(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(54)【発明の名称】高比誘電率及び低誘電体損を有するポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220124BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220124BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
C08K9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532332
(86)(22)【出願日】2019-10-22
(85)【翻訳文提出日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 US2019057312
(87)【国際公開番号】W WO2020131212
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】201811541150.8
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユンフェン ジャオ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB001
4J002BC031
4J002BD041
4J002BE051
4J002BG061
4J002CB001
4J002CF001
4J002CG001
4J002CH001
4J002CH071
4J002CL001
4J002CN031
4J002DA026
4J002FA016
4J002FB076
4J002GQ01
(57)【要約】
高比誘電率を維持しながら低誘電体損を有するポリマー組成物が、本明細書に開示される。組成物は、a)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、及びb)シリカ被覆粒子で被覆される片状黒鉛を含み、被覆片状黒鉛は、約10:1~4:1の範囲のC:Siの重量比を有し、シリカ被覆粒子は、約80~400nmの平均直径を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、a)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、及びb)総計100重量%の前記組成物の総重量に対して2~30重量%の、シリカ被覆粒子で被覆した片状黒鉛を含み、前記被覆片状黒鉛は、10:1~4:1の範囲のC:Siの重量比を有し、前記シリカ粒子は、80~400nmの平均直径を有する、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリケトン、ポリエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリラクティック、ポリスチレン、ポリオレフィン、及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるか、又は前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミドから選択されるか、又は前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド6,6である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、前記組成物の総重量を基準として30~96重量%、又は40~90重量%、又は50~85重量%の量で存在する、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記被覆片状黒鉛は、前記組成物の総重量を基準として3~30重量%、又は4~25重量%の量で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記シリカ被覆粒子は、85~350nmの平均直径又は90~300nmの平均直径を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記被覆片状黒鉛は、9.5:1~4:1又は9:1~4.5:1の範囲のC:Siの重量比を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー組成物から形成される、物品。
【請求項8】
電子機器の一部である、請求項7に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比誘電率及び低誘電体損を有するポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高比誘電率を有するポリマー複合材は、電子産業において非常に望まれている。このようなポリマー複合材は、コンデンサ、アクチュエータ、電力ケーブル用端末、小型アンテナ材料などの様々な電子装置及び機器に使用できる。ポリマー材料において高比誘電率を実現するための従来の取り組みの1つは、炭素充填剤又は金属充填剤などの電気伝導性の充填剤を組み込むことである。しかし、ポリマー材料において電気伝導性充填剤の含有量が高くなるとそれらの比誘電率は向上するが、誘電体損の増大も引き起こすことが判明している。したがって、ポリマー材料の比誘電率を増大させる一方で、その誘電体損を低く保つようなポリマー材料用の電気伝導性充填剤を開発する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ポリマー組成物であって、a)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、及びb)総計100重量%の組成物の総重量に対して約2~30重量%の、シリカ被覆粒子で被覆した片状黒鉛を含み、被覆片状黒鉛は、約10:1~4:1の範囲のC:Siの重量比を有し、シリカ粒子は、約80~400nmの平均直径を有するポリマー組成物が本明細書に提供される。
【0004】
ポリマー組成物の一実施形態においては、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリケトン、ポリエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリラクティック、ポリスチレン、ポリオレフィン、及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるか、又は少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミドから選択されるか、又は少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド6,6である。
【0005】
ポリマー組成物のさらなる実施形態においては、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、組成物の総重量を基準として約30~96重量%、又は約40~90重量%、又は約50~85重量%の量で組成物に存在する。
【0006】
ポリマー組成物の尚さらなる実施形態においては、被覆片状黒鉛は、組成物の総重量を基準として約3~30重量%、又は約4~25重量%の量で組成物に存在する。
【0007】
ポリマー組成物の尚さらなる実施形態においては、シリカ被覆粒子は、約85~350nmの平均直径又は約90~300nmの平均直径を有する。
【0008】
ポリマー組成物の尚さらなる実施形態においては、被覆片状黒鉛は、約9.5:1~4:1又は約9:1~4.5:1の範囲のC:Siの重量比を有する。
【0009】
上に開示したポリマー組成物から形成される物品が、さらに本明細書に提供される。
【0010】
一実施形態においては、物品は、電子機器の一部である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
比誘電率が高く且つ誘電体損が低いポリマー組成物が本明細書に開示される。ポリマー組成物は、a)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー及びb)シリカ粒子で被覆される約2~30重量%の片状黒鉛を含み、被覆片状黒鉛は、約10:1~4:1の範囲のC:Siの重量比を有し、シリカ被覆粒子は、約80~400nmの平均直径を有する。
【0012】
用語「熱可塑性ポリマー」は、加熱した際に液体に変わり、十分に冷却した際に冷えて剛性状態になるポリマーを指すように本明細書において使用される。本開示によれば、好適な熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリケトン、ポリエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリラクティック及びそのコポリマー、ポリスチレン及びそのコポリマー(例えば、ABS、SBS、SANなど)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンのコポリマー)などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0013】
一実施形態においては、本明細書で使用される熱可塑性ポリマーは、ポリアミドから選択される。好適なポリアミドには、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドの両方が含まれる。
【0014】
ポリアミドは、(a)1種若しくは複数種のジカルボン酸と1種若しくは複数種のジアミンとの縮合生成物、又は(b)1種若しくは複数種のアミノカルボン酸の縮合生成物、或いは(c)1種若しくは複数種の環状ラクタムの開環重合生成物である。本明細書で使用される芳香族ポリアミドは、少なくとも1種の芳香族モノマー成分を含有するホモポリマー、コポリマー、ターポリマー又はさらに高次のポリマーであってよい。例えば、芳香族ポリアミドは、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミン、又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンを出発物質として用いてそれらを重縮合して、取得してよい。
【0015】
本明細書で使用される好適なジアミンは、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、及び芳香族ジアミンから選択してよい。本明細書で有用な例示的なジアミンとしては、テトラメチレンジアミン;ヘキサメチレンジアミン;2-メチルペンタメチレンジアミン;ノナメチレンジアミン;ウンデカメチレンジアミン;ドデカ-メチレンジアミン;2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン;2,4,4トリメチルヘキサメチレンジアミン;5-メチルノナメチレン-ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン;1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン;1-アミノ-3アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン;ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン;ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン;2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン;ビス(アミノプロピル)ピペラジン;アミノエチルピペラジン;ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン;2-メチルオクタメチレンジアミン;トリメチルヘキサメチレンジアミン;1,8-ジアミノオクタン;1,9ジアミノノナン;1,10-ジアミノデカン;1,12-ジアミノドデカン;m-キシリレンジアミン;p-キシリレンジアミン;及びそれらの誘導体などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0016】
本明細書で使用される好適なジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及び芳香族ジカルボン酸から選択してよい。本明細書で有用な例示的なジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸;アゼライン酸、ドデカン二酸(dodecanedoic acid)、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、及びそれらの誘導体などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0017】
本明細書で使用される例示的な脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9,10、ポリアミド9,12、ポリアミド9,13、ポリアミド9,14、ポリアミド9,15、ポリアミド6,16、ポリアミド9,36、ポリアミド10,10、ポリアミド10,12、ポリアミド10,13、ポリアミド10,14、ポリアミド12,10、ポリアミド12,12、ポリアミド12,13、ポリアミド12,14、ポリアミド6,14、ポリアミド6,13、ポリアミド6,15、ポリアミド6,16などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0018】
本明細書で使用される例示的な芳香族ポリアミドとしては、ポリ(m-キシリレンアジポアミド)(ポリアミドMXD,6)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド12,T)、ポリ(ウンデカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド11,T)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド10,T)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド9,T)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6,T)、ヘキサメチレンアジポアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/6,6、すなわち、6,Tに由来するその繰り返し単位を少なくとも約50モル%有するポリアミド6,T/6,6)、ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンアジポアミドコポリアミド(ポリアミド6,6/6,T、すなわち、6,6に由来するその繰り返し単位を少なくとも約50モル%有するポリアミド6,6/6,T)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド)(ポリアミド6,T/6,I、すなわち、6,Tに由来するその繰り返し単位を少なくとも約50モル%有するポリアミド6,T/6,I)、ヘキサメチレンテレフタルアミド/2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/D,T)、ヘキサメチレンアジポアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,6/6,T/6,I)、ポリ(カプロラクタム-ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6/6,T)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6,I/6,T、すなわち、6,Iに由来するその繰り返し単位を少なくとも約50モル%有するポリアミド6,I/6,T)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(ポリアミド6,I)、ポリ(メタキシリレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド)(ポリアミドMXD,I/6,I)、ポリ(メタキシリレンイソフタルアミド/メタキシリレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド)(ポリアミドMXD,I/MXD,T/6,I/6,T)、ポリ(メタキシリレンイソフタルアミド/ドデカメチレンイソフタルアミド)(ポリアミドMXD,I/12,I)、ポリ(メタキシリレンイソフタルアミド)(ポリアミドMXD,I)、ポリ(ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ドデカンアミド)(ポリアミドMACM,I/12)、ポリ(ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンテレフタルアミド/ドデカンアミド)(ポリアミドMACM,I/MACM,T/12)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ドデカンアミド)(ポリアミド6,I/MACM,I/12)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンテレフタルアミド)(ポリアミド6,I/6,T/MACM,I/MACM,T)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンテレフタルアミド/ドデカンアミド)(ポリアミド6,I/6,T/MACM,I/MACM,T/12)、ポリ(ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンイソフタルアミド/ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタンドデカンアミド)(ポリアミドMACM,I/MACM,12)などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0019】
さらなる一実施形態においては、本明細書で使用される熱可塑性ポリマーは、ポリアミド6,6である。
【0020】
少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、本明細書に開示されるポリマー組成物の総重量を基準として、約30~96重量%、約40~90重量%、又は約50~85重量%の量で存在してよい。
【0021】
本明細書で使用される片状黒鉛は、繊維の形態ではない黒鉛粒子である。片状黒鉛は又、黒鉛粉末及び黒鉛粒子を含む。黒鉛は、天然に存在する黒鉛であっても合成黒鉛であってもよい。非繊維質の黒鉛又は片状黒鉛は、2未満のアスペクト比(長さの幅に対する比)を有する。このような薄片は、通常、円形、楕円形、板状、又は不規則な形状である。
【0022】
本開示によれば、本明細書で使用される片状黒鉛は、シリカ粒子で完全に又は部分的に被覆され、それは被覆片状黒鉛と呼ばれる。シリカ被覆粒子は、約80~400nm、又は約85~350nm、又は約90~300nmの平均直径を有する。平均直径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、100以上のランダムに選んだ被覆片状黒鉛の直径を測定して平均化することにより、求めてよい。そして、被覆片状黒鉛内で、C:Siの重量比は、約10:1~4:1、又は約9.5:1~4:1、又は約9:1~4.5:1の範囲である。
【0023】
本明細書で使用される被覆片状黒鉛は、国際公開第201531570号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれている)に開示される方法などのゾル-ゲル法により、調製してよい。ゾル-ゲル法は、片状黒鉛、シリカ前駆体、加水分解剤、及び界面活性剤(任意選択で、カチオン界面活性剤でも両性界面活性剤でもよい)を溶剤中で混合し、混合溶液とすることを含む。このような混合により、シリカ前駆体が化学反応して片状黒鉛の表面にシリカ粒子層が形成される。被覆片状黒鉛は、混合溶液から濾過により除去できる。
【0024】
ゾル-ゲル法で使用される溶剤は、水溶液であり、その水溶液中で、片状黒鉛、シリカ前駆体、加水分解剤、及び場合により界面活性剤が、均一に分散されて反応する。好ましくは、本明細書で使用される溶剤は、水と、以下のイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、及びそれらの2種以上の混合物のうちの任意の1種又は複数種との溶剤混合物である。一実施形態においては、溶剤は、水と、以下のイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)のうちの1種又は複数種との水溶液である。一実施形態においては、溶剤は、水と、以下のイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、及びエタノールのうちの1種又は複数種との混合物であってよい。溶剤が、水と、IPA、メタノール、又はエタノールとの水溶液である場合には、溶剤の量は、片状黒鉛100重量部当たり約300~5000重量部の範囲であってよく、水と、IPA、メタノール、及び/又はエタノールとの質量比は、約1:3~約1:10の範囲である。
【0025】
ゾル-ゲル法で使用されるシリカ前駆体は、片状黒鉛を被覆するシリカ源である。
【0026】
シリカ前駆体は、式(I)で表されるシリコンアルコキシドであってよい:
(R1)nSi(OR2)4-n、式中
R1は、1~8個の同一又は異なる、置換又は非置換の炭素原子を有する炭化水素を表し、nは、0、1、2、又は3を表し、及びR2は、1~8個の炭素原子を有する炭化水素を表す。シリコンアルコキシドは、水及び加水分解触媒と反応して、炭素粒子を被覆する存在であるシリカを生み出す。
【0027】
シリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシランであってよい。或いは、テトラアルコキシシランは、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラアミルオキシシラン、テトラオクチルオキシシラン、テトラノニルオキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ジメトキシジイソプロポキシシラン、ジエトキシジイソプロポキシシラン、ジエトキシジブトキシシラン、ジエトキシジトリチルオキシシラン、又はそれらの2種以上の混合物であってよい。
【0028】
シリコンアルコキシドが、テトラエトキシシラン(TEOS、Si(OC2H5)4))である場合、加水分解反応は:
Si(OC2H5)4+2H20→SiO2+4C2H5OH
である。
【0029】
加水分解触媒は、酸性加水分解触媒又は塩基性加水分解触媒として、シリカ前駆体の加水分解反応を促進する。本明細書に記載する方法は、酸性加水分解触媒でも塩基性加水分解触媒でも使用できる。酸性加水分解触媒は、酸素原子のプロトン化により加水分解反応を促進するプロトン(H+)供与体であり、一方、塩基性加水分解触媒は、加水分解において炭素原子からのプロトン移動による求核付加を可能にすることにより、反応を促進するプロトン(H+)受容体である。
【0030】
塩酸は、酸性加水分解剤として好ましく、水酸化アンモニウムは、塩基性加水分解触媒として好ましい。
【0031】
界面活性剤は、ゾル-ゲル法において場合により含まれる。本明細書で使用される界面活性剤は、水溶液中でカチオンに解離する親水基を有するカチオン界面活性剤でも、水溶液中でアニオンとカチオンの両方に解離する両性界面活性剤でもよい。界面活性剤は、片状黒鉛とシリカのバインダーとしてプロセスにおいて使用される。
【0032】
本明細書で使用される例示的な両性界面活性剤としては、ポリビニルピロリドン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、N-ラウロイル-N’-カルボキシメチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N’-カルボキシエチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、オレイル-N-カルボキシエチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、ミリストアミドプロピルベタイン、パームケルネルアミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン、ラウラミドプロピルアミンオキシド、ヒドロキシアルキル(C12~14)ヒドロキシエチルサルコシンなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0033】
好適なカチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、ピリジニウム塩などから選択してよい。第4級アンモニウム塩及びアルキルアミン塩は、式(II):
【0034】
【化1】
[式中、
Rは、同一又は異なるアルキルを表し、Xは、ハロゲン、フッ素(F)、塩素(Cl)、及び臭素(Br)を表す]により表される。
【0035】
本明細書で使用される第4級アンモニウム塩の例として、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムブロミド、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、デカリニウムクロリド、及びヨードフルオロアルキルトリメチルアンモニウムなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用されるアルキルアミンの例としては、リオクチルアミン塩酸塩(rioctylamine hydrochloride)、トリオクチルアミン臭化水素酸塩、トリデシルアミン塩酸塩、トリデシルアミン臭化水素酸塩、トリドデシルアミン塩酸塩、トリドデシルアミン臭化水素酸塩、トリヘキサデシルアミン塩酸塩、トリヘキサデシルアミン臭化水素酸塩、トリオクタデシルアミン塩酸塩、トリオクタデシルアミン臭化水素酸塩などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0037】
ピリジニウム塩は、ピリジン環を有し、一般式(III):
【0038】
【化2】
[式中、
Rは、アルキルを表し、Xは、ハロゲン、フッ素(F)、塩素(Cl)、及び臭素(Br)を表す]により表される。
【0039】
本明細書で使用されるピリジニウム塩の例としては、ピリジニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、セチルピリジニウムブロミド、ミリスチルピリジニウムクロリド、ミリスチルピリジニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ドデシルピリジニウムブロミド、エチルピリジニウムクロリド、エチルピリジニウムブロミド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムブロミド、ブチルピリジニウムクロリド、ブチルピリジニウムブロミド、メチルヘキシルピリジニウムクロリド、メチルヘキシルピリジニウムブロミド、メチルオクチルピリジニウムクロリド、メチルオクチルピリジニウムブロミド、ジメチルブチルピリジニウムクロリド、及びジメチルブチルピリジニウムブロミドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用される被覆黒鉛を取得するためには、黒鉛、加水分解剤、及び場合により界面活性剤を室温で超音波により溶剤中に均一に分散させて、その後シリカ前駆体の黒鉛に対する重量比が約0.8:1~4:1である分散液にシリカ前駆体を加える。被覆反応が、室温で約4~20時間実施されて、取得される被覆黒鉛は、濾過及び乾燥により得ることができる。
【0041】
本明細書に開示されるポリマー組成物の総重量を基準として、被覆片状黒鉛は、約3~30重量%又は約4~25重量%の量で存在してよい。
【0042】
本明細書に開示される電気伝導性ポリエステル組成物は、着色剤、酸化防止剤、UV安定剤、UV吸収剤、熱安定剤、潤滑剤、粘性調整剤、造核剤、可塑剤、離型剤、引掻傷及び擦傷改質剤、衝撃改質剤、乳化剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、酸吸着剤、臭気吸着剤、耐加水分解剤、抗菌剤、密度調整剤、補強充填剤、熱伝導性充填剤、電気伝導性充填剤、カップリング剤、末端封止試薬及びそれらの2種以上の組み合わせなどの他の添加剤をさらに含むことがある。本明細書に開示される電気伝導性ポリエステル組成物の総重量を基準として、そのような追加の添加剤は、約0.005~30重量%又は約0.01~25重量%、又は約0.02~20重量%の量で存在できる。
【0043】
本明細書において実証されるように、シリカ粒子で被覆された片状黒鉛を組み込むことにより、高比誘電率及び低誘電体損(「比誘電率/誘電体損」比率が300超)を有するポリマー組成物を得ることができる。
【0044】
本明細書に開示されるポリマー組成物で形成される物品が、さらに本明細書に開示される。このようなポリマー組成物は、通信装置、エレクトロニクス及び電力系統を含む多くの領域に使用できる。ポリマー組成物で形成される例示的な物品としては、コンデンサ、アクチュエータ、電力ケーブル用端末、及び小型アンテナが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0045】
材料
・ PA66-E.I.du Pont de Nemours and Company(米国)(以下「DuPont」)から商品名Zytel(登録商標)101NC010で入手したポリアミド6,6;
・ Irganox1010-酸化防止剤、BASF(独国)から購入したペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート);
・ Crodamide212-潤滑剤、Croda(英国)から入手のステアリルエルクアミド;
・ GF-片状黒鉛、Ningbo Sinyuan Graphite Co.,Ltd.(中国)から入手(D90=50μm);
C-GF-1-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:243±38nm及びC:Siの重量比:15:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に2gのGFを加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、4mlのテトラエトキシシランを分散液に10分かけて滴下し、分散液を室温で約2時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-2-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:236±33nm、C:Siの重量比:8:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に2gのGFを加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、4mlのテトラエトキシシランを分散液に10分かけて滴下し、分散液を室温で約6時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-3-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:249±34nm、C:Siの重量比:5:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に2gのGFを加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、4mlのテトラエトキシシランを分散液に10分かけて滴下し、分散液を室温で約10時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-4-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:258±31nm、C:Siの重量比:2.8:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に2gのGFを加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、4mlのテトラエトキシシランを分散液に10分かけて滴下し、分散液を室温で約24時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-5-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:104±15nm、C:Siの重量比:7:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に2gのGFを加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、2mlのテトラエトキシシランを分散液に10分かけて滴下し、分散液を室温で約12時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-6-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:15±4nm、C:Siの重量比:10:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に、2gのGF及び0.3gのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(カチオン界面活性剤として)を加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、0.5mlのテトラエトキシシランを分散液に加え、分散液を室温で約6時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-7-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:102±16nm、C:Siの重量比:8:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に、2gのGF及び0.3gのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(カチオン界面活性剤として)を加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、2mlのテトラエトキシシランを分散液に加え10分かけて滴下し、分散液を室温で約10時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ C-GF-8-被覆片状黒鉛(シリカ被覆粒子の平均直径:16±5nm、C:Siの重量比:8:1)以下のように調製:80mlのエタノール、20mlの脱イオン水、及び3mlの水酸化アンモニウムを含む溶液に、2gのGF及び0.3gのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(カチオン界面活性剤として)を加え、その分散液を超音波を用い室温で20分間混合し、0.5mlのテトラエトキシシランを分散液に加え、分散液を室温で約10時間撹拌し、濾過して90℃で乾燥させて被覆片状黒鉛を抽出した;
・ SiO2-Lianyungang Oawa New Material Technology.,Ltd(中国)から入手シリカナノ粒子(D90=200nm)。
【0046】
100のシリカ粒子をランダムに選択して、走査型電子顕微鏡(SEM)(Sigma500、ZEISS(独国)により製造)により、それらの直径を平均して、シリカ被覆粒子の平均直径を求めた。Energy Dispersive Spectrometer(X-MAX80、Oxford Instruments(英国))により、20keVでC:Siの重量比を測定した。最初に、被覆片状黒鉛の10の異なる領域をランダムに選び、そのうち2以下の選択領域は、被覆フレークからであった。その後、それぞれの領域におけるC及びSiの含有量を測定し、C:Siの平均重量比を算出した。
【0047】
比較例CE1~CE8及び実施例E1~E6のそれぞれにおいて、約280℃に設定したバレル温度及び約150rpmでのスクリュー回転数を有するProcess11平行二軸押出機(Thermo Fisher Scientific(米国)により製造)を用いて、ポリマー組成物(全て表1に列挙)を調製した。290℃に設定した溶融温度を有する熱間プレス(モデル4386、Carver,Inc.(米国)により製造)を用いて、ペレットを熱間プレスして60×60×2mmのキューブ片にすることにより、試験サンプルを調製した。次に、N5221A PNA Microwave Network Analyzer(Keysight Technologies(米国)により製造)を用いて、60×60×2mmのキューブ片を使用して組成物の比誘電率及び誘電体損を求めた。
【0048】
CE1~CE4において示すように、黒鉛などの電気伝導性充填剤の添加により、ポリマー材料の比誘電率が改善した。しかし、それによりそれらの誘電体損も増大し、結果として「比誘電率/誘電体損」の比率は200未満になった。しかしながら、黒鉛を特定のシリカで被覆した片状黒鉛に置き換えると(E1~E6)、高比誘電率及び低誘電体損(「比誘電率/誘電体損」比率が300を超える)を有するポリマー材料を取得した。このようなシリカ被覆の片状黒鉛においては、C:Siの重量比は、約10:1~4:1の範囲であり、シリカ被覆粒子は、約80~400nmの平均直径を有した。
【0049】
【国際調査報告】