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▶ ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)の特許一覧

特表2022-512231アデノウイルス型に特異的なDNAアプタマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(54)【発明の名称】アデノウイルス型に特異的なDNAアプタマー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20220126BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220126BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12N1/02
C12N7/02
C12Q1/70
C12Q1/6888 Z
C12Q1/68
C12Q1/686 Z
A61K31/7088
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533338
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(85)【翻訳文提出日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2019083284
(87)【国際公開番号】W WO2020126435
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】LU101073
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516296566
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】オゴーザリー,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】ジョルダン,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】マルホランド,キャサリン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QR56
4B063QR72
4B063QR79
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA95X
4B065BD14
4B065BD38
4B065CA46
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC78
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる一本鎖核酸アプタマーに関し、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる。本発明はまた、このアプタマーを含む組成物に関する。本発明は、少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、捕捉する、濃縮する、及び/または定量化するための、アプタマーの使用に関する。本発明は、少なくとも1つのアデノウイルス型を捕捉する、検出する、及び/または定量化するためのin vitro方法に関する。本発明はまた、少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、定量化する、捕捉する、及び/または濃縮するためのキットに関するものである。
【選択図】図なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる一本鎖核酸アプタマーであって、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなるアプタマー。
【請求項2】
少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる少なくとも1つの一本鎖核酸アプタマーを含む組成物であって、前記アプタマーが、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または50%の配列同一性を有するそのバリアント、及び少なくとも1つのアデノウイルス型を含むかまたはそれらからなる、組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのアデノウイルス型の治療方法において使用するための少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる一本鎖核酸アプタマーであって、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる、アプタマー。
【請求項4】
サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を捕捉するためのin vitro方法であって、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合できる一本鎖核酸アプタマーと前記サンプルとを接触させるステップを含み、前記アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる、方法。
【請求項5】
サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を検出するかつ/または定量化するためのin vitro方法であって、
-請求項4に従って捕捉するためのin vitro方法を実施するステップと、
-アデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を定量化するかまたは検出するステップと;
-前記サンプル中のアデノウイルスの量または存在もしくは不在を推定するステップと、を含む、方法。
【請求項6】
アデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を定量化するステップまたは検出するステップが、対照群との比較を介して実施される、請求項5に記載のin vitro方法。
【請求項7】
前記サンプル中のアデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を検出することが、前記アプタマーを増幅することを目的としたPCR、及び/または酵素結合アプタマー吸着アッセイを実施することによって実行され、前記PCRは、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’に対応する2つのプライマーのセットを用いて実施される、請求項5または6に記載のin vitro方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのアプタマーが検出可能な標識を含み、前記サンプル中のアデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を検出することは、前記標識を検出することによって実施される、請求項5または6に記載のin vitro方法。
【請求項9】
少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる核酸アプタマーの少なくとも1つの一本鎖を含む少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、定量化する、捕捉する、及び/または濃縮するためのキットであって、前記アプタマーが、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる、キット。
【請求項10】
前記キットが、前記少なくとも1つのアデノウイルス型のうちの少なくとも1つの捕捉要素及び/または検出手段を備えた支持体または溶液をさらに含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記少なくとも1つの捕捉要素が、前記少なくとも1つのアプタマーのうちの1つ以上を含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記検出手段が、連結された検出可能な標識を有するアプタマーのうちの1つ以上を含む、請求項10または11に記載のキット。
【請求項13】
前記検出可能な標識が前記アプタマーの5’末端または3’末端に結合している、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記少なくとも1つのアプタマーに結合することができ、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’に対応する2つのプライマーのセットをさらに含む、請求項9~13のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上のアデノウイルス型に特異的なアプタマー及びそれらの用途を対象とする。
【背景技術】
【0002】
腸内ウイルス(その中でもエンテロウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、ならびにA型及びE型肝炎ウイルスなど)は、感染者の糞便中に高濃度で存在し、その後、廃水の排出を介して水生環境に拡散し得る。これらのウイルスは、主にヒト間で、または汚染された食品及び飲料水、入浴またはレクリエーション活動を通じて伝染する。これらのウイルスの中で、ヒトアデノウイルス(HAdV)は、胃腸炎、結膜炎、心筋炎、肺炎など、多くの疾患の原因となり得る。地理的には、これらのウイルスは世界中に分布しており、河川水、海水、または地下水などの様々な水源で一般的に見られる。他の腸内ウイルス(例えば、エンテロウイルスまたはノロウイルス)と比較して、それらは通常より豊富であり(Lee and Kim,2008;Verheyen et al.,2009;Wyn-Jones et al.,2011)、年間を通じて見られ、水中で注目に値する生存特性を有する(Enriquez et al.,1995;Ogorzaly et al.,2010)。
【0003】
アデノウイルス(AdV)は、エンベロープを有さないウイルスのファミリーであるアデノウイルス科の二本鎖DNAゲノムに属している。分析フレームワーク及びサンプルの種類(臨床、食品、または環境サンプル)に応じて、ウイルスゲノムまたはキャプシドのいずれかを標的とする様々な検出方法が適用され得るが、それぞれに利点及び欠点がある。分子増幅法、すなわちポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、食品及び環境の設定で一般的に使用されるが、抗体を使用する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの免疫学的手法が臨床サンプルのための規則である。抗原法は、高ウイルス濃度を提示するサンプルでは適切に機能するが、環境サンプル及び食品サンプルについては十分に感応しない。さらに、抗体の結合能力は、サンプルの複雑なマトリックスによって影響を受ける可能性がある。したがって、既存のツールを補完するための代替のAdV診断ツールを開発する必要があり、このため、迅速で高感度かつ効果的な方法を提供でき、これにより、関係当局は、腸疾患及び他の疾患による感染のリスクを減少させ、ウイルスの拡大を制限できるようになる。
【0004】
米国特許出願公開第2017/0114420号明細書に公開された先行技術の特許文書は、ノロウイルスに特異的に結合するアプタマーについて開示している。アプタマーは、ノロウイルスの存在を検出するため、及び試験サンプルからノロウイルスを捕捉し、かつ/または濃縮するために使用される。しかし、アデノウイルスを検出し、捕捉するための解決策は開示されていない。
【0005】
米国特許第9562900号明細書に公開された先行技術の特許文書では、食品媒介性及び水媒介性病原体細菌または寄生虫、カビまたは他の病原性真菌を特異的に標的とし、それらに結合するアプタマーについて開示している。この特許では、ウイルス、より具体的には食品または水などのサンプル中のアデノウイルスを分析(検出など)するためのツールを開示していない。 欧州特許第2859121号明細書及び欧州特許第2613147号明細書で公開された先行技術の文書では、アプタマーを使用して、試験サンプル中に存在し得る1つ以上の標的分子を検出するための方法、デバイス、試薬、及びキットについて開示している。これらの特許文書では、アデノウイルスを分析するためのツールについてはいずれも開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0114420号明細書
【特許文献2】米国特許第9562900号明細書
【特許文献3】欧州特許第2859121号明細書
【特許文献4】欧州特許第2613147号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lee and Kim,2008;Verheyen et al.,2009;Wyn-Jones et al.,2011
【非特許文献2】Enriquez et al.,1995;Ogorzaly et al.,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、サンプル中のアデノウイルス型分析のための迅速で高感度かつ効果的なツールを提供する際の技術的問題を有する。本発明はまた、技術的な問題について、高価ではない解決策を提供することを有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる一本鎖核酸アプタマーに関し、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる。
【0010】
本発明はまた、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる少なくとも1つの一本鎖核酸アプタマーを含む組成物に向けられ、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または50%の配列同一性を有するそのバリアント、及び少なくとも1つのアデノウイルス型を含むかまたはそれらからなる。
【0011】
本発明はまた、少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、捕捉する、定量化する、かつ/または濃縮するために、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる一本鎖核酸アプタマーの使用に関し、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる。
【0012】
本発明はまた、サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を捕捉するためのin vitro方法に関し、本方法は、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合できる一本鎖核酸アプタマーとサンプルとを接触させるステップを含み、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる。
【0013】
本発明はまた、サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、かつ/または定量化するためのin vitro方法に関し、本方法は、本発明に従って捕捉し、アデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を定量化するかまたは検出するためのin vitro方法を実施することと、そこから、サンプル中のアデノウイルスの量または存在もしくは不在を推定することと、を含む。
【0014】
好ましい実施形態によれば、アデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を定量化するかまたは検出することは、対照群との比較を介して実施される。
【0015】
好ましい実施形態によれば、サンプル中のアデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を検出することは、アプタマーを増幅することを目的としたPCRを実施することによって実行され、PCRは、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’に対応する2つのプライマーのセットを用いて、かつ/または酵素結合アプタマー吸着アッセイによって実施される。
【0016】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのアプタマーは検出可能な標識を含み、サンプル中のアデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を検出することは、標識を検出することによって実行される。
【0017】
本発明はまた、少なくとも1つのアデノウイルス型に特異的に結合することができる核酸アプタマーの少なくとも1つの一本鎖を含む少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、定量化する、捕捉する、かつ/または濃縮するためのキットに関し、アプタマーは、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる。
【0018】
好ましい実施形態によれば、キットは、少なくとも1つのアデノウイルス型のうちの少なくとも1つの捕捉要素及び/または検出手段を備えた支持体または溶液をさらに含む。
【0019】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの捕捉要素は、少なくとも1つのアプタマーのうちの1つ以上を含む。
【0020】
好ましい実施形態によれば、検出手段は、連結された検出可能な標識を有する1つ以上のアプタマーを含む。
【0021】
好ましい実施形態によれば、検出可能な標識は、アプタマーの5’または3’末端に結合している。
【0022】
好ましい実施形態によれば、アデノウイルスに結合したアプタマーを増幅するために、少なくとも1つのアプタマーに結合でき、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’に対応する2つのプライマーのセットをさらに含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、本発明のアプタマーがアデノウイルス型に特異的であり、かつ異なるアデノウイルス型に高い親和性で特異的に結合することができるという点で特に興味深い。アプタマーは、市販のモノクローナル抗体の代わりに使用できる。アプタマーは、抗体と同様のアデノウイルス型への親和性を示す。アプタマーは長期安定性を示す。アプタマーはまた、抗体と比較して低コストであり、保存が容易であるという利点もある。本発明の方法及びキットは、少なくとも1つのアデノウイルス型を定量化する、検出する、捕捉するかつ/または濃縮するために使用するかつ/または実行するのが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】20個のビオチン化候補アプタマーとインキュベートしたHAdV-2(約10MPN/ウェル)の直接ELISA結果を表す図であるり、すべてのアプタマーを同じ濃度1μMで使用した。
図2】配列番号1を含むアプタマー10の濃度に応じた結合HAdV-2の割合(パーセンテージ)を示す図であり、アプタマーの濃度は、0~1000nMの範囲である。
図3】0~20nMの範囲のアプタマーの濃度についての図2の拡大図を示す図である。
図4】配列番号3を含むアプタマー20の濃度に応じた結合HAdV-2の割合(パーセンテージ)を示す図であり、アプタマーの濃度は、0~1000nMの範囲である。
図5】様々なウイルスに対するアプタマー10の特異性を示す図である。
図6】様々なウイルスに対するアプタマー20の特異性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ウイルス株の生産及び精製
HAdV-2(ヒトアデノウイルス2型)は、アプタマーの選択を行うために選択した。HAdV-2は、Health Protection Agencyの培養コレクション(NCPV#213)から入手し、ヒト胎児腎細胞株293A(Invitrogen)で増殖させた。細胞は、高濃度のグルコース及びGlutamax(Life Technologies)を含み、1%の非必須アミノ酸(Life Technologies)及び5%の非熱不活化ウシ胎児血清(Life Technologies)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)で成長させた。HAdV-2株は、感染させた293A単層から凍結融解溶解、その後の遠心分離(1200rpm、10分、4℃)によって調製し、細胞片を除去した。次に、ウイルス懸濁液を塩化セシウム平衡密度勾配遠心分離によって精製した。精製したAdVバンドは、シリンジを使用して収集し、分子量が100KDaにカットオフしたfloat-a-lyser透析デバイス(Spectrum Labs、USA)に直接注入した。透析デバイスを、デュベルコのPBS(DPBS)(Gibco)で満たした2Lの容器に入れ、4℃で穏やかに回転させた(50rpm)。DPBSは、2~4時間、6~8時間、及び12~14時間後に変更した。透析ステップ後、ウイルス懸濁液を収集し、4℃で保存した。精製されたHAdV-2株の定量化は、293A細胞を使用した最確数(MPN)アッセイによって実施した(Ogorzaly et al.2013)。
【0026】
アプタマーの選択
一定のフォワード領域及びリバース領域と、各位置に等モルのA、T、C、及びGの取り込みを含む28塩基対のランダム領域(N28)を備えた65塩基対のコンビナトリアルDNAライブラリー(GTGCCAGCTATGCCATTG-N28-TAGCGTCTATCTCTGCTGC)を合成した(Eurogentec)。選択前に、一本鎖DNA(ssDNA)プール1μMを含む選択バッファー(ここではSBと称する)(pH7.4で、MgCl(3mM)及びNaCl(20mM)を添加したDPBS(Gibco)で構成され、オートクレーブで滅菌後、0.2μmの膜ろ過を行う)を95℃まで加熱して、DNAを変性させ、次いで、室温まで30分間冷却した後、ウイルスと共にインキュベートした。
【0027】
次表1は、AdVのアプタマーの選択に使用されるオリゴヌクレオチドを開示している。
【0028】
【表1】
【0029】
SELEXの標的複合体は、精製されたHAdV-2を抗体-磁性ビーズ複合体に固定化することによって生成した。AdVに対するビオチン化モノクローナル抗体8C4(HyTest,Finland)を、製造業者の指示に従ってストレプトアビジンダイナビーズ(ThermoFisher Scientific Aalst,Belgium)に抱合させた。簡潔に説明すると、100μLのストレプトアビジンダイナビーズをアリコートし、洗浄バッファーDPBS-T(0.005%Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。3倍過剰のビオチン化モノクローナル抗体8C4(30μg)を、5~10分ごとにピペッティングして混合しながら、室温で1時間インキュベートすることにより、ストレプトアビジンダイナビーズに結合させた。抗体-ビーズ複合体を磁石で分離し、DPBS-Tで3回洗浄し、0.05%ウシ血清アルブミン(BSA,Sigma Darmstadt,Germany)を含む100μLのDPBSで溶出した。100μLの精製HAdV-2株(約10MPN/mLに相当)を490μLのSBに懸濁した10μLの抗体ビーズ複合体と混合し、室温で2時間インキュベートした。標的複合体HAdV-2-抗体ビーズを0.1%BSAを補充したPBSで3回洗浄し、最後に20μLのDPBSに再懸濁した。
【0030】
SELEXは標的複合体(HAdV-2-抗体-ビーズ)を使用して実行し、陰性SELEXは抗体-ビーズ複合体を使用して実行した。簡潔に説明すると、選択バッファー中の500pmol/500μLのDNAライブラリーを、95℃まで5分間加熱して変性させ、室温まで30分間冷却した。陰性選択は、DNAプールと表面との非特異的相互作用を減少させるために、最初にDNAライブラリーを抗体ビーズ複合体と室温で45分間インキュベートすることによって実行した。結合したDNAを磁石で分離し、上清(回収したDNAライブラリー)をSELEXの最初のラウンドに直接使用した。回収したDNAを10μLの標的複合体(約10個の感染性ウイルス粒子/反応に相当)に加え、室温で30分間インキュベートした。結合したDNA配列を磁気捕捉によって回収し、DPBS-Tで3回洗浄して、非結合剤及び/または不十分な結合剤の除去を容易にした。100マイクロリットルのヌクレアーゼフリー水をビーズに加え、サンプルを90℃まで5分間加熱してDNAを放出させた。ss-DNAは、コンスタントフォワードプライマー及びリン酸化リバースプライマーを使用したPCRによって増幅させた(表1)。PCRの最終容量は50μLで、そのうち10μLにはDNA標的が含まれていた。反応は、Biometra T-Advanced 96SGシステム(Germany)で実施し、以下の条件を適用し、95℃で2分間、次いで95℃で15秒間、67℃で1分間、72℃で30秒間、最終伸長72℃で2分間の様々なサイクルを行った。PCR産物は、臭化エチジウムで染色した4%アガロースゲルで可視化した。65bpのバンドがアガロースゲルに現れたときに、PCR反応を停止させた。二本鎖DNA(ds DNA)は、スピンカラム(Nucleospin Gel及びPCRクリーンアップシステム、Machery及びNagel)を使用して精製した。dsDNAを分離するために、1μLの1Uラムダエキソヌクレアーゼ(Thermo Scientific、UK)を37℃で1時間インキュベートした後、4%アガロースゲル電気泳動でssDNAを確認した。すべての選択ラウンドは同じ方法で実行したが、HAdV-2感染性粒子の濃度が減少し、DNAプールの濃度が減少した。インキュベーション時間も各ラウンド間で短縮し、洗浄ステップは、容積及び量の両方が増加して、プロセスの選択圧が上昇した。
【0031】
アプタマー配列の同定 9、10、及び11回目のSELEXラウンドから得たssDNAは、前述と同じ条件で、非修飾プライマー(表1のD1フォワード及びリバース)によって増幅させた。産物を臭化エチジウムで染色した4%アガロースゲルで分析し、65bpのバンドを切り出し、Purelink Quickゲル抽出及びPCR精製コンボキット(Invitrogen)を使用して精製した。精製した産物は、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用して、デュアルプロモーターPCR2.1TOPOベクターにクローニングした。合計で、86の白いクローンがSangerシーケンサー(Applied Biosystems)で実行されたシーケンス用に選択した。
【0032】
結合親和性研究
選択されたアプタマーの各々の結合活性の試験を行うために、直接ELASA(酵素結合アプタマー吸着剤アッセイ)法を実施した。96ウェルポリスチレンプレート(Greiner)を濃度10MPN/mL(約10粒子/ウェル)のHAdV-2粒子でコーティングし、37℃で1時間インキュベートした。300μLのDPBSで5回洗浄した後、ウェルを300μLの3%BSAで4℃で一晩ブロックした。300μLのDPBSで5回洗浄した後、100μLの選択バッファーで希釈した1μMの各ビオチン化候補アプタマーをウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。ウェルを300μLのDPBS-Tで2回、300μLの1%BSAで2回洗浄した。1%BSAで希釈した100マイクロリットルのストレプトアビジン抱合HRP(1/300、ThermoScientific)を各ウェルに添加し、暗所で室温で30分間インキュベートした。プレートを300μLのDPBSで3回洗浄し、50μLのTMB基質溶液(ThermoScientific)で室温の暗所で30分間現像した。最後に、50μLの2M硫酸を各ウェルに添加し、450nmでの吸光度を記録した(Tecan)。結果に基づいて、上位3つのアプタマーをさらなる分析のために選択した。
【0033】
選択されたアプタマーの結合親和性は、前述のELASA法を使用して分析した。濃度10MPN/mLのHAdV-2を96ウェルポリスチレンプレート(Greiner)にコーティングし、様々な濃度(0~1000nM)のビオチン化アプタマー10及び20と反応させた。プレートを450nmで読み取り、OD値をSigmaPlotソフトウェアに入力し、非特異的結合を伴う1つの部位飽和方程式を使用して処理してKd値を決定した。
【0034】
図1は、様々なビオチン化候補アプタマーと1μMでインキュベートした精製HAdV-2の直接ELASAで得られた結果を表している。
【0035】
図1の結果に基づくと、アプタマー10、18、20が最も有望な候補である。
【0036】
図2及び図3は、HAdV-2及びアプタマー10のELASA結合研究を表している。これらの結果は、アプタマー10が高い親和性でHAdV-2に特異的に結合できることを示している。アプタマーのKdは、3.6±0.7nMであると計算された。各点は、6回の独立した実験の平均である。
【0037】
図4は、HAdV-2及びアプタマー20のELASA結合研究を表している。
【0038】
これらの結果は、アプタマー20が高い親和性でHAdV-2に特異的に結合できることを示している。Kd値は75.9±68.6nMと推定された。各点は、7回の独立した実験の平均である。
【0039】
特異性研究 アプタマー10及び20の特異性は、様々な型のアデノウイルス(ヒツジアデノウイルス1型及びウシアデノウイルス9型)ならびに様々な型の他の水性ウイルス(F特異的RNAバクテリオファージMS2、GA、Oβ及びSP株)を使用してELASAによって分析した。標的ウイルス及び非標的ウイルスを同じ初期濃度(約10ウイルス粒子/ウェル)でプレートにコーティングし、前述のELASAプロトコルに従って、それぞれ80nM濃度のアプタマー10及び20に対して試験を行った。
【0040】
これらの結果は図5及び6に示され、アプタマー10及び20がアデノウイルス型に特異的であることを示している。アデノウイルスに対してのみ信号が生成され、他の水系ウイルスに対しては信号が生成されない。
【0041】
モチーフ及び構造の分析
モチーフ分析は、オンラインソフトウェアプログラムであるMEMEモチーフ発見ツールによって実行した。各アプタマーの予測される二次元フォールディングは、オンラインソフトウェアプログラムMFOLDによって実行した。
【0042】
次のシーケンスが同定されている。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
配列番号1:
【0047】
配列番号2:
【0048】
配列番号3:
【0049】
アプタマー10、18及び20は、それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3を含む。
【0050】
本発明は、配列番号1~3の配列のうちの1つ、または少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる一本鎖核酸アプタマーを提供する。好ましくは、バリアントは、少なくとも80%、より好ましくは90%の配列同一性を有する。
【0051】
アプタマーは少なくとも1つのステムループ構造を有する。
【0052】
本発明はまた、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアント及び少なくとも1つのアデノウイルス型を含むかまたはそれらからなる少なくとも1つの一本鎖核酸アプタマーを含む組成物を提供する。
【0053】
アデノウイルス型は、例えば、ヒトまたは動物のアデノウイルスであり得る。
【0054】
本発明はまた、少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、捕捉する、定量化するかつ/または濃縮するための、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる少なくとも1つの一本鎖核酸アプタマーの使用を提供する。
【0055】
本発明はまた、サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を捕捉するためのin vitro方法を提供し、本方法は、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる一本鎖核酸アプタマーとサンプルとを接触させるステップを含む。
【0056】
本発明はまた、サンプル中の少なくとも1つのアデノウイルス型を検出し、かつ/または定量化するためのin vitro方法を提供し、本方法は、結合したアプタマーの存在または不在を上記のとおり捕捉するため、定量化するまたは検出するために、in vitro方法を実行するステップと;そこから、サンプル中のアデノウイルスの量または存在もしくは不在を推定するステップと、を含む。結合したアプタマーの存在または不在を定量化することまたは検出することは、対照群との比較を介して実行される。この方法は、結合したアプタマーの存在または不在を定量化するステップまたは検出するステップの前に、結合していないアプタマーを除去するステップを含むことができる。
【0057】
サンプル中の結合アプタマーの存在または不在を検出するステップは、結合アプタマーを増幅することを目的としたPCRを実施することによって実行され、PCRは、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’(フォワード)及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’(リバース)に対応する2つのプライマーのセットを使用して、及び/または酵素結合アプタマー吸着アッセイ(ELASA)によって実行する。あるいは、少なくとも1つのアプタマーは、検出可能な標識を含み、サンプル中のアデノウイルスに結合したアプタマーの存在または不在を検出することは、標識を検出することによって実行される。
【0058】
本発明はまた、配列番号1~3の配列のうちの1つまたは少なくとも50%の配列同一性を有するそのバリアントを含むかまたはそれらからなる核酸の少なくとも1つの一本鎖を含む少なくとも1つのアデノウイルス型を検出する、定量化する、捕捉するかつ/または濃縮するためのキットを提供する。一実施形態によれば、キットは、少なくとも1つのアデノウイルス型のうちの少なくとも1つの捕捉要素及び/または検出手段を備えた支持体または溶液をさらに含む。支持体は、ポリスチレンプレート、磁気ビート、または抽出、クロマトグラフィー、またはアフィニティーカラムなどの固体支持体であり得るが、これらに限定されない。本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのアデノウイルス型の少なくとも1つの捕捉要素は、支持体上または溶液中に固定化された少なくとも1つのアプタマーである。
【0059】
キットはまた、アデノウイルスと結合したアプタマーの検出手段を含むことができる。一実施形態によれば、検出手段は、連結された検出可能な標識を有する1つ以上のアプタマーを含む。
【0060】
検出可能な標識は、当技術分野において公知である方法によって検出され得る部分であり得る。例えば、検出可能な標識は、光学的標識、電気化学的標識、放射性同位元素、またはそれらの組み合わせであり得る。検出可能な標識は、アプタマーの特定の塩基、アプタマーのヘアピンループ構造などの特定の構造の特定の部位、またはアプタマーの3’末端または5’末端に付着させ得る。光学標識は、例えば、蛍光材料であり得る。さらに、光学標識は酵素であり得、そのような酵素は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)のために使用され得る。他の材料は、当業者によって適切に選択され得る。
【0061】
キットはさらに、アデノウイルスに結合したアプタマーを増幅するために、少なくとも1つのアプタマーに結合でき、配列5’-GTGCCAGCTATGCCATTG-3’及び5’-GCAGCAGAGATAGACGCTA-3’に対応する2つのプライマーのセットを含む。
【0062】
キットには、使用説明書がさらに含まれ得る。キットは、陽性対照、例えば、不活化アデノウイルス粒子及び陰性対照をさらに含み得る。
【0063】
サンプルは、これらに限定されないが、糞便、血液などの臨床サンプル、水、堆積物などの環境サンプル、及び/または食品サンプルであってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2022512231000001.app
【国際調査報告】