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特表2022-512240藻類における外因性核酸のエピジェネティックなサイレンシングの回避方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(54)【発明の名称】藻類における外因性核酸のエピジェネティックなサイレンシングの回避方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/13 20060101AFI20220126BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220126BHJP
【FI】
C12N1/13
C12N15/09 110
C12N15/90 Z
C12N15/113 130Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533471
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 US2019065879
(87)【国際公開番号】W WO2020123755
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】62/779,364
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
(71)【出願人】
【識別番号】509262736
【氏名又は名称】シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ペイス ジューン エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】スプレアフィコ ロバート
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA17
4B065CA24
(57)【要約】
本出願は、藻類種におけるCHGメチル化を含む新規DNAメチルトランスフェラーゼの同定に関する。本出願は、外因性DNAのCHGおよびCHHメチル化、並びにヒストン3のリジン9(H3K9)のモノメチル化およびトリメチル化のエピジェネティックメカニズムを緩和することによって、外因性遺伝子の発現を可能にする藻類変異体に関する。これは藻類のメチルトランスフェラーゼ(MTase)遺伝子を変異または減弱させることによって達成される。本出願は、藻類種において外因性遺伝子を効率的に発現させる方法にも関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を含む、変異体光合成生物であって、
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を含まない対照光合成生物
と比較して、低減されたCHG DNAメチル化を有する、前記変異体光合成生物。
【請求項2】
前記変異体が遺伝子操作された変異体である、請求項1に記載の変異体光合成生物。
【請求項3】
前記変異体が、挿入変異誘発、遺伝子置換、RNAi、アンチセンスRNA、メガヌクレアーゼゲノム操作、1つ以上のリボザイム、および/またはCRISPR/Casシステムによって遺伝子操作されている、請求項2に記載の変異体光合成生物。
【請求項4】
前記変異体がCRISPR/Casシステムによって遺伝子操作されている、請求項3に記載の変異体光合成生物。
【請求項5】
前記変異体が、UV照射、ガンマ線照射、または化学的変異誘発によって作製されたものである、請求項1に記載の変異体光合成生物。
【請求項6】
前記変異または減弱が、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子中にあり、前記ポリペプチドが、前記遺伝子の前記変異または減弱の前に、配列番号1、3、5、7、または28のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項7】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、前記遺伝子の前記変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の変異体光合成生物。
【請求項8】
前記変異体光合成生物が外因性DNAを含み、低減されたCHG DNAメチル化が前記外因性DNA中にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項9】
前記外因性DNAが、前記光合成生物のゲノムに組み込まれている、請求項8に記載の変異体光合成生物。
【請求項10】
前記低減されたCHG DNAメチル化が、前記光合成生物に対してネイティブなDNA中にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項11】
前記低減されたCHG DNAメチル化が、前記変異体光合成生物のセントロメアまたは高度反復DNA領域にある、請求項10に記載の変異体光合成生物。
【請求項12】
外因性核酸を含むが、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、外因性核酸の発現が改善される、請求項8~9のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項13】
ヒストンH3のリジン9(H3K9)の低減されたモノメチル化またはトリメチル化を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項14】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、低減されたCHH DNAメチル化を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項15】
前記光合成生物が藻類である、請求項1~14のいずれか一項に記載の変異体光合成生物。
【請求項16】
光合成生物における外因性DNAの発現を増強する方法であって、
a)前記光合成生物に外因性DNAを導入すること、
b)CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることであって、
外因性DNAを含むが、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、変異体微生物が、外因性DNAの低減されたCHG DNAメチル化を有する、前記変異または減弱させること
を含み、前記外因性DNAの発現が、前記対照光合成生物と比較して、前記光合成生物において増強されている、前記方法。
【請求項17】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることが遺伝子操作によるものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子操作が、挿入変異誘発、遺伝子置換、RNAi、アンチセンスRNA、メガヌクレアーゼゲノム操作、1つ以上のリボザイム、および/またはCRISPR/Casシステムによるものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記遺伝子操作がCRISPR/Casシステムによるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることが、UV照射、ガンマ線照射、または化学的変異誘発によるものである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記変異または減弱が、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子中にあり、前記ポリペプチドが、前記遺伝子の前記変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、前記遺伝子の変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、前記変異体光合成生物が、低減されたCHH DNAメチル化を有する、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記外因性DNAが前記光合成生物のゲノムに組み込まれている、請求項16~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記光合成生物が藻類である、請求項16~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
光合成生物中のヒストンH3上のリジン9(H3K9)のモノメチル化またはトリメチル化を低減させる方法であって、
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させること
を含み、
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、変異体微生物が、低減されたCHG DNAメチル化を有し、前記光合成生物のヒストンH3上のリジン9(H3K9)の前記モノメチル化またはトリメチル化が低減される、前記方法。
【請求項27】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることが遺伝子操作によるものである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記遺伝子操作が、挿入変異誘発、遺伝子置換、RNAi、アンチセンスRNA、メガヌクレアーゼゲノム操作、1つ以上のリボザイム、および/またはCRISPR/Casシステムによるものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記遺伝子操作がCRISPR/Casシステムによるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることが、UV照射、ガンマ線照射、または化学的変異誘発によるものである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記変異または減弱が、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子中にあり、前記ポリペプチドが、前記遺伝子の変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、前記遺伝子の変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物
と比較して、前記変異体光合成生物が、低減されたCHH DNAメチル化を有する、請求項26~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記光合成生物が藻類である、請求項26~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記光合成生物が外因性DNAを含む、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記外因性DNAが前記光合成生物のゲノムに組み込まれている、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記光合成生物のヒストンH3上のリジン9(H3K9)のモノメチル化またはトリメチル化の低減が、外因性DNAを含む染色体の一部にある、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C.§119(e)に基づき、2018年12月13日に提出された米国特許出願第62/779,364号の優先権の恩典を主張するものであり、その内容全体は、その全体の参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0002】
配列表の組み込み
添付の配列表中のデータは、参照により本出願に組み込まれる。添付の配列表テキストファイルである、ファイル名SGI2210_1WO_Sequence_Listing.txtは2019年12月11日に作成され、79kbである。このファイルは、Windows OSを使用するコンピュータでMicrosoft Wordを使用してアクセスできる。
【0003】
発明の分野
本出願は、外因性DNAのメチル化のエピジェネティックメカニズムを緩和することによって外因性遺伝子の発現を可能にする藻類変異体に関する。これは藻類のメチルトランスフェラーゼ(MTase)遺伝子を変異または減弱させたりすることによって達成される。本出願は、藻類種において外因性遺伝子を効率的に発現させる方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
背景
DNAのメチル化は、細胞が遺伝子を「オフ」の位置に固定するのに用いる一般的なエピジェネティックなシグナル伝達ツールである。一般に、DNAメチル化は真核生物DNAのシトシン塩基で起こり、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)酵素によって5-メチルシトシンに変換される。DNAのメチル化は、シトシンの配列状況に応じて3種類に分類できる。すなわち、CG、CHG、およびCHH(H=A、C、またはT)である。典型的には、真核生物では、メチル化はまばらであるが全体的に見られ、CpGアイランドを除いて、ゲノム全体にわたって明確なCpG配列に分布している。
【0005】
シトシンのメチル化は、藻類の種であるクラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)(Feng. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2010 May 11;107(19):8689-94(非特許文献1))において、CHGまたはCHH配列よりもCpG配列においてより頻繁である。
【0006】
DNAのメチル化以外に、ヒストンのメチル化も遺伝子を沈黙させることができる。例えば、ヒストン3のリジン(H3K9)のモノメチル化は、クラミドモナス・レインハルディの導入遺伝子タンデム反復を標識することがわかっている。SET3、H3K9のメチル化に関与するH3K9モノメチルトランスフェラーゼが同定された。H3K9のモノ-、ジ-およびトリメチル化の役割は種特異的であり、異なる機能を果たす(Caras-Mollano et al., Nucleic Acids Res. 2007; 35(3):939-50(非特許文献2))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Feng. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2010 May 11;107(19):8689-94
【非特許文献2】Caras-Mollano et al., Nucleic Acids Res. 2007; 35(3):939-50
【発明の概要】
【0008】
概要
外因性または外来性DNAをメチル化するエピジェネティックメカニズムを緩和することにより外因性遺伝子の発現を可能にする藻類変異体が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、メチルトランスフェラーゼはCHG DNAメチルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態において、メチルトランスフェラーゼはCHH DNAメチルトランスフェラーゼである。藻類種において外因性DNAを効率的に発現させる方法も提供される。
【0009】
CHGのメチル化(およびサイレンシング)は、ある外因性遺伝子が生物体内で発現されたときに観察されている。さらに、MTase遺伝子をターゲティングすることは、遺伝子リファクタリングのための他のツールを配備する必要がなく、サイレンシングメカニズムをターゲティングするために特異的であるという利点を提供する。
【0010】
一態様では、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を含む、変異体光合成生物が提供される。この変異体光合成微生物は、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を持たない対照光合成生物と比較して、CHG DNAメチル化が低下している。
【0011】
一態様では、光合成生物における外因性DNAの発現を増強する方法が提供される。方法は、a)光合成生物に外因性DNAを導入すること;b)対照光合成生物と比較して、外因性DNAの発現が光合成生物において増強されるように、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることを含み、ここで、対照光合成生物と比較して、変異体微生物は、外因性DNAの低減されたCHG DNAメチル化を有し、ここで、対照生物は、外因性DNAを含むが、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない。
【0012】
一態様では、光合成生物中のヒストンH3上のリジン9(H3K9)のメチル化(例えば、モノメチル化、トリメチル化)を低減する方法が提供される。方法は、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を変異または減弱させることを含み、ここで、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物と比較して、変異体微生物は、低減されたCHG DNAメチル化を有し、ここで、光合成生物のヒストンH3上のリジン9のモノメチル化(H3K9me1)、またはヒストンH3上のリジン9のトリメチル化(H3K9me3)が低減される。
【0013】
いくつかの実施形態において、変異体光合成生物は、遺伝子操作された変異体である。いくつかの態様において、変異体は、挿入変異誘発、遺伝子置換、RNAi、アンチセンスRNA、メガヌクレアーゼゲノム操作、1つ以上のリボザイム、および/またはCRISPR/Casシステムによって遺伝子操作されている。いくつかの実施形態において、変異体は、CRISPR/Casシステムによって遺伝子操作されている。いくつかの態様において、変異体光合成生物は、UV照射、ガンマ線照射、または化学的変異誘発によって作製されたものである。
【0014】
いくつかの実施形態において、変異体光合成生物は、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子中に変異または減弱を含み、このポリペプチドは、遺伝子の変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドは、遺伝子の変異または減弱の前に、配列番号1または配列番号28のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、変異体光合成生物は、外因性DNAを含み、低減されたCHG DNAメチル化は、外因性DNA中にある。いくつかの実施形態において、外因性DNAは、光合成生物のゲノムに組み込まれている。
【0016】
いくつかの実施形態において、低減されたCHG DNAメチル化は、光合成生物に対してネイティブなDNA配列中にあり得る。DNAメチル化の低下は、セントロメアにあることもあれば、変異体光合成生物の高度反復DNA領域にあることもある。
【0017】
いくつかの実施形態において、対照光合成生物と比較して、外因性核酸の発現は改善され(例えば、増加される)、ここで、対照生物は、外因性核酸を含むが、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない。
【0018】
いくつかの態様において、変異体光合成生物は、ヒストンH3のリジン9(H3K9)の低減されたメチル化(例えば、モノメチル化、トリメチル化)を有する。いくつかの実施形態において、変異体光合成生物は、対照光合成生物と比較して、低減されたCHH DNAメチル化を有し、ここで、対照生物は、CHG DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない。
【0019】
いくつかの態様において、光合成生物は藻類である。いくつかの実施形態において、藻類は、アクナンテス属(Achnanthes)、アンフィプローラ属(Amphiprora)、アンフォラ属(Amphora)、アンキストロデスムス属(Ankistrodesmus)、アステロモナス属(Asteromonas)、ボエケロヴィア属(Boekelovia)、ボリドモナス属(Bolidomonas)、ボロディネラ属(Borodinella)、ボトリジウム属(Botrydium)、ボトリオコッカス属(Botryococcus)、ブラクテオコッカス属(Bracteococcus)、キートケロス属(Chaetoceros)、カルテリア属(Carteria)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロコックム属(Chlorococcum)、クロロゴニウム属(Chlorogonium)、クロレラ属(Chlorella)、クロオモナス属(Chroomonas)、クリソスファエラ属(Chrysosphaera)、クリコスファエラ属(Cricosphaera)、クリプテコジニウム属(Crypthecodinium)、クリプトモナス属(Cryptomonas)、キクロテラ属(Cyclotella)、ドナリエラ属(Dunaliella)、エリプソイドン属(Ellipsoidon)、エミリアニア属(Emiliania)、エレモスフェラ属(Eremosphaera)、エルノデスミウス属(Ernodesmius)、ユーグレナ属(Euglena)、ユースティグマトス属(Eustigmatos)、フランケイア属(Franceia)、フラギラリア属(Fragilaria)、グロエオサムニオン属(Gloeothamnion)、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、ハロカフェテリア属(Halocafeteria)、ヘテロシグマ属(Heterosigma)、ヒメノモナス属(Hymenomonas)、イソクリシス属(Isochrysis)、レポキンクリス属(Lepocinclis)、ミクラクチニウム属(Micractinium)、モノダス属(Monodus)、モノラフィディウム属(Monoraphidium)、ナノクロリス属(Nannochloris)、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)、ナヴィクラ属(Navicula)、ネオクロリス属(Neochloris)、ネフロクロリス属(Nephrochloris)、ネフロセルミス属(Nephroselmis)、ニッチア属(Nitzschia)、オクロモナス属(Ochromonas)、オエドゴニウム属(Oedogonium)、オオキスティス属(Oocystis)、オストレオコッカス属(Ostreococcus)、パブロバ属(Pavlova)、パラクロレラ属(Parachlorella)、パスケリア属(Pascheria)、ペラゴモナス属(Pelagomonas)、フェオダクチラム属(Phaeodactylum)、ファガス属(Phagus)、ピコクロルム属(Picochlorum)、プラチモナス属(Platymonas)、プレウロクリシス属(Pleurochrysis)、プレウロコッカス属(Pleurococcus)、プロトテカ属(Prototheca)、シュードクロレラ属(Pseudochlorella)、シュードネオクロリス属(Pseudoneochloris)、シュードスタウラスツルム属(Pseudostaurastrum)、ピラミモナス属(Pyramimonas)、ピロボトリス属(Pyrobotrys)、セネデスムス属(Scenedesmus)、スケレトネマ属(Skeletonema)、スピロギラ属(Spyrogyra)、スチココックス属(Stichococcus)、テトラセルミス属(Tetraselmis)、タラシオシラ属(Thalassiosira)、トリボネマ属(Tribonema)、バウケリア属(Vaucheria)、ビリジエラ属(Viridiella)、ビスケリア属(Vischeria)、およびボルボックス属(Volvox)に属する。いくつかの実施形態において、変異体光合成生物は、緑藻植物(Chlorophyte)または車軸藻類(Charophyte)の藻類である。いくつかの実施形態では、この生物は、例えば、緑藻綱(Chlorophyceae)、トレボウクシア藻綱(Trebouxiophyceae)、クロロデンドロン藻綱(Chlorodendrophyceae)、アオサ藻綱(Ulvophyceae)、ペディノ藻綱(Pedinophyceae)、またはプラシノ藻類(Prasinophyceae)のいずれかのクラスの藻であり得る。この生物はクロレラ科(Chlorellales)、オーキスチス科(Oocystaceae)、またはクロロデンドロン科(Chlorodendraceae)に属する。いくつかの実施形態において、変異体藻類細胞は、例えば、ボトリオコッカス属、クロレラ属、オーキセノクロレラ属(Auxenochlorella)、ヘベオクロレラ属(Heveochlorella)、マリニクロレラ属(Marinichlorella)、パラクロレラ属、シュードクロレラ属、テトラクロレラ属(Tetrachlorella)、エレモスフェラ属、フランケイア属、ミクラクチニウム属、ナノクロリス属、オオキスティス属、ピコクロルム属、またはプロトテカ属のような属の種の藻類細胞のような、トレボウクシア藻綱クラスの緑藻植物藻類細胞である。いくつかの実施形態では変異体藻類は、オーキセノクロレラ属、Chlorella、ヘベオクロレラ属、マリニクロレラ属、パラクロレラ属、シュードクロレラ属、またはテトラクロレラ属の種の変異体藻類であり得る。他の実施形態では、変異体藻類は、クロロデンドロン藻綱のクラスの藻類(例えば、テトラセルミス属の藻類)であり得る。
【0020】
いくつかの態様において、変異体光合成微生物はシアノバクテリアである。いくつかの実施形態において、シアノバクテリアはアカリオクロリス属(Acaryochloris)、アグメネルム属(Agmenellum)、アナベナ属(Anabaena)、アナベノプシス属(Anabaenopsis)、アナチスティス(Anacystis)、アファニゾメノン属(Aphanizomenon)、アルトロスピラ属(Arthrospira)、アステロカプサ属(Asterocapsa)、ボルジア属(Borzia)、カロトリクス属(Calothrix)、カマエシフォン属(Chamaesiphon)、クロログロエオプシス属(Chlorogloeopsis)、クロオコッキディオプシス属(Chroococcidiopsis)、クロオコックス属(Chroococcus)、クリナリウム属(Crinalium)、シアノバクテリウム属(Cyanobacterium)、シアノビウム属(Cyanobium)、シアノキスティス属(Cyanocystis)、キアノスピラ属(Cyanospira)、キアノウテセ属(Cyanothece)、キリンドロスペルモプシス属(Cylindrospermopsis)、キリンドロスペルムム属(Cylindrospermum)、ダクティロココプシス属(Dactylococcopsis)、デルモカルペラ属(Dermocarpella)、フィシェレラ属(Fischerella)、フレミエラ属(Fremyella)、ゲイトレリア属(Geitleria)、ゲイトレリネマ属(Geitlerinema)、グロエオバクター属(Gloeobacter)、グロエオカプサ属(Gloeocapsa)、グロエオテーケ属(Gloeothece)、ハロスピルリナ属(Halospirulina)、イイエンガリエラ属(Iyengariella)、レプトリングビア属(Leptolyngbya)、リムノトリックス属(Limnothrix)、リングビア属(Lyngbya)、ミクロコレウス属(Microcoleus)、ミクロキスティス属(Microcystis)、ミクロサルキナ属(Myxosarcina)、ノドゥラリア属(Nodularia)、ノストク属(Nostoc)、ノストコプシス属(Nostochopsis)、オシラトリア属(Oscillatoria)、フォルミディウム属(Phormidium)、プランクトトリックス属(Planktothrix)、プレウロカプサ属(Pleurocapsa)、プロクロロコックス属(Prochlorococcus)、プロクロロン属(Prochloron)、プロクロロトリックス属(Prochlorothrix)、シューダナバエナ属(Pseudanabaena)、リブラリア属(Rivularia)、シゾトリックス属(Schizothrix)、シトネマ属(Scytonema)、スピルリナ属(Spirulina)、スタニエリア属(Stanieria)、スタリア属(Starria)、ティゴネマ属(Stigonema)、シンプロカ属(Symploca)、シネココッカス属(Synechococcus)、シネコキスティス属(Synechocystis)、サーモシネコキスティス属(thermosynechocystis)、トリポトリックス属(Tolypothrix)、トリコデスミウム属(Trichodesmium)、チコネマ属(Tychonema)、またはクセノコックス属(Xenococcus)の種である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、パラクロレラ属種のゲノムに組み込まれた外因性DNAのCpG、CHG、およびCHH DNAのメチル化とH3K9のモノメチル化およびトリメチル化の存在、並びにCHGメチルトランスフェラーゼをノックアウトすることによるこれらのメチル化の低減を示すゲノムトラックである。パラクロレラ属ノックアウト株STR03778およびSTR03749の外因性のDNAメチル化とH3K9のモノメチル化およびトリメチル化状態を、パラクロレラ属対照株STR00014と比較した。表1は、これらの株をさらに同定する。3つの株はすべて、組み込まれたブラストサイジン、Cas-9、およびGFP遺伝子を含む。DNAメチル化のパーセント(列の第1セット)およびゲノムカバレッジ(列の第2セット)を示す、ブラストサイジン、Cas-9、およびGFP遺伝子を含む代表的な外因性DNAゲノムトラックが示されており、並びにH3K9me1およびH3K9me3に特異的な抗体を用いて単離された、3つのパラクロレラ属株を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)からの配列情報も示されている。トラックは、異なる試料間で比較できるようにスケーリングされている。ヒストン3(H3)のカバレッジトラックも示す。染色体の位置は上部に、遺伝子モデルは下部に示されている。
図2図2は、CHGおよびCHH DNAのメチル化とH3K9のモノメチル化およびトリメチル化が、ネイティブなパラクロレラ属DNAの反復領域とセントロメア領域以外で、全般的に欠如していることを示している。パラクロレラ属ノックアウト株STR03778およびSTR03749のネイティブDNAのメチル化並びにH3K9のモノメチル化およびトリメチル化の状態を、パラクロレラ属対照株STR00014と比較した(追加情報については表1を参照のこと)。DNAメチル化のパーセント(列の第1セット)およびゲノムカバレッジ(列の第2セット)を示す、代表的なネイティブDNAゲノムトラックが示されており、並びにH3K9me1およびH3K9me3に特異的な抗体を用いて単離された、3つのパラクロレラ属株を用いたChIPからの配列情報も示されている。トラックは、異なる試料間で比較できるようにスケーリングされている。ヒストン3(H3)のカバレッジトラックも示す。染色体の位置は上部に、遺伝子モデルは下部に示されている。
図3図3は、CHGおよびCHH DNAのメチル化とH3K9のモノメチル化およびトリメチル化が、ネイティブなパラクロレラ属DNAの第2染色体の反復領域、転移因子、およびセントロメア領域以外で、全般的に欠如していることを示している。パラクロレラ属ノックアウト株STR03778およびSTR03749のDNAのメチル化並びにH3K9のモノメチル化およびトリメチル化状態を、パラクロレラ属対照株STR00014と比較した。DNAメチル化のパーセント(列の第1セット)およびゲノムカバレッジ(列の第2セット)を示す、代表的なネイティブDNAゲノムトラックが示されており、並びにH3K9me1およびH3K9me3に特異的な抗体を用いてプルダウンされた、3つのパラクロレラ属株を用いたChIPからの配列決定リードも示されている。トラックは、異なる試料間で比較できるようにスケーリングされている。ヒストン3(H3)のカバレッジトラックも示す。染色体の位置は上部に、遺伝子モデルは下部に示されている。
図4図4は、ウェスタンブロット法によって測定される、パラクロレラ属対照株STR00014と比較した、選択されたパラクロレラ属ノックアウト株STR03749、STR03778、STR03779における外因性遺伝子発現の比較を示す。
図5図5は、示された株について、オオキスティス属ゲノムに組み込まれた外因性DNA(ブラストサイジン遺伝子)のDNAメチル化(CpG、CHG、およびCHH)の存在を示すゲノムトラックを示す。最初の行セットはDNAメチル化のパーセントを示し、2番目の行セットはゲノムカバレッジを示す。STR24194はバックグラウンド株であり、STR28031は配列番号29(配列番号28をコードする)のノックアウト株であり、選択マーカーとしてブラストサイジンを有する。
図6図6は、オオキスティス属ゲノムのバックグラウンド株(STR24194)におけるDNAのDNAメチル化(CpG、CHG、およびCHH)のゲノムトラック分布の拡大図である。DNAメチル化のパーセント(第1の列セット)とゲノムカバレッジ(第2の列セット)を示すDNAが示されている。
図7図7は、オオキスティス属ゲノムのネイティブDNAのDNAメチル化(CpG、CHG、CHH)のゲノムトラック分布の拡大図を示している。DNAメチル化のパーセント(第1の列セット)とゲノムカバレッジ(第2の列セット)を示すDNAが示されている。STR28031は、配列番号29(配列番号28をコードする)のノックアウト株であり、選択マーカーとしてブラストサイジンを有する;STR24194はバックグラウンド株である。
図8図8Aおよび8Bは、オオキスティス属種における導入遺伝子(Cre組換え酵素およびBle)の発現を示すアガロースゲルを示す。図8Aは、5つのCreコンストラクトのSTR24194(バックグラウンド株)株を示す。図8Bは、配列番号28(STR29997)のメチルトランスフェラーゼをコードする配列の欠失を有するオオキスティス属種についての同じデータを示す。データは、creリコンビナーゼ導入遺伝子がオオキスティス属種バックグラウンド株(STR24194)で発現されることを示す。
図9図9は、半連続エリア培養下での生産性の指標として全有機炭素(TOC)として測定した、パラクロレラ属種(配列番号2のメチルトランスフェラーゼの欠失を伴うSTR03778)における生産性アッセイの試験結果を示す。このデータは、野生型パラクロレラ属種株(STR0010)と比較して、細胞の生産性に欠陥がないことを示している。
図10図10は、半連続エリア培養下での生産性の指標として全有機炭素(TOC)として測定した、オオキスティス属種(STR29997、配列番号29のメチルトランスフェラーゼの欠失を有する)における生産性アッセイの試験結果を示す。このデータは、増殖特性に関して野生型から改良および選択したバックグラウンド株(STR24194)と比較して、細胞の生産性に欠陥はないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本出願は、藻類における外因性遺伝子の発現をサイレンシングするエピジェネティックメカニズムを開示する。本出願は、藻類のエピジェネティックサイレンシングにおける外因性DNAのCHGメチル化の役割を同定する。そのため、外因性遺伝子サイレンシングにおけるCHGメチル化の役割は、内因性要素(クラミドモナス属、ボルボックス属)からでさえもCHGメチル化がまったく存在しないため、または、ネイティブだが外因性DNA要素ではないもののみを調べた(クロレラ属)ため、藻類では一般に知られていない。さらに、本出願は、藻類種における外因性遺伝子のエピジェネティックサイレンシングにおけるヒストン3、リジン9(H3K9)のメチル化(例えば、モノメチル化またはトリメチル化)の役割も同定する。
【0023】
本出願はトレボウクシア藻綱藻類における新規推定メチルトランスフェラーゼ遺伝子(Pfam PF00145,C-5シトシン特異的DNAメチルトランスフェラーゼ)を同定する。新たに同定した遺伝子の活性は、個々に遺伝子をノックアウトして、ネイティブかつ外因性のDNA配列中のDNAのメチル化に及ぼすノックアウトの効果、および外因性遺伝子のタンパク質発現レベルを評価することにより、解析した。H = A、T、またはCであるCpG、CHG、およびCHH DNA配列中のシトシンのメチル化に対するこれらのノックアウトの効果が開示されている。また、ネイティブDNAのクロマチン領域中の、および外因性DNAを含むクロマチン領域中のヒストン3、リジン9(H3K9)のメチル化(例えばモノメチル化、トリメチル化)のレベルも開示されている。また、オオキスティス属種におけるオルソロガスCHG DNAメチルトランスフェラーゼが開示されている。
【0024】
本発明者らは、DNAメチルトランスフェラーゼを変異または減弱させることにより、エピジェネティックなメカニズムによって起こり得る外因性DNAのCHGおよび/またはCHHメチル化が低下することを予期せず発見した。また、本発明者らは、DNAメチルトランスフェラーゼを変異または減弱させることにより、外因性遺伝子のタンパク質発現量が高まることを発見した。さらに、外因性DNAを含むクロマチン領域におけるヒストン3、リジン9(H3K9)のモノメチル化およびトリメチル化のレベルも低下する。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼを変異または減弱させると、外因性DNAのCHHメチル化が低下することが発見された。したがって、本発明は、本明細書に開示されるように、少なくとも1つのCHGおよび/またはCHHメチルトランフェラーゼの減弱を有する変異体緑藻植物藻類を提供する。
【0025】
緑藻植物藻類の外因性DNAのDNAメチル化にはCHG配列のDNAメチル化が含まれ得、CHG配列では「C」がメチル化シトシン、「H」がA,T,またはC)である。様々な実施形態において、本発明の変異体光合成生物は、メチルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子の減弱または欠失を有することができる。いくつかの実施形態において、コードされたメチルトランスフェラーゼは、配列番号1、3、5、7、28のいずれか、またはそれらの任意の組合せもしくはサブコンビネーション、またはそれらのバリアントをコードし、それらのいずれかと、もしくはタンパク質全体のうちの少なくとも50もしくは少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150もしくはそれ以上のアミノ酸残基の連続配列を含むそれらの断片に対して、もしくはそれらの任意の組合せもしくはサブコンビネーションに対して、少なくとも80%もしくは少なくとも90%もしくは少なくとも95%もしくは少なくとも97%もしくは少なくとも98%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有する配列である。他の実施形態では、メチルトランスフェラーゼは、本明細書に開示される任意の配列またはそのバリアントによってコードされる。
【0026】
本発明はまた、本発明の変異体光合成生物における外因性DNAの発現を増強する方法を含む。この方法は、a)光合成生物への外因性DNAの導入;およびb)CHGおよび/またはCHH DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の変異、減弱、または欠失を含む。生物に導入される外因性DNAは、メチルトランスフェラーゼ活性をコードする遺伝子を編集、減弱、または欠失させるための配列を含むDNA構築物であり得る。配列の変異、減弱、または欠失は、当業者に公知の任意の適切な方法によって達成することができる。例えば、CRISPR Cas9遺伝子編集、Cre-Lox組換え、または他の遺伝子編集技術を使用することができる。外因性DNAを有するが、CHGおよび/またはCHH DNAメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異または減弱した遺伝子を有さない対照光合成生物と比較して、この方法によって生産される変異体生物は、外因性DNAの低減されたCHGおよび/またはCHH DNAメチル化を有することができる。したがって、外因性DNAの発現は、対照生物と比較して、変異した生物において増強される。生物において変異、減弱、または欠失しているコードされたメチルトランスフェラーゼは、配列番号1、3、5、7、28のいずれか、またはそれらの任意の組合せもしくはサブコンビネーション、またはそれらの(バリアント)配列であって、それらのいずれかと、もしくは核酸配列の全タンパク質もしくはヌクレオチドのうちの少なくとも50もしくは少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150もしくはそれ以上のアミノ酸残基の連続配列を含むそれらの断片、もしくはそれらの任意の組合せもしくはサブコンビネーションに対して、少なくとも80%もしくは少なくとも90%もしくは少なくとも95%もしくは少なくとも97%もしくは少なくとも98%もしくは100%の配列同一性を有するものであってもよい。他の実施形態では、メチルトランスフェラーゼは、本明細書に開示される任意の配列またはそのバリアントによってコードされる。例えば、メチルトランスフェラーゼは、配列番号2、4、6、8、もしくは29のいずれか、またはそれらの(バリアント)配列であって、それらのいずれかと、もしくは核酸配列全体のうちの少なくとも200、少なくとも300、少なくとも500もしくはそれ以上のヌクレオチド残基の連続配列を含むそれらの断片、もしくはそれらの任意の組合せもしくはサブコンビネーションに対して、少なくとも80%もしくは少なくとも90%もしくは少なくとも95%もしくは少なくとも97%もしくは少なくとも98%もしくは100%の配列同一性を有するものによって、コードされ得る。いくつかの実施形態では、CHGおよび/またはCHHメチル化の低下は、外因性DNAの高度反復領域および/または外因性DNAのセントロメア領域で起こる。DNAの高反復領域または配列は、通常、ポリペプチドをコードしない。いくつかの実施形態において、高度反復領域または配列は、5~100または150~300ヌクレオチドの短い配列である。いくつかの実施形態において、配列は、DNAの領域において、少なくとも10,000回、または少なくとも50,000回、または少なくとも100,000回、または少なくとも500,000回、または少なくとも100万回繰り返す。この領域は、染色体、または、1Mb未満もしくは25Mb未満、もしくは50Mb未満もしくは100Mb未満もしくは250Mb未満のDNAの切片とすることができる。
【0027】
定義
異なる定義がなされていない限り、ここで使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の業者が通常理解するものと同じ意味を有する。競合する場合、定義を含む本出願が支配する。文脈上別段の要求がない限り、単数の用語は複数を含み、複数の用語は単数を含むものとする。本出願内で提供されるすべての範囲は、特に明記しない限り、範囲の上端および下端の値を含む。
【0028】
本明細書に記載される全ての刊行物、特許および他の参考文献は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、全ての目的のために、参照によりその全体が組み込まれる。
【0029】
本明細書の「Aおよび/またはB」のような語句で使用される「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」、および「B」を含むことが意図される。
【0030】
「約」とは、記載値の10%以内、または記載値の5%以内、または場合によっては記載値の2.5%以内のいずれかを意味し、または「約」とは、最も近い有効数字の桁に丸めることを意味することができる。
【0031】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは発現RNAをコードする核酸分子(典型的にはDNAであるが、任意にはRNA)の任意のセグメントを指すために広く使用される。したがって、遺伝子は、発現RNAをコードする配列(ポリペプチドコード配列、または例えば、リボソームRNA、tRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、短鎖ヘアピンRNA、リボザイムなどの機能的RNAを含むことができる)を含む。遺伝子は、それらの発現に必要なまたはそれらの発現に影響を与える調節配列、並びに例えば、イントロン配列、5’または3’非翻訳配列などの、その自然状態におけるタンパク質またはRNAコード配列に関連する配列をさらに含むことができる。いくつかの例において、「遺伝子」は、イントロンを含むことができる、または、含まないことができる、DNAまたはRNA分子のタンパク質コード部分のみを指すことができる。遺伝子は、好ましくは長さ50ヌクレオチド超、より好ましくは長さ100ヌクレオチド超であり、例えば長さ100ヌクレオチドから100,000ヌクレオチドの間、または長さ約200ヌクレオチドから約50,000ヌクレオチドの間、または長さ約200ヌクレオチドから約20,000ヌクレオチドの間など、長さ50ヌクレオチドから500,000ヌクレオチドの間であり得る。遺伝子は、関心対象の供給源からのクローニング、または既知もしくは予測された配列情報からの合成を含む、様々な供給源から得ることができる。
【0032】
「核酸」または「核酸分子」という語は、DNAまたはRNA(例えば、mRNA)のセグメントを意味し、改変された主鎖(例えば、ペプチド核酸、ロックされた核酸)または改変されたもしくは非天然の核酸塩基を有する核酸も含む。核酸分子は、二本鎖または一本鎖であり得、遺伝子またはその一部を含む一本鎖核酸分子は、コード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖であり得る。
【0033】
核酸分子またはポリペプチドは、示された供給源からの核酸セグメントまたはポリペプチドの単離(全体または一部)を含む、示された供給源からの「由来」であってもよい。核酸分子はまた、示された供給源から、例えば直接クローニング、PCR増幅、もしくは示されたポリヌクレオチド供給源からの人工合成によって、または、例えば生物種であってもよい指示されたポリヌクレオチド供給源に関連する配列に基づいて、誘導されてもよい。
【0034】
特定の供給源または種に由来する遺伝子または核酸分子には、供給源核酸分子に関して配列改変を有する遺伝子または核酸分子も含まれ、すなわち、遺伝子または核酸分子の配列は、参照される供給源または種に由来する遺伝子または核酸分子の配列に由来するが、改変を有していてもよい。例えば、供給源に由来する遺伝子または核酸分子(例えば、特定の参照遺伝子)は、供給源遺伝子または核酸分子に関して、意図的でない、または意図的に導入される1つ以上の変異を含むことができ、置換、欠失、または挿入を含む1つ以上の変異が意図的に導入される場合、配列改変は、細胞もしくは核酸のランダムもしくは標的変異によって、増幅もしくは他の遺伝子合成もしくは分子生物学技術によって、もしくは化学合成によって、またはそれらの任意の組合せによって、導入することができる。機能的RNAまたはポリペプチドをコードする参照遺伝子または核酸分子に由来する遺伝子または核酸分子は、参照もしくは供給源の機能的RNAもしくはポリペプチド、またはその機能的フラグメントと少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する機能的RNAまたはポリペプチドをコードすることができる。例えば、機能的RNAまたはポリペプチドをコードする参照遺伝子または核酸分子に由来する遺伝子または核酸分子は、参照もしくは供給源の機能的RNAもしくはポリペプチド、またはその機能的フラグメントと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する機能的RNAまたはポリペプチドをコードすることができる。
【0035】
同様に、特定の供給源または種に由来するポリペプチドまたはタンパク質は、供給源ポリペプチドに関して配列改変を有するポリペプチドまたはタンパク質を包含し、すなわち、該ポリペプチドは、参照される供給源または種に由来するポリペプチドの配列に由来するが、改変を有し得る。例えば、供給源に由来するポリペプチドまたはタンパク質(例えば、特定の参照タンパク質)は、供給源ポリペプチドに関して、意図しない、または(例えば、コードする核酸分子の変異によって)意図的に導入される1つ以上の変異(アミノ酸差)を含むことができる。参照ポリペプチドに由来するポリペプチドは、参照もしくは供給源のポリペプチド、またはその機能的フラグメントと少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有することができる。例えば、参照ポリペプチドに由来するポリペプチドは、参照もしくは供給源のポリペプチド、またはその機能的フラグメントと、少なくとも80%、または少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有することができる。
【0036】
「天然」、「ネイティブ」、および「野生型」という用語は、天然に見られる形態を意味する。例えば、天然由来または野生型の核酸分子、ヌクレオチド配列またはタンパク質は、天然の供給源中に存在することができ、天然の供給源から単離され、ヒトの操作によって意図的に改変されていない。
【0037】
本明細書で使用される「減弱」は、量、程度、強度、または強度の低下を意味する。減弱した遺伝子発現は、問題となる遺伝子の転写の、またはコードされたタンパク質の翻訳、折りたたみ、もしくは集合の、有意に低減された量および/もしくは速度を意味することができる。非限定的な例として、減弱遺伝子は、完全な機能的オープンリーディングフレームをコードしないか、または遺伝子調節配列の変更または破壊により発現が低減された、変異または破壊された遺伝子(例えば、部分的または全欠失、切断、フレームシフト、または挿入変異により破壊された遺伝子)でありうる。減弱遺伝子はまた、例えば、アンチセンスRNA、マイクロRNA、RNAi分子、またはリボザイムのような、遺伝子の発現を低下させる構築物によって標的化される遺伝子であってもよい。減弱遺伝子発現は、例えば、わずかであるか、または検出不能である量まで減少される遺伝子発現であり得る。減弱した遺伝子発現は、完全には機能しないまたは非機能性のRNAまたはタンパク質をもたらす遺伝子発現であってもよく、例えば、減弱した遺伝子発現は、切断されたRNAおよび/またはポリペプチドをもたらす遺伝子発現であり得る。
【0038】
「外因性核酸分子」、「導入遺伝子」、または「外因性遺伝子」とは、細胞に導入された(例えば、形質転換された)核酸分子または遺伝子を指す。形質転換された細胞は、追加の外因性遺伝子が導入され得る、組換え細胞と称され得る。核酸分子で形質転換された細胞の子孫は、外因性核酸分子を受け継いでいる場合、「形質転換された」とも称される。「内因性」核酸分子、遺伝子またはタンパク質は、宿主中で生じる、または宿主によって自然に産生される、ネイティブ核酸分子、遺伝子またはタンパク質である。
【0039】
「組換え」または「操作された」核酸分子は、ヒトの操作によって改変された核酸分子である。非限定的な例として、組換え核酸分子は、以下のいずれかの核酸分子を含む:(1)(例えば、核酸分子の複製、重合、消化(エキソヌクレアーゼまたはエンドヌクレアーゼ分解)、ライゲーション、逆転写、転写、塩基修飾(例えば、メチル化を含む)、組込みまたは組換え(相同および部位特異的組換えを含む)のための、化学的核酸合成の使用による、または酵素の使用による)例えば化学的または酵素的技術を用いて、インビトロで部分的または完全に合成または改変されている;(2)天然では結合されていない結合ヌクレオチド配列を含む;(3)天然由来の核酸分子配列に関して1つ以上のヌクレオチドを欠くように、分子クローニング技術を使用して操作されている;および/または(4)天然由来の核酸配列に関して1つ以上の配列変化または再配列を有するように、分子クローニング技術を使用して操作されている。非限定的な例として、cDNAは、インビトロポリメラーゼ反応によって生成された、またはリンカーが結合された、またはクローニングベクターもしくは発現ベクターのようなベクターに組み込まれた任意の核酸分子であるような、組換えDNA分子である。
【0040】
本明細書で使用される「組換えタンパク質」という用語は、アミノ酸が野生型タンパク質のものと異なっているかどうかにかかわらず、遺伝子操作によって産生されるタンパク質を指す。
【0041】
生物に適用される場合、「組換え」、「操作された」または「遺伝子操作された」という用語は、異種または外因性組換え核酸配列を生物に導入することによって操作された生物(例えば、非ネイティブ核酸配列)を指し、遺伝子ノックアウト、標的変異、遺伝子置換、およびプロモーター置換、欠失、破壊または挿入、並びに導入遺伝子または合成遺伝子または核酸配列の生物への導入を含む。すなわち、組換え、操作、または遺伝子操作は、ヒトの介入によって改変された生物を指す。組換えまたは遺伝子操作生物は、遺伝子発現または遺伝子「ノックダウン」を低下させるための構築物が導入された生物であってもよい。そのような構築物には、RNAi、マイクロRNA、shRNA、siRNA、アンチセンス、およびリボザイム構築物が含まれるが、これらに限定されない。また、ゲノムがメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、またはCas/CRISPRシステムの活性によって変化した生物が含まれる。外因性または組換え核酸分子は、組換え/遺伝子操作された生物のゲノムに組み込むことができ、または他の場合には、宿主ゲノムに組み込むことができない。本明細書で使用される場合、「組換え微生物」または「組換え宿主細胞」は、本発明の組換え微生物の子孫または誘導体を含む。ある特定の改変は、変異または環境の影響のいずれかにより、連続する世代において起こり得るので、そのような子孫または誘導体は、実際には、親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書で使用される用語の範囲内に依然として含まれる。
【0042】
用語「プロモーター」とは、細胞内でRNAポリメラーゼと結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することができる核酸配列を意味する。プロモーターには、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基または要素が含まれる。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)だけでなく転写開始部位も含むことができる。真核生物のプロモーターには、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスが含まれることが多いが、常に含まれるわけではない。原核生物プロモーターは-10および-35原核生物プロモーターコンセンサス配列を含み得る。種々の異なる供給源からの構成的、誘導性および抑制性プロモーターを含む多数のプロモーターが当技術分野で周知である。代表的な供給源としては、例えば藻類、ウイルス、哺乳動物、昆虫、植物、酵母、および細菌細胞型が挙げられ、これらの供給源からの適切なプロモーターは、容易に入手可能であるか、または、例えばオンラインで公的に入手可能な配列に基づいて、または例えばATCCのような寄託所、並びに他の商業的または個々の供給源から合成的に作製することができる。プロモーターは一方向性(一方向の転写開始)でも双方向性(両方向の転写開始)でもよい。プロモーターは、構成的プロモーター、抑制性プロモーター、または誘導性プロモーターであり得る。プロモーター領域は、RNAポリメラーゼが転写を開始するために結合する遺伝子近位プロモーターに加えて、遺伝子の転写開始部位の1kb、2kb、3kb、4kb、5kbまたはそれ以上の範囲内にあり得る遺伝子の上流の追加配列を含み得、この追加配列は、下流遺伝子の転写速度、および任意に発生、環境、または生化学(例えば、代謝)条件に対するプロモーターの応答性に影響し得る。
【0043】
「異種性」という用語は、ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素に関して使用される場合、宿主生物種以外の供給源に由来する、ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素を意味する。これに対し、本明細書において、「相同性」のポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素は、宿主生物種由来であるポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素を意味するために使用される。遺伝子配列を維持または操作するために使用される遺伝子調節配列にまたは補助的核酸配列に言及する場合(例えば、プロモーター、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、ポリA付加配列、イントロン配列、スプライス部位、リボソーム結合部位、内部リボソーム侵入配列、ゲノム相同性領域、組換え部位など)、「異種性」は、調節配列または補助配列が、調節また補助核酸配列が構築物、ゲノム、染色体、エピソーム中で並置される遺伝子と天然では関連しないことを意味する。したがって、その天然状態において(すなわち、非遺伝子操作生物のゲノムにおいて)機能的に連結されていない遺伝子に機能的に連結されているプロモーターは、たとえそのプロモーターが連結されている遺伝子と同じ種(または場合によっては同じ生物)に由来していても、本明細書では「異種プロモーター」と称される。
【0044】
本明細書中で使用される「タンパク質」または「ポリペプチド」という用語は、単数の「ポリペプチド」並びに複数の「ポリペプチド」を包含することを意図し、アミド結合によって直線的に連結されたモノマー(アミノ酸)から構成される分子(ペプチド結合としても知られる)を意味する。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の1つまたは複数の鎖を意味し、生成物の特定の長さを意味しない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の1つもしくは複数の鎖に言及するために使用される任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語の代わりに、またはこれらの用語のいずれとも交換可能に使用することができる。
【0045】
遺伝子名または種名の後に括弧内で一般的に提供される遺伝子およびタンパク質アクセッション番号は、米国国立衛生研究所が管理しているNational Center for Biotechnology Information (NCBI)ウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov)で公開されている配列記録の固有識別子である。「GenInfo Identifier」(GI)配列識別番号は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列に特有である。配列が何らかの形で変化した場合、新しいGI番号が割り当てられる。配列リビジョン履歴ツールを使用して、特定のGenBank記録に表示される配列の各種GI番号、バージョン番号、および更新日を追跡できる。アクセッション番号およびGI番号に基づいて核酸または遺伝子配列またはタンパク質配列を探索および取得することは、例えば、細胞生物学、生物化学、分子生物学、および分子遺伝学の分野で周知である。
【0046】
本明細書で使用される場合、核酸またはポリペプチド配列に関する用語「パーセント同一性」または「相同性」は、最大パーセントの同一性のために配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して、最大パーセントの相同性を達成した後、既知のポリペプチドと同一である候補配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合として定義される。N末端またはC末端の挿入または欠失は、相同性に影響を及ぼすものと解釈してはならず、約30個未満、約20個未満、または約10個未満のアミノ酸残基のポリペプチド配列への内部欠失および/または挿入は、相同性に影響を及ぼすものと解釈してはならない。ヌクレオチドまたはアミノ酸配列レベルでの相同性または同一性は、配列類似性検索用に調整される、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastx(Altschul(1997), Nucleic Acids Res.25, 3389-3402、およびKarlin(1990)、Proc Natl.Acad. Sci. USA 87, 2264-2268)によって採用されたアルゴリズムを使用してBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって決定することができる。BLASTプログラムによって使用されるアプローチは、まず、問い合わせ配列とデータベース配列との間のギャップの有無にかかわらず、類似したセグメントを検討し、次に、同定されたすべてのマッチングの統計的有意性を評価し、最後に、予め選択された有意性の閾値を満たすマッチングのみをサマライズすることである。配列データベースの類似性検索における基本的な問題の議論については、Altschul(1994), Nature Genetics 6, 119-129を参照のこと。ヒストグラム、説明、アラインメント、期待値(すなわち、データベース配列に対するマッチングを報告するための統計的有意性閾値)、カットオフ、マトリックス、およびフィルタ(低複雑度)の検索パラメータは、初期設定にすることができる。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxで使用されるデフォルトのスコアマトリックスは、BLOSUM62マトリックス(Henikoff(1992), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 10915-10919)であり、85以上の長さのクエリー配列(ヌクレオチド塩基またはアミノ酸)に推奨されている。
【0047】
ヌクレオチド配列を比較するために設計されたblastnについては、スコアリングマトリックスは、N(すなわち、ミスマッチ残基に対するペナルティスコア)に対するM(すなわち、一致する残基のペアに対する報酬スコア)の比率によって設定され、ここで、MおよびNに対するデフォルト値は、それぞれ+5および-4であり得る。4つのblastnパラメータは、以下のように調整され得る:Q=10(ギャップ作成ペナルティ);R=10(ギャップ伸長ペナルティ);wink=1(クエリーに沿ったすべてのwinkth位置でワードヒットを作成する);およびgapw=16(ギャップアラインメントが作成されるウィンドウ幅を設定する)。アミノ酸配列の比較のための同等のBlastpパラメータ設定は、Q=9;R=2;wink=1;およびgapw=32であり得る。GCGパッケージバージョン10.0で利用可能な配列間のベストフィット比較では、DNAパラメータであるGAP=50(ギャップ作成ペナルティ)およびLEN=3(ギャップ伸長ペナルティ)を使用でき、タンパク質比較における同等の設定はGAP=8およびLEN=2である。
【0048】
本明細書に開示されるのは、本明細書に開示される任意の配列(例えば、配列番号1~29のいずれか)のバリアントである、本発明のポリペプチドまたは核酸配列であり、完全長のポリペプチドもしくは核酸配列と、または全タンパク質もしくは核酸配列のうちの少なくとも50、または少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150またはそれ以上のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの連続配列を含むその断片に対して、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%、例えば、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または約100%の配列同一性を有する。開示された配列のバリアントは、挿入および置換を含む開示された配列のN末端および/またはC末端に、および/またはその中に挿入された少なくとも1つのアミノ酸残基またはヌクレオチドを有することができる。バリアントはまた、アミノ酸またはヌクレオチドの少なくとも1つの置換、例えば、保存的アミノ酸置換であり得る配列番号1~29のいずれかにおける置換を有する配列を含む。バリアントはまた、本明細書に開示される任意のアミノ酸配列またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列であってもよい。意図されたバリアントは、例えば、相同組換えもしくは部位指向もしくはPCR変異誘発により所定の変異を含むもの、並びに、本明細書に記載されたものを含むがこれらに限定されない他の種の対応するポリペプチドもしくは核酸、アレル、もしくは挿入および置換を含む、ポリペプチドもしくは核酸のファミリーの他の天然に存在するバリアント、並びに/または、天然に存在するアミノ酸以外の挿入および置換を含む部分(例えば、酵素などの検出可能な部分)を用いた、置換、化学的な、酵素的な、もしくは他の適切な手段でポリペプチドが共有結合的に改変されている誘導体を、追加的または代替的に含むことができる。いずれの実施形態においても、開示されたポリペプチド配列は、本発明の変異体生物におけるコードされたメチルトランスフェラーゼであってもよく、または生物におけるそのようなメチルトランスフェラーゼをコードする核酸配列であってもよい。
【0049】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」または「保存的変異」という語句は、共通の特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換を指す。個々のアミノ酸間の共通の性質を定義する機能的な方法は、相同生物の対応するタンパク質間のアミノ酸変化の正規化された頻度を分析することである(Schulz (1979) Principles of Protein Structure, Springer-Verlag)。このような分析によれば、グループ内のアミノ酸が互いに優先的に交換され、したがって全体的なタンパク質構造に対する影響において互いに最もよく似ているアミノ酸のグループを定義することができる(Schulz (1979) Principles of Protein Structure, Springer-Verlag)。このように定義されるアミノ酸グループの例としては、Glu、Asp、Asn、Gln、Lys、Arg、およびHisを含む「荷電/極性グループ」、Pro、Phe、Tyr、およびTrpを含む「芳香族または環状グループ」、並びにGly、Ala、Val、Leu、Ile、Met、Ser、Thr、およびCysを含む「脂肪族グループ」が挙げられる。グループ内では、サブグループが識別され得る。例えば、荷電/極性アミノ酸のグループは、Lys、Arg、およびHisを含む「正荷電サブグループ」と、GluおよびAspを含む「負荷電サブグループ」と、AsnおよびGlnを含む「極性サブグループ」とを含むサブグループに細分することができる。別の例では、芳香族または環状グループは、Pro、His、およびTrpを含む「窒素環サブグループ」と、PheおよびTyrを含む「フェニルサブグループ」とを含むサブグループに細分することができる。別のさらなる例では、脂肪族グループは、Val、Leu、およびIleを含む「大型脂肪族非極性サブグループ」と、Met、Ser、Thr、およびCysを含む「脂肪族軽度極性サブグループ」と、GlyおよびAlaを含む「小残基サブグループ」とを含むサブグループに細分することができる。保存的変異の例には、上記のサブグループ内のアミノ酸のアミノ酸置換が含まれ、限定されないが、例えば、正電荷を維持できるような、ArgからLysまたはその逆、負電荷を維持できるような、AspからGluまたはその逆、遊離の-OHを維持できるような、ThrからSerまたはその逆、および遊離の-NH2を維持できるような、AsnからGlnまたはその逆、が含まれる。「保存的バリアント」は、参照ポリペプチド(例えば、その配列が出版物もしくは配列データベースに開示されているか、またはその配列が核酸配列決定によって決定されているポリペプチド)の1つまたは複数のアミノ酸を、共通の特性を有する、例えば、上記で描写されたのと同じアミノ酸グループまたはサブグループに属するアミノ酸で置き換えるために置換された、1つまたは複数のアミノ酸を含むポリペプチドである。
【0050】
本明細書で使用される場合、「発現」は、少なくともRNA産生レベルの遺伝子の発現を含み、「発現産物」は、得られた産生物、例えば、発現された遺伝子のポリペプチドまたは機能的RNA(例えば、リボソームRNA、tRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、shRNA、リボザイムなど)を含み、「発現の増加」という用語は、mRNA産生の増加および/またはポリペプチド発現の増加を促進するための遺伝子発現の変化を含む。「産生の増加」は、ポリペプチドのネイティブな産生または酵素活性と比較した、ポリペプチド発現の量の増加、ポリペプチドの酵素活性レベルの増加、または両方の組み合わせを含む。
【0051】
本発明のいくつかの態様は、特定のポリヌクレオチド配列の発現の部分的、実質的または完全な減弱、欠失、サイレンシング、不活性化、またはダウンレギュレーションを含む。遺伝子は、部分的に、実質的に、または完全に欠失、サイレンシング、不活性化されるか、またはそれらの発現は、酵素の活性など、それらがコードするポリペプチドによって行われる活性に影響を及ぼすためにダウンレギュレートされ得る。遺伝子は、遺伝子の機能および/または発現を破壊する核酸配列の挿入(例えば、ウイルス挿入、トランスポゾン変異誘発、メガヌクレアーゼ工学、相同組換え、または当技術分野で公知の他の方法)により、部分的に、実質的に、または完全に欠失、サイレンシング、不活化、またはダウンレギュレートすることができる。「除去する」、「除去」、および「ノックアウト」という用語は、「欠失」、「部分欠失」、「実質的欠失」、または「完全欠失」という用語と互換的に使用することができる。特定の実施形態では、関心対象の微生物は、関心対象の特定の遺伝子をノックアウトするために、Cas/CRISPRシステムを使用して、部位特異的相同組換えまたは標的化組換えまたは変異によって操作することができる。さらに他の実施形態では、Cas/CRISPRシステム、RNAi、またはアンチセンスDNA(asDNA)構築物を用いた遺伝子調節領域への標的挿入または変異を用いて、関心対象の特定の遺伝子を部分的に、実質的に、または完全にサイレンシング、不活性化、またはダウンレギュレートすることができる。
【0052】
特定の核酸分子または特定のポリヌクレオチド配列のこれらの挿入、欠失、または他の改変は、微生物または宿主細胞の得られた株が「遺伝子改変されている」、「遺伝子操作されている」または「形質転換している」と理解され得るような、「遺伝子改変」または「形質転換」を包含すると理解され得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「発現を増強すること」は、1つ以上の遺伝子改変を含む光合成生物における、そのような遺伝子改変を伴わない対照光合成生物における発現または活性と比較した、関心対象の遺伝子もしくは核酸分子の発現または酵素活性の増加を含む。
【0054】
本明細書で用いられる「変異体」は、例えば、ガンマ線照射、UV、または化学的変異誘発を用いた古典的変異誘発の結果である遺伝子における変異を有する生物を指す。本明細書で使用される「変異体」はまた、異なる時間的、生物学的、もしくは環境的調節下での、および/もしくは自然に起こるのとは異なる程度での遺伝子の発現、並びに/または組換え細胞において天然では発現されない遺伝子の発現を含む、過剰発現;ノックアウトおよびノックインを含む相同組換え(例えば、野生型ポリペプチドよりも活性が高いもしくは低いポリペプチド、および/またはドミナントネガティブポリペプチドをコードする遺伝子による遺伝子置換);RNAi、アンチセンスRNA、またはリボザイムなどを介した遺伝子の弱毒化;並びにメガヌクレアーゼ、TALEN、および/またはCRISPRテクノロジーなどを使用したゲノム操作、を非限定的な例として含み得る遺伝子操作の結果として遺伝子の構造または発現が変化した、組換え細胞を指す。したがって、変異体は自然界に存在する生物ではない。関心対象の変異体生物は、典型的には、変異を欠く対応する野生型または祖先株の表現型とは異なる表現型を有し、ここで、成長アッセイ、生成物分析、光合成特性、生化学アッセイなどによって表現型を評価することができる。遺伝子「変異体」に言及する場合、その遺伝子が、ネイティブなまたは野生型遺伝子と比較して少なくとも1つの塩基(ヌクレオチド)変化、欠失、または挿入を有することを意味する。変異(1つ以上のヌクレオチドの変化、欠失、および/または挿入)は、遺伝子のコーディング領域にあってもよいし、イントロン、3'UTR、5'UTR、またはプロモーター領域にあってもよく、例えば、転写開始部位の2kb以内、または3kb以内、または翻訳開始部位にあってもよい。例えば、本明細書に開示されるような遺伝子の減弱された発現を有する変異体は、非限定的な例では、既知もしくは推定の転写開始部位の2kb以内、1.5kb以内、1kb以内、もしくは0.5kb以内、または翻訳開始部位の3kb以内、2.5kb以内、2kb以内、1.5kb以内、1kb以内、もしくは0.5kb以内など、転写開始部位の遺伝子5’の領域に、1つ以上の核酸塩基変化および/または1つ以上の核酸塩基欠失および/または1つ以上の核酸塩基挿入であり得る変異を有することができる。非限定的な例として、変異体遺伝子は、遺伝子の発現を増加または低下させることができるプロモーター領域内の変異、挿入、または欠失を有する遺伝子であり得;非機能性タンパク質、切断タンパク質、ドミナントネガティブタンパク質、または非タンパク質の産生をもたらす欠失を有する遺伝子であり得;コードされたタンパク質のアミノ酸の変化につながる、または遺伝子転写産物の異常なスプライシングなどを生じる1つ以上の点変異を有する遺伝子等であり得る。
【0055】
ポリペプチドの保存されたドメインには、「cd」(保存されたドメイン)データベース、COGデータベース、SMARTデータベース、PRKデータベース、TIGRFAMデータベース、または当技術分野で知られている他のもので同定されたものが含まれる。National Center for Biotechnology Information WEBサイトは、「古典的ドメインおよび全長タンパク質のためのよく注釈づけされた複数の配列アラインメントモデルの回収からなるタンパク質アノテーションリソース」として記載する保存ドメインデータベース(CDD)を提供する。これらは、RPS‐BLASTを介したタンパク質配列中の保存ドメインの迅速な同定のための位置特異的スコアマトリックス(PSSMs)として利用可能である。CDD含有量は、ドメイン境界を明示的に定義し、配列/構造/機能関係への洞察を提供するために3D構造情報を使用するNCBI硬化ドメイン、および多くの外部源データベース(Pfam、SMART、COG、PRK、TIGRFAM)からインポートされたドメインモデルを含む。任意のこれらのリソースを使用して、保存されたドメインを特定できる。
【0056】
「Pfam」という用語は、Pfam Consortiumによって維持され、Pfam.sanger.ac.uk/(Welcome Trust, Sanger Institute)、pfam.sbc.su.se(Stockholm Bioinformatics Center)、pfam.janelia.org/(Janelia Farm, Howard Hughes Medical Institute)、pfam.jouy.inra.fr/(Institut national de la Recherche Agronomique)、および pfam.ccbb.re.krを含む、いくつかのスポンサーされた世界的なWEBサイトで利用可能なタンパク質ドメインおよびタンパク質ファミリーの大規模なコレクションを指す。Pfamの最新リリースはPfam 32.0(2018年9月)である。Pfamドメインおよびファミリーは、複数の配列アラインメントおよび隠れMarkovモデル(HMM)を用いて同定される。Pfam-Aファミリーまたはドメイン割当は、プロテインファミリーの代表メンバーを用いたキュレートシードアラインメントおよびシードアラインメントに基づくプロファイル隠れMarkovモデルによって生成された高品質割当である(特に明記されていない限り、クエリーされたタンパク質とPfamドメインまたはファミリーとのマッチングは、Pfam-Aマッチングとなる。)。ファミリーに属するすべての識別された配列は、その後自動的にファミリーの完全なアラインメントを生成するために使用される(Sonnhammer (1998) Nucleic Acids Research 26, 320-322; Bateman (2000) Nucleic Acids Research 26, 263-266; Bateman (2004) Nucleic Acids Research 32, Database Issue, D138-D141; Finn (2006) Nucleic Acids Research Database Issue 34, D247-251; Finn (2010) Nucleic Acids Research Database Issue 38, D211-222)。Pfamデータベースにアクセスすることにより、例えば、上記のいずれかのウェブサイトを使用して、HMMER相同性検索ソフトウェア(例えば、HMMER2、HMMER3、またはそれ以上のバージョンのhmmer.janelia.org/)を使用して、タンパク質配列をHMMに対して照会することができる。照会されたタンパク質をPfamファミリーに属するものとして(または特定のPfamドメインを有するものとして)同定する有意な一致は、ビットスコアがPfamドメインの収集しきい値以上である一致である。期待値(e値)は、照会されたタンパク質をPfamに含めるための基準として、または照会されたタンパク質が特定のPfamドメインを有するかどうかを判定するための基準として使用することもでき、低いe値(1.0未満、例えば0.1未満、または0.01以下)は、チャンスによるマッチングが低い確率を表す。
【0057】
「実質的に同じ」または「実質的に同一」である特性への言及は、本発明の文脈において重要であると考えられる特性に重要ではない軽微で無関係な偏差を示す。様々な実施形態において、これは、特性が基準値の10%以内、好ましくは5%以内、または2.5%以内であることを意味することができる。
【0058】
「対照細胞」または「対照微生物」とは、野生型細胞または微生物のいずれかであり、そこから変異体微生物(遺伝子操作または変異誘発微生物)が直接的もしくは間接的に誘導されるか、または対照細胞もしくは微生物が脂質産生の増加をもたらす変異をもたないことを除いて、参照される変異体細胞または微生物と実質的に同一の細胞または微生物であり、例えば、対照細胞または微生物は、脂質産生を増加させるために遺伝子操作または変異誘発されていない。例えば、組換え藻類が、Cas9遺伝子をコードする外因性遺伝子および固有のCHGメチルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトを含む場合、対照藻類は、対照藻類がCHGメチルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトを含まないことを除いて、組換え藻類と実質的に同一であり得る。
【0059】
本明細書には、微生物を操作、アッセイ、培養、および分析するための方法が開示される。本明細書に記載される本発明はまた、細胞培養、微生物の形質転換、遺伝子操作、および当技術分野で公知の生化学的分析のための標準的な方法、技術、および試薬を使用する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。材料、方法、および実施例は、例示に過ぎず、限定を意図するものではない。本発明の他の特徴および利点は、明細書および特許請求の範囲から明らかであろう。
【実施例
【0060】
実施例1.完全浸透性CAS9発現パラクロレラ属株の開発
パラクロレラ属株は、その全体が参照により援用されるPCT出願公開WO2016109840に本質的に記載されている方法を用いて、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9遺伝子を発現するように遺伝子操作された。簡単に述べると、パラクロレラ属株WT-1185を、パラクロレラ属RPS17プロモーターに作動可能に連結されたストレプトコッカス・ピオゲネスCas9遺伝子、パラクロレラ属に最適化されたアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)コドン由来のブラストサイジン耐性遺伝子、パラクロレラ属ACP1プロモーターに作動可能に連結されたGFPレポーター発現カセットを含むベクターで形質転換し、パラクロレラ属株STR00014を作製した。Cas9遺伝子およびGFP遺伝子のパラクロレラ属ゲノムへの組み込みは、配列決定、フローサイトメトリーによる蛍光のシフト、およびウェスタンブロット法によるCas9タンパク質発現の実証によって確認した。
【0061】
実施例2. パラクロレラ属のDNAメチルトランスフェラーゼの同定
パラクロレラ属種におけるPfam PF00145(C-5シトシン特異的DNAメチルトランスフェラーゼ)を含む4つの新規推定DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子を、Pfam分析、BLAST検索、およびHMMERを用いて配列データベースから同定した。これら4つの推定メチルトランスフェラーゼ遺伝子の各々は、C-5シトシン特異的DNAメチルトランスフェラーゼに相当するPfam PF00145を含む。パラクロレラ属推定DNAメチルトランスフェラーゼのアミノ酸配列およびそれらに対応するcDNA配列を配列番号1~8として示した。
【0062】
実施例3.完全浸透性パラクロレラ属CAS9エディタ株STR00014を用いた4種類の推定DNAメチルトランスフェラーゼのそれぞれのノックアウト
個々の推定DNAメチルトランスフェラーゼの各々を、パラクロレラ属Cas9エディタバックグラウンド株STR00014(Cas9カセットを有する野生型株である)に組み込んだCRISPR Cas9および各々の遺伝子に対するキメラgRNAを用いてノックアウトした。パラクロレラ属の4つのDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子:EMRE3EUKT598198、EMRE3EUKT590754、EMRE3EUKT596408、およびEMRE3EUKT596208、を標的とするために、キメラgRNAを設計してインビトロで合成した(これらのそれぞれのキメラgRNA配列は配列番号9~12として示されている)。
【0063】
パラクロレラ属STR00014を、1~2μgの精製キメラガイドRNAと、パラクロレラ属にコドン最適化されかつパラクロレラ属由来のイントロンを含有するブレオマイシン耐性「BleR」遺伝子コドンを含有する1μgの選択マーカーDNA(配列番号13)とを用いたエレクトロポレーションにより形質転換した。BleR遺伝子は、パラクロレラ属RPS4プロモーター(配列番号14)に作動可能に連結され、パラクロレラ属RPS4ターミネーター(配列番号15)によって終結された。
【0064】
形質転換の6日前に1×106細胞/mLまで播種した100mLの種培養物を、形質転換の2日前に1×106細胞/mLまで1Lの培養物を接種するために使用する播種によって、エレクトロポレーションを行った。形質転換の日に、細胞を5000×gで20分間遠心分離することによりペレット化し、0.1um濾過した385mMソルビトールで3回洗浄し、5×109細胞/mLまで385mMソルビトール中に再懸濁した。100μL濃縮細胞のエレクトロポレーションを、種々の条件下でBio-Rad(登録商標)Gene Pulser Xcell(商標)中の0.2cmキュベット中で行った。エレクトロポレーションの最適化に使用したDNAは、bleおよびTurboGFP発現カセットを含む直線化pSG6640であった。TurboGFPカセットは、TurboGFP遺伝子(配列番号17)およびパラクロレラ属ACPターミネーター(配列番号18)に作動可能に連結されたパラクロレラ属ACPプロモーター(配列番号16)を含んでいた。予め冷却した細胞およびキュベットをエレクトロポレーションした直後に、1mLの冷ソルビトールを加え、市販の藻類増殖培地10mL中に細胞を移すために使用した。一晩回復させた後、細胞を濃縮し、250mg/Lのゼオシンを含有する増殖培地の直径13cmに広げ、バイオリスティクスの項に記載された条件下で増殖させた。パラクロレラ属ACPプロモーター、ACPターミネーター、TurboGFP遺伝子の配列を以降に示す。
【0065】
ある範囲の電圧、抵抗、およびキャパシタンスを試験した後、最適なエレクトロポレーション条件は、1.0~1.2 kV(5000~6000V/cm)、200~300オーム、および25~50μFであると決定された。より大量のDNAの使用は、4μg以上の量で効果がプラトー化したが、結果としてのゼオシン耐性コロニーの数を増加させた。
【0066】
エレクトロポレーションに続いて、細胞を、250μg/mlゼオシンを含有する寒天培地(10mMアンモニウムおよび15mM HEPES pH8を補充した市販の藻類増殖培地)上にプレーティングして、bleRカセットを組み込んだ形質転換体を選択した。EMRE3EUKT598198ノックアウト用形質転換体を、ネイティブ標的遺伝子座全体が増幅するように設計されたプライマー(DNA_oligoST106;配列番号19、およびDNA_oligoST107;配列番号20)を用いて、コロニーPCRによりスクリーニングした。プライマーは、遺伝子座への組込み(例えば、BleRカセットの「ノックイン」)の非存在下で約400bpのバンド、もしくは、標的遺伝子座への単一のBleRカセットの組込みがある場合には約5.1kbのバンドを生じるように、または標的遺伝子座への複数の組込みがある場合には、おそらくバンドを生じないように設計された。さらに、標的に隣接する上述のプライマーのそれぞれ1つと、染色体から選択可能なマーカーに増幅するように設計された内部BleRプライマー(DNA_oligoST078;配列番号21)とを用いて、さらに2つのコロニーPCR反応を行った。組込み可能なカセットの方向にかかわらず、標的の組込みが成功した場合、約800bpのバンドが、フランキングプライマーおよび内部プライマーDNA_oligoST078のいずれかによる増幅から生じるであろう。プライマーの配列を以下に示す。
得られたEMRE3EUKT598198ノックアウト株をSTR03778と呼ぶ。
【0067】
EMRE3EUKT590754ノックアウト用形質転換体を、ネイティブ標的遺伝子座全体が増幅するように設計されたプライマー(DNA_oligoST258;配列番号22;およびDNA_oligoST259;配列番号23)を用いて、コロニーPCRによりスクリーニングした。プライマーは、遺伝子座への組込み(例えば、BleRカセットの「ノックイン」)の非存在下で約400bpのバンド、もしくは、標的遺伝子座への単一のBleRカセットの組込みがある場合には約5.1kbのバンドを生じるように、または標的遺伝子座への複数の組込みがある場合には、おそらくバンドを生じないように設計された。さらに、標的に隣接する上述のプライマーのそれぞれ1つと、染色体から選択マーカーに増幅するように設計された内部BleRプライマー(配列番号21)とを用いて、さらに2つのコロニーPCR反応を行った。組込み可能なカセットの方向にかかわらず、標的の組込みが成功した場合、約800bpのバンドが、フランキングプライマーおよび内部プライマーDNA_oligoST078のいずれかによる増幅から生じるであろう。プライマーの配列を以下に示す。
得られたEMRE3EUKT590754ノックアウト株をSTR03826と呼ぶ。
【0068】
EMRE3EUKT596408ノックアウト用形質転換体を、ネイティブ標的遺伝子座全体が増幅するように設計されたプライマー(DNA_oligoST108;配列番号24、およびDNA_oligoST109;配列番号25)を用いて、コロニーPCRによりスクリーニングした。プライマーは、遺伝子座への組込み(例えば、BleRカセットの「ノックイン」)の非存在下で約400bpのバンド、もしくは、標的遺伝子座への単一のBleRカセットの組込みがある場合には約5.1kbのバンドを生じるように、または標的遺伝子座への複数の組込みがある場合には、おそらくバンドを生じないように設計された。さらに、標的に隣接する上述のプライマーのそれぞれ1つと、染色体から選択可能なマーカーに増幅するように設計された内部BleRプライマー(DNA_oligoST078;配列番号DNA_oligoST078)とを用いて、さらに2つのコロニーPCR反応を行った。組込み可能なカセットの方向にかかわらず、標的の組込みが成功した場合、約800bpのバンドが、フランキングプライマーおよび内部プライマーDNA_oligoST078のいずれかによる増幅から生じるであろう。
得られたEMRE3EUKT596408ノックアウト株をSTR03749と呼ぶ。
【0069】
EMRE3EUKT596208ノックアウト用形質転換体を、ネイティブ標的遺伝子座全体が増幅するように設計されたプライマー(DNA_oligoST110;配列番号26、およびDNA_oligoST111;配列番号27)を用いて、コロニーPCRによりスクリーニングした。プライマーは、遺伝子座への組込み(例えば、BleRカセットの「ノックイン」)の非存在下で約400bpのバンド、もしくは、標的遺伝子座への単一のBleRカセットの組込みがある場合には約5.1kbのバンドを生じるように、または標的遺伝子座への複数の組込みがある場合には、おそらくバンドを生じないように設計された。さらに、標的に隣接する上述のプライマーのそれぞれ1つと、染色体から選択可能なマーカーに増幅するように設計された内部BleRプライマー(DNA_oligoST078;配列番号DNA_oligoST078)とを用いて、さらに2つのコロニーPCR反応を行った。組込み可能なカセットの方向にかかわらず、標的の組込みが成功した場合、約800bpのバンドが、フランキングプライマーおよび内部プライマーDNA_oligoST078のいずれかによる増幅から生じるであろう。プライマーの配列を以下に示す。
得られたEMRE3EUKT596208ノックアウト株をSTR03779と呼ぶ。
【0070】
パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子、アミノ酸およびDNA配列の配列番号、これらの遺伝子のノックアウトに使用される対応するgRNA配列、および対応するノックアウト株を以下に要約する。
【0071】
(表1)パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼと対応する配列
【0072】
実施例4.DNAメチルトランスフェラーゼ活性に関するノックアウト株の分析
DNAメチル化状態
パラクロレラ属種ゲノムに組み込まれた外因性DNA(例えば、ブラストサイジン、Cas-9、およびGFPのDNA配列)だけでなくパラクロレラ属ネイティブDNAのCpG、CHG、およびCHHのシスチンメチル化状態を、パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03749、STR03826、STR03779、およびSTR03778について評価し、ゲノムに組み込まれたブラストサイジン、Cas9、およびGFPの遺伝子とインタクトDNAメチルトランスフェラーゼとを含む対照パラクロレラ属株STR00014と比較した。
【0073】
簡単に述べると、パラクロレラ属染色体DNAを、標準技術を用いて単離した。単離されたDNAのメチル化状態をMethylSeq(商標)(Illumina Inc., San Diego, CA)を用いて分析した。
【0074】
パラクロレラ属ノックアウト株STR03778
パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778では、そのようなノックアウトを行わない対照パラクロレラ属株STR00014と比較して、パラクロレラ属種ゲノムに組み込まれた外因性遺伝子ブラストサイジン、Cas-9、およびGFPのCHG DNAメチル化レベルが有意に低下した(図1)。
【0075】
さらに、パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778では、そのようなノックアウトを行わない対照パラクロレラ属株STR00014と比較して、パラクロレラ属種ゲノムに組み込まれた外因性遺伝子ブラストサイジン、Cas-9、およびGFPのCHH DNAメチル化レベルが低下した(図1)。しかしながら、パラクロレラ属種ゲノムに組み込まれた外因性遺伝子ブラストサイジン、Cas-9、およびGFPのCpG DNAメチル化レベルは、パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778では、そのようなノックアウトのない対照パラクロレラ属STR00014株と比較して、比較的変化しなかった(図1)。
【0076】
ネイティブなパラクロレラ属DNA配列のCHG、CHH、およびCpG DNAメチル化のレベルも評価した。パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778は、そのようなノックアウトのない対照パラクロレラ属株STR00014と比較して、そのゲノムの高度反復配列およびセントロメア領域でより低いCHGメチル化を示したが、ネイティブなパラクロレラ属DNA配列のCHHおよびCpG DNAメチル化のレベルは比較的変化しなかった(図2および図3)。
【0077】
パラクロレラ属ノックアウト株STR03749
パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03749では、そのようなノックアウトを行わない対照パラクロレラ属株STR00014と比較して、パラクロレラ属種ゲノムに組み込まれた外因性遺伝子ブラストサイジン、Cas-9、GFPのCHG、CpG、CHH DNAメチル化レベルが、比較的変化しなかった(図1)。
【0078】
ネイティブなパラクロレラ属DNA配列のCHG、CHH、およびCpG DNAメチル化のレベルも評価した。ネイティブなパラクロレラ属DNA配列のCHG、CHH、CpG DNAメチル化レベルは比較的変化しなかった(図2および図3)。
【0079】
パラクロレラ属ノックアウト株STR03826およびSTR03779
パラクロレラ属ノックアウト株STR03826、STR03779は、パラクロレラ属ノックアウト株STR03749と同様のメチル化パターンを示した(データ示さず)。
【0080】
このように、パラクロレラ属遺伝子EMRE3EUKT598198は、外因性DNAのメチル化を担っている。
【0081】
実施例5.H3K9のモノメチル化およびトリメチル化のノックアウト株の分析
ヒストン3のリジン9(H3K9)のモノメチル化およびトリメチル化を、活性Motif(登録商標)(Carlsbad, CA, Catalog No.53040)技術の試薬を使用するクロマチン免疫沈降法(ChIP)を用いて、対照パラクロレラ属株STR00014およびDNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03749およびSTR03778について評価した。ヒストン3のトリメチル化リジン9に特異的な抗体をAbcam(登録商標)(Cambridge, MA)から購入し、ChIPアッセイに使用した。
【0082】
パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778(配列番号1をコードするEMRE3EUKT598198遺伝子のノックアウト)は、そのようなノックアウトを伴わない対照パラクロレラ属株STR00014と比較して、パラクロレラ属ゲノムに組み込まれた外因性遺伝子であるブラストサイジン、Cas-9、およびGFPを含む染色体部分において、H3K9のモノメチル化およびトリメチル化の有意な減少を示した(図1)。
【0083】
パラクロレラ属DNAメチルトランスフェラーゼノックアウト株STR03778(EMRE3EUKT598198遺伝子のノックアウト)では、ネイティブ染色体におけるH3K9のモノメチル化およびトリメチル化のわずかな低下が認められた(図2および図3)。
【0084】
パラクロレラ属株STR03749は、H3K9のモノメチル化およびトリメチル化において有意な変化を示さなかった(図1~3)。このように、パラクロレラ属遺伝子EMRE3EUKT598198は、組込まれた外因性DNAのヒストンH3K9のモノおよびトリメチル化に間接的に関与している。
【0085】
図9は、ノックアウト株の生産性(全有機炭素として)の試験結果も示している。その結果、野生型株と比較して生産性に欠陥は認められなかった。
【0086】
実施例6.外来遺伝子のタンパク質発現の評価
パラクロレラ属ゲノムに組み込まれた外来遺伝子Cas-9の発現を、3つのノックアウト株STR03778、STR03749、STR03779についてウェスタンブロット解析で評価し、対照株STR00014と比較した。抗Cas-9抗体をウェスタンブロット分析に使用した。
【0087】
ブラストサイジンの選択圧の有無にかかわらず、対照株STR00014と比較して、ノックアウト株STR03778とSTR03749の両方で、Cas-9タンパク質の発現レベルが高かった(図4)。
【0088】
このように、パラクロレラ属遺伝子EMRE3EUKT598198を変異または減弱させると、パラクロレラ属種における外因性DNAの発現が増加する。
【0089】
実施例7.他の藻類種におけるオルソロガスDNAメチルトランスフェラーゼの同定
パラクロレラ属遺伝子EMRE3EUKT598198(配列番号1)のアミノ酸配列を、BLAST分析を用いて藻類オオキスティス属種におけるオルソロガスDNAメチルトランスフェラーゼを同定するために使用した。同定されたDNAメチルトランスフェラーゼのアミノ酸およびcDNA配列は、配列番号28~29として示される。
【0090】
オオキスティス属種ゲノムに組み込まれた外因性DNA(ブラストサイジン遺伝子)のCHG DNAメチル化が、一部のCpGおよびCHH DNAメチル化に加えて同定された(図5~7)。さらに、本出願は、オオキスティス属種DNAの、反復領域およびセントロメアでのCHGメチル化を同定する(図6~7)。
【0091】
実施例8. オオキスティス属におけるCHGメチルトランスフェラーゼの減弱
メチルトランスフェラーゼ遺伝子は上記のようにオオキスティス属種で同定された。メチルトランスフェラーゼ配列番号28をコードする配列の欠失は、Helios(登録商標)Gene Gun System (Bio-Rad, Hercules, Calif., USA)を用いてRNP/DNAコートされた弾丸を用いて生成した。ノックアウトされる遺伝子を標的とする選択マーカーDNAおよびCas9リボ核タンパク質(RNP)が金粒子上に沈着し、この金粒子が管の内側に付着し、この管を通して遺伝子銃によって発射されたヘリウムガスのバーストが、コーティングされた金粒子を固体の非選択培地に付着したオオキスティス属種の細胞内に投入する。翌日、形質転換コロニーの成長のために細胞を選択培地に移した。
【0092】
Cas9 RNPは、Alt-R CRISPR-Cas9システム(Integrated DNA Technologies, Inc., Coralville, Iowa, USA)を用いて調製した。目的の遺伝子を標的とするcrRNA XTをtracrRNAにアニーリングし、得られたガイドRNA二本鎖をCas9 V3と複合体を形成してCas9 RNPを形成した。選択マーカーDNAを大腸菌から調製し、制限消化して主鎖を分離した。NAS16305(ブラストサイジン耐性をコードするベクター)またはNAS15142(ノウルセオトリシン耐性をコードするベクター)のいずれかを用いた。いずれのマーカーも、オオキスティス属種についてコドンを最適化し、オオキスティス属種からの内因性イントロンを含み、内因性オオキスティス属種プロモーターに作動可能に連結し、内因性オオキスティス属種ターミネーターによって終結した。
【0093】
0.6umの金粒子を硫酸プロタミン塩溶液に再懸濁し、超音波処理した。DNAマーカーをPBS中でCas9 RNP(62pmol Cas9 V3および500pmolガイドRNA二重鎖)と混合し、DNA‐RNP混合物をプロタミン‐金溶液に添加して氷上で2時間沈殿させた。
【0094】
各サンプルにつき、7''の長さのTefzel(商標)(エチレンテトラフルオロエチレン)(E.I. du Pont de Nemours, Wilmington, DE)チューブを、(例えば、公開された米国特許出願2017/0130238に記載されているように)マニホールド乾燥機に取り付けた可撓性チューブに挿入した。可撓性チューブをLeurロックの場所でマニホールド乾燥器から外し、10mLシリンジに取り付けた。DNA-RNP/金懸濁液を十分に混合し、シリンジによる吸引を適用することによりTefzel(商標)チューブに引き込んだ。シリンジに接続したまま、Tefzel(商標)チューブを平らな表面に2分間置き、この間に、金を溶液から沈降させ、チューブの内側に付着させた。次に、シリンジを用いて圧力を加え、PBS溶液をチューブから穏やかに押し出した。チューブをすぐにひっくり返し、Tefzel(商標)チューブの、金が最初に沈殿した場所とは反対の側に残りの金スラリーを塗れるようにした。次いで、Tefzel(商標)チューブをシリンジから取り外し、0.5~0.6LPMの窒素を流しながらマニホールド乾燥機上に戻した。暗色から淡黄色への可視色変化から明らかなように、金を完全に乾燥させると、Tefzel(商標)チューブが可撓性チューブから取り出され、Helios Gene Gun(商標)で使用するためにハーフインチの断片に切断された。
【0095】
形質転換
形質転換のための細胞を調製するために、形質転換の6日前に0.05 OD730まで播種した100mlの種培養物を、形質転換の1日前に0.2 OD730まで500mlの培養物を播種するために使用した。培養物を、植物成長チャンバ中の、半分濃度の塩を有する市販の藻類増殖培地中で、130rpmで振盪しながら、16:8の明:暗サイクル、25℃、1% CO2で増殖させた。
【0096】
形質転換の日に、細胞培養物を5000×gで20分間遠心分離によりペレット化した。細胞を50mL浸透圧調節物質(250mMマンニトール/250mMソルビトール、0.1umフィルター滅菌)中に再懸濁し、室温で1~2時間インキュベートした。浸透圧前処理後、細胞を浸透圧調節物質中で20.0 OD730/mLまで濃縮し、2%寒天PM147固体培地を含む直径13cmのシューティングプレート上の直径4cmの5つの円の各々に細胞懸濁液200uLを塗った。細胞が完全に乾燥したとき、遺伝子銃を用いて、プレートから3~6cmの距離から400psiで細胞円当たり2つの弾丸を発射した。5つの細胞円の中で分割された20.0 OD730の細胞に向けて、各サンプルについて合計で10個の複製弾丸を発射した。細胞を、暗い30℃インキュベーター中のシューティングプレート上に一晩そのままにした。
【0097】
形質転換の翌日に、複製細胞円からの細胞を、液体の市販の藻類増殖培地でシューティングプレートを洗浄することによって一緒にプールした。回収した細胞を、425mg/Lのブラストサイジンまたは80mg/Lの硫酸ノウルセオトリシンのいずれかを含有する増殖培地上に、直径13cmプレート当たり10.0 OD730の意図された密度で平板培養した。
【0098】
DNAをコーティングした弾丸によるMTaseノックアウト株と親株の形質転換
オオキスティス属種メチルトランスフェラーゼ(MT)ノックアウト株および親株を、Helios(登録商標)Gene Gun System(Bio-Rad, Hercules, Calif., USA)を用いてDNAで形質転換した。DNAが金粒子上に沈着し、この金粒子が管の内側に付着し、この管を通して遺伝子銃により発射されたヘリウムガスのバーストが、DNAがコーティングされた金粒子を固形非選択的培地上に付着したオオキスティス属種の細胞内に投入した。翌日、形質転換コロニーの成長のために細胞を選択培地上に移動させた。
【0099】
同じBSD選択マーカーをコードする5つのDNAベクター(CRE1~5)を試験したが、異なるバージョンのCREリコンビナーゼを試験した(図8)。CREの異なるバージョンは、オオキスティス属種に対して最適化された同じCDS配列コドンを共有していたが、それぞれがオオキスティス属種とは異なる内因性イントロンを含んでいた。すべてのCREバージョンは、同じ内因性オオキスティス属種プロモーターに作動可能に連結され、同じ内因性オオキスティス属種ターミネーターによって終結した。ベクターDNAを大腸菌から調製し、形質転換前に主鎖を分離するために制限消化した。データは、ノックアウト株における部分的または完成なフロキシング(floxing)を示す。CHGメチル化は、図5~7に示すように、親株については広範囲であり、ノックアウトでは認められなかった。
【0100】
DNA(2~10μg)を金粒子上に沈着させ、100%エタノール溶液中に再懸濁した。体積を計算して10個の弾丸を作り、PVPは使用せず、プロタミン硫酸塩溶液を使用した。DNA/金懸濁液が調製されている間に、各サンプルにつき、1本の7''の長さのTefzel(商標)(エチレンテトラフルオロエチレン)チューブを、(2017年5月11日公開の米国特許出願第2017/0130238号に記載されているように)マニホールド乾燥機に取り付けられた可撓性チューブに挿入することによって予め乾燥させ、Tefzel(商標)チューブの内側から環境的な湿度の蓄積を除去するために通した0.5~0.6LPM窒素の流れを伴って少なくとも15分間放置した。
【0101】
DNA/金懸濁液を調製し、Tefzel(商標)チューブを予備乾燥した後、可撓性チューブをLeurロックの場所でマニホールド乾燥器から外し、10mLシリンジに取り付けた。DNA/金懸濁液を十分に混合し、シリンジによる吸引の適用によってTefzel(商標)チューブに引き込んだ。シリンジに接続したまま、Tefzel(商標)チューブを平らな表面に5分間置き、この間に、金を溶液から沈降させ、チューブの内側に付着させた。5分間の沈降時間の後、シリンジを用いて圧力を加え、エタノールをチューブから穏やかに押し出した。チューブをすぐにひっくり返し、Tefzel(商標)チューブの、金が最初に沈殿した場所とは反対の側に残りの金スラリーを塗れるようにした。2~5分間の空気乾燥時間の後、Tefzel(商標)チューブをシリンジから取り外し、0.5~0.6LPMの窒素を流しながらマニホールド乾燥器上に戻した。暗色から淡黄色への可視色変化から明らかなように、金を完全に乾燥させると、Tefzel(商標)チューブは可撓性チューブから取り出され、Helios(登録商標)Gene Gunで使用するためにハーフインチに切断された。
【0102】
形質転換のための細胞を調製するために、形質転換の6日前に0.05 OD730まで播種した100mlの種培養物を、形質転換の1日前に0.2 OD730まで500mlの培養物を播種するために使用した。培養物を、Conviron(商標)インキュベーター内の市販の藻類増殖培地中で、130rpmで振盪しながら、16:8の明:暗サイクル、25℃、1% CO2で増殖させた。
【0103】
形質転換の日に、細胞培養物を5000×gで20分間遠心分離によりペレット化した。細胞を50mL浸透圧調節物質(250mMマンニトール/250mMソルビトール0.1umフィルター滅菌)中に再懸濁し、室温で1~2時間インキュベートした。
【0104】
浸透圧前処理後、細胞を浸透圧調節物質中で20.0 OD730/mLまで濃縮し、2%寒天PM147固体培地を含む直径13cmのシューティングプレート上の直径4cmの5つの円の各々に細胞懸濁液200uLを塗った。細胞を完全に乾燥したとき、Helios(登録商標)遺伝子銃を用いて、プレートから3~6cmの距離から400psiで細胞円当たり2つの弾丸を発射した。5つの細胞円の中で分割された20.0 OD730の細胞に向けて、各サンプルについて合計で10個の複製弾丸を発射した。細胞を、暗い30Cインキュベーター中のシューティングプレート上に一晩そのままにした。
【0105】
形質転換の翌日に、複製細胞円からの細胞を、液体標準藻類増殖培地でショットプレートを洗浄することによって一緒にプールした。回収した細胞を、直径13cmのプレート当たり10.0 OD730の意図した密度で選択培地(425mg/Lのブラストサイジンを含有する標準藻類増殖培地)上にプレーティングした。
【0106】
配列番号28のメチルトランスフェラーゼをコードする配列の欠失を有するオオキスティス属種株をSTR28031およびSTR29997として同定した。これらの株は、'031が選択マーカーとしてBSDを含有し、'997が選択マーカーとしてノウルセオトリシンを含有するという点でのみ異なることに留意されたい。欠失株では、図5に示すように、CHGおよびCHHメチル化の大幅な減少が認められ、バックグラウンド対照株はSTR24194であった(ただし、導入遺伝子におけるメチル化の比較のための対応する選択マーカーを有していた)。
【0107】
オオキスティス属種(STR29997)の生産性分析(図10)を行い、TOCとして測定したところ、バックグラウンド株(STR24194)と比較して、細胞の生産性に欠陥はなかった。
【0108】
上記の実施例に関連して本発明が説明されたが、修飾およびバリエーションが、本発明の本旨および範囲に包含されることが理解されるであろう。従って、本発明は、以下の特許請求項の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022512240000001.app
【国際調査報告】