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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(54)【発明の名称】穴あけ工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20220126BHJP
   B23B 51/06 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 K
B23B51/06 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533210
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(85)【翻訳文提出日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2019082747
(87)【国際公開番号】W WO2020120138
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】18212364.6
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521250375
【氏名又は名称】セラティチット バルツハイム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ceratizit Balzheim GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルヒャー,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ベンサーディ,ノーディーン
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA02
3C037DD01
3C037DD03
3C037DD06
(57)【要約】
穴あけ工具(1)、特にツイストドリルであって、シャンク(2)と、ドリル直径(D)を有する刃部(3)と、ドリル先端部(4)と、それを中心に穴あけ工具(1)が回転方向(R)に回転可能なドリル縦軸線(L)とを含むほぼ円筒状の基体部、ドリルの長手軸(L)に沿って少なくとも1つのねじれ角(β)で傾斜してねじれて延びるチップポケット(6)を形成する少なくとも2つのチップ溝(5)、チップ溝(5)の間に形成されたウェブ幅(b)を有するウェブ(7)、を備え、チップ溝(5)のうち少なくとも1つに、チップポケット(6)を拡張するためのチップポケット拡張部(9)が、少なくとも部分的に、導入されていて、チップポケット拡張部(9)の領域においてウェブ幅(b)が減少されている、穴あけ工具(1)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ工具(1)、特にツイストドリルであって、
円筒状の基体部を備え、前記基体部が、シャンク(2)と、ドリル直径(D)を有する刃部(3)と、ドリル先端部(4)と、それを中心に前記穴あけ工具が回転方向(R)に回転可能なドリル長手軸(L)と、
前記ドリル長手軸(L)に沿って少なくとも1つのねじれ角(β)で傾斜してねじれて延びる少なくとも2つのチップ溝(5)であってチップポケット(6)を形成するチップ溝(5)と、
前記チップ溝(5)の間に形成され、ウェブ幅(b)を有するウェブ(7)と、
を含み、
前記チップ溝(5)のうち少なくとも1つに、チップポケット(6)を拡張するためのチップポケット拡張部(9)が、少なくとも部分的に、導入されている
穴あけ工具において、
前記ウェブ幅(b)が前記チップポケット拡張部(9)の領域で減少されていることを特徴とする穴あけ工具(1)。
【請求項2】
前記チップポケット拡張部(9)が、前記ウェブ(7)の前記回転方向(R)とは反対側の面のみが前記チップポケット拡張部(9)に取り込まれているように形成された、請求項1に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項3】
前記チップポケット拡張部(9)によってチップ溝の溝開口角度が大きくなる、請求項1又は2に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項4】
前記チップポケット拡張部(9)が、前記ドリル先端部(4)から前記シャンク(3)の方向を見て、前記ドリル先端部(4)から第1投影区間(SpErw1)の間隔であって1×ドリル直径(D)以上の間隔においてはじめて、始まる、請求項1から3のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項5】
前記刃部(3)の少なくとも一部にわたって複数のマージン(10)が形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項6】
前記チップポケット拡張部(9)が、前記ドリル先端部(4)から前記シャンク部(2)の方向を見て、前記マージン(10)が形成されている前記刃部(3)の前記領域の後方ではじめて、始まる、請求項5に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項7】
前記チップポケット拡張部(9)によって達成される前記チップポケット(6)の拡張が前記ドリル長手軸(L)に沿って拡大する、請求項1から6のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項8】
前記チップポケット拡張部(9)の拡大が、前記チップ溝(5)の延びに関して、360°以下の範囲内で行われる、請求項7に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項9】
前記チップポケット拡張部(9)の拡大が、前記ドリル長手軸(L)に関して、前記ドリル直径(D)の2.5倍以下の投影距離に沿って行われる、請求項7又は8に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項10】
前記チップポケット拡張部(9)が、第2投影区間(SpErw2)に沿って前記シャンク(3)の方向で拡大し、その後、第3投影区間(SpErw3)に沿って前記シャンク(3)の方向で一定に保たれる、請求項1から9のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項11】
前記チップポケット拡張部(9)が研削加工部として形成されている、請求項1から10のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項12】
前記チップ溝(5)が、前記チップポケット拡張部(9)の領域において、変更可能な深さを有する、請求項1から11のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項13】
前記穴あけ工具(1)の内部を延びる少なくとも1つの油穴(12)が形成されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項14】
前記穴あけ工具(1)が硬質金属で形成されている、請求項1から13のいずれか1項に記載の穴あけ工具(1)。
【請求項15】
穴あけ工具(1)の製造方法であって、回転式の研削工具がチップポケット拡張部(9)を形成するためにチップ溝(5)に沿って移動される製造方法において、前記研削工具の回転面が前記穴あけ工具(1)の長手軸(L)に対して、対応するチップ溝(5)のねじれ角(β)より大きい角度(γ)で傾斜されていること、及び、ウェブ幅(b)が前記チップポケット拡張部(9)の領域で減少されるように、前記研削工具が案内されること、を特徴とする、穴あけ工具(1)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分の特徴を有する穴あけ工具に関する。
【0002】
この種の穴あけ工具、特にツイストドリル、は円筒形の基体部を備え、そこに螺旋状の複数のウェブ、及び、これらウェブ間に複数のチップ溝が形成されている。これらのチップ溝がツイストドリルの中心軸に対して傾斜して延びる角度が、ツイストドリルのねじれ角(ツイスト角とも呼ばれる)である。このねじれ角は、ツイストドリルの長さにわたって可変とすることができる。
一般的に、ツイストドリルには2つの螺旋状のチップ溝がある。
これらのチップ溝により切りくずの排出が可能である。
【0003】
従来技術から、研削加工によって穴あけ工具のチップ溝を拡張することが知られている。
このようにして作成されたチップポケット拡張部により、切りくずを収容し排出するための追加容積が得られる。チップポケットの拡張は、一般に、チップ溝の自由断面が本来の機械研削に比べて拡大されることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、改良された穴あけ工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1の特徴を有する穴あけ工具によって達成される。好ましい展開形態は従属請求項に記載されている。
【0006】
本発明による穴あけ工具は、チップポケット拡張部がウェブを含み、その結果ウェブ幅がチップポケットの領域において減少されているように、形成されている。言い換えれば、工具のチップポケットはウェブを犠牲にして拡大される。すなわち、ウェブは、チップポケット拡張部の領域において、穴あけ工具のチップポケット拡張部が形成されていない部分におけるよりも、より狭幅である。
【0007】
従来技術によるチップポケット拡張部は、チップ溝をそれらの基部で局所的に更に深くした箇所として形成されている。公知のチップポケット拡張部による付加的なチップポケットの創出は、穴あけ工具の支持断面、すなわち、コア直径が弱められるという事実によって制限される。
【0008】
本発明によるチップポケット拡張部は、これとは異なり、ウェブ幅を減少することによりチップ溝を横方向に拡張する。これに加えて、もちろん、チップ溝をその基部で更に深くすることによって、さらなるチップポケットを作ることもできる。
【0009】
本発明によるチップポケット拡張部は切りくずの排出を促進する。目詰まりしは低減される。
【0010】
穴あけ工具の全てのチップ溝にこれらのチップポケット拡張部が形成されていると好適である。もちろん、1つのチップ溝にだけ1つのチップポケット拡張部を設けることも可能である。しかしながら、穴あけ工具の均等な機械的負荷のためには、全てのチップ溝にチップポケット拡張部を設けることがより有利である。
【0011】
本発明によるチップポケット拡張部によるチップ溝の形状変化により、切りくずは加速され、これは切りくずの破断を促進する。
加速は、切りくずが運動量の変化を受けることを意味する。この運動量の変化は、本発明によるチップポケット拡張部の構成により、主に、切りくずの移動方向の変化として、すなわち、切りくずの方向転換により、生じる。
【0012】
ウェブは、回転方向に存在する側に二次切刃を有している。ウェブ幅の減少は、好ましくは、ウェブの二次切刃とは反対側で行われ、その結果、二次切刃の形状はチップポケット拡張部の影響を受けないままである。このようにして、切りくずの滑らかな排出が行われる。
【0013】
言い換えれば、この展開形態によれば、チップポケット拡張部は、回転方向とは反対側のウェブ側面のみがチップポケット拡張部に取り込まれているように、形成されている。
【0014】
上述の切りくず方向転換に加えて、本発明の別の利点は、切りくず容積の大幅な増加を短い経路内で作り出すことができることにもある。短い経路とは、以下のことを意味する、すなわち、螺旋状のチップ溝の延伸に関しては、小さい角度範囲に沿って、または別の表現では、穴あけ工具の縦方向の延伸に関しては、短い区間内で、チップポケット拡張部を実現できることを意味する。
【0015】
これは、マイクロドリルにとって特に興味深い。というのは、この場合にはチップポケットが相応に小さく短いからである。
【0016】
好適には、このチップポケット拡張部によってチップ溝の溝開口角度が大きくなる。本出願の文脈においては、溝開口角度は、1つのチップ溝の向かい合うエッジが互いになす角度を意味する。
【0017】
好適には、このチップポケット拡張部は、ドリル先端部からシャンク部分の方向を見て、ドリル先端部から或る間隔離れてはじめて、始まることが企図されている。換言すると、刃部の前方部分にはチップポケット拡張部がないことも、企図され得る。好適には、チップポケット拡張部は、ドリル先端部から1×D以上の間隔ではじめて始まり、ここで、Dはドリル直径である。この展開形態の利点は、刃部のチップポケット拡張部のない前述部分では、全ウェブ幅が維持されており、それにより、この穴あけ工具は切りくず形成領域においてより堅牢であることである。チップポケット拡張部のない部分が長くすぎてはならないことが分かっている。というのは、そうでなければ、それに続くチップポケット拡張部の有益な効果が完全には発揮されないからである。基準値として、チップポケット拡張部はドリル先端部から最大でも8×D離れた位置で開始すべきである、と決定することができた。その理由はそうでないと切りくずが長くなりすぎるからである。
【0018】
刃部の少なくとも一部にわたって、ウェブにマージンが形成されることが好ましい。特に好ましくは、これらのマージンは、ドリル先端部からシャンクの方向を見て、ドリル先端部から3×D以下の間隔まで形成されている。
【0019】
特に好適には、1つのウェブに2つのマージンが形成されている。
【0020】
さらに好適には、このチップポケット拡張部がドリル先端部からシャンクの方向を見て、マージンが形成された刃部の領域の後方ではじめて始まる、ことが企図されている。このことはウェブがマージンの領域において元々の幅を有するという利点を有し、これはドリルを案内または支持するのに有利である。
【0021】
好適には、チップポケット拡張部によって達成されるチップポケットの拡張が、ドリルの長手軸線に沿って拡大することが企図されている。すなわち、チップポケット拡張部は一定である必要はなく、むしろドリルの長手軸線に沿って増大することができる。機械的な理由から、チップポケット拡張部が連続的に増加する、すなわち、跳躍的には増加しない場合が、有利である。
【0022】
チップ溝の延伸に関連して、チップポケット拡張部の増大が360°以下の範囲内で行われることが好ましい。このことは、チップポケット拡張部が短い経路内で所望の寸法に達するというすでに述べた特徴を表している。360°では、すなわち、螺旋状のチップ溝の1回転以内で、チップポケット拡張部は開始値から所望の最終寸法まで増大するであろう。
【0023】
ドリルの長手軸線に関連して、チップポケット拡張部を、例えばドリル直径Dの2.5倍以下の投影距離に沿って、拡大することができる。
【0024】
好適には、チップポケット拡張部は第1の投影区間に沿ってシャンクの方向に拡大し、次いで、第2の投影区間に沿ってシャンクの方向で一定に保たれる。
【0025】
チップポケット拡張部は、好ましくは、被研削部として形成されている。すなわち、チップポケット拡張部は、好適には、研削加工によって導入される。代替的に、レーザアブレーションなどの他の方法によって材料を取り除くこともできる。
【0026】
好適には、チップ溝の深さはチップポケット拡張部の領域において可変である。深さという用語は、穴あけ工具の外周表面からチップ溝の基部までの距離を意味する。好ましくは、この深さは、シャンクの方向で増加してもよい。これはまた、チップポケット拡張部の深さと横方向の寸法が互いに独立に変更可能であることを表している。
【0027】
穴あけ工具の内部を延びる少なくとも1つの油穴が形成されていることが好ましい。この油穴を介してクーラント/潤滑剤をドリル先端部に送ることができる。これは、穴あけ工具の機能を特に有利な方法で支援する。なぜならば、クーラント/潤滑剤は、摩擦を減らして切りくずの排出をさらに促進するからである。こうして、これらの対策は特に有利に相互に作用する。
【0028】
この穴あけ工具は、好ましくは、少なくとも1つの硬質材料と少なくとも1つの結合相とを含む複合材料から形成されている。特に、この穴あけ工具は硬質合金で製造されている。本事例では、硬質合金としては、以下のような複合材料が理解される、すなわち、特には元素周期表のIVb族からVIb族までの元素の炭化物、炭窒化物、及び/又は、オキシ炭窒化物によって形成することができる硬質粒子が、特に、Co、Ni、Fe、又は、これらの合金から形成することができる延性のある金属マトリックスに埋め込まれている複合材料が理解される。殆どの場合、この硬質粒子は少なくとも主に炭化タングステンによって形成されており、金属マトリックスは基本的にコバルトから構成されている。
【0029】
穴あけ工具を作る方法についても権利保護を要求する。この目的のために、回転式の研削工具がチップポケット拡張部を作るためにチップ溝に沿って移動され、その際、研削工具の回転面はドリルの縦軸線に対して、対応するチップ溝のねじれ角よりもより大きい角度で傾けられていること、が企図される。この研削工具はその際、回転方向に関して後方にあるウェブの側部で材料の削り取りが行われるように、案内される。
【0030】
本発明を、図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施例を示す。
図2a】長手軸線に沿った異なる箇所における図1の穴あけ工具の断面を示す。
図2b】長手軸線に沿った異なる箇所における図1の穴あけ工具の断面を示す。
図2c】長手軸線に沿った異なる箇所における図1の穴あけ工具の断面を示す。
図3】別の実施例における穴あけ工具を示す。
図4a】長手軸線に沿った異なる箇所における図3の穴あけ工具の断面を示す。
図4b】長手軸線に沿った異なる箇所における図3の穴あけ工具の断面を示す。
図4c】長手軸線に沿った異なる箇所における図3の穴あけ工具の断面を示す。
図5a】別の実施例における穴あけ工具を示す。
図5b】別の実施例における穴あけ工具を示す。
図6a】長手軸線に沿った異なる箇所における図5の穴あけ工具の断面を示す。
図6b】長手軸線に沿った異なる箇所における図5の穴あけ工具の断面を示す。
図6c】長手軸線に沿った異なる箇所における図5の穴あけ工具の断面を示す。
図7】本発明による穴あけ工具の撮影写真を示す。
図8】本発明による穴あけ工具の撮影写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、ドリル直径Dを有する基本的に円筒状の基体を有するツイストドリルとしての穴あけ工具1を示しており、この基体はシャンク2と刃部3とを有している。シャンク2は部分的にしか示されていない。使用時には、穴あけ工具1は、長手軸線Lを回転軸として回転方向Rに回転する。すなわち、本穴あけ工具1は時計回りに回転するように設計されている。
この穴あけ工具1は、ドリル先端部(ドリル先端とも云う)4を有し、このドリル先端部には複数の主切れ刃が形成されている。
【0033】
穴あけ工具1に沿って螺旋状に伸びる複数のチップ溝5が形成されている。本例では、これは直径方向に対向する2つのチップ溝5である。この代わりに、チップ溝5は非対称に配置されていてもよい。2つより多いチップ溝5を設けることもできる。
これらのチップ溝5は、穴あけ工具1の長手軸線Lに対してねじれ角βで伸びる。両方のチップ溝5は、好ましくは、同じねじれ角度を有する。
【0034】
これらのチップ溝5の間には、ウェブ7が存在する。穴あけ工具1の外周面を規定するウェブ7の表面を、ランド8と呼ぶ。
チップ溝5とウェブ7とで形成され、回転方向Rに存在するエッジを、二次切刃11と呼ぶ。
【0035】
刃部3は、説明のために3つのサブセクションに分かれている。
ドリル先端部4から区間SpErw1に沿っては、チップポケット拡張部9は形成されていない。チップポケット拡張部9が存在しない、ドリル先端部4からの第1区間SpErw1の長さは、好適には1×D以上であり、ここでDはドリル直径である。
第1区間SpErw1の後方でチップポケット拡張部9が始まり、このチップポケット拡張部9は第2の投影区間SpErw2に沿ってシャンク3の方向で大きくなり、その後、第3の投影区間SpErw3に沿ってシャンク3の方向で一定に保たれる。本例における第1区間SpErw1の長さは2.5×Dであり、本例における区間SpErw2の長さは2.6×Dである。
【0036】
以下の図2a~2cには、穴あけ工具1の3つのサブセクションに対応する断面が図示されている。
【0037】
図2aは、チップポケット拡張部9のない第1区間SpErw1の領域における穴あけ工具1の断面を示す。したがって、この図ではチップ溝5の形状と深さは、元々の機械研削に対応する。
【0038】
チップポケット拡張部9のないチップ溝5はx°の溝開口角度を有しており、この例では約68°である。溝開口角度とは、点線の補助線として示されている2辺の間の角度であり、これらの辺は、穴あけ工具1の中心と、チップ溝5とランド8の間のエッジとを結ぶものである。分かりやすくするために、以下の図ではこれらの符号は繰り返されていない。
【0039】
図2bは、ドリル先端部4から間隔SpErw1にある穴あけ工具1の断面を示す。区間SpErw2に沿うチップポケット拡張部9のための尺度として角度y°だけ、この例では18°だけ、溝開口角度が拡大されたことが、点線で示されている。チップ溝5のチップポケットは区間SpErw2に沿って大きくなり、溝開口角度で表すと、ここではx°の出発値から連続的に増加し、区間SpErw2の終わりではx°+y°=z°の値となる。
このチップポケット拡張部9は、回転方向(R)とは反対側のウェブ7の側部での材料を削り取った部分に存在し、その結果、チップポケット拡張部9の領域におけるウェブ幅bは減少されている。従って、ウェブは、チップポケット拡張部9の領域では、チップポケット拡張部9が形成されていない穴あけ工具1の部分よりも、細くなっている。
ウェブ幅bは、例えば、光学的測定方法によって検出することができる。
回転方向Rにおけるランド8とチップ溝5との間の縁は、穴あけ工具1の二次切刃11を形成し、チップポケット拡張部9の影響を受けない。
代案として、チップポケット拡張部9がチップ溝の両側でウェブ7を取り込むことが可能であろう。しかし、二次切刃11がチップポケット拡張部9の影響を受けないままであれば、円滑に切りくずを排出するためにより好ましい。
さらに、チップ溝5の深さtも見ることができ、この深さはこの例では変化していない。
【0040】
図2cは、第3部分SpErw3の領域における穴あけ工具1の断面を示す。ここでは、溝開口角度z°はz=86°で一定である。
【0041】
また、このチップポケット拡張部9が、回転方向Rとは反対側でウェブ7を犠牲にしてもたらされることが分かる。このウェブ幅bは、図2aの状態の値b1に比べて値b2に減少している。
【0042】
この実施例では、チップ溝5の深さtは変わらない。言い換えれば、コア直径は減少しない。上述したチップ溝の横方向の拡張に加えて、チップ溝5の深さtを大きくすることも可能である。
【0043】
図3は、別の実施形態による穴あけ工具1を示す。符号は図1に対応している。図1による例とは異なり、ここでは、区間SpErw1に沿ってウェブ7に複数のマージン10が形成されている。マージン10は、より低摩擦での穴あけ工具1の有利な案内および支持をもたらす。
これらのマージン10は、ここでは、ランド8における凹部によって実現されており、その結果、ウェブ7毎に、二次切刃11におけるマージン10と、回転方向Rに関して反対側のウェブ7の側部における別のマージン10とが存在する。
この好ましい実施例では、チップポケット拡張部9は、これらのマージン10が形成されている刃部3の部分の後方ではじめて始まる。このことは、マージン10の領域ではウェブ幅bが不変で幅広であるという利点を有し、それによって、穴あけ工具1の有利な支持が達成される。したがって、これらのマージン10による支持は、ウェブ幅bが減少されたウェブ7でのマージン10と比較して、より大きな角度範囲にわたって行われる。
【0044】
図4aからこの関係がさらに明確に分かる。図4aは、複数のマージン10が形成された区間SpErw1の領域における穴あけ工具1の断面を示す。複数のマージン10がランド8における1つの凹部により形成されていることが分かる。これらのマージン10は穴あけ工具1の周囲に沿ってほぼ90°の角度間隔で分布されており、その結果、穴あけ工具1の均等な支持および案内が達成される。
【0045】
マージン10が形成されている区間SpErw1の長さは、本例ではドリル直径Dの3.5倍である。
【0046】
図4bは、チップポケット拡張部9が始まる区間SpErw2の断面を示す。このチップポケット拡張部9は、前述の実施例と同様に、ウェブ7におけるウェブ幅bが回転方向7とは反対側の側部で減少するように、設計されている。換言すれば、二次刃先11はチップポケット拡張部9の影響を受けないままである。すなわち、ウェブ7は、両側からそのウェブ幅bに関して減少されてはいない。ウェブ幅bは、部分SpErw2に沿って、初期値b1から値b2まで減少する。部分SpErw2ではウェブ7にマージンは形成されていない。
【0047】
図4cは、第3部分SpErw3の領域における穴あけ工具1の断面を示す。ウェブ幅bは、図4aの状態における値b1に比べて値b2まで減少している。
溝開口角度については、図2a~2cを参照して説明したことが当てはまる。
【0048】
図5aは、別の実施例による穴あけ工具1を示す。ここでは、穴あけ工具1の内部で伸びる複数の油穴12が設けられている。区間l4の領域には複数のマージン10が形成されている。その他の符号については、前述の実施例についてなされた文言が適用される。
これらの油穴12を通してクーラント/潤滑剤をドリル先端部4に送ることができる。油穴12は、長手軸線Lに対してらせん角度でねじれて伸びている。
クーラント/潤滑剤が切りくずの排出をさらに促進するので、これらの油穴12を介してドリル先端部4に送られるクーラント/潤滑剤によって、本発明の穴あけ工具1の機能は特に好適に支援される。
【0049】
さらに、シャンク2には冷却液/潤滑剤用の分配室13が設けられている。クーラント/潤滑剤は、分配室13を介してクランプ(図示せず)から好適に穴あけ工具1に移送され得る。分配チャンバ13を備えたこの実施形態は、特に、長い工具及び/又は直径の小さい工具にとって、クーラント/潤滑剤に対する流動抵抗を小さく保つために、特に興味深い。
【0050】
図5bは、別の実施例による穴あけ工具1の詳細を示す。ここでは、図5aの実施例とは異なり、シャンク2に分配チャンバ13が設けられていない。むしろ、油穴12は穴あけ工具1の全長にわたって延在している。
【0051】
図6a~図6cは、複数の油穴12を有する穴あけ工具1の断面を示す。
【0052】
図6aは区間l4の領域における穴あけ工具1の断面を示し、この区間に沿って複数のマージン10が形成されている。穴あけ工具1のこの断面に、内部に存在する複数の油穴12を見ることができる。これらの油穴12は、この例では円形状の断面を有している。
【0053】
図6bは、チップポケット拡張部9が始まる区間SpErw2における断面を示す。チップポケット拡張部9は、前述の実施例と同様に、ウェブ幅bがウェブ7にて回転方向7とは反対側で減少されるように、設計されている。ウェブ7を油穴12の領域内で弱めないようにするために、これらの油穴12が、チップポケット拡張部9に対して十分な間隔を残して配置されていると、有利である。
【0054】
図6cは、第3区間SpErw3の領域における穴あけ工具1の断面を示す。
【0055】
油穴12の存在は、マージン10の存在とは無関係である。すなわち、マージン10が無く、複数の油穴12を有する穴あけ工具1があり得る。
【0056】
図7は、本発明による穴あけ工具1の写真を示す。回転方向Rとは反対側のウェブ7を犠牲にして形成されているチップポケット拡張部9がはっきりと分かる。
【0057】
矢印で印されているのは、回転式の研削工具(図示せず)、特にプロフィル形成用研削砥石の食い込みによって作られた研削マークである。研削工具の食い込みによって作られたこのチップポケット拡張部9は、ドリル縦軸線Lに対して角度γで延びる主延伸方向Xを有し、この角度γは対応するチップ溝5のねじれ角βよりも大きい。
【0058】
チップポケット拡張部9の作製は、好ましくは、以下のように、すなわち、研削工具の回転面が穴あけ工具1の長手軸Lに対して角度γで当てられ、次いで、穴あけ工具1に対してチップ溝5に沿って移動されるように、研削工具を食い込ませることによって、行われ、その結果、ウェブ7の回転方向Rとは反対側の面が部分的に削り取られる。
【0059】
図8は、本発明による穴あけ工具1の別の写真を示す。チップポケット拡張部9の領域においてウェブ7のウェブ幅b2は、その長手方向前方のウェブ幅b1を有する領域に比べて、小さくなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0060】
1 穴あけ工具
2 シャンク
3 刃部
4 ドリル先端部
5 チップ溝
6 チップポケット
7 ウェブ
8 ランド
9 チップポケット拡張部
10 マージン
11 二次切刃
12 油穴
13 分配室
D ドリル直径
L 縦軸線
R 回転方向
b ウェブ幅
t チップポケット拡張部の深さ
β ねじれ角
γ チップポケット拡張部の主延伸方向の角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】