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特表2022-511216原子炉の構造要素の汚染を除去する方法
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  • 特表-原子炉の構造要素の汚染を除去する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(54)【発明の名称】原子炉の構造要素の汚染を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
G21F9/28 551
G21F9/28 501Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020573545
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 RU2019000816
(87)【国際公開番号】W WO2020106181
(87)【国際公開日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】2018140999
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518312460
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“ロスエネルゴアトム”
(71)【出願人】
【識別番号】521003461
【氏名又は名称】リミティッド ライアビリティ カンパニー“イントロ - マイクロ”
(71)【出願人】
【識別番号】517423567
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“サイエンス アンド イノヴェーションズ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツィガノフ アレクサンドル ボリソヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロフスカヤ アンナ スタニスラヴォナ
(72)【発明者】
【氏名】スタキフ ミハイル ロマノヴィチ
(57)【要約】
本発明は、原子力工学分野に言及し、原子力発電所(NPP)の設計要素、つまり、一次冷却材回路のパイプライン、ポンプ及び他の金属構造物、及び、原子炉で放射線を浴びた黒鉛スタックの効果的な除染に適用することができる。これらは、活性同位体14C、60Co、134Cs、137Cs及びその他を含む。これらは、運転中に、主として、これらの設計要素の表面に濃縮する。この方法は、無反応ガスの雰囲気中で、置換可能なプラットフォーム上での活性同位体原子の移動及び凝縮を伴って、放射線を浴びた原子炉設計要素の選択された表面部位の制御されたプラズマスパッタリングを実施することを可能にする。本発明によって達成される技術的成果は、原子力発電所の設計要素及び黒鉛スタックの表面が、放射性同位元素で最も汚染されているので、これらの表面をプラズマスパッタリングすることにより、原子力発電所の処理された設計要素の放射能の著しい減少、並びに放射性廃棄物の濃度及び対応する体積の縮小が達成されるという事実にある。示された技術的成果は、原子炉の構造要素の汚染を除去する方法において、無反応ガスのフローのもとで、低温プラズマによる、前記原子炉の設計要素の処理を含み、前記設計要素の表面上の選択された部位に電極が設けられ、カソードとして接続された前記設計要素の表面と、アノードとして接続された前記電極との間で、プラズマ放電が点火され、前記カソード表面のスパッタリングに有効な前記放電の動作パラメータが選択され、前記カソードがスパッタリングされ、放電ゾーンから不活性ガスを分流して、前記カソード及びガスパイプラインは、前記電極及びラインの表面上において、スパッタリングされた原子の析出のために十分な温度まで冷却され、前記カソードの表面を指定された深さまでスパッタリングした後、前記電極を新しい処理領域に移動させ、前記設計要素の全ての表面の除染処理が完了するまで、前記処理ステップが、繰り返される、という事実により、達成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の構造要素の汚染を除去する方法であって、
無反応ガスのフローのもとで、低温プラズマによる、前記原子炉の設計要素の処理を含み、
前記設計要素の表面上の選択された部位に電極が設けられ、
カソードとして接続された前記設計要素の表面と、アノードとして接続された前記電極との間で、プラズマ放電が点火され、
前記カソード表面のスパッタリングに有効な前記放電の動作パラメータが選択され、
前記カソードがスパッタリングされ、
放電ゾーンから不活性ガスを分流して、前記カソード及びガスパイプラインは、前記電極及びラインの表面上において、スパッタリングされた原子の析出のために十分な温度まで冷却され、
前記カソードの表面を指定された深さまでスパッタリングした後、前記電極を新しい処理領域に移動させ、
前記設計要素の全ての表面の除染処理が完了するまで、前記処理ステップが、繰り返される
ことを特徴とする原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項2】
原子炉の放射線を浴びた黒鉛スタックの表面が、汚染除去された設計要素として使用される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項3】
一次原子炉冷却材回路の内面、並びに、そのパイプライン及び冷却材循環システムは、設計要素として使用することができる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項4】
無反応ガスとして、アルゴンを用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項5】
無反応ガスとして、窒素を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項6】
前記電極は、銅からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項7】
前記電極は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項8】
前記電極は、耐熱金属からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項9】
前記電極は、タンタルからなる
ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項10】
電極と、プラズマ放電ゾーンから無反応ガスを除去するガスラインとが、設定された入力温度を有する液体又は気体冷媒の強制循環によって冷却される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項11】
前記プラズマ放電ゾーンから無反応ガス及びスパッタリングされた原子を除去する前記ガスラインの長さ方向に沿った温度分布は、異なる蒸発温度を有する前記スパッタリングされた原子が前記ラインの異なる部分に凝縮するように、生成される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項12】
設定されたスパッタリングされた原子の析出に十分な、前記電極及び前記ラインの表面温度が、析出した原子の飽和蒸気圧が0.01-10PAである温度に等しく選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項13】
前記電極の表面の形状は、前記電極と処理された前記設計要素との間のギャップが表面全体にわたって変化しないように、処理された設計要素の表面の形状と同様となるように選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項14】
放電の動作パラメータとして、供給される不活性ガスの圧力が、大気圧以下のオーダーであるように、選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項15】
好ましくは、前記電極と前記表面との間のギャップは、不活性ガスの動作圧力で電子自由行程の長さが100を超えないように、放電の動作パラメータとして設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項16】
放電の動作パラメータとして、前記電極と前記表面との間の電圧が、300-1000ボルトの範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項17】
放電の動作パラメータとして、前記プラズマ放電の電流密度は、0.1-1A/cm2 の範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項18】
動作パラメータとして、プラズマ放電の繰り返しパルスモードが選択され、アノード上のスパッタリングされた原子の物質移動のプロセスの性能に従い、かつ電極の冷却速度を考慮して、パルス持続時間及びそれらのデューティサイクルが決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【請求項19】
前記カソードの表面のスパッタリングの深さは、前記原子炉設計要素表面上の前記部位を処理した後の残留放射能のレベルによって制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉の構造要素の汚染を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力工学分野に関するものであり、原子力発電所(NPP)の放射性の設計要素の汚染除去及び安全な取扱いを目的とし、特に、原子炉冷却材と接触し、放射線を浴びた原子炉黒鉛及び金属構造体の表面汚染除去を目的とする原子力エネルギー技術に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
放射線を浴びた原子炉黒鉛を処理するための方法(例えば、特許文献1~特許文献4を参照。)は、原子炉黒鉛を、不活性ガス中で、次いで、放射性同位元素のガス状化合物の放出とともに、酸化又は還元ガス条件で、熱処理し、その後、液体又は固体の形態で結合させる。この方法は、既に知られている。特に、特許文献2による方法は、450°C~530°Cの温度で加熱空気を吹き出すモードで、放射線を浴びた原子炉黒鉛から炭素同位体14C の酸化物を放出させることを含む。その後、化学結合させる。これらの類似物の欠点は、その高い熱伝導率(深い層も加熱される)のために、黒鉛表面上の熱作用の非局所的性質のために、好ましくは黒鉛の表面処理(深さ数ミクロン以内)を提供することができないことを含む。別の欠点は、揮発性形態の炭素14C 酸化物及び他の放射性同位体の形成であり、これは、液相及び固相中で生成された放射性廃棄物の体積の増加を伴うそれらのさらなる化学結合を必要とする。また、公知の処理方法の欠点は、当初高レベルの放射能を有する原子力発電所の黒鉛レンガ及び設計要素の予備的な解体及び粉砕の必要性を含み、これは、人員の放射線安全のための条件を悪化させ、労働投入量を増加させる。
【0003】
使用済み原子炉黒鉛を粉砕して熱処理し、反応性化学物質と混合し、不活性雰囲気中で高温合成を行って、ガス状廃棄物を放出することなく固体残渣を形成する方法(例えば、特許文献5、特許文献6)は、既に知られている。これらの示された方法は、黒鉛の粉砕、及び粉砕された塊にチタン及び/又はアルミニウム、二酸化チタン及び/又は二酸化ケイ素を添加することを含む。次に、混合物を不活性ガスで満たされた反応器に入れ、炎なしで燃焼反応を開始させる。特許文献5の高温溶融生成物は、混合物の燃焼中又は燃焼後に圧縮され、次いで廃棄処理に送られる。述べられた方法の欠点は、初期高レベルの放射能を有する黒鉛レンガ及びNPPの設計要素の予備的な解体及び粉砕の必要性、放射性14C 二酸化物の大気中への不可避の放出、並びに放射性同位元素の最高濃度を有する選択的汚染物質の除去のメカニズムの不在下での高温合成による焼結において生じる放射性廃棄物(RW)の量の増加である。これらの要因は、人員の放射線安全条件を悪化させ、労働投入量を増加させ、結果としてコンパクトな形態でRWを得ることを可能にしない。
【0004】
使用済み黒鉛を処理するためのプラズマ方法は、例えば、特許文献7によれば、放射性黒鉛の層が加熱炉内に搬入され、プラズマトーチによって生成されたプラズマを用いて酸化媒体中で点火する。この方法は、既に知られている。次いで、プラズマトーチを停止し、断片化された放射性汚染金属構造体を加熱炉内に搬入し、金属中の炭素の溶解と共に溶融を実施し、その後、スラグフラックス溶融物を輸送容器に入れ、固化のために送り、その後、特別な廃棄場所に廃棄する。この方法の欠点は、放射性同位元素による金属溶融物の不可避的な汚染、及びそのさらなる使用の可能性の喪失、並びに炉から溶融ガスを抽出する際の放射性同位元素(特に、二酸化炭素14C )の放出を含む。
【0005】
特許文献8による黒鉛のプラズマ処理方法は、黒鉛を破片に粉砕し、次いで、それらを消耗電極としてプラズマ化学反応器に入れ、次いで、酸化剤を用いて低温プラズマ中で気化させることを含む。反応生成物は、床灰の形態で分散相で堆積され、プラズマ化学反応器の壁に提供される。反応生成物ガスは、反応器から除去され、酸化炭素は、液化され、さらなる廃棄のために送られる。固体床灰は、その後の廃棄のためにプラズマ化学反応器から抽出される。提案された方法の欠点は、プラズマ化学反応器の壁上に形成された放射性床灰を抽出することの複雑さ、及び放射性同位元素の最高濃度での選択的汚染物質の除去のためのメカニズムの欠如である。
【0006】
本発明の提案された方法に最も近いのは、プロトタイプとして選択された、特許文献9に基づく技術的解決策である。ウラン-黒鉛原子炉の放射線を浴びた黒鉛ブッシングを洗浄するための公知の方法は、それらを加熱すること、それらをガスで処理すること、不純物を気相に移すこと、及び炭素材料を冷却することを含み、その間、プロセスは、黒鉛ブッシングが完全に蒸発するまで続けられる。プロトタイプとして選択された既知の方法の欠点は、放射性設計要素を分解し、プラズマ化学チャンバに輸送する必要があることであり、これは、人員の放射線安全のための条件を悪化させ、作業労働投入量を増加させる。プロトタイプとして選択された方法の別の欠点は、放射性同位元素の最高濃度での選択的汚染物質の除去のためのメカニズムの欠如である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ロシア特許第2546981号明細書
【特許文献2】ロシア特許第2212074号明細書
【特許文献3】欧州特許第1771865号明細書
【特許文献4】米国特許第9040014号明細書
【特許文献5】ロシア特許第2065220号明細書
【特許文献6】ロシア特許第2192057号明細書
【特許文献7】ロシア特許第2435241号明細書
【特許文献8】ロシア特許第2580818号明細書
【特許文献9】ロシア特許第2603015号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Kopecky // Atlas of Neutron Capture Cross Sections // INDC(NDS)-362, 1997, P. 369
【非特許文献2】LaBrier Daniel, Dunzik-Gougar, Mary Lou // Characterization of 14C in neutron irradiated NBG-25 nuclear graphite //Journal of Nuclear Materials 2014, V. 448, I.1-3, p. 113-120
【非特許文献3】Dunzik-Gougar, Mary Lou, Smith Tara E // Removal of carbon-14 from irradiated graphite // Journal of Nuclear Materials 2014, V.451, I. 1-3, p. 328-335
【非特許文献4】"Applied Physics Issues. Sputtering of Solids by Ion Bombardment", volume 1 edited by R. Berish, "Mir" Publishing House, Moscow 1984, p.335
【非特許文献5】R.E.Honig, D.A.Kramer // RCA Rev. 1969, V.30, p.285
【非特許文献6】K. Bystrov, T. W. Morgan, I. Tanyeli, G. De Temmerman, M. C. M. van de Sanden // Chemical sputtering of graphite by low temperature nitrogen plasmas at various substrate temperatures and ion flux densities// Journal of Applied Physics 2013, V.114, I.13, P. 133301
【非特許文献7】P. Hammer, W. Gissler // Chemical sputtering of carbon films by low energy N2+ ion bombardment // Diamond and Related MateriaIs, 1996, V.5, I.10, P.1152
【発明の概要】
【0009】
本発明の提案された方法の目的は、原子力発電所の放射線を浴びた設計要素及び黒鉛スタックの表面をプラズマスパッタリングすることにより、原子炉設計要素を除染する方法のための技術を創出することである。設計要素及び黒鉛スタックは、運転中に主に放射性同位元素で汚染されている。これらの放射性核種を周囲の原子とともに表面から除去し、これらを冷却されたヘッダ上に析出させた後、ヘッダとともに、これらを取り出す。
【0010】
本発明によって達成される技術的成果は、原子力発電所の設計要素及び黒鉛スタックの表面が、放射性同位元素で最も汚染されているので、これらの表面をプラズマスパッタリングすることにより、原子力発電所の処理された設計要素の放射能の著しい減少、並びに放射性廃棄物の濃度及び対応する体積の縮小が達成されるという事実にある。
【0011】
示された技術的成果は、原子炉の構造要素の汚染を除去する方法において、無反応ガスのフローのもとで、低温プラズマによる、前記原子炉の設計要素の処理を含み、前記設計要素の表面上の選択された部位に電極が設けられ、カソードとして接続された前記設計要素の表面と、アノードとして接続された前記電極との間で、プラズマ放電が点火され、前記カソード表面のスパッタリングに有効な前記放電の動作パラメータが選択され、前記カソードがスパッタリングされ、放電ゾーンから不活性ガスを分流して、前記カソード及びガスパイプラインは、前記電極及びラインの表面上において、スパッタリングされた原子の析出のために十分な温度まで冷却され、前記カソードの表面を指定された深さまでスパッタリングした後、前記電極を新しい処理領域に移動させ、前記設計要素の全ての表面の除染処理が完了するまで、前記処理ステップが、繰り返される、という事実により、達成される。
【0012】
ここで、好ましくは、原子炉の放射線を浴びた黒鉛スタックの表面が、汚染除去された設計要素として使用される。
【0013】
ここで、さらに、一次原子炉冷却材回路の内面、並びに、そのパイプライン及び冷却材循環システムは、設計要素として使用することができる。
【0014】
ここで、無反応ガスとして、窒素又はアルゴンを用いてもよい。
【0015】
前記電極は、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、耐熱金属又はタンタルからなる、としてもよい。
【0016】
本発明の方法によると、電極と、プラズマ放電ゾーンから無反応ガスを除去するガスラインとが、設定された入力温度を有する液体又は気体冷媒の強制循環によって冷却される、としてもよい。
【0017】
本発明の方法によると、前記プラズマ放電ゾーンから無反応ガス及びスパッタリングされた原子を除去する前記ガスラインの長さ方向に沿った温度分布は、異なる蒸発温度を有する前記スパッタリングされた原子が前記ラインの異なる部分に凝縮するように、生成される、としてもよい。
【0018】
ここで、前記電極の表面の形状は、前記電極と処理された前記設計要素との間のギャップが表面全体にわたって変化しないように、処理された設計要素の表面の形状と同様となるように選択される、としてもよい。
【0019】
本発明の方法によると、放電の動作パラメータとして、供給される不活性ガスの圧力が、大気圧以下のオーダーであるように、選択される、としてもよい。
【0020】
本発明の方法によると、好ましくは、前記電極と前記表面との間のギャップは、不活性ガスの動作圧力で電子自由行程の長さが100を超えないように、放電の動作パラメータとして設定される、としてもよい。
【0021】
本発明の方法によると、放電の動作パラメータとして、前記電極と前記表面との間の電圧が、300-1000ボルトの範囲で設定される、としてもよい。
【0022】
本発明の方法によると、放電の動作パラメータとして、前記プラズマ放電の電流密度は、0.1-1A/cm2 の範囲で設定される、としてもよい。
【0023】
本発明の方法によると、動作パラメータカテゴリとして、プラズマ放電の繰り返しパルスモードが選択され、アノード上のスパッタリングされた原子の物質移動のプロセスの性能に従い、かつ電極の冷却速度を考慮して、パルス持続時間及びそれらのデューティサイクルが決定される、としてもよい。
【0024】
ここで、設定されたスパッタリングされた原子の析出に十分な、前記電極及び前記ラインの表面温度が、析出した原子の飽和蒸気圧が0.01-10PAである温度に等しく選択される、としてもよい。
【0025】
ここで、前記カソードの表面のスパッタリングの深さは、好ましくは、前記原子炉設計要素表面上の前記部位を処理した後の残留放射能のレベルによって制御される、としてもよい。
【0026】
このように、目的を達成するために、本発明の方法によれば、無反応ガスのフローのもとで、原子炉設計要素を低温プラズマで処理し、プロトタイプとは異なり、本発明の技術的決定によれば、処理された設計要素の表面上の選択された部位に電極が設けられ、カソードとしての設計要素の表面と、アノードとしての接続された電極との間でプラズマ放電を点火し、カソードのスパッタリングに有効な放電の動作パラメータを選択し、電極及びガスパイプラインは、放電ゾーンから不活性ガスを分流して、電極及びラインの表面上のスパッタされた同位体の析出に十分な温度まで冷却され、カソードを所定の深さまでスパッタリングした後、電極を新しい処理領域に移動させ、前記設計要素の全ての表面の除染処理が完了するまで、前記処理ステップが、繰り返される。
【0027】
スパッタされた表面原子及び放射性同位体は、物質移動モードで、冷却された電極の表面上に析出する。任意の幾何学的形状及び任意の成分組成を有する表面のスパッタリングは、衝突したイオンの制御されたエネルギーを有するプラズマの表面近くのカソード層の形成によって提供される。これにより、原子力発電所が完全に分解されるまで、原子力発電所の位置で除染が可能になる。マニピュレータ上のプラズマ源は、一次原子炉冷却材回路の全ての内部表面に沿って、並びに黒鉛スタックの表面上で、逐次的に移動する。一方、同位体で富化された表面原子は、例えば、銅又はアルミニウムで作られた、冷却された金属電極の表面に移動する。濃縮された高活性析出物を有する電極は、定期的に除去され、コンパクトに配置されるか、又は医学における有益な適用のために所望の同位体(特に、14C)を有する高いグレードの濃縮物として使用され得る。本発明の方法は、電気のコスト及び再循環を伴う不活性ガス(アルゴン)の供給のみを必要とする。この方法は、修理又は最終的な分解及び処分の前に、すべての原子炉設計要素の活性を事前に低下させ、競合する放射化学的除染方法で生じる大量の液体放射性廃棄物の形成を回避し、さらに、かなりの量のいくつかの有用な同位体を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、以下の図面によって例示される。
図1図1は、黒鉛原子炉の炉心の垂直断面の断片を概略的に示すとともに、中性子が窒素原子と衝突し、続いて14C が拡散し、黒鉛スタックの表面に析出し蓄積する間の14C 炭素同位体の形成を示す図である。
図2図2は、冷却材による炉心からの放射性同位元素の移動と、一次原子炉冷却材回路の設計要素表面でのそれらの析出を説明する図である。
図3図3は、プラズマ源装置の一般的な配置を説明する断面図を示す。理解を容易にするために、電源、ガス供給ライン及び電圧は示されていない。
図4図4は、プラズマ表面処理のためのユニットの主要要素を一般的に説明するブロックフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態の特定の例として、以下にいくつかの特定の実施形態を説明するが、それらは可能であるだけでなく、本発明の一般性を制限するものではなく、本発明の技術的成果の所与の一組の本質的特徴を達成する可能性を明確に実証するものである。
【0030】
原子力発電所の運転過程において、炉心内に形成された放射性核種が冷却材中に入り、その循環の結果として移動し、一次原子炉冷却材回路金属構造物の内面に析出するもの、例えば、WWER型のものが知られている。さらに、黒鉛原子炉(例えば、RBMK型)では、14C 放射性核種は、黒鉛スタックを通って吹き飛ばされる窒素ガスの中性子衝突によって形成され、また、スタックの表面上に析出する。表面からのこれらの汚染物は、原子力発電所の金属構造物に深く貫通することができず、したがって、表面に蓄積した放射性核種の収集及び除去によって、完全又は部分的な汚染除去を開始することが望ましい。原子力発電所設計要素(燃料集合体に後続して最も放射性を示すものとして、一次原子炉冷却材回路要素の内側表面及び放射線を浴びた原子炉黒鉛の外側表面)のプラズマ除染のために提案された方法は、不活性ガスプラズマ中の表面原子のイオンスパッタリングに基づき、スパッタされた原子を交換可能なプラットフォーム上に捕集し、その後、その抽出及び廃棄を行うことに基づいている。本発明の方法の実施の形態の一例は、14C、60Co、134Cs、137Cs放射性核種などからの放射線を浴びた原子炉黒鉛の精製であり、それらの中で、14C同位体は、最大の放射能量を有し、5730年の半減期を有し、運転プロセス中にかなりの量が生成される。14C炭素同位体の形成につながる主な反応は、1.8バーンの断面を有する14N(n,p)14C中性子捕獲反応であり、それは、黒鉛スタックのブローダウンに使用されるヘリウム-窒素混合物中で発生する。黒鉛スタック中の13C中性子捕獲(n,γ)14C同位体13C (黒鉛中の同位体13C の比率0.011)、並びに、0.004及び0.0015バーンの断面の12C(n,γ)13C及び13C(n,γ)14C の2つの連続プロセスによる14Cの形成(非特許文献1参照)は、同位体ブリーディング14Cの寄与が明らかに小さい。窒素-ヘリウム混合物を用いた原子炉空間及び黒鉛スタックのブローダウンは、大気圧よりもわずかに高い圧力で実施され、黒鉛スタックの中心の温度は~500°Cである。これらの条件下で、ガス混合物の濃度は、~1019cm-3であり、ヘリウム対窒素の比率は、6/4であり、窒素濃度は、0.4×1019cm-3であり、原子炉の30年間の運転のための中性子のフルエンス(全流量)は、1022中性子/cm2 である。14N(n,p)14Cの中性子捕獲の結果として30年間にわたる混合ガスで満たされた空間の1cm3 に蓄積された14C炭素の濃度は、次式によって推定される:
[14C] =[N]・σ(14N(n,p)14C)・[Fn] (1)
ここで、σ(14N(n、p)14C)は、中性子捕獲断面積、[N]は、窒素濃度、[Fn]は、中性子フルエンス、累積濃度[14C]の値は、~0.7×1017cm-3である。
【0031】
同様に、2つの中性子捕獲プロセス12C(n,γ)13C及び13C(n,γ)14Cの結果として黒鉛スタックの1cm3 に形成される炭素14Cの濃度は、次式により決定される:
[13C]=[12C]・σ(12C (n,γ)13C)・[Fn]、 (2a)
[14C]=[13C]・σ(13C (n,γ)14C)・[Fn]、 (2b)
ここで、[14C]、[13C]、[12C]は、それぞれ炭素同位体-14、13、12の濃度である。
【0032】
式(2a)及び(2b)によれば、黒鉛スタックの1立方センチメートル中の炭素同位体の蓄積濃度は、[13C]=4×1018cm-3、[14C] =4.8×1013cm-3である。
【0033】
図1は、炭素14Cの気相中での形成及び表面上での析出のメカニズムを概略的に示す。原子炉空間を満たす窒素-ヘリウム混合物中の中性子2と衝突する窒素原子1は、反応(1)の結果として、炭素同位体14C-3に変わり、黒鉛レンガ4、黒鉛リング5の表面上に析出し、これは、燃料集合体6を有する技術チャネルを取り囲む。垂直方向の矢印(底面から上端へ)は、スタックを冷却するための原子炉空間への窒素-ヘリウム混合物の供給方向を示す。黒鉛スタックレンガの表面と燃料集合体を有する技術チャネルとの間のギャップは約1mmである(これは、表面上のガス層の厚さである)。7×1015cm-314C原子が、1cm2のスタック表面の単位面積当たりに脱落する場合、25×25×60cmの断面を有する黒鉛レンガの全表面の濃縮は、5×101914C原子であり、これは、動作中の中性子衝突の結果としての14C同位体での体積による黒鉛の濃縮よりも高い。また、14C同位体による黒鉛スタックのさらなる表面汚染は、黒鉛の表面層を形成するグラフェン層間の窒素ガスの浸透及びインターカレーション、それに続く中性子衝突の間のインターカレーションされた窒素原子の14Cへの変換によって、引き起こされ得る。14C炭素同位体による原子炉黒鉛スタック表面の表面の濃縮も実験によって確認される(非特許文献2、非特許文献3)。したがって、スパッタリング中に、約0.1-1ミクロンの厚さを有する黒鉛の表面層を構成する原子の冷却されたプラットフォームへのプラズマ物質移動は、標準的な黒鉛ブリックの全14C活性を10倍以上減少させることができる。
【0034】
本発明の方法は、また、一次原子炉冷却材回路(特に、WWER型又はRBMK型)の放射性汚染を除去するためにも適用される。その汚染は、冷却材の循環中に、一次原子炉冷却材回路の内面上に不溶性析出物の形態の活性同位体が析出することによって生じる。冷却材の放射性汚染の原因の中で、次のものが特定される。冷却材不純物の中性子暴露照射、腐食プロセスから生じる構造材料の酸化物、並びに、その後の放射性元素の冷却材中への移動による燃料集合体の気密性の侵害。冷却材による放射性同位体の移動と一次原子炉冷却材回路要素表面への析出の概要を図2に示す。放射性同位体7の最高濃度(アスタリスクで示す)は、反応器8内の燃料集合体の領域に形成される。さらに、これらの放射性核種は、蒸気分離器9、主サーキュレータ10、タービン11、発電機12、凝縮器13、供給ポンプ14を通る冷却材の循環(循環の方向は破線の矢印で示される)によって運ばれ、これらの一次原子炉冷却材回路要素の表面を汚染する。完成度を高めるために、図2に、二次冷却回路から余水路15への水の流れの進路と、リザーバ16からの水の方向を示す。表面に析出した放射性核種は、設計要素やパイプラインに深く浸透できない。設計要素やパイプラインが高強度のステンレス鋼で作られているからである。そのため、汚染物の析出した表面層のプラズマスパッタリングによる除染法が有効である。
【0035】
したがって、本発明の原子力発電所の設計要素及び黒鉛スタックの汚染を除去する方法は、高度に活性な表面汚染を除去した後に、原子力発電所の設計要素の放射能をかなりの程度、減少させることを可能にし、これにより、残りのRWを取り扱うコスト及びそれらの廃棄の規制を減少させることが可能になる、と結論付けることができる。
【0036】
この方法は、以下のように実施される。
【0037】
低温プラズマによる原子炉設計要素の処理は、無反応ガスの流れが供給されるときに実行され、ガスラインを使用して処理ゾーンから除去される。無反応ガスとしては、アルゴンや窒素が主に用いられる。無反応ガスは、スパッタされた原子と化学反応しない。
【0038】
設計要素の汚染除去された表面は、カソードとして選択され、電極は、アノードとして機能する。除染された設計要素は、原子炉の放射線を浴びた黒鉛スタックの表面、一次原子炉冷却システムの内部表面、並びに、そのパイプライン及び冷却材循環システムとすることができる。
【0039】
設計要素の表面上の選択された部位に電極が設けられ、プラズマ放電が電極と設計要素の表面との間で点火され、カソード表面がスパッタリングされる。放電の動作パラメータは、カソードの有効なスパッタリングの条件に基づいて選択される。カソード表面の効果的なスパッタリングを保証する放電の動作パラメータとして、互いに依存する多数のインジケータが選択され、一方、供給される不活性ガスの圧力は、大気圧以下のオーダーで選択され、電極と表面との間のギャップは、不活性ガスの動作圧力で、100電子自由行程を超えないように選択され、電極と表面との間のプラズマ放電の電圧は、300-1000ボルトの範囲にあり、プラズマ放電の電流密度は、0.1-1A/cm2の範囲にある。本発明の方法によれば、動作パラメータカテゴリとして、プラズマ放電の繰り返しパルスモードを選択することができ、アノード上のスパッタされた原子の物質移動プロセスの性能に応じて、かつ電極の冷却速度を考慮して、パルス持続時間及びそれらのデューティサイクルを決定することができる。
【0040】
電極は、銅、アルミニウム、又はアルミニウム合金、又は耐熱金属、又はタンタルで作ることができる。耐熱金属で作られた電極を用いて本発明を実施する場合、電極の表面上の揮発性の低いスパッタされた原子、さらにいくつかの揮発性の高い原子を凝縮させるために、電極の温度を十分に高く維持することが可能である。ガスラインの表面において、無反応ガスは、除去される。
【0041】
電極表面の形状は、好ましくは、電極と処理された要素との間のギャップが表面全体にわたって変化しないように、処理された設計要素の表面の形状と同様に選択される。
【0042】
低温プラズマ放電による表面処理の間に、同位体がスパッタされ、したがって、スパッタされた同位体は、供給された電極及びガスラインを冷却することによって、供給された電極及びガスラインの表面上に凝結する。すなわち、カソードを所定の深さまでスパッタした後、放電ゾーンから無反応ガスを除去する電極とガスラインは、電極とラインの表面にスパッタされた原子が析出するのに十分な温度まで冷却される。
【0043】
その後、電極は、新たに選択された処理部位に移動され、汚染除去された設計要素の全表面が完全に処理されるまで、方法の操作が繰り返される。
【0044】
本発明の方法によれば、プラズマ放電のゾーンからの不活性ガスを分流させる電極及びガスラインは、設定された入力温度を有する液体又は気体の冷却剤を強制的に循環させることによって冷却することができ、その中に、ガスラインの長さ方向に沿ったこのような温度分布を生成し、プラズマ放電ゾーンから、放電不活性ガス及びスパッタされた原子が除去され、蒸発の異なる温度を有するスパッタされた原子がラインの異なる部分で凝縮することになる。
【0045】
スパッタされた原子の析出に十分な電極及びラインの表面温度は、好ましくは、析出された原子の飽和蒸気圧が0.01-10PAである温度に等しく選択される。
【0046】
カソードスパッタリングの深さは、原子炉設計要素の表面上の部位を処理した後の残留放射能のレベルによって制御される。
【0047】
プラズマ表面スパッタリングを実施し、放射性核種を捕集及び除去する装置の全体図を図3に示す。放電は、処理された表面つまりカソード(K)と、正に帯電した冷却された銅(又はアルミニウム)電極つまりアノード(A)との間で点火される。不活性ガス(アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン)は、17の方向に、(A)と(K)の間の放電ギャップに供給される。グロー放電は、電極(A)と(K)との間に電圧を印加した結果発生し、放電中に生まれた高エネルギー電子18が不活性ガス19の原子と衝突し、不活性ガス20の正イオンの形成に至る。放電ギャップdの長さにわたる電位Vの分布が、図3の右側に示されている。プラズマ放電の空間構造の既知の自己組織化による、カソード(カソード降下)近傍の有意な電圧フリッカの定式化に留意する必要がある。この場でエネルギーを獲得する無反応ガス20のイオンは、カソード材料(K)の原子21をノックアウトし、同時にカソードからの二次電子18の放出を引き起こす。任意の幾何学的形状及び任意の成分組成を有する表面のスパッタリングは、制御され得る衝突されたイオンのエネルギーを有するプラズマの表面近くのカソード層の形成によって提供される。カソード材料(K)からの中性ノックオン原子21は、強制冷却電極(A)に到達し、その表面に析出する。これにより、無反応ガスが放電ギャップに供給され、放電が点火されると、スパッタリングが発生し、スパッタリング生成物21が排出され、その間に冷却された電極(A)上に析出する。無反応ガスとして、窒素と同様に、アルゴンを使用することが望ましい。アルゴンは、より安価であり、必要な電気物理学的特性を有する。放射線を浴びた黒鉛の表面をアルゴンプラズマ媒体中でP~0.1atmの圧力で処理し、処理された表面と冷却された電極との間の距離dを~2mmに設定することが実用的である。電界強度に依存する種々のタイプの放電の発生条件を記述する周知のPaschen曲線によれば、アルゴン中の放電を点火するため、処理表面と電極との間の印加電圧の値は、少なくとも100Vであるべきである。放電電圧~600Vで、アルゴンイオンによる黒鉛のスパッタリング収率は、約K=0.1[4]であった(非特許文献4)。所与のイオン電流密度に対する単位時間当たりの除去材料層の厚さを特徴づけるカソード材料のスパッタリングレートVpは、以下に等しい:
Vp=K・j・Mc/e・Na・ρ (3)
ここで、eは、電荷[С(クーロン)]、ρは、材料密度[g/cm3]、jは、イオン電流密度[A/cm2]、Mcは、材料(炭素)原子の質量[g/mol]、Naは、アボガドロ数[mol-1]、又は、
Vp = h/tは、スパッタリングレートであり、ここで、hは、エッチングされる材料層の厚さ[cm]、tは、スパッタリング時間[s]である。
【0048】
処理された表面からのスパッタされた原子は、アルゴン雰囲気中で、カソードからプラットフォーム(アノード)に拡散する。今回の場合、拡散は、カソードとアノードにおける境界条件を持つ一次元ラプラス方程式で記述される:
Δn(x)=0; dn(x)/dx=-F/D ここで、x =0; n(d)=0 (4)
ここで、n(x)は、処理された表面(カソード)のスパッタされた原子の濃度であり、Fは、カソードを出たスパッタされた原子の流れの密度であり、Dは、不活性ガス媒体中のスパッタされた原子の拡散係数であり、x=0及びx=dは、それぞれ、カソード及びヘッダ(アノード)表面の座標である。式(4)の解は、次の関数である:
n(x) = F・(d-x)/D (5)
式(5)は、カソードからアノードへのスパッタされた原子の濃度の線形カットオフを示し、一方、カソードを離れたスパッタされた原子の流れ密度は、間隙の全長に沿って維持され、ヘッダに到達する原子の流れ密度に等しい。
【0049】
複数のプロセスの1つが、処理された表面から原子を除去するために、優勢である場合に、カソード温度及び射出イオンのエネルギーに応じて、カソード表面上の原子の挙動力学を制御し、カソード表面に影響を及ぼすための種々のオプションを実装することが可能である。複数のプロセスは、イオンスパッタリング、化学反応、又は熱脱着である。
【0050】
汚染の性質及びNPP設計要素のタイプに依存して、放電点火の最適な実験条件は、広い範囲で変化する:無反応ガス又はガス混合物(Ar、Xe、Kr、Nなど)の圧力及び組成、作用電極と表面との間の距離、印加電圧の大きさ、放電における電流密度。
【0051】
放電点火は、スパッタされた表面の状態及びプラズマへの必要なエネルギー入力に応じて、静止モード又は反復パルスモードで実行することができ、パルスの期間及び持続時間は、放電ギャップ内の最適なガス温度を達成するために広く変化することができる。プラズマ放電ゾーンから化学的に不活性なガスを除去する電極及びガスラインは、適用可能な場合、設定された入力温度を有する液体又は気体冷媒(例えば、水又は液体窒素蒸気)の強制循環によって冷却される。
【0052】
さらに、その後の有用な用途のための様々な化学元素の放射性同位元素の選択的分離のために、異なる蒸発温度を有する異なる化学元素のスパッタされた原子がラインの異なるセクション上で凝縮するように、プラズマ放電ゾーンから無反応ガス及びスパッタされた原子を除去するガスラインの長さに沿ったそのような温度分布を生成することが可能である。設定された種類の原子の析出速度及び蒸発の逆プロセスは、この物質の蒸気圧によって決定されることが確立されており、したがって、特定のスパッタされた原子の析出のために意図される電極表面又は高速経路の一部の温度は、析出された原子の蒸気圧が、例えば、0.01-10Paである範囲で、選択することができる。好ましくは、低揮発性の原子(例えば、炭素及び14C同位体)を析出させる必要がある場合、プラズマのエネルギー又は追加の加熱源のために、その温度を十分に高く(例えば、2000°C)維持するため、スパッタされた原子(Co、Csなど)のより揮発性の高いものを、電極の表面上ではなく、ガスラインのより低温の部分の表面上において、圧縮し、反応性のないガスを迂回させるために、電極は、耐火金属(例えば、タンタルTa)で作製される。
【0053】
さらに、所望の同位体を含有する選択された化学元素の析出原子を有するラインのこれらのセクションは、分離され、選択された同位体の供給源としての役割を果たす。したがって、例えば、14C、40Co、41ca、137Sr及び137Cs同位体は、放射性汚染がされた原子力発電所要素の汚染除去中に選択的に得ることができる。
【0054】
10×10cmのプラズマ源は、一次原子炉冷却材回路の内部表面及び黒鉛スタック表面の全ての点をカバーしながら、段階的に、マニピュレータ上を移動する。一方、同位体で富化した表面原子は冷却ヘッダ(アノード)と排ガスラインの表面に移動する。また、放射線検出器は、処理された表面の汚染除去の程度を監視するために、追加のマニピュレータに取り付けることもできる。
【0055】
本発明の方法に基づく機能を有する表面処理装置のフローチャートを図4に示す。放電モジュール22及びそのパラメータは、コンピュータ23を用いて遠隔制御され、放電点火パラメータは、電源24、キー25及び電流計26を用いて設定及び制御される。濃縮された高活性析出物を有する電極は、定期的に除去され、コンパクトに配置されるか、又は医学における有用な適用のために所望の同位体(特に、14C)で高度に濃縮された濃縮物として使用され得る。
【0056】
本発明の実施形態の一例は、P~0.1atmの圧力でアルゴン媒体中でDCプラズマ放電を点火することであり、ヘッダ(アノード)は、汚染除去された黒鉛の表面の2mm上方の距離に設置される。放電ギャップにおける動作電圧は、放電を点火するために必要な300-1000Vの範囲の電源によって設定され、その後、放電の安定性に必要な最適値に調整され、所望の電流密度を達成する。100-500eVの範囲のエネルギー(プラズマカソード層を通過した後のイオンのエネルギー)を持つアルゴンイオンによる黒鉛のスパッタリング収率は、0.03÷0.1である(非特許文献4)。イオン電流密度がj=1A/cm2のとき、アルゴンイオンによる炭素スパッタリングレートは、0.75×10-5cm/sになり、1ミクロンの厚さの黒鉛層をスパッタリングするのに、~13sかかるであろう。表面上の窒素-ヘリウム混合物からの14Cの析出による黒鉛れんがの表面汚染の厚さ、並びに黒鉛の表面層中の挿入された窒素の14Cへの変換は、1ミクロンを超えない。したがって、面積100cm2、深さ1ミクロンのプラズマ電極による、寸法25x25x60cm、表面積7250cm2の黒鉛レンガの表面のプラズマ処理は、約1000秒を要する。型RBMK反応器の黒鉛スタックの全表面積は約1.4×108cm2であり、型RBMK反応器の黒鉛スタック全体で厚さ1ミクロンの厚さで表面層を処理する(本発明の方法に基づく装置10の同時使用で)の総時間は、約2×106秒、すなわち約1か月である。
【0057】
本発明の実施形態の別の例は、P ~0.1気圧の圧力でアルゴン媒体中のDCプラズマ放電の点火であり、ヘッダ(アノード)は、鋼(鉄)からなる除染表面の上方2mmの距離に設置される。放電ギャップにおける動作電圧は、400-600Vの範囲の電源によって設定される。エネルギーが100-500 eVの範囲のアルゴンイオンによる鉄原子のスパッタリング収率は、0.2-1.0に等しい(非特許文献4)。イオン電流密度がj=1A/cm2のとき、アルゴンイオンによる鉄スパッタリングレートは、7×10-5cm/sになり、一次原子炉冷却材回路の設計要素の選択部位から1ミクロン厚さの析出不純物を持つ鋼の層をスパッタリングするのに、~1.3sかかるであろう。
【0058】
本発明の実施の形態の第3の例は、P ~0.1気圧の圧力で、アルゴン媒体中のDCプラズマ放電の点火であり、ステンレス鋼(クロム)からなる除染表面の上方2mmの距離にヘッダー(アノード)が設置されている。放電ギャップにおける動作電圧は、400-600Vの範囲の電源によって設定される。100-500eVの範囲のエネルギーを持つアルゴンイオンによるクロム原子のスパッタリング収率は0.12-0.6に等しい(非特許文献4)。イオン電流密度がj=1A/cm2のとき、アルゴンイオンによる鉄スパッタリングの速度は4×10-5cm/sになり、従って、一次原子炉冷却材回路の設計要素の選択部位から1ミクロン厚さの析出不純物を持つ鋼の層をスパッタリングするのに、~2sかかるであろう。
【0059】
本発明の実施形態の第4の例は、窒素雰囲気中でのDCプラズマ放電の点火であり、ヘッダ(アノード)は、黒鉛の汚染除去された表面の上方2mmの距離に設置される。放電ギャップにおける動作電圧は、400-600Vの範囲の電源によって設定される。100-500eVの範囲のエネルギーを有する窒素イオンN+による炭素原子のスパッタリング収率は、0.2-0.5に等しい(非特許文献6)。150eVのエネルギーを持つ窒素イオンN +による炭素原子のスパッタリング収率は、0.5に等しく、これはアルゴンイオンによるスパッタリング収率より一桁高い(非特許文献7)。そこでは、N +イオンが優勢な条件下での材料のスパッタリング収率及びヘッダへの材料の移動、並び、汚染除去性能は、1桁増加する。
【0060】
さらに、一次原子炉冷却材回路設計要素の汚染された表面は、その後の有用な用途のために選択的に収集され得る多数の放射性核種を含む。例えば、放射性同位体エネルギー源、火災安全センサの製造、核医学における用途、及び同位体インジケータとして。特に、不活性ガス条件(アルゴン、キセノン)でスパッタされた様々な放射性原子の汚染された表面からの選択的分離は、ヘッダ温度(プラズマギャップへのエネルギー堆積及び電極の対応する加熱を変化させる)及び不活性ガスを除去するガスラインに沿った温度分布を制御することによって達成され得る。
【0061】
例えば、プラズマエネルギーを用いて電極及び放電ガスラインの隣接部分の温度を2200°K程度に維持する場合、14C同位体を含む炭素原子のみがこの領域に析出し、他の原子は加熱された不活性ガスの流れと共に放電ガスラインに沿って更に移動する。ガスの流れが放電線に沿って移動すると、不活性ガスとそれが運ぶスパッタ原子が冷却される。ガス温度が約1700°Cの値に達するガスブリードラインの部分では、同位体60Coを含むCo原子の析出が始まる。(1700°Kの温度での種々の元素の飽和蒸気圧に関するデータによれば、飽和カルシウム蒸気Coの密度は10-1Paである(非特許文献5)。さらに、ガスラインに沿って、720°Cの温度に冷却した後、処理された表面からスパッタされた41Ca同位体が析出し(半減期1.3×105年、反応器黒鉛中の比活性4.3×102Bq/g)、他のより揮発性の放射性原子が気体状態のままであり、ガスブリードラインに沿ってさらに移動する。さらに、ガス流が冷却するにつれて、350°Kのオーダーのガスブリードラインのセクションの温度で、処理された表面からスパッタされたセシウム及びその同位体137Cs(30年の半減期、反応器黒鉛中の9×102Bq/gの比活性)が凝縮し始める(この温度で、飽和セシウムCs蒸気の密度は10-1Paである)。スパッタされた原子の蓄積の後、ガスブリードラインは、選択的に分離された同位体を有するセグメントに分割され、それらは、それらの意図された目的のために使用され得る。
【0062】
本発明の産業上の利用可能性の観点から、本発明の方法を実施するために、建築的に知られ、商業的に製造された電源、電子部品、ガス取付具及び制御装置が使用される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】