(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(54)【発明の名称】CRISPR/Casシステムに基づいた細胞の遺伝子編集の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220124BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220124BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220124BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220124BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/12
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021516699
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(85)【翻訳文提出日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2019107374
(87)【国際公開番号】W WO2020057668
(87)【国際公開日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】201910809475.8
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910809598.1
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201811117875.4
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201811140870.3
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521095307
【氏名又は名称】カファ セラピューティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAFA THERAPEUTICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】2/3 Exchange Place,IFSC,Dublin D01 AE27,Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】李宗海
(72)【発明者】
【氏名】廖朝▲フイ▼
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、CRISPR/Casシステムに基づいた細胞の遺伝子編集の方法を提供する。ここで、Cas酵素は酵素活性が0.1~1nmolであるCas9酵素である。また、遺伝子編集技術によりT細胞におけるTCR遺伝子およびMHC遺伝子を編集する、ユニバーサルT細胞の構築方法、構築されたT細胞およびその使用を提供する。さらに、gRNA構築体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRISPR/Casシステムに基づいた細胞の遺伝子編集の方法であって、Cas酵素とgRNAの複合体を細胞に導入して遺伝子編集を行い、前記Cas酵素はCas9酵素であり、前記Cas9酵素の酵素活性は0.1~1nmol、好ましくは0.2~0.7nmol、より好ましくは0.3~0.5nmolであり;
さらに好ましくは、前記複合体において、Cas9酵素とgRNAのモル比は1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
Cas9酵素と第1のgRNAの複合体1、及びCas9酵素と第2のgRNAの複合体2を前記細胞に導入して遺伝子編集を行い、
好ましくはCas9酵素、第1のgRNA、及び第2のgRNAの複合体3を同時に前記細胞に導入して遺伝子編集を行い、
前記複合体1または複合体2または複合体3において、Cas9酵素とgRNAのモル比は、1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のgRNAと第2のgRNAのモル比は、約1:5~5:1、好ましくは1:2~2:1、より好ましくは約1:1である、ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Cas9酵素とgRNAによって形成される複合体または複合体1または複合体2または複合体3において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM、好ましくは約0.125μM~3μM、より好ましくは約0.2μM~3μM、さらに好ましくは約0.25μM~3μM、さらに好ましくは約0.5μM~3μM、さらに好ましくは約1μM~3μMである、ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞は真核細胞であり、好ましくは、前記真核細胞は免疫エフェクター細胞であり、好ましくは、前記免疫エフェクター細胞はT細胞である、ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞はT細胞であり、前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞の遺伝子を編集することは、
前記CRISPR/Cas9システムを使用して、前記T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行い、好ましくはTRACに対して遺伝子編集を行い、より好ましくはTRACの定常領域に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号45に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行い、及び/または
前記CRISPR/Cas9システムを使用してT細胞のMHC遺伝子に対して遺伝子編集を行い、好ましくはB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行い、より好ましくはB2M遺伝子中の配列番号38に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行うことを含む、ことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記gRNAは約15~50bp、好ましくは約15~30bp、より好ましくは約17~21bp、さらに好ましくは20bpである、ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2、32または33に示される配列を含む、ことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む、ことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記T細胞はまた、キメラ受容体、外因性サイトカイン、阻害/活性化受容体またはリガンド、共刺激因子を発現し、好ましくは、前記T細胞はまたキメラ抗原受容体を発現する、ことを特徴とする、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ユニバーサルT細胞を構築する方法であって、
T細胞のTCR遺伝子とMHC遺伝子に対して遺伝子編集技術によって遺伝子編集を行うことを含み、
T細胞のTCR遺伝子に対する遺伝子編集は、好ましくはT細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行い、好ましくはTRAC遺伝子に対して遺伝子編集を行い、より好ましくはTRACの定常領域に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号45に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行い、及び/または
T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集は、好ましくはT細胞のB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行い、より好ましくはB2M遺伝子中の配列番号38に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う、方法。
【請求項12】
前記遺伝子編集技術は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
T細胞のTRAC遺伝子に対する遺伝子編集を実現するように配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列からなる群より選ばれる配列を含むgRNAを前記T細胞に導入し、好ましくは、前記T細胞のTRAC遺伝子に対する遺伝子編集を実現するように配列番号2、32または33に示される配列を含むgRNAを前記T細胞に導入する、
請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集を実現するように配列番号11、12、13または14に示される配列からなる群より選ばれる配列を含むgRNAを前記T細胞に導入し、好ましくは、前記T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集を実現するように配列番号12に示される配列を含むgRNAを前記T細胞に導入する、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
遺伝子編集技術によってT細胞のTCR遺伝子に対して遺伝子編集を行うことは、Cas9酵素とgRNAの第1の複合体1を前記細胞に導入して遺伝子編集を行い、
遺伝子編集技術によってT細胞のMHC遺伝子に対して遺伝子編集を行うことは、Cas9酵素とgRNAの第2の複合体を前記細胞に導入して遺伝子編集を行い、
好ましくは、複合体1と複合体2を同時に複合体3の形で前記細胞に導入して遺伝子編集を行う、
請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記複合体1または複合体2におけるCas9酵素とgRNAのモル比は、1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは、Cas9酵素とgRNAのモル比は1:4である、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複合体1または複合体2または複合体3において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM、好ましくは約0.125μM~3μM、より好ましくは約0.2μM~3μM、さらに好ましくは約0.25μM~3μM、さらに好ましくは約0.5μM~3μM、さらに好ましくは約1μM~3μM、さらに好ましくは約0.125μM~0.5μM、さらに好ましくは約0.25μM~0.5μMである、
請求項15に記載の方法。
【請求項18】
TCR遺伝子の遺伝子編集用のgRNAと、MHC遺伝子の遺伝子編集用のgRNAとのモル比は、約1:5~5:1、好ましくは1:2~2:1、より好ましくは約1:1である、
請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記T細胞はまた、キメラ抗原受容体を発現し、好ましくは、前記T細胞はまた、腫瘍抗原または病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し、当該キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識し、
好ましくは、前記標的抗原は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;ガングリオシドGD3;Tn抗原;CD19;CD20;CD22;CD30;CD70;CD123;CD138;CD33;CD44;CD44v7/8;CD38;CD44v6;B7H3(CD276)、B7H6;KIT(CD117);インターロイキン13受容体サブユニットα(IL-13Rα);インターロイキン11受容体α(IL-11Rα);前立腺幹細胞抗原(PSCA);前立腺特異的膜抗原(PSMA);癌胎児性抗原(CEA);NY-ESO-1;HIV-1 Gag;MART-1;gp100;チロシナーゼ;メソテリン;EpCAM;プロテアーゼセリン21(PRSS21);血管内皮増殖因子受容体;ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来成長因子受容体β(PDGFR-β);ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4);細胞表面関連ムチン1(MUC1)、MUC6;上皮細胞増殖因子20受容体ファミリーとその変異体(EGFR、EGFR2、ERBB3、ERBB4、EGFRvIII);神経細胞接着分子(NCAM);炭酸アンヒドラーゼIX(CAIX);LMP2;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);O-アセチルGD2ガングリオシド(OAcGD2);ガングリオシドGM3;TGS5;高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);葉酸受容体;腫瘍血管内皮マーカー25 1(TEM1/CD248);腫瘍血管内皮マーカー7関連(TEM7R);Claudin6、Claudin18.2(CLD18A2)、Claudin18.1;ASGPR1;CDH16;5T4;8H9;αvβ6インテグリン;B細胞成熟抗原(BCMA);CA9;κ軽鎖(カッパ軽鎖);CSPG4;EGP2、EGP40;FAP;FAR;FBP;胚性AchR;HLA-A1、HLA-A2;MAGEA1、MAGE3;KDR;MCSP;NKG2Dリガンド;PSC1;ROR1;Sp17;SURVIVIN;TAG72;TEM1;フィブロネクチン;テネイシン;腫瘍壊死ゾーンの癌胎児性変異体;Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D);X染色体オープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分(GloboH);乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体5β3(ADRB3);パネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役型受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合遺伝子座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRγ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);ETS転座変異体遺伝子6(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリーメンバー1A(XAGE1);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫癌精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫癌精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;P53変異体10;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害剤(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;V-mycトリ骨髄細胞腫症ウイルスがん遺伝子神経芽細胞腫由来ホモログ(MYCN); RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(亜鉛フィンガータンパク質)様(BORIS);T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OYTES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫X切断点2(SSX2);CD79a;CD79B;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体のFcフラグメント(FCAR);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュールを含むムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);免疫グロブリンλ様ペプチド1(IGLL1)からなる群より選ばれる腫瘍抗原であり、
好ましくは、前記標的抗原は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、または寄生虫の抗原から選ばれる病原体抗原であり、一実施形態では、前記ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス抗原、エプスタインバーウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原またはインフルエンザウイルス抗原から選ばれる、ことを特徴とする、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記キメラ受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である、ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記キメラ抗原受容体は、
(i)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(ii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(iii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ
を含む、ことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
腫瘍抗原に特異的に結合する前記キメラ抗原受容体の抗体は、完全長抗体、scFv、Fab、(Fab’)、または単一ドメイン抗体である、ことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
キメラ受容体を発現するT細胞を調製するための、請求項11~22のいずれか一項に記載の方法によって調製されたT細胞の使用であって、前記キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する、使用。
【請求項24】
請求項11~22のいずれか一項に記載の方法によって構築されたユニバーサルT細胞。
【請求項25】
TRACおよび/またはB2M遺伝子がサイレンシングされている、ユニバーサルT細胞。
【請求項26】
TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされ、より好ましくは、TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列のうち、配列番号45に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされ、
B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされ、より好ましくは、B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列のうち、配列番号38に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされる、
請求項25に記載のT細胞。
【請求項27】
TRAC遺伝子は、配列番号2、32または33に示される配列のgRNAを使用してTRAC遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされ、
B2M遺伝子は、配列番号12に示される配列のgRNAを使用してB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされる、
請求項25に記載のT細胞。
【請求項28】
前記T細胞はまた、キメラ抗原受容体を発現し、好ましくは、前記T細胞はまた、腫瘍抗原または病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し、当該キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する、請求項24~27のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項29】
配列番号2、3、4、5、32、33、39、40、11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む、gRNA構築体。
【請求項30】
配列番号2、3、4、5、32、33、39または40のいずれかから選択されるヌクレオチド配列、及び配列番号11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載のgRNA構築体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子編集の方法に関する。より具体的には、CRISPR/Casシステムによる細胞の遺伝子編集の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子編集は、特定の核酸配列を削除、挿入、変異、または置換することによってゲノムを変更することを含む。CRISPR/Casシステムは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)と、関連されたCasタンパク質とからなる。RNA誘導型Casエンドヌクレアーゼは、配列依存的にDNAを特異的に標的とし、切断し(Jinek,M.et al.,“A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity,” Science 337,816-821(2012);Sternberg,S. H. et al.,“DNA interrogation by the CRISPR RNA-guided endonuclease Cas9,” Nature 507,62(2014))、様々な生物およびモデルシステムでの遺伝子編集に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、遺伝子編集の過程で遺伝子編集効率が低いという問題がある。例えば、CRISPR-Cas9によってT細胞を編集する場合、T細胞は最終分化した初代細胞であるため、インビトロ増殖の時間枠は限られており、遺伝子トランスフェクションの効率は低い。例えば、Clin Cancer Res;23(9) May 1, 2017により開示されたTCR受容体をコードする遺伝子またはHLAタンパク質をコードする遺伝子のみに対するノックアウト効率は、高くとも約80%に達せたが、両方を同時にノックアウトした効率はわずか約60%であった。
【0004】
そのため、細胞に対して遺伝子を如何に迅速かつ効率的にノックアウトするか、または、如何に一度に複数の遺伝子を迅速かつ効率的にノックアウトするかは、この分野の難点となっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、細胞に対して遺伝子を迅速かつ効率的にノックアウトする方法、特に一度に複数の遺伝子を迅速かつ効率的にノックアウトすることができる方法を提供することである。
【0006】
本発明の第一局面では、遺伝子編集のためにCas酵素とgRNAの複合体を細胞に導入する、CRISPR/Casシステムに基づいた細胞の遺伝子編集の方法が提供され、ここで、前記複合体におけるCas酵素とgRNAの比率は1:3~1:5である。
【0007】
具体的な一実施形態では、前記Cas酵素はCas9酵素である。
【0008】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素の酵素活性は0.1~1nmol、好ましくは0.2~0.7nmol、より好ましくは0.3~0.5nmolであり、最も好ましくは0.37nmolである。
【0009】
具体的な一実施形態では、前記Cas酵素はCas9酵素であり、前記複合体において、Cas9酵素とgRNAのモル比は1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。
【0010】
本発明では、例えば、NEB社からのCas9酵素を使用することができる。勿論、当業者は、同じまたは類似した機能を有する他のCas9酵素を選択してもよい。
【0011】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素が実現できる機能は、30μl反応のCas9酵素反応システム(この反応システムは、20mM HEPES、100mM NaCl、5mM MgCl2、0.1mM EDTAを含み、25℃でのpHが6.5である)において、1nM PvuII線形化pBR322 DNA(標的部位CGCTTGTTTCGGCGTGGGTA)、40nM sgRNA、及び20nM Cas9酵素が含まれている場合、37℃で1時間インキュベーションすると、pBR322 DNAの90%が分解されていることが、アガロースゲル電気泳動により確認された。この反応システムでは、1分間で1nmolの基質(PvuII線形化pBR322 DNA)を触媒させて完全に生成物に変換されたCas9酵素の量は0.37nmolであり、Cas9酵素のグラム数は59.57ngである。前記Cas9酵素の酵素活性は0.37nmоlである(1分間で1nmolの基質を触媒させて生成物に変換された酵素の量)。本発明において、NEBの酵素を例にとると、酵素の酵素活性は0.37nmolである。
【0012】
当業者が理解できるように、本明細書では、上記のCas9酵素の酵素活性に基づいてCas9酵素と導入されるgRNAのモル比が算出され、導入した複合体中のCas9酵素の濃度が確認される。Cas9酵素の活性が変化すると、当業者は、異なる酵素の説明書における活性の説明および本明細書で規定された比率に基づいて換算してCas9酵素の使用濃度、及びgRNAとのモル比を選択することができる。
【0013】
また、酵素活性が0.37nmolである上記酵素のCas酵素が単なる例に過ぎないことも当業者は理解できる。他のCas9酵素について、酵素の酵素活性が前記Cas酵素と異なる場合、当業者は、酵素の酵素活性で計算してCas9酵素の使用量、及びgRNAとのモル比を確定することができる。
【0014】
具体的な一実施形態では、本発明は、2つの遺伝子を編集する方法に係り、具体的には、Cas9酵素と第1のgRNAの複合体1、及びCas9酵素と第2のgRNAの複合体2を前記細胞に導入して遺伝子編集を行う。
【0015】
具体的な一実施形態では、Cas9酵素、第1のgRNA、及び第2のgRNAの複合体3を同時に前記細胞に導入して遺伝子編集を行う。
【0016】
具体的な一実施形態では、複合体1と複合体2を相次いで前記細胞に導入して遺伝子編集を行う。
【0017】
前記複合体1または複合体2または複合体3において、Cas9酵素とgRNAのモル比は、1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。
【0018】
例えば、複合体1中のCas9酵素とgRNAのモル比は1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。複合体2中のCas9酵素とgRNAのモル比は1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。複合体3中のCas9酵素と、第1のgRNAおよび第2のgRNAの合計とのモル比は1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。
【0019】
本明細書では、前記モル比とは、Cas9酵素とgRNA物質の量との比率を指す。Cas9酵素の量または酵素活性は、製造元から提供されたCas9酵素の説明書に基づいて算出されたものであり、対応するgRNAの量は、RNA塩基組成およびインビトロ転写の濃度によって算出されたものである。
【0020】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素とgRNAの比率は1:4である。
【0021】
具体的な一実施形態では、前記細胞は真核細胞である。具体的な実施形態では、前記真核細胞は免疫エフェクター細胞である。具体的な実施形態では、前記免疫エフェクター細胞はT細胞である。
【0022】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素とgRNAによって形成された複合体において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM、好ましくは約0.125μM~3μM、より好ましくは約0.2μM~3μM、さらに好ましくは約0.25μM~3μM、さらに好ましくは約0.5μM~3μMである。
【0023】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素とgRNAによって形成された複合体または複合体1または複合体2または複合体3において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM、好ましくは約0.125μM~3μM、より好ましくは約0.2μM~3μM、さらに好ましくは約0.25μM~3μM、さらに好ましくは約0.5μM~3μMである。
【0024】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素とgRNAによって形成された複合体において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~2μM、好ましくは約0.125μM~2μM、より好ましくは約0.5μM~2μM、さらに好ましくは約0.5μM~2μM、さらに好ましくは約0.5μM~2μMである。
【0025】
具体的な実施形態では、前記細胞はT細胞であり、前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞の遺伝子を編集する。具体的な一実施形態では、前記T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、TRACに対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、TRACの定常領域に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。
【0026】
具体的な実施形態では、前記細胞はT細胞であり、前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞の遺伝子を編集することは、
前記CRISPR/Cas9システムを使用して、前記T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行い、好ましくはTRACに対して遺伝子編集を行い、より好ましくはTRACの定常領域に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号45に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行い、及び/または
前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞のMHC遺伝子に対して遺伝子編集を行い、好ましくはB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行い、より好ましくはB2M遺伝子中の配列番号38に示される配列に対して遺伝子編集を行い、さらに好ましくは、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行うことを含む。
【0027】
具体的な一実施形態では、配列番号1に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。
【0028】
具体的な一実施形態では、前記gRNAは約15~50bp、好ましくは約15~30bp、より好ましくは約17~21bp、さらに好ましくは20bpである。
【0029】
具体的な一実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4または5に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2に示される配列を含む。
【0030】
具体的な一実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2、32または33に示される配列を含む。
【0031】
具体的な一実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列であり、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2、32または33に示される配列である。
【0032】
具体的には、前記第1のgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列を含んでもよい。
【0033】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~0.5μM、好ましくは約0.125μM~0.5μM、より好ましくは約0.25μM~0.5μMである。
【0034】
具体的な実施形態では、前記細胞はT細胞であり、前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞のB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、B2M遺伝子の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、配列番号10に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。
【0035】
具体的な一実施形態では、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む。
【0036】
具体的な一実施形態では、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列であり、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列である。
【0037】
具体的には、第2のgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含んでもよい。
【0038】
以下において、複合体1、複合体2、または複合体3についての説明は上記と一致し、第1のgRNAおよび第2のgRNAについての説明も上記と一致する。複合体1、複合体2、または複合体3は、異なる複合体を表すためであり、番号付けの優先順位はなく、第1のgRNAと第2のgRNAも同様であり、2つの異なるgRNAを表すためであり、1つのgRNAともう1つのgRNAで表してもよく、すなわち、1つのgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列を含んでもよく、もう1つのgRNAは、配列番号11、12、13、または14に示される配列を含んでもよいことを理解すべきである。
【0039】
具体的な一実施形態では、前記Cas9酵素の濃度は約0.25μM~3μM、好ましくは約0.5μM~3μM、より好ましくは約1μM~3μMである。
【0040】
具体的な実施形態では、前記細胞はT細胞であり、前記CRISPR/Cas9システムを使用して前記T細胞のTRACおよびB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、TRACおよびB2M遺伝子の第1のエキソンに対して遺伝子編集を行う。
【0041】
具体的な一実施形態では、TRACおよび/またはB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行い、TRACおよび/またはB2M遺伝子はサイレンシング(沈黙)される。
【0042】
具体的な一実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4または5に示される配列を含み、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含む。好ましくは、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2に示される配列を含み、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む。
【0043】
具体的な実施形態では、前記gRNAは約15~50bp、好ましくは約15~30bp、より好ましくは約20bpである。具体的な一実施形態では、20bpである。
【0044】
具体的な一実施形態では、TRACとB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行う時、B2Mの編集に使用されるgRNAと、TRACの編集に使用されるgRNAとの比率は約1.5:1~0.5:1、好ましくは約1:1である。具体的な一実施形態では、前記Cas酵素の濃度は約1μM~3μMである。
【0045】
具体的な実施形態では、前記T細胞はまた、キメラ受容体、外因性サイトカイン、阻害/活性化受容体またはリガンド、共刺激因子を発現している。具体的な実施形態では、前記T細胞はまたキメラ抗原受容体を発現している。
【0046】
本発明の第二局面では、CRISPR/Casシステムに基づいてT細胞のTRAC遺伝子の遺伝子編集の方法であって、Cas酵素とgRNAの複合体を前記細胞に導入して遺伝子編集を行う、方法が提供され、ここで、Cas酵素とgRNAの比率は1:3~1:5である。具体的な一実施形態では、前記Cas酵素はCas9酵素である。
【0047】
具体的な実施形態では、前記T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、前記T細胞のTRACに対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、前記T細胞のTRACの定常領域に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、前記T細胞のTRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、配列番号1に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。
【0048】
具体的な実施形態では、前記Cas酵素とgRNAの比率は1:4である。
【0049】
具体的な実施形態では、前記Cas酵素の濃度は約0.1μM~0.5μM、好ましくは約0.125μM~0.5μM、より好ましくは約0.25μM~0.5μMである。
【0050】
具体的な実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4または5に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2に示される配列を含む。
【0051】
具体的な実施形態では、TRACを編集する時、前記Cas酵素とgRNAの比率は1:4であり、Cas酵素の濃度は0.25μM~0.5μMであり、使用されるgRNAは、配列番号2に示される配列を含む。
【0052】
本発明の第三局面では、CRISPR/Casシステムに基づいてT細胞のB2M遺伝子の遺伝子編集の方法であって、Cas酵素とgRNAの複合体を前記細胞に導入して遺伝子編集を行う方法が提供され、ここで、Cas酵素とgRNAの比率は1:3~1:5である。具体的な一実施形態では、前記Cas酵素はCas9酵素である。
【0053】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。
【0054】
具体的な実施形態では、配列番号10に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。具体的な実施形態では、前記Cas酵素とgRNAの比率は1:4である。
【0055】
具体的な実施形態では、前記Cas酵素の濃度は約0.25μM~3μM、好ましくは約0.5μM~3μM、より好ましくは約1μM~3μMである。
【0056】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む。
【0057】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子を編集する時、前記Cas酵素とgRNAの比率は1:4であり、前記Cas酵素の濃度は1μM~3μMであり、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む。
【0058】
本発明の第四局面では、CRISPR/Casシステムに基づいてT細胞のTRAC遺伝子およびB2M遺伝子の遺伝子編集の方法であって、Cas酵素とgRNAの複合体を前記細胞に導入する方法が提供され、ここで、Cas酵素と総gRNAの比率は1:3~1:5である。具体的な一実施形態では、前記Cas酵素はCas9酵素である。
【0059】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、配列番号10に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。
【0060】
具体的な実施形態では、TCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、TRACに対して遺伝子編集を行う。
【0061】
具体的な実施形態では、TRACの定常領域に対して遺伝子編集を行う。
【0062】
具体的な実施形態では、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う。具体的な実施形態では、配列番号1に示される配列中のPAM配列に従ってgRNAを設計する。
【0063】
具体的な実施形態では、前記Cas酵素と総gRNAの比率は1:4である。具体的な実施形態では、前記Cas酵素の濃度は約1μM~3μMである。
【0064】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子に対する編集およびTRACに対する編集に使用されるgRNAの比率は0.5:1~1.5:1、好ましくは1:1である。
【0065】
具体的な実施形態では、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む。具体的な実施形態では、TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4または5に示される配列を含み、好ましくは、使用されるgRNAは、配列番号2に示される配列を含む。
【0066】
具体的な実施形態では、前記Cas酵素と総gRNAの比率は1:4であり、前記Cas酵素の濃度は1μM~3μMであり、使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む配列と配列番号2に示される配列を含む配列である。
【0067】
具体的な実施形態では、上記第二局面、第三局面、第四局面のT細胞はまた、腫瘍抗原または病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し、このキメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する。
【0068】
具体的な実施形態では、前記標的抗原は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;ガングリオシドGD3;Tn抗原;CD19;CD20;CD22;CD30;CD70;CD123;CD138;CD33;CD44;CD44v7/8;CD38;CD44v6;B7H3(CD276)、B7H6;KIT(CD117);インターロイキン13受容体サブユニットα(IL-13Rα);インターロイキン11受容体α(IL-11Rα);前立腺幹細胞抗原(PSCA);前立腺特異的膜抗原(PSMA);癌胎児性抗原(CEA);NY-ESO-1;HIV-1 Gag;MART-1;gp100;チロシナーゼ;メソテリン;EpCAM;プロテアーゼセリン21(PRSS21);血管内皮増殖因子受容体;ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来成長因子受容体β(PDGFR-β);ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4);細胞表面関連ムチン1(MUC1)、MUC6;上皮細胞増殖因子20受容体ファミリーとその変異体(EGFR、EGFR2、ERBB3、ERBB4、EGFRvIII);神経細胞接着分子(NCAM);炭酸アンヒドラーゼIX(CAIX);LMP2;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);O-アセチルGD2ガングリオシド(OAcGD2);ガングリオシドGM3(aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-1)Cer;TGS5;高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);葉酸受容体;腫瘍血管内皮マーカー25 1(TEM1/CD248);腫瘍血管内皮マーカー7関連(TEM7R);Claudin6、Claudin18.2(CLD18A2)、Claudin18.1;ASGPR1;CDH16;5T4;8H9;αvβ6インテグリン;B細胞成熟抗原(BCMA);CA9;κ軽鎖(カッパ軽鎖);CSPG4;EGP2、EGP40;FAP;FAR;FBP;胚性AchR;HLA-A1、HLA-A2;MAGEA1、MAGE3;KDR;MCSP;NKG2Dリガンド;PSC1;ROR1;Sp17;SURVIVIN;TAG72;TEM1;フィブロネクチン;テネイシン;腫瘍壊死ゾーンの癌胚性変異体;Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D);X染色体オープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分(GloboH);乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体5β3(ADRB3);パネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役型受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合遺伝子座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRγ選択的リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);ETS転座変異体遺伝子6(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリーメンバー1A(XAGE1);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫癌精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫癌精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;P53変異体10;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害剤(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;V-mycトリ骨髄細胞腫症ウイルス癌遺伝子神経芽細胞腫由来ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(亜鉛フィンガータンパク質)様(BORIS);T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OYTES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫X切断点2(SSX2);CD79a;CD79B;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体のFcフラグメント(FCAR);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュールを含むムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);免疫グロブリンλ様ペプチド1(IGLL1)からなる群より選ばれる腫瘍抗原である。
【0069】
具体的な実施形態では、前記標的抗原は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、または寄生虫の抗原から選ばれる病原体抗原である。一実施形態では、前記ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス抗原、エプスタインバーウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原またはインフルエンザウイルス抗原から選ばれる。
【0070】
具体的な実施形態では、前記キメラ受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞抗原カプラー(TAC)から選択される。
【0071】
具体的な実施形態では、前記キラメ受容体はキメラ抗原受容体である。具体的な実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、
(i)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(ii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(iii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζを含む。
【0072】
具体的な実施形態では、前記キメラ受容体はTACであり、
(a)抗原結合ドメインを有する抗体ドメインと、CD3に結合する単鎖抗体とを含む、細胞外構造領域;
(b)膜貫通領域;
(c)プロテインキナーゼLCKに連結する細胞内構造領域を含む。
【0073】
具体的な実施形態では、腫瘍抗原に特異的に結合する、前記キメラ抗原受容体の抗体は、完全長抗体、scFv、Fab、(Fab’)、または単一ドメイン抗体である。
【0074】
本発明の第五局面では、上記第二局面、第三局面、第四局面のT細胞の、キメラ受容体を発現するT細胞を調製するための使用が提供され、前記キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する。
【0075】
具体的な実施形態では、前記標的抗原は、腫瘍抗原または病原体抗原である。
【0076】
具体的な実施形態では、前記標的抗原は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;ガングリオシドGD3;Tn抗原;CD19;CD20;CD22;CD30;CD70;CD123;CD138;CD33;CD44;CD44v7/8;CD38;CD44v6;B7H3(CD276)、B7H6;KIT(CD117);インターロイキン13受容体サブユニットα(IL-13Rα);インターロイキン11受容体α(IL-11Rα);前立腺幹細胞抗原(PSCA);前立腺特異的膜抗原(PSMA);癌胎児性抗原(CEA);NY-ESO-1;HIV-1 Gag;MART-1;gp100;チロシナーゼ;メソテリン;EpCAM;プロテアーゼセリン21(PRSS21);血管内皮増殖因子受容体;ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来成長因子受容体β(PDGFR-β);ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4);細胞表面関連ムチン1(MUC1)、MUC6;上皮細胞増殖因子20受容体ファミリーとその変異体(EGFR、EGFR2、ERBB3、ERBB4、EGFRvIII);神経細胞接着分子(NCAM);炭酸アンヒドラーゼIX(CAIX);LMP2;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);O-アセチルGD2ガングリオシド(OAcGD2);ガングリオシドGM3(aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-1)Cer;TGS5;高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);葉酸受容体;腫瘍血管内皮マーカー25 1(TEM1/CD248);腫瘍血管内皮マーカー7関連(TEM7R);Claudin6、Claudin18.2(CLD18A2)、Claudin18.1;ASGPR1;CDH16;5T4;8H9;αvβ6インテグリン;B細胞成熟抗原(BCMA);CA9;κ軽鎖(カッパ軽鎖);CSPG4;EGP2、EGP40;FAP;FAR;FBP;胚性AchR;HLA-A1、HLA-A2;MAGEA1、MAGE3;KDR;MCSP;NKG2Dリガンド;PSC1;ROR1;Sp17;SURVIVIN;TAG72;TEM1;フィブロネクチン;テネイシン;腫瘍壊死ゾーンの癌胎児性変異体;Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D);X染色体オープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分(GloboH);乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体5β3(ADRB3);パネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役型受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合遺伝子座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRγ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);ETS転座変異体遺伝子6(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリーメンバー1A(XAGE1);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫癌精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫癌精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;P53変異体10;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害剤(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;V-mycトリ骨髄細胞腫症ウイルスがん遺伝子神経芽細胞腫由来ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(亜鉛フィンガータンパク質)様(BORIS);T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OYTES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫X切断点2(SSX2);CD79a;CD79B;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体のFcフラグメント(FCAR);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュールを含むムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);免疫グロブリンλ様ペプチド1(IGLL1)からなる群より選ばれる腫瘍抗原である。
【0077】
具体的な実施形態では、前記標的抗原は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、または寄生虫の抗原から選ばれる病原体抗原である。一実施形態では、前記ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス抗原、エプスタインバーウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原またはインフルエンザウイルス抗原から選ばれる。
【0078】
具体的な実施形態では、前記キメラ受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞抗原カプラー(TAC)から選択される。
【0079】
具体的な実施形態では、前記キラメ受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。
【0080】
具体的な実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、
(i)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(ii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(iii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζを含む。
【0081】
具体的な実施形態では、前記キメラ受容体はTACであり、
(a)抗原結合ドメインを有する抗体ドメインと、CD3に結合する単鎖抗体とを含む、細胞外構造領域;
(b)膜貫通領域;
(c)プロテインキナーゼLCKに連結する細胞内構造領域を含む。
【0082】
具体的な実施形態では、腫瘍抗原に特異的に結合する、前記キメラ抗原受容体の抗体は、完全長抗体、scFv、Fab、(Fab’)、または単一ドメイン抗体である。
【0083】
本発明では、エレクトロポレーション条件には具体的な制限はなく、例えば、前記エレクトロポレーション条件は、150~600V、0.5ms~20msであってもよく、例えば、好ましくは150V~300V、2ms~15msであってもよい。
【0084】
具体的な一実施形態では、TCR遺伝子に対する遺伝子編集に使用されるgRNAと、MHC遺伝子に対する遺伝子編集に使用されるgRNAとのモル比の比率は約1:5~5:1、好ましくは1:2~2:1、より好ましくは約1:1である。
【0085】
具体的な一実施形態では、前記T細胞は上記の局面に示された通りである。
【0086】
具体的な一実施形態では、前記キメラ受容体はキメラ抗原受容体(CAR)であり、前記キメラ抗原受容体は上記の局面に示された通りである。
【0087】
本発明の第七局面は、本発明の上記方法によって構築されたユニバーサルT細胞に係る。
【0088】
本発明の第八局面は、TRACおよび/またはB2M遺伝子がサイレンシングされている、ユニバーサルT細胞に係る。
【0089】
具体的な一実施形態では、TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされ、より好ましくは、TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列のうち、配列番号45に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされる;
B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされ、より好ましくは、B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列のうち、配列番号38に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされる。
【0090】
具体的な一実施形態では、TRAC遺伝子は、配列番号2、32または33に示される配列のgRNAを使用してTRAC遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされ、B2M遺伝子は、配列番号12に示される配列のgRNAを使用してB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされる。
【0091】
具体的な一実施形態では、前記T細胞はまた、キメラ抗原受容体を発現し、好ましくは、前記T細胞はまた、腫瘍抗原または病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し、キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する。
【0092】
前記T細胞は、上記局面に示された通りである。キメラ抗原受容体は、上記局面に示された通りである。
【0093】
本発明の第九局面は、配列番号2、3、4、5、32、33、39、40、11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む、gRNA構築体に係る。
【0094】
具体的な一実施形態では、本発明のgRNA構築体は、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40のいずれかから選択されるヌクレオチド配列、及び配列番号11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0095】
具体的な一実施形態では、本発明のgRNA構築体は、配列番号2、32または33に示される配列、及び/または配列番号12に示される配列から選択される配列を含む。
【0096】
本発明は、遺伝子編集技術を使用してT細胞を修飾することに係り、複数の遺伝子をノックアウトすることにより、T細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)および主要組織適合性複合体(MHC)の機能を効果的に阻害することができる。TCRをコードする遺伝子はTRACであり、MHC Iをコードする遺伝子はB2Mである。Cas9/CRISPR遺伝子技術、およびRNP(RNA核酸およびタンパク質複合体)エレクトロポレーションに対する改善と最適化に基づいて、短時間でTRACとB2Mのダブル遺伝子を一度に効率的にノックアウトすることが実現され、ノックアウトの効率は90%にも達している。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】sgRNAとTRAC遺伝子の結合部位を示す模式図である。
【
図2】TRACのノックアウト効果に対する、異なる組成比率を有するRNPの影響を示す図である。
【
図3A】TRACのノックアウト効果に対する、異なるgRNA配列の影響を示す図である。
【
図3B】TRACのノックアウト効果に対する、異なるgRNA配列の影響を示す図である。
【
図4】TRACのノックアウト効果に対する、異なる濃度のCas9酵素の影響を示す図である。
【
図5】gRNAとB2M遺伝子の結合部位を示す模式図である。
【
図6】B2M遺伝子のノックアウト効果に対する、異なるgRNAの影響を示す図である。
【
図7】B2M遺伝子のノックアウト効果に対する、異なる濃度のCas9酵素の影響を示す図である。
【
図8】TRACとB2Mを同時にノックアウトする場合の、TRACとB2Mのダブルノックアウトに対する異なるgRNA組成成分の影響を示す図である。
【
図9】標的TRACとB2M遺伝子からなるgRNA混合物と、Cas9酵素との間に形成されたRNP複合体の濃度がノックアウト効率に対する影響を示す図である。
【
図10A】Tideオンラインソフトウェアで予測されたTRACとB2M遺伝子の突然変異の効率を示す図である。
【
図10B】Tideオンラインソフトウェアで予測されたTRACとB2M遺伝子の突然変異の効率を示す図である。
【
図10C】Tideオンラインソフトウェアで予測されたTRACとB2M遺伝子の突然変異の効率を示す図である。
【
図10D】Tideオンラインソフトウェアで予測されたTRACとB2M遺伝子の突然変異の効率を示す図である。
【
図11】クローンシーケンシングで検証されたTRACとB2M遺伝子の突然変異の結果を示す図である。
【
図12】BCMAを標的とするCAR T細胞におけるTRACとB2M遺伝子のノックアウト効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0098】
本発明者らは、CRISPR/Cas9システムを使用して遺伝子編集を行う時、gRNAの選択やCas9酵素とgRNAの比率などが編集の効率に大きな影響を与えることを発見し、これに基づいて本発明を完成した。
【0099】
定義
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等のすべての方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができ、その中で適切な方法および材料が本明細書に記載されている。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合は、定義を含む本明細書に準ずる。また、特に明記しない限り、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0100】
特に明記しない限り、本発明の実施は、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の伝統的な技術を採用し、これらはすべて本分野の技術的範囲に属する。これらの技術は文献で十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL,2000,Wiley and son Inc,Library of Congress,USA);Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Third Edition,(Sambrooketal,2001,Cold Spring Harbor,NewYork: Cold Spring Harbor Laboratory Press);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gaited., 1984);Mullis et al. U.S. Pat. No. 4,683,195;Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higginseds. 1984);Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higginseds. 1984);Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney,Alan R. Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press,1986);B. Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);the series,Methods In ENZYMOLOGY (J. Abelson and M. Simon,eds.-in-chief,Academic Press,Inc.,New York)、特にVols.154と155 (Wuetal. eds.)およびVol.185,“Gene Expression Technology” (D. Goeddel,ed.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Caloseds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker,eds., Academic Press,London,1987);Hand book Of Experimental Immunology,Vol.I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell,eds.,1986);およびManipulating the Mouse Embryo (Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照できる。本開示では、保護を求める主題の各方面はいずれも範囲の形で表される。範囲の形での説明は、単に便宜上および簡潔にするためのものであり、保護を求める主題の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。よって、範囲の説明は、あらゆる可能なサブ範囲および当該範囲内の個々の値を具体的に開示していると見なすべきである。例えば、値の範囲が提供されている場合、当該範囲の上限と下限の間の全ての中間値、および当該範囲内の任意の他の、または中間値は、いずれも保護を求める主題の範囲に含まれ、その範囲の上下限も保護を求める主題の範囲に含まれる。それらのより小さい範囲の上下限は、そのより小さい範囲に独立して含まれてもよく、範囲の上下限が明確に除外されない限り、それらはまた、保護を求める主題の範囲に属す。設定範囲に1つまたは2つの制限値が含まれる場合、保護を求める主題も、制限値の1つまたは2つが除外された範囲を含む。これは、範囲の広さに関係なく適用される。
【0101】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者に容易に知られている各値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」で修飾されている値またはパラメータは、当該値またはパラメータ自体を指す実施形態を含む(しかも説明する)。例えば、「約X」という記載は、「X」に関する説明を含む。例えば、「約」または「含む」は、当該分野での実際の標準偏差に従って、1以内または1を超えることを意味することができる。あるいは、「約」または「含む」は、最大10%(すなわち、±10%)の範囲を意味することができる。例えば、約5μMは、4.5μMから5.5μMまでの任意の数を含むことができる。特定の値または組成が出願および特許出願の範囲で提供される場合、特に明記しない限り、「約」または「含む」は、当該特定の値または組成の許容誤差範囲内にあるべきである。
【0102】
本明細書に記載の任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲または整数範囲は、特に明記しない限り、当該範囲内の任意の整数、および適切な場合、その分数(例えば、整数の10分の1および100分の1)の数値を含むと理解されるべきである。
【0103】
本発明をよりよく理解するために、関連する用語について以下のように定義する。
【0104】
「遺伝子編集」という用語は、特定のDNAフラグメントのノックアウトや付加などを実現するために、ヒトが標的遺伝子を「編集」できることを指す。
【0105】
「分子サイレンシング」または「遺伝子サイレンシング」という用語は、元のDNAに損傷を与えることなく、さまざまな理由で遺伝子を発現しないまたは過少発現する現象を指す。遺伝子サイレンシングは2つのレベルで発生する。1つはDNAメチル化、ヘテロクロマチン化、および位置効果などによって引き起こされる転写レベルでの遺伝子サイレンシングであり、もう1つは転写後の遺伝子サイレンシング、つまり遺伝子転写後のレベルで、アンチセンスRNA、共阻害、遺伝子阻害、RNA干渉、microRNAを介した翻訳阻害などの標的RNAの特異的阻害によって遺伝子を不活化することである。CRISPR(Clustered regularly interspaced short palindromicrepeats)は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートである。Cas9(CRISPR associated nuclease)はCRISPR関連ヌクレアーゼであり、CCRISPR/Cas9は、Cas9ヌクレアーゼを使用して標的遺伝子を編集する、RNAによってガイドされる最新の技術である。
【0106】
「CRISPER/Cas9システム」は、転写物、およびCas9酵素遺伝子の発現に関与する、またはその活性を指導する他の要素の総称であり、これには、Cas9遺伝子をコードする配列、tracr(transactivation CRISPR)配列(tracrRNAまたは活性部分tracrRNAなど)、tracrペアリング配列(「ダイレクトリピート」、及び内因性CRISPRシステムのコンテキストでのtracrRNA処理の部分的なダイレクトリピートを含む)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムのコンテキストで「スペーサー(spacer)」とも呼ばれ、すなわちgRNA)、またはCRISPR遺伝子座からの他の配列と転写物が含まれる。一般的に言えば、CRISPRシステムは、標的配列の部位でのCRISPR複合体(内因性CRISPRシステムのコンテキストでは前部領域とも呼ばれる)の形成を促進することを特徴とする要素である。
【0107】
「標的配列」という用語は、ガイド配列と相補性を有する配列を指し、標的配列とガイド配列との間の相補ペアリングは、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必須なものではない。標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含むことができる。一部の実施形態において、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置する。
【0108】
一般的に言えば、ガイド配列(gRNA)は、標的配列にハイブリダイズしてCRISPR複合体と該標的配列との配列特異的結合をガイドするように標的ポリヌクレオチド配列と十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態では、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適なアラインメントを行う場合、ガイド配列およびそれに対応する標的配列間の相補程度は約50%以上、60%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、99%以上またはそれ以上である。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定でき、その非限定的な例として、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wimschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づいたアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustai X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies)、ELAND((Illumina,San Diego,CA)、SOAP(soap.genomics.org.cnで入手可能)およびMaq(maq.sourceforget.netで入手可能)などが挙げられる。
【0109】
一部の実施形態では、該CRISPR酵素は、1つまたは複数の異種タンパク質ドメイン(例えば、CRISPR酵素以外の約1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上のドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意のほかのタンパク質配列、および選択されてもよい、任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含むことができる。CRISPR酵素と融合できるタンパク質ドメインの例には、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および、メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写阻害活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性、および核酸結合活性からなる群より選ばれる1つまたは複数の活性を有するタンパク質ドメインが含まれるが、これらに限定されない。エピトープタグの非限定的な例には、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザウイルス血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、及びチオレドキシン(Trx)タグが含まれる。レポーター遺伝子の例には、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ホースラティッシュペルオキシダーゼ(HRP)、クロランフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自家蛍光タンパク質などが含まれるが、これらに限定されない。CRISPR酵素は、マルトース結合タンパク質(MBP)、Sタグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)、融合体、GAL4DNA結合ドメイン融合体、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合体を含むがこれらに限定されない、DNA分子または他の細胞分子に結合するタンパク質またはタンパク質フラグメントをコードする遺伝子配列に融合することができる。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成することができる別のドメインは、参照により本明細書に組み込まれるUS20110059502に記載されている。
【0110】
「Cas9酵素」という用語は、野生型Cas9またはCas9の任意の修正バージョンであってもよく、任意の天然に存在する細菌Cas9および任意のキメラ、変異体、相同体またはオルソログを含む。Cas9酵素は、1つまたは複数の変異を含むことができ、機能ドメインへの融合の有無にかかわらず、ユニバーサルDNA結合タンパク質として使用できる。これらの突然変異は、人為的に導入された突然変異、または獲得的および喪失的機能的突然変異であってもよい。これらの変異には、それぞれ、RuvC及びHNH触媒ドメインの触媒ドメイン(D10およびH840)の1つの変異が含まれてもよいが、これに限定されない。
【0111】
本発明では、例えば、NEB社からのCas9酵素を使用することができる。勿論、当業者は、同じまたは類似した機能を有する他のCas9酵素を選択してもよい。本明細書では、Cas9酵素が実現できる機能は、30μl反応のCas9酵素反応システム(この反応システムは、20mM HEPES、100mM NaCl、5mM MgCl2、0.1mM EDTAを含み、25℃でのpHが6.5である)において、1nM PvuII線形化pBR322 DNA(標的部位CGCTTGTTTCGGCGTGGGTA)、40nM sgRNA、及び20nM Cas9酵素が含まれている場合、37℃で1時間インキュベーションすると、pBR322 DNAの90%が分解されていることが、アガロースゲル電気泳動により確認された。この反応システムでは、1分間で1nmolの基質(PvuII線形化pBR322 DNA)を触媒させて完全に生成物に変換されたCas9酵素の量は0.37nmolであり、Cas9酵素のグラム数は59.57ngである。前記Cas9酵素の酵素活性は0.37nmоlである(1分間で1nmolの基質を触媒させて生成物に変換された酵素の量)。
【0112】
当業者が理解できるように、本明細書では、上記のCas9酵素の酵素活性を有することに基づいてCas9酵素と導入されるgRNAのモル比の比率が算出され、導入した複合体中のCas9酵素の濃度が確認される。Cas9酵素の活性が変化すると、当業者は、異なる酵素の説明書における活性の説明および本明細書で確定された比率に基づいて換算してCas9酵素の使用濃度、及びgRNAとのモル比を選択することができる。
【0113】
一態様において、Cas酵素はニッキング酵素である。好ましい一実施形態では、該Cas9は、mRNAの形で細胞に送達される。これは、酵素の一過性の発現を可能にし、それによって毒性を減らす。Cas9は、Cas9酵素をコードおよび発現するヌクレオチド構築体において細胞に送達されることもできる。さらに、誘導性プロモーターの制御下でCas9を発現させることもできる。
【0114】
CRISPRとCas酵素という用語は、特に明記しない限り、一般的に本明細書では置き換えて使用できる。上記のように、本明細書で使用される残基番号の多くは、化膿レンサ球菌のII型CRISPR遺伝子座由来のCas9酵素を指す。しかしながら、本発明は、SpCas9、SaCa9、St1Cas9などの他の微生物種からのより多くのCas9を含むことを理解されたい。当業者は、関連するアミノ酸配列を比較することにより、SpCas9以外のCas9酵素における適切な対応する残基を決定することができるであろう。sgRNAという用語は短いgRNAを指す。遺伝子編集を行う場合、与えるgRNA、tracrペアリング配列、およびtracr配列を個別に提供することもできるし、一つの完全なRNA配列で提供することもできる。Cas9タンパク質のgRNAへの結合により、特定の部位でDNAを切断することができる。Streptococcus pyogenesに由来するCRISPR/Casシステム認識配列は23bpであり、20bpを標的とすることができ、認識部位の最後の3つのNGG配列は、PAM(protospacer adjacent motif)配列と呼ばれる。
【0115】
特に明記しない限り、Cas酵素、CRISPR酵素、CRISPRタンパク質、Casタンパク質、およびCRISPR Casという用語は一般的に置き換えて使用できる。
【0116】
Cas導入遺伝子は、ベクター(例えば、AAV、アデノウイルス、レンチウイルス)、および/または粒子および/またはナノ粒子、および/またはエレクトロポレーションによって送達することができる。
【0117】
一実施形態では、TCRのα鎖およびβ鎖の一方または両方の定常領域における対応するコーディング遺伝子のエキソンは、内因性TCRを不活性にするために、CRISPER/Cas技術を使用してノックアウトされる。好ましくは、内因性TCRα鎖の定常領域の第1のエキソンを標的としてノックアウトする。
【0118】
B2MまたはTCRの発現を「阻害する」または「抑制する」とは、細胞におけるB2MまたはTCRの発現が、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%減少することを意味する。より具体的には、B2Mの発現を「阻害する」または「抑制する」とは、細胞中のB2Mの含有量が少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%減少することを意味する。細胞内のタンパク質の発現または含有量は、B2MまたはTCRの特異的抗体を使用して、ELISA、免疫組織化学、ウエスタンブロッティング(Western Blotting)またはフローサイトメトリーなどの本分野で知られている任意の適切な方法によって測定することができる。
【0119】
本発明で使用される「修飾」という用語は、本発明のタンパク質またはポリペプチドの状態または構造の変化を指す。修飾方法は、化学的、構造的、および機能的であり得る。T細胞受容体(TCR)は、抗原提示に応答してT細胞の活性化に関与する細胞表面受容体である。TCRは通常、αとβの2つの鎖で構成されており、これらは組み合わせてヘテロ二量体を形成し、CD3形質導入サブユニットと結合して細胞表面に存在するT細胞受容体複合体を形成することができる。TCRのα鎖とβ鎖は、免疫グロブリン様のN末端可変領域(V)と定常領域(C)、疎水性膜貫通ドメイン、および短い細胞質領域で構成されている。免疫グロブリン分子の場合、α鎖とβ鎖の可変領域はV(D)J組換えによって生成されるため、T細胞の集団で大量の多様な抗原特異性が生成される。しかしながら、完全な抗原を認識する免疫グロブリンとは相反に、T細胞はMHC分子に関連する処理されたペプチドフラグメントによって活性化され、MHC制限と呼ばれるT細胞による抗原認識に追加の次元が導入される。T細胞受容体を介してドナーと受容体の間のMHCの違いを認識することは、細胞増殖とGVHDの潜在的な発達を引き起こす。TCRの通常の表面発現は、複合体の7つの成分すべての相乗的な合成と組みたてに依存することが示されている(Ashwell and Klusner 1990)。TCRαまたはTCRβの不活化は、T細胞の表面からのTCRの排除を引き起こすことができ、それによって同種異系抗原およびその結果として生じるGVHDの認識を防ぐ。
【0120】
「MHC」という用語は、生体適合性複合体の抗原をコードするすべての遺伝子グループの総称である組織適合性複合体である。MHC抗原は、すべての高等脊椎動物の組織で発現され、ヒト細胞ではHLA抗原と呼ばれ、移植反応において重要な役割を果たし、拒絶反応は、移植された組織の表面にある組織適合性抗原に応答するT細胞によって媒介される。MHCタンパク質はT細胞刺激において重要な役割を果たし、抗原提示細胞(通常は樹状細胞)は、MHCの細胞表面に外来タンパク質の分解産物に属するペプチドをディスプレイし、共刺激シグナルの存在下で、T細胞が活性化され、同じペプチド/MHC複合体をディスプレイする標的細胞に作用する。たとえば、刺激されたTヘルパー細胞は、MHCに結合した抗原をディスプレイするマクロファージを標的にするか、または、細胞傷害性T細胞(CTL)は、外来ウイルスペプチドをディスプレイするウイルス感染細胞に作用する。MHC抗原は、NHCクラスI抗原とMHCクラスII抗原に分けられる。ヒトには、クラスI HLA遺伝子クラスターには、3つの主要な遺伝子座HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cと、いくつかのマイナーな遺伝子座が含まれる。クラスII HLAクラスターには、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DRの3つの主要な遺伝子座も含まれる。
【0121】
「ヒト白血球抗原」(Human leukocyte antigen,HLA)という用語は、染色体6(6p21.31)に位置する、一連の緊密に関連した遺伝子座を含むヒト主要組織適合遺伝子複合体のコード遺伝子であり、ヒト免疫系の機能に密接に関連している。HLAには、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの遺伝子部分が含まれる。HLAのクラスIおよびクラスII遺伝子によって発現される抗原は細胞膜上にあり、MHC-I(HLA-A、HLA-B、HLA-C部位コーディング)およびMHC-II(HLA-D領域コーディング)である。クラスIは、体のほぼすべての細胞の表面に分布し、重鎖(α鎖)とβ2ミクログロブリン(B2M)で構成されるヘテロダイマーであり、タイプIIは、主にマクロファージとBリンパ球の表面にある糖タンパク質である。
【0122】
「B2M」という用語は、MHCクラスI分子の軽鎖である、B2Mとも呼ばれるβ-2ミクログロブリンを指す。ヒトでは、B2Mは染色体15にあるb2m遺伝子によってコードされ、染色体6に遺伝子クラスターとして位置付ける他のMHC遺伝子と相対する。β-2ミクログロブリン欠損症のマウスモデルは、B2MがMHCクラスIの細胞表面発現とペプチド結合溝の安定性に必要であることを示している。さらに、β-2ミクログロブリン遺伝子の標的変異により、正常な細胞表面のMHC I発現を欠くマウスからの造血移植片は、正常なマウスのNK1.1+細胞によって拒絶され、これは、MHC I分子の発現不良により、骨髄細胞が宿主の免疫系によって拒絶されやすくなることを示している(Bix et al.1991)。
【0123】
よって、より低い同種異系反応活性を有するT細胞を提供するために、本発明によって提供されるT細胞は、1つのTCR遺伝子および1つのHLA遺伝子を不活性化または変異させたT細胞を含む。
【0124】
「TCRが不活性である」ことは、内因性TCRが少なくとも1つのサブユニット遺伝子、特にTCRαおよび/またはTCRβ遺伝子が不活性化され、より好ましくはTCRα遺伝子が不活性化されることを意味する。
【0125】
「MHCが不活性である」ことは、内因性MHCが少なくとも1つのサブユニット遺伝子、特にMHC I遺伝子、より好ましくはB2M遺伝子を不活性化することを意味する。
【0126】
「T細胞抗原カプラー(T CELL ANTIGEN COUPLER、TAC)」という用語には、一本鎖抗体、設計されたアンキリンリピートタンパク質(designed ankyrin repeat protein,DARPin)またはその他のターゲティンググループ2を含む腫瘍ターゲティングドメイン;CD3に結合する一本鎖抗体により、TAC受容体が他のTCR受容体に近くなる、細胞外領域ドメイン;膜貫通領域とCD4共受容体の細胞内領域の、3つの機能ドメインが含まれる。ここで、細胞内領域は、プロテインキナーゼLCKに接続されており、T細胞活性化の最初ステップとしてTCR複合体の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAMs)のリン酸化を触媒する。
【0127】
本明細書で使用される場合、「活性化する」および「活性化させる」という用語は置き換えて使用でき、それらおよび文法上の他の形式は、細胞が休止状態から活性状態に変化するプロセスを指すことができる。このプロセスは、抗原、移行、および/または機能的活性状態の表現型または遺伝的変化への応答を含むことができる。例えば、「活性化」という用語は、T細胞の段階的な活性化のプロセスを指すことができる。たとえば、T細胞は完全に活性化するために少なくとも2つのシグナルを必要とする場合がある。第1のシグナルは、TCRが抗原-MHC複合体によって結合された後に発生することができ、第2のシグナルは、共刺激分子(表1にリストされている共刺激分子を参照)の結合によって発生することができる。インビトロでは、抗CD3は前記第1のシグナルをシミュレートでき、抗CD28は前記第2のシグナルをシミュレートできる。例えば、操作されたT細胞は、発現されたCARによって活性化され得る。本明細書で使用されるT細胞活性化またはT細胞トリガーは、検出可能な細胞増殖、サイトカイン産生、および/または検出可能なエフェクター機能を誘導するために十分に刺激されたT細胞の状態を指し得る。
【0128】
「キメラ受容体」という用語は、すなわち、異なる供給源からのDNA断片またはタンパク質対応cDNAを遺伝子組換え技術によって接続して形成される融合分子であり、細胞外領域、膜貫通領域、および細胞内領域を含む。キメラ受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)、修飾されたT細胞(抗原)受容体(TCR)、T細胞融合タンパク質(TFP)、T細胞抗原カプラー(TAC)を含むが、これらに限定されない。
【0129】
「共刺激リガンド」という用語は、T細胞上の同一性共刺激分子に特異的に結合し、それによってシグナルを提供する、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子を含み、例えば、TCR/CD3複合体とペプチドをロードしたMHC分子との組み合わせによって提供される第1のシグナルと一緒に、増殖、活性化、分化などを含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介する。共刺激リガンドは、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体およびB7-H3に特異的に結合するリガンドを含むが、これらに限定されない。共刺激リガンドは特にさらに、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83に特異的に結合するリガンドなどを含むがこれらに限定されない、T細胞に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体を含む。
【0130】
「共刺激分子」という用語は、共刺激リガンドに特異的に結合し、それによりT細胞の共刺激反応を媒介する、T細胞上の相同結合パートナーを指し、前記T細胞の共刺激反応として、増殖が挙げられるが、これに限定されない。共刺激分子は、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体を含むが、これらに限定されない。
【0131】
「共刺激シグナル」という用語は、TCR/CD3などの細胞刺激シグナル分子に結合して組み合わせて、T細胞増殖および/または重要な分子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションをもたらすシグナルを指す。
【0132】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、T細胞を含むがこれに限定されない免疫細胞によって発現され得る操作された分子を指す。CARはT細胞で発現し、T細胞をリダイレクトして、人工受容体によって決定される特異性を誘導して標的細胞を殺すことができる。CARの細胞外結合ドメインは、マウス、ヒト化、または完全ヒトモノクローナル抗体に由来することができる。それが免疫エフェクター細胞にあるとき、それは細胞に標的細胞(通常は癌細胞)に対する特異性を提供し、細胞内シグナルを生成する。CARは通常、少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質シグナル伝達ドメイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ばれる)を含み、以下に定義される刺激分子及び/または共刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む。一部の態様では、ポリペプチド群は互いに隣接している。ポリペプチド群は、二量体化分子の存在下でポリペプチドを互いにカップリングすることのできる二量体化スイッチを含み、例えば、抗原結合ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインにカップリングすることのできるスイッチを含む。一態様では、刺激分子は、T細胞受容体複合体に結合するζ鎖である。一態様では、細胞質シグナル伝達ドメインは、以下に定義される少なくとも1つの共刺激分子に由来する1つ以上の機能的シグナル伝達ドメインをさらに含む。一態様では、共刺激分子は、4-1BB(すなわち、CD137)、CD27、および/またはCD28などの、本明細書に記載される共刺激分子から選択される。一態様では、CARはキメラ融合タンパク質を含み、この融合タンパク質は、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一態様では、CARはキメラ融合タンパク質を含み、この融合タンパク質は、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および共刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインと刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一態様では、CARはキメラ融合タンパク質を含み、この融合タンパク質は、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上の共刺激分子に由来する2つの機能的シグナル伝達ドメインを含む。
【0133】
「シグナル伝達ドメイン」という用語は、細胞内で情報を伝達することによって機能するタンパク質の機能部分を指し、セカンドメッセンジャーを生成するか、そのようなメッセンジャーに応答してエフェクターとして作用することにより、確定されたシグナル伝達経路を介して細胞の活性を調節するためである。
【0134】
「細胞」という用語および他の文法的形態は、ヒトまたは非ヒト動物由来の細胞を指すことができる。遺伝子操作された細胞も、CARを発現する細胞を指すことができる。
【0135】
「トランスフェクション」という用語は、真核細胞への外因性核酸の導入を指す。トランスフェクションは、リン酸カルシウム-DNA共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染および微粒子銃(biolistics)を含む、当技術分野で知られている様々な手段によって達成することができる。
【0136】
「安定したトランスフェクション」または「安定してトランスフェクションする」という用語は、外因性の核酸、DNAまたはRNAを、トランスフェクトされる細胞のゲノムへ導入するおよび組み込むことを指す。「安定したトランスフェクタント(stable transfectant)」という用語は、外来DNAをゲノムDNAに安定して組み込んだ細胞を指す。
【0137】
「核酸分子コーディング」、「DNA配列をコードする」および「DNAをコードする」という用語は、デオキシリボ核酸鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序または順序を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。したがって、核酸配列はアミノ酸配列をコードする。
【0138】
「個体」という用語は、哺乳類または有袋類などの任意の動物を指す。本発明の個体には、ヒト、ヒト以外の霊長類(アカゲザルまたは他の種類のマカクなど)、マウス、ブタ、ウマ、ロバ、ウシ、ヒツジ、ラット、および任意の種類の家禽が含まれるが、これらに限定されない。
【0139】
「末梢血単核球」(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)という用語は、リンパ球、単球などを含む、末梢血中に単核を有する細胞を指す。
【0140】
「T細胞活性化する」または「T細胞活性化させる」という用語および文法上の他の形は、検出可能な細胞増殖、サイトカイン産生、および/または検出可能なエフェクター機能を誘導するのに十分に刺激されるT細胞の状態を指すことができる。場合によっては、「完全なT細胞の活性化」はT細胞の細胞毒性の誘発に類似してもよい。当技術分野で知られている様々なアッセイを使用して、T細胞の活性化を測定することができる。前記アッセイは、サイトカイン分泌を測定するためのELISA、ELISPOT、細胞内サイトカイン発現を測定するためのフローサイトメトリーアッセイ(CD107)、増殖を測定するためのフローサイトメトリーアッセイ、および標的細胞の排除を確定するための細胞毒性アッセイ(51Cr放出アッセイ)であってもよい。前記アッセイは通常、対照(非操作細胞)を使用して操作細胞(CAR T)と比較し、対照と比較した操作細胞の相対的活性化を確定する。さらに、このアッセイは、標的抗原を発現していない標的細胞とインキュベートまたは接触させた操作細胞と比較することができる。例えば、前記比較は、GPC3を発現しない標的細胞とインキュベートされたGPC3-CART細胞との比較であってもよい。
【0141】
ヌクレオチド配列を指すために使用される場合、本明細書に使用される「配列」という用語および文法上の他の形式は、DNAまたはRNAを含み得、一本鎖または二本鎖であってもよい。核酸配列を変異させることができる。核酸配列は任意の長さを有することができる。
【0142】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、治療的または予防的利益を提供する量を指す。
【0143】
本明細書で使用される「発現ベクター」という用語は、発現されるヌクレオチド配列に有効的に連結された発現制御配列を含む、組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシスエレメント(cis-acting elements)を含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞またはインビトロ発現システムによって提供されることができる。発現ベクターには、コスミド、プラスミド(例えば、露出されるまたはリポソームに含まれるもの)、およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ関連ウイルス)などの当技術分野で知られているすべてのものが含まれる。
【0144】
本明細書で使用される「レンチウイルス」という用語は、レトロウイルス科の属を指す。レトロウイルスは、非分裂細胞に感染可能な面においてレトロウイルスの中で独特である。それらは、宿主細胞のDNAに大量の遺伝情報を送達できるため、遺伝子送達ベクターの最も効果的な方法の1つである。HIV、SIV、FIVはいずれもレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子移動を達成する手段を提供する。
【0145】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる組成物である。線状ポリヌクレオチド、イオンまたは両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むがこれらに限定されない多くのベクターが当技術分野で知られている。したがって、「ベクター」という用語は、自発的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、ポリリジン化合物、リポソームなどの、細胞への核酸の移動を促進する非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0146】
本明細書で使用される配列「同一性」という用語は、比較ウィンドウ(例えば、少なくとも20位置)で2つの最適にマッチした配列を比較することによって同一性パーセンテージを決定し、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の一部は、付加または欠失(すなわちスペース)を含んでもよく、例えば、最適にマッチした2つの配列にとって参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して20%以下のスペース(たとえば、5~15%、または10~12%)を含んでもよい。通常、2つの配列で同じ核酸塩基またはアミノ酸残基が発生する位置の数を確定してパーセンテージを計算し、これによって正しいペアリング位置の数を生成し、正しいペアリング位置の数を参照配列内の位置の総数(つまり、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを生成する。
【0147】
本明細書で使用される「外因性」という用語は、細胞内で内因性発現を有さないか、または過剰発現されたときの機能を達成するには発現レベルが不十分である核酸分子またはポリペプチドを指す。したがって、「外因性」には、細胞内で発現される組換え核酸分子またはポリペプチド、例えば、外因性、異種および過剰発現された核酸分子およびポリペプチドが含まれる。
【0148】
「内因性」という用語は、生物自身のゲノム内の遺伝子に由来する核酸分子またはポリペプチドを指す。一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体は、キメラ抗原受容体である。本明細書で使用される「キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor,CAR)」という用語は、T細胞を活性化することができる、細胞内シグナル伝達領域に融合された腫瘍抗原結合ドメインを指す。多くの場合、CARの細胞外結合ドメインは、マウスまたはヒト化またはヒトモノクローナル抗体に由来する。
【0149】
キメラ抗原受容体は通常、(細)胞外抗原結合領域を含む。一部の実施形態において、細胞外抗原結合領域は、完全にヒトであってもよい。他の場合には、細胞外抗原結合領域をヒト化することができる。他の場合には、細胞外抗原結合領域はマウスに由来するか、または前記細胞外抗原結合領域のキメラは、少なくとも2つの異なる動物からのアミノ酸配列からなる。一部の実施形態において、前記細胞外抗原結合領域は、非ヒトであってもよい。さまざまな抗原結合領域を設計することができる。非限定的な例には、抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)、ライブラリーから選択されるフラグメントの抗原結合領域(Fab)、単一ドメインフラグメント、またはそれらの相同受容体に接合する天然リガンドが含まれる。一部の実施形態において、細胞外抗原結合領域は、scFv、Fab、または天然リガンド、およびそれらの任意の誘導体を含むことができる。細胞外抗原結合領域は、完全抗体の一部を含み、完全抗体が結合する抗原に結合することができる、完全抗体以外の分子を指すことができる。抗体フラグメントの実例には、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;二機能性抗体、線形抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。scFv、Fab、または天然リガンドなどの細胞外抗原結合領域は、抗原特異性を決定するCARの一部であってもよい。細胞外抗原結合領域は、任意の相補的標的に結合することができる。細胞外抗原結合領域は、既知の可変領域配列を有する抗体から誘導することができる。細胞外抗原結合領域は、入手可能なマウスハイブリドーマから得られた抗体配列から得ることができる。あるいは、細胞外抗原結合領域は、腫瘍細胞または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの初代細胞の全エクソームシーケンシングから得ることができる。
【0150】
場合によっては、細胞外抗原結合領域の結合特異性は、相補性決定領域、または軽鎖CDRまたは重鎖CDRなどのCDRによって確定することができる。多くの場合、結合特異性は軽鎖CDRと重鎖CDRによって確定できる。他の参照抗原と比較して、所定の重鎖CDRと軽鎖CDRの組み合わせは、所定の結合ポケットを提供することができ、これは、抗原(例えば、GPC3)に対してより大きな親和性および/または特異性を与えることができる。例えば、グリピカン-3に特異的なCDRはCARの細胞外結合領域で発現できるため、GPC3を標的とするCARは、T細胞をGPC3を発現する腫瘍細胞に標的化することができる。
【0151】
本明細書に開示される実施形態のいずれかの特定の局面において、scFvなどの細胞外抗原結合領域は、抗原に特異的な軽鎖CDRを含むことができる。軽鎖CDRは、CARなどの抗原結合ユニットのscFv軽鎖の相補性決定領域であってもよい。軽鎖CDRは、連続するアミノ酸残基の配列、または非相補性決定領域(例えば、フレームワーク領域)によって隔てられた2つ以上の連続するアミノ酸残基の配列を含むことができる。場合によっては、軽鎖CDRは、2つ以上の軽鎖CDRを含んでもよく、軽鎖CDR-1、CDR-2などと呼ばれることができる。場合によっては、軽鎖CDRは3つの軽鎖CDRを含んでもよく、それぞれ軽鎖CDR-1、軽鎖CDR-2、および軽鎖CDR-3と呼ばれることができる。一部の例では、軽鎖上に存在する一組のCDRは、まとめて軽鎖CDRと呼ばれることができる。
【0152】
本明細書に開示される実施形態のいずれかの特定の局面において、scFvなどの細胞外抗原結合領域は、抗原に特異的な重鎖CDRを含んでもよい。重鎖CDRは、scFvなどの抗原結合ユニットの重鎖相補性決定領域であってもよい。重鎖CDRは、アミノ酸残基の連続配列、または非相補性決定領域(フレームワーク領域など)によって隔てられた2つ以上のアミノ酸残基の連続配列を含んでもよい。場合によっては、重鎖CDRは、2つ以上の重鎖CDRを含んでもよく、重鎖CDR-1、CDR-2などと呼ばれることができる。場合によっては、重鎖CDRは、3つの重鎖CDRを含んでもよく、それぞれ、重鎖CDR-1、重鎖CDR-2、および重鎖CDR-3と呼ばれることができる。場合によっては、共通の重鎖に存在する一組のCDRをまとめて重鎖CDRと呼ぶことができる。
【0153】
遺伝子工学を使用することにより、細胞外抗原結合領域をさまざまな方法で修飾することができる。場合によっては、細胞外抗原結合領域を変異させて、細胞外抗原結合領域をその標的に対してより高い親和性を有するように選択することができる。場合によっては、細胞外抗原結合領域の標的に対する親和性を、正常組織で低レベルで発現できる標的に最適化することができる。潜在的な毒性をなるべく抑えるためにこの最適化を行うことができる。他の場合には、標的の膜結合型に対してより高い親和性を有する細胞外抗原結合領域のクローンは、それらの可溶性形態の対応物よりも優れている可能性がある。可溶性形態の異なるレベルの標的も検出することができ、それらの標的が望ましくない毒性を引き起こす可能性があるため、この修飾を行うことができる。
【0154】
場合によっては、細胞外抗原結合領域はヒンジまたはスペーサーを含む。ヒンジとスペーサーという用語は置き換えて使用することができる。ヒンジは、細胞外抗原結合領域に柔軟性を提供するために使用されるCARの一部と見なすことができる。場合によっては、特に細胞外抗原結合領域を検出する抗体が機能しないまたは利用可能である場合、細胞の細胞表面上のCARの検出にヒンジを使用することができる。例えば、免疫グロブリンに由来するヒンジの長さは、細胞外抗原結合領域によって標的とされる標的上のエピトープの位置に応じて、最適化される必要があるかもしれない。
【0155】
場合によっては、ヒンジは免疫グロブリンに属さず、CD8α分子の天然のヒンジなどの別の分子に属している可能性がある。CD8αヒンジは、CD8補助受容体とMHC分子の相互作用に役立つことが知られているシステインおよびプロリン残基を含むことができる。前記システインとプロリンの残基は、前記CARの性能に影響を与える可能性がある。CARヒンジは、そのサイズが調整可能であってもよい。T細胞と標的細胞の間の免疫シナプスのこの形態はまた、細胞表面標的分子上の膜遠位エピトープのためにCARによって機能的にブリッジングできない距離を限定し、短いヒンジCARを使用しても、シナプス距離は、シグナルの伝達可能な近似値に達することができない。同様に、膜近位端にあるCAR標的エピトープは、長いヒンジCARのバックグラウンドでのみシグナル出力を観察できる。使用する細胞外抗原結合領域に応じてヒンジを調節できる。ヒンジは任意の長さを有することができる。膜貫通領域は、CARを細胞の原形質膜にアンカーすることができる。CD28の天然の膜貫通部分はCARに使用できる。その他の場合、CD8αの天然の膜貫通部分もCARで使用できる。「CD8」は、NCBI参照番号:NP_001759または刺激活性を有するそのフラグメントと少なくとも85、90、95、96、97、98、99、または100%の同一性を有するタンパク質であってもよい。「CD8核酸分子」は、CD8ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。場合によっては、膜貫通領域は、CD28の天然の膜貫通部分であってもよい。「CD28」は、NCBI参照番号:NP_006130またはその刺激活性を有するそのフラグメントと少なくとも85、90、95、96、97、98、99、または100%の同一性を有するタンパク質であってもよい。「CD28核酸分子」は、CD28ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。場合によっては、膜貫通部分はCD8α領域を含んでもよい。CARの細胞内シグナル領域は、CARが配置されているT細胞のエフェクター機能の少なくとも1つを活性化することを担当することができる。CARはT細胞のエフェクター機能を誘導することができる。例えば、前記エフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性または補助活性である。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特異的な機能を実行するようにガイドするタンパク質の部分を指す。通常は、完全な細胞内シグナル伝達ドメインを使用することができるが、多くの場合、シグナルドメインの完全鎖を使用する必要はない。場合によっては、細胞内シグナル伝達領域の短縮された部分を使用する。したがって、場合によっては、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の短縮された部分を含もうとする。
【0156】
CARで使用されるシグナルドメインの好ましい例には、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列および標的-受容体結合後にシグナル伝達を開始するために相乗的に作用する共同受容体、ならびにそれらの任意の誘導体または変異体配列およびそれらの配列と同じ機能を持つ任意の合成配列が含まれてもよい。
【0157】
場合によっては、前記細胞内シグナルドメインは、既知の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)のシグナルモチーフを含んでもよい。細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例には、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79B、CD66dのDAP10、またはDAP12のタンパク質に由来する機能的シグナル伝達ドメインが含まれる。しかしながら、好ましい実施形態では、細胞内シグナルドメインは、CD3ζ鎖に由来する。1つまたは複数のITAMモチーフを含むT細胞シグナルドメインの例は、T細胞受容体T3ζ鎖またはCD247としても呼ばれるCD3ζドメインである。このドメインはT細胞受容体-CD3複合体の一部であり、いくつかの細胞内シグナル伝達経路の抗原認識とT細胞の主な効果の活性化を組み合わせる上で重要な役割を果たす。本明細書で使用されるように、CD3ζは主に、SwissprotエントリーP20963から知られているように、実質的に同じ配列を有するタンパク質を含む、ヒトCD3ζおよびそのアイソフォームを指す。キメラ抗原受容体の一部として、完全なT細胞受容体T3ζ鎖は必要ではなく、T細胞受容体T3ζ鎖のシグナルドメインを含む任意の誘導体が適切であり、その機能的同等物を含むことをここでもう一度強調する。
【0158】
細胞内シグナル伝達ドメインは、表1のドメインのいずれかから選択できる。場合によっては、参照ドメインとの同一性が約50%から約100%になるようにドメインを修飾することができる。表1のドメインのいずれか1つを修飾して、修飾されたものに約50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、または最大約100%の同一性を含めることができる。CARの細胞内シグナル伝達領域は、1つまたは複数の共刺激ドメインをさらに含むことができる。細胞内シグナル伝達領域は、ζ鎖(第1世代のCAR)またはそれとCD28または4-1BB(第2世代のCAR)などの単一の共刺激ドメインを含むことができる。他の例では、細胞内シグナル伝達領域は、CD28/OX40またはCD28/4-1BB(第3世代)などの2つの共刺激ドメインを含むことができる。
【0159】
CD8などの細胞内シグナルドメインとともに、これらの共刺激ドメインはキナーゼ経路の下流の活性化を引き起こし、それによって遺伝子転写と機能的な細胞応答をサポートすることができる。CARの共刺激ドメインは、CD28(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスホスフェート3-キナーゼ)または4-1BB/OX40(TNF受容体関連因子アダプタータンパク質)経路、ならびにMAPKおよびAkt活性化に関連する近位シグナルタンパク質を活性化することができる。
【0160】
場合によっては、CARによって生成されたシグナルは、補助シグナルまたは共刺激シグナルと組み合わされることがある。共刺激シグナルドメインの場合、キメラ抗原受容体様複合体は、いくつかの可能な共刺激シグナルドメインを含むように設計されることができる。当技術分野でよく知られているように、ナイーブT細胞では、T細胞受容体の接合だけでは、T細胞の細胞傷害性T細胞への完全な活性化を誘導するのに十分ではない。完全な生産的T細胞の活性化には、第2の共刺激シグナルが必要である。CD28、OX40、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、4-1BBL、MyD88、4-1BBなどを含むがこれらに限定されない、T細胞活性化の共刺激を提供するいくつかの受容体が報告されている。これらの共刺激分子によって使用されるシグナル伝達経路はいずれも、T細胞受容体活性化の主なシグナルと相乗的に作用することができる。これらの共刺激シグナル伝達領域によって提供されるシグナルは、1つまたは複数のITAMモチーフ(たとえば、CD3zetaシグナル伝達ドメイン)に由来する主効果活性化シグナルと相乗的に作用し、T細胞活性化の要件を完了することができる。
【0161】
場合によっては、キメラ抗原受容体様複合体に共刺激ドメインを付加すると、操作された細胞の有効性と耐久性を高めることができる。別の実施形態では、T細胞シグナルドメインおよび共刺激ドメインは、互いに融合して、シグナル伝達領域を形成する。
【0162】
【0163】
本明細書で使用される「調節」という用語は、正または負の変更を指す。調節の例には、1%、2%、10%、25%、50%、75%、または100%の変更が含まれる。
【0164】
本明細書で使用される「治療」という用語は、ヒトを変えようとするまたは細胞によって引き起こされる疾患を処置する過程における臨床的介入を指し、予防もできると共に、臨床病理学的過程において介入することもできる。治療効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の低減、転移の予防、疾患の進行の遅延、状態の改善または緩和、予後の緩和または改善などが含まれるが、これらに限定されない。
【0165】
T細胞
本明細書に記載のT細胞は、本発明の方法によって改変されたT細胞を指し、T細胞の内因性TCR遺伝子および/またはMHC遺伝子はサイレンシングされる。
【0166】
場合によっては、T細胞はCD45RO(-)、CCR7(+)、CD45RA(+)、CD62L+(L-セレクチン)、CD27+、CD28+および/またはIL-7Rα+で構成される幹細胞様メモリーTSCM細胞であってもよく、その幹細胞様メモリー細胞はまた、CD95、IL-2Rβ、CXCR3および/またはLFA-1を発現でき、幹細胞様メモリー細胞とは異なる多くの機能特性を示すことができる。あるいは、免疫反応性細胞はまた、L-セレクチンおよびCCR7を含む中央記憶TCM細胞であってもよく、ここで、中央記憶細胞は、例えば、IL-2を分泌することができるが、IFNγまたはIL-4を分泌しない。免疫反応性細胞はまた、L-セレクチンまたはCCR7を含むエフェクターメモリーTEM細胞であってもよく、例えば、IFNγおよびIL-4などのエフェクターサイトカインを産生する。
【0167】
通常、以下に記載されるように、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または頭蓋内注入)または局所適用により、ベクターをインビボで個々の患者への投与によって送達する。あるいは、ベクターは、個々の患者から取り出された細胞(例えば、リンパ球、T細胞、骨髄吸引物、組織生検)などのエクスビボでの細胞に送達することができ、その後、通常、ベクターを組み込んだ細胞を選択した後、細胞を患者の体内に再移植する。選択の前または後に、細胞を増殖させることができる。
【0168】
T細胞は、PBMC、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、及び、感染部位、腹水、胸水、脾臓組織、腫瘍に由来する組織などの多くの供給源から入手できる。場合によっては、FicollTM単離などの当業者に知られている任意の数の技術を使用して、個体から収集された血液からT細胞を取得することができる。一実施形態では、アフェレーシスにより、個体の循環血液からの細胞が得られる。アフェレーシス製品は通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核血液白血球、赤血球、および血小板を含む。一実施形態では、アフェレーシス収集によって収集された細胞を洗浄して血漿画分を除去し、その後の処理ステップのために細胞を適切な緩衝液または培地に入れることができる。あるいは、細胞は、健康なドナー、癌と診断された患者から由来することができる。
【0169】
一部の実施形態では、細胞は、異なる表現型の特徴を有する混合細胞集団の一部であってもよい。前述の方法に従って、形質転換されたT細胞から細胞株を取得することもできる。細胞は、細胞治療バンクから入手することもできる。
【0170】
場合によっては、適切な初代細胞には、末梢血単核球(PBMC)、末梢血リンパ球(PBL)、および、T細胞、ナチュラルキラー細胞、単球、ナチュラルキラーT細胞、単球前駆細胞、造血幹細胞または非多能性幹細胞などの他の血液細胞亜集団が含まれる。場合によっては、細胞は、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、または他の任意のタイプのT細胞などの腫瘍浸潤細胞(TIL)であってもよい。T細胞はまた、記憶T細胞、幹細胞様記憶T細胞、またはエフェクターT細胞を含んでもよい。全血などの大集団からT細胞を選択することもできる。T細胞を大集団から増殖させることもできる。T細胞はまた、特定の集団および表現型に傾く可能性もある。たとえば、T細胞はCD45RO(-)、CCR7(+)、CD45RA(+)、CD62L(+)、CD27(+)、CD28(+)および/またはIL-7Rα(+)を含む表現型に傾く可能性がある。適切な細胞は、CD45RO(-)、CCR7(+)、CD45RA(+)、CD62L(+)、CD27(+)、CD28(+)および/またはIL-7Rα(+)からの1つまたは複数のマーカーから選択できる。適切な細胞には、例えば、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、および間葉系幹細胞などの幹細胞も含まれる。適切な細胞は、ヒト細胞、非ヒト細胞、および/またはマウス細胞などの任意の数の初代細胞を含んでもよい。適切な細胞は、前駆細胞であってもよい。適切な細胞は、治療される被験者(例えば、患者)に由来することができる。
【0171】
患者に必要な治療上有効な細胞の量は、細胞の生存率および細胞が遺伝子修飾される効率に応じて変化できる(例えば、導入遺伝子が1つまたは複数の細胞に組み込まれる効率、または導入遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベル)。場合によっては、遺伝子修飾後の細胞生存率の産物(例えば、倍加)と導入遺伝子組み込みの効率は、被験者へ投与可能な細胞の治療量に対応することができる。場合によっては、遺伝子修飾後の細胞生存率の増加は、治療が行われたときに患者に有効な必要な細胞の量の減少に対応する可能性がある。場合によっては、導入遺伝子の1つまたは複数の細胞への組み込みの効率の増加は、患者に治療的に有効なものを与えるために必要な細胞の数の減少に対応し得る。場合によっては、必要な治療上有効な細胞の量を決定することは、経時的な細胞の変化に関連する機能を決定することを含み得る。場合によっては、治療上有効である必要な細胞の量を決定することは、時間関連の変数に基づいて導入遺伝子を1つ以上の細胞に組み込む効率の変化に対応する機能(例えば、細胞培養時間、エレクトロポレーション時間、細胞培養時間)を決定することを含み得る。場合によっては、治療上有効な細胞は、細胞表面上にキメラ受容体の約30%から約100%の発現を含む細胞集団であってもよい。場合によっては、フローサイトメトリーで測定すると、治療上有効な細胞は、細胞表面に前記キメラ受容体を約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%または約99.9%超発現することができる。
【0172】
医薬組成物
本発明のT細胞は、医薬組成物を調製するために使用することができる。有効量のT細胞に加えて、前記医薬組成物はまた、薬学上許容される担体を含んでもよい。「薬学上許容される」という用語は、分子本体および組成物が動物またはヒトに適切に投与された場合、それらが有害、アレルギーまたは他の有害反応を引き起こさないことを意味する。
【0173】
薬学上許容される担体またはその成分として使用できるいくつかの物質の特定の例は、抗酸化剤、防腐剤、パイロジェンフリー水、等張塩溶液、およびリン酸塩緩衝液などである。
【0174】
本発明の組成物は、必要に応じて様々な剤形にすることができ、医師は、患者のタイプ、年齢、体重、一般的な病状、および投与方法などの要因に従って確定した、患者にとって有益な剤量に従って投与することができる。投与方式は、例えば、非経口投与(注射など)または他の治療方式が使用できる。
【0175】
組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)または胸骨内注射または注入技術が含まれる。
【0176】
個体に投与されるT細胞集団含有試薬は、特定の適応症または疾患を治療および/または予防するのに有効な複数のT細胞を含む。したがって、治療上有効な免疫反応性細胞の集団を個体に投与することができる。一般に、約1×104から約1×1010の免疫反応性細胞を含む試薬が投与される。ほとんどの場合、試薬は、約1×105から約1×109の免疫反応性細胞、約5×105から約5×108の免疫反応性細胞、または約1×106から約1×107の免疫反応性細胞を含む。しかしながら、癌の場所、発生源、アイデンティティ、程度および重症度、治療される個体の年齢および体調などに応じて、個体に投与されるCAR免疫反応性細胞の数は広範囲内で変化する。医師は最終的に使用する適切な用量を決定する。
【0177】
一部の実施形態において、キメラ抗原受容体を使用して免疫細胞媒介性免疫応答を刺激する。たとえば、T細胞を介した免疫応答は、T細胞の活性化に係る免疫応答である。活性化された抗原特異的細胞毒性T細胞は、腫瘍抗原をディスプレイする癌細胞など、表面に外来抗原エピトープをディスプレイする標的細胞にアポトーシスを誘導することができる。別の実施形態において、キメラ抗原受容体を使用して哺乳動物において抗腫瘍免疫を提供する。T細胞を介した免疫応答により、被験者は抗腫瘍免疫を産生する。
【0178】
場合によっては、癌を有する被験者を治療する方法は、治療を必要とする被験者に本発明の1つまたは複数のT細胞を投与することに係ることができる。前記T細胞は腫瘍標的分子に結合し、癌細胞の死を誘発することができる。
【0179】
上記のように、本発明はまた、個体における病原体感染を治療する方法を提供し、これは、治療有効量の本発明のT細胞を前記個体に投与することを含む。
【0180】
抗腫瘍薬との併用
一部の実施形態において、本発明のT細胞は、他の治療薬と組み合わせて投与することができる。一部の実施形態において、他の治療薬は、化学療法剤である。本発明のT細胞と組み合わせて使用することができる化学療法剤には、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、およびノビビン(TM)(ビノレルビン、5’-硫化脱水素)を含む有糸分裂阻害剤(ビンカアルカロイド);CamptosarTM(イリノテカンHCL)、HycamtinTM(トポテカンHCL)を含むカンプトテシン化合物、及びカンプトテシンおよびその類似体に由来する他の化合物などのトポイソメラーゼI阻害剤;エトポシド、テニポシド、及びミドキシゾズなどのポドフィロトキシン誘導体;アルキル化剤、シスプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、トリメチレンチオホスホルアミド、カルムスチン、ブスルファン、クロラムブシル、ブリキアジン、ウラシルマスタード、クロプロフェンおよびダカルバジン;シタラビン、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、アザチオプリン、およびプロカルバジンを含む代謝拮抗剤;ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、マイシノマイシン、マイトマイシン、サルコマイシンCおよびダウノルビシンを含むがこれらに限定されない抗生物質;および、抗腫瘍抗体、ダカルバジン、アザシチジン、アムサカム、メルファラン、イフォスファミドおよびミトキサントロンを含むがこれらに限定されない他の化学療法剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0181】
一部の実施形態において、本発明のT細胞と組み合わせて使用することができる化学療法剤は、抗VEGF抗体(ヒト化およびキメラ抗体、抗VEGFアプタマーおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)および他の血管新生阻害剤、例えば血管アンギオスタチン、エンドスタチン、インターフェロン、レチノイン酸、およびメタロプロテイナーゼ-1および-2の組織阻害剤を含む、抗血管新生剤を含むが、これらに限定されない。
【0182】
キット
本発明はまた、本発明のT細胞を含むキットを提供する。このキットは、癌、病原体感染、免疫障害、または同種移植の治療または予防に使用できる。一実施形態では、キットは、1つまたは複数の単位剤形で有効量のT細胞を含む治療的または予防的組成物を含むことができる。
【0183】
一部の実施形態では、キットは、治療的または予防的組成物を含むことができる無菌容器を含む。
【0184】
場合によっては、キットは、約1×104の細胞から約1×106の細胞を含むことができる。場合によっては、キットは、少なくとも約1×105の細胞、少なくとも約1×106の細胞、少なくとも約1×107の細胞、少なくとも約4×107の細胞、少なくとも約5×107の細胞、少なくとも約6×107の細胞、少なくとも約6×107の細胞、少なくとも約8×107の細胞、少なくとも約9×107の細胞、少なくとも約1×108の細胞、少なくとも約2×108の細胞、少なくとも約3×108の細胞、少なくとも約4×108の細胞、少なくとも約5×108の細胞、少なくとも約6×108の細胞、少なくとも約6×108の細胞、少なくとも約8×108の細胞、少なくとも約9×108の細胞、少なくとも約1×109の細胞、少なくとも約2×109の細胞、少なくとも約3×109の細胞、少なくとも約4×109の細胞、少なくとも約5×109の細胞、少なくとも約6×109の細胞、少なくとも約8×109の細胞、少なくとも約9×109の細胞、少なくとも約1×1010の細胞、少なくとも約2×1010の細胞、少なくとも約3×1010の細胞、少なくとも約4×1010の細胞、少なくとも約5×1010の細胞、少なくとも約6×1010の細胞、少なくとも約9×1010の細胞、少なくとも約9×1010の細胞、少なくとも約1×1011の細胞、少なくとも約2×1011の細胞、少なくとも約3×1011の細胞、少なくとも約4×1011の細胞、少なくとも約5×1011の細胞、少なくとも約8×1011の細胞、少なくとも約9×1011の細胞、または少なくとも約1×1012の細胞を含むことができる。例えば、キットには、約5×1010の細胞が含まれることができる。
【0185】
場合によっては、キットに同種異系細胞が含まれることができる。場合によっては、キットにはゲノム修飾を含むことができる細胞が含まれることができる。場合によっては、キットに「既成の」細胞が含まれることができる。場合によっては、キットには、臨床使用までに拡張できる細胞が含まれることができる。場合によっては、キットには研究目的の内容が含まれることがある。
【0186】
本発明の利点:
本発明の方法による遺伝子編集は、編集効率が高いだけでなく、細胞生存率も良好である。
【0187】
本発明は、具体的な実施形態と併せて以下でさらに説明される。これらの実施形態は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。下記の実施形態では、具体的な条件を示していない実験方法は、通常、J. Sambrook et al., eds. Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition、科学出版社、2002に記載されている条件などの通常の条件に従うか、製造元に勧められた条件に従う。
【0188】
例示的に、以下の実施例では、本発明の方法を説明するためにT細胞が選択される。
【0189】
T細胞の取得:健康なドナーから採取した末梢血から分離してヒト末梢血単核細胞(PBMC)を得て、CD3/CD28抗体結合ビーズ(beads)を添加して活性化し、培養および増殖させてT細胞を取得した。
【0190】
実施例1:TRAC遺伝子を標的とするsgRNAの設計と合成
図1に示すように、TRAC(TCRαC、T細胞受容体α定常遺伝子座)遺伝子の最初のエキソン(ヌクレオチド配列は配列番号1に示されている)に対して、TRAC遺伝子を標的とする8つのsgRNA配列、すなわち、sg-TRAC-1(配列番号2)、sg-TRAC-2(配列番号3)、sg-TRAC-3(配列番号4)、sg-TRAC-4(配列番号5)、sg-TRAC-5(配列番号32)、sg-TRAC-6(配列番号33)、sg-TRAC-7(配列番号39)及びsg-TRAC-8(配列番号40)を設計して得た。
sg-TRAC-1(配列番号2)、sg-TRAC-2(配列番号3)、sg-TRAC-3(配列番号4)、sg-TRAC-5(配列番号32)、sg-TRAC-6(配列番号33)、sg-TRAC-7(配列番号39)及びsg-TRAC-8(配列番号40)を実験のために選択した。配列番号20および21に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-1を転写および増幅した;配列番号22および23に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-2を転写および増幅した;配列番号24および25に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-3を転写および増幅した;配列番号34および35に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-5を転写および増幅した;配列番号36および37に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-6を転写および増幅した;配列番号41および42に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-7を転写および増幅した;配列番号43および44に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-TRAC-8を転写および増幅した。
TRAC-exon 1配列(配列番号1):
AACGCCTTCAACAACAGCATTATTCCAGAAGACACCTTCTTCCCCAGCCCAGGATATCCAGAACCCTGACCCTGCCGTGTACCAGCTGAGAGACTCTAAATCCAGTGA CAAGTCTGTCTGCCTATTCACCGATTTTGATTCTCAAACAAATGTGTCACAAAGTAAGGATTCTGATGTGTATATCACAGACAAAACTGTGCTAGACATGAGGTCTATGGA CTTCAAGAGCAACAGTGCTGTGGCCTGGAGCAACAAATCTGACTTTGCATGTGCA
sg-TRAC-1(配列番号2):AGAGTCTCTCAGCTGGTACA
sg-TRAC-2(配列番号3):TCTCTCAGCTGGTACACGGC
sg-TRAC-3(配列番号4):GAGAATCAAAATCGGTGAAT
sg-TRAC-4(配列番号5):CTCTCAGCTGGTACACGGCA
sg-TRAC-5(配列番号32):GTCTCTCAGCTGGTACA
sg-TRAC-6(配列番号33):AGTCTCTCAGCTGGTACA
sg-TRAC-7(配列番号39):TTAGAGTCTCTCAGCTGGTACA
sg-TRAC-8(配列番号40):TTTAGAGTCTCTCAGCTGGTACA
【0191】
実施例2:ノックアウト効率に対するCas9酵素とsg-TRACの異なる比率の影響
活性化T細胞を取って細胞をカウントし、2*10^7/mlの細胞密度に調整した。sgRNAとしてsg-TRAC-1(配列番号2)を選択した。
Cas9酵素(NEBから購入)とsg-TRAC-1のモル比をそれぞれ1:2、1:3、1:4、および1:5の比率で混合して、RNP複合体を形成した。室温で10分間インキュベートした後、1*10^6T細胞に添加した(Cas9酵素の最終濃度は0.3μMであった)。その中で、sg-TRAC-1のモル数は、gRNAの塩基組成と4.03μg/μlの濃度(OD260/OD280=1.98)に基づいて計算された。
RNP複合体は、BTXエレクトロポレーター(Harvard Apparatus、米国)を使用してT細胞に導入され、エレクトロポレーションパラメーターは、250V、5msであった。TCRノックアウトの効率を検証するために、トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図2と表1に示す。Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:3から1:5の場合、ノックアウト効率は70%以上であった。Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:4の場合、ノックアウト効率が最も高く、87.2%に達した。これは、Cas9酵素とgRNAのモル比が1:4である時、遺伝子ノックアウト効果が最もよいことを示している。
【表2】
【0192】
実施例3:TRAC遺伝子ノックアウトに対する異なるsgRNAの影響
TRAC遺伝子を標的とする3つの異なるsgRNA、すなわち、sg-TRAC-1、sg-TRAC-2、sg-TRAC-3を選択した。
TRAC遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。実施例1で合成されたsg-TRAC-1、sg-TRAC-2、およびsg-TRAC-3の3つのsgRNAをそれぞれCas9酵素(0.5μM)と4:1の比率で混合して、RNP複合体を形成した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定されたパラメーターに基づいてエレクトロポレーションを行い、RNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。フローサイトメトリーの結果を
図3と表2に示す。sg-TRAC-1のノックアウト効果はsg-TRAC-2およびsg-TRAC-3のノックアウト効果よりも有意に優れており、これは、sg-TRAC-1が最高のノックアウト効果を有することを示している。それと同時に、異なる長さのsg-TRAC-1がノックアウト効率に対する影響をテストし、sg-TRAC-1(-3bp)(sg-TRAC-5)、sg-TRAC-1(-2bp)(sg-TRAC-6)、sg-TRAC-1(+3bp)(sg-TRAC-7)、sg-TRAC-1(+2bp)(sg-TRAC-8)の4つのsgRNAをそれぞれ合成し、それぞれCas9酵素(0.5μM)と4:1のモル比で混合してRNP複合体を形成し、上記の条件下でT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞をCD3抗体フローサイトメトリーに使用して、TCRノックアウトの効率を検証した。実験結果を
図3Bに示す。2つまたは3つの塩基が短縮されたsg-TRAC-1はTCRノックアウト効率に対する影響が小さいが、2つまたは3つの塩基を追加するとTCRノックアウト効率が低下する。これは、この部位のsgRNAの設計された長さをある程度変更することができ、特に3つ以内の塩基を短縮すると、同じく比較的に高いノックアウト効果を得ることができることを示している。
【表3】
なお、公開された文献では、sg-TRAC-1でもTCRノックアウト効率を90%に到達させることができるが、この文献では2回のエレクトロポレーションを使用した最適化されたノックアウト方法が使用されており、そのプロセスは比較的に複雑である(Clin Cancer Res.2017 May 1;23(9):2255-2266を参照、
図1Aは、TCRノックアウト率が95.7%であることを示している)。これに対して、本発明は、1回のエレクトロポレーションで90%以上のノックアウト率を達成でき、有意なメリットがある。
【0193】
実施例4:TRAC遺伝子ノックアウトに対するCas9酵素濃度の影響
sgRNAとしてsg-TRAC-1(配列番号2)を選択し、Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:4の場合、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.0625μM、0.125μM、0.25μM、0.5μM)、TRAC遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。
RNP複合体を室温で10分間インキュベートした後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定された条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。
フローサイトメトリーの結果を
図4と表3に示す。Cas9酵素の濃度が0.1μMを超えると、TCRのノックアウト効率は70%以上に達することができる。たとえば、0.125μMの場合、TCRのノックアウト効率は75%以上に達することができ、特に0.2μMを超える場合、TCRのノックアウト効率は90%以上に達することができる。0.25μMの場合、TCRのノックアウト効率は94.5%以上に達することができ、Cas9酵素の濃度が0.3~0.5μMの場合、95%以上に達することができる。Cas9酵素の濃度が0.5μMの場合、TCRのノックアウト効率は97.4%に達することができ、細胞の生存率はいずれも90%以上である。
【表4】
【0194】
実施例5:B2M遺伝子を標的とするsgRNAの設計と合成
図5に示すように、B2M遺伝子の最初のエキソンB2M-exon 1(ヌクレオチド配列は配列番号10に示す)に対して、B2M遺伝子を標的とする4つのsgRNA配列、すなわち、sg-B2M-1(配列番号11)、sg-B2M-2(配列番号12)、sg-B2M-3(配列番号13)、sg-B2M-4(配列番号14)を得た。
sg-B2M-1、sg-B2M-2、およびsg-B2M-3を実験のために選択した。配列番号26および27に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-B2M-1を転写および増幅した;配列番号28および29に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-B2M-2を転写および増幅した;配列番号30および31に示すプライマーをインビトロで合成し、インビトロでgRNA転写キット(Thermo Fisherから購入)で、sg-B2M-3を転写および増幅した。
B2M-exon 1配列(配列番号10):
AATATAAGTGGAGGCGTCGCGCTGGCGGGCATTCCTGAAGCTGACAGCATTCGGGCCGAGATGTCTCGCTCCGTGGCCTTAGCTGTGCTCGCGCTACTCTCTCTTTCTGGCCTGGAGGCTATCCAGC
sg-B2M-1(配列番号11):GGCCACGGAGCGAGACATCT
sg-B2M-2(配列番号12):GAGTAGCGCGAGCACAGCTA
sg-B2M-3(配列番号13):CGCGAGCACAGCTAAGGCCA
【0195】
実施例6:B2M遺伝子ノックアウトに対する異なるsgRNA配列の影響
実施例5で得られた、B2Mを標的とするsgRNA、すなわち、sg-B2M-1、sg-B2M-2、sg-B2M-3を使用してB2M遺伝子ノックアウトへの影響を比較した。
Cas9酵素(0.5μM)とgRNAを1:4の比率で混合して、RNP複合体を形成した後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定された条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、B2Mノックアウトの効率を検証するために、β-ミクログロブリン抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色のためにT細胞を採取した。フローサイトメトリーの結果を
図6と表4に示す。sg-B2M-1とsg-B2M-2のノックアウト効果は90%以上に達しており、sg-B2M-3より有意に優れている。これは、sg-B2M-1とsg-B2M-2がいずれもよいノックアウト効果を有することを示している。
【表5】
同じsg-B2M-1配列を使用し、報告されたノックアウト率は50~60%しか達していないが(Nature.2017 Mar 2;543(7643):113-117、
図3cは、B2Mノックアウト率が55%であることを示している)、本発明の方法で最適化された後、B2Mのノックアウト率は大幅に高められ、95%に達することができる。
【0196】
実施例7:ノックアウト効率に対するCas9酵素濃度の影響
sgRNAとしてsg-B2M-2を選択し、Cas9酵素とsgRNAのモル比が1:4の場合、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.125μM、0.25μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、3.0μM)、B2M遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。RNP複合体を室温で10分間インキュベートした後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定されたエレクトロポレーション条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞をとりB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。フローサイトメトリーの結果を
図7と表5に示す。Cas9酵素の濃度が0.2μMを超えると、ノックアウト効率は70%以上に達することができる。0.25μMの場合、ノックアウト効率は72.2%であり、Cas9酵素の濃度が1μM以上の場合、ノックアウト効率は90%以上に達することができる。1μM~3μMの場合、よいノックアウト効率を示し、特に1μM~2μMの場合、ノックアウト効率はいずれも93%くらいである。
【表6】
【0197】
実施例8:T細胞においてTRACとB2M遺伝子を同時に効率的にノックアウトすること
1、gRNA組成成分の比率の影響
既存の報告によると、TCRとB2Mのダブルノックアウト効率は高くともわずか約60%である(Clin Cancer Res. 2017 May 1;23(9):2255-2266の
図3b、及びOncotarget,2017,Vol. 8,(No. 10),pp:17007-17011の
図3aを参照)。したがって、この実施例では、上記の最適化された方法をさらに使用して、B2MおよびTCRの効率的なダブルノックアウトの組み合わせをスクリーニングすることが望まれている。
sg-TRAC-1とsg-B2M-2の比率がTRACとB2M遺伝子のダブルノックアウトに対する影響を検出するために、Cas9酵素と総gRNAのモル比が1:4である場合に、sg-B2M-2とsg-TRAC-1の比率をそれぞれ1.5:1、1:1、及び0.5:1に設定して、遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用してRNP複合体をT細胞に導入した後、5日目にCD3抗体及びB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図8と表6に示す。sg-B2M-2とsg-TRAC-1の比率が1:1である時、TRACとB2M遺伝子のダブルノックアウトの効果が最も良い。
【表7】
2、RNP濃度の最適化
標的TRACおよびB2M遺伝子で構成されるgRNA混合物とCas9酵素の間で形成されるRNP複合体の濃度を調べるために、Cas9酵素とgRNAの最適化されたモル比1:4に従って、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.25μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、3.0μM)、遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用してRNP複合体をT細胞に導入した後、5日目に、CD3抗体およびB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図9と表7に示す。Cas9酵素の最終濃度が1μM以上の場合、TRACとB2Mのダブルノックアウト効果はいずれも90%以上に達すことができ、3μMでは93.4%に達すことができる。
【表8】
【0198】
実施例9:T細胞におけるTRACとB2M遺伝子の同時ノックアウトの分子レベルの検証
1、Tide方法によるTRACとB2M遺伝子ノックアウトの検証
T細胞からTRACとB2Mの単一遺伝子および2つの遺伝子がノックアウトされたゲノムDNAをそれぞれ抽出し、ノックアウト部位フラグメントを含む遺伝子断片をPCRで増幅した。PCR産物は、ゲル電気泳動後に精製および回収され、シーケンシングされた。対照群PCR産物におけるTRACおよびB2M遺伝子のシーケンシング結果は単一のピークであったが、ノックアウト群では、TRACおよびB2M遺伝子のシーケンシング結果は、対応する複数のピークセットが現れ、これは、TRACおよびB2M遺伝子が変異したことを示している。
シーケンシング結果をhttps://tide.deskgen.com/に送信して分析し、予測される変異効率を取得した。結果を
図10に示す。これは、TCRとB2Mが効果的にノックアウトされたことを示している。
2、クローニングシーケンシングによるTRACおよびB2M遺伝子ノックアウトの検証
T細胞からTRACとB2Mの単一遺伝子および2つの遺伝子がノックアウトされたゲノムDNAをそれぞれ抽出し、ノックアウト部位フラグメントを含む遺伝子断片をPCRで増幅した。PCR産物は、ゲル電気泳動後に精製および回収され、Tベクターに接続され、形質転換され、シーケンシング同定のためにモノクローナルコロニーをランダムに選択した。
図11に示すように、選択されたクローンをシーケンシングでアライメントした後、TRACとB2Mの元の配列と比較して、ノックアウト群の配列にはいずれも塩基の欠失または挿入があり、これは、TCR遺伝子とB2M遺伝子の両方も変異したことを示している。
【0199】
実施例10:BCMA CAR-T細胞によるTRACとB2M遺伝子の効率的なノックアウト
さらに、調製したBCMA CAR-T細胞を使用して、TRACおよびB2M二重遺伝子ノックアウトの効果をテストした。
1、標的BCMA-CAR-T細胞の調製。中国発明特許201810065525.1を参照して、抗BCMAキメラ抗原受容体、T細胞共刺激因子41-BB、T細胞活性化因子CD3ζを含むCARベクターを設計および構築し、PRRL-BCMA-BBZ(TM)と命名されたレンチウイルスをパッケージした。T細胞の活性化と増殖の48時間後、細胞密度を2*10^6/mLに調整し、MOI=4の比率でPRRL-BCMA-BBZ(TM)レンチウイルスを添加し、24時間後に培地を交換して標的BCMA CAR-T細胞を得た。
2、標的BCMA CAR-T細胞におけるTCRおよびB2M遺伝子のノックアウト。CAR-T細胞をインビトロで48時間増殖させた後、細胞密度を2*10^7/mLに調整した。sg-TRAC-1、sg-B2M-2、およびsg-TRAC-1/sg-B2M-2の混合物をそれぞれ、Cas9酵素とgRNAが1:4の比率で室温で10分間インキュベートし、1*10^6の細胞とRNPを混合し(Cas9酵素の最終濃度は3μM)、maxcyteエレクトロポレーターを使用してRNP複合体をCAR-T細胞に導入した。細胞の生存率を24時間、48時間、72時間でテストし(表8)、CAR-T細胞はエレクトロポレーション後によく回復した。エレクトロポレーション後5日目に、フローサイトメトリーを使用してTRACおよびB2M遺伝子のノックアウトを検出した。TRACおよびB2Mの単一遺伝子および二重遺伝子のノックアウトはいずれも90%以上に達し、これは、TCRおよびB2Mのダブルノックアウトが効率的に達成されたことを示している(
図12を参照)。
【表9】
【0200】
本明細書で使用された配列は下記通りである:
【表10】
【表11】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-09-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRISPR/Casシステムに基づいた細胞の遺伝子編集の方法であって、Cas酵素とgRNAの複合体を細胞に導入して遺伝子編集を行い、前記Cas酵素はCas9酵素であり、前記Cas9酵素の酵素活性は0.1~1nmol
であるか、0.2~0.7nmol
であるか、0.3~0.5nmolであり;
ここで、前記複合体において、Cas9酵素とgRNAのモル比は1:1~1:10
であるか、1:3~1:5
であるか、1:4であ
ってもよい、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
Cas9酵素と第1のgRNAの複合体1、及びCas9酵素と第2のgRNAの複合体2を前記細胞に導入して遺伝子編集を行
うか、
あるいは、Cas9酵素、
前記第1のgRNA、及び
前記第2のgRNAの複合体3を同時に前記細胞に導入して遺伝子編集を行い、
前記複合体1
、前記複合体2または
前記複合体3において、Cas9酵素とgRNAのモル比は、1:1~1:10、好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のgRNAと
前記第2のgRNAのモル比は、約1:5~5:1
であるか、1:2~2:1
であるか、約1:1である、ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Cas9酵素とgRNAによって形成される複合体
、複合体1
、複合体2または複合体3において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM
であるか、約0.125μM~3μM
であるか、約0.2μM~3μM
であるか、約0.25μM~3μM
であるか、約0.5μM~3μM
であるか、約1μM~3μMである、ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞は真核細胞であ
るか、免疫エフェクター細胞であ
るか、T細胞である、ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞はT細胞であり、
かつ、前記CRISPR/Cas9システムを使用し
た前記T細胞の遺伝
子編集
が、
前記CRISPR/Cas9システムを使用して、前記T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、TRACに対して遺伝子編集を行
うこと、TRACの定常領域に対して遺伝子編集を行
うこと、TRAC中の配列番号45に示される配列に対して遺伝子編集を行
うこと、
または、TRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行
うことを含み、
かつ/
あるいは、
前記CRISPR/Cas9システムを使用して
前記T細胞のMHC遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、B2M遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、B2M遺伝子中の配列番号38に示される配列に対して遺伝子編集を行
うこと、
または、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行うことを含む、ことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記gRNAは約15~50bp
であるか、約15~30bp
であるか、約17~21bp
であるか、20bpである、ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列を含
むか、
TRACに対する編集に使用されるgRNAは、配列番号2、32または33に示される配列を含
み、かつ、
B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号11、12、13または14に示される配列を含むか、B2M遺伝子に対する編集に使用されるgRNAは、配列番号12に示される配列を含む、ことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞
は、キメラ受容体、外因性サイトカイン、阻害/活性化受容体
若しくはリガンド、
または、共刺激因子を発現し
ているか、前記T細胞
はキメラ抗原受容体を発現
している、ことを特徴とする、請求項5~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ユニバーサルT細胞を構築する方法であって、
T細胞のTCR遺伝子とMHC遺伝子に対して遺伝子編集技術によって遺伝子編集を行うことを含み、
ここで、T細胞のTCR遺伝子に対する遺伝子編集は
、T細胞のTCRのα鎖とβ鎖のいずれか一方または両方の遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、TRAC遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、TRACの定常領域に対して遺伝子編集を行
うこと、TRAC中の配列番号45に示される配列に対して遺伝子編集を行
うこと、
または、
T細胞のTRAC中の配列番号1に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行
うことを含んでいてもよく、
かつ/
あるいは、
ここで、T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集は
、T細胞のB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行
うこと、B2M遺伝子中の配列番号38に示される配列に対して遺伝子編集を行
うこと、
または、B2M遺伝子中の配列番号10に示される配列を含む配列に対して遺伝子編集を行う
ことを含んでいてもよく、
ここで、前記遺伝子編集技術は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術であってもよい、方法。
【請求項11】
T細胞のTRAC遺伝子に対する遺伝子編集を実現する
ために配列番号2、3、4、5、32、33、39または40に示される配列からなる群より選ばれる配列を含むgRNAを前記T細胞に導入
するか、
あるいは、前記T細胞のTRAC遺伝子に対する遺伝子編集を実現する
ために配列番号2、32または33に示される配列を含むgRNAを前記T細胞に導入する
ことを含む、
請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集を実現する
ために配列番号11、12、13または14に示される配列からなる群より選ばれる配列を含むgRNAを前記T細胞に導入
するか、
あるいは、前記T細胞のMHC遺伝子に対する遺伝子編集を実現する
ために配列番号12に示される配列を含むgRNAを前記T細胞に導入する
ことを含む、
請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子編集技術によってT細胞のTCR遺伝子に対して遺伝子編集を行うことは、Cas9酵素と
第1のgRNA
の複合体1を前記
T細胞に導入して遺伝子編集を行
うことにより行われ、
前記遺伝子編集技術によってT細胞のMHC遺伝子に対して遺伝子編集を行うことは、Cas9酵素と
第2のgRNA
の複合体
2を前記
T細胞に導入して遺伝子編集を行
うことにより行われ、
ここで、
前記複合体1と
前記複合体2を同時に複合体3の形で前記
T細胞に導入して遺伝子編集を行
ってもよい、
請求項
10~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記複合体1または
前記複合体2におけるCas9酵素とgRNAのモル比は、1:1~1:10
であるか、1:3~1:5
であるか、Cas9酵素とgRNAのモル比は1:4である、
請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記複合体1
、前記複合体2または
前記複合体3において、前記Cas9酵素の濃度は約0.1μM~3μM
であるか、約0.125μM~3μM
であるか、約0.2μM~3μM
であるか、約0.25μM~3μM
であるか、約0.5μM~3μM
であるか、約1μM~3μM
であるか、約0.125μM~0.5μM
であるか、約0.25μM~0.5μMである、
請求項
13に記載の方法。
【請求項16】
TCR遺伝子の遺伝子編集用のgRNAと、MHC遺伝子の遺伝子編集用のgRNAとのモル比は、約1:5~5:1
であるか、1:2~2:1
であるか、約1:1である、
請求項
10~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記T細胞
は、キメラ抗原受容体を発現
するか、
または前記T細胞
は、腫瘍抗原
若しくは病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し、当該キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識し、
ここで、前記標的抗原は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;ガングリオシドGD3;Tn抗原;CD19;CD20;CD22;CD30;CD70;CD123;CD138;CD33;CD44;CD44v7/8;CD38;CD44v6;B7H3(CD276)、B7H6;KIT(CD117);インターロイキン13受容体サブユニットα(IL-13Rα);インターロイキン11受容体α(IL-11Rα);前立腺幹細胞抗原(PSCA);前立腺特異的膜抗原(PSMA);癌胎児性抗原(CEA);NY-ESO-1;HIV-1 Gag;MART-1;gp100;チロシナーゼ;メソテリン;EpCAM;プロテアーゼセリン21(PRSS21);血管内皮増殖因子受容体;ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来成長因子受容体β(PDGFR-β);ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4);細胞表面関連ムチン1(MUC1)、MUC6;上皮細胞増殖因子20受容体ファミリーとその変異体(EGFR、EGFR2、ERBB3、ERBB4、EGFRvIII);神経細胞接着分子(NCAM);炭酸アンヒドラーゼIX(CAIX);LMP2;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);O-アセチルGD2ガングリオシド(OAcGD2);ガングリオシドGM3;TGS5;高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);葉酸受容体;腫瘍血管内皮マーカー25 1(TEM1/CD248);腫瘍血管内皮マーカー7関連(TEM7R);Claudin6、Claudin18.2(CLD18A2)、Claudin18.1;ASGPR1;CDH16;5T4;8H9;αvβ6インテグリン;B細胞成熟抗原(BCMA);CA9;κ軽鎖(カッパ軽鎖);CSPG4;EGP2、EGP40;FAP;FAR;FBP;胚性AchR;HLA-A1、HLA-A2;MAGEA1、MAGE3;KDR;MCSP;NKG2Dリガンド;PSC1;ROR1;Sp17;SURVIVIN;TAG72;TEM1;フィブロネクチン;テネイシン;腫瘍壊死ゾーンの癌胎児性変異体;Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D);X染色体オープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分(GloboH);乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体5β3(ADRB3);パネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役型受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合遺伝子座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRγ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);ETS転座変異体遺伝子6(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリーメンバー1A(XAGE1);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫癌精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫癌精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;P53変異体10;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害剤(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;V-mycトリ骨髄細胞腫症ウイルスがん遺伝子神経芽細胞腫由来ホモログ(MYCN); RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(亜鉛フィンガータンパク質)様(BORIS);T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OYTES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫X切断点2(SSX2);CD79a;CD79B;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体のFcフラグメント(FCAR);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュールを含むムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);免疫グロブリンλ様ペプチド1(IGLL1)からなる群より選ばれる腫瘍抗原であ
ってもよく、
あるいは、前記標的抗原は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、または寄生虫の抗原から選ばれる病原体抗原であ
ってもよく、
ここで、前記ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス抗原、エプスタインバーウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原またはインフルエンザウイルス抗原から選ばれ
てもよい、ことを特徴とする、請求項11~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記キメラ受容体はキメラ抗原受容体(CAR)であ
り、
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、
(i)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(ii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ;または
(iii)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント、CD28またはCD8の膜貫通領域、CD28の共刺激シグナルドメイン、CD137の共刺激シグナルドメイン、及びCD3ζ
を含み、
腫瘍抗原に特異的に結合する前記キメラ抗原受容体の抗体は、完全長抗体、scFv、Fab、(Fab’)、または単一ドメイン抗体である、ことを特徴とする、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
キメラ受容体を発現するT細胞を調製するための、請求項
10~
18のいずれか一項に記載の方法によって調製されたT細胞の使用であって、前記キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する、使用。
【請求項20】
請求項
10~
18のいずれか一項に記載の方法によって構築されたユニバーサルT細胞。
【請求項21】
TRACおよび/またはB2M遺伝子がサイレンシングされている、ユニバーサルT細胞
であって、
TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされているか、または、TRAC遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む配列のうち、配列番号45に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされており、
B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列の遺伝子編集によってサイレンシングされているか、または、B2M遺伝子は、配列番号10に示される配列を含む配列のうち、配列番号38に示される配列の遺伝子編集によってサイレンシングされている、
ユニバーサルT細胞。
【請求項22】
TRAC遺伝子は、配列番号2、32または33に示される配列のgRNAを使用してTRAC遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされ
ており、
B2M遺伝子は、配列番号12に示される配列のgRNAを使用してB2M遺伝子に対して遺伝子編集を行うことによってサイレンシングされ
ている、
請求項
21に記載の
ユニバーサルT細胞。
【請求項23】
前記T細胞
は、キメラ抗原受容体を発現し
ているか、
または、前記T細胞
は、腫瘍抗原または病原体抗原を認識するキメラ受容体を発現し
ており、当該キメラ受容体は、細胞外抗原結合領域、膜貫通領域、及び細胞内領域を有し、前記細胞外抗原結合領域は、標的抗原を特異的に認識する、請求項
20~
22のいずれか一項に記載の
ユニバーサルT細胞。
【請求項24】
配列番号2、3、4、5、32、33、39、40、11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む、gRNA構築体。
【請求項25】
配列番号2、3、4、5、32、33、39または40のいずれかから選択されるヌクレオチド配列、及び配列番号11、12、13または14のいずれかから選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項
24に記載のgRNA構築体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0191
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0191】
実施例2:ノックアウト効率に対するCas9酵素とsg-TRACの異なる比率の影響
活性化T細胞を取って細胞をカウントし、2*10^7/mlの細胞密度に調整した。sgRNAとしてsg-TRAC-1(配列番号2)を選択した。
Cas9酵素(NEBから購入)とsg-TRAC-1のモル比をそれぞれ1:2、1:3、1:4、および1:5の比率で混合して、RNP複合体を形成した。室温で10分間インキュベートした後、1*10^6T細胞に添加した(Cas9酵素の最終濃度は0.3μMであった)。その中で、sg-TRAC-1のモル数は、gRNAの塩基組成と4.03μg/μlの濃度(OD260/OD280=1.98)に基づいて計算された。
RNP複合体は、BTXエレクトロポレーター(Harvard Apparatus、米国)を使用してT細胞に導入され、エレクトロポレーションパラメーターは、250V、5msであった。TCRノックアウトの効率を検証するために、トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図2と表
2に示す。Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:3から1:5の場合、ノックアウト効率は70%以上であった。Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:4の場合、ノックアウト効率が最も高く、87.2%に達した。これは、Cas9酵素とgRNAのモル比が1:4である時、遺伝子ノックアウト効果が最もよいことを示している。
【表2】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0192
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0192】
実施例3:TRAC遺伝子ノックアウトに対する異なるsgRNAの影響
TRAC遺伝子を標的とする3つの異なるsgRNA、すなわち、sg-TRAC-1、sg-TRAC-2、sg-TRAC-3を選択した。
TRAC遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。実施例1で合成されたsg-TRAC-1、sg-TRAC-2、およびsg-TRAC-3の3つのsgRNAをそれぞれCas9酵素(0.5μM)と4:1の比率で混合して、RNP複合体を形成した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定されたパラメーターに基づいてエレクトロポレーションを行い、RNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。フローサイトメトリーの結果を
図3と表
3に示す。sg-TRAC-1のノックアウト効果はsg-TRAC-2およびsg-TRAC-3のノックアウト効果よりも有意に優れており、これは、sg-TRAC-1が最高のノックアウト効果を有することを示している。それと同時に、異なる長さのsg-TRAC-1がノックアウト効率に対する影響をテストし、sg-TRAC-1(-3bp)(sg-TRAC-5)、sg-TRAC-1(-2bp)(sg-TRAC-6)、sg-TRAC-1(+3bp)(sg-TRAC-7)、sg-TRAC-1(+2bp)(sg-TRAC-8)の4つのsgRNAをそれぞれ合成し、それぞれCas9酵素(0.5μM)と4:1のモル比で混合してRNP複合体を形成し、上記の条件下でT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞をCD3抗体フローサイトメトリーに使用して、TCRノックアウトの効率を検証した。実験結果を
図3Bに示す。2つまたは3つの塩基が短縮されたsg-TRAC-1はTCRノックアウト効率に対する影響が小さいが、2つまたは3つの塩基を追加するとTCRノックアウト効率が低下する。これは、この部位のsgRNAの設計された長さをある程度変更することができ、特に3つ以内の塩基を短縮すると、同じく比較的に高いノックアウト効果を得ることができることを示している。
【表3】
なお、公開された文献では、sg-TRAC-1でもTCRノックアウト効率を90%に到達させることができるが、この文献では2回のエレクトロポレーションを使用した最適化されたノックアウト方法が使用されており、そのプロセスは比較的に複雑である(Clin Cancer Res.2017 May 1;23(9):2255-2266を参照、
図1Aは、TCRノックアウト率が95.7%であることを示している)。これに対して、本発明は、1回のエレクトロポレーションで90%以上のノックアウト率を達成でき、有意なメリットがある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0193
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0193】
実施例4:TRAC遺伝子ノックアウトに対するCas9酵素濃度の影響
sgRNAとしてsg-TRAC-1(配列番号2)を選択し、Cas9酵素とsg-TRAC-1のモル比が1:4の場合、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.0625μM、0.125μM、0.25μM、0.5μM)、TRAC遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。
RNP複合体を室温で10分間インキュベートした後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定された条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞を取りCD3抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。
フローサイトメトリーの結果を
図4と表
4に示す。Cas9酵素の濃度が0.1μMを超えると、TCRのノックアウト効率は70%以上に達することができる。たとえば、0.125μMの場合、TCRのノックアウト効率は75%以上に達することができ、特に0.2μMを超える場合、TCRのノックアウト効率は90%以上に達することができる。0.25μMの場合、TCRのノックアウト効率は94.5%以上に達することができ、Cas9酵素の濃度が0.3~0.5μMの場合、95%以上に達することができる。Cas9酵素の濃度が0.5μMの場合、TCRのノックアウト効率は97.4%に達することができ、細胞の生存率はいずれも90%以上である。
【表4】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0195
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0195】
実施例6:B2M遺伝子ノックアウトに対する異なるsgRNA配列の影響
実施例5で得られた、B2Mを標的とするsgRNA、すなわち、sg-B2M-1、sg-B2M-2、sg-B2M-3を使用してB2M遺伝子ノックアウトへの影響を比較した。
Cas9酵素(0.5μM)とgRNAを1:4の比率で混合して、RNP複合体を形成した後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定された条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、B2Mノックアウトの効率を検証するために、β-ミクログロブリン抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色のためにT細胞を採取した。フローサイトメトリーの結果を
図6と表
5に示す。sg-B2M-1とsg-B2M-2のノックアウト効果は90%以上に達しており、sg-B2M-3より有意に優れている。これは、sg-B2M-1とsg-B2M-2がいずれもよいノックアウト効果を有することを示している。
【表5】
同じsg-B2M-1配列を使用し、報告されたノックアウト率は50~60%しか達していないが(Nature.2017 Mar 2;543(7643):113-117、
図3cは、B2Mノックアウト率が55%であることを示している)、本発明の方法で最適化された後、B2Mのノックアウト率は大幅に高められ、95%に達することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0196
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0196】
実施例7:ノックアウト効率に対するCas9酵素濃度の影響
sgRNAとしてsg-B2M-2を選択し、Cas9酵素とsgRNAのモル比が1:4の場合、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.125μM、0.25μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、3.0μM)、B2M遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。RNP複合体を室温で10分間インキュベートした後、Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用し、機器に設定されたエレクトロポレーション条件に基づいてRNP複合体をT細胞に導入した。トランスフェクションの5日後、T細胞をとりB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行い、TCRノックアウトの効率を検証した。フローサイトメトリーの結果を
図7と表
6に示す。Cas9酵素の濃度が0.2μMを超えると、ノックアウト効率は70%以上に達することができる。0.25μMの場合、ノックアウト効率は72.2%であり、Cas9酵素の濃度が1μM以上の場合、ノックアウト効率は90%以上に達することができる。1μM~3μMの場合、よいノックアウト効率を示し、特に1μM~2μMの場合、ノックアウト効率はいずれも93%くらいである。
【表6】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0197
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0197】
実施例8:T細胞においてTRACとB2M遺伝子を同時に効率的にノックアウトすること
1、gRNA組成成分の比率の影響
既存の報告によると、TCRとB2Mのダブルノックアウト効率は高くともわずか約60%である(Clin Cancer Res. 2017 May 1;23(9):2255-2266の
図3b、及びOncotarget,2017,Vol. 8,(No. 10),pp:17007-17011の
図3aを参照)。したがって、この実施例では、上記の最適化された方法をさらに使用して、B2MおよびTCRの効率的なダブルノックアウトの組み合わせをスクリーニングすることが望まれている。
sg-TRAC-1とsg-B2M-2の比率がTRACとB2M遺伝子のダブルノックアウトに対する影響を検出するために、Cas9酵素と総gRNAのモル比が1:4である場合に、sg-B2M-2とsg-TRAC-1の比率をそれぞれ1.5:1、1:1、及び0.5:1に設定して、遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用してRNP複合体をT細胞に導入した後、5日目にCD3抗体及びB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図8と表
7に示す。sg-B2M-2とsg-TRAC-1の比率が1:1である時、TRACとB2M遺伝子のダブルノックアウトの効果が最も良い。
【表7】
2、RNP濃度の最適化
標的TRACおよびB2M遺伝子で構成されるgRNA混合物とCas9酵素の間で形成されるRNP複合体の濃度を調べるために、Cas9酵素とgRNAの最適化されたモル比1:4に従って、Cas9酵素の濃度をそれぞれ変えて(0.25μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、3.0μM)、遺伝子ノックアウトへの影響を検出した。Maxcyteエレクトロポレーター(Maxcyte社)を使用してRNP複合体をT細胞に導入した後、5日目に、CD3抗体およびB2M抗体(BD Biosciences)フローサイトメトリー染色を行った。フローサイトメトリーの結果を
図9と表
8に示す。Cas9酵素の最終濃度が1μM以上の場合、TRACとB2Mのダブルノックアウト効果はいずれも90%以上に達すことができ、3μMでは93.4%に達すことができる。
【表8】
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0199
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0199】
実施例10:BCMA CAR-T細胞によるTRACとB2M遺伝子の効率的なノックアウト
さらに、調製したBCMA CAR-T細胞を使用して、TRACおよびB2M二重遺伝子ノックアウトの効果をテストした。
1、標的BCMA-CAR-T細胞の調製。中国発明特許201810065525.1を参照して、抗BCMAキメラ抗原受容体、T細胞共刺激因子41-BB、T細胞活性化因子CD3ζを含むCARベクターを設計および構築し、PRRL-BCMA-BBZ(TM)と命名されたレンチウイルスをパッケージした。T細胞の活性化と増殖の48時間後、細胞密度を2*10^6/mLに調整し、MOI=4の比率でPRRL-BCMA-BBZ(TM)レンチウイルスを添加し、24時間後に培地を交換して標的BCMA CAR-T細胞を得た。
2、標的BCMA CAR-T細胞におけるTCRおよびB2M遺伝子のノックアウト。CAR-T細胞をインビトロで48時間増殖させた後、細胞密度を2*10^7/mLに調整した。sg-TRAC-1、sg-B2M-2、およびsg-TRAC-1/sg-B2M-2の混合物をそれぞれ、Cas9酵素とgRNAが1:4の比率で室温で10分間インキュベートし、1*10^6の細胞とRNPを混合し(Cas9酵素の最終濃度は3μM)、maxcyteエレクトロポレーターを使用してRNP複合体をCAR-T細胞に導入した。細胞の生存率を24時間、48時間、72時間でテストし(表
9)、CAR-T細胞はエレクトロポレーション後によく回復した。エレクトロポレーション後5日目に、フローサイトメトリーを使用してTRACおよびB2M遺伝子のノックアウトを検出した。TRACおよびB2Mの単一遺伝子および二重遺伝子のノックアウトはいずれも90%以上に達し、これは、TCRおよびB2Mのダブルノックアウトが効率的に達成されたことを示している(
図12を参照)。
【表9】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】