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▶ キャタレント ファーマ ソリューションズ リミテッド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】タンパク質製造用ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20220119BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220119BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527943
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(85)【翻訳文提出日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 US2019064423
(87)【国際公開番号】W WO2020117910
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】62/775,194
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510337517
【氏名又は名称】キャタレント ファーマ ソリューションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ブレック,グレゴリー ティー.
(72)【発明者】
【氏名】クラヴィッツ,レイチェル エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ホール,チャド エイ.
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA12
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ベクター、及び、対象のタンパク質を産生するための宿主細胞株を開発するためのその使用、ならびに特に、弱いプロモーターを利用して選択マーカーを駆動するベクターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のタンパク質を発現するためのベクターであって、非改変、すなわち野生型版の第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した前記第1のプロモーター配列と作動可能に会合した選択マーカーをコードする核酸配列、及び、第2のプロモーター配列に作動可能に結合した前記対象のタンパク質をコードする核酸配列を含む、前記ベクター。
【請求項2】
非改変、すなわち野生型版の前記第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した前記第1のプロモーター配列が、ウイルス性自己不活型(SIN)長末端反復(LTR)プロモーター配列である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記SIN LTRプロモーター配列が、配列番号3と少なくとも95%同一である、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記SIN LTRプロモーター配列が配列番号3である、請求項2または3に記載のベクター。
【請求項5】
前記選択マーカーがグルタミンシンセターゼ(GS)である、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記選択マーカーがジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)である、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターが、前記選択マーカーと、対象のタンパク質をコードする前記核酸とに作動可能に会合した、単一のポリAシグナル配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターが、前記選択マーカーと作動可能に会合した第1のポリAシグナル配列、及び、対象のタンパク質をコードする前記核酸と作動可能に会合した第2のポリAシグナル配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記対象のタンパク質が、Fc融合タンパク質、酵素、アルブミン融合物、増殖因子、タンパク質受容体、一本鎖抗体(scFv)、一本鎖Fc(scFv-Fc)、ダイアボディ、及びミニボディ(scFv-CH3)、Fab、一本鎖Fab(scFab)、免疫グロブリン重鎖、ならびに免疫グロブリン軽鎖からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記対象のタンパク質がFc融合タンパク質である、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項1~10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
前記ベクターがレトロウイルスベクターである、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記ベクターがプラスミドである、請求項1~12のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
前記宿主細胞株がGSノックアウト細胞株である、請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
前記宿主細胞株がDHFRノックアウト細胞株である、請求項15に記載の宿主細胞。
【請求項17】
前記宿主細胞株が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞株、及びCAP細胞株からなる群から選択される、請求項14~16のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項18】
前記宿主細胞が、約1~1000コピーの前記ベクターを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項19】
前記宿主細胞が、約10~200コピーの前記ベクターを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項20】
前記宿主細胞が、約10~100コピーの前記ベクターを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項21】
前記宿主細胞が、約20~100コピーの前記ベクターを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項22】
前記宿主細胞が、第2の対象のタンパク質をコードして、前記第2の対象のタンパク質の発現を可能にする、少なくとも第2のベクターをさらに含み、前記第2のベクターが、選択マーカーを含まない、請求項14~21のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項23】
前記宿主細胞が、第2の対象のタンパク質をコードして、前記第2の対象のタンパク質の発現を可能にする、少なくとも第2のベクターをさらに含み、前記第2のベクターが、前記第1のベクター内の前記選択マーカーとは異なる選択マーカーを含む、請求項14~21のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項24】
前記第1のベクター内での前記対象の第1のタンパク質が、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの1つであり、前記第2のベクター内での前記第2のタンパク質が、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの他方である、請求項22~23のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項25】
前記対象の第1のタンパク質が免疫グロブリン重鎖であり、前記対象の第2のタンパク質が免疫グロブリン軽鎖である、請求項24に記載の宿主細胞。
【請求項26】
前記宿主細胞が、約1~1000コピーの前記第2のベクターを含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項27】
前記宿主細胞が、約10~200コピーの前記第2のベクターを含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項28】
前記宿主細胞が、約10~100コピーの前記第2のベクターを含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項29】
前記宿主細胞が、約20~100コピーの前記第2のベクターを含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項30】
請求項13~29のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む宿主細胞培養液。
【請求項31】
前記培養液が、1~150ピコグラム/細胞/日の、前記対象のタンパク質を産生する、請求項30に記載の宿主細胞。
【請求項32】
前記培養液が、2~50ピコグラム/細胞/日の、前記対象のタンパク質を産生する、請求項30に記載の宿主細胞。
【請求項33】
請求項14~32のいずれか1項に記載の宿主細胞を培養することと、前記宿主細胞培養液から前記対象のタンパク質を精製することと、を含む、対象のタンパク質の産生プロセス。
【請求項34】
5’から3’の順に、以下の要素を含む感染性レトロウイルス型粒子:
1)5’LTR、
2)レトロウイルス型パッケージング領域、
3)選択マーカーをコードする核酸、
4)内部プロモーター、
5)内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列、
6)SIN3’LTR。
【請求項35】
前記5’LTRがMoMuLV LTRである、請求項34に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項36】
前記5’LTRがSIN LTRである、請求項34に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項37】
前記3’LTRが、ポリAシグナル配列を含む、請求項34~36に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項38】
前記パッケージング領域が、複数の、潜在的翻訳開始部位を含む、請求項34~37に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項39】
前記選択マーカーがGSである、請求項34~38のいずれか1項に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項40】
前記内部プロモーターがCMVプロモーターである、請求項34~39のいずれか1項に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項41】
前記粒子が、対象のタンパク質をコードする前記核酸の下流に、単一のポリAシグナル配列を含む、請求項34~40のいずれか一項に記載の感染性レトロウイルス型粒子。
【請求項42】
5’から3’の順に、以下の要素を含むプラスミド:
1)5’LTR、
2)パッケージング領域、
3)選択マーカー、
4)内部プロモーター、
5)内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列、及び
6)ポリAシグナル配列。
【請求項43】
前記5’LTRがSIN LTRである、請求項42に記載のプラスミド。
【請求項44】
前記5’LTRがMoMuLV LTRである、請求項42に記載のプラスミド。
【請求項45】
前記パッケージング領域が、複数の、潜在的翻訳開始部位を含む、請求項42~44に記載のプラスミド。
【請求項46】
前記選択マーカーがGSである、請求項42~45のいずれか1項に記載のプラスミド。
【請求項47】
前記内部プロモーターがCMVプロモーターである、請求項42~46のいずれか一項に記載のプラスミド。
【請求項48】
前記粒子が、対象のタンパク質をコードする前記核酸の下流に、単一のポリAシグナル配列を含む、請求項42~47のいずれか1項に記載のプラスミド。
【請求項49】
系であって、
a)非改変、すなわち野生型版の第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した前記第1のプロモーター配列と作動可能に会合した選択マーカーをコードする核酸配列、及び、第2のプロモーター配列に作動可能に結合した対象の第1のタンパク質をコードする核酸配列を含む第1のベクターと、
b)プロモーター配列に作動可能に結合した対象の第2のタンパク質をコードする核酸配列を含む第2のベクターであって、前記第2のベクターが選択マーカーを含まない、前記第2のベクターと、を含む、
前記系。
【請求項50】
前記第1のベクター内での前記対象の第1のタンパク質が、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの1つであり、前記第2のベクター内での前記第2のタンパク質が、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの他方である、請求項49に記載の系。
【請求項51】
対象のタンパク質の産生プロセスであって、
宿主細胞(複数可)に、請求項34~41のいずれか1項に記載の感染性レトロウイルス型粒子、請求項42~48のいずれか一項に記載のプラスミド、または請求項49~50に記載のベクター系を形質導入、またはトランスフェクトすることと、
前記対象のタンパク質を発現する宿主細胞株を開発することと、
前記対象のタンパク質が前記宿主細胞株により産生されるような条件下で、前記宿主細胞を培養することと、
前記宿主細胞培養液から前記対象のタンパク質を精製することと、
を含む、
前記プロセス。
【請求項52】
対象のタンパク質の産生のための、宿主細胞(複数可)の形質導入に使用するための、請求項34~41のいずれか1項に記載の感染性レトロウイルス型粒子、請求項42~48のいずれか1項に記載のプラスミド、または、請求項49~50のいずれか1項に記載のベクター系。

【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
関連出願の相互参照
本出願は、2018年12月4日に出願された米国特許仮出願第62/775,194号に対する優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、ベクター、及び、対象のタンパク質を産生するための宿主細胞株を開発するためのその使用、ならびに特に、弱いプロモーターを利用して選択マーカーを駆動するベクターに関する。
[背景技術]
【0003】
治療用タンパク質薬剤は、新規の治療法を最も必要とする薬剤を受ける患者の、最も重要な部類である。最近認可された組換えタンパク質治療法は、がん、自己免疫/炎症、病原菌への暴露、及び遺伝疾患を含む多種多様の臨床適応症を治療するために開発されている。タンパク質改変技術の最新の進歩により、薬剤開発者及び製造者が、製品の安全性もしくは有効性、または両方を維持しながら(そして場合によっては向上させながら)、対象のタンパク質の望ましい機能的特性を微調整して利用することが可能となっている。
【0004】
治療用タンパク質の製造及び産生は、非常に複雑なプロセスである。例えば、典型的なタンパク質薬剤は、5,000を超える臨床プロセスステップを含み得、これは多くの場合、低分子薬剤の製造に必要な数を上回っている。
【0005】
同様に、モノクローナル抗体、及び大型または融合タンパク質を含むタンパク質治療薬は、低分子薬剤よりもサイズが数桁大きい可能性があり、100kDaを超える分子量を有する。さらに、タンパク質治療薬は、維持されなければならない複雑な二次及び三次構造を示す。タンパク質治療薬は化学プロセスにより完全に合成することは不可能であり、生細胞または生物内で製造される必要がある。したがって、細胞株、元の種、及び培養条件の選択全てが、最終生成物の特徴に影響を与える。さらに、大部分の生物学的に活性なタンパク質は、異種発現系が使用されるときに損なわれ得る、翻訳後修飾を必要とする。さらに、生成物が細胞または生物により合成されるため、複雑な精製プロセスが伴う。さらに、フィルターまたは樹脂を用いることによるウイルス粒子の除去といった、ウイルスクリアランスプロセス、及び、低pHまたは洗剤を用いることによる失活ステップが実施され、タンパク質薬剤物質の深刻な安全問題であるウイルス汚染が予防される。大きな分子サイズ、翻訳後修飾、及び、製造プロセスに関与する様々な生物学的物質に対する治療用タンパク質の複雑性を考慮すると、タンパク質の改変により達成される生成物の安全性及び有効性を維持しながらの、特定の機能的属性を向上させる能力が、非常に望ましい。
【0006】
タンパク質の薬剤製品を改変するための新規の方法及びアプローチを組み込むことは、些細な問題ではないものの、潜在的な治療上の利点が、創薬中におけるかかる方法の使用の増加をもたらしている。多数の、タンパク質改変プラットフォーム技術が現在使用され、新規の治療用タンパク質薬剤の循環半減期、標的化、及び機能性を増加させ、加えて、製造歩留り及び生成物の純度を増加させている。例えば、Fc融合、アルブミン融合、及びPEG化を含む、タンパク質のコンジュゲーション及び誘導体化アプローチが現在、薬剤の循環半減期を延ばすための使用されている。
【0007】
タンパク質医薬品(生物学的製剤)の製造は高価であり、時間がかかる。この、重要な部類の薬剤を製造するための、より効率的な道具及びプロセスが、当該技術分野において必要とされている。
[発明の概要]
【0008】
本発明は、ベクター、及び、対象のタンパク質を産生するための宿主細胞株を開発するためのその使用、ならびに特に、弱いプロモーターを利用して選択マーカーを駆動するベクターに関する。
【0009】
したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、非改変、すなわち野生型版の第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した第1のプロモーター配列と作動可能に会合した選択マーカーをコードする核酸配列、及び、第2のプロモーター配列に作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列を含む対象のタンパク質を発現させるためのベクター(複数可)を提供する。
【0010】
いくつかの好ましい実施形態では、非改変、すなわち野生型版の第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した第1のプロモーター配列は、ウイルス性自己不活型(SIN)長末端反復(LTR)プロモーター配列である。いくつかの好ましい実施形態では、SIN LTRプロモーター配列は、配列番号3と少なくとも95%同一である。いくつかの好ましい実施形態では、SIN LTRプロモーター配列は配列番号3である。
【0011】
いくつかの好ましい実施形態では、選択マーカーはグルタミンシンセターゼ(GS)である。いくつかの好ましい実施形態では、選択マーカーはジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)である。
【0012】
いくつかの実施形態では、ベクターは、選択マーカーと、対象のタンパク質をコードする核酸とに、作動可能に会合した、単一のポリAシグナル配列を含む。他の実施形態において、ベクターは、選択マーカーと作動可能に会合した第1のポリAシグナル配列、及び、対象のタンパク質をコードする核酸と作動可能に会合した第2のポリAシグナル配列を含む。
【0013】
いくつかの好ましい実施形態では、対象のタンパク質は、Fc融合タンパク質、酵素、アルブミン融合物、増殖因子、タンパク質受容体、一本鎖抗体(scFv)、一本鎖Fc(scFv-Fc)、ダイアボディ、及びミニボディ(scFv-CH3)、Fab、一本鎖Fab(scFab)、免疫グロブリン重鎖、ならびに免疫グロブリン軽鎖からなる群から選択される。いくつかの好ましい実施形態では対象のタンパク質はFc融合タンパク質である。
【0014】
いくつかの実施形態では、ベクターはプラスミドである。いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはレトロウイルスベクターである。いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0015】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、上記のベクターを含む宿主細胞(複数可)を提供する。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞株はGSノックアウト細胞株である。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞株はDHFRノックアウト細胞株である。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞株はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞株はHEK293またはCAP細胞株である。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は、約1、20、50~1000個のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約10~200個のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約10~100個のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約20~100個のベクターのコピーを含む。
【0016】
いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は、第2の対象のタンパク質をコードして、当該第2の対象のタンパク質の発現を可能にする、少なくとも第2のベクターをさらに含み、当該第2のベクターは、選択マーカーを含まない。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は、第2の対象のタンパク質をコードして、当該第2の対象のタンパク質の発現を可能にする、少なくとも第2のベクターをさらに含み、当該第2のベクターは、第1のベクター内の選択マーカーとは異なる選択マーカーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、第1のベクター内での対象の第1のタンパク質は、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの1つであり、第2のベクター内での第2のタンパク質は、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のうちの他方である。いくつかの好ましい実施形態では、対象の第1のタンパク質は免疫グロブリン重鎖であり、対象の第2のタンパク質は免疫グロブリン軽鎖である。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は、約1、20、50、または100~1000個の、第2のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約10~200個の、第2のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約10~100個の、第2のベクターのコピーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は約20~100個の、第2のベクターのコピーを含む。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、上記の宿主細胞を含む宿主細胞培養液を提供する。いくつかの好ましい実施形態では、培養液は、1~50グラム/リットル/日の、対象のタンパク質を産生する。いくつかの好ましい実施形態では、培養液は、2~10グラム/リットル/日の、対象のタンパク質を産生する。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、上記の宿主細胞を培養することと、宿主細胞培養液から対象のタンパク質を精製することと、を含む、対象のタンパク質の産生プロセスを提供する。
【0019】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、5’から3’の順に、以下の要素、すなわち1)5’LTR、2)レトロウイルス型パッケージング領域、3)選択マーカーをコードする核酸、4)内部プロモーター、5)内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列、及び、6)SIN 3’LTRを含む、感染性レトロウイルス型粒子を提供する。いくつかの好ましい実施形態では、5’LTRは、MoMuSV LTRまたはSIN LTRである。いくつかの実施形態では、3’LTRは、ポリAシグナル配列を含む。いくつかの実施形態では、パッケージング領域は、複数の、潜在的翻訳開始部位を含む。いくつかの好ましい実施形態では、選択マーカーはGSである。いくつかの好ましい実施形態では、内部プロモーターはCMVプロモーターである。いくつかの実施形態では、粒子は、対象のタンパク質をコードする核酸の下流に、単一のポリAシグナル配列を含む。いくつかの実施形態では、粒子は、選択マーカーと作動可能に会合した第1のポリAシグナル配列、及び、対象の遺伝子をコードする核酸と作動可能に会合した第2のポリAシグナル配列を含む。
【0020】
さらなる実施形態は、5’から3’の順に、以下の要素、すなわち1)5’LTR(例えばSIN LTR)、2)パッケージング領域、3)選択マーカー(例えばGS)、4)内部プロモーター(例えばCMVプロモーター)、5)内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列、及び6)ポリAシグナル配列を含む、プラスミドを提供する。いくつかの実施形態では、プラスミドは、対象のタンパク質をコードする核酸の下流に、単一のポリAシグナル配列を含む。
【0021】
さらなる実施形態は、系であって、a)非改変、すなわち野生型版の第1のプロモーター配列と比較して、改変されてプロモーター活性が低下した第1のプロモーター配列と作動可能に会合した選択マーカーをコードする核酸配列、及び、第2のプロモーター配列に作動可能に結合した対象の第1のタンパク質をコードする核酸配列を含む第1のベクターと、b)プロモーター配列に作動可能に結合した対象の第2のタンパク質をコードする核酸配列を含む第2のベクターと、を含み、当該第2のベクターが、選択マーカーを含まない、上記系を提供する。
【0022】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、対象のタンパク質の産生方法であって、宿主細胞(複数可)に、上記の感染性レトロウイルス型粒子、プラスミド、またはベクター系を形質導入またはトランスフェクトし、上記宿主細胞(複数可)から上記対象のタンパク質を発現する宿主細胞株を開発することと、上記対象のタンパク質が上記宿主細胞株により産生されるような条件下で、上記宿主細胞を培養することと、上記宿主細胞培養液から上記対象のタンパク質を精製することと、を含む、上記方法を提供する。
【0023】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、対象のタンパク質の産生のための、宿主細胞(複数可)を形質導入するのに使用するための、上記の感染性レトロウイルス型粒子またはプラスミドを提供する。
[図面の簡単な説明]
【0024】
図1]完全長MMLV構築物のマップである。
図2]SIN MMLV LTR構築物のマップである。
図3]完全長MMLV構築物の配列(配列番号1)である。
図4]SIN MMLV LTR構築物の配列(配列番号2)である。
図5]完全長MMLV構築物とSIN MMLV LTR構築物との、プールした細胞株の力価比較である。
図6]完全長MMLV構築物を用いるプロセスと、SIN MMLV LTR構築物を用いるプロセスとの、プールした細胞株の力価比較である。
図7]SIN LTR配列(配列番号3)である。
図8]プロウイルス型プラスミド構築物のマップ(配列番号4)である。
図9]プロウイルス型プラスミド構築物の配列(配列番号4)である。
[発明を実施するための形態]
【0025】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下で定義する。
【0026】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、インビトロまたはインビボのいずれに位置するかにかかわらず、あらゆる真核細胞(例えば哺乳類細胞、トリ細胞、両生類細胞、植物細胞、魚細胞、及び昆虫細胞)を意味する。
【0027】
本明細書で使用する場合、「細胞培養液」という用語は、細胞の任意のインビトロ培養液を意味する。この用語には、連続した細胞株(例えば不死表現型との)、初代細胞培養物、限定的な細胞株(例えば非形質転換細胞)、ならびに、卵母細胞及び胚を含む、インビトロで維持される任意の多の細胞集団が含まれる。
【0028】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、適切な調節因子と会合したときに複製可能であり、細胞間で遺伝子配列を転写可能な任意の遺伝因子、例えばプラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ヴィリオンなどを意味する。したがって、本用語はクローニング及び発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを含む。
【0029】
本明細書で使用する場合、「感染多重度」または「MOI」という用語は、宿主細胞のトランスフェクションまたは形質導入の間に使用される、組込みベクター:宿主細胞の比率を意味する。例えば、1,000,000個のベクターを使用して100,000個の宿主細胞を形質導入する場合、感染多重度は10である。本用語の使用は、形質導入を伴う事象に限定されず、代わりに、リポフェクション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム沈殿、及び電気穿孔法などの方法による、宿主へのベクターの導入を包含する。
【0030】
本明細書で使用する場合、「ゲノム」という用語は、生物の遺伝物質(例えば染色体)を意味する。
【0031】
「対象のヌクレオチド配列」という用語は、任意のヌクレオチド配列(例えばRNAまたはDNA)を意味し、その操作は当業者により、任意の理由(例えば疾患の治療、改善された質の付与、宿主細胞内での対象のタンパク質の発現、リボザイムの発現など)に望ましいとみなされ得る。かかるヌクレオチド配列としては、構造遺伝子(例えばレポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、癌遺伝子、薬剤耐性遺伝子、増殖因子など)のコード配列、及び、mRNAまたはタンパク質生成物をコードしない、非コード調節配列(例えばプロモーター配列、ポリアデニル化配列、終止配列、エンハンサー配列など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用する場合、「対象のタンパク質」という用語は、対象の核酸によりコードされるタンパク質を意味する。
【0033】
本明細書で使用する場合、「をコードする核酸分子」、「をコードするDNA配列」、「をコードするDNA」、「をコードするRNA配列」、及び「をコードするRNA」という用語は、デオキシリボ核酸またはリボ核酸の鎖に沿った、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序または配列を意味する。これらのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。したがって、DNAまたはRNA配列は、アミノ酸配列をコードする。
【0034】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」、「プロモーター因子」、または「プロモーター配列」という用語は、対象のヌクレオチド配列にライゲーションしたときに、対象のヌクレオチド配列の、mRNAへの転写を制御可能なDNA配列を意味する。プロモーターは典型的には、必ずというわけではないが、mRNAへの転写を制御する対象のヌクレオチド配列の5’(すなわち上流)に位置し、転写開始のための、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子による特異的結合のための部位を提供する。
【0035】
本明細書で使用する場合、プロモーターを参照して使用する場合、「改変された」という用語は、参照の野生型配列と比較して、改変された核酸配列を有するプロモーターを意味する。例えば、配列プロモーターは、ある特定のプロモーター及び/またはエンハンサー因子を削除することにより改変することができる。
【0036】
真核生物における転写制御シグナルは「プロモーター」因子と「エンハンサー」因子とを含む。プロモーター及びエンハンサーは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列のショートアレイからなる(Maniatis,et al.,Science 236:1237,[1987])。プロモーター因子及びエンハンサー因子は、酵母菌、昆虫及び哺乳類細胞、ならびにウイルス中の遺伝子を含む、多種多様な真核細胞源から単離されている(類似の調節因子、すなわちプロモーターもまた、原核生物で発見されている)。特定のプロモーター及びエンハンサーの選択は、対象のタンパク質を発現させるためにどの細胞型を使用するかによって左右される。いくつかの真核細胞プロモーター及びエンハンサーは広範な宿主範囲を有するが、他のものは限定的な細胞型のサブセットにおいて機能する(確認には、Voss,et al.,Trends Biochem.Sci.,11:287[1986];及びManiatis,et al.,supraを参照のこと)。例えば、SV40初期遺伝子エンハンサーは、多くの哺乳類種由来の多種多様の細胞型にて非常に活性であり、哺乳類細胞内でのタンパク質の発現のために幅広く使用されている(Dijkema et al.,EMBO J.4:761[1985])。広範囲の哺乳動物細胞型にて活性のプロモーター/エンハンサー因子の、2つの他の例は、ヒト伸長因子1α遺伝子(Uetsuki et al.,J.Biol.Chem.,264:5791[1989];Kim et al.,Gene 91:217[1990]、及びMizushima and Nagata,Nuc.Acids.Res.,18:5322[1990])、ならびに、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復(Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:6777[1982])and the human cytomegalovirus (Boshart et al.,Cell 41:521[1985])由来のものである。
【0037】
本明細書で使用する場合、「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーター及びエンハンサー機能(即ち、プロモーター因子及びエンハンサー因子により提供される機能。これらの機能の考察については上を参照のこと。)の両方を付与可能な配列を含有するDNAのセグメントを意味する。例えば、レトロウイルスの長末端反復は、プロモーター及びエンハンサー機能の両方を含有する。エンハンサー/プロモーターは、「内因性」または「外因性」または「異種」であってよい。「内因性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム内の所与の遺伝子と自然に結合したものである。「外因性」または「異種」エンハンサー/プロモーターとは、その遺伝子の転写が、結合したエンハンサー/プロモーターにより誘導されるように、遺伝操作(即ち、クローニング及び組換えなどの分子生物学技術)により、遺伝子の近位に配置されるものである。
【0038】
本明細書で使用する場合、「LTR」の「長末端反復」という用語は、レトロウイルス型ゲノムのU3領域の5’及び3’に位置する、またはこれから単離した、転写制御因子を意味する。従来技術で公知なように、長末端反復はレトロウイルスベクター内での調節因子として使用することができるか、または、レトロウイルス型ゲノムから単離して、他の種類のベクターからの発現を制御することができる。
【0039】
本明細書で使用する場合、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対形成の規則により関係しているポリヌクレオチド(即ち、ヌクレオチドの配列)を言及して使用される。例えば、配列「5’-A-G-T-3’」は、配列「3’-T-C-A-5’」に相補的である。相補性は「部分的」であってよく、この場合、核酸塩基のいくつかのみが、塩基対形成の規則に従って一致する。または、核酸の間で「完全な」または「全」相補性が存在してよい。核酸鎖間での相補性の程度は、核酸鎖間でのハイブリダイゼーションの効率及び強度に著しい影響力を持っている。相補性は、核酸間の結合に依存する増幅反応及び検出法において特に重要である。
【0040】
核酸に関係して用いられる場合の「相同性」及び「パーセント同一性」という用語は、相補性の程度を意味する。部分的相同性(即ち、部分的同一性)または完全な相同性(即ち完全な同一性)が存在することができる。部分的な相補配列とは、完全な相補配列が標的核酸配列にハイブリダイズすることを少なくとも部分的に阻害する配列であり、「実質的に相同な」という機能語を使用することを意味する。標的配列に対する完全な相補配列のハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェンシー条件下にてハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロットまたはノーザンブロット、溶液ハイブリダイゼーションなど)を使用して調査することができる。実質的に相同な配列またはプローブ(即ち、対象の別のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド)は、低ストリンジェンシーな条件下において、標的配列への完全な相同配列の結合(即ち、ハイブリダイゼーション)と競合し、これを阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件は非特異的結合を可能にするようなものであることを意味するものではない。低ストリンジェンシー条件には、2つの配列の互いの結合が特異的(即ち選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的結合が存在しないことは、部分的な相補性の程度(例えば、約30%未満の同一性)すらも欠いている第2の標的を使用することにより試験することができる。非特異的結合が存在しない場合、プローブは第2の非相補性標的にハイブリダイズしない。
【0041】
本明細書で使用する場合、「作動可能な組合せで」、「作動可能な順序で」、及び「作動可能に結合した」という用語は、所与の遺伝子の転写、及び/または所望のタンパク質分子の合成を指令することが可能な核酸分子が産生されるような方法での核酸配列の結合を意味する。この用語は、機能性タンパク質が産生される方法でのアミノ酸配列の結合もまた意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、「選択マーカー」という用語は、酵素活性、または、別の場合においては必須栄養素であるものを欠いている培地にて増殖する能力を付与する他のタンパク質をコードする遺伝子を意味する。加えて、選択マーカーは、選択マーカーが発現する細胞上で、抗生物質または薬剤に対する耐性を付与し得る。
【0043】
本明細書で使用する場合、「レトロウイルス」という用語は、細胞内に侵入可能(即ち、粒子は、宿主細胞表面に結合可能であり、宿主細胞の細胞質へのウイルス粒子の侵入を促進可能な、エンベロープタンパク質またはウイルス性G糖タンパク質といった、膜随伴タンパク質を含有する。)であり、(二本鎖プロウイルスとしての)レトロウイルス型ゲノムを宿主細胞のゲノムに組み込み可能なレトロウイルス型粒子を意味する。「レトロウイルス」という用語は、Oncovirinae(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、及びマウス乳癌ウイルス(MMTV))、Spumavirinae、ならびにLentivirinae(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、ウマ感染症貧血ウイルス、及びヤギ関節炎-脳炎ウイルス;例えば、両方が参照により本明細書に援用される、米国特許第5,994,136号及び同第6,013,516号を参照のこと。)を包含する。
【0044】
本明細書で使用する場合、「レトロウイルスベクター」という用語は、対象の遺伝子を発現するように改変されているレトロウイルスを意味する。レトロウイルスベクターを使用して、ウイルス性感染プロセスを利用することにより、遺伝子を宿主細胞に効率的に移すことができる。レトロウイルス型ゲノムにクローニングされた(即ち、分子生物学技術を使用して挿入された)外来または異種遺伝子は、レトロウイルスによる感染を受けやすい宿主細胞に効率的に送達されることができる。周知の遺伝操作により、レトロウイルス型ゲノムの複製能力を破壊することができる。得られた複製欠損ベクターを使用すると、新規の遺伝物質を細胞に導入することは可能であるが、これらは複製不可能である。ヘルパーウイルスまたはパッケージング細胞株を使用して、ベクター粒子のアセンブリ、及び細胞からの脱出を可能にすることができる。かかるレトロウイルスベクターは、対象の少なくとも1つの遺伝子をコードする核酸配列(即ち、ポリシストロニック核酸配列は、2または3以上の対象の遺伝子をコードすることができる。)、5’レトロウイルス型長末端反復(5’LTR);及び、3’レトロウイルス型長末端反復(3’LTR)を含有する、複製欠損レトロウイルス型ゲノムを含む。
【0045】
「偽型レトロウイルスベクター」という用語は、異種膜タンパク質を含有するレトロウイルスベクターを意味する。「膜会合タンパク質」という用語は、ウイルス粒子を囲む膜と会合したタンパク質(例えば、VSV、Piry、Chandipura、及びMokolaなどのラブドウイルス(Rhabdoviridae)ファミリーのウイルスにおけるウイルス性エンベロープ糖タンパク質またはGタンパク質)を意味する。これらの膜会合タンパク質は、ウイルス粒子の宿主細胞への侵入を媒介する。膜会合タンパク質は、レトロウイルス型エンベロープタンパク質の場合のように、特異的細胞表面タンパク質受容体に結合し得るか、または、膜会合タンパク質は、ラブドウイルスファミリーのメンバーに由来するGタンパク質の場合のように、宿主細胞の原形質膜のリン脂質成分と相互作用し得る。
【0046】
「異種膜会合タンパク質」という用語は、ベクター粒子のヌクレオカプシドタンパク質が由来するものと同一のウイルス部類またはファミリーのメンバーではないウイルスに由来する、膜会合タンパク質を意味する。「ウイルス部類またはファミリー」とは、国際ウイルス分類委員会により割り当てられた、部類またはファミリーの分類ランクを意味する。
【0047】
本明細書で使用する場合、「レンチウイルスベクター」という用語は、非分裂細胞に組み込み可能な、レンチウイルス(Lentiviridae)ファミリー(例えばヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、及びヤギ関節炎-脳炎ウイルス)に由来するレトロウイルスベクターを意味する(例えば、米国特許第5,994,136号及び同第6,013,516号(これら両方は参照により本明細書に援用される。)を参照のこと)。
【0048】
「偽型レンチウイルスベクター」という用語は、異種膜タンパク質(例えば、VSV、Piry、Chandipura、及びMokolaなどのラブドウイルス(Rhabdoviridae)ファミリーのウイルスにおけるウイルス性エンベロープ糖タンパク質またはGタンパク質)を含有するレンチウイルスベクターを意味する。
【0049】
本明細書で使用する場合、「トランスポゾン」という用語は、ゲノム内のある位置から別の位置に移動または転移可能な、転移因子(例えばTn5、Tn7、及びTn10)を意味する。一般に、転移はトランスポーゼースにより制御される。本明細書で使用する場合、「トランスポゾンベクター」という用語は、トランスポゾンの末端に隣接する対象の核酸をコードするベクターを意味する。トランスポゾンベクターの例としては、全てが参照により本明細書に援用される、米国特許第6,027,722号、同第5,958,775号、同第5,968,785号、同第5,965,443号、及び5,719,055号に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」という用語は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAVX7などが挙げられるがこれらに限定されない、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターを意味する。AAVベクターは、1つ以上のAAV野生型遺伝子、好ましくはrep及び/またはcap遺伝子を全てまたは部分的に欠失することができるが、機能性隣接ITR配列を保持する。
【0051】
AAVベクターは、当該技術分野において公知の組換え技術を用いて、両端(5’及び3’)に機能性AAV ITRが隣接した、1つ以上の異種ヌクレオチド配列を含めることにより構築することができる。本発明の実施に際して、AAVベクターは、異種ヌクレオチド配列の上流に位置する、少なくとも1つのAAV ITR及び好適なプロモーター配列、ならびに、異種配列の下流に位置する、少なくとも1つのAAV ITRを含むことができる。「組換えAAVベクタープラスミド」とは、ある種の組換えAAVベクターを意味し、ここで、ベクターはプラスミドを含む。一般的にはAAVベクターと同様に、5’及び3’ITRは、選択された異種ヌクレオチド配列に隣接する。
【0052】
AAVベクターは、ポリアデニル化部位、及び選択マーカーまたはレポーター遺伝子などの転写配列、エンハンサー配列、ならびに、転写の誘発を可能にする他の調節因子もまた含むことができる。かかる調節因子は上で説明されている。
【0053】
本明細書で使用する場合、「AAVヴィリオン」という用語は、完全なウイルス粒子を意味する。AAVヴィリオンは、(AAVキャプシド、即ちタンパク質コートと会合した、直鎖の一本鎖AAV核酸ゲノムを含む)野生型AAVウイルス粒子、または、組換えAAVウイルス粒子(後述)であってよい。これに関し、一本鎖AAV核酸分子(これらの用語が一般に定義されるとおりの、センス/コード鎖、またはアンチセンス/アンチコード鎖のいずれか)を、AAVにパッケージすることができる。センス鎖及びアンチセンス鎖の両方が等しく感染性である。
【0054】
本明細書で使用する場合、「組換えAAVヴィリオン」または「rAAV」という用語は、異種ヌクレオチド配列をキャプシド形成し(即ち、タンパク質コードで囲み)、転じてAAV ITRにより5’及び3’に隣接される、AAVタンパク質シェルから構成される、感染性の複製不能ウイルスと定義される。組換えAAVヴィリオンを構築するためのいくつかの技術が、当該技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,173,414号、WO 92/01070、WO 93/03769、Lebkowski et al.,Molec.Cell.Biol.8:3988-3996[1988]、Vincent et al.,Vaccines 90[1990] (Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Carter,Current Opinion in Biotechnology 3:533-539[1992]、Muzyczka,Current Topics in Microbiol.and Immunol.158:97-129[1992]、Kotin,Human Gene Therapy 5:793-801[1994]、Shelling and Smith,Gene Therapy 1:165-169[1994]、及びZhou et al.,J.Exp.Med.179:1867-1875[1994](そのすべてが、参照により本明細書に援用される。)を参照のこと)。
【0055】
AAVベクター(及び実際には、本明細書に記載するベクターのいずれか)で使用するための、好適なヌクレオチド配列としては、任意の機能的に関係するヌクレオチド配列が挙げられる。したがって、本発明のAAVベクターは、標的細胞ゲノムを欠損する、もしくは欠いているタンパク質をコードする、または、所望の生物学的もしくは治療効果(例えば抗ウイルス機能)を有する非天然タンパク質をコードする、任意の所望の遺伝子を含むことができる、あるいは、配列は、アンチセンスまたはリボザイム機能を有する分子に対応することができる。好適な遺伝子としては、AIDS、がん、神経疾患、心臓血管疾患、高コレステロール血症などの疾患を含む、炎症性疾患、自己免疫性疾患、慢性疾患、及び感染症;様々な貧血、地中海貧血及び血友病を含む様々な血液疾患;嚢胞性線維症、ゴーシェ病、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠乏症、気腫などといった遺伝的欠陥の治療に用いられるものが挙げられる。がん及びウイルス性疾患に対するアンチセンス治療法にて有用である、多数のアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、mRNAの翻訳開始部位(AUGコドン)周辺の配列に相補性である、短いオリゴヌクレオチド)が、当該技術分野において説明されている(例えば、Han et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4313-4317[1991]、Uhlmann et al.,Chem.Rev.90:543-584[1990]、Helene et al.,Biochim. Biophys.Acta.1049:99-125[1990]、Agarwal et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7079-7083[1989]、及びHeikkila et al.,Nature 328:445-449[1987]を参照のこと)。好適なリボザイムの考察については、例えば、参照により本明細書に援用される、Cech et al.(1992)J.Biol.Chem.267:17479-17482、及びU米国特許第5,225,347号を参照のこと。
【0056】
本明細書で使用する場合、「精製された」という用語は、それらの通常環境から除去される、単離される、または分離される、核酸配列またはアミノ酸配列のいずれかの分子を指す。したがって「単離された核酸配列」は、精製された核酸配列である。「実質的に精製された」分子は、それらに通常伴う他の成分から、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、及びさらに好ましくは少なくとも90%取り除かれる。
【0057】
本発明は、ベクター、及び、対象のタンパク質を産生するための宿主細胞株を開発するためのその使用、ならびに特に、弱いプロモーターを利用して選択マーカーを駆動するベクターに関する。
【0058】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の発現系は、様々な機能を果たす追加の核酸配列と作動可能に会合した、対象のタンパク質(即ち、治療用タンパク質、または、産生されることが所望される他のタンパク質)をコードする核酸配列を含む、発現ベクターを利用する。したがって、例えば、対象の核酸配列は、ポリペプチドを発現するための様々な発現ベクターのいずれか1つに含まれ得る。本発明のいくつかの実施形態では、ベクターとしては、レトロウイルスベクター、染色体、非染色体、及び合成DNA配列(例えば、SV40の派生物、細菌プラスミド、ファージDNA;バキュロウイルス、酵母菌プラスミド、プラスミド及びファージDNAの組合せに由来するベクター、ならびに、痘疹、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、及び偽性狂犬病などのウイルスDNA)が挙げられるが、これらに限定されない。宿主内で複製可能であり、生存能力があるのであれば、任意のベクターを使用可能であることが企図されている。いくつかの好ましい実施形態では、ベクターは、全ての全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第6,852,510号及び同第7,332,333号、ならびに、米国特許出願公開第200402335173号及び同第20030224415号に記載されている、レトロウイルスベクターである。いくつかの特に好ましい実施形態では、ベクターは、偽型レトロウイルスベクターである。いくつかの好ましい実施形態では、哺乳類発現ベクターは、複製起点、好適なプロモーター及びエンハンサー、ならびにまた、任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー及びアクセプター部位、転写終止配列、ならびに5’に隣接する非転写配列を含む。他の実施形態では、SV40スプライスに由来するDNA配列、及びポリアデニル化部位を使用して、必要な非転写遺伝因子を提供してよい。
【0059】
いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはレトロウイルスベクターである。多数のレトロウイルスのゲノムの構成が当該技術分野において周知であり、これにより、レトロウイルス型ゲノムを適合させてレトロウイルスベクターを産生することが可能となっている。対象の遺伝子を保持する組換えレトロウイルスベクターの産生は典型的には、2段階で達成される。
【0060】
まず、対象の遺伝子を、対象の遺伝子の効率的な発現のために必要な配列(ウイルス性長末端反復(LTR)により、または、内部プロモーター/エンハンサー及び関係するスプライシングシグナルにより提供され得る、プロモーター及び/またはエンハンサー因子を含む。)、ウイルスRNAを感染性ヴィリオン内に効率的にパッケージングするために必要な配列(例えば、パッケージングシグナル(Psi)、tRNAプライマー結合部位(-PBS)、逆転写のために必要な3’調節配列(+PBS))、ならびに、ウイルス性LTRを含有するレトロウイルスベクターに挿入する。LTRは、ウイルス性ゲノムRNA、逆転写酵素、及びインテグラーゼ機能の会合のために必要な配列、ならびに、ゲノムRNAの発現を、ウイルス粒子内でパッケージ化されるように誘導することに関与する配列を含有する。安全性の理由から、多くの組換えレトロウイルスベクターは、ウイルス複製のために不可欠な遺伝子の機能的コピーを欠いている(これらの不可欠な遺伝子は、欠損しているか、または不能化されているかのいずれかである)。したがって、得られるウイルスは、複製不能であると言える。
【0061】
次に、組換えベクターの構築の後に、ベクターDNAをパッケージング細胞株内に導入する。パッケージング細胞株により、ウイルス性ゲノムRNAを、所望の宿主範囲を有するウイルス粒子にパッケージングするために、輸送中に必要なタンパク質(即ち、ウイルスによりコードされたgag、pol、及びenvタンパク質)がもたらされる。宿主範囲は、部分的には、ウイルス粒子の表面上に発現する、エンベロープ遺伝子産物の種類により制御される。パッケージング細胞株は、同種指向性、広宿主性、または異種指向性のエンベロープ遺伝子産物を発現し得る。あるいは、パッケージング細胞株は、ウイルス性エンベロープ(env)タンパク質をコードする配列を欠いている場合がある。この場合、パッケージング細胞株は、膜会合タンパク質(例えば、envタンパク質)を欠く粒子内にウイルスゲノムをパッケージ化する。ウイルスの細胞内への侵入を可能にする膜会合タンパク質を含有するウイルス粒子を作製するために、レトロウイルス配列を含有するパッケージング細胞株に、膜会合タンパク質(例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質)をコードする配列をトランスフェクトする。トランスフェクトしたパッケージング細胞は次に、トランスフェクトされたパッケージング細胞株により発現される膜会合タンパク質を含有する、ウイルス粒子を産生する。別のウイルスのエンベロープタンパク質によりカプシド形成されたあるウイルスに由来する、ウイルス性ゲノムRNAを含有するこれらのウイルス粒子は、偽型ウイルス粒子であると言われる。
【0062】
本発明のレトロウイルスベクターを更に改変して、追加の調節配列を含めることができる。上述のとおり、本発明のレトロウイルスベクターは、以下の要素を作動可能に会合して含む:a)5’LTR、b)パッケージングシグナル、c)3’LTR、及び、d)5’LTRと3’LTRとの間に位置する対象のタンパク質をコードする核酸。本発明のいくつかの実施形態では、内部プロモーターからの転写が所望される場合、対象の核酸は、5’LTRに対して逆向きに配置されてよい。好適な内部プロモーターとしては、α-ラクトアルブミンプロモーター、CMVプロモーター(ヒトまたはサル)、及び、チミジンキナーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
対象のタンパク質の分泌が所望される、本発明の他の実施形態では、対象のタンパク質と作動可能に会合したシグナルペプチド配列を含めることにより、ベクターは改変される。組織プラスミノゲン活性化因子、ヒト成長ホルモン、ラクトフェリン、α-カゼイン、及びα-ラクトアルブミンに由来するものを含むがこれらに限定されない、いくつかの好適なシグナルペプチドの配列が、当業者に公知である。
【0064】
本発明の他の実施形態では、RNAエクスポート因子(例えば、全てが参照により本明細書に援用される、米国特許第5,914,267号、同第6,136,597号、及び同第5,686,120号、ならびにWO99/14310を参照のこと。)を、対象のタンパク質をコードする核酸配列の、3’または5’のいずれかに組み込むことにより、ベクターが改変される。RNAエクスポート因子を使用することにより、対象のタンパク質をコードする核酸配列内にスプライスシグナルまたはイントロンを組み込むことなく、対象のタンパク質の高レベルの発現が可能となることが企図されるる。
【0065】
更に他の実施形態では、ベクターは、少なくとも1つの内部リボソーム侵入部位(IRES)配列を含む。口蹄疫ウイルス(FDV)、脳心筋炎ウイルス、及びポリオウイルスに由来するものを含むがこれらに限定されない、いくつかの好適なIRESの配列が利用可能である。IRES配列は、2つの転写ユニット(例えば、抗体などのマルチサブユニットタンパク質の、異なる対象のタンパク質またはサブユニットをコードする核酸)の間に配置して、ポリシストロニック配列を形成し、2つの転写ユニットが同一のプロモーターから転写されることができる。
【0066】
最も一般的に使用される組換えレトロウイルスベクターは、広宿主性モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)に由来する(例えば、Miller and Baltimore Mol.Cell.Biol.6:2895[1986]を参照のこと)。MoMLV系は、いくつかの利点を有する。1)この特異的なレトロウイルスは、多くの異なる細胞型に感染可能であり、2)確立されたパッケージング細胞株は、組換えMoMLVウイルス粒子の産生のために利用可能であり、3)移転された遺伝子は、標的細胞の染色体に永続的に組み込まれる。確立されたMoMLVベクター系は、レトロウイルス配列の小さな部分(例えば、ウイルス長末端反復、すなわち「LTR」、及び、パッケージング、すなわち「psi」シグナル)を含有するDNAベクター、ならびに、パッケージング細胞株を含む。移転される遺伝子は、DNAベクター内に挿入される。DNAベクター上に存在するウイルス性配列は、ベクターRNAのウイルス粒子内への挿入またはパッケージングのために、そして、挿入された遺伝子の発現のために必要なシグナルを提供する。パッケージング細胞株は、粒子アセンブリに必要なタンパク質を提供する(Markowitz et al.,J.Virol.62:1120[1988])。
【0067】
いくつかの好ましい実施形態では、レトロウイルスベクターは偽型であり、例えば、VSVのGタンパク質を、膜会合タンパク質として利用する。特異的な細胞表面タンパク質受容体に結合して、細胞内に侵入させるレトロウイルス型エンベロープタンパク質とは異なり、VSV Gタンパク質は、原形質膜のリン脂質成分と相互作用する(Mastromarino et al.,J.Gen.Virol.68:2359[1977])。VSVの細胞内への侵入は、特異的なタンパク質受容体の存在に依存しないため、VSVは、極めて広い宿主範囲を有する。VSV Gタンパク質を有する偽型レトロウイルスベクターは、変化したVSVの宿主範囲特性を有する(即ち、それらはほとんどあらゆる種の脊椎動物細胞、無脊椎動物細胞、及び昆虫細胞に感染可能である)。重要なことに、VSV G偽型レトロウイルスベクターは、感染力が著しく喪失されることなく、超遠心分離により、2000倍以上に濃縮可能である(Burns et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033[1993])。
【0068】
本発明は、ウイルス性Gタンパク質が、ウイルス粒子内で異種膜会合タンパク質として用いられる際の、VSV Gタンパク質の使用に限定されない(例えば、参照により本明細書に援用される、米国特許第5,512,421号を参照のこと)。VSV Gタンパク質に非常に相同である、及び、VSV Gタンパク質同様に、Piry及びChandipuraウイルスなどの、VSV以外のVesiculovirus属におけるウイルスのGタンパク質は、共有結合したパルミチン酸を含有する(Brun et al.Intervirol.38:274[1995]及びMasters et al.,Virol.171:285 (1990])。したがって、Piry及びChandipura属のGタンパク質は、ウイルス粒子の偽型化のために、VSV Gタンパク質の代わりに使用することができる。さらに、狂犬病及びMokolaウイルスなどの、リッサウイルス属内のウイルスのVSV Gタンパク質は、VSV Gタンパク質による高度な保存(アミノ酸配列、及び機能的保存)を示す。例えば、MokolaウイルスGタンパク質は、VSV Gタンパク質と同様の方法で機能する(即ち、膜融合を媒介する)ことが示されており、それ故、ウイルス粒子の偽型化のために、VSV Gタンパク質の代わりに使用することができる(Mebatsion et al.,J.Virol.69:1444[1995])。ウイルス粒子は、実施例2に記載するように、Piry、Chandipura、またはMokola Gタンパク質のいずれかを用いて偽型化することができる。例外として、好適なプロモーター因子(例えば、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen)などの、CMV中間体初期プロモーター;CMV IEを含有する多数の発現ベクターが利用可能である。)の転写を制御しながら、Piry、Chandipura、またはMokola Gタンパク質のいずれかをコードする配列を含有するプラスミドが、pHCMV-Gの代わりに使用される。ラブドウイルスファミリーの他のメンバーに由来する他のGタンパク質をコードする配列を使用することができる。多数のラブドウイルスGタンパク質をコードする配列が、GenBankのデータベースから入手可能である。
【0069】
いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはレンチウイルスベクターである。レンチウイルス(例えば、ウマ感染性貧血ウイルス、ヤギ関節炎-脳炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス)は、非分裂細胞に一体化可能なレトロウイルスのサブファミリーである。レンチウイルスゲノム及びプロウイルスDNAは、あらゆるレトロウイルスにて発見される3種類の遺伝子、すなわちgag、pol、及びenvを有し、これらは2つのLTR配列により隣接されている。gag遺伝子は、内部構造タンパク質(例えばマトリックス、キャプシド、及びヌクレオカプシドタンパク質)をコードし、pol遺伝子は、逆転写酵素、プロテアーゼ、及びインテグラーゼタンパク質をコードし、pol遺伝子は、ウイルス性エンベロープ糖タンパク質をコードする。5’及び3’LTRは、ウイルスRNAの転写及びポリアデニル化が制御する。レンチウイルスゲノム内のさらなる遺伝子としては、vif、vpr、tat、rev、vpu、nef、及びvpx遺伝子が挙げられる。
【0070】
様々なレンチウイルスベクター及びパッケージング細胞株が当該技術分野において公知であり、本発明での使用を見いだされる(例えば、両方が参照により本明細書に援用される、米国特許第5,994,136号及び同第6,013,516号を参照のこと)。さらに、VSV Gタンパク質もまた、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に基づくレトロウイルスベクターを偽型化するために使用されている(Naldini et al.,Science 272:263[1996])。したがって、VSV Gタンパク質を使用して様々な偽型レトロウイルスベクターを生成することができ、これは、MoMLVに基づくベクターに限定されない。レンチウイルスベクターもまた、上記のとおりに改変して、様々な調節配列(例えば、シグナルペプチド配列、RNAエクスポート因子、及びIRES)を含有することができる。レンチウイルスベクターの生成後、レンチウイルスベクターを使用して、レトロウイルスベクターに関して上述したとおりに、宿主細胞をトランスフェクトすることができる。
【0071】
いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。AAVはヒトDNAパルボウイルスであり、これはデペンドウイルス(Dependovirus)属に属する。AAVゲノムは、およそ4680塩基を含有する、直鎖の一本鎖DNA分子で構成される。ゲノムは、DNA複製の起点として、そして、ウイルスのパッケージングシグナルとして、シスにて機能する、各末端における逆位末端反復(ITR)を含む。ゲノムの内部非反復部分は、それぞれ、AAV rep及びcap領域として知られている、2つの大型オープンリーディングフレームを含む。これらの領域は、ヴィリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルス性タンパク質をコードする。少なくとも4種類のウイルス性タンパク質のファミリーが、AAV rep領域のRep 78、Rep 68、Rep 52、及びRep 40(それらの見かけの分子量に従い名付けられている。)から合成される。AAV cap領域は、少なくとも3つのタンパク質のVP1、VP2、及びVP3をコードする(AAVゲノムの詳細の説明については、例えば、Muzyczka,Current Topics Microbiol.Immunol.158:97-129[1992]、Kotin,Human Gene Therapy 5:793-801[1994]を参照のこと)。
【0072】
生殖感染を生じさせるために、AAVは、無関係なヘルパーウイルス、例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルス、または痘疹などとの同時感染を必要とする。かかる同時感染が存在しない場合、AAVは、そのゲノムを宿主細胞の染色体に挿入することで、潜伏状態を確立する。ヘルパーウイルスによるその後の感染によって、一体化されたコピーが救出され、これを次いで複製して、感染性ウイルスの子孫を産生することができる。非偽型化レトロウイルスとは違って、AAVは広い宿主範囲を有し、あらゆる種の細胞内で、その種内でまた繁殖するヘルパーウイルスとの同時感染が行われる限り、複製可能である。したがって、例えば、ヒトAAVは、イヌアデノウイルスで同時感染したイヌ細胞内で複製する。さらに、レトロウイルスとは違って、AAVは、いかなるヒトまたは動物疾患とも関連せず、一体化の際に、宿主細胞の生物学的性質を変えるようではなく、未分裂細胞に一体化することができる。AAVは、宿主細胞ゲノムの部位特異的一体化が可能であることもまた、最近発見されている。
【0073】
上記特性の観点から、いくつかの組換えAAVベクターが、遺伝子導入のために開発されてきた(例えば、米国特許第5,173,414号、同第5,139,941号、WO 92/01070及びWO 93/03769(これら両方が参照により本明細書に援用される)、Lebkowski et al.,Molec.Cell.Biol.8:3988-3996[1988]、Carter,Current Opinion in Biotechnology 3:533-539[1992]、Muzyczka,Current Topics in Microbiol.and Immunol.158:97-129[1992]、Kotin,(1994)Human Gene Therapy 5:793-801、Shelling and Smith,Gene Therapy 1:165-169[1994]、ならびに、Zhou et al.,J.Exp.Med.179:1867-1875[1994]を参照のこと)。
【0074】
AAVヘルパープラスミドとAAVベクターとの両方をトランスフェクトした、好適な宿主細胞にて、組換えAAVヴィリオンを作製可能である。AAVヘルパープラスミドは一般に、AAV rep及びcapコード領域を含むが、AAV ITRを欠いている。したがって、ヘルパープラスミドは、自身を複製することも、パッケージ化することもできない。AAVベクターは一般に、ウイルス複製及び機能のパッケージングを付与するAAV ITRにより結合される、選択された対象の遺伝子を含む。選択された遺伝子を有するヘルパープラスミドとAAVベクターの両方が、一過性トランスフェクションにより好適な宿主細胞に導入される。次に、トランスフェクトされた細胞に、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスを感染させる。かかるヘルパーウイルスは、AAV rep及びcap領域の転写及び翻訳を誘導する、ヘルパープラスミド上に存在するAAVプロモーターをトランス活性化させる。選択された遺伝子を有する組換えAAVヴィリオンが調製により形成され、精製することができる。AAVベクターが生成されると、それらを使用して、所望の感染多重度にて宿主細胞をトランスフェクトし(例えば、参照により本明細書に援用される、米国特許第5,843,742号を参照のこと。)、多コピー数の宿主細胞を産生することができる。当業者によって理解されるように、AAVベクターもまた、上記のとおりに改変して、様々な調節配列(例えば、シグナルペプチド配列、RNAエクスポート因子、及びIRES)を含有することができる。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、ベクターはトランスポゾン系ベクターである。トランスポゾンは、ゲノム内のある位置から別の位置に移動または転移可能な、移動性の遺伝因子である。ゲノム内での転移は、トランスポゾンによりコードされるトランスポーゼース酵素により制御される。Tn5(例えば、de la Cruz et al.,J.Bact.175: 6932-38[1993]を参照のこと。)、Tn7(例えば、Craig,Curr.Topics Microbiol.Immunol.204: 27-48[1996]を参照のこと。)、及び、Tn10(例えば、Morisato and Kleckner,Cell 51:101-111[1987]を参照のこと。)を含むがこれらに限定されない、多くの例のトランスポゾンが、当技術分野において公知である。トランスポゾンがゲノムに一体化する能力を利用して、トランスポゾンベクターが作製されている(例えば、全てが参照により本明細書に援用される、米国特許第5,719,055号、同第5,968,785号、同第5,958,775号、及び同第6,027,722号を参照のこと)。トランスポゾンは感染性ではないため、トランスポゾンベクターは、当該技術分野において公知の方法(例えば、電気穿孔法、リポフェクション、またはマイクロインジェクション)により、宿主細胞に導入される。したがって、宿主細胞に対するトランスポゾンベクターの比率を調節して所望の感染多重度を付与し、多コピー数の、本発明の宿主細胞を生成することができる。
【0076】
本発明での使用に好適なトランスポゾンベクターは一般に、2つのトランスポゾン挿入配列の間に挟入された対象のタンパク質をコードする核酸を含む。ベクターの中には、トランスポーゼース酵素をコードする核酸配列もまた含むものもある。これらのベクターにおいて、挿入配列のうちの1つは、トランスポーゼース酵素と、対象のタンパク質をコードする核酸との間に配置されるため、その挿入配列は、組換えの間に宿主細胞のゲノムに組み込まれない。あるいは、トランスポーゼース酵素は、好適な方法(例えば、リポフェクションまたはマイクロインジェクション)により提供されてよい。当業者によって理解されるように、トランスポゾンベクターもまた、上記のとおりに改変して、様々な調節配列(例えば、シグナルペプチド配列、RNAエクスポート因子、及びIRES)を含有することができる。
【0077】
いくつかの好ましい実施形態では、ベクターは、選択マーカーを含む。好適な選択マーカーとしては、グルタミンシンセターゼ(GS)、ジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの遺伝子は、全てが参照により本明細書に援用される、米国特許第5,770,359号、同第5,827,739号、同第4,399,216号、同第4,634,665号、同第5,149,636号、同第、及び同第6,455,275号に記載されている。いくつかの特に好ましい実施形態では、選択マーカーはGSであり、配列番号2の位置1789から2910の配列と少なくとも80%、90%、95%、99%、または100%の同一性を共有する配列を有する。いくつかの好ましい実施形態では、利用される選択マーカーは、選択マーカー核酸配列によりコードされる酵素の産生が欠損している、宿主細胞株と適合する。好適な宿主細胞株を、以下でさらに詳細に記載する。他の実施形態では、選択マーカーは、抗生物質耐性マーカー、即ち、抗生物質に対して耐性を有する本タンパク質を発現する細胞を提供するタンパク質を産生する遺伝子である。好適な抗生物質耐性マーカーとしては、ネオマイシン(ネオマイシン耐性遺伝子(neo))、ハイグロマイシン(ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子)、ピューロマイシン(ピューロマイシンN-アセチル-トランスフェラーゼ)などに対して耐性を付与する遺伝子が挙げられる。
【0078】
いくつかの実施形態では、選択マーカーをコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に結合している。いくつかの特に好ましい実施形態では、プロモーター配列は、例えば変異により変化し、無変化版のプロモーターと比較して、プロモーター活性が低下している。これらのプロモーターは、プロモーターに結合した遺伝子の発現が、高濃度とは対照的に、低濃度にて生じるという点で、弱いプロモーターと説明することができる。強力なプロモーターにより制御される遺伝子によって、さらなるmRNAが得られるため、弱いプロモーターにより制御される遺伝子よりも多くの生成物であるタンパク質が得られる。したがって、本発明は、好ましくは、変化した選択マーカーに対するプロモーターを利用し、相当する無変化プロモーターよりも少ないmRNAが得られる。
【0079】
いくつかの好ましい実施形態では、選択マーカーに作動可能に結合したプロモーターは、レトロウイルスまたはレンチウイルス由来の長末端反復(LTR)である。いくつかの特に好ましい実施形態では、プロモーターは、LTRのU3領域の全てまたは一部のいずれかを取り除くことにより変化した、LTRである。いくつかの実施形態では、選択マーカーに作動可能に結合したプロモーターは、自己不活型(SIN)LTRである。好適なSIN LTRは、当技術分野において公知である。いくつかの好ましい実施形態では、本発明のSIN LTRは、好ましくは、配列番号3に対して少なくとも80%、90%、95%、99%、または100%の同一性を有し、SIN LTRは、最も好ましくは、その中で、U3領域内に欠失が存在しない場合のプロモーター活性と比較して、プロモーター活性を低下させるU3領域内に欠失を有する。
【0080】
ベクターがレトロウイルスベクターである場合、ベクターは、SIN LTRがレトロウイルスベクター配列の3’LTRとなるように構築されることが理解されよう。U3の欠失は、逆転写の間に5’及び3’LTRにコピーされるという事実により、一体化したSINベクターは、U3が欠失したLTRのみを含有する。本発明の例示的なレトロウイルスベクターのマップを図2に示す。確認できるように、ベクターはSIN 3’LTRを含有する。逆転写されるとき、ベクターマップに示すhCMV-MOMuSVは、ベクターマップ内に示すSIN 3’LTRにより置き換えられるため、ベクターが宿主細胞の染色体に一体化されるとき、SIN LTRは、示したGS cDNAに作動可能に結合し、この発現を駆動する。
【0081】
本発明のある特定の好ましい実施形態では、発現ベクター内で対象のタンパク質をコードする核酸配列は、適切な発現調節配列(複数可)(プロモーター)に作動可能に結合して、mRNA合成を誘導する。本発明において有用なプロモーターとしては、LTRまたはSV40プロモーター、E.coli lacまたはtrp、ファージλ P及びP、T3及びT7プロモーター、ならびに、サイトメガロウイルス(CMV)前初期、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ、及びマウスメタロチオネイン-Iプロモーター、ならびに、原核細胞もしくは真核細胞、またはそれらのウイルス中で遺伝子の発現を制御することが知られている、他のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
上述のとおり、本発明のベクターの例示的なマップを図3に示し、これは配列番号2に対応する。いくつかの好ましい実施形態では、ベクターは、以下の要素を5’から3’の順に含む:
-5’LTR(hCMV-MoMuSV LTRにより例示される)
-レトロウイルス型パッケージング領域
-選択マーカーをコードする核酸(GS cDNAにより例示される)
-内部プロモーター(サルCMV(sCMV)プロモーターにより例示される)
-内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列(「Anyway」配列により例示される)
-WPRE配列
-SIN 3’LTR。
【0083】
いくつかの実施形態では、ベクターは、以下の要素を5’から3’の順に含むプラスミドである:1)5’LTR(例えばSIN LTR)、2)パッケージング領域、3)選択マーカー(例えばGS)、4)内部プロモーター(例えばCMVプロモーター)、及び、5)内部プロモーターに作動可能に結合した対象のタンパク質をコードする核酸配列。
【0084】
いくつかの実施形態では、ベクターは、対象のタンパク質をコードする核酸の下流に、単一のポリAシグナル配列を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ベクターは、以下の要素を5’から3’の順に含む:プロモーター(例えば、SIN)-選択マーカー-終止コドン-プロモーター(例えば、CMV)-対象のタンパク質-終止コドン-ポリA。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明は、宿主細胞及び宿主細胞培養液を提供し、宿主細胞は、上記のベクターから対象のタンパク質を発現する。好ましい実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞である。いくつかの哺乳動物宿主細胞が、当技術分野において公知である。一般に、以下でより詳細に記載するとおり、これらの宿主細胞は、適切な栄養素及び成長因子を含有する培地内の、単一層培養液又は懸濁培養液のいずれかに配置したときに、増殖及び生残可能である。典型的には、細胞は、対象の、多量の特定のタンパク質を、培地にて発現して分泌させることができる。好適な哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1、ATCC CCl-61)、ウシ乳房上皮細胞(ATCC CRL 10274;ウシ乳房上皮細胞)、SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)により転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胎児腎臓株(293細胞、又は、懸濁培養液中での増殖のためにサブクローニングされた293細胞;例えば、Graham et al.,J.Gen Virol.,36:59 1977を参照のこと。)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243-251[1980])、サル腎臓(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザルサル腎臓(VERO-76,ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA,ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34)、バッファロー系ラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065)、マウス乳癌(MMT 060562,ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68[1982])、MRC 5細胞、FS4細胞、ラット線維芽細胞(208F細胞)、MDBK細胞(ウシ腎臓細胞)、CAP(CEVECの羊膜細胞産生)細胞、及びヒト肝癌株(Hep G2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
いくつかの特に好ましい実施形態では、宿主細胞は、改変されて、宿主細胞が、選択剤の存在下での細胞の増殖または生残に必要な、そして、選択マーカーにより提供される酵素活性を欠損するようになる、または自然に欠損する。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は改変されて、GSを欠損している。ベクターがGS選択マーカーを含むいくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞株はGSを欠損している。いくつかの特に好ましい実施形態では、GS欠損宿主細胞株は、Merck KGaAから入手可能な、CHOZN(登録商標)GS-/-細胞株である。選択マーカーが例えばDHFRである他の実施形態では、細胞株は好ましくは、DHFR活性を欠損し得る(即ち、DHFRであり得る)。好適なDHFR-細胞株としては、CHO-DG44、及びその派生物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
ベクターは宿主細胞内に、任意の好適な手段により導入することができる。いくつかの好ましい実施形態では、対象のタンパク質をコードするベクター(例えば、レトロウイルスベクター)が作製されており、それらを使用して、宿主細胞をトランスフェクト、または形質導入することができる。好ましくは、宿主細胞に、少なくとも1、及び好ましくは、少なくとも2または3以上のレトロウイルスベクターの一体化をもたらすのに十分な感染多重度にて、一体化ベクターをトランスフェクト、または形質導入する。いくつかの実施形態では、10~1,000,000の感染多重度を利用することができ、感染した宿主細胞のゲノムは、2~1000コピーの一体化ベクター、好ましくは5~1000コピーの一体化ベクター、及び最も好ましくは、20~500コピーの一体化ベクターを含有するようになる。他の実施形態では、10~10,000の感染多重度を利用する。非偽型レトロウイルスベクターを感染のために使用するとき、宿主細胞は、所望の力価(即ち、コロニー形成単位・CFU)の感染性ベクターを含有する、レトロウイルスプロデューサー細胞由来の培地を用いてインキュベートする。偽型レトロウイルスベクターを利用するとき、ベクターを、超遠心分離により適切な力価まで濃縮した後、宿主細胞培養液に添加する。あるいは、濃縮したベクターを、細胞型に好適な培地にて希釈することができる。さらに、宿主細胞による、2つ以上の対象のタンパク質の発現が所望される場合、宿主細胞に、異なる対象のタンパク質をコードする核酸をそれぞれ含有する、複数のベクターをトランスフェクトすることができる。
【0088】
各場合において、宿主細胞を、感染、及びその後の、ベクターの一体化をさせるのに十分な期間、感染性レトロウイルスベクターを含有する培地に曝露させる。一般に、細胞と重なるように使用する培地の量は、細胞当たりでの一体化事象の最大量を援助するために、できるだけ少量で維持されなければならない。一般的な目安としては、1ミリリットル当たりのコロニー形成単位(cfu)の数は、所望される一体化事象の数に応じて、約10~10cfu/mLでなければならない。
【0089】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションまたは形質導入後に、細胞を繁殖させ、その後、トリプシン処理して再プレーティングする。個々のコロニーを次に選択して、クローン選択した細胞株を提供する。依然としてさらなる実施形態では、サザンブロッティングまたはPCRアッセイにより、クローン選択した細胞株をスクリーニングし、所望の数の一体化事象が生じたことを確認する。クローン選択により、優れたタンパク質を産生する細胞株の同定が可能となることもまた企図される。他の実施形態では、細胞は、トランスフェクションの後にクローン選択されない。
【0090】
いくつかの実施形態では、宿主細胞に、異なる対象のタンパク質をコードするベクターをトランスフェクトする。異なる対象のタンパク質をコードするベクターを使用して、細胞を同時にトランスフェクトすることができる(例えば、宿主細胞を、異なる対象のタンパク質をコードするベクターを含有する溶液に曝露する)か、または、トランスフェクションは逐次であることができる(例えば、宿主細胞にまず、第1の対象のタンパク質をコードするベクターをトランスフェクトし、一定期間を経過させ、次に、宿主細胞に、第2の対象のタンパク質をコードするベクターをトランスフェクトする)。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞に、第1の対象のタンパク質をコードする一体化ベクターをトランスフェクトし、複数の一体化コピーの一体化ベクターを含有する、高発現細胞株を選択し(例えば、クローン選択し)、選択した細胞株に、第2の対象のタンパク質をコードする一体化ベクターをトランスフェクトする。本プロセスを繰り返して、複数の対象のタンパク質を導入してよい。いくつかの実施形態では、感染症多重度を操作して(例えば、増加または低下させて)、対象のタンパク質の発現を増加または低下させることができる。同様に、異なるプロモーターを利用して、対象のタンパク質の発現を変化させることができる。これらのトランスフェクション法を使用して、全外因性代謝経路を含有する宿主細胞株を構築することができるか、または、タンパク質を処理する能力が増加した宿主細胞を提供することができる(例えば、宿主細胞は、翻訳後修飾に必要な酵素を提供することができる)ことが企図される。
【0091】
更に別の実施形態では、細胞株に、同一遺伝子をコードするベクターを連続してトランスフェクトする。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞に、対象のタンパク質をコードする一体化ベクターを(例えば、約10~1,000,000、好ましくは100~10,000のMOIで)トランスフェクトし、1つ、または複数の一体化コピーの、一体化ベクター、または高濃度の所望のタンパク質を含有する細胞株を選択し(例えば、クローン選択し)、選択した細胞株に、そのベクターを(例えば、約10~1,000,0000、好ましくは100~10,000のMOIにて)再度トランスフェクトする。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの一体化コピーのベクターを含む細胞株を同定して選択する。本プロセスを、所望のレベルのタンパク質発現が得られるまで複数回繰り返してよく、また、繰り返すことで、複数の対象のタンパク質をコードするベクターを導入してもよい。予想外なことに、同一遺伝子の連続トランスフェクションにより、単なる付加ではない得られた細胞からの、タンパク質産生の増加がもたらされる。
【0092】
本発明は、様々な連続トランスフェクション手順を企図する。レトロウイルスベクターを利用するいくつかの実施形態では、連続形質導入手順が提供される。好ましい実施形態では、連続形質導入を、細胞のプールにて実施する。これらの実施形態では、宿主細胞の初期プールにレトロウイルスベクターを、好ましくは、約0.5~約1000ベクター/宿主細胞の範囲の感染多重度にて接触させる。次に、細胞を適切な培地にて(例えば、選択剤を用いて)数日間培養する。次に、細胞のアリコートを採取し、一体化ベクターの数を測定し、将来可能性のある使用のために凍結させる。次に、残りの細胞を再び、好ましくは、約0.5~約1000ベクター/宿主細胞の範囲の感染多重度にて、再接触させる。本プロセスを、所望の数の一体化ベクターを有する細胞が得られるまで繰り返す。例えば、本プロセスを、最大10~20回、またはそれ以上繰り返すことができる。いくつかの実施形態では、任意の特定の形質導入ステップの後で、所望される場合には細胞をクローン選択することができるが、形質導入の不存在下にて、細胞のプールを利用することにより、所望の一体化ベクターコピー数に達するまでの時間が減少する。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態では、培地中での、好適な宿主株の形質転換、及び宿主株の、適切な細胞密度への増殖の後、宿主細胞の培養中に対象のタンパク質が分泌される。増幅可能なマーカーを利用するいくつかの好ましい実施形態では、培地における形質導入した宿主細胞の培養液は、遺伝子の阻害剤を含むことが企図される。好適な阻害剤としては、DHFRの阻害のためのメトトレキサート、及び、GSの阻害のためのメチオニンスルホキシミン(Msx)またはホスフィノトリシンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの阻害剤の濃度が細胞培養系で増加すると、大きいコピー数の増幅可能なマーカー(そして故に、対象の1または複数の遺伝子)を有するか、あるいは高産生挿入を含有する細胞 が選択されることが企図される。
【0094】
したがって、上述したベクターを含有する宿主細胞を、当該技術分野において公知の方法に従って培養する。哺乳動物細胞にとっての好適な培養条件は、当該技術分野において周知である(例えば、J.Immunol.Methods (1983)56:221-234[1983],Animal Cell Culture:A Practical Approach 2nd Ed.,Rickwood,D.and Hames,B.D.,eds.Oxford University Press,New York[1992]を参照のこと)。
【0095】
本発明の宿主細胞培養液は、培養される特定の細胞にとって好適な培地にて調製する。ActiPro培地(Hyclone)、ExCell Advanced Fed Batch培地(SAFC)、Ham’s F10(Sigma,St.Louis,MO)、Minimal Essential培地(MEM,Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)などの市販されている培地が、例示的な栄養素溶液である。好適な培地は、米国特許第4,767,704号、同第4,657,866号、同第4,927,762号、同第5,122,469号、同第4,560,655号、ならびに、WO 90/03430及びWO 87/00195にもまた記載されており、これらの開示は参照により本明細書に援用される。これらの培地のいずれも、必要に応じて血清、ホルモン及び/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、もしくは上皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン(gentamycin/gentamicin))、微量元素(通常、終濃度にてマイクロモル範囲で存在する無機化合物として定義される)、脂質類(リノレン酸もしくは他の脂肪酸)及びそれらの好適な担体、ならびにグルコース、または等価なエネルギー供給源を補充することができる。GSなどの選択マーカーが利用されるいくつかの好ましい実施形態では、例えば、培地はグルタミンを欠いている。任意の他の必要な補充物質もまた、当業者に公知の適切な濃度で含めることができる。
【0096】
本発明は、トランスフェクトした宿主細胞に対する、様々な培養系(例えば、ペトリ皿、96ウェルプレート、ローラーボトル、及びバイオリアクター)の使用もまた企図する。例えば、トランスフェクトした宿主細胞を、灌流系にて培養することができる。灌流培養とは、高細胞密度で維持した培養液を通して、培地の連続した流れを提供することを意味する。細胞は懸濁され、増殖のための固体支持体は必要ではない。一般的には、新鮮な栄養素を、毒性代謝産物の除去、及び理想的には、死細胞の選択的除去に伴って、連続して供給しなければならない。濾過、封込め、及びマイクロカプセル化法は全て、十分な速度で培養環境を新しくするのに好適である。
【0097】
別の例として、いくつかの実施形態では、流加培養手順を用いることができる。好ましい流加培養において、哺乳動物宿主細胞及び培地を、まず培養容器に供給し、追加の培養栄養素が、培養中に培養液に連続して、または離散した増分で供給され、培養終了前に、周期的に細胞及び/または生成物が回収されるか、またはされない。流加培養としては、例えば、周期的に全ての培養液(細胞と培地を含む。)が取り除かれ、新鮮な培地で交換される、半連続式流加培養を挙げることができる。流加培養は、細胞培養のための全ての構成成分(細胞、及び全ての培養栄養素を含む。)が、培養プロセスの開始時に培養容器に供給される、単純なバッチ培養とは区別される。流加培養は更に、上清がプロセス中に培養容器から取り除かれない限りにおいて、灌流培養とは区別することができる(灌流培養では、細胞は例えば、濾過、カプセル化、マイクロ担体へのアンカリングにより、培養液中に保持される。そして培地が連続して、または断続的に導入され、培養容器から取り除かれる)。いくつかの特に好ましい実施形態では、バッチ培養はローラーボトル内で実施される。
【0098】
さらに、培養液の細胞は、企図される特定の宿主細胞、及び特定の産生計画に好適であり得る、任意のスキームまたはルーチンに従い繁殖させることができる。したがって、本発明は、単一ステップまたは複数ステップの培養手順を企図する。単一ステップ培養において、宿主細胞を培養環境に播種し、本発明のプロセスを、細胞培養の1回の産生期の間に用いる。あるいは、複数段階培養が想定される。複数段階培養において、細胞はいくつかのステップまたは段階で培養することができる。例えば、細胞を、第1ステップまたは増殖期培養液中で成長させることができる。この段階において、場合により貯蔵庫から取り除かれた細胞が、増殖及び高生存能を促進するのに好適な培地に播種される。新鮮な培地を宿主細胞培養液に添加することにより、細胞を好適な期間、増殖期で維持することができる。
【0099】
流加または連続細胞培養条件を考案して、細胞培養液の増殖期における哺乳動物細胞の増殖を向上させる。増殖期において、細胞は、増殖のために最大化された条件下で、及び期間内に増殖する。培養条件、例えば温度、pH、溶存酸素(dO)などが、特定の宿主で用いられるものであり、当業者には明らかであろう。一般に、酸(例えばCO)または塩基(例えば、NaCOもしくはNaOH)のいずれかを使用して、pHを、約6.5~7.5のレベルに調節する。CHO細胞などの哺乳動物細胞を培養するのに好適な温度範囲は、約30℃~38℃であり、好適なdOは、5~90%の空気飽和度である。
【0100】
ポリペプチド産生期に続いて、対象のポリペプチドを、当該技術分野にて十分に確立された技術を用いて、培地から回収する。対象のタンパク質は、分泌したポリペプチドとして培地から回収されるのが好ましい(例えば、対象のタンパク質の分泌はシグナルペプチド配列により誘導される)が、対象のタンパク質は宿主細胞可溶化物から回収されてもよい。第1のステップとして、培地または溶解物を遠心分離にかけて、粒子状の細胞片を除去する。その後、ポリペプチドを汚染物質可溶性タンパク質及びポリペプチドから精製する。以下の手順が、好適な精製手順の例である:免疫親和性またはイオン交換カラムでの分留、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ、または、DEAEなどのカチオン交換樹脂でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、例えばSephadex G-75を用いるゲル濾過、及び、IgGなどの汚染物質を取り除くためのプロテインAセファロースカラム。フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)などのプロテアーゼ阻害剤もまた、精製中にタンパク質分解を阻害するのに有用であり得る。さらに、対象のタンパク質をインフレームで、対象のタンパク質の精製を可能にするマーカー配列に融合することができる。マーカー配列の非限定例としては、ヘキサヒスチジンタグ(ベクター、好ましくはpQE-9ベクターにより供給され得る)、及び、ヘマグルチニン(HA)タグが挙げられる。HAタグは、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する(例えば、Wilson et al.,Cell,37:767[1984]を参照のこと)。当業者は、対象ポリペプチドに好適な精製方法では、組換え細胞内での発現の際に、ポリペプチドの特徴の変化を考慮するための改変が必要となり得ることを理解するであろう。
【0101】
実験
本発明は、細胞の、対象のタンパク質の高力価及び特異的生産性を生み出す能力が予想外に改善された、グルタミンシンターゼ(GS)ノックアウトCHO細胞株系と組み合わせた、レトロウイルス型形質導入(本明細書において、GPEx(登録商標)技術と呼ばれる)を組み合わせる独自の方法を提供する。これらの研究で使用したGSノックアウト細胞株は、MilliporeSigmaから入手可能なCHOZN細胞株であった。GPEx(登録商標)技術は、通常のCHO細胞にて以前に行われたものに類似の方法で実施した。しかし、ウイルス発現ベクターにおいて、GSノックアウト細胞株での選択に用いるGS遺伝子は、Catalentにて我々が用いたGPEx発現ベクターのあるバージョンに存在する、SIN(自己不活型)LTR由来の非常に弱いプロモーターから駆動された。当該ベクター、通常のGPEx細胞株産生プロセス、及びGSノックアウトCHO細胞株の組合せにより、未改変CHO細胞株において、従来のGPExプロセスよりも、最大7倍高い産生レベルが得られた。
【0102】
実験1:
2種類のプールした細胞株を、2つの異なるウイルスベクターから作製した。両方の株を、通常のGPEx形質導入プロセス、及びGSノックアウト細胞株CHOZNを用いて作製した。両方の発現ベクターを、試験タンパク質「Anyway」を発現するように設計した。AnywayはFc融合タンパク質である。2つの発現ベクターの唯一の差は、一方のベクターは、細胞株への挿入後に、GS遺伝子の発現を駆動する完全長モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)LTRを有し、他方のベクターは、GSの発現を駆動するMMLV SIN LTRを有するであろうということであった。レトロベクター粒子を作製するために使用した遺伝子構築物を、図1及び2に示す。遺伝子構築物用の配列を、図3及び4に示す。
【0103】
CHOZN細胞株の開発
レトロベクターの作製:概要を上記した発現構築物を、MLV gag、pro、及びpolタンパク質を構造的に産生する、HEK293細胞株に導入した。発現プラスミドを含有するエンベロープもまた、遺伝子構築物のそれぞれと同時にトランスフェクトした。同時トランスフェクションにより複製不能高力価レトロベクターの作製がもたらされ、それを超遠心分離により濃縮して、細胞形質導入のために用いた(1、2)。上記構築物を用いて作製したレトロベクターを用いる、CHO細胞への形質導入により、hCMV-MoMuSV 5’LTRを置き換え、その後、プールした細胞株にてGS遺伝子の発現を制御する、配列の5’末端に複製されている、3’LTR配列が得られる。
【0104】
CHOZN細胞への、レトロベクターの形質導入:上記構築物のそれぞれに由来するレトロベクター挿入を含有する、プールした細胞株を、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株に、Anywayタンパク質を発現するように開発した遺伝子構築物から作製したレトロベクターを形質導入することにより作製した。単一サイクルの形質導入を実施して、2つの構築物のそれぞれに対して、プールした細胞株を生成した。細胞形質導入の完了時に、細胞株を、グルタミン非含有培地に配置して、GS選択を実施した。
【0105】
プールした2つの細胞集団からの、Anywayの流加培養産生:形質導入後、プールした細胞株を、生産性のために流加培養研究にて、250mLの振盪フラスコ内にて二連でスケールアップした。各振盪フラスコに、50mLの作業体積のExCell Advanced Fed Batch Medium(SAFC)にて、1mL当たり300,000個の、生存能力のある細胞を播種し、110rpmにて5%のCO、及び37℃の温度で、加湿(70~80%)振盪インキュベーター内でインキュベートした。産生の間、ある供給サプリメントを用いて、3日目から、培養液を隔日で供給した。グルコースを毎日監視し、濃度が4g/Lを下回る場合に、グルコースを補充した。生存能力が50%以下になったときに、培養を終えた。
【0106】
結果
結果を表1、及び図5に示す。これらの結果は驚くべきものである。2つのプールにおいて、同様の平均遺伝子コピー数にて、プールした2つの細胞株の間には、大きな力価の差があった。そのため、わずかに高い平均遺伝子コピー数であっても、野生型または完全長LTR遺伝子構築物は著しく低い力価をもたらし、これは、遺伝子インサート当たりでの著しく低い細胞特異的生産性にもつながった。SIN版の遺伝子構築物を含有する高発現細胞の選択または競合的利点が生じる。
【0107】
【表1】
【0108】
実験2:
以前の結果に基づき、我々は、従来のGPEx技術を実践する方法と、本技術をまさに同じ方法で(ただし、CHOZN GSノックアウト細胞株と組み合わせて、上述したSIN-GSベクターを用いて)実践する方法とを比較するための実験を設計した。プロセスは、2つの主な差があったのみで、できるだけ同一とした。従来のGPExである最初のプロセスは、GPEx(登録商標)チャイニーズハムスター卵巣(GCHO)親細胞株を用い、新しいバージョンは、CHOZN細胞株を用いる。第2の差は、レトロベクターを作製するために用いた遺伝子構築物が異なっていたということである。従来のGPExに関しては、構築物はGS遺伝子を含有せず、新しいバージョンに関しては、構築物はGS遺伝子を含有する。遺伝子構築物の他の全ての要素は同様であった。構築物のそれぞれは再び、Anywayタンパク質を発現する。プールした細胞株が各方法に関して完了した後、流加培養分析にて、細胞株の産生を比較した。
【0109】
GCHO及びCHOZN細胞株の開発:
レトロベクターの作製:発現構築物を、MLV gag、pro、及びpolタンパク質を構造的に産生する、HEK293細胞株に導入した。発現プラスミドを含有するエンベロープもまた、遺伝子構築物のそれぞれと同時にトランスフェクトした。同時トランスフェクションにより複製不能高力価レトロベクターの作製がもたらされ、それを超遠心分離により濃縮して、細胞形質導入のために用いた(1、2)。
【0110】
CHOZN細胞への、レトロベクターの形質導入:CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株、または、GCHOチャイニーズハムスター卵巣親細胞株のいずれかに、共にAnywayタンパク質を発現するように開発した、GSを含有する遺伝子構築物、またはGS非含有の遺伝子構築物のいずれかから作製したレトロベクターを形質導入することにより、構築物のそれぞれに由来するレトロベクター挿入を含有する、プールした細胞株を作製した。3サイクルの形質導入を実施して、対応する細胞株にて2つの構築物のそれぞれに対する、プールした細胞株を作製した。追加のサイクルによっては典型的には、細胞株内でのインサートの数、及びその後、遺伝子コピー数が増加する。形質導入の各サイクルの完了時に、CHOZNベースの細胞プールを、GS選択のためにグルタミン非含有培地に配置した。従来のGPEx細胞は通常の手順のように選択を行わなかった。
【0111】
結果
予想通り、両方の方法において、形質導入のサイクルを繰り返すと、コピー数は増加した。しかし、表2に示すとおり、従来のGPExと比較して、新規のGPEx細胞プールのそれぞれにおいて、著しく高い遺伝子コピー数が観察された。
【0112】
【表2】
【0113】
プールした2つの細胞集団からの、Anywayの流加培養産生(3サイクルの形質導入):形質導入後、プールした細胞株を、生産性のために流加培養研究にて、250mLの振盪フラスコ内にて二連でスケールアップした。各振盪フラスコに、50mLの作業体積のActiPro培地(HyClone)にて、1mL当たり300,000個の、生存能力のある細胞を播種し、120rpmにて5%のCO、及び37℃(6日目からは34℃)の温度で、加湿(70~80%)振盪インキュベーター内でインキュベートした。2つの異なる供給サプリメントを用いて、産生実行の間に培養液を6回供給した。グルコースを監視し、濃度が4g/Lを下回る場合に、グルコースを補充した。生存能力が50%以下になったときに、培養を終えた。
【0114】
結果を表3及び図6に示す。再び、非常に予想されない結果が観察された。Anyway生成物を産生する、最適化された従来のGPExクローン細胞株は、最大1.8g/Lにて発現し、新規のGPExプールは、任意のクローン選択前に、その発現を2倍を超えて上回る。新規のGPExプールは、実験#1で見られたように、高いコピー数、及び、遺伝子インサート当たりでの多くの産生の両方を有する。これら2つを合わせることにより、新規のGPExプールに対して、ほぼ3倍高いpg/細胞/日での細胞特異的生産性の著しい差が得られた。従来のプールと比較して、生存能力がある全体の細胞密度もまた、新規のGPExプールでは高く、観察された実質的な力価の差をまた促進する。
【0115】
【表3】
【0116】
実験3及び4:
上記データは、単一遺伝子から作製したFc融合物に対するものである。実験3及び4は、GPEx(登録商標)技術、ならびに、GS発現を駆動するためのSIN LTRを用いる新規プロセスの両方を用いる、2つの異なる抗体 「Peelaway」及び「Yourway」による、個別の重鎖及び軽鎖ベクターの形質導入(両方に対して、2つの軽鎖形質導入、及び3つの重鎖形質導入)を利用する。
【0117】
レトロベクターの作製:発現構築物を、MLV gag、pro、及びpolタンパク質を構造的に産生する、HEK293細胞株に導入した。発現プラスミドを含有するエンベロープもまた、遺伝子構築物のそれぞれと同時にトランスフェクトした。同時トランスフェクションにより複製不能高力価レトロベクターの作製がもたらされ、それを超遠心分離により濃縮して、細胞形質導入のために用いた(1、2)。
【0118】
CHOZN細胞への、レトロベクターの形質導入:構築物のそれぞれに由来するレトロベクター挿入を含有する、プールした細胞株を、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株、または、GCHOチャイニーズハムスター卵巣親細胞株のいずれかに、上記2つの異なる抗体を発現するように開発した、GSを含有する重鎖及び軽鎖遺伝子構築物、または、GS非含有の遺伝子構築物いずれかから作製したレトロベクターを形質導入することにより作製した。2サイクルの軽鎖形質導入、及び3サイクルの重鎖形質導入を実施して、対応する抗体細胞株のそれぞれにおいて、4つの構築物のそれぞれに対する、プールした細胞株を生成した。追加のサイクルによっては典型的には、細胞株内でのインサートの数、及びその後、遺伝子コピー数が増加する。形質導入の各サイクルの完了時に、CHOZNベースの細胞プールを、GS選択のためにグルタミン非含有培地に配置した。従来のGPEx細胞は通常の手順のように選択を行わなかった。
【0119】
プールした集団細胞株からの、流加培養でのPeelaway及びYourwayの作製(2サイクルの軽鎖形質導入、及び3サイクルの重鎖形質導入):形質導入後、プールした細胞株を、生産性のために流加培養研究にて、250mLの振盪フラスコ内にて二連でスケールアップした。各振盪フラスコに、50mLの作業体積のActiPro培地(HyClone)にて、1mL当たり300,000個の、生存能力のある細胞を播種し、120rpmにて5%のCO、及び37℃(6日目からは34℃)の温度で、加湿(70~80%)振盪インキュベーター内でインキュベートした。2つの異なる供給サプリメントを用いて、産生実行の間に培養液を6回供給した。グルコースを監視し、濃度が4g/Lを下回る場合に、グルコースを補充した。生存能力が50%以下になったときに、培養を終えた。
【0120】
結果
結果を表4、及び図5に示す。新規のベクター及びプロセスにて、力価の著しい利点が観察された。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
追加のコピー数分析を、4つのYourway細胞プールで実施した。1回の軽鎖形質導入、及び2回の重鎖形質導入サイクル後に生成した細胞プールを、2回の軽鎖形質導入サイクル、及び3回の重鎖形質導入サイクル後に生成した細胞プールと比較した。これらのプールした2つの細胞株のそれぞれを、グルタミン含有培地にて増殖を続けるように設定するか、または、グルタミンを欠く培地に配置するかのいずれかとした。遺伝子総数に対する遺伝子コピー数、重鎖遺伝子の数、及び軽鎖遺伝子の数を、プールした4つの細胞株のそれぞれに対して計算した。
【0124】
【表6】
【0125】
これらのデータは、これらのプール内の細胞のそれぞれは、SIN LTRから駆動された多数のコピーのGS遺伝子を有するものの、より多くのコピーを有するもの、及び、上記データに基づくと、より高濃度で発現しているそれらのコピーに対して生じる著しい選択が存在する。
【0126】
実験5
本実験のためには、Yourway抗体生成物を使用した。細胞株を生成するために使用した重鎖遺伝子構築物は、実験4で使用したものと同一であった。軽鎖コード配列を含有し、GS遺伝子を欠いていることを除き、軽鎖遺伝子構築物は、全ての点で重鎖遺伝子構築物と同一であった。軽鎖(-GS)及び重鎖(+GS)を含有する各レトロベクターに対して、1回の形質導入を実施して、プールした細胞株を生成した。
【0127】
レトロベクターの作製:発現構築物を、MLV gag、pro、及びpolタンパク質を構造的に産生する、HEK293細胞株に導入した。発現プラスミドを含有するエンベロープもまた、遺伝子構築物のそれぞれと同時にトランスフェクトした。同時トランスフェクションにより複製不能高力価レトロベクターの作製がもたらされ、それを超遠心分離により濃縮して、細胞形質導入のために用いた、(1、2)。
【0128】
CHOZN細胞への、レトロベクターの形質導入:構築物のそれぞれに由来するレトロベクター挿入を含有する、プールした細胞株を、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株に、GS非含有の軽鎖遺伝子構築物、及び、GSを含有する重鎖構築物から作製したレトロベクターを形質導入することにより作製した。1サイクルの軽鎖形質導入、及び1サイクルの重鎖形質導入を実施して、プールした細胞株を生成した。両方のサイクルの形質導入の完了時に、CHOZNベースの細胞プールを分け、細胞発現、及びその後の生産性評価の間に、半分はグルタミン非含有培地に配置し、もう半分は、グルタミンを補充し続けた。
【0129】
プールした集団細胞株からの、流加培養でのYourwayの作製(1回の軽鎖形質導入、及び1回の重鎖形質導入):プールした細胞株を、流加培養研究での生産性のために250mL振盪フラスコでスケールアップした。振盪フラスコに、50mLの作業体積のActiPro培地(HyClone)にて、1mL当たり300,000個の、生存能力のある細胞を播種し、120rpmにて5%のCO、及び37℃(6日目からは34℃)の温度で、加湿(70~80%)振盪インキュベーター内でインキュベートした。2つの異なる供給サプリメントを用いて、産生実行の間に培養液を6回供給した。グルコースを監視し、濃度が4g/Lを下回る場合に、グルコースを補充した。グルタミンを補充した培地のグルタミンを毎日監視し、濃度が2mMを下回った場合に補充した。生存能力が50%以下になったときに、培養を終えた。
【0130】
結果
結果を表7に示す。グルタミンを取り除いて選択することにより、細胞プールでの重鎖遺伝子のコピー数が増加した。いくぶん驚くべきことに、重鎖と同程度の増加ではないが、軽鎖のコピー数もまた増加した。抗体の全産生もまた、表5に示すものに達する濃度で選択しなかった培養液よりも著しく高く、当該実験のために完了した5つの代わりに、2つの形質導入のみを実施した。
【0131】
【表7】
【0132】
実験6
遺伝子構築物を設計して作製し、レトロベクター形質導入と比較して、従来の細胞トランスフェクション法を用いて、技術が同様に挙動するか否かを試験した。生成した従来のプラスミドトランスフェクション構築物の一例を、図8(プラスミドマップ)及び図9(実際のプラスミド配列、配列番号4)に示す。
【0133】
1.Bleck,G.T. 2005 An alternative method for the rapid generation of stable,high-expressing mammalian cell lines (A Technical Review).Bioprocessing J.Sep/Oct.pp 1-7.
2.Bleck,G.T.,2010.GPEx(R)A Flexible Method for the Rapid Generation of Stable,High Expressing,Antibody Producing Mammalian Cell Lines Chapter 4 In:Current Trends in Monoclonal Antibody Development and Manufacturing,Biotechnology: Pharmaceutical Aspects,Edited by: S.J.Shire et al.(c)2010 American Association of Pharmaceutical Scientists,DOI 10.1007/978-0-387-76643-0_4.
【0134】
上記明細書に記載した全ての刊行物及び特許は、参照により本明細書に援用される。記載される本発明の方法及びシステムの種々の修正及び変形は、本発明の範囲及び主旨から逸脱することなく当業者には明白である。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して記載されているが、特許請求される本発明がこのような特定の実施形態に過度に制限されてはならないことは理解されよう。実際、本発明の分野の当業者には明らかである本発明を実施するための記載されている方法の種々の変更は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
図1】完全長MMLV構築物のマップである。
図2】SIN MMLV LTR構築物のマップである。
図3-1】完全長MMLV構築物の配列(配列番号1)である。
図3-2】図3-1の続き
図3-3】図3-2の続き
図4-1】SIN MMLV LTR構築物の配列(配列番号2)である。
図4-2】図4-1の続き
図4-3】図4-2の続き
図5】完全長MMLV構築物とSIN MMLV LTR構築物との、プールした細胞株の力価比較である。
図6】完全長MMLV構築物を用いるプロセスと、SIN MMLV LTR構築物を用いるプロセスとの、プールした細胞株の力価比較である。
図7】SIN LTR配列(配列番号3)である。
図8】プロウイルス型プラスミド構築物のマップ(配列番号4)である。
図9-1】プロウイルス型プラスミド構築物の配列(配列番号4)である。
図9-2】図9-1の続き
図9-3】図9-2の続き
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
【配列表】
2022510813000001.app
【国際調査報告】