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特表2022-510873冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220121BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220121BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/46 F
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529405
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 IB2019060889
(87)【国際公開番号】W WO2020128811
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/060251
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル,パトリス
(72)【発明者】
【氏名】ブーザ,マガリ
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティー,アニルバン
(72)【発明者】
【氏名】ガーセミー-アルマキ,ハッサン
(72)【発明者】
【氏名】ジリナ,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコロ,ロナン
(72)【発明者】
【氏名】コルツォフ,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ナドレ,オード
(72)【発明者】
【氏名】パナヒ,デイモン
(72)【発明者】
【氏名】ソレ,ミシェル
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD02
4K037FD03
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FF01
4K037FF02
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK01
4K037FK02
4K037FK03
(57)【要約】
本発明は、重量パーセントで、C:0.3~0.4%、Mn:2.0~2.6%、Si:0.8~1.6%、Al:0.01~0.6%、Mo:0.15~0.5%、Cr:0.3~1.0%、Nb≦0.06%、Ti≦0.06%、Ni≦0.8%、S≦0.010%、P≦0.020%及びN≦0.008%を含む組成を有し、組成の残余は鉄、及び製錬から生じる不可避の不純物である鋼でできており、鋼板は表面分率で、15~30%の間の残留オーステナイト(該残留オーステナイトは少なくとも0.7%の炭素含有率を有するもの)、70%~85%の間の焼戻しマルテンサイト、最大で5%のフレッシュマルテンサイト、及び最大で5%のベイナイトからなる微細組織を有する、冷間圧延熱処理鋼板を取り扱う。本発明は、また、その製造方法についても取り扱う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延熱処理鋼板であって、重量パーセントで以下:
C:0.3~0.4%
Mn:2.0~2.6%
Si:0.8~1.6%
Al:0.01~0.6%
Mo:0.15~0.5%
Cr:0.3~1.0%
Nb≦0.06%
Ti≦0.06%
Ni≦0.8%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
Cu≦0.03%
を含み、及び重量パーセントで、任意に以下:
B:0.0003~0.005%
V≦0.2%
の元素の1種以上を含む組成を有し、前記組成の残余は鉄、及び製錬から生じる不可避の不純物である鋼でできており、前記鋼板が、表面分率で、以下:
- 15~30%の間の残留オーステナイトであって、前記残留オーステナイトが少なくとも0.7%の炭素含有率を有するもの、
- 70%~85%の間の焼戻しマルテンサイト、及び
- 最大で5%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で5%のベイナイト
からなる微細組織を有する、冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
クロム含有率が0.6%~0.8%の間に含まれる、請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
ケイ素含有率が1.5%未満である、請求項1又は2に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
ケイ素含有率が1.4%未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
ケイ素含有率が1.3%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
ケイ素及びアルミニウムの累積量が1.6%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
アルミニウム含有率が0.2%~0.5%の間に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
モリブデン含有率が0.20%~0.40%の間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
前記微細組織が、最大で2%のフレッシュマルテンサイトを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項10】
前記微細組織が、最大で2%のベイナイトを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項11】
前記微細組織が、ベイナイトを含まず、及びフレッシュマルテンサイトを含まない、請求項1~10のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項12】
前記冷間圧延熱処理鋼板がZn若しくはZn合金、又はAl若しくはAl合金で被覆されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項13】
前記冷間圧延熱処理鋼板が、少なくとも1100MPaの降伏強さYS、少なくとも1470MPaの引張強さ、少なくとも13%の全伸びTE、少なくとも15%の穴広げ率HER及び0.70未満のLME指数を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項14】
以下の連続工程を含む冷間圧延熱処理鋼板の製造方法:
- 鋼を鋳造してスラブを得る工程であって、前記鋼は請求項1~8のいずれか一項に記載の組成を有するものである工程、
- 前記スラブを1150℃~1300℃の間に含まれる温度Treheatで再加熱する工程、
- 前記再加熱されたスラブをAr3より高い温度で熱間圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程、
- 前記熱間圧延鋼板を200℃~700℃の間に含まれる巻取り温度Tcoilで巻き取る工程、
- 任意に、前記熱間圧延鋼板を酸洗する工程、
- 任意に、前記熱間圧延鋼板を焼鈍して、熱間圧延焼鈍鋼板を得る工程、
- 任意に、前記熱間圧延焼鈍鋼板を酸洗する工程、
- 前記熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程、
- 前記冷間圧延鋼板をAc3~Ac3+100℃の間の焼鈍温度に再加熱し、及び前記冷間圧延鋼板を前記焼鈍温度で30秒~600秒の間に含まれる保持時間維持し、焼鈍終了時に完全なオーステナイト組織を得る工程、
- 前記冷間圧延鋼板を0.1℃/秒~200℃/秒の間に含まれる冷却速度で(Ms-140℃)~(Ms-75℃)の間に含まれる焼入れ温度Tqまで焼き入れし、及び任意に、それをTqで1~200秒の間に含まれる保持時間Tqの間維持する工程、
- 前記冷間圧延鋼板を350℃~500℃の間に含まれる分配温度に再加熱し、前記冷間圧延鋼板を前記分配温度に30秒~2000秒の間に含まれる分配時間の間維持する工程、
- 前記冷間圧延熱処理鋼板を室温まで冷却する工程。
【請求項15】
前記巻き取り温度Tcoilが450℃~650℃の間に含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
巻取り後の前記熱間圧延鋼板が5μmの最大厚さを有する粒界酸化層を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
ホットバンドが、500~800℃の間に含まれる温度で1000秒~108000秒間焼鈍される、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い延性及び成形性を有する高強度鋼板及びこのような鋼板を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車両用の車体構造部材及び車体パネルの部品のような種々の商品を製造するために、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼で作られた板を使用することが知られている。
【0003】
地球環境保全の観点から燃料効率を改善するために自動車の重量を減らすために、降伏強さ及び引張強さを改良した板を有することが望まれる。しかし、このような板は、良好な延性及び良好な成形性を有し、より具体的には良好な伸びフランジ性を有さなければならない。
【0004】
これらの機械的要件に加えて、このような鋼板は液体金属脆化(LME)に対して良好な耐性を示す必要がある。亜鉛又は亜鉛合金被覆鋼板は、耐食性に非常に有効であり、このため自動車産業において広く使用されている。しかし、特定の鋼のアーク又は抵抗溶接は、液体金属脆化(「LME」)又は液体金属助長割れ(「LMAC」)と呼ばれる現象により、特定の亀裂の出現を引き起こす可能性があることが経験されている。この現象は、加えられた応力、又は拘束、熱膨張又は相変態から生じる内部応力の下で、下にある鋼基材の粒界に沿った液体Znの浸透を特徴とする。炭素又はケイ素のような添加元素はLME亀裂に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0005】
自動車産業は、通常、次式に従って計算されるいわゆるLME指数の上限値を制限することによって、そのような耐性を評価する。
LME指数=%C+%Si/4、
式中、%C及び%Siはそれぞれ、鋼中の炭素及びケイ素の重量パーセントを表す。
【0006】
公表文献WO2010029983号には、引張強さが980MPaよりも高く、さらに1180MPaよりも高い高強度鋼板を得る方法が記載されている。しかし、1470MPaより高い引張強さを有する本発明の鋼組成において多量のケイ素を使用することによって、鋼の液体金属脆化耐性は、減少する。
【0007】
公表文献WO2018073919号では、高強度亜鉛めっき及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。1470MPaより高い引張強さを得るには、多量のマンガン及びケイ素が必要である。高レベルのマンガンは、延性に悪影響を及ぼす偏析問題を生じさせるおそれがあり、高レベルのケイ素は、液体金属脆化耐性を低下させる。
【0008】
公表文献WO2009099079号において、1200MPaより高い引張強さ、13%より高い全伸び及び50%より高い穴広げ率を有する高強度亜鉛めっき鋼板が製造されている。この鋼板の微細組織は、0%~10%のフェライト、0%~10%のマルテンサイト、60%~95%の焼戻しマルテンサイトを含み、5%~20%の残留オーステナイトを含む。引張強さの値を1470MPaを超えるまで増加させるために、この鋼板の微細組織は多量の焼戻しマルテンサイト及び非常に少ない量の残留オーステナイトを含んでおり、鋼板の延性を大幅に低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/029983号
【特許文献2】国際公開第2018/073919号
【特許文献3】国際公開第2009/099079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、少なくとも1100MPaの降伏強さ、少なくとも1470MPaの引張強さ、少なくとも13%の全伸び、少なくとも15%の穴広げ率及び0.70未満のLME指数に到達する鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。鋼板はまた、請求項2~13のいずれかの特徴を含むことができる。別の目的は、請求項14に記載の方法を提供することによって達成される。この方法はまた、請求項15~17のいずれかの特徴を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、以下に詳細に記載され、制限を導入することなく実施例によって例示される。
【0013】
以下、Ac3は、その上の温度ではオーステナイトが完全に安定である変態温度を指し、Ar3は、その温度までは冷却時に微細組織が完全にオーステナイトのままとなる温度を指し、Msは、マルテンサイト開始温度、すなわち、冷却時にオーステナイトがマルテンサイトに変態し始める温度を指す。
【0014】
特に指定のない限り、全ての組成百分率を重量パーセント(重量%)で示す。
【0015】
本発明の鋼の組成は重量%で以下を含む。
【0016】
- 満足できる強度を確保し、十分な伸びを得るために必要な残留オーステナイトの安定性を向上させるためには、0.3%≦C≦0.4%である。炭素含有率が0.4%を超えると、熱間圧延板は冷間圧延しにくく、溶接性が不十分である。炭素含有率が0.3%未満であると、引張強さ及び全伸びは目標値に達しない。
【0017】
- 満足な強度を確保し、十分な伸びを得るためにオーステナイトの少なくとも一部の安定化を達成するためには、2.0%≦Mn≦2.6%である。2.0%未満では、最終組織が不十分な残留オーステナイト分率を含み、延性及び強度の所望の組合せが達成されない。伸び成形性に悪影響を及ぼす偏析問題を回避し、溶接性の問題を制限するために、最大値が規定される。
【0018】
- ケイ素はセメンタイトの析出を遅らせるので、0.8%≦Si≦1.6%である。したがって、少なくとも0.8%のシリコン添加は十分な量の残留オーステナイトの安定化に役立つ。ケイ素はさらに固溶体強化を提供し、部分的マルテンサイト変態後に行われる即時の再加熱及び保持工程から生じる、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素再分配中の炭化物の形成を遅らせる。含有量が高すぎると、表面に酸化ケイ素が形成され、鋼の被覆性を損なう。またケイ素は、液体金属脆化耐性に悪影響を及ぼす。したがって、Si含有率は1.6%以下である。好ましい実施形態において、ケイ素含有率は、液体金属脆化耐性をさらに高めるために1.5%未満である。他の好ましい実施形態においてケイ素含有率は1.4%未満であり、他の好ましい実施形態ではケイ素含有率は1.3%未満である。
【0019】
- アルミニウムは精緻化中の液相中の鋼を脱酸するのに非常に有効な元素であるので、0.01%≦Al≦0.6%である。また、アルミニウムは、部分的マルテンサイト変態後に行われる即時の再加熱及び保持工程から生じる、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素再分配中の炭化物の形成を遅らせる。内包物の発生を避けるため、酸化の問題を避けるため、及び完全なオーステナイト組織を作ることをより困難にするAc3温度の上昇を制限するために、アルミニウム含有率は0.6%以下である。好ましい実施形態において、アルミニウム含有率は、0.2%~0.5%の間に含まれる。
【0020】
好ましい実施形態において、ケイ素及びアルミニウムSi+Alの累積量は1.6%以上である。
【0021】
- 0.15%≦Mo≦0.5%。モリブデンは焼入性を高め、残留オーステナイトを安定化させ、分配時のオーステナイト分解を低減させる。さらに、モリブデンは、クロムと共に、巻取り中の熱間圧延鋼板の表面での粒界酸化(これは冷間圧延前に除去しなければならない)を抑制するのに役立つ。0.5%を超えると、モリブデンの添加は費用がかかり、後で求められる特性を考慮すると効果がない。好ましい実施形態において、モリブデン含有率は0.20%~0.40%の間である。
【0022】
- 0.3%≦Cr≦1.0%。クロムは焼入性を高め、マルテンサイトの焼き戻しを遅らせる。クロムは、モリブデンと共に、巻取り後の熱間圧延鋼板の表面での粒界酸化(これは冷間圧延前に除去しなければならない)を抑制するのに役立ちつ。最大1.0%のクロムが許容され、それより上では飽和効果が認められ、クロムを加えることは無益であり、かつ費用がかかる。より高量のクロムは酸洗工程での表面洗浄の問題を生じさせ、その結果、鋼の被覆性に影響を及ぼす。好ましい実施形態において、クロム含有率は0.6%~0.8%の間である。
【0023】
- Nb≦0.06%は、熱間圧延中のオーステナイト結晶粒を微細化し、析出強化を提供するために添加することができる。好ましくは、添加するニオブの最小量は0.0010%である。0.06%を超える添加では、降伏強さ、伸び、穴広げ率が望むレベルに確保されない。好ましくは、添加するニオブの最大量は0.04%である。
【0024】
- Ti≦0.06%は、析出強化を行うために添加することができる。好ましくは、添加するチタンの最小量は0.0010%である。しかし、その量が0.06%以上の場合、降伏強さ、伸び、穴広げ率が所望のレベルで確保されない。好ましくは、添加するチタンの最大量は0.04%である。
【0025】
好ましくは、ニオブ及びチタンNb+Tiの累積量は0.01%より高い。
【0026】
- Ni≦0.8%。ニッケルはクロム又はモリブデンの代替元素であり、残留オーステナイトを安定化させるために添加できる。好ましくは、添加するニッケルの最小量は0.0010%である。
【0027】
以下のいくつかの元素は、本発明による鋼の組成に任意に添加することができる。
【0028】
- V≦0.2%は、析出強化を行うために添加することができる。好ましくは、添加するバナジウムの最小量は0.0010%である。しかし、その量が0.2%以上の場合、降伏強さ、伸び、穴広げ率が所望のレベルで確保されない。
【0029】
- 0.0003~0.005%のBは、鋼の焼入性を高めるために添加することができる。
【0030】
鋼の組成の残余は、鉄及び精錬から生じる不純物である。この点において、Cu、S、P及びNは少なくとも不可避の不純物である残留元素と考えられる。したがって、それらの含有率はCuでは0.03%以下、Sでは0.010%、Pでは0.020%、Nでは0.008%である。
【0031】
好ましくは、鋼の組成は、鋼が0.55%以下の炭素当量Ceqを有するようなものであり、炭素当量は、Ceq=%C+%Mn/20+%Si/28+2*%Pと定義される。
【0032】
以下、本発明に係る冷間圧延熱処理鋼板の微細組織について説明する。
【0033】
冷間圧延熱処理鋼板は、表面分率で、以下からなる組織を有する:
- 15%~30%の間の残留オーステナイトであって、該残留オーステナイトは少なくとも0.7%の炭素含有率を有するもの、
- 70%~85%の間の焼戻しマルテンサイト、及び
- 最大で5%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で5%のベイナイト。
【0034】
以下の方法で表面分率を決定する。微細組織を明らかにするために、冷間圧延され、熱処理されたものから試験片を切断し、研磨し、それ自体既知の試薬でエッチングする。この切断面を、その後、光学的又は走査型電子顕微鏡、例えば、電子線後方散乱回折(「EBSD」)装置及び透過電子顕微鏡(TEM)と連結された、5000倍を超える拡大率の、電界放出電子銃(「FEG-SEM」)を有する光学的又は走査型電子顕微鏡により検査する。
【0035】
各成分の表面分率の決定は、それ自体既知の方法による画像解析で行う。残留オーステナイト分率は、例えばX線回折(XRD)によって決定される。
【0036】
冷間圧延熱処理鋼板の微細組織は、少なくとも15%のオーステナイトを含み、それは室温で残留オーステナイトである。少なくとも15%の表面分率で存在する場合、残留オーステナイトは延性の増加に寄与する。30%を超えると、ISO16630:2009に従う穴広げ率HERの要求レベルは15%より低くなる。それは、オーステナイト中の炭素含有量がオーステナイトを安定化させるには低すぎるであろうからである。
【0037】
本発明に係る鋼板が目標とする穴広げ率及び強度及び伸びに到達できることを確実にするため、残留オーステナイトの炭素含有率は0.7%を超える。
【0038】
冷間圧延熱処理鋼板の微細組織は、表面分率で70~85%の量の焼戻しマルテンサイトを含む。
【0039】
焼戻しマルテンサイトは、焼鈍後の冷却時に形成され、その後分配工程の間に焼戻されたマルテンサイトである。
【0040】
冷間圧延熱処理鋼板の微細組織には、最大で5%のフレッシュマルテンサイト及び最大で5%のベイナイトが含まれる。
【0041】
フレッシュマルテンサイトは、分配工程後の冷却時に形成できるマルテンサイトである。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明による冷間圧延熱処理鋼板は、フレッシュマルテンサイトの表面分率が2%未満であり、ベイナイトの表面分率が2%未満であるようなものである。
【0043】
別の実施形態において、本発明に係る冷間圧延熱処理鋼板は、フレッシュマルテンサイトやベイナイトを含まないようなものである。
【0044】
また、本発明に係る冷間圧延熱処理鋼板の微細組織は、フェライトを含まず、パーライトも含まない。
【0045】
本発明の鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者は、それを定義することができる。しかし、以下の工程を含む本発明による方法を用いるのが好ましい:
厚さが、例えば、1.8~6mmの間の熱間圧延板は、鋼を鋳造してスラブを得るように上述した組成を有するものである工程、スラブを1150~1300℃の間に含まれる温度Treheatで再加熱する工程、再加熱したスラブを最終圧延温度がAr3より高い温度で熱間圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程によって製造することができる。
【0046】
最終圧延温度は、オーステナイト結晶粒の粗大化を避けるために、最高で1000℃であることが好ましい。
【0047】
次いで、熱間圧延鋼は、例えば、1℃/秒~120℃/秒の間に含まれる冷却速度で冷却させ、200℃~700℃の間に含まれる温度Tcoilで巻き取られる。好ましい実施形態において、Tcoilは450℃~650℃の間に含まれる。
【0048】
巻取り後の熱間圧延鋼板は、最大厚さ5μmの粒界酸化層を含む。
【0049】
巻取り後、板を酸洗いすることができる。
【0050】
次いで、熱間圧延鋼板の冷間圧延性及び靭性を向上させるため、かつ、高い機械的特性、特に高い強度及び高い延性を有する冷間圧延熱処理鋼板の製造に適した熱間圧延焼鈍鋼板を提供するために、この熱間圧延鋼板を焼鈍することができる。
【0051】
好ましい実施形態において、熱間圧延鋼板に対して行われる焼鈍は、1000秒~108000秒の間、500~800℃の間に含まれる温度で行われるバッチ焼鈍である。
【0052】
次に、熱間圧延焼鈍鋼板を任意に酸洗いする。
【0053】
次に、熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延し、例えば、0.7mm~3mmの間、又は0.8mm~2mmの範囲でさらに望ましい厚さを有する冷間圧延鋼板を得る。
【0054】
冷間圧延圧下率は、20%から80%の間に含まれることが好ましい。20%未満では、その後の熱処理時の再結晶が好ましくなくなり、冷間圧延熱処理鋼板の延性を損なうおそれがある。80%を超えると、冷間圧延時にエッジが割れるおそれがある。
【0055】
次に、冷間圧延鋼板を連続焼鈍ラインで熱処理する。
【0056】
熱処理は以下の工程を含む:
- 冷間圧延鋼板をAc3~Ac3+100℃の間の焼鈍温度に再加熱し、及び冷間圧延鋼板を該焼鈍温度に30秒~600秒の間に含まれる保持時間保持し、焼鈍終了時に完全オーステナイト組織を得る工程。
焼鈍温度までの再加熱速度は1℃/秒~200℃/秒の間に含まれることが好ましい。
- 冷間圧延鋼板を好ましくは0.1℃/秒~200℃/秒の間に含まれる冷却速度で、(Ms-140℃)~(Ms-75℃)の間、好ましくは150~215℃の間に含まれる焼入れ温度まで焼入れし、1~200秒の間に含まれる保持時間の間該焼入れ温度にそれを維持する工程。
【0057】
冷却速度は、冷却時のパーライトの形成を避けるように選択される。
【0058】
この焼入れ工程の間、オーステナイトは部分的にマルテンサイトに変態する。
【0059】
焼入れ温度が(Ms-140℃)より低い場合、最終組織中の焼戻しマルテンサイトの分率が高すぎ、15%未満の最終オーステナイト分率をもたらし、これは鋼の全伸びに悪影響を及ぼす。また、焼入れ温度が(Ms-75℃)より高い場合には、所望の穴広げ率は達成されない。
【0060】
- 任意に、鋼の伸びの低下を招くであろう、マルテンサイト中のイプシロン炭化物の生成を回避するために、焼入れされた板を1秒~200秒の間、好ましくは3秒~30秒の間に含まれる保持時間の間、焼入れ温度に保持する工程。
【0061】
- 冷間圧延鋼板を350℃~500℃の間に含まれる分配温度に再加熱し、該冷間圧延鋼板を該分配温度に30秒~2000秒の間、より好ましくは30秒~800秒の間に含まれる分配時間の間維持する工程。
【0062】
- 任意に、板を溶融めっきする工程。任意の種類の被膜を使用することができ、特に、亜鉛-ニッケル合金、亜鉛-マグネシウム合金又は亜鉛-マグネシウム-アルミニウム合金のような亜鉛又は亜鉛合金、例えば、アルミニウム-ケイ素のようなアルミニウム又はアルミニウム合金を使用することができる。
【0063】
- 分配工程の直後、又は溶融めっき工程の直後に、行う場合には、冷間圧延鋼板を室温まで冷却し、冷間圧延熱処理鋼板を得る工程。冷却速度は、1℃/秒よりも高いことが好ましく、例えば、2℃/秒~20℃/秒の間に含まれる。
【0064】
- 任意に、室温まで冷却した後、溶融めっき工程が実施されていない場合、板は、電気化学的方法、例えば、電気亜鉛めっきによって、又は任意の真空被覆方法、例えば、PVD又はジェット蒸着により被覆することができる。任意の種類の被膜、特に、亜鉛-ニッケル合金、亜鉛-マグネシウム合金又は亜鉛-マグネシウム-アルミニウム合金のような亜鉛又は亜鉛合金を使用することができる。任意に、電気亜鉛メッキにより被覆した後、板を脱気に供することができる。
【実施例
【0065】
2つの等級(その組成は表1にまとめた)を半製品で鋳造し、表2に集めた方法のパラメータに従い、鋼板に加工した。
【0066】
<表1-組成>
以下の表に試験組成をまとめ、そこで元素含有率を重量%で表す。バナジウムは添加しなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
所定の鋼について、当業者は、膨張率測定試験及び金属組織学分析により、Ar3、Ac3及びMを決定する方法を知っている。
【0069】
【表2】
【0070】
巻取り後の熱間圧延板の一部の試料を分析し、粒界酸化層の存在の可能性を評価し、対応する結果を表3にまとめた。
【0071】
次に、冷間圧延熱処理板の一部の試料を分析し、対応する微細組織元素及び機械的特性をそれぞれ表4及び5にまとめた。
【0072】
<表3-熱間圧延鋼板の粒界酸化>
粒界酸化は巻取り板の表面上の不連続性を特徴とする粒間酸化である。鋼表面の鉄層では、酸化物が結晶粒間に分散している。最終的な微細組織の粒界は、母材中の均一な拡散と比較して、鉄よりも酸化性が高い元素についての拡散短絡を自然に構成する。その結果、粒界のレベルでより顕著な酸化及びより深い酸化が起こる。
【0073】
巻取り後の熱間圧延鋼板上の粒界酸化層(GBO)の存在を決定した。
【0074】
【表3】
【0075】
試験例1~3及び7では、鋼組成及び巻取り温度範囲の組み合わせにより、GBOの成長の良好な制御と、試験1及び2では完全な抑制さえ示している。試験例5では巻取り温度が高いため、結果が不良であり、試験例6では等級にモリブデンが欠けていたため、結果は良好ではない。
【0076】
<表4-冷間圧延焼鈍鋼板の微細組織>
得られた冷間圧延鋼板の微細組織の相の割合を決定した。
【0077】
【表4】
【0078】
<表5-冷間圧延焼鈍鋼板の機械的特性>
試験した試料の機械的特性を決定し、以下の表にまとめた。
【0079】
【表5】
【0080】
降伏強さYS、引張強さTS及び一様伸びTEは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って測定される。穴広げ率HERは、ISO規格16630:2009に従って測定される。測定方法の相違により、ISO規格16630:2009による穴広げ率HERの値は、JFS T1001(日本鉄鋼連盟規格)による穴広げ率λの値とは大きく異なり、比較できない。
【0081】
実施例は、発明に従った鋼板、すなわち実施例1~3及び7が、それらの特定の組成及び微細組織のおかげで、全ての標的特性を示す唯一のものであることを示す。実施例4の冷間圧延焼鈍鋼板は、本発明に対応する化学組成を有し、225℃に等しい温度Tqで焼入れされ、より多くのフレッシュマルテンサイトを生成し、低いレベルの穴広げ率をもたらす。
【国際調査報告】