(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】オルガノイドの生体移植用組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20220121BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220121BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20220121BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220121BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
A61L27/38
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/40
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531269
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2019013527
(87)【国際公開番号】W WO2020111507
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152804
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519427985
【氏名又は名称】オルガノイドサイエンシーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ORGANOIDSCIENCES, LTD.
【住所又は居所原語表記】302, CHA UNIVERSITY INCUBATING CENTER, YATAP‐RO 26, BUNGDANG‐GU, GYEONGGI‐DO 13522, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ヨオ,ジョン・マン
(72)【発明者】
【氏名】ジ,ジョオ・ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ソン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン・キュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,チュン・ウン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BC46
4B065CA46
4C081AB11
4C081AB12
4C081AB18
4C081AB21
4C081AB24
4C081BA12
4C081CD122
4C081CD152
4C081CD18
4C081CD34
4C081DC11
(57)【要約】
本発明は、オルガノイドを含む生体移植用組成物及びこれの用途に関するものである。一態様によれば、コラーゲン、ゼラチン、またはフィブリン糊をオルガノイド移植のためのスキャフォールドとして使用した場合、オルガノイドの移植率、生存率が高く、安定性も優れた効果がある。
【選択図】
図8b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノイド;
ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせを含む生体移植用組成物。
【請求項2】
前記オルガノイドは、腸オルガノイド、網膜オルガノイド、腎臓オルガノイド、肝臓オルガノイド、胃オルガノイド、前立腺オルガノイド、乳房オルガノイド、内耳オルガノイド、心臓筋線維オルガノイド、肝臓内皮オルガノイド、膵臓オルガノイド、卵管オルガノイド及び大脳オルガノイドからなる群から選択される請求項1に記載の生体移植用組成物。
【請求項3】
前記ゼラチンは、組成物の総重量に対して2.5~10%(w/v)含まれる請求項1に記載の生体移植用組成物。
【請求項4】
前記コラーゲンは、組成物の総重量に対して10~20%(v/v)含まれる請求項1に記載の生体移植用組成物。
【請求項5】
前記フィブリン糊は、組成物の総重量に対して10~15%(v/v)含まれる請求項1に記載の生体移植用組成物。
【請求項6】
ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、または、これらの組み合わせをオルガノイドと混合する工程、及び、
その混合物を個体に投与する工程、を含むオルガノイドの移植方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オルガノイドの生体移植用組成物及びこれを利用した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノイドは、基本実験モデル、移植可能な組織のソース及び薬物スクリーニングのための生理学的に適切なプラットフォームとされる。不滅化細胞の培養とは異なって、腸(intestine)オルガノイドは、例えば、クリプト(crypt、陰窩)類似突出部に存在する生存可能な幹細胞を含み、様々な機能細胞の類型を生産するための再生及び分化の連続的なサイクルを経て、腸の発達及び恒常性の主要側面を繰り返す。
【0003】
上皮オルガノイドはまた、ヒト結腸(human colon)、腺腫及び腺癌の組織から形成されて、オーダーメイド医療(personalized medicine)及び患者由来クリプト(crypt)または生体外(ex vivo)で培養されて拡大された幹細胞を使用する自家移植のための可能性を開いた。以前とは比較できない、本来の組織に対する組織学的正確性にもかかわらず、胃腸管(GI tract)の幹細胞由来のオルガノイドは、いくつかの限界を有しているが、その中で主なものは、3Dスキャフォールドとしてマトリゲル(Matrigel)に依存していることである。
【0004】
マトリゲルは、すべての細胞類型のオルガノイド成長のための3Dスキャフォールドを提供するために広く使用される商業用製品である(Matrigel:a complex protein mixture required for optimal growth of cell culture;Proteomics.2010 May;10(9):1886-90(非特許文献1))。これは腸、網膜、腎臓、肝臓、胃、前立腺、乳房、内耳、心臓腱繊維、肝臓内皮、膵臓、卵管及び大脳のオルガノイドを成長させるのに使用される。また、ニワトリ、ラット及びヒトを含む様々な種からのオルガノイドを成長させるのに使用される。しかし、オルガノイド成長のためのスキャフォールドとしてのマトリゲルまたは類似に自然的に誘導された生体高分子マトリックスに対する依存性は、生成されたオルガノイドの研究と使用に様々な有意な制限をもたらす。マトリゲルは、基底膜ECM-豊富マウス肉腫(sarcoma)から由来したものであるから患者に与えられる場合、免疫原や病原菌を移す危険が大きく、免疫抑制後の感染に関連する深刻な患者死亡と病的状態(morbidity)の分野で特に問題になり、血管新生及び癌の発生を促進させると知られている。また、マトリゲルのバッチ間(batch-to-batch)可変性は、基本及び橋渡し研究(translational research)のすべての解釈を複雑にする未知の潜在的混乱変数を導入する一貫性のない細胞挙動をもたらし得る。しかも、マトリゲルは、現在のオルガノイド培養モデルの決定的な要素であるにもかかわらず、オルガノイド形成におけるその役割はまだ明らかにされていない。
【0005】
したがって、オルガノイド分野でマトリゲルを代替できるほど効果的でありながら、生体移植に適した人体注入のためのスキャフォールドに対する研究が必要な実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proteomics.2010 May;10(9):1886-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一態様は、オルガノイド;ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊(fibrin glue)、またはこれらの組み合わせを含む生体移植用組成物を提供する。
【0008】
本発明の他の態様は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせをオルガノイドと混合する段階;及び前記混合物を個体に投与する段階を含むオルガノイドの移植方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、オルガノイド;ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせを含む生体移植用組成物を提供する。
【0010】
本発明の他の態様は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせをオルガノイドと混合する工程、及び、前記混合物を個体に投与する工程を含むオルガノイドの移植方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、コラーゲン、ゼラチン、またはフィブリン糊をオルガノイド移植のためのスキャフォールドとして使用した場合、オルガノイドの移植率、生存率が高く、安定性も優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織に移植されたオルガノイドから放出されたGFP信号をスキャフォールド別に測定した写真である。
【
図2】大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織に移植されたオルガノイドの面積を示したグラフである。
【
図3】大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織の断面を観察した結果を示した写真である。
【
図4】大腸オルガノイドの移植後、7日目にオルガノイドを移植した大腸の形態の写真である。
【
図5】大腸オルガノイドの移植後、7日目にオルガノイドを移植した大腸の重量/長さを計算した結果のグラフである。
【
図6】大腸オルガノイドの移植後、2次オルガノイドを形成させた後、GFP信号を確認した結果の写真である。
【
図7】大腸オルガノイドの移植後、2次オルガノイドを形成させた後、GFPを発現するオルガノイドの数を測定して、移植された面積との関連性を測定した結果を示したグラフである。
【
図8a】EDTAによる急性大腸損傷モデルの製造過程を示した模式図である。
【
図8b】一態様に係るオルガノイドの移植過程を示した模式図である。
【
図8c】一態様に係るオルガノイドの移植後の分析結果を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様は、オルガノイド;ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせを含む生体移植用組成物を提供する。
【0014】
本明細書において、用語「オルガノイド(organoid)」とは、3D立体構造を有する細胞塊を意味し、動物などから収集、取得していない人工的な培養過程によって製造した縮小され単純化されたバージョンの機関を意味する。これを構成する細胞の由来は制限されない。オルガノイドは、組織、幹細胞、例えば胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞から派生することができ、自己再生及び分化能力により3次元に培養することができる。前記オルガノイドは、細胞の成長過程で周辺環境と相互作用するように許容されている環境を有することができる。これにより、本発明の3Dオルガノイドは、実際にin vivoで相互作用をしている臓器をほぼ完全に模写して、病気の治療剤の開発及び観察をすることができる優れたモデルになることができる。人体の生理活性機能を類似に再現することができ、患者の組織から臓器類似体を構築することによって、患者の遺伝情報を基盤とした病気のモデリング、反復試験による薬物スクリーニングなどを可能にする。このような機能のためには、生体に移植時の移植率、移植効率、生存率及び安定性に優れていることが要求される。本明細書において、用語「ゼラチン(gelatin)」とは、動物の皮膚、軟骨、腱などに構成された天然タンパク質を分解して精製することによって得られるタンパク質の一種である。
【0015】
本明細書において、用語「コラーゲン(collagen)」とは、人体に最も広範囲に分布するタンパク質であって、結合組織の主成分であり、骨と皮膚に主にあるが、関節、各臓器の膜、髪の毛など私たちの体全体に分布している成分である。「膠原質」とも呼ばれる硬タンパク質である。
【0016】
本明細書において、用語「フィブリン糊(fibrin glue)」とは、フィブリノーゲン、トロンビン、塩化カルシウム及び線溶(fibrinolysis)酵素の阻害剤からなる組織接着体であって、末梢神経の縫合、微小血管の縫合、脳神経外科手術、骨の接着など整形外科手術、裂傷患者の止血などに利用されている。組織に傷が生じると切断周辺の毛細血管から血液成分と共にフィブリノーゲンを流出してフィブリンを形成させる物質を意味する。
【0017】
前記ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊は、すべて生体適合性、体内での安定性に優れた特徴がある。
【0018】
本明細書において、用語「生体移植(bio implanting)」は、生体移植用組成物が個体に投与されて、目的とする部位に移植されることを意味する。
【0019】
生体移植のためには移植される部位に影響を与えないように、しなければならず、生存率と移植率が高いことが要求される。
【0020】
前記オルガノイドは、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせをスキャフォールド(scaffold)として使用して移植されることができるオルガノイドであれば特に制限されない。具体的には、前記オルガノイドは、腸オルガノイド、網膜オルガノイド、腎臓オルガノイド、肝臓オルガノイド、胃オルガノイド、前立腺オルガノイド、乳房オルガノイド、内耳オルガノイド、心臓筋線維オルガノイド、肝臓内皮オルガノイド、膵臓オルガノイド、卵管オルガノイド及び大脳オルガノイドからなる群から選択されることができる。
【0021】
前記ゼラチンは、組成物の総重量に対して約2.5~10%(w/v)含まれることができる。前記ゼラチンが約10%(w/v)超過の場合、ゼラチンの内毒性のために移植されたオルガノイドに対して細胞毒性が起こり得る。
【0022】
前記コラーゲンは、組成物の総重量に対して約10~20%(v/v)含まれることができる。
【0023】
前記フィブリン糊は、組成物の総重量に対して約10~15%(v/v)含まれることができる。前記フィブリン糊が約15%(v/v)超過の場合、組成物が非常に急速に固まってオルガノイドの移植率が低下し得る。
【0024】
前記ゼラチン、コラーゲン、またはフィブリン糊は、商業的に利用可能なものを購入して使用するか、自然に存在するものを分離して使用するか、または合成して使用することができる。
【0025】
前記組成物は、オルガノイドを移植、培養時に通常的に含まれることができる物質をさらに含むことができる。
【0026】
前記組成物において、オルガノイド、ゼラチン、コラーゲン、またはフィブリン糊は、移植のための医療的装置に付着した形態であり得る。前記医療的装置は、例えばステント、ピン、ステッチ、スプリット、ペースメーカー、人工皮膚及びロード(rods)で構成された群から選択されることができるが、これに制限されるものではない。
【0027】
本発明の一具体例に係る組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/または添加物を含むことができる。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、その他の有機酸など)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含むことができる。局所投与のために、生体高分子(biopolymer)などの有機物、ヒドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸重合体または共重合体、ポリエチレングリコール重合体または共重合体及びその化学的誘導体などと組み合わせることも含むことができる。
【0028】
本発明の他の態様は、オルガノイド;ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせを含む細胞治療剤を提供する。
【0029】
本明細書において、用語「細胞治療剤」とは、ヒトからの分離、培養及び特殊な操作によって製造された細胞及び組織であって、治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品であり、細胞或いは組織の機能を復元させるために生きている自己、同種または異種細胞を体外で増殖、選別するか、或いは他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為によって、治療、診断及び予防の目的で使用する医薬品を指す。
【0030】
本発明の一態様に係る細胞治療剤は、炎症性腸疾患や粘膜の損傷のような粘膜自体が失われた状態を治療するために使用されることができる。
【0031】
本発明の他の態様は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、またはこれらの組み合わせをオルガノイドと混合する工程、及び、前記混合物を個体に投与する工程を含むオルガノイドの移植方法を提供する。
【0032】
ゼラチン、コラーゲン、フィブリン糊、オルガノイドについては、前述した通りである。
【0033】
前記個体は、オルガノイドを移植して形成させる必要がある個体であり得る。
【0034】
前記個体は、ヒト及びその他の目的とする哺乳動物を例に挙げることができ、具体的には、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ウマ、ブタなどが含まれる。
【0035】
本明細書において、用語「投与する」、「導入する」及び「移植する」とは、相互交換的に使用され、一具体例に係る組成物の所望の部位への少なくとも部分的局所化をもたらす方法または経路による個体内への一具体例に係る組成物の配置を意味し得る。一具体例に係る組成物の細胞または細胞成分の少なくとも一部を、生存している個体内で所望の位置に伝達する任意の適切な経路によって投与されることができる。
【0036】
前記方法において、投与は、オルガノイドの移植が必要な病変部位に投与することができる。投与のために内視鏡装備を使用することができるが、これに制限されるものではない。例えば、内視鏡を利用した食道、胃、十二指腸、大腸、または結腸などに投与されることが代表的であり、その他にも外科的な手術による身体のすべての臓器、例えば、唾液腺、涙腺、筋肉、肺、肝臓、膵臓、腎臓、子宮、前立腺などに投与されることができる。例えば、炎症性腸疾患や粘膜の損傷のような粘膜自体が失われた場合、オルガノイドを移植して損傷した粘膜の代わりをするために使用されることができる。
【0037】
前記方法は、コラーゲン、ゼラチン、またはフィブリン糊をオルガノイド移植のためのスキャフォールドとして使用することによって、従来使用されていたマトリゲルと類似した移植安定性、移植効率性を示しながらも、臨床的に安全に適用可能であるという特徴がある。
【0038】
オルガノイドは、前記で説明したように、in vitroでも成体-類似特性を有するオルガノイドに分化することができ、何よりも患者自身の成体細胞を活用するため、今後の組織治療剤としての活用に障害となる免疫原性などの技術的な問題、倫理的な問題がないという利点がある。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は一つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されるものではない。
【0040】
参考例1 大腸オルガノイドの製作及び培養
EGFPマウスから大腸組織を分離して、酵素を使用して大腸クリプト(crypt)を分離し、マトリゲルと大腸オルガノイド用培地を1:1で混ぜて、コーティングされていない48ウェルプレートに接種した。これをインキュベーターに入れて、20分後にマトリゲルが固まったことを確認し、大腸オルガノイド用培地を添加して5日間培養し、下記に使用される生体移植用大腸オルガノイドを製作した。
【0041】
実施例1 生体移植用オルガノイドの製作及び移植
1.1. 大腸組織損傷モデルの製作
オルガノイドを製作する大腸組織損傷モデルを下記のように製造した。大腸オルガノイドを移植する野生型マウスを0.5M EDTAに5分間露出させ、電動歯ブラシで2分間大腸内壁のクリプトが除去されるように物理的な損傷を加えた。
【0042】
1.2. 生体移植用オルガノイドの製作及び移植
前記で製作した大腸オルガノイドがGFPを発現するように、大腸オルガノイド(colon organoid)を準備した。すべての大腸オルガノイドは、移植1日前に10μMのY-27632をオルガノイド培地に処理して生存率を極大化した。また、セルリカバリーソリューション(Cell recovery solution)を処理して培養時に使用したマトリックスを完全に除去した。
【0043】
以後、下記のように、3つのスキャフォールドを下記の記載された条件で混合して1.1.で製作した大腸組織損傷マウスモデルの肛門に50μlの体積で移植した。
【0044】
1)ゼラチン:5%のゼラチンが溶かされているPBSにGFP+大腸オルガノイドをゼラチン:オルガノイドが含有された培地=1:2の割合で混ぜて移植した。この際、オルガノイドが含有された培地は、10μMのY-27632が含まれている。
【0045】
2)コラーゲン:100%のコラーゲン原液にGFP+大腸オルガノイドをコラーゲン:オルガノイドが含有された培地=1:9の割合で混ぜて移植した。この際、オルガノイドが含有された培地は、10μMのY-27632が含まれている。
【0046】
3)フィブリン糊:GFP+大腸オルガノイドを10μMのY-27632が含まれたcolonoid culture培地45μlに混ぜて、Colonoid solutionを準備し、トロンビンがPBSに1:100で希釈された溶液にフィブリンを1:1で混ぜて5μlを作り、準備された45μlのColonoid solutionと混ぜて移植する。
【0047】
対照群には、マトリゲルを使用した。
【0048】
マトリゲルは、オルガノイドが含有されたcolonoid culture培地に10%の濃度で混ぜて移植した。この際、オルガノイドが含有された培地は、10μMのY-27632が含まれている。
【0049】
移植した後、3M Vetbond 10μlを使用して肛門を縫合し、14時間後に縫合を解いて正常な排便活動を誘導した。
【0050】
実施例2 オルガノイドの移植率評価
前記実施例1で移植した大腸オルガノイドのスキャフォールドに係る移植率を評価するために、下記のように行った。
【0051】
大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織を解剖検査して、移植されたオルガノイドから放出されるGFP信号を測定した。具体的には、オルガノイドが移植された大腸組織を縦に切開して平面構造を作り、この組織をスライドグラスの上に薄く広げて、その上にグラスカバーを被せた。この際、クリプト(crypt)が下面へ向かうようにした。このように準備されたスライドグラスを蛍光顕微鏡の載物台に置いて、GFP蛍光が発現する部位を観察した。
【0052】
図1は、大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織に移植されたオルガノイドから放出されたGFP信号をスキャフォールド別に測定した写真である。
【0053】
図2は、大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織に移植されたオルガノイドの面積を示したグラフである。
【0054】
図1及び
図2に示したように、スキャフォールドがない場合、GFP信号が最も弱いため移植率が低いことが確認された。一方、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用した場合、すべて陽性対照群であるマトリゲルをスキャフォールドとして使用した場合と類似した水準の移植率及び移植された面積を示したことを確認した。
【0055】
したがって、ゼラチン、コラーゲンまたはフィブリン糊をオルガノイド移植用スキャフォールドとして使用すると、オルガノイドの移植率が有意に増加する。
【0056】
実施例3 オルガノイドの生存率及び移植効率評価
前記実施例1で移植した大腸オルガノイドのスキャフォールドに係る生存率及び移植効率を評価するために、下記のように行った。
【0057】
各スキャフォールド実験群別に10~13匹の個体を使用し、GFPオルガノイドを大腸に移植した後、1週間目に組織解剖検査を実施して、大腸でGFPが発現するものを移植に成功した個体に分類し、GFPが発現していない個体を移植に成功できなかった個体に分類し、全体匹数のうちに移植された匹数の百分率を計算して最終移植率を算出した。そして、移植後の7日以内に死んだ個体を計算して、最終生存率を算出した。
【0058】
【0059】
表1に示したように、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用した場合、生存率が各々76.92、100及び90%であり、移植効率は各々69.23、90及び90%と高く確認されているので、生存率及び移植効率に優れていることを確認した。これは陽性対照群であるマトリゲルを使用した場合と類似した水準であった。
図3は、大腸オルガノイドの移植後、7日目に大腸組織の断面を観察した結果を示した写真である。
【0060】
図3に示したように、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用した場合に、すべてオルガノイドが成功的に安着されて大腸クリプト(crypt)を形成したことを確認した。
【0061】
実施例4 安定性評価
前記実施例1で移植した大腸オルガノイドの安定性を評価するために、移植した後7日目に解剖検査して、解剖検査組織の形態及び病変発生の有無を確認した。
【0062】
図4は、大腸オルガノイドの移植後、7日目にオルガノイドを移植した大腸の形態の写真である。
【0063】
図4に示したように、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用した場合、オルガノイドを移植した大腸に示され得る浮腫や血便などが解剖検査組織で観察されなかった。
【0064】
図5は、大腸オルガノイドの移植後、7日目にオルガノイドを移植した大腸の重量/長さを計算した結果のグラフである。
【0065】
図5に示したように、オルガノイドを移植した大腸の重量/長さを計算して、炎症が発生したときに示され得る浮腫の体積を観察した結果、マトリゲルを使用した対照群と比較して有意的差がなかった。
【0066】
したがって、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用して、オルガノイドを移植する場合、安定性に優れていることを確認した。
【0067】
実施例5 移植された組織から正常オルガノイド形成評価
前記実施例1で移植した大腸オルガノイドから正常なオルガノイドが形成されるか否かを評価するために、移植された大腸組織から2回目の大腸オルガノイド(2次オルガノイド)を形成させた。
【0068】
具体的には、移植された大腸組織のGFPを蛍光顕微鏡で確認した後、手術用ハサミで細かく切って、crypt chelating bufferが入っているチューブに入れ、37℃で20分間振とう培養器(shaking incubator)で反応させた後、18Gage needleが装着された10ml注射器に入れ、20回粉砕してCryptを分離した。分離したCryptを遠心分離して一箇所に集めた後、70umフィルターでろ過した後、Y-27632が添加された培地とマトリゲルを1:1割合で混ぜて、48ウェルプレートに20μl/ウェルの濃度で接種した。30分間37℃のインキュベーターに入れてマトリゲルを固めた後、Y-27632が添加された培地を添加して5日間培養した。培養5日目にGFPが発現する大腸オルガノイドを追跡観察した。
【0069】
図6は、大腸オルガノイドの移植後、2次オルガノイドを形成させた後、GFP信号を確認した結果の写真である。
【0070】
図6に示したように、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊をスキャフォールドとして使用した場合、GFPを発現する2次オルガノイドが効果的に形成された。これは、陽性対照群であるマトリゲルを使用した場合と類似した水準であると確認した。
【0071】
図7は、大腸オルガノイドの移植後、2次オルガノイドを形成させた後、GFPを発現するオルガノイドの数を測定して、移植された面積との関連性を測定した結果を示したグラフである。
【0072】
図7に示したように、2次オルガノイドの数と面積が比例して増加したことを確認した。
【0073】
したがって、ゼラチン、コラーゲン及びフィブリン糊は、正常なオルガノイド形成に有意な影響を及ぼさないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の一態様によれば、コラーゲン、ゼラチンまたはフィブリン糊をオルガノイド移植のためのスキャフォールドとして使用した場合、オルガノイドの移植率、生存率が高く、安定性も優れているので、これを含む組成物を生体移植用に有用に使用することができる。
【国際調査報告】