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特表2022-511862プロピオンアミド系誘導体の結晶形態及びその製造方法
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  • 特表-プロピオンアミド系誘導体の結晶形態及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(54)【発明の名称】プロピオンアミド系誘導体の結晶形態及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/14 20060101AFI20220125BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20220125BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C07D413/14 CSP
A61K31/4725
A61P25/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532154
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 CN2019123939
(87)【国際公開番号】W WO2020114514
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】201811499965.4
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517223897
【氏名又は名称】エヌエイチダブリュエイ、ファーマ.コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NHWA PHARMA. CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、チャオ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA03
4C063BB01
4C063CC51
4C063DD10
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC68
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZA18
(57)【要約】
本発明はプロピオンアミド系誘導体の結晶形A及びその製造方法に関する。本発明で得られた式(1)の化合物の結晶形Aは、良好な結晶形の安定性及び化学的安定性を有し、臨床治療に好適に用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物の結晶形Aであって、
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、4.46、11.30、13.59、18.17、21.38、22.03、25.89の回折角2θに特徴ピークを有し、各特徴ピークの2θの誤差範囲が±0.2である、結晶形A。
【化1】
【請求項2】
前記結晶形Aの粉末X線回折パターンにおいて、4.46、9.01、11.30、12.55、13.59、14.21、15.67、16.45、17.25、18.17、18.54、18.85、19.51、20.89、21.38、22.03、22.93、24.43、25.07、25.89、27.09、27.81、28.14、29.31、30.02及び31.85の回折角2θに特徴ピークを有し、各特徴ピークの2θの誤差範囲が±0.2である、請求項1に記載の結晶形A。
【請求項3】
前記結晶形Aのラマンスペクトルにおいて、3065.5±2cm-1、2958.4±2cm-1、1607.8±2cm-1、1447.8±2cm-1、1320.2±2cm-1、1271.5±2cm-1、1125.3±2cm-1、1009.3±2cm-1、918.94±2cm-1、714.8±2cm-1、309.2±2cm-1、233.2±2cm-1に特徴ピークを有する、請求項2に記載の結晶形A。
【請求項4】
前記結晶形Aは、DSCにおける溶融吸熱ピークの値が、116.4~122.0℃の範囲にあり、好ましくは119.4℃である、請求項3に記載の結晶形A。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶形Aの製造方法であって、
(1)式(1)の化合物を溶媒に溶解し、式(1)の化合物を含む溶液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られた溶液における溶媒を蒸発法により除去し、沈殿物を得る工程と、を含み、
工程(1)における前記溶媒は、C1-6のアルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系、ハロゲン化炭化水素系、N-メチル-2-ピロリドン、C5-10の飽和炭化水素、ニトリル系、水、N,N-ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上であり、前記C1-6のアルコール系は、メタノール、エタノール又はプロパノールから選ばれる1種以上であり、前記エステル系は、酢酸エチル又は酢酸メチルから選ばれる1種又は2種であり、前記ケトン系は、アセトン又はブタノンから選ばれる1種又は2種であり、前記エーテル系は、メチルtert-ブチルエーテル、エチルエーテル又はテトラヒドロフランから選ばれる1種又は2種であり、前記ハロゲン化炭化水素系は、ジクロロメタン又はクロロホルムから選ばれる1種以上であり、前記C5-10の飽和炭化水素は、好ましくはn-ヘキサン又はn-ヘプタンから選ばれる1種又は2種であり、前記ニトリル系は、アセトニトリルである、結晶形Aの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶形Aの製造方法であって、
(1)式(1)の化合物を溶媒に溶解し、式(1)の化合物を含む溶液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られた溶液から沈殿法により沈殿物を得る工程と、を含み、
工程(1)における前記溶媒は、C1-5のアルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系、ハロゲン化炭化水素系、N-メチル-2-ピロリドン、C5-10の飽和炭化水素、ニトリル系、水、N,N-ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上であり、前記C1-5のアルコール系は、メタノール、エタノール又はプロパノールから選ばれる1種以上であり、前記エステル系は、酢酸エチル又は酢酸メチルから選ばれる1種又は2種であり、前記ケトン系は、アセトン又はブタノンから選ばれる1種又は2種であり、前記エーテル系は、メチルtert-ブチルエーテル、エチルエーテル又はテトラヒドロフランから選ばれる1種又は2種であり、前記ハロゲン化炭化水素系は、ジクロロメタン又はクロロホルムから選ばれる1種以上であり、前記C5-10の飽和炭化水素は、好ましくはn-ヘキサン又はn-ヘプタンから選ばれる1種又は2種であり、前記ニトリル系は、アセトニトリルであり、
前記沈殿法は、冷却法又は沈殿剤法であり、
前記冷却法は、工程(1)で得られた溶液を冷却させることで、結晶を沈殿析出させることであり、
前記沈殿剤法は、工程(1)で得られた溶液に、式(1)で示される化合物の沈殿剤を加えることにより、結晶を沈殿析出させることである、
結晶形Aの製造方法。
【請求項7】
前記冷却は、
工程(1)で得られた溶液の温度を0~60℃まで、好ましくは10~40℃まで、より好ましくは15~25℃まで下げること、又は、
工程(1)で得られた溶液の温度より20~100℃低い温度まで、好ましくは工程(1)で得られた溶液の温度より30~100℃低い温度まで、より好ましくは工程(1)で得られた溶液の温度より60~100℃低い温度まで温度を下げることである、
請求項6に記載の結晶形Aの製造方法。
【請求項8】
前記沈殿剤は、C5-10飽和アルカン又は水から選ばれ、前記C5-10飽和アルカンは、n-ペンタン、n-ヘキサン又はn-ヘプタンから選ばれる1種以上である請求項6に記載の結晶形Aの製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶形Aと、1種以上の賦形剤、担体、補助剤、溶媒又はこれらの組み合わせとを含む、医薬組成物。
【請求項10】
精神疾患の治療及び/又は予防のための医薬を製造するための請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶形A又は請求項9に記載の医薬組成物の使用であって、前記精神疾患は好ましくは統合失調症である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロピオンアミド系誘導体の結晶形態及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症は、全ての精神疾患の中で最も深刻で有害な疾患である。最新の研究によると、精神疾患の社会的負担は中国における疾患の中で第1位である。
【0003】
これまでの抗精神病薬としては主に、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬という2タイプがある。定型抗精神病薬(クロルプロマジンやハロペリドールなど)は、統合失調症の陽性症状に良好な効果はあるが、重度の錐体外路症状(EPS)、遅発性ジスキネジー及びプロラクチンの増加などの副作用を伴う。非定型抗精神病薬(クロザピンやリスペリドンなど)は、錐体外路症状の発生を大幅に減少させたが、QT間隔の延長や高プロラクチンなどの副作用は依然として存在する。
【0004】
数十年にわたる研究の結果、D、5-HT1A、5-HT2A及びHなどの5つの受容体が統合失調症において非常に重要な役割を果たすことが発見された。WO2017084627A1には、統合失調症を治療するためのプロピオンアミド系誘導体が開示され、その化学名は、7-(3-(4-(6-フルオロベンゾ[d]イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-イル)プロポキシ)-2-メチル-3,4-ジヒドロイソキノリン-1(2H)-オンであり、下記の構造を有する。
【0005】
【化1】
【0006】
医薬有効成分の結晶形の構造は通常、薬剤の化学的安定性に影響を与える。結晶形態、製造方法及び貯蔵条件によって、化合物の結晶形の構造が変化する可能性があり、他の形態の結晶形が生じたりすることもある。一般的には、アモルファス形態の医薬品は、規則的な結晶構造を有せず、また、製品の安定性が悪く、ろ過が困難で、ケーキングしやすく、流動性が悪いなどという他の欠点が伴う場合が多い。これらの問題は量産時の困難につながるため、結晶形態により化合物の各特性を改善する必要があり、鋭意な研究を通じて、高純度で良好な化学的安定性を有する新しい結晶形を探し出すことが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、良好な結晶形の安定性及び化学的安定性を有し、臨床上好適に用いられる下記式(1)で示される化合物の結晶形Aであるプロピオンアミド系誘導体の結晶形態及びその製造方法を提供することである。
【0008】
【化2】
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明の一側面によれば、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、4.46、11.30、13.59、18.17、21.38、22.03、25.89の回折角2θに、±0.3、±0.2又は±0.1の誤差範囲を許容するように特徴ピークを有することを特徴とする下記式(1)で示される化合物の結晶形Aを提供する。
【0010】
【化3】
【0011】
本発明の一実施形態において、前記結晶形Aは、4.46、9.01、11.30、12.55、13.59、14.21、15.67、16.45、17.25、18.17、18.54、18.85、19.51、20.89、21.38、22.03、22.93、24.43、25.07、25.89、27.09、27.81、28.14、29.31、30.02及び31.85の回折角2θに特徴ピークを有し、且つ±0.3、±0.2又は±0.1の誤差範囲を許容する。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記結晶形Aは、3065.5±2cm-1、2958.4±2cm-1、1607.8±2cm-1、1447.8±2cm-1、1320.2±2cm-1、1271.5±2cm-1、1125.3±2cm-1、1009.3±2cm-1、918.94±2cm-1、714.8±2cm-1、309.2±2cm-1、233.2±2cm-1に、ラマンスペクトルの特徴ピークを有する。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記結晶形AのDSC溶融吸熱ピークの値は116.4~122.0℃の範囲にあり、好ましくは119.4℃である。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記結晶形Aは下記一つ以上の固体的特徴を満足する。
(I)図1の粉末X線回折パターンに実質的に一致すること。
(II)図2のDSCサーモグラムに実質的に一致すること。
(III)図3のラマンスペクトルに実質的に一致すること。
【0015】
本発明の別の側面によれば、下記の方法1及び方法2から選ばれる結晶形Aの製造方法を提供する。
(方法1)
(1)式(1)の化合物を溶媒に溶解し、式(1)の化合物を含む溶液を得る。
(2)工程(1)で得られた溶液から溶媒を蒸発により除去することで、沈殿物を得る。
(方法2)
(1)方法1の工程(1)と同じである。
(2)沈殿法により、工程(1)で得られた溶液から沈殿物を得る。
【0016】
方法1による一実施形態において、工程(1)の前記溶媒は、C1-6のアルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系、ハロゲン化炭化水素系、ニトリル系、C5-10の飽和炭化水素、水、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上である。
【0017】
具体的には、方法1による一実施形態において、前記C1-6のアルコール系は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール又はn-ブタノールから選ばれる1種以上であり、前記エステル系は、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル又は酢酸イソブチルから選ばれる1種以上であり、前記ケトン系は、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン又は3-ヘキサノンから選ばれる1種以上であり、前記エーテル系は、メチルtert-ブチルエーテル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル又は1,4-ジオキサンから選ばれる1種以上であり、前記ニトリル系は、アセトニトリルから選ばれるものであり、前記ハロゲン化炭化水素系は、ジクロロメタン又はクロロホルムから選ばれる1種以上であり、前記C5-10飽和炭化水素は、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン又はn-ヘプタンから選ばれる1種以上である。
【0018】
方法1による一実施形態において、工程(1)の前記溶媒は、クロロホルム、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン又はn-ヘプタンから選ばれる1種以上である。
【0019】
方法1による一実施形態において、工程(1)の前記溶媒は、C5-10飽和炭化水素と、アルコール系、ケトン系及びハロゲン化炭化水素系から選ばれるいずれか1種以上との混合溶媒、水と、ケトン系、アルコール系から選ばれるいずれか1種以上との混合物、又は、アルコール系とエステル系との混合溶媒である。
【0020】
方法1による一実施形態において、前記混合溶媒は、エタノール/酢酸エチル、n-ヘプタン/エタノール、n-ヘプタン/アセトン、n-ヘプタン/クロロホルム、n-ヘキサン/エタノール、n-ヘキサン/アセトン、n-ヘキサン/クロロホルムから選ばれるものである。
【0021】
方法1による一実施形態において、前記エタノールの含水率は5%(v/v)以下である。
【0022】
方法1による一実施形態において、前記工程(1)は、さらに、工程(1)で使用される溶媒の沸点温度より低い温度で加熱する加熱工程を含む。
【0023】
方法1による一実施形態において、前記工程(1)は、20~80℃、好ましくは20~60℃の温度で加熱する加熱工程をさらに含む。
【0024】
方法1による一実施形態において、前記工程(2)における溶媒の蒸発法は、好ましくは真空蒸発法であり、前記真空蒸発法は好ましくはロータリーエバポレーターによる蒸発法である。
【0025】
方法1による一実施形態において、前記蒸発法は、工程(2)における溶媒をガス流中で蒸発し、前記ガス流は好ましくは空気流又は不活性ガス流であり、前記不活性ガスは好ましくはアルゴン、窒素ガス流である。
【0026】
方法2による一実施形態において、工程(2)における沈殿法は、冷却法又は沈殿剤法から選ばれる。
【0027】
方法2による一実施形態において、工程(2)における冷却法は、工程(1)で得られた溶液を冷却させることで、結晶を沈殿析出させる方法である。
【0028】
方法2による一実施形態において、前記冷却は、工程(1)で得られた溶液の温度を-10~15℃まで、好ましくは-10~9℃まで、より好ましくは0~9℃まで下げる。
【0029】
方法2による別の実施形態において、前記冷却は、工程(1)で得られた溶液の温度を0~60℃まで、好ましくは10~40℃まで、より好ましくは15~25℃まで下げる。
【0030】
方法2による別の実施形態において、前記冷却は、工程(1)で得られた溶液の温度より20~100℃低い温度まで、好ましくは工程(1)で得られた溶液の温度より30~100℃低い温度まで、より好ましくは工程(1)で得られた溶液の温度より60~100℃低い温度まで温度を下げる。
【0031】
方法2による一実施形態において、工程(2)における沈殿剤法とは、工程(1)で得られた溶液に式(1)で示される化合物の沈殿剤を加えることで、結晶を沈殿析出させることを意味し、前記沈殿剤は、C5-10飽和アルカン又は水である。
【0032】
方法2による上記実施形態において、前記C5-10飽和アルカンは、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンから選ばれる1種以上である。
【0033】
方法2による実施形態において、前記工程(2)は、工程(1)で得られた溶液から沈殿物を得る沈殿時間をさらに含み、前記沈殿時間は、0~120分間、0~60分間、0~30分間、0~10分間、0~5分間、0~2分間、0~30秒又は0秒であり、好ましくは0~10分間、0~5分間、0~2分間、0~30秒又は0秒である。ここで、前記「0」又は「0秒」とは、沈殿剤を直ちに加えた時点を指す。
【0034】
方法2による実施形態において、前記工程(2)の沈殿時間は、最大沈殿量の沈殿時間であり、前記最大沈殿量の沈殿時間は、0~90分間、0~80分間、0~70分間又は0~60分間であり、好ましくは0~70分間又は0~60分間であり、最も好ましくは0~60分間である。ここで、前記「0」とは、沈殿剤を完全に加えた時点を指す。なお、前記最大沈殿量とは、式(1)の化合物が沈殿物として、工程(1)で得られた溶液から完全に沈殿したか、又は、少なくとも85%の量(式(1)の化合物の溶解量に対する沈殿量の質量比)が、工程(1)で得られた溶液から沈殿したことを指す。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、方法1又は方法2は、さらに、
(3)方法1又は方法2の工程(2)で得られた沈殿物を単離する工程、及び、
(4)工程(3)で得られた固体を乾燥させる工程、
を含む。
【0036】
一実施形態において、工程(3)はさらに単離温度を含み、前記単離温度は、0~60℃であり、好ましくは5~40℃であり、より好ましくは15~25℃である。
【0037】
一実施形態において、工程(4)はさらに乾燥温度を含み、前記乾燥温度は、0~60℃であり、好ましくは5~40℃であり、より好ましくは15~25℃である。
【0038】
本発明の別の側面によれば、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、8.46、10.35、10.99、13.50、18.13、24.13、27.82、29.23の回折角2θに、±0.3、±0.2又は±0.1の誤差範囲を許容するように特徴ピークを有することを特徴とする下記式(1)で示される化合物の結晶形Bを提供する。
【0039】
【化4】
【0040】
一実施形態において、前記結晶形Bは、3082.3±2cm-1、2927.6.3±2cm-1、1610.1±2cm-1、1515.8±2cm-1、1446.4±2cm-1、1352.6±2cm-1、1261.2±2cm-1、1171.5±2cm-1、914.4±2cm-1、709.7±2cm-1、307.0±2cm-1、257.6±2cm-1に、ラマンスペクトルの特徴ピークを示す。
【0041】
一実施形態において、前記結晶形BのDSCは、2本の溶融吸熱ピーク及び1本の放熱ピークを有し、一つ目の吸熱ピークの値は101.6℃であり、二つ目の吸熱ピークの値は116.2~120.6℃の範囲内で、好ましくは119.0℃であり、放熱ピークの値は104.7℃である。
【0042】
一実施形態において、前記結晶形Bは下記一つ以上の固体的特徴を満足する。
(I)図4の粉末X線回折パターンに実質的に一致すること。
(II)図5のDSCパターンに実質的に一致すること。
(III)図6のラマンスペクトルに実質的に一致すること。
【0043】
本発明の別の側面によれば、
溶融再結晶化法であって、
(1)式(1)で示される化合物を昇温条件下で完全に溶融させる工程、
(2)工程(1)で溶融された試料を降温条件下で再結晶化させる工程、
を含むことを特徴とする結晶形Bの製造方法を提供する。
【0044】
一実施形態において、工程(1)の昇温条件は、120~140℃であり、好ましくは120℃、125℃、130℃、135℃又は140℃であり、より好ましくは125℃である。
【0045】
一実施形態において、工程(2)の降温条件は、20~70℃であり、好ましくは45~60℃であり、より好ましくは60℃である。
【0046】
本発明の別の側面によれば、有効成分として結晶形Aの形態又は結晶形Bの形態である式(1)の化合物と、薬学的に許容される賦形剤、担体、補助剤、溶媒又はこれらの組み合わせとを含む医薬組成物。
【0047】
一実施形態において、有効成分は、少なくとも50~99%の結晶形A、好ましくは少なくとも70~99%の結晶形A、より好ましくは少なくとも90~99%の結晶形Aを含む。
【0048】
一実施形態において、結晶形Aは実質的純粋な形態で有効成分中に存在する。
【0049】
一実施形態において、前記医薬組成物は、例えば、カプセルの形態による経口投与、注射剤の形態による非経口投与、軟膏や洗薬の形態による局所投与、坐剤の形態による直腸投与、貼付剤の送達系による経皮投与などの任意の適切な経路による投与が可能である。好ましい実施形態において、前記医薬組成物は経口投与が好ましい。
【0050】
本発明はさらに、精神疾患の治療及び/又は予防への使用に適する医薬組成物を製造するための上記結晶形A又は結晶形Bの使用を提供する。前記精神疾患は好ましくは統合失調症である。
【0051】
本発明はさらに、疾患の治療、特に精神疾患の治療及び/又は予防のための上記結晶形A又は結晶形Bの使用を提供する。前記精神疾患は好ましくは統合失調症である。
【0052】
[用語の説明]
本願の明細書及び特許請求の範囲において、特に説明がない限り、本明細書で使用される全ての科学・技術用語は、当業者が一般に理解する意味を有する。一方、本発明の理解の便宜上、以下にいくつかの用語の定義及び解釈を示す。なお、本願で提示される用語の定義及び解釈と、当業者が一般に理解する意味との間に不一致がある場合は、本願で提示される用語の定義及び解釈を優先する。
【0053】
本発明に記載の「アルコール系」とは、「C1-6アルキル」における1個以上の水素原子が1個以上の「ヒドロキシル基」で置換されたものを指す。前記「C1-6アルキル」は前述の定義のとおりである。その具体例として、特に制限されていないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はイソプロパノールが挙げられる。
【0054】
本発明に記載の「エステル系」とは、有機酸とアルコール又はフェノールが反応して水を失うことによって形成される炭素数15未満の化合物、あるいは、官能基-C(O)O-を有し且つ炭素数15未満の低級エステル系化合物を指す。その具体例として、特に制限されていないが、酢酸メチル、酢酸エチル、フタル酸ジメチル、酢酸ブチル又は酢酸プロピルが挙げられる。
【0055】
本発明に記載の「エーテル系」とは、エーテル結合-O-を有し且つ炭素数1~10の鎖状化合物又は環状化合物を指す。具体例として、特に制限されていないが、エチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル又は1,4-ジオキサンが挙げられる。
【0056】
本発明に記載の「ハロゲン化炭化水素系」とは、「C1-6アルキル」における1個以上の水素原子が1個以上の「ハロゲン原子」で置換されたものを指す。前記「C1-6アルキル」は前述の定義のとおりである。具体例として、特に制限されていないが、クロロメタン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム又は四塩化炭素が挙げられる。
【0057】
本発明に記載の「ケトン系」とは、カルボニル基(-C(O)-)が2個の炭化水素基に結合している化合物を指す。分子中の炭化水素基によって、ケトンは、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、芳香族ケトン、飽和ケトン及び不飽和ケトンに分類できる。具体例として、特に制限されていないが、アセトン、アセトフェノン、メチルイソブチルケトン又はメチルピロリドンが挙げられる。
【0058】
本発明に記載の「ニトリル系」とは、「C1-6アルキル」における1個以上の水素原子が1個以上の「シアノ基」で置換されたものを指す。前記「シアノ基」及び「C1-6アルキル」は前述の定義のとおりである。具体例として、特に制限されていないが、アセトニトリル又はプロピオニトリルが挙げられる。
【0059】
本発明に記載の「飽和炭化水素」とは、C5-10の鎖状又は環状アルカンであって、分子中の炭素原子が全て単結合で接続され、残りの結合が全て水素との結合である化合物を指す。具体例として、特に制限されていないが、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタンが挙げられる。
【0060】
本発明に記載の「混合溶媒」とは、異なる1種以上の溶媒を所定の割合で混合した溶媒を指す。前記所定の割合は0.05:1~1:0.05であり、好ましくは1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:8、1:10である。
【0061】
本発明に記載の「沈殿剤」とは、「抗溶媒」又は「貧溶媒」を指し、ある成分を単離又は除去する際に、当該物質を事前に適切な溶媒に溶解し、単離対象である成分に不溶な溶媒を加えることを表す。前記沈殿剤は、式(1)で示される化合物を溶解する溶媒には可溶である。
【0062】
本発明における「沸点」とは、単一溶媒又は混合溶媒の沸点又は共沸点を指す。
【0063】
本発明における「粉末X線回折パターン又はXRPD」とは、ブラッグ式2d sinθ=nλ(式中、λはX線の波長であり、λ=1.54056Åであり、回折次数nは任意の正整数である。一般的には、n=1の一次回折ピークとする。)に基づき、X線がかすめ角θ(入射角の相補角。ブラッグ角とも呼ばれる。)で結晶又は一部の結晶試料のd格子面間隔を有する原子面に入射し、ブラッグ方程式が満たされることで、測定されたX線粉末回折パターンを指す。
【0064】
本発明における「2θ又は2θ角度」とは、回折角を指す。θはブラッグ角であり、単位が°又は度である。2θの誤差範囲は±0.1~±0.5であり、好ましくは±0.1~±0.3であり、より好ましくは±0.2である。
【0065】
本発明における「結晶面の面間隔又は結晶面の面間隔(d値)」とは、空間格子における2つの隣接する格子点を結ぶ3つの非平行な単位ベクトルa、b、cによって、空間格子が並進的な平行六面体単位に分割され、結晶面の面間隔と呼ばれる。空間格子を、決定された平行六面体単位をつなぐ線により分割して得られた線形格子は、立体格子又は単位格子と呼ばれる。空間格子や単位格子は、幾何学の点や線により結晶構造の周期性を表すものである。結晶面によって、面間隔(すなわち、2つの隣接する平行な結晶面間の距離)が異なる。単位はÅ又はオングストロームである。
【0066】
本発明における「示差走査熱量測定又はDSC」は、結晶構造の変化や結晶の溶融によって結晶が熱を吸収・放出するときの転移温度を測定するものである。同じ化合物の同じ結晶形の場合、連続分析では、熱転移温度及び融点の誤差は約5℃以内であり、通常は約3℃以内である。ある化合物が特定のDSCピーク又は融点を有すると説明する場合、当該DSCピーク又は融点±5℃を意味する。「実質的に」という表現も、このような温度の変化を考えたものである。DSCは、異なる結晶形を識別するための補助的な方法を提供する。異なる転移温度特性から、異なる結晶形態を識別することができる。なお、混合物の場合、そのDSCピーク又は融点はより広範囲に変動することがある。さらに、溶融過程で物質が分解するため、溶融温度は昇温速度に関係する。
【0067】
本発明で使用される「FTラマンスペクトル(FT-Raman)」は、一般には分子の構造や化学結合の研究に用いられるが、化学物質の特定や識別の方法としても利用できる。本発明において、FTラマンスペクトルにより表される分子構造及び結晶形のFT-Ramanピークの誤差範囲は±2cm-1である。
【発明の効果】
【0068】
従来技術と比較して、本発明は次のような利点を有する。研究によれば、本発明の式(I)で示される化合物の結晶形Aは純度が高く、結晶形の安定性が良好であり、HPLCで測定した純度の変化が少なく、化学的安定性が高い。本発明で得られた式(I)で示される化合物の結晶形Aは、製造、輸送、貯蔵に関する医薬用の要求を満足でき、製造方法は安定で再現可能・制御可能であり、工業的生産に適する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1図1は式(1)で示される化合物の結晶形Aの粉末X線回折パターンである。
図2図2は式(1)で示される化合物の結晶形AのDSCパターンである。
図3図3は式(1)で示される化合物の結晶形Aのラマンスペクトルである。
図4図4は式(1)で示される化合物の結晶形Bの粉末X線回折パターンである。
図5図5は式(1)で示される化合物の結晶形BのDSCパターンである。
図6図6は式(1)で示される化合物の結晶形Bのラマンスペクトルである。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施例は本発明の構成を説明するためのものにすぎず、本発明の本質・範囲を限定するものではない。
【0071】
<実験で使用された装置及び測定条件>
1.粉末X線回折(X-ray Powder Diffraction, XRPD)
装置の品番:Bruker D8 Focus 粉末X線回折装置
X線の詳細:Cu/Kα(λ=1.540598Å)
電圧:40キロボルト(kV)
電流:40ミリアンペア(mA)
走査範囲:3.0~60度
走査ステップ:0.02度
走査速度:1ステップ当たり0.5秒
【0072】
2.DSC熱分析(Differential Scanning Calorimeter,DSC)
装置の品番:ドイツNETZSCH社製DSC 200F3 示差走査熱量測定装置
パージガス:窒素ガス
昇温速度:10.0K/min
温度範囲:30~250℃
【0073】
3.FTラマン分光計(FT-Raman Spectrometer,FT-RM)
装置の品番:Thermo Scientific DXR Smart Raman 分光計
スリット:50μm
露光時間:10s
露光回数:32回
レーザー:780nm
レーザーエネルギー:150mw
【0074】
4.高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatograph,HPLC)
装置の品番:Agilent 1260(DAD) バイナリポンプ付き液体クロマトグラフ
カラム:Agilent Eclipse XDB(4.6150mm,5μm) C18カラム
移動相:
A:0.01mol/L KHPO(pH3.0)-メタノール(90:10)
B:メタノール-水(90:10)
流速:1.0ml/min カラム温度:35℃
波長:210nm 注入量:5μl
グラジエント条件(体積比):
【0075】
【表1】
【0076】
<実験で使用された試薬>
メタノール(分析純度)、アセトン(分析純度)、エタノール(分析純度)、n-ヘキサン(分析純度)(いずれも上海凌峰試薬より購入)
【0077】
(実施例1)式(1)で示される化合物の調製
式(1)で示される化合物は、特許出願PCT/CN2016/106591に記載の方法に従って調製した(実施例1及び実施例5に記載の方法を参照)。
【0078】
【化5】
【0079】
(実施例2)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物1gをナスボトルに量り取り、メタノール60mlを加え、真空度0.09MPa及び40℃の条件下で真空回転蒸発して溶媒を除去し、固体を収集した。次に、60℃で一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。LC純度は97.2%であった。粉末X線回折パターンを図1に示し、DSCパターンを図2に示し、ラマンスペクトルを図3に示す。DSCの昇温過程で、吸熱ピークの開始点は116.4℃であり、終了点は122.0℃であり、ピーク値は119.4℃であった。当該結晶形を結晶形Aとして定義し、その特徴ピークの位置は下記表1のとおりである。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例3)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物1gをナスボトルに量り取り、アセトン35mlを加え、真空度0.09MPa及び35℃の条件下で真空回転蒸発して溶媒を除去し、固体を収集した。60℃で一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0082】
(実施例4)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物1gをナスボトルに量り取り、エタノール80ml及びn-ヘキサン20mlを加え、真空度0.09MPa及び40℃の条件下で真空回転蒸発して溶媒を除去し、固体を収集した。60℃で一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0083】
(実施例5)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物0.5gをアセトン10mlに加え、還流するように加熱して、溶液が透明になり、加熱を続け、攪拌して還流させた。30分後に攪拌を停止し、静置して室温まで空冷し、大量の固形物が沈殿した。ろ過してケーキを収集し、60℃の真空乾燥オーブンで一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0084】
(実施例6)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物0.5gをアセトン12ml及び水5mlに加え、還流するように加熱して、溶液が透明になり、加熱を続け、攪拌して還流させた。30分後に攪拌を停止し、静置して室温まで空冷し、大量の固形物が沈殿した。ろ過してケーキを収集し、60℃の真空乾燥オーブンで一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0085】
(実施例7)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物0.5gを無水エタノール5.0mlに加え、透明な溶液とした。前記透明な溶液に水100mlを速やかに注ぎ、大量の白い固形物が析出し、懸濁液を静置して沈降させた。ろ過してケーキを収集し、60℃の真空乾燥オーブンで一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0086】
(実施例8)結晶形Aの調製
式(1)で示される化合物0.5gを無水エタノール5.0mlに加え、透明な溶液とした。前記透明な溶液にn-ヘキサン100mlを速やかに注ぎ、大量の白い固形物が析出し、懸濁液を静置して沈降させた。ろ過してケーキを収集し、60℃の真空乾燥オーブンで一晩乾燥させることで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Aであった。
【0087】
(実施例9)結晶形Bの調製
式(1)で示される化合物約500mgを小さいビーカーに量り取り、該小さいビーカーを120℃の真空乾燥オーブンに入れ、試料が完全に溶融すると、該小さいビーカーを取り出して60℃の条件下に速やかに移して急冷し、完全に結晶化するまで60℃の条件下で8時間維持することで、最終生成物を得た。LC純度は96.7%であった。粉末X線回折パターンを図4に示し、DSCパターンを図5に示し、ラマンスペクトルを図6に示す。DSCの昇温過程で、吸熱ピーク2本及び放熱ピーク1本が現れた。一つ目の吸熱ピークの値は101.6℃であった。二つ目の吸熱ピークは開始点が116.2℃であり、終了点が120.6℃であり、ピーク値が119.0℃であった。放熱ピークの値は104.7℃であった。当該結晶形を結晶形Bとして定義し、その特徴ピークの位置は表2のとおりである。
【0088】
【表3】
【0089】
(実施例10)結晶形Bの調製
式(1)で示される化合物約500mgを小さいビーカーに量り取り、該小さいビーカーを120℃の真空乾燥オーブンに入れ、試料が完全に溶融すると、該小さいビーカーを取り出して室温下(約25℃)に移し、完全に結晶化するまで室温下で48時間維持することで、最終生成物を得た。この生成物を粉末X線回折法で確認した結果、結晶形Bであった。
【0090】
(実施例11)結晶形の安定性
<実験方法>
中国薬典2015年版四部通則9001「原薬及び製剤の安定性試験ガイドライン」(中国薬典第4部第354頁)に基づき、結晶形A及び結晶形Bについてそれぞれ、高湿(R.H.92.5%)、高温(60℃)及び光(4500±500lx)の条件下での安定性影響要因試験を行い、5日目、10日目にサンプリングしてPXRD(多結晶X線回折)測定を行うとともに、HPLC含有量(w/w、%)測定を行い、0日目の結果と比較した。
【0091】
【表4】
【0092】
<実験結果>
表3のデータから明らかなように、結晶形Aは、高湿下で10日、高温下で10日及び光条件下で10日保存した結果、いずれも結晶形態が安定して維持され、化学的特性も安定であり、0日目と比較してほとんど変化がなく、含有量がいずれも97.0%以上であった。
【0093】
結晶形Bは、高湿下で10日、高温下で10日及び光条件下で10日保存した結果、結晶形態が安定して維持されず、結晶形Aへと変わったが、化学的特性が安定であり、含有量も0日目と比較して変化がなく、いずれも96.0%以上であった。
このように、結晶形Aは結晶形Bより安定性に優れることが分かった。
【0094】
(実施例12)結晶形の機械的応力に関する考察
<実験方法>
ボールミルのメノウ乳鉢に結晶形Aの試料及び結晶形Bの試料約1000mgを量り取り、ボールミルを回転速度400r/minで30分ごとに15分間停止するように設定し、ボールミルによる処理開始から30min、4h、6h後にそれぞれサンプリングして、PXRD測定を行い、結晶形の変化を確認した。このような実験を2回行い、実験結果を表4に示す。
【0095】
【表5】
表4に示したように、結晶形Aは、ボールミルで30min、4h、6h処理した結果、ボールミルの圧力下では安定して維持され、結晶形の変化がなかったことが測定により分かった。結晶形Bは、ボールミルで30min、4h、6h処理した結果、ボールミルの圧力下ではだんだん結晶形Bへと変わり、結晶形の変化が顕著であったことが測定により分かった。このように、結晶形Aは結晶形Bよりも製薬産業上の粉砕処理に適し、製薬産業の大量生産に適する。
【0096】
(実施例13)結晶形A及び結晶形Bの薬物動態に関する考察
本実施例は、ビーグル犬における本発明の結晶形A、結晶形Bの薬物動態に関する比較研究を提供する。
【0097】
<被験物質>
新たに調製した結晶形A、結晶形B(結晶形Aは実施例1に記載の方法で調製し、結晶形Bは実施例9に記載の方法で調製した。結晶形AのLC純度は97.0%であり、結晶形BのLC純度は96.9%であった。)
【0098】
<実験動物>
上海交通大学農学部教育実験場から提供された実験用ビーグル犬12匹は、雄雌半々で、体重11.0~14.1kgであり、1匹1ケージで飼育した。給餌量は動物の体重や動物の飼料摂取量に応じて適宜調整し、水の摂取は自由とした。12/12時間の明暗サイクル、温度23±1℃(一定)、湿度50~60%の環境で飼育した。投与前に、実験動物を一晩絶食させた。
【0099】
<実験装置及び材料>
高速液体クロマトグラフィーWaters2690、エレクトロスプレー質量分析計(ESI)MicroMassZMD400、高速冷蔵遠心分離機Beckman、遠心分離機Eppendorf。
【0100】
<被験物質のカプセルの準備>
新たに調製した結晶形A、結晶形Bをそれぞれカプセルシェル(市販)に注ぎ、実験的使用のために室温で乾燥した場所に保存した。
【0101】
<実験方法>
[グループ分け方法]
ビーグル犬は体重に応じて、結晶形Aグループ(n=6、雄雌半々)、結晶形Bグループ(n=6、雄雌半々)とランダムにグループ分けした。
【0102】
[投与方法]
投与当日に動物の体重を測定し、動物の体重に応じて投与量を決定した。上記のとおりグループ分けしたビーグル犬に対し、下記の表5に示す方法で投与をした。
【0103】
【表6】
【0104】
<試料の採取及び処理>
投与後0.0830、0.250、0.500、1.00、2.00、4.00、8.00、24.00時間の採血時点で、橈側皮静脈から1mLの全血を採取した。血液試料を採取した後、直ちにヘパリンナトリウム(20μL、1000IU)抗凝固剤を含むラベルの付いた遠心分離管に移し、遠心分離管を数回穏やかに反転させた。その後、遠心分離処理(1,500g、10分間、4℃)を行って血漿を取った。
【0105】
[試料の分析]
分析方法として、液体クロマトグラフィータンデムトリプル四重極質量分析(LC MS/MS)で操作を行った。犬血漿中の式(1)で示される化合物の定量下限(LLOQ)は2.0ng/mLであり、定量上限(ULOQ)は1000ng/mLであった。
【0106】
[データの分析]
薬物動態ソフトウェア WinNonlin(商標) Version6.2.1(Pharsight,Mountain View,CA)を用いて、血管外投与の非線形コンパートメントモデル(extravascular)により結晶形A及び結晶形Bの血漿中薬物濃度データを処理した。血漿中濃度-時間曲線からピーク濃度(Cmax)及びピーク時間(Tmax)を求めた。対数線形台形法(Gabrielsson J, Weiner D.Pharmacokinetic and pharmacodynamic data analysis:concepts and applications[M].CRC Press,2001、第141-146頁参照)により、消失半減期(T1/2)、時間ゼロから無限大まで推定された平均滞留時間(MRT0-inf)、時間ゼロから濃度検出可能な最終時点までの平均滞留時間(MRT0-last)、時間ゼロから濃度検出可能な最終時点までの血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-last)、時間ゼロから無限大まで推定された血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-inf)を求めた。
【0107】
本実験において、全ての採血時点の実際の採血時間と、実験プロトコルで指定された採血時間との誤差は所定の範囲内であるため、理論的な採血時間を用いて薬物動態パラメータを計算した。
【0108】
実験データを平均数(Mean)±標準偏差(S.D.)で示す。ソフトウェア Excelのt検定により統計的比較を行った。各結晶形の投与グループ間で関連データの分析比較を行い、有意な統計的差異があるかを確認した。なお、「」はP<0.05であり、結晶形Aはそれぞれ結晶形Bと比較して有意な差異を有することを表す。実験結果の詳細を表6に示す。
【0109】
【表7】
【0110】
下記の式により相対的な生物学的利用能を求めた。
【0111】
【数1】
式中、AUCは血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-inf)を表し、Dは投与量を表し、TとRはそれぞれ、結晶形Aと結晶形Bを表す。
【0112】
計算した結果、結晶形Bに対する結晶形Aの生物学的利用能は137%であり、生物学的利用能について、結晶形Aは結晶形Bより遥かに優れることが分かった。
【0113】
表6の実験結果から明らかなように、結晶形Aは結晶形Bに比べて薬物動態パラメータ(Cmax、Tmax、AUC0-last、AUC0-inf)が明らかに高く、有意な統計的差異(P<0.05)があった。つまり、結晶形Bと比較して、結晶形Aは、原薬として用いられる場合、薬物の生物学的利用能を高め、薬物の作用時間を延長させ、臨床応用時に投与回数を減らし、投与コストを削減することができ、医薬製剤の観点から好適な結晶形であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
一実施形態において、前記結晶形Bは、3082.3±2cm-1、2927.6±2cm-1、1610.1±2cm-1、1515.8±2cm-1、1446.4±2cm-1、1352.6±2cm-1、1261.2±2cm-1、1171.5±2cm-1、914.4±2cm-1、709.7±2cm-1、307.0±2cm-1、257.6±2cm-1に、ラマンスペクトルの特徴ピークを示す。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
【表5】
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項10
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項10】
精神疾患、好ましくは統合失調症である精神疾患、の治療及び/又は予防のための、請求項9に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】