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  • 特表-接触分解の方法及び触媒系 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】接触分解の方法及び触媒系
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/05 20060101AFI20220125BHJP
   C08G 63/40 20060101ALI20220125BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C10G11/05
C08G63/40
B01J29/40 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522416
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(85)【翻訳文提出日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 CN2019113235
(87)【国際公開番号】W WO2020083363
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】201811261409.3
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】509059424
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司石油化工科学研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】羅一斌
(72)【発明者】
【氏名】欧陽穎
(72)【発明者】
【氏名】▲ケイ▼恩会
(72)【発明者】
【氏名】舒興田
(72)【発明者】
【氏名】成暁潔
(72)【発明者】
【氏名】朱根権
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
4J029
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA01A
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169CC07
4G169DA06
4G169ZA04A
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZA19A
4G169ZC08
4G169ZF02A
4G169ZF07A
4H129AA02
4H129CA03
4H129CA08
4H129DA04
4H129HA20
4H129HB10
4H129KA02
4H129KB02
4H129KC14X
4H129KC16X
4H129KC17X
4H129NA22
4H129NA26
4H129NA37
4J029AA01
4J029AB01
4J029AC05
4J029AD01
4J029AD10
4J029BF24
4J029BF26
4J029FB02
4J029HA01
4J029HB05
4J029KH04
4J029KH05
(57)【要約】
接触分解の反応条件下で、分解原料をラジカル開始剤の存在下で接触分解触媒と接触させて接触分解反応を行う工程を含み、ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーは分枝化度がそれぞれ独立して約0.3~1であり、重量平均分子量がそれぞれ独立して約1000を超える、接触分解の方法、ならびに触媒系。本接触分解の方法は、石油炭化水素のラジカル型分解の強化、高速化、ならびに、分解活性及び生成物の配分の調節の促進に有利である。本方法によれば、接触分解転化率の向上、エチレン及びプロピレン収率の向上、コークス生成率の低減が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触分解の反応条件下で、分解原料をラジカル開始剤の存在下で接触分解触媒と接触させて反応させるステップを含む、接触分解の方法であって、
前記ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含む、方法。
【請求項2】
前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリオレフィン、ポリエーテルエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリシラン又はそれらによる任意の組み合わせからなる群から選ばれ、好ましくはそれぞれ独立してポリエーテル、ポリアミド又はそれらによる組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラジカル開始剤は、超分枝化ポリグリシジルエーテル、末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテル、樹枝状ポリアミド-アミン、超分枝化ポリアミド-アミン又はそれらによる任意の組み合わせからなる群から選ばれるポリマーを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ラジカル開始剤は、末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテルを含み、
前記末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテルにおける当該末端基は、炭素数2~10のエステル基、アミン基、メルカプト基又はそれらによる任意の組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの分枝化度が、それぞれ独立して約0.3~1、好ましくは約0.4~1であり、
より好ましくは、前記樹枝状ポリマーの分枝化度が約1であり、前記超分枝化ポリマーの分枝化度が約0.4~0.9、より好ましくは約0.4~0.8である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの重量平均分子量が、それぞれ独立して約1000を超え、好ましくは約2000~約30000、より好ましくは約2000~約25000である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ラジカル開始剤は、末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)を含み、
前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)の重量平均分子量が、好ましくは約1000を超え、より好ましくは約1000~30000、さらに好ましくは約2000~20000、特に好ましくは約5000~15000であり、及び/又は、
前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)の分枝化度が、好ましくは約0.3~1、より好しくは約0.3~0.9、さらに好ましくは約0.4~0.9、特に好ましくは約0.4~0.8である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)は以下の式(I)
【化1】

に示す構造を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触分解触媒は酸性ゼオライト触媒を含み、好ましくはY型ゼオライト及び/又は形状選択性ゼオライトを含有する接触分解触媒であり、
より好ましくは、前記形状選択性ゼオライトが、ZSM-5ゼオライト、βゼオライト又はそれらによる任意の組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、前記分解原料の重量との比が、約0.00001:1を超え、好ましくは約0.00001:1~約0.01:1、より好ましくは約0.0001:1~約0.005:1である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記接触分解の反応条件は、
約450~700℃、好ましくは約550~650℃の反応温度と、
約1~50h-1、好ましくは約5~40h-1の重量時間空間速度と、
約1~20、好ましくは約1~15の触媒対油比と、を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記分解原料は、炭素数4~14の炭化水素、ナフサ、軽質循環油、減圧ディーゼル油、減圧残渣油又はそれらによる任意の組み合わせから選ばれる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ラジカル開始剤及び接触分解触媒を包含する、接触分解反応用の触媒系であって、
前記ラジカル開始剤は、樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、
前記接触分解触媒は、酸性ゼオライト触媒を含み、好ましくはY型ゼオライト及び/又は形状選択性ゼオライトを含有する接触分解触媒であり、
前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、前記接触分解触媒の重量との比が、約0.00001:20を超え、好ましくは約(0.00001~0.01):(1~20)、より好ましくは約(0.0001~0.005):(1~20)である、触媒系。
【請求項14】
前記ラジカル開始剤が、請求項2~8のいずれか1項によって規定されるラジカル開始剤であり、及び/又は
前記形状選択性ゼオライトが、ZSM-5ゼオライト、βゼオライト又はそれらによる任意の組み合わせから選ばれる、請求項13に記載の触媒系。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は接触分解の技術分野に関し、より具体的には接触分解の方法、及びそれに用いる触媒系に関する。
【0002】
〔背景技術〕
21世紀に入り、原油価格の変動及び探査技術の飛躍的な進歩に伴い、世界中において石油化学工業の原料が多様化及び低コスト化の傾向を見せている。特に、軽質炭化水素資源が豊富な中東地区における石油化学工業の生産力の急速な拡大、ならびに北米のシェールガス産業及び中国の石炭化学産業の発展等により、ナフサを原料とする伝統的な石油化学産業に激震が与えられた。また、ナフサ蒸気の分解により低炭素オレフィンを生産する手法も、エタンよりエチレンを製造する技術の大規模な市場化という挑戦を受けている。ナフサルートの伝統的なエチレン生産では、比較的にキャッシュコストが高いため、コスト競争力が弱い。そのため、競争力を有する化学工業原料生産技術の開発が注目されている。
【0003】
高温下での炭化水素分解反応は、長鎖炭化水素を高付加価値の短鎖炭化水素、特に低炭素オレフィン及びガソリンに転化する重要なプロセスであり、例えば接触分解及び蒸気分解が挙げられる。接触分解は、触媒作用下で、石油の炭化水素鎖を高温分解により開裂し、小分子としてのオレフィン及びアルカンを生成する複雑なプロセスである。なお、接触分解反応のメカニズムは、触媒の種類及び分解の手順に密接に関連している。
【0004】
一般的に炭化水素の分解は、そのメカニズムの違いにより、カルボニウムイオン型メカニズム(接触分解)とラジカル型メカニズム(蒸気分解)とに区別される。カルボニウムイオン型メカニズムは、酸性触媒の作用下で開始させる必要がある。一方で、ラジカル型メカニズムは、一般に800℃を超える熱開始条件下で反応が開始し、エチレンがその特徴的な分解生成物である。そしてカルボニウムイオン型メカニズムは、酸性触媒の存在下で開始するため、反応温度が比較的に低く、且つ、プロピレンがその特徴的な分解生成物である。
【0005】
通常、酸性ゼオライト触媒を用いる低温分解プロセスでは、主にカルボニウムイオン反応が生じる。すなわち、触媒の酸性中心によりアルカン、オレフィン又はアレーンにおいてカルボニウムイオン生成が誘起され、続いてカルボニウムイオンが異性化してβ位開裂によりアルケンが生成され、その後、カルボニウムイオンが脱着によりHを触媒に戻し、カルボニウムイオン自体がオレフィンへと転化する。
【0006】
ラジカル型分解は連鎖反応メカニズムに従う。炭化水素のラジカル型分解のプロセスは、三つの段階、すなわちラジカル開始、ラジカル移動、及びラジカル終結を有する。通常、ラジカル開始は、分解反応の速度を制御するステップに当たるが、しばしば高い温度が要求される。そのため、ラジカル型メカニズムを通じて分解生成物の配分を調節することは、高い温度の場合に顕著な効果が表われることが多い。化学結合の均一開裂により2つのラジカルが得られるが、この生成されたラジカルは、水素引抜き反応、分解反応、及び付加反応をもたらす。水素引抜き反応では新たなラジカルが生成される。分解反応では、1つのオレフィン及び新たなラジカルが生成されるほか、オレフィンとの付加反応によりアルカンが生成されることも有り得る。そしてラジカル同士間の結合により、安定した分子が形成されることは、ラジカル反応の終了を意味する。但し、ラジカル熱開始の温度が、酸触媒作用に基づくカルボニウムイオン型メカニズムの場合よりも高いため、ラジカルルートでの調節を介する分解性能の調節は、しばしば高温時のみに実現され得る。一般的にラジカル開始反応は、主に3つの方式、すなわち過酸化物、光照射及び熱等に基づく。適宜な温度下でラジカル反応を開始させれば、分解性能の調節は可能となる。但し、ラジカル開始温度が低すぎると、炭化水素のC-C結合の解裂を誘起するのに不十分な場合が多い。また、ラジカル活性が高くなると、ラジカル同士間の結合、ラジカル開始剤の効果の低下に繋がる。
【0007】
ところで、繰り返し増長反応により合成されて高度な分枝化度及び高精度の構造を有する分子である樹枝状ポリマーは、高度に分枝化され対称的な放射状を呈し新規な機能を有する高分子として、3つの顕著な特徴、すなわち高精度の分子構造、数多くの官能基、及び高度な幾何学的対称性を有する。樹枝状ポリマーは、低い粘度、高い溶解性と混合性、及び高い反応性という特徴を有する。
【0008】
超分枝化ポリマーは、樹枝状ポリマーの重要な派生物の1つである。このようなポリマーは、完璧な樹枝状の巨大分子ではなく、構造に欠陥が存在するポリマーである。当該分子は、略球状のコンパクト構造を有し、流体力学的回転半径が小さく、分子鎖の絡み合いが少ないため、相対分子量の増加による、粘度への影響が少ない。更に、分子中に複数の官能性末端基を持ち、これらの官能性末端基を修飾すれば、機能的材料を得ることができる。
【0009】
しかしながら、本分野では、接触分解生成物中のエチレン/プロピレンの比率を高精度に自由に調節、制御できる効果的な方法及び触媒系が、依然として必要とされている。
【0010】
〔発明の内容〕
本開示の1つの目的は、接触分解の温度下で、分解活性及び生成物の配分を調節可能な、接触分解反応用の接触分解の方法及び触媒系を提供することにある。
【0011】
一態様として、上記目的を実現するために、本開示は、接触分解の反応条件下で分解原料をラジカル開始剤の存在下で接触分解触媒と接触させて反応させるステップを含む接触分解の方法であって、前記ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含む、方法を提供する。
【0012】
好ましくは、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの分枝化度はそれぞれ独立して約0.3~1であり、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの重量平均分子量はそれぞれ独立して約1000を超える。
【0013】
好ましくは、前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、前記分解原料の重量との比が、約0.00001:1を超える。
【0014】
好ましくは、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリオレフィン、ポリエーテルエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリシラン又はそれらによる任意の組み合わせから選ばれる。
【0015】
好ましくは、前記接触分解触媒は酸性ゼオライト触媒を含む。
【0016】
別の一態様として、本開示は、ラジカル開始剤及び接触分解触媒を包含する、接触分解反応用の触媒系であって、前記ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、前記接触分解触媒は酸性ゼオライト触媒を含む、触媒系を提供する。
【0017】
具体的な理論に限定されないが、接触分解反応の条件下で、炭化水素には、プロピレン及びブチレン生成に有効なカルボニウムイオン反応と、エチレン生成に有効なラジカル反応とのいずれも発生し得ると、本発明者は考えている。但し、接触分解反応は、反応温度が低く、ラジカル開始速度が遅く、反応プロセスが主にカルボニウムイオン反応であるため、プロピレン生成率が比較的高く、エチレン生成率が比較的低い。本開示の接触分解の方法によれば、巨大分子としてのラジカル開始剤を石油炭化水素の接触分解反応系内に添加することにより、接触分解温度下で炭化水素分子のラジカルを大量、均一に生成させることできる。炭化水素中に均一に分布したこれらのラジカルは、石油炭化水素のラジカル型分解を誘起、強化、加速させることができ、分解活性の向上及び低炭素オレフィン生成率の向上を促進するとともに、生成物中のエチレン/プロピレンの配分の調節を実現することもできる。したがって、本開示の接触分解の方法及び触媒系を採用すれば、接触分解における転化率、及び低炭素オレフィン収率を向上させるとともに、エチレン及びプロピレンの両方の生成率を向上させ、コークス生成率を低減させることができる。
【0018】
本開示のその他の特徴及び利点は、下記の具体的な実施形態の部分において詳細に説明される。
【0019】
〔図面の説明〕
図面は、本発明のさらなる理解を提供するために使用され、明細書の一部を構成する。発明を実施するための下記の形態と併せて本発明を説明するために用いられるが、本発明を限定するものではない。
【0020】
図面において、図1は、本開示の好ましい一実施形態において採用される末端基変性ポリグリシジルエーテル(PHPG)の核磁気共鳴スペクトルである。
【0021】
〔具体的な実施形態〕
以下、本発明の具体的な実施形態をより詳細に説明する。但し、記載される当該具体的な実施形態は、単に本発明の説明及び解釈に供するものであり、本発明を限定するものではないと理解すべきである。
【0022】
本明細書中に開示されるいかなる具体的な数値(数値範囲の端点を含む)も、当該数値の厳密な値に限定されず、当該厳密な値に近い値、例えば当該厳密な値±5%の範囲に含まれるあらゆる採用可能な値を含むと解釈すべきである。また、開示される数値範囲については、当該範囲の端点値同士を組み合わせ、端点値と当該範囲内の特定数値とを組み合わせ、又は、特定数値同士を任意に組み合わせることで、1つ又は複数の数値範囲を新たに得ることができる。当該新たな数値範囲も、本明細書に具体的に開示されているものと見做すべきである。
【0023】
本発明において、用語「触媒対油比」とは、分解原料の重量に対する、接触分解触媒の重量の比を表す。
【0024】
特段に説明する場合を除き、本明細書中に使用される用語は、当業者が一般に理解している意味を持つ。当業者の理解と異なる意味の用語が本明細書において定義されている場合、本明細書中の定義に準ずる。
【0025】
本発明において、明細書中に明確に説明した内容以外の未記載事項又は内容としては、当該分野における既知のものがそのまま適用される。本明細書中に記載のいかなる実施形態も、他の1つ又は複数の実施形態と自由に組み合わせることができる。これによって構成される技術案又は技術思想は、当該組み合わせが明らかに非合理的と当業者によって解釈されない限り、本明細書のオリジナル開示又はオリジナル記載の一部と見做すべきであり、本明細書に開示又は予期されていない新規な内容と見做すべきではない。
【0026】
本明細書において言及される全ての特許文献および非特許文献は、教科書及び刊行物の文章も含め(ただしこれらに限定されない)、いずれも参照によりその全体が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0027】
第1の態様として、本開示は、接触分解の反応条件下で、分解原料をラジカル開始剤の存在下で接触分解触媒と接触させて反応させるステップを含む、接触分解の方法を提供する。
【0028】
本開示によれば、好ましくは前記ラジカル開始剤が樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、好ましくは前記樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの分枝化度がそれぞれ独立して約0.3~1、好ましくは約0.4~1であり、好ましくは前記樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの重量平均分子量がそれぞれ独立して約1000を超え、好ましくは約2000~約30000、より好ましくは約2000~約25000である。
【0029】
好ましい実施形態において、前記ラジカル開始剤は、樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーからなる。
【0030】
上述したように、本開示の接触分解の方法は、樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含む巨大分子としてのラジカル開始剤を、石油炭化水素の接触分解反応系内に添加する。ラジカル開始剤には、高度に分枝化された樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーが採用されているため、大量な官能性末端基が含まれる。これら数多くの分枝化構造及び末端基により、ラジカル開始剤は、接触分解の条件下で炭化水素分子のラジカルを大量に発生させ、石油炭化水素のラジカル型分解を誘起、より強化、加速させることができ、活性及び生成物の配分を調節するという目的が実現される。したがって、本開示の接触分解の方法を採用すれば、接触分解における転化率、及び特に低炭素オレフィンのようなガス生成物の収率を向上させるとともに、エチレン及びプロピレンの生成率を向上させ、コークス生成率を低減させることができる。
【0031】
本開示に係る接触分解の方法において、ラジカル開始剤の使用量を幅広い範囲内で変えることができる。生成物の配分に対するより好適な調節効果を得るために、前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、分解原料の重量との比は、好ましくは約0.00001:1を超え、より好ましくは約0.00001:1~約0.01:1、例えば約0.00005~0.009:1、約0.00006~0.008:1、約0.00007~0.007:1、又は約0.00008~0.006:1、さらに好ましくは約0.0001:1~約0.005:1であってもよい。
【0032】
本開示の接触分解の方法において、ラジカル開始剤及び分解原料を一緒に、又は個別に接触分解反応系内に導入してもよい。例えば、具体的な一実施形態では、ラジカル開始剤を分解原料と均一に混合した後、当該混合後の原料を接触分解反応器内に導入してもよい。具体的な別の実施形態では、ラジカル開始剤及び分解原料をそれぞれ個別に接触分解反応系内に導入、例えば、独立した2つのフィードパイプラインを介してラジカル開始剤及び分解原料を個別に接触分解反応器内に導入してもよい。
【0033】
本開示によれば、樹枝状ポリマーの定義は当業者が熟知しており、すなわち、各々の繰り返し単位に樹枝状単位を有する線状ポリマーを指す。超分枝化ポリマーの定義も当業者が熟知しており、すなわち、樹枝状単位からなり、高度に分枝化され、構造が不規則なポリマーを指す。超分枝化ポリマーは、完璧な樹枝状の巨大分子ではなく、構造に欠陥が存在するポリマーである。樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの分枝化度DB(degree of branching)とは、全繰り返し単位の総数に対する、樹枝状単位と末端単位との総数の比を指す。分枝化構造を有するポリマー(樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマー)には、3種類の繰り返し単位、すなわち、樹枝状単位と、線状単位と、未反応官能基から誘導された末端単位と、が含まれる。
【0034】
Hawkerら(One-Step Synthesis of hyperbranched Dendritic Polyesters, C. J. Hawker et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 113, No. 12, 1991, 4583-4588)によれば、以下の分枝化度計算式が提案されている。
【0035】
DB=(D+T)/(D+L+T)
D、T、Lは、分枝化構造を有するポリマー分子中に含まれる、樹枝状単位、末端単位及び線状構造単位の各比率を示す。例えば、ポリマーは、分枝化度が0であれば、樹枝状単位及び末端単位を有さない直鎖状分子であり、分枝化度が約1であれば、全ての繰り返し単位が完全に分枝化されて当該分枝化単位と末端単位とのモル分率が約1である。なお、該文献に開示の内容は、この参照によりその全部が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0036】
本開示において、分枝化度は、文献『Controlled Synthesis of hyperbranched Polyglycerols by Ring-Opening Multibranching Polymerization, Alexander Sunder et. al., Macromolecules, 1999, 32, 4240-4246』に記載の方法に基づき、13C NMRを用いて特定することができる。なお、該文献に開示の内容は、この参照によりその全部が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0037】
本開示によれば、前記樹枝状ポリマーの分枝化度は、好ましくは約1であり、前記超分枝化ポリマーの分枝化度は、好ましくは約0.4以上、より好ましくは約0.4~0.9、さらに好ましくは約0.4~0.8、例えば約0.4~0.7、約0.4~0.6、約0.5~0.8又は約0.5~0.7である。上述した好ましい分枝化度の範囲であれば、ラジカル開始剤は、好適な溶解性及び粘度を有するとともに、接触分解温度下で炭化水素ラジカルを大量、均一に生成させることができる。
【0038】
本開示によれば、ラジカル開始剤と接触分解原料との混合接触や反応に寄与する好適なラジカル開示剤溶解性及び粘度を確保するために、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの重量平均分子量は、それぞれ独立して約1000を超え、好ましくは約2000~約30000、より好ましくは約2000~約25000、例えば約3000~25000、約3000~20000、約5000~20000又は約5000~15000である。本開示において、ポリマーの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(volume exclusion chromatography)を用い、例えば中国国家標準GB/T21864-2008の方法に基づいて測定してもよい。
【0039】
本開示によれば、樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの具体的な種類は特に限定されず、通常の種類であってもよい。例えば、樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリオレフィン、ポリエーテルエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリシラン又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれてもよい。
【0040】
幾つかの好ましい実施形態において、炭化水素ラジカルの生成、及び、分解原料中へのラジカル開始剤の溶解をさらに促進する目的で、前記樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリエーテル、ポリアミド又はそれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0041】
好ましい別の実施形態において、前記ラジカル開始剤は、超分枝化ポリグリシジルエーテル、末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテル、樹枝状ポリアミド-アミン、超分枝化ポリアミド-アミン又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるポリマーを含む。超分枝化ポリグリシジルエーテルの末端基はヒドロキシル基を大量に有する。そのため、超分枝化ポリグリシジルエーテルの末端ヒドロキシル基を変性させ、例えば、エステル化及び/又はメルカプト-アルキレン基化の方法によって超分枝化ポリグリシジルエーテルの末端基を変性させることにより、超分枝化ポリグリシジルエーテルと分解原料との混合性を改善してもよい。さらに好ましくは、前記末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテルにおける末端基は、炭素数2~10のエステル基、アミン基、メルカプト基又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる。超分枝化ポリグリシジルエーテルの末端基の変性は、例えば文献『Synthesis, Characterization, and Viscoelastic Properties of High Molecular Weight Hyperbranched Polyglycerols, Rajesh Kumar Kainthan et al., Macromolecules, 2006, 39, 7708-7717』及び『Palmitoyl hyperbranched Polyglycerol as a nanoscale initiator for endothermic hydrocarbon fuels, Gui-jin He et al., Fuel, 2015, 161, 295-303』に報告された方法に基づいて行ってもよい。なお、これらの文献に開示の内容は、この参照によりその全部が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0042】
特に好ましい実施形態において、前記ラジカル開始剤は、末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)を含むか、該超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)によって構成されている。
【0043】
さらに好ましい実施形態において、前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)の重量平均分子量が、約1000を超え、より好ましくは約1000~30000、さらに好ましくは約2000~20000、特に好ましくは約5000~15000、例えば約10000又は12000であり、及び/又は、
前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)の分枝化度が、約0.3~1、より好ましくは約0.3~0.9、さらに好ましくは約0.4~0.9、特に好ましくは約0.4~0.8、例えば約0.5又は0.6である。
【0044】
さらに好ましい実施形態において、前記末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)は、以下の式(I)に示す構造を有する。
【0045】
【化1】
【0046】
本開示によれば、接触分解反応において採用される条件は、通常用いられる反応条件であってもよい。例えば、接触分解の反応条件は、約450~700℃、好ましくは約550~650℃、例えば約560℃、580℃、600℃、620℃又は640℃の反応温度と、約1~50h-1、好ましくは約5~40h-1、例えば約8h-1、12h-1、16h-1、20h-1、24h-1、28h-1、32h-1又は36h-1の重量時間空間速度と、約1~20、好ましくは約1~15、例えば約2、3、4、5、6、8、10、12又は14の触媒対油比と、を含んでもよい。
【0047】
本開示に係る接触分解の方法において、分解原料としては様々な一般の接触分解原料を採用してもよく、本開示では特に限定しない。例えば、分解原料は、炭素数4~14の炭化水素、ナフサ、軽質循環油、減圧ディーゼル油、減圧残渣油又はそれらによる任意の組み合わせから選ばれてもよい。
【0048】
本開示に係る接触分解の方法において、触媒としては接触分解の分野における通常の触媒を採用してもよく、本発明では特に限定しない。本開示の一具体的な実施形態において、低炭素オレフィンの収率をさらに向上させるために、接触分解触媒は、Y型ゼオライト及び/又は形状選択性ゼオライトを含有する接触分解触媒であってもよい。なお、形状選択性ゼオライトは、好ましくはZSM-5ゼオライト、βゼオライト又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれてもよい。
【0049】
特に好ましい幾つかの実施形態において、前記接触分解触媒は、約10~60重量%、好ましくは約20~50重量%のY型ゼオライト及び/又は形状選択性ゼオライトと、アルミナとして計算したときに約5~50重量%、好ましくは約10~40重量%のアルミナバインダーと、ドライベースで約5~60重量%、好ましくは約10~50重量%の粘土と、を含有してもよい。
【0050】
本開示において、前記アルミナバインダーは、接触分解触媒に一般に用いられる様々な形態のアルミナ、水和アルミナ及びアルミナゾルから選ばれる1つ又は複数であってもよい。例えば、γ-アルミナ、η-アルミナ、θ-アルミナ、χ-アルミナ、擬似ベーマイト(pseudo-boehmite)、ベーマイト(boehmite)、水礬土(gibbsite)、バイヤーライト(bayerite)又はアルミナゾルから選ばれてもよく、あるいは、それらのうち2つ、3つ又は4つからなる組み合わせであってもよく、擬似ベーマイト及びアルミナゾルが好ましい。
【0051】
本開示において、前記粘土は、接触分解触媒の成分として通常に用いられる粘土、例えばカオリン、含水ハロイサイト、モンモリロナイト、硅藻土、ハロイサイト、サポナイト、レクトライト、セピオライト、アタパルジャイト、ハイドロタルサイト、ベントナイトから選ばれる1つ又は複数であってもよく、あるいは、それらのうち2つ、3つ又は4つからなる組み合わせであってもよい。なお、これらの粘土は当業者にとって公知である。
【0052】
第2の態様として、本開示は、ラジカル開始剤及び接触分解触媒を包含する、接触分解反応用の触媒系であって、前記ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、前記接触分解触媒は酸性ゼオライト触媒を含む、触媒系を提供する。
【0053】
好ましい実施形態において、前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、前記接触分解触媒の重量との比は、約0.00001:20を超え、好ましくは約(0.00001~0.01):(1~20)、より好ましくは約(0.0001~0.005):(1~20)、例えば約(0.0001~0.005):(1~2)である。
【0054】
なお、本開示の第2の態様において、前記ラジカル開始剤及び接触分解触媒に関する他の特徴は前述した通りであり、その説明は再度繰り返さない。
【0055】
幾つかの好ましい実施形態において、本開示は、以下の技術的構成も提供する。
【0056】
<項目1>接触分解の反応条件下で、接触分解原料油をラジカル開始剤の存在下で接触分解触媒と接触させて接触分解反応を行うステップを含む接触分解の方法であって、
前記ラジカル開始剤は、樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの分枝化度がそれぞれ独立して約0.3~1であり、前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの重量平均分子量がそれぞれ独立して約1000を超えることを特徴とする、方法。
【0057】
<項目2>前記ラジカル開始剤と前記接触分解原料油との重量比が約(0.00001~0.01):1である、項目1に記載の方法。
【0058】
<項目3>前記ラジカル開始剤及び前記接触分解原料油を一緒に接触分解反応系内に導入するステップを含むか、あるいは、前記ラジカル開始剤及び前記接触分解原料油を個別に接触分解反応系内に導入するステップを含む、項目1又は2に記載の方法。
【0059】
<項目4>前記樹枝状ポリマーの分枝化度が1であり、前記超分枝化ポリマーの分枝化度が約0.4を超える、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
【0060】
<項目5>前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーの重量平均分子量がそれぞれ独立して約3000~30000である、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0061】
<項目6>前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリオレフィン、ポリエーテルエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド又はポリシランであるか、それらのうち2つ若しくは3つからなる組み合わせである、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0062】
<項目7>前記樹枝状ポリマー及び前記超分枝化ポリマーは、それぞれ独立してポリエーテル及び/又はポリアミドである、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0063】
<項目8>前記ラジカル開始剤は、超分枝化ポリグリシジルエーテル、末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテル、樹枝状ポリアミド-アミン、超分枝化ポリアミド-アミン、又は、それらのうち2つ若しくは3つからなる組み合わせである、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0064】
<項目9>前記末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテルにおける当該末端基は、炭素数2~10のエステル基、アミン基又はメルカプト基であるか、それらのうち2つ若しくは3つからなる組み合わせである、項目8に記載の方法。
【0065】
<項目10>前記接触分解の反応条件は、約450~700℃の反応温度と、約1~50h-1の重量時間空間速度と、約1~20の触媒対油比と、を含む、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
<項目11>前記接触分解原料油は、炭素数4~14の炭化水素、ナフサ、軽質循環油、減圧ディーゼル油又は減圧残渣油であるか、それらのうち2つ若しくは3つからなる組み合わせである、項目1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0067】
<項目12>前記接触分解触媒は、Y型ゼオライト及び形状選択性ゼオライトを含有する接触分解触媒である、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0068】
<項目13>ラジカル開始剤及び接触分解触媒を包含する、接触分解反応用の触媒系であって、前記ラジカル開始剤は樹枝状ポリマー及び/又は超分枝化ポリマーを含み、前記接触分解触媒は酸性ゼオライト触媒を含む、触媒系。
【0069】
<項目14>前記ラジカル開始剤に含まれる樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの合計重量と、前記接触分解触媒の重量との比が、約0.00001:20を超え、好ましくは約(0.00001~0.01):(1~20)、より好ましくは約(0.0001~0.005):(1~20)である、項目13に記載の触媒系。
【0070】
<項目15>前記接触分解触媒は、Y型ゼオライト及び/又は形状選択性ゼオライトを含有する接触分解触媒である、項目13又は14に記載の触媒系。
【0071】
<項目16>前記ラジカル開始剤は、項目2~8のいずれか1項に規定されるラジカル開始剤である、項目13~15のいずれか1項に記載の触媒系。
【0072】
<項目17>前記形状選択性ゼオライトは、ZSM-5ゼオライト、βゼオライト又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる、項目15に記載の触媒系。
【0073】
〔実施例〕
以下の実施例を用いて本開示をさらに詳細に説明するが、本開示は実施例によって限定されるものではない。本開示の以下の実施例において用いられた化学試薬は、特段に説明しない限り、いずれも市販品である。
【0074】
ポリマーのミクロ構造(分枝化度も含む)は、『Controlled Synthesis of hyperbranched Polyglycerols by Ring-Opening Multibranching Polymerization, Alexander Sunder et. al., Macromolecules, 1999, 32, 4240-4246』、及び『One-Step Synthesis of hyperbranched Dendritic Polyesters, C. J. Hawker et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 113, No. 12, 1991, 4583-4588』に記載の方法に基づき、スウェーデンBruker社製の400MHz核磁気共鳴装置を採用し、重水素化クロロホルム(CDCl)又は重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)を溶媒とし、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質とすることで、分析することができる。
【0075】
ポリマーの分子量は、示差屈折率(RI)検出器、紫外線(UV)検出器、レーザ散乱(LS)検出器、粘度(IV)検出器を備えた米国Viscotek社製のModle302TDA型サイズ排除クロマトグラフィー装置(「SEC/TALLS」と略称)を採用し、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、流動速度1.0mL/分、測定温度30℃にて、データ処理ソフトウェアのOmniSEC4.5を用いることで、測定することができる。
【0076】
(ラジカル開始剤の調製)
以下、実施例において用いられた一部のラジカル開始剤の合成を簡略に説明する。
【0077】
(超分枝化ポリグリセロール(HPG))
アニオン開環重合法により、様々な相対分子量の一連の超分枝化ポリグリセロールHPGを合成した。合成の具体的な手順は、文献『Synthesis, Characterization, and Viscoelastic Properties of High Molecular Weight Hyperbranched Polyglycerols, Rajesh Kumar Kainthan et al., Macromolecules, 2006, 39, 7708-7717』の記載に基づいた。
【0078】
雰囲気下で、所定の配合比のメタノール、トリメチロールプロパン(TMP)及びCHOKからなる溶液を反応フラスコ中に添加し、50℃下で30分間撹拌した。続いて、溶媒であるメタノールを真空除去した後、ジオキサンを添加して温度を95℃まで昇温し、グリシドール単量体をゆっくり、24時間滴下した。滴下終了後、さらに12h反応させた。最終生成物をメタノールに溶解した後、アセトンにて再結晶させた。この操作を3回繰り返した。
【0079】
(末端基変性超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG))
パルミトイルクロリドを用い、エステル化反応により、超分枝化ポリグリセロール(HPG)に含まれている末端ヒドロキシル基を変性させ、末端基がパルミテート基である超分枝化ポリグリシジルエーテル(PHPG)を得た。その構造は以下の式(I)に示す。
【0080】
【化2】
【0081】
具体的な合成手順は、文献『Synthesis, Characterization, and Viscoelastic Properties of High Molecular Weight Hyperbranched Polyglycerols, Rajesh Kumar Kainthan et al., Macromolecules, 2006, 39, 7708-7717』、及び『Palmitoyl hyperbranched Polyglycerol as a nanoscale initiator for endothermic hydrocarbon fuels, Gui-jin He et al., Fuel, 2015, 161, 295-303』の記載に基づいた。
【0082】
雰囲気下で、ポリグリセロールのピリジン溶液である混合系にパルミトイルクロリドを所定の配合比で添加し、還流下で一夜撹拌した後、濃縮により大部分のピリジンを除去した。ジクロロメタンにて抽出を行った後、減圧蒸留により、最終生成物である白色の蝋状固形物を得た。該生成物(すなわち実施例9のPHPG)のH NMRスペクトルは図1に示す通りで、分子量は約120000、分枝化度は0.5であった。なお、別の分子量及び分枝化度を有する他の実施例のPHPGは、本実施例と同様な方法にて合成した。
【0083】
(超分枝化ポリアミド-アミン)
CN102268127Bに開示の方法に基づいて調製した。
【0084】
(実施例1~4)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、表2に示す量のラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、ラジカル開始剤PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0085】
マイクロ反応評価装置を用い、マイクロ反応の活性を評価した。なお、実験装置は中国石油化工科学研究院DADI社製のWFS-5C型の触媒作用マイクロ活性測定器を用い、実験方法はRIPP92-90(『石油化学工業分析方法(RIPP試験法)』,Cuiding YANGら,科学出版社,1990年出版,第263~268頁)に基づき、評価条件は反応温度を650℃、再生温度を650℃、触媒対油比を1.28、重量時間空間速度を16h-1とし、触媒は中国石油化工触媒有限公司製のMMC-2バランス剤(変性ZSM-5ゼオライトを含む)を用い、触媒充填量は2gとした。評価結果は表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
(比較例1)
比較例1では、ラジカル開始剤PHPGを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の分解原料(VGO;性質は表1の通り)を用い、実施例1と同じ条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示すデータから分かるように、比較例1と比べると、巨大分子としてのラジカル開始剤を分解原料中に添加した場合、接触分解反応における重質油転化率が向上し、液化ガス生成率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上した。また、ラジカル開始剤の添加量を調節することにより、生成物中のエチレン/プロピレンの収率比を一定範囲内に調整することができ、生成物中のエチレン/プロピレンの配分の調節が実現される。
【0090】
(実施例5~9)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、ラジカル開始剤PHPGの分子量及び分枝化度は表3に示す。
【0091】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示すデータから分かるように、分解原料中にラジカル開始剤を添加した場合、接触分解反応における重質油転化率が向上し、液化ガス生成率が増加するとともにコークス生成率が維持され、若しく若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上した。また、本開示の好ましい樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの重量平均分子量がそれぞれ独立して約2000~約30000の範囲内にある場合、接触分解反応における転化率、低炭素オレフィン収率、及び生成物中のエチレン/プロピレン比率の向上に寄与する、ラジカル開始剤による効果はより顕著であった。
【0094】
(実施例10~13)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、ラジカル開始剤PHPGの分子量及び分枝化度は表4に示す。
【0095】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
表4に示すデータから分かるように、巨大分子としてのラジカル開始剤を分解原料中に添加した場合、接触分解反応における重質油転化率が向上し、液化ガス生成率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上した。また、本開示の好ましい樹枝状ポリマー及び超分枝化ポリマーの分枝化度がそれぞれ独立して約0.3~1の範囲内にある場合、接触分解反応における転化率、低炭素オレフィン収率、及び生成物中のエチレン/プロピレン比率の向上に寄与する、ラジカル開始剤による効果はより顕著であった。
【0098】
(実施例14)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は11000、分枝化度は0.5であった。
【0099】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表5に示す。
【0100】
(実施例15)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、2000ppmのラジカル開始剤である超分枝化ポリアミド-アミンを添加して均一に混合した。なお、ラジカル開始剤である超分枝化ポリアミド-アミンの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0101】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表5に示す。
【0102】
(実施例16)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、2000ppmのラジカル開始剤である樹枝状ポリアミド-アミン(PAMAM)(中国威海市晨源分子新材料有限公司から購入した市販品:型番PAMAM-G1、分子量5000、分枝化度1)を添加した。
【0103】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表5に示す。
【0104】
(実施例17)
分解原料(VGO;性質は表1の通り)を90℃まで加熱し、1000ppmのラジカル開始剤である樹枝状ポリアミド-アミン(PAMAM)(中国威海市晨源分子新材料有限公司から購入した市販品:型番PAMAM-G5、分子量25000、分枝化度1)、及び、1000ppmのラジカル開始剤PHPG(分子量5000、分枝化度1)を添加した。
【0105】
マイクロ反応評価装置を用い、実施例1と同じ評価条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表5に示す。
【0106】
【表5】
【0107】
表5に示すデータから分かるように、比較例1と比べると、分解原料中にラジカル開始剤を添加した場合、接触分解反応における重質油転化率が向上し、液化ガス生成率が増加し、生成物中のエチレン/プロピレンの比率が増加し、且つコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上した。また、異なる種類のラジカル開始剤を添加しても、良好な効果が同様に得られた。
【0108】
(実施例18)
分解原料(LCO;性質は表6の通り)中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0109】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1、触媒はMMC-2平衡剤、触媒充填量は2gとした。評価結果は表7に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
(比較例2)
比較例2では、ラジカル開始剤PHPGを添加しなかったこと以外は、実施例18と同様の分解原料(LCO;性質は表6の通り)を用い、実施例18と同じ条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表7に示す。
【0112】
【表7】
【0113】
表7に示すデータから分かるように、巨大分子としてのラジカル開始剤を分解原料(LCO)中に添加した場合、接触分解反応における重質油転化率が向上し、液化ガス生成率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上し、且つエチレン/プロピレンの収率比が向上した。
【0114】
(実施例19)
分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0115】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1、触媒はMMC-2平衡剤、触媒充填量は2gとした。評価結果は表9に示す。
【0116】
【表8】
【0117】
(比較例3)
比較例3では、ラジカル開始剤PHPGを添加しなかった以外は、実施例19と同様の分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)を用い、実施例19と同じ条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表9に示す。
【0118】
(比較例4-1)
比較例4-1では、ラジカル開始剤PHPGを添加せず、実施例19と同様の分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)を用いた。
【0119】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1とし、反応に触媒を添加せず、反応器内に2gの石英砂を充填した。評価結果は表9に示す。
【0120】
(比較例4-2)
分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0121】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1とし、反応に触媒を添加せず、反応器内に2gの石英砂を充填した。評価結果は表9に示す。
【0122】
【表9】
【0123】
表9に示すデータから分かるように、触媒が存在する場合、反応は主に接触分解反応であった。また、原料ナフサ中にラジカル開始剤を添加した場合、接触分解反応におけるナフサ転化率が向上し、ガス生成物の生成率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が顕著に向上した。
【0124】
比較例4-1及び比較例4-2では、酸性触媒による触媒作用がなかったため、生じたのはナフサ熱分解反応であった。評価結果から分かるように、原料ナフサ中にラジカル開始剤を添加する場合、比較的低い温度下で熱分解反応が発生し、且つナフサ転化率の向上、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率の増加が実現される。但し、実施例19と比較すると、ラジカル開始剤を単独で用いた場合の促進効果が、ラジカル開始剤を接触分解プロセスに用いた場合よりも明らかに劣っている。つまり、ラジカル開始剤と接触分解触媒とが共同して作用する場合、接触分解における転化率、ガス生成物の生成率、低炭素オレフィンの収率、及び生成物中のエチレン/プロピレン比率の向上に寄与する効果がより優れる。これは、ラジカル開始剤と接触分解触媒との相乗効果が存在し、ナフサの接触分解により低炭素オレフィンを生成する反応がより顕著に促進されることを意味する。
【0125】
(実施例20)
分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)中に、1000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0126】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1、触媒はMMC-2平衡剤、触媒充填量は2gとした。評価結果は表10に示す。
【0127】
(比較例4-3)
分解原料(中国石油化工燕山工業製:蒸留塔頂に常在の直接留分ナフサ;性質は表8の通り)中に、1000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0128】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比1.28、重量時間空間速度は16h-1とし、反応に触媒を添加せず、反応器内に2gの石英砂を充填した。評価結果は表10に示す。
【0129】
【表10】
【0130】
表10に示すデータから分かるように、触媒が存在する場合、1000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加しただけで、ナフサの接触分解反応に対する促進効果が顕著に現れ、接触分解反応におけるナフサ転化率が向上し、ガス生成物の生成率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が顕著に向上した。一方、触媒が存在しない場合、単に1000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加するだけでは、ナフサの熱分解反応に対する促進効果は非常に微弱なものであった。以上の結果は、ラジカル開始剤と接触分解触媒との相乗効果が存在し、接触分解においてごく少量のラジカル開始剤を添加するだけでも、低炭素オレフィン生成反応が顕著に促進されることが、より証明されている。これに対し、同量のラジカル開始剤の添加での熱分解反応の場合、反応の促進効果は基本的に得られない。
【0131】
(実施例21)
分解原料(n-オクタン;分析用に純粋なもの(AR))中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0132】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は650℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1、触媒はMMC-2平衡剤、触媒充填量は2gとした。評価結果は表11に示す。
【0133】
(比較例5)
比較例5では、ラジカル開始剤PHPGを添加しなかったこと以外は、実施例21と同様の分解原料(n-オクタン;AR)を用い、実施例21と同じ条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表11に示す。
【0134】
【表11】
【0135】
表11に示すデータから分かるように、巨大分子としてのラジカル開始剤を原料n-オクタン中に添加した場合、接触分解反応における転化率が向上し、ガス生成物の生成率が増加し、生成物中のエチレン/プロピレンの比率が増加するとともにコークス生成率が若干低減し、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が向上した。
【0136】
(実施例22)
分解原料(n-オクタン;AR)中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0137】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は550℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1、触媒はMMC-2平衡剤、触媒充填量は2gとした。評価結果は表12に示す。
【0138】
(比較例6)
比較例6では、ラジカル開始剤PHPGを添加しなかったこと以外は、実施例22と同様の分解原料(n-オクタン;AR)を用い、実施例22と同じ条件にてマイクロ反応活性を評価した。評価結果は表12に示す。
【0139】
(比較例7-1)
比較例7-1では、ラジカル開始剤PHPGを添加せず、実施例22と同様の分解原料(n-オクタン;AR)を用いた。
【0140】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は550℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1とし、反応に触媒を添加せず、反応器内に2gの石英砂を充填した。評価結果は表12に示す。
【0141】
(比較例7-2)
分解原料(n-オクタン;AR)中に、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加して均一に混合した。なお、PHPGの分子量は10000、分枝化度は0.5であった。
【0142】
マイクロ反応評価装置を用いてマイクロ反応活性を評価した。評価条件として、反応温度は550℃、再生温度は650℃、触媒対油比は1.28、重量時間空間速度は16h-1とし、反応に触媒を添加せず、反応器内に2gの石英砂を充填した。評価結果は表12に示す。
【0143】
【表12】
【0144】
表12に示すデータから分かるように、温度が比較的低く、特に触媒が存在しない場合、n-オクタンの分解転化率が低かった。触媒が存在する場合、2000ppmのラジカル開始剤PHPGを添加すると、n-オクタンの接触分解反応に対する促進効果が顕著に現れ、接触分解反応におけるn-オクタン転化率が向上し、ガス生成物の生成率が増加するとともにコークス生成率がほぼ維持され、エチレン、プロピレン及びブチレンの収率が顕著に向上した。一方、触媒が存在しない場合、ラジカル開始剤PHPGを添加しても、比較的低温下でのn-オクタン熱分解反応に対する促進効果が基本的に得られない。以上の結果は、ラジカル開始剤と接触分解触媒との相乗効果が存在し、接触分解の場合において比較的低温下でも低炭素オレフィン生成反応が顕著に促進されることが、より証明されている。これに対し、同量のラジカル開始剤の添加及び同温度下での熱分解反応の場合、反応の促進効果は基本的に得られない。
【0145】
以上、本開示の好ましい実施形態を詳細に説明した。但し、本開示は、上述した実施形態における具体的な細部に限定されず、本開示の技術思想の範囲内で本開示の技術案に対して様々な簡単な変形を施すことができ、これら簡単な変形の全ても、本開示に係る特許請求の範囲に含まれる。
【0146】
なお、上述した具体的な実施形態において説明した各々の具体的な技術特徴は、互いに矛盾しない限り、適した任意の方式にて組み合わせることができる。但し、本開示では、必要でない繰り返し記載を避けるために、考えられる様々な当該組み合わせ形態の説明を省略する。
【0147】
また、本開示の思想から逸脱しない範囲で、本開示における様々な異なる実施形態同士を任意に組み合わせてもよく、当該組み合わせも本開示に記載の内容と見做すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0148】
図1】本開示の好ましい一実施形態において採用される末端基変性ポリグリシジルエーテル(PHPG)の核磁気共鳴スペクトルである。
図1
【国際調査報告】