(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】ファーマコフォアを有する遺伝的にコードされた大環状ペプチドライブラリー
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20220125BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220125BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20220125BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
C07K7/00
C07K14/00
C40B40/10
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529397
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 CA2019051703
(87)【国際公開番号】W WO2020107118
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507388960
【氏名又は名称】ザ・ガバナーズ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・アルバータ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダーダ、ラトミール
(72)【発明者】
【氏名】ムカルジー、ラジャ
(72)【発明者】
【氏名】エカナイェイク、アルニカ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA50
4H045BA54
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ファーマコフォアを有する大環状ペプチドを形成する方法および前記生成された大環状ペプチドに関し、方法は、システイン側鎖の2つのチオール基を含むペプチドを、反応性化合物1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4と反応させる工程を含む。反応性化合物とペプチドとの反応により、1,3-ジケトン含有大環状ポリペプチドが生成される。次いで、1,3-ジケトン基を有する大環状化合物を、前記大環状化合物と、ファーマコフォアを有するアルキルまたはアリールヒドラジン基との、良性水性条件下での反応によって修飾する。大環状化合物は、ファージディスプレイライブラリーなどのライブラリーにディスプレイされ、選択された標的に対する親和性についてバイオパン(biopan)するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大環状ペプチド構造を形成する方法であって、
(a)(i)2つの反応性基X1およびX2と含むペプチドと、(ii)反応性基Y1、Y2およびZを含む反応性化合物とを、X1がY1との反応によって結合を形成し、かつX2がY2との反応によって結合を形成するように反応させる工程を含む、上記方法。
【請求項2】
Zを、ファーマコフォアRを有するアルキルまたはアリールヒドラジンと反応させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが、前記ペプチドをコードする核酸に連結されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Zと、前記ファーマコフォアを有するアルキルまたはアリールヒドラジンとの間の反応が、良性の水性条件で起こる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
X1およびX2がシステイン側鎖のチオール基であり、Y1およびY2の両方がクロロアルカン基であり、かつ/またはZが1,3-ジケトン基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応性化合物が1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドがX
LCX
MCX
Nを含み、Xが任意の天然アミノ酸であり、Lが2~20の整数であり、Mが2~10の整数であり、Nが0または1~20の整数である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性条件が、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、またはニトリロ酢酸(NTA)などの金属キレート剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、2つのシステイン残基を含むランダムペプチドのファージライブラリーを含み、前記ペプチド配列中にランダムに配置されたファーマコフォアを有するペプチド大環状化合物を含むライブラリーをもたらす、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
X
LYX
MYX
Nを含む直鎖ペプチド部分と反応性部分とを含む大環状ポリペプチドであって、式中、Xは任意の天然アミノ酸であり、Yは反応性基を有するアミノ酸であり、Lは2~20の整数であり、Mは2~10の整数であり、Nは0または1~20の整数であって、反応性基Zを有する前記反応性部分が、前記Y反応性基の各々に結合して大環状化合物を形成する、上記大環状ポリペプチド。
【請求項11】
Yがシステインであり、前記反応性部分が、チオール基とクロロアルカン基との反応によって形成される結合によって前記システイン残基のそれぞれに結合している、請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
Zが1,3-ジケトン基である、請求項10または11のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項13】
好ましくはアルキルまたはアリールヒドラジンを含む、Zと反応する部分に担持されたファーマコフォアをさらに含む、請求項10、11または12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
核酸によって遺伝的にコードされ、核酸に連結されている、請求項10~13のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
各々が請求項14に記載のポリペプチドの複数を含む、2つ以上のライブラリーを含む混合ペプチドライブラリーであって、各ライブラリーが、遺伝子レベルでは前記2つ以上のライブラリー間で異なるが表現型的には同一であるサイレント遺伝子バーコードを含み、各ライブラリーが、異なるファーマコフォアで別々に修飾されている、上記混合ペプチドライブラリー。
【請求項16】
ファージライブラリーである、請求項15に記載の混合ペプチドライブラリー。
【請求項17】
標的に対する特異性を有するファーマコフォアを同定する方法であって、請求項15または16に記載の混合ライブラリーを前記標的でスクリーニングすることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、遺伝的にコードされた大環状ペプチドライブラリーを使用する創薬の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬は、困難なプロセスであり続ける。ゲノムおよびプロテオーム研究は、1つまたは複数の遺伝子またはタンパク質と疾患状態との関連を報告し続けているため、多数の新しい標的にもかかわらず、医薬研究および開発において努力を増やしても、付随する新薬の増加にはつながらない。この無数の標的を調べるための新規の化学物質が必要とされている。コンビナトリアル化学は、新規治療分子の同定における著しい進歩を可能にした。パラレル合成、固相方法論、ハイスループット化合物プロファイリングおよび精製などの関連技術ではある程度成功しているが、新しい化学技術の採用は限定されている。
【0003】
また、創薬アプローチが生物学的物質へとシフトし、抗体およびタンパク質製剤の出現数の増加、ならびに製薬会社とバイオテクノロジー会社とのパイプラインの発展をもたらした。残念なことに、生物製剤にアクセスできない細胞内経路および標的を調節する試みは、小分子にアクセスできないことも証明した。
【0004】
小分子に直面する困難と相まった生物学的分子の制約により、これらの困難な標的を調節するための非伝統的な構造、例えばタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)、タンパク質-核酸相互作用および転写因子などが検討されてきた。この目的に適合する特に魅力的な化学分類の1つは、大環状化合物である。
【0005】
2つのシステインを含むファージディスプレイライブラリーとジクロロアセトン誘導オキシムとを反応させることによって、非天然のケモタイプを含有する大環状ライブラリーが生成されている。オキシム結合は、加水分解安定性が限定されていることが知られている。オキシムを形成するには、酸性条件下での長期のインキュベーション、およびファージライブラリーなどの遺伝的にコードされたライブラリーの完全性に有害であり得る毒性触媒の存在が必要である。
【0006】
アジド基またはアルキン基を有する大環状ライブラリーが知られている。アジド基またはアルキン基の修飾は、環状ペプチドに非天然ファーマコフォアを導入することができる。前記アジド基またはアルキン基の修飾のための反応は、ラジカル酸化プロセス(例えば、フェントン反応)を介して核酸の完全性を破壊することが知られている、銅などのレドックス活性金属の存在を必要とすることも知られている。
【0007】
断片ベースの設計(FBD)は、タンパク質に結合する弱く雑多な断片AおよびBから出発する、あらゆるタンパク質のためのリガンドを開発する強力な方法である。元の断片と比較してより高い親和性および特異性で結合する2断片の組み合わせA-Bが同定されている。遺伝的にコードされた断片に基づく発見(GE-FBD)により、断片の1つが直鎖ペプチドまたはペプチド大環である同様の概念が探求されている。GE-FBDのいくつかの例が報告され、検討されている1。しかしながら、GE-FBD法は、不可逆的な共有結合を介した迅速かつ強力なペプチドライブラリーへの断片の導入を提供しない。断片を導入し、トポロジーを大環状に変更する方法が最も魅力的である。
【0008】
ジクロロアセトンリンチピン2は、直鎖ペプチドを環状に変換し、同時にケトン官能性をペプチドライブラリーに導入することができる。しかしながら、ケトン-大環化合物の後期官能化は遅く、酸性条件での最大24時間のインキュベーションを必要とし、これはファージ生存率を害する。この欠陥は、ジクロロアセトンを事前官能化してジクロロオキシムを形成し、ペプチド大環化合物に多様なグリカンを導入することによって回避することができる3。
【0009】
市販のファージディスプレイPhD C7Cライブラリーにボロキサゾール官能性を導入するための、ジスルフィドの2段階還元およびCysのアルキル化が実証されている4。非共有結合性および共有結合性の弾頭部(warhead)をT7ライブラリーに導入するための、同様のシステインアルキル化も報告されている5。
【0010】
1,3-ジケトンおよびN末端ペプチドアシルヒドラジンは、酸性条件下でゆっくりと反応してN-アシル1,2-ピラゾールを形成することが知られている。得られたN-アシル1,2-ピラゾール部分は、都合のよいことに、チオールなどの軟質求核試薬による攻撃を受けやすく、これは、脱離基(1,2-ピラゾール)の脱離をもたらす。様々なチオールによるピラゾール部分の置換は、天然の化学的連結(NCL)のためのチオエステルを生成するのに有用であるが、加水分解、および生物媒体中に存在する求核試薬による他の何らかの形態の破壊に対して安定な1,2-ピラゾールが望ましい場合がある。
【0011】
多数の報告により、直鎖脂肪族1,3-ジケトンが長期間安定な生体直交性部分であることが確認されている6。1,3-ジケトンに結合または反応するタンパク質はないようであるが、1,3-ジケトンに独特に反応する抗体を合成抗体ライブラリーから単離した7-8。この研究は、抗体結合部位内または長い15-merペプチド内のペプチド配列のまれな組み合わせのみが、1,3-ジケト基との何らかの検出可能な反応性を有するという、1,3-ジケト基の直交性の証拠を提供した。血液循環に注入された1,3-ジケトンを含む小分子は、循環抗1,3-ジケトン抗体に選択的にコンジュゲートする。
【0012】
当技術分野では、良性水性条件で修飾することができる反応性基を有する、遺伝的にコードされた大環状化合物を製造する方法が依然として必要とされている。
【0013】
この背景情報は、本発明に関連する可能性があると出願人が考える情報を知らせる目的で提供される。前述の情報のいずれかが本発明に対する先行技術を構成することを必ずしも意図しておらず、解釈されるべきでもない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ペプチドをリンチピン化合物と架橋することによって形成されるペプチド大環状化合物の合成、およびこれらの大環状化合物が、ペプチドのファージディスプレイライブラリーの官能化と生体適合する良性条件で、多様な非天然官能性で官能化され得ることの実証に関する。
【0015】
一態様では、本発明は、(i)2つの反応性基X1およびX2を含むポリペプチドと、(ii)
・X1がY1と反応して結合を形成するように、かつ
・X2がY2と反応して結合を形成するように前記ポリペプチドと共有結合を形成することができる反応性基Y1、Y2およびZを含む反応性化合物、との反応によって形成された大環状ペプチド構造を含む複合体を含み得る。
ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする核酸に連結されていてもよい。大環状ペプチドは、ポリペプチドに元々存在しない反応性基Zを含む。次いで、Zを適切な反応物質と反応させることによって、ファーマコフォアまたはケモタイプを形成することができる。
【0016】
ファーマコフォアを有する大環状ペプチドは、ポリペプチド、コード核酸、ファージおよび/またはファーマコフォアの機能的完全性を損なわない、生物学的に適合する条件で水中で形成され得る。そのような条件は、本明細書では「良性」条件と呼ばれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、X1およびX2は、システイン側鎖のチオール基であり、反応性化合物は、Y1およびY2の両方がクロロアルカン基であり、Zが1,3ジケトンなどのジケトン基であるものである。例示的な反応性化合物は、1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4である。反応性化合物とペプチドとの反応により、1,3-ジケトン含有大環状ポリペプチドが生成される。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする核酸に結合または連結される。次いで、1,3-ジケトン基(Z)を有する大環状化合物を、前記大環状化合物と、例えばアルキルまたはアリールヒドラジン基を含有する任意の分子との反応によって修飾することができる。大環状化合物の反応により、ファーマコフォアまたはケモタイプが生成される。
【0018】
本発明はまた、遺伝子レベルでは2つ以上のライブラリー間で異なるが表現型的には同一であるサイレントDNAバーコードをそれぞれが含有する、前記ペプチドの2つ以上のライブラリーを含む混合ライブラリーに関する。例えば、サイレントDNAバーコードは、冗長な遺伝暗号を使用して、異なるDNA配列を有する同一のペプチドリンカーをコードし得る。異なるファーマコフォアによるこれらのライブラリーの修飾は、任意の特定のファーマコフォアが遺伝子バーコードによって同定され得る、異なるファーマコフォアの混合ライブラリーを生成する。そのようなライブラリーのスクリーニングおよび配列決定は、ペプチド配列およびファーマコフォアのいずれかまたは両方を同定することができ、これは、ポリペプチドのスクリーニング標的への結合に重要であり得る。
【0019】
別の態様では、本発明は、ランダムな配列の所望の位置に配置された標的物質と結合することができるファーマコフォア化合物を有する大環状ペプチドライブラリーを構築する方法を含み得る。いくつかの実施形態では、大環状ペプチドライブラリーは、大環状配列の所望の位置に配置された標的物質と結合することができる部分を有するアミノ酸を含むペプチドから生成され得る。いくつかの実施形態では、方法は、(i)2つのシステイン残基を含むランダムなペプチドのファージライブラリーを調製する工程と、(ii)ライブラリーを1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4で修飾して、ジケトン基を有するランダム大環状ペプチドのライブラリーを生成する工程と、(iii)修飾ライブラリーをヒドラジン官能性を有するファーマコフォアと反応させて、ランダム配列に配置された所定のケモタイプを有するペプチド大環状化合物を含むライブラリーを得る工程、とを含む。
【0020】
別の態様では、本発明は、各々が異なる様式で修飾され、識別可能なサイレント遺伝子バーコードを有する2つ以上の大環状ペプチドライブラリーを含む混合ライブラリー、およびそれを使用するスクリーニング方法を含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、PCT国際公開第2016/061695 A1号「Genetic Encoding of Chemical Post-Translational Modifications for phage-displayed libraries」に記載されているように、1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4などのジケトンリンチピンを使用して、ファージのゲノムにDNAバーコードまたはサイレントバーコード技術を含むファージにディスプレイされるペプチドを修飾することができる。次いで、1,3-ジケトン官能性を有するランダムな大環状ペプチドの得られたライブラリーを、ヒドラジン官能性を有する多様なファーマコフォアで官能化して、ペプチドと非天然のケモタイプの両方がファージのDNAによってコードされるように所定のケモタイプを有する、ペプチド大環状化合物を含むライブラリーを得ることができる。
【0022】
本発明ならびにその他の態様およびさらなる特徴をよりよく理解するために、以下の図面を参照することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ファーマコフォアRを有する大環状ペプチドを形成する方法の一実施形態の概略図である。
【0024】
【
図2A】1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)、および1,3-ジケトンを含有するそれらの大環状生成物との反応で試験したペプチドの配列を示す。大環状ペプチドへのペプチド変換のLCMSトレースの例。
【
図2B】DPDによるペプチドSWCDYRCのアルキル化およびその後のアリールヒドラジンまたはアルキルヒドラジンの連結を示す。
【
図2C】ジアゾール大環状ペプチド(DAMP)を形成するために、ジケトン大環状ペプチド(DKMP)と様々なアルキルヒドラジンおよびアリールヒドラジンとの間で実施される反応の例を示す。
【
図2D】アリールヒドラジンによる1,3-ジケトン大環状ペプチドの修飾速度は、律速段階の遷移状態における正電荷の蓄積を示す負のrho値のハメットシリーズ(Hammett series)において、中程度の置換基効果(非置換>アルキル>アリール)および一貫した環効果を示している。
【
図2E】アリールヒドラジンによる1,3-ジケトン大環状ペプチドの修飾速度は、律速段階の遷移状態における正電荷の蓄積を示す負のrho値のハメットシリーズ(Hammett series)において、中程度の置換基効果(非置換>アルキル>アリール)および一貫した環効果を示している。
【
図2F】1,3-ジケトン大環状化合物からの1,2-ジアゾールの形成についての時間依存性LCMSトレースを示す。
【0025】
【
図3A】1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)とのアルキル化反応が、所望のジケトン大環状ペプチド(DKMP)よりも高い分子量を有する付加的な生成物を形成し、時間とともにその比率が増加するため、この反応が時間依存性であることを示す。
【
図3B】1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)とのアルキル化反応が、所望のジケトン大環状ペプチド(DKMP)よりも高い分子量を有する付加的な生成物を形成し、時間とともにその比率が増加するため、この反応が時間依存性であることを示す。
【0026】
【
図4A】異なるファーマコフォアを示すアリールヒドラジンからの1,2-ジアゾール大環状ペプチドの形成を記載する、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)トレースである。
【
図4B】異なるファーマコフォアを示すアリールヒドラジンからの1,2-ジアゾール大環状ペプチドの形成を記載する、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)トレースである。
【0027】
【
図5A】同じDKMPを有する異なるヒドラジン類似体および異なるDKMPを有するフェニルヒドラジンの計算された反応速度および生成物収率。
【
図5B】同じDKMPを有する異なるヒドラジン類似体および異なるDKMPを有するフェニルヒドラジンの計算された反応速度および生成物収率。
【0028】
【
図6】DPDによるファージディスプレイペプチドの修飾およびこの修飾のビオチン捕捉を用いた定量化
【0029】
【
図7】ペプチドおよびサイレントDNAバーコードをディスプレイする2つのファージライブラリーをDPDおよび2つの異なるケモタイプで修飾して、2つのケモタイプがサイレントDNAバーコードによってコードされている混合ライブラリーを作製する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
別に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0031】
各ライブラリーメンバーがDNAまたはRNAなどの情報テンプレートに連結されている遺伝子コード化ライブラリーを作製することで、個々のライブラリーメンバーを個々の溶液および反応容器に分離することなく、大きな化学ライブラリーを処理することができる。遺伝的にコードされた分子の混合物から標的分子を選択し、選択された目的の分子を、その情報テンプレートを使用して同定または増幅することができる。
【0032】
環状ペプチドのライブラリーの作製またはファージ、DNAもしくはRNA上のペプチドのディスプレイのための1つの戦略は、化学的(または酵素的)翻訳後修飾(cPTM)で修飾されたペプチドから誘導された分子の、遺伝的にコードされたディスプレイの修飾を介する。典型的には、これらの方法は、ペプチドに有機合成を使用して、ペプチド誘導体を作製する。ペプチドライブラリー全体を均一な化学修飾によって修飾できることが知られている。修飾ライブラリーからの選択およびDNAの配列決定により、修飾ペプチド誘導体を作製することができるペプチド配列が得られる。ペプチドのライブラリー、ファージディスプレイポリペプチドのライブラリーおよびRNAディスプレイポリペプチドのライブラリーの、ペプチド誘導体のライブラリーへの変換を含むいくつかの方法が存在する。
【0033】
水性媒体中の天然アミノ酸から構成される非保護ペプチドの後期官能化は、容易に利用できる100万~10億規模の遺伝的にコードされたファージ/mRNA/DNAディスプレイペプチドライブラリーを修飾するための便利なアプローチを提供し、化学空間を拡大して、元のペプチドライブラリーには存在しない非天然のケモタイプおよびファーマコフォアを組み込む。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、直鎖ペプチドの2段階後期官能化を含み得、これは、以下の一部または全部を含む、先行技術には存在しないいくつかのさらなる利点を提供し得る。(i)環状トポロジーの構築物を生成する。(ii)反応性中間体が貯蔵条件において安定している。(iii)容易に入手可能なヒドラジンによるプラグアンドプレイ官能化を可能にする。(iv)得られた結合の加水分解および過剰の反応性基との交換に対する安定性。
【0035】
一般的に言えば、この方法は、保護されていないペプチドと反応性化合物とを反応させて大環状ペプチドを形成し、続いてヒドラジンによって大環状ペプチドを修飾することを含み、その例を
図1に概略的に示す。修飾第2段階は、構築物にファーマコフォアRを導入する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「ファーマコフォア」は、分子構造が受ける特定の生物学的または薬理学的相互作用を担う、分子構造の一部である。ある特定の意味では、「ファーマコフォア」は、生物学的高分子によるリガンドの分子認識に必要な1つまたは複数の分子的特徴を抽象的に説明するものである。「ケモタイプ」は、固有の化学骨格を共有する化合物の分類を意味する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「大環状」または「大環式」化合物は、12個以上の原子を有する1個以上の環を含む分子構造である。大環状化合物は、大きな生体分子の利点、例えば高い効力および選択性と、低分子の利点、例えば合理的な製造コスト、経口バイオアベイラビリティ、投与の容易さおよび免疫原性の欠如を含む好ましい薬物動態特性とを組み合わせることができる。
【0038】
ジクロロアセトンリンチピンを使用して直鎖ペプチドを環状構造に変換し、同時にケトン官能性をペプチドライブラリーに導入することが知られている。しかしながら、ケトン-大環状化合物の後期官能化は遅く、pH4条件での最大24時間のインキュベーションを必要とし、これはファージの生存性に適合しない。
【0039】
図1に示すように、直鎖ペプチド、好ましくはファージディスプレイされたものは、少なくとも2つの反応性残基、例えば2つのCys残基を有する任意の非保護ペプチドであり得る。ペプチドは、X
LYX
MYX
N構造を含み得、式中、Xは任意の天然アミノ酸であり、Yは反応性側鎖を有するアミノ酸であり、Lは2~20の整数であり得、Mは2~10の整数であり得、Nは0または1~20の整数であり得る。好ましくは、Yはシステインである。一実施形態では、ペプチドを反応させて、1,3-ジケトン大環状ペプチド(DKMP)を形成する。続いて大環状化合物を、良性水性条件下かつ短時間、好ましくは約2時間未満、より好ましくは約1時間未満、ファーマコフォアRを有するヒドラジンと反応させる。
【0040】
図3に示すように、1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)によるペプチドのアルキル化は、反応開始から30分後に所望のジケトン大環状ペプチド(DKMP)よりも分子質量の高い余分な生成物が形成される、時間依存的反応である。この余分な生成物は、時間とともに所望の生成物に対する比が増加するため、アルキル化反応は、反応を開始してDKMPの最適な収率を得たすぐ後、例えば30分以内に水での希釈によってクエンチし、HPLCなどによって精製することが好ましい。
【0041】
置換ヒドラジンと1,3-ジケトンとの反応は、トルエンまたはエタノール中での還流などの激しい条件下で起こることが知られている。本発明者らの知る限り、そのような反応がバクテリオファージおよびタンパク質のような生物学的物質と適合する良性水溶液中で起こり得、1時間または2時間のなどの比較的短時間のインキュベーションで完了し得るという報告はない。
【0042】
したがって、一態様では、本発明は、N-アルキルまたはN-アリールの1,2-ピラゾール官能性を形成する、1,3-ジケトンとアリールまたはアルキルヒドラジンとの間の環化付加を含む。この反応は、120分以内、好ましくは約60分未満で、pH5緩衝液などの良性水性条件で周囲温度で起こり、加水分解的に安定な部分を生成する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「良性水性条件」は、ペプチドおよび/または核酸のファージディスプレイライブラリーを実質的に損傷しない条件を意味する。条件は、中程度の温度、例えば約5℃~30℃、好ましくは約10℃~25℃、例えば約3~約10、好ましくは約4~8、より好ましくは約5~7のpHレベルを含み得、有害な反応物、溶媒、触媒および/またはレドックス触媒である遷移金属イオンなどの金属イオンが実質的に存在しないことを含み得る。この意味では、「実質的」は、いくらかの軽微な損傷が起こり得るが、そのような損傷は、得られる大環化合物の機能性またはファージの生存率を害さないことを意味する。
【0044】
直鎖ペプチドライブラリーの1工程官能化のための多くの方法が存在する。オキシム、2-アミノベンズアミドオキシムの連結、およびN末端アルデヒドとのウィッティヒ反応を使用したN末端コンジュゲートは公知である。直鎖糖ペプチドを形成するための、デヒドロアラニンへのマイケル付加を使用してもよい。両方のCysのアルキル化によって、ボロキサゾール官能基を市販のファージディスプレイPhD C7Cライブラリーに導入することができる。同様のCys-アルキル化を使用して、非共有結合性および共有結合性の弾頭部(warhead)をT7ライブラリーに導入することができる。
【0045】
1,3-ジケトンは、酸化ストレスに起因して内因性システインから形成される一過性種であるスルフェン酸と、1,3-ジケトンの求核性炭素によるスルフェン酸の攻撃を介して反応することが知られている。このような反応は、ジメドンなどの環状1,3ジケトンと優先的に起こり、直鎖1,3ジケトンとでは遅いことが知られている。本発明者らの知る限り、1,3-ジケトンは、多様な範囲の生物学的媒体において長期安定性を有する真正の生体直交性試薬である。
【0046】
ジケトンがファージディスプレイされる場合、いくつかのヒドラジン誘導体はファージに対して毒性を引き起こし、感染性ファージ粒子の実質的な排除をもたらす。いくつかの実施形態では、メチルグリシン二酢酸(MGDA)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはニトリロ酢酸(NTA)などの金属キレート剤の添加により、毒性を軽減することができる。例えば、1~2mMの濃度で使用されるEDTAは、ジケトンとヒドラジンとの間の反応速度に影響を及ぼさないが、毒性を救済する。
【0047】
一態様では、本発明は、各々が遺伝子レベルでは2つ以上のライブラリー間で異なるが表現型的に同一であるサイレント遺伝子バーコードを含む、ペプチドの2つ以上のライブラリーを含む混合ライブラリーを含み得る。例えば、サイレント遺伝子バーコードは、冗長な遺伝暗号を使用して、異なるDNA配列を有する同一のペプチドリンカーをコードし得る。各ライブラリーは、異なるファーマコフォアで修飾され、組み合わされて異なるファーマコフォアの混合ライブラリーに作製されることができ、そこで任意の特定のファーマコフォアは、遺伝子バーコードによって同定され得る。そのようなライブラリーのスクリーニングおよび配列決定は、ペプチド配列およびファーマコフォアのいずれかまたは両方を同定することができ、これは、ポリペプチドのスクリーニング標的への結合に重要であり得る。
【0048】
ファージのゲノム中にDNAバーコードまたはサイレントバーコード技術を含有するファージ上にディスプレイされるペプチドの生成は、PCT国際公開第2016/061695 A1号「Genetic Encoding of Chemical Post-Translational Modifications for phage-displayed libraries」に記載されており、その全内容は、許容される場合、参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
別の態様では、本発明は、標的と結合または相互作用することができるファーマコフォア化合物を有する大環状ペプチドライブラリーを構築する方法であって、ファーマコフォアがランダム配列の異なる位置に配置される方法を含む。いくつかの実施形態では、大環状ペプチドライブラリーは、大環状配列の所望の位置に配置された標的物質と結合することができる部分を有するアミノ酸を含むペプチドから生成され得る。いくつかの実施形態では、方法は、(i)2つのシステイン残基を含むランダムなペプチドのファージライブラリーを調製する工程と、(ii)ライブラリーを1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4などのジケトンリンチピンで修飾して、ジケトン基を有するランダム大環状ペプチドのライブラリーを生成する工程と、(iii)修飾ライブラリーをヒドラジン官能性を有するファーマコフォアと反応させて、配列中にランダムに配置された所定のファーマコフォアを有するペプチド大環状化合物を含むライブラリーを得る工程、とを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、PCT国際公開第2016/061695 A1号「Genetic Encoding of Chemical Post-Translational Modifications for phage-displayed libraries」に記載されているように、1,5-ジクロロペンタンジオン-2,4などのジケトンリンチピンを使用して、ファージのゲノムにDNAバーコードまたはサイレントバーコード技術を含むファージにディスプレイされるペプチドを修飾することができる。次いで、1,3-ジケトン官能性を有するランダムな大環状ペプチドの得られたライブラリーを、ヒドラジン官能性を有する多様なファーマコフォアで官能化して、ペプチドと非天然のケモタイプの両方がファージのDNAによってコードされるように所定のケモタイプを有する、ペプチド大環状化合物を含むライブラリーを得ることができる。
【0051】
別の態様では、本発明は、2つ以上の大環状ペプチドライブラリーを含む混合ライブラリーであって、各々が、本明細書中に記載されるような2段階方法で官能化されて、異なるファーマコフォアまたはケモタイプを含み、サイレント遺伝子バーコードを有する混合ライブラリー、およびこれを標的に対して使用するスクリーニング方法を含み得る。
【0052】
例
本明細書に記載の発明のより良い理解を得るために、以下の例を記載する。これらの例は例示のみを目的としていることを理解されたい。したがって、特許請求される発明の範囲を決して限定するものではない。
【0053】
1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)を先に公開されたプロトコルに従って合成し、合成した生成物の同一性を単結晶X線構造によって検証した。
【0054】
DPDを使用してXLCXMCXN構造の合成ペプチドを修飾して、1,3-ジケト官能化ペプチド大環状化合物を形成した。Xは任意の天然アミノ酸であり、Lは2~20の整数であり得、Mは2~10の整数であり得、Nは0または1~20の整数であり得る。Mを2~10まで変動させて、環化またはその後のヒドラジン連結のいずれにも環サイズに上限または下限がなくはないことを証明した。したがって、DPDは、a,a’-メタブロモキシレン、DFS、ジクロロテトラジン、および小型と大型の両方の大環状化合物を形成すると報告された他のビス求電子試薬と同類である。
【0055】
図2Aに示すように、DPDは、X
LCX
MCの構造の5つのペプチドを強力かつ再現的に修飾し、1,3-ジケトン修飾大環状ペプチド(DKMP)を生成した。式中、X、LおよびMは上記の通りである。反応は60分以内に定量的変換を示した。
【0056】
これらの1,3-ジケトン大環状ペプチドは、LCMSによって確認されるように、pH 5.0で60分以内にアリールまたはアルキルヒドラジン官能性に定量的に連結して、N-アルキルまたはN-アリール1,2-ジアゾールを形成することができる。
【0057】
本発明者らが様々なヒドラジドとペプチドSWCDYRCに由来する大環状化合物との間の反応性の調査を行ったのは、それが、潜在的に問題のある反応性残基のすべて(pKaが7の第一級N末端アミン、カルボン酸、フェノール、グアニジン、インドール)を都合よく含むからである。水への溶解性が高く、DKMPと12-ジアゾール生成物との間でHPLC保持時間の明らかな差があるため、反応速度および生成物収率を決定する調査をペプチドSQCVRSCに対して行った。
【0058】
コンジュゲートの一般性を示すために、本発明者らは、フェニル-、4-メチルフェニル、4-ニトロフェニル、4-フルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、メチル、ヒドロキシエチル、エチル、マノシル、プロパルギル、ビオチニル、フルオレセイニルヒドラジンおよびヒドラジン自体を含む、最大12個の異なるアルキルまたはアリールヒドラジン(
図2Bおよび
図2C)で、5つのジケト大環状化合物(
図2A)を修飾した。
【0059】
図2パネルAは、1,5-ジクロロ-2,4-ペンタンジオン(DPD)との反応で研究された5つのペプチドの配列、および1a~4aとしての5つのペプチドの呼称、ならびに1b~4bとしての、DPDとの反応後の1,3-ジケトン大環状ペプチド(DKMP)と呼ばれるそれらの大環状生成物を概略的に示す。同じパネルで、変換ペプチド1a~DKMP 1bのHPLCトレースの例を示す。パネルBは、DPDによるペプチドSWCDYRCのアルキル化によるDKMPの形成、およびそれに続くDKMPのアリールヒドラジンまたはアルキルヒドラジンとの連結を概略的に示す。パネルCは、ジケトン大環状化合物と様々なアルキルおよびアリールヒドラジンとの間で行われる反応の例を列挙している。パネルDは、1bおよびアリールヒドラジンから生成物1c~gへの代表的な形成速度を示す。1,2-ジアゾールの形成は、中程度の置換基効果(非置換>アルキル>アリール)および一貫した環効果を示す。パネルEは、DKMPおよびヒドラジン、アルキルヒドラジンおよびアリールヒドラジンからの1,2-ジアゾールの代表的な形成速度を示す。パネルFは、1bからの1cの形成についての時間依存性HPLCトレースを示す。
【0060】
ジケトンのピラゾールへの変換は、少なくとも4つの反応(付加、脱水、第2の付加、第2の脱水)および別個の中間体を伴うが、これらの中間体はいずれも、1,3-ジケトンとベンゾイルヒドラジンとの間の反応を除いて、LCMSによる反応の経過全体を通して観察されなかった。1,3-ジケトンとベンゾイルヒドラジンとの反応の場合、中間体の形成のみが観察され、この中間体は、最終の付加または脱水工程を受けなかった。
【0061】
ピラゾール形成に何らかの電子的要因が関与しているかどうかを調べるために、本発明者らは3つの異なる4-置換フェニルヒドラジン(CH
3、HおよびNO
2)を試験し、パラ電子供与性置換基がピラゾール形成を加速し、一方、パラ電子吸引性置換基がピラゾール形成の速度を低下させることを見出した(
図2D参照)。
【0062】
図3Aおよび
図3Bは、質量が96単位増加した生成物を生成する、ペプチドとDPDとの間の典型的な反応を示す。興味深いことに、ペプチドとDPDとの間の長時間のインキュベーション(3Bでは60分のトレース)の際に、96単位のさらなる質量を有する副生成物の一貫した生成が観察された(正式には、別のDPD単位を有する生成物の反応)。この新たな副生成物の同一性は今のところ不明であるが、この生成物はもはや反応性ジケト官能性を含有せず、したがってヒドラジンと反応することができない。
【0063】
図4Aおよび
図4Bは、反応の効率およびその反応速度を監視するために使用される典型的なLCMSトレースを示す。
【0064】
図5Aは、ペプチド配列SQCVRSC(10mM)から誘導されたDKMPと、8つの異なるヒドラジンの20mM溶液との反応を示す。反応およびその50%完了(t
1/2)の速度は、ヒドラジン上の置換基の電子特性に依存した。例えば、電子に乏しいペンタフルオロフェニルヒドラジンは、最も遅い変換速度および最も長いt
1/2のうちの1つを有していた。芳香環を不活性化するパラ-ニトロ基、パラ-スルホンアミド基およびパラ-アミド基は、非置換フェニルと比較した場合、反応速度が低かった。LCMSトレースによると、目に見える副生成物も未反応の出発物質もなかったが、DKMPおよびヒドラジン反応の様々な生成物の単離収率は30~60%の範囲であった(
図5Aおよび
図5Bを参照)。SWCDYRCペプチドに加えて、他の2つのペプチド、FCPWCRおよびSQCVRSCも選択して、10mMのDKMPと20mMのヒドラジンとの間の反応速度を試験した。速度はペプチドの配列に依存し、ペプチド配列と反応速度との間の非自明性の関係を示した。
【0065】
例2:1,2-ジアゾールコンジュゲートの安定性。酢酸アンモニウム緩衝液(pH=4.6)中、60当量過剰のメチルヒドラジンとともに1つのDKMPをインキュベートすることによって、交差実験を行った。結果は、2週間後でさえ、交差生成物が発見されないことを示した。公開されているN-アシルピラゾールペプチド、および酸性条件下でコンジュゲートの加水分解または復帰に影響されやすい、以前から公知のペプチドヒドラジド-コンジュゲートとは異なり、N-アルキルまたはN-アリール1,2-ジアゾールペプチド大環化合物は、ヒドラジンの存在下または過剰下の両方におけるヒドラジン官能性の喪失に対して安定している。
【0066】
例3:ファージディスプレイライブラリーのDPDによる修飾およびその後の1,2-ジアゾールを形成する修飾。ペプチドのファージディスプレイライブラリーは、DPDで修飾し、ヒドラジンで後期官能化することができる。ビオチン捕捉は、DPD修飾ライブラリーの60%超がビオチン-ヒドラジンでビオチン化されていることを実証した(
図6参照)。4℃で数日間保存した場合でも、ジケトン-ファージのビオチニルヒドラジンに対する反応性は残っており、貯蔵後いつでも後期段階の機能化を行うことができることを示す。
【0067】
ファージジケトンとヒドラジンとの間の反応において、いくつかのヒドラジン誘導体はファージに対して毒性を引き起こし、(プラーク形成アッセイによって決定されるように)5分未満で99.999%を超える感染性ファージ粒子の除去をもたらす。例えば、ファージを2mMフェニルヒドラジンで2分間処理すると、感染性粒子の数が105から0に減少した。毒性の起源および機構は明白ではなく、体系化することは困難であった。それは、ヒドラジンの濃度およびその性質、ならびにいくつかの散発性因子(溶液の調製)に依存した。ヒドラジンの濃度に対する毒性依存性は、線形ではなかった。多くの場合、ヒドラジンは、反応が完了する前にすべての感染性粒子を排除するファージにとって致死的であった。本発明者らは、1~2mMの濃度のEDTAなどの金属キレート剤の添加はジケトンとヒドラジンとの間の反応速度に影響を及ぼさないが、毒性を救援することを発見した。例えば、1~2mMのEDTAおよび2~20mMのフェニルヒドラジンの存在下では、ファージは、数時間にわたって感染性粒子の数の有意な減少を何ら示さなかった。ファージジケトンとヒドラジン誘導体との間の最適な位置条件は、EDTAなどの1~2mMの金属キレート剤の存在下である。
【0068】
例3:ペプチドおよびサイレントDNAバーコードをディスプレイする2つのファージライブラリーをDPDで修飾し、2つの異なるヒドラジン含有ケモタイプ(Chemo1およびChemo2)で別々に修飾することで、2つのケモタイプがコードされ、サイレントDNAバーコードによって識別可能である混合ライブラリーを作製する(
図7を参照のこと)。混合ライブラリーを使用して、選択された標的に結合する大環状ペプチドケモタイプについてバイオパン(biopan)することができる。
【0069】
定義および解釈
本発明の説明は、例示および説明の目的で提示されているが、網羅的であること、または本発明を開示された形態に限定することを意図するものではない。本発明の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。実施形態は、本発明の原理および実際の用途を最もよく説明し、企図される特定の用途に適した様々な修正を伴う様々な実施形態について、当業者が本発明を理解することを可能にするために選択され説明された。
【0070】
本明細書に添付された特許請求の範囲におけるすべての手段または工程および機能要素の対応する構造、材料、動作、および等価物は、具体的に特許請求された他の特許請求された要素と組み合わせて機能を実行するための任意の構造、材料、または動作を含むことが意図されている。
【0071】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」などへの言及は、説明された実施形態が、特定の態様、形質、構造、または特徴を含み得るが、すべての実施形態が、必ずしもその態様、形質、構造、または特徴を含むとは限らないことを示す。さらに、そのような語句は、必ずしもそうではないが、本明細書の他の部分で言及される同じ実施形態を指す場合がある。さらに、特定の態様、形質、構造、または特徴が実施形態に関連して説明される場合、他の実施形態に関連するそのような態様、形質、構造、または特徴に影響を及ぼすことは、明示的な説明の有無に関わりなく、当業者の知識の範囲内である。言い換えれば、任意の要素または特徴は、2つの間に明白なもしくは固有の不適合性がない限り、または特に除外されない限り、異なる実施形態において任意の他の要素または特徴と組み合わせることができる。
【0072】
特許請求の範囲は、あらゆる任意の要素を除外するように起草され得ることにさらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙または「消極的な」限定の使用に関連して、「単独で、」、「のみ、」などの排他的な用語を使用するための先行詞としての役割を果たすことを意図している。「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」、「好む(prefer)」、「場合により(optionally)」、「してもよい(may)」という用語および同様の用語は、言及されている項目、条件または工程が、本発明の任意の(必須ではない)特徴であることを示すために使用される。
【0073】
単数形「a」、「an」、および「the」は、別途文脈が明確に指示しない限り、複数の言及を含む。「および/または」という用語は、この用語が関連付けられているアイテムのいずれか1つ、アイテムの任意の組み合わせ、またはアイテムのすべてを意味する。
【0074】
当業者によって理解されるように、試薬または成分の量、特性(分子量など)、反応条件などを表すものを含む、すべての数は概算であり、すべての場合において、「約」という用語で任意に修飾されるものと理解される。これらの値は、本明細書の説明の教示を利用して当業者によって得られることが求められる所望の特性に応じて、変動する可能性がある。そのような値は本質的に、それぞれの試験測定値で見出される標準偏差から必然的に生じる変動性を含むこともまた、理解される。
【0075】
用語「約」は、指定された値の±5%、±10%、±20%、または±25%の変動を指すことができる。例えば、「約50」パーセントは、いくつかの実施形態では、45~55%の変動を有し得る。整数の範囲の場合、「約」という用語は、範囲の各端に列挙された整数より大きいおよび/または小さい、1つまたは2つの整数を含むことができる。本明細書中で他に示されない限り、用語「約」は、組成物または実施形態の機能性に関して等価である、列挙された範囲に近い値および範囲を含むことが意図される。
【0076】
当業者によって理解されるように、すべての目的のために、特に書面による説明を提供するという観点から、本明細書に記載されるすべての範囲は、あらゆる可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせ、ならびに範囲を構成する個々の値、特に整数値も含む。列挙された範囲(例えば、重量パーセントまたは炭素基)は、範囲内の各特定の値、整数、小数、または同一値を含む。列挙された範囲は、少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、または10分の1に分割される同じ範囲を十分に説明し、有効にするものとして容易に認識できる。非限定的な例として、本明細書で論じられる各範囲は、下3分の1、中3分の1および上3分の1などに容易に分割することができる。
【0077】
また、当業者によって理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「超」、「以上」などのすべての言葉は、列挙された数を含み、そのような用語は、上で論じたような、後で部分範囲に分割できる範囲を指す。同様に、本明細書に記載されているすべての比率には、より広い比率に含まれるすべての部分比率も含まれる。したがって、ラジカル、置換基、および範囲について列挙された特定の値は、例示のみを目的としており、それらは、ラジカルおよび置換基の別の定義された値または定義された範囲内の他の値を排除しない。
【0078】
当業者はまた、メンバーがマーカッシュグループなどの一般的な方法で一緒にグループ化されている場合、本発明は、全体として列挙されたグループ全体だけでなく、個別にグループの各メンバー、およびメイングループの可能性のあるすべてのサブグループも包含することを容易に認識するであろう。さらに、すべての目的で、本発明は、メイングループだけでなく、1つ以上のグループメンバーが存在しないメイングループも包含する。したがって、本発明は、列挙されたグループのメンバーのいずれか1つまたは複数を明示的に除外することを想定している。したがって、但し書きは、開示されたカテゴリーまたは実施形態のいずれにも適用され、それにより、列挙された要素、種、または実施形態のいずれか1つ以上が、例えば、明示的な消極的制限で使用されるように、そのようなカテゴリーまたは実施形態から除外され得る。
【0079】
参考文献
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、本発明が関連する当業者の技術レベルを示し、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】