(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-27
(54)【発明の名称】抗菌材料
(51)【国際特許分類】
A61F 13/00 20060101AFI20220120BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20220120BHJP
A61L 15/18 20060101ALI20220120BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20220120BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20220120BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220120BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20220120BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61F13/00 305
A61L15/44 100
A61L15/18 100
A61L15/32 100
A61F13/00 T
A61F13/15 142
A61F13/15 300
A01N59/16 Z
A01N59/20
A01P1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532908
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(85)【翻訳文提出日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 GB2019053433
(87)【国際公開番号】W WO2020115485
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521248420
【氏名又は名称】コッパー クロージング リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドネリー,ロリー
【テーマコード(参考)】
3B200
4C081
4H011
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BB24
3B200CA01
3B200CA17
3B200EA00
4C081AA02
4C081AA12
4C081BB06
4C081CA021
4C081CA211
4C081CD112
4C081CD121
4C081CE01
4C081DA12
4C081DB03
4C081EA02
4H011AA02
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA04
4H011DA08
4H011DA10
(57)【要約】
本発明は、基材及び金属成分を含む抗菌材料であって、金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料に関する。本発明はまた、本明細書に記載する抗菌材料の製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び金属成分を含む抗菌材料であって、前記金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料。
【請求項2】
前記銅及び亜鉛は合金を形成している、請求項1に記載の抗菌材料。
【請求項3】
前記金属成分は、ジルコニウム、銀、金、パラジウム、白金、イリジウム、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ヨウ素及び/又はこれらの合金からなる群から選択される任意の金属を更に含む、請求項1又は2に記載の抗菌材料。
【請求項4】
前記金属成分は、ジルコニウム、銅、亜鉛、銀、金、パラジウム、白金、イリジウム、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン及び/又はヨウ素の何れかの1種又は複数種の塩を更に含む、請求項1、2又は3に記載の抗菌材料。
【請求項5】
前記金属成分は、3~50μm、好ましくは、15~30μmの粒子を含む、請求項1~4の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項6】
前記金属成分は、銅を少なくとも60%含む、請求項1~5の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項7】
前記金属成分は、銅を75~80%含む、請求項1~6の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項8】
前記金属成分は、亜鉛を20~25%含む、請求項1~7の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項9】
前記金属成分は前記基材全体に散在しており、及び/又は前記金属成分は前記基材の面上に被覆層を形成している、請求項1~8の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項10】
前記被覆層は抗菌性を有し、使用時は、前記面が、汚染されている可能性のある面と接するように配置される、請求項9に記載の抗菌材料。
【請求項11】
前記基材は、ポリマーをベースとする基材を含み、好ましくは、前記ポリマーは、ポリウレタン、ポリプロピレン及び/又はコラーゲンであり、より好ましくは、前記ポリマーは、ヒドロゲル又はヒドロコロイド中に含まれる、請求項1~10の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項12】
前記基材は発泡体である、請求項1~11の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項13】
前記材料の重量の3~15%は前記金属成分からなる、請求項1~12の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項14】
前記材料は、キレート化合物、硫酸マグネシウム及び/又は銅ペプチドを更に含む、請求項1~13の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項15】
前記抗菌材料は通気性を有する、請求項1~14の何れか一項に記載の抗菌材料。
【請求項16】
請求項1~15の何れか一項に記載の抗菌材料を含む、好ましくは、創傷被覆材又は包
帯である、感染制御用製品。
【請求項17】
請求項1~15の何れか一項に記載の抗菌材料を含む、衣料品又は家庭用品。
【請求項18】
請求項1~15の何れか一項に記載の抗菌材料を含む、衛生用品、好ましくは、生理用ナプキン。
【請求項19】
基材及び金属成分を含む抗菌材料の製造方法であって、前記金属成分は、化学結合した銅及び亜鉛を含み、前記方法は:
a)銅及び亜鉛を混合することによって前記金属成分を生成する工程と;
b)前記金属成分を加熱することによって溶融状態にする工程と;
c)高速ガスを用いて前記溶融状態を乱す工程と;
d)前記乱された金属成分を基材と組み合わせる工程と;
を含む、方法。
【請求項20】
前記金属成分は、工程(b)の前に、機械的摩擦粉砕プロセスを用いてサイズを小さくされる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記金属成分は、工程(c)の結果として粉末形態になる、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記金属成分は、工程(b)で2000摂氏度に加熱される、請求項19、20又は21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項19~22の何れか一項に記載の方法により得られる、請求項1~18の何れか一項に記載の抗菌材料、感染制御用製品、衣料品、家庭用品又は衛生用品。
【請求項24】
創傷感染の治療方法であって、請求項1~15の何れか一項に記載の抗菌材料を前記創傷に適用することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー等の基材材料に混ぜ込まれるか又はその上に被覆された銅及び亜鉛を含む抗菌材料に関する。この材料は、創傷被覆材、衛生用品及び清掃用品を含む多くの異なる製品に混ぜ込むことができる。本発明はまた、本明細書に記載する抗菌材料の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
特定の金属が抗菌性を有することはかなり以前から知られている。この独自の特性は、農業及び医療(healthcare)を含む様々な産業において感染及び汚染を制御する試みに利用されている。
【0003】
医療現場でよく使用されている金属の1種が銀である。銀の抗菌作用は、生物学的に活性な銀イオンを利用するものであり、その結果として、病原体の細胞膜内の重要な酵素系が不可逆的に損傷し、細胞の死滅に至る。銀が抗菌剤として最も効果的に作用するのは、温度がより高く、水分が過剰に存在する条件下である。このような条件下では銀イオンの放出に必要なイオン交換が促進される。しかし、このような特定の条件が日々の医療現場で再現されることは稀であり、したがって、感染率の制御において銀の有効性は限られている。それとは異なり、銅は、幅広い環境条件下で驚くほど高い抗菌効果を示すことが分かっている。
【0004】
銅をベースとする材料は、創傷被覆材、衛生防護用品(sanitary protection product)、便座、衣服及び履物を含む幅広い製品に使用されている。これに加えて、銅をベースとする材料は、関節炎及び骨粗しょう症の治療を含む多くの医療現場で使用されている。
【0005】
銅は様々な形でその作用を発揮することが知られており、殺生物物質として作用し、創傷部位の微小循環を促進すると共に組織の炎症を抑える。更に、銅の抗菌性は銅本来の特徴であることが知られており、したがって、感染率を低下させるための費用対効果が高く且つ長期的な解決策となる。
【0006】
特に、抗菌材料を創傷被覆材に使用することへの関心が高まっている。創傷の種類は、擦過傷、切創、裂傷、刺創、剥脱創又は切断の6つに分類にすることができる。特に問題となるのは糖尿病性潰瘍や褥瘡等の慢性的な創傷の治療であり、皮膚の「バリア」機能が長期間に渡って失われ、感染症に罹る可能性が高くなる。
【0007】
創傷治療の効果が見られない場合、その結果は様々な形で現れる。そのようなものとして、入院率の上昇、長期間に亘る身体障害、労働人口の低下及び社会の経済的負担の増加が挙げられる。銅をベースとする材料は、前述のメカニズムにより創傷治癒率を高めることが分かっており、結果的に、様々な感染の解決を促す。また、銀をベースとする製品は、銅をベースとする製品よりもはるかに高い毒性を示すことが報告されている。例えば、銀を局所的に適用すると腎毒性を起こすことが示されている。一方、銅をベースとするこのような材料は、様々な銅合金及び銅塩など多岐にわたる。
【0008】
銅塩はその抗菌性のために創傷被覆材に使用されてきた。例えば、米国特許出願公開第2016/0220728号明細書には、表面が官能基化された低水溶性無機銅塩の粒子、又はこの種の銅塩が内部に注入された多孔性粒子を含む抗菌組成物、及びその創傷ケア用組成物における用途が記載されている。
【0009】
抗菌性は銅スズ合金にも付随する。欧州特許出願公開第2476766号明細書及び米国特許出願公開第2013/0323289号明細書にはいずれも、創傷被覆フィルム及び絆創膏として使用するのに適した、基材層及び基材層の上に配置された銅スズ合金層を備える抗微生物性原料が記載されている。しかし、この合金には、創傷被覆材として使用した場合に皮膚を変色させる等の多くの問題がある。
【0010】
銅塩は、2つの成分間の化学結合の種類という点で合金とは実質的に異なる。合金は金属結合を介して作られるが、一方、銅塩は塩基と酸のイオン結合を介して作られる。
【0011】
銅をベースとする材料は、純銅を単独で使用するのではなく、追加の成分を含むことが多い。純銅は柔らかく展性のある金属であることから、医療、農業、及びエンジニアリング産業における利用性が限られている。それとは異なり、銅の合金は、耐腐食性や高強度等の多くの望ましい特性を付与する。耐腐食性及び強度が向上し、費用対効果がより高く、長持ちする材料として、農業及びエンジニアリングにおいては幅広い用途があるが、そのような特性は医療用途における利点には繋がらない。銅は、異なる金属と組み合わせることによって異なる特性を発揮する。例えば、銅スズ合金は、銅亜鉛合金よりも脆い製品となる。
【0012】
局所及び全身の感染症の発生率を低下させ、治癒を促進するために、創傷被覆材及び衛生用品に使用することができる、改良された抗菌材料が当該技術分野において必要とされている。
【0013】
本明細書中で、明らかに先行公開されている内容が記載、議論されていたとしても、その文書が先行技術の一部又は一般常識であることを認めるものではない。
【発明の概要】
【0014】
第1の形態において、本発明は、基材及び金属成分を含む抗菌材料であって、金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料を提供する。
【0015】
第2の形態において、本発明は、基材及び金属成分を含み、金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料の製造方法であって、次に示す工程:
a)銅及び亜鉛を混合することによって前記金属成分を生成する工程と;
b)金属成分を加熱することによって溶融状態にする工程と;
c)高速ガスを用いて前記溶融状態を乱す工程と;
d)金属成分を基材と組み合わせる工程;
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す説明は当業者が本発明を製造及び使用することができるように提示するものである。開示した実施形態の様々な修正は当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0017】
第1の形態において、本発明は、基材及び金属成分を含む抗菌材料であって、金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料を提供する。
【0018】
「抗菌材料(antimicrobial material)」という用語は、抗菌性、例えば、殺生物性又は生物静止性(biostatic properties)を有する材料を指す。本発明に関連する「殺生物」という語は、病原性生物を、破壊する、抑止する(deter)、無害化する、又は抑制効果を発揮する物質を意味し、「生物静止」という語は、生物、例えば、微生物の成長又は増殖を阻止することができる物質を意
味すると理解される。本発明は、任意の微生物、例えば、任意の細菌、ウイルス及び/又は真菌に対して有用となることが想定されている。特に、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属及びクレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、並びにコロナウイルス(Coronaviridae)科の構成種が本記載材料に感受性を示すと考えられている。
【0019】
本発明は、驚くほど高い抗菌活性を有する材料を提供する。本発明の材料を混ぜ込んだ製品、例えば、創傷被覆材は、より速やかな創傷治癒を促進し、敗血症及び感染症の発生率を低下させる。本発明は、糖尿病性潰瘍やその他の治癒又は閉鎖が遅い創傷の治療を助けるための製品を提供するのに特に有用である。
【0020】
本発明者らによれば、「基材」とは、金属成分を混ぜ込むことができ、それにより、金属成分をその上又は内部に配置することができる物理的媒体を提供するのに適した任意の構造材料を意図している。好ましい実施形態において、基材は発泡体である。本発明者らによれば、「発泡体」は、基材材料から形成される構造体であって、基材材料の内側に気体が捕捉された穴(pocket)を有する構造体を意図している。発泡体は固体発泡体とすることができる。固体発泡体の主成分は、ポリマーをベースとする材料とすることができる。或いは、発泡体は液体発泡体とすることができる。
【0021】
ポリマーをベースとする材料の基材の主成分を構成することができる好適なポリマーの例としては、合成ポリマーであるポリウレタン及びポリプロピレン並びに天然のマトリックス高分子であるコラーゲンが挙げられる。基材は、好ましくは、ポリマーをベースとするヒドロゲル又はポリマーをベースとするヒドロコロイドとすることができる。ヒドロゲル又はヒドロコロイドに使用されるポリマーは、本開示による任意のポリマーとすることができる。「ポリマーをベースとするヒドロゲル」という語は、水で広範囲に膨潤する高分子の網目を指す。本発明に使用することができる後者の例としては、P-DERM(登録商標)ヒドロゲル及びNanorestore Gels(登録商標)が挙げられる。本発明者らによれば、「ヒドロコロイド」とは、水の存在下にゲルを形成する物質を意図している。
【0022】
本発明者らによれば、「化学結合した」とは、銅及び亜鉛の原子、イオン、及び分子の間にイオン結合、共有結合、又は金属結合が生じた結果として発生する任意の永続的な引力を意図している。したがってこれは、銅合金又は銅化合物を包含することができ、これらに限定されるものではないが、銅塩及び銅酸化物が含まれる。
【0023】
好ましくは、抗菌材料の金属成分は、銅亜鉛合金を含む。合金とは、2種の元素の混合物であって、そのうちの1種が金属であるものと理解される。この例において、銅亜鉛合金は、置換型合金と理解され、これは、2種の成分の原子が同一結晶構造内で互いに置き換わることができ、非局在化電子の海が生じるものである。
【0024】
当業者であれば、必要な合金を生成するためには、銅元素及び亜鉛元素を溶融状態で混ぜ合わせた後に、それらとは異なる新しい化学物質として凝固させることを認識するであろう。一実施形態において、追加の金属及びそれらの化合物、例えば、塩も、本発明の材料又は金属成分に混ぜ込むことができることが想定されている。そのような金属としては、これらに限定されるものではないが、ジルコニウム、銅、亜鉛、銀、金、パラジウム、白金、イリジウム、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ヨウ素が挙げられる。後者の化合物は、材料の抗菌性の更なる向上に寄与する、請求項に記載の材料の追加成分となり得ることが理解される。
【0025】
純度の高い金属や関連する化合物ではなく、合金を使用することで、純銅を使用した場
合よりも多くの利点が得られる。具体的には、銅亜鉛合金は、亜鉛の並外れた抗菌性、優れた展性/鋳造性及び高強度に由来する利点を有する。
【0026】
金属成分の粒子の寸法は10~80μmの間となることが期待され、好ましい粒子径は15~30μmの間の何れかの値である。微粉砕された粉末は粗い粉末よりも多くのイオンを放出し、その放出されたイオンが抗菌効果を担うことができる。
【0027】
金属成分は銅を少なくとも60%含むことが想定されている。この配合であれば向上した抗菌性が得られるであろう。好ましくは、金属成分は、銅を75~80%及び対応する量の亜鉛を20~25%含む。上に概説したように、金属成分は、更に他の元素、その化合物、及び塩も含むことができる。このような追加を行うことにより、特許請求される材料に有利な特性を付与することができる。例えば、追加の成分は、請求項の製品の抗菌作用を更に向上するか又は寿命を延ばすことができる。
【0028】
本発明の一実施形態において、金属成分は、基材全体に散在する(interspersed)ことができる。本発明者らによれば、「散在する」とは、金属成分が基材材料の粒子/分子の間に散乱している(scattered)ことを意図している。この種の構成は、代替的に、「浸透(impregnation)」と表すこともできる。金属成分は、基材材料全体に均一に又は不均一に分散させることができる。当業者であれば、散在、散乱、及び/又は浸透の程度は、基材材料の製造に使用されるポリマー及び/又は基材に金属成分を適用するために用いられるプロセスに応じて変化し得ることを理解するであろう。本発明の更なる実施形態において、金属成分は、基材面上の被覆層として存在することができる。被覆層が存在する場合、被覆は、その使用中、汚染されている可能性にある面/創傷と接触してその抗菌効果を発揮するように配置されることが期待される。被覆層は任意の厚みを有することができる。更に、被覆層は、基材の少なくとも1つの面に存在するが、基材の全ての面に存在してもよいことが理解される。被覆層は、基材の特定の面を部分的に被覆していても完全に被覆していてもよい。被覆層の被覆の程度は、請求項の製品における意図された使用に応じて変化するであろう。
【0029】
基材は、ポリマーをベースとする基材とすることができることが想定されている。ポリマーは、より小さなサブユニットの繰り返しから構成される大きな分子である。好ましくは、本発明に使用される基材は、ポリウレタン、ポリプロピレン、及び/又はコラーゲンをベースとするポリマーを含むことができる。基材としては、本開示に係るポリマーをベースとするヒドロゲル又はポリマーをベースとするヒドロコロイドを挙げることができる。本発明には、熱硬化性ポリウレタン及び熱可塑性ポリウレタンの両方が好適となり得る。しかしながら、金属成分を安定に維持するのに適した任意の材料を、本発明による基材として、単独で又は組み合わせて使用することができる。例えば、羊毛、綿、皮革、亜麻、ラミー、絹、ヘンプ、竹、ジュート、レーヨン、ネオプレン、エラスタン、ゴム、ポリエステルが、必要に応じて、基材として適切となり得る。幾つかの例において、基材は、異なる種類のポリマーの組合せとすることができることが理解される。この種の組合せは、所望の目的のために、又は製造及び保管を容易にするために、基材に追加の有利な特性を付与することができる。特に、基材の吸収性、可撓性、及び快適性を高めるために、アルギン酸塩又はセルロースを混ぜ込むことができることが想定されている。ポリマーをベースとするヒドロゲルは、親水性の官能基が存在することから、創傷被覆材に使用するのに特に有利であることを当業者は認識するであろう。この特徴により、特定の面の水分を制御することができる。
【0030】
好ましくは、製造後の基材は次に示す成分を含むことができる(乾燥させた最終製品の重量に基づき算出した%):
a)カルボキシメンチルセルロースナトリウム(carboxymenthylc
ellulose) 7%、
b)界面活性剤 3%、
c)グリセリン 18%、
d)クエン酸 3.5%、及び
e)選択されたポリマー 68.5%。
【0031】
好適な界面活性剤の例としては、ステアリン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、及びパーフルオロオクタンスルホン酸が挙げられる。好適な界面活性剤は、次に示す群の何れかに属するものとすることができる:アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤。構成要素であるクエン酸は、必要に応じて他の弱酸、例えば、酢酸、乳酸、及びリン酸に置き換えることができる。上の一覧のe)は、上述のポリマーの何れかに置き換えることができる。好ましくは、選択されたポリマーは単独で使用されるが、最終抗菌剤の効果がより高くなることが考えられ、且つ基材組成の68.5%のままである場合は、異なるポリマーを併用することもできる。
【0032】
好ましくは、基材の3~15重量%は金属成分からなる。必要に応じて、抗菌性を向上させるために、更なる添加剤を材料に含有させることも想定されている。こうした添加剤としては、キレート剤、硫酸マグネシウム及び/又は銅ペプチドを挙げることができる。これらの添加剤は、基材の0.1~1重量%、例えば、約0.5重量%で混ぜ込むことができる。「キレート剤」という語は、1個の金属イオンと複数の結合を形成し、それによってより安定な錯体を形成することができる物質を表すために用いられる。当業者であれば、この種の物質が作用することによって抗菌性が向上し得ることを認識するであろう。
【0033】
本発明は、任意の汚染された面に接触したときに効果を発揮することができる。好ましい実施形態において、本発明は、ヒト又は動物の様々な解剖学的位置の皮膚表面に適用するのに適した創傷被覆材に組み込むことができる。この抗菌材料は、好ましくは、通気性を有する。「通気性を有する」とは、創傷面又は他の処置すべき面への空気の流れが維持されることを意図している。創傷被覆材への適用において、創傷を乾かすか又は少なくとも蒸れさせない能力は、治癒過程を更に促進すると考えられている。好ましくは、この材料には、通気を促すために、小孔が間隔を空けて全体に配されている。当業者であれば、この種の小孔をどのように配置するかは、材料のサイズ及び用途に応じて異なることを理解するであろう。
【0034】
本発明は、高水準の抗菌活性を提供し、したがって幅広い用途を有する。本発明は、本発明の抗菌材料を含む感染制御用製品を包含する。この種の製品は、医療現場において有用となり得、最も多くの場合、医療用素材として利用することができる。本発明者らによれば、「感染制御用製品」とは、感染の発生及び/又は拡散を治療、予防、又は軽減する任意の製品を意図している。この種の製品の例としては、創傷被覆材、包帯、医療器具、医薬品容器及び感染防護用個人防護服が挙げられる。
【0035】
本発明の1つの用途において、スラフを伴う(sloughy)創傷を治療することを目的として、ヒドロコロイド材料に金属成分を添加できることが想定されている。スラフを伴う創傷とは、壊死組織が創傷部位から分離しつつある創傷である。この種類の創傷は、上記創傷から液体が滲出することが知られており、したがって、ヒドロコロイド被覆材を使用することによってこの液体をゲル形態に変換することが特に有利となるであろう。
【0036】
本発明はまた、本開示の抗菌製品を含む衣料品(garment)又は家庭用品も提供する。本発明者らによれば、「家庭用品」とは、典型的には家庭内で使用される清掃用品及び/又は衣服(clothing)等の任意の製品を意図している。本発明者らによれ
ば、「衣料品」とは、身体の任意の解剖学的位置に着用することができる任意の品物を意図している。本発明を適用することができる衣料品の例としては、通常、着用者の皮膚と密接に接触することになる下着(靴下、肌着(vest)、ストッキング、ズボン下(pants)を含む)が挙げられる。他の衣料品、例えば、靴、襟巻、ズボン、手袋、帽子、エプロン、スポーツ用又は理学療法用の関節補助具(例えば、膝サポーター(knee
sleeve)、首サポーター、サポーター付ブリーフ(supportive brief)等)にも本発明の材料を混ぜ込んで提供することができる。更に、家庭用清掃用品、例えば、スポンジ、清拭用シート(wipe)(使い捨て又は再使用可能)、及びタオルも包含される。
【0037】
本発明はまた、本発明の抗菌材料を含む衛生用品、例えば、生理用ナプキンも提供する。本発明者らによれば、「衛生用品」とは、主として個人用であり、使用者の皮膚又は身体開口部と密接に接触する任意の製品を意図している。この種の製品に本発明の抗菌材料を適用することにより、何らかの特定の微生物の有害な蓄積を防止することが支援され、敗血症の可能性が低減されるであろう。本発明を混ぜ込むことができるこの種の衛生用品としては、例えば、カーテン、寝具、清掃用品、生理用ナプキン、タンポン及び関連する衛生用品、使い捨ておむつ、失禁用パンツ及びパッド、衣服、履物並びに上記製品を輸送するための手段が挙げられる。
【0038】
第2の形態において、本発明は、基材及び金属成分を含む抗菌材料であって、金属成分は化学結合した銅及び亜鉛を含む、抗菌材料の製造方法を提供する。この方法は、a)銅及び亜鉛を混合して前記金属成分を生成する工程と;b)金属成分を加熱することによって溶融状態にする工程と;c)前記溶融状態を高速ガスで乱す工程と;d)乱された金属成分を基材と組み合わせる工程と;を含む。
【0039】
したがって、本発明の金属成分を製造する一方法は、プラズマアトマイズ又はガスアトマイズ法を含むことができる。本発明の方法には金属の粉末形態を使用できることが想定されているが、他の形態も適切となり得ることは当業者に理解されるであろう。
【0040】
プラズマアトマイズ又はガスアトマイズ法により、金属成分が粉末化された形態で得られることが想定されており、これを必要に応じて基材と組み合わせることができることは当業者に理解されるであろう。
【0041】
好ましい実施形態においては、プラズマ又はガスアトマイズ法を開始する前に、任意選択的に、機械的摩擦粉砕(mechanical attrition)プロセスを用いて金属成分のサイズを小さくしておく。本発明者らによれば、「機械的摩擦粉砕」とは、その結果として金属成分がより細かい構成要素に徐々に分解されていく任意のプロセスを意図している。このプロセスは多くの摩擦粉砕装置を用いて達成することができる。これらに限定されるものではないが、アトリションミル、水平ミル、1次元振動ミル(1D vibratory mill)、3次元振動ミル(3D vibratory mill)、及び遊星ミルが挙げられる。上述の装置はいずれも、粉砕メディアの間で衝突する際に与えられるエネルギーによって試料が細かくなる。したがって、金属形態の銅や亜鉛は、本発明の方法で使用するために適切な形態にまで粉砕することができる。。
【0042】
銅及び亜鉛を混合した後、アトマイズ法を進行させることができる。銅及び亜鉛を混合する手段は、利用されるアトマイズ法に応じて異なり得ることが当業者に理解されるであろう。
【0043】
プラズマアトマイズ法には、供給原料としてワイヤ形態の金属成分を使用することが必要である。これは、当業者であれば理解できるように、典型的には、金属成分の合金のワ
イヤである。従来のガスアトマイズとは異なり、プラズマアトマイズは、1回の工程でワイヤを即時に溶融させて噴霧するためにプラズマトーチを使用する。次いで、形成された液滴を、冷却塔を使用して球状粉末に変換する。
【0044】
別法として、従来のガスアトマイズを使用することもできる。これは、銅亜鉛金属成分を約2000℃に加熱して上記成分を溶融状態にすることを含み得る。本発明者らによれば、「溶融状態」とは、上記金属成分が高温に曝露された場合の液体状態を意図している。当業者であれば理解できるように、膨張ノズルを介して高速気流を流すことにより、溶融した金属成分を原料投入室(input chamber)から吸い上げることができる。このプロセスに使用することができる気体の例としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、及び空気が挙げられる。このプロセスには1種を超える気体を使用することが可能であり、好ましい気体又は気体混合物は不活性/非反応性のものであることを当業者は認識するであろう。使用される気体の選択は、所望の最終的な乱された金属(粉末)の特徴に応じて異なるであろう。本発明の材料に使用するために適した金属成分を得るためには、高速の不活性ガスが必要となることもある。必要な速度は使用される気体に応じて異なることになるが、100~2000m/sの範囲内となる傾向にあることを当業者は認識するであろう。このプロセスにより液状の溶融金属の流れが乱され、結果として微細粒子が生成し、最終的に金属成分の所望の粉末形態が得られる。粉末形態を得るために上述の方法を用いると、球状に近い粒子が生成すること、酸素含有量が低いこと、並びに銅及び亜鉛の製造への適合性といった多くの利点が得られる。同様の効果を達成するために採用することができる代替的な金属粉末の製造方法が存在し得ることも当業者は認識するであろう。
【0045】
最終的な抗菌材料を製造するために、基材に金属成分が添加される。具体的には、金属粉末を少量ずつ加え、この生成物を全て基材に移行させる。得られた組成物を室温(20~22℃)下において350rpmで2時間混合した後、固化させる。
【0046】
ヒドロコロイド製品を作製する場合は、ヒドロコロイド材料を240℃に加熱してから、接着剤中の金属成分を添加することができる。この接着剤成分はゲル形態にあり、カルボキシメチルセルロースを80%及び接着剤を20%含むものとすることができる。ヒドロコロイド材料及び接着剤成分が、結果として得られる材料全体に確実に均一に分布するように、全体を(extensively)混ぜ合わせる。
【0047】
本発明はまた、創傷感染の治療方法であって、本発明の抗菌材料を創傷に適用することを含む方法も提供する。
【0048】
本発明をより明確に理解するために、その実施形態を、実施例を用いて以下に説明する。
【実施例】
【0049】
実施例1
2種の菌株:スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)及びクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)に対する抗菌材料の試験
各試験菌(test organism)を、0.85%NaCl中、約1×105コロニー形成単位(CFU)/mLとなるように調製した。各試料について、5つの複製物に各試験菌を接種した。接種時の菌数をトリプトンソイ寒天培地(Tryptone Soya Agar)(TSA)で混釈法を用いて測定した。接種した試料を24℃±1℃及び湿度95%以上で24時間保持した。曝露時間が経過した後、接種した試験片を無菌的に取り出して希釈液9mlに移した。これを、残存している試験菌が確実に充分に再懸
濁するように激しく振盪した。得られた懸濁液を、TSALT(0.3%大豆レシチン及び3%Tween 80を添加したTSA)との混釈平板とした。プレートを31℃±1℃で少なくとも5日間インキュベートした。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
「3%CuZn発泡体」及び「15%CuZn発泡体」試料においては、24時間の接触時間の間に、両方の菌株の菌数が4logを超えて減少したことが認められた。これは、どちらの試験菌に対しても有意な抗菌活性を示さなかった試料「0%CuZn発泡体」と比較してのことである。
【0054】
実施例2
真菌カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対する抗菌材料の試験
試験菌を、0.85%NaCl中、約1×106CFU/mLとなるように調製した。
各試料について、5つの複製した試験片に適切な量の試験菌を接種した(表2)。サブローデキストロース寒天(Sabouraud Dextrose Agar)(SDA)の混釈平板で接種時の接種菌数を測定した。次いで、接種後の試料を24℃±1℃、湿度95%以上のインキュベータに1、8又は24時間静置した。所要の曝露時間が経過した後、接種した試験片を無菌的に取り出して希釈剤9mLに移した。これを、残存している試験菌が確実に充分に再懸濁するように激しく振盪した。得られた懸濁液を、SDALT(0.3%大豆レシチン及び3%Tween 80を添加したSDA)との混釈平板とした。プレートを24℃±1℃で少なくとも5日間培養した。陰性対照として、試料に適量(表2)の無菌0.85%NaClを接種し、試験試料と一緒に培養及び分析した。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
「0%CuZn発泡体」試料の場合、24℃で1、8又は24時間接触させた後もカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数の有意な減少は見られなかった。「2%CuZn発泡体」試料の場合、1時間接触させた後にカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数が3logを超えて減少したことが
認められ、24℃で8時間又は24時間接触させた後にカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数が4logを超えて減少したことが認められた。「3%CuZn発泡体」試料の場合、1時間接触後はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数に有意な減少は見られず、24℃で8時間接触させた後はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数が3logを超えて減少したことが認められ、24℃で24時間接触させた後は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌数が5logを超えて減少したことが認められた。
【0060】
実施例3
ウシコロナウイルス(BCV)L9株に対する抗菌材料の試験
材料を準備するために1×1cmの小片を無菌条件下で切断し、折り畳んでからエッペンドルフカップに移した。試験ウイルス液を調製するために、U373細胞を培養した。ウイルスを産生させるために、調製した単層にBCV L9株を添加した。24~48時間インキュベートした後、細胞を急速な凍結融解サイクルに供して溶解した。細胞残屑を除去し、上清をそのまま試験用ウイルス懸濁液として使用した。感染価を、マイクロタイター法を用いるエンドポイント希釈測定(end point dilution titration)により決定した。処理した材料の殺ウイルス活性を、未処理材料の殺ウイルス活性と比較して力価の低下を算出することにより評価した。
【0061】
【0062】
60分間接触させた後の銅を滲み込ませた新規な緑/白色ナイロン布帛においては、1種の材料にのみ残存ウイルスを測定することができた。それとは対照的に、未処理の材料を検査すると、全ての材料でウイルスを検出することが可能であった。結果として次に示す平均値を得た:≦1.55±0.04(銅を滲み込ませた新規な緑/白色ナイロン布帛)及び2.98±0.12(基準)。60分間曝露した後の10倍希釈測定に基づき、両材料間に1.43log10(1.43 log10 steps)の差が見られた。
【国際調査報告】