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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】ファイバ形成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20220121BHJP
   G02B 6/032 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
G02B6/02 471
G02B6/032 Z
G02B6/02 366
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021510974
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(85)【翻訳文提出日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 AU2019050921
(87)【国際公開番号】W WO2020041838
(87)【国際公開日】2020-03-05
(31)【優先権主張番号】2018903222
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500026418
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ルウィン リチャード
(72)【発明者】
【氏名】フレミング サイモン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】カイスィル エムディー レジヴィ
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AA33
2H250AB32
2H250AB33
2H250AC66
2H250AC83
2H250AC93
2H250AC97
2H250AD33
2H250AD36
2H250AH38
(57)【要約】
低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法であって、下記を含む方法:
低ヤング率ファイバプリフォームをファイバ延伸装置の延伸ゾーンに供給すること、および
低ヤング率材料プリフォームのネックダウン領域を延伸ゾーン内のネックダウン位置に維持するのに十分に低い張力で低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸すること。
【請求項2】
前記低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸する工程が、50gm-f/mm2以下の正規化張力の下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法であって、下記を含む方法:
低ヤング率ファイバプリフォームをファイバ延伸装置の延伸ゾーンに供給すること、および
50gm-f/mm2以下の正規化張力の下で低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸すること。
【請求項4】
前記正規化張力が、40gm-f/mm2以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記正規化張力が、25gm-f/mm2以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記低ヤング率材料プリフォームのネックダウン領域を延伸ゾーン内のネックダウン位置に維持することを含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記低ヤング率材料が、室温で300MPa以下のヤング率を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記低ヤング率材料が、100MPa以下のヤング率を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記低ヤング率材料が、10MPa以下のヤング率を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記低ヤング率材料が、前記低ヤング率材料が粘性であるような延伸温度で延伸される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
延伸温度が、前記低ヤング率材料のガラス転移温度より高い、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記低ヤング率材料が、ポリマー、ゴム、シリコーン化合物、およびハイドロゲルからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記低ヤング率材料がポリマーであり、前記ポリマーが、ポリウレタン、ポリ(スチレン-b-(エチレン-co-ブチレン)-b-スチレン)、およびポリスチレン-ポリイソプレントリブロックコポリマーからなる群から選択される熱可塑性エラストマーである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ファイバを延伸する工程が、ファイバの設定点直径の±20%の範囲内の延伸誤差を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記延伸誤差が、前記ファイバの設定点直径の±10%の範囲内である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記低ヤング率ファイバプリフォームが中空コア構造を有し、前記低ヤング率材料を前記延伸ゾーンに供給する工程の前に、前記方法が最初に下記を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法:
前記中空コア構造に対応する構成で、低ヤング率材料の複数の中空管の近軸整列配置を形成すること、
前記低ヤング率材料のガラス転移温度より高い温度まで前記複数の管を加熱すること、および
十分な時間、その温度で前記複数の管を焼成して、前記複数の管を焼結しかつ前記低ヤング率ファイバプリフォームを形成すること。
【請求項17】
前記ファイバを延伸する工程が、前記ファイバを1mm未満のファイバ直径に延伸することを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法によって低ヤング率材料から形成されたファイバ。
【請求項19】
前記ファイバが光ファイバである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法または請求項18に記載のファイバ。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法によって低ヤング率材料から形成された光ファイバを含む光ファイバセンサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法、およびこの方法を用いて低ヤング率材料から形成されたファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンサ(OFS)は既存の技術であり、他の従来のセンサに比べて多くの固有の利点を提供し、そのような利点には、軽量であること、電磁干渉に耐性があること、高感度であること、高温動作であること、腐食に対して高耐性であること、および広帯域幅であることが含まれる。物理的には、光ファイバは通常、コアと円筒対称構造のクラッドから構成される。一般に、コアは、比較的低い屈折率を有するクラッドによって囲まれ、その結果、光波はコアとクラッドとの間の界面での全内部反射を介してコアを通ってガイドされる。しかしながら、中空コアを含む他の設計も使用されており、これらは、異なるガイド機構を採用し得る。このような違いはあるが、コアとクラッドのような大まかな構造上の特徴は変わらず、一般的には光を導くという機能がある。ファイバに対する外部効果は、振幅、位相、偏光、スペクトル分布、反射、および光学的角運動量のような導波光の特性を乱す可能性がある。その結果、光ファイバは電気的、磁気的、熱的、および機械的摂動(例えば、歪み、圧力、曲げ、ねじれ、および振動)を含む様々な外部刺激をセンシングするために使用される。現在のOFSは一般に、高ヤング率(YM)(例えば、>1GPa)を有する材料(例えば、ポリマーまたはガラス)から形成された光ファイバを含む。
【0003】
OFS技術は、これらの装置がセンシングと信号伝送の両方を可能にするので、着用可能で、埋め込み可能で、かつ人に優しい装置(human-friendly devices)における応用に対して特に魅力的である。しかしながら、OFSを形成するために高YM材料を使用することには多くの問題がある。
【0004】
1つの重要な問題は、着用可能で、埋め込み可能で、かつ人に優しい装置において、ある程度の柔軟性を示すOFSが必要とされることである。この点に関して、ガラスOFS、およびガラスを含有するポリマーOFSは、ガラスファイバ構造が硬いために、伸縮性用途(着用可能な衣類など)に関連する高い応力に耐えることができない。さらに、身体の動きは、OFS装置が着用されている間に、そのようなOFS装置の構造または機能を損傷し得る。場合によっては、破損が、ガラスファイバ断片の形成をもたらし、人体に害を与え得る。その結果、ガラスから形成された、またはガラスを含むOFS装置は、特定の用途には適していない。ポリマーの使用はある程度の柔軟性を有するOFSを提供し得るが、OFSにおいて現在使用されているポリマーの弾性限界は小さい(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は~10%の弾性限界を有する)。それらはまた、破損して破片を残す可能性は低いが、容易に損傷され、塑性変形は破損の場合と同様にそれらを動作不能にする可能性がある。
【0005】
別の重要な問題は、高YM材料から形成された装置の感度に関する。OFS装置は一般に、周囲環境の摂動に応じて、送信された光信号の変調を検出することによって動作する。意図した機械的環境での使用に適した感度を持ち、永久的な機械的変形のリスクを低減するために、高YM素材に対応する様々な検出機構と設計を慎重に選択する必要がある。これは、外部測定量に対する高YM材料から形成されたOFSの固有感度が非常に低いからである。したがって、高いYM材料は、全体的なセンシングシステムの最大応答を制限する。
【0006】
軟質ポリマーのような低ヤング率材料から形成された高度に伸縮性の光ファイバの実現は、このような用途にとって魅力的な選択肢である。このような光ファイバは、高感度で複数の変形モードの検出を可能にし、伸縮可能な用途に使用することができる。これにより、このファイバを衣服の生地に容易に組み込むことができ、人間の動きに合わせて曲げたりねじったりしても壊れないようになる。従って、低YM材料で作られたファイバセンサはOFS技術の既存の使用を改善し、OFS技術のための新しい機会を開くことができる。しかしながら、本発明者らの知る限り、現在のところ、低YMファイバを製造するためのスケーラブルで安価な方法は成功していない。
【0007】
高YMファイバを形成するための典型的なアプローチは、標準的なファイバ延伸プロセスを使用することである。高YM材料の通常の延伸条件では、ハードプリフォーム、ネックダウンおよびファイバの各領域で高張力をかけて維持し、かつネックダウン領域で粘性のある流れを搬送する。これは、ファイバ延伸を成功させるために必要である。しかしながら、低YM材料の場合、ネックダウン領域の上にあるプリフォームと下にあるファイバは、高YM材料に比べて相対的にはるかに弾性が高く、標準的なファイバ延伸方法では、炉のホットゾーンに対してネックダウン位置が変動するため、これらのセクションが不安定になる。これは、延伸中のファイバのスナップおよび/またはファイバスランプの形成をもたらす(例えば、結果として得られるファイバは一定しない直径を有する)。これらの欠点を考慮すると、経験豊富なファイバ延伸専門家は一般に、低YM材料が標準的なファイバ延伸技術と適合しないと考えている。これは、低ヤング率材料の材料特性(すなわち、その低YM)が標準的なファイバ延伸プロセスと相反するためである。
【0008】
ファイバ延伸技術は低ヤング率ファイバを形成するのに不適当であると考えられているため、低YMファイバを形成するために多くの異なるアプローチが研究されてきた。Guoらは、アルギン酸塩-ポリアクリルアミド前駆体溶液からなるハイドロゲルファイバ(~80kPaのYMおよび700%までの弾性限界)のステップインデックス構造を、UV照射下での重合および架橋を使用することによって作製した。まず、Ca2+含有アルギン酸塩-ポリアクリルアミド前駆体溶液を、白金硬化シリコーンチューブ型に注射器で注入し、UV光で硬化させることにより、コア(径250~1000μm)を作製した。次いで、ファイバのクラッドを「2ステップディップコート法」により形成し、クラッド層の厚さを浸漬時間により制御して薄く(<50μm)または厚く(>500μm)できるようにした。Guoらは、ファイバの減衰をモニタリングすることで歪みを検知する方法を実証し、同じファイバの異なる部分にドープされた様々な有機色素の吸収スペクトルを観察することで歪みを検知する方法を広めた。その後、Cholstは、ポリスチレン-ポリイソプレントリブロックコポリマーコアとフッ素化熱可塑性樹脂エラストマークラッドとを有する光ファイバ(~960kPaのYMおよび300%までの弾性限界)を製造した。1300~1600μmの外径を有するファイバは共押出によって作製された。ファイバの機械的および光学的特性の両方が、いかなる特定のセンシング用途も示さずに実証された。
【0009】
上記のアプローチの両方に欠点がある。ハイドロゲルファイバに使用される製造技術(すなわち、重合および架橋)は容易にスケーラブルではなく(したがって、高価である)、得られるファイバの光学特性は複雑な製造技術に大きく依存する。その結果、提案したコア-クラッドファイバ構造を通しての光誘導は、かなり貧弱な光学材料のために、非常に短距離センシングへの応用を制限した。Cholstによって使用される共押出法は、スケーラブルかもしれない。しかしながら、このアプローチでは、Cholstは、<1mmのファイバ構造を形成せず、したがって潜在的な用途を制限した。これらの技術のいずれも、実用的なセンシング用途に適した柔らかく可動性のあるファイバの実用的な実現を可能にしない。
【0010】
本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの欠点に対処しまたはそれを改善すること、および/または低YM材料からファイバを形成するための代替および/または改善された方法を提供することである。
【0011】
本明細書中での先行技術の参照は、この先行技術がいずれかの管轄区域において一般的な知識の一部を形成していること、またはこの先行技術が当業者によって理解され、関連性があるとみなされ、および/または他の先行技術と組み合わされることが合理的に期待されることを認めたり示唆したりするものではない。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様では、低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法が提供され、その方法は下記を含む:
低ヤング率ファイバプリフォームをファイバ延伸装置の延伸ゾーンに供給すること、および、
低ヤング率材料プリフォームのネックダウン領域を延伸ゾーン内のネックダウン位置に維持するのに十分に低い張力で低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸すること。
【0013】
一実施形態では、低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸する工程は、50gm-f/mm2以下の正規化張力で行われる。通常、張力はgm-fで測定され、mm2単位の断面積に正規化される。したがって、正規化張力はストレスになる(注:1gm-f/mm2=9.8x103Pa)。好ましくは、正規化張力は45gm-f/mm2以下である。より好ましくは、正規化張力は40gm-f/mm2以下である。さらにより好ましくは、正規化張力は35gm-f/mm2以下である。さらにより好ましくは、正規化張力は30gm-f/mm2以下である。最も好ましくは、正規化張力は25gm-f/mm2以下である。
【0014】
本発明の第2の態様では、低ヤング率材料からファイバを形成するためのファイバ延伸方法が提供され、その方法は下記を含む:
低ヤング率ファイバプリフォームをファイバ延伸装置の延伸ドーンに供給すること、および、
50gm-f/mm2以下の正規化張力で低ヤング率材料プリフォームからファイバを延伸すること。
【0015】
第2の態様の一実施形態では、正規化張力は45gm-f/mm2以下である。好ましくは、正規化張力は40gm-f/mm2以下である。より好ましくは、正規化張力は35gm-f/mm2以下である。さらにより好ましくは、正規化張力は30gm-f/mm2以下である。最も好ましくは、正規化張力は25gm-f/mm2以下である。
【0016】
第2の態様の実施形態では、上記方法は、低ヤング率材料プリフォームのネックダウン領域を延伸ゾーン内のネックダウン位置に維持することを含む。
【0017】
当業者は、定常状態条件下で(例えば、固定ファイバプリフォーム供給速度、ファイバ延伸速度、炉温度、およびファイバプリフォーム直径を使用して)ファイバ直径および張力変動をモニタリングすることによって、ネックダウン位置が維持または制御され得ることを理解するであろう。ファイバの直径および張力が一定のレベルに維持される場合、ネックダウン位置は延伸ゾーンに維持される。ファイバの直径および張力の変動は、ネックダウンが延伸ゾーン内のその位置から動いていることを示している。したがって、第1および第2の態様の1つまたは複数の実施形態では、ファイバ直径は一定であり、張力は一定である。
【0018】
第1または第2の態様の一実施形態では、低ヤング率材料は室温で300MPa以下のヤング率を有する。好ましくは、低ヤング率材料は100MPa以下のヤング率を有する。より好ましくは、低ヤング率材料は50MPa以下のヤング率を有する。さらに好ましくは、低ヤング率材料は30MPa以下のヤング率を有する。最も好ましくは、低ヤング率材料は10MPa以下のヤング率を有する。
【0019】
第1または第2の態様の実施形態では、低ヤング率材料は、低ヤング率材料の脆性-延性遷移温度より上であるが低ヤング率材料の融点より下である延伸温度で延伸される。好ましくは、延伸温度は低ヤング率材料のガラス転移温度より高い。
【0020】
一実施形態では、低ヤング率材料は、低ヤング率材料が粘性であるような延伸温度で延伸される。
【0021】
第1または第2の態様の一実施形態では、低ヤング率材料は、ポリマー、ゴム、シリコーン化合物、およびハイドロゲルからなる群から選択される。好ましくは、低ヤング率材料はポリマーである。より好ましくは、ポリマーは熱可塑性エラストマーである。最も好ましくは、低ヤング率材料は、ポリウレタン、ポリ(スチレン-b-(エチレン-co-ブチレン)-b-スチレン)、およびポリスチレン-ポリイソプレントリブロックコポリマーからなる群から選択される熱可塑性エラストマーである。
【0022】
第1または第2の態様の一実施形態では、ファイバを延伸する工程は、ファイバの設定点直径の±20%の範囲内の延伸誤差を有する。好ましくは、延伸誤差はファイバの設定点直径の±15%の範囲内である。より好ましくは、延伸誤差はファイバの設定点直径の±12%の範囲内である。最も好ましくは、延伸誤差はファイバの設定点直径の±10%の範囲内である。
【0023】
第1または第2の態様の一実施形態では、低ヤング率ファイバプリフォームは中空コア構造を有し、低ヤング率材料を延伸ゾーンに供給する工程の前に、本方法は最初に以下を含む:
中空コア構造に対応する構成で、低ヤング率材料の複数の中空管の近軸整列配置(paraxially aligned arrangement)を形成すること、
低ヤング率材料のガラス転移温度より高い温度まで複数の管を加熱すること、および
十分な時間、その温度で複数の管を焼成して、複数の管を焼結しかつ低ヤング率ファイバプリフォームを形成すること。
【0024】
上記実施形態の一形態では、複数の管は近軸ジャケットを含まない。しかしながら、代替の形態では、複数の管は低ヤング率材料の近軸ジャケット内に形成される。
【0025】
上記の実施形態の種々の形態において、近軸整列配置は、同軸整列配置(coaxially aligned arrangement)である。
【0026】
第1または第2の態様の一実施形態では、低ヤング率ファイバプリフォームは中空コア構造を有し、低ヤング率材料を延伸ゾーンに供給する工程の前に、本方法は最初に以下を含む:
低ヤング率材料の近軸ジャケット内に、かつ中空コア構造に対応する構成で、低ヤング率材料の複数の中空管の近軸整列配置を形成すること、
低ヤング率材料のガラス転移温度より高い温度まで複数の管を加熱すること、および
複数の管およびジャケットを焼結するのに十分な時間、温度で複数の管を焼成し、かつ低ヤング率ファイバプリフォームを形成すること。
【0027】
上記実施形態の種々の形態では、近軸整列配置および近軸ジャケットは、同軸整列配置および/または同軸整列したものである。
【0028】
第1または第2の態様の実施形態では、ファイバを延伸する工程は、ファイバを1mm未満のファイバ直径に延伸することを含む。好ましくは、ファイバ直径は0.8mm未満である。最も好ましくは、ファイバ直径は0.5mm未満である。
【0029】
本発明の第3の態様では、第1または第2の態様の方法、および/またはその実施形態によって低ヤング率材料から形成されたファイバが提供される。
【0030】
本発明の第1、第2、または第3の態様の実施形態では、ファイバは光ファイバである。
【0031】
本発明の第4の態様では、第1または第2の態様の方法、および/またはその実施形態による低ヤング率材料から形成された光ファイバを含む光ファイバセンサデバイスが提供される。
【0032】
本発明のさらなる態様、および前項で説明された態様のさらなる実施形態は、例として与えられ、添付の図面を参照して、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、異なる炉温度に対する、異なる内径対外径比のポリウレタンの(a)延伸張力および(b)正規化延伸張力を示すグラフである。
図2図2は、異なる炉温度に対する、異なる内径対外径比のPMMAの(a)延伸張力および(b)正規化延伸張力を示すグラフである。
図3図3は、異なるID/ODのポリウレタンについての異なる正規化張力における直径誤差を示すグラフである。
図4図4は、異なるID/ODのPMMAについての異なる正規化張力における直径誤差を示すグラフである。
図5図5は、ポリウレタンおよびPMMAの異なる正規化張力における直径誤差を比較するグラフである。
図6図6は、異なる供給速度でのポリウレタンの延伸張力を示すグラフである。
図7図7は、異なる供給速度でのポリウレタンの直径誤差を示すグラフである。
図8図8は、(a)ジャケットなしおよび(b)ジャケットありのポリウレタンファイバの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、低ヤング率(YM)材料をファイバに製造するためのファイバ延伸方法に関する。経験豊富なファイバ延伸の専門家にとって、低YM材料は、現在のファイバ延伸技術と適合しない。しかしながら、本発明者らは、低延伸張力を採用してファイバ延伸装置の延伸ゾーン内のネックダウン位置を維持することによって、ファイバ延伸方法を使用して低YM材料からファイバを形成することができることを見出した。
【0035】
本発明の方法は、さまざまな異なる種類の低YMファイバに適用することができるが、ここでは本発明は、微細構造光ファイバ(MOF)を参照して一般的に説明される。MOFの基本的な中空コア構造が図8に示されている。簡潔には、MOFは、結果として得られるファイバの空気孔のパターンによってガイド機構が決定されるプロセスを使用して形成される。微細構造ファイバを延伸最も一般的な方法は「スタック・アンド・ドロー」法であり、管は、より大きな外側のジャケット管内に積み重ねられる。これらの個々の管は、延伸時に延伸炉内で融着されている。
【0036】
ファイバを延伸する第一段階は、延伸タワーの延伸ゾーン(例えば、炉またはホットゾーン)にプレフォームを入れることである。一般に、高いYM材料で作られたプリフォームは、延伸タワーの炉に入れられ、延伸温度までしばらく加熱することができる。この段階は一般に「予熱段階」として知られており、延伸を開始する前に高YM材料を軟化させる。これに対して、低YMのプリフォームは室温で延伸することができ、かかる張力に応じて弾性変形と塑性変形の両方が発生する可能性がある。従って、低YM材料については予熱段階が必要とされない場合もあり、例えば、低YM材料についてはプレフォームが理想的な延伸温度で延伸ゾーンに供給され、即座に延伸を開始することができる。
【0037】
本発明の方法を用いて、低YM材料を有する非常に広範囲の単純なまたは複雑な微細組織を作製することができる。例を挙げると、本発明者らは、空気孔の数を変えた微細構造、反共振構造、孔の中に金属線を入れた構造などを用意しており、これらは、A.Stefani、R.Lwin、B.T.Kuhlmey、およびS.C.Flemingらの「OAM生成、調整可能なメタマテリアル、および変形性の高いファイバを有するセンサ(OAM generation, tunable metamaterials and sensors with highly deformable fibers)」、Advanced Photonics 2018(BGPP,IPR,NP,NOMA,Sensors,Networks,SPPCom,SOF)、OSA Technical Digest (オンライン)(Optical Society of America,2018)、論文番号Th1D.2(これらの内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。)。本発明は、本発明の方法を用いて、これらのような複雑な微細構造を有する低YMファイバを形成するように適合させることができる。
【0038】
本発明の方法は、様々な範囲の低YM材料をファイバに延伸するために適用することができ、好適な低YM材料の非限定的な開示には、ポリウレタン、ポリ(スチレン-b-(エチレン-co-ブチレン)-b-スチレン)、およびポリスチレン-ポリイソプレントリブロックコポリマーが含まれる。
【実施例
【0039】
実施例1
<異なる炉温度での異なる内径(Inner Diameter)対外径(Outer Diameter)比(ID/OD)のポリウレタンおよびPMMAの延伸張力>
異なるID/ODのポリウレタン(2~30MPaの低YM材料)およびPMMA(2~5GPaの高YM材料)プリフォームを、異なる炉温度でファイバに延伸して、延伸張力に対するそれらの効果を観察した。全てのプリフォームは外径6mmであった。3mm、1.5mmおよび0.75mmの異なる内径を使用して、それぞれ0.5、0.25および0.125の異なるID/ODを有するプリフォームを作製した。全てのファイバ延伸は10mm/分の固定供給速度を有し、炉温度を、ポリウレタンについて205~230℃およびPMMAについて170~250℃の間で変動させた。最終目標ファイバ直径は300μmであった。延伸張力は、炉の温度を変化させてモニタリングした。図1および図2は、それぞれ異なるID/ODのポリウレタンおよびPMMAについて、炉温度が延伸張力に及ぼす影響を示す。それらのID/ODに対する正規化張力も示されている。
【0040】
図1および図2から、予想通り、炉温度が低下することにつれて、いずれの場合も延伸張力が増加することが分かる。また、ID/ODが低いと、加熱および延伸するためのバルク断面材料がより少なくなるので、設定された各炉温度でより低い延伸張力をもたらす。両方の材料の延伸張力を比較するために、延伸張力をそれらのID/ODに対して正規化した。それらのID/ODにかかわらず明確な傾向が実現され、延伸張力がバルク材料特性に依存することを示すことが分かる。
【0041】
<異なる張力での異なるID/ODの直径誤差>
図1および図2は、所与の供給速度および出発プリフォーム直径に対して、広範囲の炉温度でファイバを延伸できることを示した。しかしながら、最終目標ファイバ直径も一定していなければならない。最終目標ファイバ直径から±10%を超える変動は、一般に許容できないと考えられ、複雑な多孔ファイバの内部構造の構造的完全性を維持することができないことを示す。これらの変動は以下の理由に起因し得る:定常状態条件を達成しないこと、プリフォームが切れてファイバに延伸され得ない高すぎる延伸張力、または、規定の延伸速度よりも速くファイバを延伸することによるスランピング(slumping)を引き起こす低すぎる延伸張力。
【0042】
図3および図4は、それぞれ異なるID/ODのポリウレタンおよびPMMAの両方について、異なる正規化張力での直径誤差を示す。予想通り、材料が硬く、引っ張って直径を維持するのが難しくなり、切れてしまうため、張力が大きくなると誤差が大きくなる。直径誤差10%における点線が追加され、なお一定した直径を達成する正規化張力を示す。ポリウレタンおよびPMMAの両方について、直径誤差は、ID/ODではなく、材料特性に依存する。ポリウレタンおよびPMMAの両方について、200gm-f/mm2までの正規化張力に対する直径誤差の分解図を図5に示す。これは、PMMAが50gm-f/mm2を超える正規化張力に対して許容可能な直径誤差を生じ、一般に張力が大きくなるにつれて改善するのに対し、ポリウレタンが50gm-f/mm2未満の正規化張力に対して良好であり、一般に張力が小さくなるにつれて改善する、それぞれの材料について逆の傾向を示す。さらに、50gm-f/mm2未満の正規化張力では、PMMAはファイバのスランピングに悩まされ、それによって、延伸された物質のスピードは延伸速度よりも速く移動する。
【0043】
<異なる供給速度の影響>
プリフォームが炉に入る速度は、ネックダウンが延伸温度まで加熱される時間を変化させるので、延伸張力にも影響する。ポリウレタンプリフォームを、5、10および15mm/分で、異なる温度で炉に供給した。全てのプリフォームは、6mmの外径および0.75mmの内径(ID/OD 0.125)を有し、500μmの最終目標直径まで延伸された。図6は、供給速度に大きく影響される延伸張力を示している。これにより、ネックダウンでは加熱までの期間が少なくなるため、供給速度が速いほど、必要な温度がより高い範囲にシフトする。図7は、標的500μmからの直径誤差を示す。再度、図3の結果と同様に、直径誤差は、使用される供給速度ではなく、材料の張力に大きく依存する。また、50gm-f/mm2未満の正規化張力を有する延伸条件は、許容可能な径の均一性を達成する。
【0044】
<考察>
ポリウレタンおよびPMMAプリフォームは、さまざまな延伸条件下でファイバに延伸することができる。しかしながら、一定した直径の成功したファイバの製造を保証する理想的な条件は、ほんのわずかしかない。第1に、本発明者らは、ポリウレタンおよびPMMAの両方の材料特性(すなわち、ヤング率)が、プリフォームのID/ODと比較して、延伸張力にとってより重要であることを観察した。ID/ODの違いを補うために、炉の温度を変更する必要があるだけである。第2に、達成される正規化張力の範囲のうち、一定した直径のファイバを達成するためには、特定の形態のみが適している。PMMAの場合は50~200gm-f/mm2が適しているが、ポリウレタンでは50gm-f/mm2以下の極低張力に制限されている。全体として、これは、PMMAでは達成できない延伸条件をもたらすポリウレタン固有の低いヤング率に起因し得る。
【0045】
実施例2
この実施例は、図8に示すような中空コア構造を有するポリウレタンプリフォームの延伸を、類似構造を有するPMMAプリフォームと比較して報告する。
【0046】
この例では、低YMファイバを延伸する前に、本発明者らはさらに、低YMプリフォームに予備処理工程を施し、この予備処理工程では、中空コア構造を形成する低YM材料の個々の管に熱処理工程を施し、この熱処理工程では、管を一緒に束ね、オーブン内でアニールして、管間の界面を融合させる。これは、延伸プロセス中に構造が一緒に保持されることを確実にするために重要である。実際には、これは低YMファイバの製造を成功させるための重要なステップである。この方法のさらなる利点は、低YM材料からのジャケットレスファイバの作製を可能にすることであり、これは、このファイバ構造が外部摂動によってより容易に変形され得るので、より高い感度を必要とする用途にとって潜在的に重要である。
【0047】
予備処理工程は、ポリウレタン管を中空コア構造に配置し、次いでこの構造をオーブン内で約140℃で30時間焼成することを含む。この温度は、それがポリウレタンのガラス転移温度よりも著しく高く、隣接するポリウレタン管が迅速に一緒に接着することを可能にするように選択された。これにもかかわらず、当業者は、オーブン温度および持続時間の選択が低YM材料の性質、および管間の界面がそれらを変形させることなく一緒に接着するかどうかに依存することを理解するであろう。プリフォームを製造するためのこの方法は、PMMAなどの高YM材料を含む他の材料にも使用することができる。
【0048】
ポリウレタンおよびPMMAプリフォームを、延伸タワー中のプリフォームから延伸した。炉温度、延伸張力、および結果を以下の表1に要約する。
【0049】
表1:ポリウレタンおよびPMMA延伸条件
【表1】
【0050】
結果は、ポリウレタンプリフォームが6gm-f未満の一定の張力で首尾よく延伸され得ることを示す。得られた構造は、10mを超える長さにわたって維持された。ファイバは、±10μmで均一なファイバ直径で、500μmの外径に延伸された。比較のために、PMMAファイバは>30gm-fの延伸張力を必要とした。
【0051】
本明細書に開示され、定義された本発明は、本文または図面から言及され、または明らかな個々の特徴の2つ以上の代替的な組合せのすべてに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせの全ては、本発明の様々な代替態様を構成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】