濃度又は異なる波長における1回の測定から、所与の濃度における又は所与の波長における透過率を予測することは不可能である。
【0075】
水性分散体中に存在する有機物質(TMO)の割合は、ナノ粒子の質量に対するパーセンテージとして計算される。この測定は、Kern DBSタイプのデシケーターを使用して120℃で乾燥させた後のナノ粒子に対して行われる。乾燥粒子をるつぼに導入し、次いで温度の関数としての質量の低下を、例えばPerkin Elmer社のTGA4000タイプの熱分析計を使用して、10℃/分のスピードで30~900℃において、熱重量分析(TGA)により記録する。有機物質のパーセンテージは、160~600℃の間の質量の低下と乾燥粒子の初期の質量との比に相当する。
【0076】
この割合は使用される実施形態によって変動する。有利には、有機物質のレベルは15質量%以下、より有利には8質量%以下、更により有利には5質量%以下、更により有利には3.5質量%以下である。
【0077】
分散体の屈折率は一般に、20℃の水中で589nmの波長において、例えばAnton Paar社のAbbemat 200モデル等の屈折率計を使用して測定される。ZrO2粒子を水中に所望の濃度で分散させる。分散体に対して測定される屈折率値は一般に、粒子濃度が増加するにつれて増加する。
【0078】
一般に、本発明による分散体は、有利には40質量%の濃度で1.40以上及び1.90以下、65質量%の濃度で1.50以上及び2.00以下の高い屈折率を有する。
【0079】
ジルコニア(二酸化ジルコニウム)は金属酸化物のファミリーの中で最も高い屈折率の1つを有する。屈折率の値は結晶構造(単斜晶、正方晶、及び立方晶)に応じてわずかに変動する。更に、十分に結晶化している固体セラミック材料において、屈折率は2.16~2.24である。材料のこの特性は、媒体の屈折率、例えば溶媒又は樹脂の屈折率を上昇させるためのその使用を検討することを可能にする。ナノ粒子が媒体中に十分に分散しており光散乱現象を避けるのに十分に小さい一次粒径を有する場合、得られるコンポジットナノ材料は高屈折率だけでなく良好な透過率を示し得る。
【0080】
ナノ粒子の屈折率がセラミック材料の理論的屈折率(2.16~2.24)により近づくほど、複合材の屈折率の上昇においてナノ粒子がより効果的になり、同じ充填率においてより高い屈折率を得ることを可能にする。一般に、十分に結晶化したナノ粒子はより高い屈折率を有する。
【0081】
充填物の十分な分散を示しおよそ球状のモルフォロジーであるナノコンポジット材料の屈折率は、成分の各々の屈折率から計算することができる。逆に、ナノ粒子の屈折率は、様々な濃度のナノコンポジットに対して行われる屈折率測定から系の典型となるモデルにより計算することができる。様々な数学モデルから得られる様々な式をこの計算に使用してもよい。これらの系で一般に使用されるモデルは、直線近似だけでなくLorenz-Lorentz、Maxwell-Garnett、及びBruggmanのモデルを含む(J. Humlicek、「Data Analysis for Nanomaterials: Effective Medium Approximation、Its Limits and Implementations」、Ellipsometry at the Nanoscale、2013年、145~178頁)。
【0082】
ナノ粒子の屈折率を最も低く見積もるモデルは直線近似のモデルであり、以下の式で表される:
RInc = fm*RIm+fNP*RINP
【0083】
この式において、RIncはナノコンポジットの屈折率、fmは媒体の体積分率、RImは媒体の屈折率、fNPはナノ粒子の体積分率、RINPはナノ粒子の屈折率である。
【0084】
有利には、本発明によるジルコニアナノ粒子は2.0~2.2、より有利には2.10~2.15の屈折率を有する。ナノ粒子の屈折率はナノ粒子の分散体について水中で測定される屈折率に相当していない。本発明による実施例に関する部分に示すように、これはナノ粒子の分散体に対して行われる測定から決定される。
【0085】
分散体の粘度は一般に20℃の水中で、レオメーター、例えばMalvern Instruments社のKinexus Pro + モデルを使用して測定される。ZrO2ナノ粒子を水中に所望の濃度で分散させる。これがせん断速度の関数として一定の粘度を有するニュートン流体であることを検証するため、粘度を0.1s-1~100s-1の様々なせん断速度で測定する。1s-1で測定される値が分散体の粘度の値として報告される。固定したせん断速度での粘度は、一般に濃度の増加と共に増加する。
【0086】
一般に、本発明によるナノ粒子は、水中で40質量%の濃度において、1~10mPa.s、有利には2~8mPa.s、更により有利には2~6mPa.sの粘度を示す。
【0087】
本発明による方法により得られるナノ粒子は、電子線に対して透明な支持体上に置かれたナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡法)像から画像解析により測定される平均一次粒径を有する。平均一次粒径は、少なくとも300個のナノ粒子における、ナノ粒子の表面上の2点間の最大長さの平均を意味すると理解される。したがって、ナノ粒子が完全に球状である場合、平均一次粒径は平均直径に相当し、一方ナノ粒子が球状ではない場合、平均一次粒径はナノ粒子が内接する最小の円柱の平均高さに相当する。このようにして、TEMにより得られるナノ粒子の平均一次粒径は、有利には2nm~60nm、より有利には3nm~40nm、更により有利には4nm~20nm、更により有利には5nm~7nmである。一次粒径を見積もるための第2の間接的方法はシェラー法である。この方法は、回折スペクトルから成分Ka2を引きデバイスに起因するピークブロードニング(装置のピークブロードニング)を考慮に入れて実測のFWHMを補正した後に、主な回折ピークの半値における幅(半値全幅、FWHM)の測定により一次粒径を計算することを可能にする。測定のために選択されるピークは、単斜晶相の(-111)及び(111)、並びに正方相/立方相の(111)である。次いで結晶子径を、0.89の形状因子を使用してシェラー式により計算する。
【0088】
DLS(頭字語は「動的光散乱」を表す)技術は、液体媒体中、例えば水等の水性媒体中に存在する粒子の流体力学的径を分光分析により測定することを可能にする。一般に、流体力学的径はTEM又はDRX(シェラー法)により測定される一次粒径とは異なる。この技術は粒子凝集物の存在にも敏感である。適切な場合、DLSにより測定される値は凝集物の非存在下で粒子のサイズよりも大きい。更に、この分析の結果は、体積における平均流体力学的径DV、強度における平均流体力学的径DI、数における平均流体力学的径DN、並びに関連するD50及びD90を得ることを可能にする。D50値は、測定される粒子の50%がD50以下の直径を有する場合の、流体力学直径に相当する。D90値は、測定される粒子の90%がD90以下の直径を有する場合の、流体力学直径に相当する。これらの後半に挙げた値は、体積(DV50/DV90)、数(DN50/DN90)、又は強度(DI50/DI90)において計算することができる。
【0089】
数平均流体力学的径(DN)は、有利には3nm~50nm、より有利には4nm~30nmである。それらは有利には3nm~50nm、より有利には4nm~35nmのDN50サイズを有する。それらは有利には5nm~50nm、より有利には6nm~40nmのDN90サイズを有する。
【0090】
体積平均流体力学的径(DV)は、DLSにより測定され、有利には3nm~50nm、より有利には4nm~30nmである。ナノ粒子は有利には3nm~50nm、より有利には4nm~30nmのDV50サイズを有する。それらは有利には5nm~70nm、より有利には6nm~40nmのDV90サイズを有する。
【0091】
分散指数(ID)は、DLSにより測定される粒子の体積における流体力学的径とTEMにより測定される粒子の一次粒径との比に相当する。
【0092】
一般に、本発明による分散体は水中で、有利には1~7、より有利には1~4、更により有利には1~2、更により有利には1~1.5の非常に低い分散指数を有する。
【0093】
実験条件によれば、本発明による方法により得られるナノ粒子は、結晶性の正方晶/立方晶、若しくは単斜晶の形態、又はその両方の混合物である場合がある。
【0094】
特定の実施形態において、分散体、又はペーストを乾燥させてもよい。この場合、粉末が得られる。したがって、本発明は、上記の分散体、又はペーストを乾燥させることにより得られる粉末にも関する。
【0095】
粉末は分散体よりも小さい体積で保存及び輸送することができるため、粉末形態を得ることは一定の利点をもたらす。更に、本発明による分散体を乾燥させることにより得られる粉末は、水中だけでなく、有機溶媒中、例えばアセトン、アルコール等、例えばエタノール、イソプロパノール、グリセロール、又はプロピレングリコール等に容易に分散させることができる。特に複合材を製造するために、これを樹脂に分散させることもできる。一般に、当業者の一般的知識による別の有機分子によってアミノ酸を置換する際に、様々な極性の有機溶媒中の良好な分散体が得られる。
【0096】
同様に、粉末は任意のpHで、有利には3~12で分散させることができる。これはアミノ酸が有機分子で置換されているナノ粒子から製造することができる。
【0097】
実際には、特定の実施形態において、二酸化ジルコニウムナノ粒子の生成後にアミノ酸分子を置き換える。
【0098】
既に述べたように、二酸化ジルコニウムナノ粒子の分散体、又は粉末を樹脂と混合して複合材料を生成させることができる。
【0099】
ZrO2ナノ粒子の使用
ジルコニアは、歯科複合材の配合物のために歯科分野で最も使用される材料の1つである。これらは有機相及び無機相から成る光重合性材料(近紫外線、400nm +/- 20nmの波長)である。有機相は、ジメタクリレートモノマー、重合剤、及び光開始剤で本質的に構成される。無機相は、例えば複合材の機械的特性を改善する、重合収縮を低減する、放射線不透過性を歯科複合材に与える等、特定の特性を与える又は強化することを目的とした、無機フィラーから成る。本発明によるジルコニアナノ粒子の分散体は、その透過率が高くそれにより歯科複合材の深部の光重合が促進されることから、及びその改善された審美性から、歯科分野において特に興味深いものである。
【0100】
したがって、歯科分野に特に適した複合材料を上記の分散体から得ることができる。
【0101】
ZrO2ナノ粒子は、それらの高屈折率(表面コーティング、複合材料、接着剤の分野)、それらの生体適合性(歯科及び整形外科のプロテーゼの分野)、それらの誘電率(電子機器の分野)、それらの審美性(宝飾及び時計製造の分野)のためにも使用されてもよい。それらはまた、緻密セラミック材料又はコーティングを成形及び高密度化するためにも使用され、これは機械的特性、例えば耐摩耗性、耐屈曲性、又は耐圧縮性、及び靱性等、並びに改善された審美性、例えば可視透過率(工業用セラミック、生体医学セラミック、及び3D印刷材料の分野)等を示す場合がある。
【実施例
【0102】
(実施例1~23(本発明))
別段の指定がない限り、分散体の構成成分のパーセンテージは質量により表される。
【0103】
ドーピングに関する限り、ジルコニウムのモル量に対するモルパーセンテージとして表される。これは一般に酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、又は酸化ガドリニウム(Gd2O3)の含量である。したがって、3mol%のイットリウムは3mol%のY2O3のドーピングに相当する。
【0104】
オートクレーブ中に、ジルコニウムIV化合物、アミノ酸、その前駆体、又はいくつかのアミノ酸の混合物、及び必要に応じて水、及び/又はドーピング剤を導入する。次いでオートクレーブを密封し、所望の温度及び圧力をかける。
【0105】
プロセス条件を下記のTable 1(表1)に記載する。実施例1~23の水熱処理の前のpHは1~5である。
【0106】
【表1A】
【0107】
【表1B】
【0108】
(例CE1~CE6(比較例))
実施例1~23に示す方法にしたがって、以下の化合物又は混合物の存在下で比較試験を行った(Table 2(表2))。
- ブタン酸 + ブチルアミン(例CE1)。
- 2つのアミン官能基及び1つの酸官能基を有するアミノ酸(例CE2)。
- ブタン酸(例CE3)。
- ブチルアミン(例CE4)。
- アミノカプロン酸 + NH4OHを徐々に添加、水熱処理の前にpH12とする(例CE5)。
- NaOHを添加、析出物を生成し水で精製する(250μS/cm未満の導電率になるまで)、酢酸を添加、最終的なpHは7未満(例CE6、欧州特許第2,371,768号にしたがって行われる)。
【0109】
【表2】
【0110】
水熱処理が完了したら、オートクレーブを安全に開けることができるように温度及び圧力を低下させる。40質量%又は65質量%の二酸化ジルコニウムナノ粒子の濃度を有する水、流体中の分散体を得るために、次いで反応媒体を場合により洗浄及び/又は希釈、又は濃縮させる。
【0111】
次いで得られる分散体の各々を分析する。分散体の凝集の状態をDLSにより測定する。様々な濃度の分散体の安定性を、20℃で静かに10日間待った後に、析出物が現れるかどうかによって視覚的に測定する。分散指数(ID)は、球状のモルフォロジーを有する単結晶相を示す例においてのみ、DLSにより測定される粒子の体積における流体力学的径とTEMにより測定される粒子の一次粒径との比によって決定され、これは粒径が10nm未満である場合は単斜晶相(M)に相当するか、又は正方相/立方相(Q)に相当する。分散体が、10nmを超える一次粒径を有する異方性粒子を示す単斜晶相(M)を含む、異なる結晶相を有する場合、IDは計算されない。単斜晶相で10nm未満の異方形状の粒子についてTEMにより測定される一次粒径は、粒子の長軸の長さに相当する。粘度はMalvern Instrument、モデルKinexus Pro +により、20℃において直径40mm及びチルト4°のコーン/プレート配置を使用して、粘度を測定する。分散体の屈折率は、20℃、589nmにおいて、Anton Paar装置、モデルAbbemat 200により測定する。
【0112】
したがって、Cu K-アルファ線を用いるBruker D8 Advance回折計を10~75°の2θの角度にて使用し、特徴的なピークを特定し、International Center for Diffraction DataのX線回折データベースと比較することにより正方相/立方(Q)相又は単斜晶相(M)のいずれかに帰属させる。相Qのピーク111の相対強度、並びに相Mのピーク-111及び111の相対強度の和を使用して主要な相を決定した(Table 3(表3))。
【0113】
【表3A】
【0114】
【表3B】
【0115】
本発明によれば、各々の濃度におけるZrO2ナノ粒子の安定した分散体が実施例1~23のすべてで得られた。
【0116】
【表4】
【0117】
アミノ酸の非存在下において、又はアミノ酸が本発明で使用されるものに相当しない場合、又は酸及びアミンの混合物が使用される場合、又は本発明で使用されるアミノ酸の存在下で、pHが7を超える場合、得られる分散体は、特に粒子凝集物の存在に起因して不安定である。
【0118】
したがって、反例の中で、CE6のみが、濃度が40質量%以下である場合に安定した分散体を得ることが可能になる。一方で、ナノ粒子が40質量%を超えると、分散体は非常に粘性となり固化及び乾燥し始める。したがって、反例CE6の場合、40質量%を超えるナノ粒子の濃度では分散体を得ることが不可能である。
【0119】
実施例6、12~16、19及び22による、並びに反例CE6によるナノ粒子の分散体の40質量%の濃度における透過率を測定した。400~800nmの範囲の透過率をJasco Model V-670装置で測定した。これらをTable 5(表5)に記載する。
【0120】
【表5】
【0121】
したがって、反例CE6による安定した分散体を得ることを可能にする最大の濃度、すなわち40質量%のナノ粒子の濃度において、本発明による分散体は400nm及び800nmにおいてより良好な全透過率を示す。
【0122】
一方で、65質量%においてさえ優れた透過率を得ることができる。実施例14、15、及び16のナノ粒子を含む分散体の透過率を上記の方法にしたがって様々な濃度で測定した。結果を下記のTable 6(表6)に示す。
【0123】
【表6】
【0124】
図2は本発明による分散体の透過率を視覚的に示す。本発明による分散体の3つの試料1、2、及び3を画像4の前に置く。試料1は実施例16の50質量%のナノ粒子を含む分散体である。試料2は実施例16の65質量%のナノ粒子を含む分散体である。試料3は実施例9の40質量%のナノ粒子を含む分散体である。
【0125】
試料3の分散体は、2つの試料1及び2の分散体よりも低い透過率を有する。試料3がわずかに着色しているにもかかわらず、試料の後ろに置かれた画像4を楽に識別できるので、試料3の透過率はまだ非常に満足できるものである。
【0126】
2つの試料1及び2に関する限り、色を修正することなく画像4を非常にはっきりと認識することを可能にする非常に高い透過率を有する。図2で見ることができる拡大効果は、容器によるもので分散体によるものではない。
【0127】
(実施例24及び25)
リン酸官能基を有する分子による析出及び官能化の手順を使用して、実施例12及び16の粒子をアセトン中に再分散させた。アセトン中の粒子の安定し透明な分散体を得た。
【0128】
(実施例26及び27)
リン酸官能基を有する分子によりアミノ酸を置換した後の、アセトン中に分散させた実施例12及び16の粒子を、最初の溶媒の取り込み及び蒸発の手順を使用して、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)等のモノマー中に再分散させた。D3MA中の粒子の安定し透明な分散体を得た。
【0129】
(実施例28)
最終溶媒中の析出及び再分散の手順を使用して、アミノ酸の置換をせずに、実施例16から得られる粒子をプロピレングリコール中に再分散させた。プロピレングリコール中の粒子の安定し透明な分散体を得た。
【0130】
実施例24~28の分散体の様々な濃度における全透過率を測定した。全透過率値は、対応する純粋な溶媒を満たした槽について測定された透過率に対する、パーセンテージとして記載される。これらをTable 7(表7)に記載する。
【0131】
【表7】
【0132】
したがって、本発明にしたがって得られるジルコニウムナノ粒子を水以外の溶媒中に再分散させること、並びに高濃度での優れた透過率だけでなく低い粘度及び経時での高い安定性を維持することが可能である。
【0133】
(実施例29(本発明))
実施例29は実施例9と比較することができ、2つの合成パラメーターのみが改変されている。ジルコニウム前駆体、イットリウム、アミノ酪酸、及び水の量は同じであり、6-アミノカプロン酸が加えられる。固体を溶解させる手順が異なっている。ジルコニウム前駆体は4-アミノ酪酸と共に水中に溶解させる。イットリウム前駆体は6-アミノカプロン酸の存在下で水中に溶解させる。完全に溶解した後、2つの溶液を混合する。
【0134】
36mmolのオキシ塩化ジルコニウム、119mmolの4-アミノ酪酸(ACA4)、及び36mlの水をビーカーに導入する。第2のビーカーに、塩化イットリウム(6mol%のY2O3をドープ)、23.8mmolの6-アミノカプロン酸(ACA6)、及び36mLの水を導入する。完全に溶解した後、2つの溶液を混合し、100mLオートクレーブ中に導入する。次いでオートクレーブを密封し、200℃で3時間加熱し、圧力は12~15barとする。
【0135】
実施例29において、ZrO2ナノ粒子の安定した分散体を得た。
【0136】
実施例9とは異なり、X線回折分析により得られるディフラクトグラムは正方相/立方相の独自の存在を示す。実施例29で得られるナノ粒子のTEM像の画像解析のみが、20nmの平均一次粒径を有する球状粒子の存在を示す。
【0137】
(実施例30)
実施例12及び15にしたがって得られるナノ粒子を水で洗浄し、様々な濃度まで濃縮した。ナノ粒子の表面上に存在するアミノ酸のレベルをTGA(熱重量分析)により測定した。屈折率計(Anton Paar、Abbemat 200)を使用して589nmの波長及び20℃の温度において、得られる分散体の屈折率を測定した。表面上にアミノ酸を有する(又は官能化された)ナノ粒子の密度を直線近似により計算した。官能化ナノ粒子の屈折率は、直線近似モデルにより官能化ナノ粒子の体積分率の関数として測定される分散体の屈折率値から、直線回帰により計算された。表面上に存在する官能化剤のレベルを考慮して、非官能性化(又は裸の)ナノ粒子の屈折率を計算した。これらの測定及び計算の結果をTable 8(表8)に示す。
【0138】
【表8】
【0139】
実施例12のナノ粒子について、洗浄後、表面上に存在しTGAにより測定されるアミノ酸のレベルは乾燥後のナノ粒子の全質量を基準として4.3質量%であり、非官能化ナノ粒子の密度は6.14g/cm3である。官能化ナノ粒子の密度は5.16g/cm3である。媒体の密度は0.998であり、その屈折率は1.3330である。官能化剤(ACA6)の密度は1.13g/cm3であり、その屈折率は1.4870である。得られる非官能化ナノ粒子の屈折率は2.1434であり、測定の相関係数は0.9990である。
【0140】
実施例15のナノ粒子を洗浄後、表面上に存在しTGAにより測定されるアミノ酸のレベルは乾燥後のナノ粒子の全質量を基準として4.3質量%であり、非官能化ナノ粒子の密度は6.00g/cm3である。官能化ナノ粒子の密度は4.72g/cm3である。媒体の密度は0.998であり、その屈折率は1.3330である。官能化剤(ACA6)の密度は1.13g/cm3であり、その屈折率は1.4870である。得られる非官能化ナノ粒子の屈折率は2.1011であり、測定の相関係数は0.9999である。
【0141】
直線近似モデルはナノ粒子の屈折率を少なく見積もることに注意すべきである。したがって、非官能化ナノ粒子は計算値以上の屈折率を有する。
図1
図2
【国際調査報告】