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特表2022-510381焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材およびこの鋼材を利用したバネ製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材およびこの鋼材を利用したバネ製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220119BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20220119BHJP
   C21D 9/02 20060101ALI20220119BHJP
   B60G 11/02 20060101ALI20220119BHJP
   B60G 11/14 20060101ALI20220119BHJP
   B60G 21/055 20060101ALI20220119BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20220119BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20220119BHJP
   F16F 1/14 20060101ALI20220119BHJP
   F16F 1/18 20060101ALI20220119BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/54
C21D9/02 A
C21D9/02 Z
B60G11/02
B60G11/14
B60G21/055
F16F1/02 A
F16F1/02 B
F16F1/06 Z
F16F1/14
F16F1/18 G
C21D7/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531537
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2019014006
(87)【国際公開番号】W WO2020235756
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0059385
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0059393
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0059394
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521237549
【氏名又は名称】サムウォンスティール カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521237550
【氏名又は名称】テウォン カン アップ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヘ チャン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ソク ファ
(72)【発明者】
【氏名】パク、チ ウォン
【テーマコード(参考)】
3D301
3J059
4K042
【Fターム(参考)】
3D301AA78
3D301CA01
3D301CA21
3D301DA02
3D301DA08
3D301DA70
3J059AB11
3J059AD05
3J059BA01
3J059BA11
3J059BA36
3J059BC02
3J059EA09
3J059GA02
4K042AA01
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA04
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DB01
4K042DB08
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DE05
(57)【要約】
本発明は、ニッケル(Ni)0.003~0.2重量%、銅(Cu)0.005~0.2重量%、モリブデン(Mo)0.01~0.5重量%、チタン(Ti)0.01~0.04重量%、バナジウム(V)0.01~0.04重量%、ニオビウム(Nb)0.001~0.2重量%、アルミニウム(Al)0.001~0.01重量%の中から選択される1種以上が含有され、炭素(C)0.1~0.4重量%、シリコン(Si)01.~1.0重量%、マンガン(Mn)0.1~1.5重量%、クロム(Cr)0.1~0.7重量%、ボロン(B)0.001~0.004重量%、窒素(N)0.004~0.015重量%、酸素(O)0.003重量%以下、リン(P)0.01重量%以下、硫黄(S)0.01重量%以下、残部としての鉄およびその他不可避な不純物で組成され、ベイナイト組織分率が90%以上形成されて、焼き入れおよび焼き戻しからなる熱処理工程のうち、焼き戻し工程の省略が可能な、焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材およびこのバネ用鋼材を利用したバネ製造方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き入れおよび焼き戻しからなる熱処理工程のうち、焼き戻し工程の省略が可能に製造されるバネ用鋼材において、
ニッケル(Ni)0.003~0.2重量%、銅(Cu)0.005~0.2重量%、モリブデン(Mo)0.01~0.5重量%、チタン(Ti)0.01~0.04重量%、バナジウム(V)0.01~0.04重量%、ニオビウム(Nb)0.001~0.2重量%、アルミニウム(Al)0.001~0.01重量%の中から選択される1種以上が含有され、炭素(C)0.1~0.4重量%、シリコン(Si)0.1~1.0重量%、マンガン(Mn)0.1~1.5重量%、クロム(Cr)0.1~0.7重量%、ボロン(B)0.001~0.004重量%、窒素(N)0.004~0.015重量%、残部としての鉄およびその他不可避に含有される不純物で組成され、ベイナイト組織分率が90%以上形成されることを特徴とする焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項2】
モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)を含み、C+Mn/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15の公式で表現される炭素当量(equivalent)が0.25~0.6の範囲内で形成されることを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項3】
チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオビウム(Nb)およびアルミニウム(Al)の微量合金を含み、(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/7.66Nの公式で表現される微量合金添加定数が0.8~1.0の範囲内で形成されることを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項4】
[5.25B-{7.66N-(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/5.25}]×10000の公式で表現される有効ボロン量は、7~20ppmの範囲内で形成されることを特徴とする請求項3に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項5】
前記バネ用鋼材は、0.003重量%以下の酸素(O)、0.01重量%以下のリン(P)および0.01重量%以下の硫黄(S)が含まれることを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項6】
オステナイトの結晶粒度は、15~70μmのサイズで形成されることを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項7】
オーステンパー(austempering)により形成される上部ベイナイト(upper-bainite)に比べて相対的に低温で形成される下部ベイナイト(lower-bainite)の組織分率が60%以上形成されることを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項8】
形成された鋼材は、Hv410~525の硬度、135~185kg/mmの引張強度、110~155kg/mmの降伏強度、0.81~0.88の降伏比、30~50%の断面減少率、11~16%の伸率、0.5~0.6の疲労限度比の範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載の焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材。
【請求項9】
ニッケル(Ni)0.003~0.2重量%、銅(Cu)0.005~0.2重量%、モリブデン(Mo)0.01~0.5重量%、チタン(Ti)0.01~0.04重量%、バナジウム(V)0.01~0.04重量%、ニオビウム(Nb)0.001~0.2重量%、アルミニウム(Al)0.001~0.01重量%の中から選択される1種以上が含有され、炭素(C)0.1~0.4重量%、シリコン(Si)0.1~1.0重量%、マンガン(Mn)0.1~1.5重量%、クロム(Cr)0.1~0.7重量%、ボロン(B)0.001~0.004重量%、窒素(N)0.004~0.015重量%、残部としての鉄およびその他不可避に含有される不純物で組成され、ベイナイト組織分率が90%以上形成される焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材を使用してバネを製造する方法において、
バネ用鋼材切断過程と、
切断されたバネ鋼材を加熱してバネ形状に加工する熱間成形過程と、
成形されたバネを急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程と、を含むことを特徴とする焼き戻し工程省略バネ用鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項10】
前記熱間成形過程でバネ鋼材の加熱は、A3変態点から1050℃以下の温度範囲内で雰囲気(atmosphere)加熱または誘導加熱(induction heating)により行われることを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項11】
前記熱処理過程で成形されたバネの急速冷却は、成形された常温またはそれ以下の温度に到達するまで20~150℃/secの冷却速度で行われることを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項12】
前記熱間成形過程は、バネ鋼材を加熱した後、ジグを用いて湾曲部を形成してバネ形状に加工する成形過程からなり、
前記熱処理過程は、成形されたバネを全体的に均一に再加熱した後、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程からなり、
バネの両終端を加熱した後、熱間成形して懸架装置との連結部を構成するアイ(eye)部を形成する過程と、
成形が完了したバネの形状を検査し、校正する過程と、
バネ表面に高速のショットボールを噴射し、腐食防止処理をする表面処理過程と、を含み、前記バネは、自動車懸架装置用スタビライザーバーであることを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ用鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項13】
前記熱間成形過程は、バネ鋼材を加熱した後、コイリング(coiling)し、バネの終端にピッグテール(pig tail)部を形成してコイリングされたバネ形状に加工する熱間成形過程からなり、
バネの両側終端をコイリングされた軸方向に圧縮する1次セッティング過程と、
200~250℃で加熱したバネの表面に高速のショットボールを噴射するショットピーニング過程と、
バネの両側終端をコイリングされた軸方向に圧縮する2次セッティング過程と、
バネ表面に腐食防止処理をする表面処理過程と、を含み、前記バネは、自動車懸架装置用コイルバネであることを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ用鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項14】
前記熱間成形過程は、バネ鋼材を加熱した後、ジグを用いて湾曲部を形成してバネ形状に加工する成形過程からなり、
前記熱処理過程は、成形されたバネを全体的に均一に再加熱した後、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程からなり、
バネ表面に高速のショットボールを噴射し、腐食防止処理をする表面処理過程を含み、前記バネは、レール締結バネであることを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ用鋼材を利用したバネ製造方法。
【請求項15】
前記バネとして、複数の層で積層される薄くて長い形状の鋼材と、積層された鋼材を互いに固定する固定ブラケットと、自動車フレームに連結されるように、最上部に積層された鋼材の両終端が円形に曲げられて形成されたフレーム連結部とで構成され、下部に積層される鋼材が、上部に積層される鋼材より長い長さを有して、積層時に階段を成す自動車懸架装置用板バネの製造のために、
前記切断過程は、板バネ用平鋼材を積層される位置によるサイズに切断する過程からなり、
前記熱処理過程は、それぞれの鋼材を全体的に均一に加熱した後、キャンバージグを用いて加圧して曲度を付与し、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程からなり、
最上部に積層される鋼材の両終端を加熱した後、鋼材の両終端を圧延してテーパーを形成し、テーパーが形成された両終端を円形に曲げてフレーム連結部を形成する先端加工過程と、
それぞれの鋼材に固定ブラケットを連結するための連結具を形成する過程と、
それぞれの鋼材表面に高速のショットボールを噴射し、表面に亜鉛下塗り層を形成する表面処理過程と、
鋼材を積層し、固定ブラケットを用いて固定する組立過程と、を含むことを特徴とする請求項9に記載の焼き戻し工程省略バネ用鋼材を利用したバネ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材に関する。
【0002】
より具体的には、バネ用鋼材に適正炭素当量を提供してベイナイト組織分率を高め、これを通じて、マルテンサイトおよびパーライト生成量を減少させたり生成を最小化し、有効ボロン量を適切に確保して、製造されたバネ用鋼材の強度および靭性を向上させる。
【0003】
これを通じて、焼き入れおよび焼き戻しからなるバネ熱処理工程において焼き戻し工程を省略することができるようにして、バネの生産効率を向上させる焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材に関する。
【0004】
また、本発明は、このような鋼材を利用してバネの生産効率を向上させるバネ製造方法を提供するためのものである。
【背景技術】
【0005】
一般的に、バネは、外部から作用する衝撃により弾性変形されてから元の状態に戻る作用が繰り返されるので、バネの性能および耐久性を確保するために焼き入れおよび焼き戻し等からなる熱処理を行うことになり、バネが適用される構造物に作用する力の大きさに応じて多様な種類のバネ用鋼材を適用することになる。
【0006】
自動車の懸架装置等に使用されるバネの場合、バネの性能および耐久寿命を維持するために、135±5kg/mmの引張強度、125±5kg/mmの降伏強度および11±2%の伸率の条件を満たすSUP9系のバネ鋼を主に使用した。
【0007】
しかし、従来の焼き戻し工程を含む熱処理鋼材の場合、焼き戻し工程のための再加熱過程で必ず必要とする加熱炉によりバネ生産工場の生産ラインが長くなって、工場の空間を効率的に使用するのに困難があり、加熱炉に対する設置費用および維持管理費用が追加的に発生する問題があった。
【0008】
特に、最近では、工場自動化による生産施設の無人化および管理自動化概念の延長線上でスマートファクトリーを構築して進むのが現状であるが、スマートファクトリーは、過去の単位工程別の最適化を成す工場自動化の概念から抜け出して、全体的な工程が互いに有機的に連携して発生しうるように、工場内装置がモノのインターネットを介して各工程間のデータを共有し、収集されたデータを総合分析して、発生した能動的意志決定を各工程の装置にリアルタイムで伝達して履行することによって、多品種の複合生産に適合した生産工程の柔軟性を確保することになる。
【0009】
スマートファクトリーは、各工程間のデータ交換および分析が円滑に発生しうるようにするために、工場規模の縮小が重要視され、工場規模の縮小のためには、生産ラインおよび工程数を縮小することが不可避である。
【0010】
また、高炭素鋼からなる鋼材の焼き戻し時に再加熱過程で脱炭(decarbonization)が発生して表面硬度と耐食性が悪化する現象を防止するために鋼材の表面にオイルを適用することになるが、このようなオイルは、加熱過程で気化して有毒ガスを排出し、廃オイルの処理による環境汚染発生の原因になった。
【0011】
この際、焼き戻し工程を省略することになると、バネ生産工場の生産ラインを減縮させて工場の空間活用の効率性を向上させ、焼き戻しに使用されるオイルが加熱されて生成される油蒸気または廃オイルの処理時に発生する環境汚染を予防できるとともに、加熱に使用される電気または化学エネルギーを節約して生産費用を節減し、工程数が減少して生産速度をさらに向上させることができるようになって、スマートファクトリーの構築に一歩前に進めるようにする。
【0012】
上記のような長所によって、熱処理工程を省略できるバネ用鋼材が開発されてき、熱処理工程省略鋼材の発展過程は、大きく、4段階に区分される。
【0013】
第1世代の熱処理省略鋼材は、バナジウム(V)を添加した重炭素鋼であり、フェライト-パーライト組織を形成するように熱間成形後に空冷を実施することになり、同級の引張強度を有する熱処理鋼材に比べて衝撃靭性が低い方であり、作動時に過度な衝撃と負荷がかからない自動車用クランクシャフトまたはコネクティングロッドなどに適用された。
【0014】
第2世代の熱処理省略鋼材は、第1世代の熱処理省略鋼材の低い衝撃靭性を補完することができるように炭素含量を低減すると同時に、シリコン(Si)含有量を増加させ、針状フェライトまたはフェライト-パーライト組織を形成するように強冷を実施して冷却速度を増加させ、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)を添加してパーライトの結晶粒を微細化することによって、衝撃靭性を向上させた。
【0015】
第3世代の熱処理省略鋼材は、衝撃靭性と強度をさらに向上させるために、ニオビウム(Nb)、モリブデン(Mo)を添加して質量効果によりマルテンサイト終了温度を200℃まで上昇させ、熱間成形直後に制御冷却を通じて炭化物を均一に分散させて、ベイナイトとマルテンサイトの複合組織を形成した。
【0016】
第4世代の熱処理省略鋼材は、熱処理鋼材と類似した水準で衝撃靭性と強度および成形加工性を向上させることができるように、熱間成形直後に制御冷却を通じてベイナイトの組織分率を高める方向に開発が進行中にある。
【0017】
このようなベイナイトの組織を形成する鋼材としては、韓国公開特許第10-2003-0008852号公報(2003.01.29.公開)の自動車シャーシ部品用高強度ベイナイト系非調質鋼があるが、高いマンガン(Mn)含量によって靭性の向上に悪影響を及ぼすマルテンサイトの生成率が増加し、フェライト形成を遅延させることができるボロン(B)が含有されていないので、均一なベイナイト組織を形成しにくい問題があった。
【0018】
また、韓国登録特許第10-0908624号公報(2009.07.14.登録)と韓国登録特許第10-1766567号公報(2017.08.02.登録)には、それぞれ、被削性および靭性が向上したプリハードン鋼およびその製造方法と、熱延鋼板およびその製造方法に開示されているが、焼き戻し加工を含む熱処理鋼材の製造方法に該当するので、熱処理鋼材の短所である生産工場の空間効率性の低下と、オイルによる環境汚染発生と、加熱のために消費される多量のエネルギーによる生産費用の増加および工程数の増加によって生産速度が減少する問題が解決されていない問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2003-0008852号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-0908624号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-1766567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の実施例では、バネ用鋼材の生産過程において焼き戻し工程を省略した熱処理省略鋼材を適用することによって、バネの生産効率性を向上させ、熱処理省略鋼材の衝撃靭性と強度および成形加工性を熱処理鋼材と類似した水準に向上させることを目的とする。
【0021】
本発明の実施例では、マルテンサイト組織生成率が増加することを防止して、製造されたバネ用鋼材の靭性を向上させることを目的とする。
【0022】
本発明の実施例では、ベイナイトの組織分率を高めてパーライト生成量を減少させたり生成を最小化することによって、製造されたバネ用鋼材の靭性を向上させることを目的とする。
【0023】
本発明の実施例では、上部ベイナイト組織分率の増加を抑制して、製造されたバネ用鋼材の靭性と強度および硬度をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の実施例によれば、複数の層で積層される薄くて長い形状の鋼材と、積層された鋼材を互いに固定する固定ブラケットと、自動車フレームに連結されるように最上部に積層された鋼材の両終端が円形に曲げられて形成されたフレーム連結部とで構成され、下部に積層される鋼材が、上部に積層される鋼材より長い長さを有して、積層時に階段を成す自動車懸架装置用板バネにおいて、ニッケル(Ni)0.003~0.2重量%、銅(Cu)0.005~0.2重量%、モリブデン(Mo)0.01~0.5重量%、チタン(Ti)0.01~0.04重量%、バナジウム(V)0.01~0.04重量%、ニオビウム(Nb)0.001~0.2重量%、アルミニウム(Al)0.001~0.01重量%の中から選択される1種以上が含有され、炭素(C)0.1~0.4重量%、シリコン(Si)0.1~1.0重量%、マンガン(Mn)0.1~1.5重量%、クロム(Cr)0.1~0.7重量%、ボロン(B)0.001~0.004重量%、窒素(N)0.004~0.015重量%、残部としての鉄およびその他不可避に含有される不純物で組成され、ベイナイト組織分率が90%以上形成される板バネ用平鋼材を積層される位置によるサイズに切断する過程と、最上部に積層される鋼材の両終端を加熱した後、鋼材の両終端を圧延してテーパーを形成し、テーパーが形成された両終端を円形に曲げてフレーム連結部を形成する先端加工過程と、それぞれの鋼材に固定ブラケットを連結するための連結具を形成する過程と、それぞれの鋼材を全体的に均一に加熱した後、キャンバージグを用いて加圧して曲度を付与し、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程と、それぞれの鋼材表面に高速のショットボールを噴射し、表面に亜鉛下塗り層を形成する表面処理過程と、鋼材を積層し、固定ブラケットを用いて固定する組み立て過程を通じて製造されることによって、熱処理過程において焼き戻し工程が省略され得る。
【0025】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)を含み、C+Mn/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15の公式で表現される炭素当量(equivalent)が0.2~0.6の範囲内で形成される。
【0026】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオビウム(Nb)およびアルミニウム(Al)の微量合金を含み、(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/7.66Nの公式で表現される微量合金添加定数が0.8~1.0の範囲内で形成される。
【0027】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、[5.25B-{7.66N-(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/5.25}]×10000の公式で表現される有効ボロン量が7~20ppmの範囲内で形成される。
【0028】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、0.003重量%以下の酸素(O)、0.01重量%以下のリン(P)および0.01重量%以下の硫黄(S)が含まれる。
【0029】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、オステナイトの結晶粒度が、15~70μmのサイズで形成される。
【0030】
本発明の実施例によれば、前記鋼材は、オーステンパー(austempering)により形成される上部ベイナイト(upper-bainite)に比べて相対的に低温で形成される下部ベイナイト(lower-bainite)の組織分率が60%以上形成される。
【0031】
本発明の実施例によれば、形成された鋼材は、Hv410~525の硬度、135~185kg/mmの引張強度、110~155kg/mmの降伏強度、0.81~0.88の降伏比、30~50%の断面減少率、11~16%の伸率、0.5~0.6の疲労限度比の範囲を満たす。
【0032】
本発明の実施例によれば、前記熱処理過程での鋼材加熱は、A3変態点から1050℃以下の温度範囲内で雰囲気(atmosphere)加熱または誘導加熱(induction heating)により行われる。
【0033】
本発明の実施例によれば、前記熱処理過程での鋼材の急速冷却は、常温または常温以下の温度に到達するまで20~150℃/secの冷却速度で行われる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の実施例によれば、バネ用鋼材の製造過程において焼き戻し工程を省略することによって、バネの生産速度の向上および生産費用の節減を図り、バネの再加熱のための加熱炉設置ラインを縮小することによって、工場の規模を縮小して生産ラインの銅線を最適化できる効果がある。
【0035】
本発明の実施例によれば、生産過程において焼き戻し工程を省略して、製造されたバネの衝撃靭性と強度および成形加工性を焼き戻し工程の熱処理鋼材と類似した水準に向上させることができる効果がある。
【0036】
本発明の実施例によれば、適正炭素当量を提供してCCT曲線のベイナイトノーズ(nose)が形成される時間軸を調節することによって、ベイナイト組織分率を高めることができる効果がある。
【0037】
本発明の実施例によれば、マルテンサイト組織生成率が増加することを防止して、製造されたバネ用鋼材の靭性を向上させる効果がある。
【0038】
本発明の実施例によれば、ベイナイトの組織分率を高めてパーライト生成量を減少させたり生成を最小化することによって、製造されたバネ用鋼材の靭性を向上させることができる効果がある。
【0039】
本発明の実施例によれば、上部ベイナイト組織分率の増加を抑制して、製造されたバネ用鋼材および製造されたバネの靭性と強度および硬度をさらに向上させることができる効果がある。
【0040】
本発明の実施例によれば、バネ用鋼材の鋳造時にノズル目詰まり現象を防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1aと図1bは、それぞれ、従来の熱処理省略鋼材で製造されたバネの冷却速度と本発明による焼き戻し工程を省略するためのバネ鋼材で製造されたバネの冷却過程を示すグラフである。
図2図2は、バネ用鋼材の冷却速度による相変態を示す連続冷却変態(CCT,continuous cooling transformation)曲線を示すグラフである。
図3図3は、炭素当量によってCCT曲線が移動するにつれて、相転移温度の開始温度が変化する現象を示すグラフであり、図3aは、炭素当量0.2以下、図3bは、炭素当量0.2~0.6の間、図3cは、炭素当量0.6以上でのCCT曲線移動を示す。
図4図4は、バネ用鋼材の炭素含有量による降伏強度に影響を及ぼさない残留オステナイトの体積比の範囲を示すグラフである。
図5図5は、フェライト変態を遅延させて理想的なベイナイト組織を確保するための理想的有効ボロンの範囲を示すグラフである。
図6図6は、バネの製造過程中、焼き入れ過程での冷却速度によって形成されるバネの硬度値を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例によるバネの適用例示を示すものであり、図7a、図7b、図7cは、それぞれ、スタビライザーバーとコイルバネおよびレール締結バネの形状を示す図である。
図8図8は、本発明の実施例による自動車用板バネの適用例示を示すものであり、自動車用板バネの断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施例を添付の図面を参照して説明する。
【0043】
本発明による動作および作用を理解するのに必要な部分を中心に詳細に説明する。
【0044】
本発明の実施例を説明するに際して、本発明の属する技術分野に十分知られており、本発明と直接的に関連がない技術内容については説明を省略する。
【0045】
これは、不要な説明を省略することによって、本発明の要旨を不明にすることなく、さらに明確に伝達するためである。
【0046】
また、本発明の構成要素を説明するに際して、同じ名称の構成要素について図面によって異なる参照符号を付与することもでき、互いに異なる図面であるにも関わらず、同じ参照符号を付与することもできる。
【0047】
しかし、このような場合であるとしても、当該構成要素が実施例によって互いに異なる機能を有することを意味したり、互いに異なる実施例において同じ機能を有することを意味するものではなく、それぞれの構成要素の機能は、当該実施例でのそれぞれの構成要素に関する説明に基づいて判断しなければならない。
【0048】
また、本明細書で使用される技術的用語は、本明細書で特に別途の意味で定義されない限り、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解される意味と解釈されなければならないし、過度に包括的な意味と解釈したり、過度に縮小された意味と解釈されてはならない。
【0049】
また、本明細書で使用される単数の表現は、文脈上相異に意味しない限り、複数の表現を含む。
【0050】
本出願で、「構成される」または「含む」等の用語は、明細書上に記載された様々な構成要素、または様々な段階を必ず全部含むものと解釈されてならないし、そのうち、一部の構成要素または一部の段階は、含まれなくてもよく、または追加的な構成要素または段階をさらに含むことができるものと解釈されなければならない。
【0051】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材は、0.003~0.2重量%のニッケル(Ni)、0.005~0.2重量%の銅(Cu)、0.01~0.5重量%のモリブデン(Mo)、0.01~0.04重量%のチタン(Ti)、0.01~0.04重量%のバナジウム(V)、0.001~0.2重量%のニオビウム(Nb)、0.001~0.01重量%のアルミニウム(Al)の中から選択される成分が前記含量で少なくとも1種以上が含有され、0.1~0.4重量%の炭素(C)、0.1~1.0重量%のシリコン(Si)、0.1~1.5重量%のマンガン(Mn)、0.1~0.7重量%のクロム(Cr)、0.001~0.004重量%のボロン(B)、0.004~0.015重量%の窒素(N)、残部としての鉄およびその他不可避に含有される不純物で組成される。
【0052】
以下、本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材を構成する鉄およびその他不可避に含有される不純物を除いた必須組成成分の作用および含有量を説明すると、次の通りである。
【0053】
1)炭素(C)
前記成分および含量が含有される鋼材は、ベイナイト組織分率が90%以上形成されるが、従来のベイナイト組織を形成した熱処理省略鋼材は、図1aに示されたように、p0からp1過程を経てA3変態点から1250℃の間のオステナイト化温度で加熱した鋼材をp1からp2過程を経て熱間成形し、熱間成形されたバネをp3aからp4過程の恒温変態またはp3aからp4過程の制御冷却を通じてベイナイト組織を形成することになる。
【0054】
これに対し、本発明の実施例では、図1bに示されたように、p2からp3c過程の急速冷却を通じてベイナイト組織を形成することになるが、従来のベイナイト組織を形成した熱処理省略鋼材と本発明の実施例が、いずれも、別途の焼き戻し工程を要求しないという共通点があるが、急速冷却過程を行う場合、制御冷却または恒温変態過程に比べて工程を完了するのに所要する時間が大きく短縮され得るという長所がある。
【0055】
この際、ベイナイト組織分率が90%未満である場合、製造されたバネの機械的性質と耐久特性を確保することが難しくなるので、ベイナイト組織分率は、95%以上形成することが好ましい。
【0056】
ベイナイト(bainite)は、合金の含量および冷却速度によって図2の連続冷却変態曲線(CCT曲線)に示されたように、パーライトとマルテンサイトが生成される温度である400~650℃の温度範囲内で形成される鋼の微細組織であり、オステナイト(austenite)が727℃の臨界温度を超えて冷却されるときに形成される分解生成物の1つであり、ベイナイトの微細組織形状および硬度特性は、焼き戻し工程を経たマルテンサイト(martensite)と類似した構造を有する。
【0057】
また、ベイナイトは、微細な非層状(non-lamellar)構造を有し、セメンタイトおよび転位(dislocation)豊富フェライト(ferrite)からなるが、フェライトに含まれる高い密集度の転位によって通常のフェライトに比べて高い硬度を有することになる。
【0058】
また、ベイナイト微細組織は、フェライトと炭化鉄で構成される2相(phase)構造を有し、オステナイトの組成および冷却速度によって上部ベイナイト(upper-bainite)と、上部ベイナイトに比べて相対的に低温で形成される下部ベイナイト(lower-bainite)組織が生成される。
【0059】
上部ベイナイトは、平行なグループを成して板状領域を形成するフェライトラス(lath)の集合体であり、ベイナイト組織生成以前のオステナイト粒界(ラス間の領域)で析出される炭化物が炭素含量によってラス間の境界の間に完全な炭化物膜を形成することで、ベイナイト鋼の靭性を低下させる原因となる恐れがある。
【0060】
その一方で、下部ベイナイトは、フェライトと微細なスケールの炭化物集合体で構成され、フェライト板の内部で析出される炭化物は、ロッド(rod)またはブレード(blade)形状を有していて、焼き戻し工程を省略しても、十分な強度と靭性を確保することができるようにする。
【0061】
したがって、上部ベイナイト組織分率より下部ベイナイト組織分率を大きく形成することによって、製造されるバネの強度、硬度および靭性特性を向上させることができ、下部ベイナイトの組織分率を60%以上形成することが好ましい。
【0062】
下部ベイナイト組織分率が60%未満である場合、上部ベイナイト組織分率が相対的に高くなるにつれて、製造されたバネの靭性が低下し、これによって、バネの加工工程で焼き戻し工程に準ずる軟化熱処理を付加して実施しなければならないので、焼き戻し工程の省略による工程短縮効果を得ることができないためである。
【0063】
下部ベイナイトの組織分率は、図2に示された連続冷却変態曲線のように、ベイナイト線図のノーズ(nose)に接近する冷却速度で最大化され、ノーズから遠ざかる冷却速度で増加するので、焼き戻し工程の付加なしに下部ベイナイトの組織分率を高めるためには、急速冷却を行わなければならないし、20~150℃/secの冷却速度で成形されたバネが常温またはそれ以下の温度に到達するまで冷却することが好ましい。
【0064】
この際、20~150℃/secの冷却速度は、急速冷却するバネの体積によって異なるように適用され得る。
【0065】
バネ鋼材のベイナイト組織分率は、図3に示されたように、炭素当量(equivalent)によって大きな影響を受けることになるが、炭素当量が低いと、図3aに示されたように、CCT曲線のベイナイトノーズが短時間側に移動するにつれて、上部ベイナイト組織分率が相対的に増加することになり、炭素当量が高いと、図3cに示されたように、CCT曲線のベイナイトノーズが長時間側に移動するにつれて、マルテンサイトの生成量がベイナイトの生成量より増加することになる。
【0066】
したがって、本発明の実施例によるバネ用鋼材は、0.1~0.4重量%の炭素を含有するように制限される。
【0067】
炭素の含量が0.1重量%未満である場合、十分なバネの強度を確保することができず、バネ用鋼材自体の焼入れ性(焼き入れ特性)が不足することになり、ベイナイト組織を形成するのに困難が発生する。
【0068】
炭素の含量が0.4重量%を超過する場合、製造されるバネの強度を向上させることができるが、マルテンサイト生成率が急激に増加することで、靭性が大きく低下して破損が発生しやすいので、炭素の含量を0.4重量%以下に制限して、適切な水準の強度形成に必要な最低基準を満たすことになる。
【0069】
2)シリコン(Si)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、シリコンが0.1~1.0重量%含有され、シリコン含量が0.1重量%未満である場合には、脱炭および固溶強化効果が十分に発生しない。
【0070】
また、シリコン含量が1.0重量%を超過する場合には、ベイナイト組織からなるバネ用鋼材の靭性および塑性加工性が低下し、バネ用鋼材の素材表面の脱炭が過度に発生して、製造されたバネの表面硬度および耐久性が大きく低下する。
【0071】
3)マンガン(Mn)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、マンガンが0.1~1.5重量%含有され、マンガンは、ベイナイトに含まれたフェライトの固溶強化を発生させてバネ用鋼材の強度を向上させ、ベイナイト組織を微細化してバネ用鋼材の靭性を向上させる。
【0072】
この際、マンガン含量が0.1重量%未満である場合には、焼入れ性およびベイナイト組織の形成を促進するのに不十分であり、マンガン含量が1.5重量%を超過する場合には、焼入れ性が大きく増加することで、マルテンサイト組織生成率が増加して、製造されたバネの靭性に悪影響を及ぼし、ベイナイト組織の均質性を確保することが難しくなる。
【0073】
4)クロム(Cr)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、クロムが0.1~0.7重量%含有されるが、クロムは、バネ用鋼材の強度、疲労強度、耐摩耗性を向上させ、焼入れ性を向上させてベイナイト組織を安定的に発生させ、モリブデンおよびバナジウムと共に複合炭化物を形成して耐衝撃性を増大させる。
【0074】
この際、クロム含量が0.1重量%未満である場合には、クロム含有による効果を得ることが難しくなり、クロム含量が0.7重量%を超過する場合、マルテンサイト組織が発生することで、製造されたバネの脆性が増加してバネの破損発生の危険性が増加することになる。
【0075】
5)ボロン(B)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、ボロンが0.001~0.004重量%含有されるが、ボロンが含有されると、初析フェライト析出を遅延させてCCT曲線を長時間側に移動させることになり、バネ用鋼材に含有された原子状態のボロンがオステナイト結晶粒界に偏析して結晶粒界自由エネルギーを低減することによって、初析フェライトの形成を抑制することによって、ベイナイト組織形成を促進する。
【0076】
ボロン含量が0.001重量%未満である場合、ベイナイト組織形成促進効果が低く、ボロン含量が0.004重量%を超過する場合、窒素および酸素と親和度の大きいボロンが溶解作業過程で酸化物および窒化物を形成することによって、熱間圧延または鍛造加工温度でM23(CB)またはFeBなどのボロカーバイド(borocarbide)が形成されて初析フェライト生成が促進されるので、ベイナイト組織分率を確保することが難しくなる。
【0077】
特に、バネの焼き入れ工程を行うとき、冷却速度が遅いと、結晶粒界にボロン窒化物が形成され、生成された窒化物がフェライトの核生成サイトとして作用してバネの強度と靭性を低下させることになる。
【0078】
したがって、ボロン窒化物の生成を防止するために、チタン、バナジウム、ニオビウム、アルミニウムなどを添加して窒素と結合せず、単独の原子状態で存在する有効ボロン(effective Boron)量を適切に確保しなければならない。
【0079】
6)窒素(N)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、窒素が0.004~0.015重量%含有されるが、窒素は、バネ鋼材に含有されるチタン、アルミニウムおよびバナジウムと結合して炭窒化物を形成し、形成された炭窒化物がオステナイト結晶粒を微細化させてベイナイト鋼材の強度および靭性を向上させる。
【0080】
この際、窒素含量が0.004重量%未満である場合には、ベイナイト鋼材の強度および靭性向上効果を得ることが難しく、窒素含量が0.015重量%を超過する場合、炭窒化物が粗大化(coarsening)して結晶粒の粗大化に寄与しない。
【0081】
また、含有される窒素量に比べてチタン、アルミニウムおよびバナジウムの含有量が不足した場合、窒素がバネ鋼材中に固溶されて靭性を大きく低下させることになる。
【0082】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、前記炭素、シリコン、マンガン、クロム、ボロン、窒素の他に、バネ製造過程において焼き戻し工程を省略するために、バネ用鋼材組織の特性を変化させたり、製造されたバネの強度または靭性などの性能向上のために、ニッケル、銅、モリブデン、チタン、バナジウム、ニオビウムおよびアルミニウムのうち1成分以上が選択的に付加されて含有され得、前記選択的付加成分の作用および含量を説明すると、次の通りである。
【0083】
1)ニッケル(Ni)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的にニッケルが0.003~0.2重量%含有され得るが、ニッケルは、鋼材の焼入れ性を向上させてベイナイト組織を安定的に形成するようにし、製造されたバネの靭性を減少することなく、強度を増加させることができ、耐食性を向上させる。
【0084】
この際、ニッケル含量が0.003重量%未満である場合には、バネ材の強度と耐食性向上効果および低温での靭性確保効果を得ることができ、ニッケル含量が0.2重量%を超過する場合、効果の臨界点に到達して、さらに向上した効果が得られず、製造コストを上昇させることができる。
【0085】
2)銅(Cu)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的に銅が0.005~0.2重量%含有され得るが、固溶強化および析出強化効果によってバネの引張および降伏強度を向上させ、腐食抵抗を向上させる。
【0086】
この際、銅の含量が0.005重量%未満である場合には、腐食抵抗の改善効果が不十分であり、銅の含量が0.2重量%を超過する場合、効果の臨界点に到達して、さらに向上した効果が得られず、粒界偏析時に融点が低くなることで、熱間圧延のための加熱炉へ装入時に結晶粒界が脆化(embrittlement)して、製造されたバネの表面クラック発生または靭性低下を誘発することができる。
【0087】
3)チタン(Ti)
本発明の実施例によるバネ用鋼材には、追加的にチタンが0.01~0.04重量%含有され得るが、チタンは、ボロンが添加されるベイナイト鋼材内の窒素と結合して窒素を固定することによって、ボロン窒化物の生成を抑制して原子状態の有効ボロン量を確保することができるようにする。
【0088】
この際、結晶粒微細化元素化合物中、最も安定したTiNは、高温で固溶度が低く、粒子成長速度が遅くて、結晶粒の微細化に寄与することができ、オステナイト結晶粒界を固定化してオステナイト結晶粒成長を抑制することによって、オステナイト結晶粒度を減少させる。
【0089】
オステナイト結晶粒度の減少によってベイナイト変態開始温度が減少することで、上部ベイナイト形成を減少させ、下部ベイナイトの分率を増加させることになり、マルテンサイトの生成を抑制して下部ベイナイト組織分率をさらに容易に確保できるようにして、製造されたバネの引張強度および降伏強度を高めることができる。
【0090】
この際、チタン含量が0.01重量%未満である場合、前記効果が低く、チタン含量が0.04重量%を超過する場合、向上効果が飽和状態に達することになって、向上した効果を示さず、製造されたバネの靭性低下を発生させることになる。
【0091】
4)モリブデン(Mo)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的にモリブデンが0.01~0.5重量%含有され得るが、モリブデンは、バネ鋼材の焼入れ性を増加させてベイナイト組織を安定的に得るようにし、モリブデン炭化物が結晶粒度を微細化して、製造されたバネの強度および靭性を向上させる。
【0092】
バネの製造過程で冷却速度が遅い場合、モリブデンが粗大な析出物を分散させて、製造されたバネの靭性が低下することがあるので、急速冷却を通じてベイナイトとマルテンサイトの変態温度の低下によって炭化物の微細化および組織の緻密化を発生させてバネの靭性を増加させることができる。
【0093】
この際、モリブデンがボロンと共に含有される場合、冷却時に焼入れ性が制御されて引張強度と靭性間の均衡を最適化できるが、モリブデン含量が0.01重量%未満である場合、含有による効果が微小になる。
【0094】
また、モリブデン含量が0.5重量%を超過する場合、焼入れ性が必要以上で増加することで、マルテンサイト生成率を増加させ、向上効果がこれ以上増加しない飽和状態に達することになる。
【0095】
特に、ボロンとモリブデンは、高価な元素であるから、必要以上の含量が含有されると、バネの生産費用が大きく増加することになるので、必要量以上を含有しないことが好ましい。
【0096】
5)バナジウム(V)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的にバナジウムが0.01~0.04重量%含有され得るが、バナジウムは、バネ鋼材内の炭素と結合して形成した微細炭化物を通じてバネ鋼材の強度を向上させ、900℃以上の温度でバナジウム炭窒化物(VC、VCN)を形成してオステナイト相の結晶粒成長を防止して、適正ベイナイト組織を確保するための焼入れ性の制御に重要な役割をする。
【0097】
バナジウムは、バネ鋼材が冷却される間、フェライト組織の内部にバナジウム炭窒化物の微細析出物を形成することで、析出強化および分散強化を通じて製造されたバネの強度を向上させる。
【0098】
特に、バナジウム炭窒化物の微細析出物は、高温で不安定なので、バナジウム炭窒化物の微細析出物を形成するためには、冷却速度の調節が非常に重要であり、バネ鋼材の強度向上程度は、炭素含有量および冷却速度によって変化する。
【0099】
この際、バナジウムの含有量が0.01重量%より低いと、バナジウム含有による効果発生が微小になり、バナジウムの含有量が0.04重量%を超過する場合、向上効果がこれ以上増加しない飽和状態に達することになる。
【0100】
特に、過度なバナジウム含有量によって粗大な炭窒化物が形成されると、製造されたバネの靭性が低下し、鋼材が脆化されるので、適正含量範囲を脱しないように適正量を含有することが好ましい。
【0101】
6)ニオビウム(Nb)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的にニオビウムが0.01~0.04重量%含有され得るが、ニオビウムは、バネの圧延または鍛造など熱間成形過程中、ニオビウム炭窒化物(NbC、NbN)が粒界に析出されることで、固定効果が現れて結晶粒を微細化し、ベイナイト組織の強度および靭性を向上させることができる。
【0102】
この際、ニオビウムの含量が0.01重量%未満で含有される場合、ニオビウム炭窒化物による固定効果および炭素含量を低減するときに伴う焼入れ性向上効果を補償しにくく、ベイナイト変態が容易でなくなり、ニオビウムの含量が0.04重量%を超過する場合には、粗大なニオビウム炭窒化物が形成されることで、ベイナイト組織の靭性が低下することがあるので、適正量のニオビウムを含有することが好ましい。
【0103】
7)アルミニウム(Al)
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材には、追加的にアルミニウムが0.001~0.01重量%含有され得るが、アルミニウムは、アルミニウム酸化物を形成することで、バネ用鋼材内に含有された酸素を除去する強力な脱酸剤として作用し、窒素と結合してベイナイト結晶粒を微細化させる役割をする。
【0104】
この際、アルミニウムの含量が0.001重量%未満で含有される場合、脱酸作用またはベイナイト結晶粒微細化作用効果が減少して好ましくなく、アルミニウムの含量が0.01重量%を超過する場合、アルミニウム酸化物性非金属介在物量が増加することになって、製造されたバネの靭性低下またはバネ用鋼材の鋳造時にノズル目詰まり現象などの原因となる恐れがある。
【0105】
また、本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材は、それぞれ、0.003重量%以下の酸素(O)と、0.01重量%以下のリン(P)および0.01重量%以下の硫黄(S)を含む。
【0106】
具体的に、リンは、粒界(ラス間の領域)に偏析してバネ鋼材の靭性を低下させる。
【0107】
また、硫黄は、バネ鋼材の製鋼時にマンガンおよび鉄と結合してベイナイト鋼材の靭性を低下させる硫化物(MnS)および鉄化物(FeS)を形成することになるが、硫化物は、熱間加工時に延伸することで、鋼の異方性を増大させて、バネ用鋼材の機械的性質を低下させ、鉄化物は、低い溶融点により熱間または冷間加工時に組成物内含有された介在物(異物)による表面欠陥発生経路となる。
【0108】
また、酸素は、バネ用鋼材の酸化性元素と結合して非金属介在物を形成してベイナイト鋼材の機械的性質および疲労特性を阻害するので、前記含量を超過して含有されないようにしなければならないし、酸素とリンおよび硫黄の含有量を最小化することがさらに好ましい。
【0109】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材においてモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)を含む場合、0.25~0.6wt%の範囲を満たす炭素当量(equivalent)を形成することが好ましい。
【0110】
炭素当量は、下記の公式によって導き出される。
【0111】
炭素当量(wt%)=C+Mn/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0112】
炭素当量が0.25(wt%)未満の場合、特に0.20(wt%)以下の炭素当量でバネの生産過程で急速冷却を行うとき、バネ用鋼材の組織がフェライトとパーライトに変態するにつれて、ベイナイト組織を確保しにくく、図3aに示されたように、CCT曲線が短時間側に移動するにつれて、上部ベイナイト組織分率が増加することになる。
【0113】
また、炭素当量が0.6(wt%)を超過する場合、図3cに示されたように、CCT曲線が長時間側に移動するにつれて、マルテンサイト生成量が増加してベイナイト生成量が減少し、マンガンの含有による効果が減少することになる。
【0114】
この際、ベイナイト微細組織の構成因子のうち、相変態後、結晶粒界に分布する残留オステナイトは、製造されたバネの降伏強度を大きく低下させることになるが、バネの連続冷却による焼き入れを行うとき、製造されたバネの降伏強度を低下させない炭素当量と残留オステナイト量間の相関関係を研究した結果、図4のグラフに示すような限界条件を得ることができた。
【0115】
具体的に、図4のグラフにおいて破線で表示された四角ボックスの範囲内に該当する5vol%以下の残留オステナイト量と0.25~0.6(wt%)の炭素当量を維持したとき、製造されたバネの降伏強度が低下しない。
【0116】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材においてチタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオビウム(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる微量合金添加定数が0.8~1.0の間の範囲を満たすことが好ましく、前記微量合金添加定数は、下記の公式で表現され得る。
【0117】
微量合金添加定数=(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/7.66N
【0118】
微量合金添加定数が0.8未満の場合、ボロン添加による効果が低下してベイナイト組織を確保することが難しくなり、微量合金添加定数が1.0を超過する場合、ボロン添加による効果が飽和状態に達し、粗大な炭窒化物が形成されることで、製造されたバネの靭性を低下させることができる。
【0119】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材においてチタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオビウム(Nb)およびアルミニウム(Al)を含む場合、7~20ppmの範囲を満たす有効ボロン量(effective Boron)を形成することが好ましい。
【0120】
有効ボロン量は、下記の公式により導き出される。
【0121】
有効ボロン量(ppm)=[5.25B-{7.66N-(1.15Ti+0.99V+0.58Nb+1.99Al)/5.25}]×10000
【0122】
バネ用鋼材内有効ボロン量と製造されたバネの理想的なベイナイト結晶粒サイズの関係は、図5のグラフのように示されるが、グラフの破線で表示されたボックス範囲内の有効ボロン含有量でフェライト変態を最も効果的に遅延させて安定したベイナイト変態を誘導できるようにし、図5の破線ボックス内に形成された有効ボロン含有量による有効ボロン量を前記数式3を通じて求めると、7~20ppmの範囲値を得ることができる。
【0123】
この際、有効ボロン量が7ppm未満の場合には、ボロン添加効果が低く、有効ボロン量が20ppmを超過する場合には、バネ鋼材の焼入れ性が減少することで、ベイナイト組織を確保することが難しくなる。
【0124】
本発明の実施例による焼き戻し工程を省略するためのバネ用鋼材を利用してバネを製造するとき、バネ用鋼材を再加熱した後、圧延または鍛造などを行って、バネ形状に熱間成形し、熱間成形されたバネを急速冷却して、焼き入れを行うことになる。
【0125】
この際、熱間成形のためのバネ材の再加熱は、A3変態点から1050℃以下の温度範囲内で雰囲気(atmosphere)加熱または誘導加熱(induction heating)により行うことが好ましい。
【0126】
熱間成形のための再加熱温度がAc3変態点未満の場合には、二相域フェライトが析出されることで、ベイナイト生成分率が減少することになり、生成されたベイナイトにおいて上部ベイナイトが占める分率が増加することになり、再加熱温度が1050℃を超過する場合には、結晶粒が粗大化されて、製造されたバネの靭性を確保することが難しくなる。
【0127】
また、焼き入れ過程では、バネを20~150℃/secの冷却速度で常温または常温以下の温度まで冷却することになるが、図6のグラフに示されたように、20℃/sec未満の冷却速度では、フェライトまたはパーライト変態が発生することで、製造されたバネに高い靭性のベイナイトの組織を確保し難い。
【0128】
また、150℃/secを超過する冷却速度では、ベイナイトの組織の確保向上効果が飽和状態に達し、早く冷却されるバネ表面部と相対的にゆっくり冷却されるバネ中心部間の冷却速度の差異によって製造されたバネの形状変形が発生することができて、好ましくない。
【0129】
また、バネ用鋼材のオステナイト結晶粒度は、15~70μmの範囲のサイズで形成することが好ましい。
【0130】
オステナイト結晶粒度が15μm未満である場合、焼入れ性が低下することで、製造されたバネの靭性を低下させる上部ベイナイト分率が増加し、オステナイト結晶粒度が70μmを超過する場合、下部ベイナイト分率増加による向上効果が飽和状態に達し、かえって製造されたバネの靭性が低下することができる。
【0131】
成分組成によるバネ用鋼材の機械的性質を比較すると、下記の表に示された通りである。
【0132】
試験例によるバネ用鋼材は、それぞれ、インゴット(ingot)に鋳造後、熱間圧延および冷却を行うものの、オステナイト結晶粒度の変化を発生させるために圧延温度を相異に適用し、全鋼材の圧延比は、80%以上にした。
【0133】
また、第1~12試験例は、900~1050℃の温度で1時間の間加熱した後、20~150℃/secの速度で冷却し、第13~24試験例は、900~1050℃の温度で1時間の間加熱した後、70℃/secの速度で冷却した。
【0134】
試験例別のバネ用鋼材の成分組成
【表1】
【0135】
試験例別のバネ用鋼材の加熱および冷却条件による組織形成
【表2】
【0136】
試験例別のバネ用鋼材の機械的性質および耐久特性
【表3】
【0137】
表4および表5の比較対象バネ用鋼材は、通常、自動車用バネの製造に適用される鋼材であり、930~970℃の範囲で1時間の間加熱後、焼き入れした後、420~470℃の範囲で1時間の間焼き戻し処理を行った。
【0138】
比較対象バネ用鋼材の成分組成
【表4】
【0139】
比較対象バネ用鋼材の機械的性質および耐久特性
【表5】
【0140】
熱間圧延された試験素材から引張および衝撃特性などの機械的性質と耐久特性を評価するために、試験素材の圧延方向に試験片を採取した。
【0141】
前記試験例と比較例のベイナイト微細組織の相分率は、バネ用鋼材の冷却後、画像分析器を利用して1000mmの被検面に対してポイントカウンティング(point count)方法で測定し、オステナイト結晶粒度は、KS規格(KS D0205)により測定した。
【0142】
また、ベイナイト組織内の総残留オステナイト相分率は、X-ray(Cu radiation)を利用して測定し、引張試験は、KS規格(KS B0801)4号試験片を利用してクロスヘッドスピード(cross head speed)5mm/minでテストした。
【0143】
降伏点以上の荷重を加えた金属に反対方向の荷重を加えると、弾性限度または降伏点が低下する現象であるバウシンガー効果(Bauschinger effect)を付与するために、冷間セッティング(cold setting)は、引張強度の85%まで荷重を加える条件下で行い、荷重を除去した後、引張試験をさらに実施して、降伏強度、降伏比、断面減少率および伸率を測定した。
【0144】
前記試験例と比較例の耐久疲労特性を評価するための試験片は、6mm(D)*40mm(W)*545mm(L)で製作して70±35kg/mmの応力で5回テストして最大および最小値を除いた試験結果の平均値で評価した。
【0145】
前記表で第1~12試験例と比較例の永久変形量は、ショットピーニング実施後、70±35kg/mmの応力で300,000回の疲労試験後、試験片のアーク高さ(arc height)から測定し、第13~24試験例は、早期ロスが発生したので、疲労寿命100,000回で測定した。
【0146】
この際、前記表の疲労限度比は、バネ用鋼材に対してショットピーニング(shot-peening)を行った後、引張強度に対する通常疲労寿命300,000回を満たす平均試験応力を基準として導き出し、疲労限度0.5は、50%水準の引張強度で300,000回の疲労寿命を満たすという意味である。
【0147】
前記表に示されたように、第1~12試験例は、ベイナイトの組織分率を最大化するのに適切な理想的有効ボロン量が7~20ppmの範囲内で形成されるのに対し、第13~24試験例では、有効ボロン量が理想的数値範囲を外れ、これによって、第1~12試験鋭意バネ用鋼材微細組織には、90%以上のベイナイト組織分率が形成され、第13~24試験例のバネ用鋼材微細組織には、10~70%範囲のベイナイト組織分率が形成されることを確認することができる。
【0148】
したがって、本発明の実施例のバネ鋼材に急速冷却を実施し、適正有効ボロン量を確保したとき、ベイナイト組織分率の側面で最大化することができることを確認することができる。
【0149】
したがって、本発明の実施例のバネ鋼材に急速冷却を実施し、適正有効ボロン量を確保したとき、ベイナイト組織分率の側面で最大化することができることを確認することができる。
【0150】
また、前記表に示されたように、第1~12試験例は、焼き入れ完了状態でショットピーニングを行った後、疲労寿命140,000~160,000回、硬度Hv410~525、引張強度135~185kg/mm、降伏強度110~155kg/mm、降伏比0.81~0.88、断面減少率30~50%、伸率11~16%の範囲内の機械的性質および耐久特性を有することになり、このような数値は、第13~24試験例に比べて顕著に優れた数値を示していることが分かる。
【0151】
また、焼き入れ熱処理のみを実施した第1~12試験例によるバネ用鋼材は、焼き入れおよび焼き戻し熱処理を共に実施した比較例のバネ用鋼材と比較したとき、同等以上の機械的性質および耐久特性を示すことを確認することができる。
【0152】
本発明によるバネ用鋼材を通じてバネ製造過程において焼き戻し工程を省略することによって、バネの生産速度向上および生産費用節減を図り、バネの焼き戻しのための再加熱のための加熱炉設置ラインを縮小することによって、工場の規模を縮小して生産ラインの銅線を最適化して、スマートファクトリーを構築するための基盤を設けることができるようにする。
【0153】
走行中に発生する車体の傾きを早く回復させて、走行安定性および乗車感を向上させるように自動車の懸架装置に装着されるバネであるスタビライザーバー50は、図7aに示されたように、両終端に懸架装置と連結されるアイ部55が形成され、スタビライザーバー50の中央部は、数回湾曲して両側のアイ部55をつなぐ仮想の直線から離隔することによって、懸架装置の作動時にスタビライザーバー50に歪みが作用することで、スタビライザーバー50が自体的に有する弾性復元力により懸架装置を迅速に元の位置に戻す作用をする。
【0154】
また、走行中に発生する路面の衝撃を吸収して車体の破損を防止し、乗車感を向上させるために、自動車の懸架装置に装着されるバネであるコイルバネ20は、図7bに示されたように、鋼材が螺旋形状にコイリングされ、コイルバネ20の両終端の螺旋が成すコイリング半径が徐々に縮小されるピッグテール21が形成されて、圧縮時にコイルバネ20の螺旋間の干渉または接触による表面損傷を防止する。
【0155】
また、地面に設置された基礎パネルに鉄道用レールを固定させるバネであるレール締結バネ30は、締結ボルトにより基礎パネルに固定設置され、レールの下端部に形成されたレイルフットを固定して、列車運行時にレールが離脱することを防止し、列車からレールに作用する荷重により変形されてから元の状態に復元されることで、衝撃を吸収してレールまたは基礎パネルの破損を防止する。
【0156】
本発明の実施例によるバネの製造過程をそれぞれ説明すると、次の通りである。
【0157】
本発明の実施例によるスタビライザーバー50は、パイプまたは丸棒形状のバネ用鋼材を成形しようとするスタビライザーバー50のサイズに切断し、切断されたバネ鋼材を加熱した後、ジグを用いて湾曲部を形成してスタビライザーバー50形状に加工する熱間成形過程を行う。
【0158】
スタビライザーバー50の成形が完了すると、スタビライザーバー50を全体的に均一に再加熱した後、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程を行い、熱処理が完了したスタビライザーバー50の両終端を加熱した後、熱間成形して懸架装置との連結部を構成するアイ部(eye)55を形成する。
【0159】
スタビライザーバー50の成形が完了すると、製造されたスタビライザーバー50の形状を検査し、校正する過程を行い、校正が完了した後、スタビライザーバー50の表面に高速のショットボールを噴射し、ショットピーニングが完了したスタビライザーバー50の表面に亜鉛下塗り層を形成し、塗工を行うなど腐食防止処理をする表面処理過程を行うことによって、スタビライザーバー50の製造が完了する。
【0160】
また、本発明の他の実施例によるバネであるコイルバネ20は、パイプまたは丸棒形状のバネ用鋼材を成形しようとするコイルバネ20のサイズに切断し、切断されたバネ鋼材を加熱した後、コイリングし、コイルバネ20の終端にピッグテール21を形成する熱間成形過程を行う。
【0161】
成形されたバネを急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程が完了すると、バネの両側終端をコイリングされた軸方向に圧縮してコイルバネ20に永久変形性を付与することによって、繰り返される貨物積載などによりコイルバネ20に永久変形が発生することで、コイルバネ20の性能が減少することを防止する1次セッティング過程を行う。
【0162】
1次セッティングが完了すると、200~250℃で加熱したコイルバネ20の表面に高速のショットボールを噴射するショットピーニングを行うことになる。
【0163】
前記ショットピーニング過程でショットボールとの衝突によってコイルバネ20の表面に形成される微細凹凸によるコイルバネ20の表面積の変化によってコイルバネ20の永久変形性付与設定値が初期設定と異なるように形成され得るが、このような現象を防止するために、コイルバネ20の両側終端をコイリングされた軸方向に圧縮する2次セッティングを行う。
【0164】
2次セッティングが完了すると、コイルバネ20の表面に亜鉛下塗り層を形成し、塗工を行うなど腐食防止処理をする表面処理過程を行うことによって、コイルバネ20の製造が完了する。
【0165】
また、本発明のさらに他の実施例によるバネである図7cに示されたようなレール締結バネ30は、バネ用鋼材を成形するレール締結バネ30の長さに切断し、切断されたバネ用鋼材を加熱した後、ジグを用いて湾曲部を形成してレール締結バネ30形状に加工する熱間成形を行う。
【0166】
成形されたレール締結バネ30を全体的に均一に再加熱した後、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程が完了すると、レール締結バネ30の表面に高速のショットボールを噴射し、レール締結バネ30の表面に亜鉛下塗り層を形成し、塗工を行うなど腐食防止処理をする表面処理過程を行うことによって、レール締結バネ30の製造が完了する。
【0167】
この際、各実施例によるバネの熱処理過程でのバネ用鋼材加熱は、A3変態点から1050℃以下の温度範囲内で雰囲気(atmosphere)加熱または誘導加熱(induction heating)により行われるが、雰囲気加熱または誘導加熱を通じてバネ用鋼材の加熱を実施することによって、バネ用鋼材が均一に加熱され得るようにする。
【0168】
また、前記熱処理過程での焼き入れ工程によるバネの急速冷却は、常温またはそれ以下の温度に到達するまで120~150℃/secの冷却速度で行われる。
【0169】
この際、前記熱処理過程は、焼き入れによる急速冷却工程のみからなり、焼き戻し(tempering)工程が省略されて実施されるが、これを通じて各実施例によるバネの生産速度の向上および生産費用の節減を図り、バネ製造過程でバネの焼き戻し処理のための再加熱に必要な加熱炉設置ラインを省略することによって、工場の規模縮小および生産ラインの動線の最適化を図ることができるようにする。
【0170】
自動車懸架装置用板バネ1は、図8に示されたように、薄くて長い形状の鋼材10が複数の層で積層され、積層された鋼材10は、固定ブラケット40により互いに固定される。
【0171】
また、最上部に積層された鋼材10の両終端が円形に曲げられてフレーム連結部41が形成され、フレーム連結部41を介して自動車のフレームに連結されるが、下部に積層される鋼材10が、上部に積層される鋼材10より長い長さを形成するように積層されて、積層された鋼材10間の階段を成す。
【0172】
自動車の走行や貨物積載過程で振動や衝撃発生時に荷重のサイズによって鋼材10の屈伸が発生することで、板バネ1の両終端間の直線距離が変化して振動および衝撃を吸収することになる。
【0173】
本発明の実施例による自動車懸架装置用板バネ1の製造過程を説明すると、板バネ1用平鋼材10を積層される位置によるサイズに切断する。
【0174】
鋼材10の切断が完了すると、先端加工を実施するが、先端加工過程では、最上部に積層される長さが最も長い鋼材10の両終端を加熱した後、鋼材10の両終端を圧延してテーパーを形成し、テーパーが形成された鋼材10の両終端を円形に曲げてフレーム連結部41を形成する。
【0175】
同時に、それぞれの鋼材10には、積層された鋼材10を固定するための固定ブラケット40が連結される孔である連結具を形成する加工過程が進行される。
【0176】
各鋼材10の形状加工が完了すると、各鋼材10を全体的に均一に加熱した後、キャンバージグを用いて加熱した鋼材10を加圧して曲度を付与し、急速冷却を通じて焼き入れを行う熱処理過程が行われる。
【0177】
この際、熱処理過程での鋼材10の加熱は、A3変態点から1050℃以下の温度範囲内で雰囲気(atmosphere)加熱または誘導加熱(induction heating)により行われるが、雰囲気加熱または誘導加熱を通じて鋼材10の加熱を実施することによって、鋼材10が均一に加熱され得るようにする。
【0178】
また、前記熱処理過程での焼き入れ工程による鋼材10の急速冷却は、鋼材10が常温またはそれ以下の温度に到達するまで20~150℃/secの冷却速度で行われる。
【0179】
鋼材10の熱処理が完了すると、それぞれの鋼材10の表面に高速のショットボールを噴射し、ショットピーニングが完了した鋼材10の表面に亜鉛下塗り層を形成する表面処理過程が行われ、以後、鋼材10を積層することで、固定ブラケット40を通じて固定する組立過程を行って、板バネ1の製造が完了する。
【0180】
この際、前記熱処理過程は、焼き入れによる急速冷却工程のみからなり、焼き戻し(tempering)工程が省略されて実施されるが、これを通じて、板バネ1の生産速度の向上および生産費用の節減を図り、板バネ1の製造過程で鋼材10の焼き戻し処理のための再加熱に必要な加熱炉設置ラインを省略することによって、工場の規模縮小および生産ラインの動線の最適化を図ることができるようにする。
【0181】
上記の内容を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施され得ることを理解することができる。
【0182】
したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的なものでないものと理解されなければならず、前記詳細な説明で記述された本発明の範囲は、後述する特許請求範囲により示され、特許請求範囲の意味および範囲そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0183】
T 温度
t 時間
Fs フェライト変態開始点
Ps パーライト変態開始点
Bs ベイナイト変態開始点
Ms マルテンサイト変態開始点
50 スタビライザーバー
55 アイ部
20 コイルバネ
21 ピッグテール部
30 レール締結バネ
1 板バネ
10 鋼材
41 フレーム連結部
40 固定ブラケット
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8
【国際調査報告】