(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】認知症を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20220125BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20220125BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A61K36/07
A61K31/575
A61P25/28
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530319
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(85)【翻訳文提出日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 US2019063831
(87)【国際公開番号】W WO2020113146
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521007665
【氏名又は名称】アージル・バイオテック・ホールディング・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Arjil Biotech Holding Company Limited
(71)【出願人】
【識別番号】521230986
【氏名又は名称】ウー,イェー ビー
【氏名又は名称原語表記】Wu, Yeh B.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ウー,イェー ビー
(72)【発明者】
【氏名】ロ,ジャー-メン
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ホイ ジュー
(72)【発明者】
【氏名】リン,ペイ-シン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ,フゥイ-ジェン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA11
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C088AA04
4C088AC17
4C088BA04
4C088BA23
4C088BA32
4C088CA06
4C088CA08
4C088CA11
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZA16
(57)【要約】
本発明は、認知症、特にアルツハイマー病をベニクスノキタケ子実体の抽出物またはその活性成分で処置する方法を提供する。また、本発明では、認知症、特にアルツハイマー病を処置するための医薬を製造するための、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)の抽出物またはその活性成分の使用が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知症のための医薬を製造するための、ベニクスノキタケ子実体の抽出物の使用。
【請求項2】
ベニクスノキタケ子実体の抽出物が、皿で培養されているその子実体の抽出物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ベニクスノキタケ子実体の抽出物が、切断木で培養されているその子実体の抽出物である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ベニクスノキタケ子実体の抽出物が、ベニクスノキタケ子実体を水または有機溶媒で抽出することによって調製される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
有機溶媒が、エタノールである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
請求項1に記載の認知症使用のための医薬を製造するための化合物の使用であって、該化合物は、
【化1】
[式中、R
1は、O、α-OHまたはβ-Hであり;R
2は、HまたはOHであり;R
3は、O、α-H、β-OAcまたはH
2であり;R
4は、HまたはOHであり;R
5は、HまたはOHであり;R
6は、COOHまたはCOO(CH
2)n-CH
3であり;R
7は、H、OHまたはOAcであり;R
8は、CH
3またはCOOHであり;点線は、単結合または二重結合を示し;nは、0~3の整数である]
からなる群から選択される使用。
【請求項7】
請求項1に記載の認知症使用のための医薬を製造するための化合物の使用であって、該化合物は、
【化2】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸、
【化3】
の構造を有するデヒドロスルフュレン酸(dehydrosulphurenic acid)(デヒドロスルフレン酸(dehydrosulfurenic acid)とも称される)、
【化4】
の構造を有する15α-アセチルデヒドロスルフュレン酸、および
【化5】
の構造を有するアントシンK、からなる群から選択される使用。
【請求項8】
認知症が、アルツハイマー病(AD)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
抽出物が、Aβプラーク沈着およびグリア細胞の活性化の抑制に有効である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
抽出物が、記憶障害の改善に有効である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
化合物が、Aβプラーク沈着およびグリア細胞の活性化の抑制に有効である、請求項6~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
化合物が、記憶障害の改善に有効である、請求項6~7のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年11月28日出願の米国仮特許出願62/772,211の利益および優先権を主張し、この全内容は引用により本明細書に包含される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、認知症を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知低下、神経原線維変化、アミロイドプラーク、神経炎症および成体神経新生の低下を特徴とする(1-3)。アミロイドβ(Aβ)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の加工により形成されるペプチドであり、ADの病理の主要な開始因子の一つと考えられている。アミロイド仮説では、ADは、Aβの産生と除去の不均衡が原因である提唱されており(1)、その結果、中枢神経系(CNS)において、単量体、オリゴマー、不溶性の線維状のAβ量が増加し、その後、Aβプラークの形成、神経炎症、酸化的ストレスを誘発するとされる(4)。
【0004】
成体の海馬における神経新生が認知機能に主要な役割を果たすことを示す証拠が増えている(5)。オリゴマーAβ、可溶性APPα(sAPP)αおよびAPP細胞内ドメイン(AICD)などのAPP代謝物は、成体の海馬における神経新生に影響を与えるヒト神経幹細胞の性質を調節することが見出されている(6,7)。他方で、活性化グリアによって産生されるIL-1β、TNF-γおよびIL-6などの炎症性サイトカインは、成体の海馬における神経新生の過程を調節することもある(8-10)。
【0005】
APPswe/PS1dE9マウスモデル(APP/PS1)は、Swedish変異ヒトAPP695とエクソン9が欠失したヒト変異型プレセニリン1(PS1)を共発現したものであり(11)、これは、脳内のアミロイドプラークの蓄積、コリン作動系の衰退、および探索行動や空間的な記憶の障害など、AD様病理学的・行動学的変化を示す(12)。APP/PS1マウスにおけるAβ産生とプラーク形成の増加は、3~5ヶ月齢という早い時期に起こることが示されており(13)、6ヶ月齢では、空間的な学習・記憶の障害が観察されている(14-15)。さらに、3~6ヶ月齢のAPP/PS1マウスでは、神経新生が損なわれていることも見出されている(16)。
【0006】
副作用がなく、毒性の低いADを処置するための医薬の開発が求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、認知症を処置する方法であって、それを必要とする患者に、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorata、樟芝)子実体の抽出物を活性成分として投与することを含む方法を提供することである。
【0008】
別の目的において、本発明は、認知症を処置するための医薬を製造するためのベニクスノキタケ子実体の抽出物の使用を提供する。
【0009】
特に、ベニクスノキタケ子実体の抽出物は、以下、ARH003と称する皿で培養されているベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)子実体の抽出物、または以下、ARH004と称する切断木で培養されているベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)子実体の抽出物である。
【0010】
本発明の一実施例において、ベニクスノキタケ子実体の抽出物は、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)子実体の抽出物を水または有機溶媒で抽出することによって調製される。
【0011】
本発明の一特定の実施例において、ベニクスノキタケ子実体の抽出物は、
【化1】
[式中、R
1は、O、α-OHまたはβ-Hであり;R
2は、HまたはOHであり;R
3は、O、α-H、β-OAcまたはH
2であり;R
4は、HまたはOHであり;R
5は、HまたはOHであり;R
6は、COOHまたはCOO(CH
2)n-CH
3であり;nは、0~3の整数であり;R
7は、H、OHまたはOAcであり;R
8は、CH
3またはCOOHであり;点線は、単結合または二重結合を示す]
からなる群から選択される、一つまたはそれ以上の活性成分としての化合物を含む。
【0012】
本発明のいくつかの特定の実施例において、化合物は、
【化2】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸;
【化3】
の構造を有するデヒドロスルフュレン酸(dehydrosulphurenic acid)(デヒドロスルフレン酸(dehydrosulfurenic acid)とも称される);
【化4】
の構造を有する15α-アセチルデヒドロスルフュレン酸;および
【化5】
の構造を有するアントシンK、からなる群から選択される。
【0013】
他方で、本発明は、認知症を処置する方法であって、それを必要とする対象に、上記の一つまたはそれ以上の活性化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、認知症を処置するための医薬を製造するための、上記の化合物の使用を提供する。
【0015】
本発明の一実施態様において、認知症はADである。
【0016】
されなる一態様において、本発明は、Aβプラークの形成およびグリア細胞の活性化を抑制する方法であって、それを必要とする対象に、上記のベニクスノキタケ子実体の抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0017】
また、Aβプラークの形成およびグリア細胞の活性化を抑制するための医薬を製造するための、ベニクスノキタケ子実体の抽出物の使用を提供する。
【0018】
されなる一態様において、本発明は、本発明は、Aβプラークの形成およびグリア細胞の活性化を抑制する方法であって、それを必要とする対象に、一つまたはそれ以上の上記の化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、Aβプラークの形成およびグリア細胞の活性化を抑制するための医薬を製造するための、上記の化合物の使用を提供する。
【0020】
さらなる一態様において、本発明は、記憶力を向上させる方法であって、それを必要とする対象に、ベニクスノキタケ子実体の抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、記憶力を向上させるための医薬を製造するための、上記の化合物の使用を提供する。
【0022】
本発明において、本発明による抽出物または化合物は、認知症の処置、記憶障害の改善および/または記憶力の向上の効能を提供する。
【0023】
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものに過ぎず、本発明を制限するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
前述の概要、および以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むと、よりよく理解されるであろう。本発明を説明する目的で、現在好ましいとされている実施態様が図面に示されている。
【0025】
図面において、
【
図1】
図1は、皿で培養されているベニクスノキタケ子実体(ARH003)と切断木で培養されているベニクスノキタケ子実体(ARH004)の主要成分の構造の代表的な化学的フィンガープリントをそれぞれ示しており、ここで、皿で培養されている子実体(ARH003)または切断木で培養されている子実体(ARH004)のエタノール(95%)による抽出物を、HPLC分析に移し、UV 220nmでプロファイルを記録した。ARH003(上段のパネル)とARH004(下段のパネル)のHPLCクロマトグラムは、
図1に示されている。
【0026】
【
図2】
図2は、異なる性別と投与(ビヒクルまたはARH003)でのAPP/PS1マウスの体重(g)測定値を示す。APP/PS1の雄性(M)または雌性(F)マウス(3ヶ月齢)に、ビヒクル(Veh)またはARH003(A)100mg kg
-1日
-1を4ヶ月間経口投与した。ARH003投与中の体重変化を毎日検査し、ARH003は、雄性マウスでは投与の最終月に体重を有意に増加させたが、雌性マウスでは増加させなかった。Veh群とARH003群との間の有意差は、*(p<0.05)で示している。
【0027】
【
図3A】
図3Aは、amylo-glo(白色または青色)、Iba-1(赤)、GFAP(緑)の代表的な蛍光画像を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスにビヒクルとARH003を4ヶ月間経口投与した後、アミロイドプラークをamylo-gloで染色し、ミクログリアとアストロサイトをIba-1抗体とGFAP抗体でそれぞれ免疫染色した。スケールバー:1mm。
【0028】
【
図3B】
図3Bは、典型的なプラークの拡大図を示す。スケールバー:50μm。
【0029】
【
図3C】
図3Cは、投与の4ヶ月後の、ARH003を投与しなかった場合(Veh)とARH003を投与した場合(ARH003)との間の、大脳半球におけるamylo-glo染色されたプラークの数の比較を示す。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は、*(p<0.05)で示している。
【0030】
【
図3D】
図3Dは、投与の4ヶ月後の、ARH003を投与しなかった場合(Veh)と、ARH003を投与した場合(ARH003)との間の、プラークを囲む活性化アストロサイトの数の比較を示す。アストロサイトは、GFAP抗体で免疫染色された。結果は平均値±S.E.M.である。
【0031】
【
図3E】
図3Eは、投与の4ヶ月後の、ARH003を投与しなかった場合(Veh)とARH003を投与した場合(ARH003)との間の、プラークを囲む活性化ミクログリアの数の比較を示す。ミクログリアは、Iba-1抗体で免疫染色された。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は***(p<0.001)で示されている。
【0032】
【
図4A】
図4Aは、2時間および16時間での穴掘り(burrowing)タスクの結果を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と15)。穴掘りタスクは、投与後84日目に行った。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は、**(p<0.001)で示している。
【0033】
【
図4B】
図4Bは、巣作りタスクの巣作りスコアおよび巣作りタスクからの細断されていないネストレット(Nestlet)の比較を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と15)。巣作りタスクは、投与後の86日目に行われた。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は、**(p<0.001)で示している。
【0034】
【
図5A】
図5Aは、最初と最後の試験での隠しプラットフォームテストの代表的な水泳経路を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と14)。モリス水迷路が行われた。
【0035】
【
図5B】
図5Bは、訓練段階中の逃避潜時の比較を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と14)。モリス水迷路が行われた。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は、*(p<0.01);**(p<0.01);***(p<0.001)で示している。
【0036】
【
図6A】
図6Aは、プローブ試験テストにおける代表的な水泳経路を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と14)。モリス水迷路が行われた。
【0037】
【
図6B】
図6Bは、ターゲットゾーンのビジット(target-zone visit)までの潜時の比較を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と14)。モリス水迷路が行われた。結果は平均値±S.E.M.である。Veh群とARH003群との間の有意差は、***(p<0.001)で示している。
【0038】
【
図6C】
図6Cは、前者のプラットフォームの渡り時間の比較を示す。APP/PS1トランスジェニックマウスに、ビヒクル(Veh)またはARH003を経口投与した(それぞれ、n=17と14)。モリス水迷路が行われた。結果は平均値±S.E.M.である。
【0039】
(本発明の詳細な説明)
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。
【0040】
本発明は、認知症を処置する方法であって、それを必要とする患者に、ベニクスノキタケ子実体の抽出物を活性成分として投与する方法を提供する。
【0041】
ベニクスノキタケ(AC)は、台湾では「niu chang-chih」または「niu-chang-ku」と称さており、台湾固有のキノコである(17)。ACは、1773年以前から民間療法として、腱の捻挫および筋肉損傷、恐れる精神状態、インフルエンザもしくは風邪、頭痛、発熱および多くの内部関連疾患(internally affiliated diseases)に広く使用されてきた(18)。ACの異なる抽出物および化合物は、神経保護(19、20)、肝臓保護、抗高血圧、抗脂質異常、抗遺伝毒性、抗血管形成、抗微生物性、抗癌、抗炎症性、抗酸化、抗ウイルス、および免疫調節活性(21、22)を含めた、さまざまな生物学的活性を示すことが見出されている。
【0042】
特に、ベニクスノキタケ子実体の抽出物は、皿で培養されているベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)子実体の抽出物(ARH003)または切断木で培養されているベニクスノキタケ(Antrodia camphorate)子実体の抽出物(ARH004)である。
【0043】
本発明において、組成物は、認知症、特にADの処置に有効であることが証明されている。
【0044】
したがって、本発明は、認知症、特にADを処置するための医薬を製造するための抽出物、特に皿で培養されているベニクスノキタケ子実体の抽出物、すなわち、ARH003および/またはARH004の使用を提供する。
【0045】
本発明において、抽出物ARH003/ARH004は、
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、活性化合物は、
【化11】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸;
【化12】
の構造を有する、(デヒドロスルフレン酸(dehydrosulfurenic acid)とも称する)デヒドロスルフュレン酸(dehydrosulphurenic acid);
【化13】
の構造を有する15α-アセチルデヒドロスルフュレン酸;または
【化14】
の構造を有するアントシンKである。
【0047】
したがって、本発明は、認知症を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の上記の活性化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0048】
本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、そのような量を投与されていない対応する対象と比較して、疾患、障害もしくは副作用の処置、治癒、予防または改善、あるいは疾患または障害の進行速度の低下に有効な医薬品の量を意味する。また、この用語は、その範囲内に、正常な生理学的機能を高めるのに有効な量も含む。
【0049】
治療に使用する場合、治療有効量の化合物は、投与のための医薬組成物に製剤化される。したがって、本発明は、ARH003および/またはARH004の治療有効量ならびに一つまたはそれ以上の薬学的に許容できる担体をさらに含む医薬組成物を提供する。
【0050】
本明細書で使用される用語「製薬的に許容できる担体」とは、製剤の他の成分と互換性があり、医薬組成物を投与される対象に有害でない意味で許容できる担体、希釈剤または賦形剤を意味する。この分野で一般的に知られている、あるいは使用されているあらゆる担体、希釈剤または賦形剤は、医薬製剤の要求に応じて本発明で使用され得る。
【0051】
本発明によれば、医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、局所、膣または非経腸経路を含むがこれらに限定されない、いずれかの適切な経路による投与に適合させることができる。本発明の一特定の例において、医薬組成物は経口投与に製剤化される。このような製剤は、薬学の分野で知られているいずれかの方法によって調製できる。
【0052】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されますが、これらの実施例は、限定ではなく実証の目的で提供される。
【実施例】
【0053】
材料および方法
1.材料
BrdU、ギ酸およびThioflavin Sは、Sigma-Aldrich(St Louis, MO, USA)から購入した。一般的な化学製品は、Sigma-Aldrich(St Louis, MO, USA)またはMerck(Darmstadt, Germany)から購入した。
【0054】
2.ベニクスノキタケ子実体の抽出(ARH003およびARH004の調製)
ARH003は、皿で培養されているベニクスノキタケから調製した。子実体(300g)およびARH004は、切断木で培養されているベニクスノキタケ(ARH004)から調製した。子実体を、95%エタノールで熱還流した。エタノール溶液を真空に濃縮し、褐色の抽出物(60g)を得た。
【0055】
3.管理および投与
国家中医学研究所の機関内動物保護および使用委員会承認の動物プロトコール(IACUC No:106-417-4)。動物とその保護に関するすべての実験操作は、米国国立衛生研究所(United States National Institutes of Health, NIH)により発行された実験動物のケアと使用に関するガイドに従って実施した。APP/PS1は、Jackson試験室(No.005864)から購入した。飼育の性比は、一つのケージに1匹の雄性と2匹の雌性であった。野生型のシブリング(sibling)マウスとADトランスジェニックの雌性C57BL/6Jマウスを用いて実験を行った。動物は、室温(24±1℃)および湿度(55~65%)、12:12時間(07:00~19:00)の明暗周期下で管理された環境で飼育した。すべての動物実験操作は、実験動物の保護と使用に関するガイド(NIH)に基づいて実施した。APP/PS1は、Jackson試験室(No.005864)から購入した。雌性トランスジェニックマウスおよび雄性野生型のシブリングを用いて飼育した。動物は、温度(24±1℃)および湿度(55~65%)下で飼育した。明暗周期は、12:12時間(07:00~19:00)にした。すべてのマウスに、市販の齧歯類用の普通の餌、および自由引水を提供した。治療効果を研究するために、3ヶ月齢の雄性および雌性のAPP/PS1マウスの両方に、ビヒクル(n=7 雄性およびn=8 雌性)またはARH003もしくはARH004(100mg kg-1日-1、n=7 雄性およびn=10 雌性)を4ヶ月間経口胃管栄養法(oral gavage)で投与した。
【0056】
4.組織処理
マウスを、麻酔をかけた後、経心食塩水の灌流で犠牲にした。マウスの脳を摘出し、4℃下、4%ホルムアルデヒドに一晩浸し、凍結保護した。続いて、脳組織を30μmの厚さに切った。各脳において、頭蓋骨の前項を大体-1.58から-1.82に跨る3枚のスライドを、染色と分析に使用した。
【0057】
5.Amylo-Glo染色
線維性アミロイドの染色は、メーカー(Biosensis Inc., Thebarton, South Australia)の説明に従ってAmylo-Gloを用いて行った
【0058】
6.免疫組織化学
先に述べたように、免疫組織化学を行った(39)。簡単に説明すると、切片を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、3%正常ロバ血清、0.3%Triton X-100を含有するリン酸緩衝化食塩水(PBS)で1時間ブロックした。その後、4℃下で以下の物質を含有するPBS中でインキュベートした:1%BSA、1%正常ロバ血清、0.3%Triton X-100、ならびにAβ1-16に対するマウスモノクローナル抗体(AB10, Millipore, MAB5208, 2757889)、およびグリア線維酸性タンパク質に対するウスモノクローナル抗体(GFAP, Millipore, MAB5804, 1990686)を含む一次抗体;ならびに抗イオン化カルシウム結合アダプター分子-1(Iba-1)抗体に対するヤギポリクローナル抗体(abcam, ab5076, GR268568-3)。続いて、切片を室温で、Hoechst33258(Invitrogen, 2μg ml-1)、フルオレセインイソチオシアネートまたはrhodamine red X(RRX)共役ロバ抗マウスIgG、RRX共役ロバ抗ウサギIgGまたはAlexa Fluor 647共役ロバ抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch, 705-605-147)を含有する抗体希釈緩衝液中で2時間インキュベートした。0.01%Triton X-100を含有するPBSで洗浄した後、切片をAqua Poly/Mount(Polyscience Inc., Warrington, PA, USA)にはめ込み、Zeiss LSM 780共焦点顕微鏡(Jena, Germany)を用いて顕微鏡的分析を行った。体表的な共焦点画像は、最大投射で10μm深さであった。ImageJソフトウェアを用いてアミロイドプラークの定量化を行った。総面積に対するAB10-反応性またはThS陽性面積の比によってアミロイドプラークの負荷を計算した。
【0059】
7.穴掘り(Burrowing)テストおよび巣作りテスト
マウスを、70日間の強制経口投与後、前記のように(46)、穴掘りテストの評価を行い、若干の補正を加えた。要するに、70日目に群ケージで練習を行い、77日目と80日目には個別テストを行った。マウスを、薄層の床敷を備えた新しいケージで飼育し、続いて翌日の16:00時に餌ペレット230gを含むシリンダーをケージに入れた。最後に、2時間後と一晩後にシリンダー内に残った餌ペレットの重量を測定した。2回目の個別テストでは、餌ペレットに対する穴掘りにおける2時の測定を結果に示した。
【0060】
穴掘りテストの一日後に、前記のように巣作りテストを行った(35)。要するに、暗サイクルの1時間前に2つのネストレット(5g)をケージに入れ、続いて、一晩後に巣作りスコアと細断されていないネストレットの重量を測定した。6段階の尺度を用いて巣の構造について採点した(40)。スコア0はネストレットが乱されていないこと、1はネストレットが乱されたが、巣材がケージ内の巣作り位置に集まっていないこと、2は平たい巣(flat nest)、3はカップの巣(cup nest)、4は不完全なドーム、5は完全で密閉されたドーム、を指す。
【0061】
8.モリス水迷路テスト
90日間の処理後、前記のように(41,42)、モリス水迷路(MWM)テストを用いて空間記憶パホーマンスを評価し、若干の修正を加えた。要するに、水迷路装置は、直径120cm、深さ40cmの円形プールからなっており、プラットフォーム(直径10cm)を覆うように水(温度22~24℃)を20cmの高さまで入れた。無毒の白色の塗料を追加することにより、プラットフォームを不透明な水の表面から1cm下に沈ませた。記述的なデータ収集について、プールを四つの等しい象限概念的に分けた。コンピューター化ビデオ画像解析システム(Ethovision, Noldus Information Technology Inc, USA)を用いて、迷路の白色の背景における黒色のマウスの水泳経路を記録した。
【0062】
空間記憶テストを行い、マウスの空間記憶パホーマンスを研究した。全てのマウスをMWMで6日間訓練させた。プラットフォームは、始終南西方向の中央に設置した。マウスをそれぞれ、1日に4回の試験でプラットフォームを見つけるように訓練させ、試験間の間隔は20分であった。各試験において、セミ・ランダム・スケジュールに従って、マウスをプールの壁に面した、水中の3つの固定位置のうち1つに静かに降ろした。マウスが60秒以内に成功しなかった場合は、それをプラットフォームまで助けた。各試験の終了時に、マウスを、プラットフォームを見つけたかどうかにかかわらず、30秒間プラットフォーム上に留まることを許容した。各試験において、プラットフォームを見つける逃避潜時を測定し、4試験にわたって平均値取った。
【0063】
空間プローブテストを行い、記憶の程度を評価した(43)。標的象限で費やされた時間は、訓練期間中の学習後に得られた記憶の程度を表している。6日間の習得訓練後の翌日に、90秒プローブ試験(一回の試験はプラットフォームなし)を評価した。マウスを、開始位置から、プール中の前のプラットフォーム象限の反対側の象限の位置に配置した。マウスが前のプラットフォームの位置を横断した回数と、前のプラットフォームの象限で費やした時間を90秒間記録した。MWMのプローブ試験バージョンで、中央ゾーンと外縁ゾーンで費やされた時間の百分比を考察した。外縁ゾーンは、壁と壁から10cm離れている円の間の領域と定義されている(44)。
【0064】
9.統計分析
結果は平均値±平均標準誤差(SEM)で表し、GraphPad Prism 5ソフトウェアを用いて統計分析処理した。パラメトリックなデータは、対になっていない両側スチューデントのt検定(unpaired two-tailed Student's t-test)、または一元配置分散分析(ANOVA)とpost-hoc Bonferroni's多重比較検定によってパラメトリックデータを分析した。Kruskal-Wallis ANOVAとその後のpost hoc Dunnett's多重比較検定を用いて、MWM試験でのプラットフォームの横断時間、穴掘りテストにおける餌ペレットの量、巣作りテストにおける巣作りスコアなどのノンパラメトリックデータを分析した。
【0065】
実施例1
HPLCクロマトグラフィーを用いてARH003およびARH004の分子特性を決定
本研究で用いられたベニクスノキタケ子実体は、クスノキ属牛楠(Cinnamomum kanehirae)木で栽培されたベニクスノキタケ子実体と高い植物相類似性指数(phytomic similarity index)を有する皿で培養されている(ARH003)である(Chung et al, 2016)。この類似性を確認するために、HPLCクロマトグラフィーを用いて、皿で培養されているベニクスノキタケ(ARH003)と切断木で培養されているベニクスノキタケ(ARH004)との成分を比較した(
図1)。
【0066】
実施例2
ARH003は、APP/PS1マウスの大脳中のAβプラークを減少させた。
6ヶ月齢のAPP/PS1マウスでプラークが見られることは十分に確立されている(23)。したがって、3ヶ月齢のAPP/PS1雄雌または雌性マウスに、ビヒクルまたは100mg kg
-1日
-1のARH003を4ヶ月間経口投与し、Aβプラークの沈着(deposition)とグリア細胞の活性化に対するARH003の効果を研究した。ARH003投与中の体重変化を調査したところ、雄性マウスでは投与最終月にARH003が体重を有意に増加させたが、雌性マウスでは増加させなかった(
図2)。
【0067】
実施例3
ARH003は、APP/PS1マウスの大脳中のグリア集団(glial cluster)を有するプラークの数を減少させる。
グリア集団を有するプラークの数に対するARH003の効果を評価した。APP/PS1トランスジェニックマウスの大脳中のグリア集団を有するプラークを判定するために、Amylo-glo染色、Iba-1およびGFAP免疫染色によって、Aβプラーク、ミクログリアおよびアストロサイトをそれぞれ検査した。その結果、ARH003で処置後、グリア集団を有するプラークの数が減少することがわかった(
図3A~3E)。
【0068】
実施例4
ARH003は、APP/PS1マウスの認知低下を回復させた。
穴掘り行動や巣作り行動は、脳の幅広い領域に作用し、これまでADトランスジェニックマウスのADLスキルの評価に応用されてきた。本研究では、3ヶ月齢のAPP/PS1マウスにARH003(100mg kg
-1日)を114日間経口投与した。続いて、経口投与後84日目および86日目に穴掘りおよび巣作りのタスクを開始した(
図4A)。APP/PS1マウスでは、自然発症穴掘り行動に欠陥が見られたが、ARH003を投与することで有意に回復した。APP/PS1マウスはまた、巣作りスコアと細断されていないネストレットによって評価された巣作り行動に欠陥が見られた。ARH003の投与により、障害された巣作り行動が有意に回復した(
図4B)。
【0069】
MWMタスクでは、APP/PS1マウスは訓練段階中、隠れたプラットフォームを見つけるまでの逃避潜時が長くなり、これは、APP/PS1マウスが7ヶ月齢で空間学習機能障害を現すことを示唆する。この明らかな機能障害は、ARH003の処理によって有意に回復した(
図5A~5B)。二元配置反復測定(Two-way repeated measurement)ANOVA分析では、プラットフォームを見つけるまでの逃避潜時について、群と訓練日数の間の交互作用を確認した。訓練日数間、群間、対象間で有意差がある。Bonferroni posttestsでは、訓練3日目~6日目でビヒクルとARH003群との間で有意差がある。
【0070】
プローブ試験では、APP/PS1マウスは、水泳速度に影響を与えることなく、標的ゾーンに到達するまでの潜時と標的ゾーンでの渡り時間が短縮された(
図6A~6C)(データなし)。この場合も、ARH003の処理によって、この機能障害が有意に回復した。
【0071】
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