(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】ヒト化抗IL17BR抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220121BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220121BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220121BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220121BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220121BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220121BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220121BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220121BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220121BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220121BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220121BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220121BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20220121BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/28
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K48/00
A61P37/08
A61P29/00
A61P35/00
A61P11/06
A61P1/04
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P15/14
A61P1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532009
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2019084083
(87)【国際公開番号】W WO2020115319
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510157351
【氏名又は名称】ライフアーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パテル シーマ
(72)【発明者】
【氏名】マシューズ デイビッド
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064CE12
4B064DA01
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4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
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4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
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4C084ZB21
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4C085AA14
4C085BB11
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4C085CC05
4C085CC07
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4C085DD62
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
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4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、特異性又は親和性に対して悪影響を及ぼすことなく発現の改善を示す、重鎖及び/又は軽鎖可変ドメイン内に或る特定の残基の突然変異を含むマウス抗IL17BR抗体D9.2のヒト化バージョンに関する。ヒト化抗体は、配列番号1のVHCDR1、配列番号2のVHCDR2及び配列番号3のVHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン、例えば配列番号9、配列番号10又は配列番号11のVHドメインを含み得る。ヒト化抗体は、配列番号4のVLCDR1、配列番号5のVLCDR2及び配列番号6のVLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン、例えば配列番号13のVLドメインを含み得る。例えば癌の治療における抗体、医薬組成物及び使用方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む抗体であって、
a)前記重鎖可変ドメインが配列番号1のVHCDR1、配列番号2のVHCDR2及び配列番号3のVHCDR3を含み、
b)前記軽鎖可変ドメイン(VKドメイン)が配列番号4のVLCDR1、配列番号5のVLCDR2及び配列番号6のVLCDR3を含む、抗体。
【請求項2】
インターロイキン-17受容体B(IL17BR)に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ELISAによって測定される、インターロイキン-17受容体Bに対するマウス抗体D9.2の結合親和性の少なくとも75%の結合親和性でインターロイキン-17受容体に結合する、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体の発現レベルが、哺乳動物細胞においてマウス抗体D9.2の発現レベルの少なくとも40%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、任意に最大4つの付加的なフレームワーク置換を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
3がNである、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
4がKである、請求項5又は6に記載の抗体。
【請求項8】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
5がDである、請求項5~7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
1がQである、請求項5~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
2がAである、請求項5~9のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
6がMである、請求項5~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号9を含み、4個以下の付加的なフレームワーク置換を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
前記重鎖可変ドメイン(VH)が配列番号9を含む、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
1がEである、請求項5~7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
2がTである、請求項5~7及び14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
6がLである、請求項5~7、14及び15のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項17】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号10を含み、4個以下の付加的なフレームワーク置換を有する、請求項5~7及び14~16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
前記重鎖可変ドメイン(VH)が配列番号10を含む、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
3がAである、請求項5に記載の抗体。
【請求項20】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
4がQである、請求項5又は19に記載の抗体。
【請求項21】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
5がGである、請求項5、19又は20に記載の抗体。
【請求項22】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
1がEである、請求項5及び19~21のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項23】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
2がTである、請求項5及び19~22のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項24】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号8を含み、X
6がLである、請求項5及び19~23のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項25】
前記重鎖可変ドメイン(VHドメイン)が配列番号11を含み、4個以下の付加的なフレームワーク置換を有する、請求項5及び19~24のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項26】
前記重鎖可変ドメイン(VH)が配列番号11を含む、請求項25に記載の抗体。
【請求項27】
前記VHドメインが配列番号16を含む抗体定常領域と融合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項28】
前記VHドメイン及び定常領域のアミノ酸配列が配列番号17を含む、請求項27に記載の抗体。
【請求項29】
前記軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)が配列番号13を含み、4個以下の付加的なフレームワーク置換を有する、請求項1~28のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項30】
前記軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)が配列番号13を含む、請求項29に記載の抗体。
【請求項31】
IL17BR以外の抗原に対する抗原結合部位を形成する第2の重鎖可変ドメイン及び第2の軽鎖可変ドメインを更に含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項33】
請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項34】
プロモーターに操作可能に連結した請求項33に記載の核酸を含むベクター。
【請求項35】
請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項36】
請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体を作製する方法であって、宿主細胞培養物中で請求項34に記載のベクターを発現させ、前記抗体を産生させることと、該抗体を前記細胞培養物から回収することとを含む、方法。
【請求項37】
処置を必要とする個体に、請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体、請求項32に記載の医薬組成物、請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクターを有効量投与することによるアレルギー状態又は炎症状態の治療方法又は予防法。
【請求項38】
処置を必要とする個体に、請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体、請求項32に記載の医薬組成物、請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクターを有効量投与することによる癌状態の治療方法又は予防法。
【請求項39】
ヒト又は動物の身体の処置方法に使用されるための、請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体、請求項32に記載の医薬組成物、請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクター。
【請求項40】
個体におけるアレルギー状態又は炎症状態の治療方法に使用されるための、請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体、請求項32に記載の医薬組成物、請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクター。
【請求項41】
前記アレルギー状態又は炎症状態が喘息、潰瘍性大腸炎又は線維症である、請求項37に記載の方法、又は請求項40に記載の使用のための抗体、医薬組成物、核酸若しくはベクター。
【請求項42】
前記喘息がアレルギー性喘息又はライノウイルス増悪性喘息である、請求項41に記載の方法又は使用のための抗体。
【請求項43】
前記線維症が特発性肺線維症である、請求項41に記載の方法又は使用のための抗体。
【請求項44】
個体における癌状態の治療方法に使用されるための、請求項1~31のいずれか一項に記載の抗体、請求項32に記載の医薬組成物、請求項33に記載の核酸又は請求項34に記載のベクター。
【請求項45】
前記癌状態が乳癌又は膵癌である、請求項38に記載の方法、又は請求項44に記載の抗体、医薬組成物、核酸若しくはベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン-17受容体B(IL17BR)に結合するヒト化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
IL-17B受容体(IL-25受容体)は、自然リンパ球(ILC2)上で発現され、2型免疫応答の開始において重要な役割を果たし、近年、自然免疫から適応免疫への移行における複雑な役割と関連付けられている。ILC2は、エフェクター応答を刺激して炎症を引き起こす2型サイトカインの重要な供給源を与える。
【0003】
マウス抗IL17BR抗体D9.2は当初、マウスIL-17Br/Fc融合タンパク質に対して産生され(非特許文献1、特許文献1)、大腸炎モデルにおいて進行中の炎症を遅らせることが示されている(非特許文献2)。
【0004】
D9.2のヒト化バージョンは臨床用途、例えばアレルギー状態及び炎症状態、例えば大腸炎の治療に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Neill DR, et al. Nature. 2010 464:1367-1370
【非特許文献2】Camelo et al J Gastroenterol. 2012 47(11): 1198-1211
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、予期せぬことに、D9.2マウス抗IL17BR抗体のヒト化バージョンの発現が、重鎖及び/又は軽鎖可変ドメイン内の或る特定の残基の突然変異によって特異性又は親和性が低下することなく改善されることを発見した。このことは、例えば臨床用途のための開発候補分子に有用であり得る。
【0008】
本発明の第1の態様は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含むヒト化抗体分子であって、
a)前記重鎖可変ドメイン(VH)が配列番号1のVHCDR1、配列番号2のVHCDR2及び配列番号3のVHCDR3を含み、
b)前記軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)が配列番号4のVLCDR1、配列番号5のVLCDR2及び配列番号6のVLCDR3を含む、ヒト化抗体分子を提供する。
【0009】
抗体分子は、インターロイキン-17受容体B(IL17BR)、好ましくはIL17BRの細胞外ドメインに特異的に結合し得る。
【0010】
第1の態様の抗体分子は、配列番号8のVHドメインを含み、任意に最大4つの付加的なフレームワーク置換を有し得る。例えば、抗体は配列番号9、配列番号10又は配列番号11のVHドメインを含み、任意に最大4つの付加的なフレームワーク置換を有し得る。第1の態様の抗体は、配列番号13のVLドメインを含み、任意に最大4つの付加的なフレームワーク置換を有し得る。
【0011】
幾つかの好ましい実施の形態では、第1の態様の抗体分子は、配列番号9のVHドメイン及び配列番号13のVLドメインを含み得る。
【0012】
本明細書に記載される第2の態様は、第1の態様の抗体分子と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本明細書に記載される第3の態様は、第1の態様の抗体分子又はその重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインをコードする核酸を提供する。
【0014】
本明細書に記載される第4の態様は、第3の態様の核酸を含むベクターを提供する。
【0015】
本明細書に記載される第5の態様は、第3の態様の核酸又は第4の態様のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0016】
本明細書に記載される第6の態様は、第1の態様による抗体分子を作製する方法であって、宿主細胞培養物中で第4の態様によるベクターを発現させ、上記抗体を産生させることと、抗体分子を細胞培養物から回収することとを含む、方法を提供する。
【0017】
本明細書に記載される第7の態様は、処置を必要とする個体に第1の態様による抗体分子又は第2の態様による医薬組成物を有効量投与することによるアレルギー状態又は炎症状態の治療方法を提供する。
【0018】
本明細書に記載される第8の態様は、薬剤として使用されるか、又はヒト若しくは動物の身体の処置方法に使用されるための、第1の態様による抗体分子又は第2の態様による医薬組成物を提供する。
【0019】
本明細書に記載される第9の態様は、個体におけるアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の治療方法に使用されるための、第1の態様による抗体分子又は第2の態様による医薬組成物を提供する。
【0020】
本明細書に記載されるこれら及び他の態様及び実施形態を下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ヒト、マウス及びカニクイザルに対するキメラcD9001抗体のIL-17BRに対する結合を示す図である。
【
図2】ヒト化抗体hD9030の1つの存在下でのIL-17BRに対するIL-17Bの結合の欠如を示す図である。
【
図3】ヒト化抗体hD9030の1つの存在下でIL-17BRに結合するIL-25の能力を示す図である。
【
図4】ヒトIL-17BRに対するヒト化抗体hD9040~42の結合を示す図である。
【
図5】ヒトIL-17BRを用いたヒト化抗体hD9040~42の動態を示す図である。
【
図6】ヒト化抗体hD9040~42の熱安定性を示す図である。
【
図7】ヒト化抗体hD9040~42のサーマルシフト分析を示す図である。
【
図8】ヒト化抗体hD9040~42の凝集分析を示す図である。
【
図9】ヒト化抗体hD9040~42の非特異的タンパク質間相互作用(相互作用クロマトグラフィー)を示す図である。
【
図10】溶解性について評価した精製ヒト化抗体hD9040~42を示す図である。
【
図11】ヒト化抗体hD9040(11A)、hD9041(11B)及びhD9042(11C)の凍結/融解ストレス分析を示す図である。
【
図12】ヒト化抗体hD9040(12A)、hD9041(12B)及びhD9042(12C)の熱誘導ストレス分析を示す図である。
【
図13】DLSによるヒト化抗体hD9040~42の自己会合分析を示す図である。
【
図14】ヒトIL17RA、IL17RC及びIL17RDと比較したヒトIL17BRに対するリード候補hD9042の結合特異性を決定するためのELISAアッセイの結果を示す図である。
【
図15】hD9042の存在下でのIL-25及びIL-2によるヒトIL-5(
図15A)及びIL-13(
図15B)の誘導についてのアッセイの結果を示す図である。
【
図16】hD9042又はhD9043の存在下でのIL-25及びTNFαによるヒトIL-8の誘導についてのアッセイの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、マウス抗IL17BR抗体D9.2のヒト化バージョンの発現が、可変ドメイン内の或る特定の残基の突然変異により特異性又は親和性に対して悪影響を及ぼすことなく顕著に改善されるという発見に関する。
【0023】
本明細書に記載される抗体分子は、インターロイキン-17受容体B(IL17BR)に特異的に結合し得る。本明細書に記載される抗体分子は、IL17BRの細胞外ドメイン(ヒトIL17BRの残基18~292)に特異的に結合するのが好ましい。
【0024】
本明細書に記載される抗体分子は、ヒトIL17BR、マウスIL17BR及び/又はカニクイザルIL17BRに結合し得る。例えば、抗体分子は、ヒトIL17BRに結合し、マウスIL17BR及び/又はカニクイザルIL17BRに対して結合を示さない又は実質的に結合を示さない場合もある。本発明の抗体分子はヒト、マウス及びカニクイザルIL17BRと交差反応性であるのが好ましい。例えば、交差反応性抗体分子は、ヒトIL17BR、マウスIL17BR及びカニクイザルIL17BRに結合し得る。通例、特異性は、抗原のパネルを用いたELISA等の結合アッセイによって決定することができる。
【0025】
本明細書に記載される抗体分子は概して、IL17BRに特異的である。言い換えると、抗体分子はIL17BRに結合することができるが、IL-17Rファミリーの他のメンバーに対して結合を示さない又は実質的に結合を示さない。IL17BRに特異的な抗体分子は、IL17BRに結合するが、IL-17RA、IL-17RC及び/又はIL-17RDに対して結合を示さない又は実質的に結合を示さないのが好ましい。
【0026】
IL-25R、IL17BR、IL-17RB又はIL-17RH1として様々に知られるインターロイキン-17B受容体は、IL-17A受容体(IL-17RA)に対するその相同性により発現配列タグデータベースにおいて初めて同定された(Tian et al., 2000 Oncogene 19, 2098-2109)。IL17BRは続いて、IL17B及びIL25の両方に結合することが示された(Lee, J., et al., J Biol Chem 276, 1660-1664 (2001)、Shi, Y., et al., J Biol Chem 275, 19167-19176 (2000)、Tian et al., 2000(上掲))。IL25は、IL-17B(7.6nM)よりも強い親和性(1.4nM)でIL17BRに結合する。マウスIL17BR(遺伝子ID 50905:核酸:NM_019583.3 GI:142368701;NP_062529.2 GI:83025064)は、Tian et al., 2000(上掲)に記載されている。ヒトIL17BR(遺伝子ID:55540、核酸:NM_018725.3 GI:112382255;タンパク質NP_061195.2 GI:27477074)は、Shi, Y., et al., 2000(上掲)に記載されている。
【0027】
IL17BRは、商業的供給源(例えばR&D Systems,MN,USA)からFc融合タンパク質として入手可能であるか、又は当該技術分野で利用可能なIL17BRの配列を用いてクローニング若しくは合成することができる。抗体の作製又は免疫測定での使用については、組換えIL17BRのフラグメント、特に細胞外ドメイン(例えば、NP_061195.2のヒトIL17BR配列の残基18~292)を含有するフラグメントを用いてもよい。
【0028】
本明細書に記載される抗体分子は、IL17BRとIL25又はIL17B等のリガンドとの結合又は機能的相互作用を阻害又は遮断するのが好ましい。例えば、抗体分子は、IL17BRとIL25との機能的相互作用を阻害することができ、及び/又はIL17Bに対するIL17BRの結合を遮断することができる。
【0029】
本明細書に記載される抗体分子は、IL-25媒介性気道過敏(AHR)、IL-13産生、IL-25媒介性IL-5産生、IL-25媒介性IL-8産生、並びにγδT細胞増殖及び浸潤の少なくとも1つを低減又は阻害するのが好ましい。
【0030】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される抗体分子とIL17BRとの結合は、IL25又はIL17B等の組換えリガンドとの競合によって消失する可能性がある。
【0031】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体は、重鎖可変(VH)ドメインと軽鎖可変(VL)ドメインとを含み得る。VHドメインは、それぞれ配列番号1~3のVHCDR1、VHCDR2及びVHCDR3配列を含み得る。幾つかの実施形態では、VHCDR2は、配列番号14又は配列番号15の配列を有し得る。VLドメインは、それぞれ配列番号4~6のVLCDR1、VLCDR2及びVLCDR3配列を含み得る。
【0032】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される抗体分子のVHドメインは、Kabat位置94にTからRへの置換を有し、任意にKabat位置1、24、60、64、65及び69の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ全てに置換を有し、任意にフレームワーク領域に1つ、2つ、3つ又は4つの更なる置換を有する配列番号7のアミノ酸配列を含んでいてもよい。例えば、本明細書に記載される抗体分子のVHドメインは、N60A、K64Q、D65G及びT94R置換を有するか、又はE1Q、T24A、L69M及びT94R置換を有し(Kabatナンバリング)、任意にフレームワーク領域に1つ、2つ、3つ又は4つの更なる置換を有する配列番号7のアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0033】
本明細書に記載される抗体分子のVHドメインは、配列番号8のアミノ酸配列、又はフレームワーク領域に独立して1つ以上、例えば2つ、3つ若しくは4つ、若しくはそれ以上のアミノ酸置換、欠失若しくは挿入を有する配列番号8のアミノ酸配列を含んでいてもよい。置換は保存的置換であり得る。例えば、本明細書に記載される抗IL17BR抗体は、配列番号9、10又は11のVHドメインを含み、任意にフレームワーク領域に1つ、2つ、3つ又は4つのアミノ酸置換を有し得る。
【0034】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される抗体分子のVLドメインは、Kabat位置93にRからGへの置換を有し、任意にフレームワーク領域に1つ、2つ、3つ又は4つの付加的なアミノ酸置換を有する配列番号12のアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0035】
本明細書に記載される抗体分子のVLドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を有していても、又はフレームワーク領域に独立して1つ以上、例えば2つ、3つ若しくは4つ、若しくはそれ以上のアミノ酸置換、欠失若しくは挿入を有する配列番号13のアミノ酸配列を有していてもよい。置換は保存的置換であり得る。例えば、本明細書に記載される抗IL17BR抗体は、配列番号13のVLドメインを含み、任意にフレームワーク領域に1つ、2つ、3つ又は4つのアミノ酸置換を有し得る。
【0036】
好適な抗IL17BR抗体は、(i)配列番号9のVHドメイン及び配列番号13のVLドメイン、(ii)配列番号10のVHドメイン及び配列番号13のVLドメイン、又は(iii)配列番号11のVHドメイン及び配列番号13のVLドメインを含み得る。幾つかの好ましい抗IL17BR抗体は、配列番号9のVHドメインと配列番号13のVLドメインとを含み得る。
【0037】
「免疫グロブリン」及び「抗体」という用語は、1つ以上の抗原に特異的に結合する能力を有する、抗体抗原結合部位を含む任意のタンパク質を指すために区別なく用いることができる。
【0038】
「抗原」は、免疫グロブリン又は抗体(又はその抗原結合フラグメント)が特異的に結合する実体(例えば、タンパク性実体又はペプチド)である。本明細書に記載される抗IL17BR抗体の抗原は、IL17BR又はそのフラグメント、例えばIL17BRの細胞外ドメイン又はその免疫原性部分を含むフラグメントを含み得る。
【0039】
ネイティブ抗体は通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖から構成される、約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結し、様々な数のジスルフィド連結を異なる抗体アイソタイプの重鎖間に有する。各々の重鎖及び軽鎖も一定間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。
【0040】
抗体は、「ドメイン」と呼ばれる重鎖又は軽鎖ポリペプチドの球状領域を含む。ドメインは、例えばβ-プリーツシート及び/又は鎖内ジスルフィド結合によって安定化されたペプチドループ、通常は3~4つのループを含み得る。ドメインは概して、「定常」ドメインの場合は様々なクラスメンバーのドメイン内の配列変異の相対的欠如、又は「可変」ドメインの場合は様々なクラスメンバーのドメイン内の顕著な変異に基づいて「定常」又は「可変」と称される。抗体又はポリペプチド「ドメイン」は、当該技術分野で区別なく抗体又はポリペプチド「領域」と称されることが多い。
【0041】
抗体軽鎖の「定常」ドメインは、「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域又は「CL」ドメインと称することができる。抗体重鎖の「定常」ドメインは、「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域又は「CH」ドメインと称することができる。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインとアラインメントする。
【0042】
抗体のテール領域を含む重鎖の定常ドメインは、本明細書でFc(fragment crystallizable)ドメイン又はFc領域と称される。Fc領域は、細胞表面Fc受容体及び補体系の幾つかのタンパク質と相互作用することができ、そのようにして抗体は免疫系を活性化することができる。Fc領域は、各ポリペプチド鎖中に3つの重鎖定常ドメインを含有する。
【0043】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される抗体分子のVHドメインは、抗体定常領域、例えば配列番号16等のIgG4定常領域と融合していてもよい。IgG4定常領域と融合するVHドメインのアミノ酸配列は、配列番号17を含み得る。
【0044】
抗体軽鎖の「可変」ドメインは、「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域又は「VL」ドメインと称することができる(ここでの「L」は軽鎖アイソタイプ「ラムダ」ではなく「軽(light)」を指す)。抗体重鎖の「可変」ドメインは、「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域又は「VH」ドメインと称することができる。無傷軽鎖は例えば2つのドメイン(VL及びCL)を有し、無傷重鎖は例えば4つ又は5つのドメイン(VH、CH1、CH2及びCH3)を有する。
【0045】
軽鎖及び重鎖可変ドメインは、配列が超可変であり、構造的に規定されるループを形成することができる「相補性決定領域」(CDR)としても知られる「超可変領域」(HVR又はHV)を含む。概して、抗体は、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)中に散在した重鎖中に3つ(H1、H2、H3)、軽鎖中に3つ(L1、L2、L3)の6つの超可変領域を含む。本明細書に記載される抗体における可変ドメインのアミノ酸配列を下に示す。CDRは、標準的な技法を用いてこれらの配列において容易に同定することができる。
【0046】
各軽鎖/重鎖対の可変領域は抗原結合部位を形成する。「抗原結合部位」という用語は、抗原に特異的に結合する(抗原と免疫反応する)部位を指す。本明細書に記載される抗体は、少なくとも1つの抗原結合部位を含み、好ましくは2つの抗原結合部位を含む。抗原結合部位は、フレームワーク領域によって整列した重鎖及び軽鎖CDRから形成され、それにより特定のエピトープへの結合が可能になる。「抗原結合領域」又は「抗原結合ドメイン」は、抗体結合部位を含む抗体領域又はドメインである。本明細書に記載される抗体は、IL17BRを認識する少なくとも1つの抗原結合部位を有する。
【0047】
自然発生抗体鎖又は組換えにより作製された抗体鎖は、細胞プロセシング中に除去され、成熟鎖を生じるリーダー配列により発現させることができる。成熟鎖は、例えば分泌を増強するか、又は対象の特定の鎖のプロセシングを変更するために非自然発生リーダー配列を含有する組換えにより作製されたものであってもよい。
【0048】
抗体重鎖及び抗体軽鎖の定常領域は、表現型変異を示すことができる。抗体軽鎖は、軽鎖定常領域のアミノ酸配列に基づいてカッパ(κ)又はラムダ(λ)のいずれかに分類され、約230残基長である。本明細書に記載される抗体は、カッパ軽鎖を含む(カッパ軽鎖の可変ドメインは、本明細書でVKと称される)。ヒト及び高等哺乳動物に由来する重鎖は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)又はイプシロン(ε)に分類され、約450残基~600残基長であり、抗体のアイソタイプをそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEとして規定する。IgMの2つのサブクラス(H及びL)、IgAの3つのサブクラス(IgA1、IgA2及び分泌型IgA)、及びIgGの4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)が存在する。本明細書に記載される抗体は、好ましくは免疫グロブリンG(IgG)抗体であり、最も好ましくはIgG1抗体である。
【0049】
本明細書に記載される抗体は、本明細書に記載される免疫グロブリンアイソタイプのいずれかに属する重鎖を含み得る。本明細書に記載される抗体は、2つ以上のクラス又はアイソタイプに由来する配列を含んでいてもよい。
【0050】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体は、細胞傷害活性を示すことができる。かかる抗体では、定常ドメインは通常、補体固定性の定常ドメインであり、クラスは通例、IgG1である。ヒトアイソタイプIgG1及びIgG4が例示的である。
【0051】
本明細書に記載される抗体分子は、抗体全体のフラグメントを含んでいてもよい。「フラグメント」という用語は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖よりも少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は一部分を指し、該一部分は、通常は無傷抗体中に存在する場合にその一部分と関連する機能の少なくとも1つ、好ましくは大部分又は全てを保持するのが好ましい。フラグメントは、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖の化学処理又は酵素処理によって得ることができる。フラグメントは組換え手段によっても得ることができる。
【0052】
本明細書に記載される抗体のフラグメントは抗原に結合するか、又は抗原結合(すなわち、特異的結合)について無傷抗体(すなわち、フラグメントの元となる無傷抗体)と競合することができる。本明細書に記載される抗体は、IL17BRに結合する。結合フラグメントは、組換えDNA法、又は無傷免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断によって作製される。
【0053】
本明細書に記載される抗体はFab、Fab’、F(ab’)2、化学的に連結したF(ab’)2、単一特異性Fab2、二重特異性Fab2、三重特異性Fab2、一価IgG、scFv(一本鎖可変フラグメント)、di-scFv(二価scFv)、二重特異性ダイアボディ、三重特異性トリアボディ、scFv-Fc、ミニボディ又はsdAb(単一ドメイン抗体)を含むが、これらに限定されない結合フラグメントとして存在していてもよく、IL17BRに結合する能力を保持する。
【0054】
本明細書に記載される抗体分子は、二重特異性又は三重特異性抗体の一部であってもよい。二重特異性抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対及び2つの異なる抗原結合部位を有する人工ハイブリッド抗体であり、三重特異性抗体は、3つの異なる重鎖/軽鎖対及び3つの異なる抗原結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性及び三重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合又はFab’フラグメントの連結を含む様々な方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin. Exp. Immunol. 79:315-321 (1990)、Kostelny et al., J. Immunol. 148, 1547-1553 (1992)を参照されたい。本明細書に記載される例示的な抗体は、少なくとも2つの異なる抗原結合部位を含む二重特異性抗体であってもよい。
【0055】
特異的結合は、抗体が抗原上のエピトープに結合し、抗原上の特異的エピトープ以外の分子に対する結合を殆ど示さない状況を指す。この用語は、例えば抗原結合ドメインが多数の抗原によって保有されるエピトープに特異的である場合にも当てはまり、この場合、抗原結合ドメインを保有する抗体は、エピトープを保有する様々な抗原に結合することが可能である。
【0056】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子又はかかる抗体分子をコードする核酸は、単離状態である。抗体分子及び核酸は、それらが天然で伴う物質、例えばそれらの天然環境、又は調製がin vitro若しくはin vivoで行われる組換えDNA技術によるものである場合に、それらが調製される環境(例えば細胞培養物)においてそれらと共に見られる他のポリペプチド又は核酸を含まない又は実質的に含まない。抗体分子及び核酸は、希釈剤又はアジュバントを用いて配合しても、実用目的で単離することができる。例えば、抗体は通常、免疫測定に使用されるマイクロタイタープレートのコーティングに使用される場合にゼラチン若しくは他の担体と混合され、又は診断若しくは療法に使用される場合に薬学的に許容可能な担体若しくは希釈剤と混合される。
【0057】
本発明の別の態様は、本明細書に開示される抗体、又はその軽鎖、重鎖、VHドメイン若しくはVLドメインをコードする核酸を提供する。核酸は例えば、上記のように配列番号8を含む重鎖可変ドメイン(VHドメイン)、例えば配列番号9、配列番号10又は配列番号11を含むVHドメイン、及び/又は配列番号13を含む軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)をコードし得る。任意に、コードされるVHドメイン及び/又はVLドメインは、最大4つの付加的なアミノ酸突然変異をフレームワーク領域に有していてもよい。
【0058】
核酸は、チミン核酸塩基がウラシルで置換されたDNA及びRNA配列を含んでいてもよい。
【0059】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子の作製は、本明細書に記載される技法及び当該技術分野で既知の他の技法を含む任意の好適な技法によって行うことができる。本明細書に記載される抗体は、抗体の大規模製造のための当該技術分野で確立された方法を用いて商業規模で作製することができる。例えば、本明細書に記載されるような組換え発現系を用いることができる。
【0060】
本明細書に記載される抗体分子は、組換え発現によって作製することができる。定常領域に任意に連結した軽鎖及び重鎖可変領域をコードする上記のような核酸を、発現ベクターに挿入することができる。本明細書に記載される抗体をコードする核酸を含むベクターは、それ自体が本発明の一態様である。軽鎖及び重鎖は、同じ又は異なる発現ベクターにクローニングすることができる。本明細書に記載される抗体鎖をコードする核酸は、抗体鎖の発現を確実にする発現ベクター(複数の場合もある)中の1つ以上の制御配列に操作可能に連結することができる。発現制御配列としては、プロモーター(例えば、自然に会合した又は異種プロモーター)、シグナル配列、エンハンサー要素及び転写終結配列が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、発現制御配列は、真核生物宿主細胞(例えば、COS、CHO又はExpi293細胞)を形質転換又はトランスフェクトすることが可能なベクター中の真核生物プロモーター系である。かかるベクターを適切な宿主に組み込むことができ、宿主は高レベルのヌクレオチド配列の発現、並びに抗体の採取及び精製に好適な条件下で維持される。
【0061】
本発明の態様は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子、又はそのVH若しくはVLドメインをコードする核酸、本明細書に記載される抗体をコードする1つ以上の核酸を含むベクター、好ましくは発現ベクター、及びプロモーターに操作可能に連結した本明細書に記載される抗体分子、又はそのVH若しくはVLドメインをコードする1つ以上の核酸を含むベクターを提供する。例示的な発現ベクターは、本明細書に開示される核酸と組み合わせて、本明細書に記載される抗体をコードするヌクレオチド配列を含むpHuK及びpHuG1である。抗体軽鎖及び重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を与える他のベクターを使用してもよい。
【0062】
本明細書に記載されるように使用される発現ベクターは通例、宿主生物においてエピソーム又は宿主染色体DNAの不可欠な部分のいずれかとして複製可能である。一般に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換された細胞の検出を可能にする選択マーカー(例えば、アンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性又はネオマイシン耐性)を含有する(例えば、米国特許第4704362号を参照されたい)。
【0063】
真核生物宿主細胞に使用される本明細書に記載のベクターは、成熟抗体鎖又はポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有するシグナル配列又は他のポリペプチドをコードしていてもよい。好適なシグナル配列は異種であってもよく、宿主細胞によって認識及びプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものであってもよい。哺乳動物細胞の発現においては、哺乳動物シグナル配列及びウイルス分泌型リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。
【0064】
代替的には、本明細書に記載の抗体をコードする配列は、トランスジェニック動物のゲノムへの導入及びその後のトランスジェニック動物の乳汁中での発現のための導入遺伝子に組み込むことができる(例えば、米国特許第5741957号、米国特許第5304489号及び米国特許第5849992号を参照されたい)。好適な導入遺伝子としては、カゼイン又はβラクトグロブリン等の乳腺特異的遺伝子に由来するプロモーター及びエンハンサーと操作可能に連結した軽鎖及び/又は重鎖のコード配列が挙げられる。
【0065】
対象のポリヌクレオチド配列(例えば、重鎖及び軽鎖をコードする配列並びに発現制御配列)を含有する本明細書に記載のベクターは、細胞宿主の種類に応じた既知の方法によって宿主細胞に移入することができる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションが原核細胞に一般に利用され、リン酸カルシウム処理、エレクトロポレーション、リポフェクション、微粒子銃(biolistics)又はウイルスベースのトランスフェクションを他の細胞宿主に用いることができる(概して、Green and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press, 4th ed., 2012)を参照されたい)。哺乳動物細胞の形質転換に用いられる他の方法としては、ポリブレンの使用、プロトプラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクションが挙げられる(概して、Sambrook et al.(上掲)を参照されたい)。トランスジェニック動物の作製については、導入遺伝子を受精卵母細胞にマイクロインジェクトするか、又は胚性幹細胞のゲノム、及び除核卵母細胞に移入したかかる細胞の核に組み込むことができる。
【0066】
宿主細胞を発現ベクターで形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択及び/又は所要の配列をコードする遺伝子の増幅に好適な従来の栄養培地中で培養することができる。上記の核酸又はベクターを含む宿主細胞は、本発明の一態様として提供される。
【0067】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子を作製する方法であって、宿主細胞培養物中で本明細書に記載のベクターを発現させて上記抗体を産生させ、抗体を細胞培養物から回収することを含む、方法を提供する。この方法は、上記のような抗IL17BR抗体分子又はその抗体鎖をコードする1つ以上の核酸を含むベクターを本明細書に記載される宿主細胞に移入し、核酸(複数の場合もある)の発現を可能にする条件下で宿主細胞培養物を増殖させ、発現された抗IL17BR抗体分子を回収することを含み得る。当該技術分野で既知の任意の好適な方法を用いることができる。
【0068】
本明細書に記載される核酸及びベクターのクローニング及び発現への使用に好適な微生物宿主生物としては、原核生物宿主;大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)等の桿菌、並びにサルモネラ、セラチア及び様々なシュードモナス種等の他の腸内細菌科が挙げられる。これらの原核生物宿主においては、通例、宿主細胞に適合する発現制御配列(例えば、複製起点)を含有する発現ベクターを作製することもできる。加えて、ラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、β-ラクタマーゼプロモーター系、又はファージラムダに由来するプロモーター系等の幾つもの様々な既知のプロモーターが存在する。プロモーターは通例、任意にオペレーター配列と共に発現を制御し、転写及び翻訳の開始及び終了のためのリボソーム結合部位配列等を有する。原核細胞中で使用されるベクターも複製起点構成要素を必要とし得る。
【0069】
酵母等の他の微生物を、本明細書に記載される核酸又はベクターを発現させるために使用することもできる。サッカロミセスが好ましい酵母宿主であり、好適なベクターは発現制御配列(例えば、プロモーター)、複製起点、終結配列等を所望に応じて有する。典型的なプロモーターとしては、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ及び他の解糖酵素が挙げられる。誘導性酵母プロモーターとしては、特にアルコール脱水素酵素、イソシトクロム(isocytochrome)C、並びにマルトース及びガラクトースの利用に関与している酵素に由来するプロモーターが挙げられる。
【0070】
微生物に加えて、哺乳動物の組織細胞培養物を、本明細書に記載される核酸又はベクターを発現させ、抗体ポリペプチド(例えば、抗体又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド)を産生させるために使用することもできる(例えば、Winnacker, From Genes to Clones, VCH Publishers, N.Y. 1987を参照されたい)。本明細書に記載される核酸又はベクターを含む真核生物又は哺乳動物細胞宿主は、それ自体が本発明の一態様である。異種タンパク質(例えば、無傷抗体)を分泌することが可能な多数の好適な宿主細胞株が当該技術分野で開発されていることから、実際には真核細胞が好ましく、該細胞としては、CHO細胞株、様々なCOS細胞株、HeLa細胞、Expi293細胞、ExpiCHO細胞、骨髄腫細胞株、又は形質転換B細胞若しくはハイブリドーマが挙げられる。細胞はヒトであっても、又は非ヒト、例えば非ヒト哺乳動物細胞であってもよい。幾つかの好ましい実施形態では、細胞はExpi293ヒト細胞である。本明細書に記載される抗体は、Potelligent(商標) CHOK1SV細胞株(BioWa/Lonza)、GlymaxX(商標)改変細胞(ProBioGen)又はアヒル胚性幹細胞株EB66(Valneva)等のアフコシル化タンパク質を産生するように改変された細胞株中で産生させることができる。哺乳動物細胞の発現ベクターとしては、概して、以下の1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない:シグナル配列、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、並びに必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネーター配列。好ましい発現制御配列は免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルス等に由来するプロモーターである(例えば、Co et al., J. Immunol. 148:1149 1992を参照されたい)。
【0071】
重鎖及び軽鎖を別個の発現ベクター上でクローニングする場合、ベクターを同時トランスフェクトして、本明細書に記載される無傷抗体の発現及び集合を達成する。発現した後、本明細書に記載される全抗体、それらの二量体、個々の軽鎖及び重鎖、又は他の免疫グロブリン形態を硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、HPLC精製、ゲル電気泳動等を含む当該技術分野の標準手順に従って精製することができる(概して、Scopes, Protein Purification (Springer-Verlag, N.Y., (1982)を参照されたい)。少なくとも約90%~95%の均一性の実質的に純粋な抗IL17BR抗体分子が好ましく、98%~99%又はそれ以上の均一性が本明細書に記載される製薬学的用途に最も好ましい。当該技術分野で既知の標準タンパク質精製法を用いることができる。以下の手順が好適なタンパク質精製手順の例示である:イムノアフィニティ(immunoaffinity)又はイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ又はDEAE等の陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング(chromatofocusing)、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿及びゲル濾過。
【0072】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、ヒトIL17BRに特異的に結合することができる。本明細書に記載される抗体は、下記に、また実施例を参照して説明される望ましい構造的、物理的、生物物理学的及び化学的特性も示し得る。
【0073】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子の親和性は、エピトープ又は抗原への抗体の結合の程度又は強度である。解離定数KD及び親和性定数KAは親和性の定量的尺度である。KDは、抗体がその抗原から解離する速度である抗体解離速度(koff)と、抗体がその抗原に結合する速度である抗体の抗体会合速度(kon)との比率である。抗体のその抗原への結合は可逆プロセスであり、結合反応の速度は反応物の濃度に比例する。平衡状態で、(抗体)(抗原)複合体形成の速度は、その構成要素(抗体)+(抗原)への解離の速度に等しい。反応速度定数の測定を用いて、平衡又は親和性定数KA(KA=1/KD)を規定することができる。KD値が小さいほど、その標的に対する抗体の親和性は大きくなる。殆どの抗体は、低マイクロモル(10-6)~ナノモル(10-7~10-9)範囲でKD値を有する。高親和性抗体は概して、低ナノモル範囲(10-9)であると考えられ、超高親和性抗体はピコモル(10-12)範囲である。
【0074】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、少なくとも2×102M-1s-1、少なくとも5×102M-1s-1、少なくとも103M-1s-1又は少なくとも5×103M-1s-1、少なくとも104M-1s-1、少なくとも5×104M-1s-1、少なくとも105M-1s-1、少なくとも5×105M-1s-1又は少なくとも106M-1s-1の会合速度定数(kon)を有し得る。例えば、抗IL17BR抗体分子は、3×106M-1s-1~5×106M-1s-1の会合速度を有し得る。
【0075】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、5×10-1s-1未満、10-1s-1未満、5×10-2s-1未満、10-2s-1未満又は5×10-3s-1未満、10-3s-1未満、5×10-4s-1未満、10-4s-1未満又は5×10-5s-1未満の抗体解離(koff)速度を有し得る。例えば、抗IL17BR抗体分子は、6×10-5s-1~9×10-5s-1の解離速度を有し得る。
【0076】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、5×106M-1以上、106M-1以上、5×107M-1以上、107M-1以上、5×108M-1、10-8M-1以上、5×109M-1以上、109M-1以上、5×1010M-1以上、1010M-1以上又は5×1011M-1以上の平衡会合定数、すなわちKAでIL17BRに結合し得る。本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、D9.2と実質的に同様の、例えばD9.2の結合親和性の90%~110%の親和性でIL17BRに結合し得る。
【0077】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、5×10-6M未満、10-6M未満、5×10-7M未満、10-7M未満、5×10-8M未満、10-8M未満、5×10-9M未満、10-9M未満、5×10-10M未満、10-10M未満又は5×10-11M未満のIL17BRからの平衡解離定数、すなわちKDを有し得る。例えば、抗IL17BR抗体分子は、1×10-11M~2×10-11Mの平衡解離定数、すなわちKDを有し得る。
【0078】
抗IL17BR抗体分子の特異的結合は、抗体が特定の抗原又はエピトープに対して相当の親和性を示し、概して交差反応性を殆ど示さないことを意味する。「交差反応性を殆ど示さない」抗体は、望ましくない実体(例えば、望ましくないタンパク性実体)に対して認識可能には結合しない抗体である。特定のエピトープに特異的な抗体は、例えば同じタンパク質又はペプチド上の遠隔エピトープと殆ど交差反応しない。本明細書に記載される抗体の特異的結合、すなわちkoff、kon、KA及びKDは、かかる結合を決定する任意の当該技術分野において認められる手段に従って決定することができる。
【0079】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、熱的に安定したものとすることができ、すなわち本明細書に記載される抗体は、IL17BRに30℃~85℃、具体的には最高75℃の温度で結合することができる。本明細書に記載される抗体は、50℃~100℃、具体的には60℃~80℃、より具体的には66℃~67℃近くの融解温度を有し得る。
【0080】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、凝集の傾向が低いものとすることができる。凝集の傾向は、多角度光散乱等の標準的な技法又は本明細書に記載されるような動的光散乱を用いて分析することができる。本明細書に記載される抗体は、非特異的タンパク質間相互作用の傾向が低く、良好な溶解性を有するものとすることができる。
【0081】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、濃縮した場合に凝集の傾向が低いものとすることができる。本明細書に記載される配合物は、例えばダルベッコPBSにより生理的pHに維持された水溶液中で可溶性凝集体を形成することなく50mg/ml~200mg/ml、例えば75mg/ml~150mg/ml、好ましくは80mg/ml~120mg/ml、より好ましくは90mg/ml~110mg/ml(好ましい濃度は約100mg/mlである)まで濃縮された抗体を含み得る。
【0082】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、凍結融解の繰り返し又は長時間の正常体温を超える温度に供した場合に凝集の傾向が低いものとすることができる。例えば、長時間の温度はダルベッコPBS中、50℃で30日間である。
【0083】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、pH7~pH9、好ましくはpH7.4~pH8.2の等電点(pI)を有し得る。
【0084】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、IL17BRに対する結合能をマウス、ヒト及び/又はカニクイザル霊長類に由来する血清中37℃でのインキュベーション後に保持することができる。例えば、本明細書に記載される抗体は、マウス、ヒト及び/又はカニクイザル血清中で10日間~50日間、好ましくは20日間~40日間、より好ましくは30日間のインキュベーション後にIL17BRに対する結合能を保持することができる。結合能を保持する抗体は、血清中でインキュベートしなかった、又は対照溶液中でインキュベートした抗体中で観察されるものと同じ又は実質的に同じ結合能を37℃で示すことができる。
【0085】
本明細書で開示される抗IL17BR抗体分子は、アグリコシル化されていてもよい。IgG抗体のFc領域は、高度に保存されたN-グリコシル化部位を保有し、Fcフラグメントのグリコシル化はFc受容体媒介活性に不可欠である。この部位に付着したN-gly炭水化物部分は、主として複合型のコア-フコシル化ジアンテナ(diantennary)構造である。加えて、これらのN-グリカンの少量がバイセクティングGlcNAc及びα-2,6連結シアル酸残基も保有する。アグリコシル化抗体は、例えば化学的又は酵素的プロセス、1つ以上のグリコシル化部位の不在若しくは突然変異又は細菌中での発現により1つ以上の炭水化物部分を欠いていてもよい。本明細書に記載されるアグリコシル化抗体は、Fc炭水化物が、例えば化学的又は酵素的に除去された脱グリコシル抗体であってもよい。代替的には、本明細書に記載されるアグリコシル化抗体は、例えばグリコシル化パターンをコードする1つ以上の残基の突然変異、又は炭水化物をタンパク質に付加しない生物、例えば細菌中での発現によってFc炭水化物部分なしに発現された、非グリコシル化又は未グリコシル化(unglycosylated)抗体であってもよい。
【0086】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、アフコシル化(afucosylated)、すなわち抗体のFc領域中の炭水化物部分が任意のフコース糖単位を有しないように改変されていてもよい。代替的には、本明細書に開示される抗Aβ抗体は、減少した数のフコース糖単位を有し得る。アフコシル化抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害においてより効果的である(下記を参照されたい)。本明細書に記載されるアフコシル化抗体はPotelligent(商標) CHOK1SV細胞株(BioWa/Lonza)、GlymaxX(商標)改変細胞(ProBioGen)又はアヒル胚性幹細胞株EB66(Valneva)等のアフコシル化タンパク質を産生するように改変された細胞株中で産生させることができる。
【0087】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、その抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を増強するように修飾することができる。ADCCは、非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応である。かかる細胞はヒト細胞であり得る。抗体のADCC活性は概して、例えばキラー細胞、ナチュラルキラー細胞及び活性化マクロファージ等のエフェクター細胞の表面上に存在する抗体受容体に対する抗体のFc領域の結合を必要とすると考えられる。ヒト化抗体の炭水化物構造(すなわち、Fc領域中)のフコシル化を変更する(例えば、低減又は除去する)ことによって、抗体のADCC活性をin vitroで、例えば非修飾ヒト化抗体に対して10倍又は20倍又は30倍又は40倍又は50倍又は100倍又は500倍又は600倍又は700倍又は1000倍に増強することができる。ADCC活性の増大のために、かかる修飾抗体はそれらの非修飾対応物よりも少ない投与量で使用することができ、概して患者においてより少ない又は低減した副作用を有する。
【0088】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)において使用することができる。CDCは、適応免疫のエフェクターとして作用する中央自然補体系に関与する。古典的CDC経路は、標的細胞上の抗原に結合する抗体分子によって誘発され、結合抗体のFcドメインに対するC1qタンパク質の結合によって開始する。生じる補体カスケードは膜侵襲経路を活性化し、標的細胞の溶解を誘導する膜侵襲複合体の形成をもたらす。本明細書に記載される抗体は、限定されるものではないが、抗体重鎖の定常ドメイン中にアミノ酸残基置換を含有するようなタンパク質主鎖の改変等の当該技術分野で既知の任意の方法によってCDCを誘発するその能力を増強するように修飾することができる。CDC活性を増強するために用いられるIgG1アミノ酸置換の組合せの例については、Moore et al., mAbs, 2(2), 181-189 (2010)を参照されたい。本明細書に記載される修飾抗体のCDC活性は、例えば非修飾ヒト化抗体に対して10倍又は20倍又は30倍又は40倍又は50倍又は100倍又は500倍又は600倍又は700倍又は1000倍に増強することができる。
【0089】
抗IL17BR抗体分子を化学修飾、例えばPEG化又はリポソームへの取込みによって更に修飾し、例えばin vivo半減期を延長させることによってそれらの薬学的特性を改善することができる。
【0090】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、活性治療用抗体剤と様々な他の薬学的に許容可能な構成要素とを含む医薬組成物として配合及び/又は投与することができる。Remington: The Science and Practice of Pharmacy (22nd ed., Pharmaceutical Press, London, Pa. (2013))を参照されたい。好ましい形態は、意図される投与方法及び治療用途によって決まる。組成物はまた、所望の配合に応じて、動物又はヒトへの投与用の医薬組成物を配合するために一般に使用されるビヒクルとして定義される、薬学的に許容可能な非毒性の担体又は希釈剤を含んでいてもよい。希釈剤は、組合せの生物学的活性に影響を与えないように選択される。かかる希釈剤の例は蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液及びハンクス液である。加えて、医薬組成物又は配合物はまた、他の担体、アジュバント又は非毒性の非治療的な非免疫原性安定剤等を含んでいてもよい。
【0091】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子を含有する医薬組成物は、タンパク質等の大きなゆっくりと代謝される高分子、キトサン等の多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びコポリマー(例えば、ラテックス官能化セファロース(商標)、アガロース、セルロース等)、高分子アミノ酸、アミノ酸コポリマー及び脂質凝集体(油滴又はリポソーム等)も含み得る。付加的に、これらの担体は免疫賦活剤(すなわち、アジュバント)として機能することができる。
【0092】
非経口投与については、本明細書に記載される抗体又は組成物は水、油、生理食塩水、グリセロール又はエタノール等の滅菌液であり得る医薬担体を含む生理学的に許容可能な希釈剤中の物質の溶液又は懸濁液の注射剤(injectable dosages)として投与することができる。付加的に、例えば湿潤剤又は乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質等の補助物質が組成物中に存在していてもよい。医薬組成物の他の構成要素は石油、動物、植物又は合成起源のもの、例えばラッカセイ油、ダイズ油及び鉱油である。概して、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール等のグリコールが、特に注射溶液に好ましい液体担体である。抗体は、活性成分の持続放出を可能にするように配合することができる蓄積注射又は移植調製物の形態で投与することができる。
【0093】
本明細書で使用される「非経口」という用語は、本明細書に記載される抗体又は組成物の皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内及び髄腔内投与を含む。本明細書に記載される抗IL17BR抗体又は組成物は、経鼻法又は胃内法によっても投与することができる。通例、組成物は、溶液又は懸濁液のいずれかの注射剤として調製されるが、注射前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に好適な固体形態も調製することができる。調製物はまた、上記で論考されるようなアジュバント効果の増強のためのポリラクチド、ポリグリコリド又はコポリマー等のリポソーム又は微粒子中に乳化又はカプセル化することもできる(Langer, Science 249: 1527 (1990)及びHanes, Advanced Drug Delivery Reviews 28:97 (1997)を参照されたい)。本発明の抗体分子は、活性成分の持続放出又はパルス放出を可能にするように配合することができる蓄積注射又は移植調製物の形態で投与することができる。
【0094】
他の投与方法に好適な付加的な配合物には、経口、鼻腔内及び経肺配合物、坐剤及び経皮適用が含まれる。経口配合物は医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース及び炭酸マグネシウム等の賦形剤を含む。これらの組成物は溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、持続放出配合物又は粉末の形態をとり、10%~95%、好ましくは25%~70%の活性成分を含有する。
【0095】
抗IL17BR抗体分子の治療用配合物は、保管のために所望の純度を有する抗体分子と任意の生理学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤(例えば、"Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkins.を参照されたい)とを混合することによって、凍結乾燥粉末又は水溶液の形態で調製することができる。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、かかる許容可能な担体、賦形剤又は安定剤としては、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン若しくはリジン等のアミノ酸;単糖、二糖、及びグルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール若しくはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又はTween、Pluronic若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0096】
in vivo投与に使用される抗IL17BR抗体分子については、滅菌されている必要がある。これは、凍結乾燥及び再構成の前又は後に滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成される。抗体分子は通常、凍結乾燥形態又は溶液中で保管される。
【0097】
好ましくは、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子又は本明細書に記載される抗IL17BR抗体を含む組成物は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)又は局所的に、例えばエアロゾル、ローション、軟膏、又は滴剤等の局所用溶液によって投与することができる。
【0098】
局所適用は経皮又は皮内送達をもたらすことができる。局所投与は、作用物質とコレラ毒素、又はその無害化誘導体若しくはサブユニット、又は他の同様の細菌毒素との同時投与によって促進することができる(Glenn et al., Nature 391, 851 (1998)を参照されたい)。同時投与は混合物、又は化学的架橋若しくは融合タンパク質としての発現によって得られる連結分子として構成要素を使用することによって達成することができる。代替的には、経皮送達は皮膚パッチを用いるか、又はトランスフェロソーム(transferosomes)を用いて達成することができる(Paul et al., Eur. J. Immunol. 25:3521 (1995)、Cevc et al., Biochem. Biophys. Acta 1368:201-15 (1998))。
【0099】
組成物は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子と、本明細書に記載される薬学的に許容可能な担体と、アレルギー状態又は炎症状態の予防、管理又は治療に有用な他の治療剤、特に予防剤又は治療剤とを含み得る。かかる治療剤は鎮痛薬、抗炎症薬、抗ウイルス薬、発熱又は体温の上昇を回復させる薬物、及び/又は痛みを紛らわせるように設計された治療用化合物、例えば口痛を紛らわせることができる洗口液又はスプレーを含み得る。本明細書に記載される組成物は、例えば静脈内療法による被験体の水分補給のための組成物を付加的に含んでいてもよい。
【0100】
本明細書に記載される組成物は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子をコードする核酸、すなわちDNA又はRNA、及び上記で論考される他の組成物の化合物のいずれかを用いる又は用いないかかる核酸の任意の送達方法を含み得る。組成物はまた、ベクター、例えば限定されるものではないが、それ自体が本明細書に記載される核酸を含む本明細書に記載される発現ベクターを含んでいてもよい。
【0101】
本明細書に記載される組成物は、細胞への核酸の送達系として使用されるウイルスベクターを含んでいてもよい。好適なウイルスベクター核酸送達系としては、レトロウイルス系、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルス及び鳥類ポックスウイルスを含むポックスウイルス科のウイルスベクター、並びにアルファウイルス属のウイルスベクターが挙げられる。本明細書に記載される抗体をコードする核酸又はそれを含有するベクターは、記載のように組成物に組み込むことができる、個体又は細胞への送達のためのリポソームにパッケージングすることができる。抗体をコードするベクター及び核酸は、粒子担体に吸着又は会合させることもできる。
【0102】
本明細書に記載される組成物は、本明細書に記載される抗体をコードするヌクレオチド配列を含有する遺伝子療法ベクター、又は本発明による裸の抗体ポリペプチド鎖を含んでいてもよい。組成物は、かかるベクター又はポリペプチドを本明細書に記載される抗体及び上記の任意の他の組成物の構成要素と組み合わせて含むことができる。
【0103】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子はキットに用いることができる。「キット」という用語は、試薬及びサンプル分析を容易にする他の材料の組合せに関して使用される。幾つかの実施形態では、本明細書に記載される免疫測定キットは好適な抗原、検出可能な部分を含む結合剤、及び検出試薬を含む。検出可能な部分によって生じるシグナルを増幅するためのシステムがキットに含まれていても又は含まれていなくてもよい。さらに、他の実施形態では、キットは、限定されるものではないが、サンプル採取のための装置、サンプルチューブ、ホルダー、トレイ、ラック、ディッシュ、プレート等の構成要素、キットのユーザーに対する使用説明書、溶液又は他の化学試薬、及び標準化、正規化に使用されるサンプル、及び/又は対照サンプルを含む。
【0104】
キットは、少なくとも1つの本明細書に記載の抗体を含み得る。キットは、1つ以上の容器内の本明細書に記載される組成物を、任意にアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の診断、予防、管理又は治療に有用な1つ以上の他の予防剤又は治療剤と共に含み得る。キットの構成要素を投与経路により送達することが可能なデバイス、例えば注射器が含まれていてもよい。キットは、アレルギー状態又は炎症状態を予防、治療、管理又は回復させるための使用説明書、並びに副作用及び投与方法の投与量の情報を更に含み得る。
【0105】
本発明は診断キットも提供する。本明細書に記載される抗体は、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の発生又は進行についてのモニタリング、診断又は予後の提示に有用であり、かかる目的に好適なキットに使用することができる。本明細書に記載される抗体は、個体から採取された体液のサンプル中のIL17BRの存在を検出するための診断キットに使用することができ、個体はヒト、又は非ヒト霊長類等の哺乳動物、又はマウス、ラット及びウサギを含む実験動物であり得る。限定されるものではないが、血液又は血清等の体液のサンプルを個体から採取し、本明細書に記載の抗体を用いてIL17BRの存在について試験する。本明細書に記載の抗体を用いた個体の血液中のIL17BRレベルの測定により、感受性、発症のリスク、個体におけるアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態の診断若しくは予後診断、又は個体の処置のための本明細書に記載される抗体若しくは組成物の好適な投与スケジュール若しくは用量についての情報を得ることができる。診断法は概して、in vitroで行われる。個体に由来するサンプル中のIL17BRの存在を検出する方法は、サンプルと本明細書に記載される抗IL17BR抗体とを接触させ、サンプル中のIL17BRに対する抗体の結合を決定することを含み得る。
【0106】
上記の診断に有用なキットは、限定されるものではないが、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼ等のEIA及びELISAを含むアッセイに使用される様々な酵素;限定されるものではないが、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチン等の補欠分子族;凝集試験に使用されるラテックスビーズ又は細菌等の粒子;限定されるものではないが、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリトリン等の蛍光物質;限定されるものではないが、ルミノール等の発光物質;限定されるものではないが、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリン等の生物発光物質;限定されるものではないが、ヨウ素(131I、125I、123I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(115In、113In、112In、111In)及びテクネチウム(99Tc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(133Xe)、フッ素(18F)、153Sm、177Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、186Re、188Re、142Pr、105Rh、97Ru、68Ge、57Co、65Zn、85Sr、32P、153Gd、169Yb、51Cr、54Mn、75Se、113Sn及び117Sn等の放射性物質;様々なポジトロン断層法を用いるポジトロン放出金属、非放射性常磁性金属イオン、並びに放射標識された又は特定の放射性同位体にコンジュゲートした分子を含むが、これらに限定されない検出可能な物質に結合させた本明細書に記載される抗体を含み得る。容易に測定することができる任意の検出可能な標識は、本明細書に記載される抗体にコンジュゲートし、本明細書に記載される疾患の診断に使用することができる。検出可能な物質は、当該技術分野で既知の技法を用いて抗体に直接、又は中間物(例えば、当該技術分野で既知のリンカー等)を介して間接的に結合又はコンジュゲートすることができる。診断剤として使用される抗体にコンジュゲートすることができる金属イオンについては、当該技術分野で既知である(例えば、米国特許第474900号を参照されたい)。
【0107】
上記の方法又は検出可能な物質のいずれかを用いた抗原の検出は、本明細書に記載されるキット中の本明細書に記載される抗体を用い、IL17BRの存在について陽性結果を生じさせることができ、個体がアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態を有することを診断するか、又はアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態を有するか、若しくはアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態のリスクがある個体についての予後情報を与えることができる。かかる個体は続いて本明細書に記載されるアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態の治療を必要とし、及び/又はそれを受けることができる。
【0108】
本発明の態様は、処置を必要とする個体に本明細書に記載される抗体又は組成物を有効量投与することによるアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の予防法を含む治療方法にも関する。本明細書に記載される抗体又は組成物、好ましくは医薬組成物(例えば、本明細書に記載される抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤と、任意に付加的な治療剤とを含む組成物)は、例えばヒト又は動物の身体の処置方法に薬剤として使用することができる。本明細書に記載される抗体又は組成物、好ましくは、医薬組成物は、ヒト又は動物の身体の処置方法に使用することができ、ここで処置は個体におけるアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の治療的又は予防的処置である。
【0109】
アレルギー状態又は炎症状態としては、IL25媒介性疾患、例えばアレルギー;炎症性腸疾患(IBD);結腸の炎症;アレルギー性喘息及びライノウイルス増悪性喘息を含む喘息;気道過敏(AHR);特発性肺線維症を含む線維症;慢性大腸炎、潰瘍性大腸炎及びクローン病を含む大腸炎;並びに乾性角結膜炎(ドライアイ症候群)等の炎症性眼疾患を挙げることができる。
【0110】
癌状態としては、膵癌、乳癌、肝癌及び甲状腺癌を挙げることができる。
【0111】
抗IL17BR抗体分子は、例えば被験体におけるAHRの予防又は軽減に有用であり得る。予防又は軽減を必要とする被験体(例えばヒト)においてAHRを予防又は軽減する方法は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子を被験体に投与することを含み得る。
【0112】
抗IL17BR抗体分子は、例えば結腸の炎症の予防又は軽減に有用であり得る。予防又は軽減を必要とする被験体(例えばヒト)において結腸の炎症を予防又は軽減する方法は、上記のようなIL17BRに結合する抗体分子を被験体に投与することを含み得る。例えば、抗IL17BR抗体分子は、例えばIBDの予防、軽減又は治療に有用であり得る。IBDを予防、軽減又は治療する方法は、上記のようなIL17BRに結合する抗体分子を被験体に投与することを含む。
【0113】
上述の処置方法は、個体において例えばアレルギー状態又は炎症状態の予防又は治療に有益な治療的応答を生じる条件下での本明細書に記載される抗体又は組成物(例えば、本明細書に記載される抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤と、任意に付加的な治療剤とを含む組成物)の個体への投与を含み得る。
【0114】
本明細書に記載される処置に好適な個体は、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を患っていてもよい。本明細書に記載される処置方法は、無症候患者及びアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の症状を現在示している患者の両方に対して用いることができる。本明細書に記載される抗体は、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を有しない個体に対して予防的に投与してもよい。本明細書に記載される抗体は、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を有しない又はその症状を示さない個体に投与してもよい。本明細書に記載される抗体は、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を有する又は有するようである個体に投与してもよい。処置に適している個体には、アレルギー状態又は炎症状態のリスクがある又はその影響を受けやすいが、症状を示していない個体、及びアレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を有する疑いがある個体、並びに症状を現在示している個体が含まれる。本明細書に記載される抗体は、被験個体のリスクを評定する必要なく一般集団に予防的に投与することができる。
【0115】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される処置に好適な個体は、対照個体、例えば集団の健常なメンバーと比較して、又はその個体において以前に決定されたレベルと比較してTh2応答と関連するバイオマーカーのレベルの上昇を示し得る。Th2応答と関連するバイオマーカーとしては、呼気一酸化窒素、血中好酸球、又は血清バイオマーカー、例えばIgE、IL-13、又はケモカイン、例えばエオタキシン-3、並びに胸腺及び活性化制御ケモカイン(TARC/CCL17)を挙げることができる。方法は、個体からサンプルを得ることと、サンプル中の1つ以上のバイオマーカーのレベルを決定することと、Th2応答と関連する1つ以上のバイオマーカーのレベルが上昇している場合に本明細書に記載される抗体を投与することとを含み得る。
【0116】
「処置する」("treat", "treating")又は「処置」という用語(又は文法的に同等の用語)は、個体の病態の重症度が低減するか、又は少なくとも部分的に改善若しくは回復すること、及び/又は少なくとも1つの臨床症状の幾らかの軽減、緩和又は減少が達成され、及び/又は病態の進行の阻害若しくは遅延及び/又は疾患若しくは病気の発症の予防若しくは遅延が見られることを意味する。
【0117】
アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態の治療方法に使用することができる本明細書に記載の抗IL17BR抗体分子は、上記の任意の配列及びフォーマットの抗体であり得る。本明細書に記載される治療方法に使用される抗体分子は、本明細書に記載される抗IL17BR抗体のフラグメント、例えば抗原結合フラグメントであってもよい。
【0118】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、処置を必要とする個体に医薬担体若しくは医薬組成物と共に、又は本明細書に記載される任意の組成物中で投与することができる。代替的には、少なくとも1つの抗体鎖をコードするポリヌクレオチドを投与することによって抗IL17BR抗体分子を個体に投与することができる。ポリヌクレオチドは、患者において抗体鎖が産生されるように発現される。任意に、ポリヌクレオチドは抗IL17BR抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードする。ポリヌクレオチドは、個体において重鎖及び軽鎖が産生されるように発現される。
【0119】
「患者」、「個体」又は「被験体」という用語は、1つ以上の本明細書に記載される作用物質(例えば、免疫療法剤又は抗体)による予防的又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物の被験体を含む。哺乳動被験体には霊長類、例えば非ヒト霊長類が含まれる。哺乳動物被験体には、限定されるものではないが、ウサギ、並びにラット及びマウス等の齧歯動物等の研究に一般に使用される実験動物も含まれる。
【0120】
本明細書に記載される抗IL17BR抗体分子は、有効投与量の本明細書に記載される抗体を患者に投与することを含む、アレルギー状態若しくは炎症状態、又は癌状態を予防又は治療する方法に使用することができる。本明細書で使用される場合、本明細書に記載される治療用抗体の「有効量」又は「有効投与量」又は「十分量」(又は文法的に同等の用語)は、所望の効果を生じるのに効果的な本明細書に記載される抗体又は組成物の量を指し、上記効果は任意に治療効果又は予防効果である(すなわち、治療有効量を投与することによる)。例えば、「有効量」又は「有効投与量」又は「十分量」は個体の病態、例えばアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態の重症度が低減するか、又は少なくとも部分的に改善若しくは回復すること、及び/又は少なくとも1つの臨床症状の幾らかの軽減、緩和若しくは減少が達成され、及び/又はアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態の進行の阻害若しくは遅延及び/又はアレルギー状態若しくは炎症状態、若しくは癌状態の発症の予防若しくは遅延が見られるような量であり得る。
【0121】
上記の状態の処置に効果的な本明細書に記載される組成物の用量は投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか又は動物であるか、投与される他の薬剤、及び処置が予防的であるか又は治療的であるかを含む多くの異なる要因に応じて変化する。通常は、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ウサギ、ラット及びマウスを処置することもできる。処置投与量は、安全性及び有効性を最適化するために滴定する必要がある。
【0122】
本明細書に記載される抗体による受動免疫化については、投与量は約0.0001mg/kg(宿主体重)~100mg/kg、より通常には0.01mg/kg~5mg/kg(例えば0.02mg/kg、0.25mg/kg、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg/kg等)の範囲である。例えば、投与量は1mg/kg(体重)若しくは10mg/kg(体重)、又は1mg/kg~10mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。別の例では、投与量は0.5mg/kg(体重)若しくは15mg/kg(体重)、又は0.5mg/kg~15mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。別の例では、投与量は0.5mg/kg(体重)若しくは20mg/kg(体重)、又は0.5mg/kg~20mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。別の例では、投与量は0.5mg/kg(体重)若しくは30mg/kg(体重)、又は0.5mg/kg~30mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。好ましい例では、投与量は約30kg/mgであり得る。
【0123】
本明細書に記載される方法は単回投与としての、2回投与又は複数回投与での被験体への抗体の投与を含み得る。抗体の用量は約100μg/kg~100mg/kg(患者の体重)、約300μg/kg~30mg/kg(患者の体重)又は約1mg/kg~10mg/kg(患者の体重)であり得る。被験体に、かかる用量を毎日、1日おきに、毎週、又は実証的分析によって決定される任意の他のスケジュールに従って投与することができる。処置は長期にわたる、例えば少なくとも6ヶ月の複数回投与での投与を含み得る。付加的な処置レジメンは、2週間に1回又は月1回又は3ヶ月~6ヶ月に1回の投与を含み得る。例示的な投与スケジュールとしては、連日1mg/kg~20mg/kg又は15mg/kg、1日おきに30mg/kg又は毎週60mg/kgが挙げられる。
【0124】
予防的及び治療的処置レジームの両方において、試薬を十分な免疫応答が達成されるまで幾つかの投与量で投与することができる。「免疫応答」又は「免疫学的応答」という用語は、レシピエント被験体における抗原に対する液性(抗体により媒介される)及び/又は細胞性(抗原特異的T細胞又はそれらの分泌産物により媒介される)応答の発生を含む。通例、免疫応答はモニタリングされ、免疫応答が衰え始めた場合に反復投与が行われる。例えば、本明細書に記載される抗体は複数回投与することができる。単回投与間の間隔は週単位、月単位又は年単位とすることができる。間隔は、患者における抗IL17BR抗体の血液レベルを測定することによって指定されるような不規則であってもよい。一部の方法では、投与量は1μg/ml~1000μg/ml、一部の方法では25μg/ml~300μg/mlの血漿抗体濃度が達成されるように調整される。代替的には、本明細書に記載される抗体は持続放出配合物として投与することができ、この場合、より低頻度の投与が必要とされる。投与量及び頻度は、患者における抗体の半減期に応じて変化する。概して、ヒト化抗体はキメラ及び非ヒト抗体よりも長い半減期を示す。
【0125】
投与量及び投与頻度は、処置が予防的であるか又は治療的であるかに応じて変化させることができる。予防用途では、本明細書に記載される抗体又はそのカクテルを含有する組成物は、患者の抵抗力を増強するために未だ疾患状態にない患者に投与される。かかる量は、「予防的に効果的な用量」として規定される。この用途においても、正確な量は患者の健康状態及び全身免疫によって異なるが、概して投与1回当たり0.1mg~25mg、特に投与1回当たり0.5mg~2.5mgの範囲である。比較的低い投与量が比較的低頻度の間隔で長期にわたって投与される。
【0126】
本明細書に記載される抗体をコードする核酸の用量は、患者1人当たり約10ng~1g、100ng~100mg、1μg~10mg又は30μg~300μgのDNAの範囲である。感染性ウイルスベクターの用量は、投与1回当たり10~100又はそれ以上のビリオンである。
【0127】
本明細書に記載される抗体及び組成物は、治療的及び/又は予防的処置のために本明細書に記載されるような非経口、局所、静脈内、経口、胃内、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内又は筋肉内方法によって投与することができる。筋肉内注射又は静脈内注入が抗体の投与に好ましい。
【0128】
本明細書に記載される他の態様及び実施形態は、「含む」という用語が「からなる」という用語に置き換えられた上記の態様及び実施形態、並びに「含む」という用語が「から本質的になる」という用語に置き換えられた上記の態様及び実施形態を提供する。
【0129】
本願が、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、上記の態様及び上記の実施形態のいずれかの全ての組合せを開示することを理解されたい。同様に、本願は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単独での又は他の態様のいずれかと合わせた好ましい及び/又は任意の特徴の全ての組合せを開示する。
【0130】
上記の実施形態の変更形態、更なる実施形態及びその変更形態が本開示を読むことで当業者に明らかであり、したがって、これらは本明細書に記載される範囲に含まれる。
【0131】
本明細書で言及する全ての文献及び配列データベースエントリは、その全体があらゆる目的で引用することにより本明細書の一部をなす。
【0132】
本明細書に記載される抗体残基の位置は、Kabat, E.A., Wu, T.T., Perry, H.M., Gottesmann, K.S & Foeller, C. (1991). Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th edit., NIH Publication no. 91-3242. U.S. Department of Health and Human Servicesに記載のスキームに従ってナンバリングされる。適切な場合には、置換の位置を免疫グロブリン配列において不変のKabatナンバリング残基に対して記載することができる。代替的な抗体ナンバリングスキームが、Honegger, A and Plueckthun A. (2001). J. Mol. Biol 309, 657-67に記載されている。
【0133】
「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、他方を含む又は含まない2つの指定の特徴又は構成要素のそれぞれの具体的な開示と解釈されるものとする。例えば、「A及び/又はB」は、それぞれが本明細書に個別に記載されるかのような(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBのそれぞれの具体的な開示と解釈されるものとする。
【実施例】
【0134】
実験
方法
ヒトIL-17BR-Hisに対するBiacore動態
Human Antibody Captureキットを用いて、抗ヒトIgG(Fc)抗体(10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)固定化バッファー中)をCM5チップの流路2~4にコーティングした。流路1をブロッキングし、ブランク対照として用いた。次いで、この抗ヒトIgGコーティングチップを用いてヒト化抗体変異体を固定化した。2倍希釈系列を用いたヒトIL17BR-Hisの20nM~1.25nMの濃度系列を、HBS-EP+バッファーを用いて作製した。精製抗体サンプルをHBS-EP+バッファーで1μg/mlに希釈し、それぞれBiacore T200(GE Healthcare)においてチップ上の1つのコーティング流路に10μl/分の流量で2分間注入した。会合時間を8分、解離時間を90分に設定し、30μl/分の流量で結合/解離の動態を、BIAevaluationソフトウェアにおいて1:1モデルを用いて分析した。
【0135】
IL-17BRのBiacore競合アッセイ
初めに、プロテインA biacoreチップを、10μg/mlビオチン化プロテインA(Sigma)をSAセンサーチップ上に捕捉することによって作製した。このチップをBiacore 2000機器に挿入した。抗IL-17BR抗体を10μg/mlにて20μl/分の流量で注入した。これに続いてIL-17B/IL-25を10μl注入し、リガンドに対する抗体の非特異的結合を確認した。次いで、IL-17B受容体を10μg/mlでチップ上に注入し、続いて同じ濃度でのIL-17B/IL-25の2回目の注入を行った。10μlの10mMグリシン-HCl(pH2.2)を用いて再生を行った。
【0136】
熱安定性の比較
完全ヒト化抗体及びキメラ対照をPBS/0.2%Tweenで1μg/mLに希釈し、EC80濃度に適切な容量でPCRチューブに分取した。容量は同じバッファーで最高100μlとした。各チューブを別個に5℃間隔にて30℃~85℃の温度で10分間加熱し、4℃に冷却した。結合アッセイを、96ウェルプレートにおいて1ウェル当たり100μlの各抗体を用いてヒトIL-17BR-His細胞外ドメインに対して行った(各温度を二連でアッセイする)。
【0137】
サーマルシフト比較
サンプルを96ウェル白色PCRプレートに25μLの最終容量(1μM及び2μMの精製抗体最終濃度)で直接調製した。Sypro OrangeストックをPBSバッファーで1:100に希釈した後、最終サンプルに1:10で添加した(例えば、25μL中2.5μL)。サンプルをqPCR装置にロードし、MxProソフトウェア、SYBR Green法(フィルター=FRROX、参照色素なし)を用いて1℃の上昇で71サイクルの熱プロファイル設定にて増幅させた。結果をプロットし、Tmを決定した。
【0138】
SEC-MALS(凍結-融解及び熱誘導ストレス試験)
サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱(SEC-MALS)分析を「非ストレス」及び「ストレス」サンプルに対して行い、下流の製造問題を潜在的に生じ得る凝集体の存在及び/又は誘導を検出した。10μlの各サンプル(1mg/mL)をSECカラム(Acquity UPLC BEH200 SEC、4.6×150mm、1.7μm)に注入し、続いて3つの連続した検出器:UV(サーモスタットカラムコンパートメントを備えるAgilentの1260 Infinity HPLCシステム)、光散乱(Wyatt TechnologyのDAWN HELEOS)及び示差屈折計(Wyatt TechnologyのOptilab TRex)によって検出した。0.4mL/分の一定流量を、ダルベッコPBS(0.01%アジ化ナトリウムを含有するSigmaのD8537)の移動相を用いて適用した。全ての実験を25℃で行った。データを、Wyatt TechnologyのASTRAソフトウェア(バージョン6.1.2.83)を用い、屈折率増分(dn/dc)を0.185(すなわち、タンパク質分析用)に設定して分析した。全てのサンプルをSEC-MALSによる分析前に4℃で保管した。
【0139】
相互作用クロマトグラフィー(CIC)
相互作用クロマトグラフィー(CIC)分析を行い、非特異的タンパク質間相互作用の傾向を評価し、下流で製造問題を生じ得る任意の溶解性の問題の指標を得た。サンプルを、第一に30mgのヒトポリクローナルIgG(Sigmaの14506)を結合させた1mLのNHS活性化樹脂(GE Healthcare)、第二に対照カラムとして1mLのブランク結合NHS活性化樹脂への2回の別個の20μlの注入(0.5mg/mL)によって分析した。移動相は、0.01%アジ化ナトリウムを含有するダルベッコPBS(SigmaのD8537)(0.1mL/分)からなり、全ての実験を25℃で行った。溶出サンプルをUV吸光度によって検出し(サーモスタットカラムコンパートメントを備えるAgilentの1260 Infinity HPLCシステム)、データをWyatt TechnologyのASTRAソフトウェア(バージョン6.1.2.83)を用いて分析し、サンプルピーク保持時間を決定した。次いで、これらを用いて保持因子k’:
【数1】
(式中、T
rはポリIgGカラムでのサンプルの保持時間であり、T
mはモック(対照)カラムでの保持時間である)を算出した。
【0140】
溶媒吸収による溶解性の評定
Vivapore(商標)溶媒吸収濃縮装置に、PBS中1mg/mlの3.5ml~5.0mlの抗体を時点0でロードした。抗体濃度を、少量をサンプリングしてNanodrop 2000(ε=1.4)で測定し、濃縮容量が約30μl~50μlのデッドボリュームに達するまで継続することによって10分に一度モニタリングした。濃度値(mg/ml)を対応する時点に対してプロットし、濃度プロファイルを生成した。
【0141】
動的光散乱(DLS)
動的光散乱を、可溶性凝集体の検出のための相補的な技法(すなわち、SEC-MALS等の静的光散乱に対する)として用いた。行う場合、30μlのサンプル(ダルベッコPBS;SigmaのD8537)を348ウェルポリプロピレンプレート(Greiner bio-one)にロードし、データをZetasizer APS(Malvern)で記録した。全ての値を三連で記録し、関連Zetasizerソフトウェア(バージョン7.10)を用いて処理した。キュムラント分析を行い、平均粒径(z平均)及び多分散指数(PDI)を得た。
【0142】
ELISA(酵素結合免疫吸着法)
ELISAプレートを2μg/mlヒトIL17RA-Fc融合タンパク質(Sino Biological、10895-H03H)、ヒトIL17BR-hisタグタンパク質(Sino Biological、13091-H08H)、ヒトIL17RC-hisタグタンパク質(11747-H08B)、ヒトIL17RD-hisタグ(10507-H08H)によって4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートをPBS中の1%BSAでブロッキングし、続いてhD9042を添加した。hD9042の結合特異性を、450nmでの吸光度として抗ヒトIgG F(ab’)2ペルオキシダーゼ抗体(Jackson ImmunoResearch Inc)を用いて測定した。
【0143】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)でのin vitroヒトIL-5及びIL-13サイトカイン産生アッセイ
新鮮ヒトPBMCを、10%熱不活性化ヒトAB血清を含むRPMI1640(Sigma Aldrich)に再懸濁した後、96ディープウェルプレート(Nunc)に合計200μLの培養培地中7.5×104細胞/ウェルの密度で上記のように播種した。IL-5及びIL-13発現の誘導のために、2ng/ml又は10ng/mlのヒトIL-25(R&D systems、1258-IL/CF)と合わせた10U/mLヒトIL-2(Peprotech、200-02)を各ウェルに添加した。阻害研究のために、PBMCを2μg/mL hD9042又はアイソタイプ対照(ChromPure Human IgG、全分子、Jackson ImmunoResearch Inc)で1時間処理した後、IL-2及びIL-25を添加した。上清をサイトカイン及び抗体処理の7日後に採取し、IL-5及びIL-13 ELISAキット(SAB biotech)によって分析した。
【0144】
ヒト腎細胞癌細胞株TK-10でのin vitroヒトIL-8サイトカイン産生アッセイ
TK-10細胞を、10%ウシ胎仔血清を含むRPMI1640培地中、37℃、5%CO2で加湿雰囲気にて維持した。IL-8刺激のために、TK-10細胞を合計100μLの容量のOptiMEM血清減少培地(Thermofisher Scientific)中2.5×104細胞/ウェルの密度で播種し、続いて10ng/mlヒトTNFα(Peprotech、300-01A)及び100ng/mlヒトIL-25(R&D systems、1258-IL/CF)で24時間処理した。阻害研究のために、TK-10細胞を100ng/mL hD9042、hD9043又はアイソタイプ対照(ChromPure Human IgG、全分子、Jackson Immuno Research Inc)で1時間処理した後、TNFα及びIL-25を添加した。サイトカイン処理及び抗体処理後に採取した上清をヒトIL-8 ELISAキット(R&D systems、D8000C)によって分析した。
【0145】
結果
D9.2抗体の配列決定
マウスD9.2のクローニング及びシークエンシングを特許文献1に記載のように行った。
【0146】
D9.2抗体のキメラバージョンの生成
1. キメラD9.2発現ベクターの構築
キメラ発現ベクターの構築は、好適なリーダー配列DNAをVH及びVK遺伝子にHindIII制限部位の後で付加することを伴う。リーダー配列は、Kabatデータベースにおいて最も類似した配列として選択される。さらに、キメラ重鎖発現ベクターの構築は、VH遺伝子のJ領域の3’末端と隣接した天然ApaI制限部位までのヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子の5’-フラグメントの導入を伴う。キメラカッパ軽鎖発現ベクターの構築のために、3’-スプライスドナー部位及び5’BamHI制限部位をVK遺伝子に付加した。スプライスドナー配列は、可変領域遺伝子をその適切な定常領域遺伝子に正確にインフレーム付加し、V:Cイントロンを切り出すのに重要である。適切な定常領域遺伝子が、挿入された可変領域配列の下流にコードされる。cD9.2 VKのAdvantage HF2(Clontech)反応の400bp(前後)のPCR産物を、TOPO-TAクローニングキット及び製造業者のプロトコルを用いてpCR2.1ベクターにクローニングした。正確なフラグメントサイズの選択クローンのDNAプラスミドミニプレップをHindIII及びBamHIで切断し、ベクターpKN100にライゲートした。ライゲーション産物によるケミカルコンピテント(chemically-competent)DH5α細菌の形質転換後にクローンを単離した。4つのクローンの一晩培養物(5ml)を、QIAprep Spin Miniprep Kitを用い、製造業者のプロトコルに従って処理してDNAプラスミドミニプレップを作製し、これがGATC-BiotechによってプライマーHu-K3を用いてシークエンシングされ、D9.2 cVK.pKN100と名付けられた。cD9.2 VHのAdvantage HF2(Clontech)反応の450bp(前後)のPCR産物をDpnIで処理し、HindIII及びApaIで切断し、発現ベクターpG1D200に直接ライゲートした。ライゲーション産物によるケミカルコンピテントDH5α細菌の形質転換後にクローンを単離し、プライマーHCMVi(F0951)及びchD9.2VH REVを用いたPCRによってスクリーニングした。正確なサイズのPCR産物を生成する5つのクローンの一晩培養物(5ml)を、QIAprep Spin Miniprep Kitを用い、製造業者のプロトコルに従って処理してDNAプラスミドミニプレップを作製し、これがGATC-BiotechによってプライマーHCMViを用いてシークエンシングされ、D9.2 cVH.pG1D200と名付けられた。
【0147】
2. キメラD9.2抗体の生成
D9.2 cVH.pG1D200及びD9.2 cVK.pKN100のプラスミド調製物を、形質転換DH5α細菌の一晩培養物からPromegaのMaxiprep System及び製造業者のプロトコルを用いて精製した。これら2つのプラスミドを用いて293T細胞に同時トランスフェクトした。馴化培地を3日~4日後に採取した。定量ELISAによって測定された293Tトランスフェクションからの馴化培地中のIgG1カッパ抗体濃度は、D9.2についての2セットの三連トランスフェクションにおいて1862.78ng/ml及び3573.13ng/mlであった。
【0148】
3. キメラcD9001抗体のIL-17BR結合活性
組換えヒトIL-17BR-His(R&D Systems)、マウスIL-17BR-(Fc)(Sino Biological)及びカニクイザルIL-17BR-monoFcの細胞外ドメインに対する抗体結合活性を、結合ELISAによって測定した。
図1に、キメラ抗体cD9001がヒト、マウス及びカニクイザルIL-17BRタンパク質に同様のEC
50値で結合することが示される。
【0149】
D9.2ヒト化抗体変異体の設計
1. ヒトVH及びVK cDNAデータベース
International Immunogenetics Database 2009 (Lefranc, 2015)及びKabat Database Release 5 of Sequences of Proteins of Immunological Interest(最終更新日1999年11月17日)(Kabat et al. 1991)からのヒト及びマウス免疫グロブリンのタンパク質配列を用いて、Kabatアラインメントにおけるヒト免疫グロブリン配列のデータベースを編集した。本発明者らのデータベースは、10406個のVH及び2894個のVK配列を含む。
【0150】
2. D9.2の分子モデル
マウスD9.2抗体可変領域の相同性モデルを、自動モードで実行されるDiscovery Studio 3.5プログラムを用いて計算した。3rkd_C.pdb及び1mj8_H.pdbの原子座標が、Accelrysの抗体pdb構造データベースのBlast分析によって決定される、それぞれVL及びVHに対して最高スコアの配列鋳型であり、4aeh_LH.pdbの原子座標が、最高スコアの全体的(インタフェース)配列鋳型であった。これらの鋳型を用いて30個の初期モデルを生成した。トップスコアのモデルを、各CDRループをその5つの最良のループ鋳型でモデリングすることによって改良した。20個の最終モデルを用いて、CDRループの4Å以内にある残基の一致を決定した。
【0151】
3. ヒトフレームワーク選択
ヒト化には、好適なヒトV領域の同定が必要とされる。ヒトVH及びVKデータベースを、様々な選択基準を用いてD9.2 VH及びVKタンパク質配列と照合した。マウスD9.2抗体の構造中のCDR残基の4Å以内(Kabat定義)のFW残基を同定し、「4Å近接残基」と指定した。ヒト化配列及び不完全配列を分析から除外した。配列EF178110をヒト重鎖ドナー候補として選んだ。この配列は、配列同一性及び類似性のスコアが極めて高く、6つの4Å近接残基変化を有するが、これが得られる最小数の変化であった(表1)。
【0152】
同様に、配列Y14869をヒトカッパ軽鎖ドナー候補として選んだ。この配列は、D9.2 VKに対する配列同一性及び類似性のスコアが非常に高く、IGKV1-NL1*01生殖系列からの体細胞突然変異を有しない。これは2つの潜在的4Å近接残基変化を有する(表2)。
【0153】
4. D9 HA及びHBの設計
好適なヒトフレームワークが同定されたため、合成タンパク質及びDNA配列を設計することができる。D9.2のヒト化バージョンの初期設計は、D9.2 VHに由来するCDR1、2及び3をEF178110のアクセプターFWにグラフトすることであり、結果として変異体D9 HA(配列番号7)が生成する。次いで、ヒト化バージョンD9 HBでは位置52、74~76、79及び105の6つの4Å近接残基を同等のマウス残基に逆突然変異させ、その後の変異体では一度に1つずつ突然変異させる。配列をコンピューターによって構築し、D9 HC~D9 HHと指定した。表1では、D9 VHタンパク質配列のマウス及びヒト化バージョンを比較する。
【0154】
5. D9 KA及びD9 KBの設計
Y14869に由来するフレームワークを用い、ヒト化構築物のためのDNA及びタンパク質を設計した。D9 VKに由来するCDR1、2及び3をY14869のアクセプターFWにグラフトし、ヒト化D9の初期バージョン(KA配列番号12)を生成する。ヒト化バージョンD9 KBでは2つの不適合4Å近接残基54及び76を同等のマウス残基に逆突然変異させ、その後の変異体では一度に1つずつ突然変異させた。配列をコンピューターによって構築し、D9 KC及びKDと指定した(表2)。
【0155】
D9.2抗体のヒト化バージョンの生成及び特性
1. D9ヒト化抗体の生成
ヒト化発現ベクターの構築は、リガーゼ非依存的クローニング(LIC)を用いたIgG/カッパベクター(pHuK及びpHuG1)への増幅可変領域のクローニングを伴う。ベクター(pCMV修飾)をBfuA1(BspM1)で消化した後、適合オーバーハングを、T4 DNAポリメラーゼ3’-5’エキソヌクレアーゼ活性(+dATP)を用いて生成する。
【0156】
D9 HA、HB、KA及びKBの可変領域の遺伝子がGenScriptによって合成された。それぞれ重鎖及び軽鎖である天然ヒトフレームワーク配列EF178110及びY14869、並びに天然マウスCDR配列をコンピューターによって構築し、D9 HA~D9 HHと指定し、D9 KA~D9 KEと指定した。HA/B及びKA/Bの配列を、ヒト細胞によって選択的に利用されるコドンを用いるようにサイレント突然変異誘発によって最適化し、合成した。KA/B及びHA/B構築物を、発現ベクター+インサートに対する特異的プライマーを用いてPCR増幅した。初めに、可変領域をリーダー配列の3’末端(殆どの配列がベクター中に存在する)-フォワードプライマー-、又は定常領域(IgG1又はカッパ)の先頭-リバースプライマー-、続いて可変領域(各方向)の先頭を含有するプライマーを用いてPCRによって増幅した。相補的オーバーハングがT4 DNAポリメラーゼ+dTTP処理によってPCR産物中に生成した。ベクター及びインサートを室温でインキュベートし、ケミカルコンピテントTOP10細菌に形質転換し、カナマイシンプレートにプレーティングした。幾つかのクローンを単離し、コロニーをプライマーHCMVi、及びVHについてはHuG1 LIC Rev又はVKについてはHuK LIC Revを用いるPCRによってスクリーニングした。正確なサイズのPCR産物を生成するクローンを選択し、QIAGENのキットを用いてミニプレップし(miniprepped)、同じプライマーを用いてシークエンシングした。バージョンHA及びKAを続いてPCR突然変異誘発によって修飾し、それぞれ表1及び表2で注釈される他のヒト化変異体を得た。クローンをシークエンシングし、プラスミドDNAを、QIAGENのPlasmid Miniprep Kit又はPromegaのPlasmid Maxiprepキットを用いて調製した。(ヒト化又はキメラ)VH、HA、KA及びVKをコードする発現プラスミド調製物を用いてExpi293細胞をトランスフェクトし、無血清培地中で5日間~7日間培養し、その時点で分泌抗体を含有する馴化培地を採取した。
【0157】
2. 抗体発現
Expi293細胞馴化培地中のIgG1κ抗体の濃度をHTRFによって測定し、表3に示す。これは、XL665で標識されたIgGとクリプテートで標識されたMab抗ヒトFcとの間の結合を置換することができるヒトIgGの定量決定のためのHTRF技術(均一時間分解蛍光法)に基づく競合免疫測定である。特異的シグナル(すなわちエネルギー移動)は、サンプル又は標準中のヒトFcの濃度に反比例する。キメラ抗体(cD9001)は、キメラ軽鎖(D9 HAcK及びD9 HBcK)を発現した他の抗体と同様の良好な発現を示した。しかしながら、KA軽鎖(cHKA、D9 HAKA及びD9 HBKA)を含有する抗体は全て、非常に低レベルの発現を有していた。したがって、表2に示すKMと名付けられたモデル軽鎖を用いて、使用する重鎖を決定した。軽鎖としてKMを発現した抗体は、殆どがより高い発現レベルを示した(hD9002、hD9006、hD9010、hD9014、hD9018、hD9022、hD9026及びhD9030)。
【0158】
3. ヒト化D9抗体の初期バージョンによる抗原結合
オフレートランク付けを、KMを有する重鎖変異体についてBiacoreを用いて行い、ヒトIL-17BRと最も遅いオフレートを有する重鎖バージョンを決定した。会合及び解離を用いてデータを適合し、Koff値を用いてデータをランク付けした(表4)。重鎖のバージョンHが最も遅いオフレートを生じたため(hD9030)、この段階でのリード重鎖バージョンとして選んだ。
【0159】
4. IL-17B又はIL-25とのBiacore競合アッセイ
ヒト化抗体がIL-17BRに対する結合についてIL-17B又はIL-25と直接競合するかを決定するために、Biacore競合アッセイを行った。初めに、ヒト化抗体hD9030をプレコートプロテインAチップにロードした。IL-17B又はIL-25を注入し、抗体単独に対する結合を確認した。これに続いてIL-17BRを注入すると、
図2及び
図3に示されるように抗体に対する結合を観察することができた。次いで、IL-17B/IL-25を再び注入し、天然リガンドがヒト化抗体の存在下で受容体に結合し得るかを確かめた。IL-17Bの場合、後者はヒト化抗体の存在下でIL-17BRに結合することができず(
図2)、それらのエピトープが重複し得ることが示唆された。しかしながら、IL-25については、受容体に対するヒト化抗体の結合後にIL-17BRに対する結合を観察することができ(
図3)、それらが同じ部位について直接競合しないことが示唆された。
【0160】
5. 重鎖及び軽鎖配列の再改変
KA軽鎖変異体が十分に発現されなかったことを示すデータを踏まえ、軽鎖配列を更に分析した。部位特異的突然変異誘発を用い、D9 KA中のArg99をGlyに突然変異させてバージョンKEを生成した(表2)。
【0161】
ヒト生殖系列に対してより高い同一性パーセンテージ(85%超)を有するように重鎖配列を改変することも所望された。ヒト生殖系列に対するKE軽鎖の同一性は86%であり、この構築物では改変は必要なかった。重鎖については、現在のリード重鎖Hのヒト生殖系列に対する同一性は80.4%であり、85%超に達するために多数の突然変異が必要であった。配列を分子モデリングによって試験し、結合にとって不可欠でないように思われるフレームワーク領域中の3つの残基又はCDRH2中の3つの残基の突然変異の2つの有望なバージョンを検討した。これらの重鎖バージョンはどちらも部位特異的突然変異誘発(セクション8.8)を用いて作製し、表1に示されるようにD9 HI及びD9 HJと名付けた。
【0162】
6. 再改変された抗体;発現及び精製
元のKA又は修飾KE軽鎖のいずれかと共にD9 HH-HJ重鎖を含有する抗体の発現レベル(Expi293細胞を用いてトランスフェクトした)を、Octet定量アッセイを用いて定量化した。この場合も、表3に示されるように、軽鎖としてD9 KAを含有する抗体(hD9035、hD9036及びhD9037)は全て、低い発現レベルを有し、D9 KEを軽鎖として含有する抗体(hD9040、hD9041及びhD9042)は、適度な発現レベルを示した。抗体hD9040、hD9041及びhD9042を3つのリードヒト化抗体候補として更に特性評価するために選び、親和性及びサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0163】
7. ヒト化D9抗体による抗原結合
抗体バージョンhD9040、hD9041及びhD9042に対するヒトIL-17BRの結合をELISAによって試験した。3つ全てのヒト化変異体が、非常によく似たEC
50値でヒトIL-17BR-Hisに結合した(
図4)。
【0164】
8. IL-17BRに対するヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の結合の動態
ヒトIL-17BR-Hisに対するリードヒト化候補hD9040、hD9041及びhD9042抗体の結合を更に特性評価するために、Biacore T200機器を用いて動態実験を行った。3つのヒト化抗体は、低ピコモル範囲での親和性で良好な動態を示した(
図5)。これらの厳しい親和性はBiacore機器の限界に達するが、3つ全ての抗体がキメラ抗体と同等の親和性を有することが明らかである。
【0165】
9. 高温に対するヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の熱安定性
本実験の目的は、30℃から85℃まで様々な高温に10分間曝し、4℃に冷却し、各候補のEC
80濃度でELISAアッセイに用いた場合のヒト化抗体の熱安定性を試験することである。ヒト化候補hD9040及びhD9041は、ヒトIL-17BR-Hisに対するそれらの結合能力を73℃まで保持し、hD9042は結合を75℃まで保持する(
図6)。
【0166】
10. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体のTm(融解温度)の決定
リードヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042の融解温度を決定するために、それらをサーマルシフトアッセイにおいて試験した。サンプルを蛍光色素(Sypro Orange)と共にqPCRサーマルサイクラーにおいて1サイクル当たり1℃上昇させながら71サイクルにわたってインキュベートした。ヒト化抗体のTm値は、72℃~74℃と算出された(
図7、表5)。
【0167】
11. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の凝集
サンプルをHPLCシステムのサイズ排除カラムに0.4mL/分で注入し、多角度光散乱によって分析して絶対モル質量を決定し、凝集を確認した。ヒト化候補hD9040、hD9041及びhD9042について、プロファイルは凝集の徴候を示さず(
図8、表6)、平均分子量は136kDa~132kDaである(表6)。これは本分析設定におけるIgGモノマーの予想範囲である。抗体は単分散である(Mw/Mn<1.05)。質量回収率は100%であり(注入質量に対する算出質量)、良好なタンパク質回収率を示し、サンプルがカラムに付着しない、又はガードカラムによって保持される不溶性凝集体を含有しないようである。全体として、データからヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042について凝集の問題がないことが示唆される。
【0168】
12. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の非特異的タンパク質間相互作用(CIC)
バルク精製ヒトポリクローナルIgGを用いた相互作用クロマトグラフィーは、非特異的タンパク質間相互作用をモニタリングする技法であり、可溶性抗体と不溶性抗体とを区別するために用いることができる。保持指数(k’)の上昇は、自己相互作用の傾向及び低い溶解性を示す。抗体hD9042が非特異的相互作用の最も低い傾向を有し、これにhD9040、その後hD9041が続く。3つ全てのヒト化抗体が0.2未満の保持指数を示し、概して非特異的相互作用の低い傾向及び良好な溶解性を有することが示される(
図9)。
【0169】
13. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の溶解性
ヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042を、溶媒吸収濃縮装置(MWCO 7500kDa)を用いて濃縮し、濃度を定期間隔で測定した。抗体は明らかな沈殿なしに65mg/mL超まで濃縮され、PBSに高濃度まで可溶性であることが示された(
図10)。
【0170】
14. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の凍結/融解ストレス分析
精製候補抗体のサンプルを、-80℃で15分間に続いて室温で15分間の融解の10サイクルに供した。次いで、サンプルをSEC-MALSによって分析し、凝集を確認した(
図11)。データから、凍結/融解がヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042において凝集を引き起こさないことが示唆される(それぞれ
図11A、
図11B及び
図11C)。
【0171】
15. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体の熱誘導ストレス分析
精製候補抗体のサンプルをa)4℃、b)25℃、c)37℃及びd)50℃に33日間曝露した。次いで、サンプルをセクション8.19に記載のようにSEC-MALSによって分析し、凝集を確認した(
図12)。全体として、データからヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042において凝集の問題がないことが示唆される(それぞれ
図12A、
図12B及び
図12C)。
【0172】
16. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体のpI分析
ヒト化抗体hD9040、hD9041及びhD9042のpI分析を、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)を用いて行った。この技法は、抗体をキャピラリーにわたるpH勾配を用いてそれらの等電点(pI)に従って分離することを可能にする。表7に各抗体の主要pIアイソフォーム及び各抗体のpI範囲を示す。hD9040及びhD9041のpIは7.8であり、hD9042抗体のpIは7.9である。
【0173】
17. ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042抗体のDLSによる自己会合分析
2倍希釈系列で10mg/ml~0.63mg/mlの濃度(合計5つのサンプル)を、hD9040、hD9041及びhD9042の各抗体について作製した。次いで、流体力学直径及び拡散定数を各サンプルについて動的光散乱(DLS)を用いて決定した。
図13に示されるように、hD9042が最も低い自己会合傾向を有し、これにhD9040及びhD9041が続く。
【0174】
18. hIL17受容体ファミリーに対するhD9042結合特異性
ヒトIL17BRに対するリード候補hD9042の結合特異性をELISAによって決定した。hD9042はヒトIL17BRに特異的に結合するが、ヒトIL17RA、IL17RC及びIL17RDと交差反応しないことが見出された(
図14)。
【0175】
19. in vitroヒトIL-5及びIL-13サイトカイン産生アッセイ
IL-2の存在下で、IL-25はヒトPBMCの2型サイトカイン(IL-5及びIL-13)の産生を顕著に誘導する。hD9042は、IL-25によって誘導されるIL-5(
図15A)及びIL-13(
図15B)の産生を阻止した。統計的有意性をN.S.(p>0.05)、
*p≦0.05、
**p≦0.01として示す(対応のない両側スチューデントt検定による)。
【0176】
20. ヒンジ安定化IgG4抗体であるhD9043の生成
Fc領域のエフェクター機能を最小限に抑えるために、D9HJをIgG4定常領域と融合し、D9HJ-IgG4*を作製した。Fabアーム交換を阻害し、ヒンジ領域を安定化するために、点突然変異を導入して位置228のセリンをプロリンへと突然変異させた(EUナンバリングシステム)(Angal, S. 1993 Mol Immunol, 30:105-108、Aalberse et al. 2002 Immunol, 105:9-19)。D9HJ-IgG4*の配列を配列番号17に示す。次いで、D9HJ-IgG4*の配列を、ヒト細胞によって選択的に利用されるコドンを用いるようにサイレント突然変異誘発によって最適化し、GenScriptによって合成した。hD9043を生成するために、D9HJ-IgG4*をpcDNA3.1ベクターに挿入し、ExpiCHO細胞にD9KEと同時トランスフェクトした。hD9043を、アフィニティー及びサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0177】
21. in vitroヒトIL-8サイトカイン産生アッセイ
TNFαと組み合わせたIL-25は、TK-10細胞からのIL-8の産生を誘導することができた。IL-8産生をhD9042及びhD9043によって有意に阻止することができた(
図16)。統計的有意性を
*p≦0.05、N.D.、不検出として示す。
【0178】
cD9001と比較したhD9040~42についてのデータの要約
表8に、ヒト化hD9040、hD9041及びhD9042ヒト化候補の結合、動態親和性及び生物物理学的特性の要約を示す。全データを考慮して、hD9042が3つの候補の中で最も遅いオフレートを有し、最も安定しており、最も低い自己会合傾向を有し、最良の発現レベルを示すことから、これをリードヒト化候補として選んだ。
【0179】
D9.2抗体をヒト化すると、得られる抗体はIL-17BRに対する結合を保持し、良好な生物物理学的特性を有していた。抗体を改変すると、結合能を殆ど失うことなく完全ヒト化抗体として発現された。ヒト化抗体であるhD9040、hD9041及びhD9042を用いた実験から、結合ELISA及びBiacoreを用いた動態研究において低ピコモル範囲で高い親和性が示された(
図4及び
図5)。初期実験から、CDRグラフトKA軽鎖抗体は十分に発現しないが、軽鎖の単純な再改変により抗体の発現が大幅に改善したことが示された。重鎖はヒト生殖系列に対して85%を超える同一性を有するように首尾よく改変されたため、新たな規制に従って「ヒト化抗体」と称することができる。hD9042抗体は、最良の薬物様特性及び優れた結合動態を示すため、リード候補として選んだ(表8)。優れた結合、発現、熱安定性及び親和性の組合せが、hD9042を更なる開発に好適な候補抗体としている。
【0180】
配列
SYWMN
配列番号1 VHCDR1
RIDPYDSEIQYX
1QKFX
2X
3(X
1はN又はAであり、X
2はK又はQであり、X
3はD又はGである)
配列番号2 VHCDR2
SGGFDWFAY
配列番号3 VHCDR3
RASENINSNLA
配列番号4 VLCDR1
DVTNLAD
配列番号5 VLCDR2
QHFWGPPYT
配列番号6 VLCDR3
配列番号7 VH配列HA(CDRは網掛け)(Kabat位置1、24、60、64、65、69及び94は下線)
(X
1はQ又はEであり、X
2はA又はTであり、X
3はA又はNであり、X
4はQ又はKであり、X
5はG又はDであり、X
6はM又はLである)
配列番号8 Kabat位置1、24、60、64、65及び69に修飾を有するVH配列(CDRは網掛け)
配列番号9 VH配列HJ(CDRは網掛け)
配列番号10 VH配列HH(CDRは網掛け)
配列番号11 VH配列HI(CDRは網掛け)
配列番号12 VL配列KA(CDRは網掛け)(Kabat位置93は下線)
配列番号13 VL配列KE(CDRは網掛け)
RIDPYDSEIQYNQKFKD
配列番号14 VHCDR2 HJ及びHH
RIDPYDSEIQYAQKFQG
配列番号15 VHCDR2 HI
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
配列番号16 ヒンジ安定化IgG4定常領域
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFISYWMNWVRQAPGQGLEWMGRIDPYDSEIQYNQKFKDRVTMTRDTSISTAYMELSRLRSDDTAVYYCARSGGFDWFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
配列番号17 D9HJ-IgG4
*配列
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【配列表】
【国際調査報告】