(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(54)【発明の名称】がんおよび他の疾患の診断および処置のための腫瘍促進がん関連線維芽細胞の同定および標的化
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20220121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220121BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220121BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220121BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220121BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220121BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220121BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220121BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220121BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20220121BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220121BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220121BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220121BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20220121BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220121BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61P43/00
A61P35/00
A61P1/18
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/17 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
C07K14/705
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/13
C12N5/078
C12N5/0783
G01N33/574 A
G01N33/574 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532209
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 US2019065008
(87)【国際公開番号】W WO2020118216
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルリ ラグー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AB04
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA23
4C084NA05
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C085AA16
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA66
4C086ZB26
4C086ZC01
4C086ZC51
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087NA05
4C087ZA66
4C087ZB26
4C087ZC51
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書において、TP-CAFを標的化する抗体またはキメラ抗原受容体のような薬剤が提供される。その必要性がある患者にTP-CAF中和剤の有効量を投与する段階を含む、がんを処置する方法が提供される。本方法は、患者に化学療法または免疫療法の有効量を投与する段階をさらに含むことができる。本方法は、免疫チェックポイント遮断療法と組み合わせたIL-6シグナル伝達阻害剤を投与する段階をさらに含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-6シグナル伝達を抑制する薬剤、ゲムシタビン、および免疫チェックポイント遮断療法を含む組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階
を含む、疾患を有する対象を処置する方法。
【請求項2】
疾患ががんである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
がんが、免疫チェックポイント遮断療法に以前は応答しなかったものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体の有効量を投与する段階;または
N末端からC末端に向かって、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合するCARポリペプチドを発現する、CAR T細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
がんが膵臓がんである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
膵臓がんの転移を阻害する方法としてさらに定義される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第2の抗がん療法が、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体を含む、組成物。
【請求項11】
抗体断片が、組換えscFv (一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片、またはFv断片である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
抗体が、キメラ抗体または二重特異性抗体である、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
キメラ抗体が、ヒト化抗体である、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
二重特異性抗体が、
(1) TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質、および
(2) CD3
の両方に結合する、請求項12記載の組成物。
【請求項15】
抗体または抗体断片が、細胞毒性剤に結合されている、請求項10~14のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
抗体または抗体断片が、診断剤に結合されている、請求項10~14のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか一項記載の抗体または抗体断片をコードする、ハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項18】
請求項10~16のいずれか一項記載の1つまたは複数の抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体を含む、薬学的製剤。
【請求項19】
TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体の有効量を投与する段階
を含む、その必要がある患者を処置する方法。
【請求項20】
TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体が、請求項10~16のいずれか一項記載の抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
患者ががんを有する、請求項19記載の方法。
【請求項22】
がん患者が、FAP
+ CAFを含むと決定されている、請求項21記載の方法。
【請求項23】
がんが膵臓がんである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
膵臓がんの転移を阻害する方法としてさらに定義される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項27】
第2の抗がん療法が、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
N末端からC末端に向かって、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する、前記CARポリペプチド。
【請求項29】
抗原結合ドメインが、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する第1の抗体に由来するHCDR配列、およびTP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する第2の抗体に由来するLCDR配列を含む、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項30】
抗原結合ドメインが、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体に由来するHCDR配列およびLCDR配列を含む、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項31】
ヒンジドメインが、CD8aヒンジドメインまたはIgG4ヒンジドメインである、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項32】
膜貫通ドメインが、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインである、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項33】
細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3z細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項34】
請求項28~33のいずれか一項記載のCARポリペプチドをコードする、核酸分子。
【請求項35】
CARポリペプチドをコードする配列が、発現制御配列に機能的に連結されている、請求項34記載の核酸分子。
【請求項36】
請求項28~33のいずれか一項記載のCARポリペプチドまたは請求項35記載の核酸を含む、単離された免疫エフェクター細胞。
【請求項37】
核酸が、細胞のゲノムに組み込まれている、請求項36記載の細胞。
【請求項38】
T細胞である、請求項36記載の細胞。
【請求項39】
NK細胞である、請求項36記載の細胞。
【請求項40】
ヒト細胞である、請求項36記載の細胞。
【請求項41】
薬学的に許容される担体中に請求項36記載の細胞の集団を含む、薬学的組成物。
【請求項42】
請求項28~33のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドを発現するCAR T細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階
を含む、対象を処置する方法。
【請求項43】
CAR T細胞が同種異系細胞である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
CAR T細胞が自家細胞である、請求項42記載の方法。
【請求項45】
CAR T細胞が、対象のHLAに適合している、請求項42記載の方法。
【請求項46】
対象ががんを有する、請求項42記載の方法。
【請求項47】
がんが膵臓がんである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
請求項28~33のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドを発現するCAR NK細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階
を含む、対象を処置する方法。
【請求項49】
CAR NK細胞が同種異系細胞である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
CAR NK細胞が自家細胞である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
CAR NK細胞が、対象のHLAに適合している、請求項48記載の方法。
【請求項52】
対象ががんを有する、請求項48記載の方法。
【請求項53】
がんが膵臓がんである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
対象から得られたがん組織を請求項10~16のいずれか一項記載の抗体または抗体断片と接触させる段階、および
該抗体または該抗体断片の組織への結合を検出する段階
を含む、疾患を有すると患者を診断する方法であって、該抗体または該抗体断片が組織に結合する場合、患者ががんを有すると診断される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018年12月8日付で出願された米国仮出願第62/777,101号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。2019年12月6日に作成された前記のASCIIコピーは、UTFCP1429WO_ST25.txtという名称であり、サイズが2.0キロバイトである。
【0003】
1. 分野
本発明は広くは、医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、腫瘍促進がん関連線維芽細胞を標的化することにより、および/または免疫チェックポイント遮断療法と組み合わせてIL-6シグナル伝達を阻害することによりがんを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2. 関連技術の記述
線維芽細胞は、PDACの進行を調節する推定能力を有する腫瘍中に蓄積する(LeBleu & Kalluri, 2018; Kalluri, 2016)。総称して、それらはがん関連線維芽細胞(CAF)といわれる。CAFは、免疫細胞およびがん細胞との協調を介して、がんに対する宿主の応答を調整するように機能し、PDACの進行および/または処置に対する応答に影響を与えることができる。PDACにおけるCAFの生物学は進化しており、腫瘍免疫微小環境の形成でのその役割の認識が増している(Kalluri, 2016; Neesse et al., 2015; Ohlund et al., 2014)。αSMA+ CAFは、PDACの遺伝子操作マウスモデル(GEMM)において腫瘍の抑制で機能を果たし、それらは腫瘍浸潤T細胞を分極させる(Ozdemir et al., 2014)。
【0005】
最近の研究では、FAPの発現によって定義される、PDACにおけるCAFの異なるサブタイプが強調されており、これは免疫分極剤として作用し、おそらくCXCL12 (SDF1) (Feig et al., 2013)およびCCL2シグナル伝達(Yang et al., 2016)を介してPDAC腫瘍を抑制する。FAPタンパク質の喪失は、マウスでのPDAC疾患の進行を遅延させた(Lo et al., 2017); しかしながら、FAP+ CAFを標的化することで、悪液質の表現型、骨毒性、および貧血を生じさせることもある(Roberts et al., 2013; Tran et al., 2013)。したがって、CAFを標的化することによりがんを診断および処置する新しい方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
PDAC CAFの包括的かつ機能的な定義を供与するために、新規GEMM、複数のCAFバイオマーカーのマルチスペクトル画像分析、ならびに単離されたCAF集団およびヒトとマウスのPDAC腫瘍の単細胞RNA配列決定を用いてCAFの同一性および機能を確認した。CAFは、腫瘍微小環境内で機能的に不均一であり、反対の機能を有することが分かった。あるいは、αSMA+ CAF由来のインターロイキン-6 (IL-6)は、化学療法および免疫チェックポイント遮断中のT細胞を介した抗腫瘍応答の負の調節因子として同定された。
【0007】
線維芽細胞は、腫瘍抑制線維芽細胞/間葉細胞および腫瘍促進線維芽細胞/間葉細胞を含む不均一な集団である。腫瘍促進線維芽細胞に特異的に関連するいくつかの遺伝子/タンパク質は、腫瘍抑制線維芽細胞/間葉細胞には存在しない。したがって、これらの特定された遺伝子/タンパク質を特定および標的化できる治療剤は、化学療法、放射線療法、および免疫チェックポイント遮断と相乗効果を発揮することができる。さらに、自家T細胞または自家もしくは同種異系NK細胞におけるTP-CAF特異的CAR-T構築体は、免疫療法アプローチとして用いられうる。shRNA、siRNA、およびCRISPR-CAS-9標的化も利用されうる。一方の腕部を介してTP-CAFおよび他方の腕部を介してCD3を標的化する二重特異性抗体は、がんの進行を制御するためのTP-CAFの免疫標的化につながりうる。
【0008】
1つの態様において、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体を含む組成物が、本明細書において提供される。タンパク質は、
のいずれか1つでありうる。
【0009】
いくつかの局面において、抗体断片は、組換えscFv (一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、またはFv断片である。いくつかの局面において、抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体である。いくつかの局面において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの局面において、二重特異性抗体は、(1) TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質、および(2) CD3の両方に結合する。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、細胞毒性剤に結合されている。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、診断剤に結合されている。1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つの抗体または抗体断片をコードするハイブリドーマまたは操作された細胞が、本明細書において提供される。1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つの1つまたは複数の抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体を含む薬学的製剤が、本明細書において提供される。
【0010】
1つの態様において、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体の有効量を投与する段階を含む、その必要性がある患者を処置する方法が、本明細書において提供される。タンパク質は、
のいずれか1つでありうる。
【0011】
いくつかの局面において、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体は、本発明の態様のいずれか1つの抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体である。いくつかの局面において、患者はがんを有する。いくつかの局面において、がんは、FAP+ CAFを含むと決定されている。いくつかの局面において、がんは膵臓がんである。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの転移を阻害する方法である。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの成長を阻害する方法である。いくつかの局面において、本方法は、少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む。いくつかの局面において、第2の抗がん療法は、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である。
【0012】
1つの態様において、N末端からC末端に向かって、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する前記CARポリペプチドが、本明細書において提供される。タンパク質は、
のいずれか1つでありうる。
【0013】
いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する第1の抗体に由来するHCDR配列、およびTP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する第2の抗体に由来するLCDR配列を含む。いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体に由来するHCDR配列およびLCDR配列を含む。いくつかの局面において、ヒンジドメインは、CD8aヒンジドメインまたはIgG4ヒンジドメインである。いくつかの局面において、膜貫通ドメインは、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインである。いくつかの局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3z細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0014】
1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つのCARポリペプチドをコードする核酸分子が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、CARポリペプチドをコードする配列は、発現制御配列に機能的に連結されている。1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つによるCARポリペプチドまたは本発明の態様のいずれか1つの核酸を含む単離された免疫エフェクター細胞が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、核酸は細胞のゲノムに組み込まれている。いくつかの局面において、細胞はT細胞である。いくつかの局面において、細胞はNK細胞である。いくつかの局面において、細胞はヒト細胞である。1つの態様において、薬学的に許容される担体中に本発明の態様のいずれか1つによる細胞の集団を含む薬学的組成物が、本明細書において提供される。
【0015】
1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つによるCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR) T細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、CAR T細胞は同種異系細胞である。いくつかの局面において、CAR T細胞は自家細胞である。いくつかの局面において、CAR T細胞は、対象のHLAに適合している。いくつかの局面において、対象はがんを有する。いくつかの局面において、がんは膵臓がんである。
【0016】
1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つによるCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR) NK細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、CAR NK細胞は同種異系細胞である。いくつかの局面において、CAR NK細胞は自家細胞である。いくつかの局面において、CAR NK細胞は、対象のHLAに適合している。いくつかの局面において、対象はがんを有する。いくつかの局面において、がんは膵臓がんである。
【0017】
1つの態様において、対象から得られたがん組織を本発明の態様のいずれか1つの抗体または抗体断片と接触させる段階、および抗体または抗体断片の組織への結合を検出する段階を含む、患者を疾患を有すると診断する方法であって、抗体または抗体断片が組織に結合する場合、患者ががんを有すると診断される前記方法が、本明細書において提供される。
【0018】
1つの態様において、IL-6シグナル伝達を抑制する薬剤、ゲムシタビン、および免疫チェックポイント遮断療法を含む組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、疾患は、がんである。いくつかの局面において、がんは、免疫チェックポイント遮断療法に以前は応答しなかったものである。いくつかの局面において、本方法は、TP-CAFによって発現されかつTS-CAFによって発現されないタンパク質に結合する抗体もしくは抗体断片またはキメラ抗原受容体の有効量を投与する段階をさらに含む。いくつかの局面において、がんは膵臓がんである。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの転移を阻害する方法である。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの成長を阻害する方法である。いくつかの局面において、本方法は、少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む。いくつかの局面において、第2の抗がん療法は、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である。
【0019】
本明細書において用いられる場合、「本質的に含まない」とは指定された成分の観点からいうと、指定された成分がどれも、意図を持って組成物中に製剤化されていないこと、および/または単に夾雑物として、または微量に存在することを意味するために本明細書において用いられる。それゆえ、組成物の意図されない夾雑に起因する、指定された成分の総量は、0.05%よりかなり少なく、好ましくは0.01%より少ない。指定された成分の量を標準的な分析方法を用いて検出できない組成物が最も好ましい。
【0020】
本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」とは1つまたは複数を意味しうる。本明細書中の特許請求の範囲において用いられる場合、「含む(comprising)」という単語とともに用いられる時には、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は1つまたは2つ以上を意味しうる。
【0021】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけをいうか、または選択肢が互いに相容れないことをいうと明示されていない限り「および/または」を意味するために用いられるが、この開示は、選択肢だけと「および/または」をいう定義を裏付ける。本明細書において用いられる場合、「別の」とは少なくとも第2の、またはそれより多くを意味しうる。
【0022】
本出願の全体を通して、「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために利用されている装置、方法の誤差の固有の変動、または試験対象間に存在するばらつきを含むことを示すために用いられる。
【0023】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の趣旨および範囲の中でさまざまな修正および変更が当業者には明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面は本明細書の一部をなし、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において提示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによりさらに深く理解されうる。
【
図1A】PDAC腫瘍におけるCAFの不均一性。(
図1A) PKT腫瘍における代表的な間質細胞組成(n = 11マウス)。これらのデータをまた、
図4Eに示す。
【
図1B】PDAC腫瘍におけるCAFの不均一性。(
図1B) ヒトPDACにおけるαSMAおよびFAPの免疫蛍光標識による共局在の定量化(n = 2患者、標準偏差は視野全体の染色分布のばらつきを表す)。
【
図1C】PDAC腫瘍におけるCAFの不均一性。(
図1C~D) PKTの腫瘍におけるαSMA-RFP
+細胞、YFP
+がん細胞、およびFAP-APC免疫標識細胞の特性評価; LSL-YFP; αSMA-RFP GEM。n = 1マウス, 選別された細胞集団をその後、scRNA seq分析において用いた(
図2A~C)。GEM: 遺伝子操作されたマウス, Neg: 陰性, s+: 単一陽性, Vim: ビメンチン, scRNA seq: 単一細胞RNA配列決定。マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図1D】PDAC腫瘍におけるCAFの不均一性。(
図1C~D) PKTの腫瘍におけるαSMA-RFP
+細胞、YFP
+がん細胞、およびFAP-APC免疫標識細胞の特性評価; LSL-YFP; αSMA-RFP GEM。n = 1マウス, 選別された細胞集団をその後、scRNA seq分析において用いた(
図2A~C)。GEM: 遺伝子操作されたマウス, Neg: 陰性, s+: 単一陽性, Vim: ビメンチン, scRNA seq: 単一細胞RNA配列決定。マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図2A】αSMA
+およびFAP
+ CAFは、免疫様トランスクリプトミクスプロファイルを有する別個の線維芽細胞亜集団を定義する。(
図2A) αSMA
+濃縮細胞からのクラスタ(1、2、3、4および6, 左パネル)ならびにFAP
+濃縮細胞からのクラスタ(3、5、7, 左パネル)で、t-SNEプロットとして表したPKT腫瘍からのフローサイトメトリー(
図1D)により濃縮されたαSMA
+およびFAP
+細胞のscRNA seq分析。クラスタ3は、αSMA
+濃縮細胞とFAP
+濃縮細胞との間でトランスクリプトミクス同一性を共有する細胞のクラスタを含む。機能クラスタ(1~9, 右パネル)も定義し、群定義を掲載した。
【
図2B】αSMA
+およびFAP
+ CAFは、免疫様トランスクリプトミクスプロファイルを有する別個の線維芽細胞亜集団を定義する。(
図2B) 特定のαSMA
+およびFAP
+クラスタのプロファイルを比較し、各クラスタにおいて濃縮された転写産物に基づいて遺伝子ネットワークを特定した。scRNA seq: 単一細胞RNA配列決定, RBC: 赤血球, ECM: 細胞外マトリックス。
【
図3】ヒトのPDAC腫瘍のscRNA配列決定によって捕捉された細胞の不均一性。t-SNEプロットとして表した未分画ヒトPDAC腫瘍のscRNA seq分析であり、2名の患者を評価した(PDAC 1およびPDAC 2)。PDAC 2の場合、2つの異なるフローサイトメトリー細胞選別を実行し(PDAC 2A, PDAC 2B; 技術的複製)、引き続いて後続の分析のためにPDAC2に重ね合わせた。scRNA seq: 単一細胞RNA配列決定。
【
図4A】αSMA
+ 対 FAP
+ CAFの選択的枯渇によるPDACの進行に及ぼす異なる結果。(
図4A) αSMA
+またはFAP
+細胞枯渇有りおよび無しでのPKT GEMの膵臓腫瘍切片のH&E染色後の表示群の組織学的特徴を描く棒グラフ。αSMA-TKおよびFAP-TK導入遺伝子を担持するPKTマウスでのGCV投与により、枯渇を可能にした。対照は、導入遺伝子を担持し、PBSを投与した、または注射していないPKTマウス、および導入遺伝子を有さず、GCVを投与したPKTマウスを含む。FAP-TK, n= 5および対照, n = 8; αSMA-TK, n = 11および対照, n = 17。平均+/-標準誤差が描かれている。マンホイットニー検定を用いて統計的有意性を評価した。
【
図4B】αSMA
+ 対 FAP
+ CAFの選択的枯渇によるPDACの進行に及ぼす異なる結果。(
図4B) PKT腫瘍におけるαSMAおよびFAPの免疫組織化学的検査(IHC)の定量化、および表示群における関連した定量化を描く棒グラフ。FAP-TK, n = 6および対照, n = 7; αSMA-TK, n = 5および対照, n = 5マウス。マンホイットニー検定を用いて統計的有意性を評価した。
【
図4C】αSMA
+ 対 FAP
+ CAFの選択的枯渇によるPDACの進行に及ぼす異なる結果。(
図4C~D) αSMA
+ 対 FAP
+細胞枯渇を有するPKTマウスの腫瘍において共通して下方制御または上方制御された遺伝子(
図4C)および関連する経路(
図4D)の重なり。FAP-TK, n = 3および対照, n = 3; αSMA-TK, n = 3および対照, n = 3マウス。
【
図4D】αSMA
+ 対 FAP
+ CAFの選択的枯渇によるPDACの進行に及ぼす異なる結果。(
図4C~D) αSMA
+ 対 FAP
+細胞枯渇を有するPKTマウスの腫瘍において共通して下方制御または上方制御された遺伝子(
図4C)および関連する経路(
図4D)の重なり。FAP-TK, n = 3および対照, n = 3; αSMA-TK, n = 3および対照, n = 3マウス。
【
図4E】αSMA
+ 対 FAP
+ CAFの選択的枯渇によるPDACの進行に及ぼす異なる結果。(
図4E) PKT腫瘍(
図1Aにも示されている)およびαSMA
+細胞またはFAP
+細胞のいずれかが枯渇されたPKT腫瘍における間葉系細胞組成。FAP-TK, n = 7; αSMA-TK, n = 5, 対照, n = 4。対照(FAP-TK
対照, n = 7, αSMA-TK
対照, n = 4の両方について組み合わせた対照), n = 11。48.3%
*: 対応のない両側t検定によって評価された有意差。棒グラフは、αSMA間質枯渇の定量化、マンホイットニー検定を描く。平均+/-標準偏差が描かれている。GEM: 遺伝子操作されたマウス, GCV: ガンシクロビル, IRS: 免疫応答スコア。マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図5A】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5A) t-SNEプロットとして表され、IL-6を発現している細胞の数(括弧内)とそれらのパーセンテージを示すPKT腫瘍からのαSMA
+およびFAP
+濃縮細胞のscRNA seq分析。棒グラフは、scRNA seqから得られたデータをまとめたもので、IL-6転写産物がαSMA
+細胞に主に濃縮されていることを支持している。
【
図5B】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5B) 表示細胞におけるIL-6転写産物のqPCR定量化。3匹の異なるマウスから細胞を得た。対応のない両側t検定を用いて有意差を評価した。
【
図5C】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5C) 表示のGEMにおける膵臓腫瘍のH&E切片の腫瘍組織学的表現型の定量化。各カラム内で、セクションは上から下に、壊死、不良、良好、PanIN、および正常を表す。二元配置ANOVA。
【
図5D】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5D) 表示のGEMの経時的な生存。対数順位検定。
図6Cを参照されたい。
【
図5E】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5E) 腫瘍におけるIL-6転写産物のqPCR定量化, 群あたりn = 4のマウス。左から右に、バーはKPPF、KPPF;IL-6
smaKO、およびKPPF;IL-6
-/-を表す。対応のない両側t検定を用いて有意差を評価した。
【
図5F】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5F) 表示のGEMの経時的な生存。y軸の50%生存マークで左から右に、線はKPPF Gem、KPPF Gem IL-6、KPPF;IL-6
smaKO、およびKPPF;IL-6
-/-を表す。対数順位検定。
図6Cを参照されたい。
【
図5G】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5G) 腫瘍におけるIL-6およびActa2 (αSMA)転写産物のqPCR定量化, 群あたりn = 3のマウス。対応のない両側t検定を用いて有意差を評価した。
【
図5H】αSMA
+ CAF由来のIL-6は、ゲムシタビンに対するがん細胞の耐性を付与する。(
図5H) 表示のGEMにおけるリン酸化Stat3 (ホスホ-Stat3)の免疫組織化学的検査後の視野あたりのホスホ-Stat3
+細胞の数の定量分析。バーは左から右に、KPPF、KPPF;IL-6
smaKO、KPPF;IL-6
-/-、KPPF Gem、およびKPPF;IL-6
smaKO Gemを表す。群あたりn = 5のマウス, 一元配置ANOVA。平均+/-標準誤差が示されている。
* P < 0.05,
** P < 0.01,
*** P < 0.005,
**** P < 0.001, ns: 有意ではない。scRNAseq: 単一細胞RNA配列決定, GEM: 遺伝子操作されたマウス, Gem: ゲムシタビン, qPCR: 定量PCR, nd: 検出されない。マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図6A】腫瘍内T細胞の間質IL-6分極の利点が、ゲムシタビンと同時に実現される。(
図6A) 表示のGEMおよび処置群における腫瘍免疫浸潤画分。データは、平均の、対応のない片側t検定の平均+/-標準誤差として提示されている。
【
図6B】腫瘍内T細胞の間質IL-6分極の利点が、ゲムシタビンと同時に実現される。(
図6B) 表示の実験群におけるマウスの生存。y軸の25%生存マークで、左から右に、線はKPPF Gem、KPPF Gem CP、KPPF;IL-6
-/- Gem、およびKPPF;IL-6
-/- Gem CPを表す。対数順位検定,
図6Cを参照されたい。
【
図6C】腫瘍内T細胞の間質IL-6分極の利点が、ゲムシタビンと同時に実現される。(
図6C) GEMおよび処置群の概要、ならびに選択群におけるマウスの生存分析。対数順位検定。
【
図6D】腫瘍内T細胞の間質IL-6分極の利点が、ゲムシタビンと同時に実現される。(
図6D) 高(IL-6 HI)および低(IL-6 LO) IL-6転写産物レベルを有する腫瘍におけるFOXP3、GADH、およびACTA2 (αSMA)転写産物レベルを評価するTCGAデータセット分析。対応のない両側t検定。
* P < 0.05,
*** P < 0.005, ns: 有意ではない。Gem: ゲムシタビン, aIL-6: 抗IL-6抗体, CP: 抗CTLA-4および抗PD1抗体。マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図7A】
図1E~Fに示されるゲートを定義するために用いられるゲーティング戦略および対照。腫瘍細胞ゲーティング戦略およびFAPアイソタイプ対照(
図7A)。
【
図7B】
図1E~Fに示されるゲートを定義するために用いられるゲーティング戦略および対照。内因性蛍光(αSMA-RFPおよびYFP)ゲーティングの陰性対照として用いた未染色の脾臓細胞(
図7B)。
【
図8A】αSMA細胞枯渇有りおよび無しでのPKPマウスの生存曲線(PKP対照はαSMA-TK導入遺伝子がなくGCVが投与されたPKPマウスである)。矢印は、GCV処置が開始された時点を示す。約75日の時点で0%の生存率に低下する線は、PKP αSMAが枯渇したことを表す。対数順位検定。
【
図8B】αSMA
+細胞枯渇有りおよび無し、年齢適合またはエンドポイントでのPKP GEMの膵臓腫瘍切片のH&E染色に基づく表示群の組織学的特徴を描く棒グラフ。対照は、GCVなしで導入遺伝子を担持するPKPマウスまたは/およびGCVを投与された導入遺伝子なしのPKTマウスを含む。年齢適合対照, n = 9; 対照瀕死(実験的エンドポイント), n = 11, αSMA-TK, n = 12のマウス。二元配置ANOVAを用いて統計的有意性を評価した。
【
図8C】体重に対する腫瘍重量のパーセンテージとして表される腫瘍負荷。対照, n = 8; FAP-TK, n = 9のマウス。対応のない両側t検定。
【
図8D】表示マウスの腫瘍におけるFAP
+細胞のフローサイトメトリー評価およびグラフ表示(群あたり1匹のマウス)。
【
図8E】腫瘍の組織病理学的スコア。対照, n = 4; FAP-TK, n = 4のマウス。平均+/-標準偏差, マンホイットニー検定。特に明記しない限り、データは平均+/-標準誤差として提示される。
* P < 0.05,
*** P < 0.005,
****, P < 0.001, ns: 有意ではない。GEM: 遺伝子操作されたマウス, GCV: ガンシクロビル, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図9A】GCVを与えられた非腫瘍担持マウスにおける経時的な体重測定。WT (ボトムライン): 野生型同腹仔対照, n = 3; FAP-TK (トップライン), n = 4のマウス。
【
図9B】エンドポイントでの膵臓、脾臓、大腿四頭筋(QM)、および腓腹筋(gastroecmius muscle; GM)重量。WT: 野生型同腹仔対照, n = 3; FAP-TK, n = 4のマウス。
【
図9C】PKTマウスの脾臓におけるFAP
+細胞のフローサイトメトリー。
【
図9D】非腫瘍担持マウスの骨髄におけるαSMA-RFP
+ (n = 2のマウス)およびFAP免疫標識細胞(n = 3のマウス)のフローサイトメトリーを用いた評価。
【
図9E】非腫瘍担持対照マウス(n = 6)と比較して腫瘍担持マウス(PKT, n = 3)の骨髄におけるFAP
+細胞の頻度の増加。平均+/-標準誤差が描かれている, 対応のない両側t検定,
* P < 0.05, ns: 有意ではない。GCV: ガンシクロビル, マウスの命名については、表1を参照されたい。
【
図10A】記載された時点での、KPPF GEMからの代表的なH&E染色CK19およびαSMA免疫標識膵臓、肺、および肝臓切片。スケールバー: 100 μm。
【
図10B】記載された時点での、KPPC GEMからの代表的なH&E染色膵臓切片。スケールバー: 100 μm。
【
図10C】KPPF;αSMA-Cre;R26
Confetti GEMの膵臓腫瘍におけるGFP、RFP、YFPおよびCFPならびに核の代表的な免疫蛍光捕捉。スケールバー: 20 μm。GEM: 遺伝子操作されたマウス, wks: 週, ADM: 腺房-導管異形成, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図11A】KPPF;αSMA-Cre;R26
Dual GEMから採取された線維芽細胞および腫瘍由来がん細胞の概略図。
【
図11B】qPCRによる掲載されたGEMの腫瘍におけるIL-1βの発現。左から右に、バーはKPPF、KPPF;IL-6
smaKO、およびKPPF;IL-6
-/-を表す。n = 群あたりのマウス。
【
図11C】掲載された臓器およびGEMから精製されたDNAのPCR産物の電気泳動移動。産物の検出により、予想されるレーンでの遺伝子組換えによるIL-6の特異的欠失が確認される。
【
図11D】掲載された臓器およびGEMから精製されたDNAのPCR産物の電気泳動移動。産物の検出により、予想されるレーンでの遺伝子組換えによるIL-6の特異的欠失が確認される。
【
図11E】掲載された臓器およびGEMから精製されたDNAのPCR産物の電気泳動移動。産物の検出により、予想されるレーンでの遺伝子組換えによるIL-6の特異的欠失が確認される。
【
図11F】KPPF;αSMA-Cre;R26
Dual GEMからの腫瘍におけるFAPおよびαSMAに対する免疫標識の共局在の定量化。n = 4のマウス。平均+/-標準誤差として提示されている, ns: 有意ではない, GEM: 遺伝子操作されたマウス, qPCR: 定量PCR, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図12A】掲載されたGEMにおける腫瘍負荷。左から右に、バーはKPPF、KPPF;IL-6
smaKO、およびKPPF;IL-6
-/-を表す。
【
図12C】掲載されたGEMからのH&E染色膵臓切片の組織病理学的特徴の定量化。各カラム内で、セクションは上から下に、PanINおよび正常を表す。GEM: 遺伝子操作されたマウス, ns: 有意ではない, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図13A】疾患進行の掲載時点でのKPFマウスの代表的なH&E染色およびCK19免疫標識された膵臓、ならびに肝臓および肺転移のH&E染色切片(黒矢印)。スケールバー: 100 μm。
【
図13B】掲載されたGEMの膵臓の代表的なH&E染色切片。スケールバー: 100 μm。
【
図13C】掲載されたGEMの生存,
図6Cを参照されたい。400日弱でx軸と交差する線は、KPFを表す。対数順位検定。GEM: 遺伝子操作されたマウス, ns: 有意ではない, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図14A】掲載されたGEMの生存,
図6Cを参照されたい。対数順位検定。
【
図14B】瀕死エンドポイントでの掲載されたGEMの膵臓のH&E染色切片の組織病理学的特徴の定量化。各カラム内で、セクションは上から下に、壊死、不良、良好、PanIN、および正常を表す。KPPF Gem, n = 6; KPPF; IL-6
smaKO Gem, n = 5のマウス。二元配置ANOVA。
【
図14C】表示のGEMにおける腫瘍負荷。KPPF Gem (左カラム), n = 8; KPPF; IL-6
smaKO Gem (右カラム), n = 11のマウス。対応のない両側t検定。
【
図14D】掲載されたGEMの膵臓のαSMA免疫標識切片からのαSMA
+面積パーセントの定量化。群あたりn = 5のマウス, 一元配置ANOVA。
* P < 0.05,
** P < 0.01,
***, P < 0.005,
****, P < 0.001, ns: 有意ではない。データは、平均+/-標準誤差として提示されている。GEM: 遺伝子操作されたマウス, Gem: ゲムシタビン, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図15A】ホスホ-ERK1/2およびホスホ-Aktについて免疫標識された、掲載されたGEMからの膵臓切片の染色面積パーセントの定量化。群あたりn = 5のマウス, 一元配置ANOVA。
【
図15B】CD31、Ki67、切断型カスパーゼ3について免疫標識し、MTSについて染色した、掲載されたGEMからの膵臓切片の染色面積パーセントの定量化。群あたりn = 5のマウス, 一元配置ANOVA。
* P < 0.05,
** P < 0.01,
***, P < 0.005,
****, P < 0.001, ns: 有意ではない。GEM: 遺伝子操作されたマウス, Gem: ゲムシタビン, マウスGEMの命名については、表1を参照されたい。
【
図16A】免疫タイピング分析に向けた腫瘍のフローサイトメトリー分析のためのゲーティング戦略。
【
図16B】免疫タイピング分析に向けた脾臓のフローサイトメトリー分析のためのゲーティング戦略。
【
図16C】T細胞パネルに対しての腫瘍のフローサイトメトリー分析のためのゲーティング戦略。
【
図16D】骨髄性細胞パネルに対しての腫瘍のフローサイトメトリー分析のためのゲーティング戦略。
【
図17A】腫瘍を評価する、表示のGEMにおける掲載された免疫細胞に対しての追加の免疫タイピング結果。
【
図17B】脾臓を評価する、表示のGEMにおける掲載された免疫細胞に対しての追加の免疫タイピング結果。
【
図17C】末梢血を評価する、表示のGEMにおける掲載された免疫細胞に対しての追加の免疫タイピング結果。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
膵管腺がん(PDAC)の線維形成反応は、免疫細胞および線維芽細胞の有意な蓄積を伴う。線維芽細胞は間葉細胞であり、これは組織の修復および再生に寄与し、がんに対する宿主応答の一部として腫瘍に蓄積する。そのようながん関連線維芽細胞(CAF)の起源および機能的多様性は、ほとんど不明のままである。αSMA+細胞は、腫瘍促進活性(TP-CAF)を示すFAP+ CAFとは対照的に、腫瘍抑制特性(TS-CAF)を有するPDACにおける優位なCAF集団である。TS-CAFは主に細胞外マトリックス(ECM)産生を調節し、細胞-ECM接着を促進し、適応免疫を調節するが、TP-CAFは、炎症誘発性のケモカイン分泌表現型に偏った系統を示し、TP-CAFを抑制するための診断および治療の標的として働きうるユニークな遺伝子の発現を示す。さらに、CAFは、リンパ球および骨髄細胞の系統に特徴的な異なる遺伝子発現プロファイルを共有する。αSMA+ CAF由来のインターロイキン-6 (IL-6)は、PDACの進行に影響を与えないが、化学療法抵抗性に寄与し、免疫チェックポイント遮断療法の可能性を弱める。αSMA+ CAFからのIL-6の特異的欠失は、化学療法およびチェックポイント遮断療法に対する感受性を増強した。まとめると、これらの研究は有意に治療に関連して、PDACの進行中に機能的に不均一な線維芽細胞の複雑なネットワークを特定する。したがって、腫瘍成長を制御するためのCAF標的が、本明細書において提供される。
【0026】
遺伝的マウスモデル用いた結果から、PDAC CAFが異種集団であり、PDACにおける優位な集団としてαSMA+ CAFが出現しているものと特定される。これらの研究は、研究を、ヒトPDAC生物学にさらに関連性のあるものにするための努力として、細胞培養システムの使用を完全に避けて、この結論に到達した。αSMA+ CAFおよびFAP+ CAFは、PDACの進行において異なる機能を有する(Feig et al., 2013; Lo et al., 2017; Kraman et al., 2010)。興味深いことに、FAP+ CAFは、αSMA+ CAFを生じさせうる骨髄由来の前駆細胞に当たる。驚くべきことに、scRNA-Seqにより定義される、αSMA+ CAFおよびFAP+ CAFの同一性は、異なる免疫細胞様トランスクリプトームを反映している。αSMA+ CAFは、コラーゲン産生かつリモデリング細胞、ならびにマクロファージ様、およびT細胞様のトランスクリプトームを呈した細胞のサブセットを含む。対照的に、FAP+ CAFは、好中球様およびB細胞様トランスクリプトームを有する細胞のサブセットを含んでいた。αSMA+ CAFおよびFAP+ CAFのサブセットは、単球および樹状細胞様のトランスクリプトームを示した。これらの知見は、間葉細胞系統と造血細胞系統との間の重複の可能性を浮き彫りにしているため、興味深い。PDAC腫瘍微小環境における豊富なサイトカイン環境は、免疫細胞の動員および表現型の成熟を調節し、この環境へのCAFの曝露は、免疫細胞に関連する転写産物の誘導をもたらしうる。ある種のCAFは、腫瘍内免疫応答を操作するためのフィードフォワードシグナル伝達ループを促進しうる可能性がある。特定のCAF集団が存在しない場合、ある種の免疫細胞の分化/活性化がPDACにおいて妨害または制限されうる。あるいは、CAFは腫瘍内で免疫細胞機能を実行しうる。
【0027】
αSMA+ CAF由来のIL-6は化学療法抵抗性を付与し、腫瘍微小環境におけるT細胞を負に調節する。この点に関して、オルガノイドに基づく研究では、CAFのサブセットを浮き彫りにして、IL-6産生を含めた免疫調節表現型を表した(Ohlund et al., 2017)。要するに全体として、αSMA+ CAFはPDACの進行において腫瘍を抑制する(腫瘍抑制性またはTS-CAF)として出現したが、ゲムシタビン療法ストレスの状況では、がん細胞はαSMA+ CAFにより産生されたIL-6を「利用して」その生存を促進する。αSMA+ CAFによって産生されるIL-6は、非処置条件では自己保存を目的としているが、ゲムシタビン処置への耐性との関連で実現される生存促進シグナル伝達経路の誘導のためにがん細胞によっても利用されるものと考えられる。以前の研究では、IL-6シグナル伝達が化学療法との関連でJAK/STATシグナル伝達経路を介してがん細胞に生存促進シグナルを付与することが報告されている(Wormann et al., 2016; Nagathihalli et al., 2016)。αSMA+ CAFが産生するIL-6の欠失により、PDAC免疫微小環境の有意な分極が観察された; しかしながら、TeffおよびTreg頻度のそのような変化は、PDACの進行に影響を与えなかった。免疫チェックポイント遮断療法は、ゲムシタビンと組み合わせた場合には効果がなかった; しかしながら、そのような組み合わせの利点は、IL-6シグナル伝達の抑制と組み合わせた場合に実現され、IL-6がPDACにおける免疫チェックポイント遮断療法の重要な抑制因子であることを示唆していた。IL-6の抑制は、エフェクターT細胞の出現に有利に働く可能性が高く、細胞死およびおそらくゲムシタビンによって誘導される新抗原生成と組み合わされた場合、免疫チェックポイント遮断の有効性を増強した可能性がある。
【0028】
I. 抗体およびその産生
「単離された抗体」は、その天然の環境の構成成分から分離および/または回収されたものである。その天然の環境の夾雑物の構成成分は、抗体の診断的または治療的な使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含みうる。特定の態様において、抗体は、(1) ローリー法により決定された場合に抗体の95重量%より高くまで、最も好ましくは99重量%より高くまで; (2) スピンカップ配列決定装置を用いることによってN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るために十分な度合まで; または(3) クマシーブルーもしくは銀染色を用いた還元もしくは非還元条件下で、SDS-PAGEにより均一になるまで精製される。単離された抗体は組換え細胞内における原位置の(in situ)抗体を含む。というのは、当該抗体の天然環境の少なくとも1つの構成成分が存在しないためである。しかし、通常は、単離された抗体は、少なくとも1つの精製段階によって調製される。
【0029】
基本的な4本鎖の抗体単位は、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖からなるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、5個の基本的なヘテロ四量体単位およびJ鎖と呼ばれるさらなるポリペプチドからなり、それゆえ10個の抗原結合部位を含み、一方で、分泌型IgA抗体は重合して、2~5個の基本的な4本鎖の単位およびJ鎖を含む多価の集合体を形成することができる。IgGの場合、4本鎖の単位は、一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖と連結されている一方で、2本のH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結されている。また、各HおよびL鎖は、一定間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)を有し、次いで、αおよびγ鎖の各々について3つの定常ドメイン(CH)、μおよびアイソタイプには4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)、次いでその他方の末端に定常ドメイン(CL)を有する。VLはVHとアライメントされており、CLは重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とアライメントされている。特定のアミノ酸残基が軽鎖および重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。VHおよびVLが一緒になって対合することで、単一の抗原結合部位が形成される。異なる抗体クラスの構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow (eds.), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994, page 71, and Chapter 6を参照されたい。
【0030】
任意の脊椎動物種由来のL鎖は、その定常ドメイン(CL)のアミノ酸配列に応じて、κおよびλと呼ばれる2つの明確に異なる型のうちの一方に割り当てることができる。その重鎖定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンをさまざまなクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。5つの免疫グロブリンのクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる重鎖を有する。γおよびαクラスは、CH配列および機能の比較的軽微な差異に基づいてサブクラスへとさらに分割され、ヒトは以下のサブクラスを発現する: IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2。
【0031】
「可変」という用語は、Vドメインのある種のセグメントでは抗体間で配列が大規模に異なることをいう。Vドメインは抗原結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を定義する。しかし、可変性は、可変領域の110個のアミノ酸の範囲全体にわたって均等に分布しているわけではない。そうではなく、V領域は、各9~12個のアミノ酸の長さの「超可変領域」と呼ばれる可変性が非常に高いより短い領域によって隔てられている15~30個のアミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変のストレッチからなる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、各々、大体はβ-シートの立体配置をとっている4つのFRを含み、これらは、β-シート構造を連結し、場合によってはその一部を形成するループを形成する、3つの超可変領域により連結されている。各鎖中の超可変領域は、FRによって非常に近接して形を保ち、他の鎖からの超可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)を参照のこと)。定常ドメインは、抗体を抗原に結合させることに直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、抗体依存性好中球貪食(ADNP)、および抗体依存性補体沈着(ADCD)における抗体の関与のような、さまざまなエフェクター機能を示す。
【0032】
本明細書において用いられる「超可変領域」という用語は、抗原結合か関与する抗体のアミノ酸残基をいう。超可変領域は一般に、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、Kabat付番システムにしたがって付番された場合にVL中のおよそ残基番号24~34 (L1)、50~56 (L2)および89~97 (L3)付近、ならびにVH中のおよそ残基番号31~35 (H1)、50~65 (H2)および95~102 (H3)付近; Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)); ならびに/または「超可変ループ」からの残基(例えば、Chothia付番システムにしたがって付番された場合にVL中の残基番号24~34 (L1)、50~56 (L2)および89~97 (L3)、ならびにVH中の残基番号26~32 (H1)、52~56 (H2)および95~101 (H3); Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)); ならびに/または「超可変ループ」/CDRからの残基(例えば、IMGT付番システムにしたがって付番された場合にVL中の残基番号27~38 (L1)、56~65 (L2)および105~120 (L3)、ならびにVH中の残基番号27~38 (H1)、56~65 (H2) および105~120 (H3); Lefranc, M. P. et al. Nucl. Acids Res. 27:209-212 (1999), Ruiz, M. et al. Nucl. Acids Res. 28:219-221 (2000))を含む。任意で、抗体は、AHo; Honneger, A. and Plunkthun, A. J. Mol. Biol. 309:657-670 (2001))にしたがって付番された場合に以下の点、VL中の28、36 (L1)、63、74~75 (L2)および123 (L3)、ならびにVsubH中の28、36 (H1)、63、74~75 (H2)および123 (H3)の1つまたは複数の位置に対称的な挿入を有していてもよい。
【0033】
「生殖系列核酸残基」は、定常または可変領域をコードしている生殖系列遺伝子中で天然に存在する核酸残基を意味する。「生殖系列遺伝子」は、生殖細胞(すなわち、卵子となる運命の細胞または精子)中に見つかるDNAである。「生殖系列変異」は、生殖細胞または単細胞段階の接合体に起こった特定のDNAの遺伝性変化をいい、子孫に伝わる際、そのような変異は体内の全細胞に取り込まれる。生殖系列変異は、単一の体細胞が獲得する体細胞変異とは対照的である。一部の例では、可変領域をコードしている生殖系列DNA配列中のヌクレオチドが変異しており(すなわち体細胞変異)、異なるヌクレオチドで置き換えられている。
【0034】
本明細書において用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体をいい、すなわち、集団を構成する個々の抗体は少量存在しうる天然の変異の可能性以外は同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対するものであり、特異性が高い。さらに、さまざまな決定基(エピトープ)に対するものであるさまざまな抗体が含まれるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、他の抗体が夾雑していない状態で合成されうるという点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、任意の特定の方法による抗体の産生を要すると解釈されるべきでない。例えば、本開示において有用なモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって最初に記述されたハイブリドーマ方法論によって調製されうるか、あるいは細菌、真核生物の動物もしくは植物細胞において組換えDNA法を用いて(例えば、米国特許第4,816,567号参照)、抗原特異的B細胞、感染もしくは免疫付与に応答する抗原特異的形質芽細胞の単細胞選別、またはバルク選別された抗原特異的コレクションにおける単一細胞からの連結された重鎖および軽鎖の捕捉後に作出されうる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記述されている技法を用いてファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。
【0035】
B. 一般的方法
TP-CAFによって高度に発現されるタンパク質に結合するモノクローナル抗体にはいくつかの用途があることが理解されよう。これらには、がんの検出および診断、ならびにがんの処置に用いるための診断キットの作出が含まれる。これらの状況において、そのような抗体を診断剤もしくは治療剤に関連付けるか、それらを捕捉剤もしくは競合アッセイにおける競合物として用いるか、またはさらなる薬剤を付着させずにそれらを個別に用いることが可能である。抗体は、以下でさらに論じられるように、変異または改変されうる。抗体を調製および特徴付けるための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; 米国特許第4,196,265号を参照のこと)。
【0036】
モノクローナル抗体(MAb)を作出するための方法は一般に、ポリクローナル抗体を調製するための方針と同じ方針に沿って始まる。これらの両方法の第1段階は、適切な宿主の免疫付与、あるいは以前の自然感染または認可されたワクチンもしくは実験的ワクチンによるワクチン接種により免疫のある対象の特定である。当技術分野において周知のように、免疫付与のための所与の組成物はその免疫原性が異なりうる。それゆえ、ペプチドまたはポリペプチド免疫原を担体にカップリングすることによって達成されうるように、宿主免疫系を追加免疫することが必要な場合が多い。例示的かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンのような他のアルブミンも担体として用いることができる。ポリペプチドを担体タンパク質に結合させるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびbis-ビアゾ化(biazotized)ベンジジンを含む。当技術分野において同様に周知のように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激物質の使用によって増強することができる。動物における例示的かつ好ましいアジュバントは、完全フロイントアジュバント(死滅化された結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する免疫応答の非特異的刺激物質)、不完全フロイントアジュバントおよび水酸化アルミニウムアジュバントを含み、ヒトでは、ミョウバン、CpG、MFP59および免疫刺激分子の組み合わせ(AS01またはAS03のような「アジュバントシステム(Adjuvant Systems)」)を含む。ナノ粒子ワクチン、または物理的送達システム中で(例えば脂質ナノ粒子もしくは金微粒子銃ビーズ上で) DNAもしくはRNA遺伝子として送達され、針、遺伝子銃、経皮的エレクトロポレーション装置で送達される、遺伝子によりコードされる抗原を含めて、がん特異的B細胞を誘導するためのさらなる実験的接種形態が可能である。抗原遺伝子はまた、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、またはアルファウイルスレプリコンのような複製能のあるまたは欠陥のあるウイルスベクター、あるいはウイルス様粒子によってコードされるように運搬することができる。
【0037】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質、および免疫付与に用いられる動物によって変わる。免疫原を投与するために種々の経路(皮下、筋肉内、皮内、静脈内および腹腔内)を用いることができる。ポリクローナル抗体の産生は、免疫された動物の血液を、免疫付与後のさまざまな時点でサンプリングすることによってモニタリングされてもよい。第2の追加免疫注射もなされてもよい。適当な力価に達するまで、追加免疫および力価測定のプロセスが繰り返される。望ましいレベルの免疫原性が得られたら、免疫された動物を採血し、血清を単離および貯蔵することができ、および/またはその動物を用いてMAbを作出することができる。
【0038】
免疫付与の後に、MAb作出プロトコルで用いるために、抗体を産生する能力を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)が選択される。これらの細胞は、生検された脾臓、リンパ節、扁桃腺もしくはアデノイド、骨髄吸引物もしくは生検、肺もしくは消化管のような粘膜器官からの組織生検から、または循環血液から得られうる。次いで、免疫された動物または免疫されたヒトに由来する抗体産生Bリンパ球が、不死骨髄腫細胞、一般的には、免疫された動物と同じ種の不死骨髄腫細胞、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞の不死骨髄腫細胞の細胞と融合される。ハイブリドーマを産生する融合手順で用いるのに適した骨髄腫細胞株は好ましくは、抗体を産生せず、高い融合効率、および所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、ある種の選択培地における増殖を不可能にする酵素欠損を有する。当業者に公知であるように、いくつかの骨髄腫細胞のいずれか1つが用いられうる。HMMA2.5細胞またはMFP-2細胞は、そのような細胞の特に有用な例である。
【0039】
抗体産生脾臓細胞またはリンパ節細胞および骨髄腫細胞のハイブリッドを作出するための方法は、通常、体細胞と骨髄腫細胞とを2:1の比率で混合することを含むが、その比率は、細胞膜の融合を促進する薬剤(化学的または電気的)の存在下において、それぞれ、約20:1から約1:1まで変化しうる。場合によっては、初期段階としてエプスタインバーウイルス(EBV)でヒトB細胞を形質転換すると、B細胞のサイズが大きくなり、比較的大きなサイズの骨髄腫細胞との融合が増強される。EBVによる形質転換効率は、形質転換培地中でCpGおよびChk2阻害剤薬を用いることによって増強される。あるいは、ヒトB細胞はIL-21およびTNFスーパーファミリーのII型メンバーであるヒトB細胞活性化因子(BAFF)のような、さらなる可溶性因子を含有する培地中でCD40リガンド(CD154)を発現するトランスフェクト細胞株と共培養することにより活性化することができる。センダイウイルスを用いた融合法、および37% (v/v) PEGのような、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた融合法が記述されている。電気的に誘発される融合法の使用も適切であり、より良い効率のためのプロセスがある。融合手順は通常、約1×10-6から1×10-8の低周波数で実行可能なハイブリッドを作出するが、最適化された手順を用いると、200分の1に近い融合効率を達成することができる。しかしながら、融合の効率が比較的低いことは問題にならない。というのは、生存可能な融合ハイブリッドは選択培地中で培養することにより、親の注入細胞(特に、通常は無期限に分裂し続ける注入骨髄腫細胞)から分化するからである。選択培地は一般に、組織培地中でのヌクレオチドのデノボ合成を遮断する薬剤を含有する培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートはプリンとピリミジンの両方のデノボ合成を遮断するが、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキサートが用いられる場合、培地にはヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンが補充される(HAT培地)。アザセリンが用いられる場合、培地にはヒポキサンチンが補充される。骨髄腫に融合されていないEBV形質転換株を排除するために、B細胞源がEBV形質転換ヒトB細胞株である場合、ウアバインが添加される。
【0040】
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを有するHATである。HAT培地中では、ヌクレオチドサルベージ経路を動かすことができる細胞しか生き残ることができない。骨髄腫細胞はサルベージ経路の重要な酵素、例えば、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に欠損があり、生き残ることができない。B細胞は、この経路を動かすことができるが、培養状態では寿命は限られており、一般的に、約2週間以内に死滅する。それゆえ、選択培地中で生き残ることができる唯一の細胞は、骨髄腫細胞とB細胞から形成されたハイブリッドである。融合に用いられるB細胞源が、本明細書のように、EBV形質転換B細胞の株である場合、EBV形質転換B細胞が薬物による死滅に対して感受性があるために、ハイブリッドの薬物選択にウアバインも用いられうる。これに対して、用いられる骨髄腫パートナーはウアバイン耐性があることで選択される。
【0041】
培養するとハイブリドーマ集団が得られ、この集団から特定のハイブリドーマが選択される。典型的に、ハイブリドーマの選択はマイクロタイタープレート内での単一クローン希釈によって細胞を培養し、その後に、望ましい反応性について個々のクローン上清を(約2~3週間後に)試験することによって行われる。このアッセイは、感度が高く、簡単で、迅速でなければならず、例えば、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなどがある。次いで、選択されたハイブリドーマは連続希釈されるか、フローサイトメトリー選別によって単一細胞選別され、個々の抗体産生細胞株にクローニングされる。次いで、クローンはmAbを供給するように無期限に増殖することができる。これらの細胞株は2つの基本的なやり方でMAb産生に利用されうる。ハイブリドーマ試料は、動物(例えば、マウス)に(多くの場合、腹腔内に)注射することができる。任意で、注射前に、動物は、炭化水素、特に、油、例えば、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)を用いて初回刺激されてもよい。このようにヒトハイブリドーマが用いられる場合、腫瘍拒絶反応を阻止するために、免疫不全マウス、例えば、SCIDマウスに注射することが最適である。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生する。次いで、血清または腹水液などの動物の体液を軽くたたいて、高濃度のMAbを得ることができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、この場合、MAbは天然で培養培地に分泌され、培養培地から高濃度で容易に入手することができる。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで用いて、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。この細胞株は、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために無血清培地中で増殖するように適合させることができる。
【0042】
どちらの手段で産生されたMAbも、所望であれば、ろ過、遠心分離およびさまざまなクロマトグラフィー方法、例えば、FPLCまたはアフィニティクロマトグラフィーを用いてさらに精製されうる。本開示のモノクローナル抗体の断片は、ペプシンもしくはパパインのような、酵素を用いた消化を含む方法によって、および/または化学的還元でジスルフィド結合を切断することによって精製モノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、本開示に包含されるモノクローナル抗体断片は自動ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0043】
モノクローナル抗体を作出するために分子クローニングアプローチが用いられうることも企図される。関心対象の抗原で標識された単一のB細胞を、常磁性ビーズ選択またはフローサイトメトリーによる選別を用いて物理的に選別することができ、次に単一細胞からRNAを単離することができ、RT-PCRによって抗体遺伝子を増幅することができる。あるいは、抗原特異的なバルク選別された細胞集団を微小胞に分離し、一致した重鎖および軽鎖可変遺伝子を、重鎖および軽鎖アンプリコンの物理的連結、または小胞からの重鎖および軽鎖遺伝子の一般的なバーコーディングを用いて単一細胞から回収することができる。単一細胞からの一致した重鎖および軽鎖遺伝子はまた、RT-PCRプライマーを担持する細胞透過性ナノ粒子によりおよび細胞ごとに1つのバーコードで転写物を標識するためのバーコードにより細胞を処理することによって抗原特異的B細胞の集団からも得ることができる。抗体可変遺伝子はまた、ハイブリドーマ株のRNA抽出によって単離することができ、抗体遺伝子をRT-PCRによって得ることができ、免疫グロブリン発現ベクターにクローニングすることができる。あるいは、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリを、細胞株から単離されたRNAから調製し、適切な抗体を発現するファージミドを、ウイルス抗原を用いてパニングすることにより選択される。従来のハイブリドーマ技法より優れたこのアプローチの利点は、約104倍の抗体を1回で産生およびスクリーニングすることができること、およびH鎖とL鎖の組み合わせによって新しい特異性が生み出され、それにより適切な抗体を見出す可能性がさらに高まることである。
【0044】
本開示において有用な抗体の産生を教示する、参照により各々が本明細書に組み入れられる、他の米国特許には、コンビナトリアルアプローチを用いたキメラ抗体の産生について記述する米国特許第5,565,332号; 組換え免疫グロブリン調製物について記述する米国特許第4,816,567号; および抗体-治療剤結合体について記述する米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0045】
C. 本開示の抗体
本開示による抗体は、まず第一に、その結合特異性によって定義されうる。当業者は、当業者に周知の技法を用いて所与の抗体の結合特異性/親和性を評価することにより、そのような抗体が本請求項の範囲内にあるかどうかを決定することができる。例えば、所与の抗体が結合するエピトープは、抗原分子内に位置する3個またはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個)のアミノ酸の単一の連続配列(例えば、ドメイン中の線形エピトープ)からなりうる。あるいは、エピトープは、抗原分子内に位置する複数の非隣接アミノ酸(またはアミノ酸配列) (例えば、立体配座エピトープ)からなりうる。
【0046】
当業者に公知のさまざまな技法を用いて、抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技法としては、例えば、Antibodies, Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)に記述されているものなどの、日常の交差ブロッキングアッセイが挙げられる。交差ブロッキングは、ELISA、生体層干渉法、または表面プラズモン共鳴のような、さまざまな結合アッセイで測定することができる。他の方法には、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke (2004) Methods Mol. Biol. 248: 443-63)、ペプチド切断分析、単一粒子再構築を用いた高分解能電子顕微鏡法、cryoEM、または断層撮影、結晶学的研究およびNMR分析が含まれる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出および抗原の化学修飾のような方法を利用することができる(Tomer (2000) Prot. Sci. 9: 487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いることができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般論として、水素/重水素交換法では、関心対象のタンパク質を重水素標識した後に、抗体を重水素標識タンパク質に結合させることを伴う。次に、タンパク質/抗体複合体が水に移入し、抗体複合体によって保護されているアミノ酸内の交換可能なプロトンが、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素から水素への逆交換を起こす。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は重水素を保持し、それゆえ、界面に含まれないアミノ酸と比較して比較的高い質量を示しうる。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断および質量分析に供され、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基が明らかになる。例えば、Ehring (1999) Analytical Biochemistry 267: 252-259; Engen and Smith (2001) Anal. Chem. 73: 256A-265Aを参照されたい。
【0047】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位をいう。B細胞エピトープは、タンパク質の三次折畳みによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両方から形成することができる。隣接するアミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒への曝露時に保持されるが、三次折畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、より一般的には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を独特の空間立体配座で含む。
【0048】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても知られる修飾支援プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面への各抗体の結合プロファイルの類似性にしたがって同じ抗原に対する多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(参照によりその全体が本明細書に具体的に組み入れられる、US 2004/0101920を参照のこと)。各分類は、別の分類によって表されるエピトープとは明らかに異なるか、部分的に重複している固有のエピトープを反映しうる。この技術により遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングが可能になるため、遺伝的に異なる抗体に特性評価の焦点を当てることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する稀有なハイブリドーマクローンの同定を容易にしうる。本開示の抗体を異なるエピトープに結合する抗体の群に分類するために、MAPが用いられうる。
【0049】
本開示は、同じエピトープまたはエピトープの一部分に結合しうる抗体を含む。同様に、本開示はまた、標的またはその断片への結合を、本明細書において記述される特定の例示的な抗体のいずれかと競合する抗体を含む。当技術分野において公知の日常の方法を用いることにより、抗体が参照抗体と、同じエピトープに結合するか、結合を競合するかどうかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が参照と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体は飽和条件下で標的に結合させられる。次に、標的分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができる場合、試験抗体は参照抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。その一方で、試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができない場合、試験抗体は、参照抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
【0050】
それぞれが他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)する場合、2つの抗体は同じまたは重複しているエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の一方の抗体は、競合的結合アッセイにおいて測定された場合、他方の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%またはさらには99%だけ阻害する(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 1990 50:1495-1502を参照のこと)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除するいくつかのアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は重複しているエピトープを有する。
【0051】
次に、さらなる日常の実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実行して、試験抗体で観察された結合の欠如が実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものかどうか、または立体的遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認することができる。この種の実験はELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当技術分野において利用可能な他の任意の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて実施することができる。EMまたは結晶学を用いた構造研究も、結合を競合する2つの抗体が同じエピトープを認識するか否かを実証することができる。
【0052】
別の局面において、抗体は、さらなる「フレームワーク」領域を含むその可変配列によって定義されうる。さらに、抗体配列は、以下でさらに詳細に論じられる方法を任意で用いて、これらの配列とは異なる可能性がある。例えば、核酸配列は、(a) 可変領域が軽鎖および重鎖の定常ドメインから分離されている可能性があり、(b) 核酸は、それによってコードされる残基に影響を与えなくても、上述されたものとは異なる可能性があり、(c) 核酸は所与のパーセンテージ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性によって上述されたものとは異なる可能性があり、(d) 核酸は約50℃~約70℃の温度で約0.02 M~約0.15 M NaClによって提供されるような、低塩および/もしくは高温の条件によって例示される、高ストリンジェンシー条件の下でハイブリダイズする能力によって、上述されたものとは異なる可能性があり、(e) アミノ酸は所与のパーセンテージ、例えば、80%, 85%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%もしくは99%の相同性によって上述されたものとは異なる可能性があり、または(f) アミノ酸は保存的置換(以下で論じられる)を許容することによって、上述されたものとは異なる可能性があるという点で、上述されたものとは異なる可能性がある。
【0053】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列を比較する場合、下記のように、2つの配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の配列が、最大限の一致を得るようにアライメントされるときに同じものである場合、2つの配列は「同一」であると言われる。2つの配列間の比較は、典型的には、比較ウィンドウにわたり配列を比較して、配列類似性の局所領域を同定および比較することによって実施される。本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、少なくとも約20個の連続的位置、通常は30から約75個、40から約50個のセグメントをいい、ここで配列は同数の連続的位置の参照配列と、2つの配列が最適にアライメントされた後に比較されうる。
【0054】
比較のための配列の最適なアライメントは、バイオインフォマティクスソフトウェアのLasergeneスイート(DNASTAR, Inc., Madison, Wis.)中のMegalignプログラムを使い、初期設定パラメータを用いて行われうる。このプログラムは、以下の参考文献において記述されているいくつかのアライメントスキームを具体化している: Dayhoff, M. O. (1978) A model of evolutionary change in proteins--Matrices for detecting distant relationships. In Dayhoff, M. O. (ed.) Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington D.C. Vol. 5, Suppl. 3, pp. 345-358; Hein J. (1990) Unified Approach to Alignment and Phylogeny pp. 626-645 Methods in Enzymology vol. 183, Academic Press, Inc., San Diego, Calif.; Higgins, D. G. and Sharp, P. M. (1989) CABIOS 5:151-153; Myers, E. W. and Muller W. (1988) CABIOS 4:11-17; Robinson, E. D. (1971) Comb. Theor 11:105; Santou, N. Nes, M. (1987) Mol. Biol. Evol. 4:406-425; Sneath, P. H. A. and Sokal, R. R. (1973) Numerical Taxonomy--the Principles and Practice of Numerical Taxonomy, Freeman Press, San Francisco, Calif.; Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. (1983) Proc. Natl. Acad., Sci. USA 80:726-730。
【0055】
あるいは、比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman (1981) Add. APL. Math 2:482の局所同一性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443の同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA)のコンピュータによる実施によって、または視覚的精査によって行われうる。
【0056】
配列同一性%および配列類似性%を決定するのに適したアルゴリズムの1つの特定の例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al. (1977) Nucl. Acids Res. 25:3389-3402およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410に記述されている。BLASTおよびBLAST 2.0を、例えば、本明細書において記述されるパラメータで用いて、本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列同一性%を決定することができる。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、米国国立バイオテクノロジー情報センターを通じて公的に入手可能である。抗体配列の性質の再構成および各遺伝子の可変の長さには、単一抗体配列の複数ラウンドのBLAST検索が必要になる。また、さまざまな遺伝子の手動アセンブリは、困難であり、間違いを起こしやすい。配列分析ツールIgBLAST (ncbi.nlm.nih.gov/igblast/のワールドワイドウェブ)は、生殖細胞系列V、DおよびJ遺伝子との一致、再配列接合部の詳細、IgVドメインフレームワーク領域および相補性決定領域の線引きを同定する。IgBLASTは、ヌクレオチドまたはタンパク質配列を分析することができ、配列をバッチで処理することができ、生殖細胞系列遺伝子データベースおよび他の配列データベースを同時に検索して、おそらく最も一致する生殖細胞系列V遺伝子を見逃す可能性を最小限に抑えることを可能にする。
【0057】
1つの実例において、累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM (一致残基の対に対する報酬スコア; 常に>0)およびN (ミスマッチ残基に対するペナルティスコア; 常に<0)を用いて計算することができる。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下した場合; 1つもしくは複数の陰性スコアの残基アライメントの蓄積により、累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合; または配列のどちらかの末端に到達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)では、初期設定としてワード長(W) 11、および期待値(E) 10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照のこと)アライメント、(B) 50、期待値(E) 10、M=5、N=-4ならびに両鎖の比較を用いる。
【0058】
アミノ酸配列の場合、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算することができる。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下した場合; 1つもしくは複数の陰性スコアの残基アライメントの蓄積により、累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合; または配列のどちらかの末端に到達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。
【0059】
1つのアプローチにおいて、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアライメントされた配列を、少なくとも20個の位置の比較ウィンドウにわたって比較することにより決定され、ここで比較ウィンドウ中のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適なアライメントのための参照配列(これは付加または欠失を含まない)と比較して、20%またはそれ未満、通常は5~15%、または10~12%の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含みうる。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列中にも存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を算出し、一致した位置の数を参照配列中の位置の合計数(すなわち、ウィンドウのサイズ)で除して、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを算出することにより計算される。
【0060】
抗体を定義するさらに別の方法は、以下に記述される抗体およびその抗原結合断片のいずれかの「誘導体」としてである。「誘導体」という用語は、抗原に免疫特異的に結合するが、しかし「親」(または野生型)分子と比べて1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上のアミノ酸置換、付加、欠失または修飾を含む抗体またはその抗原結合断片をいう。そのようなアミノ酸置換または付加は、天然に存在する(すなわち、DNAにコードされる)アミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基を導入しうる。「誘導体」という用語は、例えば、増強されたまたは損なわれたエフェクターまたは結合特性を示す変種Fc領域を有する、例えば抗体などを形成するように、改変されたCH1、ヒンジ、CH2、CH3またはCH4領域を有する変種を包含する。「誘導体」という用語は非アミノ酸修飾、例えば、グリコシル化され(例えば、マンノース、2-N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、グルコース、シアル酸、5-N-アセチルノイラミン酸、5-グリコリルノイラミン酸(5-glycolneuraminic acid)などの含量の変化を有し)、アセチル化され、ペグ化され、リン酸化され、アミド化され、既知の保護基/遮断基により誘導体化され、タンパク質分解切断され、細胞リガンドまたは他のタンパク質に連結されうるなどの、アミノ酸をさらに包含する。いくつかの態様において、炭水化物修飾の改変は以下: 抗体の可溶化、細胞内輸送および抗体分泌の促進、抗体アセンブリの促進、立体配座の完全性、ならびに抗体を介したエフェクター機能の1つまたは複数を調節する。特定の態様において、炭水化物修飾の改変は、炭水化物修飾を欠く抗体と比べて、抗体を介したエフェクター機能を増強する。抗体を介したエフェクター機能の改変をもたらす炭水化物修飾は、当技術分野において周知である(例えば、Shields, R. L. et al. (2002) 「Lack Of Fucose On Human IgG N-Linked Oligosaccharide Improves Binding To Human Fcgamma RIII And Antibody-Dependent Cellular Toxicity」, J. Biol. Chem. 277(30): 26733-26740; Davies J. et al. (2001) 「Expression Of GnTIII In A Recombinant Anti-CD20 CHO Production Cell Line: Expression Of Antibodies With Altered Glycoforms Leads To An Increase In ADCC Through Higher Affinity For FC Gamma RIII」, Biotechnology & Bioengineering 74(4): 288-294を参照のこと)。炭水化物含量を改変する方法は、当業者に公知であり、例えば、Wallick, S. C. et al. (1988) 「Glycosylation Of A VH Residue Of A Monoclonal Antibody Against Alpha (1----6) Dextran Increases Its Affinity For Antigen」, J. Exp. Med. 168(3): 1099-1109; Tao, M. H. et al. (1989) 「Studies Of Aglycosylated Chimeric Mouse-Human IgG. Role Of Carbohydrate In The Structure And Effector Functions Mediated By The Human IgG Constant Region」, J. Immunol. 143(8): 2595-2601; Routledge, E. G. et al. (1995) 「The Effect Of Aglycosylation On The Immunogenicity Of A Humanized Therapeutic CD3 Monoclonal Antibody」, Transplantation 60(8):847-53; Elliott, S. et al. (2003) 「Enhancement Of Therapeutic Protein In Vivo Activities Through Glycoengineering」, Nature Biotechnol. 21:414-21; Shields, R. L. et al. (2002) 「Lack Of Fucose On Human IgG N-Linked Oligosaccharide Improves Binding To Human Fcgamma RIII And Antibody-Dependent Cellular Toxicity」, J. Biol. Chem. 277(30): 26733-26740)を参照されたい。
【0061】
誘導体抗体または抗体断片は、ビーズに基づくアッセイもしくは細胞に基づくアッセイまたは動物モデルでのインビボ研究によって測定された場合に抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、抗体依存性好中球貪食(ADNP)、または抗体依存性補体沈着(ADCD)機能の好ましい活性レベルを付与するように配列またはグリコシル化状態の操作によって作出することができる。
【0062】
誘導体抗体または抗体断片は、特定の化学的切断、アセチル化、製剤、ツニカマイシンの代謝合成などを含むが、これらに限定されない、当業者に公知の技法を用いた化学修飾によって修飾されうる。1つの態様において、抗体誘導体は、親抗体と同様または同一の機能を保有する。別の態様において、抗体誘導体は、親抗体と比べて改変された活性を示す。例えば、誘導体抗体(またはその断片)は親抗体よりも、そのエピトープに強く結合するか、またはタンパク質分解に対して耐性でありうる。
【0063】
D. 抗体配列の操作
さまざまな態様において、発現の改善、交差反応性の改善またはオフターゲット結合の低下のような、種々の理由のため、同定された抗体の配列を操作することを選択してもよい。修飾抗体は、標準的な分子生物学的技法による発現、またはポリペプチドの化学合成を含めて、当業者に公知の任意の技法によって作出されうる。組換え発現のための方法は、本書面の他所で扱われている。以下は、抗体操作のための関連する目標技法の大まかな議論である。
【0064】
ハイブリドーマを培養し、次いで、細胞を溶解し、全RNAを抽出することができる。RTと一緒にランダムヘキサマーを用いてRNAのcDNAコピーを作製し、次いで、全てのヒト可変遺伝子配列を増幅することが予想されるPCRプライマーの多重混合物を用いてPCRを行うことができる。PCR産物をpGEM-T Easyベクターにクローニングし、次いで、標準的なベクタープライマーを用いた自動DNA配列決定によって配列決定することができる。結合および中和のアッセイは、ハイブリドーマ上清から収集し、プロテインGカラムを用いたFPLCによって精製した抗体を用いて行うことができる。
【0065】
組換え完全長IgG抗体は、重鎖および軽鎖Fv DNAをクローニングベクターからIgGプラスミドベクターにサブクローニングすることによって作出することができ、293 (例えば、Freestyle)細胞またはCHO細胞にトランスフェクションすることができ、293またはCHO細胞上清から抗体を回収および精製することができる。他の適切な宿主細胞系は、大腸菌(E. coli)のような細菌、昆虫細胞(S2、Sf9、Sf29、High Five)、植物細胞(例えば、ヒト様グリカンの操作有りもしくは無しの、タバコ)、藻類、または種々の非ヒトトランスジェニックとの関連では、例えばマウス、ラット、ヤギもしくはウシを含む。
【0066】
後続の抗体精製の目的、および宿主処理の目的の両方で、抗体をコードする核酸の発現も企図される。抗体コード配列は、天然RNAまたは修飾RNAのような、RNAであることができる。修飾RNAは、mRNAに安定性の向上および低い免疫原性を付与し、それによって治療的に重要なタンパク質の発現を促進するある種の化学修飾を企図する。例えば、N1-メチル-プソイドウリジン(N1mΨ)は翻訳能力という点で、他のいくつかのヌクレオシド修飾およびその組み合わせよりも優れている。免疫/eIF2αリン酸化依存性の翻訳阻害をオフにすることに加えて、組み入れられたN1mΨヌクレオチドは、リボソームの休止およびmRNAの密度を増加させることにより、翻訳プロセスの動態を劇的に変化させる。修飾mRNAのリボソーム負荷の増加は、同じmRNAでのリボソーム再生利用またはデノボリボソーム動員のいずれかに有利に働くことにより、それらをさらに開始許容にする。そのような修飾は、RNA接種後のインビボでの抗体発現を増強するために用いることができよう。RNAは、天然であろうと修飾されていようと、裸のRNAとしてまたは脂質ナノ粒子のような、送達媒体中で送達されうる。
【0067】
あるいは、抗体をコードするDNAが、同じ目的で利用されうる。DNAは、それが設計される宿主細胞において活性なプロモーターを含む発現カセットに含まれる。発現カセットは、従来のプラスミドまたはミニベクターなどの、複製可能なベクターに好都合に含まれる。ベクターは、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレンチウイルスのような、ウイルスのベクターを含み、これらが企図される。VEEウイルスまたはシンドビスウイルスに基づくアルファウイルスレプリコンのような抗体遺伝子をコードするレプリコンも企図される。そのようなベクターの送達は、筋肉内、皮下、もしくは皮内経路を通じ注射針により、またはインビボ発現が望まれる場合は経皮エレクトロポレーションにより実施することができる。
【0068】
最後のcGMP製造プロセスと同じ宿主細胞および細胞培養プロセスにおいて産生される抗体が迅速に入手できることには、プロセス開発プログラムの期間を短くする可能性がある。Lonzaは、少量(50 gまで)の抗体をCHO細胞において迅速に産生するために、CDACF培地中で増殖させた、プールしたトランスフェクタントを用いる一般的な方法を開発した。本当の一過的なシステムよりもわずかに遅いが、この利点には、産物濃度が高いこと、産生細胞株と同じ宿主およびプロセスが用いられることが含まれる。使い捨てバイオリアクターにおける、モデル抗体を発現するGS-CHOプールの増殖および生産性の例: フェドバッチモードにおいて動作する使い捨てバックバイオリアクター培養(5 L作業容積)では、トランスフェクションの9週間以内に2 g/Lの収集抗体濃度を実現した。
【0069】
抗体分子は、断片、例えば、mAbのタンパク質分解切断によって生じた断片(例えば、F(ab')、F(ab')2)、または一本鎖免疫グロブリン、例えば、組換え手段によって産生可能な一本鎖免疫グロブリンを含む。F(ab')抗体誘導体は一価であるが、F(ab')2抗体誘導体は二価である。1つの態様において、このような断片は互いに、または他の抗体断片もしくは受容体リガンドと組み合わされて、「キメラ」結合分子を形成することができる。重大なことに、そのようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープと結合することができる置換基を含有しうる。
【0070】
関連する態様において、抗体は、開示された抗体の誘導体、例えば、開示された抗体のものと同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラまたはCDR移植抗体)である。あるいは、抗体分子に保存的変化を導入するような、修飾を加えることを望む場合もある。そのような変化を加える際には、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮されうる。相互作用的な生物機能をタンパク質に付与する際のヒドロパシーアミノ酸指数の重要性が当技術分野において一般に理解されている。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、その結果として、これが、タンパク質と、他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を定義すると受け入れられている。
【0071】
親水性に基づいて、類似するアミノ酸を効果的に置換できることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性(greatest local average hydrophilicity)はタンパク質の生物学的特性と相関関係にあることが述べられている。米国特許第4,554,101号に詳述されるように、アミノ酸残基には以下の親水性値が割り当てられている: 塩基性アミノ酸: アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5); 酸性アミノ酸: アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2); 親水性、非イオン性アミノ酸: セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびトレオニン(-0.4)、含硫黄アミノ酸: システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3); 疎水性非芳香族アミノ酸: バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0); 疎水性芳香族アミノ酸: トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
【0072】
アミノ酸は、類似の親水性を有する別のアミノ酸で置換することができ、生物学的または免疫学的に改変されたタンパク質を生成することができると理解される。そのような変化では、親水性値が±2以内のアミノ酸置換が好ましく、親水性値が±1以内のアミノ酸置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
【0073】
上記で概説したように、アミノ酸置換は、一般的に、アミノ酸の側鎖置換基の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいている。さまざまな前述の特徴を考慮に入れた例示的な置換が当業者に周知であり、アルギニンおよびリジン; グルタミン酸およびアスパラギン酸; セリンおよびトレオニン; グルタミンおよびアスパラギン; ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0074】
本開示はアイソタイプ修飾も企図する。Fc領域を修飾して異なるアイソタイプを持つことにより、異なる機能性を達成することができる。例えば、IgG1に変えることで抗体依存性細胞傷害を増加させることができ、クラスAに切り替えることで組織分布を改善させることができ、クラスMに切り替えることで原子価を改善させることができる。
【0075】
あるいはまたはさらに、アミノ酸修飾を、IL-23p19結合分子のFc領域の補体依存性細胞傷害(CDC)機能および/またはC1q結合を変化させる1つまたは複数のさらなるアミノ酸修飾と組み合わせることが有用でありうる。特に関心のある結合ポリペプチドは、C1qに結合し、補体依存性細胞傷害を示すものでありうる。既存のC1q結合活性を有し、CDCを媒介する能力を任意でさらに有してもよいポリペプチドは、これらの活性の一方または両方が増強されるように修飾されうる。C1qを改変するおよび/またはその補体依存性細胞傷害機能を修飾するアミノ酸修飾は、例えば、参照により本明細書に組み入れられるWO/0042072に記述されている。
【0076】
例えば、C1q結合および/またはFcγR結合を改変し、それによりCDC活性および/またはADCC活性を変化させることにより、エフェクター機能が変化した抗体のFc領域を設計することができる。「エフェクター機能」は、(例えば、対象における)生物学的活性の活性化または減少に関与している。エフェクター機能の例としては、C1q結合; 補体依存性細胞傷害(CDC); Fc受容体結合; 抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC); 貪食; 細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体; BCR)などの下方制御が挙げられるが、これらに限定されることはない。そのようなエフェクター機能は、Fc領域を結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わせる必要がありえ、さまざまなアッセイ(例えば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を用いて評価することができる。
【0077】
例えば、改善されたC1q結合および改善されたFcγRIII結合を有する(例えば、改善されたADCC活性および改善されたCDC活性の両方を有する)抗体の変種Fc領域を作出することができる。あるいは、エフェクター機能を低減または除去することが望まれる場合、変種Fc領域は、低減されたCDC活性および/または低減されたADCC活性で操作することができる。他の態様において、これらの活性の1つのみが増加され、任意で、また他の活性は低減されてもよい(例えば、改善されたADCC活性を有するが、低減されたCDC活性を有する、およびその逆のFc領域変種を作出するため)。
【0078】
FcRn結合
Fc変異は、新生児Fc受容体(FcRn)とのその相互作用を変化させ、その薬物動態特性を改善するために導入および操作することもできる。FcRnへの結合が改善されたヒトFc変種のコレクションが記述されている。FcγRI、FcγRII、FcγRIII、およびFcRnに対するヒトIgG1上の結合部位の高解像度マッピングならびにFcγRへの結合が改善されたIgG1変種の設計(J. Biol. Chem. 276:6591-6604)。アラニンスキャニング突然変異誘発、ランダム突然変異誘発ならびに新生児Fc受容体(FcRn)への結合および/またはインビボでの挙動を評価するためのスクリーニングを含む技法を通じて作出されうるアミノ酸修飾を含めて、半減期の増加をもたらしうる、いくつかの方法が公知である。突然変異誘発に先立って計算戦略も、変異させるアミノ酸変異の1つを選択するために用いられうる。
【0079】
それゆえ、本開示は、FcRnへの結合が最適化された抗原結合タンパク質の変種を提供する。特定の態様において、抗原結合タンパク質の変種は、抗原結合タンパク質のFc領域中に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、ここで該修飾が、親ポリペプチドと比較してFc領域の番号226、227、228、230、231、233、234、239、241、243、246、250、252、256、259、264、265、267、269、270、276、284、285、288、289、290、291、292、294、297、298、299、301、302、303、305、307、308、309、311、315、317、320、322、325、327、330、332、334、335、338、340、342、343、345、347、350、352、354、355、356、359、360、361、362、369、370、371、375、378、380、382、384、385、386、387、389、390、392、393、394、395、396、397、398、399、400、401 403、404、408、411、412、414、415、416、418、419、420、421、422、424、426、428、433、434、438、439、440、443、444、445、446および447からなる群より選択され、ここでFc領域中のアミノ酸の付番がKabatのEUインデックスの付番である。本開示のさらなる局面において、修飾は、M252Y/S254T/T256Eである。
【0080】
さらに、さまざまな刊行物には、FcRn結合ポリペプチドを分子に導入することにより、またはFcRn結合親和性が保存されているが、他のFc受容体に対する親和性が大いに低減されている抗体と分子を融合するもしくは抗体のFcRn結合ドメインと融合することにより、半減期が改変されている生理学的に活性な分子を得るための方法が記述されている。
【0081】
誘導体化された抗体は哺乳類、特にヒトにおける親抗体の半減期(例えば、血清中半減期)を改変するために用いられうる。そのような変化は、15日超、好ましくは20日超、25日超、30日超、35日超、40日超、45日超、2ヶ月超、3ヶ月超、4ヶ月超、または5ヶ月超の半減期をもたらしうる。哺乳類、好ましくはヒトにおける本開示の抗体またはその断片の半減期の増加により、哺乳類における抗体または抗体断片のさらに高い血清力価が生じ、したがって、該抗体もしくは抗体断片の投与の頻度が低減し、および/または投与される該抗体もしくは抗体断片の濃度が低減する。増加したインビボ半減期を有する抗体またはその断片は、当業者に公知の技法によって作出することができる。例えば、増加したインビボ半減期を有する抗体またはその断片は、FcドメインとFcRn受容体との間の相互作用に関与すると同定されたアミノ酸残基を修飾(例えば、置換、欠失または付加)することによって作出することができる。
【0082】
Beltramello et al. (2010)は、デング熱ウイルス感染を増強する傾向があるため、CH2ドメインの位置番号1.3および1.2のロイシン残基(CドメインのIMGT固有の付番による)がアラニン残基で置換されているものを作出することによる、中和mAbの修飾を以前に報告した。「LALA」変異としても知られるこの修飾は、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIaへの抗体結合を無効化する。変種および未修飾の組換えmAbを、4つのデング熱ウイルス血清型による感染を中和および増強するその能力について比較した。LALA変種は、未修飾のmAbと同じ中和活性を保持していたが、増強活性を完全に欠いていた。それゆえ、この性質のLALA変異は、本開示の抗体との関連で企図される。
【0083】
グリコシル化の変化
本開示の特定の態様は、シアル酸、ガラクトースまたはフコースを有しない実質的に均質なグリカンを含有する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。モノクローナル抗体は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、このどちらも、それぞれ重鎖または軽鎖定常領域に付着されうる。前述の実質的に均質なグリカンは、重鎖定常領域に共有結合的に付着されうる。
【0084】
本開示の別の態様は、新規のFcグリコシル化パターンを有するmAbを含む。単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、GNGNまたはG1/G2糖型によって表される実質的に均質な組成で存在する。Fcグリコシル化は、治療用mAbの抗ウイルス特性および抗がん特性において重要な役割を果たす。本開示は、インビトロでのフコース不含の抗HIV mAbの抗レンチウイルス細胞媒介性ウイルス阻害の増大を示す最近の研究と一致している。コアフコースを欠く均質なグリカンを用いた本開示のこの態様は、特定のウイルスに対する保護の増大を2倍超だけ示した。コアフコースの除去は、ナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介されるmAbのADCC活性を劇的に改善するが、多形核細胞(PMN)のADCC活性には逆効果を及ぼすように思われる。
【0085】
GNGNまたはG1/G2糖型によって表される実質的に均質な組成を含む、単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、実質的に均質なGNGN糖型を有しない、かつG0、G1F、G2F、GNF、GNGNFまたはGNGNFXを含んだ糖型を有する同じ抗体と比較してFcγRIおよびFcγRIIIに対する結合親和性の増大を示す。本開示の1つの態様において、抗体はFcγRIから1×10-8 Mまたはそれ未満のKdでおよびFcγRIIIから1×10-7 Mまたはそれ未満のKdで解離する。
【0086】
Fc領域のグリコシル化は、通常、N結合型またはO結合型のいずれかである。N-結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着(attachment)をいう。O-結合型グリコシル化とは、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つがヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンに付着することをいうが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンが用いられることもある。アスパラギン側鎖ペプチド配列への炭水化物部分の酵素的付着の認識配列は、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニンであり、ここでXはプロリン以外の任意のアミノ酸である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのペプチド配列のいずれかの存在が、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。
【0087】
グリコシル化パターンは、例えば、ポリペプチドに見られる1つもしくは複数のグリコシル化部位を欠失すること、および/またはポリペプチドに存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することによって改変されうる。抗体のFc領域へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列(N-結合型グリコシル化部位の場合)の1つまたは複数を含むようにアミノ酸配列を改変することによって好都合に達成される。例示的なグリコシル化変種は、重鎖の残基Asn 297のアミノ酸置換を有する。改変は、元のポリペプチドの配列に対しての、1つもしくは複数のセリンもしくはトレオニン残基の付加または1つもしくは複数のセリンもしくはトレオニン残基による置換によっても行われうる(O-結合型グリコシル化部位の場合)。さらに、Asn 297をAlaに変えることで、グリコシル化部位の1つを除去することができる。
【0088】
ある種の態様において、抗体は、GnT IIIがGlcNAcをIL-23p19抗体に付加するように、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII (GnT III)を発現する細胞において発現される。そのような方法で抗体を産生するための方法は、WO/9954342、WO/03011878、特許公報US 2003/0003097A1、およびUmana et al., Nature Biotechnology, 17:176-180, February 1999において提供されている。Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)のようなゲノム編集技術を用いて、グリコシル化のような、ある種の翻訳後修飾を増強または低減もしくは排除するように細胞株を改変することができる。例えば、CRISPR技術を用いて、組換えモノクローナル抗体を発現させるために用いられる293細胞またはCHO細胞においてグリコシル化酵素をコードする遺伝子を排除することができる。
【0089】
モノクローナル抗体タンパク質配列ライアビリティの排除
ヒトB細胞から得られた抗体可変遺伝子配列を操作して、その製造可能性および安全性を増強することが可能である。潜在的なタンパク質配列ライアビリティは、以下を含む部位に関連する配列モチーフを探索することによって同定することができる:
1) 不対Cys残基、
2) N-結合型グリコシル化、
3) Asn脱アミド化、
4) Asp異性化、
5) SYE切断、
6) Met酸化、
7) Trp酸化、
8) N末端グルタミン酸、
9) インテグリン結合、
10) CD11c/CD18結合、または
11) 断片化
そのようなモチーフは、組換え抗体をコードするcDNAの合成遺伝子を改変することによって排除することができる。
【0090】
治療用抗体の開発分野におけるタンパク質工学の取り組みは、ある種の配列または残基が溶解度の差異に関連することを明示している(Fernandez-Escamilla et al., Nature Biotech., 22 (10), 1302-1306, 2004; Chennamsetty et al., PNAS, 106 (29), 11937-11942, 2009; Voynov et al., Biocon. Chem., 21 (2), 385-392, 2010)。文献における溶解性を変化させる変異の証拠により、 アスパラギン酸、グルタミン酸、およびセリンのような一部の親水性残基は、アスパラギン、グルタミン、トレオニン、リジン、およびアルギニンのような、他の親水性残基よりもタンパク質の溶解性に非常に有利に寄与することが示唆される。
【0091】
安定性
抗体は、生物物理学的特性を増強するように設計することができる。見かけの平均融解温度を使い、高温を用いて抗体をアンフォールドし、相対的安定性を決定することができる。示差走査熱量測定(DSC)は、分子の熱容量Cp (1度あたりの分子の加温に必要な熱)を温度の関数として測定する。DSCを用いて、抗体の熱安定性を調べることができる。mAbのDSCデータは、mAb構造内の個々のドメインのアンフォールディングを分解し、(Fab、CH2、およびCH3ドメインのアンフォールディングから)サーモグラムに最大3つのピークを生成することがあるため、特に興味深い。通常、Fabドメインのアンフォールディングは最も強いピークを生じる。Fc部分のDSCプロファイルおよび相対的安定性は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスの特徴的な差異を示す(Garber and Demarest, Biochem. Biophys. Res. Commun. 355, 751-757, 2007)。CD分光計で実施される円偏光二色性(CD)を用いて、見かけの平均融解温度を決定することもできる。遠紫外線CDスペクトルは抗体に対し、200~260 nmの範囲において0.5 nm刻みで測定される。最終的なスペクトルは、20回の累積の平均として決定することができる。バックグラウンドを差し引いた後に、残基楕円率の値を計算することができる。25~95℃および加熱速度1℃/分で235 nmにて抗体(0.1 mg/mL)の熱変性(thermal unfolding)をモニターすることができる。動的光散乱(DLS)を用いて、凝集の傾向を評価することができる。DLSは、タンパク質を含むさまざまな粒子のサイズを特徴付けるために用いられる。系のサイズが分散していない場合は、粒子の平均有効径を決定することができる。この測定は、粒子コアのサイズ、表面構造のサイズ、および粒子濃度に依存する。DLSは粒子による散乱光強度の変動を本質的に測定するため、粒子の拡散係数を決定することができる。市販のDLA機器のDLSソフトウェアは、さまざまな直径の粒子集団を表示する。安定性の研究は、DLSを用いて好都合に行うことができる。試料のDLS測定では、粒子の流体力学的半径が増加するかどうかを決定することにより、粒子が時間の経過とともに凝集するのか、または温度変化とともに凝集するのかを示すことができる。粒子が凝集する場合、より大きな半径を有する粒子のより大きな集団を調べることができる。温度に依る安定性は、インサイチューで温度を制御することにより分析することができる。キャピラリー電気泳動(CE)技法には、抗体安定性の特徴を決定するための実証済みの方法論が含まれる。iCEアプローチを用いて、脱アミド化、C末端リジン、シアル化、酸化、グリコシル化、およびタンパク質のpIの変化をもたらす可能性のあるタンパク質への他の任意の変化による抗体タンパク質電荷変種を分解することができる。発現された抗体タンパク質の各々は、Protein Simple Maurice機器を用いて、キャピラリーカラム(cIEF)での高速大量処理の、自由溶液等電点電気泳動(IEF)法により評価することができる。等電点(pI)に焦点を合わせた分子の実時間モニタリングのために、カラム全体のUV吸収検出を30秒ごとに実施することができる。このアプローチは従来のゲルIEFの高分解能と、カラムに基づく分離に見られる定量および自動化の利点とを組み合わせ、動員段階の必要性を排除する。この技法は、発現された抗体の同一性、純度、および不均一性プロファイルの再現性のある定量分析をもたらす。この結果により、吸光度とネイティブ蛍光検出モードの両方で、かつ0.7 μg/mLまでの検出感度で抗体の電荷不均一性と分子サイジングが同定される。
【0092】
溶解性
抗体配列の固有の溶解性スコアを決定することができる。固有の溶解性スコアは、CamSol Intrinsicを用いて計算することができる(Sormanni et al., J Mol Biol 427, 478-490, 2015)。scFvのような各抗体断片のHCDR3中の残基番号95~102 (Kabat付番)のアミノ酸配列は、溶解性スコアを計算するためにオンラインプログラムを介して評価することができる。実験技法を用いて溶解性を決定することもできる。溶液が飽和して溶解限度に達するまでの凍結乾燥タンパク質の溶液への添加、または適当な分子量カットオフを備えたマイクロコンセントレータでの限外ろ過による濃縮を含めて、さまざまな技法が存在する。最も簡単な方法はアモルファス沈殿の誘導であり、これにより、硫酸アンモニウムを用いたタンパク質沈殿を伴う方法を用いてタンパク質溶解性が測定される(Trevino et al., J Mol Biol, 366: 449-460, 2007)。硫酸アンモニウム沈殿は、相対的な溶解性の値に関する迅速で正確な情報をもたらす。硫酸アンモニウム沈殿は、明確な水相と固相を有する沈殿溶液を生成し、比較的少量のタンパク質を必要とする。硫酸アンモニウムによるアモルファス沈殿の誘導を用いて実施される溶解性測定も、さまざまなpH値で簡単に行うことができる。タンパク質溶解性はpHに大きく依存し、pHは、溶解性に影響を与える最も重要な外因性要因と考えられている。
【0093】
自己反応性
一般に、自己反応性クローンは個体発生中に陰性選択によって排除されるはずであると考えられている; しかしながら、自己反応性を有する多くのヒト天然抗体が成体の成熟レパートリーに存続していることが明らかになった。初期B細胞発生中の抗体におけるHCDR3ループは、多くの場合、正電荷に富んでおり、自己反応性パターンを示すことが知られている(Wardemann et al., Science 301, 1374-1377, 2003)。顕微鏡検査(接着性HeLaまたはHEp-2上皮細胞を用いる)およびフローサイトメトリー細胞表面染色(浮遊Jurkat T細胞および293Sヒト胚性腎臓細胞を用いる)においてヒト由来細胞への結合レベルを評価することにより、所与の抗体を自己反応性について試験することができる。自己反応性は、組織アレイ内の組織への結合の評価を用いて調べることもできる。
【0094】
好ましい残基(「ヒト類似性」)
献血者からのヒトB細胞のB細胞レパートリーディープシークエンシングは、多くの最近の研究において大規模に実施されている。ヒト抗体レパートリーのかなりの部分に関する配列情報は、健常なヒトでの一般的な抗体配列の特徴の統計的評価を容易にする。ヒト組換え抗体可変遺伝子参照データベースにおける抗体配列の特徴に関する知識により、抗体配列の「ヒト類似性(Human Likeness)」(HL)の位置特異的な程度を推定することができる。HLは、治療用抗体またはワクチンとしての抗体のような、臨床使用における抗体の開発に有用であることが示されている。目標は、抗体のヒト類似性を高めて、抗体薬の有効性の大幅な低下に至るまたは健康に及ぼす深刻な影響を誘導しうる、潜在的な副作用および抗抗体免疫応答を低減させることである。計約4億配列の健常ヒト献血者3名の組み合わせ抗体レパートリーの抗体特性を評価し、抗体の超可変領域に焦点を当てた新しい「相対的ヒト類似性」(rHL)スコアを作成することができる。rHLスコアにより、ヒト(正スコア)と非ヒト配列(負スコア)を簡単に区別することが可能になる。抗体は、ヒトのレパートリーでは一般的でない残基を排除するように操作することができる。
【0095】
E. 一本鎖抗体
一本鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域が短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと一緒に連結されて融合したものである。このキメラ分子は、定常領域が除去され、リンカーペプチドが導入されていても、元々の免疫グロブリンの特異性を保持している。この改変があっても、通常、特異性は変化しないままである。これらの分子は、ファージディスプレイを容易にするために歴史を通して作り出された。ファージディスプレイは、1本のペプチドとして抗原結合ドメインを発現させることが極めて便利である。あるいは、ハイブリドーマまたはB細胞に由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接、scFvを作り出すことができる。一本鎖可変断片には、完全な抗体分子に見出される定常Fc領域が無く、したがって、抗体を精製するために用いられる共通の結合部位(例えば、プロテインA/G)が無い。これらの断片は、多くの場合、プロテインLを用いて精製/固定化することができる。なぜなら、プロテインLはκ軽鎖の可変領域と相互作用するからである。
【0096】
可動性リンカーは、一般的に、ヘリックスを促進するアミノ酸残基と、ターンを促進するアミノ酸残基、例えば、アラニン、セリン、およびグリシンで構成される。しかしながら、他の残基も機能することができる。Tang et al.(1996)は、タンパク質リンカーライブラリから、一本鎖抗体(scFv)に合わせられたリンカーを迅速に選択する手段としてファージディスプレイを用いた。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの遺伝子が、組成が異なる18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントによって連結されたランダムリンカーライブラリが構築された。scFvレパートリー(およそ5×106個の異なるメンバー)が繊維状ファージ上にディスプレイされ、ハプテンを用いたアフィニティ選択に供された。選択された変種の集団は著しい結合活性増加を示したが、かなりの配列多様性を保持した。その後に、1054の変種を個別にスクリーニングすることによって、可溶型で効率的に産生された触媒活性のあるscFvが得られた。配列分析から、選択されたテザー(tether)の唯一の共通する特徴として、VHC末端の2残基後ろにリンカーの中に保存プロリンがあることと、他の位置にたくさんのアルギニンとプロリンがあることが明らかになった。
【0097】
本開示の組換え抗体はまた、受容体の二量体化または多量体化を可能にする配列または部分を伴ってもよい。このような配列には、J鎖とともに多量体形成を可能にするIgAに由来する配列が含まれる。別の多量体化ドメインはGal4二量体化ドメインである。他の態様において、これらの鎖は、2つの抗体の組み合わせを可能にするビオチン/アビジンなどの薬剤を用いて改変されてもよい。
【0098】
別の態様において、一本鎖抗体は、非ペプチドリンカーまたは化学ユニットを用いて受容体の軽鎖および重鎖をつなげることによって作り出すことができる。一般的に、軽鎖および重鎖は別個の細胞で産生され、精製され、その後に、適切なやり方で一緒に連結される(すなわち、適切な化学架橋を介して重鎖N末端が軽鎖C末端に付着される)。
【0099】
架橋結合試薬は、2つの異なる分子、例えば、安定化剤および凝固剤の官能基を結び付ける分子架橋を形成するのに用いられる。しかしながら、同じ類似体の二量体もしくは多量体または異なる類似体で構成されるヘテロマー複合体を作り出すことができることが企図される。2つの異なる化合物を段階的に連結するためには、不必要なホモポリマー形成を排除するヘテロ二官能性架橋剤を用いることができる。
【0100】
例示的なヘテロ二官能性架橋剤は2つの反応基、一方は一級アミン基と反応する反応基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)、他方はチオール基と反応する反応基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)を含有する。架橋剤は、一級アミン反応基を介して、あるタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリジン残基と反応することができ、既に第1のタンパク質と結び付いている架橋剤は、チオール反応基を介して、他のタンパク質(例えば、選択薬剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0101】
血中で妥当な安定性を有する架橋剤が利用されることが好ましい。標的化薬剤と治療/予防薬剤と結合するのに首尾よく使用することができる非常に多くのタイプのジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体妨害されているジスルフィド結合を含有するリンカーはインビボで高い安定性を付与することが分かっていることがあり、そのため、作用部位に到達する前の標的化ペプチドの放出が妨げられる。したがって、これらのリンカーは、薬剤を連結する基の1つである。
【0102】
別の架橋結合試薬は、隣接するベンゼン環およびメチル基によって「立体妨害」されているジスルフィド結合を含有する二官能性架橋剤であるSMPTである。ジスルフィド結合の立体障害は、組織および血液に存在しうるチオラートアニオン、例えば、グルタチオンによる攻撃から結合を守り、それによって、付着された薬剤が標的部位に送達される前に結合体が分離しないように役立つ機能を果たすと考えられている。
【0103】
SMPT架橋結合試薬は他の多くの公知の架橋結合試薬と同様に、官能基、例えば、システインのSHまたは一級アミン(例えば、リジンのεアミノ基)を架橋する能力を与える。別の可能性のあるタイプの架橋剤には、切断可能なジスルフィド結合を含有するヘテロ二官能性光反応性フェニルアジド、例えば、スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミノ)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートが含まれる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は一級アミノ基と反応し、フェニルアジドは(光分解すると)任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0104】
妨害されている架橋剤に加えて、妨害されていないリンカーも本明細書にしたがって利用することができる。保護されたジスルフィドを含有するか、または作出すると考えられていない他の有用な架橋剤には、SATA、SPDP、および2-イミノチオランが含まれる。このような架橋剤の使用は当技術分野において良く理解されている。別の態様は可動性リンカーの使用を伴う。
【0105】
米国特許第4,680,338号は、リガンドと、アミンを含有するポリマーおよび/またはタンパク質との結合体を生成するのに有用な、特に、キレート剤、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体結合体を形成するのに有用な二官能性リンカーについて記述している。米国特許第5,141,648号および同第5,563,250号は、さまざまな穏やかな条件下で切断可能な不安定結合を含む切断可能な結合体を開示している。このリンカーは、関心対象の薬剤をリンカーに直接結合することができ、切断されると活性薬剤が放出されるので特に有用である。特定の用途には、遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基をタンパク質、例えば、抗体、または薬物に付加することが含まれる。
【0106】
米国特許第5,856,456号は、融合タンパク質、例えば、一本鎖抗体を作出する目的でポリペプチド構成要素を接続する際に用いるためのペプチドリンカーを提供している。このリンカーは長さが約50アミノ酸まであり、荷電アミノ酸(好ましくはアルギニンまたはリジン)に続いてプロリンが少なくとも1回発生することを含み、安定性が大きく、凝集が少ないことを特徴とする。米国特許第5,880,270号は、さまざまな免疫診断法および分離法において有用なアミノオキシ含有リンカーを開示している。
【0107】
F. 多重特異性抗体
ある種の態様において、本開示の抗体は、二重特異性または多重特異性である。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、単一抗原の2つの異なるエピトープに結合しうる。他のそのような抗体は、第1の抗原結合部位を第2の抗原に対する結合部位と組み合わせうる。あるいは、抗原特異的腕部は、細胞の防御機構を感染細胞に集中させて局在化させるように、白血球上のトリガリング分子、例えばT細胞受容体分子(例えば、CD3)、またはIgGに対するFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)およびFcガンマRIII (CD16)に結合する腕部と組み合わされてもよい。二重特異性抗体を用いて、細胞毒性剤を感染細胞に局在化させてもよい。これらの抗体は、抗原結合腕部および細胞毒性剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサートまたは放射性同位体ハプテン)に結合する腕部を保有する。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab').sub.2二重特異性抗体)として調製することができる。WO 96/16673には二重特異性抗ErbB2/抗FcガンマRIII抗体が記述されており、米国特許第5,837,234号には二重特異性抗ErbB2/抗FcガンマRI抗体が開示されている。二重特異性抗ErbB2/Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号には、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体が教示されている。
【0108】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知である。全長二重特異性抗体の従来の産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づいており、ここで2つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の任意組み合わせのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうち1つだけが的確な二重特異性構造を有する。通常、アフィニティクロマトグラフィー段階により行われる、的確な分子の精製はかなり面倒であり、生成物の収量は低い。同様の手順がWO 93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0109】
異なるアプローチによれば、所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体-抗原結合部位)が免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。好ましくは、融合は、ヒンジ、CH2、およびCH3領域の少なくとも一部を含む、Ig重鎖定常ドメインとの融合である。融合体の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体および、必要に応じて、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適当な宿主細胞にコトランスフェクトされる。これは、構築において用いられる3つのポリペプチド鎖の不均等な比率が所望の二重特異性抗体の最適な収量を提供する場合の態様において3つのポリペプチド断片の相互比率を調整する際のより大きな柔軟性を提供する。しかしながら、等しい比率での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収量をもたらす場合、または比率が所望の鎖の組み合わせの収量に有意な影響を及ぼさない場合、2つまたは全3つのポリペプチド鎖のコード配列を単一の発現ベクターに挿入することが可能である。
【0110】
このアプローチの特定の態様において、二重特異性抗体は、一方の腕部において第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方の腕部においてハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)から構成される。二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することにより容易な分離方法が提供されるため、この非対称構造は、不必要な免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。このアプローチはWO 94/04690に開示されている。二重特異性抗体の作出のさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0111】
米国特許第5,731,168号に記述されている別のアプローチによると、抗体分子の対の間の界面を、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大化するように操作することができる。好ましい界面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、一次抗体分子の界面からの1つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さなもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置き換えることにより、大きな側鎖と同一または類似のサイズの代償性の「キャビティ」が、第2の抗体分子の界面に作出される。これは、ホモ二量体のような他の不必要な最終生成物よりもヘテロ二量体の収量を増加させるための機構を提供する。
【0112】
二重特異性抗体は、架橋抗体または「ヘテロ結合体」抗体を含む。例えば、ヘテロ結合体中の抗体の一方はアビジンにカップリングされ、他方はビオチンにカップリングされうる。そのような抗体が、例えば、免疫系細胞を不必要な細胞に標的化するために(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の処置のために(WO 91/00360、WO 92/200373、およびEP 03089)提唱されている。ヘテロ結合体抗体は、任意の好都合な架橋方法を用いて作出されうる。適当な架橋剤は当技術分野において周知であり、いくつかの架橋技法とともに、米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0113】
抗体断片から二重特異性抗体を作出するための技法も、文献に記述されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)には、インタクトの抗体がタンパク質分解的に切断されてF(ab')2断片を作出する手順が記述されている。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて、隣接するジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を抑止する。作出されたFab'断片は次いで、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。次に、Fab'-TNB誘導体の1つが、メルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再変換され、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合されて、二重特異性抗体を形成する。生成された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための薬剤として用いることができる。
【0114】
化学的にカップリングさせて二重特異性抗体を形成することができる、大腸菌からのFab'-SH断片の直接回収を容易にする技法が存在する。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)には、ヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の産生が記述されている。各Fab'断片は大腸菌から別々に分泌され、インビトロで直接的化学カップリングを受けて二重特異性抗体を形成した。このように形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞および正常ヒトT細胞に結合すること、ならびにヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発することが可能であった。
【0115】
組換え細胞培養物から直接二重特異性抗体断片を作出および単離するためのさまざまな技法も記述されている(Merchant et al., Nat. Biotechnol. 16, 677-681 (1998))。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて産生されている(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553, 1992)。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'部分に連結された。抗体ホモ二量体はヒンジ領域で還元されて単量体を形成し、次に再酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法を抗体ホモ二量体の産生にも利用することができる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)によって記述された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作出するための代替的な機構を提供している。この断片には、同鎖上の2つのドメイン間の対合を可能とするには短すぎるリンカーによってVLに接続されたVHが含まれる。したがって、1つの断片のVHおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVLおよびVHドメインと強制的に対合され、それによって2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv (sFv)二量体を使用して二重特異性抗体断片を作出するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい。
【0116】
特定の態様において、二重特異性または多重特異性抗体は、DOCK-AND-LOCK(商標) (DNL(商標))複合体として形成されうる(例えば、米国特許第7,521,056号; 同第7,527,787号; 同第7,534,866号; 同第7,550,143号; および同第7,666,400号を参照されたく、これらの各々の実施例のセクションは参照により本明細書に組み入れられる)。一般に、この技法は、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の調節(R)サブユニットの二量体化およびドッキングドメイン(DDD)配列と種々のAKAPタンパク質のいずれかに由来するアンカードメイン(AD)配列との間に生ずる特異的かつ高親和性の結合相互作用を利用する(Baillie et al., FEBS Letters. 2005; 579: 3264; Wong and Scott, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2004; 5: 959)。DDDおよびADペプチドは、任意のタンパク質、ペプチドまたは他の分子に付着されうる。DDD配列は自発的に二量体化してAD配列に結合するため、この技法により、DDDまたはAD配列に付着されうる選択した任意の分子間での複合体の形成が可能になる。
【0117】
3つ以上の結合価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147: 60, 1991; Xu et al., Science, 358(6359):85-90, 2017)。多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞によって、二価抗体よりも速く内在化(および/または異化)されうる。本開示の抗体は、3つまたはそれ以上の抗原結合部位を有する多価抗体(例えば、四価抗体)であることができ、これは、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現によって容易に産生することができる。多価抗体は、二量体化ドメインおよび3つまたはそれ以上の抗原結合部位を含むことができる。好ましい二量体化ドメインは、Fc領域またはヒンジ領域を含む(またはそれからなる)。このシナリオでは、抗体はFc領域および、Fc領域のアミノ末端側の3つまたはそれ以上の抗原結合部位を含む。本明細書における好ましい多価抗体は、3つから約8つの、しかし好ましくは4つの抗原結合部位を含む(またはそれからなる)。多価抗体は、少なくとも1つのポリペプチド鎖(および好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含み、ここでポリペプチド鎖は2つまたはそれ以上の可変領域を含む。例えば、ポリペプチド鎖は、VD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを含むことができ、式中でVD1は第1の可変領域であり、VD2は第2の可変領域であり、FcはFc領域の1つのポリペプチド鎖であり、X1およびX2はアミノ酸またはポリペプチドを表し、nは0または1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-可動性リンカー-VH-CH1-Fc領域鎖; またはVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を含みうる。本明細書における多価抗体は、好ましくは、少なくとも2つ(および好ましくは4つ)の軽鎖可変領域ポリペプチドをさらに含む。本明細書における多価抗体は、例えば、約2つから約8つの軽鎖可変領域ポリペプチドを含みうる。本明細書で企図される軽鎖可変領域ポリペプチドは、軽鎖可変領域を含み、任意で、CLドメインをさらに含んでもよい。
【0118】
電荷修飾は多重特異性抗体との関連で特に有用であり、ここではFab分子におけるアミノ酸置換により、結合腕部の1つ(または複数、3つ以上の抗原結合Fab分子を含む分子の場合)でのVH/VL交換を伴ったFabに基づく二重/多重特異性抗原結合分子の産生において起こりうる、軽鎖と不一致の重鎖(Bence-Jones型の副産物)との誤対合の低減が得られる(PCT公開番号WO 2015/150447、特にその中の実施例も参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0119】
G. キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体分子は組換え融合タンパク質であり、抗原に結合することも、細胞質尾部に存在する免疫受容体活性化モチーフ(ITAM)を介して活性化シグナルを伝達することもするその能力によって区別される。(例えば、一本鎖抗体(scFv)から作出される抗原結合部分を利用する受容体構築体は、HLA非依存的に標的細胞表面上の天然抗原に結合するという点で「普遍的」であるという追加の利点をもたらす。
【0120】
キメラ抗原受容体は、当技術分野において公知の任意の手段によって産生することができるが、好ましくは、組換えDNA技法を用いて産生される。キメラ抗原受容体のいくつかの領域をコードする核酸配列は、分子クローニングの標準的な技法(ゲノムライブラリスクリーニング、PCR、プライマー支援ライゲーション、酵母および細菌由来scFvライブラリ、部位特異的突然変異誘発など)により完全なコード配列へ調製およびアセンブルすることができる。得られたコード領域を発現ベクターに挿入し、T細胞またはNK細胞のような、適当な発現宿主同種または自家免疫エフェクター細胞を形質転換するために用いることができる。
【0121】
本明細書において記述されるCARの態様には、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つまたは複数のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドをコードする核酸が含まれる。ある種の態様において、CARは、1つまたは複数の抗原間の共有空間から構成されるエピトープを認識しうる。いくつかの態様において、キメラ抗原受容体は、a) 細胞内シグナル伝達ドメイン、b) 膜貫通ドメイン、およびc) 抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインを含む。任意で、CARは、膜貫通ドメインと抗原結合ドメインとの間に配置されたヒンジドメインを含んでもよい。ある種の局面において、態様のCARは、CARの発現を細胞表面に向けるシグナルペプチドをさらに含む。例えば、いくつかの局面において、CARはGM-CSFからのシグナルペプチドを含むことができる。
【0122】
ある種の態様において、CARは、少量の腫瘍関連抗原が存在する場合の残留性を改善するために膜結合サイトカインと共発現されることもできる。例えば、CARは膜結合IL-15と共発現させることができる。
【0123】
CARのドメインの配置およびドメインにおいて用いられる特定の配列に応じて、CARを発現する免疫エフェクター細胞は、標的細胞に対して異なるレベルの活性を有しうる。いくつかの局面において、異なるCAR配列を免疫エフェクター細胞に導入して、操作細胞、SRCの上昇のために選択された操作細胞、および最大の治療効果を有すると予測されるCAR構築体を同定するための活性について試験された選択細胞を作出することができる。
【0124】
1. 抗原結合ドメイン
ある種の態様において、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、および/またはその抗原結合断片を含むことができる。別の態様において、その特異性は、受容体に結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来する。「相補性決定領域(CDR)」は、抗原を補完し、それゆえその特定の抗原に対するその特異性を受容体に提供する、抗原受容体(例えば、免疫グロブリンおよびT細胞受容体)タンパク質の可変ドメインに見られる短いアミノ酸配列である。抗原受容体の各ポリペプチド鎖は、3つのCDR (CDR1、CDR2、およびCDR3)を含む。抗原受容体は通常2つのポリペプチド鎖で構成されているため、抗原と接触しうる抗原受容体ごとに6つのCDRがある--各重鎖および軽鎖は3つのCDRを含む。免疫グロブリンおよびT細胞受容体に関連するほとんどの配列変異はCDRに見られるため、これらの領域は超可変ドメインといわれることもある。これらの中で、CDR3は、VJ (重鎖およびTCRαβ鎖の場合はVDJ)領域の組換えによってコードされるため、最大の可変性を示す。
【0125】
CAR核酸、特にscFv配列は、ヒト患者の細胞免疫療法を増強するためにヒト遺伝子であることが企図される。特定の態様において、全長CAR cDNAまたはコード領域が提供される。抗原結合領域またはドメインは、特定のマウス、またはヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)のVHおよびVL鎖の断片を含むことができる。断片は、抗原特異的抗体の任意の数の異なる抗原結合ドメインであることもできる。より具体的な態様において、断片は、ヒト細胞での発現のためのヒトコドン使用頻度に向けて最適化された配列によってコードされる抗原特異的scFvである。ある種の局面において、CARのVHおよびVLドメインは、ウィットロー(Whitlow)リンカーのような、リンカー配列によって分離されている。態様によって改変または使用されうるCAR構築体はまた、参照により本明細書に組み入れられる国際(PCT)特許公開番号WO/2015/123642において提供されている。
【0126】
前述のように、原型的なCARは、膜貫通ドメインおよび1つまたは複数の細胞質シグナル伝達ドメイン(例えば、共刺激ドメインおよびシグナル伝達ドメイン)にカップリングされた、1つのモノクローナル抗体(mAb)に由来するVHおよびVLドメインを含むscFvをコードする。したがって、CARは、腫瘍関連抗原のような、関心対象の抗原に結合する抗体のLCDR1~3配列およびHCDR1~3配列を含みうる。しかしながら、さらなる局面において、関心対象の抗原に結合する2つまたはそれ以上の抗体が同定され、以下を含むCARが構築される: (1) 抗原に結合する第1の抗体のHCDR1~3配列; および(2) 抗原に結合する第2の抗体のLCDR1~3配列。2つの異なる抗原結合抗体に由来するHCDRおよびLCDR配列を含むそのようなCARは、抗原の特定の立体配座(例えば、正常組織と比べてがん細胞に選択的に関連する立体配座)への選択的結合という利点を有しうる。
【0127】
あるいは、CAR+ T細胞のパネルを作出するために異なるmAbに由来するVHおよびVL鎖を用いてCARが操作されうることが示されている。CARの抗原結合ドメインは、第1の抗体のLCDR1~3配列および第2の抗体のHCDR1~3配列の任意の組み合わせを含むことができる。
【0128】
2. ヒンジドメイン
ある種の局面において、態様のCARポリペプチドは、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に配置されたヒンジドメインを含むことができる。場合によっては、ヒンジドメインをCARポリペプチドに含めて、抗原結合ドメインと細胞表面との間に適切な距離を提供するか、またはCAR遺伝子改変T細胞の抗原結合もしくはエフェクター機能に悪影響を与える可能性のある立体障害を軽減することができる。いくつかの局面において、ヒンジドメインは、FcγR2aまたはFcγR1aのような、Fc受容体に結合する配列を含む。例えば、ヒンジ配列は、Fc受容体に結合するヒト免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgDまたはIgE)からのFcドメインを含みうる。ある種の局面において、ヒンジドメイン(および/またはCAR)は、野生型ヒトIgG4 CH2およびCH3配列を含まない。
【0129】
場合によっては、CARヒンジドメインは、ヒト免疫グロブリン(Ig)定常領域またはIgヒンジを含むその一部分に由来し、またはヒトCD8α膜貫通ドメインおよびCD8aヒンジ領域に由来しうる。1つの局面において、CARヒンジドメインは、抗体アイソタイプIgG4のヒンジ-CH2-CH3領域を含むことができる。いくつかの局面において、点突然変異を抗体重鎖CH2ドメインに導入して、CAR-T細胞または他の任意のCAR改変細胞のグリコシル化および非特異的Fcガンマ受容体結合を低減させることができる。
【0130】
ある種の局面において、態様のCARヒンジドメインは、Fc受容体結合を低減する野生型Ig Fcドメインと比べて少なくとも1つの変異を含むIg Fcドメインを含む。例えば、CARヒンジドメインは、Fc受容体結合を低減する野生型IgG4-Fcドメインと比べて少なくとも1つの変異を含むIgG4-Fcドメインを含むことができる。いくつかの局面において、CARヒンジドメインは、野生型IgG4-Fc配列と比べてL235および/またはN297に対応する位置に変異(アミノ酸の欠失または置換のような)を有するIgG4-Fcドメインを含む。例えば、CARヒンジドメインは、野生型IgG4-Fc配列と比べてL235Eおよび/またはN297Q変異を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。さらなる局面において、CARヒンジドメインは、位置番号L235でのR、H、K、D、E、S、T、NもしくはQのような、親水性であるまたはDのような「E」と同様の特性を有するアミノ酸へのアミノ酸置換を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。ある種の局面において、CARヒンジドメインは、位置番号N297でのSまたはTのような「Q」と同様の特性を有するアミノ酸へのアミノ酸置換を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。
【0131】
ある種の特定の局面において、ヒンジドメインは、IgG4ヒンジドメイン、CD8aヒンジドメイン、CD28ヒンジドメインまたは操作されたヒンジドメインと約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む。
【0132】
3. 膜貫通ドメイン
抗原特異的細胞外ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインは、膜貫通ドメインによって連結されうる。膜貫通ドメインの一部として使用できるポリペプチド配列は、非限定的に、ヒトCD4膜貫通ドメイン、ヒトCD28膜貫通ドメイン、膜貫通ヒトCD3ζドメイン、もしくはシステイン変異ヒトCD3ζドメイン、またはCD16およびCD8ならびにエリスロポエチン受容体のような、他のヒト膜貫通シグナル伝達タンパク質からの他の膜貫通ドメインを含む。いくつかの局面において、例えば、膜貫通ドメインは、ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2014/0274909号に提供されているもの(例えばCD8および/もしくはCD28膜貫通ドメイン)または米国特許第8,906,682号に提供されているもの(例えばCD8α膜貫通ドメイン)の1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の配列を含む。本発明において特に有用な膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し(すなわち、少なくともそれらの膜貫通領域を含み)うる。ある種の特定の局面において、膜貫通ドメインは、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインと85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であることができる。
【0133】
4. 細胞内シグナル伝達ドメイン
態様のキメラ抗原受容体の細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ抗原受容体を発現するように操作された免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。「エフェクター機能」という用語は、分化した細胞の特殊な機能をいう。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性でありうる。ナイーブ、記憶、または記憶型のT細胞におけるエフェクター機能は、抗原依存性増殖を含む。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特殊な機能を実行するように指示するタンパク質の部分をいう。いくつかの局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、天然受容体の細胞内シグナル伝達ドメインに由来する。そのような天然受容体の例としては、T細胞受容体のζ鎖またはその相同体(例えば、η、δ、γ、またはε)のいずれか、MB1鎖、B29、Fc RIII、Fc RI、およびシグナル伝達分子の組み合わせ、例えばCD3ζおよびCD28、CD27、4-1BB、DAP-10、OX40、およびその組み合わせ、ならびに他の同様の分子および断片が挙げられる。活性化タンパク質のファミリーの他のメンバーの細胞内シグナル伝達部分を用いることができる。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が利用されるが、多くの場合、細胞内ポリペプチド全体を用いる必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分に用途がありうる範囲で、エフェクター機能シグナルを伝達する限り、そのような切断部分がインタクトの鎖の代わりに用いられうる。したがって「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、CARが標的に結合する際に、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分を含むことを意味する。好ましい態様において、ヒトCD3ζ細胞内ドメインは、態様のCARの細胞内シグナル伝達ドメインとして用いられる。
【0134】
特定の態様において、CARにおける細胞内受容体シグナル伝達ドメインは、例えば、単独でまたはCD3ζとのシリーズで、T細胞抗原受容体複合体のもの、例えばCD3のζ鎖、同様にFcγ RIII共刺激シグナル伝達ドメイン、CD28、CD27、DAP10、CD137、OX40、CD2を含む。特定の態様において、細胞内ドメイン(これは細胞質ドメインといわれうる)は、TCRζ鎖、CD28、CD27、OX40/CD134、4-1BB/CD137、FcεRIγ、ICOS/CD278、IL-2Rβ/CD122、IL-2Rα/CD132、DAP10、DAP12、およびCD40の1つまたは複数の一部または全部を含む。いくつかの態様において、細胞内ドメインにおける内因性T細胞受容体複合体の任意の部分を利用する。いわゆる第3世代CARは、相加効果または相乗効果のために一緒に融合された少なくとも2つまたは3つのシグナル伝達ドメインを有するので、1つまたは複数の細胞質ドメインを利用することができ、例えばCD28および4-1BBをCAR構築体において組み合わせることができる。
【0135】
いくつかの態様において、CARは、さらなる他の共刺激ドメインを含む。他の共刺激ドメインは、CD28、CD27、OX-40 (CD134)、DAP10、および4-1BB (CD137)の1つまたは複数を含むことができるが、これらに限定されることはない。CD3ζによって開始される一次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激受容体によって提供されるさらなるシグナルは、T細胞の完全な活性化にとって重要であり、インビボでの残留性と養子免疫療法の治療的成功を改善するのに役立ちうる。
【0136】
ある種の特定の局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD137細胞内ドメイン、または4-1BB細胞内ドメインに融合されたCD28細胞内ドメインを含むドメインと85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の配列を含む。
【0137】
H. ADC
抗体薬物結合体またはADCは、疾患を有す人を処置するための標的療法として設計された新しいクラスの非常に強力な生物製剤薬物である。ADCは、安定した化学リンカーを介して不安定結合によって、生物学的に活性な細胞毒性/抗ウイルスペイロードまたは薬物に連結された抗体(mAb全体または抗体断片、例えば、一本鎖可変断片、またはscFv)で構成される複合分子である。抗体薬物結合体は生物結合体および免疫結合体の例である。
【0138】
モノクローナル抗体の固有の標的化能力を細胞毒性薬物のがん死滅能力と組み合わせることによって、抗体-薬物結合体は健常組織と疾患組織を高感度で区別することができる。このことは、従来の全身的アプローチとは対照的に、健常細胞ががん細胞よりも弱く冒されるように、抗体-薬物結合体が疾患細胞を標的化および攻撃することを意味する。
【0139】
開発ADCに基づく抗腫瘍療法では、抗がん薬(例えば、細胞毒素または細胞毒)は、ある種の細胞マーカー(例えば、理想的には、感染細胞の中にだけ、または感染細胞上にだけ見出されるタンパク質)を特異的に標的化する抗体にカップリングされる。抗体は、体内にある、これらのタンパク質を突き止め、がん細胞の表面に付着する。抗体と標的タンパク質(抗原)との間の生化学反応によって腫瘍細胞内にシグナルが誘発され、次いで、抗体は細胞毒と一緒に吸収または内部移行される。ADCが内部移行された後に、細胞毒性薬物が放出され、細胞を死滅させ、または細胞複製を損なう。この標的化により、理想的なことには、この薬物は他の薬剤よりも副作用が少なく、かつ広範囲の治療可能時間域をもたらす。
【0140】
抗体と細胞毒性剤との間の安定な連結はADCの重要な局面である。リンカーは、ジスルフィド、ヒドラゾン、もしくはペプチド(切断可能)、またはチオエーテル(切断不可能)を含む化学モチーフに基づいており、標的細胞への細胞毒性剤の分布および送達を制御する。切断可能なタイプのリンカーおよび切断不可能なタイプのリンカーは前臨床試験および臨床試験において安全なことが分かっている。ブレンツキシマブベドチン(brentuximab vedotin)は、合成抗悪性腫瘍剤である、強力な、かつ毒性が高い微小管阻害剤モノメチルアウリスタチンEまたはMMAEをヒト特異的CD30陽性悪性細胞に送達する酵素感受性の切断可能なリンカーを含む。この高毒性のために、チューブリン重合を遮断することによって細胞分裂を阻害するMMAEは単一薬剤化学療法剤として用いることができない。しかしながら、抗CD30モノクローナル抗体(cAC10、腫瘍壊死因子またはTNF受容体の細胞膜タンパク質)に連結されたMMAEの組み合わせは細胞外液体中で安定しており、カテプシンによって切断することができ、療法にとって安全なことが分かった。他の認可されたADCであるトラスツズマブエムタンシンは、安定している切断不可能なリンカーによって付着された、マイタンシンの誘導体である微小管形成阻害剤メルタンシン(DM-1)と抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)/Genentech/Roche)の組み合わせである。
【0141】
より優れ、より安定なリンカーが利用できるようになったことで、化学結合の機能が変化した。切断可能なタイプのリンカーまたは切断不可能なタイプのリンカーは、特定の特性を細胞毒性(抗がん)薬物に与える。例えば、切断不可能なリンカーは、薬物を細胞内に保つ。結果として、抗体全体とリンカーと細胞毒性剤は標的がん細胞に入り、標的がん細胞において抗体はアミノ酸のレベルまで分解される。その場合には、結果として生じた複合体であるアミノ酸とリンカーと細胞毒性剤は、活性薬物になっている。対照的に、切断可能なリンカーは、宿主細胞内にある酵素によって触媒され、宿主細胞内で細胞毒性剤を放出する。
【0142】
現在開発されている別のタイプの切断可能なリンカーは、細胞毒性薬物と切断部位との間に余分な分子を加える。このリンカー技術を用いると、研究者らは、切断キネティクスを変える心配をすることなく、もっと大きな可動性をもつADCを作り出すことが可能になる。研究者らはまた、ペプチドのアミノ酸を配列決定する方法であるエドマン分解に基づく新しいペプチド切断方法も開発している。ADC開発における将来の方向には、安定性および治療指数をさらに改善するための部位特異的結合化(TDC)の開発ならびにα放射免疫結合体および抗体結合ナノ粒子も含まれる。
【0143】
I. BiTES
二重特異性T細胞エンゲージャー(Bi-specific T-cell engager)(BiTE)は、抗がん薬物として使用するために研究されている人工二重特異性モノクローナル抗体の一種である。それらは宿主の免疫系を、具体的にはT細胞の細胞毒性活性を感染細胞に向ける。BiTEはMicromet AGの登録商標である。
【0144】
BiTEは、約55キロダルトンの1本のペプチド鎖上にある、異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)、または4つの異なる遺伝子に由来するアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvの一方はCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は特異的分子を介して感染細胞に結合する。
【0145】
他の二重特異性抗体と同様に、かつ通常のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEはT細胞と標的細胞との間に連結を形成する。これにより、MHC Iまたは補助刺激分子の存在とは無関係に、T細胞は、タンパク質に似たパーフォリンおよびグランザイムを産生することによって細胞毒性活性を感染細胞に及ぼす。これらのタンパク質は感染細胞に入り、細胞のアポトーシスを開始する。この働きは、T細胞が感染細胞を攻撃している間に観察される生理学的プロセスによく似ている。
【0146】
J. イントラボディ
特定の態様において、抗体は、細胞内での作用に適した組換え抗体であり、そのような抗体は「イントラボディ」として知られている。これらの抗体は、細胞内タンパク質輸送を改変する、酵素機能を妨げる、およびタンパク質-タンパク質またはタンパク質-DNA相互作用を遮断するなどの、種々の機構により標的機能を妨げうる。それらの構造は、多くの点で、上述の一本鎖抗体および単一ドメイン抗体の構造の模倣であるか、またはそれらと同等である。実際、単一転写物/一本鎖であることは、標的細胞における細胞内発現を可能にする重要な特徴であり、また、細胞膜を介したタンパク質輸送もより実現可能となる。しかしながら、他の特徴も必要である。
【0147】
イントラボディ療法の実現に影響を及ぼす2つの主要な問題は、細胞/組織標的化を含めて、送達、および安定性である。送達に関しては、組織特異的送達、細胞型特異的プロモーターの使用、ウイルスに基づく送達および細胞透過性/膜転座ペプチドの使用のような、種々のアプローチが利用されている。送達の1つの手段には、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2018/0177727号に教示されているように、脂質に基づくナノ粒子、またはエクソソームの使用が含まれる。安定性に関しては、一般に、ファージディスプレイを伴い、配列成熟またはコンセンサス配列の開発を含みうる方法を含めて、力ずくのスクリーニングか、または安定化配列(例えば、Fc領域、シャペロンタンパク質配列、ロイシンジッパー)の挿入およびジスルフィド置換/修飾などの、より直接的な修飾のいずれかに向けたアプローチがとられる。
【0148】
イントラボディが必要としうるさらなる特徴は、細胞内標的化のためのシグナルである。イントラボディ(または他のタンパク質)を細胞質、核、ミトコンドリアおよびERのような細胞下領域に標的化することができるベクターが設計されており、市販されている(Invitrogen Corp.)。
【0149】
K. 精製
本開示の抗体は精製されてもよい。本明細書において用いられる「精製された」という用語は、他の成分から単離可能な組成物をいうことが意図され、この場合、タンパク質は、天然に入手可能な状態と比べて任意の程度まで精製される。それゆえ、精製されたタンパク質はまた、天然に生じうる環境を含まないタンパク質もいう。「実質的に精製された」という用語が用いられる場合、この表示は、タンパク質またはペプチドが組成物の主要成分を形成している、例えば、組成物中にあるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成する組成物をいう。
【0150】
タンパク質精製法は当業者に周知である。これらの技法は、あるレベルで、細胞環境をポリペプチド画分および非ポリペプチド画分に粗分画(crude fractionation)することを伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離した後に、部分的または完全に精製するために(または均一になるまで精製するために)クロマトグラフィー法および電気泳動法を用いて、関心対象のポリペプチドがさらに精製されてもよい。純粋なペプチドの調製物に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー; ポリアクリルアミドゲル電気泳動; 等電点電気泳動である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変性と、それに続く遠心分離による沈殿; ゲルろ過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティクロマトグラフィー; ならびにそのような技法と他の技法の組み合わせが含まれる。
【0151】
本開示の抗体を精製する際に、原核生物発現システムまたは真核生物発現システムにおいてポリペプチドを発現させ、変性条件を用いてタンパク質を抽出することが望ましい場合がある。ポリペプチドは、ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティカラムを用いて他の細胞成分から精製されてもよい。当技術分野において一般に公知なように、さまざまな精製段階を行う順序は変えられてもよく、またはある特定の段階は省かれてもよく、それでもなお、実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを調製するために適当な方法をもたらすと考えられている。
【0152】
通常、完全な抗体は、抗体のFc部分に結合する薬剤(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。あるいは、適切な抗体の精製と選択を同時に行うために抗原が用いられることがある。このような方法では、多くの場合、カラム、フィルタ、またはビーズなどの支持体に結合した選択薬剤が利用される。抗体は支持体に結合され、夾雑物は除去され(例えば、洗い流され)、条件(塩、熱など)を適用することによって抗体は放出される。
【0153】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するためのさまざまな方法は本開示を考慮すれば当業者に公知である。これらの方法は、例えば、活性画分の比活性を求める段階、またはSDS/PAGE分析によって画分の中にあるポリペプチドの量を評価する段階を含む。画分の純度を評価するための別の方法は、画分の比活性を計算し、これと初回抽出物の比活性と比較し、したがって、純度の程度を計算する方法である。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、もちろん、発現されたタンパク質またはペプチドが、検出可能な活性を示しても示さなくても、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技法によって決まる。
【0154】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの異なる条件によって、時として大きく変化する場合があることが知られている。それゆえ、異なる電気泳動条件下では、精製されたまたは部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変化する場合があることが理解される。
【0155】
L. 抗体結合体
本開示の抗体を少なくとも1種類の薬剤に連結させて、抗体結合体を形成させてもよい。診断剤または治療剤として抗体分子の効力を高めるために、少なくとも1つの望ましい分子または部分を連結または共有結合または複合体化することは従来のやり方である。そのような分子または部分は少なくとも1つのエフェクターまたはレポーター分子でもよいが、これらに限定されることはない。エフェクター分子は、望ましい活性、例えば、細胞毒性活性を有する分子を含む。抗体に付着されているエフェクター分子の非限定的な例としては、毒素、抗腫瘍剤、治療用酵素、放射性核種、抗ウイルス剤、キレート剤、サイトカイン、増殖因子、およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを用いて検出されうる任意の部分と定義される。抗体に結合されているレポーター分子の非限定的な例としては、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色粒子またはリガンド、例えばビオチンが挙げられる。
【0156】
抗体結合体は、一般的に、診断剤として使用するのに好ましい。抗体診断剤は、一般的に、2つのクラス、種々の免疫アッセイなどインビトロ診断で用いるための抗体診断剤と、「抗体特異的画像化(antibody-directed imaging)」として一般に知られるインビボ診断プロトコルで用いるための抗体診断剤に分類される。多くの適切な画像化薬剤が当技術分野において公知であり、同様に、画像化薬剤を抗体に付着させるための方法も当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、同第4,938,948号、および同第4,472,509号を参照されたい)。使用される画像化部分は、常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMRによって検出可能な物質、およびX線画像化薬剤であることができる。
【0157】
常磁性イオンの場合、一例として、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、および/またはエルビウム(III)などのイオンが言及される場合があり、ガドリニウムが特に好ましい。X線画像化などの他の状況において有用なイオンには、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、特に、ビスマス(III)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0158】
治療用途および/または診断用途のための放射性同位体の場合、アスタチン211、14炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレン、35硫黄、テクネチウム99m、および/またはイットリウム90が言及される場合がある。ある種の態様において用いるのに125Iが好ましいことが多いが、テクネチウム99mおよび/またはインジウム111もまた、エネルギーが小さく、長距離検出に適しているために好ましいことが多い。本開示の放射活性標識されたモノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法によって作出されうる。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはヨウ化カリウム、ならびに化学的酸化剤、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、または酵素的酸化剤、例えば、ラクトペルオキシダーゼと接触させることによってヨウ素化することができる。本開示によるモノクローナル抗体は、リガンド交換プロセスによって、例えば、ペルテクナート(pertechnate)をスズ溶液によって還元し、還元されたテクネチウムをSephadexカラムでキレート化し、このカラムに抗体を適用することによってテクネチウム99mで標識されてもよい。あるいは、例えば、ペルテクナート、還元剤、例えば、SNCl2、緩衝溶液、例えば、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液、および抗体をインキュベートすることによって直接標識する技法が用いられてもよい。金属イオンとして存在する放射性同位体を抗体に結合させるために用いられることが多い中間官能基は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。
【0159】
結合体として用いるのに企図される蛍光標識の中には、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー(Pacific Blue)、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン(Renographin)、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはテキサスレッドが含まれる。
【0160】
本開示において企図される別のタイプの抗体結合体は、主にインビトロで用いることが意図される抗体結合体である。この場合、抗体は、二次結合リガンド、および/または発色基質と接触すると色のついた生成物を生じる酵素(酵素タグ)に連結される。適当な酵素の例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)ハイドロゲンペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)またはグルコースオキシダーゼが挙げられる。好ましい二次結合リガンドはビオチンならびにアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。そのような標識の使用は当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号および同第4,366,241号に記述されている。
【0161】
分子を抗体に部位特異的に付着させる、さらに別の公知の方法は、抗体を、ハプテンに基づく親和性標識と反応させることを含む。本質的に、ハプテンに基づく親和性標識は抗原結合部位にあるアミノ酸と反応し、それによって、この部位を破壊し、特異的な抗原反応を遮断する。しかしながら、このことは、抗体結合体による抗原結合の消失の原因となるので有利でない場合がある。
【0162】
アジド基を含有する分子もまた、低強度紫外線によって生じた反応性ニトレン中間体を介してタンパク質との共有結合を形成するために用いられる場合がある。特に、細胞粗抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を特定するための部位特異的フォトプローブ(photoprobe)として、プリンヌクレオチドの2-アジド類似体および8-アジド類似体が用いられている。2-アジドヌクレオチドおよび8-アジドヌクレオチドはまた精製タンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするのにも用いられており、抗体結合剤として用いられる可能性がある。
【0163】
抗体をその結合体部分に付着させ、または結合させるための、いくつかの方法が当技術分野において公知である。付着方法の中には、例えば、抗体に付着された有機キレート剤、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA); エチレントリアミン四酢酸; N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド; および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3を用いた金属キレート錯体の使用を伴うものもある(米国特許第4,472,509号および同第4,938,948号)。モノクローナル抗体はまた、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素と反応されることがある。フルオレセインマーカーとの結合体は、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号では、乳腺腫瘍の画像化がモノクローナル抗体を用いて成し遂げられ、検出可能な画像化部分は、メチル-p-ヒドロキシベンズイミダートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートなどのリンカーを用いて抗体に結合される。
【0164】
他の態様において、抗体結合部位を変えない反応条件を用いて免疫グロブリンのFc領域にスルフヒドリル基を選択的に導入することによって免疫グロブリンが誘導体化されることが意図される。この方法にしたがって作出された抗体結合体は、改善した寿命、特異性、および感度を示すことが開示される(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,196,066号)。レポーターまたはエフェクター分子がFc領域にある炭水化物残基に結合される、エフェクターまたはレポーター分子の部位特異的な付着も文献に開示されている。このアプローチは、現在、臨床評価されている、診断および治療に有望な抗体を生じると報告されている。
【0165】
II. 処置の方法
本発明の態様のある種の局面は、膵管腺がんなどの、TP-CAFの存在に関連する疾患または障害を予防または処置するために用いることができる。TP-CAFの機能は、任意の適当な薬物によって低減されうる。例えば、そのような物質は、抗TP-CAF抗体またはキメラ抗原受容体でありうる。さらに、本発明の態様は、免疫チェックポイント遮断療法と組み合わせて、また任意で標準治療の化学療法と組み合わせてIL-6シグナル伝達阻害剤を投与することにより、免疫チェックポイント遮断療法に以前は耐性であったがんを処置するために用いることができる。
【0166】
「処置」および「処置する」は、疾患または健康関連状態の治療的利益を得る目的での、対象への治療剤の投与もしくは適用、または対象に対する医療手当もしくはモダリティの実施をいう。例えば、処置は、TP-CAFを単独で、あるいは化学療法、免疫療法もしくは放射線療法の施行、手術の実施またはそれらの任意の組み合わせとの組み合わせで、標的化する抗体の薬学的に有効な量の投与を含みうる。
【0167】
本明細書において用いられる「対象」という用語は、主題の方法が実施される任意の個体または患者をいう。一般に、対象はヒトであるが、当業者によって理解されるように、対象は動物であってもよい。したがって、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、およびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、家畜(ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む)、ならびに霊長類(サル、チンパンジー、オランウータン、およびゴリラを含む)のような、哺乳類を含む、その他の動物は、対象の定義のなかに含まれる。
【0168】
本出願を通じて用いられる「治療的利益」または「治療的に有効な」という用語は、この状態の医学的処置に関して対象の健康を促進または増強するもの何でもいう。これには、がんのような、疾患の徴候または症状の頻度または重症度の低減が含まれるが、これらに限定されることはない。例えば、がんの処置は、例えば、腫瘍のサイズの低減、腫瘍の浸潤性の低減、がんの成長速度の低減、または転移の予防を伴いうる。がんの処置は、がんを有する対象の生存期間の延長をいうこともある。
【0169】
本明細書において用いられる「がん」という用語は、固形腫瘍、転移がん、または非転移がんを記述するために用いられうる。ある種の態様において、がんは、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、十二指腸、小腸、大腸、結腸、直腸、肛門、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、首、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮で発生しうる。
【0170】
がんは、具体的には、以下の組織学的タイプのものであってもよいが、これらに限定されることはない: 新生物、悪性; がん腫; がん腫、未分化; 巨細胞および紡錘体細胞のがん腫; 小細胞がん; 乳頭状がん; 扁平上皮がん; リンパ上皮がん; 基底細胞がん; 石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma); 移行上皮がん; 乳頭状移行上皮がん; 腺がん; ガストリノーマ、悪性; 胆管がん; 肝細胞がん; 混合型肝細胞がんおよび胆管がん; 小柱腺がん(trabecular adenocarcinoma); 腺様嚢胞がん; 腺腫性ポリープ内腺がん; 腺がん、家族性大腸ポリポーシス; 固形がん; カルチノイド腫瘍、悪性; 細気管支肺胞腺がん; 乳頭状腺がん; 色素嫌性がん; 好酸性がん; 好酸性腺がん; 好塩基球がん腫; 明細胞腺がん; 顆粒細胞がん; 濾胞腺がん; 乳頭状腺がんおよび濾胞腺がん; 非被包性硬化性がん(nonencapsulating sclerosing carcinoma); 副腎皮質がん; 類内膜がん; 皮膚付属器がん; アポクリン腺がん; 皮脂腺がん; 耳垢腺がん; 粘表皮がん; 嚢胞腺がん; 乳頭状嚢胞腺がん; 乳頭状漿液嚢胞腺がん; 粘液性嚢胞腺がん; 粘液性腺がん; 印環細胞がん; 浸潤性導管がん; 髄様がん; 小葉がん; 炎症性がん; パジェット病、乳房; 腺房細胞がん; 腺扁平上皮がん; 扁平上皮化生随伴腺がん(adenocarcinoma w/squamous metaplasia); 胸腺腫、悪性; 卵巣間質腫、悪性; 莢膜細胞腫、悪性; 顆粒膜細胞腫、悪性; アンドロブラストーマ、悪性; セルトリ細胞腫; ライディッヒ細胞腫、悪性; 脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor)、悪性; パラガングリオーマ、悪性; 乳房外パラガングリオーマ(extra-mammary paraganglioma)、悪性; クロム親和細胞腫; 血管球血管肉腫; 悪性黒色腫; 無色素性黒色腫; 表在拡大型黒色腫; 巨大色素性母斑中の悪性黒色腫; 類上皮細胞黒色腫; 青色母斑、悪性; 肉腫; 線維肉腫; 線維性組織球腫、悪性; 粘液肉腫; 脂肪肉腫; 平滑筋肉腫; 横紋筋肉腫; 胎児性横紋筋肉腫; 胞巣型横紋筋肉腫; 間質性肉腫; 混合腫瘍、悪性; ミューラー混合腫瘍; 腎芽腫; 肝芽腫; がん肉腫; 間葉腫、悪性; ブレンナー腫瘍、悪性; 葉状腫瘍、悪性; 滑膜肉腫; 中皮腫、悪性; 未分化胚細胞腫; 胚性がん腫; テラトーマ、悪性; 卵巣甲状腺腫、悪性; 絨毛がん; 中腎腫、悪性; 血管肉腫; 血管内皮腫、悪性; カポジ肉腫; 血管周囲細胞腫、悪性; リンパ管肉腫; 骨肉腫; 傍骨骨肉腫; 軟骨肉腫; 軟骨芽細胞腫、悪性; 間葉性軟骨肉腫; 骨巨細胞腫; ユーイング肉腫; 歯原性腫瘍、悪性; エナメル芽細胞歯牙肉腫; エナメル上皮腫、悪性; エナメル上皮線維肉腫; 松果体腫、悪性; 脊索腫; 神経膠腫、悪性; 上衣腫; 星状細胞腫; 原形質性星状細胞腫; 線維性星状細胞腫; 星状芽細胞腫; グリア芽細胞腫; 乏突起神経膠腫; 乏突起神経膠芽細胞腫; 未分化神経外胚葉性; 小脳肉腫; 神経節芽細胞腫; 神経芽細胞腫; 網膜芽細胞腫; 嗅神経腫瘍; 髄膜腫、悪性; 神経線維肉腫; 神経鞘腫、悪性; 顆粒細胞腫瘍、悪性; 悪性リンパ腫; ホジキン病; ホジキン; 側肉芽腫; 悪性リンパ腫、小リンパ球性; 悪性リンパ腫、びまん性大細胞性; 悪性リンパ腫、濾胞性; 菌状息肉腫; 明記された他の非ホジキンリンパ腫; 悪性組織球症; 多発性骨髄腫; マスト細胞肉腫; 免疫増殖性小腸疾患; 白血病; リンパ性白血病; プラズマ細胞白血病; 赤白血病; リンパ肉腫細胞性白血病; 骨髄性白血病; 好塩基球性白血病; 好酸球性白血病; 単球性白血病; マスト細胞白血病; 巨核芽球性白血病; 骨髄肉腫; および毛様細胞性白血病。とはいえ、本発明は、非がん性疾患(例えば、真菌感染症、細菌感染症、ウイルス感染症、神経変性疾患、および/または遺伝性障害)を処置するために用いられてもよいことも認識されている。
【0171】
A. 製剤および投与
本開示は、TP-CAFを選択的に標的化とする抗体を含む薬学的組成物を提供する。そのような組成物は、予防的または治療的に有効な量の抗体またはその断片および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様において、「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、または米国薬局方、もしくは動物で用いるための、さらに詳細には、ヒトで用いるための、一般に認められている他の薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、治療用物質とともに投与される希釈剤、賦形剤、または媒体をいう。そのような薬学的担体は、石油、動物、野菜または合成由来のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などを含む、無菌の液体、例えば水および油であることができる。薬学的組成物が静脈内投与される場合、水は特定の担体である。生理食塩水溶液ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、特に注射可能な溶液の場合、液体担体として利用することができる。他の適当な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。
【0172】
組成物は、望ましければ、湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を微量含むこともできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末、および徐放性製剤などの形態をとることができる。経口製剤は、薬学等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような標準的な担体を含むことができる。適当な薬剤(pharmaceutical agent)の例は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記述されている。そのような組成物は、患者に適した投与のための形態を提供するために適当な量の担体とともに、予防的または治療的に有効な量の抗体またはその断片を、好ましくは精製された形態で含有する。製剤は、経口、静脈内、動脈内、口腔内、鼻腔内、噴霧、気管支吸入、直腸内、膣、局所でありうるか、または機械的人工換気によって送達されうる、投与様式に適合すべきである。
【0173】
抗体の受動移入は一般に、静脈内または筋肉内注射の使用を伴う。抗体の形態はモノクローナル抗体(MAb)としてでもよい。そのような免疫は一般に、ほんの短い間しか持続せず、特に非ヒト由来のγグロブリンからの、過敏反応および血清病の潜在的なリスクもある。抗体は注射に適した、すなわち、無菌で注射可能な、担体中に製剤化される。
【0174】
一般に、本開示の組成物の成分は、単位投与剤形で、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェのような密封容器中に乾燥凍結された乾燥粉末または無水濃縮物として、個別にまたはともに混合して供給される。組成物が注入によって投与される場合、組成物を、無菌薬学等級の水または生理食塩水を含有する注入ボトルに分配することができる。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合されうるように、無菌注射用水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0175】
本開示の組成物は中性または塩の形態として製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから導出されるものなどの陰イオンを用いて形成された塩、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから導出されるものなどの陽イオンを用いて形成された塩を含む。
【0176】
B. キットおよび診断薬
態様のさまざまな局面において、治療剤ならびに/または他の治療剤および送達剤を含有するキットが想定される。本発明の態様は、態様の治療法を調製および/または投与するためのキットを企図する。キットは、本発明の態様の薬学的組成物のいずれかを含有する1つまたは複数の密封したバイアルを含んでもよい。キットは、例えば、少なくとも1つの抗TP-CAF抗体、ならびに態様の成分を調製、処方、および/もしくは投与するための、または本発明の方法の1つもしくは複数の段階を実施するための試薬を含んでもよい。いくつかの態様において、キットは、キットの成分と反応しない容器である適当な容器、例えば、エッペンドルフチューブ、アッセイプレート、注射器、ボトル、またはチューブも含んでもよい。容器は、プラスチックまたはガラスのような、滅菌可能な材料から作製されてもよい。
【0177】
キットは、本明細書において記載される方法の手順段階を概説する指示書をさらに含んでもよく、本明細書において記述されるのと実質的に同じ手順に従うか、または当業者に公知である。指示書の情報は、コンピュータを用いて実行された時に、薬学的に有効な量の治療剤を送達する現実または仮想の手順の表示をもたらす機械可読指示書を含むコンピュータ可読媒体の中にあってもよい。
【0178】
C. ADCC
抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞による抗体被覆標的細胞の溶解につながる免疫機構である。標的細胞は、一般にFc領域のN末端側であるタンパク質部分を介して、Fc領域を含む抗体またはその断片が特異的に結合する細胞である。「抗体依存性細胞傷害(ADCC)の増加/低減を有する抗体」とは、当業者に公知の任意の適当な方法によって決定される、ADCCの増加/低減を有する抗体を意味する。
【0179】
本明細書において用いられる場合、「ADCCの増加/低減」という用語は、上記で定義されたADCCの機構による、標的細胞を取り巻く培地中の所与の濃度の抗体で、所与の時間内に溶解される標的細胞の数の増加/低減、および/またはADCCの機構による、所与の時間内に所与の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り巻く培地中の、抗体濃度の低減/増加のいずれかとして定義される。ADCCの増加/低減は、同じ標準的な産生、精製、処方および貯蔵方法(これらは当業者に公知である)を用いて、同じタイプの宿主細胞により産生されるが、しかし操作されていない、同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。例えば、本明細書において記述される方法によってグリコシル化パターンの改変を有するように(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ、GnTIII、または他のグリコシルトランスフェラーゼを発現するように)操作された宿主細胞により産生される抗体によって媒介されるADCCの増加は、同じタイプの非操作宿主細胞によって産生された同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。
【0180】
D. CDC
補体依存性細胞傷害(CDC)は、補体系の機能である。それは、免疫系の抗体または細胞の関与なしに、病原体の膜を損傷することによって病原体を死滅化する免疫系におけるプロセスである。3つの主要なプロセスがある。3つ全てが病原体に1つまたは複数の膜侵襲複合体(MAC)を挿入し、これによって致死的なコロイド浸透圧膨潤、すなわちCDCが引き起こされる。これは、抗体または抗体断片が細胞毒性効果を発揮する機構の1つである。
【0181】
E. 併用療法
ある種の態様において、本発明の態様の組成物および方法は、化学療法または免疫療法のような、第2のまたは追加の療法と組み合わせて、それらの活性を阻害するTP-CAFに対する抗体または抗体断片を含む。そのような治療法は、TP-CAFに関連する任意の疾患の処置において適用することができる。例えば、疾患はがんでありうる。
【0182】
併用療法を含む、方法および組成物は、治療もしくは予防効果を増強させ、および/または別の抗がんもしくは抗過剰増殖療法の治療効果を増加させる。治療および予防方法および組成物は、がん細胞の死滅および/または細胞過剰増殖の阻害のような、所望の効果を達成するのに効果的な組み合わされた量で提供することができる。このプロセスは、細胞を、抗体または抗体断片および第2の療法の両方と接触させることを含みうる。組織、腫瘍、または細胞は、薬剤(すなわち、抗体もしくは抗体断片または抗がん剤)の1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の組成物または薬理学的配合物と接触させることができ、または組織、腫瘍、および/もしくは細胞を2つもしくはそれ以上の異なる組成物もしくは製剤と接触させることにより、1つの組成物は、1) 抗体もしくは抗体断片、2) 抗がん剤、または3) 抗体もしくは抗体断片および抗がん剤の両方を提供する。また、こうした併用療法は、化学療法、放射線療法、外科療法、または免疫療法とともに用いることができるものと企図される。
【0183】
「接触された」および「曝露された」という用語は、細胞に適用される場合、それにより治療用構築体および化学療法剤もしくは放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、または標的細胞と直接隣接して配置されるプロセスを記述するために本明細書において用いられる。細胞死滅化を達成するには、例えば、両方の薬剤が細胞に、細胞を死滅させるか、またはこれが分裂するのを防止するのに効果的な組み合わされた量で送達される。
【0184】
治療用抗体は、抗がん処置の前に、その間に、その後に、またはそれに関するさまざまな組み合わせで投与されうる。投与は、同時から数分、数日、数週間に及ぶ間隔が置かれうる。抗体または抗体断片が患者に抗がん剤とは別々に提供される態様では、一般的には、2つの化合物が依然として患者に対して有利に組み合わされた効果を発揮することができるように、各送達間で有効期間が切れないことが確保されるであろう。こうした例では、患者に抗体療法および抗がん療法を、互いの約12~24または72時間以内および、より具体的には、互いの約6~12時間以内に提供しうることが企図される。いくつかの状況では、処置期間を顕著に延長することが望ましい場合があり、各投与間で数日(2、3、4、5、6、または7)~数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0185】
ある種の態様において、処置の過程は、1~90日またはそれ以上継続するであろう(こうした範囲は介在する日を含む)。1つの薬剤は、1日目~90日目(こうした範囲は介在する日を含む)のうちのいずれかの日またはこれらのいずれかの組み合わせに投与されることができ、別の薬剤は、1日目~90日目(こうした範囲は介在する日を含む)のうちのいずれかの日またはこれらのいずれかの組み合わせに投与されることが企図される。単日(24時間)以内に、患者は、薬剤の1回または複数回の投与を受けうる。さらに、処置の過程後、抗がん処置が行われていない期間があることが企図される。この期間は、彼らの予後、体力、健康などのような、患者の状態に応じて、1~7日、および/もしくは1~5週間、および/または1~12ヶ月もしくはそれ以上(こうした範囲は介在する日を含む)継続しうる。処置サイクルは必要に応じて繰り返されるものと予想される。
【0186】
さまざまな組み合わせが利用されうる。以下の例の場合、抗体療法は「A」であり、抗がん療法は「B」である。
【0187】
本発明の態様のいずれかの化合物または療法の患者への投与は、薬剤の、もしあれば毒性を考慮して、こうした化合物の投与のための一般的なプロトコルにしたがうであろう。それゆえ、いくつかの態様では、併用療法が原因である毒性をモニタリングする段階がある。
【0188】
1. 化学療法
本発明の態様にしたがって多種多様な化学療法剤が用いられうる。「化学療法」という用語は、がんを処置するための薬物の使用をいう。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を示すのに用いられる。これらの薬剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性モード、例えば、それらが細胞周期に影響を及ぼすか、およびどの段階で影響を及ぼすかにより分類される。あるいは、薬剤は、DNAに直接架橋、DNAにインターカレート、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有糸分裂異常を誘発するその能力に基づいて特徴付けられうる。
【0189】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロスホスファミド; アルキルスルホナート、例えばブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン; アジリジン、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa); アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine); アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone)); カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む); ブリオスタチン; カリスタチン(callystatin); CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビセレシン合成類似体を含む); クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8); ドラスタチン; デュオカルマイシン(合成類似体KW-2189およびCB1-TM1を含む); エリュテロビン; パンクラチスタチン(pancratistatin); サルコジクチン(sarcodictyin); スポンギスタチン(spongistatin); ナイトロジェンマスタード、例えばクロランブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード; ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン; 抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えばカリチアマイシン、特に、カリチアマイシンγ1IおよびカリチアマイシンωI1); ディネミシン(dynemicin)Aを含むディネミシン; ビスホスホネート、例えばクロドロネート; エスペラミシン; ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ユベニメックス、ジノスタチン、またはゾルビシン; 代謝拮抗物質、例えばメトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU); 葉酸類似体、例えばデノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキセート; プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、およびチオグアニン; ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジン; アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン; 抗副腎剤、例えばミトタンおよびトリロスタン; 葉酸補充剤、例えばフォリン酸; アセグラトン; アルドホスファミドグリコシド; アミノレブリン酸; エニルウラシル; アムサクリン; ベストラブシル; ビサントレン; エダトラキサート(edatraxate); デフォファミン(defofamine); デメコルチン; ジアジクオン; エルフォルミチン(elformithine); 酢酸エリプチニウム; エポシロン; エトグルシド; 硝酸ガリウム; ヒドロキシウレア; レンチナン; ロニダイニン; マイタンシノイド、例えばマイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocin); ミトグアゾン; ミトキサントロン; モピダンモール(mopidanmol); ニトラエリン(nitraerine); ペントスタチン; フェナメット; ピラルビシン; ロソキサントロン(losoxantrone); ポドフィリニック酸; 2-エチルヒドラジド; プロカルバジン; PSK多糖複合体; ラゾキサン; リゾキシン(rhizoxin); シゾフィラン(sizofiran); スピロゲルマニウム; テヌアゾン酸; トリアジクオン; 2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン; トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアングイジン(anguidine)); ウレタン; ビンデシン; ダカルバジン; マンノムスチン; ミトブロニトール; ミトラクトール; ピポブロマン; ガシトシン(gacytosine); アラビノシド(「Ara-C」); シクロホスファミド; タキソイド、例えばパクリタキセルおよびドセタキセル ゲムシタビン; 6-チオグアニン; メルカプトプリン; 白金配位錯体、例えばシスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン; ビンブラスチン; 白金; エトポシド(VP-16); イホスファミド; ミトキサントロン; ビンクリスチン; ビノレルビン; ノバントロン; テニポシド; エダトレキサート; ダウノマイシン; アミノプテリン; ゼローダ; イバンドロネート; イリノテカン(例えばCPT-11); トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000; ジフルオロメチルオルニチン(DMFO); レチノイド、例えばレチノイン酸; カペシタビン; カルボプラチン、プロカルバジン、プリカマイシン(plicomycin)、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、ならびに前記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が挙げられる。
【0190】
2. 放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広く使用されている他の因子は、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の特異的送達として一般的に知られているものを含む。マイクロ波、プロトンビーム照射(米国特許第5,760,395および4,870,287号)、ならびにUV照射のような、DNA損傷因子の他の形態も考慮される。これらの因子の全ては、広範囲のDNA損傷、DNA前駆体、DNA複製および修復、ならびに染色体のアセンブリおよび維持に影響を及ぼす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量までに及ぶ。放射性同位体の線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取込みに依存する。
【0191】
3. 免疫療法
当業者であれば、本態様の方法と組み合わせて、またはこれらとともに、免疫療法が用いられうることを理解するであろう。がん処置の文脈において、免疫療法剤は、一般的には、がん細胞を標的化して破壊するための免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。リツキシマブ(リツキサン(登録商標))はこうした例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体でありうる。抗体単独では、療法のエフェクターとして作用しうるか、細胞死滅化に実際に影響を及ぼすように他の細胞を動員しうる。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合され、標的化剤として単に作用しうる。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接のいずれかで相互作用する表面分子を有するリンパ球でありうる。さまざまなエフェクター細胞は、細胞毒性T細胞およびNK細胞を含む。
【0192】
免疫療法の1つの局面において、腫瘍細胞は、標的化に対して順応性である、すなわち、他の細胞の大半には存在しない、いくつかのマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのうちのいずれかは、本発明の態様の文脈における標的化に適している場合がある。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、がん胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erbB、およびp155が含まれる。免疫療法の代替の局面は、抗がん効果を免疫刺激効果と組み合わせることである。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFNのような、サイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8のような、ケモカイン、FLT3リガンドのような、増殖因子を含む、免疫刺激分子も存在する。
【0193】
現在調査中または使用中の免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号); サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSF、ならびにTNF; 遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53 (米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号); ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185 (米国特許第5,824,311号)である。本明細書において記述される抗体療法とともに1つまたは複数の抗がん療法が利用されうることが企図される。
【0194】
いくつかの態様において、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤でありうる。免疫チェックポイントはシグナルを強くするか(例えば、補助刺激分子)、またはシグナルを弱くする。免疫チェックポイント遮断によって標的化されうる阻害性免疫チェックポイントには、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3 (CD276としても公知)、BおよびTリンパ球アテニュエータ(B and T lymphocyte attenuator; BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (CTLA-4。CD152とも知られる)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3 (lymphocyte activation gene-3; LAG3)、プログラム死1 (programmed death 1; PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3 (T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3; TIM-3)、ならびにT細胞活性化のVドメインIgサプレッサ(V-domain Ig suppressor of T cell activation; VISTA)が含まれる。特に、免疫チェックポイント阻害剤はPD-1 axisおよび/またはCTLA-4を標的化する。
【0195】
免疫チェックポイント阻害剤は、薬物、例えば、低分子、組換え型のリガンドもしくは受容体でありうるか、または特に、抗体、例えば、ヒト抗体(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際特許公報WO2015016718)でありうる。既知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤またはその類似体が用いられることがあり、特に、キメラ化型、ヒト化型、またはヒト型の抗体が用いられることがある。当業者が知っているように、本開示において言及された、ある特定の抗体について別の名前および/または同等の名前が用いられることがある。このような別の名前および/または同等の名前は本開示の文脈において交換可能である。例えば、ランブロリズマブはMK-3475およびペンブロリズマブという別の名前および/または同等の名前でも知られていることが分かっている。
【0196】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PD-1リガンド結合パートナーはPDL1および/またはPDL2である。別の態様において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL1結合パートナーはPD-1および/またはB7-1である。別の態様において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL2結合パートナーはPD-1である。前記アンタゴニストは抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドでもよい。例示的な抗体は米国特許第8,735,553号、同第8,354,509号、および同第8,008,449号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において提供される方法で用いるための他のPD-1 axisアンタゴニストは、米国特許出願公開第20140294898号、同第2014022021号、および同第20110008369号に記述のように当技術分野において公知であり、これらは全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0197】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)と融合したPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストはAMP-224である。ニボルマブはMDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても知られ、WO2006/121168に記述の抗PD-1抗体である。ペンブロリズマブはMK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても知られ、WO2009/114335に記述の抗PD-1抗体である。CT-011はhBATまたはhBAT-1としても知られ、WO2009/101611に記述の抗PD-1抗体である。AMP-224はB7-DCIgとしても知られ、WO2010/027827およびWO2011/066342に記述のPDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0198】
本明細書において提供される方法において標的にされることができる別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4 (CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列はGenbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4はT細胞表面に見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合すると「オフ」スイッチとして働く。CTLA4は、ヘルパーT細胞表面に発現し、阻害シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞補助刺激タンパク質であるCD28に類似し、両分子とも、抗原提示細胞上の、B7-1とも呼ばれるCD80と、B7-2とも呼ばれるCD86に結合する。CTLA4は阻害シグナルをT細胞に伝達するのに対して、CD28は刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は調節性T細胞の中にも見出され、その機能にとって重要である可能性がある。T細胞受容体およびCD28を介してT細胞が活性化されると、B7分子に対する抑制性受容体であるCTLA-4の発現が増加する。
【0199】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0200】
本発明の方法で用いるのに適した抗ヒト-CTLA-4抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を用いて作出することができる。あるいは、当技術分野において認められている抗CTLA-4抗体を用いることができる。例えば、米国特許第8,119,129号、WO01/14424、WO98/42752;WO00/37504 (CP675,206、トレメリムマブ; 以前はチシリムマブ(ticilimumab)としても知られる)、米国特許第6,207,156号; Hurwitz et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95(17): 10067-10071; Camacho et al. (2004) J Clin Oncology 22(145): Abstract No. 2505 (antibody CP-675206); およびMokyr et al. (1998) Cancer Res 58:5301-5304に開示される抗CTLA-4抗体は、本明細書において開示される方法において用いることができる。前述した刊行物のそれぞれの開示は参照により本明細書に組み入れられる。CTLA-4との結合では、これらの当技術分野において認められている任意の抗体と競合する抗体も用いることができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願番号WO2001014424、WO2000037504、および米国特許第8,017,114号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。
【0201】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合断片および変種である(例えば、WO01/14424を参照されたい)。他の態様において、前記抗体はイピリムマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、前記抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインと、イピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、前記抗体は、前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープとの結合において競合する、および/または前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープに結合する。別の態様において、前記抗体は、上述した抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%の可変領域同一性)を有する。
【0202】
CTLA-4を調節するための他の分子には、CTLA-4リガンドおよび受容体、例えば、全てが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5844905号、同第5885796号、ならびに国際特許出願番号WO1995001994およびWO1998042752に記述のCTLA-4リガンドおよび受容体、ならびにイムノアドヘシン、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8329867号に記述のイムノアドヘシンが含まれる。
【0203】
いくつかの態様において、免疫療法は、エクスビボで作出した自己抗原特異的T細胞の移入を伴う養子免疫治療でありうる。養子免疫治療に用いられるT細胞は、抗原特異的T細胞を拡大するか、または遺伝子工学によってT細胞をリダイレクション(redirection)することによって作出することができる(Park, Rosenberg et al. 2011)。腫瘍特異的T細胞の単離および移入は黒色腫治療に成功したことが示されている。T細胞における新規の特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子移入することによって首尾良く生じた(Jena, Dotti et al. 2010)。CARは、1つの融合分子の形で1つまたは複数のシグナル伝達ドメインと結合した標的化部分からなる合成受容体である。一般的に、CARの結合部分は、モノクローナル抗体の軽鎖断片および可変断片が可動性リンカーによってつながった一本鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインからなる。受容体またはリガンドドメインに基づく結合部分も首尾良く用いられてきた。第1世代CARのシグナル伝達ドメインはCD3ζの細胞質領域またはFc受容体γ鎖に由来する。CARを用いることで、リンパ腫および固形腫瘍を含むさまざまな新生物に由来する腫瘍細胞の表面に発現している抗原にT細胞は首尾良くリダイレクションされている。
【0204】
1つの態様において、本出願は、養子T細胞療法およびチェックポイント阻害剤を含む、がんを処置するための併用療法を提供する。1つの局面において、養子T細胞療法は自己由来および/または同種異系のT細胞を含む。別の局面において、自己由来および/または同種異系のT細胞は腫瘍抗原に対して標的化される。
【0205】
4. 外科手術
がんを有する人のおよそ60%は、予防手術、診断、または進行度診断のための手術、根治的手術、および姑息的手術を含む何らかの種類の外科手術を受ける。根治的手術は、がん組織の全てまたは一部が物理的に除去、切除、および/または破壊される切除を含み、本発明の態様の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の療法とともに用いられる場合がある。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去をいう。腫瘍切除に加えて、外科手術による処置は、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡的に管理される手術(microscopically-controlled surgery) (モース術)を含む。
【0206】
がんの細胞、組織、または腫瘍の一部または全てを切除すると体内に空洞が形成されることがある。処置は、その領域にさらなる抗がん療法を灌流、直接注射、または局所塗布することによって行われてもよい。そのような処置は、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは7日ごとに、または1週間、2週間、3週間、4週間、および5週間ごとに、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、もしくは12ヶ月ごとに繰り返されてもよい。これらの処置もさまざまな投与量の処置であってもよい。
【0207】
5. 他の薬剤
処置の治療有効性を改善するために、本発明の態様のある種の局面と組み合わせて他の薬剤が用いられうることが企図される。これらのさらなる薬剤には、細胞表面受容体およびギャップ結合の上方制御に影響を及ぼす薬剤、細胞分裂停止物質および分化物質、細胞接着阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める薬剤、または他の生物学的薬剤が含まれる。ギャップ結合数を増やすことで細胞間シグナル伝達を増大させると、付近の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖作用が増大する。他の態様において、処置の抗過剰増殖有効性を改善するために、細胞分裂停止物質または分化物質は本発明の態様のある種の局面と組み合わせて用いることができる。細胞接着阻害剤は本発明の態様の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は局所接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。処置有効性を改善するために、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他の薬剤、例えば、抗体c225を本発明の態様のある種の局面と併用できることがさらに企図される。
【実施例】
【0208】
III. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者らが発見した技法が本発明の実践において十分に機能することを示し、したがって、その実践に好ましい様式を構成すると考えられると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解されるはずである。
【0209】
材料および方法
マウス
表1には特定の遺伝子操作されたマウス(GEM)を指定する全ての頭字語が掲載されている。FSF-KrasG12D/+ (Schonhuber et al., 2014)、Pdx1-Flp (Schonhuber et al., 2014)、Trp53frt/+ (Lee et al., 2012)、LSL-KrasG12D/+ (Hingorani et al., 2005)、Pdx1-Cre (Hingorani et al., 2005)、αSMA-Cre (LeBleu et al., 2013)、αSMA-RFP (LeBleu et al., 2013)、Rosa26-loxP-Stop-loxP-YFP (Ozdemir et al., 2014)、Tgfbr2loxP/loxP (Ijichi et al., 2006)、およびIL-6loxP/loxP (Quintana et al., 2013)マウス系統が、以前に文書化されている。D. Saurから親切にもRosa26-CAG-loxP-frt-Stop-frt-FireflyLuc-EGFP-loxP-RenillaLuc-tdTomato (R26二重といわれる)、FSF-KrasG12D/+、Pdx1-Flp、およびTrp53frt/+系統を提供していただき、R26R-Brainbow2.1/Confetti (R26Confettiといわれる)系統をJackson Laboratory (Stock 013731)から購入した。IL-6loxP/loxP系統をCMV-Cre系統(Jackson Laboratory; Stock 006054)と交配することによってIL-6-/-系統を作出した。FAP-TKトランスジェニック系統を新たに作出した: NotIおよびAgeIを用いてpORF-HSV1-TKベクター(Invivogen)に、FAPプロモーターおよび部分的なエクソン1 (Ex1)に隣接する5 kbの配列をクローニングした。精製および受精卵への注入の前に、NotIおよびSwaIを用いてベクターから配列を確認したFAP-TK構築体を放出させた。C57Bl/6の遺伝的背景でトランスジェニックマウスを作出した。これらのマウスを既述(Kamerkar et al., 2017)のように、PDAC GEM上で繁殖させるか、または689KPCがん細胞を同所的に移植した。マウスを混合遺伝的背景で維持し、雄性と雌性の両方のマウスを評価した。マウスにゲムシタビン(G-4177, LC Laboratories)を週2回、40 mg/kg体重で腹腔内(i.p.)投与した。ゲムシタビン処置を35日齢で開始した。ガンシクロビル(GCV; sud-gcv, Invivogen)を毎日50 mg/kg体重(マウス25 gあたりおよそ1.5 mg)腹腔内投与した。GCVを28~30日齢のPKTマウス、および50~51日齢のPKPマウスに投与した。PKT;αSMA-TK GEMから分析された組織のいくつかは、以前に公開されたマウスからのものであった(Ozdemir et al., 2014)。対照群には、GCVの代わりにリン酸緩衝生理食塩水を投与したか、または注射しなかった。視能矯正(orthoptic)腫瘍モデル(689KPC)では、GCVを腫瘍移植15日後に投与し、マウスは腫瘍移植後40日の時点で安楽死させた。抗IL-6抗体(MP5-20F3; BioXCell)を週2回200 μg/マウスの用量で腹腔内投与した。処置を35日齢で開始した。抗CTLA-4抗体(BE0131, クローン9H10, BioXCell)および抗PD1 (BE0273, 29F.1A12, BioXCell)抗体を(35日齢で開始して)計3回の注射の間に3日間隔で、各100 μg/マウスの用量にて腹腔内投与した。全てのマウスは、標準的な飼育条件下で飼育された。研究者は群の割り当てに盲検とされなかったが、表現型の結果の組織学的評価については盲検とされた。無作為化の方法は用いられず、動物は分析から除外されなかった。実験的エンドポイントは、動物が死に至る、または安楽死を必要とする病気の重大な兆候を示した場合と定義された。
【0210】
多重染色組織切片のマルチスペクトル画像分析
多重染色手順、スペクトルアンミキシングならびにNuanceおよびinForm画像分析ソフトウェアを用いた細胞セグメンテーションは、既刊されている(Carstens et al., 2017)。表1には多重染色に用いられた抗体濃度を見出すことができる。多重染色されたスライドは、Vectraソフトウェアバージョン3.0.3 (Perkin Elmer)を用い、Vectra Multispectral Imaging Systemで画像化された。4倍の対物レンズを用いて各組織切片の全体をスキャンし、Phenochartソフトウェア(Perkin Elmer)を用いてマルチスペクトル画像分析用に最大80の領域(20倍で)を選択した。各多重視野を、各発光フィルタキューブの範囲全体で発光スペクトルの10 nmごとにスキャンした。マルチスペクトル画像分析に用いられたフィルタキューブは、DAPI (440~600 nm)、FITC (520 nm~680 nm)、Cy3 (570~690 nm)、Texas Red (580~700 nm)およびCy5 (680~720 nm)であった。対応するフルオロフォアを有する単一マーカー染色スライドからのマルチスペクトル画像を用いて、Nuance Image Analysisソフトウェア(Perkin Elmer)を使いスペクトルライブラリを作出した。ライブラリは、全てのフルオロフォアの発光スペクトルピークを含み、inForm 2.2画像分析ソフトウェアを用いることにより各マルチスペクトル画像を個々の6つのコンポーネントにアンミキシング(スペクトルアンミキシング)するために使用された。全てのスペクトル的に分離された画像キューブをその後、核DAPI対比染色に基づいて個々の細胞にセグメント化した。次に、全てのマーカーの個々の細胞発現レベルを含む細胞セグメンテーション情報を、Rアルゴリズムを用いて処理し、inFormソフトウェアを用いて以前に決定した染色陽性の閾値に基づいて各細胞のマーカー陽性を特定した。さまざまなマーカーの検出閾値は、全ての対照にわたって一貫した陽性シグナル捕捉を確実とするように、さまざまなコホートにわたって調整された。各コホートの全ての画像は、染色陽性の同じ閾値を用いて処理した。PKT複合対照腫瘍(
図1Aおよび4E)における間葉細胞組成は、FAP-TK
対照, n = 7、およびαSMA-TK
対照, n = 4を含む。
図4Eに掲載された差異パーセントは、枯渇対照群と各対照群との間の比較であり、これらの結果は、組み合わせた対照を用いて比較を行った場合に類似していた。抗体の供給源および希釈は、表2に詳述されている。
【0211】
免疫蛍光標識および免疫組織化学的検査
全ての抗体、供給源および希釈は、表2に掲載されている。EGFP/tdTomato可視化の場合、KPPF;αSMA-Cre;R26DualおよびKPPF;αSMA-Cre;R26Confettiマウスからの組織を4%パラホルムアルデヒド中4℃で終夜固定し、30%スクロース中4℃で終夜平衡化した。その後、組織をO.C.T.コンパウンド(TissueTek)に包埋し、5 μm厚の凍結切片用に処理した。切片を4%冷水魚ゼラチン(Aurion)で1時間ブロッキングし、抗αSMA抗体(その後にAlexaFluor647二次抗体)またはFAP抗体(その後にAlexaFluor405二次抗体)により4℃で終夜免疫染色した。次に、スライドをVectashield封入剤(Vector Laboratories)でガラス製カバースリップに封入し、LSM800共焦点レーザー走査型顕微鏡およびZENソフトウェア(Zeiss)下で可視化した。内因性EYFPおよびRFP蛍光の可視化の場合、PKTY;αSMA-RFPマウスからの組織を4%パラホルムアルデヒド中4℃で終夜固定し、30%スクロース中4℃で終夜平衡化した。その後、組織をO.C.T.コンパウンド(TissueTek)に包埋し、5 μm厚の切片用に処理した。切片を冷アセトン中で固定し、DAPI封入剤で封入し、20×0.85 NA UPLSAPO対物レンズを備えたレーザー走査型共焦点顕微鏡(Olympus FV1000)により405、488、および559 nmレーザーを用いて可視化した。画像は、FLUOVIEW FV100ソフトウェアバージョン4.0.3.4 (Olympus)で取得した。
【0212】
クエン酸に基づく抗原回復(pH = 6)の後、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片を、既述(Zheng et al., 2015)のように免疫組織化学的検査(IHC)染色用に処理した。マウスFFPE切片でのFAP染色の場合、クエン酸に基づく抗原回復をpH 7.4で実施した。αSMAの染色はM.O.M.キット(Vector Laboratories)により製造元の指示にしたがって実施した。他の全ての染色の場合、切片をビオチン化ヤギ抗ウサギおよびストレプトアビジンHRP (Biocare Medical)とともに、それぞれ10分間インキュベートした。全ての染色について、ヘマトキシリンによる対比染色を実施し、DAB陽性を200倍の倍率で10個の視野において調べた。切断カスパーゼ-3染色を、400倍の視野あたりの陽性核を示した細胞の数を数えることによって定量化した。NIH ImageJ分析ソフトウェア(αSMA、CD31、CK19、切断カスパーゼ-3、Ki67、MTS、ホスホ-Akt、ホスホ-ERK1/2、ホスホ-Stat3)を用い陽性領域について画像を定量化した。ヒトFFPE切片におけるαSMAおよびFAP二重免疫蛍光測定法の場合、二次抗ヒツジAlexa Fluor 488抗体および抗マウスAlexa Fluor 534抗体をRTで30分間インキュベートした。FAP-TKおよび対照腫瘍切片でのαSMAおよびFAP IHCの場合、免疫反応性スコア(IRS)を、1~4のスケールで確立された、各切片の分布および強度スコアの合計から得た(Meyerholz & Beck, 2018)。
【0213】
フローサイトメトリー
PKTY;αSMA-RFPマウスの腫瘍からのYFP、αSMA-RFP、およびFAP免疫標識細胞の分析の場合、腫瘍を細かく切り刻み、DMEM培地中のコラゲナーゼIV (4 mg/mL)およびディスパーゼ(4 mg/mL)中37℃で1時間消化した。次に、消化した組織を70 μmメッシュ、続いて40 μmメッシュでろ過し、遠心分離し、ACK溶解緩衝液中、室温で3分間インキュベートした。FAPとそれに対応するアイソタイプ抗体を、製造元の指示にしたがってZenon Alexa Fluor 647 Rabbit IgG標識キットにより結合させた。サンプルをFACS緩衝液中の抗体および固定可能な生存性色素eFluor 780により氷上で30分間染色した後に、BD LSR Fortessa X20での分析の前に洗浄を行った。選別実験の場合、サンプルを分析し、BD FACS Ariaで選別した。野生型、αSMA-RFP、およびFAP-TKマウスの、長骨から洗い流された骨髄、および脾臓もFAPについて免疫標識した。染色する前に、脾臓を細かく切り刻み、40 μmメッシュでろ過し、脾臓と骨髄の両方をACK溶解緩衝液中、室温で3分間インキュベートした。未染色サンプルおよび単一染色サンプルを補正対照に用いた。抗体、供給源、および希釈に関する詳細は、表2に掲載されている。
【0214】
免疫浸潤の特徴付けのため、腫瘍(生理食塩水またはゲムシタビンで2週間処理した、2.5ヶ月齢マウス由来)の重さを量り、gentleMACS Dissociatorで細かく切り刻み、DMEM培地中1 mg/mL Liberase TL (Roche)および0.2 mg/mL DNase Iを含有する溶液2 mL中37℃で30分間消化した。脾臓の重さを量り、100 μmメッシュでろ過した。末梢血をEDTAチューブで収集し、ACK溶解緩衝液とともに5分間インキュベートし、メッシュろ過に進んだ。免疫染色の前に、組織溶解物を100 μmメッシュでろ過した。その後の単一細胞懸濁液を、Fixable Viability Dye eFluor 780 (eBioscience)および表2に指定された抗体で染色した。陽性細胞のパーセンテージをFlowJo 10.1によって分析し、CD45陽性でゲートした。未染色、生存性染色のみ、および単一染色のビーズ(eBioscience)を補正対照として用いた。前方散乱(FSC)高さ(FSC-H)およびFSC領域(FSC-A)事象特性を用いてシングレットをゲートした。ゲーティング戦略が
図16A~Dに示されている。
【0215】
組織病理学的スコアリング
マウス組織を10%中性緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、5 μm厚に切片化した。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色および/またはGomoriのTrichome Stain Kit (38016SS2, Leica Biosystems)を用いたマッソンのトリクローム染色(MTS)のために切片を処理した。組織病理学的評価を、掲載された組織病理学的表現型の相対的パーセンテージについてH&E染色切片をスコアリングすることにより盲検法で実施した。同所性腫瘍の腫瘍スコアを1 (軽度の関与)から4 (広範な関与)までのスケールに帰属させ、これにより、膵臓全体のH&E切片に対して相対的な腫瘍の関与を評価した。顕微鏡的転移を、肝臓および肺のH&E染色組織切片で調べた。陽性(1つの組織に1つまたは複数の病変)がCK19染色によって確認された。Leica DM 1000 LED顕微鏡、およびLas V4.4ソフトウェアを備えたMC120 HD顕微鏡カメラ(Leica)で画像を取得した。
【0216】
scRNA配列決定
PKTY;αSMA-RFPマウスの腫瘍を処理して、単一細胞懸濁液を得た(フローサイトメトリー法のセクションを参照のこと)。Single cell Gel Bead-In-Emulsions (GEMs)の作出およびバーコーディング、GEM-RT後のクリーンアップ、およびcDNA増幅、ライブラリ構築、ならびにIllumina対応の配列決定ライブラリの作出は、製造元のガイドラインに従うことによって調製された。高感度dsDNA Qubitキットを用いて、cDNAおよびライブラリの濃度を推定した。cDNAの定量にはHS DNA Bioanalyzerを用いた。ライブラリの定量にはDNA 1000 Bioanalyzerを用いた。単一細胞RNA-Seqデータは、MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray Facilityによって処理された。製造元のガイドラインに従ってCell Rangerソフトウェアパイプラインを用いることにより「cloupe」ファイルを作出した。10×GenomicsのLoupe Cell Browserソフトウェアを用いることにより、さらなるデータ分析を実施した。MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray Facilityで10×GenomicsのChromium controllerおよびSingle Cell 3’ Reagent Kits v2を用いて、未分画腫瘍からの細胞1118個、αSMA-RFP選別サンプルからの細胞961個、およびFAP-APC選別サンプルからの細胞340個をカプセル化した。捕捉および溶解に続いて、cDNAを合成および増幅して、Illumina配列決定ライブラリを構築した。サンプルあたり約1,000個の細胞からのライブラリを、MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray FacilityでIllumina Nextseq 500法により配列決定した。実行形式は、読み取り1で26サイクル、インデックス1で8サイクル、および読み取り2で124サイクルであった。CellsスコアにおけるFraction Readsは、83.6~93.2%の範囲であった。検出された細胞あたりの遺伝子の中央値は、細胞あたり872個から最大2870個の遺伝子の範囲であった。その他のQCメトリクス(サンプルのマッピング%、読み取り/細胞、RNA読み取りのQC30)スコアは、全て65%超であった。scRNA配列決定データは、MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray Facilityによって処理された。10×GenomicsのLoupe Cell Browserソフトウェアを用いることにより、さらなるデータ分析を実施した。Loupe Cell Browserソフトウェアを用いαSMA+またはFAP+クラスタにおける上位100個の差次的に調節される遺伝子として同定された遺伝子を、創意工夫経路分析(IPA)ネットワークにマッピングした。ヒトの「正常な」膵臓は、膵臓腫瘍に少なくとも1.5 cm隣接しており、PDAC1またはPDAC2 (異なる患者からのもの)と一致していなかった。PDAC1サンプルは8サイクルのゲムシタビン/アブラキサンを受けた。PDAC2サンプルはフォルフィリノックスで処理された。ヒト腫瘍および正常な隣接サンプルの場合、MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray Facilityで10×GenomicsのChromium controllerおよびSingle Cell 3’ Reagent Kits v2を用いて、正常ヒト膵臓からの細胞214個、ヒトPDAC1からの細胞562個、ヒトPDAC 2Aからの細胞218個、およびPDAC 2Bからの細胞110個をカプセル化した。MD Anderson Cancer CenterのSequencing and Microarray FacilityでIllumina Nextseq 500法により、1回の実行で最大5,000個の細胞を有するライブラリを配列決定した。CellsスコアにおけるFraction Readsは、66%から92.4%の範囲であった。検出された細胞あたりの遺伝子の中央値は、正常ヒト膵臓で45、ヒトPDAC1で2,547、ヒトPDAC2Aで506、およびヒトPDAC2Bで542であった。トランスクリプトームのマッピング%は、34.7%から最大58.5%の範囲であった。RNA読み取りスコアのQC30は、全て65%超であった。10×GenomicsのLoupe Cell Browserソフトウェアを用いることにより、さらなるデータ分析を実施した。
【0217】
PDAC組織からの原発性膵臓腺がん細胞および筋線維芽細胞の単離
初代PDAC細胞および筋線維芽細胞株の樹立は、以前に描かれたようにわずかな変更を加えて行った(Zheng et al., 2015)。KPPF;IL-6smaKO/WT;R26Dualマウスからの新鮮なPDAC組織を滅菌ランセットで細かく切り刻み、コラゲナーゼIV (17104019, Gibco, 4 mg/mL)/ディスパーゼII (17105041, Gibco, 4 mg/mL)/DMEMにより37℃で1時間消化し、70 μm細胞ろ過器具によってろ過し、DMEM/20%FBSに再懸濁し、その後、I型コラーゲンコーティングディッシュ(354401, Corning)に播種した。細胞を、20% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/アンホテリシンB (PSA)抗生物質混合物を含有するDMEM培地中で培養した。Pdx1を発現するがん細胞およびαSMAを発現する筋線維芽細胞を、それぞれEGFPおよびtdTomatoシグナルに基づいてFACS (BD FACSAria(商標) II選別機)によってさらに精製した。選別した細胞をその後、インビトロで維持した。全ての研究は、25継代未満で培養された細胞で実施した。これらの初代細胞株からのDNAを、DNA Mini Kit (51304 QIAGEN)を用いて抽出した。
【0218】
遺伝子発現分析および全体的な遺伝子発現プロファイリング
KPPF、KPPF;IL-6
smaKO、およびKPPF;IL-6
-/-マウスのPDAC腫瘍組織から、指示通りにRNeasy Mini Kit (74104, QIAGEN)を用いてRNAを抽出した。High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (4368814, Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成した。検出された遺伝子の発現レベルを、Gapdhハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化した。相対的発現データは倍変化(2
ΔΔCt)として提示されており、対照群は倍値1に対して正規化されている。統計分析をΔCtで実施した。検出された遺伝子のプライマー配列を以下に掲載している。マウス遺伝子およびプライマーは以下の通りである:
【0219】
GCVまたはPBSを投与した年齢適合PKT;αSMA-TK、およびPKT;FAP-TKマウス(各グループあたりn = 3のマウス)の腫瘍からも全RNAを単離した。RNA抽出は、QIAGEN RNeasy Mini Kitを用いて実行し、MD Anderson Cancer CenterのMicroarray Core Facilityに提出した。遺伝子発現分析を、Affymetrix MTA 1.0 Genechipを用いて実施した。R BioconductorのLimmaパッケージ(Smyth, 2005)を用いて、発現アレイのクオンタイル正規化と、TK群(PKT;αSMA-TKおよびPKT-FAP-TK群)とその各対照(PKT-αSMA-TK対照およびPKT;FAP-TK対照)群との間の差次的遺伝子発現を分析した(p≦0.05および倍変化≧1.2)。TK群と対照群との間で差次的に発現する経路の分析は、遺伝子セット濃縮分析(Gene Set Enrichment Analysis; GSEA)を用いて実施された(Subramanian et al., 2005)。遺伝子発現マイクロアレイデータはGEOに寄託されており、これはワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE120577で利用可能である。
【0220】
TCGAデータ分析
がんゲノムアトラス(Cancer Genome Atlas; TCGA)データベースからの膵臓腺がん事例179例のmRNA発現プロファイルを、cBioPortal for Cancer Genomics (ワールドワイドウェブのcbioportal.org/で利用可能)で関連するmRNA発現データ(RNA Seq V2 RSEM)をダウンロードした後に分析した(Cerami et al., 2012)。全ての事例を、その相対的なIL-6 mRNAレベル(ACTBハウスキーピング遺伝子に対して正規化した)にしたがって2つの(IL-6-高およびIL-6-低)群に分けた。
【0221】
統計分析
提示された比較分析に用いられた統計的検定は、図の凡例に掲載されている。統計分析は、GraphPad Prism (GraphPad Software)を用いて実行した。カプランマイヤー(Kaplan-Meier)プロットを生存分析に使用し、対数順位マンテルコックス(Mantel-Cox)検定を用いてGraphPad Prismで統計的差異を評価した。エラーバーは、図の凡例で指定されていない限り標準誤差(sem)を表す。統計的有意性は、P<0.05と定義された。
【0222】
実施例1-PDAC線維芽細胞間質は不均一である
PDAC病変の線維形成反応に関連する線維芽細胞サブセットを定義するために、原型的な間葉遺伝子産物についてPtf1a
cre/+;LSL-Kras
G12D/+;Tgfbr2
loxP/loxP (PKT)遺伝子操作マウス(GEM, 表1; n = 11)の自然発生膵臓腫瘍を免疫標識した(LeBleu & Kalluri, 2018)。これらには、アルファ平滑筋アクチン(Acat2, αSMA)、血小板増殖因子受容体アルファ(Pdgfra, PDGFRα)、線維芽細胞特異的タンパク質1 (S100A4, Fsp1)、およびビメンチン(Vim、その中でVimともいわれる)が含まれていた。多重染色手順での抗FAP抗体による標識が不十分なため、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の同定を含めることができなかった。単一染色対照は、多重セクション(multiplex sections)で利用された同じスペクトルアンミキシングアルゴリズムを用いて分析され、異なるフルオロフォア間で重複がないことを示した。DAPI核染色およびサイトケラチン8 (CK8)上皮免疫標識とともに、定量的多重免疫蛍光分析により、選択した間葉系マーカーが腫瘍内の全細胞のおよそ36.27%を捕捉し、残りの細胞はがん細胞(CK8
+; 53.59%)または非標識細胞(10.14%)であることが明らかにされた。非標識細胞は、間葉系染色パネルに捕捉されていない血管細胞および免疫細胞を含む可能性が高い。(おそらく上皮から間葉への転換(EMT)プログラムで細胞を標識して)がん細胞は線維芽細胞マーカーを発現することが認められたが、後続の分析は、上皮マーカー(CK8)を発現していた細胞を除外することにより間葉間質に限定された。異なる間葉細胞サブタイプを定義するための相対的な間葉系マーカーの重複の分析により、これらの腫瘍において優位な間葉細胞集団がαSMA
+細胞(30.40%)、続いてPDGFRα
+細胞であることが明らかにされた(
図1A)。間葉系間質の最大69%が、αSMA、PDGFRα、またはその両方を発現し、ビメンチンおよびFsp1を欠く細胞で構成されていた(
図1A)。PDGFRαの発現は他の間葉系マーカー(αSMA、ビメンチン、またはFsp1)と重複し、ビメンチン発現はマーカーの中で最も無差別であり、評価された他の全ての間葉系マーカーとの共陽性を示した(
図1A)。この分析から、定義されたマーカーセットにより特徴付けられる、PDACでの線維芽細胞の同一性によって、優位な間葉種としてαSMAにより特異的に標識された線維芽細胞で、非常に不均一な線維芽細胞組成が同定されたことが例証された。特に、PDAC組織切片の免疫標識を用いて、αSMAおよびFAPでの最小限の重複がネズミ(Ozdemir et al., 2014)およびヒトPDAC間質において観察された(
図1B)。さらに、PKTマウスをがん細胞(LSL-YFP)およびαSMA
+ CAF (αSMA-RFP導入遺伝子)の系統追跡で操作し、これによってがん細胞(YPF)およびαSMA
+ CAF (YFP
-, RFP
+)のフローサイトメトリー捕捉が可能とされた。内因性YFPおよびRFP (αSMA)シグナルに関するこれらの腫瘍のフローサイトメトリー分析は、FAP免疫標識(APC標識)とともに、間質細胞におけるαSMAとFAP発現の間の最小限の重複も明らかにした(
図1C)。
【0223】
実施例2-scRNA-Seq分析により、PDACにおける異なるCAFサブセットとしてαSMA
+およびFAP
+が同定される
PDACにおける線維芽細胞の機能的不均一性をさらに解決するために、PKT腫瘍からの未分画細胞の単一細胞RNA配列決定(scRNA-Seq)を実施した。t-SNEプロットにおける特定の遺伝子発現プロファイルの次元縮小および表現から、単一細胞の単離により、主に免疫細胞(骨髄性(Itgam; Itgb2; S100a8; Ccl3; Apoe; Itgax; Adgre1)およびリンパ性(Ptprc; Cd3d; Cd4; Gzmb; Cd8a; Cd19; CD69; CD79a; MS4a2; Cd3e; Cd79b)系統)が得られ、上皮細胞(Krt19; Muc1; Krt18; Muc5ac)および線維芽細胞(Vim; Acta2; Fap; Thy1; Col3a1; S100a4; C3; Des; Cxcl12; Pecam1; Pdgfra; Pdgfrb)のクラスタ(表現)は小さいことが明らかにされた。αSMA
+およびFAP
+線維芽細胞を濃縮するために、scRNA-Seqの前に精製αSMA-RFP
+およびFAP
+ (免疫標識)線維芽細胞でフローサイトメトリーを実施した(
図1D、
図7A~B)。異なる細胞クラスタが、それぞれαSMA
+およびFAP
+濃縮集団から出現し、2つの間に1つの共通のクラスタが観察された(クラスタ3) (
図2A, 左パネル)。αSMA
+濃縮クラスタ(クラスタ1、2、4、および6)には、上皮から間葉への転換(EMT, クラスタ2)を受けているがん細胞(CK19, CD18, Muc1)およびその他の間質細胞(クラスタ1、4、および6)が含まれていた(
図2A)。αSMA
+濃縮クラスタの中で、Tリンパ球遺伝子シグネチャーを有する細胞のクラスタ(CD3, CD4, CD8; クラスタ4)、マクロファージ遺伝子シグネチャーを有する細胞のクラスタ(CCL5, CCL22; クラスタ6)、およびコラーゲン/細胞外マトリックス(ECM)遺伝子シグネチャーを有する細胞のクラスタ(Col1α1, MMP, Lox; クラスタ1)が観察された(
図2A)。対照的に、FAP
+濃縮クラスタの中で、Bリンパ球遺伝子シグネチャーを有する細胞のクラスタ(CD79a/b, CD19; クラスタ5)、および好中球様遺伝子シグネチャーを有する細胞のクラスタ(NGP, Retnlg; クラスタ7)が観察された(
図2A)。αSMA
+およびFAP
+選別細胞によって共有されるクラスタは、骨髄性遺伝子発現シグネチャー(F4/80, Mac-1, CD11c;
図2A)を提示した。破壊細胞(mtRNA)または赤血球夾雑物(Hba/Hbb)を描くクラスタ8および9は、微量なクラスタであり、その後の分析では無視された(
図2A)。それぞれαSMA
+およびFAP
+選別CAFの定義されたクラスタにおいて観察されたTリンパ球およびBリンパ球遺伝子シグネチャーは、CAFにおいて免疫細胞に関連する遺伝子発現を示した。細胞クラスタ間のその非ランダムパターンは、フローサイトメトリーに基づくαSMA
+およびFAP
+細胞濃縮からの潜在的な免疫細胞混入と相反する。さらに、FAP
+選別細胞においてEMTプログラム遺伝子シグネチャーが捕捉されたがん細胞はごくわずかであった。
【0224】
次に、αSMA
+およびFAP
+ CAF (αSMA
+選別細胞において捕捉されたがん細胞を除く)を定義し、これらの亜集団において濃縮された遺伝子を確認した(
図2B)。αSMA
+ CAFは、接着斑、ECM受容体相互作用、およびPI3K-Aktシグナル伝達に関連する転写産物が濃縮されていたが、FAP
+間葉細胞は、免疫およびケモカインシグナル伝達、ならびにリソソームおよびファゴソーム活性に関連する転写産物が濃縮されていた(
図2B)。αSMAにおいて上方制御され、かつFAPにおいて下方制御された例示的な遺伝子は、Col3a1、Dcn、Serpinh1、Col1a1、Crlf1、Mgp、Acta2、Fstl1、Myl9、Ctgf、Igfbp5、Sparc、Bgn、Serpinf1、Igfbp7、Cpxm1、Tnc、Col1a2、Loxl1、Rbp1、Sparcl1、Postn、Col5a2、Col6a1、Mfap2、Lum、CCl11、Aebp1、Rarres2、Gm13889、Mylk、Ndufa412、Oaf、Gpx8、Mfap4、Ccdc80、Mmp2、Serping1、Cyr61、Mfap5、Col4a2、Fxyd6、Sfrp1、Rasl11a、Mdk、Cald1、Serpine2、Lox、Snhg18、Cygb、Tagln、Penk、Cdh11、Col8a1、Ppic、Rgs5、Tpm2、Rxyd1、Itm2a、およびPrkcdbpを含む。αSMAにおいて下方制御され、かつFAPにおいて上方制御された例示的な遺伝子は、S100a9、S100a8、Jchain、Ccl3、Ccl6、Wfdc17、Il1b、Rac2、Ctss、Cd52、Retnig、Spi1、Lcp1、C1qc、Ccl4、Tyrobp、Clec4n、Fcgr2b、C1qa、Bcl2a1b、Ms4a6c、Laptm5、C1qb、Plek、Bcl2a1d、Coro1a、Lyz2、H2-Aa、Pf4、Fcer1g、Ptpn18、Ccl8、Arg1、Rgs1、Ccl9、Ccl17、Ccl14、H2-Ab1、Cxcr4、Cd74、Srgn、Apoe、Csf1r、AA467197、Alox5ap、Fcgr3、Cd53、Ccrl2、Acp5、Cxcl2、Ucp2、Rgs10、Tpd52、Lgals3、Tgfbi、Fam49b、Trem2、Lst1、Mafb、およびMsrb1を含む。これらのデータはさらに、αSMA
+およびFAP
+ CAFに関連するトランスクリプトームが異なることを浮き彫りにし、細胞外マトリックスのリモデリングにおけるαSMA
+ CAFおよび腫瘍免疫応答の調節におけるFAP
+ CAFの役割を示唆している。
【0225】
ヒトPDAC腫瘍のscRNA-Seq分析はまた、患者から患者へのこれらのクラスタの捕捉が不均一な、免疫および上皮クラスタの濃縮を明らかにした(
図3)。2名の異なる患者から得られたPDAC腫瘍(PDAC 1およびPDAC 2)からの単一細胞のトランスクリプトミクス分析により、技術的複製(PDAC 2AおよびPDAC 2B)において同様のクラスタが明らかにされた; しかしながら、PDAC 1クラスタは免疫細胞(PTPRC, CD69)で主に構成されていたのに対し、PDAC 2クラスタは上皮細胞(CK19, MUC1, CK18)が濃縮されていた。健常ヒト膵臓のscRNA-Seq分析において生細胞を捕捉した場合に、αSMA
+間葉細胞を検出することができたが、その検出頻度は低かった。
【0226】
実施例3-αSMA
+およびFAP
+ CAFは、PDACの進行において反対の機能を示す
αSMA
+ CAFの枯渇がPDACの進行を加速した、PDAC GEM内の増殖中のαSMA
+間葉細胞を標的化するための遺伝的アプローチが以前に報告されている(Ozdemir et al., 2014)。これらの知見およびその他の知見は、PDAC CAFの潜在的な抗腫瘍機能も浮き彫りにした(Ozdemir et al., 2014; Feig et al., 2013; Kraman et al., 2010; Rhim et al., 2014)。そのような報告に照らしてならびにαSMA
+およびFAP
+ CAFの異なるトランスクリプトミクスプロファイルに基づいて、αSMA
+ CAFを特異的に枯渇させる能力(αSMA-TK)を有するPKT GEM、およびFAP-TK
+ CAFを特異的に枯渇させる能力を有するPKT GEMが作出された。αSMA
+細胞と同様に、FAP-TK導入遺伝子は、ガンシクロビル投与時に増殖中のFAP発現細胞の特異的枯渇を可能にした。αSMA
+ CAFの枯渇は、より攻撃的なPDAC表現型をもたらした(
図4A~B)。αSMA
+ CAFがPKP GEM (Ptf1a
cre/+;LSL-Kras
G12D/+;Trp53
R172H/+)において枯渇されている場合に、同様の表現型が、生存率の低下とともに、同様に観察される(
図8A~B)。対照的に、FAP
+ CAFの枯渇は、PDAC表現型の抑制をもたらした(
図4A~B、
図8C~D)。対照マウスと比較して、同所的に移植したPDAC腫瘍との関連でFAP
+ CAFが枯渇された場合にも、より低い腫瘍負荷が観察された(
図8E)。
【0227】
以前の研究から、マウスでの悪液質表現型の発現におけるFAPの標的化が示唆されていた(Roberts et al., 2013; Tran et al., 2013)。活発に増殖している細胞に限定された遺伝子標的化戦略は、経時的な体重減少にも、または筋肉消耗にも関連していなかった(
図9A~B)。健常マウスの脾臓におけるFAP
+細胞の喪失は、遺伝的戦略では認められなかった(
図9C)。リンパ球および骨髄性遺伝子シグネチャーを示す、腫瘍由来のαSMA
+およびFAP
+ CAFから得られたscRNA-Seqの結果(
図2A)に照らして、健常マウスの骨髄におけるαSMA
+およびFAP
+細胞の頻度を確認した。αSMA
+およびFAP
+細胞は、未分画の大腿骨および脛骨骨髄フラッシュにおいて微量な細胞集団(1.5%未満)であった(
図9D)。興味深いことに、骨髄中のFAP
+細胞頻度は、健常対照マウスと比較した場合、PDAC担持マウスにおいて上昇し、PDAC腫瘍におけるFAP
+ CAFの可能な供給源として骨髄を増やした(
図9E)。
【0228】
実施例4-PDACトランスクリプトームに及ぼすαSMA
+およびFAP
+ CAF枯渇の異なる影響
PDAC進行におけるαSMA
+およびFAP
+ CAFの反対の機能の機構的基盤を解明するために、対照、αSMA
+細胞枯渇腫瘍、およびFAP
+細胞枯渇腫瘍の全体的なトランスクリプトミクス分析を実施した。αSMA
+またはFAP
+ CAFの枯渇後の共通のおよび非重複性の遺伝子の比較分析により、下方制御された遺伝子と上方制御された遺伝子の両方について、最小限の重複が明らかとされた(
図4C)。そのような異なるトランスクリプトミクスプロファイルが特定の生物学的プロセスに関連しているかどうかを確認するために、定義された遺伝子セットの転写産物レベルの変化によって定義された経路の重複を評価した。αSMA
+ CAF枯渇腫瘍において、遺伝子発現の変化は、リボソーム、リソソーム、および食細胞活性、ケモカインシグナル伝達、VEGFシグナル伝達、ならびにBおよびT細胞受容体シグナル伝達に関連する経路の上方制御に主に関連していた(717上方制御経路,
図4D)。興味深いことに、これらの経路はFAP
+ CAF枯渇腫瘍において下方制御され、PDACでのαSMA
+およびFAP
+ CAFの反対の機能を強調するものであった(98下方制御経路,
図4D)。この評価では、腫瘍における特定の細胞型に関連するトランスクリプトーム変化を区別することができないが、FAP
+ CAFが枯渇すると、リソソームおよび食細胞活性ならびにケモカインシグナル伝達経路が腫瘍トランスクリプトームにおいて下方制御されたことに留意されたい(
図4D)。同じ経路が、PDAC腫瘍から濃縮されたFAP
+ CAFのscRNA-Seq分析においても濃縮されていることが分かった(
図2B)。これらの結果は、FAP
+ CAF枯渇腫瘍において下方制御された経路が、scRNA-Seq分析によって観察されたFAP
+細胞に関連する変化を反映していることを示唆している。FAP
+ CAF枯渇腫瘍において上方制御された経路には、細胞質輸送(ARF6)、細胞接着、およびECM分解が含まれていた(
図4D)。興味深いことに、PDAC腫瘍から濃縮されたαSMA
+細胞のscRNA-Seq分析は、それらがECM-細胞表面受容体相互作用および細胞接着に関与している可能性が高いことを示した(
図2B)。これらのデータは、FAP
+ CAFの枯渇が炎症の減弱を介して(
図4A)、およびαSMA
+ CAFに関連する抗腫瘍活性の上方制御を介して(
図4A、4C)改善されたPDAC組織病理診断をもたらすという概念を支持する。αSMA
+ CAFまたはFAP
+ CAFのいずれかが枯渇した腫瘍において一般的に上方制御される経路には、低酸素誘導因子-1 (HIF-1)、P53、およびアポトーシス経路が含まれ、一般的に下方制御される経路は特定されておらず、αSMA
+ CAFまたはFAP
+ CAFのいずれかが枯渇した腫瘍のトランスクリプトームに及ぼす明確な影響を裏付けている(
図4C)。
【0229】
実施例5-αSMA
+およびFAP
+ CAFの枯渇は、PDAC腫瘍間質を独特な方法でリモデリングする
PDACにおけるαSMA
+ 対 FAP
+ CAFの枯渇の影響を定義するために、(
図1Aにおいて定義される)各CAFサブセットの頻度の相対的変化を腫瘍において測定した。αSMA
+ CAFが枯渇すると(このアッセイにより捕捉された)総CAF集団は、大幅に低減(調べたCAFのおよそ48%低減)されたが、FAP
+ CAFの枯渇はCAF集団をわずかに低減させた(およそ11.2%低減,
図4E)。αSMA
+またはFAP
+ CAF枯渇の状況の両方で、CAFサブセットの組成が大幅に変えられた。これらの変化は、FAP
+ CAFが枯渇された場合とは対照的に、αSMA
+ CAFが枯渇された場合にいっそう顕著であり(
図4E)、PDAC腫瘍微小環境および進行に及ぼすそれらの異なる影響を強調するものであった。全てのαSMA
+ CAFのうち、αSMA
+ CAFの枯渇はαSMA
+ PDGFRα
+サブセットを主に低減させたが、FAP
+ CAFの枯渇はαSMA
+ CAFを増強したが、αSMAを共発現するCAFの他のほとんどのサブセットの頻度を維持した(
図4E)。さらに、αSMA
+ CAFの枯渇は、FSP1
+細胞(FSP1
+細胞およびFSP1
+かつαSMA
+細胞)の頻度の増加ももたらしたが、FAP
+ CAFの枯渇はVim
+ CAFの増加、しかしPDGFRα
+ CAF頻度(PDGFRα
+、PDGFRα
+ Vim
+、およびPDGFRα
+ αSMA
+)の全体的な低減に関連していた(
図4E)。FAP
+ CAFの枯渇は、αSMA
+ CAFの頻度の維持をもたらし、それによっておそらく、その腫瘍抑制特性を維持した(
図4A)。αSMA
+およびFAP
+ CAFのscRNA-Seqは、FAP
+クラスタと比較して、αSMA
+クラスタにおいて複雑な間葉遺伝子発現の重複を示した。これらの結果は、αSMA
+クラスタがより不均一かつ複雑なCAF集団を捕捉し、したがって、FAP
+ CAFがより前駆細胞様の間葉細胞集団を構成しうることを示唆している。これらの知見(
図4E)は、PDAC GEMの遺伝子標的化研究および遺伝子発現プロファイリング(
図4A~D)とともに、PDACにおけるαSMA
+およびFAP
+ CAFの異なる機能を支持しており、αSMA
+ CAFは腫瘍抑制(TS)-CAF機能を呈し、FAP
+ CAFは腫瘍促進(TP)-CAF機能を呈する。
【0230】
実施例6-αSMA
+ CAF由来のIL-6はゲムシタビンに対する耐性を付与する
PDAC腫瘍からのαSMA
+ CAFまたはFAP
+ CAFのscRNA-Seq分析は、それらの不均一な表現型を強調しており、骨髄およびリンパ球系統を含む、いくつかの免疫細胞型を連想させる異なるトランスクリプトミクスプロファイルを提示する(
図2A)。これらのデータは、PDAC腫瘍におけるαSMA
+ CAFまたはFAP
+ CAF枯渇に関連する表現型およびトランスクリプトミクスの変化とともに、αSMA
+ CAFおよびFAP
+ CAFが異なる方法で腫瘍免疫を調節するという概念を裏付けている。間質IL-6が免疫細胞の分極の重要なメディエータであることを示唆する研究(Lesina et al., 2014)に照らして、scRNA-Seqデータを検索して、IL-6転写産物の濃縮されたCAF亜集団を定義した。IL-6転写産物はαSMA
+ CAF濃縮クラスタに主に関連していた(高いIL-6転写産物レベルについて46%のαSMA
+細胞 対 3%のFAP
+細胞が陽性であった,
図5A)。PDAC進行に対するαSMA
+ CAF由来IL-6の機能的寄与を調べるために、2つの異なる遺伝子組換えシステム(フリッパーゼまたはCreを介したリコンビナーゼ, 表1)が、がん形成(Pdx1-Flp;FSF-Kras
G12D/+;TP53
frt/frt; KPPF)および条件付き遺伝子組換えをαSMA
+ CAF (αSMA-Cre; 関心対象のfloxed遺伝子)において独立して駆動するGEMを作出した(Chen et al., 2018)。KPPFマウスは、同等のCre駆動モデル(Pdx1-Cre;LSL-Kras
G12D/+;TP53
loxP/loxP; KPPC,
図10A~B)と同様の疾患進行を提示した。KPPF;αSMA-Cre;R26
ConfettiレポーターマウスのαSMA
+ CAFにおける組換えは、PDACに関連する線維形成反応におけるGFP、RFP、YFP、およびCFP蛍光細胞の捕捉によって可視化された(
図10C)。精製tdTomato
+線維芽細胞におけるIL-6転写産物の濃縮が、KPPF;αSMA-Cre;R26
Dualレポーターマウス(表1)を用いて確認され、がん細胞と比較してαSMA
+ CAFにおけるIL-6発現が高いことを認めた(
図5B)。さらに、KPPF;αSMA-Cre;R26
Dualレポーターマウスを条件付きIL-6遺伝子ノックアウト対立遺伝子(KPPF; IL-6
smaKO)マウスと交配させ、αSMA
+ CAFにおけるIL-6転写を効果的に無効化した(
図5B)。KPPFマウスを全身性IL-6ノックアウトマウス(KPPF; IL-6
-/-)とも交配させた。疾患進行およびPDAC組織像は、KPPF対照と比較した場合に、条件付きおよび全身性IL6ノックアウトマウスの両方で類似していた(
図5C~D,
図12A~C) (Wormann et al., 2016)。IL-6レベルは、KPPF対照腫瘍と比較してKPPF;IL-6
smaKOマウスの腫瘍において有意に減少し、KPPF;IL-6
-/-腫瘍には存在しなかった(
図5E)。IL-1β転写産物レベルは変化しなかった(対照,
図11A)。腫瘍および対照臓器におけるPCR反応により捕捉されたゲノム組換え事象によってまた、αSMA
+細胞におけるIL-6の条件付き欠失を確実とするために利用された遺伝的戦略の特異性が確認された(
図11B~D)。興味深いことに、αSMA-Cre系統追跡(tdTomato
+) CAFのおよそ65%がαSMA免疫蛍光染色と共局在化していた(
図11E)。
【0231】
IL-6全身喪失またはαSMA
+細胞特異的なIL-6喪失は、KPFマウスにおいて疾患進行に影響を与えなかった(p53喪失についてヘテロ接合性,
図13A~C)。p53を欠くPDAC腫瘍を有するマウス(KPPF)のゲムシタビン処置は、未処置のKPPFマウスと比較して利益を示さなかったが、IL-6が(抗IL-6中和抗体, αIL-6)低減されたまたは存在しない(IL-6
-/-)マウスはゲムシタビン処置に応答し、全生存期間が増加した(
図5D, 5F,
図14A)。重要なことに、αSMA
+ CAF特異的なIL-6喪失(IL-6
smaKO)は、総IL-6を欠く(IL-6
-/-) KPPFマウスと同様に、ゲムシタビン処置時の全生存期間の増加を付与するのに十分であった(
図5F)。これらの結果は、αSMA
+ CAF由来IL-6がゲムシタビンに対する腫瘍耐性を付与することを示唆している。αSMA
+ CAFからのIL-6の喪失はゲムシタビン処置との関連で、組織病理診断の改善および腫瘍負荷の低減をもたらした(
図14B~C)。特に、IL-6転写産物レベルおよび陽性細胞、ならびにαSMA転写産物レベルおよびαSMA
+ CAFは、ゲムシタビン処置後に上昇した(
図5G,
図14D)。ゲムシタビンで処置されたマウスの腫瘍におけるがん細胞は、リン酸化されたStat3、ERK1/2、およびAktのレベルの上昇を示し、これらの変化は、αSMA
+ CAFからのIL-6の喪失により有意に減弱された(
図5H,
図15A)。αSMA
+ CAF特異的なIL-6喪失を伴うマウスでのゲムシタビン処置は対照と比較して、腫瘍コラーゲン沈着、脈管構造、またはがん細胞増殖に有意な影響を与えなかった; しかしながら、アポトーシスを示す切断型カスパーゼ-3は、ゲムシタビンで処置されたマウスにおいて上昇し、αSMA
+ CAF特異的なIL-6喪失と同時にゲムシタビンで処置されたマウスにおいてさらに増加した(
図15B)。
【0232】
実施例7-IL-6抑制およびゲムシタビン処置と併用した場合の免疫チェックポイント遮断に対する日和見応答
本報告において収集された結果から、腫瘍がゲムシタビンなどの化学療法剤による処置に遭遇した際のαSMA
+ CAF (増強IL-6)により開始される自己保存/生存促進プログラムが示唆される。そのようなシナリオでは、がん細胞はαSMA
+ CAFにより産生されたIL-6を用いて生存促進シグナルを誘導し、また免疫系を操作して免疫抑制を誘導しうる。この仮説に取り組むために、ゲムシタビン療法有りおよび無しで、KPPF、KPPF;IL-6
-/-、およびKPPF;IL-6
smaKOマウスの腫瘍、脾臓、および末梢血の免疫組成を評価した(
図16A~C)。腫瘍内免疫細胞頻度は脾臓および末梢血免疫頻度と比較して、IL-6の喪失によって主に影響を受けた(
図6A,
図17A~C)。ゲムシタビン処置は、IL-6による腫瘍内T細胞頻度への影響を最小限に抑えた。調製性T細胞(Treg)およびエフェクターT細胞(Teff)の数が大幅に変化し、KPPF;IL-6
-/-およびKPPF;IL-6
smaKOマウスの両方においてTeff/Treg比率を上昇させた(
図6A)。さらに、CD11b
+PD-L1
+細胞の頻度は対照KPPFマウスと比較して、KPPF;IL-6
-/-およびKPPF;IL-6
smaKOマウスにおいて有意に低減された(
図6A)。重要なことに、αSMA
+ CAF由来IL-6の喪失は、Teff/Treg比率を増加させ、免疫抑制CD11b
+PD-L1
+細胞の頻度を抑制するのに十分であったが、そのような腫瘍免疫プロファイルは、マウスの生存率の改善にはつながらなかった(
図6B~C)。それにもかかわらず、ゲムシタビンで処置された対照KPPFマウスと比較した場合に、ゲムシタビンで処置されたKPPF;IL-6
-/-およびKPPF;IL-6
smaKOマウスにおいて、生存性の全体的な増加が観察された。そのような利点は、IL-6の喪失による腫瘍免疫の改善に一部起因している可能性がある。次に、免疫チェックポイント遮断の二重阻害(抗
CTLA4および抗
PD-1; αCP)の治療的有用性を、IL-6喪失との関連で試験した。この結果から、IL-6喪失とゲムシタビンならびに抗CTLA4および抗PD-1療法との組み合わせが有意な利益をもたらすことが示された(
図6B~C)。IL-6抑制と同時に行われるこの併用療法は、PDACを有するマウスの全生存期間を増加させるのに有意な影響を与える最も効果的な組み合わせとして浮かび上がった(
図6B~C)。
【0233】
腫瘍IL-6を、TCGAデータベースにおいて報告された膵臓がんトランスクリプトーム分析において評価した。患者を、IL-6発現レベルの中央値に基づいて2つの群; IL-6高(n=90事例)およびIL-6低(n=89事例)に階層化した。興味深いことに、IL-6の高い群における腫瘍も高いFOXP3 mRNAレベルを示したが、GAPDHおよびACTA2 (αSMA)転写産物は有意に変化しなかった(
図6D)。これらのデータは、ヒトPDAC腫瘍におけるIL-6の転写上方制御が潜在的に増加したTregと相関するという概念を支持している(
図6A)。
【0234】
【0235】
(表2)抗体
IF: 凍結切片またはFFPEでの免疫蛍光, IHC: FFPE (FFPE: ホルマリン固定パラフィン包埋)での免疫組織化学的検査
FC: フローサイトメトリー
TSA: チラミドシグナル増幅(マルチスペクトル画像分析)
DSHB: アイオワ大学の発達研究ハイブリドーマバンク(Development Studies Hybridoma Bank, University of Iowa)
【0236】
本明細書において開示および主張される方法は全て、本発明を考慮すれば過度の実験なく作出および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記述してきたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記述される方法および本明細書において記述される方法の段階または段階の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書において記述される薬剤の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある種の薬剤を用いることができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることが明らかである。当業者に明らかな、このような類似の代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0237】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載されるものを補足する他の詳細を示す程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】