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特表2022-511812分子薄膜シェルで修飾された電気活物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】分子薄膜シェルで修飾された電気活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220125BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220125BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220125BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220125BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20220125BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/40
H01M4/58
H01M10/36 Z
H01M4/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531293
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 US2019064736
(87)【国際公開番号】W WO2020118084
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】62/775,748
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/444,854
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598128421
【氏名又は名称】カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】シュー チンミン
(72)【発明者】
【氏名】ブルックス クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】マッケニー ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ミラー サード トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ サイモン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ムノズ ステファン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス ヴィクトリア
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK11
5H029AL01
5H029AL11
5H050AA12
5H050CA01
5H050CA17
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA17
(57)【要約】
コアと、このコアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを有する電気化学活性構造体。また、本明細書に記載される電気化学活性構造体の製造方法、及び本明細書に記載される電気化学活性構造体を含む電気化学セル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、前記シェルは、1つ以上の官能基を有する1つ以上の非界面活性剤分子を含むシェル材料を含む電気化学活性構造体。
【請求項2】
前記コアが、銅、鉄、鉛、ビスマス、コバルト、スズ、ランタン、セリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、それらの合金、それらのフッ化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される電気化学活物質を含む請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項3】
前記電気化学活物質が、銅、フッ化銅(II)、又はこれらの組み合わせを含む請求項2に記載の電気化学活性構造体。
【請求項4】
前記1つ以上の官能基が、-COOH、-NH、-COH、-OH、-SH、-POH、-SOH、-CN、-NC、-RP、-COO、-COO-OOCR、エン-ジオール、-C≡N、-N≡N(BF )、-Sac、-SR、-SSR、-CSSH、-S Na、-SeH、-SeSeR、-RP=O、-PO 2-/-P(O)(OH)、-PO 2-、-N≡C、-HC=CH、-C≡CH、-SiH、-SiCl、-OCHCH、式(I)、式(II)、式(III)、アルカン、アルキン、アルケン、芳香環、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、式(I)が
【化1】
であり、式(II)が
【化2】
であり、式(III)が
【化3】
であり、
前記式中、R’及びR”は、それぞれ独立に、単独で、又は別のR’若しくはR”と組み合わせて、有機鎖又は芳香族基である請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項5】
前記コアが、約20~80nmの直径を有するナノ粒子を含む請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項6】
前記コアが、約20~80nmの少なくとも1つの寸法を有するナノワイヤを含む請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項7】
前記シェル材料が、前記電気化学活性構造体が少なくとも約50μAの電流で充電及び/又は放電することができるように構成されている請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項8】
前記1つ以上の官能基を有する1つ以上の非界面活性剤分子の少なくとも1つが有機物である請求項1に記載の電気化学活性構造体。
【請求項9】
コアと、前記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、前記シェルは、界面活性剤を含むシェル材料を含む電気化学活性構造体。
【請求項10】
前記界面活性剤が、-COOH、-NH、-COH、-OH、-SH、-POH、-SOH、-CN、-NC、-RP、-COO、-COO-OOCR、エン-ジオール、-C≡N、-N≡N(BF )、-Sac、-SR、-SSR、-CSSH、-S Na、-SeH、-SeSeR、-RP=O、-PO 2-/-P(O)(OH)、-PO 2-、-N≡C、-HC=CH、-C≡CH、-SiH、-SiCl、-OCHCH、式(I)、式(II)、式(III)、アルカン、アルキン、アルケン、芳香環、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される官能基を含み、式(I)は
【化4】
であり、式(II)は
【化5】
であり、式(III)は
【化6】
であり、前記式中、R’及びR”は、それぞれ独立に、単独で、又は別のR’若しくはR”と組み合わせて、有機鎖又は芳香族基である請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項11】
前記界面活性剤が、オレイルアミン、オレイン酸、トリス(トリメチルシリル)シラン、又はこれらの組み合わせを含む請求項10に記載の電気化学活性構造体。
【請求項12】
前記コアが、銅、鉄、鉛、ビスマス、コバルト、スズ、ランタン、セリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、それらの合金、それらのフッ化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される電気化学活物質を含む請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項13】
前記電気化学活物質が、銅、フッ化銅(II)、又はこれらの組み合わせを含む請求項12に記載の電気化学活性構造体。
【請求項14】
前記コアが、約20~80nmの直径を有するナノ粒子を含む請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項15】
前記コアが、約20~80nmの少なくとも1つの寸法を有するナノワイヤを含む請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項16】
前記シェル材料が、前記電気化学活性構造体が少なくとも約50μAの電流で充電及び/又は放電することができるように構成されている請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項17】
前記界面活性剤が有機物である請求項9に記載の電気化学活性構造体。
【請求項18】
コアと、前記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、前記シェルは、ポリマー又はオリゴマーを含むシェルを含む電気化学活性構造体。
【請求項19】
前記ポリマーがポリビニルピロリドン、ポリ(メタクリル酸メチル)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項20】
前記コアが、銅、鉄、鉛、ビスマス、コバルト、スズ、ランタン、セリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、それらの合金、それらのフッ化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される電気化学活物質を含む請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項21】
前記電気化学活物質が、銅、フッ化銅(II)、又はこれらの組み合わせを含む請求項20に記載の電気化学活性構造体。
【請求項22】
前記コアが、約20~80nmの直径を有するナノ粒子を含む請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項23】
前記コアが、約20~80nmの少なくとも1つの寸法を有するナノワイヤを含む請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項24】
前記シェルの材料が、前記電気化学活性構造体が少なくとも約50μAの電流で充電及び/又は放電することができるように構成されている請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項25】
前記ポリマー又はオリゴマーが有機物である請求項18に記載の電気化学活性構造体。
【請求項26】
コアと、前記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、前記シェルは、少なくとも第1の自己組織化単分子層を含む電気化学活性構造体。
【請求項27】
前記シェルが、第2の自己組織化単分子層をさらに含み、前記第2の自己組織化単分子層が前記第1の自己組織化単分子層の少なくとも一部を覆う請求項26に記載の電気化学活性構造体。
【請求項28】
前記シェルが、ポリマー層をさらに含み、前記ポリマー層が前記第1の自己組織化単分子層の少なくとも一部を覆う請求項26に記載の電気化学活性構造体。
【請求項29】
前記シェルが、有機ソフトシェル材料を含む請求項26に記載の電気化学活性構造体。
【請求項30】
請求項1に記載の電気化学活性構造体の製造方法であって、一工程合成戦略を含む方法。
【請求項31】
請求項9に記載の電気化学活性構造体の製造方法であって、一工程合成戦略を含む方法。
【請求項32】
請求項18に記載の電気化学活性構造体の製造方法であって、一工程合成戦略を含む方法。
【請求項33】
請求項26に記載の電気化学活性構造体の製造方法であって、一工程合成戦略を含む方法。
【請求項34】
液体型Fシャトル電池であって、
カソードと、
アノードと、
液体電解質と
を含み、前記カソードは請求項1に記載の電気化学活性構造体を含む液体型Fシャトル電池。
【請求項35】
液体型Fシャトル電池であって、
カソードと、
アノードと、
液体電解質と
を含み、前記カソードは、請求項9に記載の電気化学活性構造体を含む液体型Fシャトル電池。
【請求項36】
液体型Fシャトル電池であって、
カソードと、
アノードと、
液体電解質と、
を含み、前記カソードは、請求項18に記載の電気化学活性構造体を含む液体型Fシャトル電池。
【請求項37】
液体型Fシャトル電池であって、
カソードと、
アノードと、
液体電解質と
を含み、前記カソードは、請求項26に記載の電気化学活性構造体を含む液体型Fシャトル電池。
【請求項38】
液体型Fシャトル電池であって、
コア及び前記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルを含むカソードであって、前記シェルは有機材料を含むカソードと、
アノードと、
液体電解質と
を含む液体型Fシャトル電池。
【請求項39】
前記シェルが、単分子層を含む第1の層を少なくとも含む請求項38に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項40】
前記第1の層が自己組織化単分子層を含む請求項39に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項41】
前記シェルが、前記第1の層を少なくとも部分的に取り囲む第2の層を含む請求項39に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項42】
前記第2の層がポリマーを含む請求項41に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項43】
前記ポリマーが自己修復ポリマーを含む請求項42に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項44】
前記第2の層が自己組織化単分子層を含む請求項41に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項45】
前記第1の層の自己組織化単分子層が前記第2の層の自己組織化単分子層とは異なる請求項44に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項46】
前記シェルがポリマーを含む請求項38に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項47】
前記シェルが自己修復ポリマーを含む請求項46に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項48】
前記シェルが、前記コア及びシェル構造の1.0重量%~10.0重量%を構成する請求項38に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項49】
前記シェルが、前記コア及びシェル構造の3.0重量%~8.0重量%を構成する請求項48に記載の液体型Fシャトル電池。
【請求項50】
前記コア上の前記シェルの分子被覆率が約6nm-2~60nm-2である請求項38に記載の液体型Fシャトル電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年12月5日出願の米国仮出願第62/775,748号に基づく優先権を主張する。この出願の開示内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、全体として、液体型Fシャトル電池の電極材料として使用するための電気化学活性構造体に向けられている。
【背景技術】
【0003】
液体型Fシャトル電池における電極、特にカソードは、金属材料を含むことが多い。しかしながら、電池の液体電解質に金属材料が溶解してしまうため、このような材料の使用には制約がある。近年、金属材料が溶解することを防ぐために、金属材料のコアと固体イオン伝導体の薄膜から構成されるシェルとを含む構造体が研究されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固体イオン伝導体の薄膜から作製されたシェル材料は、例えば高いイオン抵抗のために許容できないほど遅い充放電を提供することにより、金属材料の機能を制限する可能性がある。このため、当該技術分野では、これらの欠点を軽減及び/又は解消する、液体型Fシャトル電池に有用な電気化学活性構造体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、全体として、コアと、このコアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、上記コアは電気化学活物質を含み、上記シェルは、分子種から作製された薄膜等のシェル材料を含む電気化学活性構造体に向けられている。本開示は、本明細書に記載される電気化学活性構造体の製造方法、及び本明細書に記載される電気化学活性構造体を含む電気化学セルにも向けられている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
当該特許又は出願ファイルには、少なくとも1つのカラー図面が含まれている。カラー図面を含むこの特許又は特許出願公開の写しは、請求して必要な手数料を支払えば、庁から提供される。
【0007】
図1A図1Aは、本開示の態様に係る例示的な電気化学活性構造体を示す。
図1B図1Bは、本開示の態様に係る例示的な電気化学活性構造体を示す。
図1C図1Cは、本開示の態様に係る例示的な電気化学活性構造体を示す。
図2図2は、本開示の態様に係る電気化学活性構造体の充電及び放電の例示的模式図を示す。
図3図3は、本開示の態様に係る電気化学活性構造の例示的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図4図4は、例IIで説明した熱重量分析(TGA)のプロットを示す。
図5図5は、例IIIに係る容量対電位のチャートを示す。
図6図6は、例IIIに係るX線粉末回折(p-XRD)パターンを示す。
図7図7は、例IVに係る容量対電位のチャートを示す。
図8図8は、例IVに係る容量対放電電流のチャートを示す。
図9図9は、例IVに係るX線粉末回折(p-XRD)パターンを示す。
図10図10は、例Iに従って調製された、銅ナノワイヤ表面上のシェルの例示的模式図を示す。
図11図11は、例Iに従って調製された電気化学活性構造体の銅コアのXPSスペクトルを示す。
図12図12は、例Iに従って調製された電気化学活性構造体のシェル材料からの窒素のXPSスペクトルを示す。
図13図13は、例Iに従って調製された電気化学活性構造体のシェル材料からの炭素のXPSスペクトルを示す。
図14図14は、例Iに従って調製された電気化学活性構造体のシェル材料からの酸素のXPSスペクトルを示す。
図15図15は、本開示の態様に係る例示的な電気化学セルの模式図を示す。
図16図16は、例Vに係るゼロバイアス電位(ΔV=0)におけるSAM領域のフッ化物イオンの平均局所密度<c>及び電極からのフッ化物イオンの平均距離<d>を示す。
図17A図17Aは、例Vに係るいくつかの電極電位における、フッ化物イオンSAMインターカレーションの平均力ポテンシャル(PMF)を示す。
図17B図17Bは、例Vに係るいくつかの電極電位における、SAM領域におけるフッ化物イオンの平均局所密度<c>を示す。
図17C図17Cは、例Vに係るいくつかの電極電位における電極からのフッ化物イオンの平均距離<d>を示す。
図18A図18Aは、例Vに係るSAM領域内のフッ化物イオンの溶媒和を示す全原子構成図を示す。
図18B図18Bは、例Vに係るSAM領域内の原子間距離の関数として、フッ化物イオンの周りの原子(F又はHのいずれか)の累積数を示す。
図18C図18Cは、例Vに係るSAM領域内のフッ化物イオンに対するパートナー水素交換の速度τ-1 exを示す。
図19図19は、例Vに係るいくつかの電極電位におけるSAM領域からのフッ化物イオンのデインターカレーションの速度τ-1 deを示す。
図20図20は、例Vに係る金属-SAM界面上の溶媒和サイト分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、全体として、コアと、このコアを少なくとも部分的に取り囲むシェルとを含む電気化学活性構造体であって、上記コアは電気化学活物質を含み、上記シェルはシェル材料を含む電気化学活性構造体に向けられている。本開示は、本明細書に記載される電気化学活性構造体の製造方法、及び本明細書に記載される電気化学活性構造体を含む電気化学セルにも向けられている。
【0009】
本明細書に記載される電気化学活性構造体は、コアを含み、このコアは電気化学活物質を含む。本明細書では、「電気化学活物質」という用語は、一次電気化学セル又は二次電気化学セルにおける、例えばイオン電池システムにおける電極として作用することができる物質を指す。いくつかの態様によれば、電気化学活物質は、液体型フッ化物(F)シャトル電池のカソードとして作用することができる材料を含んでいてもよい。液体型Fシャトル電池は、例えば、従来の最先端のリチウム電池及びリチウムイオン電池におけるリチウムイオンの代わりに、フッ化物イオンという電荷担体を利用することを理解されたい。液体型Fシャトル電池は、電極活物質及び/又は適切な液体電解質をさらに含んでもよい。いくつかの態様によれば、液体型Fシャトル電池は、物理的に互いに分離され、フッ化物イオン伝導性電解質と共通に接触するアノード及びカソードを含んでいてもよい。アノードは、低(卑)電位の元素又は化合物(例えば、金属、金属フッ化物、及び/若しくはインターカレート組成物)を含んでいてもよい。カソードは、アノードよりも高い(貴の)電位を有する元素又は組成物(例えば、金属、金属フッ化物、及び/若しくはインターカレート組成物)を含んでいてもよい。いくつかの態様によれば、フッ化物伝導性電解質中のフッ化物イオン(F)は、放電中にカソードからアノードに移動し、電池の充電中にアノードからカソードに移動してもよい。
【0010】
いくつかの態様によれば、本開示に係る電気化学活物質は、高容量及び高エネルギー密度を提供する軽量材料であってもよい。本開示によれば有用な電気化学活物質の例としては、銅(Cu)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)等の金属、それらの合金、それらの酸化物、フッ化物、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様によれば、電気化学活物質は、銅、フッ化銅(II)(CuF)、又はこれらの組み合わせを含む。
【0011】
いくつかの態様によれば、上記コアは選択された形状を有していてもよい。例えば、コアは、ナノ粒子(例えば、球状のナノ粒子)、ナノチューブ、ナノワイヤ、フレーム、フレーク、ナノポーラスシート、薄膜、フォーム(発泡体)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの態様によれば、コアのサイズは、電子伝導度又はFイオン移動度のいずれかによって決定されてもよい。具体的な例では、20nmがコア材料におけるFイオンの浸透の距離限界であってもよい。電子又はFイオンの経路がこの距離限界(この例では、20nm)よりも大きい場合、電子伝導度及び/又はFイオン移動度は低下又は妨害される。従って、いくつかの態様によれば、コアは、距離限界程度以下の少なくとも1つの寸法を含んでいてもよい。例えば、コアは、距離限界程度以下の直径を有する球状のナノ粒子を含んでいてもよく、というのもそのような球状のナノ粒子は、すべての方向において距離限界程度以下である電子又はFイオンの経路を提供するからである。コアは、少なくとも1つの方向に距離限界程度以下の経路を有する限り、距離限界程度を超える1つ以上の寸法を有していてもよいことを理解されたい。例えば、コアは、X方向及びY方向の寸法が距離限界程度よりも大きく、Z方向の寸法が距離限界程度以下であるフレークを含んでいてもよい。いくつかの態様によれば、この距離限界は、約20nm、任意に約30nm、任意に約40nm、任意に約50nmであってもよい。いくつかの態様によれば、距離限界は、約20~80nm、任意に約30~70nm、任意に約40~60nmであってもよい。いくつかの態様によれば、距離限界は、当該電気化学活性構造体の特定の態様、例えば、そのシェルに少なくとも部分的に対応する。特に、相対的に低いイオン抵抗を有するシェルは、Fイオンがシェルを横断してコアに到達することがより容易であるため、より長い距離限界を提供することになる。
【0012】
本開示によれば有用なコアの例としては、距離限界程度以下の直径を有するナノ粒子、距離限界程度以下の少なくとも1つの寸法を有するナノワイヤ、距離限界程度以下の壁厚を有するナノチューブ、距離限界程度以下の厚さを有するフレーク(例えば、三角形、長方形、正方形、円形、又は楕円形)、距離限界程度以下の厚さを有する膜、距離限界程度以下の細孔壁厚を持つフォーム、距離限界程度以下の厚さを有するシート、距離限界以下の厚さを有するフレーム、距離限界以下のワイヤ厚さを有するメッシュ、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
当該電気化学活性構造体は、上記コアを少なくとも部分的に取り囲むシェルをさらに含む。例えば、このシェルは、コアの表面積の少なくとも約50%、任意に少なくとも約60%、任意に少なくとも約70%、任意に少なくとも約80%、任意に少なくとも約90%、任意に少なくとも約95%、任意に少なくとも約100%がシェルで覆われるように、コアを囲んでいてもよい。いくつかの態様によれば、コア上のシェルの分子被覆率は、約1~100nm-2、任意に約6~60nm-2であってもよい。
【0014】
いくつかの態様によれば、上記シェルは、液体型Fシャトル電池と適合性のあるシェル材料を含んでいてもよい。
【0015】
例えば、シェル材料は、充電及び/又は放電中の液体型Fシャトル電池の液体電解質へのコア材料の溶解が低減又は解消されうるように選択されてもよい。シェル材料は、適切な充電時間をさらに提供するように選択されてもよい。本明細書で使用する場合、「充電時間」という用語は、放電した液体型Fシャトル電池の電極が完全に充電されるのに必要な時間の長さ、すなわち、電池の充電中にフッ化物伝導性電解質中のFがアノードからカソードに移動するのに必要な時間の長さを指す。いくつかの態様によれば、充電時間は、約1分~20分、任意に約1分~10分、任意に約3分~5分であってもよい。
【0016】
充電時間は、電気化学活性構造体の1つ以上の特性に依存してもよいことを理解すべきである。例えば、高いイオン抵抗を有する固体材料シェルを含む電気化学活性構造体の充電/放電には、非常に低い電流(例えば、約10μA以下、又は約2.5mA/gの電流密度)が必要となる場合がある。従って、このような電気化学活性構造体は、許容できない充電時間を必要とする場合がある。また、比較的低いイオン抵抗を有するシェル材料を含む電気化学活性構造体の充電/放電は、イオン(例えば、Fイオン)がシェル材料を横断することが比較的容易でありうることに少なくとも部分的に起因して、より高い電流を用いて達成されうることを理解すべきである。いくつかの態様によれば、シェル材料は、当該電気化学活性構造体を含むカソードの充電/放電が、少なくとも約50μA、任意に少なくとも約75μA、任意に少なくとも約100μA、任意に少なくとも約150μA、任意に少なくとも約200μA、任意に少なくとも約250μA、及び任意に少なくとも約300μAの電流で達成されうるように選択されてもよい。
【0017】
いくつかの態様によれば、シェル材料は、充電及び/又は放電時にコアによって含まれる電気化学活物質を許容可能に利用するために選択することができる。利用とは、充電中にFイオンを受け入れる電気化学活物質の部分、及び/又は、放電中に減少する電気化学活物質の部分を指すことを理解すべきである。いくつかの態様によれば、本明細書に記載されているように、比較的低いイオン抵抗を有するシェル材料を選択することによって、充電及び/又は放電中に電気化学活物質の少なくとも約50%、任意に少なくとも約60%、任意に少なくとも約70%、任意に少なくとも約80%、任意に少なくとも約90%、及び任意に少なくとも約100%が利用されてもよい。
【0018】
いくつかの態様によれば、シェル材料は、「ソフトシェル」材料を含んでいてもよい。本明細書で使用される場合、「ソフト」は、本明細書に記載される材料、特に、本明細書に記載される自己組織化が可能な少なくとも1つの材料を含む材料を指す。ソフトシェル材料の例としては、界面活性剤、特定のポリマー、1つ以上の特定の官能基を有する非界面活性剤分子、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様によれば、シェル材料は、有機材料、特に、本明細書に記載されている自己組織化が可能な少なくとも1つの材料を含む有機材料を含んでもよい。有機シェル材料の例としては、有機界面活性剤等の有機ソフトシェル材料、有機ポリマー又は有機分子含有ポリマー、1つ以上の特定の官能基を有する非界面活性有機分子、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
いくつかの態様によれば、本明細書に記載される特定の官能基は、-COOH、-NH、-COH、-OH、-SH、-POH、-SOH、-CN、-NC、-RP、-COO、-COO-OOCR、エン-ジオール、-C≡N、-N≡N(BF )、-Sac、-SR、-SSR、-CSSH、-S Na、-SeH、-SeSeR、-RP=O、-PO 2-/-P(O)(OH)、-PO 2-、-N≡C、-HC=CH、-C≡CH、-SiH、-SiCl、-OCHCH、式(I)、式(II)、式(III)、及びこれらの組み合わせであってもよく、式(I)は
【化1】
であり、式(II)は
【化2】
であり、式(III)は
【化3】
であり、上記式中、R’及びR”は、それぞれ独立に、有機鎖、特に部分的若しくは完全にフッ素化できる有機鎖、又は、単独で、若しくは別のR’若しくはR”と組み合わせて、芳香族基、特に1つ以上の親フッ素基で置換された芳香族基である。R’及びR”に有用な例示的な有機鎖としては、-(CFCF、(CHCFCF、及び(CFCHO)CFが挙げられるが、これらに限定されない。少なくとも1つの芳香族基を有する式(III)に係る官能基の例は、以下に式(IV)
【化4】
として、及び式(V)
【化5】
として示される。
【0020】
各R’及びR”は、別のR’又はR”と同じであってもよいし、異なっていてもよいことを理解すべきである。いくつかの態様によれば、各R’は許容できるフッ素化特性を示してもよく、及び/又は各R”は許容できる安定化特性を示してもよい。さらに、式(III)に示されるカルベン中の非共有の価電子を有する炭素原子は、本明細書に記載されているように、コアによって含まれる1つ以上の分子に結合するように構成されていてもよいことを理解すべきである。式(III)を有する官能基を含む材料の例としては、Smithら、「N-Heterocyclic Carbenes in Materials Chemistry」、Chem.Rev.、2019、119、4986-5056に記載されているものが挙げられ、この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0021】
いくつかの態様によれば、上記界面活性剤は、本明細書に記載されるコアを調製するのに有用な界面活性剤、例えば、極性頭部(例えば、本明細書に記載される特定の官能基の1つ以上を含む極性頭部)、炭素含有尾部(例えば、アルカン、アルキン、アルケン、及び芳香環)、フルオロカーボン含有尾部(例えば、(CF、(CHF)、(CHCFn、及び(CHOCHCF等の脂肪族鎖、並びに/又は(C6-x-)等の芳香族基)、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の官能基を有する界面活性剤等を含んでもよい。本開示によれば有用な界面活性剤の例としては、オレイルアミン、オレイン酸、トリス(トリメチルシリル)シラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデカンチオール、2-(トリフルオロメトキシ)ベンゼンチオール、P-[12-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェノキシ)ドデシル]-ホスホン酸、P-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシル)-ホスホン酸、ペンタフルオロベンジルホスホン酸、パーフルオロドデカン酸、及びこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。いくつかの態様によれば、界面活性剤は、コアの製造に有用な1つ以上の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0022】
いくつかの態様によれば、上記特定のポリマーは、その場(in-situ)重合によって形成されることが可能なポリマー、特に、モノマー又はより短いオリゴマー種からその場重合によって形成されることが可能なポリマーを含んでいてもよい。さらに、又は代わりに、上記特定のポリマーは、水素結合によって自己修復することができるものであってもよい。例えば、上記特定のポリマーは、図2に関して以下で詳細に論じられるように、充電及び放電中のコアの体積膨張及び/若しくは体積収縮に少なくとも部分的に起因する可能性がある亀裂並びに/又は間隙等のシェルの不完全部分を自律的に繰り返し「自己修復」するように水素結合することができるものであってもよい。このようなポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、アミノ末端、C=O結合を含む架橋ポリマー(P.Cordier、F.Tournilhac、C.Soulie-Ziakovic、L.Leibler、Nature 451、977、(2008);B.C.Tee、C.Wang、R.Allen、Z.Bao、Nat Nanotechnol 7、825、(2012))、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
いくつかの態様によれば、シェルは1つ以上の単分子層(単層)を含んでいてもよい。いくつかの態様によれば、シェルは、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の単分子層を含んでいてもよい。いくつかの態様によれば、単分子層のそれぞれは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0024】
図1Aは、本開示の態様に係る例示的な電気化学活性構造体11を示す。図1Aに示すように、電気化学活性構造体11は、本明細書に記載されるコア12と、本明細書に記載されるシェル材料を含む単分子層13とを含んでもよい。いくつかの態様によれば、単分子層13は、例えば、本明細書に記載される界面活性剤を含む自己組織化単分子層(SAM)であってもよい。この例では、単分子層13は、本明細書に記載されているシェルに相当することが理解されるべきである。
【0025】
図1Bは、本明細書に記載されるコア12と、本明細書に記載されるシェル材料を含む単分子層13とを含む例示的な電気化学活性構造体11を示す。図1Bは、第1の単分子層13の少なくとも一部を覆う第2の単分子層14も示す。第2の単分子層14も、第1の単分子層13と同じ又は異なるSAMであってもよい。この例では、第1の単分子層13及び第2の単分子層14が一緒になって、本明細書に記載されているシェルに対応していてもよいことを理解すべきである。
【0026】
図1Cは、本明細書に記載されるコア12と、本明細書に記載されるシェル材料を含む単分子層13とを含む例示的な電気化学活性構造体11を示す。図1Cは、単分子層13の少なくとも一部を覆うポリマー層15も示す。ポリマー層15は、本明細書に記載されるポリマーのいずれかを含んでいてもよい。この例では、単分子層13及びポリマー層15が一緒になって、本明細書に記載されるシェルに対応してもよいことが理解されるべきである。
【0027】
図1A図1Cは、特定のシェル構成例を示しているが、当該電気化学活性構造体は、異なる構成を有するシェルを含んでいてもよいことを理解すべきである。例えば、シェルは、3つ以上のSAM及び/又は2つ以上のポリマー層を含んでいてもよく、SAM及び/又はポリマー層の位置は、互いに対して任意の配置になっている。
【0028】
いくつかの態様によれば、上記シェルは、充電状態と放電状態との間の電気化学活物質の体積変化に対応するように構成されてもよい。例えば、図2は、本明細書に記載される電気化学活性構造体21の充電及び放電の例示的な模式図を示す。図2に示すように、電気化学活性構造体21は、コア22と、本明細書に記載されるSAM23及びポリマー層24を含むシェルとを含んでいてもよい。このコアは、本明細書に記載される任意のコア、例えば、Cuコアを含んでいてもよい。図2は、電気化学活性構造体21を充電する様子、例えば、Fイオンが電気化学活性構造体21を含むカソードに移動する様子の模式図を示す。図2に示すように、Fイオンは、Cuコア22の少なくとも一部がCuF25に変換されるように、シェルを横断してコア22に到達することができる。Cuコア22のCuがCuF25に変換されると、コアの体積が拡大する可能性がある。理論に拘束されることを望むものではないが、コアの体積が拡大すると、SAM23が欠陥又は亀裂を生じ、それによって体積の変化に対応してもよい。図2に示すように、電気化学活性構造体21が放電されると、CuF25がCu22へと還元されて戻り、コアの体積が収縮してもよい。体積が収縮すると、SAM23は元の構成に自己組織化又は「自己治癒」してもよい。
【0029】
図3は、本開示の態様に係る電気化学活性構造体の例示的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。特に、図3は、本明細書に記載されるシェルを有するナノワイヤを示す。
【0030】
本開示は、本明細書に記載される電気化学活性構造体の製造方法にも向けられている。いくつかの態様によれば、当該方法は、一工程合成戦略を含んでいてもよい。本明細書で使用する場合、用語「一工程合成戦略」は、少なくとも第1の反応物質が単一の合成工程で反応生成物に変換される合成戦略を指す。例えば、本明細書に記載されるコア及びシェルは、単一の合成工程で調製されてもよい。合成工程は、金属塩及び/又はその水和物を含む溶液と、1つ以上のシェル材料とを高温で一定期間組み合わせて、電気化学活性構造体を提供することを含んでもよい。いくつかの態様によれば、この高温は、少なくとも約90℃、任意に少なくとも約100℃、任意に少なくとも約110℃、任意に少なくとも約120℃、任意に少なくとも約130℃、任意に少なくとも約140℃、任意に少なくとも約150℃、任意に少なくとも約160℃、任意に少なくとも約165℃であってもよい。いくつかの態様によれば、選択された期間は、約5分、任意に約30分、任意に約1時間、任意に約2時間、任意に約6時間、任意に約12時間、任意に約18時間、任意に約24時間であってもよい。いくつかの態様によれば、「一工程合成戦略」は、2つ以上の加熱期間、例えば、本明細書に記載された第1の高温における本明細書に記載された第1の期間の第1の加熱期間と、続いて本明細書に記載された第2の高温における本明細書に記載された第2の期間の第2の加熱期間とを含んでもよい。第1及び第2の高温は、同じであってもよいし異なっていてもよく、第1及び第2の期間は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0031】
本開示は、本明細書に記載される電気化学活性構造体を含む電気化学セルにも向けられている。いくつかの態様によれば、当該電気化学セルは、カソードと、アノードと、好適な液体電解質とを含む液体型Fシャトル電池であってもよい。本開示によれば有用な適切な液体電解質の例としては、米国特許出願公開第2017/0062874号明細書に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、この特許文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これに関連して、図15は、本開示の態様に係る例示的な電気化学セル、具体的には放電中の例示的な電気化学セルの模式図を示す。図15に示すように、放電中の電子の流れの方向は、負極から正極に向かっている。フッ化物イオン電気化学セルの充電時には、負極から放出されたフッ化物アニオンが電解質中を移動し、正極に収容される。充電中の電子の流れの方向は、正極から負極に向かっている。放電及び充電時のフッ化物イオンの放出及び収容は、電極で発生する酸化還元反応に起因する。いくつかの態様によれば、カソードは、本明細書に記載される電気化学活性構造体を含んでいてもよい。
【0032】
「金属塩」は、カチオン(複数可)が正に帯電した金属イオン(複数可)であり、アニオン(複数可)が負に帯電したイオン(複数可)であるイオン性の錯体である。「カチオン」は正に帯電したイオンを指し、「アニオン」は負に帯電したイオンを指す。本開示に係る「金属塩」において、アニオンは、任意の負に帯電した化学種であってよい。本開示に係る金属塩中の金属は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、アルミニウム塩、又はポスト遷移金属塩、及びそれらの水和物を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0033】
「電極」は、電解質や外部回路との間でイオン及び電子が交換される電気伝導体を指す。本明細書では、「正極」と「カソード」は同義的に用いられ、電気化学セルにおいてより高い(すなわち、負極よりも高い)電極電位を有する電極を指す。
【0034】
本明細書では、「負極」と「アノード」は同義的に用いられ、電気化学セルにおいてより低い(すなわち、正極よりも低い)電極電位を有する電極を指す。カソード還元は、化学種が電子(複数可)を得ることを指し、アノード酸化は、化学種が電子(複数可)を失うことを指す。本発明の正極及び負極は、薄膜電極構成等の薄い電極設計を含む、電気化学及び電池科学の技術分野で公知のような、様々な有用な構成及び形態因子で提供されてもよい。電極は、例えば、米国特許第4,052,539号明細書、及びOxtobyら、Principles of Modern Chemistry(1999)、401-443頁に開示されているものを含む、当該技術分野で知られているように製造される。
【0035】
用語「電気化学セル」は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するか、若しくは電気エネルギーを化学エネルギーに変換するデバイス及び/又はデバイス構成要素を指す。電気化学セルは、2つ以上の電極(例えば、正極及び負極)と電解質とを有し、電極表面で起こる電極反応により電荷移動プロセスが発生する。電気化学セルとしては、一次電池、二次電池、及び電気分解システムが挙げられるが、これらに限定されない。一般的なセル及び/又は電池の構造は、当該技術分野で公知である(例えば、Oxtobyら、Principles of Modern Chemistry(1999)、401-443頁参照)。
【0036】
「電解質」とは、イオン伝導体を指し、このイオン伝導体は固体、液体(最も一般的)、まれに気体(プラズマ等)であることができる。
【0037】
この書面による説明は、好ましい実施形態を含む本発明を開示するために、また、任意のデバイス又はシステムを製造及び使用し、任意の組み込まれた方法を実行することを含め、任意の当業者が本発明を実施できるようにするために例を用いている。本発明の特許可能な範囲は特許請求の範囲によって規定され、そして本発明の特許可能な範囲は当業者が思いつく他の例を含むことができる。そのような他の例は、請求項の文字通りの文言とは異なることのない構造要素を有する場合、又は請求項の文字通りの文言とは実質的に異ならない同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲に含まれることが意図される。記載された様々な実施形態からの態様、及びそのような各態様に対する他の公知の等価物は、本願の原理に従った追加の実施形態及び技術を構築するために、当業者が混合及び適合させることができる。
【0038】
本明細書に記載された態様は、上記の例示的な態様に関連して説明してきたが、既知のものであれ、現在予期されていないか予期されない可能性があるものであれ、様々な代替例、修正例、変形例、改良例、及び/又は実質的な等価物が、少なくとも当業者には明らかになる可能性がある。従って、上述の例示的な態様は、限定的なものではなく例示的なものであることが意図されている。本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。それゆえ、本開示は、すべての公知又は後に開発される代替例、修正例、変形例、改良例、及び/又は実質的な等価物を包含することを意図している。
【0039】
単数形の要素への言及は、特に明記されていない限り「1つであって、1つだけ」を意味するものではなく、「1つ以上」を意味することが意図されている。本開示全体を通して記載されている様々な態様の要素に対する、当業者に知られているか、又は後に知られるようになるすべての構造的及び機能的な等価物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。さらに、本明細書で開示されているものは、公共に解放することを意図したものではない。
【0040】
さらに、本明細書では、「例」という語句は、「例、実例、又は説明として役割を果たす」という意味で使用されている。本明細書で「例」として記載されているあらゆる態様は、必ずしも他の態様よりも好ましい又は有利であると解釈されるものではない。特に具体的に異なる記載がされていない限り、「いくつかの」という用語は、1つ以上を指す。「A、B、又はCの少なくとも1つ」、「A、B、及びCの少なくとも1つ」、並びに「A、B、C、又はそれらの任意の組み合わせ」等の組み合わせは、A、B、及び/又はCの任意の組み合わせを含み、複数のA、複数のB、又は複数のCを含んでいてもよい。具体的には、「A、B、又はCの少なくとも1つ」、「A、B、及びCの少なくとも1つ」、「A、B、C、又はそれらの任意の組み合わせ」等の組み合わせは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB、A及びC、B及びC、又はA及びB及びCであってもよく、そのような組み合わせはいずれもA、B、又はCの1つ以上のメンバーを含んでいてもよい。
【0041】
本明細書では、「約」及び「およそ」という用語は、当業者が理解しているように、近いことと定義される。非限定的な一実施形態では、用語「約」及び「およそ」は、10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、最も好ましくは0.5%以内であると定義される。
【0042】
さらに、本願中のすべての参考文献、例えば、発行済み若しくは付与済みの特許又は同等物を含む特許文書、特許出願公開、及び非特許文献文書又は他のソース資料は、参照により個別に組み込まれているかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0043】
例I:電気化学活性構造体の調製
オレイルアミン(5g、18.7mmol)及びオレイン酸(0.1g、0.354mmol)中のCuCl・2HO(85mg、0.5mmol)の溶液を、完全に溶解するまでガラスバイアル内で超音波処理した。トリス(トリメチルシリル)シラン(0.5g、2.0mmol)を加え、この混合物を、暗青色の溶液が透明な黄色になるまで120℃まで加熱した。この混合物をさらに165℃まで18時間加熱した(例えば、Cui F、Yu Y、Dou Lら、Nano Letters 2015、15、7610-7615に記載されているとおり。この文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。得られたシェル付きの銅ナノワイヤを遠心分離(12,000rpm、10分)により単離し、トルエンで2回、エタノール(10mL)で洗浄した。
【0044】
例II:電気化学活性構造の熱重量分析(TGA)及びX線光電子分光法(XPS)分析
例Iに従って、電気化学活性構造体を調製し、熱重量分析(TGA)及びX線光電子分光法(XPS)を用いて、約0℃~約800℃の温度範囲でこの構造体を分析した。
【0045】
図11図14は、例Iに従って調製した電気化学活性構造体に対応するXPSスペクトルを示す。具体的には、図11は、例Iに従って調製した電気化学活性構造体の銅コアのXPSスペクトルを示す。図12は、例Iに従って調製した電気化学活性構造体のシェル材料からの窒素のXPSスペクトルを示す。図13は、例Iに従って調製した電気化学活性構造体のシェル材料からの炭素のXPSスペクトルを示す。図14は、例Iに従って調製した電気化学活性構造体のシェル材料からの酸素のXPSスペクトルを示す。
【0046】
図4は、得られたTGAプロットを示す。特に、図4は、研究した温度範囲で以下のような相を示す:I.シェル及び電気化学活物質(すなわち、銅ナノワイヤ)の表面に吸着したガスの脱着;II.シェル及び電気化学活物質の表面に吸着した空気;III.シェルの「焼き切り」;並びにIV.電気化学活物質(すなわち、銅)の酸化。特に、III相は、電気化学活性構造体に対するシェルの重量割合が約5.5%(w/w)であることを示す重量損失を示す。表面上の分子被覆率は、約6nm-2であると判断した。
【0047】
TGA及びXPS分析に基づいて、シェルは主にオレイルアミン又は/及びオレイン酸を含むと結論づけた。
【0048】
図10は、例Iに従って調製した銅ナノワイヤ101表面のシェル102の例示的模式図を示す。この例示的模式図では、4nmの面積を持つ(111)銅表面を想定した。分子長は約1.5~1.8nmであり、銅原子の直径は約0.145nmである。この例では、電気化学活性構造体の初期重量は約2.587mgであり、残渣重量(主に銅酸化物)は約2.4385mgであった。
【0049】
例III:電気化学活性構造体の充電/放電
電気化学活性構造体を例Iに従って調製し、三電極セルの一部として提供した。特に、この電気化学活性構造体を、スーパーPカーボンブラック(SP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)とともに、約8:1:1の重量比で作用電極の一部として提供した。また、このセルは、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(MPPyTFSI)中の0.01Mトリフルオロメタンスルホン酸銀(AgOTf)中の銀ワイヤから作製した参照電極、及び白金ワイヤから作製した対電極も含んでいた。このセルは、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)電解質中の1M フッ化N,N,N-トリメチル-N-ネオペンチルアンモニウム(NpMeNF)を含んでいた。
【0050】
図5は、低電流(すなわち、約10μA)での電気化学活性構造体の充電/放電を表す。図5に示すように、高い実用容量(すなわち、203mAh/g)が得られた。図6は、充電(すなわち、フッ素化)及び放電(すなわち、脱フッ素化)後の電気化学活性構造体に対応する粉末X線回折(p-XRD)パターンを示す。図6に示すように、充電後には銅がCuFに変化し、放電後にはCuFが銅に還元されている。このように、銅はシェル保護を伴って可逆的に帯電させることができると結論づけた。
【0051】
例IV:様々な電流を用いる電気化学活性構造体の充電/放電
例IIIに記載したようにして三電極セルを調製し、3つの異なる電流、具体的には10μA、100μA、及び300μAの電流における充電/放電を調べた。図7に示すように、この電気化学活性構造体は、低い電流密度(すなわち、10μA)でも、高い電流密度(すなわち、100μA及び300μA)でも充電及び放電することができた。当該技術分野で公知のシェルを有する銅を含有する電気化学活性構造体の中にはシェルの高いイオン抵抗に起因して低電流密度でしか充電及び放電しないことが知られているものがあるので、この結果は驚くべきものである。
【0052】
図8は、調べた3つの充電/放電電流における電気化学活性構造体の容量を示す。図8に示すように、すべての電流で高い容量が得られた。具体的には、10μAの電流で203mAh/gの容量に到達し、100μAの電流で338mAh/gの容量に到達し、300μAの電流で504mAh/gの容量に到達した。300μAで得られた容量は、CuFの理論容量、すなわち528mAh/gに近い値であったことに留意されたい。これは、当該技術分野で公知のシェルを含むいくつかの電気化学活性構造体が約50mAh/g(10μA時)の容量を提供することが知られている一方で、他の電気化学活性構造体が約180mAh/g(10μA時)の容量を提供することが示されていることを考えると、驚くべきことであった。驚くべきことに、本開示に係る電気化学活性構造体は、高い実用容量とともに、高速の充電及び放電の両方を提供する。
【0053】
図9は、充電(すなわちフッ素化)及び放電(すなわち脱フッ素化)後の電気化学活性構造体に対応するp-XRDパターンを示す。図9に示すように、充電後には銅がCuFに変化し、放電後にはCuFが銅に還元されている。このように、銅は、調べたすべての電流において、シェル保護を伴って可逆的に帯電させることができると結論づけた。
【0054】
例V:金属電極のパッシベーションのための自己組織化単分子膜界面の全原子分子動力学シミュレーション
全原子分子動力学シミュレーションを行い、フッ化物イオン電池の金属電極の自己組織化単分子層(SAM)を不動態化するための設計ルールを検討した。E-(CH(CHOCHCFF、E-(CH(CFCHCF、E-(CH(CHOCHH、E-(CH(CFCFの4種類のSAM分子について、α-CH及び/又はフッ素化炭素(CF)部分の有無に関して調べた。ここで、Eは電極を表す。両方の考慮事項は、フッ化物イオンの溶媒和に関係していることが確認された。フッ化物塩であるNpF(フッ化N,N,N-ジメチル-N,N-ジネオペンチルアンモニウム)を、BTFE(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル)又はグライム電解液とともに、モル密度約1.2Mでシミュレーションセルに導入した。シミュレーションの結果(後述するフッ化物イオンのSAMインターカレーションの統計と動力学の両方を考慮)から、SAM部分と溶媒の組み合わせの集合を調査した中から、(CHOCHCFFとグライムの組み合わせが最も優れていると考えられた。
【0055】
モデル金属電極は、一定電位(V)に保持されており、それらのそれぞれがV=V又はVに保持されている。バイアス電位は、ΔV=V-Vである。金属原子の電荷は時間的に変動する。そうすることにより、電極の電荷分極や鏡像電荷効果がシミュレーションに含まれる。
【0056】
ここで選択したSAM被覆密度(5.625nm-2)は、SAM領域への電解質のインターカレーションを防ぐのに十分な高さであり、電極パッシベーションの第一条件を満たしている。このSAM被覆密度では、SAM分子の大部分が電極に対して立っている。以下では、SAM領域は各電極から5~14Åの距離にある。
【0057】
図16は、ΔV=0(バイアス電位ゼロ)でのフッ化物イオンSAMインターカレーション統計のシミュレーション結果を示す。CHOCHCF部分及びCFCH部分のSAMは、(CHOCHH分子のSAMに比べて、SAM領域におけるフッ化物イオンの平均局所密度<c>が高く(0.3~0.5M)、電極からのフッ化物イオンの平均距離<d>が短い(9.5~11.5Å)ことを示した。考慮したSAM領域は、各電極から5~14Å以内の領域である。これは、電解質がBTFEでもグライムでも同じであると考えられる。(CFCF分子のSAMは、フッ化物イオンのSAMインターカレーションを許容しない。この観測結果は、容易なフッ化物イオンのSAMインターカレーションを阻害しないためには、SAMには互いに隣接するCFとCHの両部分が必要であることを示唆する。
【0058】
以下では、十分なフッ化物イオンのSAMインターカレーションを可能にするCHOCHCF部分及びCFCH部分のSAMについてのみ論じる。
【0059】
図17Aを参照すると、いくつかの電極電位(V=-1、0、+1V)における平均力ポテンシャル(PMF)の計算値が、BTFE又はグライム電解液を用いたCHOCHCF部分及びCFCH部分のSAMについて示されている。電極の分極によってPMFが変化し、フッ化物イオンのSAMインターカレーションが促進又は抑制される。SAM領域と電解質領域とを隔てるおよそ2/β(β-1=kTであり、kはボルツマン定数であり、T=400Kである)の障壁が存在し、これはフッ化物イオンのSAMインターカレーションの動力学に関係している。この観測結果は、SAMの設計においてインターカレーションの動力学が重要な役割を果たす可能性を示唆している。
【0060】
図17B図17Cを参照すると、BTFE又はグライム電解液を用いたCHOCHCF及びCFCH部分のSAMについて、SAM領域におけるフッ化物イオンの平均局所密度<c>と、いくつかの(V=-1、0、+1V)における電極からのフッ化物イオンの短い平均距離<d>の計算結果が示されている。CHOCHCF部分のSAMは、(CFCHCF部分のSAMに比べて、より多くのフッ化物イオンをインターカレートさせるだけでなく、電極に近い位置に存在させることができる、つまり<c>が高く、<d>が小さくなる。これは、電解質がBTFEであってもグライムであっても、調べたすべての電極電位において同じであると考えられる。それゆえ、フッ化物イオンのSAMインターカレーションの統計に基づいて、CHOCHCF部分のSAMが今回考慮したものの中で最も優れていると考えられる。
【0061】
図18Aは、SAM内のフッ化物イオンの溶媒和を示す。特に、図18Aは、フッ化物イオンをX網目のパターンで、電極原子を黒丸で示す。フッ化物イオンの3Å以内にある水素原子は、フッ化物イオンを溶媒和する「パートナー」と考えられる。
【0062】
図18Bを参照すると、BTFE又はグライム電解液を用いたCHOCHCF部分及びCFCH部分のSAMについて、SAMにおけるフッ化物イオンの溶媒和と、ΔV=0におけるその動力学が示されている。SAMのCH部分はCF部分に隣接しており、フッ化物イオンの溶媒和に関与していることが確認される。
【0063】
図18Cを参照すると、フッ化物イオンとSAM分子のパートナーの水素原子との間の結合について、時間相関関数H(t)を用いて計算した「パートナー」水素の交換の速度
【数1】
が示されている。H(t)が1から0に減衰するとすると、τexはH(τex)=e-1を用いて定義される。「パートナー」の交換は、SAM領域内でのフッ化物イオンのホッピング運動に関連して、約1nsで発生するプロセスである。
【0064】
図19を参照すると、いくつかの電極電位における時間相関関数FAB(t)を用いて計算したフッ化物イオンのデインターカレーションの速度
【数2】
が示されている。FAB(t)は、フッ化物イオンがSAM領域から電解質領域にデインターカレーションすると、1から0に減衰する。τdeは、FAB(τde)=e-1を用いて定義される。パートナー交換プロセスと比較して、デインターカレーションははるかに遅いプロセス(20ナノ秒超)であり、これは図17Aに示したPMFにおいてフッ化物イオンが克服すべきかなり大きな障壁があることに起因している。
【0065】
電極の分極は、デインターカレーションの動力学に影響を与え、デインターカレーションプロセスを促進又は抑制する。さらに、デインターカレーションの動力学は電解質にも依存しており、グライム電解液ではCHOCHCFのSAMからのプロセスがCFCHのSAMからのプロセスよりも速いが、BTFE電解質では遅くなる。これは、調べたすべての電極電位において同じであると考えられる。有限の電極電位では、CHOCHCFのSAMとグライム電解液が最も容易にフッ化物イオンをデインターカレーションすることができる。
【0066】
フッ化物イオンのSAMインターカレーションの統計及び動力学のシミュレーション結果は、機能的なパッシベーションSAMの設計ルールを以下のように示唆している:(i)形成能力、電解質溶媒のインターカレーションを防止するために十分緻密なSAM表面被覆;(ii)実質的なフッ化物イオンSAMインターカレーションを確実にするために、フッ化物イオンの溶媒和にはα-CHとCFの両方の部位が必要であること、又はフッ化物イオンとの相互作用に有利な他の部位が必要であること;(iii)フッ化物イオンのSAMインターカレーション及びデインターカレーションの十分な動力学を確保するための電解質との適合性;及び(iv)フッ化物イオンのSAMインターカレーションの障壁を減らし、フッ化物イオンのSAMインターカレーション及びデインターカレーションの十分な動力学を確保するために、電解質に面した適切な末端基であること。
【0067】
これらのMD計算から、フッ化物イオンの溶媒和サイトを絵で表現することができる(図20)。図20では、濃灰色が電極原子を示し、灰色が炭素原子を示し、赤色が酸素原子を示し、白色が水素原子を示し、ピンク色がフッ素原子を示し、緑色が溶媒和サイトを示す。これは、フッ化物イオンが良好に溶媒和又は結合できるSAM内の空間的な位置のスナップショットを示している。Webbら、「Systematic computational and experimental investigation of lithium-ion transport mechanisms in polyester-based polymer electrolytes」、ACS Cent.Sci.、1、198(2015);Webbら、「Chemically specific dynamic bond percolation model for ion transport in polymer electrolytes」、Macromolecules、48、7346(2015);及びMillerら、「Designing polymer electrolytes for safe and high capacity rechargeable lithium batteries」、Acc.Chem.Res.、50、590(2017)を含むリチウムイオンの溶媒和に関する他の研究(これらの全てが参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によれば、フッ化物イオンの溶媒和サイト分布は、距離ベースの基準を用いてSAMの各構成において決定される。溶媒和サイトは、冗長性やSAM内の他の原子との立体衝突を避けるために除かれる。
【0068】
使用するプロトコルは以下の通りである。
1.サイトは最初、長方形のグリッド上に用意される(146520サイト)。
2.サイトが(3Å以内に)SAM分子の少なくとも4個の近接した水素を有する場合、そのサイトを収集する。
3.2つのサイトは、少なくとも同じ最も近い4つの水素を共有していれば、同じサイトとみなす。同じ最も近い4つの水素を持つサイトの集合に対する代表的なサイトの位置は、その複数のサイトの重心である。
3.このサイトは、SAM分子及び電極の他のすべての原子と大きく重ならないことが必要である(原子間距離>2Å)。
4.最後の工程では、a)少なくとも同じ2つの水素原子を共有し、b)サイト間の距離が1Å以下の場合、サイトを統合する。最終的な統合サイトの位置は、統合される複数のサイトの重心である。
【0069】
図20に示したBTFE様SAMでは、37箇所のフッ化物の溶媒和サイト(緑色)が特定された。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図18C
図19
図20
【国際調査報告】