(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】静電線形イオン・トラップによって複数のイオンを同時に分析する装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20220119BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220119BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20220119BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01J49/42 450
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/02 700
H01J49/06
H01J49/06 100
H01J49/42 550
H01J49/42 850
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531527
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(85)【翻訳文提出日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 US2019013285
(87)【国際公開番号】W WO2020117292
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520477485
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・インディアナ・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】ジャロルド,マーティン・エフ
(72)【発明者】
【氏名】ボタマネンコ,ダニエル
【テーマコード(参考)】
5C038
【Fターム(参考)】
5C038FF01
5C038FF13
(57)【要約】
電荷検出質量分光分析計は、イオン源と、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラー間に配置された電荷検出シリンダを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、ELIT内に捕捉されたイオンが電荷検出シリンダを通過する毎に、イオン・ミラー間で前後に発振させるように構成された電界をイオン・ミラー内に選択的に確立する手段と、続いて捕捉された複数のイオンを、異なる平面状イオン発振軌道または異なる円筒状イオン発振軌道によって発振させるように、ELITに入射するイオン・ビームの軌道を制御する手段とを含むことができる。異なる平面状イオン発振軌道は、長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が長手方向軸に沿って延び、イオン・ミラーの各々において長手方向軸と交差する。異なる円筒状イオン発振軌道は、長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、複数の入れ子円筒状軌道を形成し、各円筒状軌道が長手方向軸に沿って延びる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)であって、
イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、
1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、前記細長電荷検出シリンダが、前記ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、前記1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、前記1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、前記長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、前記供給されたイオン・ビームが、前記イオン入射アパーチャを通って前記ELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、
前記1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、その内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、前記電界が、前記入射するイオン・ビームにおける複数のイオンを前記ELIT内に捕捉し、前記複数の捕捉したイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、
前記ELIT内に続いて捕捉された複数のイオンを、対応する複数の異なる平面状イオン発振軌道または対応する複数の異なる円筒状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段であって、対応する複数の異なる平面状イオン発振軌道が、前記長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が前記長手方向軸に沿って延び、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記長手方向軸と交差し、対応する複数の異なる円筒状イオン発振軌道が、前記長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、複数の入れ子円筒状軌道を形成し、各円筒状軌道が前記長手方向軸に沿って延びる、手段と、
を備える、電荷検出質量分光分析計(CDMS)。
【請求項2】
請求項1記載のCDMSであって、更に、
前記少なくとも1つの電圧源に電気的に結合されたプロセッサと、
内部に命令が格納されているメモリであって、前記命令が前記プロセッサによって実行されると、前記イオン・ミラー内に前記電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる、メモリと、
を備える、CDMS。
【請求項3】
請求項2記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーのいずれかまたは双方に、イオン透過電界またはイオン反射電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含み、前記イオン透過電界が、前記1対のイオン・ミラーのそれぞれを通過したイオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成され、前記イオン反射電界が、前記電荷検出シリンダから前記1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに前記電荷検出シリンダを通過して、前記1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、前記イオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成される、CDMS。
【請求項4】
請求項3記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記入射するイオン・ビームにおけるイオンが前記1対のイオン・ミラーおよび前記電荷検出シリンダを通過して前記ELITから出射するように、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン透過電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立することによって前記複数のイオンを前記ELIT内に捕捉するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、更に前記複数の捕捉されたイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記複数の捕捉されたイオンを前記1対のイオン・ミラー間を前後に発振させ、対応するイオン電荷をその上に誘発する命令を含む、CDMS。
【請求項5】
請求項3記載のCDMSであって、更に、前記電荷検出シリンダに動作可能に結合された入力と、前記プロセッサに動作可能に結合された出力とを有する電荷プリアンプを備え、前記電荷プリアンプが、前記通過するイオンによって前記電荷検出シリンダ上に誘発された電荷に応答して、対応する電荷検出信号を生成するように構成され、
前記メモリに格納されている前記命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、前記複数のイオンが前記電荷検出シリンダを複数回通過する間、前記電荷検出信号を前記メモリに記録させ、前記記録した電荷検出信号を処理させて、前記複数の捕捉したイオンの各々について、イオン電荷およびイオン質量電荷比またはイオン質量を判定させる命令を含む、CDMS。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、更に前記1対のイオン・ミラーの前記第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立して規定時間の後、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項7】
請求項5記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラーに前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項8】
請求項5記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの各々に同時に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、前記長手方向軸に対する前記入射するイオン・ビームの半径方向オフセット、および前記長手方向対する、または前記ELITを通過し前記長手方向軸に平行な少なくとも1つの他の軸に対する、前記入射するイオン・ビームの角度の内少なくとも1つを制御する手段を含む、CDMS。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を判定する手段と、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正すると、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射するように、前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正する手段と、
を含む、CDMS。
【請求項11】
複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)であって、
イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、
1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、前記細長電荷検出シリンダが、前記ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、前記1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、前記1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、前記長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、前記供給されたイオン・ビームが、前記イオン入射アパーチャを通って前記ELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、
前記1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、前記電界が、前記入射するイオン・ビームにおける少なくとも2つのイオンを前記ELIT内に捕捉し、前記少なくとも2つの捕捉したイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、
前記ELIT内に続いて捕捉された前記少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段であって、前記少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道が、前記長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が前記長手方向軸に沿って延び、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記長手方向軸と交差する、手段と、
を備える、電荷検出質量分光分析計(CDMS)。
【請求項12】
請求項11記載のCDMSであって、更に、
前記少なくとも1つの電圧源に電気的に結合されたプロセッサと、
内部に命令が格納されているメモリであって、前記命令が前記プロセッサによって実行されると、前記イオン・ミラー内に前記電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる、メモリと、
を備える、CDMS。
【請求項13】
請求項12記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーのいずれかまたは双方に、イオン透過電界またはイオン反射電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含み、前記イオン透過電界が、前記1対のイオン・ミラーのそれぞれを通過したイオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成され、前記イオン反射電界が、前記電荷検出シリンダから前記1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに前記電荷検出シリンダを通過して、前記1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、前記イオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成される、CDMS。
【請求項14】
請求項13記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記入射するイオン・ビームにおけるイオンが前記1対のイオン・ミラーおよび前記電荷検出シリンダを通過して前記ELITから出射するように、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン透過電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立することによって前記複数のイオンを前記ELIT内に捕捉するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、更に前記複数の捕捉されたイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記複数の捕捉されたイオンを前記1対のイオン・ミラー間を前後に発振させ、対応するイオン電荷をその上に誘発させる命令を含む、CDMS。
【請求項15】
請求項13記載のCDMSであって、更に、前記電荷検出シリンダに動作可能に結合された入力と、前記プロセッサに動作可能に結合された出力とを有する電荷プリアンプを備え、前記電荷プリアンプが、前記通過するイオンによって前記電荷検出シリンダ上に誘発された電荷に応答して、対応する電荷検出信号を生成するように構成され、
前記メモリに格納されている前記命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、前記少なくとも2つのイオンが前記電荷検出シリンダを複数回通過する間、前記電荷検出信号を前記メモリに記録させ、前記記録した電荷検出信号を処理させて、前記少なくとも2つの捕捉したイオンの各々について、イオン電荷およびイオン質量電荷比またはイオン質量を判定させる命令を含む、CDMS。
【請求項16】
請求項14または請求項15記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、前記1対のイオン・ミラーの前記第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立して規定時間の後、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項17】
請求項15記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラーに前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項18】
請求項15記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの各々に同時に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項19】
請求項11から18までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、前記長手方向軸に対する前記入射するイオン・ビームの半径方向オフセット、および前記長手方向に対する前記入射するイオン・ビームの角度の内少なくとも1つを制御する手段を含む、CDMS。
【請求項20】
請求項11から19までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を判定する手段と、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正すると、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射するように、前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正する手段と、
を含む、CDMS。
【請求項21】
複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)であって、
イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、
1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、前記細長電荷検出シリンダが、前記ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、前記1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、前記1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、前記長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、前記供給されたイオン・ビームが、前記イオン入射アパーチャを通って前記ELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、
前記1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、前記電界が、前記入射するイオン・ビームにおける少なくとも2つのイオンを前記ELIT内に捕捉し、前記少なくとも2つの捕捉したイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、
前記ELIT内に続いて捕捉された前記少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段であって、前記少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道が、前記長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、各々前記長手方向軸に沿って延びる少なくとも2つの入れ子円筒状軌道を形成する、手段と、
を備える、電荷検出質量分光分析計(CDMS)。
【請求項22】
請求項21記載のCDMSであって、更に、
前記少なくとも1つの電圧源に電気的に結合されたプロセッサと、
内部に命令が格納されているメモリであって、前記命令が前記プロセッサによって実行されると、前記イオン・ミラー内に前記電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる、メモリと、
を備える、CDMS。
【請求項23】
請求項22記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーのいずれかまたは双方に、イオン透過電界またはイオン反射電界を選択的に確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含み、前記イオン透過電界が、前記1対のイオン・ミラーのそれぞれを通過したイオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成され、前記イオン反射電界が、前記電荷検出シリンダから前記1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆に前記電荷検出シリンダを通過して、前記1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、前記イオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成される、CDMS。
【請求項24】
請求項23記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記入射するイオン・ビームにおけるイオンが前記1対のイオン・ミラーおよび前記電荷検出シリンダを通過して前記ELITから出射するように、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン透過電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立することによって前記複数のイオンを前記ELIT内に捕捉するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、更に前記複数の捕捉されたイオンが前記電荷検出シリンダを通過する毎に、前記複数の捕捉されたイオンを前記1対のイオン・ミラー間を前後に発振させ、対応するイオン電荷をその上に誘発させる命令を含む、CDMS。
【請求項25】
請求項23記載のCDMSであって、更に、前記電荷検出シリンダに動作可能に結合された入力と、前記プロセッサに動作可能に結合された出力とを有する電荷プリアンプを備え、前記電荷プリアンプが、前記通過するイオンによって前記電荷検出シリンダ上に誘発された電荷に応答して、対応する電荷検出信号を生成するように構成され、
前記メモリに格納されている前記命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、前記少なくとも2つのイオンが前記電荷検出シリンダを複数回通過する間、前記電荷検出信号を前記メモリに記録させ、前記記録した電荷検出信号を処理させて、前記少なくとも2つの捕捉したイオンの各々について、イオン電荷およびイオン質量電荷比またはイオン質量を判定させる命令を含む、CDMS。
【請求項26】
請求項24または請求項25記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、前記1対のイオン・ミラーの前記第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立して規定時間の後、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項27】
請求項25記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラー内に前記イオン透過電界を維持しつつ、前記1対のイオン・ミラーの第2イオン・ミラー内に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させ、続いて、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの前記第1イオン・ミラーに前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項28】
請求項25記載のCDMSにおいて、前記メモリに格納されている命令が、更に、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサが前記電荷検出信号の1つを受け取ったときに、前記1対のイオン・ミラーの各々に同時に前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように前記少なくとも1つの電圧源を制御することによって、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記イオン反射電界を確立するための電圧を生成するように、前記プロセッサに前記少なくとも1つの電圧源を制御させる命令を含む、CDMS。
【請求項29】
請求項21から18までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、前記長手方向軸に対する前記入射するイオン・ビームの半径方向オフセット、および前記ELITを通過し前記長手方向軸に平行な少なくとも1つの他の軸に対する前記入射するイオン・ビームの角度を制御する手段を含む、CDMS。
【請求項30】
請求項21から29までのいずれか1項記載のCDMSにおいて、前記ELITのイオン入射口に入射する前記イオン・ビームの軌道を制御する手段が、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を判定する手段と、
前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正すると、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射するように、前記供給されたイオン・ビームの軌道を修正する手段と、
を含む、CDMS。
【請求項31】
イオン分離システムであって、
請求項1から30までのいずれか1項記載のCDMSと、
前記イオン源によって生成され供給されたイオン・ビームを、少なくとも1つの分子特性の関数として分離するように構成された少なくとも1つのイオン分離機器であって、前記供給されたイオン・ビームの内前記ELITに入射するイオンが、生成されたイオン・ビームから分離され、前記少なくとも1つのイオン分離機器から出射する、少なくとも1つのイオン分離機器と、
を備える、イオン分離システム。
【請求項32】
請求項31記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのイオン分離機器が、質量電荷比の関数としてイオンを分離する少なくとも1つの機器、イオン移動度の関数としてイオンを時間的に分離する少なくとも1つの機器、イオン保持時間の関数としてイオンを分離する少なくとも1つの機器、および分子サイズの関数としてイオンを分離する少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項33】
請求項32記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのイオン分離機器が、質量分光分析計およびイオン移動度分光分析計の内の1つまたは組み合わせを含む、システム。
【請求項34】
請求項31から33までのいずれか1項記載のシステムであって、更に、前記イオン源と前記少なくとも1つのイオン分離機器との間に位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器を備え、前記イオン源と前記少なくとも1つのイオン分離機器との間に位置付けられた前記少なくとも1つのイオン処理機器が、イオンを収集または格納する少なくとも1つの機器、分子特性にしたがってイオンをフィルタリングする少なくとも1つの機器、イオンを解離させる少なくとも1つの機器、およびイオン荷電状態を正規化するまたは移す少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項35】
請求項31から34までのいずれか1項記載のシステムであって、更に、前記少なくとも1つのイオン分離機器と前記ELITとの間に位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器を備え、前記少なくとも1つのイオン分離機器と前記ELITとの間に位置付けられた前記少なくとも1つのイオン処理機器が、イオンを収集または格納する少なくとも1つの機器、分子特性にしたがってイオンをフィルタリングする少なくとも1つの機器、イオンを解離させる少なくとも1つの機器、およびイオン荷電状態を正規化するまたは移す少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項36】
請求項30から34までのいずれか1項記載のシステムにおいて、前記システムが、更に、前記ELITから出射したイオンを受け取り、前記ELITから出射し受け取ったイオンを、少なくとも1つの分子特性の関数として、分離するように位置付けられた少なくとも1つのイオン分離機器を備える、システム。
【請求項37】
請求項36記載のシステムであって、更に、前記ELITと前記少なくとも1つのイオン分離機器との間に位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器を備え、前記ELITと前記少なくとも1つのイオン分離機器との間に位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器が、イオンを収集または格納する少なくとも1つの機器、分子特性にしたがってイオンをフィルタリングする少なくとも1つの機器、イオンを解離させる少なくとも1つの機器、およびイオン荷電状態を正規化するまたは移す少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項38】
請求項36記載のシステムであって、更に、前記ELITから出射したイオンを受け取るようにそれ自体位置付けられた前記少なくとも1つのイオン分離機器から出射したイオンを受け取るように位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器を備え、前記ELITから出射したイオンを受け取るように位置付けられた前記少なくとも1つのイオン分離機器から出射したイオンを受け取るように位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器が、イオンを収集または格納する少なくとも1つの機器、分子特性にしたがってイオンをフィルタリングする少なくとも1つの機器、イオンを解離させる少なくとも1つの機器、およびイオン荷電状態を正規化するまたは移す少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項39】
請求項30から34までのいずれか1項記載のシステムにおいて、前記システムが、更に、前記ELITから出射したイオンを受け取るように位置付けられた少なくとも1つのイオン処理機器を備え、前記ELITから出射したイオンを受け取るように位置付けられた前記少なくとも1つのイオン処理機器が、イオンを収集または格納する少なくとも1つの機器、分子特性にしたがってイオンをフィルタリングする少なくとも1つの機器、イオンを解離させる少なくとも1つの機器、およびイオン荷電状態を正規化するまたは移す少なくとも1つの機器の内の1つまたは任意の組み合わせを含む、システム。
【請求項40】
イオン分離システムであって、
試料からイオンを生成するように構成されたイオン源と、
前記生成されたイオンを、質量電荷比の関数として、分離するように構成された第1質量分光分析計と、
前記第1質量分光分析計から出射したイオンを受け取るように位置付けられ、前記第1質量分光分析計から出射したイオンを解離するように構成されたイオン解離ステージと、
前記イオン解離ステージから出射した解離イオンを、質量電荷比の関数として、分離するように構成された第2質量分光分析計と、
前記イオン・ビームを生成および供給する前記イオン源が、前記第1質量分光分析計および前記イオン解離ステージのいずれかまたは双方を含むように、前記イオン解離ステージと並列に結合された請求項1から30までのいずれか1項記載の電荷検出質量分光分析計(CDMS)と、
を備え、
前記第1質量分光分析計から出射した先駆イオンの質量が、前記CDMSを使用して測定され、閾値質量未満の質量値を有する前駆イオンの解離イオンの質量電荷比が、前記第2質量分光分析計を使用して測定され、前記閾値質量以上の質量値を有する先駆イオンの解離イオンの質量電荷比および電荷値が、前記CDMSを使用して測定される、イオン分離システム。
【請求項41】
静電線形イオン・トラップ(ELIT)に供給されるイオン・ビームにおいて少なくとも2つのイオンを同時に測定する方法であって、前記静電線形イオン・トラップ(ELIT)が、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、これらの間に配置された細長電荷検出シリンダであって、前記ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように前記イオン・ミラーと同軸状に整列された、細長電荷検出シリンダとを含み、前記1対のイオン・ミラーの内第1のイオン・ミラーが、前記長手方向軸を中心としてイオン入射アパーチャを定め、前記供給されたイオン・ビームが、前記イオン入射アパーチャを通って前記ELITに入射し、前記方法が、
前記ELITのイオン入射アパーチャに供給された前記イオン・ビームを、前記1対のイオン・ミラーの各々および前記電荷検出シリンダ、ならびに前記1対のイオン・ミラーの内第2のイオン・ミラーによって定められたイオン出射口に通過させるために、イオン透過電界を確立する電圧を前記1対のミラーに印加するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン透過電界が、これを通過するイオンを前記長手方向に向けて収束するように構成される、ステップと、
前記ELITのイオン入射アパーチャに供給された前記イオン・ビームにおけるイオンの内少なくとも2つを前記ELITに捕捉するために、前記1対のイオン・ミラーに印加する電圧を修正してイオン反射電界を確立するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン反射電界が、前記電荷検出シリンダから前記1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに前記電荷検出シリンダを通過させて、前記1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、前記イオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成される、ステップと、
前記ELIT内に続いて捕捉された前記少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射する前記イオン・ビームの軌道を制御するステップであって、前記少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道が前記長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が前記長手方向軸に沿って延び、前記1対のイオン・ミラーの各々において前記長手方向軸と交差する、ステップと、
を含む、方法。
【請求項42】
請求項41記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記イオン・ビームを平行化イオン・ビームとして生成し、前記長手方向軸を中心とする半径方向オフセットの分布で、前記イオン入射アパーチャに入射するように、前記平行化イオン・ビームを制御するステップを含む、方法。
【請求項43】
請求項41記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記イオン・ビームを平行化イオン・ビームとして生成するステップと、前記イオン入射アパーチャに入射するように、前記平行化イオン・ビームを制御するステップと、次いで、前記1対のイオン・ミラーの前記第1のイオン・ミラー内における前記イオン透過電界を選択的に修正し、その収束パワーを変化させて、前記入射する平行化イオン・ビームに、前記ELIT内部の前記長手方向軸上にある焦点に向かう角度収斂を分与するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御するステップとを含む、方法。
【請求項44】
静電線形イオン・トラップ(ELIT)に供給されるイオン・ビームにおいて少なくとも2つのイオンを同時に測定する方法であって、前記静電線形イオン・トラップ(ELIT)が、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、これらの間に配置された細長電荷検出シリンダであって、前記ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように前記イオン・ミラーと同軸状に整列された、細長電荷検出シリンダとを含み、前記1対のミラーの内第1のイオン・ミラーが、前記長手方向軸を中心としてイオン入射アパーチャを定め、前記供給されたイオン・ビームが、前記イオン入射アパーチャを通って前記ELITに入射し、前記方法が、
前記ELITのイオン入射アパーチャに供給された前記イオン・ビームを、前記1対のイオン・ミラーの各々および前記電荷検出シリンダ、ならびに前記1対のイオン・ミラーの内第2のイオン・ミラーによって定められたイオン出射口に通過させるために、イオン透過電界を確立する電圧を前記1対のミラーに印加するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン透過電界が、これを通過するイオンを前記長手方向に向けて収束するように構成される、ステップと、
前記ELITのイオン入射アパーチャに供給された前記イオン・ビームにおけるイオンの内少なくとも2つを前記ELITに捕捉するために、前記1対のイオン・ミラーに印加する電圧を修正し、イオン反射電界を確立するように、前記少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン反射電界が、前記電荷検出シリンダから前記1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに前記電荷検出シリンダを通過させて、前記1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、前記イオンを前記長手方向軸に向けて収束するように構成される、ステップと、
前記ELIT内に続いて捕捉された前記少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、前記ELITのイオン入射アパーチャに入射する前記イオン・ビームの軌道を制御するステップであって、前記少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道が前記長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、各々前記長手方向軸に沿って延びる少なくとも2つの入れ子円筒状イオン発振軌道を形成する、ステップと、
を含む、方法。
【請求項45】
請求項44記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記イオン・ビームを平行化イオン・ビームとして生成し、前記イオン入射アパーチャにおける前記長手方向軸に沿った点に、前記平行化ビームを収束し、前記長手方向軸に対して半径方向のオフセットの線に沿って前記イオンの収束点を掃引するステップを含む、方法。
【請求項46】
請求項44記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記イオン・ビームを平行化イオン・ビームとして生成し、前記平行化ビームを、前記イオン入射アパーチャにおける平面に収束し、前記収束した面を前記長手方向軸に対してずらすステップを含む、方法。
【請求項47】
請求項44記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記イオン・ビームを、長手方向軸に対して半径方向オフセットの分布と、前記長手方向軸と平行な2本以上の半径方向オフセット線に対する発散角度の分布とを含むイオンの非平行化ビームとして生成するステップと、前記イオン入射アパーチャに入射するように、前記イオンの非平行化ビームを制御するステップとを含む、方法。
【請求項48】
請求項44から47までのいずれか1項記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記入射するイオン・ビームの半径方向オフセットのそれぞれの大きさを制御することによって、前記長手方向軸に対する前記少なくとも2つの円筒状イオン発振軌道の内任意のものの内径および外径を制御するステップを含む、方法。
【請求項49】
請求項44から48までのいずれか1項記載の方法において、前記イオン・ビームの軌道を制御するステップが、前記入射するイオン・ビームの発散角度のそれぞれの大きさを制御することによって、前記少なくとも2つの円筒状イオン発振軌道の内任意のものの内径と外径との間の厚さを制御するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互引用
[0001] 本願は、2018年12月3日に出願された米国仮特許出願第62/774,703号の権利および優先権を主張する。この特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が本願にも含まれるものとする。
【0002】
政府の実施権
[0002] 本発明は、全米科学財団によって授与された契約第CHE1531823の下で政府支援によって行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
[0003] 本開示は、一般的には、電荷検出質量分光分析機器に関し、更に特定すれば、静電線形イオン・トラップによって複数のイオンを同時に分析する機器に関する。
【従来技術】
【0004】
[0004] 質量分光分析法は、イオン質量および電荷にしたがって物質の気体イオンを分離することによって、物質の化学成分の識別を可能にする。このような分離イオンの質量を判定するために、種々の機器が開発されており、このような機器の1つに電荷検出質量分光分析計(CDMS:charge detection mass spectrometer)がある。CDMSは、イオン毎に個々に、測定されたイオンの質量電荷比および測定されたイオン電荷の関数として、イオン質量を判定する、従来からの単一粒子機器および技法である。質量電荷比を、通例、「m/z」と呼ぶ。このようなCDMS機器の中には、イオンが電荷検出シリンダ全域にわたって前後に発振させられる静電線形イオン・トラップ(ELIT:electrostatic linear ion trap)検出器を採用するものがある。このような電荷検出シリンダにイオンを複数回通過させることによって、イオン毎に複数回の測定を可能にし、次いでこのような複数の測定値を処理して、イオンm/zおよび電荷を判定し、これらからイオン質量を計算することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005] 単一粒子CDMSは、時間を浪費するプロセスであり、質量スペクトルを測定して入手するために、通例、数時間を要する。試料分析期間を短縮するCDMS機器および技法を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006] 本開示は、添付する請求項に記載する特徴の内1つ以上、および/または以下の特徴ならびにその組み合わせの内1つ以上を含むことができる。第1の態様において、 複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)は、イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、細長電荷検出シリンダが、ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、供給されたイオン・ビームが、イオン入射アパーチャを通ってELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、電界が、入射するイオン・ビームにおける複数のイオンをELIT内に捕捉し、複数の捕捉したイオンが 電荷検出シリンダを通過する毎に、1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、ELIT内に続いて捕捉された複数のイオンを、対応する複数の異なる平面状イオン発振軌道または対応する複数の異なる円筒状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、ELITのイオン入射アパーチャに入射するイオン・ビームの軌道を制御する手段であって、対応する複数の異なる平面状イオン発振軌道が、長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が長手方向軸に沿って延び、1対のイオン・ミラーの各々において長手方向軸と交差し、対応する複数の異なる円筒状イオン発振軌道が、長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、複数の入れ子円筒状軌道を形成し、各円筒状軌道が長手方向軸に沿って延びる、手段とを備えることができる。
【0007】
[0007] 第2の態様において、複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)は、イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、細長電荷検出シリンダが、ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、供給されたイオン・ビームが、イオン入射アパーチャを通ってELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、電界が、入射するイオン・ビームにおける少なくとも2つのイオンをELIT内に捕捉し、少なくとも2つの捕捉したイオンが電荷検出シリンダを通過する毎に、1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、ELIT内に続いて捕捉された少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、ELITのイオン入射アパーチャに入射するイオン・ビームの軌道を制御する手段であって、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道が、長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が長手方向軸に沿って延び、1対のイオン・ミラーの各々において長手方向軸と交差する、手段とを備えることができる。
【0008】
[0008] 第3の態様において、複数のイオンを同時に測定する電荷検出質量分光分析計(CDMS)は、イオン・ビームを生成し供給するように構成されたイオン源と、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、その間に配置された細長電荷検出シリンダとを含む静電線形イオン・トラップ(ELIT)であって、細長電荷検出シリンダが、ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するように、1対のイオン・ミラーと同軸状に整列され、1対のイオン・ミラーの内第1イオン・ミラーが、長手方向軸を中心とするイオン入射アパーチャを定め、供給されたイオン・ビームが、イオン入射アパーチャを通ってELITに入射する、静電線形イオン・トラップ(ELIT)と、1対のイオン・ミラーに動作可能に結合され、内部に電界を選択的に確立するための電圧を生成するように構成された少なくとも1つの電圧源であって、電界が、入射するイオン・ビームにおける少なくとも2つのイオンをELIT内に捕捉し、少なくとも2つの捕捉したイオンが電荷検出シリンダを通過する毎に、1対のイオン・ミラー間で前後に発振させるように構成される、少なくとも1つの電圧源と、 ELIT内に続いて捕捉された少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、ELITのイオン入射アパーチャに入射するイオン・ビームの軌道を制御する手段であって、少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道が、長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、各々長手方向軸に沿って延びる少なくとも2つの入れ子円筒状軌道を形成する、手段とを備えることができる。
【0009】
[0009] 第4の態様において、イオン分離システムは、第1、第2、または第3の態様のいずれかにおいて先に記載したCDMSと、イオン源によって生成され供給されたイオン・ビームを、少なくとも1つの分子特性の関数として分離するように構成された少なくとも1つのイオン分離機器であって、供給されたイオン・ビームの内ELITに入射するイオンが、生成されたイオン・ビームから分離され、少なくとも1つのイオン分離機器から出射する、少なくとも1つのイオン分離機器とを備えることができる。
【0010】
[0010] 第5の態様において、イオン分離システムは、試料からイオンを生成するように構成されたイオン源と、生成されたイオンを、質量電荷比の関数として分離するように構成された第1質量分光分析計と、第1質量分光分析計から出射したイオンを受け取るように位置付けられ、第1質量分光分析計から出射したイオンを解離するように構成されたイオン解離ステージと、イオン解離ステージから出射した解離イオンを、質量電荷比の関数として、分離するように構成された第2質量分光分析計と、イオン・ビームを生成および供給するイオン源が、第1質量分光分析計およびイオン解離ステージのいずれかまたは双方を含むように、イオン解離ステージと並列に結合された、第1、第2、第3の態様のいずれかにおいて先に記載した電荷検出質量分光分析計(CDMS)とを備えることができる。第1質量分光分析計から出射した先駆イオンの質量が、CDMSを使用して測定され、閾値質量未満の質量値を有する前駆イオンの解離イオンの質量電荷比が、第2質量分光分析計を使用して測定され、閾値質量以上の質量値を有する先駆イオンの解離イオンの質量電荷比および電荷値が、CDMSを使用して測定される。
【0011】
[0011] 第6の態様において、静電線形イオン・トラップ(ELIT)に供給されるイオン・ビームにおいて少なくとも2つのイオンを同時に測定する方法を提供する。静電線形イオン・トラップ(ELIT)は、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、これらの間に配置された細長電荷検出シリンダであって、ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するようにイオン・ミラーと同軸状に整列された、細長電荷検出シリンダとを含み、1対のミラーの内第1のイオン・ミラーが、長手方向軸を中心としてイオン入射アパーチャを定め、供給されたイオン・ビームが、イオン入射アパーチャを通ってELITに入射する。この方法は、ELITのイオン入射アパーチャに供給されたイオン・ビームを、1対のイオン・ミラーの各々および電荷検出シリンダ、ならびに1対のイオン・ミラーの内第2のイオン・ミラーによって定められたイオン出射口に通過させるために、イオン透過電界を確立する電圧を1対のミラーに印加するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン透過電界が、これを通過するイオンを長手方向に向けて収束するように構成される、ステップと、ELITのイオン入射アパーチャに供給されたイオン・ビームにおけるイオンの内少なくとも2つをELITに捕捉するために、1対のイオン・ミラーに印加する電圧を修正してイオン反射電界を確立するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン反射電界が、電荷検出シリンダから1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに電荷検出シリンダを通過させて、1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、イオンを長手方向軸に向けて収束するように構成される、ステップと、ELIT内に続いて捕捉された少なくとも2つのイオンを、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道によって、その内部で発振させるように、ELITのイオン入射アパーチャに入射するイオン・ビームの軌道を制御するステップであって、少なくとも2本の異なる平面状イオン発振軌道が長手方向軸を中心として互いに角度的に偏位し、各々が長手方向軸に沿って延び、1対のイオン・ミラーの各々において長手方向軸と交差する、ステップとを含むことができる。
【0012】
[0012] 第7の態様において、静電線形イオン・トラップ(ELIT)に供給されるイオン・ビームにおいて少なくとも2つのイオンを同時に測定する方法を提供する。静電線形イオン・トラップ(ELIT)は、1対の同軸状に整列されたイオン・ミラーと、これらの間に配置された細長電荷検出シリンダであって、ELITの長手方向軸が各々の中央を通過するようにイオン・ミラーと同軸状に整列された、細長電荷検出シリンダとを含み、1対のミラーの内第1のイオン・ミラーが、長手方向軸を中心としてイオン入射アパーチャを定め、供給されたイオン・ビームが、イオン入射アパーチャを通ってELITに入射する。この方法は、ELITのイオン入射アパーチャに供給されたイオン・ビームを、1対のイオン・ミラーの各々および電荷検出シリンダ、ならびに1対のイオン・ミラーの内第2のイオン・ミラーによって定められたイオン出射口に通過させるために、イオン透過電界を確立する電圧を1対のミラーに印加するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン透過電界が、これを通過するイオンを長手方向に向けて収束するように構成される、ステップと、ELITのイオン入射アパーチャに供給されたイオン・ビームにおけるイオンの内少なくとも2つをELITに捕捉するために、1対のイオン・ミラーに印加する電圧を修正し、イオン反射電界を確立するように、少なくとも1つの電圧源を制御するステップであって、各イオン反射電界が、電荷検出シリンダから1対のイオン・ミラーのそれぞれに入射するイオンに、停止させ、逆方向に加速させ、逆向きに電荷検出シリンダを通過させて、1対のイオン・ミラーの内他方に向けさせつつ、イオンを長手方向軸に向けて収束するように構成される、ステップと、ELIT内に続いて捕捉された少なくとも2つのイオンをその内部で発振させるように、ELITのイオン入射アパーチャに入射するイオン・ビームの軌道を制御するステップであって、少なくとも2本の異なる円筒状イオン発振軌道が長手方向軸を中心として互いに半径方向に偏位し、各々長手方向軸に沿って延びる少なくとも2つの入れ子円筒状イオン発振軌道を形成する、ステップとを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】制御および測定コンポーネントが結合された静電線形イオン・トラップ(ELIT)の実施形態を含むCDMSシステムの簡略図である。
【
図2A】
図1に示すELITにおいて、イオン・ミラーM1のミラー電極を制御してイオン透過電界を内部に生成する、イオン・ミラーM1の拡大図である。
【
図2B】
図1に示すELITにおいて、イオン・ミラーM2のミラー電極を制御してイオン反射電界を内部に生成する、イオン・ミラーM2の拡大図である。
【
図3】
図1に示すプロセッサの実施形態の簡略図である。
【
図4A】
図1のELITの簡略図であり、少なくとも1つのイオンをELITに捕獲し(capture)、イオン・ミラー間および電荷検出シリンダ全域において前後にイオン(1つまたは複数)を発振させて、複数の電荷検出イベントを測定および記録するための、イオン・ミラーのシーケンス制御ならびに動作を明確に示す。
【
図4B】
図1のELITの簡略図であり、少なくとも1つのイオンをELITに捕獲し(capture)、イオン・ミラー間および電荷検出シリンダ全域において前後にイオン(1つまたは複数)を発振させて、複数の電荷検出イベントを測定および記録するための、イオン・ミラーのシーケンス制御ならびに動作を明確に示す。
【
図4C】
図1のELITの簡略図であり、少なくとも1つのイオンをELITに捕獲し(capture)、イオン・ミラー間および電荷検出シリンダ全域において前後にイオン(1つまたは複数)を発振させて、複数の電荷検出イベントを測定および記録するための、イオン・ミラーのシーケンス制御ならびに動作を明確に示す。
【
図5A】三次元直交座標系を重ね合わせ、座標系の原点をELITのイオン入射口に位置付けた、
図1~
図2BのELITの簡略斜視断面図である。
【
図5B】図示する座標系のY-Z平面に沿って見たときの、
図5AのELITのイオン入射口の一部の拡大図である。
【
図5C】図示する座標系のX-Y平面に沿って見たときの、
図5AのELITのイオン入射口の一部の拡大図である。
【
図8】
図5A~
図5Cに示す三次元座標系に関連する
図1~
図2Bおよび
図5AのELIT内に同時に捕捉された、2つのイオンの直交平面状発振軌道(orthogonal planar oscillation trajectories)例を表す、
図6と同様のプロットである。
【
図9】
図5A~
図5Cに示す三次元座標系に関連する
図1~
図2Bおよび
図5AのELIT内に同時に捕捉された、2つのイオンの入れ子円筒状発振軌道(nested cylindrical oscillation trajectories)例を表す、
図7と同様のプロットである。
【
図10】断面線10-10に沿って見たときの、
図9の2つの入れ子円筒状発振軌道プロットの断面図である。
【
図11】ELITに入射するイオンの軌道を選択的に制御し、平面状または円筒状発振軌道の分布によって、複数のイオンの同時捕捉を達成するための軌道制御装置を含む電荷検出質量分光分析計の実施形態の簡略図である。
【
図12】
図11の軌道制御装置を動作させるためのプロセスの実施形態を示す簡略フロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0028] 本開示の原理の理解を促進するという目的のために、これより添付図面に示す複数の例示的な実施形態を参照し、これらを説明するために特定的な文言を使用する。
【0015】
[0029] 本開示は、各々静電線形イオン・トラップ(ELIT)内において異なる発振軌道を有する複数のイオンの同時捕捉および個別測定を可能にするように、ELITに入射するイオンの軌道を制御することによって、電荷検出質量分光分析計(CDMS)のELIT検出器を用いて、複数のイオンを同時に分析するための装置および技法に関する。一実施形態では、ELIT内において、捕捉されたイオンが互いに相互作用する可能性が非常に低い、平面状発振軌道外形(geometry)を優先する(favor)ように、イオン入射軌道を制御することができる。他の実施形態では、ELIT内において、捕捉されたイオンが互いにさほど相互作用しない、円筒状発振軌道外形を優先するように、イオン入射軌道を制御することができる。いずれの場合でも、このようにELITを用いて複数のイオンを同時に分析することにより、従来の単一イオン捕捉技法を使用して達成可能なものよりも、試料分析時間を大幅に短縮することができる。
【0016】
[0030] ELITの動作に関して、そして本開示に限って言えば、「電荷検出イベント」(charge detection event)という語句は、イオンが1回ELITの電荷検出器を通過することに伴う電荷の検出と定義し、「イオン測定イベント」(on measurement event)という語句は、選択された回数または選択された時間期間における、電荷検出器全域にわたるイオンの前後の発振から生じる電荷検出イベントの集合体と定義する。以下で詳しく説明するように、電荷検出器全域にわたるイオンの前後の発振は、ELIT内においてイオンの捕捉を制御することによって行われるので、「イオン測定イベント」という語句は、代わりに、ここでは「イオン捕捉イベント」または単に「捕捉イベント」と呼ぶこともでき、そして「イオン測定イベント」、「イオン捕捉イベント」、「捕捉イベント」という語句、およびこれらの変形は、互いに同義であると理解されることとする。
【0017】
[0031]
図1を参照すると、制御および測定コンポーネントが結合された、静電線形イオン捕捉(ELIT)14の実施形態を含む電荷検出質量分光分析計(CDMS)システム10が示されている。図示する実施形態では、CDMSシステム10は、ELIT14の入射口に動作可能に結合されたイオン源12を含む。例えば、イオン源12は、実例として、試料からイオンを生成する任意の従来からのデバイス、装置、または技法、例えば、エレクトロスプレイ、あるいは他の従来のイオン生成デバイスでもよく、もしくは含んでもよく、更に、例えば、イオン質量、イオン質量電荷比、イオン移動度、または他の分子特性に基づいて、イオンを分離するための1つ以上のデバイスおよび/または機器、例えば、イオンの質量電荷比、イオン移動度、または他の分子特性に基づいてイオンをフィルタリングするための1つ以上のデバイスおよび/または機器、イオンを収集および/または格納するための1つ以上のデバイスまたは機器、例えば、1つ以上のイオン・トラップ、イオンを解離させるための1つ以上のデバイスおよび/または機器、1つ以上の分子特性にしたがってイオンの荷電状態を正規化するまたは移すための1つ以上のデバイスまたは機器、および/またはイオン流の方向に対して任意の順序で配列されたこれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0018】
[0032] 図示する実施形態では、ELIT14は、実例として、接地チェンバ(ground chamber)または円筒状GCによって包囲され、対向するイオン・ミラーM1、M2に動作可能に結合された電荷検出器CDを含む。イオン・ミラーM1、M2は、それぞれ、電荷検出器CDの反対側の両端に位置付けられている。イオン・ミラーM1は、イオン源12と電荷検出器CDの一端部との間に動作可能に位置付けられ、イオン・ミラーM2は、電荷検出器CDの逆端に動作可能に位置付けられている。各イオン・ミラーM1、M2は、その内部にそれぞれのイオン・ミラー領域、または空洞R1、R2を定める。イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2、電荷検出器CD、および電荷検出器CDとイオン・ミラーM1、M2との間の空間は、一体となって、中心を貫通する長手方向軸20を定める。長手方向軸20は、実例として、ELIT14を貫通し、イオン・ミラーM1、M2の間を通過する理想的なイオン移動路を表す。これについては、以下で更に詳しく説明する。
【0019】
[0033] 図示する実施形態では、電圧源V1、V2が、それぞれ、イオン・ミラーM1、M2に電気的に接続されている。各電圧源V1、V2は、実例として、1つ以上の切り替え可能なDC電圧源を含む。DC電圧源は、ある数Nのプログラム可能または制御可能な電圧を選択的に生成するように、制御またはプログラミングすることができる。ここで、Nは任意の正の整数としてよい。以下で詳しく説明するように、イオン・ミラーM1、M2の各々の2つの異なる動作モードの1つを確立するための、このような電圧の実例について、
図2Aおよび
図2Bに関して以下で説明する。いずれの場合でも、イオンは、ELIT14内において、長手方向軸22の近くを移動する。長手方向軸22は、電圧源V1、V2によって選択的に確立される電界の影響下で、電荷検出器CDおよびイオン・ミラーM1、M2の中央を貫通する。
【0020】
[0034] 電圧源V1、V2は、実例をあげると、P本の信号経路によって、電気的に従来のプロセッサ16に接続されて示されている。プロセッサ16は、命令が内部に格納されているメモリ18を含む。命令がプロセッサ16によって実行されると、それぞれのイオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2内に、イオン透過電界TEFおよびイオン反射電界REFをそれぞれ選択的に確立するために、所望のDC出力電圧を生成するようにプロセッサ16に電圧源V1、V2を制御させる。Pは、任意の正の整数としてよい。ある代替実施形態では、電圧源V1、V2のいずれかまたは双方が、1つ以上の一定出力電圧を選択的に生成するようにプログラミングされてもよい。他の代替実施形態では、電圧源V1、V2のいずれかまたは双方が、任意の所望の形状の1つ以上の時間可変出力電圧を生成するように構成されてもよい。尚、代替実施形態では、もっと多いまたはもっと少ない電圧源がミラーM1、M2に電気的に接続されてもよいことは理解されよう。
【0021】
[0035] 電荷検出器CDは、実例として、導電性電荷検出シリンダの形態で設けられている。導電性電荷検出シリンダは、電荷感応プリアンプ(charge sensitive preamplifier)CPの信号入力に電気的に接続され、電荷プリアンプCPの信号出力はプロセッサ16に電気的に接続されている。実例として、イオン源12からELIT14内にイオンを導入させ、ELIT14がイオンを選択的に捕獲し閉じ込めて、捕獲されたイオンが内部で発振して繰り返し電荷検出器CDを通過するように、電圧源V1、V2を制御する。イオンがELIT14内に捕獲され、即ち、捕捉され、イオン・ミラーM1、M2間を前後に発振することにより、電荷プリアンプCPは、実例として、イオンがイオン・ミラーM1、M2間で電荷検出シリンダCDを通過するときに電荷検出シリンダCD上に誘発される電荷(CH)を検出し、それに対応する電荷検出信号(CHD)を生成するように、従来通りに動作可能である。複数のイオン電荷および発振期間値が、電荷検出器CDにおいて、内部に捕獲されたイオン毎に測定され、以下で更に詳しく説明するように、結果が記録され、処理されて、イオン電荷および質量値を判定する。
【0022】
[0036] 更に、プロセッサ16は、実例として、1つ以上の周辺デバイス20(PD)に結合されている。周辺デバイス20(PD)は、周辺デバイス信号入力(1つまたは複数)(PDS)をプロセッサ16に供給し、および/またはプロセッサ16は周辺デバイス20(PD)に信号周辺デバイス信号出力(signal peripheral device signal output)(1つまたは複数)(PDS)を供給する。ある実施形態では、周辺デバイス20は、従来のディスプレイ・モニタ、プリンタ、および/または他の出力デバイスの内少なくとも1つを含み、このような実施形態では、メモリ18は、プロセッサ16によって実行されると、格納およびディジタル化された電荷検出信号の分析を表示および/または記録するように、プロセッサ16に、1つ以上のこのような出力周辺デバイス20を制御させる命令が、内部に格納されている。
【0023】
[0037] これより
図2Aおよび
図2Bを参照して、
図1に図示したELIT14のイオン・ミラーM1、M2の実施形態をそれぞれ示す。実例として、イオン・ミラーM1、M2は互いに同一であり、各々が、離間された4つの導電性ミラー電極のカスケード状配列を含む。イオン・ミラーM1、M2の各々について、第1ミラー電極30
1は厚さW1を有し、直径P1の中央を貫通する通路を定める。エンドキャップ32が第1ミラー電極30
1の外面に固定またそうでなければ結合され、中央を貫通するアパーチャA1を定める。アパーチャA1は、対応するイオン・ミラーM1、M2それぞれへおよび/または対応するイオン・ミラーM1、M2それぞれからのイオンの入射口および/または出射口として機能する。イオン・ミラーM1の場合、エンドキャップ32は、
図1に示すイオン源12のイオン出射口に結合されるか、またはその一部となる。各エンドキャップ32のアパーチャA1は、実例として、直径P2を有する。
【0024】
[0038] 各イオン・ミラーM1、M2の第2ミラー電極302は、第1ミラー電極301から、幅W2を有する空間だけ離間されている。第2ミラー電極302は、ミラー電極301と同様、厚さW1を有し、直径P2の中央を貫通する通路を定める。各イオン・ミラーM1、M2の第3ミラー電極303も同様に、第2ミラー電極302から幅W2の空間だけ離間されている。第3ミラー電極303は、厚さW1を有し、中央を貫通する幅P1の通路を定める。
【0025】
[0039] 第4ミラー電極304は、第3ミラー電極303から幅W2の空間だけ離間されている。第4ミラー電極304は、実例として、W1の厚さを有し、電荷検出器CDの周囲に配置された接地シリンダGCのそれぞれの端部によって形成される。第4ミラー電極304は、中央を貫通するアパーチャA2を定める。アパーチャA2は、実例として、円錐形状をなし、接地シリンダGCの内面と外面との間で、接地シリンダGCの内面において定められた直径P3から、接地シリンダGCの外面(それぞれのイオン・ミラーM1、M2の内面でもある)における直径P1まで線形に増大する。
【0026】
[0040] ミラー電極301~304の間に定められた空間は、ある実施形態では、空隙、即ち、真空ギャップでもよく、他の実施形態では、このようなギャップに1つ以上の非導電性材料、例えば、誘電体材料を充填してもよい。ミラー電極301~304およびエンドキャップ32は、軸方向に整列されており、即ち、共線状であり、長手方向軸22が、整列された各通路の中央を貫通し、更にアパーチャA1、A2の中央を貫通するようになっている。ミラー電極301~304間の空間が1つ以上の非導電性材料を含む実施形態では、このような材料も同様に、それらを貫通するそれぞれの通路を定める。これらの通路は、ミラー電極301~304を貫通して定められた通路と軸方向に整列され、即ち、共線状であり、実例としてP2以上の直径を有する。実例をあげると、P1>P3>P2であるが、他の実施形態では、他の相対的直径構成も可能である。
【0027】
[0041] 領域R1が、イオン・ミラーM1のアパーチャA1、A2間に定められ、他の領域R2も、同様に、イオン・ミラーM2のアパーチャA1、A2間に定められている。領域R1、R2は、実例をあげると、互いに形状および容積が同一である。
【0028】
[0042] 先に説明したように、電荷検出器CDは、実例として、イオン・ミラーM1、M2のそれぞれ対応するものの間に位置付けられ、幅W3の空間だけ離間された細長い導電性シリンダの形態で設けられている。一実施形態では、W1>W3>W2、およびP1>P3>P2であるが、代替実施形態では、他の相対的幅構成も可能である。いずれの場合でも、長手方向軸22は、実例として、長手方向軸22がイオン・ミラーM1、M2および電荷検出シリンダCDの結合体(combination)の中央を貫通するように、電荷検出シリンダCDを貫通して定められた通路の中央を貫通する。動作において、接地シリンダGCは、実例として、各イオン・ミラーM1、M2の第4ミラー電極304が常時接地電位となるように、接地電位に制御される。ある代替実施形態では、イオン・ミラーM1、M2のいずれかまたは双方の第4ミラー電極304は、任意の所望のDC基準電位に、または切り替え可能なDCに、または他の時間可変電圧源に設定されてもよい。
【0029】
[0043]
図2Aおよび
図2Bに示す実施形態では、電圧源V1、V2は、各々、4つのDC電圧D1~D4を生成し、電圧D1~D4をそれぞれのイオン・ミラーM1、M2のミラー電極30
1~30
4のそれぞれに供給するように各々構成されている。ミラー電極30
1~30
4の内1つ以上が常時接地電位に保持される実施形態では、このようなミラー電極30
1~30
4の1つ以上が、代わりに、それぞれの電圧源V1、V2の接地基準に電気的に接続されてもよく、対応する1つ以上の電圧出力D1~D4が省略されてもよい。あるいはまたは加えて、ミラー電極30
1~30
4の内任意の2つ以上が同じ非ゼロDC値に制御される実施形態では、任意のこのような2つ以上のミラー電極30
1~30
4が電圧出力D1~D4の内の1つに電気的に接続されてもよく、出力電圧D1~D4の内余分なものは省略されてもよい。
【0030】
[0044] 各イオン・ミラーM1、M2は、実例として、電圧D1~D4の選択的印加によって、イオン透過モード(
図2A)とイオン反射モード(
図2B)との間で制御可能であり切り替え可能である。イオン透過モードでは、それぞれの電圧源V1、V2によって生成された電圧D1~D4がそれぞれの領域R1、R2においてイオン透過電界(TEF)を確立し、イオン反射モードでは、それぞれの電圧源V1、V2によって生成された電圧D1~D4が、それぞれの領域R1、R2においてイオン反射電界(REF)を確立する。
図2Aにおける例によって示されるように、一旦イオン源12からのイオンがイオン・ミラーM1の入射アパーチャA1を抜けてイオン・ミラーM1の領域R1に飛び込むと、このイオンは、V1の電圧D1~D4の選択的制御によってイオン・ミラーM1の領域R1内に確立されたイオン透過電界TEFによって、イオン・トラップの長手方向22に向かって収束されていく。イオン・ミラーM1の領域R1における透過電界のイオン軌道上での収束効果の結果、イオン・ミラーM1のアパーチャA2を抜けてイオン・ミラーM1の領域R1から出射するイオンは、電荷検出器CDを貫通する狭い軌道に到達し(attain)、即ち、長手方向軸22に近い電荷検出器CDを通るイオン移動経路(path of ion travel)を維持する。電圧源V2の電圧D1~D4の同様の制御によって、イオン・ミラーM2の領域R2内において、同じイオン透過電界TEFを選択的に確立することもできる。イオン透過モードでは、M2のアパーチャA2を抜けて電荷検出シリンダCDから領域R2に入射するイオンは、領域R2内におけるイオン透過電界TEFによって、長手方向軸22に向けて収束され、イオン・ミラーM2の出射アパーチャA1を通過する。
【0031】
[0045]
図2Bにおける例によって示されるように、V2の電圧D1~D4の選択的制御によってイオン・ミラーM2の領域R2内に確立されたイオン反射電界REFは、M2のイオン入射アパーチャA2を抜けて電荷検出シリンダCDからイオン領域R2に入射するイオンを減速および停止させるように作用し、イオン軌道38によって示すように、停止したイオンを逆方向に直ちに加速させて、M2のアパーチャA2を抜けて、M2に隣接する電荷検出シリンダCDの端部にまで進ませるように作用し、このイオンをイオン・ミラーM2の領域R2内において中央長手方向軸22に向けて収束し、電荷検出器CDを貫通するイオンの狭い軌道を維持するように作用する。電圧源V1の電圧D1~D4の同様の制御によって、イオン・ミラーM1の領域R1内に、同じイオン反射電界REFを選択的に確立することもできる。イオン反射モードにおいて、M1のアパーチャA2を抜けて電荷検出シリンダCDから領域R1に入ったイオンは、領域R1内部に確立されたイオン反射電界REFによって減速および停止させられ、次いで逆方向に加速されて、M1のアパーチャA2を抜けてM1に隣接する電荷検出シリンダCDの端部にまで進められ、イオン・ミラーM1の領域R1内において中央長手方向軸22に向かって収束され、電荷検出器CDを貫通するイオンの狭い軌道を維持する。イオン・トラップの長さにわたって横断し、イオンがイオン・トラップの長さに沿って前後に移動し続けることを可能にするように、イオン領域R1、R2におけるイオン反射電界REFによって反射されたイオンは、捕捉されたと見なされる。
【0032】
[0046] イオン・ミラーM1、M2のそれぞれを、前述のイオン透過および反射モードに制御するために、そしてイオン透過および反射モード間で制御するために、電圧源V1、V2によってそれぞれ生成される1組の出力電圧D1~D2の複数の例を、以下の表1に示す。尚、D1~D4の以下の値は、一例として提示されるに過ぎず、D1~D4の内1つ以上に、代わりに他の値を使用してもよいことは理解されよう。
【0033】
【0034】
[0047] イオン・ミラーM1、M2および電荷検出シリンダCDは、
図1~
図2Bでは、それらを通過する円筒状通路を定めるように示されているが、代替実施形態では、長手方向軸22が中央を通過する通路(1つまたは複数)の1つ以上が、円形でない断面エリアおよび外周を表すように、イオン・ミラーM1、M2のいずれかまたは双方、および/または電荷検出シリンダCDが、それらを通過する非円筒状通路を定めてもよいことは理解されよう。更に他の実施形態では、断面外周の形状に関係なく、イオン・ミラーM1を貫通するように定められる通路の断面エリアは、イオン・ミラーM2を貫通するように定められる通路とは異なってもよい。
【0035】
[0048] これより
図3を参照して、
図1に示したプロセッサ16の実施形態を示す。図示する実施形態では、プロセッサ16は従来の増幅回路40を含む。増幅回路40は、電荷プリアンプCPによって生成された電荷検出信号CHDを受け取る入力と、従来のアナログ/ディジタル(A/D)変換器42の入力に電気的に接続された出力とを有する。A/D変換器42の出力は、第1コンピューティング・デバイスまたは回路50(P1)に電気的に接続されている。増幅器40は、電荷プリアンプCPによって生成された電荷検出信号CHDを増幅するように、従来通りに動作可能であり、一方A/D変換器は、増幅された電荷検出信号をディジタル電荷検出信号CDSに変換するように、従来通りに動作可能である。コンピューティング・デバイス50は、実例として、1つ以上の従来のメモリ・ユニットを含み、またはこれに結合され、コンピューティング・デバイス50は、実例として、イオン測定イベントにおける電荷検出イベント毎に、電荷検出信号CDSを内部に格納し、処理回路50のメモリに格納されるイオン測定イベント記録が複数の電荷検出イベント測定値を含むように動作可能である。
【0036】
[0049]
図3に示すプロセッサ16は、更に、従来の比較器44を含む。比較器44は、電荷プリアンプCPによって生成された電荷検出信号CHDを受け取る第1入力と、閾値電圧生成器(TG)46によって生成された閾値電圧CTHを受け取る第2入力と、コンピューティング・デバイス50に電気的に接続された出力とを有する。比較器44は、実例をあげると、その出力においてトリガ信号TRを生成するように、従来通りに動作可能である。トリガ信号TRは、閾値電圧CTHの振幅(magnitude)に対する電荷検出信号CDHの振幅に依存する。一実施形態では、例えば、比較器44は、CHDがCTH未満である限り、基準電圧、例えば、接地電位またはその付近の「インナクティブ」トリガ信号TRを生成するように動作可能であり、更にCHDがCTH以上のとき、回路40、42、44、46、50の供給電圧またはその付近の「アクティブ」TR信号を生成するように動作可能である。代替実施形態では、比較器44は、CHDがCTH未満である限り、供給電圧またはその付近の「インナクティブ」トリガ信号TRを生成するように動作可能であってもよく、更にCHDがCTH以上のとき、基準電位またはその付近の「アクティブ」トリガ信号 TRを生成するように動作可能である。尚、他の異なるトリガ信号振幅および/または異なるトリガ信号極性も、このような異なるトリガ信号振幅および/または異なるトリガ信号極性がコンピューティング・デバイス50によって区別可能である限り、トリガ信号TRの「インナクティブ」および「アクティブ」状態を確定するために使用することができることは、当業者には認められよう。更に、このような他の異なるトリガ信号振幅および/または異なるトリガ信号極性は、本開示の範囲内に該当することを意図していることも理解されよう。いずれの場合でも、比較器44は、基準電圧と供給電圧との間における出力の素早い切り替わりを防止するために、更に所望量のヒステリシスを含むように、従来通りに設計することもできる。
【0037】
[0050] 図示する実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、閾値電圧生成器46を制御して、閾値電圧CTHを生成するように動作可能、即ち、プログラミングされる。一実施形態では、閾値電圧生成器46は、実例をあげると、従来の制御可能なDC電圧源の形態で実装される。制御可能なDC電圧源は、例えば、1つのシリアル・ディジタル信号または複数のパラレル・ディジタル信号の形態のディジタル閾値制御信号THCに応答して、ディジタル閾値制御信号THCによって定められる極性および振幅を有するアナログ閾値電圧CTHを生成するように構成される。代替実施形態では、閾値電圧生成器46は、従来のディジタル/アナログ(D/A)変換器の形態で設けられてもよい。ディジタル/アナログ(D/A)変換器は、シリアルまたはパラレル・ディジタル閾値電圧TCH に応答して、ディジタル閾値制御信号THCによって定められる振幅、およびある実施形態では極性を有するアナログ閾値電圧CTHを生成するように構成される。このようなある実施形態では、D/A変換器がプロセッサ回路50の一部を形成してもよい。尚、所望の振幅および/または極性の閾値電圧CTHを選択的に生成するための他の従来の回路および技法も、当業者には認められよう。そして、任意のこのような他の従来の回路および/または技法は、本開示の範囲内に該当することを意図していることは理解されよう。
【0038】
[0051] コンピューティング・デバイス50は、
図2A、
図2Bに関して先に説明したように、電圧源V1、V2を制御して、イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2内にそれぞれ選択的にイオン透過および反射電界を確立するように動作可能である。一実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、実例として、丁度説明したように、電荷検出イベントおよびイオン測定イベントのために電荷検出信号CDSを収集および格納し、閾値電圧 CTHの振幅および/または極性を判定するまたは導き出す元となる閾値制御信号(1つまたは複数)THCを生成し、更に、比較器44によって生成されたトリガ出力信号TRを監視することによって判定された閾値電圧CTHに対する電荷検出信号CHDに基づいて、電圧源V1、V2を制御するようにプログラミングされたフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)の形態で設けられる。この実施形態では、
図1に関して説明したメモリ18は、FPGAのプログラミングに統合され、その一部を形成する。代替実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、1つ以上の従来のマイクロプロセッサまたはコントローラ、およびその内部に組み込まれまたはそれに結合され、命令が内部に格納されている1つ以上の付随するメモリ・ユニットを含んでもよく、および/またはそれらの形態で設けられてもよい。命令が1つ以上のマイクロプロセッサまたはコントローラによって実行されると、1つ以上のマイクロプロセッサまたはコントローラに、丁度説明したように動作させる。他の代替実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、先に説明した通りに動作するように設計された1つ以上の従来のハードウェア回路または特定用途のハードウェア回路の形態で純粋に、または1つ以上のこのようなハードウェア回路と、先に説明した通りに動作するためにメモリに格納された命令を実行するように動作可能な少なくとも1つのマイクロプロセッサまたはコントローラとの組み合わせとして実装されてもよい。
【0039】
[0052] いずれの場合でも、
図3に示したプロセッサ16の実施形態は、更に、実例として、第1コンピューティング・デバイス50に結合され、更に
図1に示す1つ以上の周辺デバイス20にも結合された第2コンピューティング・デバイス52を含む。ある代替実施形態では、コンピューティング・デバイス52は1つ以上の周辺デバイス20の内少なくとも1つを含んでもよい。いずれの場合でも、コンピューティング・デバイス52は、実例として、第1コンピューティング・デバイス50によって格納されたイオン測定イベント情報を処理して、イオン質量情報を判定するように動作可能である。コンピューティング・デバイス52は、1つ以上の従来のマイクロプロセッサおよび/またはコントローラ、1つ以上のプログラマブル回路、例えば、1つ以上のフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ、および/または1つ以上の特定用途集積回路(ASIC)であってもよく、またはこれらを含んでもよい。ある実施形態では、コンピューティング・デバイス52は、イオン質量情報の分析の少なくとも一部の量を判定、表示、格納、および実行するために、イオン測定イベント情報を処理することができる、即ち、十分な計算パワーを有する任意の従来のコンピュータまたはコンピューティング・デバイスの形態で設けられてもよい。一実施形態では、コンピューティング・デバイス52は従来のパーソナル・コンピュータ(PC)の形態で設けられてもまたは含まれてもよいが、他の実施形態では、コンピューティング・デバイス52は、更に大きなまたは小さなコンピューティング・パワーを有する1つ以上のコンピュータもしくはコンピューティング・デバイスであってもよく、あるいは含んでもよい。
【0040】
[0053] 電圧源V1、V2は、実例として、イオンをイオン源12からELIT14に導入させ、次いで導入されたイオンを選択的に捕獲させ、捕獲されたイオンがM1およびM2間で電荷検出器CDを繰り返し通過するように、ELIT14内に閉じ込めて発振させるために、イオン・ミラーM1の領域R1およびイオン・ミラーM2の領域R2にイオン透過電界およびイオン反射電界を選択的に確立するように、コンピューティング・デバイス50によって制御される。
図4A~
図4Cを参照すると、
図1のELIT14の簡略図が示され、ELIT14のイオン・ミラーM1、M2のこのようなシーケンス制御および動作の例を表す。以下の例では、コンピューティング・デバイス50が、そのプログラミングにしたがって、電圧源V1、V2の動作を制御するというように説明するが、代替実施形態では、電圧源V1の動作および/または電圧源V1の動作は、少なくとも部分的に、コンピューティング・デバイス52によって、そのプログラミングにしたがって制御されてもよいことは理解されよう。
【0041】
[0054]
図4Aに示すように、ELIT制御シーケンスが開始すると、コンピューティング・デバイス50が電圧源V1を制御して、イオン・ミラーM1の領域R1内にイオン透過電界を確立することによって、イオン・ミラーM1をイオン透過動作モード(T)に制御し、更に電圧源V2を制御して、同様にイオン・ミラーM2の領域R2内にイオン透過電界を確立することによって、イオン・ミラーM2をイオン透過動作モード(T)に制御する。その結果、イオン源12によって生成されたイオンは、イオン・ミラーM1内に引き込まれ、領域R1内に確立されたイオン透過電界によって、M1を透過し、即ち、加速して、電荷検出シリンダCD内に入る。次いで、イオンは、電荷検出シリンダCDを通過し、イオン・ミラーM2に入射し、
図4Aに図示したイオン軌道60によって示すように、M2の領域R2内部に確立されたイオン透過電界が、イオンを透過即ち加速させて、M2の出射アパーチャA1を通過させる。
【0042】
[0055] これより
図4Bを参照すると、イオン・ミラーM1、M2の双方が選択した時間期間だけ、および/または、例えば、コンピューティング・デバイス50によって捕獲された電荷検出信号CDSを監視することによって、イオン透過に成功するまでイオン透過動作モードで動作した後、コンピューティング・デバイス50は、実例として、電圧源V2を制御して、図示のように、イオン・ミラーM2の領域R2内にイオン反射電界を確立しつつ、イオン・ミラーM1をイオン透過動作モード(T)に維持することによって、イオン・ミラーM2をイオン反射動作モード(R)に制御するように動作可能である。その結果、イオン源12によって生成されたイオンはイオン・ミラーM1に飛び込み、
図4Aに関して丁度説明したように、領域R1内に確立されたイオン透過電界によって、M1を透過して電荷検出シリンダCDに入射する。次いで、イオンは電荷検出シリンダCDを通過し、イオン・ミラーM2に入射し、ここで、
図4Bにおけるイオン軌道62によって示すように、M2の領域R2内に確立されたイオン反射電界がイオンを反射し、逆方向に移動させ、電荷検出シリンダCD内に戻す。
【0043】
[0056] これより
図4Cを参照すると、 イオン反射電界がイオン・ミラーM2の領域R2内に確立された後、そしてイオンがELIT14内を移動しているとき、イオンをELIT14内に捕捉するために、プロセッサ回路50は、電圧源V1を制御して、イオン・ミラーM1の領域R1内にイオン反射電界を確立することによって、イオン・ミラーM1をイオン反射動作モード(R)に制御しつつ、イオン・ミラーM2をイオン反射動作モード(R)に維持するように動作可能である。ある実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、実例として、ELIT14を「ランダム捕捉モード」または「連続捕捉モード」に制御するように動作可能、即ち、プログラミング可能である。ランダム捕捉モードでは、コンピューティング・デバイス50は、 ELIT14が
図4Bに示した状態、即ち、M1をイオン透過モード、M2をイオン反射モードとして、選択した時間期間動作した後、イオン・ミラーM1を反射動作モード(R)に制御するように動作可能である。選択した時間期間が経過し終えるまで、ELIT14は
図4Bに示す状態において動作するように制御される。
【0044】
[0057] ランダム捕捉動作モードを使用すると、イオンがELIT14内に保有されているという確認が全くなく、M1をイオン反射動作モードに時間的に制御する(timed control)ために、ELIT14内にイオンを捕捉する確率は比較的低い。ランダム捕捉動作モードの間にELIT14内に捕捉されるイオンの数は、ポアソン分布に従い、単一イオン捕捉イベントの回数を最大化するようにイオン入射信号強度を調節すると、ランダム捕捉イベントにおける捕捉イベントの約37%だけが、単一イオンを保有する(contain)ことを示すことができる。イオン入射信号強度が小さすぎる場合、捕捉イベントの殆どは空であり、大きすぎる場合、殆どが複数のイオンを保有することになる。
【0045】
[0058] 他の実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、ELIT14を「トリガ捕捉モード」に制御するように動作可能である、即ち、プログラミングされる。トリガ捕捉モードでは、実例として、単一イオンを捕捉する確率が実質的に高くなる。トリガ捕捉モードの第1バージョンでは、コンピューティング・デバイス50は、比較器44によって生成されたトリガ信号TRを監視し、トリガ信号TRが「インナクティブ」状態から「アクティブ」状態に変化した場合/とき、ELIT14内にイオンを捕捉するために、電圧源V1を制御して、イオン・ミラーM1を反射動作モード(R)に制御する。ある実施形態では、プロセッサ回路50は、トリガ信号TRの状態の変化の検出時に直ちに、電圧源V1を制御して、イオン・ミラーM1を反射モード(R)に制御するように動作可能であってもよく、他の実施形態では、プロセッサ回路50は、トリガ信号TRの状態の変化を検出した後における既定のまたは選択可能な遅延期間の経過時に、電圧源V1を制御して、反射モード(R)にイオン・ミラーM1を制御するように動作可能であってもよい。いずれの場合でも、トリガ信号TRの「インナクティブ」状態から「アクティブ」状態への状態変化は、電荷プリアンプCPによって生成される電荷検出信号CHDが閾値電圧CTHに達するかまたは超過することによって生じ、したがって、内部に保有されたイオンによって電荷検出シリンダCD上に誘発された電荷の検出に対応する。このように電荷検出シリンダCD内にイオンが保有されると、イオン・ミラーM1を反射動作モード(R)に制御するためのコンピューティング・デバイス50による電圧源V1の制御の結果、ELIT14内部に単一イオンを捕捉する確率を、ランダム捕捉モードと比較して(relative to)、実質的に高めることになる。 つまり、イオンがイオン・ミラーM1を通ってELIT14に入射し、最初に電荷検出シリンダCDを通過してイオン・ミラーM2に向かっているとして検出されると、または
図4Bに示すようにイオン・ミラーM2の領域R2内に確立されているイオン反射電界によって反射された後に逆方向に電荷検出シリンダCDを通過したとして検出されると、このイオンをELIT14内に捕捉するために、
図4Cに示すように、イオン・ミラーM1を反射モード(R)に制御する。また、ランダム捕捉動作モードに関して先に端的に説明したように、トリガ捕捉によって信号強度を最適化することも望ましい。トリガ捕捉モードにおいてイオン入射信号強度を最適化すると、例えば、単一イオン捕捉イベントと全ての把握した(acquired)捕捉イベントとの間の比率として定義される捕捉効率は、ランダム捕捉の37%と比較すると、90%に近づくことができることが示されている。しかしながら、イオン入射信号強度が大きすぎると、捕捉効率は90%未満になるので、イオン入射信号強度を低下させる必要がある。
【0046】
[0059] トリガ捕捉モードの第2バージョンでは、
図4Bに示したプロセスまたはステップを省略または迂回し、
図4Aに示したようにELIT14が動作して、コンピューティング・デバイス50は、比較器44によって生成されたトリガ信号TRを監視し、トリガ信号TRが「インナクティブ」から「アクティブ」状態に変化した場合/とき、イオンをELIT14内に捕捉即ち捕獲するために、電圧源V1、V2の双方を制御し、それぞれのイオン・ミラーM1、M2を反射動作モード(R)に制御するように動作可能である。つまり、イオンがイオン・ミラーM1を通ってELIT14に入射し、
図4Aに示すように、最初に電荷検出シリンダCDを通過しイオン・ミラーM2に向かっているものとして検出されると、イオン・ミラーM1およびM2は双方共、イオンをELIT14内に捕捉するために、
図4Cに示すように反射モード(R)に制御される。
【0047】
[0060] いずれの場合でも、イオンをELIT14内に捕捉するためにイオン・ミラーM1、M2の双方をイオン反射動作モード(R)に制御することにより、イオンは、
図4Cに図示したイオン軌道64によって示すように電荷検出シリンダCDを通過する毎に、イオン・ミラーM1およびM2の領域R1およびR2内にそれぞれ確立されている逆向きのイオン反射電界によって、イオン・ミラーM1およびM2間を前後に発振させられる。一実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、捕捉されたイオンが電荷検出シリンダCDを、選択した回数だけ、通過するまで、
図4Cに示す動作状態を維持するように動作可能である。代替実施形態では、コンピューティング・デバイス50は、M1を(そして実施形態によってはM2も)イオン反射動作モード(R)に制御した後、選択した時間期間だけ、
図4Cに示す動作状態を維持するように動作可能である。いずれの実施形態でも、イオンが電荷検出シリンダCDを通過する毎に得られるイオン検出イベント情報は、コンピューティング・デバイス50内にまたはコンピューティング・デバイス50によって、一時的に格納される。イオンが選択した回数だけ電荷検出シリンダCDを通過したとき、または選択した時間期間だけイオン・ミラーM1、M2間を前後に発振したとき、コンピューティング・デバイス50内にまたはコンピューティング・デバイス50によって格納されたイオン検出イベントの総数は、イオン測定イベントを定め、完了時に、イオン測定イベントがコンピューティング・デバイス52に受け渡されるか、またはコンピューティング・デバイス52によって引き出される。次いで、
図4A~
図4Cに示すシーケンスは、
図4Aに示すシーケンスに戻り、イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2内にそれぞれイオン透過電界を確立することによって、イオン・ミラーM1、M2をそれぞれイオン透過動作モード(T)に制御するように、電圧源V1、V2はコンピューティング・デバイス50によって前述のように制御される。次いで、図示するシーケンスを所望の回数だけ繰り返す。
【0048】
[0061] 一実施形態では、イオン測定イベント・データは、例えば、コンピューティング・デバイス52またはコンピューティング・デバイス50によるコンピューティング、記録した電荷検出イベントの集合体、即ち、記録したイオン測定イベント・データのフーリエ変換によって処理される。実例をあげると、コンピューティング・デバイス52は、例えば、従来の高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムのような、しかしこれには限定されない、任意の従来のディジタル・フーリエ変換(DFT)技法を使用して、このようなフーリエ変換を計算するように動作可能である。いずれの場合でも、実例として、コンピューティング・デバイス52は次にイオン質量電荷比値(m/z)、イオン電荷値(z)、およびイオン質量値(m)を、各々計算したフーリエ変換の関数として計算するように動作可能である。コンピューティング・デバイス52は、実例として、計算した結果をメモリ18に格納するように動作可能であり、および/または観察および/または更なる分析のために結果を表示するために、周辺デバイス20の1つ以上を制御するように動作可能である。
【0049】
[0062] ELIT14の対向するイオン・ミラーM1、M2間で前後に発振するイオン(1つまたは複数)の質量電荷比(m/z)は、以下の式にしたがって、発振するイオン(1つまたは複数)の基本周波数ffの二乗に反比例することが一般に理解されている。
【0050】
[0063] m/z=C/ff2
【0051】
[0064] ここで、Cはイオン・エネルギの関数であり、更にそれぞれのELIT14の寸法の関数でもある定数であり、基本周波数ffは、従来通りに、 計算されたフーリエ変換から直接決定される。イオン電荷の値zは、イオン発振サイクルの回数を考慮に入れて、FT基本周波数の振幅FTMAGに比例する。場合によっては、イオン電荷zを決定する目的のために、FFTの高調波周波数の1つ以上の振幅(1つまたは複数)を、基本周波数の振幅に追加してもよい。いずれの場合でも、次に、m/zおよびzの積としてイオン質量mを計算する。つまり、プロセッサ回路52は、m/z=C/ff2、z=F(FTMAG)およびm=(m/z)(z)を計算するように動作可能である。
【0052】
[0065] イオン源12によってイオンが生成される元となるあらゆる個々の試料について、複数回の、例えば、数百または数千回、あるいはそれ以上のイオン捕捉イベントが通例実行され、このようなイオン捕捉イベントの各々に対して、イオン質量電荷、イオン電荷、およびイオン質量値を判定/計算する。一方、このような複数のイオン捕捉イベントに対するイオン質量電荷、イオン電荷、およびイオン質量値は組み合わされて、試料に関するスペクトル情報を形成する。このようなスペクトル情報は、実例として、異なる形態をなしてもよい。その例には、イオン・カウント対質量電荷比、イオン電荷対イオン質量(例えば、イオン電荷/質量散乱プロットの形態で)、イオン・カウント対イオン質量、イオン・カウント対イオン電荷等を含むが、これらに限定されるのではない。
【0053】
[0066] 電荷検出質量分光分析法(CDMS)は、従来では、単一イオン分析技法であり、イオンの電荷および質量電荷比(m/z)の測定のために、イオンをイオン検出または測定ステージに誘導し、次いで、イオンの電荷および質量電荷比(m/z)からイオンの質量を判定する。このプロセスは、分析対象試料の質量スペクトルを生成するために、複数回、例えば、数百回または数千回繰り返される。イオン検出または測定ステージは、例えば、オービトラップ質量アナライザ、静電線形イオン・トラップ(ELIT)、あるいは他の単一イオン測定ステージまたは機器を含むがこれらには限定されない、様々な異なる形態のいずれでも採用することができる。
図1~
図4Cに示した構造を含み先に詳しく説明したELITでは、いずれの場合でも、ELITに入射したイオンは、これらの入射軌道が概略的にELITの長手方向軸と共線となるように、通例、イオン入射アパーチャの中央に向かって強く(tightly)収束される。従来のELIT動作では、単一イオン捕捉イベントだけを分析する。何故なら、ELIT全域にわたって前後に発振する2つ以上の捕捉イオンは、通例、互いに相互作用する確率が容認できない程に高く、ELIT内におけるそれらの発振軌道の安定性に悪影響を及ぼし、m/zおよび電荷測定の精度低下を招くからである。
【0054】
[0067] ELITにおいてイオンのm/zおよび電荷を精度高く測定するためには、その長手方向発振周波数は、できるだけ安定でなければならない。複数のイオンがELITに入射して捕捉されたとき、捕捉されたイオンは、それらの間の距離に比例する反発力を互いに及ぼし合う。この反発力は、ELIT内におけるイオン発振軌道を逸らせ、このような相互作用の結果として、イオンが運動量を交換するので、発振するイオンのエネルギも変化する。捕捉イベント中におけるイオン発振軌道およびエネルギの変動は望ましくない。何故なら、これらは、イオン発振周波数を判定することができる確信度を低下させ、これによってm/z測定値の精度を低下させるからである。また、イオン発振軌道の変動は、イオン電荷判定における確信度を低下させる。何故なら、このような変動は、イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2へのイオン貫入距離に影響を及ぼし、電荷検出信号CHのデューティ・サイクルを変化させ(例えば、
図4A~
図4C参照)、信号高調波の分布における確信度を低下させるからである。
【0055】
[0068] これより
図5Aおよび
図6~
図7を参照して、
図1~
図2Bおよび
図4A~
図4CのELIT14内における異なるイオン発振軌道について、複数の捕捉イオン間におけるクーロン反発が最小化される場合を検討する。具体的に
図5Aを参照すると、
図1~
図2Bおよび
図4A~
図4CのELIT14、およびその上に重ね合わされた三次元直交座標系の斜視断面図が示されている。図示する例では、z軸は電荷検出シリンダCDならびにイオン・ミラーM1およびM2の領域R1およびR2それぞれの中央を貫通し、したがって
図1および
図2A~
図2Bに示すように、ELIT14の中央長手方向軸22と共線状である。この説明に限って言えば、ELIT14の領域R1、R2および電荷検出シリンダCDは、この座標系において、
図5Aに一例として示すように、z軸に対して垂直に延びるx軸が、領域R1、R2および電荷検出シリンダCDを二分する外側矢状面(lateral plane)または横断面を定めるように、円筒対称であると仮定する。この座標系のy軸も同様にz軸に対して垂直に延び、領域R1、R2および電荷検出シリンダCDを二分する中央(medial)(または垂直または長手方向)面を定める。x、y、およびx軸のゼロ交点は、
図5Bにおいて最良に示されるように、エンドキャップ32の内壁と面一となっている、ELIT14のイオン入射口A1に、任意に位置付けられている。
【0056】
[0069] ELIT14内において、複数の捕捉イオン間におけるクーロン反発を最小に抑える、単一イオン発振軌道の2つの限定形態が確認されている。このような単一イオン発振軌道の1つを
図6の例によって、平面状イオン発振軌道80の形態で示し、他方を
図7の例によって、円筒状イオン発振軌道90の形態で示す。
【0057】
[0070] 平面状イオン発振軌道80は、実例として、ELIT14の領域R1、R2およびCD全域を前後に移動するイオンの平面状軌道を表す。
図6に示す例では、平面状イオン発振軌道80は、裾広がりの底辺を有する平面錐台82、裾広がりの底面を有し、反転されているがそれ以外は同一の平面錐台84、および錐台82、84を繋ぐ概略的に矩形の平面86を含む。反対側にある平面錐台82、84は、実例として、それぞれ、イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2内における、裾広がりの円錐形イオン軌道を表し、矩形平面86は、実例として、電荷検出シリンダCDを通過する平面状イオン軌道を表す。つまり、
図6に示す平面状イオン発振軌道80におけるイオンは、ELIT14全域を前後に発振し、イオンがz軸22に沿って移動するに連れて、その発振軌道がx-y平面における1本の線に大きく制約されるように、平面状発振軌道が長手方向(z)軸22に沿って延びる。また、
図6に示すように、平面状イオン発振軌道80は、各発振中に少なくとも1回 z軸22を通過する。即ち、領域R1において1回(必ずしも電荷検出シリンダCDの長手方向中心を通過するとは限らない)、そして領域R2において1回である。
【0058】
[0071]
図7における例によって示される円筒状イオン発振軌道90は、ELIT14の領域R1、R2、およびCDの全域を前後に移動するイオンの全体的に円筒状の軌道を表す。図示する例では、円筒状イオン発振軌道90は、裾広がりの底辺を有する錐台92、裾広がりの底辺を有し、反転されているがそれ以外は同一の錐台94、および錐台92、94を繋ぐ中央円筒96を含む。
図6に示す平面状軌道80と同様、反対側にある錐台92、94は、実例として、それぞれ、イオン・ミラーM1、M2の領域R1、R2内部における、裾広がりの円錐形イオン軌道を表し、中央の円筒96は、実例として、電荷検出シリンダCDを通過する円筒状イオン軌道を表す。
図7に示す円筒状イオン発振軌道90におけるイオンは、実例として、それがz軸22に沿ってELIT14全域を前後に発振するに連れて、円筒状発振軌道90がz軸22に沿って、そしてz軸22を中心として延びるように、x-y平面において軌道運動を受ける。このような軌道運動の結果、円筒状イオン発振軌道90は、同様に
図7に示すように、領域R1、R2のいずれにおいても、またはELIT14のいずれの他の領域においても、z軸22を通過しない。
【0059】
[0072]
図6および
図7にそれぞれ示した平面状および円筒状イオン発振軌道80、90は、各々、イオン入射状態、具体的には、イオン入射軌道に大きく依存することが確認されている。したがって、ELIT14の領域R1のアパーチャA1に入射するイオンの軌道を、
図6に示す形式の平面状イオン発振軌道を優先するように、または
図7に示す形態の円筒状イオン発振軌道を優先するように、制御することができる。具体的には、イオン入射軌道のこのような制御は、z軸22に対する入射イオンの半径方向オフセットの量または大きさ(magnitude)を制御すること、およびz軸22に対するイオン入射角度を制御することの内1つ、またはこれらの組み合わせという形態を取ることができる。「z軸に対するイオン入射角度」とは、ここでは代わりに、「角度発散」(angular divergence)と呼んでもよく、これら2つの用語は相互交換可能であると見なされることは理解されよう。
【0060】
[0073] ELIT14に入射するイオンの半径方向オフセットとは、一般に、z軸22とz軸22と平行な線との間の距離である。例えば、
図5Bを参照すると、破線ozはz軸22と平行であるが、z軸22から偏位しており、したがって、ozは半径方向オフセット状態の一例を表す。
図5Bに示すように、半径方向オフセット線ozに沿ってELIT14の領域R1のアパーチャA1に入射するイオン70は、したがって、「oz」の半径方向オフセットのみを有するイオン入射軌道T1、即ち、実質的に角度発散がない、または角度発散を無視し得るイオン入射軌道T1(逆に、実質的に0°の角度発散を有する)を表す。他方において、ELIT14に入射するイオンの角度発散は、一般に、z軸22に対する角度、または半径方向オフセットがある場合には、イオンがELIT14に入射するときの半径方向オフセットに対する角度となる。また
図5Bに示すように、z軸22に対して角度DA1でELIT14の領域R1のアパーチャA1に入射する(traveling into)イオン72は、したがって、DA1の発散角度のみを有するイオン入射軌道T1、即ち、z軸22に対して実質的に半径方向オフセットがない、または無視し得るイオン入射軌道T1を表す。最後に、半径方向オフセットozに対して角度DA2でELIT14の領域R1のアパーチャA1に入射するように
図5Bに示すイオン74は、z軸22に対して「oz」の半径方向オフセットと、半径方向オフセットozに対してDA2の発散角度とを双方共有するイオン入射軌道T3を表す。尚、ELIT14に入射するイオンが半径方向オフセットおよび角度発散を有する場合、これら2つはx-y平面において同じ方向に沿っているとよいが、必ずしもその必要はないことは注記してしかるべきである。
【0061】
[0074] 例えば、半径方向オフセットおよび/または角度発散に関するイオン入射軌道は、ELIT14に入射するイオンが、ELIT14内において平面状イオン発振軌道または円筒状イオン発振軌道のどちらに従うかを決定する。例えば、z軸22上でイオン・ミラーM1のアパーチャA1に入射するイオンは、発散角度があってもなくても、
図6に示す形式の平面状イオン発振軌道を辿る(adopt)。イオン・ミラーM1のアパーチャA1に入射するイオンが、z軸22に対して半径方向オフセットがあるが発散角度がない(または無視できる)場合、例えば、平行化(collimated)入射軌道の場合も同様に、平面状イオン発振軌道を辿る。他方で、イオン・ミラーM1のアパーチャA1に入射するイオンが、z軸22に対して半径方向オフセットと、オフセット軸以外のいずれかの方向を指し示す発散角度とを有する場合、円筒状イオン発振軌道を辿ることになる。
【0062】
[0075] ELIT14は、前述のように、円筒対称であると仮定しているので、イオン・ミラーM1、M2のイオン反射動作モード中に領域R1、R2内に誘発される三次元イオン反射電界(RFE)は、
図5Cにおける例によって示されるように、x-y平面に沿ったELIT14のイオン・ミラーM1全域における任意の位置における二次元半径方向スライス(two-dimensional radial slice)に関して記述することができる。
図5Cを参照すると、イオン・ミラーM1の領域R1内にあるイオン78は、半径方向距離rだけz軸から半径方向に偏位して示されている。領域R1内では(そしてイオン・ミラーM2の領域R2内でも同様に)、
図2Bに関して先に説明したように、イオン反射電界REFは、電荷検出シリンダCDからR1に入射するイオン78を、逆方向に電荷検出シリンダCDに向けてそしてその中まで反射するように動作する。イオン78を逆方向に電荷検出シリンダCDに向けて反射することに加えて、イオン反射電界REFはイオンをz軸に向けて強制する。この力は、実例として、ベクトルFによって
図5Cのx-y平面において表され、丁度説明したように、ベクトルFの方向は常にz軸に向かって指し示す(point toward)。
【0063】
[0076] イオン・ミラーM1の領域R1内に位置付けられたイオン78の速度は、
図5Cのx-y平面においてベクトルvによって表される。イオン速度ベクトルvは、x-y座標系と角度α
vを形成し、電界強度ベクトルFも同様にx-y座標系と角度α
Fを形成する。力ベクトル角度α
Fと速度ベクトル角度α
vとの間の差は、
図5Cに示す角度βとなる。ここで、βは2つのベクトルFおよびvの共線性(collinearity)からのイオン78の偏差(deviation)を表す。角度βが0°または180°になるように、速度ベクトルvが力ベクトルFと整列されるとき、イオン78は、
図6に示す形式の平面状イオン発振軌道を取る(assume)。他方で、力ベクトルFと速度ベクトルvとの間の角度βが0°よりもかなり大きいときまたは180°よりもかなり小さいとき、イオン78は、
図7に示す形態の円筒状イオン発振軌道を取る。入射イオンの半径方向オフセットおよび角度発散がx-y平面において同じ方向であるときに、入射イオンの角度発散または半径方向オフセットがゼロであるかまたは十分に小さい場合、速度ベクトルvはz軸に向かって指し示し、イオン発振軌道は平面となる。しかしながら、角度発散および半径方向オフセットがx-y平面において異なる角度である場合、イオン発振軌道は円筒状となる。
【0064】
[0077] ELIT14に入射する複数のイオンの入射軌道を適切に制御することによって、ELIT14全域にわたって同時に前後に発振する複数の捕捉イオン間における相互作用、つまりクーロン反発の可能性が、容認できる程低くなる、平面状イオン発振軌道の分布を優先することが可能になる。
図8を参照すると、例えば、同時に捕捉されELIT14内部を前後に発振する複数のイオン100の平面分布を表すプロットが示されている。図示する例では、イオン100の平面分布は、x-y平面において角度A
Rを定める2つの平面状イオン発振軌道80、80’を含む。各平面状イオン発振軌道80、80’は、ELIT14内に捕捉されELIT14内を発振する1つのイオンを表す。
図8に示す例では、ELIT14は、このように、2つのイオンを捕捉し、各イオンはその内部を前後に発振し、2本の異なる平面状イオン発振軌道80、80’の内1つに従い、各々一意のα
Fを有する。一方のイオンのα
Fと他方のイオンのα
Fとの間の差は、角度A
Rとなる。図示する例では、A
Rは、2つの平面80、80’が直交するように、約90°となっているが、代わりに、A
Rは90°よりも大きくてもまたは小さくてもよいことは理解されよう。また、
図8に示すように、2つのイオンは、潜在的に、z軸に沿ってのみ互いに相互作用する可能性がある。ここで、2つの平面80、80’は互いに交差するので、ある実施形態では、2つのイオン間の相互作用の可能性は、容認できる程に低いとして差し支えない。尚、
図8に示す2つのイオンの平面状イオン分布は、一例として提示したに過ぎないこと、そして他の実施態様では、 各々異なる平面状イオン発振軌道を有し、90°未満の角度A
Rだけ隣接する平面状イオン発振軌道から偏位する2つ以上のイオンを捕捉するように、イオン入射軌道を制御できることは理解されよう。このように、異なる平面状イオン発振軌道を有する2つ以上のイオンは、z軸22を中心として、それらのそれぞれの平面角度A
Rだけ角度的に互いから偏位する。
【0065】
[0078]
図5Bおよび
図5Cに関して先に論じたイオン入射状態を想定すると、ELIT14内においてイオンの平面分布を優先するイオン入射軌道は、実例として、様々な異なる方法で制御することができる。その例には、イオンの半径方向分布が大きい平行化イオン・ビームをイオン・ミラーM1のアパーチャA1に注入しつつ、電源V1の電圧D1~D4を接地に保持し、ビームの中央長手方向軸をz軸22を中心として保持し、z軸22を中心とする半径方向オフセットの分布を生成すること、そして平行化イオン・ビームをイオン・ミラーM1のアパーチャA1に注入し、次いでV1の電圧D1~D4を操作して、z軸22上にある焦点に向かう角度収斂(angular convergence)をイオン・ビームに分与することによって、イオン・ミラーM1におけるイオン領域R1のイオン透過電界の収束パワーを変化させることが含まれるが、これらに限定されるのではない。このようなイオン入射軌道制御はいずれも、2つ以上のイオンをELIT14内に捕捉することを可能にし、ELIT14内において2つ以上の対応する平面状イオン発振軌道を優先する。各軌道は、z軸22に沿って延び隣接する軌道に対して、x-y平面において角度A
Rを形成する。ELIT14内を前後に発振するイオンの平面分布を優先するように、イオン入射軌道を適切に制御するために、種々の単一ステージまたはマルチステージ機器を、
図1に示すイオン源12の一部として実装する、またはイオン源12とELIT14との間に配置することができる。このような機器の1つの実施形態例を
図11に示し、以下で詳しく説明する。
【0066】
[0079] ELIT14に入射する複数のイオンの入射軌道を適切に制御することによって、ELIT14全域にわたって同時に前後に発振する複数の捕捉イオン間の密接な相互作用、つまり、クーロン反発の可能性を最小限に抑える、円筒状イオン発振軌道の分布を優先することが可能になる。その例には、平行化イオン・ビームをz軸22に沿った点に収束し、z軸22に対して半径方向オフセットの線に沿ってこの点を掃引し、平行化イオン・ビームを、イオン・ミラーM1のアパーチャA1における平面に収束してz軸22からずらし、平行化されていないイオン・ビームをELIT14に注入することが含まれるが、これらに限定されるのではない。
図9を参照すると、例えば、ELIT14内に同時に捕捉され前後に発振する複数のイオン110の円筒状分布を表すプロットが示されている。図示する例では、イオン110の円筒状分布は、2本の円筒状イオン発振軌道90、90’を含み、円筒状イオン発振軌道90’は円筒状イオン発振軌道90の中に完全に入れ子になっている(nested)。各円筒状イオン発振軌道90、90’は、ELIT14内部に捕捉され内部で発振する1つのイオンを表す。
図9に示す例では、ELIT14には、したがって、2つのイオンが捕捉され、各イオンはその内部を前後に発振し、2本の異なる円筒状イオン発振軌道90、90’の内1つに従い、1つの軌道90’が他の軌道90の中に完全に入れ子になっている。この構成により、軌道90に従うイオンは、したがって、軌道90‘に従うイオンと有意に相互作用する機会がなくなり、そしてその逆も成り立つ。尚、
図9に示す2つのイオンの円筒状イオン分布は、一例として提示したに過ぎず、他の実施態様では、3つ以上のイオンを捕捉し、順次円筒状イオン発振軌道の入れ子になるように、イオン入射軌道を制御できることは理解されよう。
【0067】
[0080] これより
図10を参照すると、外側の円筒状イオン発振軌道90が、
図9の断面線10-10に沿って内径IR
1および外径OR
1を有するように示されている。ここで、IR
1とOR
1との間の半径方向距離は、円筒状軌道90の厚さを定める。内側の円筒状イオン発信軌道90’も同様に、
図9の切断線10-10に沿って内径IR
2および外形OR
2を有し、IR
2およびOR
2間の半径方向距離は、円筒状軌道90’の厚さを定める。外側の円筒状イオン発振軌道90の内径IR
1と内側の円筒状イオン発振軌道90’の外径OR
2との間の半径方向距離はD
Rである。
【0068】
[0081] 円筒状イオン発振軌道の内径および外径は、z軸22に対するイオン入射軌道の半径方向オフセットの大きさを制御することによって、制御することができる。つまり、複数のイオンが、半径方向に分布して、イオン・ミラーM1のアパーチャA1を通ってELIT14に入射する場合、ELIT14内に結果的にできる複数の円筒状イオン発振軌道は、各々、異なる独立した半径を有し、これは複数の捕捉イオン間における密接な相互関係の可能性を最小に抑えることに寄与する。軌道の平均半径に対する円筒状イオン発振軌道の厚さも同様に、z軸22と平行な半径方向オフセット線に対するイオン入射軌道の角度発散の大きさを制御することによって、制御することができる。例えば、最も薄い円筒状イオン発振軌道が生じるのは、βが90°に近づくときである。薄い円筒状イオン発振軌道は、多くの円筒状イオン発振軌道をELIT14内に入れ子にする、または積み重ねる(stack)ことが望ましい実施形態では好ましい。平面状イオン発振軌道と比較すると、ELIT14は、その内部を前後に同時に発振する遙かに多いイオンを、入れ子円筒状イオン発振軌道によって収容することができる。何故なら、このような入れ子円筒状イオン発振軌道の各々は、ELIT14内において一意の領域、即ち、全ての他の円筒状イオン発振軌道によって占有されるものとは離れており別個である領域を占有するからである。
【0069】
[0082]
図5Bおよび
図5Cに関して先に論じたイオン入射条件を仮定すると、ELIT14内に円筒状イオン分布を優先するイオン入射軌道は、実例として、様々な異なる方法で制御することができる。その例には、イオンの平面分布に関して先に説明した技法例において、イオンが半径方向オフセットの分布だけでなく発散角度の分布も有するように、平行化されていないイオン・ビームを用いてそのようにする1つ以上が含まれるが、それらに限定されるのではない。いずれの場合でも、入射イオンの半径方向オフセットがELIT14のz軸22から半径方向に(radial distance)に増加するに連れて、z軸22に向かって指し示す力ベクトルF(
図5C参照)の大きさも増加する。特定の速度ベクトルvについて、比較的大きい半径方向オフセットでELIT14に入射したイオンから生じた円筒状イオン発振軌道の内径は、したがって、比較的小さい半径方向オフセットでELIT14に入射したイオンから生じた円筒状イオン発振軌道の内径よりも小さい。何故なら、前者に作用する力ベクトルFの大きさは、後者に作用するそれよりも小さいからである。
【0070】
[0083] 更に、入射するイオンの半径方向オフセットが増加するに連れて、入射イオンの、力ベクトルFから離れて指し示す速度ベクトルvの大きさによって表される、発散角度も、入射イオンに円筒状イオン発振軌道を辿らせるために、増加しなければならない。これは、速度ベクトルvが力ベクトルFと同じ平面に沿って指し示す場合、即ち、βが0または180度である場合、イオンの運動は力ベクトルの影響のみを受け、これによって、
図5Cに関して先に説明したように、力ベクトルFと同じ平面内にある発振軌道を、入射イオンに辿らせるからである。イオンの速度ベクトルv成分が力ベクトルFと共平面でない場合、即ち、βが0よりも大きいまたは180よりも小さい任意の角度の場合はいずれも、イオンがz軸22に沿って前後に発振しつつ、x-y平面においてイオンを回転させる。何故なら、イオンには、その回転方向に作用する力がないからである。ELIT14内に捕捉されたイオンが受けるz方向22に向かう力ベクトルFの大きさは、イオンの半径方向オフセットに直接比例する。イオンに作用する力ベクトルFは、半径方向オフセットと共に増加するので、発振するイオンは、z軸22から離れるに連れて、より大きなz軸22に向かう力ベクトルFを受け、その発振軌道を力ベクトルFによって支配させ、一層平面状になる。この効果を補償し、ELIT14内の全ての半径方向オフセットにおいて円筒状イオン発振軌道の形成を誘発するために、力ベクトルFの大きさが増加するに連れて、力ベクトルFに垂直な方向における速度ベクトルvの大きさも、入射イオンが円筒状発振軌道を辿ることを確保する相応の量だけ増加しなければならない。ELIT14内において前後に発振するイオンの円筒状分布を優先するようにイオン入射軌道を適切に制御するために、種々の単一ステージまたはマルチステージ機器を、
図1に示すイオン源12の一部として実装するか、またはイオン源12とELIT14との間に配置することができる。このような1つの機器の実施形態例を
図11に示し、以下で詳しく説明する。
【0071】
[0084] 以上のことに基づくと、
図9における例によって示した、入れ子円筒状イオン発振軌道は、ELIT14内に捕捉された複数のイオン間の相互作用を最小に抑えるという観点では、
図8における例によって示した、角度分散(angularly distributed)平面状イオン発振軌道よりも優れている。しかしながら、角度分散平面状イオン発振軌道は、ELIT14内におけるイオン相互作用の潜在性を完全には排除しないが、このようなイオン相互作用の確率は、従来のイオン入射制御技法と比較すると、大幅に低下する。更に、
図1~
図2Bに示し先に説明したELIT14の設計に基づくと、入れ子円筒状イオン発振軌道の発振周波数安定性は、角度分散平面状イオン発振軌道のそれよりも優れている。言い換えると、ELIT14内における捕捉イベント中のイオン発振周波数の変動は、円筒状イオン発振軌道よりも平面状イオン発振軌道の方が大きい。ELIT14内における発振周波数が、イオンの質量電荷比(m/z)を判定するために使用されるので、m/z判定の不確実性は、したがって、平面状イオン発振軌道よりも円筒状イオン発振軌道の方が小さいと予測される。これは、他のELIT設計には該当しない場合もあり、実際には、添付図面に示し本明細書において説明した概念は、
図1~
図2Bに示し本明細書において説明したELIT14とは1つ以上の態様において異なるELIT設計および構成でも実現できることは、理解されてしかるべきである。更に、発振周波数のこのような変動を低減するように、ELIT14の設計を修正すること、および/またはELITもしくは他のイオン・トラップを設計することも可能である。
【0072】
[0085] また、ELIT14の電荷検出シリンダCDを長手方向軸に沿って2つの半体に分割し、
図3に示すように、別個の検出回路を各電荷検出シリンダ半体に接続して、各半体から来る信号を独立して分析すること、または差動増幅器を使用して、2つの電荷検出シリンダ半体間で差動測定を実行することのいずれも可能である。別個の回路を半体毎に使用する前者の場合、半体毎にディジタル化した信号を高速フーリエ変換によって分析し、基本周波数ピークの大きさを、捕捉イベントの間における各電荷検出シリンダ半体に対するイオンの平均近接度に関係付けることができる。言い換えると、
図10における90のOR
1のような外径を有する円筒状イオン発振軌道は、2つの電荷検出シリンダ半体から特定の平均距離において発振する。フーリエ変換における基本周波数ピークの大きさは、イオンが電荷検出シリンダ半体にどれだけ接近したかに依存する。このことから、円筒状イオン発振軌道の外径を推論し、イオン発振軌道分布から生じる実際のイオンのm/zからの偏差を考慮するように、測定されたイオンのm/zを訂正するために使用することができる。後者の場合、2つの電荷検出シリンダ半体間における信号の相違を監視するために、差動増幅器を使用することができる。イオン発振周波数がz軸22に非常に近いとき、即ち、その外径が小さいとき、半体間の信号に小さな差を生成する。何故なら、イオンは各半体から同様の距離にあるからである。しかしながら、大きな外径を有するイオン発振軌道は、一方の電荷検出シリンダ半体に、他方よりも遙かに近くなり、その結果、2つの半体間の信号に大きな差が出る。ディジタル化した差動増幅器信号から基本周波数の大きさを測定し、イオン発振軌道の外径に関係付けるために、高速フーリエ変換を採用することができ、軌道分布から生じるイオンの測定m/zにおける偏差を訂正するために、三次元イオン発振軌道を確認する方法として、これを役立てることができる。あるいは、電荷検出シリンダCDをそのまま残すこともでき、追加の電荷検出シリンダをトラップの任意の他の領域に配置することもでき、発振イオンが、イオン発振軌道を表す誘発影像電荷(induced image charge)を、追加のシリンダ上に生成する。
【0073】
[0086] 先に説明したように、イオン入射軌道、即ち、ELIT14に入射するイオンの軌道を、ELIT14内において平面状または円筒状イオン発振軌道の分布を優先するように調整する(tune)ことが可能であり、各軌道を優先するためにイオン入射軌道を制御するいくつかの技法例を、先に端的に説明した。平面状イオン発振軌道の分布を優先するようにイオン入射軌道を制御するこのような例は、実例として、イオンの半径方向分布が大きい平行化イオン・ビームをイオン・ミラーM1のアパーチャA1に注入しつつ、電源V1の電圧D1~D4を接地に保持し、ビームの中央長手方向軸をz軸22を中心として保持し、z軸22を中心とする半径方向オフセットの分布を生成すること、そして平行化イオン・ビームをイオン・ミラーM1のアパーチャA1に注入し、V1の電圧D1~D4を操作して、z軸22上にある焦点に向かう角度収斂を、イオン・ビームに分与することによって、イオン・ミラーM1におけるイオン領域R1のイオン透過電界の収束パワーを変化させることが含まれるが、これらに限定されるのではない。あるいは、平行化イオン・ビームをz軸22に沿った点に収束し、z軸22に対して半径方向オフセットの線に沿ってこの点を掃引し、平行化イオン・ビームを、イオン・ミラーM1のアパーチャA1における平面に収束してz軸22からずらし、半径方向オフセットの分布だけでなく角度発散の分布も含む、平行化されていないイオン・ビーム、即ち、収斂または発散ビームをイオン・ミラーM1のアパーチャA1に注入することが、円筒状イオン発振軌道の分布を優先するようにイオン入射軌道を制御する技法例である。このようなイオン入射軌道の制御はいずれも、ELIT14内に2つ以上のイオンを捕捉することを可能にし、平面状または円筒状イオン発振軌道の分布をそれぞれ優先する。これに関して、電荷検出質量分光分析計(CDMS)100の実施形態を
図11に示す。電荷検出質量分光分析計(CDMS)100は、
図1に示し先に説明したイオン源12を含む。イオン源12は、
図1~
図2Bに示し先に説明したELIT14を含む。電荷検出質量分光分析計(CDMS)100は、ELIT14におけるそしてELIT14による複数のイオンの同時捕捉を達成し、ELIT14内における平面状または円筒状イオン発振軌道の分布を優先するように、イオン源12から出射してELIT14に入射するイオンの軌道を選択的に制御するイオン軌道制御装置101の実施形態例を含む。
【0074】
[0087] これより
図11を参照すると、イオン軌道制御装置101は、実例として、イオン源12とELIT14との間に配置され、1つ以上の電圧源108および信号検出回路110に動作可能に結合された、マルチステージ・イオン軌道制御機器105を含む。1つ以上の電圧源は、実例として、選択可能な極性および/または振幅の1つ以上の一定またはスイッチングDC電圧を生成するように構成された任意の数の従来の電圧源と、選択可能な周波数および/またはピーク振幅の1つ以上の時間可変電圧、即ち、AC電圧を生成するように構成された任意の数の従来の電圧源を含むことができる。1つ以上の電圧源108の内の1つまたは任意の組み合わせは、手動で制御可能でもよく、および/または従来のプロセッサ112に動作可能に結合し、これをプロセッサ制御することもできる。また、電圧源108の内1つ以上は、イオン源12の1つ以上の動作的機能を制御するために使用することもでき、ある実施形態では、1つ以上の電圧源108は、
図1に示し、先に説明したようにELIT14の動作を制御するように動作可能な電圧源V1およびV2を含むこともできる。
【0075】
[0088] 信号検出回路110は、実例として、1つ以上の従来の信号センサと、イオン軌道制御機器105の1つ以上の動作状態を検出する従来の信号検出回路とを含む。ある実施形態では、信号検出回路110は、
図1に示し先に説明したようなELIT14に動作可能に結合された電荷プリアンプCPを含むことができる。いずれの場合でも、信号検出回路110は、プロセッサ112に動作可能に結合され、したがって、回路110によって検出された信号は、その処理のために、プロセッサ112に供給される。
【0076】
[0089] プロセッサ112は、実例として、プロセッサ114のための動作命令を格納し、プロセッサ112によって収集および/または処理されたデータを格納するために、少なくとも1つの従来のメモリ114を含むか、または動作可能に結合されている。これはイオン軌道制御機器105の動作および制御に関係するので、メモリ・ユニット(1つまたは複数)114は、実例として、1組以上の命令が内部に格納されている。これらの命令がプロセッサ112によって実行されると、信号検出回路110によって生成された1つ以上の信号に少なくとも部分的に基づいて、ELIT14におけるそしてELIT14による複数のイオンの同時捕捉を達成するように、イオン源12から出射しELIT14に入射するイオンの軌道を選択的に制御し、ELIT14に入射するイオンに、ELIT14内において平面状または円筒状イオン発振軌道の分布を辿らせるように、プロセッサ112に電圧源108の内1つ以上を制御させる。プロセッサ112は、1つ以上の従来のマイクロプロセッサおよび/またはコントローラ、1つ以上のフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、1つ以上の特定用途集積回路(ASIC)、1つ以上の従来のパーソナル、ラップトップ、デスクトップ、タブレット、またはその他のコンピュータ等の内任意の1つもしくはこれらの組み合わせという形態で、1つ以上の
従来のコンピューティング・デバイスを含むことができる。
【0077】
[0090] 図示する実施形態では、イオン軌道制御機器105は、多数の縦続接続されたイオン軌道制御ステージを含む。尚、このようなステージは一例として図示されるに過ぎず、機器105の代替実施形態はもっと多いまたはもっと少ないイオン軌道制御ステージを含んでもよいことは理解されよう。いずれの場合でも、
図11に示す機器105は、実例として、影像電荷検出アレイ・ステージ102を含む。影像電荷検出アレイ・ステージ102は、イオン源12によって生成されたイオンを一端において受け取るように構成されたイオン入射口と、逆端において、イオン・ディフレクタ/オフセット・ステージ104のイオン入射口に動作可能に結合されたイオン出射口とを有する。イオン・ディフレクタ/オフセット・ステージ104は、イオン収束ステージ106のイオン入射口に動作可能に結合されたイオン出射口を有する。イオン収束ステージ106のイオン出射口は、イオン収束ステージ106から出射するイオンが、イオン・ミラーM1のアパーチャA1を通って、ELIT14に入射するように、ELIT14のイオン・ミラーM1のイオン入射アパーチャA1に動作可能に結合されている。
【0078】
[0091] 影像電荷検出アレイ・ステージ102は、実例として、従来の影像電荷検出器の少なくとも2つの離間したアレイ102A、102Bを含む。イオンがビームの形態でイオン源12から出射し、影像電荷検出器アレイ102A、102Bを順次通過するに連れて、信号検出回路110の一部として含まれる従来の影像電荷検出回路は、それぞれの影像電荷検出信号をプロセッサ112に供給し、プロセッサ112は、これらの影像電荷検出信号から、各アレイ102A、102Bを順次通過するイオンの位置を判定するように動作可能である。この情報から、ステージ102から出射するイオン・ビームの軌道を判定することができる。尚、影像電荷検出アレイ・ステージ102は、2つの離間された影像電荷検出アレイだけを含むように、
図11に示しここで説明したが、ステージ102の代替実施形態は、もっと多いまたはもっと少ない離間された影像電荷検出器アレイを含んでもよいことは理解されよう。
【0079】
[0092] イオン・ディフレクタ/オフセット・ステージ104は、実例として、1つ以上の従来のイオン・ディフレクタおよび/または1つ以上の従来のイオン・オフセット装置を含む。ステージ102から出射したイオン・ビームの軌道を計算し、これに基づいて、プロセッサ112は、実例として、先に詳しく説明したような、ELIT14内において選択されたイオン発振軌道の平面状または円筒状分布を優先するイオン入射軌道を達成するために必要なイオン・ビーム軌道に対する、例えば、リアル・タイムの調節値を計算するように動作可能である。このように計算された調節値は、実例として、制御信号の形態で、ステージ104内にある1つ以上のイオン・ディフレクタおよび/または1つ以上のイオン・オフセット装置に供給され、1つ以上のイオン・ディフレクタおよび/または1つ以上のイオン・オフセット装置は、このような制御信号に応答して、例えば、z軸22に対するイオン・ビームの半径方向オフセット、ならびにz軸22に対するイオン・ビームの角度および/またはELIT14を通過しz軸22と平行な軸に対するイオン・ビームの角度のいずれかもしくは双方を制御することによって、そこを通過するイオン・ビームの軌道を選択的に変更する。
【0080】
[0093] イオン収束ステージ106は、実例として、1つ以上の従来のイオン収束エレメントを含む。イオン・ディフレクタ/オフセット・ステージ104から出射するイオン・ビームの調節された軌道は、1つ以上のイオン収束エレメントを通過するに連れて、適切に収束され、イオン収束ステージ106から出射するイオン・ビームは、先に説明したように、イオン・ミラーM1のイオン入射アパーチャA1を通って、ELIT14内に渡される。
【0081】
[0094]
図11における破線表現によって示すように、イオン軌道制御機器105によって生成されるイオン入射軌道の一例は、平行化されたイオン・ビーム120であり、これは、ELIT14のz軸22から半径方向に偏位し、ELIT14内において平面状イオン発振軌道の分布を優先するように、先に説明した技法の内任意のものを使用して、適切に操作される。また、
図11の破線表現によって示すように、イオン軌道制御機器105によって生成されるイオン入射軌道の他の例は、平行化されないイオン・ビーム130でもよい。これは、ELIT14のz軸22から半径方向に偏位し、発散角度の分布を含み、ELIT14内において円筒状イオン発振軌道の分布を優先するように、先に説明した技法の内任意のものを使用して、適切に操作される。
【0082】
[0095] ある代替実施形態では、イオン軌道制御機器105は、少なくとも1つの従来のイオン・トラップであってもよく、またはこれを含んでもよい。従来のイオン・トラップは、その内部にイオンを収集し、収集したイオンを、イオン・トラップを通過するz軸22に向けて収束し、次いで収集したイオンを選択的に放出するように、従来の方法でプロセッサ112によって制御される。放出時に、出射するイオンはz軸22を中心として半径方向に広がり、その後1つ以上の収束エレメントによってELIT14に収束することができる。この実施形態では、イオン・トラップから出射するイオン・ビームは、z軸22を中心として半径方向に分散されるイオンの角度分布を含み、このようなイオン入射軌道は、したがって、円筒状イオン発振軌道の分布を優先する。
【0083】
[0096] イオン軌道制御機器105に加えてまたはその代わりに、1つ以上の磁界および電界生成器を、ELIT14に対して適切に位置付け、ELIT14内においてイオン発振軌道を制御または誘導するように、選択的に制御することができる。例えば、生成された磁界線がz軸22に沿って広がる場合、ELIT14内に捕捉されたイオンは、ELIT14全域にわたって前後に発振するときに、サイクロトロン運動を受ける。また、イオン源12とELIT14との間に、ELIT14のz軸22と整列して位置付けられた磁力線内に、平行化イオン・ビームを注入することができる。レンズは、イオンがこのレンズを通過するときに、半径方向ローレンツ力をイオンに分与する。レンズは、z軸22からのイオンの距離に比例する大きさを有し、円筒状イオン発振軌道を発生させることができる方向の半径方向速度を、イオンに与えることができる。レンズの磁界強度は、平面状または円筒状イオン発振軌道の形成を優先する軌道で、イオンをELIT14に入射させるように、レンズ・コイルにおける電流を変化させることによって調節することができる。このような制御は、ELIT14内における所望のイオン発振軌道またはイオン発振軌道の分布を誘発または強化することができる。
【0084】
[0097] 尚、他の従来の機器、および本明細書において説明したイオン入射状態にしたがってイオン入射軌道を誘導および制御するために使用することができる従来の機器の組み合わせからも、添付図面に示し本明細書において説明したELIT14のような、静電線形イオン・トラップによるイオン発振軌道の平面状または円筒状分布は得られることは、当業者には認められよう。このような他の従来の機器およびそれらの組み合わせはいずれも、本開示によって想定されており、本開示の範囲内に該当することを意図していることは理解されよう。
【0085】
[0098] いずれにしても、
図1~
図4Cに関して先に説明したように、イオン発振軌道の平面状または円筒状分布のいずれかにより、複数のイオンがELIT14全域にわたって前後に発振し、ELIT14を通過する複数のイオンによってELIT14の電荷検出シリンダCD上に誘発される電荷は、電荷プリアンプCPによって検出され、対応する電荷検出信号CHDが、捕捉イベントの期間にわたって、プロセッサ16に渡される。捕捉イベントの間に格納された電荷検出信号の集合体が、前述のように、従来の高速フーリエ変換アルゴリズムを使用して処理されるとき、各々複数の捕捉イオンの各1つに対応する、複数の基礎周波数ピークが現われる。したがって、このような基礎ピークの各々に関連付けられた高調波ピークは容易に識別することができ、次いで、先に説明したように、イオン電荷、質量電荷、および質量を複数の捕捉イオンの各々について判定することができる。
【0086】
[0099] これより
図12Aを参照すると、イオン分離機器200の実施形態の簡略図が示されている。イオン分離機器200は、本明細書において図示および説明したELIT14を含むことができ、本明細書において図示および説明した電荷検出質量分光分析計100を含むことができ、ELIT14の上流側においてイオン源12の一部を形成することができる任意の数のイオン処理機器を含むことができ、および/またはELIT14から出射するイオン(1つまたは複数)を更に処理するためにELIT14の下流側に配置することができる任意の数のイオン処理機器を含むことができる。これに関して、イオン源12は、
図12Aでは、Q個のイオン源ステージIS
1~IS
Qを含むように示されている。イオン源ステージIS
1~IS
Qは、イオン源12であっても、イオン源12の一部を形成するのでもよい。ここで、Qは任意の正の整数でよい。あるいはまたは加えて、イオン処理機器202が、
図12Aにおいて、ELIT14のイオン出射口に結合されるように示され、イオン処理機器210は、任意の数Rのイオン処理ステージOS
1~OS
Rを含むことができる。ここで、Rは任意の正の整数でよい。
【0087】
[00100] これよりイオン源12に移ると、ELITに入射するイオンのイオン源12は、イオン源ステージIS1~ISQの1つ以上の形態で、先に説明したような1つ以上の従来のイオン源であってもまたは含んでもよく、更に、1つ以上の分子特性にしたがって(例えば、イオン質量、イオン質量対電荷、イオン移動度、イオン保持時間等にしたがって)イオンを分離するための1つ以上の従来の機器、および/またはイオンを収集および/または格納するため(例えば、1つ以上の四重極、六重極、および/または他のイオン・トラップ)、イオンを(例えば、イオン質量、イオン質量対電荷、イオン移動度、イオン保持時間等のような1つ以上の分子特性にしたがって)フィルタリングするため、イオンを断片化するまたそうでなければ解離させるため、イオン荷電状態を正規化するまたは移す(shift)ため等の1つ以上の従来のイオン処理機器を含むことができることは理解されよう。尚、イオン源12は、任意のこのような従来のイオン源、イオン分離機器、および/またはイオン処理機器の内1つまたは任意の組み合わせを任意の順序で含んでもよいこと、そしてある実施形態は、任意のこのような従来のイオン源、イオン分離機器、および/またはイオン処理機器を複数個隣接してまたは離間して含んでもよいことは理解されよう。
【0088】
[00101] これよりイオン処理機器202に移ると、機器202は、イオン処理ステージOS1~OSRの1つ以上の形態で、1つ以上の分子特性にしたがって(例えば、イオン質量、イオン質量対電荷、イオン移動度、イオン保持時間等にしたがって)イオンを分離するための1つ以上の従来の機器、イオンを収集および/または格納するための1つ以上の従来の機器(例えば、1つ以上の四重極、六重極、および/または他のイオン・トラップ)、イオンを(例えば、イオン質量、イオン質量対電荷、イオン移動性、イオン保持時間等のような1つ以上の分子特性にしたがって)フィルタリングするための1つ以上の従来の機器、イオンを断片化するまたそうでなければ解離させるための1つ以上の従来の機器、イオン荷電状態を正規化するまたは移すための1つ以上の従来のイオン処理機器等であってもよく、または含んでもよいことは理解されよう。尚、イオン処理機器202は、任意のこのような従来のイオン分離機器および/またはイオン処理機器の内1つまたは任意の組み合わせを任意の順序で含んでもよいこと、そしてある実施形態は、任意のこのような従来のイオン分離機器および/またはイオン処理機器を複数個隣接してまたは離間して含んでもよいことは理解されよう。イオン源12および/またはイオン処理機器202が1つ以上の質量分光分析計を含む実施態様ではいずれも、任意の1つ以上のこのような質量分光分析計は任意の従来の設計でもよく、例えば、飛行時間(TOF:time-of-flight)質量分光分析計、リフレクトロン質量分光分析計、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴(FTICR:Fourier transform ion cyclotron resonance)質量分光分析計、四重極型質量分光分析計、三連四重極型質量分光分析計、磁場型質量分光分析計等を含むが、これらに限定されるのではない。
【0089】
[00102]
図12Aに示すイオン分離機器200の1つの具体的な実施態様として、イオン源12は、実例として、3つのステージを含み、イオン処理機器202を除外する。これは決して限定と見なしてはならない。この実施態様例では、イオン源ステージIS
1は従来のイオン源、例えば、エレクトロスプレイ、MALDI等であり、イオン源ステージIS
2は、従来のイオン・フィルタ、例えば、四重極または六重極イオン・ガイドであり、イオン源ステージIS
3は、先に説明した型式の内いずれかの質量分光分析計である。この実施形態では、イオン源ステージIS
2は、従来通りに、下流質量分光分析計による分析のために、所望の分子特性を有するイオンを予め選択し、このように予め選択したイオンだけを質量分光分析計に受け渡すように制御され、ELIT14によって同時に分析された複数のイオンが、予め選択されたイオンとなり、質量電荷比にしたがって質量分光分析計によって分離される。予め選択されたイオンがイオン・フィルタから出射すると、例えば、指定されたイオン質量または質量電荷比を有するイオン、指定されたイオン質量またはイオン質量電荷比よりも高いおよび/または低いイオン質量またはイオン質量電荷比を有するイオン、指定されたイオン質量またはイオン質量電荷比の範囲内のイオン質量またはイオン質量電荷比を有するイオン等となることができる。この例のある代替実施形態では、イオン源ステージIS
2が質量分光分析計であってもよく、イオン源ステージIS
3がイオン・フィルタであってもよく、イオン・フィルタが、下流ELIT14による分析のために、質量分光分析計から出射するイオンの内、所望の分子特性を有するイオンを予め選択するために、丁度説明したように、他の方法で動作可能であってもよい。
この例の他の代替実施態様では、イオン源ステージIS
2がイオン・フィルタであってもよく、イオン源ステージIS
3が、質量分光分析計とその後ろにある他のイオン・フィルタを含んでもよく、イオン・フィルタは、各々、丁度説明したように動作する。
【0090】
[00103]
図12Aに示すイオン分離機器200の他の具体的な実施態様として、イオン源12は、実例として、2つのステージを含み、ここでもイオン処理機器202を除外する。これは、決して限定とみなしてはならない。この実施態様例では、イオン源ステージIS
1は、従来のイオン源、例えば、エレクトロスプレイ、MALDI等であり、イオン源ステージIS
2は、先に説明した型式の内いずれかの従来の質量分光分析計である。この実施態様では、機器200は電荷検出質量分光分析計(CDMS)100の形態を取り、ELIT14は、質量分光分析計から出射した複数のイオンを同時に分析するように動作可能である。
【0091】
[00104]
図12Aに示すイオン分離機器200の更に他の具体的な実施態様として、イオン源12は、実例として、2つのステージを含み、イオン処理機器202を除外する。これは決して限定とみなしてはならない。この実施態様例では、イオン源ステージIS
1は、従来のイオン源、例えば、エレクトロスプレイ、MALDI等であり、イオン処理ステージOS
2は、従来の単一ステージまたはマルチステージ・イオン移動度分光分析計である。この実施態様では、イオン移動度分光分析計は、イオン源ステージIS
1によって生成されたイオンを、イオン移動度の1つ以上の関数にしたがって経時的に分離するように動作可能であり、ELIT14は、イオン移動度分光分析計から出射した複数のイオンを同時に分析するように動作可能である。この例の代替実施態様では、イオン処理機器202は、従来の単一ステージまたはマルチステージ・イオン移動度分光分析計を、唯一のステージOS
1として(またはマルチステージ機器のステージOS
1として)含んでもよい。この代替実施態様では、ELIT14は、イオン源ステージIS
1によって生成された複数のイオンを同時に分析するように動作可能であり、イオン移動度分光分析計OS
1は、ELIT14から出射したイオンを、イオン移動度の1つ以上の関数にしたがって、経時的に分離するように動作可能である。この例の他の代替実施態様として、単一ステージまたはマルチステージ・イオン移動度分光分析計が、イオン源ステージIS
1およびELIT14双方の後ろにあってもよい。この代替実施態様では、イオン源ステージIS
1の後ろにあるイオン移動度分光分析計が、イオン源ステージIS
1によって生成されたイオンを、イオン移動度の1つ以上の関数にしたがって経時的に分離するように動作可能であり、ELIT14が、イオン源ステージのイオン移動度分光分析計から出射した複数のイオンを同時に分析するように動作可能であり、ELIT14の後ろにあるイオン処理ステージOS
1のイオン移動度分光分析計が、ELIT14から出射したイオンを、イオン移動度の1つ以上の関数にしたがって経時的に分離するように動作可能である。この段落において説明した実施形態のいずれの実施態様においても、更に他の変形では、イオン源12および/またはイオン処理機器202において、単一ステージまたはマルチステージ・イオン移動度分光分析計の上流および/または下流に動作可能に位置付けられた質量分光分析計を含んでもよい。
【0092】
[00105]
図12Aに示すイオン分離機器200の更に他の具体的な実施態様として、イオン源12は、実例として、2つのステージを含み、イオン処理機器202を除外する。これは決して限定とみなしてはならない。この実施態様例では、イオン源ステージIS
1は従来の液体クロマトグラフ、例えば、分子保持時間にしたがって溶液中の分子を分離するように構成されたHPLC等であり、イオン源ステージIS
2は、従来のイオン源、例えば、エレクトロスプレイ等である。この実施態様では、液体クロマトグラフは、溶液中の分子成分を分離するように動作可能であり、イオン源ステージIS
2は、液体クロマトグラフから出た溶液流からイオンを生成するように動作可能であり、ELIT14は、イオン源ステージIS
2によって生成された複数のイオンを同時に分析するように動作可能である。この例の代替実施態様では、イオン源ステージIS
1は、代わりに、溶液中の分子を大きさによって分離するように動作可能な従来のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC:size-exclusion chromatograph)にしてもよい。他の代替実施態様では、イオン源ステージIS
1が、従来の液体クロマトグラフと、その後ろに従来のSECとを含んでもよく、またはこの逆を含んでもよい。この実施態様では、イオンが、イオン源ステージIS
2によって、2回分離された溶液から生成される。1回目は分子保持時間にしたがって分離され、続いて2回目は分子サイズにしたがって分離される、またはこの逆でもよい。複数の同時に捕捉されたイオンを保有する捕捉イベントを分析することができると、質量分光分析計がクロマトグラフ技法に結合される実験において、非常に価値がある。クロマトグラフにおいて分子が十分に分離されているとき、これらはクロマトグラフから勢いよく溶出する。各々の持続時間は秒から分単位であり、各噴出(burst)は、クロマトグラフへの試料注入毎に、各分子に1回だけ発生する。クロマトグラフから出射するイオンの存在量(abundance)は、溶出時間の関数として、溶出特性と見なすことができる。これらの噴出が質量分光分析計に導入されると、イオン・ビーム強度はクロマトグラフ溶出特性の関数となる。単一イオン捕捉イベントのみを分析し、質量スペクトルの生成のために1時間にわたって十分なデータを収集する必要がある従来のCDMSの実施態様とは異なり、複数のイオンの同時捕捉、およびそれに続く複数イオン捕捉イベントの分析は、質量スペクトルを収集するために必要な時間を大幅に短縮し、数分で質量スペクトルを取得することが可能になる。また、これは、クロマトグラフからの分離された分子の溶出と一致するイオン・ビーム強度における突出(burst)を、溶出特性と同じ時間枠においてCDMSによって特徴付けできることを意味する。この段落において説明した実施形態のいずれの実施態様においても、更に他の変形では、イオン源ステージIS
2とELIT14との間に動作可能に位置付けられた質量分光分析計を含んでもよい。
【0093】
[00106] これより
図12Bを参照すると、イオン分離機器210の他の実施形態の簡略ブロック図が示されている。実例として、イオン分離機器210は、マルチステージ質量分光分析機器220を含み、更に、ELIT14を含むCDMS100も含み、更に実施形態によっては、高質量イオン分析コンポーネントとして実装される、前述のようなイオン軌道制御装置105を含む。図示する実施形態では、マルチステージ質量分光分析機器220は、本明細書において図示および説明したイオン源(IS)12、その後ろにありこれに結合された第1の従来の質量分光分析計(MS1)204、その後ろにありこれに結合された従来のイオン解離ステージ(ID)206であって、例えば、衝突誘発解離(CID)、表面誘発解離(SID)、電子捕獲解離(ECD)、および/または光誘発解離(PID)等の内1つ以上によって、質量分光分設計204から出射したイオンを解離させるように動作可能な、従来のイオン解離ステージ(ID)206、その後ろにありこれに結合された第2の従来の質量分光分析計(MS2)208、その後ろにある、例えば、マイクロチャネル・プレート検出器または他の従来のイオン検出器のような従来のイオン検出器(D)212を含む。CDMS100が選択的に質量分光分析計204および/またはイオン解離ステージ206からイオンを受け取ることができるように、CDMS100はイオン解離ステージ206と並列に結合されている。
【0094】
[00107] 例えば、イオン分離機器220のみを使用するMS/MSは、定着した手法であり、特定の分子重量の先駆イオンが、それらのm/z値に基づいて、第1質量分光分析計204(MS1)によって分離される。質量で選択された先駆イオンは、例えば、衝突誘発解離、表面誘発解離、電子捕獲解離、または光誘発解離によって、イオン解離ステージ206において断片化される。断片イオンは、次いで、第2質量分光分析計208(MS2)によって分析される。MS1およびMS2双方において、先駆イオンおよび断片イオンのm/z値だけが測定される。高質量イオンでは、荷電状態が解明されず、したがってm/z値のみに基づいて特定の分子重量の先駆イオンを選択するのは不可能である。しかしながら、
図12Bに示すように、機器220をCDMS100に結合することによって、m/z値の狭い範囲を選択し、次いでCDMS100を使用して、m/zによって選択された先駆イオンの質量を判定することが可能になる。質量分光分析計204、208は、例えば、磁場型質量分光分析計、飛行時間質量分光分析計、または四重極質量分光分析計の内1つまたは任意の組み合わせでもよいが、代替実施形態では、他の型式の質量分光分析計も使用することができる。いずれの場合でも、m/zによって選択され、既知の質量を有し、MS1から出射した先駆イオンは、イオン解離ステージ206において断片化することができ、次いで、結果的に得られた断片イオンをMS2によって(m/z比率のみが測定される)および/またはCDMS機器100によって(複数のイオンのm/z比率および電荷が同時に測定される)分析することができる。低質量の断片、即ち、閾値の質量値、たとえば、10,000Da(または他の質量値)よりも低い質量値を有する、先駆イオンの解離イオンは、したがって、従来のMSによって、MS2を使用して分析することができ、一方高質量の断片(電荷状態は解明されていない)、即ち、閾値の質量値以上の質量値を有する先駆イオンの解離イオンは、CDMS100によって分析することができる。
【0095】
[00108] 尚、添付図面において示し先に説明したシステム10、100、200、210のいずれかにおいて実装されるELIT14の種々のコンポーネントの寸法、およびその中で確立される電界の大きさは、実例として、ELIT14内において、電荷検出シリンダCDにおいてイオン(1つまたは複数)によって費やされる時間と、1回の完全な発振サイクル中にイオン(1つまたは複数)がイオン・ミラーM1、M2の組み合わせおよび電荷検出シリンダCDを横断することによって費やされる総時間との比率に対応する、イオン発振の所望のデューティ・サイクルを確立するように選択できることは理解されよう。例えば、約50%のデューティ・サイクルは、測定信号の高調波周波数成分によって行われる基本周波数の振幅判定において、ノイズを低減する目的には望ましいとしてよい。例えば、50%のような所望のデューティ・サイクルを達成するためのこのような寸法および動作上の考慮事項に関する詳細は、2018年1月12日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/616,860号、2018年6月4日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/680,343号、および2019年1月11日に出願された、同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019____号において図示および説明されている。これらは、全てELECTROSTATIC LINEAR ION TRAP DESIGN FOR CHARGE DETECTION MASS SPECTROMETRY(電荷検出質量分光分析のための静電線形イオン捕捉設計)と題され、これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0096】
[00109] 更に、添付図面において示し本明細書において説明したシステム10、100、200、210のいずれかにおいて、例えば、トリガ捕捉または他の電荷検出イベントのために、1つ以上の電荷検出最適化技法を、ELIT14と共に使用してもよいことは理解されよう。このような電荷検出最適化技法のいくつかの例が、2018年6月4日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/680,296号、および2019年1月11日に出願された同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019/ 号において図示および説明されている。これらは、双方共、APPARATUS AND METHOD FOR CAPTURING IONS IN AN ELECTROSTATIC LINEAR ION TRAP(静電線形イオン・トラップにおけるイオン捕獲装置および方法)と題し、これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0097】
[00110] 更に、1つ以上の電荷較正または再設定装置が、ELIT14の電荷検出シリンダCDと共に、添付図面に示し本明細書において説明したシステム10、100、200、210の内任意のものにおいて使用されてもよいことも理解されよう。1つのこのような電荷較正またはリセット装置の例が、2018年6月4日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/680,272号、および2019年1月11日に出願された同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019____号において図示および説明されている。これらは双方共、APPARATUS AND METHOD FOR CALIBRATING OR RESETTING A CHARGE DETECTOR(電荷検出器を較正または再設定するための装置および方法)と題し、これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0098】
[00111] 更にまた、添付図面に示したELIT14は、同様に添付図面に示し本明細書において説明したシステム10、100、200、210の内任意のものの一部として、本明細書において説明したが、代わりに、2つ以上のELITを有するまたは2つ以上のELIT領域を有する少なくとも1つのELITアレイの形態、および/または2つ以上のELIT領域を含む任意の1つのELITの形態で設けられてもよいこと、そして本明細書において説明した概念は、1つ以上のこのようなELITおよび/またはELITアレイを含むシステムにも直接適用できることも理解されよう。このようないくつかのELITおよび/またはELITアレイの例は、2018年6月4日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/680,315号、および2019年1月11日に出願された同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019____号において図示および説明されている。これらは双方共、ION TRAP ARRAY FOR HIGH THROUGHPUT CHARGE DETECTION MASS SPECTROMETRY(高スループット電荷検出質量分光分析のためのイオン・トラップ・アレイ)と題し、これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0099】
[00112] 更に、1つ以上のイオン源最適化装置および/または技法は、本明細書において図示および説明したイオン源12の1つ以上の実施形態と共に、添付図面に示し本明細書において説明したシステム10、150、180、200、220のいずれかの一部としてまたはこれと組み合わせて使用されてもよいことも理解されよう。その一部の例が、2018年6月4日に出願され、HYBRID ION FUNNEL-ION CARPET (FUNPET) ATMOSPHERIC PRESSURE INTERFACE FOR CHARGE DETECTION MASS SPECTROMETRY(電荷検出質量分光分析のための混成イオン・ファンネル-イオン・カーペット(FUNPET)大気圧インターフェース)と題する同時係属中の米国特許出願第62/680,223号、および2019年1月11日に出願に出願され、INTERFACE FOR TRANSPORTING IONS FROM AN ATMOSPHERIC PRESSURE ENVIRONMENT TO A LOW PRESSURE ENVIRONMENT(大気圧環境から低圧環境にイオンを輸送するためのインターフェース)と題する同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019/ において図示および説明されている。これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0100】
[00113] 更にまた、添付図面に図示し本明細書において説明したシステム10、100,200、210はいずれは、リアル・タイム分析および/またはリアル・タイム制御技法にしたがって動作するように構成されたシステムにおいて、またはその一部として、実装できることも理解されよう。その例の一部が、2018年6月4日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/680,245号、および2019年1月11日に出願された同時係属中の国際特許出願第PCT/US2019/ 号において図示および説明されている。これらは双方共、CHARGE DETECTION MASS SPECTROMETRY WITH REAL TIME ANALYSIS AND SIGNAL OPTIMIZATION(リアル・タイム分析および信号最適化による電荷検出質量分析法)と題し、これらの特許出願をここで引用したことにより、その内容全体が全て明示的に本願にも含まれるものとする。
【0101】
[00114] 図面および以上の説明において本開示を詳しく図示し説明したが、これは性質上限定ではなく例示と見なされるものであり、その例示的な実施形態が図示および説明されたに過ぎないこと、そして本開示の主旨に該当する全ての変更および修正が保護されることが望まれることは理解されよう。例えば、添付図面に示し本明細書において説明したELIT14は、一例として設けられたに過ぎず、以上で説明した概念、構造、および技法は、種々の代替設計のELITにも直接実施できることは理解されよう。このような代替ELIT設計はいずれも、例えば、2つ以上のELIT領域、もっと多いイオン・ミラー電極、もっと少ないイオン・ミラー電極、および/または異なる形状のイオン・ミラー電極、もっと多いまたはもっと少ない電圧源、電圧源の1つ以上によって生成される、もっと多いまたはもっと少ないDCもしくは時間可変信号、追加の電界領域を定める1つ以上のイオン・ミラー等の内任意の1つまたは以上の組み合わせを含んでもよい。
【国際調査報告】