(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】高活性のリンゴ酸脱水素酵素が導入されたコハク酸生成用変異微生物及びこれを用いたコハク酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220119BHJP
C12P 7/44 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545656
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(85)【翻訳文提出日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2019005247
(87)【国際公開番号】W WO2020075943
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】10-2018-0120696
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521153157
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イ サンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】キム キョンジン
(72)【発明者】
【氏名】アン ジョンホ
(72)【発明者】
【氏名】ソ ホギュン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD09
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC12
4B064CC24
4B064CD09
4B064CD10
4B064DA16
4B065AA15X
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA54
(57)【要約】
本発明は、主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とするリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入され、オキサロ酢酸からリンゴ酸への転換活性が向上したコハク酸生成用変異微生物及びこれを用いたコハク酸の製造方法に関し、本発明に係るコハク酸生成変異微生物は、オキサロ酢酸からリンゴ酸への転換活性が顕著に増加するため、制限培地下で微生物を培養のとき、現在まで報告された変異微生物に比べて最も高いコハク酸生産性で高濃度のコハク酸を生産できる。なお、深化した発酵技術を用いてより優れた生産性及び生産濃度でコハク酸を生産することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸生成能を有する微生物にリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入されている変異微生物であって、前記リンゴ酸脱水素酵素は、主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とする、変異微生物。
【請求項2】
前記リンゴ酸脱水素酵素は、i)配列番号40のアミノ酸配列で表されるコリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素;又はii)配列番号42のアミノ酸配列で表されるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素において11番目アミノ酸がグルタミンに置換されたリンゴ酸脱水素酵素であることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項3】
i)前記コリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号41の塩基配列で表され、ii)前記マンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号43の塩基配列で表されることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項4】
前記コハク酸生成能を有する微生物は、マンヘミア属(Mannheimia sp.)、アクチノバチルス属(Actinobacillus sp.)、アネロビオスピリルム属(Anaerobiospirillum sp.)、大腸菌(E.coli)、及びコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項5】
前記コハク酸生成能を有する微生物は、Mannheimia succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)であることを特徴とする、請求項4に記載の変異微生物。
【請求項6】
次の段階を含むコハク酸の製造方法:
(a)請求項1~5のいずれか一項に記載の変異微生物を培養してコハク酸を生成させる段階;及び
(b)前記生成されたコハク酸を回収する段階。
【請求項7】
前記培養は、i)グルコース;ii)スクロース;iii)グリセロール;iv)グルコース及びグリセロール;又はv)スクロース及びグリセロールを炭素源として用いることを特徴とする、請求項6に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項8】
前記培養は嫌気的条件で行われることを特徴とする、請求項6に記載のコハク酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性のリンゴ酸脱水素酵素が導入されたコハク酸生成用変異微生物及びこれを用いたコハク酸の製造方法に関し、より詳細には、主鎖(main-chain)のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とするリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入され、オキサロ酢酸からリンゴ酸への転換活性が向上したコハク酸生成用変異微生物及びこれを用いたコハク酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、台頭している環境問題によって、既存の化石燃料基盤の有用化合物生産を代替しようする努力が多くなされている。これによって、再生可能なバイオマスからバイオ基盤コハク酸を生産しようとする研究が全世界的に行われている。コハク酸は炭素数4個のジカルボン酸であり、1,4-ブタンジオール(1,4-butanediol)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、コハク酸ジエチル(diethyl succinate)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrollidone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などの産業的価値に優れた化合物の前駆体として用いられ、様々なポリマーの単量体としても使用される有用化合物である。コハク酸のこのような重要性が台頭するに伴って、アクチノバチルスサクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、アネロビオスピリルム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)、エシリキアコウライ(Escherichia coli)、マンヘミア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)、サッカロミケスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィアリポリティカ(Yarrowia lipolytica)などの様々な微生物を用いてコハク酸をバイオ基盤で生産する方法が多く研究されている。
【0003】
コハク酸生産菌株の改良は、コハク酸生産菌株の代謝流れを変えることからなり、その戦略は、炭素代謝を強化し、副産物の生成をなくしたり或いは減らすことによって、コハク酸への流れを増強させることであった。すなわち、コハク酸代謝流れに関与する遺伝子を導入又は強化したり、或いはコハク酸代謝流れを阻害する遺伝子を欠損又は弱化させることによって、コハク酸生産を増加させる。コハク酸代謝流れに関与する遺伝子としてリンゴ酸脱水素酵素は、コハク酸生産を増加させるために導入する酵素であり、既にこれを導入してコハク酸生産を増加させる研究が行われたことがある。例えば、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)は、オキサロ酢酸からリンゴ酸への転換を促進させ、この酵素は様々な代謝回路から伝えられてきた流れをコハク酸生産への流れに転換する重要な役割を有し、A.thaliana由来のMDH(Kim et al.,Biotechnology journal,12(2)、1600701.)、S.cerevisiae由来のMDH(US20110229945A1、US20120040422A1、US20150057425A1、US20130302866A1)、R.delemar由来のMDH(US20140363862A1)、E.coli由来のMDH(Wang et al.,Bioprocess Biosyst Eng 2009,32:737-745.,Liang et al.,Biotechnology letters,33(12)、2439-2444.)を微生物に導入してコハク酸の生産量を増加させようとする試みがあった。しかし、前記微生物由来のMDHを導入してもコハク酸の生産性が依然として低く、追加の菌株操作又はコハク酸生産発酵工程の最適化によってコハク酸の生産性を増加させるための試みがあったが(Ahn et al.,Curr.Opin.Biotechnol.,42:54-66)、さらなる改善が必要である。
【0004】
そこで、本発明者らは、コハク酸の生産性を従来に比べて顕著に向上させることができる方法を模索するために、コハク酸生産に関与する主要酵素に対する反応速度及び構造の研究が未だ多く進んでいない点に着目し、M.succiniciproducensを含むルーメンバクテリアとコハク酸生産微生物の主要酵素に対する構造分析を進行した。その結果、本発明では、基質阻害作用が緩和されたMDHを導入して高生産性のコハク酸生産菌株を開発する目的で、最初にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)及びM.succiniciproducens MDHの構造を明らかにし、これらを用いて生産性を極大化したコハク酸生産菌株を開発することが可能であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、コハク酸生成能が強化された変異微生物を提供し、これを用いてコハク酸生成能を極大化させることができる方法を提供することである。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、コハク酸生成能を有する微生物にリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入されている変異微生物であって、前記リンゴ酸脱水素酵素は、主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とする変異微生物を提供する。
【0007】
本発明はまた、次の段階を含むコハク酸の製造方法を提供する。
(a)前記変異微生物を培養してコハク酸を生成させる段階;及び
(b)前記生成されたコハク酸を回収する段階。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】各MDHのNADH転換速度の相対値を示す図である。
【
図3】CgMDHとMsMDHのNADH基質濃度によるNADH転換速度グラフである。
【
図4】CgMDHとMsMDHのオキサロ酢酸基質濃度によるNADH転換速度グラフである。
【
図5】各基質とポリペプチド鎖を異なる色で表したCgMDHとMsMDHの基質結合結晶構造を示す図である。
【
図6】各CgMDHとMsMDHの構造において活性座付近のアミノ酸残基の比較を示す図である。左側がMsMDH、右側がCgMDHである。GOLはグリセロールを表し、MALはリンゴ酸イオンを表す。
【
図7】各CgMDHとMsMDHの構造においてNAD
+/NADH結合座付近のアミノ酸残基の比較を示す図である。多くのMDHにおいて保存された蓋構造を異なる色で表現した。
【
図8】CgMDHとMsMDH、及びそれらの変異酵素に対するNADH転換速度を示す図である。
【
図9】CgMDHとMsMDH、及びMsMDH
G11Q変異酵素のpHによるNADH転換速度をそれぞれ青色、赤色、黄色で示す図である。BIS-Trisバッファーを使用した条件は四角形、Trisバッファーを使用した条件は円、グリシンバッファーを使用した条件は三角で表示した。
【
図10】pH 6.0、7.0、8.0に対するCgMDH、MsMDH、MsMDH
G11Qのオキサロ酢酸基質濃度によるNADH転換速度グラフである。
図3で既に提供されたpH 7.0のCgMDHとMsMDHの活性に関する情報は、点線で表示した。
【
図11】M.succiniciproducens PALK(pMS3-msmdh)(A)、PALK(pMS3-cgmdh)(B)、PALK(pMS3-cgmdh
Q20G)(C)、及びPALK(pMS3-msmdh
G11Q)(D)菌株の、グルコースを単一炭素源として用いた流加式培養の成長及び代謝産物生産曲線であり、M.succiniciproducens PALK(pMS3-cgmdh)菌株の、グルコースとグリセロールを共に炭素源として用いた(E)流加式培養の成長及び代謝産物生産曲線である。
【
図12】M.succiniciproducens PALK(pMS3-scmdh2)(A)、PALK(pMS3-scmdh3)(B)、PALK(pMS3-ecmdh)(C)、PALK(pMS3-zrmdh)(D)菌株の、グルコースを単一炭素源として用いた流加式培養の成長及び代謝産物生産曲線である。
【
図13】M.succiniciproducens PALKcgmdh菌株を、グルコースを単一炭素源として用いて(A)グリセロールと共に用いて(C)、M.succiniciproducens PALKmsmdh
G11Q菌株をグルコースを単一炭素源として用いて(B)、グリセロールと共に用いて(D)行った流加式培養の成長及び代謝産物生産曲線である。
【
図14】M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株(A)及びPALKcgmdh菌株(B)の接種量を増加させた流加式培養の成長及び代謝産物生産曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
別に断りのない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われる命名法は、本技術分野でよく知られており、通常用いられるものである。
【0010】
本発明では、コハク酸への代謝流れを強化し、結果的にコハク酸を過生産させるための酵素候補群のうち、MDHを選定した。MDHは、mdh遺伝子で暗号化されており、これは、オキサロ酢酸を基質とする酵素である(
図1)。コハク酸生産に用いられる菌株が有するMDHの効果を調べ、それらのうち、MDHの基質であるオキサロ酢酸を最も効果的に転換するMDHを見出すために、M.succiniciproducens菌株のMDH(MsMDH)、C.glutamicum菌株のMDH(CgMDH)、E.coli菌株のMDH(EcMDH)、A.succinogenes菌株のMDH(AsMDH)、S.cerevisiae菌株の細胞質、ミトコンドリア、ペルオキシソームのそれぞれのMDH(ScMDHc、ScMDHm、及びScMDHp)、Y.lipolitica菌株のMDH(YlMDH)、の総8種を選択し、それらのうち、MsMDH、CgMDH、EcMDH及びYlMDHだけが大腸菌において成功的に発現及び精製された。4種のMDHに対してオキサロ酢酸及びNADH 100μMをそれぞれ基質及び補助因子として使用してそれぞれの活性を比較し、その結果、CgMDHが最も高いオキサロ酢酸還元速度を有することが観察された(
図2)。これは、MsMDHの5倍に達する活性であり、次いでYlMDHとEcMDHの順で活性が高かったが、これらもMsMDHに比べて2倍以上の活性を示した(
図2)。興味深い点は、MsMDHが自然的にコハク酸を生産するM.succiniciproducensのMDHであるにもかかわらず、自然的にコハク酸を生産するバクテリアではなくC.glutamicumとE.coliに由来のCgMDHとEcMDHがより良い活性を示したということである。この結果は、MsMDHではなくCgMDHとEcMDHをM.succiniciproducensに導入したとき、より効果的にコハク酸を生産できるという可能性を示す。
【0011】
上の酵素の活性に関する結果をさらに調べるために、最も活性が高かった/低かった2つのMDHの反応速度論的分析を進行した。Michaelis-Mentenモデルに基づいてNADH濃度に関する初期速度グラフを表現したが、これはさらに、CgMDHがMsMDHよりも優れているということを示す(
図3)。しかし、オキサロ酢酸の濃度に関するMDH反応速度グラフは、2つのMDH、特にMsMDHにおいて、一般的に飽和するグラフを示さず、基質であるオキサロ酢酸から阻害作用を受けるような形態を示した(
図4)。このような基質阻害作用現象は、半世紀前から様々な脱水素酵素において既に報告されたことがある(Raval et al.,Biochemistry.,2(2):220-224.,1963)。様々な脱水素酵素において提示された基質阻害作用の機序としては、アロステリック制御(allosteric regulation)、共有結合の形成、又は酵素との非生産的/吸着結合体生成などが挙げられる(Chen et al.,Appl.Environ.Microb.,80:3992-4002.,2014)。例えば、ブタ心臓由来のNAD
+/NADH依存性MDHがエノール型オキサロ酢酸と不活性結合体を形成したり、Phycomyces blackesleeanus由来細胞質MDHでNADHが酵素と結合することを阻害し、結果的に酵素が作動しなくさせると知られたことがある(De Arriaga et al.,Biochim.Biophys.Acta.,784:158-163.,1984)。MsMDHの酵素活性は、30μMの相対的に低いオキサロ酢酸濃度から阻害し始めることがわかり(
図4)、このような基質阻害作用はその他MDHに比べても高いレベルと示された(
図4)。このような結果から、MsMDHはコハク酸生産に不利であり、これら3つのMDHのうちCgMDHがコハク酸生産に最も適合する酵素であることが分かる。
【0012】
分子レベルにおいてCgMDHがMsMDHに比べて良い酵素活性を示す理由を調べるために、2種の酵素の結晶構造を糾明し、また、基質と結合体の構造も糾明した(
図5)。CgMDHとMsMDH両方ともホモダイマーを形成し、NAD
+/NADH依存性リンゴ酸(malate)、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)上科に属する(
図5)。CgMDHとMsMDHのN-末端は、α-helicesの側に並んで配列された6本のβ-sheetで構成されたロスマンフォールドを示すのに対し、C-末端はα+βフォールドを形成する(
図5)。両酵素の活性部位は、各末端の特定フォールド間に存在し、特にNAD
+/NADH結合部位はロスマンフォールドと関連がある。しかし、両酵素の構造を比較した結果、Cα-backboneのR.M.S.D.値が2.772に達する程度に多少大きい差を示した。このような構造比較から、特に、活性部位周囲で酵素の活性に影響を与え得る構造的差異を発見した(
図6、
図7)。このような差異は、細胞質のMDHとミトコンドリアのMDH間の大きい差異を代弁することもある。相応のアミノ酸残基の他に、活性部位付近の環の主鎖の長さが異なることもあるが、ここでは、いくつかの核心アミノ酸残基が異なるということに重点をおいた。例えば、MsMDHの基質結合座の付近に位置するAla224とLeu101、そしてGly11に相応するアミノ酸残基がCgMDHではそれぞれSer242、Gln117、そしてGln20に該当する(
図6、
図7)。このような構造的差異が重要に働き、CgMDHとMsMDHの反応速度論的活性の差異につながったと予想した。
【0013】
一般に、活性の強いタンパク質の核心的な構造的特徴をターゲットに適用して酵素性能を向上させることが可能である。したがって、前記基質結合部位付近の核心アミノ酸残基を互いに置換し、活性にどのような影響を及ぼすかを調べるために、それぞれ異なる変異酵素を作製した(MsMDH
G11Q、CgMDH
Q20G、MsMDH
L101Q、CgMDH
Q117L、MsMDH
A224S、CgMDH
S242A)。これらをE.coliにおいて発現させ、封入体として発現したMsMDH
A224S以外の全ての変異酵素を成功的に精製した。CgMDHの全ての変異酵素(CgMDH
Q20G、CgMDH
Q117L、CgMDH
S242A)は、その野生型と比較したとき、いずれも半分以下にオキサロ酢酸変換速度が減少した(
図8)。MsMDH
L101QもMsMDHに比べて活性が減ったが、変異酵素MsMDH
G11Qの場合、活性が3倍程度向上したことを確認した(
図8)。当該11番部位のアミノ酸置換がどのように酵素活性に関与したかを確認するために、CgMDH、MsMDH、MsMDH
G11Qの3酵素を検討した。まず、それらのpHによる活性を測定したところ、CgMDHの最適pHは7.0付近と示され、MsMDHの活性は相対的にアルカリ性であるほど増加し、最適pHが9.0付近と示された(
図9)。コハク酸生産において最適のpHは6.5程度であり、相対的に酸性を帯びるため(Hong et al.,Nat.Biotechnol.,22:1275-1281.,2004)、このような条件的な限界は、コハク酸生産においてCgMDHよりもMsMDHが不利であることことを再び立証するといえる。また、上の実験で活性が増加したMsMDH
G11Qの最適pHは8.0付近であり、当該変異によって最適pHが低くなったことが分かる(
図9)。さらなる反応速度論的活性を比較するために、それぞれのpHにおいて基質濃度に対する反応速度を測定した(
図10)。全般的にMsMDH及びMsMDH
G11Q変異酵素の結果から明らかなように、pHが低いほど強い基質阻害作用を示すということを確認した(
図10)。このような結果によって、MsMDHは最適pH9.0において基質阻害作用をほとんど受けておらず、その結果、それらの酵素のうち最も高い活性を示した(
図10)。しかし、最も注目すべきことは、MsMDH
G11Q変異酵素の基質阻害作用がMsMDHのそれに比べて全てのpHにおいて大きく減少したということである(
図10)。様々な脱水素酵素において活性部位の単一変異を通じて基質阻害作用が阻害又は解消されることが報告されたことがある(Chen et al.,Appl.Environ.Microb.,80:3992-4002.,2014)。MDHの基質阻害作用がNADHの結合に影響を与えるということが報告されたことがあり、当該11番座もNADHの結合に直接に関連しているので(
図7)、恐らく11番と相互作用するNADHのピロリン酸(pyrophosphate)部分が基質阻害に密接な関連があると解釈される。前記in vitro研究によれば、CgMDHの低いpHにおいてMsMDHに比べて格段に高いオキサロ酢酸還元活性を有しており、コハク酸生産菌株においてMsMDHの代わりにCgMDHを導入したとき、コハク酸の生産量がより増加するということが予測できた。単一アミノ酸残基変異から、どのような構造的差異がこのような活性の差異をもたらしたかが把握でき、特にMsMDHのGly11番残基が当該酵素タンパク質の深刻な基質阻害作用に関与したことが分かった。当該Gly11番アミノ酸残基に相応するCgMDHのGln20に模してMsMDHのGly11番をGlnに置換したMsMDH
G11Q変異酵素が既存のM.succiniciproducens野生型酵素に比べて優れた活性を示したため、MsMDH
G11Q変異酵素も同様に、既存のMsMDHの代わりにコハク酸生産菌株に導入されたとき、コハク酸の生産量が増加するということが予測できた。当該変異酵素の導入は、外部遺伝子を導入したものではなく、既存の酵素において一つのアミノ酸だけを置換したため、GMOなどの問題から自由であろう。
【0014】
実際に基質阻害作用が緩和されたMDHを用いてコハク酸生産を向上させるために、in vitro研究に基づいて、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株に、既存MDHに比べて基質阻害作用が緩和されたMDHが導入された。M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株は、M.succiniciproducens野生型菌株において乳酸脱水素酵素を暗号化する遺伝子、ホスホトランスアセチル化酵素を暗号化する遺伝子及び酢酸キナーゼを暗号化する遺伝子を欠失させて得られる菌株であり、嫌気的条件でコハク酸以外の他の有機酸はほとんど生成しない上に、コハク酸だけを高濃度で生産する特性を有するコハク酸生成変異微生物である。基質阻害作用が緩和されたMDHを導入してコハク酸生産が向上することを確認するために、高性能のMDHを導入する前にまず、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株が自然的に持つMDHを過発現した菌株が開発された。このように開発されたPALK(pMS3-msmdh)菌株は、79.07g/Lのコハク酸をそれぞれ1.23mol/molグルコースと3.26g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図11;表1)。MsMDHが活性テスト中に最も低い活性を示したため、MsMDHを過発現した上記の菌株は菌株改良の効果が少なく、若干のコハク酸生産量増加だけを示した。In vitro活性テスト過程においてMDHのうちCgMDHが最も高い活性と低い基質阻害作用を示したため、CgMDHを過発現した菌株が開発されたし、前記作製されたPALK(pMS3-cgmdh)菌株は、流加式発酵の結果、87.23g/Lのコハク酸をそれぞれ1.29mol/molグルコースと3.6g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図11;表1)。前記PALK(pMS3)、PALK(pMS3-msmdh)、PALK(pMS3-cgmdh)の流加式発酵結果は、in vitroにおいてMDHの活性を確認した結果と一致する。特に、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)に比べてPALK(pMS3-cgmdh)が示した全てのコハク酸生産指標(生産濃度、収率、生産性)における優れた向上は、オキサロ酢酸からリンゴ酸への転換向上の他にも、基質阻害作用の緩和がコハク酸生産の向上を導いたといえる。
【0015】
現在まで、文献で実際にコハク酸増産のために用いられたMDH候補群のうち、CgMDHが最も優れていることを確認するために、文献でコハク酸増産に効果があると報告されたMDH(E.coli由来EcMDH、Zygosaccharomyces rouxii由来ZrMDH、S.serevisiae由来ScMDH2及びScMDH3)の効果もin vivoで検証した。そのために、それぞれのMDHを過発現したPALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)、PALK(pMS3-scmdh3)菌株が構築された。前記構築された4種のMDH過発現菌株に対する流加式発酵の結果、それぞれ79.05、76.11、77.34、75.15g/Lのコハク酸が、3.27、3.15、3.19、3.1g/L/hの生産性と1.29、1.25、1.16、1.13mol/molグルコースの収率で生産された。このような結果は、MDHが過発現しないPALK(pMS3)菌株よりは向上したコハク酸生産能であるが、CgMDHを過発現したPALK(pMS3-cgmdh)よりは低い数値であり、結局、MDH候補群のうちCgMDHが実際にコハク酸生産に最大の影響を与えるということを傍証する。
【0016】
In vitroで確認されたCgMDHとMsMDHの基質阻害作用と活性差が酵素の構造的差異から始まるということをin vivo上で確認するために、PALK(pMS3-cgmdh
Q20G)菌株とPALK(pMS3-msmdh
G11Q)菌株が構築された。前記構築されたPALK(pMS3-cgmdh
Q20G)菌株の流加式発酵の結果、79.39g/Lのコハク酸をそれぞれ1.00mol/molグルコースと3.27g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図11;表1)。コハク酸生産能はPALK(pMS3-cgmdh)菌株に比べて顕著に減少したが、これは、前述した20番目位置のグルタミンがCgMDHの活性において重要な部分であることを示すin vitro結果と一致する。
【0017】
前記構築されたPALK(pMS3-msmdh
G11Q)菌株の流加式発酵の結果、84.19g/Lのコハク酸をそれぞれ1.08mol/molグルコースと3.48g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図11;表1)。PALK(pMS3-msmdh)菌株に比べて増加したコハク酸生産濃度と生産性は、in vitro結果と同一に、11番目位置のグリシンをグルタミンに替えたことが酵素の活性を高め、基質阻害作用を緩和させたということを傍証する。結局、このようなin vivo結果は、構造分析に基づく酵素改良が、実際のコハク酸生産向上に役立ち得るということを示す。
【0018】
特に、本発明において、コハク酸増産の方法で用いた酵素であるMDHの場合は、ルーメンバクテリアであるMannheimia属、Basfia属、Actinobacillus属、及びAnaerobiospirillum属はもとより、E.coli及びCorynebacterium属のいずれにおいてもコハク酸生産に重要な役割を担うものと知られているので(Lee et al.,WO2012/030130A2;Liang et al.,Biotechnol.Lett.,33(12):2439-2444.,2011;Chen et al.,Process.Biochem.,47:1250-1255.,2012)、前記菌株において、本発明で示したような遺伝的変異は、コハク酸過生産菌株構築のために共通に適用可能である。特に、Mannheimia属のようにウシの反芻胃から分離(isolation)されたBasfia属は、元は分離されるとき、Mannheimia属と命名されたが、後でBasfia属に分離され、MannheimiaとBasfia菌株は2,314,078bpと2,340,000bpのほぼ類似な遺伝子塩基配列のサイズを有しており、塩基配列のうちGとCの比率が両菌株とも42.5mol%であり、一致する。なお、遺伝子全般では95%の相同性を有しており、特にMannheimiaの2,380個のORFとBasfiaの2,363個のORFのうち2006個のORFは相同性を有している。注目すべき点は、このように相同性を有する2006個のORFは核心遺伝体として知られている点である。16S rRNA配列も99.8%一致するなどの非常に類似する菌株であるため、この発明ではこれらをMannheimia属と総称する(Ahn et al.,Curr.Opin.Biotech.,42:54-66.,2016;Scholten et al.,WO2009/024294A1;Kuhnert et al.,Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,60:44.,2010)。すなわち、本発明において、Mannheimia属は、最近になって実質的に同じ属とされたBasfia属を含む。
【0019】
実際に、本発明において最も良い効果を示したCgMDHを、ルーメンバクテリア以外の最も代表的な産業的コハク酸生産菌株であるE.coliとC.glutamicumに導入してその効果を確認した結果、それぞれの菌株にCgMDHを過発現したE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)菌株とC.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株は、そうでない既存のE.coli W3110菌株と野生型C.glutamicum菌株に比べて格段に向上したコハク酸生産能を示した(表2)。このような結果は、通常のバイオ基盤コハク酸生産菌株全般にコハク酸生産能向上のために同一又は類似の方式のCgMDH過発現基盤エンジニアリングが可能であることを示唆する。
【0020】
最後に、M.succiniciproducens PALK(pMS3-cgmdh)菌株とPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株のコハク酸生産向上が、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)に自然的に存在するMDHの効果からもたらされていないことを確認するために、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株ゲノム上に存在するMDHを暗号化する遺伝子を欠失させ、その座にCgMDHとMsMDHG11Qを暗号化する遺伝子を入れて、それぞれPALKcgmdh菌株とPALKmsmdhG11Q菌株を構築した(表1)。なお、プラスミド上で発現した遺伝子の場合は、プラスミドの不安定性によって抗生剤を用いて保持してもプラスミドを失うことがあるという点が知られている(Alonso-Gutierrez et al.,Biotechnol.Bioeng.,115(4):1000-1013.,2018)。このような観点で、遺伝子をゲノム上に直接入れることが、より安定した菌株を構築するのに役立ち得、プラスミドを保持するための高価な抗生剤を使用しなくて済むという利点から、実際に産業菌株ではこのような方法が多用される。
【0021】
前記構築されたPALKcgmdh菌株の場合、流加式発酵の結果、89.6g/Lのコハク酸をそれぞれ1.28mol/molグルコースと3.71g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図13;表1)。PALKmsmdh
G11Q菌株の場合、流加式発酵の結果、82.76g/Lのコハク酸をそれぞれ1.13mol/molグルコースと3.42g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図13;表1)。
【0022】
前記PALKcgmdh菌株とPALKmsmdhG11Q菌株のコハク酸生産能を、PALK(pMS3-cgmdh)菌株とPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株の生産能と比較すると、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株に自然的に存在するMDHは、PALK(pMS3-cgmdh)菌株とPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株のコハク酸過生産に大きな影響を与えていないことが分かる。結局、前記M.succiniciproducens PALK(pMS3-cgmdh)菌株とPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株のコハク酸生産向上効果も、基質阻害作用が緩和されたCgMDHとMsMDHG11Qから始まったことが分かる。
【0023】
前記構築されたPALKcgmdh菌株とPALKmsmdh
G11Q菌株のコハク酸生産をさらに向上させるために、制限培地下でグルコースとグリセロールを共に炭素源として用いて流加式発酵を進行した。グリセロールの場合、1mol基準グルコースに比べて2倍の還元当量を提供する。オキサロ酢酸がMDHによってリンゴ酸に転換されるためには1molのNADHが必要なため、グリセロールの使用はコハク酸生産に役立ち得ると知られている(Choi et al.,Biotechnol.Bioeng.,113(10):2168-2177.,2016)。PALKcgmdh菌株を制限培地下でグルコースとグリセロールを共に炭素源として用いて流加式発酵を進行した結果、101.18g/Lのコハク酸をそれぞれ1.37mol/molグルコース(収率比較を容易にするためにグルコースとグリセロールを共に炭素源として用いた場合、両炭素源の炭素数を計算に含めてグルコース基準で表記した。以下では、このような場合、‘mol/molグルコース’と一律に表記する。)と4.18g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図13;表1)。この結果は、同一の培地と炭素源下で進行したPALK(pMS3-cgmdh)菌株の流加式発酵結果と類似している(
図11;表2)。この結果は、デュアルフェーズ発酵のようなさらなる複雑な発酵工法を使用せずに行った発酵結果のうち、最も高いコハク酸生産性を示した。
【0024】
PALKmsmdh
G11Q菌株の場合、制限培地下でグルコースとグリセロールを共に炭素源として用いて流加式発酵を進行した結果、92.5g/Lのコハク酸をそれぞれ1.28mol/molグルコースと3.82g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図13;表1)。PALKcgmdh菌株に比べては良いコハク酸生産能を示すことはできなかったが、このような結果は、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株と比較してMDHの基質阻害作用を緩和させることによってコハク酸生産能が向上可能であるという点を示し、in vitro結果とも一致する(表1)。
【0025】
したがって、本発明は、一観点において、コハク酸生成能を有する微生物にリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入されている変異微生物であって、前記リンゴ酸脱水素酵素は、最初のアルファ螺旋の末端部分に位置し、主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とする変異微生物に関する。
【0026】
前記相互作用とは、リンゴ酸脱水素酵素の主鎖のアミド官能基がNADHのピロリン酸部分を電気的な引力によって安定化する結合を意味する。
【0027】
本発明において、前記リンゴ酸脱水素酵素は、i)配列番号40のアミノ酸配列で表されるコリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素;又はii)配列番号42のアミノ酸配列で表されるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素において11番目アミノ酸がグルタミンに置換されたリンゴ酸脱水素酵素であることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0028】
本発明において、i)前記コリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号41の塩基配列で表され、ii)前記マンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号43の塩基配列で表されることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0029】
すなわち、本発明では、特定アミノ酸配列及び塩基配列を記載したが、本発明で実施しようとする酵素と実質的に同じアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列が本発明の権利範囲に属することは、当業者にとって明らかであろう。“実質的に同じ”とは、アミノ酸又は塩基配列の相同性が非常に高い場合を含み、その他にも、配列の相同性とは関係なく構造的特徴を共有したり、或いは本発明で用いられたのと同じ機能を有するタンパク質を意味する。本発明の核心を構成する配列以外の他の配列が一部欠失した酵素又はこれをコードする塩基配列の断片も本発明に含まれてよく、したがって、本発明は、断片の長さに関係なく、本発明で用いられたのと同じ機能を有するいかなるアミノ酸又は塩基配列も含む。
【0030】
本発明において、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のリンゴ酸脱水素酵素は、下記の配列番号40で表示できる。
【0031】
配列番号40
MNSPQNVSTKKVTVTGAAGQISYSLLWRIANGEVFGTDTPVELKLLEIPQALGGAEGVAM
ELLDSAFPLLRNITITADANEAFDGANAAFLVGAKPRGKGEERADLLANNGKIFGPQGKA
INDNAADDIRVLVVGNPANTNALIASAAAPDVPASRFNAMMRLDHNRAISQLATKLGRGS
AEFNNIVVWGNHSATQFPDITYATVGGEKVTDLVDHDWYVEEFIPRVANRGAEIIEVRGK
SSAASAASSAIDHMRDWVQGTEAWSSAAIPSTGAYGIPEGIFVGLPTVSRNGEWEIVEGL
EISDFQRARIDANAQELQAEREAVRDLL
【0032】
本発明において、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、下記の配列番号41で表示できる。
【0033】
配列番号41
ATGAATTCCCCGCAGAACGTCTCCACCAAGAAGGTCACCGTCACCGGCGCAGCTGGTCAAATCTCTTATTCACTGTTGTGGCGCATCGCCAACGGTGAAGTATTCGGCACCGACACCCCTGTAGAACTGAAACTTCTGGAGATCCCTCAGGCTCTTGGCGGGGCAGAGGGTGTGGCTATGGAACTTCTGGATTCTGCCTTCCCCCTCCTGCGAAACATCACCATCACCGCGGATGCCAATGAGGCATTCGACGGCGCTAATGCGGCGTTTTTGGTCGGTGCGAAGCCTCGCGGAAAAGGCGAAGAGCGCGCAGATTTGCTGGCTAACAACGGCAAGATTTTCGGACCTCAAGGTAAAGCTATCAATGACAACGCCGCAGATGACATTCGTGTCCTAGTTGTTGGAAACCCAGCGAACACCAACGCGTTGATTGCTTCAGCTGCGGCCCCAGATGTTCCAGCATCCCGCTTCAACGCAATGATGCGCCTTGATCACAACCGTGCGATCTCCCAGCTGGCCACCAAGCTTGGCCGTGGATCTGCGGAATTTAACAACATTGTGGTCTGGGGAAATCACTCCGCAACCCAGTTCCCAGACATCACCTACGCAACCGTTGGTGGAGAAAAGGTCACTGACCTGGTTGATCACGATTGGTATGTGGAGGAGTTCATTCCTCGCGTGGCTAACCGTGGCGCTGAAATCATTGAGGTCCGTGGAAAGTCTTCTGCAGCTTCTGCAGCATCCTCTGCGATTGATCACATGCGCGATTGGGTACAGGGCACCGAGGCGTGGTCCTCTGCGGCAATTCCTTCCACCGGTGCATACGGCATTCCTGAGGGCATTTTTGTCGGTCTGCCAACCGTATCCCGCAACGGTGAGTGGGAAATCGTTGAAGGCCTGGAGATTTCCGATTTCCAGCGCGCCCGCATCGACGCGAATGCTCAGGAATTGCAGGCCGAGCGCGAGGCAGTGCGCGACTTGCTCTAA
【0034】
本発明において、マンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来のリンゴ酸脱水素酵素は、下記の配列番号42で表示できる。本発明では、下記の配列番号において11番目アミノ酸をGlyからGlnに置換し、MDHのオキサロ酢酸に対するリンゴ酸転換効率を改善した。
【0035】
配列番号42
MKVAVLGAAGGIGQALALLLKLQLPAGSSLSLYDVAPVTPGVAKDLSHIPTDVVVEGFAGTDPSEALKGADIVLISAGVARKPGMTRADLFGVNAGIIRSLTEKVAEQCPKACVGIITNPVNAMVAIAAEVLKKAGVYDKRKLFGITTLDILRAETFIAELKGLDPTRVTIPVIGGHSGVTILPLLSQVQNVEWSSEEEIIALTHRIQNAGTEVVEAKAGGGSATLSMAQAAARFALALVKASQGAKVVECAYVEGDGKYARFFAQPVRLGTEGVEEYLTLGKLSAFEEKALNAMLETLQGDIKSGEDFING
【0036】
本発明において、マンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来のリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、下記の配列番号43で表示できる。
【0037】
配列番号43
atgaaagttgcagttctaggtgccgcaggcggcattggtcaagcgttggctttattattaaagttacaattaccggctggttcatctttatctctgtatgatgtcgcacccgtcaccccgggtgttgctaaagatcttagccatatcccaacagatgttgtggttgaaggttttgccggtacggatccttcagaagcattaaaaggggcggatattgtgttaatttctgcgggtgtggcacgtaaaccgggcatgacacgtgcggatttattcggtgttaatgcgggtattattcgtagtctgaccgaaaaagtggcggaacaatgcccgaaagcctgtgtgggtattatcaccaacccggttaatgcgatggttgccattgcggccgaagtattgaaaaaagcgggtgtttacgacaaacgtaaattattcggcattactaccttagatattcttcgagcggaaacctttatcgccgaattaaaaggcttagatcctactcgggttacaattcctgttatcggcggtcattcgggtgtaaccattcttccgttattgtctcaagttcaaaatgttgaatggagcagtgaagaggaaatcattgctttaacgcatcgtatccaaaatgcaggtacggaagtggttgaagcaaaagcgggcggcggttctgcaaccttatctatggcgcaggcggcggcacgttttgcattagcattagtgaaagcctcgcaaggtgcgaaagttgttgaatgcgcttatgtggaaggcgacggcaaatatgcccgtttctttgcacaaccggttcgtttaggtacagaaggtgttgaagaatacttaaccctgggtaaattaagtgcatttgaagaaaaagcgttaaatgctatgttagaaactttacaaggtgacattaagtcaggtgaagattttattaacggttaa
【0038】
本発明において、配列番号42のアミノ酸配列で表されるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来のリンゴ酸脱水素酵素の11番目アミノ酸がグルタミンに置換されたリンゴ酸脱水素酵素は、下記の配列番号44のアミノ酸配列で表示できる。
【0039】
配列番号44
MKVAVLGAAGQIGQALALLLKLQLPAGSSLSLYDVAPVTPGVAKDLSHIPTDVVVEGFAGTDPSEALKGADIVLISAGVARKPGMTRADLFGVNAGIIRSLTEKVAEQCPKACVGIITNPVNAMVAIAAEVLKKAGVYDKRKLFGITTLDILRAETFIAELKGLDPTRVTIPVIGGHSGVTILPLLSQVQNVEWSSEEEIIALTHRIQNAGTEVVEAKAGGGSATLSMAQAAARFALALVKASQGAKVVECAYVEGDGKYARFFAQPVRLGTEGVEEYLTLGKLSAFEEKALNAMLETLQGDIKSGEDFING
【0040】
本発明において、配列番号44のアミノ酸配列で表されるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来のリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、下記の配列番号45の塩基配列で表示できる。
【0041】
配列番号45
atgaaagttgcagttctaggtgccgcaggccagattggtcaagcgttggctttattattaaagttacaattaccggctggttcatctttatctctgtatgatgtcgcacccgtcaccccgggtgttgctaaagatcttagccatatcccaacagatgttgtggttgaaggttttgccggtacggatccttcagaagcattaaaaggggcggatattgtgttaatttctgcgggtgtggcacgtaaaccgggcatgacacgtgcggatttattcggtgttaatgcgggtattattcgtagtctgaccgaaaaagtggcggaacaatgcccgaaagcctgtgtgggtattatcaccaacccggttaatgcgatggttgccattgcggccgaagtattgaaaaaagcgggtgtttacgacaaacgtaaattattcggcattactaccttagatattcttcgagcggaaacctttatcgccgaattaaaaggcttagatcctactcgggttacaattcctgttatcggcggtcattcgggtgtaaccattcttccgttattgtctcaagttcaaaatgttgaatggagcagtgaagaggaaatcattgctttaacgcatcgtatccaaaatgcaggtacggaagtggttgaagcaaaagcgggcggcggttctgcaaccttatctatggcgcaggcggcggcacgttttgcattagcattagtgaaagcctcgcaaggtgcgaaagttgttgaatgcgcttatgtggaaggcgacggcaaatatgcccgtttctttgcacaaccggttcgtttaggtacagaaggtgttgaagaatacttaaccctgggtaaattaagtgcatttgaagaaaaagcgttaaatgctatgttagaaactttacaaggtgacattaagtcaggtgaagattttattaacggttaa
【0042】
本発明において、前記コハク酸生成能を有する微生物は、マンヘミア属(Mannheimia sp.)、アクチノバチルス属(Actinobacillus sp.)、アネロビオスピリルム属(Anaerobiospirillum sp.)、大腸菌(E.coli)、及びコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0043】
好ましくは、前記コハク酸生成能を有する微生物は、Mannheimia succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)であることを特徴とし、Mannheimia succiniciproducensと非常に類似するBasfia属菌株に乳酸脱水素酵素を暗号化する遺伝子、ホスホトランスアセチル化酵素を暗号化する遺伝子及び酢酸キナーゼを暗号化する遺伝子を欠失させたBasfia属変異菌株でよい。
【0044】
本発明では、コハク酸生産性をさらに向上させるために、前記構築されたPALKcgmdh菌株を高濃度で接種し、嫌気条件下で向上した生産性でコハク酸を製造した。制限培地下で初期8.7g DCW/Lの高濃度の細胞を接種し、グルコースとグリセロールを共に炭素源として用いて流加式発酵を進行した結果、134.25g/Lのコハク酸をそれぞれ1.32mol/molグルコースと10.32g/L/hの収率及び生産性で生産した(
図14;表1)。このような結果は、類似の方法を用いたE.coli及びC.glutamicumで示したコハク酸生産性よりも優れた結果である。Litsanov et alによれば、改良されたC.glutamicumを用いて12.5gDCW/Lの高濃度の細胞を接種してグルコースとギ酸を用いて134g/Lのコハク酸を2.53g/L/hの生産性で得ることができたが、これは、M.succiniciproducens PALKcgmdh菌株が8.7gDCW/Lのより低い量の細胞を用いても、より高濃度のコハク酸を高生産性で製造できるという点を示す。また、Vemuri et alによれば、E.coliの場合も、細胞が高農渡のとき、嫌気培養を始める流加式発酵過程によって99.2g/Lのコハク酸を0.12g/gDCW/hの細胞当たりの生産性で生産したが、これは、M.succiniciproducens PALKpMS3-cgmdh菌株の場合、1.19g/gDCW/hの細胞当たりの生産性でコハク酸を生産することに比しては非常に低い数値であるといえる(Litsanov et al.,Appl.Environ.Microbiol.,78(9):3325-37.,2012;Vemuri et al.,J.Ind.Microbiol.Biotechnol.,28:325-332.,2002)。
【0045】
したがって、本発明は、さらに他の観点において、
(a)前記変異微生物を培養してコハク酸を生成させる段階;及び
(b)前記生成されたコハク酸を回収する段階を含むコハク酸の製造方法に関する。
【0046】
本発明において、前記培養は、i)グルコース、ii)スクロース、iii)グリセロール、iv)グルコース及びグリセロール、又はv)スクロース及びグリセロールを炭素源として用いることを特徴とし、前記培養は、嫌気的条件で行われることを特徴とし、前記培養は、変異微生物の初期濃度をOD600 15~25に濃縮して培養することを特徴とし得るが、これに限定されない。変異微生物の初期濃度を高濃度に濃縮させる方法には、接種時に高濃度の変異微生物を注入するイナキャレイション(以下、‘イノキュラム法’)又はMCRB(membrane cell recycling bioreactor)方法(以下、‘MCRB法’)で行われる方法を含むことを特徴とし得る。
本発明において、前記変異微生物は、pH 6.0~7.0の培地で培養することを特徴とし得るが、これに限定されない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
特に、下記実施例では、本発明に係る遺伝子を置換又は過発現させるために、宿主細胞としてコハク酸生成微生物であるMannheimia属微生物だけを例示したが、他の種類のコハク酸生成微生物を使用しても、本発明と類似のコハク酸生産能を持つ変異微生物が得られるということは、当業界における通常の知識を有する者には自明な事項であろう。
【0049】
[実施例1]
MsMDH、CgMDH、EcMDH、ScMDHc、ScMDHm、ScMDHp、YlMDH過発現ベクター(pET30a:MsMDH、pET30a:CgMDH、pET30a:EcMDH、pET30a:ScMDHc、pET30a:ScMDHm、pET30a:ScMDHp、pET30a:YlMDH)の作製及び変異酵素過発現ベクター(pET30a:MsMDHG11Q、pET30a:CgMDHQ20G、pET30a:MsMDHL101Q、pET30a:CgMDHQ117L、pET30a:MsMDHA224S、pET30a:CgMDHS242A)作製
各コハク酸生産微生物のMDHをE.coliで過発現させてタンパク質を確保するためにそれぞれの過発現ベクターを作製した。配列番号1と2、3と4、5と6、7と8のプライマーを用いてそれぞれ、M.succiniciproducens,C.glutamicum,E.coli K12、Y.lipolyticaのゲノムDNA(genomic DNA)を鋳型にしてPCRを行った。このように得られたPCR産物をNdeIとXhoI制限酵素で切った後、pET30a(Merck Millipore)のNdeIとXhoI部位にクローニングして過発現ベクターpET30a:MsMDH、pET30a:CgMDH、pET30a:EcMDH、pET30a:YlMDHを完成した。
【0050】
配列番号1:5’-GCGCCATATGAATTCCCCGCAGAACGTCTCCACC
配列番号2:5’-GCGCCTCGAG GAGCAAGTCGCGCACTGCCTCGCGC
配列番号3:5’-GCGCCATATGAAAGTTGCAGTTCTAGGTGCCGCA
配列番号4:5’-GCGCCTCGAG ACCGTTAATAAAATCTTCACCTGAC
配列番号5:5’-GCGCCATATGAAAGTCGCAGTCCTCGGCGCTGCT
配列番号6:5’-GCGCCTCGAGCTTATTAACGAACTCTTCGCCCAG
配列番号7:5’-GCGCCATATGGTTAAAGCTGTCGTTGCCGGAGCC
配列番号8:5’-GCGCCTCGAGGTTGGCAGGAGGAGGGTTAACAAT
【0051】
S.cerevisiae由来の3つのMDH(ScMDHc、ScMDHm、ScMDHp)を過発現せさせるベクターを作製するためにそれぞれ、配列番号9と10、11と12、13と14に該当するプライマーを用い、いずれもS.cerevisiaeのゲノムを鋳型にしてPCRを行った。このように得られたPCR産物をNdeIとXhoI制限酵素で切った後、pET30aのNdeIとXhoI部位にクローニングし、過発現ベクターpET30a:ScMDHc、pET30a:ScMDHm、pET30a:ScMDHpを作製した。
【0052】
配列番号9:5’-GCGCCATATGCCTCACTCAGTTACACCATCCATA
配列番号10:5’-GCGCCTCGAGAGATGATGCAGATCTCGATGCAAC
配列番号11:5’-GCGCCATATGTTGTCAAGAGTAGCTAAACGTGCG
配列番号12:5’-GCGCCTCGAGTTTACTAGCAACAAAGTTGACACC
配列番号13:5’-GCGCCATATGGTCAAAGTCGCAATTCTTGGCGCT
配列番号14:5’-GCGCCTCGAGTAGCTTGGAAGAGTCTAGGATGAA
【0053】
MsMDHの変異酵素を過発現させ得るベクター(pET30a:MsMDHG11Q、pET30a:MsMDHL101Q、pET30a:MsMDHA224S)を作製するためにそれぞれ、配列番号15と16、17と18、19と20のプライマーを用い、pET30a:MsMDHを鋳型にしてPCRを行った。このように得られたPCR産物をE.coli内に形質転換させ、カナマイシン含むLB(Luria-Bertani)固体培地で選択的に育つようにして抽出した。同様に、CgMDHの変異酵素を過発現させ得るベクター(pET30a:CgMDHQ20G、pET30a:CgMDHQ117L、pET30a:CgMDHS242A)を作製するためにそれぞれ、配列番号21と22、23と24、25と26のプライマーを用い、pET30a:CgMDHを鋳型にしてPCRを行った。このように得られたPCR産物をE.coli内に形質転換させ、カナマイシン含むLB固体培地で選択的に育つようにして抽出した。最終的に、配列分析をし、成功的に変異したことを確認した。
【0054】
配列番号15:5’-CTAGGTGCCGCAGGCCAGATTGGTCAAGCGTTG
配列番号16:5’-CAACGCTTGACCAATCTGGCCTGCGGCACCTAG
配列番号17:5’-GGTATTATTCGTAGTCAGACCGAAAAAGTGGCG
配列番号18:5’-CGCCACTTTTTCGGTCTGACTACGAATAATACC
配列番号19:5’-GCGGGCGGCGGTTCTTCAACCTTATCTATGGCG
配列番号20:5’-CGCCATAGATAAGGTTGAAGAACCGCCGCCCGC
配列番号21:5’-ACCGGCGCAGCTGGTGGCATCTCTTATTCACTG
配列番号22:5’-CAGTGAATAAGAGATGCCACCAGCTGCGCCGGT
配列番号23:5’-AAGATTTTCGGACCTCTGGGTAAAGCTATCAATG
配列番号24:5’-CATTGATAGCTTTACCCAGAGGTCCGAAAATCTT
配列番号25:5’-GTCCGTGGAAAGTCTGCGGCAGCTTCTGCAGCA
配列番号26:5’-TGCTGCAGAAGCTGCCGCAGACTTTCCACGGAC
【0055】
[実施例2]
MsMDH、CgMDH、EcMDH、YlMDH及びそれらの変異酵素タンパク質(MsMDHG11Q、CgMDHQ20G、MsMDHL101Q、CgMDHQ117L、CgMDHS242A)の発現及び精製
実施例1で作製した過発現ベクター(pET30a:MsMDH、pET30a:CgMDH、pET30a:EcMDH、pET30a:YlMDH)をE.coli BL21(DE3)-T1Rに形質転換させ、100μg/mLのカナマイシンを含有しているLB培地において37℃で培養した後、OD600が0.6になったとき、IPTGで発現を誘導した。発現誘導後に、さらに該当の酵素タンパク質が発現するように18℃で20時間培養した。このような培養液を4℃で5,000gで15分間遠心分離して細胞を収穫した後、氷中で冷たく維持されたバッファーA(40mM Tris-HCl、pH 8.0)にさらに入れて音波破砕で細胞を壊した。このように確保された細胞破砕物から、1時間の11,000g遠心分離によって細胞残骸を除去した。最終的に確保された上澄液をNi-NTAアガロ-スビーズに結合させ、親和性クロマトグラフィーを用いてヒスチジンタグ付きMDHタンパク質を選択的に精製した。低い20mMの濃度のイミダゾールが含まれているバッファーAで残りの非特異性結合をしたタンパク質を洗い落とした後、300mMイミダゾールが含まれているバッファーAを用いて目的のタンパク質を溶出した。高純度のタンパク質を確保するための追加の精製のために、HiTrap Qを用いたイオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーを用いて95%以上の高純度MDHタンパク質を確保することができた。以上に精製されたMDHタンパク質を実施例3で記述された3nM濃度に希釈して活性測定において使用し、CgMDHとMsMDHタンパク質は、最終的にそれぞれ54mg/mL、42mg/mLに濃縮して結晶化を行った。
【0056】
[実施例3]
MsMDH、CgMDH、EcMDH、YlMDH、MsMDHG11Q、CgMDHQ20G、MsMDHL101Q、CgMDHQ117L、CgMDHS242Aのオキサロ酢酸還元活性測定
MDHのオキサロ酢酸還元活性では補助因子としてNADHという還元力が消耗され、その結果、NAD+が生成される。NADHの340nmにおける独特の吸光性質を用いて分光光度計法でMDHの活性を時間別に測定することができる。比較活性測定のための最終反応溶液の組成は、次のように構成した:0.1M Tris-Hcl(pH 8.0)、100μM NADH、100μM オキサロ酢酸、最後に3nMの精製されたMDH(MsMDH、CgMDH、EcMDH、YlMDH)。変異酵素(MsMDHG11Q、CgMDHQ20G、MsMDHL101Q、CgMDHQ117L、CgMDHS242A)の活性測定のための最終反応溶液の組成は、比較活性測定のための組成と同一であった。反応速度論的活性比較のための最終反応溶液では、前記の条件においてオキサロ酢酸の濃度とNADHの濃度に変化を与えて測定し、オキサロ酢酸に対する反応速度論的活性測定時にはNADHの濃度を200μMに、NADHに対する反応速度論的活性測定時にはオキサロ酢酸の濃度を100μMに固定して測定した。グラフ製図時には、酵素を投入してから初期の反応時間において減少するNADHの量を吸光係数として計算し、分当たり転換されるオキサロ酢酸の濃度(μM)を初期速度として示した。pHによる活性比較時には、前記最終反応溶液の組成(0.1Mバッファー、200μM NADH、100μMオキサロ酢酸、3nMのMDH)を使用し、pH 5.0~6.0ではBIS-trisバッファー、pH 7.0~9.0ではTris-HClバッファー、pH 10.0ではグリシンバッファーをそれぞれ使用した。
【0057】
[実施例4]
CgMDHとMsMDHの結晶化及び構造分析
精製されたタンパク質の初期結晶化は、シッティングドロップ(sitting-drop)蒸気拡散方法を用いてスクリーニングキット(Hampton Research,CA,USA)で20℃で行った。各実験は、1.0μLのCgMDH又はMsMDHタンパク質と1.0μLのreservoir溶液を混ぜて0.5mLのreservoir溶液に対して平衡化させて行われた。CgMDH結晶がいくつかの結晶化スクリーニング条件で発見され、ハンギングドロップ(hanging-drop)蒸気拡散方法を用いて数回の最適化過程を経た後、18% PEG3350、0.2M MgCl2六水和物(hexahydrate)、0.1M HEPES条件で最良の質の結晶が現れた。基質結合構造を決定するために、基質であるNAD+、リンゴ酸と共に結晶化を行って、同じ条件で結晶を確保した。MsMDHの場合、16% PEG3350と8%タクシメート(Tacsimate)pH 6.0で0.3×0.3×0.1mmサイズの良質の結晶を得、X線回折実験を行うことができた。基質結合構造を決定するために、基質であるNAD+と共に結晶化を行い、同じ条件でMsMDH基質結合結晶を確保した。結晶の低温保護のために、reservoir溶液に含まれた30%グリセロールが使用され、0.97934Å波長のX線回折イメージがQUANTUM270CCD検出器によってポハン加速器研究所7Åビームラインで収集された。CgMDHとNAD+、リンゴ酸結合CgMDH結晶、MsMDHとNAD+結合MsMDH結晶はそれぞれ、1.95Å、2.00Å、2.30Å、1.98Åの解像度まで回折することを確認した。このようなデータはHKL2000プログラムによってインデクシング、インテグレーション、スケーリングされ、CgMDHとMsMDHデータのそれぞれは、分子置換(molecular replacement)手法を用いて、探索モデルであるMycobacterium tuberculosis MDH(PDB code 4TVO)とHaemophilus influenzae MDH(PDB code 6AOO)の構造によってフェイジング(phasing)された。モデル構築はWinCootを用いて行い、精製(refinement)はREFMAC5を用いて行った。
【0058】
[実施例5]
MsMDH、CgMDH、CgMDHQ20G、MsMDHG11Q過発現ベクター(pMS3-msmdh、pMS3-cgmdh、pMS3-cgmdhQ20G、pMS3-msmdhG11Q)の作製及びPALK(pMS3-msmdh)、PALK(pMS3-cgmdh)、PALK(pMS3-cgmdhQ20G)、PALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株の作製
各コハク酸生成微生物のMDHを過発現させてその効果を調べ、構造分析に基づいて改良したMDHを過発現させてその効果を調べるために、それぞれの過発現ベクターを作製した。まず、MsMDH過発現ベクターpMS3-msmdhを得るために、M.succiniciproducensのゲノムを鋳型とし、配列番号27と28のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3(Jang et al.,Appl.Environ.Microb.73(17):5411-5420.,2007)にEcoRIとKpnI部位にクローニングしてpMS3-msmdhベクターを完成した。CgMDH過発現ベクターpMS3-cgmdhを得るために、C.glutamicumのゲノムを鋳型とし、配列番号29と30のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングしてpMS3-cgmdhベクターを完成した。CgMDHQ20G過発現ベクターpMS3-cgmdhQ20Gを得るために、CgMDHQ20G遺伝子断片を鋳型とし、配列番号29と30のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングしてpMS3-cgmdhQ20Gベクターを完成した。MsMDHG11Q過発現ベクターpMS3-msmdhG11Qを得るために、MsMDHG11Q遺伝子断片を鋳型とし、配列番号27と28のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングしてpMS3-msmdhG11Qベクターを完成した。
【0059】
配列番号27:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGAATTCATGAAAGTTGCAGTTCTAG
配列番号28:5’-TCTAGAGGATCCCCGGGTACCTTAACCGTTAATAAAATCTTCAC
配列番号29:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGATGAATTCCCCGCAGAAC
配列番号30:5’-GGATCCCCGGGTACCGAGCTTTAGAGCAAGTCGCGCAC
【0060】
上記のように作製されたpMS3-msmdh、pMS3-cgmdh、pMS3-cgmdhQ20G、pMS3-msmdhG11QをM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)に導入することによって、最終的にそれぞれ、PALK(pMS3-msmdh)、PALK(pMS3-cgmdh)、PALK(pMS3-cgmdhQ20G)、PALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株を完成した。上記のように過発現ベクターを導入するために、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)をBHI(Brain-Heart Infusion)固体培地に塗抹し、36時間39℃で培養した後、コロニーをBHI液体培地10mLに接種し、12時間培養した。十分に育った細胞培養液を再びBHI液体培地100mLに1mL接種し、39℃静置培養器で培養した。約4~5時間後、細胞成長がOD600基準に0.3~0.5程度になった時、前記細菌培養液を0~4℃に20分間置いて細胞成長がそれ以上進まないように防ぎ、これを4℃、4,500rpmで15分間遠心分離して細胞を得た。その後、4℃の10%グリセロール溶液200mLでセルを再懸濁した後、再び上記と同じ条件で遠心分離し、このような再懸濁と遠心分離を10%グリセロール溶液を半分に減らしながら総3回行った。最終に得られたセルは、同一体積の10%グリセロール溶液で再懸濁し分注して-80℃に保管した。前記得られた細胞濃縮懸濁液と本実施例で作製した過発現ベクター4種をそれぞれ混合し、2.5kV、25μF、200Ωの条件で電気穿孔(electroporation)を行って前記ベクターでM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)の形質転換を試みた。このように電気穿孔されたセルは、BHI液体培地を加え、39℃静置培養器で1時間回復培養した後、培養液を全て、抗生剤アンピシリン2.5μg/mLを含有するBHI固体培地に塗抹し、39℃静置培養器で48時間以上培養した。前記培地で形成された変異菌株を、抗生剤が含まれているBHI液体培地で培養し、ベクターミニプレップ(mini-prep)を用いて得たベクターを電気泳動することによって過発現ベクターの導入を確認した。
【0061】
[実施例6]
EcMDH、ZrMDH、ScMDH2、ScMDH3過発現ベクター(pMS3-ecmdh、pMS3-zrmdh、pMS3-scmdh2、pMS3-scmdh3)の作製及びPALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)、PALK(pMS3-scmdh3)菌株の作製
先行文献で報告されたMDHを過発現させその効果を調べるためにそれぞれの過発現ベクターを作製した。まず、EcMDH過発現ベクターpMS3-ecmdhを得るために、E.coliのゲノムを鋳型とし、配列番号46と47のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-msmdhベクターを完成した。ZrMDH過発現ベクターpMS3-zrmdhを得るために、Zrmdh遺伝子断片を鋳型とし、配列番号48と49のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-cgmdhベクターを完成した。ScMDH2過発現ベクターpMS3-scmdh2を得るために、ScMDH2遺伝子断片を鋳型とし、配列番号50と51のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-scmdh2ベクターを完成した。ScMDH3過発現ベクターpMS3-scmdh3を得るために、ScMDH3遺伝子断片を鋳型とし、配列番号52と53のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-scmdh3ベクターを完成した。
【0062】
配列番号46:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGATGAAAGTCGCAGTCCTC
配列番号47:5’-TCTAGAGGATCCCCGGGTACTTACTTATTAACGAACTCTTCGC
配列番号48:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGATGAAAGTTGCAATAGTCG
配列番号49:5’-TCTAGAGGATCCCCGGGTACCTACAATTTAGCACCGAG
配列番号50:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGATGCCTCACTCAGTTACAC
配列番号51:5’-TCTAGAGGATCCCCGGGTACTTAAGATGATGCAGATCTCG
配列番号52:5’-TATCAACTCTACTGGGGAGGATGGTCAAAGTCGCAATTC
配列番号53:5’-TCTAGAGGATCCCCGGGTACTCATAGCTTGGAAGAGTC
【0063】
上記のように作製されたpMS3-ecmdh、pMS3-zrmdh、pMS3-scmdh2、pMS3-scmdh3をM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)に導入することによって最終的にそれぞれPALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)、PALK(pMS3-scmdh3)菌株を完成した。上記のように過発現ベクターを導入するために、実施例5と類似に、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)をBHI固体培地に塗抹し、36時間39℃で培養した後、コロニーをBHI液体培地10mLに接種して12時間培養した。十分に育った細胞培養液を再びBHI液体培地100mLに1mL接種し、39℃静置培養器で培養した。約4~5時間後に、細胞成長がOD600基準に0.3~0.5程度になった時、前記細菌培養液を0~4℃で20分間置いて細胞成長がそれ以上進まないように防ぎ、これを4℃、4,500rpmで15分間遠心分離して細胞を得た。その後、4℃の10%グリセロール溶液200mLでセルを再懸濁した後、再び上記と同じ条件で遠心分離し、このような再懸濁と遠心分離を10%グリセロール溶液を半分に減らしながら総3回行った。最終に得られたセルは、同一体積の10%グリセロール溶液で再懸濁し分注して-80℃に保管した。前記得られた細胞濃縮懸濁液と本実施例で作製した過発現ベクター4種をそれぞれ混合し、2.5kV、25μF、200Ωの条件で電気穿孔を行って前記ベクターでM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)の形質転換を試みた。このように電気穿孔されたセルはBHI液体培地を加え、39℃静置培養器で1時間回復培養した後、培養液を全て、抗生剤アンピシリン2.5μg/mLを含有するBHI固体培地に塗抹し、39℃静置培養器で48時間以上培養した。前記培地で形成された変異菌株を、抗生剤が含まれているBHI液体培地で培養し、ベクターミニプレップを用いて得たベクターを電気泳動することによって過発現ベクターの導入を確認した。
【0064】
[実施例7]
E.coli及びC.glutamicum用CgMDH過発現ベクター(p100pro99A-cgmdh、pEKEx1-cgmdh)の作製及びE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)、C.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株の作製
CgMDHの過発現効果を代表的なコハク酸生産菌株であるE.coliとC.glutamicumで調べるために、各菌株用CgMDH過発現ベクターを作製した。まず、E.coli用過発現ベクターp100pro99A-cgmdhを得るために、C.glutamicumのゲノムを鋳型とし、配列番号54と55のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をp100pro99A(Bang et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.115(40):E9271-E9279.,2018)のEcoRIとPstI部位にクローニングしてp100pro99A-cgmdhベクターを完成した。C.glutamicum用過発現ベクターpEKEx1-cgmdhを得るために、C.glutamicumのゲノムを鋳型とし、配列番号56と57のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpEKEx1(Cho et al.,Metab.Eng.42:157-167.,2017)のEcoRIとPstI部位にクローニングしてpEKEx1-cgmdhベクターを完成した。
【0065】
配列番号54:5’-TCCTAGGTACAGTGCTAGCGATGAATTCCCCGCAGAAC
配列番号55:5’-GCCAAGCTTGCATGCCTGCATTAGAGCAAGTCGCGCAC
配列番号56:5’-CAATTTCACACAGGAAACAGATGAATTCCCCGCAGAAC
配列番号57:5’-AACAGCCAAGCTTGGCTGCATTAGAGCAAGTCGCGCAC
【0066】
上記のように作製されたp100pro99A-cgmdh、pEKEx1-cgmdhベクターをそれぞれE.coli W3110と野生型C.glutamicumに導入することによって、最終的にそれぞれE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)、C.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株を完成した。上記のように過発現ベクターを導入するために、E.coli W3110をLB固体培地に塗抹し、24時間37℃で培養した後、コロニーをLB液体培地10mLに接種して12時間培養した。十分に育った細胞培養液を再びLB液体培地100mLに1mL接種し、37℃培養器で培養した。約4~5時間後、細胞成長がOD600基準に0.3~0.5程度になった時、前記細菌培養液を0~4℃に20分間置いて細胞成長がそれ以上進まないように防ぎ、これを4℃、4,500rpmで15分間遠心分離して細胞を得た。その後、4℃の10%グリセロール溶液200mLでセルを再懸濁した後、再び上記と同じ条件で遠心分離し、このような再懸濁と遠心分離を10%グリセロール溶液を半分に減らしながら総3回行った。最終に得られたセルは、同一体積の10%グリセロール溶液で再懸濁し分注して-80℃に保管した。前記得られた細胞濃縮懸濁液と本実施例で作製した過発現ベクターp100pro99A-cgmdhを混合し、1.8kV、25μF、200Ωの条件で電気穿孔を行って前記ベクターでE.coli W3110の形質転換を試みた。このように電気穿孔されたセルはLB液体培地を加え、37℃培養器で1時間回復培養した後、培養液を全て、抗生剤アンピシリン25μg/mLを含有するLB固体培地に塗抹し、37℃培養器で24時間以上培養した。前記培地で形成された変異菌株を、抗生剤が含まれているLB液体培地で培養し、ベクターミニプレップを用いて得たベクターを電気泳動することによって過発現ベクターの導入を確認した。類似の方法でC.glutamicumをBHIS(リットル当たり37g BHI、D-ソルビトール91g)固体培地に塗抹し、24時間30℃で培養した後、コロニーをBHIS液体培地10mLに接種して18時間培養した。十分に育った細胞培養液を再びBHIS液体培地100mLに1mL接種し、30℃培養器で培養した。約4~5時間後、細胞成長がOD600基準に0.3~0.5程度になった時、前述したE.coli W3110の場合と同一に細胞濃縮懸濁液を作製して-80℃に保管した。前記得られた細胞濃縮懸濁液と本実施例で作製した過発現ベクターpEKEx1-cgmdhを混合し、1.8kV、25μF、200Ωの条件で電気穿孔を行って前記ベクターでC.glutamicumの形質転換を試みた。このように電気穿孔されたセルはBHIS液体培地を加え、30℃培養器で2時間回復培養した後、培養液を全て、抗生剤カナマイシン25μg/mLを含有するBHIS固体培地に塗抹し、30℃培養器で24時間以上培養した。前記培地で形成された変異菌株を、抗生剤が含まれているBHIS液体培地で培養し、ベクターミニプレップを用いて得たベクターを電気泳動することによって過発現ベクターの導入を確認した。
【0067】
[実施例8]
CgMDH、MsMDHG11Q置換ベクター(pINcgMDH、pINmsMDHG11Q)の作製及びPALKcgmdh、PALKmsmdhG11Q菌株の作製
コハク酸生産菌株に自然的に存在するMDHがPALK(pMS3-cgmdh)菌株とPALK(pMS3-msmdh)菌株のコハク酸生産向上にいかなる影響を与えたかを確認するために、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株ゲノム上に存在するMDHを暗号化する遺伝子を欠失させ、その座にCgMDHとMsMDHG11Qを暗号化する遺伝子を入れるCgMDH、MsMDHG11Q置換ベクターpINcgMDHとpINmsMDHG11Qを作製した。pINcgMDH作製のために、sacB遺伝子を含むpSacHR06をXhoIとSacIで切断した。その後、ゲノム上に存在するMDH暗号化遺伝子の前、後の配列を、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株のゲノムを鋳型とし、配列番号31と32、配列番号38と39のプライマーを用いてそれぞれPCRを行った。lox66-cat-lox77カセットはクロラムフェニコール抵抗性遺伝子を含むベクターを鋳型とし、配列番号36と37のプライマーを用いてPCRを行って得た。CgMDH遺伝子は、実施例5で作製したpMS3-cgmdhベクターを鋳型とし、配列番号33と35番のプライマーを用いてPCRを行って得た。このように得た線形pSacHR06、MDH暗号化遺伝子の前、後配列の各1kb、lox66-cat-lox77カセット、CgMDH遺伝子断片をギブソンアセンブリー(Gibson assembly)(Gibson et al.,Nat.Methods.,6(5):343.,2009)を用いて合わせ、pINcgMDHが得られた。pINmsMDHG11Qに必要なMsMDHG11Q遺伝子断片は、pMS3-msmdhG11Qを鋳型とし、配列番号33と34のプライマーを用いてPCRを行って得た。このように得た線形pSacHR06、MDH暗号化遺伝子の前、後配列の各1kb、lox66-cat-lox77カセット、MsMDHG11Q遺伝子断片をGibson assemblyを用いて合わせ、pINmsMDHG11Qを得た。上記のように作製されたpINcgMDH、pINmsMDHG11QをM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)に導入することによって、最終的にそれぞれPALKcgmdh、PALKmsmdhG11Q菌株を作製した。
【0068】
配列番号31:5’-TTCAACGGGAAACGTCTTGCTCGAGCCTTATGTGGACCGAGAAGA
配列番号32:5’-GGCATTAGCCAACAGAATAGCTGACCGAAAAAGTGGCGGA
配列番号33:5’-CTATTCTGTTGGCTAATGCC
配列番号34:5’-TGTAGCCGCGTTCTAACGACTACGAATAATACCCGCAT
配列番号35:5’-TGTAGCCGCGTTCTAACGTCGACTCTAGAGGATCCCCG
配列番号36:5’-CGTTAGAACGCGGCTACA
配列番号37:5’-ATAGGGAGACCGGCAGATC
配列番号38:5’-GATCTGCCGGTCTCCCTATTTAAGACTCCTTAATGTGGA
配列番号39:5’-GCCGCCACCGCGGTGGAGCTCGCGTTAGTTGTTGAGTTAAT
【0069】
すなわち、実施例5と類似にM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)をBHI固体培地に塗抹し、3時間39℃で培養した後、コロニーをBHI液体培地10mLに接種して1時間培養した。十分に育った細胞培養液を再びBHI液体培地100mLに1mL接種し、39℃静置培養器で培養した。4~5時間後、細胞成長がOD600基準に0.3~0.5程度になった時、前記細菌培養液を0~4℃に2分間置いて細胞成長がそれ以上進まないように防ぎ、これを4℃、4,500rpmで15分間遠心分離して細胞を得た。その後、4℃の10%グリセロール溶液200mLでセルを再懸濁した後、再び上記と同じ条件で遠心分離し、このような再懸濁と遠心分離を10%グリセロール溶液を半分に減らしながら総3回行った。最終に得られたセルは、同一体積の10%グリセロール溶液で再懸濁し分注して-80℃に保管した。
【0070】
前記得られた細胞濃縮懸濁液と本実施例で作製した遺伝子除去ベクターpINcgMDH、pINmsMDHG11Qをそれぞれ混合し、2.5kV、25μF、200Ωの条件で電気穿孔を行って前記ベクターでM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)の形質転換を試みた。このように電気穿孔されたセルはBHI液体培地を加え、39℃静置培養器で1時間回復培養した後、培養液を全て、抗生剤クロラムフェニコール6.8μg/mLを含有するBHI固体培地に塗抹し、39℃静置培養器で48時間以上培養した。二重交差(double crossover)が起きたコロニーを選別するために、形成されたコロニーをクロラムフェニコール(6.8μg/mL)と100g/Lのスクロースを含有しているBHI固体培地に塗抹し、24時間培養した後、形成されたコロニーを同一の固体培地に再び塗抹した。
【0071】
前記培地で形成された変異菌株を、抗生剤が含まれているBHI液体培地で培養し、培養菌株のゲノムDNAを分析した。前記分離された変異菌株のゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行った後、得られたPCR産物を電気泳動することによって、ゲノムDNAのMDH遺伝子欠失、及びCgMDH或いはMsMDHG11Qの導入有無を確認した。
【0072】
[実施例9]
M.succiniciproducens PALK(pMS3-msmdh)、PALK(pMS3-cgmdh)、PALK(pMS3-cgmdhQ20G)、及びPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株を用いたコハク酸生産
前記実施例5で作製されたM.succiniciproducens PALK(pMS3-msmdh)、PALK(pMS3-cgmdh)、PALK(pMS3-cgmdhQ20G)及びPALK(pMS3-msmdhG11Q)菌株は、20mL MH5培地(リッター当たり、2.5g酵母抽出物、2.5gポリペプトン、1g NaCl、0.02g CaCl2・2H2O、0.2g MgCl2・6H2O、及び8.709g K2HPO4)に炭素源として別に滅菌処理されたグルコース又はグリセロールを10g/Lの濃度で接種し、嫌気条件で39℃で8時間培養した後、これを再び同一の培地270mLに移して培養した。発酵は、前記の培養液を2.5Lの合成培地(リッター当たり、1g NaCl、2g(NH4)2HPO4、0.02g CaCl2・2H2O、0.2g MgCl2・6H2O、8.709g K2HPO4、0.5gシステイン、0.5gメチオニン、0.5gアラニン、0.5gアスパラギン、0.5gアスパラギン酸、0.5gプロリン、0.5gセリン、0.005gニコチン酸、0.005gパントテン酸カルシウム、0.005gピリドキシン・HCl、0.005gチアミン、0.005gアスコルビン酸及び0.005gビオチン)を含有している微生物反応器(Bioflo 3000,New Brunswick Scientific Co.,NJ,USA)に接種して行い、発酵条件は18.2g/L(100mM)初期グルコース濃度、グリセロール使用時には4.6g/L(50mM)初期グリセロール濃度で、温度39℃、200rpm条件で0.2vvm(二酸化炭素体積/培養器内操業体積(working volume)/分)の速度で純粋二酸化炭素を供給しながら発酵させた。発酵中にpHは、1.57Mアンモニア水及び6.84M水酸化マグネシウム溶液を用いて6.5に調整し、抗生剤はカナマイシン25μg/mLとアンピシリン25μg/mLを添加した。高濃度のコハク酸生産のために、炭素源が完全に消耗した場合には、必要時に900g/Lのグルコース及びグリセロール溶液を半連続的に添加した。培養液中の細胞濃度は分光光度計を用いて測定し、あらかじめ測定した分光光度計の吸光度と乾燥細胞の重量検定線を用いて細胞濃度を計算した。発酵過程中に生物反応器から周期的にサンプルを採取し、採取された試料は13,000rpmで10分間遠心分離した後、上澄液の各種代謝産物及びコハク酸濃度、グルコースとグリセロール濃度を液体クロマトグラフィーで分析した。
【0073】
その結果、
図11及び表1に示すように、炭素源としてグルコースだけを使用した場合、PALK(pMS3-msmdh)菌株は79.07g/Lのコハク酸をそれぞれ1.23mol/molグルコースと3.26g/L/hの収率及び生産性で生産した。PALK(pMS3-cgmdh)菌株は、87.23g/Lのコハク酸をそれぞれ1.29mol/molグルコースと3.6g/L/hの収率及び生産性で生産し、PALK(pMS3-cgmdh
Q20G)菌株は、79.39g/Lのコハク酸をそれぞれ1.00mol/molグルコースと3.27g/L/hの収率及び生産性で生産した。最後に、PALK(pMS3-msmdh
G11Q)菌株の流加式発酵の結果、84.19g/Lのコハク酸をそれぞれ1.08mol/molグルコースと3.48g/L/hの収率及び生産性で生産した。結果的に、PALK(pMS3-cgmdh)菌株が最も優れたコハク酸生産能を示し、また、タンパク質構造分析を用いた改良タンパク質過発現菌株であるPALK(pMS3-msmdh
G11Q)菌株も、既存のM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株に比べて向上したコハク酸生産能を示す。
【0074】
[実施例10]
M.succiniciproducens PALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)、及びPALK(pMS3-scmdh3)菌株を用いたコハク酸生産
前記実施例6で作製されたM.succiniciproducens PALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)及びPALK(pMS3-scmdh3)菌株は、実施例9と同様に、20mL MH5培地に炭素源として別に滅菌処理されたグルコースを10g/Lの濃度で接種し、嫌気条件で39℃で8時間培養した後、これを再び同一の培地270mLに移して培養した。発酵は、上記の培養液を実施例9におけると同じ2.5Lの合成培地を含有している微生物反応器に接種して行い、発酵条件は18.2g/L(100mM)初期グルコース濃度で、温度39℃、200rpm条件で0.2vvmの速度で純粋二酸化炭素を供給しながら発酵させた。発酵中にpHは、1.57Mアンモニア水及び6.84M水酸化マグネシウム溶液を用いて6.5に調整し、抗生剤は、カナマイシン25μg/mLとアンピシリン25μg/mLを添加した。高濃度のコハク酸生産のために、炭素源が完全に消耗した場合には、必要時に900g/Lのグルコース溶液を半連続的に添加した。培養液中の細胞濃度は分光光度計を用いて測定し、あらかじめ測定した分光光度計の吸光度と乾燥細胞の重量検定線を用いて細胞濃度を計算した。発酵過程中に生物反応器から周期的にサンプルを採取し、採取された試料は13,000rpmで10分間遠心分離した後、上澄液の各種代謝産物及びコハク酸濃度、グルコースとグリセロール濃度を液体クロマトグラフィーで分析した。
【0075】
その結果、
図12及び表1に示すように、PALK(pMS3-ecmdh)菌株は、79.05g/Lのコハク酸をそれぞれ1.29mol/molグルコースと3.27g/L/hの収率及び生産性で生産した。PALK(pMS3-zrmdh)菌株は、76.11g/Lのコハク酸をそれぞれ1.25mol/molグルコースと3.15g/L/hの収率及び生産性で生産し、PALK(pMS3-scmdh2)菌株は、77.34g/Lのコハク酸をそれぞれ1.16mol/molグルコースと3.19g/L/hの収率及び生産性で生産した。最後に、PALK(pMS3-scmdh3)菌株の流加式発酵の結果、75.15g/Lのコハク酸をそれぞれ1.13mol/molグルコースと3.1g/L/hの収率及び生産性で生産した。このような結果は、実施例9で示したように、MDHが過発現していない既存のM.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株に比べては向上したコハク酸生産能を示すが、CgMDHが過発現したPALK(pMS3-cgmdh)菌株に比べては低い数値であり、即ち、文献に報告されたMDHに比べてCgMDHがコハク酸生産に最も主要な役割を担うということを傍証する。
【0076】
[実施例11]
E.coli W3110、C.glutamicum及びそれぞれの菌株にCgMDHが過発現したE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)、C.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株を用いたコハク酸生産
上記の記実施例7で作製されたE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)菌株とE.coli W3110菌株は、10mL LB培地に炭素源として別に滅菌処理されたグルコースを3g/Lの濃度で接種し、37℃で16時間培養した後、これを再び同一の培地100mLに移して培養した。初期細胞濃度は、OD600基準0.2~0.25で接種し、フラスコの上の部分に二酸化炭素を十分に充填して嫌気条件37℃で16時間培養した。抗生剤は、アンピシリン25μg/mLを添加した。その結果、表2のように、CgMDHが過発現したE.coli W3110(p100pro99A-cgmdh)菌株は、既存E.coli W3110菌株が0.14g/Lのコハク酸生産を示したのに比べて格段に向上した0.431g/Lのコハク酸生産を示した。
【0077】
前記作製されたC.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株と野生型C.glutamicum菌株は、10mL BHIS液体培地に接種して30℃で18時間培養した後、これを再び同一の培地100mLに移して培養した。初期細胞濃度はOD600基準0.2~0.25で接種し、細胞成長のために、初期6時間の間に好気環境で培養した後、フラスコの上の部分に二酸化炭素を十分に充填して嫌気条件30℃で10時間培養した。抗生剤は、カナマイシン25μg/mLを添加した。嫌気環境に転換すると同時に、イソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシド(isopropyl-β-d-thiogalactopyranoside)を最終濃度が0.5mMになるように添加してインダクションした。その結果、表2のように、CgMDHが過発現したC.glutamicum(pEKEx1-cgmdh)菌株は、既存C.glutamicum菌株が0.08g/Lのコハク酸生産を示したのに比べて格段に向上した0.69g/Lのコハク酸生産を示した。このような結果から、CgMDHが一般のコハク酸生産菌株に過発現した時にもコハク酸生産能向上に肯定的な効果を与えることができたということが分かる。
【0078】
[実施例12]
M.succiniciproducens PALKcgmdh、PALKmsmdhG11Q菌株を用いたコハク酸生産
上記の実施例8で作製されたM.succiniciproducens PALKcgmdh、PALKmsmdhG11Qを、20mL MH5培地に炭素源として別に滅菌処理されたグルコース又はグリセロールを10g/Lの濃度で接種し、嫌気条件で39℃で8時間培養した後、これを再び同一の培地270mLに移して培養した。発酵は、上記の培養液を実施例9と同様に、2.5Lの合成培地を含有している微生物反応器に接種して行い、発酵条件は18.2g/L(100mM)初期グルコース濃度、グリセロール使用時には4.6g/L(50mM)初期グリセロール濃度で、温度39℃、200rpm条件で0.2vvmの速度で純粋二酸化炭素を供給しながら発酵させた。発酵中にpHは、1.57Mアンモニア水及び6.84M水酸化マグネシウム溶液を用いて6.5に調整し、抗生剤は、カナマイシン25μg/mLとクロラムフェニコール6.8μg/mLを添加した。高濃度のコハク酸生産のために、炭素源が完全に消耗した場合には、必要時に900g/Lのグルコース及びグリセロール溶液を半連続的に添加した。培養液中の細胞濃度は分光光度計を用いて測定し、あらかじめ測定した分光光度計の吸光度と乾燥細胞の重量検定線を用いて細胞濃度を計算した。発酵過程中に生物反応器から周期的にサンプルを採取し、採取された試料は13,000rpmで10分間遠心分離した後、上澄液の各種代謝産物及びコハク酸濃度、グルコースとグリセロール濃度を液体クロマトグラフィーで分析した。
【0079】
その結果、
図13及び表1に示すように、炭素源としてグルコースだけを使用した場合、PALKcgmdh菌株は、89.6g/Lのコハク酸をそれぞれ1.28mol/molグルコースと3.71g/L/hの収率及び生産性で生産し、PALKmsmdh
G11Q菌株は、82.76g/Lのコハク酸をそれぞれ1.13mol/molグルコースと3.42g/L/hの収率及び生産性で生産した。
【0080】
炭素源としてグルコースとグリセロールを同時に使用した場合、PALKcgmdh菌株は、101.18g/Lのコハク酸をそれぞれ1.37mol/molグルコースと4.18g/L/hの収率及び生産性で生産し、PALKmsmdhG11Q菌株は、92.5g/Lのコハク酸をそれぞれ1.28mol/molグルコースと3.82g/L/hの収率及び生産性で生産した。
【0081】
[実施例13]
M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株とPALKcgmdh菌株を用いたコハク酸生産性向上
本実施例ではM.succiniciproducens PALKcgmdh菌株を用いたコハク酸生産性向上方法を確認した。
【0082】
図13の(C)から分かるように、PALKcgmdh菌株は接種して11~13時間が経過した後に最大生産性に到達しており、この時の細胞濃度が最大に増加したことが分かる。したがって、生産性を最大化させるために、現在レベルよりも細胞濃度をさらに高めたとき、生産性の変化がどのようになるかを調べてみた。
【0083】
実施例9と同じ培養条件でPALKcgmdh菌株の初期細胞濃度をOD
600=19.3(8.7gDCW/L)レベルに上げたとき、コハク酸生産性はどのように変化するかを調べるために、実施例9におけると同様に、2.5Lの合成培地を含有している微生物反応器に接種して行い、接種時発酵条件は、18.2g/L(100mM)初期グルコース濃度、グリセロール使用時には4.6g/L(50mM)初期グリセロール濃度で、温度39℃、200rpm条件で0.2vvmの速度で純粋二酸化炭素を供給しながら発酵させた。発酵中にpHは、1.57Mアンモニア水及び6.84M水酸化マグネシウム溶液を用いて6.5に調整し、抗生剤は、カナマイシン25μg/mLとクロラムフェニコール6.8μg/mLを添加した。高濃度のコハク酸生産のために、炭素源が完全に消耗した場合には、必要時に900g/Lのグルコース及びグリセロール溶液を半連続的に添加した。PALKcgmdhを11時間発酵させて細胞濃度が最高点にほとんど達すると培養を終了し、培養液を4℃で6,000rpmで10分間遠心分離することによって細胞ペレットを得た。細胞ペレットを同一の合成培地200mLに再懸濁し、高濃度の接種源(inoclulum)が得られた。これを接種し、初期グルコース及びグリセロールの濃度を2倍にする以外は、実施例9の条件と同一にして培養した結果、
図14及び表1に示すように、コハク酸生産性が10.32g/L/h、及び最高生産性は15.72g/L/hと、本来の発酵条件に比べて2倍以上増加したことが分かった。
【0084】
このような生産性向上が菌株改良の効果であることを再確認するために、M.succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)菌株も同一の方法で初期細胞濃度をOD600=21.1(9.52g DCW/L)レベルに上げたとき、コハク酸生産性が8.93g/L/h、及び最高生産性は12.4g/L/hと確認された。このことから、高濃度の細胞を接種した発酵方法が生産性を飛躍的に増加させるが、M.succiniciproducens PALKcgmdh菌株がより優れたコハク酸生産性及び生産量を示すことが分かった。
【0085】
【0086】
【0087】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者とって、このような具体的記述は単に好ましい実施例であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるものでない点は明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るコハク酸生成変異微生物は、主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であるリンゴ酸脱水素酵素が発現してオキサロ酢酸からリンゴ酸への転換活性が顕著に増加するため、制限培地下で微生物を培養時に、現在まで報告された最も高いコハク酸生産性で高濃度のコハク酸を生産することができる。なお、深化した発酵技術を用いてより優れた生産性及び生産濃度でコハク酸を生産することができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-06-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸生成能を有する微生物にリンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が導入されている変異微生物であって、前記リンゴ酸脱水素酵素は、
リンゴ酸脱水素酵素の主鎖のアミド官能基を通じてNADHのピロリン酸部分と相互作用するアミノ酸残基がグルタミン(Gln)であることを特徴とする、変異微生物。
【請求項2】
前記リンゴ酸脱水素酵素は、i)配列番号40のアミノ酸配列で表されるコリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素;又はii)配列番号42のアミノ酸配列で表されるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素において11番目アミノ酸がグルタミンに置換されたリンゴ酸脱水素酵素であることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項3】
i)前記コリネバクテリウム・グルタミカム由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号41の塩基配列で表され、ii)前記マンヘミア・サクシニシプロデュセンス由来リンゴ酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、配列番号43の塩基配列で表されることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項4】
前記コハク酸生成能を有する微生物は、マンヘミア属(Mannheimia sp.)、アクチノバチルス属(Actinobacillus sp.)、アネロビオスピリルム属(Anaerobiospirillum sp.)、大腸菌(E.coli)、及びコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項5】
前記コハク酸生成能を有する微生物は、Mannheimia succiniciproducens PALK(KCTC10973BP)であることを特徴とする、請求項4に記載の変異微生物。
【請求項6】
次の段階を含むコハク酸の製造方法:
(a)請求項1~5のいずれか一項に記載の変異微生物を培養してコハク酸を生成させる段階;及び
(b)前記生成されたコハク酸を回収する段階。
【請求項7】
前記培養は、i)グルコース;ii)スクロース;iii)グリセロール;iv)グルコース及びグリセロール;又はv)スクロース及びグリセロールを炭素源として用いることを特徴とする、請求項6に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項8】
前記培養は嫌気的条件で行われることを特徴とする、請求項6に記載のコハク酸の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
[実施例6]
EcMDH、ZrMDH、ScMDH2、ScMDH3過発現ベクター(pMS3-ecmdh、pMS3-zrmdh、pMS3-scmdh2、pMS3-scmdh3)の作製及びPALK(pMS3-ecmdh)、PALK(pMS3-zrmdh)、PALK(pMS3-scmdh2)、PALK(pMS3-scmdh3)菌株の作製
先行文献で報告されたMDHを過発現させその効果を調べるためにそれぞれの過発現ベクターを作製した。まず、EcMDH過発現ベクターpMS3-ecmdhを得るために、E.coliのゲノムを鋳型とし、配列番号46と47のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-ecmdhベクターを完成した。ZrMDH過発現ベクターpMS3-zrmdhを得るために、Zrmdh遺伝子断片を鋳型とし、配列番号48と49のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-zrmdhベクターを完成した。ScMDH2過発現ベクターpMS3-scmdh2を得るために、ScMDH2遺伝子断片を鋳型とし、配列番号50と51のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-scmdh2ベクターを完成した。ScMDH3過発現ベクターpMS3-scmdh3を得るために、ScMDH3遺伝子断片を鋳型とし、配列番号52と53のプライマーを用いてPCRを行った。このように得られたPCR産物をpMS3にEcoRIとKpnI部位にクローニングし、pMS3-scmdh3ベクターを完成した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】