(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】統合精製法におけるMEROX法副生成物の制御触媒酸化
(51)【国際特許分類】
C10G 27/04 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
C10G27/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531529
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 US2019056870
(87)【国際公開番号】W WO2020117380
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513185700
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】SAUDI ARABIAN OIL COMPANY
【住所又は居所原語表記】Box 5000,Dhahran,31311 SAUDI ARABIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オマール,レファ コセオグル
(72)【発明者】
【氏名】ロバート,ピーター,ホグキンス
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA03
4H129DA08
4H129HA03
4H129HA14
4H129HB04
4H129KD10X
4H129KD12X
4H129KD15X
4H129KD16X
4H129KD16Y
4H129NA44
(57)【要約】
統合制御触媒酸化方法は、一般化されたメルカプタン酸化(MEROX)法の副生成物として生成された価値の低いジスルフィド油(DSO)化合物を、完全または部分的に水溶性であり、例えばディーゼル燃料中の潤滑添加剤として、および芳香族溶媒分離方法における溶媒としての実用性を有する、スルホキシド、スルホン、スルホネートおよびスルフィネートを含む酸化DSO(ODSO)化合物に変換する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプタンを含む炭化水素ストリームからメルカプタンを除去するための方法から得られたジスルフィド油化合物を含むメルカプタン不含炭化水素ストリームを処理するための方法であって、
少なくとも1種の触媒の存在下でジスルフィド油化合物を所定のモル濃度の少なくとも1種の酸化剤と接触させることによりジスルフィド油(DSO)化合物を制御触媒酸化に供し、酸化ジスルフィド油(ODSO)および廃水を含む酸化流出物ストリームを生成するステップと;
酸化流出物ストリームを水不溶性酸化ジスルフィド油ストリームおよび廃水ストリームに分離するステップと;
水不溶性酸化ジスルフィド油を回収するステップと
を含む方法。
【請求項2】
廃水ストリームが、高い割合の水溶性ODSO化合物および低い割合の水不溶性ODSO化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
廃水ストリーム中の水溶性ODSO化合物が、分離および回収される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ODSO化合物が、最大で6個の酸素原子を含む、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比が、反応で生成された水溶性および水不溶性ODSO化合物の割合を制御するように予め決められている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の酸化剤が、空気、酸素、窒素の酸化物、オゾン、およびそれらの組合せからなる群から選択される気相酸化剤である、請求項1および5に記載の方法。
【請求項7】
酸化剤が、1種または複数種の有機ヒドロペルオキシド、有機過酸化物、および1種または複数種の有機ヒドロペルオキシドと有機過酸化物との組合せからなる群から選択される、請求項1および5に記載の方法。
【請求項8】
酸化剤が、アルキルヒドロペルオキシド、アリールヒドロペルオキシド、過酸化ジアルキル、過酸化ジアリール、ペルエステルおよび過酸化水素からなる群から選択される液相過酸化物である、請求項1、5および7に記載の方法。
【請求項9】
ペルエステルが、一般式R
1C=O-O-O-R
2(式中、R
1およびR
2は、同じまたは異なるアルキルまたはアリール基である)を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸化剤が、1種または複数種の有機ヒドロペルオキシド、有機過酸化物、および1種または複数種の有機ヒドロペルオキシドと有機過酸化物との組合せからなる液体酸化剤、ならびに空気、酸素、窒素の酸化物およびオゾンの1つまたは複数からなる群から選択される1種または複数種の気相酸化剤の群から選択される、請求項1および5に記載の方法。
【請求項11】
DSO酸化触媒が、遷移金属触媒である、請求項1および5に記載の方法。
【請求項12】
遷移金属触媒が、Mo(VI)、W(VI)、V(V)、Ti(IV)およびこれらの活性種の少なくとも1つを含む組合せからなる群から選択される活性種を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸化触媒が、タングステン酸ナトリウムである、請求項1および11に記載の方法。
【請求項14】
遷移金属触媒が、ルイス酸活性を示す、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
遷移金属触媒の酸化電位が、酸化剤の酸化電位より低い、請求項11および12に記載の方法。
【請求項16】
メルカプタン不含炭化水素ストリームが、低い割合のスルフィドおよび高い割合のジスルフィド油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比が、1:1~50:1、好ましくは1:1~25:1、最も好ましくは1:1~5:1である、請求項1および5に記載の方法。
【請求項18】
メルカプタン不含炭化水素ストリームが、スルフィドおよびジスルフィドを含み、酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比が、1:1~1:50、好ましくは1:1~25:1、最も好ましくは1:1~5:1である、請求項1、5および17に記載の方法。
【請求項19】
メルカプタン不含炭化水素ストリームが、スルフィドおよびジスルフィド油を含み、酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比が、1.8:1~2.9:1、好ましくは2.4:1~2.89:1、最も好ましくは1.87:1~2.89:1である、請求項1、5および17に記載の方法。
【請求項20】
酸化ステップにおける触媒のジスルフィド油に対するモル比が、0.0005~0.02、好ましくは0.001~0.01である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ジスルフィド油酸化ステップにおいて存在する触媒が、スルフィド/ジスルフィド油混合物の質量流量を基準として0.15重量%~5.7重量%である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メルカプタン酸化(MEROX)法の副生成物として生成されるジスルフィド油(DSO)化合物の処理のための統合精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの炭化水素ストリームにおいて見られる一般に悪臭を放つメルカプタンの除去に長い間使用されているメルカプタン酸化(MEROX)法は、50年以上も前に精製産業に導入された。環境上の理由から燃料の硫黄含量を低減する規制要件のために、精製所はこれまで、またこれからも大量の硫黄含有副生成物の廃棄に直面する。
【0003】
ジスルフィド油(DSO)化合物は、液化石油ガス、ナフサおよび他の炭化水素留分を含む様々な石油ストリームのいずれかからメルカプタンが除去されるMEROX法の副生成物として生成される。これは、原油に存在する酸敗臭または悪臭を放つメルカプタンを除去するため、一般に「スイートニング法」と呼ばれる。「DSO」という用語は、本明細書および特許請求の範囲において便宜上使用され、MEROX法の副生成物として生成されるジスルフィド油の混合物を含むことが理解される。
【0004】
「MEROX」という名称は、方法自体の機能、すなわち酸化によるメルカプタンの変換に由来する。その用途の全てにおけるMEROX法は、周囲温度および周囲圧力付近でのメルカプタンからジスルフィドへの酸化を加速する、苛性環境等の塩基性環境における有機金属触媒の能力に基づく。全体的な反応は、以下のように表され得る:
RSH+1/4O2→1/2RSSR+1/2H2O (1)
【0005】
(式中、Rは、直鎖、分岐鎖状、または環状であってもよい炭化水素鎖であり、鎖は、飽和または不飽和であってもよい)。ほとんどの石油留分では、Rが鎖内に1、2、3、最大10、またはそれより多くの炭素原子を有し得るようにメルカプタンの混合物が存在する。この可変鎖長は、反応においてRおよびR’により示される。すると反応は以下のように記述される:
2R’SH+2RSH+O2→2R’SSR+2H2O (2)
【0006】
この反応は、任意の酸敗性メルカプタンを含む留出物が大気中の酸素に曝露されるといつでも自発的に生じるが、速度が非常に遅い。さらに、触媒反応(1)は、水酸化ナトリウム等のアルカリ苛性溶液の存在を必要とする。メルカプタン酸化は、中程度の精製下流温度で経済的に実用的な速度で進行する。
【0007】
MEROX法は、液体ストリーム、ならびにガスおよび液体の複合ストリームの両方で行うことができる。液体ストリームの場合、メルカプタンはジスルフィドに直接変換され、これは生成物中に残留し、したがって流出物ストリームの全硫黄含量は低減されない。ジスルフィドの蒸気圧はメルカプタンの蒸気圧に比べ比較的低いため、その存在は、臭気の観点からははるかに不快ではないが、環境上許容されず、その廃棄は困難となり得る。MEROX法は、典型的には、液体ストリームのための固定床反応器システムを利用し、通常、135℃超~150℃の終点を有する投入原料と共に使用される。メルカプタンは、固定床反応器システム内の触媒上で、例えばMEROX試薬が含浸され、苛性溶液で湿潤した活性炭上でジスルフィドに変換される。反応器の前の炭化水素供給ストリーム中に空気が注入され、触媒含浸床の通過中に供給物中のメルカプタンがジスルフィドに酸化される。ジスルフィドは苛性溶液に実質的に不溶性であり、炭化水素相に残留する。既知の副反応、例えばH2Sの中和、フェノール化合物の酸化、同伴苛性溶液等により生じる望ましくない副生成物を除去するために、後処理が必要である。
【0008】
ガスおよび液体の混合ストリームの場合、炭化水素ストリームの両方の相に抽出が適用される。メルカプタン抽出の完全度は、個々のメルカプタンの分子量、メルカプタン分子の分岐度、苛性ソーダの濃度、およびシステムの温度の関数であるアルカリ溶液へのメルカプタンの溶解度に依存する。その後、得られたDSO化合物は分離され、苛性溶液は、触媒の存在下での空気による酸化によって再生され、再利用される。
【0009】
添付の図面を参照すると、
図1は、メルカプタンを含むプロパンおよびブタンの複合炭化水素ストリーム(1)が処理される実施形態における、硫黄化合物を除去するための液-液抽出の一般化された従来型の先行技術MEROX法の簡略図であり、これは、苛性溶液(2)の存在下で、均一コバルト系触媒を有する抽出槽(10)に炭化水素ストリーム(1)を導入するステップと;
抽出(10)槽の抽出セクションに向流で炭化水素ストリームを通過させるステップであって、抽出セクションは、メルカプタンを水溶性アルカリ金属アルカンチオレート化合物に変換する循環苛性溶液との触媒反応のための1つまたは複数の液-液接触抽出デッキまたはトレイ(図示せず)を含むステップと;
メルカプタンを含まない、または実質的に含まない炭化水素生成物ストリーム(3)を抽出槽(10)から引き出すステップと;
使用済み苛性溶液およびアルカリ金属アルカンチオレートの複合ストリーム(4)を抽出槽(10)から回収するステップと;
触媒(5)および空気(6)が導入される反応器(20)内で使用済み苛性溶液を触媒湿式空気酸化に供して、再生された使用済み苛性溶液(8)を提供し、アルカリ金属アルカンチオレート化合物をジスルフィド油に変換するステップと;
ジスルフィド油(DSO)化合物および低い割合のスルフィドの副生成物ストリーム(7)を回収するステップと
を含む。
【0010】
MEROX法における湿式空気酸化ステップの流出物は、好ましくは、低い割合のスルフィドおよび高い割合のジスルフィド油を含む。当業者に知られているように、この流出物ストリームの組成はMEROX法の有効性に依存し、スルフィドは持ち越し材料であると推定される。方法の商業的実践のために様々な触媒が開発されている。MEROX法の効率はまた、ストリーム中に存在するH2Sの量の関数である。H2S除去のために事前洗浄ステップを設けることが、一般的な精製所における慣行である。
【0011】
MEROX法において生成されたジスルフィド油化合物は、様々なジスルフィドを含み得る。例えば、プロパンおよびブタンの回収のために設計されたMEROXユニットは、表1に記載の組成を有するジスルフィド油混合物を生成する。
【0012】
【0013】
表1は、半定量的GC-MSデータから得られるジスルフィド油の組成を示す。成分に対して標準は測定されなかったが、表1のデータは相対量を示すには正確である。定量的な全硫黄含量はエネルギー分散X線蛍光分光法により決定され、63wt%の硫黄が示されたが、この値は後の計算に使用される。GC-MSの結果は微量のトリ-スルフィド種の証拠を示しているが、ジスルフィド油ストリームの大部分は表1に特定される3つの成分を含む。
【0014】
MEROXユニットにより生成された副生成物ジスルフィド油は、様々な他の精製ユニット操作において加工および/または廃棄され得る。例えば、DSOは、結果的なプールのより高い硫黄含量を犠牲にして、燃料油プールに添加され得る。DSOは、より高い水素消費を犠牲にして、水素処理/水素化分解ユニットで加工され得る。ジスルフィド油はまた不快な悪臭または酸敗臭を有し、これは周囲温度でのその比較的低い蒸気圧のために幾分少ないものの、この油の取扱いにおいて問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、その環境上許容される廃棄を容易化および単純化し、ならびに/または精製所内での改質された生成物の利用を可能にし、それにより精製業者に対するこのクラスの副生成物の価値を高めるために、その特性を有効化および改質する大量のDSO副生成物の処理のための効率的および経済的な方法を提供することが、長期にわたり明らかに必要であった。
【0016】
本開示において、一般化されたMEROX法への言及はまた、DSO副生成物の生成をもたらす炭化水素ストリーム中のメルカプタンの酸化のための同等の方法を含むことが理解される。「MEROX」という用語は、本明細書において使用される場合、独自の方法を含む一般的呼称として、および一般化されたメルカプタン酸化として理解される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、制御触媒酸化反応においてMEROX法の副生成物として生成された液体ジスルフィド油(DSO)を処理して、DSO化合物を完全または部分的に水溶性であるスルホキシド、スルホン、スルホネートおよびスルフィネートに変換する、MEROX法または他のメルカプタン酸化法と併せて使用するための統合された方法に関する。これらの酸化生成物の溶解度は、より高い価値の生成物ストリームを生成するための直接的な、または下流工程におけるそれらのその後の取扱い、処理および経済的に有益な使用を容易にする。
【0018】
本開示の統合された方法の重要な態様は、水溶性または水不溶性の化合物を生成するために酸化の度合いまたは程度を制御する能力である。方法は、有利には、MEROX法もしくはその同等の方法からの供給物、または精製所の生産スケジュールに対応するために必要な貯蔵もしくはサージタンクからのジスルフィド油と共に連続的に操作され得る。
【0019】
MEROX法からのジスルフィド油ストリームは、触媒の存在下で酸化されて、酸化の度合いまたは程度を制御することにより、スルホキシド、ジスルホキシドおよびスルホン等の水不溶性硫黄化合物、または完全に水溶性のスルホキシドスルホネート/スルフィネート、スルホンスルホネート/スルフィネート、ジスルホンおよびスルホンスルホキシドの混合物が生成される。触媒反応生成物の100%を構成するように調整され得る完全に水溶性の成分は、大きな環境上の影響なしに精製所において便利に、および経済的に廃棄され得る。
【0020】
以下の例は、硫黄化合物が除去されたプロパンおよびブタンを回収する目的での供給物の処理において生成された短鎖ジスルフィド油副生成物を説明する。苛性再生ユニットからの酸化生成物は、ジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィドおよびジエチルジスルフィドとして同定された。しかしながら、本開示の触媒酸化法は、メチルおよびエチル基を含む単鎖化合物、ならびに最大でC20の直鎖および分岐鎖の両方を含むより長鎖のDSO副生成物の両方に対して行うことができる。
【0021】
MEROX法において生成された一般式RSSRを有するジスルフィド油は、触媒なしで、または1つもしくは複数の触媒ありで酸化され、本開示による溶媒としての使用のための酸化ジスルフィド油(ODSO)を生成し得る。酸化ジスルフィド油(ODSO)を生成するためのジスルフィド油(RSSR)の酸化に触媒が使用される場合、触媒は、不均一または均一酸化触媒であってもよい。酸化触媒は、Ti、V、Mn、Co、Fe、Cr、Cu、Zn、WおよびMoを含む周期表のIUPAC族4~12からの金属を含む1種または複数種の不均一または均一触媒から選択され得る。ある特定の実施形態において、好適な均一触媒は、モリブデンアセチルアセトネート、ビス(アセチルアセトネート)ジオキソモリブデン、ナフテン酸モリブデン、タングステン酸ナトリウム、モリブデンヘキサカルボニル、タングステンヘキサカルボニル、タングステン酸ナトリウムおよび五酸化バナジウムを含む。ある特定の実施形態において、好適な不均一触媒は、担体、例えばアルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ、チタニア、天然ゼオライト、合成ゼオライト、および上記担体の1つまたは複数を含む組合せに堆積されたTi、V、Mn、Co、Fe、Cr、W、Mo、およびそれらの組合せを含む。現在好ましい触媒は、タングステン酸ナトリウム、Na2WO4・2H2Oである。好適な触媒化合物は、例えばSigma-Alrich Co.,LLC(St.Louis、Missouri)から市販されている。ある特定の実施形態において、触媒は、0.2~1.2cc/g、好ましくは0.6~0.9cc/gの範囲内の細孔容積、20~800m2/g、好ましくは100~400m2/gの範囲内の全表面積、および2~1000nm、好ましくは5~50nmの範囲内の平均細孔直径を有する。
【0022】
酸化には、触媒のルイス酸性および酸化電位が重要なパラメータである。触媒は、高い酸化電位を有する場合、油を分解する。特定の理論に束縛されることを望まないが、反応機構は、反応物質であるジスルフィドおよび過酸化物と複合体を形成するルイス酸金属を含むようであり、この複合体は、次いで活性種となる。
【0023】
本開示の統合精製法は、水溶性スルホキシドスルホネート/スルフィネート、スルホンスルホネート/スルフィネート、ジスルホンおよびスルホンスルホキシドを含むジスルフィド油の制御触媒酸化、ならびに酸化ジスルフィド油(ODSO)および廃水ストリームの回収により、一般化されたMEROX法から回収されたDSO化合物を処理する。ODSOストリームは、最大で6個の酸素原子を有する化合物を含み得る。
【0024】
酸化剤は、アルキルヒドロペルオキシド、アリールヒドロペルオキシド、過酸化ジアルキル、過酸化ジアリール、ペルエステルおよび過酸化水素からなる群から選択される液体過酸化物であってもよい。ペルエステルは、一般式R1C=O-O-O-R2(式中、R1およびR2は、同じまたは異なるアルキルまたはアリール基である)を有し得る。
【0025】
酸化剤は、空気、酸素、オゾンおよび窒素の酸化物を含むガスであってもよい。
【0026】
酸化剤は、1種または複数種の有機ヒドロペルオキシド、有機過酸化物、および1種または複数種の有機ヒドロペルオキシドと有機過酸化物との組合せを含む液体酸化剤、ならびに空気、酸素、窒素の酸化物およびオゾンの1つまたは複数からなる群から選択される1種または複数種の気相酸化剤であってもよい。
【0027】
触媒は、好ましくは、Mo(VI)、W(VI)、V(V)、Ti(IV)およびそれらの組合せからなる群から選択される活性種を含む遷移金属である均一な水溶性化合物である。
【0028】
アルカリ金属アルカンチオレートの湿式空気酸化からの副生成物ジスルフィド油化合物の制御触媒酸化のための本開示の統合された方法の実践において、存在するジスルフィド化合物中の酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比は、約1:1~50:1、好ましくは1:1~25:1、最も好ましくは1:1~5:1の範囲内であってもよい。DSO酸化ステップ中に存在する触媒のモル比(触媒/DSOモル比)は、約0.0005~0.02、または0.0015~0.01の範囲内であってもよい。DSO酸化ステップ中に存在する触媒は、スルフィド/DSO混合物の質量流量を基準として約0.15重量%~約5.7重量%、または0.3重量%~3重量%の範囲内であってもよい。
【0029】
以下で説明されるように、ODSO化合物は、様々な精製操作において実用性を有し、その比較的高い硫黄含量は、他の生成物と比較的低い濃度でブレンドされる、または閉鎖系においてリサイクルおよび連続使用のために回収されるため、大きな有害環境影響をもたらさない。これらの新たなODSO化合物により、精製業者は、MEROX法の問題のある価値の低い副生成物から付加価値を得る。
【0030】
以下、添付の図面と併せて、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】プロパンおよびブタンの複合ストリームの液-液抽出のための一般化型の先行技術MEROX法の簡略図である。
【
図2】
図1のMEROX法の下流に位置する本開示の統合された方法の簡略図である。
【
図3】実施例1のDSO供給物、水不溶性油相および水溶性油相のパーセントに対する℃での沸点を示す、ASTM D2887実験法を使用した模擬蒸留プロットのグラフ表示である。
【
図4】実施例1のジスルフィド油供給物および水不溶性相のガスクロマトグラムの再現である。
【
図5】実施例2のDSO供給物、水不溶性油相および水溶性油相のパーセントに対する℃での沸点を示す、ASTM D2887法を使用した模擬蒸留プロットのグラフ表示である。
【
図6】実施例2のジスルフィド油供給物および水不溶性相のガスクロマトグラムの再現である。
【
図7】実施例3のDSO供給物および水溶性ODSOのパーセントに対する℃での沸点を示す、ASTM D2887法を使用した模擬蒸留プロットのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1の一般化されたMEROXユニットからの流出物ストリーム(7)が処理される
図2を参照して、本開示の方法およびシステムの例示的実施形態を説明する。
図1のプロパンおよびブタンの複合ストリームの加工は例示のみを目的とし、生成物の別個のストリーム、および他の混合されたより長鎖の生成物の複合または別個のストリームが、ODSO化合物を生成するためのDSOの回収および酸化のための本方法の対象となり得る。
【0033】
図1のMEROXユニット操作と併せて例示される本開示の統合精製法を実践するためには、MEROX法から副生成物DSO化合物を回収するための装置を追加し、(a)DSO化合物が触媒(32)および酸化剤(34)の存在下で導入され、DSO化合物が触媒酸化ステップに供されて、水および酸化ジスルフィド油(ODSO)化合物の混合ストリーム(36)が生成される好適な反応器(30)、ならびに(b)ODSO化合物(42)から廃水副生成物(44)を分離するための従来の分離槽(40)を提供すればよい。水溶性ODSO化合物は、廃水留分からの分離後の回収のための分留ゾーン(図示せず)に移される。分留ゾーンは、蒸留ユニットを含み得る。ある特定の実施形態において、蒸留ユニットは、大気圧下、および175℃~225℃の範囲内の温度で動作し得る。他の実施形態において、分留は、真空条件下で連続的に実行され得る。そのような実施形態では、分留は、減圧下、それぞれの沸点で生じる。例えば、350mbarおよび10mbarにおいて、温度範囲はそれぞれ147℃~194℃および75℃~98℃である。分留後、廃水は、廃棄前の従来の処理のために廃水プール(図示せず)に送られる。廃水留分は、例えば1W%~1ppmの範囲内の少量の水不溶性ODSO化合物を含み得る。
【0034】
したがって、ODSO生成物から精製業者により得られる価値を考慮して、これらの2つの追加のユニットに対する資本投資および運転費が比較的抑えられる。
【実施例】
【0035】
実施例1
プロパンおよびブタンMEROXユニットから得られたジスルフィド油化合物を使用して、酸化反応を行った。25.54gのジスルフィド油(R-S-S-R)反応物質、99.15gの過酸化水素(H2O2)酸化剤、12.2gの酢酸(CH3COOH)相間移動剤、および0.23gのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4・2H2O)触媒を撹拌還流フラスコに加え、400rpmで撹拌しながら凝縮器を10℃に設定して80℃の還流下で反応させた。1時間後に還流を停止し、静置後、水不溶性油相および水溶性油相の明確な分離が観察された。水溶性油相を、減圧下90℃でロータリーエバポレータで処理し、生成油を回収した。水不溶性生成物をGC-MS分析に供し、密度および硫黄含量に関して分析し、模擬蒸留データを準備した。より高度に酸化された水溶性生成物の極性により、GC-MS分析が除外されることが分かる。表2は、実施例1の反応の物質収支をまとめたものである。
【0036】
【0037】
酸化後、生成物品質は実質的に改善した。表3は、原料および生成物の密度をまとめたものである。密度は、酸化に応じて増加する。さらに、生成物の極性は、酸化に応じて増加する。水不溶性酸化DSO(ODSO)生成物から水溶性酸化DSO(ODSO)生成物への酸化の増加は、極性および油相から水相への移動の増加をもたらす。
【0038】
【0039】
この例では以下の工程ロスに起因して質量収支が低かったことが分かる:(a)過酸化水素の添加の間還流管から逃げる揮発性材料(多量);(b)濾紙上に残留する固体(少量);(c)ガラス器具に残る残留材料(少量);(d)ロータリーエバポレータの凝縮器セクションに残る残留材料(多量);および(e)ロータリーエバポレータから逃げる揮発性材料(少量)。
【0040】
原料および生成油の模擬蒸留からのデータを
図3に示すが、図示されるように、沸点特性に有意な変化が見られる。DSO供給物と比較した水不溶性ODSO生成物の沸点の上昇は、供給物の酸化を反映している。少量の元の未反応供給物は水不溶性ODSO中に存在し続け、これはGC-MSデータと一致している。さらに酸化すると、以前は水不溶性であったODSO生成物が水溶性生成物層に移動し、これは、得られるさらに高い沸点、およびより複雑な生成物分布を反映するより複雑な蒸留曲線に反映されている。さらに、これらの生成物のはるかに高い沸点は、蒸気圧を大きく低下させ、一般的にこのクラスの硫黄含有化合物に関連する悪臭および酸敗臭の低減に役立つ。
【0041】
原料および水不溶性ODSO生成物をGC-MSにより分析したが、その結果は
図4に再現されている。初期ジスルフィド油供給物と酸化反応後に回収された水不溶性油との間で、クロマトグラフに違いが観察される。供給物試料は、主にジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィドおよびジエチルジスルフィドを他の硫黄種と共に含む。その面積に基づいて、これらの3種の化合物は、それぞれ試料の約15.7%、49.3%および33.4%、または全供給物の98.4重量%を占める。微量レベルで存在する他の種には、ジメチルまたはジエチルトリスルフィドが含まれる。
【0042】
水不溶性油生成物は、供給物中に初めに存在したジスルフィド種の対応する酸化誘導体、すなわちチオスルホネートおよびジスルホキシドから主になる。所与の対称ジスルフィド化合物、すなわち同じアルキル基の2つを含むジスルフィド化合物、例えばジメチルジスルフィドまたはジエチルジスルフィドの場合、チオスルホネートとジスルホキシド酸化生成物との間の区別が、GC-MS技術では同様の生成物保持時間のために明確ではないことが分かった。一方、非対称ジスルフィド化合物、すなわち2つの異なるアルキル基を含むジスルフィド化合物、例えばメチルエチルジスルフィドの場合、チオスルホネートとジスルホキシド酸化生成物との間の区別がGC-MS技術により可能である。実施例1の13C NMRシミュレーションは、チオスルホネート生成物の存在を示唆している。
【0043】
表4は、原料および生成物中に存在する成分の相対重量パーセントを報告している。
【0044】
【0045】
分析では、供給物中に含まれる水不溶性DSO化合物からそれぞれのチオスルホネートおよびジスルホキシド誘導体への97%のほぼ完全な酸化が示されている。この例では、収集された生成物の7%が水不溶性ODSOであり、水溶性酸化DSO(ODSO)の93%が水相中に存在した。
【0046】
実施例2
実施例1において報告したものと同じ条件下で酸化反応を行ったが、但しジスルフィド油に対する酸化剤の比を増加させるように組成を変更した。供給物の組成は、実施例1の供給物について報告したものと同じである。20.05gのジスルフィド油(R-S-S-R)反応物質、100.03gの過酸化水素(H2O2)酸化剤、9.6gの酢酸(CH3COOH)相間移動剤、および0.22gのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4・2H2O)触媒を撹拌還流フラスコに加えた。反応は、実施例1の場合と同じ条件下で進行した。還流を停止した後、2つの相を分離し、水相中の水溶性ODSOを、減圧下90℃でロータリーエバポレータで処理し、生成油を回収した。水不溶性生成物をGC-MS分析に供し、また密度および硫黄含量に関して分析した。模擬蒸留データを準備した。表5は、実施例2の物質収支をまとめたものである。
【0047】
【0048】
質量収支は、実施例1に関連して特定されたものと同じ工程ロスに起因して低かった。
【0049】
図5は、原料および生成油の模擬蒸留曲線を示す。見て分かるように、沸点特性に有意な変化が見られる。
【0050】
原料および水不溶性生成物をGC-MSに供したが、その結果は
図6に再現されている。実施例2の初期ジスルフィド油供給物と酸化反応後に回収された水不溶性油との間で、クロマトグラフに違いが観察される。
【0051】
生成物は、供給物中に初めに存在したジスルフィド種に対応する酸化誘導体、すなわちチオスルホネートおよびジスルホキシドから主になる。所与の対称ジスルフィド化合物、すなわち同じアルキル基の2つを含むジスルフィド化合物、例えばジメチルジスルフィドまたはジエチルジスルフィドの場合、チオスルホネートとジスルホキシド酸化生成物との間の区別が、GC-MS技術では同様の生成物保持時間のために明確ではないことが分かった。一方、非対称ジスルフィド化合物、すなわち2つの異なるアルキル基を含むジスルフィド化合物、例えばメチルエチルジスルフィドの場合、チオスルホネートとジスルホキシド酸化生成物との間の区別がGC-MS技術により可能である。
【0052】
しかしながら、実施例2の13C NMRシミュレーションは、対応するチオスルホネート生成物の存在を示唆している。
【0053】
表6は、原料および生成物中に存在する成分の相対重量パーセントを報告している。
【0054】
【0055】
分析では、元の供給物から誘導されたジスルフィド油化合物からそれぞれの水溶性チオスルホネートおよびジスルホキシド誘導体への99%のほぼ完全な酸化が示されている。この例では、収集された生成物の1%が水不溶性ODSOであり、水溶性酸化DSO(ODSO)の99%が水相中に存在した。
【0056】
実施例3
実施例1において報告したものと同じ条件下で酸化反応を行ったが、但しジスルフィド油に対する酸化剤の比をさらに増加させるように組成を変更した。17.45gのジスルフィド油(R-S-S-R)反応物質、105.05gの過酸化水素(H2O2)酸化剤、8.39gの酢酸(CH3COOH)相間移動剤、および0.19gのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4・2H2O)触媒を撹拌還流フラスコに加えた。反応は、実施例1の場合と同じ条件下で進行した。還流を停止した後、水溶性油相のみが見られ、減圧下90℃で生成物をロータリーエバポレータで処理し、生成油を回収した。高い極性のために、生成物をGC-MS分析に供することはできなかったが、密度および硫黄含量に関して分析し、模擬蒸留データを準備した。表7は、実施例3の物質収支をまとめたものである。
【0057】
【0058】
ここでも、質量収支は、実施例1に関連して特定されたものと同じ工程ロスに起因して低かった。
【0059】
表8は、原料および生成物の密度をまとめたものである。酸化後、生成物品質は実質的に改善した。
【0060】
【0061】
図7は、原料および生成油の模擬蒸留曲線を示す。見て分かるように、沸点特性に有意な変化が見られる。
【0062】
この組成比では、水溶性油のみが形成したが、これは、上記で説明されたように、その高い極性の特徴に起因してGC-MS分析では「不可視」である。
【0063】
表9は、酸化剤のモノ-硫黄に対するモル比を示す。酸化剤対硫黄の比を変更することにより酸化の度合いまたは程度を制御することで、精製業者は、生成される水溶性油の量を、水不溶性油が形成されない点まで、すなわち水溶性ODSOのみが形成される点まで制御することができる。換言すれば、この所見により、水溶性油対水不溶性油の比の変化を制御することができる。
【0064】
【0065】
上記の例、および表9に示されるデータの概要によって実証されるように、出発DSO油に対する酸化剤の比の比較的小さい変化が、水不溶性ODSOを生成する反応の変換率に大きく影響し得る。ここで実証されたように、酸化剤比は、水不溶性油が形成されない点まで増加され得る。
【0066】
上記方法により生成されたODSO化合物は、特定の規制要件に適合するための炭化水素供給ストリームからの標的芳香族化合物、例えばベンゼンの選択的抽出を含む芳香族抽出法用の溶媒等、関連した精製操作において実用性を有する。ODSO化合物は、単独で、または先行技術の他の既知の芳香族溶媒と混合して使用されてもよく、また閉鎖系における使用のために回収およびリサイクルされてもよい。
【0067】
ODSO化合物はまた、超低硫黄燃料の潤滑性を大きく高めるために潤滑添加剤として使用され得る。添加剤は、その硫黄含量が比較的高くても最終的な燃料がまだ規制要件に適合するように、低濃度で存在する。この使用は、第三者から購入しなければならない既知の市販の潤滑添加剤を補助することができる、または完全にそれに置き換わることができる。典型的には廃棄ストリームであるもの、またはせいぜい環境上の懸念から実用性が制限された低価値の副生成物であるものを利用することにより、また供給業者から潤滑添加剤を購入する費用を回避することにより、精製業者は利益を得る。
【0068】
本発明は、例および図面により上記で様々な実施形態で詳細に説明および例示されてきたが、さらなる実施形態および変形例がこの説明から当業者に明らかであり、したがって発明に与えられる保護の範囲は以下の特許請求の範囲により決定される。
【国際調査報告】