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特表2022-511791抗菌剤含有シリコーン潤滑性コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】抗菌剤含有シリコーン潤滑性コーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20220125BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220125BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20220125BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220125BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220125BHJP
   A61L 29/00 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/63
C09D5/14
C09D7/62
C09D7/20
A61L29/00
A61L29/08 100
A61L29/16
A61L31/10
A61L31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530893
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 IB2019060235
(87)【国際公開番号】W WO2020110034
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】62/773,102
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 151, U.S. Route 22, Somerville, NJ 08876, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オウ・デュアン・リ
(72)【発明者】
【氏名】チチョッキ・ジュニア・フランク・アール
【テーマコード(参考)】
4C081
4J038
【Fターム(参考)】
4C081AC02
4C081AC08
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA272
4C081CE01
4J038DL031
4J038DL101
4J038GA01
4J038HA446
4J038JA09
4J038JA64
4J038JC38
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA27
4J038PA19
4J038PB01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J038PC10
4J038RA14
(57)【要約】
医療用具用の新規潤滑性抗菌コーティングを開示する。コーティングは、改善された潤滑性及び耐久性を提供し、用具を変形させず、抗菌剤の抗菌効果を保持する低温におけるコーティングプロセスで容易に塗布される。また、本発明は、このようなコーティングにおいて用いるための新規白金触媒を目的とする。触媒は、周囲温度における架橋を阻害しながら急速硬化を提供することにより、コーティングの生産可使時間を改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性シリコーンコーティングでコーティングされた医療用具であって、
表面を有する医療用具と、
前記表面の少なくとも一部上の潤滑性シリコーンコーティングであって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
任意選択で、シリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、
抗菌剤、及び
触媒、を含むコーティング組成物から形成されている、潤滑性シリコーンコーティングと、を含み、前記触媒が、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、医療用具。
【請求項2】
前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル末端ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びビニル末端ポリジエチルシロキサンからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項4】
前記抗菌剤が、トリクロサン、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、オクテニジン、及び銀からなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項5】
前記抗菌剤が、トリクロサンである、請求項1に記載の医療用具。
【請求項6】
前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、及びポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項7】
前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサンを含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項8】
前記シリカ含有組成物が、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤を含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項9】
前記シリカ含有組成物が、HCR(高一貫性ゴム)ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む、市販の反応性シリカ含有シリコーンベースから選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項10】
前記シリカ含有組成物が、液体シリコーンゴムベースである、請求項9に記載の医療用具。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約20重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項12】
前記コーティング溶液が、約1~40重量%(全固形分)のトリクロサン抗菌剤を含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項13】
前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.2重量%~約1.8重量%の前記シリコーン架橋剤を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項14】
前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.0004重量%~約0.0036重量%の白金触媒を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項15】
前記コーティング組成物が、キシレン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、高分子量オレフィンの混合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項16】
前記医療用具が、ステンレス鋼、PTFE、ガラス、セラミクス、ポリマー、高融点金属合金、記憶合金、並びに金属及び非金属の複合材からなる群から選択される生体適合性材料を含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項17】
前記医療用具が、外科用縫合針、縫合糸、皮下針、外科用メス、カテーテル、切刃、外科用プローブ、内視鏡、ハサミ、及び切刃からなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項18】
前記医療用具が、外科用縫合糸を含む、請求項17に記載の医療用具。
【請求項19】
前記コーティングが、非架橋性シロキサンを更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項20】
前記非架橋性シロキサンが、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサンである、請求項19に記載の医療用具。
【請求項21】
コーティング組成物であって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
任意選択で、シリカ含有組成物、
任意選択で、非架橋性シロキサン、
シリコーン架橋剤、
抗菌剤、及び
触媒、を含み、前記触媒が、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、コーティング組成物。
【請求項22】
前記組成物が、約70℃を超える温度で硬化可能である、請求項21に記載のコーティング組成物。
【請求項23】
前記組成物が、約95℃の温度において約2分で硬化可能である、請求項22に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年11月29日出願の米国仮出願第62/773,102号の利益を主張し、全ての目的のためにその内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本出願は、全ての目的のためにそれぞれの内容全体が参照により本明細書に援用される、本出願と同時に出願された同一出願人によるPCT出願第________号(代理人整理番号ETH6057WOPCT1)に関する。
【0003】
(発明の分野)
本発明の属する技術分野は、抗菌剤含有シリコーン系潤滑性コーティング、具体的には、抗菌剤を含む医療用具において使用するためのシリコーン系潤滑性コーティングである。
【背景技術】
【0004】
潤滑性コーティングは、典型的には、組織に接触する縫合糸、皮下針、外科用縫合針、カテーテル、及び切開用具などの埋め込み可能な又は挿入可能な医療用具に必要である。このようなコーティングの主な目的は、装置の組織への刺入及び挿入を容易にして、手技を補助することである。
【0005】
このような用途のために従来の生体適合性潤滑剤が多数開発されており、これらは、典型的には、シリコーン(例えば、ポリジメチルシロキサン)又はシリコーン含有コーティングである。例えば、縮合硬化シリコーンコーティングは、医療用具において潤滑性コーティングとして有用であることが知られている。このようなコーティング配合物は、アミノ及びアルコキシル官能基を含有しており、これらは、比較的低い温度及び高い湿度レベルで硬化(架橋)し得る。また、注射針用の潤滑性コーティングとしてアミノプロピル含有シリコーンを用いることも知られている。これらコーティングは、架橋剤としてエポキシ含有シリコーンを用い、複数の刺入において改善された刺入性能を有する場合がある。また、得られるコーティング層の機械的特性を改善するために、シリコーン溶液のブレンドにおいて(例えば、粉末形態の)ポリプロピレンなどの熱可塑性ポリマーを利用することも知られている。ポリプロピレン粉末は、潤滑性を犠牲にすることなくシリコーン針コーティングの耐久性を高める場合がある。上に列挙した既知であり、かつ従来用いられているシリコーンコーティングの大部分は、塗布後に長い熱硬化工程が必要であり、これは、かなり多くの場合、迅速な高速生産プロセスには不適切である。
【0006】
紫外線曝露後に、針などの医療用において急速に(<10秒)に硬化し得る急速紫外線硬化性シリコーン潤滑性コーティングを含む、コーティングの硬化時間を改善するための試みが行われている。しかし、このようなコーティングに典型的に含有されている特定の紫外線硬化性成分の潜在的危険性が懸念の原因となることもある。
【0007】
GE SiliconeのKarstedtは、1970年代始めにヒドロシリル化用高活性白金触媒を発明した(米国特許第3,775,452号)。この「Karstedt触媒」は、周囲温度で高活性であり、この性質のために、阻害剤を添加することなく大部分の市販のシリコーンコーティングで使用することが困難である。その後、この問題に対処しようと試みる幾つかの他の白金触媒が発明された。例えば、カールシュテット触媒の発明直後に白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体が作製され(米国特許第3,814,730号)、この触媒は、ビニル/ヒドリド反応性コーティング溶液混合物の生産プロセス可使時間を延長することを目的とする。これらの各触媒は、シリコーンコーティング業界で依然として一般的に用いられている。
【0008】
同一出願人による米国特許第9,434,857号及び同第10,441,947号は、医療用具のための新規潤滑性コーティングについて記載している。このコーティングは、改善された潤滑性及び耐久性を提供し、従来のコーティングプロセスで容易に塗布される。これら特許は、また、このようなコーティングにおいて用いるための新規白金触媒を目的とする。触媒は、周囲温度における架橋を阻害しながら急速硬化を提供して、コーティングの生産可使時間を改善する。このような組成物の制約は、コーティングを形成するために硬化される組成物に必要な高温(例えば、160℃超)に起因して変形するであろう又はコーティング組成物で使用される抗菌剤の効果に影響を与えるであろうポリマー材料のコーティングには適していないことである。
【0009】
外科用縫合針及び縫合糸などの医療用具において有用であるためには、潤滑性シリコーンコーティングは、耐久性がありかつ均一でばらつきなく塗布するのが容易であることが重要である。縫合糸で組織を接近させたり閉じたりする外科用手技では、典型的には、外科用縫合針及び縫合糸が組織を複数回通過することが必要である。組織を複数回通過する際に刺入が容易であると外科医の作業が容易になり、また、組織の修復又は閉鎖がうまくいく可能性が高くなる。患者は、治癒及び優れた予後の促進だけではなく、手技が早いことによっても、創傷又は切開部が環境中の病原体に曝露される可能性のある時間が短くなり、また、麻酔が必要な場合は患者が全身麻酔下にある必要のある期間が短くなるという利益を享受する。
【0010】
外科用縫合針などのいくつかの医療用具は、典型的には、高速生産プロセスで製造される。例えば、参照により援用される米国特許第5,776,268号には、このようなプロセスが開示されている。針を(典型的には、ワイヤ原料から)形成及び成形した後、プロセス過程の針を洗浄し、浸漬、噴霧、ブラッシング等の従来の方法によって針を潤滑性コーティングでコーティングする。コーティングを均一に塗布して針の外面を実質的にコーティングした後、次いで、シリコーンコーティングを硬化させるエネルギー(例えば、熱)が供給されるコーティング硬化プロセスのための適切な硬化設備(例えば、オーブン)に針を移動させる。
【0011】
シリコーンコーティングは、典型的には、シリコーンポリマー成分と好適な触媒及び溶媒とを混合することによって製造現場で調製される。このようなコーティング及び触媒は、特に、医療用具で使用するための医療等級である場合、高価であり、典型的には、この分野で「可使時間」が短いと従来知られているものを有している。可使時間という用語は、当該技術分野において従来から使用されている通り、シリコーンコーティングが触媒と混合され、コーティングプロセスで塗布する準備が整っている場合、典型的には、生産施設における周囲条件で架橋が生じるために、有用である時間の量が限られていることを意味する。このように可使時間が短いと、例えば、早期硬化を含む多数の既知の問題が生じる可能性があり、その使用時間中のコーティング溶液の粘度が増加につながる。これは、通常、医療用具の表面上に得られるコーティングにばらつきを生じさせるので、視覚的にも性能的にも欠陥が生じる。
【0012】
この分野では、改善された潤滑性及び複数回の組織通過に対する耐久性を有する医療用具用の改善されたシリコーンコーティングが必要とされている。また、潤滑性及び耐久性を犠牲にすることなく改善された硬化時間を有し、潜在的に有害な成分を含有せず、縫合糸及び他のポリマー用具などのコーティングされる用具を変形させずかつ抗菌剤の抗菌活性を保持する条件下で塗布することができる、改善された触媒組成物及びシリコーンコーティングも必要とされている。
【0013】
更に、当該技術分野では、熱に曝露されたときに急速に硬化するが、周囲条件では経時的に、また通常の生産環境では長期間にわたって、シリコーンコーティング溶液中で比較的安定である、シリコーンコーティング用の改善された触媒が必要とされている。
【0014】
また、手術部位感染を予防するために、縫合糸などの医療用具上に抗菌剤を送達することも必要とされている。医療用具にトリクロサンを送達するためのビヒクルとして、抗菌剤のための異なる担体が本発明の開示において提案されている。
【0015】
現在の標準治療は、縫合糸をトリクロサンでコーティング又は含浸させることを伴う。トリクロサンを縫合糸に組み込むことは非常に有利であるが、対処する必要があるいくつかのプロセス上の課題がある。第1に、一部の縫合糸はトリクロサンでは容易にコーティングされず、トリクロサンを容易には吸収しない。次いで、様々な縫合糸コーティングを利用して、これらのコーティング中にトリクロサンを組み込むことができる。縫合糸へのこのようなコーティングの均一な適用は、技術的に困難であり得る。
【0016】
第2に、トリクロサンは、いくらか遅延して非吸収性縫合糸から放出される必要があり、一方、シリコーンは、制御放出のための良好な候補である。
【0017】
縫合糸以外の広範囲にわたる医療用具上に抗菌剤を送達する必要があり、シリコーンは、その汎用性並びに多くの異なるサイズ及び形状に変換される能力から、これらの剤に対するビヒクルとして良好な候補である。これらの医療用具のいくつかの例としては、Blake(登録商標)ドレイン、ステンレス鋼製縫合糸、整形外科用ねじ及びピン等が挙げられるが、これらに限定されない。トリクロサンは、これらの医療用具の非吸収性表面に吸収されることが困難である。
【0018】
本発明の提案するシリコーン材料は、比較的低温(70~110℃)で架橋する。このような穏和な硬化条件下では、トリクロサンなどの活性抗菌成分は、シリコーンのマトリクス中に残留し、分解も蒸発もしない。
【0019】
本発明のトリクロサン含有シリコーン組成物で多種多様な医療用具をコーティングし、得られたコーティングされた用具の抗菌効果を評価したところ、これは、処理された用具の周囲に、選択された細菌に対する阻止帯を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、新規組成物及び潤滑性シリコーンコーティング組成物について開示する。
【0021】
一実施形態では、コーティング組成物は、反応性官能基を有する第1の架橋性シリコーンポリマー、シロキサン架橋剤、及び抗菌剤を含有する。縫合糸をコーティングする場合、シリカ含有組成物を別個の成分として添加してもよいが、より好ましくは、シリカは架橋性シリコーンポリマーに含有されている。また、コーティング組成物は、白金触媒を含有し得る。
【0022】
本発明の別の態様は、表面を有する医療用具であって、表面の少なくとも一部が上記新規シリコーンコーティング組成物でコーティングされている、医療用具である。
【0023】
本発明の更に別の態様は、シリコーン潤滑性コーティング組成物による医療用具のコーティング方法である。医療用具をコーティングする新規方法では、表面を有する医療用具を提供する。潤滑性シリコーンコーティングは、表面の少なくとも一部に塗布される。コーティング組成物は、架橋性シリコーンポリマー、及び縫合糸の場合又はトリクロサン用のリザーバの場合は、別個の成分として添加してもよいシリカ含有組成物を含有するが、より好ましくは、シリカ成分は、架橋性シリコーンポリマーに含有されている。また、コーティングは、シリコーン架橋剤及び触媒も含有する。特定の実施形態では、コーティング溶液は、金属成分を含有する医療用具をコーティングするため又はシリコーンドレインのためのコーティング組成物のようにシリカ含有組成物を含有せず、これらの実施形態では、非架橋性シリコーンポリマーは、好ましくは、架橋性シリコーンポリマーに添加される。
【0024】
本発明のなお更に別の態様は、抗菌剤を含有する架橋性シリコーンコーティングと共に使用するための新規白金触媒である。触媒は、以下の式:Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)を有する白金錯体からなる。
【0025】
本発明の更なる態様は、上記触媒を用いて架橋性シリコーンポリマー含有コーティング溶液を硬化させる方法である。
【0026】
本発明のこれら及び他の態様及び利点は、以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の新規抗菌コーティングの一実施形態でコーティングされた試験物品のうちの1つの阻止帯の写真である。
図2】本発明の新規抗菌コーティングの別の実施形態でコーティングされた試験物品のうちの1つの阻止帯の写真である。
図3】実施例6aの加熱プロファイルの描写である。
図4】本発明の新規抗菌コーティングの別の実施形態で処理された試験物品のうちの1つの阻止帯の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
シリコーン及びシロキサンという用語は、この分野で従来互換的に使用されており、その使用法が本明細書で採用されている。更に、本明細書で使用するとき、用語「周囲温度」は、約20~約25℃の温度を説明することを意図する。
【0029】
潤滑性コーティング組成物
本発明の一態様は、外科用縫合針及び縫合糸及び他のポリマー医療用具などの医療用具の表面をコーティングするのに特に有用な新規潤滑性シリコーンコーティング組成物を目的とする。
【0030】
一実施形態では、組成物は、架橋性シロキサンポリマー及び抗菌剤の混合物、従来のシリコーン架橋剤、並びに白金触媒を含む。シリコーンポリマー成分は、コーティング溶液又は組成物を形成するために、例えば、キシレンを含む従来の芳香族有機溶媒及び脂肪族有機溶媒(例えば、ヘキサン又はその商業的誘導体など)とブレンドされる。コーティング溶液に好適な他の溶媒としては、低分子量シロキサン、例えば、ヘキサメチルジシロキサンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明のコーティング組成物において有用な架橋性シロキサンポリマーは、ビニル末端、ヒドロキシル及びアクリレート官能基を含むが、これらに限定されない反応性官能基又は末端官能基を有する。本発明の潤滑性コーティングで用いることができる架橋性シロキサンポリマーは、好ましくは、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン又はビニル末端ポリアルコアリールシロキサンを含む。例としては、以下のビニル末端シロキサンポリマー:ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びポリジエチルシロキサンが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル末端架橋性ポリメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。
【0032】
本発明のコーティングで用いることができる架橋剤としては、従来のシリコーン架橋剤、例えば、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンが挙げられる。本発明のコーティングで用いるための1つの好ましい従来の触媒は、ポリメチルヒドロシロキサンである。本発明のコーティングにおける架橋密度の正確な制御は、非架橋性シリコーンポリマー(例えば、ポリジメチルシロキサン)の全架橋ポリマーに対する比を正確に制御することによって達成される。全架橋ポリマーは、任意選択で、白金錯体触媒の存在下における、官能化架橋性ポリマーと架橋剤との反応、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサンとポリメチルヒドロシロキサンとのビニルシリル化反応によって形成される。非架橋性ポリマー、例えば、ポリジメチルシロキサンと、全架橋ポリマーとの比は、得られる相互貫入ポリマー網目構造を構造的に強化するのに十分有効であり、典型的に、約0.1wt./wt.~約9wt./wt.、好ましくは約0.43wt./wt.~約2.33wt./wt.である。本発明のコーティングにおいて有用なビニル末端架橋性ベースポリマー、例えば、ポリジメチルシロキサンベースポリマーは、約10,000~約500,000、好ましくは約50,000~約250,000の分子量(Mw)を有する。このポリマーの例としては、Gelest,Inc.(Morrisville,Pa.19067)から入手可能なGelest製品コード番号DMS-V51、DMS-V52、DMS-V61、DMS-V71などが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル末端ポリジメチルジシロキサンの典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0033】
【化1】
式中、nは、分子量によって定義される。
【0034】
本明細書で使用されるシリコーンポリマーの分子量は、粘度と分子量との間の関係に基づいて推定することができる(page 11,SILICONE FLUIDS:STABLE,INERT MEDIA ENGINEERING AND DESIGN PROPERTIES,Catalog published by Gelest,Inc.11 East Steel Rd.Morrisville,PA 19067)。25℃におけるセンチストークス(cSt)で表される動粘度μに相関する分子量(M)>2,500についてはA.J.Barryの関係式を用いて、シリコーンの分子量Mを以下のように推定することができる:
log μcSt=1.00+0.0123M0.5
(Journal of Applied Physics 17,1020(1946)にA.J.Barryによって公開)。
【0035】
架橋性シロキサンポリマーは、医療用具の表面上にコーティングのマトリクス相を形成する。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、適切な条件下において白金触媒の存在下でポリメチルヒドロシロキサン架橋剤と反応し、ビニル末端ポリジメチルシロキサン直鎖ポリマーは、この反応の結果として、互いに完全に架橋される。ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤の量は、ビニル末端ポリジメチルシロキサンベースポリマーに比べて大きく化学量論的に過剰である。架橋剤中の余分なSiH官能基は、医療用具、例えばポリマー縫合糸の表面上のOH官能基と反応して、高温でSi-O-C結合を形成するか、又はスチール製の針の場合はSi-O-Fe結合を形成すると考えられる。シリコーンコーティングと用具との間にこのようにして生じる共有結合は、この反応の結果として、用具の表面にコーティングを接着的に付着させる。
【0036】
本発明の実施において用いられるポリメチルヒドロシロキサン架橋剤又は架橋剤は、約1000~約3000、好ましくは約1400~約2100の分子量(Mw)を有する。
【0037】
このポリマー架橋剤の例としては、Gelest,Inc.(Morrisville,Pa.19607)から入手可能なGelest製品コード番号HMS-991、HMS-992が挙げられるが、これらに限定されない。ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤の典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0038】
【化2】
式中、nは、分子量によって定義される。
【0039】
また、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサンを、本発明の新規コーティングにおいて架橋剤として用いることもできる。このポリマーの例としては、Gelest製品コード番号HMS-301、HMS-501が挙げられるが、これらに限定されない。このシロキサンポリマー架橋剤の分子量は、典型的に、約900~約5,000、好ましくは約1,200~約3,000である。ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン架橋剤の典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0040】
【化3】
式中、n及びmは、分子量によって定義される。
【0041】
本発明の潤滑性コーティングのいくつかの実施形態において用いられる非架橋性シロキサンは、好ましくは、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサンであり、これは、直鎖状高分子量ポリジメチルシロキサンポリマーであり、反応性官能基を含有しない。このポリマーは、得られるシリコーンコーティングにおいて非架橋相を提供し、架橋した架橋性シロキサンから作製されるマトリクス相に分散すると考えられる。このポリマーの重量平均分子量は、典型的には、約260,000~約10,000,000、好ましくは約400,000~約700,000である。このポリマーの例としては、Gelest製品コード番号DMS-D-56、DMS-T62、DMS-T61、DMS-D72などが挙げられるが、これらに限定されない。非架橋性シロキサンポリマーの典型的な分子構造を以下に示す:
【0042】
【化4】
式中、nは、分子量によって定義される。
【0043】
シリカ含有組成物
本明細書で使用するとき、本発明との使用について記載されるシリカ含有組成物は、別個の成分(表面処理シリカなど)としての、又は架橋性シリコーンポリマー混合物中にシリカを含有する市販の組成物からのシリカ材料を含む。
【0044】
別個の成分としては、シリカを本発明のコーティングに組み込んで、その機械的特性を改善し、何らかの形態の摩擦を生じさせて、縫合糸の結び目のセキュリティを確保する。コーティング溶液中の相分離を防止するポリシロキサンポリマーマトリクスへの相溶性を可能にするために、シリカ充填剤にはヘキサメチルシリル表面処理が必要である。処理されるシリカの例としては、ヘキサメチルジシラザン処理シリカ、すなわち、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤(Gelest SIS6962.0)が挙げられる。
【0045】
既にシリカを含有するシリコーンポリマーの場合、これらは、HCR(高一貫性ゴム)ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む反応性シリカ含有シリコーンベースから選択されるシリカ含有組成物などの市販の原料から得ることができ、LSRベースが好ましい。この材料の他の市販例としては、Wacker 401-10、401-20、401-40ベース、及び液体シリコーンゴムベースが挙げられるが、これらに限定されず、この材料の市販例としては、Bluestar Silbione LSR 4370ベースが挙げられるが、これに限定されない。これらの種類の市販のシリコーンゴムベースは、表面処理シリカ充填剤を、様々な分子量のビニル末端ポリジメチルシロキサンポリマーと混合することによって調製される。充填剤とポリシロキサンポリマーとの間の相溶性を改善するために、混合プロセス中にその場で表面処理が行われてもよい。
【0046】
抗菌剤
好適な抗菌剤は、コーティング組成物のポリマーマトリクス全体にわたって均一に分布することができるものであり得る。例えば、抗菌剤は、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、オクテニジン、銀粒子、トリクロサン等を含む、抗生物質又は抗菌機能を有する任意の薬剤であってよい。一形態では、抗菌剤に対して高い親和性を有する材料の粒子は、ポリマーマトリクス全体に分布することができる。例えば、ポリカプロラクトン、及びポリカプロラクトンに基づくコポリマーは、トリクロサンに対して高い親和性を有することが知られている。したがって、トリクロサンが抗菌剤として選択される場合、ポリカプロラクトンの(コ)ポリマーの粒子を磨耗性コーティング中に含めることができる。本発明の使用において好ましい抗菌剤はトリクロサンである。好ましくは、コーティング組成物中のトリクロサンの重量%は、約1~40重量%(全固形分に対して)、より好ましくは約3~約30重量%、最も好ましくは約5~20重量%である。
【0047】
触媒
GE SiliconeのBruce Karstedtは、1970年始めに高活性白金触媒(「カールシュテット触媒」)を発明した(米国特許第3,775,452号)。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、わずか10ppmのKarstedt触媒を用いて、周囲温度において1分未満でポリメチルヒドロシロキサン架橋剤と反応し得る。典型的には、触媒活性が高いことから従来の針及び縫合糸の製造プロセスにおいてこの触媒を使用することは困難であるか又は不可能であるが、その理由は、従来の生産プロセスの経済的側面から、理想的に、そして、典型的には、全触媒シリコーンコーティング溶液の場合は最長8時間の可使時間が必要とされるためである。この問題に対処するために本発明の新規速硬性白金触媒が開発され、本発明の架橋性シリコーンポリマー、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサン及びポリメチルヒドロシロキサン、シリカ充填剤とこの新規触媒とから得られる混合物は、約8時間超にわたって周囲温度で安定であり得る。本発明の新規触媒の存在下における、架橋性シリコーンポリマーと架橋剤、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサン及びポリメチルヒドロシロキサンとの架橋反応は、高温で10秒未満に作動し得る。本発明の新規触媒は、以下に示すスキーム1に従ってカールシュテット触媒とビニルシクロヘキサノールとを反応させることによって調製される。本発明の新規触媒は、シリコーンコーティング溶液の硬化中にわたってより優れた制御を提供する。これは、通常、「コマンド硬化」と呼ばれる。
【0048】
【化5】
【0049】
本発明の触媒は、以下の方法で調製することができる。反応を完了させるのに十分有効な時間、例えば30分間、周囲温度で、キシレン溶液中のカールシュテット触媒をビニルシクロヘキサノールと混合し、反応の完了は、反応混合物の色が透明から褐色に変化することによって示される。
【0050】
得られる触媒をテトラメチルジシロキサン溶液で更に希釈し、本発明の潤滑性コーティング溶液の調製において使用する準備が整う。得られる白金錯体触媒(白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)の式は、以下の通りである。
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)。
【0051】
得られる触媒反応混合物は、少量の反応生成物ジビニルテトラメチルジシロキサンを含有することに留意すべきである。この成分は、触媒に影響を与えず、急速に蒸発する低沸点成分である。したがって、ジビニルテトラメチルジシロキサンを除去するための触媒混合物の精製は任意であり、その存在は、架橋性シリコーンポリマーの架橋反応には影響を与えないと考えられる。本発明の新規触媒は、低温又は周囲温度で阻害され、より高温又は硬化温度で活性化される、すなわち、触媒は、より低温又は周囲温度で不活化され、より高温又は硬化温度で活性化される。これにより、シリコーンコーティングにおける架橋性成分のコマンド硬化(command cure)(コマンド硬化触媒作用)が可能になり、所望の硬化温度でコーティングフィルムを急速に形成し、長い可使時間をもたらすので、縫合糸及び他の用具のコーティングプロセスに好適である。
【0052】
溶媒とコーティングとの混合手順
上記シリコーンポリマー及び新規白金触媒は、低沸点有機溶媒中に分散して、潤滑性コーティング溶液を形成する。シリコーン分散液には、低温脂肪族溶媒が使用される。芳香族溶媒及びテトラメチルジシロキサンが、シリコーン分散液に一般に使用される。典型例としては、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。シリコーンポリマー成分を均質なコーティング溶液に有効にブレンドするのに十分な濃度で有機溶媒を添加する。総溶媒濃度は、コーティング厚さ要件、この場合、医療用具の種類に応じて約20重量%~99重量%である。当業者は、コーティング溶液の固形分含量を変化させることによってコーティング厚さを操作できることを理解するであろう。
【0053】
成分の添加の順序が重要である。典型的なコーティング組成物は、以下の方法で調製される。シリカを別個の成分として添加する場合、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを、表面処理シリカと共に、ヘキサメチルジシロキサンなどの第1の溶液中に、完全に均質になるまで最長2時間分散させる(溶液2)。次いで、ヘプタンを添加し(溶液3)、ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤を添加する前に更に1時間混合する。最終成分として全ての触媒を添加した後、溶液を更に1時間かけて完全にブレンドする。
【0054】
以下の段落において、重量%とは、コーティング溶液中の全固形分含量の重量%である。本発明の新規コーティング組成物は、高い潤滑性及び耐久性、長い可使時間を有し、従来のコーティング設備を用いる従来のコーティングプロセスにおいて塗布するのに好適なシリコーンコーティングを有効に提供するのに十分な量のポリマー成分、シリカ含有組成物、架橋剤、触媒、及び溶媒を含有する。
【0055】
本発明のコーティング組成物中の有機溶媒の量は、典型的には、コーティングされる医療用具の種類に応じて、約20重量%~約99.5重量%である。当業者は、本発明の新規コーティング組成物中に存在する溶媒の量が、幾つかの要因によって変動し、また、コーティング組成物中の溶媒量が、有効なコーティングを作製するように選択されることを理解するであろう。典型的に考慮される要因としては、塗布方法、硬化方法、利用するコーティング設備、周囲条件、厚さ等が挙げられる。本発明のコーティング組成物の各成分は、これら成分のブレンドからなり得ることが理解されるであろう。例えば、2つ以上の異なる分子量の非架橋性シリコーンポリマーを用いてもよく、又は表面処理シリカ充填剤等、異なる官能基及び/若しくは分子量を有する2つ以上の架橋性シリコーンポリマーを用いてもよい。
【0056】
実施例に記載されるコーティング溶液には3つの異なる種類の実施形態が存在する:1つは、金属用具及びシリコーンドレイン用であり、1つは、外科用縫合糸用であり、そして、1つは手術室コーティング装置のトリクロサンリザーバ用である。
【0057】
縫合糸コーティング溶液の実施形態では、縫合糸コーティング溶液中のシリカの量は、約5重量%~約40重量%(全固形分)、より典型的には約10重量%~約30重量%(全固形分)、好ましくは約15重量%~約25重量%(全固形分)である。架橋性シリコーンポリマーの量は、典型的には、約60重量%~約95重量%(全固形分)、より典型的には約70重量%~約90重量%(全固形分)、好ましくは約75重量%~約85重量%(全固形分)である。シリコーン架橋剤の量は、典型的には、約0.2重量%~約6重量%(全固形分)、より典型的には約1重量%~約5重量%(全固形分)、好ましくは約2重量%~約4重量%(全固形分)である。本発明の新規潤滑性シリコーンコーティング組成物中の全固形分に基づく白金触媒の量(全固形分中の白金元素)は、典型的には、約0.0004重量%~約0.0036重量%、より典型的には約0.0012重量%~約0.0028重量%、好ましくは約0.0016重量%~約0.0024重量%である。
【0058】
金属用具及びシリコーンドレインコーティング溶液の実施形態では、縫合糸コーティング溶液中の非架橋性シリコーンポリマーの量は、約20重量%~約80重量%(全固形分)、より典型的には約30重量%~約70重量%(全固形分)、好ましくは約40重量%~約60重量%(全固形分)である。架橋性シリコーンポリマーの量は、典型的には、約20重量%~約80重量%(全固形分)、より典型的には約30重量%~約70重量%(全固形分)、好ましくは約40重量%~約60重量%(全固形分)である。シリコーン架橋剤の量は、典型的には、約0.2重量%~約6重量%(全固形分)、より典型的には約1重量%~約5重量%(全固形分)、好ましくは約2重量%~約4重量%(全固形分)である。本発明の新規潤滑性シリコーンコーティング組成物中の全固形分に基づく白金触媒の量(全固形分中の白金元素)は、典型的には、約0.0004重量%~約0.0036重量%、より典型的には約0.0012重量%~約0.0028重量%、好ましくは約0.0016重量%~約0.0024重量%である。
【0059】
トリクロサンリザーバ用のコーティング溶液の実施形態では、コーティング溶液中のシリカの量は、約2.5重量%~約20重量%(全固形分)、より典型的には約5重量%~約15重量%(全固形分)、好ましくは約7.5重量%~約12.5重量%(全固形分)である。架橋性シリコーンポリマーの量は、典型的には、約75重量%~約99重量%(全固形分)、より典型的には約80重量%~約95重量%(全固形分)、好ましくは約85重量%~約93重量%(全固形分)である。シリコーン架橋剤の量は、典型的には、約0.2重量%~約6重量%(全固形分)、より典型的には約1重量%~約4重量%(全固形分)、好ましくは約1.5重量%~約3重量%(全固形分)である。本発明の新規潤滑性シリコーンコーティング組成物中の全固形分に基づく白金触媒の量(全固形分中の白金元素)は、典型的には、約0.00002重量%~約0.0036重量%、より典型的には約0.00003重量%~約0.0020重量%、好ましくは約0.00004重量%~約0.0010重量%である。
【0060】
本発明のコーティング組成物中の有機溶媒の量は、典型的には、医療用具の各種類に応じて、約20重量%~約99.5重量%である。当業者は、本発明の新規コーティング組成物中に存在する溶媒の量が、幾つかの要因によって変動し、また、コーティング組成物中の溶媒量が、有効なコーティングを作製するように選択されることを理解するであろう。典型的に考慮される要因としては、医療用具のサイズ及び形状、医療用具の材料、塗布方法、硬化方法、利用するコーティング設備、周囲条件、厚さ等が挙げられる。本発明のコーティング組成物の各成分は、これら成分のブレンドからなっていてもよいことが理解されるであろう。例えば、2以上の異なる分子量の非架橋性シリコーンポリマーを用いてもよい、又は異なる官能基及び/若しくは分子量を有する2以上の架橋性シリコーンポリマーを用いてもよい、等。
【0061】
コーティングプロセス
本発明の新規シリコーン潤滑性コーティング溶液は、従来のコーティング技術及びプロセス、並びに従来のコーティング設備を用いて、ポリエステル縫合糸などの医療用具の表面に塗布される。コーティング設備の例は、単純なディップコーティングタンク及びコーティングを硬化させるためのインライン対流式オーブンであり得る。コーティングはまた、刷毛塗り、ロール塗り、又は噴霧プロセスによって塗布され得る。ビニルシリル化付加架橋反応は、乾燥オーブンを通過させることによってインラインで完了させることができる。硬化時間は、100℃の温度で20秒、95℃で120秒、又は70℃で60分もの短時間であり得る。本潤滑性シリコーンコーティングによって、フラッシュ硬化(Flash cure)を達成することができる。
【0062】
ポリマー医療用具の高温で変形可能な性質から、また、トリクロサンなどの抗菌剤の蒸発点が低いことから、本発明の実施では、120℃を超える処理又はコーティング温度を超えないことが望ましい。好ましいコーティング処理温度は、約60~110℃、より好ましくは約90~100℃、最も好ましくは約95℃の範囲である。
【0063】
本発明の新規シリコーンコーティング組成物と共に利用することができる他の従来の硬化技術としては、熱(例えば、対流加熱)、紫外線、プラズマ、マイクロ波照射、電磁結合、電離放射線、レーザー等が挙げられる。コーティング前に、電解研磨、酸化、超音波洗浄、プラズマ、コロナ放電処理、化学洗浄などの従来のプロセスを用いて従来の方法で、医療用具の表面が調製される。
【0064】
コーティング性能の試験手順
上述の通り、新規潤滑性コーティングでコーティングされ得る医療用具としては、外科用縫合針及び縫合糸、皮下針、カテーテル、外科用プローブ、内視鏡、注射器、メス、切刃、整形外科用インプラント、トロカール、カニューレ、ドレインなどの従来の医療用具が挙げられる。医療用具は、外科用ステンレス鋼、チタン、PTFE、ガラス、合金鋼、高融点金属合金、記憶合金、シリコーン、ポリマー、金属及び非金属部材成分を含む複合材、これらの組み合わせなどを含む従来の生体適合性材料から構築される。生体適合性材料としては、非吸収性材料及び生体吸収性材料を挙げることができる。
【0065】
試験手順
阻止帯(ZOI)試験:
トリクロサン含有シリコーンコーティングされた試験物品を、試験生物を接種した寒天培地に入れる。抗菌剤トリクロサンがシリコーン担体を通じて寒天培地に拡散する場合、抗菌剤の濃度が最小阻止濃度(MIC)を上回る限り、感受性微生物は、ある距離にわたってディスクの上又は周囲では増殖しない。この距離を阻止帯と呼ぶ。抗菌剤が培地中で拡散速度を有すると仮定すると、試験物品の周囲に阻止帯が存在することは、抗菌剤が存在しなければ順調に増殖する培地に抗菌剤が存在することによって生物が阻害されることを示す。阻止帯の直径はMICに反比例する。
【0066】
この阻止帯試験を利用して、トリクロサン含有シリコーンコーティングされた試験物品を抗菌特性について試験した。阻止帯試験は、目的の特定の細菌株に対する抗菌物質の阻害効果を推定するための従来の方法である。阻止帯アッセイは、拡散性剤を試験するのに有用である。剤がディスクから離れて拡散するにつれて、濃度は対数的に減少する。剤に対する生物の感受性は、増殖が生じないゾーン、すなわち阻止帯の外観及びサイズによって判定される。典型的には、3mmのZOI値が、感染を阻害するための有効ゾーンであると考えられる。
【0067】
トリクロサン含有シリコーンコーティングされた試験物品を、個々の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)又は大腸菌(Escherichia coli)を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で48時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯を測定した。
【実施例
【0068】
以下の実施例は、本発明の原理及び実施を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
実施例1-白金触媒合成手順
4gのGelest SIP 6831(キシレン中2.2%白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、カールシュテット触媒)を、周囲温度で5時間、4gのビニルシクロヘキサノールキシレン溶液と混合したところ、混合物は暗褐色に変化する。混合物を、その使用前に792gのテトラメチルジシロキサンで希釈した。
【0070】
実施例2a-コーティング溶液の調製により20%トリクロサン含有シリコーンを作製する
この実施例は、表2aにまとめた成分の混合物を含むトリクロサン含有シリコーンコーティング溶液を提供する。
【0071】
【表1】
【0072】
上記の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0073】
実施例2b-試験物品のコーティング
以下の試験物品のリストを実施例2aの溶液に5秒間浸漬し、100℃で5分間硬化させた。
2b-1:ステンレス鋼製縫合糸:Ethicon外科用鋼製縫合糸M650G
2b-2:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233
2b-3:チタン製ピン:Synthes 2.0mm Ti Kirschnerワイヤ492.20(大腸菌でのみ試験)
【0074】
更に、処理された試験物品2b-2(Blake(登録商標)シリコーンドレイン)及び2b-3(チタン製ピン:Synthes 2.0mm Ti Kirschner)を従来のTyvex(登録商標)バッグに包装し、エチレンオキシドで滅菌した。これらのEO処理試験物品を、それぞれ2b-2EO及び2b-3EOと命名した;
2b-2EO:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233
2b-3EO:チタン製ピン:Synthes 2.0mm Ti Kirschnerワイヤ492.20(大腸菌でのみ試験)
【0075】
実施例2c.阻止帯試験
上記試験物品を、個々の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で24時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯(ZOI)を測定した。結果を表2cにまとめる。
【0076】
【表2】
N/A:これらのサンプルについては試験を実施しなかった
【0077】
表2cを参照すると、本発明のコーティングが、コーティングされた物品に対して適切な阻止帯を提供することが分かり、典型的には3mmのZOIが最小有効ZOIとして認められる。本発明のコーティングの効果の更なる描写を図1及び2に見ることができる。図1を参照すると、サンプル2b-3(チタン製ピン)のZOIが示されており、一方、図2は、大腸菌に曝露されたTSAプレート上でのサンプル2b-3EO(EO滅菌後のチタン製ピンのZOIを示す。更に、図2から理解することができるように、本発明のシリコーン組成物中の抗菌性組成物は、EO滅菌後であっても依然として有効である。
【0078】
実施例3a、コーティング溶液の調製により10重量%トリクロサン含有シリコーンを作製する
この実施例は、表3aにまとめた成分の混合物を含むトリクロサン含有シリコーンコーティング溶液を提供する。
【0079】
【表3】
【0080】
上記の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0081】
実施例3b、試験物品のコーティング
試験物品を実施例2aの溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
3b-1:ステンレス鋼製縫合糸:Ethicon外科用鋼製縫合糸M650G
3b-2:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233
【0082】
更に、処理された試験物品3b-2(Blake(登録商標)シリコーンドレイン)を従来のTyvex(登録商標)バッグに包装し、エチレンオキシドで滅菌した。このEO処理された試験物品を、3b-2EOと命名した。
3b-2EO:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233。
【0083】
実施例3c.阻止帯試験
実施例3bの試験物品を、個々の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で24時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯を測定した。結果を表3cにまとめる。
【0084】
【表4】
N/A:このサンプルについては試験を実施しなかった
【0085】
実施例4a-コーティング溶液の調製により5%トリクロサン含有シリコーンを作製する
この実施例は、表4aにまとめた成分の混合物を含むトリクロサン含有シリコーンコーティング溶液を提供する。
【0086】
【表5】
【0087】
上記の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0088】
実施例4b-試験物品のコーティング
以下の試験物品を実施例2aの溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
4b-1:ステンレス鋼製縫合糸:Ethicon外科用鋼製縫合糸M650G
4b-2:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233
【0089】
更に、処理された試験物品4b-2(Blake(登録商標)シリコーンドレイン)を従来のTyvex(登録商標)バッグに包装し、エチレンオキシドで滅菌した。これらのEO処理された試験物品を、4b-2EOと命名した。
4b-2EO:シリコーンドレイン:Blake(登録商標)シリコーンドレイン2233。
【0090】
実施例4c-阻止帯試験
実施例4bの試験物品を、個々の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で24時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯(ZOI)を測定した。結果を表4cにまとめる。
【0091】
【表6】
N/A:このサンプルについては試験を実施しなかった
【0092】
実施例5a-縫合糸コーティング溶液の調製により10重量%トリクロサン含有シリコーンを作製する
この実施例は、表5aにまとめた成分の混合物を含むトリクロサン含有シリコーンコーティング溶液を提供する。
【0093】
【表7】
【0094】
上記の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0095】
実施例5b-試験物品のコーティング
1メートルのシルク製縫合糸(Ethicon 2-0Mersilene)を実施例5aのコーティング製剤に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
【0096】
200メートルのサイズ1Mersilene(登録商標)縫合糸を実施例5aのコーティング製剤に浸漬し、インライン加熱オーブンを通して100℃の温度で100秒間硬化させた。
5b-1:2-0シルク製縫合糸
5b-2:1PET(Mersilene(登録商標)縫合糸)
【0097】
実施例5c-性能試験
実施例5bの縫合糸試験物品を、個々の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で24時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯(ZOI)を測定した。試験物品をペトリ皿から抽出し、別の無菌ペトリ皿に無菌的に置き、10コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌を含有する100マイクロリットルの接種材料に曝露した。トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を各皿に注ぎ、固化させた。プレートを37℃の温度で更に24時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを暗視野コロニー計数器で検査し、阻止帯(ZOI)を測定した。各サンプルの3つの複製物を各試験物品に使用し、結果を表5cにまとめる。
【0098】
【表8】
【0099】
表5cを参照すると、2日間にわたって各縫合糸の端部及び各縫合糸の中央で測定された縫合糸のZOIが見られる。
【0100】
実施例6-トリクロサン含有二部型コーティング溶液の調製
この実施例は、トリクロサンリザーバを作製するために、限定された空間におけるより高負荷のトリクロサンのためのより厚いコーティングを調製するためのものである。
【0101】
複合材のA部の成分の混合物を表6a-1にまとめる。
【0102】
【表9】
【0103】
上記A部の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0104】
B部の成分の混合物を表6a-2にまとめる。
【0105】
【表10】
【0106】
上記B部の成分を、高剪断ミキサー内で30Hzの速度で4時間混合した。
【0107】
A部及びB部の成分を手で2分間混合した後、PET/アルミニウム積層体の表面上に刷毛塗りした。コーティングされた積層体を周囲温度で12時間乾燥させた後、100℃の温度で30分間オーブン内で硬化させた。厚さ0.2mmのトリクロサン含有シリコーンコーティングを、9×18インチの寸法のPET/アルミニウム積層体上に形成した。この基材上のコーティングの総重量は23gであり、この2層積層体に2.3gのトリクロサンが負荷された。
【0108】
実施例6b-性能試験
実施例6aのコーティングされた積層体を、試験物品としての1/2”の研磨された316ステンレス鋼製クーポンを抗菌処理するためのトリクロサンリザーバとして使用した。実際には、実施例6aのトリクロサンコーティングされた積層体と、約-20インチの水銀の中程度の真空下で図3に示す加熱プロファイルに従って加熱した容器の内容物と共に、試験クーポンを密閉容器に入れた。実施例6aの積層体からのトリクロサンを、加熱サイクルの終了までに、ステンレス鋼製試験クーポンの表面上に移した。次いで、処理したステンレス鋼製クーポンを、溶液1立方センチメートル当たり10個の細菌の初期黄色ブドウ球菌接種材料を含有する寒天プレートにおいて38℃の温度で24時間インキュベートした。図4は、処理された試験クーポンの周囲に約20mmの保護阻止帯が形成されたことを示し、これは、実施例6aのコーティングされた積層体のトリクロサンが加熱サイクル中に316ステンレス鋼製試験クーポンに首尾よく移動したことを示す。
【0109】
上記の例を参照すると、本発明のトリクロサン含有シリコーン組成物は、多種多様な医療用具、特に、様々な種類の金属などの典型的には非吸収性表面である表面上に抗菌剤を送達する有効な手段を提供する。シリコーンは、トリクロサン含有シリコーンコーティングされたPET及びシルク製縫合糸の複数日の阻害帯に示されるように、制御放出特性を有する高透過性ポリマーである。トリクロサンは、シリコーンマトリクス中に保存され、特定の条件下で必要に応じて放出され得る。
【0110】
本発明の新規コーティング及び触媒は、先行技術のコーティング及び触媒に比べて多くの利点を有する。コーティングは、架橋ポリマー網目構造を正確に制御することを可能にし、得られるコーティングの一貫性及びコーティングされた用具の性能の一貫性をもたらす。コーティングは、独自のポリマー網目構造を提供し、これは、得られるシリコーンコーティングに潤滑性及び耐久性の両方をもたらす。触媒は、コマンド硬化された触媒作用を提供し、コーティング溶液が、加工上望ましい長い可使時間の間に急速にフィルムを形成することを可能にする。触媒は、低温又は周囲温度で阻害され、ポリマー縫合糸又は他のポリマー医療用具を変形させず、抗菌剤の効果を傷つけることもない温度で阻害解除(uninhibited)若しくは再活性化される。コーティング及び触媒は、より効率的なコーティング及び硬化プロセスを提供する。
【0111】
以上、本発明をその詳細な実施形態について図示及び説明してきたが、当業者であれば、特許請求される発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の形態及び詳細に様々な変更を行い得る点が理解されるであろう。
【0112】
〔実施の態様〕
(1) 潤滑性シリコーンコーティングでコーティングされた医療用具であって、
表面を有する医療用具と、
前記表面の少なくとも一部上の潤滑性シリコーンコーティングであって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
任意選択で、シリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、
抗菌剤、及び
触媒、を含むコーティング組成物から形成されている、潤滑性シリコーンコーティングと、を含み、前記触媒が、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、医療用具。
(2) 前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル末端ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びビニル末端ポリジエチルシロキサンからなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(3) 前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを含む、実施態様1に記載の医療用具。
(4) 前記抗菌剤が、トリクロサン、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、オクテニジン、及び銀からなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(5) 前記抗菌剤が、トリクロサンである、実施態様1に記載の医療用具。
【0113】
(6) 前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、及びポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンからなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(7) 前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサンを含む、実施態様1に記載の医療用具。
(8) 前記シリカ含有組成物が、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤を含む、実施態様1に記載の医療用具。
(9) 前記シリカ含有組成物が、HCR(高一貫性ゴム)ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む、市販の反応性シリカ含有シリコーンベースから選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(10) 前記シリカ含有組成物が、液体シリコーンゴムベースである、実施態様9に記載の医療用具。
【0114】
(11) 前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約20重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(12) 前記コーティング溶液が、約1~40重量%(全固形分)のトリクロサン抗菌剤を含む、実施態様1に記載の医療用具。
(13) 前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.2重量%~約1.8重量%の前記シリコーン架橋剤を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(14) 前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.0004重量%~約0.0036重量%の白金触媒を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(15) 前記コーティング組成物が、キシレン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、高分子量オレフィンの混合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
【0115】
(16) 前記医療用具が、ステンレス鋼、PTFE、ガラス、セラミクス、ポリマー、高融点金属合金、記憶合金、並びに金属及び非金属の複合材からなる群から選択される生体適合性材料を含む、実施態様1に記載の医療用具。
(17) 前記医療用具が、外科用縫合針、縫合糸、皮下針、外科用メス、カテーテル、切刃、外科用プローブ、内視鏡、ハサミ、及び切刃からなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(18) 前記医療用具が、外科用縫合糸を含む、実施態様17に記載の医療用具。
(19) 前記コーティングが、非架橋性シロキサンを更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(20) 前記非架橋性シロキサンが、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサンである、実施態様19に記載の医療用具。
【0116】
(21) コーティング組成物であって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
任意選択で、シリカ含有組成物、
任意選択で、非架橋性シロキサン、
シリコーン架橋剤、
抗菌剤、及び
触媒、を含み、前記触媒が、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、コーティング組成物。
(22) 前記組成物が、約70℃を超える温度で硬化可能である、実施態様21に記載のコーティング組成物。
(23) 前記組成物が、約95℃の温度において約2分で硬化可能である、実施態様22に記載のコーティング組成物。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】