(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】充電式電池のアノード用の電気化学的活性分散物及び複合材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20220121BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220121BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220121BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220121BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220121BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20220121BHJP
C01B 33/113 20060101ALI20220121BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/48
H01M4/134
C01B33/02 Z
C01B33/113 A
C01B33/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528881
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 US2019064956
(87)【国際公開番号】W WO2020131429
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521218504
【氏名又は名称】ノボニクス バッテリー テスティング サービシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】オブロヴァツ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】カオ,イダン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュン
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA20
4G072AA24
4G072AA25
4G072BB05
4G072GG02
4G072GG03
4G072MM02
4G072QQ20
4G072TT01
4G072TT06
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
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5H050GA29
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】アルカリ金属又はアルカリ土類金属(例えば、リチウム)との電気化学的活性に関して、グラファイトと、活性相(例えば、Si)及び不活性相の両方を含む合金粒子とを含む微粒子分散物及び複合材料が開示される。
【解決手段】合金粒子は、新規な方法で、グラファイト粒子とともに一次粒子として、及び/又はグラファイト粒子のマトリックス内に高度に分散され、簡易なメカノフュージョン乾式処理方法を使用して調製できる。調製された複合材料では、合金粒子は、実質的にグラファイトマトリックスの層間に埋め込まれている。これらの分散物又は複合材料を充電式リチウム電池のリチウム挿入アノードに使用すると、高い容量、良好なサイクル性能、及び速度能力などの性能が向上することができる。
【選択図】
図4a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトマトリックスと、
前記グラファイトマトリックス内の合金粒子と、
を含む、微粒子複合材料であって、
前記合金粒子は、電気化学的活性相と、電気化学的不活性相とを含み、
前記グラファイトマトリックスは、CuK
α放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd
002間隔、及びFWHMは0.4°未満である{002}X線回折ピークを特徴とするグラファイト結晶構造を有し、
前記活性相は、非晶質であるか、又は50nm未満の平均粒径を有し、
前記合金粒子は、実質的に前記グラファイトマトリックスの層間に埋め込まれている、
微粒子複合材料。
【請求項2】
前記活性相は、リチウムに対して電気化学的に活性であり、前記不活性相は、リチウムに対して電気化学的に不活性である、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項3】
前記グラファイトマトリックスは、非グラファイトカーボンを実質的に含まない、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項4】
前記活性相は、Si、Sn、及びAlからなる群から選択される、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項5】
前記活性相は、Siである、請求項4に記載の微粒子複合材料。
【請求項6】
前記不活性相は、Si-M金属間化合物であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、及びWの1つ以上である、請求項4に記載の微粒子複合材料。
【請求項7】
前記不活性相は、FeSi
2である、請求項6に記載の微粒子複合材料。
【請求項8】
前記合金粒子は、シリコンと酸素とを含む、請求項4に記載の微粒子複合材料。
【請求項9】
前記合金粒子は、シリコンと鉄とを含む、請求項4に記載の微粒子複合材料。
【請求項10】
前記合金粒子は、SiとSiO
2とFeSi
2とを含む、請求項4に記載の微粒子複合材料。
【請求項11】
前記不活性相は、非晶質である、又は50nm未満の平均粒径を有する、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項12】
前記グラファイトマトリックス内の前記合金粒子は、1μm未満の平均粒径を有する一次合金粒子である、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項13】
前記グラファイトマトリックス内の前記合金粒子は、0.1μm超の平均粒径を有する一次合金粒子である、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項14】
前記微粒子複合材料は、5~50μmの範囲の平均粒径を有する、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項15】
前記微粒子複合材料は、5~10μmの範囲の平均粒径を有する、請求項14に記載の微粒子複合材料。
【請求項16】
前記微粒子複合材料は、球形を有する、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項17】
前記微粒子複合材料は、10m
2/g未満の表面積を有する、請求項1に記載の微粒子複合材料。
【請求項18】
炭素質材料でコーティングされた請求項1に記載の微粒子複合材料を含むカーボンコーティングされた微粒子複合材料。
【請求項19】
グラファイト粒子と、
合金粒子と、
を含む微粒子分散物であって、前記合金粒子は、電気化学的活性相と電気化学的不活性相とを含み、
前記分散物を含む前記合金粒子の半分超が、遊離の一次合金粒子の形態であり、
前記活性相は、非晶質であるか、又は50nm未満の平均粒径を有し、
前記一次合金粒子は、1μm未満の平均粒径を有する、
微粒子分散物。
【請求項20】
前記グラファイト粒子は、CuK
α放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd
002間隔、及びFWHMは0.4°未満である{002}X線回折ピークを特徴とするグラファイト結晶構造を有する、請求項19に記載の微粒子分散物。
【請求項21】
前記分散物は、実質的に合金二次粒子を含まない、請求項19に記載の微粒子分散物。
【請求項22】
前記一次合金粒子は、シリコンと遷移金属とを含み、実質的にアルミニウムを含まない、請求項19に記載の微粒子分散物。
【請求項23】
グラファイト粒子と合金粒子とを含む微粒子分散物を作製する方法であって、前記合金粒子は、電気化学的活性相と電気化学的不活性相とを含み、
前記活性相と前記不活性相とを含むある量の合金粒子を得ることと、
ある量のグラファイト粒子を得ることと、
メカノフュージョンシステムにおいて前記合金粒子を前記グラファイト粒子とメカノフュージョンし、これによって前記合金粒子及び前記グラファイト粒子を分散させることと、
を含む方法。
【請求項24】
前記グラファイト粒子は、CuK
α放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd
002間隔、及びFWHMは0.4°未満である{002}X線回折ピークを有するグラファイト結晶構造を特徴とするグラファイトマトリックスを有し、
前記活性相は、非晶質であるか、又は50nm未満の平均粒径を有し、
前記メカノフュージョンは、前記グラファイト粒子の層間に前記合金粒子を実質的に埋め込むのに十分な時間実行され、これによって前記微粒子分散物は微粒子複合材料である、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記合金粒子は、シリコンと酸素と鉄とを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記グラファイト粒子は、球状のグラファイト粒子又はグラファイトフレーク粒子である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記得られたグラファイト粒子の重量比に対する前記活性相と前記不活性相とを含む前記得られた合金粒子の重量比は、約1:4である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記メカノフュージョンが、少なくとも、前記メカノフュージョンされた合金粒子の表面積が、メカノフュージョン前の前記活性相と前記不活性相とを含む前記得られた合金粒子の表面積及び更に前記得られたグラファイト粒子の表面積よりも小さくなるまで行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記メカノフュージョンシは、30分を超えて行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記メカノフュージョンシステムは、チャンバーと、前記チャンバー内の回転壁と、前記回転壁内のスクレーパーと、前記回転壁内のプレスヘッドとを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記メカノフュージョン工程は、
前記スクレーパーと前記回転壁との間に約0.5mmのギャップを設定することと、
前記プレスヘッドと前記回転壁との間に約1.4mmのギャップを設定することと、
前記回転壁を約2500rpmで回転させることと、
を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項23に記載の方法に従って作製されたグラファイト粒子と合金粒子とを含む微粒子分散物。
【請求項33】
請求項24に記載の方法に従って作製されたグラファイトマトリックスと前記グラファイトマトリックス内の合金粒子とを含む微粒子複合材料。
【請求項34】
請求項1に記載の微粒子複合材料を含む充電式リチウム電池用のリチウム挿入アノード。
【請求項35】
請求項19に記載の微粒子分散物を含む充電式リチウム電池用のリチウム挿入アノード。
【請求項36】
請求項32に記載の微粒子分散物を含む充電式リチウム電池用のリチウム挿入アノード。
【請求項37】
リチウム挿入カソードと、リチウムカチオン伝導性電解質と、リチウム挿入アノードとを含み、前記アノードは、請求項1に記載の微粒子複合材料を含む、充電式リチウム電池。
【請求項38】
リチウム挿入カソードと、リチウムカチオン伝導性電解質と、リチウム挿入アノードとを含み、前記アノードは、請求項19に記載の微粒子分散物を含む、充電式リチウム電池。
【請求項39】
リチウム挿入カソードと、リチウムカチオン伝導性電解質と、リチウム挿入アノードとを含み、前記アノードは、請求項32に記載の微粒子分散物を含む、充電式リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、グラファイトと電気化学的活性相及び不活性相を含む合金粒子との微粒子分散物及び複合材料、これらの分散物及び複合材料の作製方法、リチウム挿入アノード、並びにこのアノードを含む充電式リチウム電池に関する。特に、本発明は、リチウム電池において向上したアノード性能を提供するシリコン合金粒子とグラファイトとを含む微粒子分散物及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リチウムイオン電池などの充電式高エネルギー密度の電池の開発は、技術的に非常に重要である。リチウム遷移金属酸化物カソードとグラファイトアノードを使用する市販の充電式電池は、そのエネルギー密度の限界に近づいている(C. Liu, F. Li, L.-P. Ma and H.-M. Cheng, Adv. Mater., 2010, 22, E28-E62、又はR. Marom, S. F. Amalraj, N. Leifer, D. Jacob and D. Aurbach, J. Mater. Chem., 2011, 21, 9938-9954を参照)。
【0003】
こうした電池の性能を向上させるために、シリコンの理論容量が高いことから(3579mAh/g又は2194Ah/L、M. N. Obrovac and V. L. Chevrier, Chem. Rev., 2014, 114, 11444-11502を参照)、シリコン系の負極材料の使用が広く研究されてきた。しかしながら、純粋なシリコンの使用は、リチウム化中のその大きい体積膨張(280%)によって妨げられる(例えば、M. N. Obrovac, L. Christensen, D. B. Le and J. R. Dahn, J. Electrochem. Soc., 2007, 154, A849)。充電/放電サイクル中の体積変化によって生じる応力は、構造の改変、粒子の破壊、及び固体電解質中間相の損傷につながり(M.N. Obrovac and V.L. Chevrier, Alloy Negative Electrodes for Li-Ion Batteries, Chem. Rev., 114 (2014), 11444. DOI: 10.1021/cr500207gを参照)、セル容量が減衰し、従ってサイクル寿命が短くなる。
【0004】
Si系のアノードを使用する電池のサイクル寿命は、例えば、Siを遷移金属と合金化してSi/金属ケイ化物活性/不活性合金を形成することにより、サイクル中の体積膨張を低減しLi15Si4相の形成を回避することによって改善することができる。このような合金に酸素を組み込むことも、この点で有益であり得る(米国特許第10,050,260号及び米国特許第8,753,545号に開示されている)。このような合金は、Siの粒径が50nm未満の場合に最も効果的であり、サイクル中に完全なLi15Si4相の抑制をもたらし得る。しかしながら、体積の膨張によるSEIの破壊により、容量が減衰する可能性がある。別の手法では、Si含有相の表面が電解質に接触するのを防ぐために、Si含有相がカプセル化されている場合に、SEIの破壊を低減することができる。
【0005】
例えば、国際公開第2013155397号は、この混合物をカーボン源としてのポリマーとともに粉砕し、1000℃未満に加熱してポリマーを分解することによって形成されたSi粒子、金属粒子、及びグラファイトを含み得る複合材料を記載している。しかしながら、活物質は純粋なSiであり、Li15Si4を形成する傾向があり、過度の体積膨張を有する。加えて、ポリマーは、約2600℃未満の温度に加熱されると、高い不可逆容量と低い可逆容量を有する非晶質カーボン又は結晶性の低いグラファイトを形成する。米国特許第9859553B2号は、加熱中に非晶質カーボン又は結晶性の低いグラファイトを再び形成する、活物質がSiOxであり、カーボン源がピッチである点を除いて、同様の電極材料について記載している。米国特許第9029016号は、グラファイトを含む複合材料での1nmという小さいSiナノ粒子の使用について記載している。しかしながら、Siナノ粒子は、典型的には、その表面酸化物含有量が大きいために不可逆容量が高く、Li15Si4の形成にも依然悩まされる(Vincent L. Chevrier, et al., J. Electrochem. Soc., 161 (2014) A783を参照)。
【0006】
Si-C複合材料物質は、広く研究されてきた(例えば、H. Li, Electrochem. Solid-State Lett., 1999, 2, 547、A. M. Wilson, G. Zank, K. Eguchi, W. Xing and J. R. Dahn, J. Power Sources, 1997, 68, 195-200、M. Yoshio, H. Wang, K. Fukuda, T. Umeno, N. Dimov and Z. Ogumi, J. Electrochem. Soc., 2002, 149, A1598、L. Cui, Y. Yang, C. Hsu and Y. Cui, Nano Lett., 2009, 9 No.9, 1-5、及びS. H. Ng, J. Wang, D. Wexler, K. Konstantinov, Z. P. Guo and H. K. Liu, Angew. Chemie - Int. Ed., 2006, 45, 6896-6899)。特に、ナノメートルのSi(n-Si)粒子が完全にカーボンマトリックスに包まれている材料が研究されてきた(例えば、N. Liu, Z. Lu, J. Zhao, M. T. McDowell, H.-W. Lee, W. Zhao and Y. Cui, Nat. Nanotechnol., 2014, 9, 187-192)。これらの材料では、Siは、ナノサイズ化され破砕を低減し、カーボンマトリックスは、体積膨張を低減/排除し、電解質への暴露からSi相を保護するのに役立つ。このような材料は、テンプレートを除去するためにHF/NaOHを使用するテンプレート方法(例えば、前述のN. Liu et al. paper, D. Lin, Z. Lu, P. C. Hsu, H. R. Lee, N. Liu, J. Zhao, H. Wang, C. Liu and Y. Cui, Energy Environ. Sci., 2015, 8, 2371-2376、及びY. Park, N. S. Choi, S. Park, S. H. Woo, S. Sim, B. Y. Jang, S. M. Oh, S. Park, J. Cho and K. T. Lee, Adv. Energy Mater., 2013, 3, 206-212を参照)、熱分解(例えば、Q. Si, K. Hanai, N. Imanishi, M. Kubo, A. Hirano, Y. Takeda and O. Yamamoto, J. Power Sources, 2009, 189, 761-765)、熱蒸着(前述のM. Yoshio et al. paper or N. Dimov, K. Fukuda, T. Umeno, S. Kugino and M. Yoshio, J. Power Sources, 2003, 114, 88-95)、化学蒸着(W.-R. Liu, J.-H. Wang, H.-C. Wu, D.-T. Shieh, M.-H. Yang and N.-L. Wu, J. Electrochem. Soc., 2005, 152, A1719、又はW. Wang and P. N. Kumta, ACS Nano, 2010, 4, 2233-2241を参照)などによって作製されている。しかしながら、これらの合成方法のほとんどは、工業生産で使用するには高すぎる、又は難しすぎる。
【0007】
合金粒子を含むアノードを備えた電池のサイクル性能は、合金粒子がグラファイト粒子とともに分散されるときに強化されることが見出された。例えば、Duら(Zhijia Du, R.A. Dunlap, and M.N. Obrovac, J. Electrochem. Soc, 2014, 161, A1698-A1705)は、電極の調製中に、遊星粉砕(planetary milling)によって合金粒子をグラファイト粒子と分散させると、合金粒子を含むカレンダー処理したアノードのサイクル性能が大幅に向上することを見出した。合金粒子がより分散している電極では、サイクル性能が向上した。しかしながら、Duらによって示されたSEM画像によると、合金粒子の大部分は、二次粒子の形態であり、この方法で達成できる分散の量を制限した。
【0008】
乾式処理を使用した物理的方法は、溶媒を使用しないため、環境に優しく、工業用途に有利である。メカノフュージョン(MF)プロセスは、1980年代半ばに日本で開発され、高剪断場を使用して、液体を使用せずに粉末を球状化又は乾燥コートすることに基づいている(T. Yokoyania, K. Urayama and T. Yokoyama, KONA Powder Part. J., 1983, 1, 53-63を参照)。リチウムイオン電池の分野では、MFは、一般に、負極で使用するための天然グラファイトを球状化するために使用される(例えば、米国特許第9,142,832号又は米国特許出願第14/431,398号)。
【0009】
工業界でのその有用性にもかかわらず、MFが文献に発表されることはめったになかった。この理由の1つは、MF機器を使用するためのパラメータが広く知られていないためである可能性がある。それにもかかわらず、いくつかの出版物は、MF法によって球状化又は別の相でコーティングされた粒子について記載している(例えば、M. Naito, M. Yoshikawa, T. Tanaka and A. Kondo, KONA Powder Part. J., 1993, 11, 229-234, N. Product and M. Features, 1999, 17, 244-250、M. Alonso, M. Satoh and K. Miyanami, Powder Technol., 1989, 59, 45-52、M. Naito, A. Kondo and T. Yokoyama, ISIJ Int., 1993, 33, 915-924、R. Pfeffer, R. N. Dave, D. Wei and M. Ramlakhan, Powder Technol., 2001, 117, 40-67、W. Chen, R. N. Dave, R. Pfeffer and O. Walton, Powder Technol., 2004, 146, 121-136、及びC.-S. Chou, C.-H. Tsou and C.-I. Wang, Adv. Powder Technol., 2008, 19, 383-396)。それでも、このような加工された粒子が作製された条件を十分に記載している出版物はほとんどない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
充電式電池で使用するための改良された材料の開発に向けられた継続的且つ実質的である世界的な努力にもかかわらず、材料、作製方法、及びそれによって作製される電池の更なる改良の必要性が残っている。本発明は、これらの必要性に対処し、以下に開示されるように更なる利益を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
概要
乾式メカノフュージョン(MF)プロセスは、グラファイト粒子間及び/又はグラファイト粒子のマトリックス内に十分に分散された望ましい電気化学的活性合金粒子を含む新規の微粒子分散物及び/又は複合材料を効果的に合成できることが発見された。いくつかの実施形態では、合金粒子がマトリックス中のグラファイト層間に埋め込まれ、これにより新規の複合材料が得られることを確認することが可能である。他の実施形態では、合金粒子が(その凝集体とは反対に)一次合金粒子としてグラファイト粒子間に分散され、これにより新規の分散物が生じることを確認することが可能である。更に、本発明の微粒子分散物及び複合材料の新規の性質は、これらがリチウムイオン電池のアノードに使用されたときに得られる改善された結果によって証明される。例えば、理論に拘束されることなく、このような方法で使用される場合、この特別な構造は、電極における合金粒子の改善された電気的接続を提供すると考えられる。加えて、特別な構造は、リチウム化及び脱リチウム化の間に埋め込まれた粒子の体積膨張及び収縮を緩衝する方法を提供することができる。この階層的な配置の結果として、粒子とグラファイトのより単純な混合物と比較した場合、優れたサイクル性と速度能力(rate capability)を達成することができる。特に、本発明のシリコン-グラファイト微粒子分散物及び複合材料は、このような電池用の非常に有望な負極材料である。
【0012】
具体的には、本発明の微粒子複合材料は、グラファイトマトリックスと、グラファイトマトリックス内の合金粒子とを含み、この場合、合金粒子は、電気化学的活性相と、電気化学的不活性相とを含む。ここで、電気化学的活性相は、関連する電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)に見られる典型的なアノード電位で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(例えば、リチウム)と電気化学的に反応又は合金化する能力を指す。
【0013】
いくつかの実施形態では、微粒子複合材料は、グラファイトマトリックスが実質的に非グラファイトカーボンを含まず、CuKα放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd002間隔、及びFWHMは0.4°未満である{002}X線回折ピークを特徴とするグラファイト結晶構造を有し、活性相は、非晶質であるか、又は50nm未満の平均粒径を有し、合金粒子は、実質的にグラファイトマトリックスの層間に埋め込まれていることを特徴とする。
【0014】
他の実施形態では、微粒子複合材料は、メカノフュージョンシステムにおいてある量の合金粒子をある量のグラファイト粒子とメカノフュージョンさせ、これにより合金粒子をグラファイトマトリックス内に分散させることを特徴とする。
【0015】
合金粒子の活性相は、例えば、Si、Sn、及びAlからなる群のものなどの、そのリチウム化の能力が高いことで知られている金属の1つであり得る。特に、活性相は、Siであり得る。微粒子複合材料の不活性相は、金属Mを含み得、この場合、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、及びWの1つ以上である。例えば、不活性相は、FeSi2などのSi-M金属間化合物であり得る。他の実施形態では、複合材料中の合金粒子は、一般的にシリコンと酸素及び/又はシリコンと鉄の組み合わせを含む活性相と不活性相とを含み得る。以下の実施例に見られる例示的な実施形態では、合金粒子は、SiとSiO2とFeSi2とを含み得る。
【0016】
微粒子複合材料の活性相に加えて、存在する不活性相はまた、望ましくは非晶質であり得る、又は50nm未満の平均粒径を有し得る。更に、微粒子複合材料のグラファイトマトリックス内の合金粒子は、1μm未満及び/又は0.1μm超の平均粒径を有する一次合金粒子であり得る。しかしながら、微粒子複合材料自体の平均粒径は、5~50μmの範囲、より具体的には5~10μmの範囲にあり得る。特定の実施形態では、微粒子複合材料は、球形であり得る。また、特定の実施形態では、微粒子複合材料は、10m2/g未満の表面積を有し得る。
【0017】
本発明の微粒子分散物は、一般的に、グラファイト粒子と合金粒子とを含み、この場合、合金粒子は、電気化学的活性相と電気化学的不活性相とを含み、更に一次合金粒子として分散される。これらの分散物では、分散物を含む合金粒子の半分超が、遊離の一次合金粒子の形態である。分散物の活性相は、非晶質である、又は50nm未満の平均粒径を有する。一次合金粒子としてのそれらの分散を証明し、一次合金粒子は、1μm未満の平均粒径を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、このような分散物中のグラファイト粒子は、CuKα放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd002間隔、及びFWHMは0.4°未満である{002}X線回折ピークを特徴とするグラファイト結晶構造を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、このような微粒子分散物は、シリコンと遷移金属とを含むが実質的にアルミニウムを含まない一次合金粒子を含み得る。
【0020】
本発明の分散物及び複合材料は、充電式リチウム電池、特にリチウム挿入カソードと、リチウムカチオン伝導性電解質と、リチウム挿入アノードとを含むリチウムイオン電池におけるリチウム挿入アノードとしての使用に特に適し得る。本発明の他の変形形態の分散物及び複合材料もまた、例えば、本発明の微粒子複合材料が炭素質材料でコーティングされている、カーボンコーティングされた微粒子複合材料の使用などの、このような用途において有用であり得る。
【0021】
前述の微粒子分散物及び複合材料は、安価で環境に優しいメカノフュージョン乾式処理法に基づく方法を使用して作製することができる。一般的に、このような方法は、活性相と不活性相とを含むある量の合金粒子を得る工程と、ある量のグラファイト粒子を得る工程と、メカノフュージョンシステムにおいて活性相と不活性相とを含む合金粒子をグラファイト粒子とメカノフュージョンさせる工程とを含む。メカノフュージョン工程は、グラファイト粒子間又はグラファイトマトリックス内で一次合金粒子として新規の方法で合金粒子を高度に分散させるのに役立ち、これにより生成物の分散物及び/又は複合材料の特性が改善される。いくつかの実施形態では、十分な時間メカノフュージョンを実施することにより、合金粒子が実質的にグラファイト粒子の層間に埋め込まれ、これにより複合材料物質を形成する複合材料をもたらすことができる。
【0022】
この方法において、球状グラファイト粒子又はグラファイトフレーク粒子を含む様々なグラファイトのタイプの使用が企図され得る。また、得られたグラファイト粒子の重量比に対する、活性相と不活性相とを含む得られた合金粒子の様々な重量比が、企図され得る。例えば、以下の実施例は、約1:4の重量比を使用して首尾よくできた実施形態を作成できることを実証している。
【0023】
関連する実施形態では、メカノフュージョンは、メカノフュージョンされた合金粒子の表面積が、メカノフュージョンの前の活性相と不活性相とを含む得られた合金粒子の表面積及び更に得られたグラファイト粒子の表面積よりも小さくなるまで、実行される必要がある場合がある。例示的な実施形態では、30分を超えるメカノフュージョンの時間が十分であることが証明されている。
【0024】
本発明の方法での使用に適したメカノフュージョンシステムは、チャンバーと、チャンバー内の回転壁と、回転壁内のスクレーパーと、回転壁内のプレスヘッドとを含み得る。スクレーパーと回転壁との間の代表的なギャップは、約0.5mmであり得る。プレスヘッドと回転壁との間の代表的なギャップは、約1.4mmであり得る。回転壁を回転させるための代表的な速度は、約2500rpmであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面の簡単な説明
【
図1a】従来技術のシリコン合金-グラファイト材料の概略図を示している。
【
図1b】本発明のメカノフュージョン乾式処理されたシリコン合金-グラファイト材料の概略図を示している。
【
図2a】実施例において材料を調製するために使用されるメカノフュージョン乾式プロセスシステムの俯瞰図の略図を示している。
【
図2b】例示の調製した試料の写真を示している。丸で囲んだ領域は、試料が採取された場所を示している。
【
図3a】
図3a及び3bは、それぞれ、本発明の実施例IE30のSEM画像を、同様の倍率で比較例CE1と比較している。
【
図3b】
図3a及び3bは、それぞれ、本発明の実施例IE30のSEM画像を、同様の倍率で比較例CE1と比較している。
図3bでは、二次合金粒子は白い境界線で示され、二次粒子を含む一次合金粒子の一部は白い矢印で示されている。
【
図3c】IE60のSEM画像を示しており、白い矢印はいくつかの一次合金粒子を指している。
【
図4a】本発明の実施例IE135のSEM画像を示している。
【
図4b】本発明の実施例IE135の断面SEM画像を示している。
【
図4c】本発明の実施例IE90*のSEM画像を示している。
【
図4d】本発明の実施例IE90*の断面SEM画像を示している。
【
図5a】V7合金のカレンダー処理していない電極とカレンダー処理した電極とを含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図5b】CE1の遊星粉砕された比較試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図5c】IE30のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図5d】IE60のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図6a】V7合金のカレンダー処理していない電極を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図6b】CE1の遊星粉砕された比較試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図6c】IE30のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図6d】IE60のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図7a】V7合金のカレンダー処理した電極を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図7b】CE1の遊星粉砕された比較試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図7c】IE30のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図7d】IE60のメカノフュージョンされた本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図8a】V7合金、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの電気化学的性能を示している。カレンダー処理していない電極のサイクル性能を
図8aに示す。
【
図8b】V7合金、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの電気化学的性能を示している。カレンダー処理した電極のサイクル性能を
図8bに示す。
【
図8c】V7合金、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの電気化学的性能を示している。カレンダー処理していない電極のクーロン効率を
図8cに示す。
【
図8d】V7合金、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの電気化学的性能を示している。カレンダー処理した電極のクーロン効率を
図8dに示す。
【
図9】V7合金のカレンダー処理した電極、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの速度能力を示している。
【
図10】カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図11】カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図12】カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルのサイクル性能を示している。
【
図13】カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【
図14】カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【
図15】カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルのサイクル性能を示している。
【
図16a】本発明の実施例IE135*のSEM画像を示している。
【
図16b】本発明の実施例IE135*の断面SEM画像を示している。
【
図17a】1M LiPF
6/EC:DEC:FEC=3:6:1電解質に1週間浸漬した後の、IE135の粒子の断面に対するフッ素の電子分散X線マッピングを示している。明るい領域と暗い領域は、それぞれフッ素の存在と不在を表している。矢印は、粒子の内部に埋め込まれ、粒子コアの近くにある合金粒子の位置を示している。
【
図17b】1M LiPF
6/EC:DEC:FEC=3:6:1電解質に1週間浸漬した後の、IE135*の粒子の断面に対するフッ素の電子分散X線マッピングを示している。明るい領域と暗い領域は、それぞれフッ素の存在と不在を表している。矢印は、粒子の内部に埋め込まれ、粒子コアの近くにある合金粒子の位置を示している。
【
図18】カレンダー処理していないIE135*の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
文脈上別段の定めがない限り、本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」などの語は、オープンで包括的な意味で解釈されるべきである。「1つ(a)」、「1つ(an)」などの語は、少なくとも1つを意味すると見なされるべきであり、1つだけに限定されない。
【0027】
加えて、以下の定義が、本明細書全体に適用される。
【0028】
本明細書において、「ドメイン」という用語は、連続的な単一の固相によって占められる体積を指す。ドメインは、連続的な単一の非晶質相によって占められる体積、又は連続的な単一の結晶相によって占められる体積(即ち、粒子又は微結晶によって占められる体積)の形態であり得る。隣接するドメインは、界面又は粒界によって分離される。
【0029】
「グラファイトマトリックス」という用語は、その体積全体に渡る連続的なグラファイト構造を有するグラファイト材料を指す。
【0030】
「相」という用語は、その従来の一般的な意味を有し、即ち、その表面で他の形態の物質から分離された別個の均質な形態の物質である。
【0031】
本明細書において、「電気化学的活性相」又は「活性相」という用語は、関連する電気化学デバイスの典型的なアノード電位でアルカリ金属又はアルカリ土類金属と電気化学的に反応又は合金化することができる相を指す。従って、金属Si、Sn、及びAlは、リチウム金属に対して0V~2Vの典型的なアノード電位でリチウムイオン電池のリチウムと反応するため、電気化学的活性相である。逆に、このように反応しない相は、「電気化学的不活性相」又は「不活性相」である。
【0032】
「平均粒径」という用語は、以下でより詳細に説明されるシェラー粒径決定法によって決定される相の粒径を指す。
【0033】
「非晶質」という用語は、以下でより詳細に説明される、限定できる粒径を有さない、又はシェラー粒径決定法によって決定される20Å未満の平均粒径を有する相を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「合金」という用語は、固体物質を指し、この場合、固体物質の少なくとも10体積%は、金属、メタロイド、半金属又は半導体である1つ以上の化学元素のみからなる相を含み、固体物質は、10μmのスケールで均質である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「合金粒子」という用語は、少なくとも1つの「電気化学的活性相」及び少なくとも1つの「電気化学的不活性相」を含む合金の粒子を指す。
【0036】
「一次合金粒子」という用語は、互いに強く結合している1つ以上のドメインで構成される合金粒子を指す。一次合金粒子は、遊星粉砕又はメカノフュージョン法によって容易により小さい構成成分に分解することができない。
【0037】
「遊離一次合金粒子」という用語は、二次合金粒子の一部を形成しない唯一の一次合金粒子を指す。
【0038】
「二次合金粒子」という用語は、弱く結合した一次合金粒子の凝集体を指す。
【0039】
「アノード」という用語は、金属イオンセルが放電されたときに酸化が発生する電極を指す。リチウムイオンセルでは、アノードは、放電中に脱リチウム化され、充電中にリチウム化される電極である。
【0040】
「カソード」という用語は、金属イオンが放電されたときに還元が発生する電極を指す。リチウムイオンセルでは、カソードは、放電中にリチウム化され、充電中に脱リチウム化される電極である。
【0041】
「金属イオンセル」又は「金属イオン電池」という用語は、リチウムイオンセル及びナトリウムイオンセルを含むアルカリ金属イオンセルを指す。
【0042】
「半セル」という用語は、作用電極及び金属対/参照電極を有するセルを指す。リチウム半セルは、作用電極及びリチウム金属対/参照電極を有する。
【0043】
「活物質」という用語は、アノード又はカソードに金属イオンを可逆的に貯蔵することができる材料を指す。
【0044】
「アノード活物質」又は「アノード材料」という用語は、金属イオンをアノードに可逆的に貯蔵するために使用される活物質を指す。リチウムイオンセルでは、アノード材料は、2Vvs.Li未満の電位で、充電中にリチウム化され、放電中に脱リチウム化される。リチウム半セルでは、アノード材料は、2Vvs.Li未満の電位で、充電中に脱リチウム化され、放電中にリチウム化される。
【0045】
「カソード活物質」又は「カソード材料」という用語は、金属イオンをカソードに可逆的に貯蔵するために使用される活物質を指す。リチウムイオンセルでは、カソード材料は、2Vvs.Li超の電位で、放電中にリチウム化され、充電中に脱リチウム化される。リチウム半セルでは、カソード材料は、2Vvs.Li超の電位で、充電中に脱リチウム化され、放電中にリチウム化される。
【0046】
「実質的に埋め込まれている」という用語は、本発明の特定の実施形態の微粒子複合材料における合金粒子とグラファイトマトリックスとの間の構造的関係を指す。これらの合金粒子は、主に、グラファイトマトリックスの層間に配置及び分散されており、従来技術の複合材料には見られない材料上の利点をもたらす。しかしながら、本発明の実際的な実施形態では、全ての合金粒子が当然ながらグラファイトマトリックスの層間に配置されるわけではなく、グラファイトマトリックスの全ての層の対が、挙げられたd002間隔によって特徴付けられるわけでもない。従って、この用語は、いくつかの埋め込まれていない粒子の単なる存在が、本発明の複合材料の基本的且つ新規な特性に実質的に影響を及ぼさない、これら全ての実際的な実施形態をとらえることを意図している。
【0047】
上記と同様に、非グラファイトカーボンの存在の文脈における「実質的に存在しない」という用語は、微量の非グラファイトカーボンの単なる存在が、複合材料の特性に実質的に影響を及ぼさない全ての実際的な実施形態を含むことを意図している。
【0048】
定量的な文脈では、「約」という用語は、最大プラス10%から最小マイナス10%までの範囲にあると解釈されるべきである。
【0049】
特殊な構造体を備えた微粒子分散物及び複合材料は、乾式メカノフュージョンプロセスを使用して合成できる。充電式電池の電極材料として使用される場合、特別な構造体により、サイクル寿命及び速度能力の向上など、いくつかの性能が向上することができる。
【0050】
本発明の分散物は、一般的に、グラファイト粒子と合金粒子とを含み、この場合、合金粒子は、それらのより大きい凝集体、即ち二次合金粒子とは対照的に、比較的より小さい一次合金粒子として十分に分散している。これらの本発明の分散物は、分散された一次合金粒子のより小さい非凝集性によって、他の点では組成的に類似しているように見える従来技術の分散物とは区別される。例示的な実施形態では、一次合金粒子は、1μm以下の寸法を有する。いくつかの実施形態では、合金粒子の50%超が、遊離一次合金粒子の形態であり、いくつかの実施形態では、合金粒子の80%超が、遊離一次合金粒子の形態であり、例示的な実施形態では、合金粒子は、実質的に全て遊離一次合金粒子の形態である。
【0051】
本発明の複合材料は、グラファイトマトリックスと、グラファイトマトリックス内に分散された合金粒子とを含む。いくつかの実施形態では、合金粒子は、実質的にグラファイトマトリックスの層間に埋め込まれていることが観察されることができる。いくつかの実施形態では、実質的に一次合金粒子の形態の合金粒子が、グラファイトマトリックス内に分散されている。
【0052】
これらの本発明の複合材料は、グラファイトマトリックス内の合金粒子のこの埋め込まれた性質によって、他の点では組成的に類似しているように見える従来技術の複合材料とは区別される。
【0053】
図1a及び1bの概略図は、従来技術のシリコン合金-グラファイト分散物及び複合材料と本発明のいくつかの実施形態のそれらのものとの間の違いを例示している。
図1aでは、遊星粉砕によってシリコン合金-グラファイト材料が調製されている。
図1aの概略図では、一次合金粒子は、個々の小さい球で表され、二次合金粒子は、これらの小さい球のより大きい凝集体(例えば、10以上)で表される。遊星粉砕プロセスは、二次合金粒子が効率的に分解されていないシリコン合金とグラファイト粒子の分散物からなる生成物をもたらす。更に、二次合金粒子は、一般的に、グラファイトの層間に埋め込まれていない。他方、
図1bでは、シリコン合金-グラファイト分散物及び複合材料が、本発明によるMFプロセスによって調製されている。ここで、MFプロセスは、一次合金粒子への二次合金粒子の完全な解凝集をもたらし、一次合金粒子とグラファイトの優れた分散をもたらす。シリコン合金粒子とグラファイト粒子がともに融合している場合に圧縮が生じた。ここで次いで、
図1bに示される実施形態は、一次合金粒子及びグラファイトの分散物を示している。示されているように、二次合金粒子は実質的に存在しない(即ち、一次粒子の凝集体はない)。代わりに、一次合金粒子は、グラファイト粒子間で十分に分散している、又はグラファイト粒子のマトリックス内に埋め込まれているように示されている(後者は、
図1bで複合粒子として識別されている)。
【0054】
本発明の分散物中の一次合金粒子としての合金粒子の分散性は、画像化のために二次電子を使用する走査型電子顕微鏡(SEM)画像から確認することができる。例えば、
図3c及び4dは、本発明の分散物の代表的なSEM画像を示し、この場合、明るい点在している領域は、グラファイト粒子間に均一に分散されたSi合金系の合金粒子を表す。更に、SEM画像化を使用して、二次合金粒子とこのような一次合金粒子とを区別することができる。
図1aを参照すると、二次合金粒子は、一次合金粒子の凝集体の形態である。それらの凝集性のために、二次合金粒子は、一般的にそれらの中に空隙を含む。二次合金粒子は、
図3bの代表的なSEM画像で明らかである。それらの凝集特性のために、二次合金粒子を構成する一次合金粒子及び二次合金粒子内の空隙は、SEM画像で容易に識別することができる。
図3bに示されるSEM画像では、二次合金粒子が描かれており、この二次合金粒子を構成するいくつかの一次合金粒子が指摘されている。この二次合金粒子内にも空隙が見られる。これらの空隙の一部は、100nm超の寸法を有する。対照的に、
図1a及び
図3cに示されるように、一次合金粒子は、強くともに融合した相で構成されており、空隙を含まない。このため、一次合金粒子は、二次合金粒子よりもはるかに滑らかであり、一次粒子内の空隙は、50nm超のスケールでSEMによって観察することはできない。
【0055】
本発明の特定の複合材料における合金粒子の埋め込まれた性質は、画像化のために二次電子を使用する走査型電子顕微鏡(SEM)画像からも確認することができる。SEM画像化では、複合材料の表面にあり得る合金粒子と、表面の下に埋め込まれている合金粒子を示している。後者は、グラファイトの半透明の被覆層によって部分的に隠されているため、SEM画像では前者と容易に区別できる。例えば、
図3a及び4aは、本発明の複合材料の代表的なSEM画像を示しており、この場合、明るい点在している領域は、複合材料表面の下のSi合金系の合金粒子を表しており、グラファイトマトリックス内に明確に埋め込まれて分散されている。
【0056】
しかしながら、SEM画像化では、グラファイトマトリックス内により深く埋め込まれている合金粒子を直接画像化することはできない。次いで、微粒子複合材料の深部にある合金粒子の埋め込まれた性質を確認するために、最初にイオンミリング技術を使用して複合材料を断面化し、その後、埋め込まれた合金粒子の存在を確認するために同様のSEM画像を取得することができる。従って、イオンミリングにより、複合材料のコアまで埋め込まれた合金粒子を検出できる。
図4bは、このような方法で最初に断面化された本発明の複合材料の代表的なSEM画像を示している。この場合も、明るい点在している領域は、Si合金系の粒子を表しており、粒子がグラファイトマトリックス内の奥深くに明確に埋め込まれて分散されていることが明らかである。
【0057】
本発明において、合金粒子は、電気化学的活性相及び電気化学的不活性相の両方を含む。リチウムイオン電池での用途を意図した例示的な実施形態では、電気化学的活性相は、アノード電位でリチウムと電気化学的に反応することができる。適切な活性相は、純粋な元素相C、Mg、Al、Si、Zn、Ga、Ge、Cd、In、Sn、Sb、Pb、Bi、及びSn遷移金属合金を含む活性化合物を含む。リチウムに対する容量が大きいため、Si、Sn、及びAlが、特に好ましい活性相であり得る。Siは、特に例示的な活性相である。所望の構造、即ち本発明の複合材料の特性を得るために、活性相の粒径は、比較的小さく(
図1bに示唆されるように)、従って非晶質である、又はX線回折によって決定される50nm未満の平均粒径を有する。
【0058】
いくつかの実施形態では、合金粒子内の不活性相は、金属イオン電池の充電プロセス又は放電プロセスの後に形成され得る。いくつかの実施形態では、合金粒子は、SiOx又はSi及びSiO2相を含み得る。このような合金粒子をリチウムイオンセルのアノード活物質として使用すると、合金粒子内のSiOx又はSi及びSiO2相がリチウムと反応して、1回の充電/放電サイクル後に、活性Si相と不活性Li4SiO4相とを含む合金粒子を形成することができる。いくつかの実施形態では、合金粒子は、Sn-M相を含み得、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、及びWの1つ以上を含む遷移金属である。このような合金粒子をリチウムイオンセルのアノード活物質として使用すると、合金粒子内のSn-M相がリチウムと反応して、1回の放電半サイクル後に、活性LixSn相と不活性M相とを含む合金粒子を形成することができる
【0059】
合金粒子に存在する電気化学的不活性相は、様々な理由で含められることができる(例えば、活性相が電気化学的に反応したときの体積膨張を減らすため、及び/又は例えば、Siの場合、リチウム化/脱リチウム化サイクル中のLi15Si4相の形成を防ぐため)。適切な不活性相は、MがTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、及びWの1つ以上であるSi-M金属間化合物を含む。Si系の活性相の場合、アノード性能を大幅に向上させることができるため、特に適切な不活性相は、FeSi2である。これは、Si、SiO2、及びFeSi2を含む複合材料が驚くほど向上した性能を示す、以下の実施例で証明されている。(当業者が知っているように、FeSi2は、リチウム自体と合金化することができる元素、即ちSiを含む相であるが、FeSi2は、電気化学的にリチウムに対して完全に不活性であることに留意されたい。)
【0060】
従って、本発明の例示的な微粒子複合材料及び微粒子分散物は、シリコンと酸素及び/又はシリコンと鉄を含む化学組成を有し得る。また、複合材料及び分散物は、合金粒子中の他の炭素質種を含む他の種を同様に含み得る。しかしながら、例示的な実施形態では、微粒子複合材料は、非グラファイトカーボンを実質的に含まない場合がある。他の実施形態では、いくつかの用途では、それに炭素質コーティングを適用することが有利である場合がある。
【0061】
構造的に、複合材料は、CuKα放射線を使用して測定される、3.4Å未満のd002間隔、及び半値全幅(FWHM)は0.4°未満である{002}X線回折ピークを特徴とするグラファイト結晶構造を有するグラファイトマトリックスを有するグラファイト及び/又はグラファイト材料を含む。前述のように、活性相は、非晶質である、又は50nm未満の平均粒径を有する。平均粒径は、X線回折技術によって、特にシェラー粒径決定法によって決定される。シェラー法は、入射Cu-Kα1放射線下での20°~60°の2シータの間の相のX線粉末回折ピークのいずれかのX線回折ピークFWHMにシェラー方程式を適用することを伴う。シェラー方程式の記載は、B.E. Warren, Dover Publications (1990)による「X-ray Diffraction」に見られることができる。
【0062】
合金粒子の活性相と同様に、いくつかの実施形態では、存在する不活性相もまた、所望の構造、即ち本発明の複合材料の特性を得るために比較的小さい。従って好ましくは、不活性相はまた、望ましくは非晶質である、又はシェラー法によって決定される50nm未満の平均粒径を有する。
【0063】
両方の相を含み、グラファイトマトリックス内に埋め込まれ得る合金粒子は、1μm未満及び/又は0.1μm超の平均粒径を有し得る。しかしながら、微粒子複合材料自体の平均粒径は、5~50μmの範囲、より具体的には5~10μmの範囲にあり得る。
【0064】
本発明の微粒子複合材料は、特にメカノフュージョンプロセスによって調製される場合、球形に成形することができる。例示的な実施形態では、複合材料は、10m2/g未満の表面積を有し得る。
【0065】
前述の微粒子複合材料及び微粒子分散物は、メカノフュージョン(MF)乾式処理法を使用して容易に作製できることが発見された。MFプロセスは、比較的簡易で安価であり、溶媒を必要としないことから、環境に配慮した商業生産にとって魅力的である可能性がある。必要な工程は、活性相と不活性相とを含む適切な量の合金粒子を得ること、適切な量のグラファイト粒子を得ること、及びこれらの量を十分な時間一緒にメカノフュージョンして、合金粒子をグラファイト粒子間又はそれらのグラファイトマトリックス内に適切に分散させること(例えば、合金粒子をグラファイト粒子の層間に実質的に埋め込むのに十分な時間)を単に含む。
【0066】
図2aは、本発明の複合材料及び分散物を調製するための適切なMFシステム1を概略的に示している。これは、固定された丸いプレスヘッド3及び固定されたスクレーパー4が配置されている回転円筒形チャンバー2からなる。プレスヘッド3の半径は、チャンバー2の半径よりも小さく、プレスヘッド3とチャンバー壁5の間の隙間空間は、一般的に1~5mmの範囲である。スクレーパー4とチャンバー壁5の間の隙間は、はるかに小さく、通常は約0.5mmである。好ましくは、これらの隙間は、チャンバーサイズ、粒径、粉末硬度などの要因に応じて、最適化のために調整可能である。
【0067】
MFシステム1の操作は簡便であるが、チャンバー内で粉末が処理されるメカニズムは複雑である(W. Chen, R. N. Dave, R. Pfeffer and O. Walton, Powder Technol., 2004, 146, 121-136を参照)。使用時には、粉末6(適切な量の合金粒子とグラファイトとを含む)をチャンバーに入れ、チャンバー2を密閉する。チャンバーが回転すると、粉末6は遠心作用によってチャンバー壁5に押し付けられる。これによりまた、合金粒子を、固定されたプレスヘッド3と回転チャンバー壁5の間の収束空間を通過させ、高剪断場を確立する。合金粒子がプレスヘッド領域の発散空間から出てくると、それらは互いに且つチャンバー壁に付着する。スクレーパー4は、チャンバー壁5に付着した粉末をこすり落とすのに役立つ。次に、剪断された粉末混合物は、チャンバー内に再分散され、プレスヘッド領域に向かって再び移動する。粉末は、チャンバー2が回転している間、圧縮、摩擦剪断、及び解凝集のこのプロセスを継続的に受ける。これらの相互作用は、球形化、大きい粒子に対する小さい粒子又は柔らかい粒子のコーティング、及び大きい粒子への小さい粒子の埋め込みを含む、様々な効果をもたらす。典型的には使用される高い回転速度(>2000rpm)では、これらの効果は、迅速に、典型的には数分以内に生じる。
【0068】
当業者が理解するように、MFシステムの適切な動作パラメータは、所望の製品、及び使用される粉末材料の種類及び量に応じて変動することが予想できる。以下の実施例で提供されるガイダンスに基づいて、当業者は、所定の状況に対する適切な動作パラメータを容易に決定できることが予想される。例えば、いくつかの実施形態にとって処理が十分であり得るという目安は、メカノフュージョンされた粒子の表面積が、メカノフュージョンされる前の粒子混合物の表面積よりも小さい場合である。
【0069】
微粒子材料の適切な供給が所定の用途のために準備されると、この材料を使用する電極及び電気化学デバイスは、当業者に知られている多くの方法で準備され得る。例えば、充電式リチウム電池用の電極を作製するための多数の任意の設計及び方法、並びに充電式リチウム電池自体を作製するための多数の任意の設計及び方法は、当技術分野で広く文書化されている。本発明の特に好ましい用途は、充電式リチウムイオン電池のアノードとして使用することである。
【0070】
理論に拘束されることなく、合金は、多くの場合に、二次合金粒子に凝集する一次合金粒子の形態であるため、本発明の方法が効果的であると仮定される。これらの二次合金粒子は、遊星粉砕によって一次合金粒子に分離することは困難である。アノードに組み込まれると、二次合金粒子は、充電及び放電中に破壊する可能性があり、その結果、サイクルの不良をもたらす。加えて、二次合金粒子の全体的なサイズが大きいため、二次合金粒子の充填及び放電中に生じる絶対体積変化が大きく、これもサイクルの不良をもたらす。しかしながら、ボールミル粉砕とは異なり、メカノフュージョンは、二次合金粒子を一次合金粒子に分解し、グラファイトで十分に分散させることができる。充電及び放電中、アノードに組み込まれた一次合金粒子は、二次合金粒子よりも破壊する傾向が少なく、その結果、サイクルの改善をもたらす。加えて、一次合金粒子のサイズが小さいため、一次合金粒子の充電及び放電中に生じる絶対体積変化は、二次合金粒子よりも小さく、これもサイクルの改善をもたらす。一次合金粒子の例示的なサイズは、1μm未満又は更に0.5μm未満である。本発明のいくつかの実施形態では、メカノフュージョンプロセスは、二次合金粒子の一次合金粒子への解凝集をもたらし、更に、グラファイトマトリックス内に一次合金粒子の一部又は実質的に全てを埋め込む。これは更に、一次合金粒子を電解質との接触から保護することによってサイクルを改善すると考えられる。
【0071】
以下の実施例は、本発明の特定の材料及び方法の例示であり、これらのいくつかの利点を実証している。しかしながら、これらの実施例は、いかなる方法でも本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本明細書に開示される材料及び方法について、他の多くの変形形態が可能であることを容易に理解するであろう。
【実施例】
【0072】
実施例
本発明のいくつかの例示的な分散物及び複合材料は、以下に示すように、メカノフュージョン、並びに活性相及び不活性相の両方を含むSi含有材料、並びに特定のグラファイト材料を使用して調製した。組成的に類似しているが、遊星粉砕を使用して調製した比較材料を調製した。電極と電気化学セルもこれらの材料を使用して調製した。材料と電極の特性を決定し、電気化学セルから得られたセル性能の結果とともに比較した。
【0073】
材料合成
本発明の分散物及び複合材料は、3M L-20772 Si合金(以下、V7と表記、3M Co., St. Paul, MNより)及びC-NERGY KS6Lグラファイト(以下、KS6Lと表記、Imerys Graphite and Carbonより)の100g(125mLの叩いた後の粉末体積)の3:1体積(81.4:18.6、重量で)の混合物を使用して調製した。V7粉末は、電気化学的活性Siと電気化学的不活性SiO2のドメインと、FeSi2(例えば、国際公開第2016150639A1号、14ページによる)とを含み、この場合、Siドメインと不活性ドメインは、15nm未満のサイズであり、ミクロンサイズの粒子全体に均一に分布している(Chevrier et al., J. Electrochem. Soc., 161 (2014) A783を参照)。
【0074】
混合物を、AM-15Fメカノフュージョンシステム(Hosokawa Micron Corporation, Osaka, Japan)を使用して乾式処理した。この装置を、摩耗を減らすために、標準のステンレス鋼チャンバー、スクレーパー、及びプレスヘッドを同一の硬くした鋼部品に交換することによって改良した。改良したメカノフュージョン(MF)システムの略図が、
図2aの俯瞰図に見られる。MFシステム10は、チャンバー1と、回転壁2と、スクレーパー3と、プレスヘッド4とを含む。スクレーパー3と回転壁2の間のギャップ、及びプレスヘッド4と回転壁2の間のギャップは、両方とも独立して調整可能である。
図2bは、代表的な調製した試料の写真を示している。特性評価と電極作製のための試料は、より良い均一性を得るために円で囲まれた領域から採取した。
【0075】
メカノフュージョンは、0.5mmのスクレーパー/壁のギャップと1.4mmのプレスヘッド/壁のギャップを用いて2500rpmで実施した。15分間隔(合計90分まで)でMFを停止し、約1.5gの試料粉末をチャンバーから取り出し、MFを再開した。これらの本発明の例示的な試料は、MF処理時間に従って、IE15、IE30などとして示される。
図2bに示すように、試料は、チャンバー内のいくつかの異なる領域から所定の処理時間後に収集した。
【0076】
比較のために、比較例の試料は、Retsch PM200遊星ミルを使用し、3つの13mm炭化タングステンボールを用いて、空気雰囲気中の50mLステンレス鋼ジャー内で100rpmにて1時間、1mlの総体積のV7及びKS6L粉末の混合物を遊星粉砕することによって調製した。V7とKS6L粉末の比は、上記の試料IE15からIE90(MFで処理)の調製に使用したものと同じであった。この比較例の試料は、CE1と表記され、こうして前述の本発明の実施例との適切な比較を提供する。
【0077】
次いで、本発明の更なる材料は、10gの調製したIE90の試料を更なる40gの球状天然グラファイトA3901(Asbury Carbonsより)と混合し、次いで、更に45分間、前と同じ操作条件でMFシステムにおいて混合物を処理することによって調製した。この試料は、IE135と表記される。
【0078】
更に本発明の例示的な試料は、0.4gの調製したIE90を1.6gの球状天然グラファイトA3901と混合し、混合物を前述の操作条件下で1時間遊星ミル中で粉砕することによって調製した。ここで、前駆体の粉末の比は、試料IE135の調製に使用したものと同じであった。こうして、この本発明の例示的な試料は、2つの異なる手順、即ち、MFを使用した第1段階及び遊星粉砕を使用した第2段階を使用して調製した。ここで、試料は、IE90*と表記される。
【0079】
本発明の更なる材料は、IE135の材料を流動床内の化学蒸着(CVD)システムで800℃でエチレンを流しながら2時間、アルゴンを流しながら1時間処理することによって調製した。これにより、全ての粒子に非晶質カーボン層が堆積した。この試料は、IE135*と表記される。
【0080】
材料の特性評価
試料の比表面積は、Micromeritics Flowsorb II2300表面積分析器を使用した単一点(single-point)のブルナウアー-エメット-テラー(BET)法によって決定した。Micromeritics AccuPyc II 1340ガスピクノメーターを使用して、Heガスで真の試料密度を測定した。
【0081】
以下の表1は、これらの実施例で調製した前駆体及び材料の組成及びこれらの物理的特性を要約している。
【0082】
【0083】
いくつかの調製した試料のX線回折(XRD)パターンは、CuKαX線源、回折ビームグラファイトモノクロメーター、及びシンチレーション検出器を備えたRigaku Ultima IV回折計を使用して収集した。各XRDパターンは、工程ごとに3秒間、0.05°刻みで20°~90°の2シータまで収集した。
【0084】
本発明の実施例IE30の場合、ここで、グラファイトの(002)XRDピークの半値全幅(FWHM)は、0.21°であり、グラファイトのd002間隔は、3.347Åであると決定した。XRDでは非晶質カーボンの証拠は観察されなかった。シェラー粒径測定法を使用して、全ての試料で活性Si相と不活性相の平均粒径は、15nm未満であると決定した。
【0085】
比較例CE1の場合、グラファイトの(002)XRDピークの半値全幅(FWHM)は、0.21°であり、グラファイトのd002間隔は、3.360Åであると決定した。この場合も、XRDでは非晶質カーボンの証拠は観察されなかった。
【0086】
本発明の実施例IE135の場合、グラファイトの(002)XRDピークの半値全幅(FWHM)は、0.22°であり、グラファイトのd002間隔は、3.349Åであると決定した。XRDでは非晶質カーボンの証拠は観察されなかった。
【0087】
本発明の実施例IE90*の場合、グラファイトの(002)XRDピークの半値全幅(FWHM)は、0.20°であり、グラファイトのd002間隔は、3.361Åであると決定した。XRDでは非晶質カーボンの証拠は観察されなかった。
【0088】
SEM及び断面SEMを使用して、試料の形態を検討した。これに関して、TESCAN MIRA 3 LMU可変圧力ショットキー電界放出(Variable Pressure Schottky Field Emission)走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した。試料の断面は、試料にアルゴンイオンを照射して試料を断片化するJEOL Cross-Polisher(JEOL Ltd., Tokyo, Japan)を使用して調製した。以下に示す断面は、電極をこれから作製した後の粒子から得られた(以下で説明する)。これらの画像には、複数の断面化された粒子が見られる。
【0089】
図3a及び3bは、同様の倍率でそれぞれ、本発明の実施例IE30のSEM画像を比較例CE1と比較している。試料IE30は、実質的に一次合金粒子の形態である合金粒子を含み、又層の間に埋め込まれた0.1~0.5μmの一次合金粒子を有するグラファイトの層からなる複合粒子を含むことが見られる。試料CE1は、実質的に全て二次合金粒子の形態であるグラファイトと合金粒子の混合物からなるのが見え、これらの間に合金粒子が埋め込まれたグラファイト層を含む粒子は観察されなかった。
【0090】
図3cは、IE60のSEM画像を示している。試料は、一次合金粒子の形態に効果的に解凝集され、メカノフュージョンプロセスによってグラファイト粒子とともに分散された合金粒子からなる。図の白い矢印は、一般的にサイズが0.1~0.5μmのいくつかの一次合金粒子を指している。
【0091】
図4a及び4bは、それぞれ、本発明の実施例IE135のSEM画像及び断面SEM画像を示している。
図4c及び4dは、それぞれ、本発明の実施例IE90*のSEM画像及び断面SEM画像を示している。試料IE135は、複合粒子内に埋め込まれたV7一次合金粒子を有するほぼ球形のグラファイト粒子で構成されているのが見える。
図4aでは、V7一次合金粒子(小さい白っぽい点)が、グラファイト表面の下に見える。同様にまた、
図4bの断面は、複合粒子のグラファイト層間に埋め込まれたV7一次合金粒子を示している。埋め込まれたV7粒子は、複合粒子の表層の下から複合粒子のコアまではっきりと存在する。
【0092】
一方、試料IE90*は、ほぼ球形のグラファイト粒子とV7一次合金粒子の混合物で構成されているように見える。
図4c及び4dから明らかなように、目に見えるV7は全て、グラファイト粒子の外側に分散しているように見える。V7粒子がグラファイト粒子内に埋め込まれているという証拠は観察されなかった。
【0093】
他の観察は、前述で注目に値する。例えば、試料IE15~IE90で使用されるV7とKS6Lの物理的混合物の理論密度は、3.02g/cm3である。しかしながら、試料CE1及びIE15~IE90の試料の測定された密度は、特にMFによって調製した後者の本発明の試料について、この理論値よりも高い。これは、V7合金は、遊星粉砕又はMFプロセスのいずれかの間で除去される内部多孔性を含むことを示唆している。受け取ったままのV7合金とKS6Lグラファイトから得られたSEM画像より、V7合金は、凝集して約5~50μmの二次合金粒子を形成する約0.5μmの一次合金粒子で構成されている。多孔性は、一次合金粒子の間に存在する可能性がある。KS6Lは、サイズが約5μmのグラファイトフレークで構成されている。遊星粉砕されたCE1試料は、V7とKS6Lの混合物からなり、この場合、V7合金粒子とKS6Lグラファイトフレークはまだ凝集している。対照的に、IE30の試料の場合、MFは、二次合金粒子を一次合金粒子に、KS6Lグラファイトを個々のフレークに完全に分解している。合金粒子とグラファイトフレークは、均一に分散され一緒に圧縮される。一部のV7一次合金粒子は、IE30及びIE60の試料のグラファイトフレークの間に埋め込まれている。このプロセスにより、観察された密度の増加と一致して、粒子の凝集に起因する空隙が全て除去された。
【0094】
同様に、試料IE15~IE90で使用されるV7とKS6Lの物理的混合物の理論BET表面積は、7.6m
2/gである。遊星粉砕後及びMFの初期段階中では、試料の表面積は、約17m
2/gになり、成分の単純な混合物の理論BET表面積よりもはるかに大きくなる。これは、MFプロセスが二次合金粒子を一次合金粒子に分解し、より多くの表面積を露出させるためであるように見える。しかしながら、MFの30分後、表面積は、単純な混合物の理論表面積よりも小さい約6.7m
2/gの定常状態の表面積に達するまで、更なる処理時間とともに減少する。これは、MFの初期段階の間に合金凝集体が分解された後、圧縮が生じ、表面積が減少することを示唆している。これは、MFが、接着/分散及び圧縮を伴う2段階のプロセスであることを示唆している以前の報告(例えば、M. Naito, M. Yoshikawa, T. Tanaka and A. Kondo, KONA Powder Part. J., 1993, 11, 229-234での)と一致するであろう。これらの結果は、従来技術の遊星粉砕されたシリコン合金-グラファイト材料、及び本発明のメカノフュージョン乾式処理されたシリコン合金-グラファイト材料を示す
図1a及び1bに概略的に例示されている。遊星粉砕は、V7とKS6L粉末の分散物をもたらすが、凝集体を効率的に分解しない。対照的に、MFは、2つの成分の完全な解凝集と優れた分散をもたらす。更に、V7合金粒子とフレークが一緒に融合した圧縮が生じる。
【0095】
図16aは、IE135*のSEM画像を示している。IE135*の粒子の表面は、IE135の表面よりも滑らかであり、均一なカーボン堆積を示している。IE135*のカーボンコーティング層は、
図16bの断面SEM画像で、暗いグラファイトよりも明るいグレーの色合いとして認識できる。このコーティングは、粒子の全ての表面を覆い、厚さは約150nmである。
図17a及び17bは、1M LiPF
6/EC:DEC:FEC=3:6:1電解質に1週間浸漬した後の、IE135及びIE135*の粒子の断面におけるフッ素の電子分散X線マッピングを示している。明るい領域と暗い領域は、それぞれフッ素の存在と不在を表している。矢印は、粒子の内部に埋め込まれ、粒子のコアの近くにある合金粒子の位置を示している。ここで、フッ素は、試料中の電解質の存在を示している。
図17aは、電解質がグラファイト粒子に浸透し、結果、グラファイトに埋め込まれた合金の表面が電解質に曝されているようになったことを示している。対照的に、
図17bは、CVD処理によって形成された保護カーボンコーティング層の結果として、電解質がIE135*の粒子の内部に感知できるほど浸透しないことを示している。従って、IE135*の合金粒子は、電解質との反応から保護されており、サイクル性能に有益であると考えられる。
【0096】
電極の調製
実験室試験用の試料電極は、上記で調製した本発明の、比較の、及び前駆体の材料のいくつかから調製した。全ての場合において、スラリーは、調製した活性合金粒子、カーボンブラック(Super C65、Imerys Graphite and Carbon)、及びリチウムポリアクリレート(LiPAA、LiPAAは、蒸留水において、ポリアクリル酸溶液(Sigma-Aldrich、平均分子量約250,000g/モル、H2Oで35重量%)を、LiOH・H2O(Sigma Aldrich、98%)で中和することによって作製された、10重量%の水溶液で提供された)を、蒸留水における活性粒子/カーボンブラック/LiPAA体積比70/5/25で混合することによって調製した。スラリーを、3つの13mm炭化タングステンボールを用いて100rpmにてRetsch PM200遊星ミルで1時間混合し、次いで0.004インチのギャップのコーティングバーを用いて銅箔に広げた。次いで、このコーティングを空気中にて120℃で1時間乾燥し、1.3cmのディスクに切断し、次いでそれ以上空気に曝さずアルゴン下にて120℃で1時間加熱した。得られた電極充填量は、約2~2.5mg/cm2であった。次いで、直径6インチのロールを備えた調整可能なギャップカレンダーを通過させることにより、いくつかの電極をカレンダー処理した。全てのカレンダー処理した電極は、35~40%の多孔性を有したので、良好な電極反応速度を維持することができた。
【0097】
単一のコーティングの緻密化に必要な圧力量を決定するために、2cm2の円形電極をダイに配置し、Carver 3925油圧プレスを使用して圧縮し、次いで加えられた圧力の関数として電極の厚さを測定した。電極の厚さは、Mitutoyo 293-340精密マイクロメーターを使用して±1μm以内で測定した。次いで、Cu集電体の厚さを差し引き、コーティング面積を掛けることにより、コーティング体積を決定した。電極の多孔度は、最初に、表1にリストされている密度を使用して、各電極構成物の固形分体積を計算することによって決定した。次いで、電極の細孔体積は、総コーティング体積から固形分体積を引いた差であった。多孔度は、ここでは総コーティング体積のパーセントとして表される。リチウム化合金の体積膨張及び密度は、M. N. Obrovac, L. Christensen, D. B. Le and J. R. Dahn, J. Electrochem. Soc., 2007, 154, A849に記載されているように、リチウムが合金中で9mL/モルを占めると仮定して決定した。
【0098】
試料電極は、こうして約38%の多孔度を有するカレンダー処理していない(uc)電極及びカレンダー処理した(c)電極のいずれかにて調製した。次いで、代表的なカレンダー処理していない電極とカレンダー処理した電極のSEM画像を得た。カレンダー処理していない及びカレンダー処理したニートのV7電極のSEM画像から、カレンダー処理後に平均粒径の顕著な減少が観察された。この効果は以前に観察されている(Z. Du, R. A. Dunlap and M. N. Obrovac, J. Electrochem. Soc., 2014, 161, A1698-A1705を参照)。このことは、硬くて不規則な形状の合金粒子が圧縮中に互いにずれることができないことに起因する可能性がある。代わりに、多孔度の低減は、バインダーで覆われていない新たな合金表面を露出させる粒子破壊によってのみ達成される。遊星粉砕で調製した試料CE1では、カレンダー処理していない試料とカレンダー処理した試料の両方で、シリコン合金とグラファイト粒子の分離した領域が観察された。ニートのV7電極の場合と同様に、分離した合金領域で平均合金粒径の顕著な減少があり、合金粒子の破壊を示している。対照的に、合金とグラファイトの粒子は、MFによって調製したVK電極にてより均一に分散され、カレンダー処理中に合金の粒径が明らかに減少することはない。これは、VK試料によく分散したグラファイトが、効果的なカレンダー潤滑剤として機能し、粒子が破壊されることなく電極を圧縮できることを示している。
【0099】
セルの調製
リチウムイオンセルのアノード材料として様々な材料を評価するために、実験室試験のリチウム半セルを作製し試験した。電極は、リチウム箔(99.9%、Sigma Aldrich)対/参照電極を備えた2325タイプのコインリチウム半セルで組み立てた。(注:当業者によく知られているように、これらの試験リチウム半セルからの結果は、リチウムイオン電池におけるアノード材料の性能の信頼できる予測を可能にする。)各コインリチウム半セルには、2層のCelgard2300セパレーターを使用した。エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネート(体積比3:6:1、全てBASFより)の溶液における1M LiPF6(BASF)を電解質として使用した。セルの組み立ては、Arが充填されたグローブボックス内で実行した。セルは、Maccor Series 4000 Automated Test Systemを使用して、30.0±0.1℃で0.005V~0.9Vで定電流サイクルし、最初のサイクルではC/40トリクル放電(リチウム化)でC/20速度、及び次のサイクルではC/20トリクル放電(リチウム化)でC/5速度であった。また、セルを様々な速度(C/10、C/5、C/2、1C、2C、4C、及びC/10)でそれぞれ10回のサイクルでサイクルし、速度能力を試験した。
【0100】
電気化学的特性評価
図5a~5dは、V7合金のカレンダー処理していない及びカレンダー処理した電極、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のメカノフュージョンされた本発明の試料をそれぞれ含むリチウム半セルから得られた電圧曲線を示している。
【0101】
図6a~6dは、V7合金のカレンダー処理していない電極、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のメカノフュージョンされた本発明の試料をそれぞれ含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【0102】
図7a~7dは、V7合金のカレンダー処理した電極、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のメカノフュージョンされた本発明の試料をそれぞれ含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【0103】
図8a~8dは、V7合金、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの電気化学的性能を示している。カレンダー処理していない電極のサイクル性能を
図8aに示す。黒い(closed)記号は、リチウム化能力を示し、白い(open)記号は、脱リチウム化能力を示す。カレンダー処理した電極のサイクル性能を
図8bに示す。カレンダー処理していない電極のクーロン効率を
図8cに示す。カレンダー処理した電極のクーロン効率を
図8dに示す。
【0104】
図9は、V7合金のカレンダー処理した電極、CE1の遊星粉砕された比較試料、及びIE30とIE60のMFの本発明の試料を含むセルの速度能力を示している。
【0105】
図10は、カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【0106】
図11は、カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【0107】
図12は、カレンダー処理していないIE135の本発明の試料を含むセルのサイクル性能を示している。黒い記号は、リチウム化能力を示し、白い記号は、脱リチウム化能力を示す。
【0108】
図13は、カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【0109】
図14は、カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルから得られた対応する微分容量曲線を示している。
【0110】
図15は、カレンダー処理していないIE90*の本発明の試料を含むセルのサイクル性能を示している。黒い記号は、リチウム化能力を示し、白い記号は、脱リチウム化能力を示す。
【0111】
図18は、カレンダー処理していないIE135*の本発明の試料を含むセルから得られた電圧曲線を示している。
【0112】
図5aから明らかなように、ニートのV7電極の場合、Siの特徴的なリチウム化/脱リチウム化のプラトー(plateau)のみが観察される。カレンダー処理後の可逆容量は減少し、これは、カレンダー処理中の粒子の破壊に関連している可能性がある。KS6Lグラファイトを含む他の全ての電極では、グラファイトからの脱リチウム化に関連する0.1~0.2Vでの脱リチウム化のプラトーが観察される。CE1とIE30の可逆容量は、カレンダー処理後にわずかに減少する。IE60の場合、可逆容量の明らかな低下は観察されない。
【0113】
本発明の試料と比較試料の両方の電圧曲線は、粒径が50nm未満のSi活性/不活性合金に特徴的であり、50mV未満でサイクルしたときにLi15Si4が形成されない。
【0114】
最初のリチウム化中に
図6a~dに示されている全ての材料の微分容量曲線には、約0.16~0.2Vのリチウム化ピークが存在する。このピークは、初期リチウム化中のLi-Si相の核形成と成長に関連している。このピークは、MFによって調製された本発明の試料ではあまり目立たなくなっている。グラファイトと非晶質シリコンの両方に関連する特徴は、V7合金とグラファイトを含む試料の初期脱リチウム化中に観察される。グラファイト相の2つの脱リチウム化ピークが、約0.1~0.2Vに存在する。サイクルが進行するにつれ、サイクル速度がC/20からC/5に増しながら、これらの2つの脱リチウム化ピークは、目立たなくなる。約0.38Vと0.42Vの2つの脱リチウム化ピークが、サイクル中に成長することがわかった。これらの2つのピークの存在は、合金における様々な環境で形成されるLi
15Si
4に関連している可能性がある。例えば、合金のSi領域の中央付近のSiは、全てのSiの最近傍を有し、Si領域の端のSiは、V7合金の不活性相の隣にあるであろう。
【0115】
カレンダー処理していない電極とカレンダー処理した電極を含むセルのサイクル性能を、それぞれ
図8aと8bに示す。カレンダー処理していないV7-uc電極は、容量が大幅に減衰し、これは、合金の体積膨張が大きいためである可能性があり、サイクル中の合金粒子のコーティングの機械的不良及び電気的切断をもたらす。グラファイトの導入により、サイクル性能が向上する。カレンダー処理していないシリコン合金-グラファイトの試料電極は全て、試験した50サイクルで容量の減衰を示さない。しかしながら、
図8bに示すように、V7電極とCE1電極の両方で、カレンダー処理後に大幅な容量の減衰が生じる(カレンダー処理したCE1電極を含むセルは、50サイクルで68.3%の減衰を被った)。
【0116】
対照的に、本発明の試料電極は、容量の減衰なしに、カレンダー処理後も依然として十分サイクルする。本発明の複合材料の優れたサイクル性能、例えば、試料IE30のサイクル性能は、CE1と比較して、そのより小さいd002グラファイト間隔によって証明されるように、0.1~0.5μmの一次合金粒子が層間に埋め込まれ、本発明の試料のグラファイトマトリックスのより高い結晶化度を有するグラファイトの層を含む前者の特異的な微細構造に起因する。
【0117】
本発明の分散物の優れたサイクル性能、例えば、試料IE60のサイクル性能は、CE1と比較して、一次合金粒子がグラファイト粒子とともに十分に分散されている前者の特異的な微細構造に起因している。対照的に、CE1は、グラファイト粒子で分散された合金二次粒子を含む。
【0118】
コーティングの体積容量及びエネルギー密度は、M. N. Obrovac and V. L. Chevrier, Chem. Rev., 2014, 114, 11444-11502で記載されているセルスタックモデルに基づいて計算された。カレンダー処理したV7及びCE1電極のエネルギー密度は、市販のLiCoO2/グラファイトのセルスタックのベースライン(726Wh/L)よりも理論的に約1~2%向上するだけである。対照的に、カレンダー処理したIE30及びIE60電極のエネルギー密度は、理論的には約8~10%エネルギー密度が向上する。合金含有量を更に増やすと、更に向上できることが予想される。
【0119】
試料の減衰現象を更に調査するために、サイクル数の関数としてのクーロン効率を
図8c及び
図8dにプロットした。サイクル減衰は粒子の分断に敏感であるが、クーロン効率は、電解質の分解に関連する不可逆反応により敏感である。例えば、カレンダー処理していないV7-uc電極は、
図10aで容量の減衰を示し、粒子の分断を示しているが、そのクーロン効率は高く(99.5%超)、不可逆的な電解質反応が少量生じていることを示している。また、カレンダー処理していない全ての電極で、高いクーロン効率の値が観察される。対照的に、カレンダー処理したV7-c電極は、わずか約98.5%の低いクーロン効率を有し、電解質の反応性のレベルがより高いことを示している。これは、カレンダー処理プロセス中にシリコン合金粒子の粉砕が観察されたためである可能性が最も高く、これにより合金の表面積が増加し、更に、使用したバインダーによって保護されていない新たな合金表面が作成される。同様にまた、カレンダー処理したCE1電極は、クーロン効率が低く、これはまた、二次合金粒子の存在により、カレンダー処理中に電極において分散が不十分なSi領域の粉砕が観察されたことに関係している可能性がある。対照的に、本発明の試料のクーロン効率の値は、カレンダー処理後でさえも高いままである。これは、合金粒子を破壊することなくカレンダー処理されるこれらの電極の能力を反映している。これらの結果は、二次合金粒子を一次合金粒子に解凝集し、カレンダー処理した合金コーティングにおける一次合金粒子とグラファイトの良好な分散物を得ることの重要性を示しており、また、乾式MF処理が、良好なシリコン一次合金粒子/グラファイト分散物及び複合材料を得るための優れた方法であることを示している。
【0120】
MFプロセスによって作製された電極材料の優位性は、
図9に示すカレンダー処理した電極の速度能力にも反映される。ニートのカレンダー処理したV7-c電極の場合、速度能力及びサイクル性能は不十分である。KS6Lグラファイトを加えると、カレンダー処理したCE1-c電極の速度能力が向上する。しかしながら、速度能力は、非常に高い速度では依然不十分である。カレンダー処理したIE30-c及びIE60-cの電極の速度能力が、大幅に向上する。IE60-cの電極は、それぞれ、2C及び4Cで保持される950mAh/g(即ち、1473Ah/L)及び900mAh/g(即ち、1432Ah/L)の容量で優れた速度容量を示す。これらの結果は、MF乾式プロセスで作製されたシリコン-グラファイト分散物及び複合材料が、良好なサイクル性能を有するだけでなく、優れた速度能力も示すことを実証している。この顕著な向上は、MF乾式プロセスで作製されたシリコン-グラファイト試料で導電率が効果的に向上する可能性があることを示唆している。
【0121】
前述の例は、メカノフュージョンを使用して、充電式電池の負極での使用に特に適した新規のSi合金/グラファイト分散物及び複合材料を作成できることを実証している。本発明の方法の使用は、例えば、Si合金粒子が十分に分散され、グラファイト層間に埋め込まれ得る特異的な微細構造をもたらすことができる。この特別な構造は、Si合金の膨張のための緩衝材を提供できるだけでなく、充電式電池の電解質と反応することから合金の表面を保護することもできる。その結果、従来のSi合金グラファイト電極材料と比較して、優れたサイクル性能と速度能力を高い容量とともに実現できる。
【0122】
本明細書で言及されている上記の全ての米国特許、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
本発明の特定の要素、実施形態及び用途が示され、説明されているが、当然ながら、本発明は、特に前述の教示に照らして、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく当業者によって変更を行うことができることから、これらに限定されないことが理解される。例えば、実施例は、リチウムとの電気化学的活性を示す材料とリチウムイオン電池のアノードとしての予想される性能に焦点を当てているが、リチウム又は更に他のアルカリ金属又はアルカリ土類金属(例えば、Na)との電気化学的活性を示す同様の材料(例えば、Sn、Al)が、同様の方法を使用して作製することができることが予想される。更に、このような材料は、他の電池又は電気化学デバイスで使用されることができる。このような変更は、本明細書に添付された特許請求の領域及び範囲内で考慮されるべきである。
【国際調査報告】