(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(54)【発明の名称】アルデヒド変性ヒアルロン酸、それを調製するための方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20220127BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220127BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20220127BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20220127BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20220127BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20220127BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220127BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K9/06
A61P13/02
A61P15/02
A61P11/04
A61K31/728
A61K45/00
A61K31/167
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533292
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2019085829
(87)【国際公開番号】W WO2020127407
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511202045
【氏名又は名称】メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プリット,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ドレーベ,コリン
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,シビュレ
(72)【発明者】
【氏名】ブキセビィック,ラドヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウアー,ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】ライザー,シャルロット
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C090
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB03
4C076BB16
4C076BB28
4C076BB30
4C076CC17
4C076CC18
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076FF70
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA28
4C084MA66
4C084NA20
4C084ZA59
4C084ZA81
4C084ZA89
4C086AA01
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA66
4C086NA20
4C086ZA59
4C086ZA81
4C086ZA89
4C090AA02
4C090AA05
4C090AA09
4C090BA67
4C090BB02
4C090BB18
4C090BB22
4C090BB35
4C090BB36
4C090BB53
4C090BB62
4C090BB65
4C090BB82
4C090BB92
4C090BB98
4C090BD36
4C090BD37
4C090CA34
4C090CA35
4C090DA23
4C090DA26
4C206AA01
4C206AA03
4C206AA04
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA28
4C206MA48
4C206MA86
4C206ZA59
4C206ZA81
4C206ZA89
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH
2-OH基が構造-CH
2-O-CH
2-CHOを有するアルデヒド基に修飾されている修飾ヒアルロン酸誘導体、それを調製するための方法、およびその用途に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH
2-OH基が、構造-CH
2-O-CH
2-CHOを有するアルデヒド基に修飾されている、修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項2】
修飾度が、1.0%~20.0%、好ましくは1.0%~15.0%、より好ましくは1.0%~10.0%、より好ましくは1.5%~10.0%、より好ましくは1.5%~8.0%、より好ましくは1.8%~7.0%、より好ましくは2.0%~6.9%であり、修飾度は、-CH
2-O-CH
2-CHO基の数を前記修飾ヒアルロン酸誘導体中に存在するN-アセチル-D-グルコサミン単位の総数で割ったものとして定義され、および/または、前記修飾ヒアルロン酸誘導体が、0.1~2.5MDa、好ましくは0.2~1.5MDa、より好ましくは0.4~1.3MDa、さらにより好ましくは0.6~1.1Mdaの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項3】
以下の構造
【化1】
(式中、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される)の少なくとも1つの二糖単位を含み、
任意選択で、以下の構造
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、Hおよび-CH
2-CHOから独立して選択され、R
5は、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、アルカリ土類金属イオン、および-CH
2-CHOから選択され、ただし、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOであり、R
1が-CH
2-CHOである場合、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOである)の少なくとも1つの二糖単位をさらに含む、請求項1または2に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体を調製するための方法であって、
a)少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH
2-OH基が、以下の式-CH
2-O-CH
2-CHOH-CH
2OHの部分に修飾されることを特徴とするグリセロール修飾ヒアルロン酸を提供するステップと;
b)前記グリセロール修飾ヒアルロン酸を水性媒体に溶解して、可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を得るステップと;
c)前記可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を、酸化剤、好ましくは、過ヨウ素酸、より好ましくは過ヨウ素酸ナトリウムと反応させ、前記-CH
2-O-CH
2-CHOH-CH
2OH基の少なくとも一部を、式-CH
2-O-CH
2-CHOを有するアルデヒド基に変換し、それによりアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を得るステップとを含む方法。
【請求項5】
d)任意選択で、好ましくはビシナルジオール(1,2-ジオール)、より好ましくはエチレングリコールを添加することによりステップc)の反応を停止するステップ;
e)任意選択で、好ましくは有機溶媒、好ましくはエタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物中で前記修飾ヒアルロン酸誘導体を沈殿させ、前記沈殿物を生理食塩水に再溶解し、前記有機溶媒中で前記修飾ヒアルロン酸誘導体を再び沈殿させることにより、前記修飾ヒアルロン酸誘導体を精製するステップ;
f)任意選択で、ステップe)で得られた前記修飾ヒアルロン酸誘導体を乾燥させるステップのうちの1つ以上をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グリセロール修飾ヒアルロン酸が、0.1~5.0MDa、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.0~2.0MDa、さらにより好ましくは1.1~1.9、さらにより好ましくは1.2~1.8MDa、さらにより好ましくは1.3~1.7MDa、さらにより好ましくは1.4~1.6MDaの重量平均分子量、および/もしくは5~25%、好ましくは10~20%の修飾度を有し、前記修飾度は、-CH
2-O-CH
2-CHOH-CH
2OH基の数を前記グリセロール修飾ヒアルロン酸中に存在するN-アセチル-D-グルコサミン単位の総数で割ったものとして定義され、
ならびに/または、
(i)ステップc)は、4~35℃、好ましくは15~35℃、より好ましくは20~30℃、さらにより好ましくは20~25℃、さらにより好ましくは約21~23℃、さらにより好ましくは約22℃の温度で実行され;および/もしくは
(ii)ステップc)は、5~120分、好ましくは5~65分、より好ましくは10~60分、さらにより好ましくは10~50分、さらにより好ましくは10~40分、さらにより好ましくは10~30分、さらにより好ましくは10~20分の期間実行され;および/もしくは
(iii)前記酸化剤は、前記グリセロール修飾ヒアルロン酸の二糖繰り返し単位のモル量を基準として、0.01~0.5モル当量、好ましくは0.01~0.3モル当量、より好ましくは0.04~0.3モル当量、さらにより好ましくは0.04~0.1の量で存在し;および/もしくは
(iv)前記グリセロール修飾ヒアルロン酸は、2~50g/L、好ましくは2~40g/L、より好ましくは3~38g/L、より好ましくは4~36g/Lの量で存在する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記修飾ヒアルロン酸誘導体が、好ましくは、
i)1.0%~20.0%、好ましくは1.0%~15.0%、より好ましくは1.0%~10.0%、より好ましくは1.5%~10.0%、より好ましくは1.5%~8.0%、より好ましくは1.8%~7.0%、より好ましくは2.0%~6.9%の修飾度を有し、前記修飾度は、-CH
2-O-CH
2-CHO基の数を前記修飾ヒアルロン酸誘導体中に存在するN-アセチル-D-グルコサミン単位の総数で割ったものとして定義され、および/または
ii)0.1~2.5MDa、好ましくは0.2~1.5MDa、より好ましくは0.4~1.3MDa、さらにより好ましくは0.6~1.1MDaの重量平均分子量を有し、および/または
iii)以下の構造
【化3】
(式中、Rは、H、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される)の少なくとも1つの二糖単位を含み、
任意選択で、以下の構造
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、Hおよび-CH
2-CHOから独立して選択され、R
5は、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、アルカリ土類金属塩、および-CH
2-CHOから選択され、ただしR
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つが-CH
2-CHOであり、R
1が-CH
2-CHOである場合、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOである)の少なくとも1つの二糖単位をさらに含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項8】
美容的用途における架橋ヒドロゲルのin situ形成のための、好ましくは、眉間のライン、ほうれい線、二重顎、マリオネットライン、顎ライン、頬交連、口腔周囲の皺および目じりの皺、皮膚のくぼみ、傷跡、こめかみ、眉の皮下サポート、頬部および頬の脂肪パッド、目の下の溝、鼻、唇、頬、あご、口腔周囲領域、眼窩下領域、および顔の非対称性を含む皺および皮膚のラインを処置するための、請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体の使用。
【請求項9】
予備形成された架橋ヒドロゲルの形成のための、請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体の使用。
【請求項10】
治療用途、好ましくは腹圧性尿失禁、膣乾燥、膀胱尿管逆流、声帯不全、および声帯の内側化の処置のための架橋ヒドロゲルのin situ形成における使用のための、請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項11】
前記修飾ヒアルロン酸誘導体が、第2の多糖誘導体と一緒に使用され、これは前記修飾ヒアルロン酸誘導体の1つ以上のアルデヒド基との共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含み、前記第2の多糖は、好ましくはヒアルロン酸誘導体であり、前記求核性官能基は、好ましくはヒドラジド官能基であり、前記第2の多糖は、より好ましくは以下の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を含むヒアルロン酸誘導体である、請求項8~9のいずれか一項に記載の使用または請求項10に記載の使用のための修飾ヒアルロン酸誘導体。
【化5】
【請求項12】
(i)前記修飾HA誘導体のアルデヒド基および前記第2の多糖誘導体の求核性官能基が、前記修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体を対象の体内の標的部位に同時注入すると、自発的に共有結合を形成し、それにより前記標的部位で架橋ヒドロゲルを形成する、または
(ii)前記修飾HA誘導体のアルデヒド基および前記第2の多糖誘導体の求核性官能基が、前記修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体と接触すると、自発的に共有結合を形成し、好ましくは前記修飾HA誘導体および前記第2の多糖誘導体は、緩衝培地、好ましくは生理学的緩衝培地中に存在する、請求項11に記載の使用、または請求項11に記載の使用のための修飾ヒアルロン酸誘導体。
【請求項13】
次の構造単位:
【化6】
(式中、「Ac」は、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される)を含む架橋ヒドロゲル。
【請求項14】
予備形成された架橋ヒドロゲルである、請求項13に記載の架橋ヒドロゲル。
【請求項15】
非架橋多糖、好ましくはヒアルロン酸をさらに含み、および/または麻酔薬、好ましくはリドカインをさらに含む、請求項14に記載の架橋ヒドロゲル。
【請求項16】
請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体を、請求項11に記載の第2の多糖誘導体と接触させることにより得られる架橋ヒドロゲルであって、好ましくは以下の構造単位:
【化7】
(式中、「Ac」は、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される)を含む架橋ヒドロゲル。
【請求項17】
前記接触がin situで行われる、請求項16に記載の架橋ヒドロゲル。
【請求項18】
前記接触がin vitroで行われ、前記接触が好ましくは緩衝液、好ましくは生理学的緩衝液中で行われる、請求項16に記載の架橋ヒドロゲル。
【請求項19】
架橋ヒドロゲルを調製する方法、好ましくは美容的方法であって、
a)請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体を含む第1の前駆体溶液と、それとは別に、請求項11に記載の第2の多糖誘導体を含む第2の前駆体溶液とを提供するステップと;
b)前記第1の前駆体溶液および前記第2の前駆体溶液をin situで架橋可能な混合物に混合するステップと;
c)前記in situで架橋可能な混合物を患者の体内の標的部位に注入して、前記標的部位に架橋ゲルを形成するステップとを含む方法。
【請求項20】
ステップa)において、前記第1の前駆体溶液および前記第2の前駆体溶液が、マルチバレルシリンジの異なるバレル内に存在し、ステップb)の混合が、前記マルチバレルシリンジからの押し出し中に行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
架橋ヒドロゲルを調製する方法であって、
a)緩衝液、好ましくは生理学的緩衝液を提供するステップと;
b)請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体を添加し、請求項11に記載の第2の多糖誘導体を前記緩衝液に添加し、任意選択で、非架橋多糖、好ましくはヒアルロン酸を前記緩衝液に添加するステップと;
c)前記緩衝液中の前記修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体を架橋して、それにより架橋ヒドロゲルを調製するステップと;
d)任意選択で、ステップc)で得られた前記架橋ヒドロゲルに非架橋多糖を添加するステップと;
e)任意選択で、ステップc)またはd)で得られた前記ヒドロゲルをふるい分けおよび脱気するステップと;
f)任意選択で、ステップc)、d)、またはe)で得られた前記ヒドロゲルを、容器、好ましくはシリンジ、より好ましくはすぐに使用できるシリンジに充填するステップと;
g)任意選択で、ステップf)で得られた前記ゲルを含む前記容器を滅菌するステップとを含む方法。
【請求項22】
(i)請求項1から3および7のいずれか一項に記載の修飾ヒアルロン酸誘導体を含む第1の前駆体溶液を含む第1の容器と、(ii)請求項11に記載の第2の多糖誘導体を含む第2の前駆体溶液を含む第2の容器と、任意選択で(iii)使用説明書とを備える、架橋ヒドロゲルのin situ形成のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ヒアルロン酸誘導体、それを調製するための方法およびその使用に関する。新規の修飾ヒアルロン酸誘導体は、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基が、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に修飾されることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
注入可能な充填剤は、今日、軟組織にボリュームを追加するための多くの治療的および美容的用途で使用されている。美容医学では、顔や体の選択された領域の若返りのために皮膚充填剤がますます使用されている。それらは顔の特徴(例えば頬および唇)の強化、皺(例えばほうれい線)および筋の低減を可能にし、加齢とともに生じる皮膚および下層組織の失われたボリュームおよび弾力性をいくらか回復することができる。これによって肌がより滑らかでふっくらと見えるようになり、より若々しい外観が得られる。
【0003】
軟組織充填剤に使用するための多種多様な材料が知られている。これらの物質のほとんどは、体内に吸収されるため一時的な効果(約3~18か月)を有する(コラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、ポリ-L-乳酸(PLLA)等)。また、ポリメチルメタクリレートビーズ(PMMAミクロスフェア)に基づくFDA承認の充填材料等、いくつかの永続的な(すなわち非吸収性の)充填剤もある。これらの既知の軟組織充填剤のいくつかには、注入に関連する痛みまたは不快感を軽減するために添加されるリドカイン(局所麻酔薬)が含まれている。
【0004】
今日、世界中の軟組織充填剤で最も一般的に使用されている材料は、ヒアルロン酸(HA)である。これは、ボリュームおよび良好な安全性プロファイルをもたらす優れた能力による。HAは、真皮等の細胞外マトリックスにある天然に存在するグリコサミノグリカンであり、β-D-(1→3)グルクロン酸(GlcUA)およびβ-D-(1→4)-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の交互の残基で構成されている。HAは水と結合し、ゲル形態になると膨潤し、平滑化/充填効果をもたらし得る。ほとんどの場合、皮膚充填剤に使用されるHAは、体内で長持ちするように架橋されている(最大18か月)。
【化1】
【0005】
多糖(例えばHA)分子のポリマー鎖を一緒に共有結合させて、分子間および分子内架橋を有する充填材料マトリックスを形成するための様々な架橋アプローチが当技術分野で知られている。広く使用されているアプローチは、化学薬剤による化学架橋である。これらの薬剤は一般に、多糖のヒドロキシルおよび/またはカルボキシル官能基と反応する。一般的に使用される架橋剤には、DVS(ジビニルスルホン)、二官能性または多官能性エポキシド(例えば1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE))、1,2-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)エチレン(EGDGE)および1,2,7,8-ジエポキシオクタン(DEO))、PEGベース架橋剤(例えばペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(PETGE))、ビスカルボジイミド(BCDI)(例えばフェニレンビス-(エチル)-カルボジイミドおよび1,6-ヘキサメチレンビス-(エチルカルボジイミド))、ジアミンまたはマルチアミン架橋剤(例えばヘキサメチレンジアミン(HMDA)および3-[3-(3-アミノプロポキシ)-2,2-ビス(3-アミノ-プロポキシメチル)-プロポキシ]-プロピルアミン(4AA))、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサン、エピクロロヒドリン、アルデヒド(例えばホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒド)、ならびにヒドラジド(ビス-、トリス-および多価ヒドラジド化合物、例えばアジピン酸ジヒドラジド(ADH))が含まれるが、これらに限定されない。
【0006】
注入可能な多糖ヒドロゲルの架橋に使用されてきた他の方法には、メタクリル化ポリマーの光化学的架橋(Moller et al.,Int.J.Artif.Organs 2011,34:93-102)、マイケル付加架橋(Shu et al.,Biomacromolecules 2002,3:1304-1311)、シッフ塩基反応架橋(Tan et al.,Biomaterials 2009,30:2499-2506)、チオレン反応またはアジド-アルキン付加環化等の反応を使用する「クリック」化学アプローチ(Hoyle et al.,Chem.Soc.Rev.2010,39:1355-1387、van Dijk et al.,Bioconjug.Chem.2009,20:2001-2016)が含まれる。軟組織を増強するための多糖ベースの光架橋充填剤も当技術分野で知られている(例えば、米国特許出願公開第2011/069475号を参照されたい)。さらに、酸性多糖のカルボキシル官能基を同じまたは異なる多糖分子のヒドロキシル基でエステル化することにより、「内部」分子間および/または分子内エステルベースの架橋(「自己架橋ポリマー」または「ACP」と呼ばれる)を形成することが、当技術分野において調査されてきた。さらに、米国特許出願公開第2006/0084759号は、チラミン修飾および架橋されたHAヒドロゲル材料を記載しており、架橋は、in vivoで行うことができるペルオキシダーゼ媒介ジチラミン結合を介して達成される。
【0007】
架橋充填剤を調製するために最も一般的に使用されるアプローチは、BDDEを使用して架橋を実行することである。しかしながら、BDDEおよびその分解生成物は低分子量の化合物であり、毒物学的に有害であるため、最終製品から完全に除去する必要がある。皮膚充填剤のBDDE含有量の上限(ほとんどの市場において)は、2ppm未満である。したがって、事実上すべてのBDDE分子(およびそれらの分解生成物)が生成物から除去されていることを確実にする必要がある。したがって、BDDE架橋充填剤を調製するためのプロセスの重要であるが非常に時間のかかる部分は、架橋後の精製である。広く使用されている精製技術は透析である。しかしながら、透析は、望ましくない有毒な不純物(すなわちBDDEとその分解生成物)を除去するのに非常に効果的であるものの、非常に時間がかかり、すなわちしばしば数日を要する。したがって、BDDE架橋充填剤の製造は、非常に複雑な多数のプロセスステップからなり、長時間、ほとんどの場合数日を要し、最終製品のコストが大幅に増加する。また、透析はほとんど手動で行われるため、ゲル汚染の潜在的な原因となる。したがって、上記の欠点を克服する架橋充填剤を調製するための方法が非常に求められている。
【0008】
また、従来の予備形成されたヒドロゲルは、それらが非常に粘性であるという欠点がしばしば問題となり、この欠点は細い針を通したそれらの注入を妨げる。この問題に対処するための1つのアプローチは、in situゲル化ヒドロゲル組成物を使用することである。これらの組成物は、予備形成されたゲルの形態ではなく液体の形態で組織に注入され、注入部位で架橋して、in situで架橋されたゲルを形成する。前述の問題に対処するための別のアプローチは、潤滑相(例えば非架橋多糖、例えばHA)を架橋ヒドロゲルに加えることであり、これは、注入力を減少させる。しかしながら、注入されるヒドロゲルがかなり低い粘度を有する場合、潤滑段階は必ずしも必要ではないことが示されている。
【0009】
多くのin situで形成されたゲルは、別の多糖(例えばHA)誘導体とin situで架橋されて架橋ゲルを形成するアルデヒド修飾多糖(例えばHA)誘導体を使用する。また、別の相補的多糖(例えばHA)誘導体との反応時に架橋ゲルを形成するアルデヒド修飾多糖(例えばHA)誘導体を使用すると、BDDEが必要ないため、BDDE架橋に関する上記の問題が克服される。したがって、アルデヒド修飾多糖(例えばHA)誘導体は、BDDEを含まない架橋充填剤を調製するための有望な候補である。
【0010】
この点に関して、HAのアルデヒド(またはアミン)官能化誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド-HA)をホモ-またはヘテロ二官能性架橋剤(例えば(SPA)1-PEG等の二官能性N-ヒドロキシスクシンイミドエステル架橋剤)と架橋させることによるヒドロゲルのin situ形成を開示しているWO00/016818を参照することができる。さらに、WO2011/100469は、アルデヒド官能基を有する酸化HA(oxi-HA)をジヒドラジド架橋剤、例えばアジピン酸ジヒドラジド(ADH)と反応させることによって作製されるガラス質代替生体材料として使用するための架橋HAヒドロゲルを開示している。WO2009/108100は、アルデヒド修飾HAおよびヒドラジド修飾ポリビニルアルコール(PVAH)架橋試薬を混合して、複数のヒドロキシル基を示す架橋構造を形成することによってin situで調製されるHAベースのヒドロゲルを開示している。
【0011】
さらに、WO2011/096475は、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジニルオキシル)/共酸化剤系を使用して、グルコサミン反復単位のC6の第一級ヒドロキシル基を酸化することにより、アルデヒド基を含むアルデヒド-HA誘導体を調製する方法、およびジアミン化合物(例えばヘキサンジアミン)またはアミン-HA(例えばヘキサンジアミン置換HA)と反応することによって架橋HAヒドロゲルを調製するための前記アルデヒド-HA誘導体の使用を開示している。さらに、WO2017/063749は、標的部位での架橋ヒドロゲルのin situ形成のための、第1のヒアルロン酸誘導体および第2のヒアルロン酸誘導体の使用を開示しており、第1のヒアルロン酸誘導体はヒドラジド部分で官能化され、第2のヒアルロン酸誘導体はアルデヒド部分で官能化されている。第2のアルデヒド官能化ヒアルロン酸誘導体は、一級ヒドロキシル(-CH2OH)基をアルデヒド(-CHO)基に酸化することによって作製され得る。
【0012】
さらに、非特許文献はまた、アルデヒド修飾多糖誘導体を使用してin situで形成されたゲルを開示している。例えば、Dahlmannら(Biomaterials 2013,34:940-951)は、心筋組織工学のための完全に定義されたin situ架橋可能なアルギネートおよびHAヒドロゲルについて説明している。ヒドロゲルは、アルデヒドおよびヒドラジドで官能化されたアルギネートおよびHAを、ヒトI型コラーゲンおよび新生児ラット心臓細胞(NRHC)の存在下で反応させ、ヒドラゾン架橋ヒドロゲルベースのバイオ人工心臓組織を生成することにより調製される。さらに、Ossipovら(Biomacromolecules 2010,11:2247-2254)は、水溶液中のHAのカルボキシレート残基とのアミド型反応を生じさせることができる中央の二価保護基を有する特定の対称二官能性試薬を使用する、ヒドラジド官能化HAの合成を開示している。ヒドラジド官能化HAは、アルデヒドHA誘導体と混合することにより、ヒドラゾンHAヒドロゲルのin situ形成に使用され得る。
【0013】
Vargheseら(J.Am.Chem.Soc.2009,131:8781-8783)は、ヒドラジド基、およびビスホスホネート(BP;抗骨破砕性および抗腫瘍性小分子薬)と共有結合できるアミノメチレンビスホスホネート基で二重に官能化されたHA誘導体について報告している。前記二重に官能化されたHAをアルデヒド官能化HAと混合すると、移植部位でのBP薬物の制御放出のための注入可能なHAヒドロゲルのin situでの形成がもたらされる。Oommenら(Adv.Funct.Mater 2013,323:1273-1280)は、HA-アルデヒド誘導体をカルボジヒドラジド(CDH)官能化HA誘導体と混合してヒドラゾン結合を有するHAヒドロゲルを得ることによって調製されたHAヒドロゲルを記載している。さらに、治療用タンパク質(例えば組換えヒト成長因子BMP-2)の存在下でのin situ HAヒドロゲル形成が、骨組織再生のための成長因子を送達することができるin vivo用途のためのヒドロゲルを提供したことが記載されている。
【0014】
しかしながら、ヒアルロン酸にアルデヒド官能基を付加するために通常適用される方法は、いくつかの欠点を示す。例えば、官能化されていないヒアルロン酸の過ヨウ素酸酸化によってアルデヒド基を導入すると、通常、多糖骨格の環状糖環が破壊され、ヒアルロン酸の全体的な安定性が低下し、多糖骨格に望ましくない柔軟性が加わる。具体的には、アルデヒド官能基をヒアルロン酸に導入するために頻繁に使用される反応、例えば過ヨウ素酸ナトリウムによる酸化は、長い反応時間を必要とし、および/またはカルボン酸基への望ましくない酸化に関して制御するのが困難である。
【0015】
さらに、すべてのアプリケーションまたはすべての患者に適したユニバーサルな充填剤は存在しない。例えば、様々な用途には、様々な剛性/硬度(多くの場合弾性率で表される)のゲルが必要である。顔の筋肉の動きの間に発生する比較的高い動的な力を考慮すると、通常、ほうれい線やマリオネットライン等の領域の矯正には、より高い剛性のゲルが望ましい。対照的に、剛性の低いゲルは、変形に対する抵抗が重要ではない領域、または解剖学的構造が剛性を必要としないが、唇等のボリュームおよび柔軟性が重要な領域に適している(例えば、Kablik et al.,Dermatol Surg,2009,35,302-312を参照されたい)。
【0016】
しかしながら、アルデヒド修飾多糖(例えばHA)誘導体および相補的多糖(例えばHA)誘導体から調製されたヒドロゲル(in situで、すなわち2種の相補的多糖誘導体の注入後に架橋された;またはin vitroで、すなわち注入前に架橋された)の特性、例えば剛性は、特定の修飾多糖(例えば修飾ヒアルロン酸)の特性、特にその分子量および修飾度に大きく依存する。例えば、アルデヒド修飾度が非常に低い(すなわちアルデヒド基の数が非常に少ない)アルデヒド修飾ヒアルロン酸は、形成される架橋の量が比較的少なく、したがって得られるゲルはかなり柔軟になる。したがって、様々なアルデヒド修飾ヒアルロン酸が様々な用途に使用される。「より柔軟な」ヒドロゲルをもたらすアルデヒド修飾ヒアルロン酸(例えば、修飾度の低いアルデヒド修飾ヒアルロン酸)を唇用充填剤に使用することができるが、「より硬い」ヒドロゲルをもたらすアルデヒド修飾ヒアルロン酸(例えば高い修飾度を有するアルデヒド修飾ヒアルロン酸)は、ほうれい線またはマリオネットラインの充填剤に使用することができる。
【0017】
したがって、得られるアルデヒド修飾ヒアルロン酸の特性を変更(微調整)することを可能にする、架橋ゲルのin vitroまたはin situ形成のための修飾ヒアルロン酸、例えばアルデヒド修飾ヒアルロン酸を生成するための方法が、一般に非常に望まれている。特に、合成方法全体を大幅に変更することなく、得られるアルデヒド修飾ヒアルロン酸の特性を容易に変更できる方法、すなわち、出発物質濃度、酸化剤の量および反応時間等の容易に変更可能なパラメータのみを変更しながら、ほとんどのパラメータを一定に保つ方法が望まれている。そのような方法により、同じまたは類似の実験設定を使用して、様々な特性(例えば異なる修飾度および分子量)を示す様々なアルデヒド修飾ヒアルロン酸を生成することができる。
【0018】
発明が解決しようとする課題
上記を考慮して、本発明の目的は、架橋ヒアルロン酸ベースのヒドロゲルのin vitroまたはin situ形成に適したアルデヒド修飾ヒアルロン酸を生成するための多用途で便利な方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、美容的用途に特に適したそのようなアルデヒド修飾ヒアルロン酸を提供することである。本発明の目的はまた、美容的用途に特に適したアルデヒド修飾ヒアルロン酸から調製されたヒドロゲルを提供することである。
【発明の概要】
【0019】
上記の目的は、新規の修飾ヒアルロン酸誘導体(本明細書では「アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体」または「アルデヒド修飾ヒアルロン酸」とも呼ばれる)およびそれを調製するための方法を提供することによって解決される。新たな修飾ヒアルロン酸誘導体は、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に修飾された少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基を有し、新たな修飾ヒアルロン酸誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体と反応した場合の架橋ヒドロゲルのin vitroおよびin situ形成に有用である。
【0020】
2つの官能化多糖誘導体(すなわち新たな修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖誘導体)は、液体形態で同時注入することができ、それにより、細い針を通しても低い押出力での同時注入を可能にする。望ましくは、in situゲル形成は有害な副生成物を生成しない。唯一の副生成物は、形成されたヒドロゲルおよび/または周囲の組織によって容易に吸収される水である。さらに、in situで形成されたヒドロゲルは、組織の統合、皮膚の改善、組織の成形能力、およびボリューム化能力に関して望ましい特性を有する。
【0021】
また、驚くべきことに、新たなアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体は、第2の相補的多糖誘導体、好ましくは同じくヒアルロン酸誘導体との反応を介した架橋ゲルのin vitro調製に適していることが見出された。特に、そのような調製されたゲルの特性は、単一の誘導体の特性(例えば修飾度および分子量)によってだけでなく、架橋に使用される媒体中のそれぞれの多糖誘導体の濃度を調整することによっても制御できることが見出された。
【0022】
有利なことに、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基は、ちょうど架橋のための良好な立体的利用可能性を提供するのに十分長いが、架橋ゲルに過度の柔軟性を加えないのに十分短い。これにより、新たな修飾ヒアルロン酸誘導体は、広範囲の剛性をカバーするゲルのin situ形成に特に適している。例えば、高い修飾度(すなわち多数のアルデヒド基)を有する新たな修飾ヒアルロン酸誘導体を使用すると、(立体的に十分に利用可能なアルデヒド基の数が多いために)比較的短い架橋が多数形成され、それにより比較的硬いゲルの形成につながる。
【0023】
本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体は、グリセロール修飾ヒアルロン酸から調製することができ、これは、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基が、-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基を構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に酸化することにより式-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OHの部分に修飾されることを特徴とする。新たな修飾ヒアルロン酸誘導体を調製するこの新規の方法は、長い反応時間、ヒアルロン酸の分子量の劇的な減少、またはカルボン酸基への望ましくない酸化等の、アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を調製するために通常使用される方法の欠点を回避する。
【0024】
この方法を使用することにより、新たな修飾ヒアルロン酸誘導体の特性は、出発物質濃度、酸化剤の量および反応時間等の基本的なパラメータを変更するだけで簡単に調整され得ることが示されている。例えば、出発物質濃度、酸化剤の量および/または反応時間を変えることにより、得られる新たな修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度および/または分子量を微調整することが可能である。
【0025】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH
2-OH基が、構造-CH
2-O-CH
2-CHOを有するアルデヒド基に修飾されている、修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。好ましくは、修飾ヒアルロン酸誘導体は、以下の構造
【化2】
(式中、Acは、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、またはアルカリ土類金属イオンから選択される)の少なくとも1つの二糖単位を含む。
【0026】
第2の態様において、本発明は、本発明の修飾HA誘導体を調製するための方法に関する。この方法は、a)少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基が、以下の式-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OHの部分に修飾されることを特徴とするグリセロール修飾ヒアルロン酸を提供するステップと;b)グリセロール修飾ヒアルロン酸を水性媒体に溶解して、可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を得るステップと;c)前記可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を、酸化剤、好ましくは、過ヨウ素酸、より好ましくは過ヨウ素酸ナトリウムと反応させ、前記-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基の少なくとも一部を、式-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に変換し、それによりアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を得るステップとを含む。
【0027】
第3の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。
【0028】
第4の態様において、本発明は、美容的用途における架橋ヒドロゲルのin situ形成のための、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体の使用に関する。
【0029】
第5の態様において、本発明は、予備形成された架橋ヒドロゲルの形成のための、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体の使用に関する。
【0030】
第6の態様において、本発明は、治療用途の架橋ヒドロゲルのin situ形成における使用のための、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体、または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。
【0031】
修飾ヒアルロン酸誘導体は、一般に、修飾ヒアルロン酸誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体と一緒に使用され、第2の多糖は、好ましくはヒアルロン酸誘導体であり、前記求核性官能基は、好ましくはヒドラジド官能基であり、第2の多糖は、より好ましくは、以下の構造:
【化3】
(式中、「Ac」は、上記で定義された通りである)を有する少なくとも1つの二糖単位を含むヒアルロン酸誘導体である。
【0032】
第7の態様において、本発明は、以下の構造単位:
【化4】
(式中、「Ac」およびRは、上記で定義された通りである)を含む架橋ヒドロゲルに関する。
【0033】
第8の態様において、本発明は、本発明のアルデヒド修飾HA誘導体または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体と、本明細書で定義されるような修飾HA誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核官能基を含む第2の多糖誘導体とを接触させることにより得られる架橋ヒドロゲルに関する。
【0034】
第9の態様において、本発明は、架橋ヒドロゲルを調製する方法、好ましくは美容的方法に関し、この方法は、a)本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体、または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体を含む第1の前駆体溶液と、それとは別に、本明細書において定義される第2の多糖誘導体を含む第2の前駆体溶液とを提供するステップと;b)第1の前駆体溶液および第2の前駆体溶液をin situで架橋可能な混合物に混合するステップと;c)in situで架橋可能な混合物を患者の体内の標的部位に注入して、標的部位に架橋ゲルを形成するステップとを含む。
【0035】
第10の態様において、本発明は、架橋ヒドロゲル、好ましくは予備形成された架橋ヒドロゲルを調製するための方法に関する。
【0036】
第11の態様において、本発明は、(i)本明細書の修飾ヒアルロン酸誘導体または本発明の方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体を含む第1の前駆体溶液を含む第1の容器と、(ii)本明細書において定義される第2の多糖誘導体を含む第2の前駆体溶液を含む第2の容器と、任意選択で(iii)使用説明書とを備える、架橋ヒドロゲルのin situ形成のためのキットに関する。
【0037】
本発明の特定の実施形態は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明をより完全に理解するために、以下の説明および付随する図面が参照される。
【0039】
【
図1】分子量を決定するために得られた例示的なクロマトグラムを示す図である。
【
図2】チロシン標識アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の例示的な1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】40℃で保存されたゲル1および2の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。
【
図4】40℃で保存されたゲル1および2の損失係数(tanδ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、アルデヒド修飾ヒアルロン酸がグリセロール修飾ヒアルロン酸から容易に調製され得るという驚くべき発見に基づいている。特に、グリセロール修飾ヒアルロン酸からのアルデヒド修飾ヒアルロン酸の調製は、分子量の劇的な減少、長い反応時間、および望ましくない副反応(例えばカルボン酸への酸化)等の、アルデヒド修飾ヒアルロン酸の調製において典型的に生じる欠点を示さないことが見出された。さらに、得られるアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の特性は、出発物質濃度、酸化剤の量および反応時間等の基本的なパラメータを変更するだけで簡単に変更(微調整)され得ることが見出された。
【0041】
特に、得られるアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度および分子量は、出発物質濃度(すなわちグリセロール修飾ヒアルロン酸の濃度)、酸化剤の量および反応時間を変更することによって微調整され得ることが見出された。得られるアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度および分子量は、前記アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体のゲル化性能に直接影響を与えるため、これは特に有利である。したがって、異なる特性を有し、ひいては異なる特性、例えば硬度を有する架橋ゲルをもたらすアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体が、ただ1つの一般的な合成方法によって調製され得る。
【0042】
さらに、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体は、架橋ヒドロゲルのin situおよびin vitro形成の両方に特に適しており、すなわち良好な架橋特性を示すことが見出された。特に、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体は、修飾されたヒアルロン酸誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体との良好な架橋特性を示すことが見出された。これに関して、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体は、迅速かつ効率的に架橋して、例えば体内の標的部位に共有結合的に架橋されたヒドロゲルを形成することが見出された。架橋反応を誘導するために、添加剤、触媒、pHスイッチ、UV照射、またはその他の外部刺激(もしくは「トリガー」)は必要ない。特に、架橋剤は使用されず、また必要とされない。架橋反応によって生成される唯一の副生成物は、典型的には、架橋がin situで生じる場合、ヒドロゲルおよび/または周囲の組織によって容易に吸収される水である。
【0043】
本明細書で使用される場合、「グリセロール修飾ヒアルロン酸」という用語は、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH
2-OH基が式-CH
2-O-CH
2-CHOH-CH
2OH部分に修飾されることを特徴とするヒアルロン酸を指す。グリセロール修飾ヒアルロン酸は、フランスの「htl biotech」から市販されているものであるか、または以下の反応スキームに従ってグリシドールをヒアルロン酸にグラフトすることによって調製され得る。
【化5】
【0044】
好ましくは、GlcNac単位のC6炭素に結合した-OH基以外に、他の基は、グリシドールとの反応によって修飾されない。好ましくは、グリセロール修飾ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸中に存在する100個のN-アセチル-D-グルコサミン単位あたり1~100個、好ましくは2~50個、より好ましくは5~20個、最も好ましくは10~20個の-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基を含む。その修飾度は、相補的二次多糖誘導体、好ましくはヒアルロン酸誘導体との反応によって美容的用途のための架橋ヒドロゲルを調製するための所望の程度の(アルデヒド)修飾を有する本発明のアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体をその後調製するのに特に適していることが示されている。本発明の意味の範囲内で、ヒアルロン酸の他の官能基、すなわち他の-OH基および-COOH基、特に他の(第二級)-OH基は、はるかに低い程度ではあるがグリセロール修飾され得ることが指摘される。しかしながら、本発明の範囲内で、グリセロール含有部分は、好ましくは、GlcNac単位のC6炭素のみに、本質的にそれのみに、または主にそれに存在する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「in situ」という用語は、投与部位、すなわち患者の体内を意味する。したがって、「in situ」で、すなわち投与部位でヒドロゲルを形成するために、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体は、一般に、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体と同時投与されるか、または、これらの化合物は、患者の体内の特定の部位(標的部位)、例えば美容的理由から組織増強を必要とする部位に別様に一緒に適用され、同時注入の部位で共有結合的に架橋される。本発明において、「in situ」および「in vivo」という用語は交換可能に使用され得る。本発明の意味での「患者」は、美顔および美容目的等で、特定の病状、状態または疾患の「処置」を必要とする任意の個体または対象、例えば哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。したがって、「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、治療的/医学的処置を指すだけでなく、例えば美顔および美容的処置も含むことが理解されるべきである。
【0046】
本明細書で使用される場合、「in vitro」という用語は、ヒトまたは動物の体の外を意味する。同様に、「予備形成されたヒドロゲル」、「予備形成されたゲル」等の用語は、本明細書で使用される場合、ヒトまたは動物の体の外で形成されるヒドロゲルを指す。したがって、「予備形成された」および「in vitro」という用語は両方とも、ヒドロゲルが注入前にヒトまたは動物の体の外で形成されることを示すことが理解されるべきである。したがって、「in vitro」で調製されたゲルは、「予備形成された」ゲル、すなわち、ヒトまたは動物の体の外で形成されるゲルである。
【0047】
本明細書で使用される場合、「人工容器」という用語は、ヒトもしくは動物の体、またはその一部ではない任意の容器を指す。好ましくは、人工容器は、非生物学的材料、好ましくはガラスまたはプラスチック材料、より好ましくはガラスから作製される。
【0048】
本発明に関連して、「同時注入」という用語は、一般に、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体が、単一の液体組成物、例えば、溶液として、患者の体内の標的部位に注入されることを意味する。本明細書で使用される「注入可能」または「注入」という用語は、in situヒドロゲル形成組成物がシリンジまたはシリンジシステムから分配され得ることを示す。特に、「同時注入」という用語は、好ましくは、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体および前記第2の多糖誘導体が、針の先端から出て患者の体内の標的部位に入る前に混合され、特に均一に混合され、次いで患者の体内の標的部位に混合物として注入される。本発明において、「注入」または「同時注入」という用語は、皮内、皮膚間もしくは皮下注入、または皮膚下注入を指す場合がある。さらに、「針」という用語は、本明細書で使用される場合、「カニューレ」または注入に適した他の任意の針状の物体を含むか、またはそれらと同義であることを意図する。
【0049】
「ヒドロゲル」または「ゲル」という用語は、本明細書で使用される場合、共有結合的に架橋されたポリマー鎖からなる水膨潤した三次元ネットワークを意味する。好ましくは、架橋された(または「ゲル化された」)ヒドロゲルは凝集性である。本発明の意味における「凝集性の」または「凝集性」という用語は、その分子が互いに親和性であるために、材料(例えばヒドロゲル)が解離しない能力として定義される。凝集性は、ゲルインプラント(例えば本明細書に記載のin situでゲル化したヒドロゲル)の重要な特性であり、ゲルの固相および液相が無傷のままであるために、したがってゲルの完全性のために必要であると考えられる。本発明に関連して、多糖ヒドロゲル、特にHAベースヒドロゲルの凝集性は、Gavard-Sundaram凝集性スケール(Sundaram et al.,Plast.Reconstr.Surg.136:678-686,2015)を使用して決定され得る。
【0050】
「自発的」または「自発的に」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体のアルデヒド基および第2の多糖誘導体の求核基が、熱またはUV光等の外部刺激(「トリガー」とも呼ばれる)なしに共有結合を形成することを指すことを意図する。特に、ヒドロゲルは、熱またはUV光等の外部刺激(「トリガー」とも呼ばれる)なしに、in vivo条件下で、すなわち、患者の体内の標的部位への同時注入後に自発的に形成され、標的部位に架橋多糖ヒドロゲルがin situで形成され得ることが見出された。
【0051】
本発明の範囲内で、in situ(またはin vivo)で形成されたヒドロゲルは、一般に、軟組織充填剤に適している、それとして使用される、および/またはそれとして機能する。「軟組織充填剤」という用語は、本明細書で使用される場合、一般に、空洞を充填する、および/または軟組織欠損の領域に体積を追加するように設計された材料を指す。これには、例えば、軟組織の増強、充填、または交換が含まれる。本明細書において、「軟組織」という用語は、一般に、身体の他の構造および器官を接続、支持、または取り囲む組織に関する。軟組織には、例えば、筋肉、腱(筋肉を骨に接続する繊維の帯)、繊維組織、脂肪、血管、神経、および滑膜組織(関節の周りの組織)が含まれる。本発明に関連して、軟組織充填剤は、好ましくは皮膚充填剤である。
【0052】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基が、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に修飾されている、修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。
【0053】
上記のように、この修飾されたヒアルロン酸誘導体は、良好な架橋特性を示すことが見出された。特定の理論に束縛されることを望まないが、良好な架橋特性は、本発明の方法によって導入されたアルデヒド基、すなわち構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に修飾された少なくともの1つのGlcNAc単位の-CH2-OH基の立体特性に起因すると考えられる。具体的には、前記アルデヒド基は、ちょうど架橋のための良好な立体的利用可能性を提供するのに十分に長いが、架橋ゲルに過度の柔軟性を加えないのに十分短いと考えられる。
【0054】
好ましくは、修飾ヒアルロン酸誘導体は、アルデヒド基、好ましくはGlcNAc単位のC6炭素原子に存在し、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基以外の化学修飾を含まない。
【0055】
好ましくは、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体は、1.0%~20.0%、より好ましくは1.0%~15.0%、さらにより好ましくは1.0%~10.0%、さらにより好ましくは1.5%~10.0%、さらにより好ましくは1.5%~8.0%、さらにより好ましくは1.8%~7.0%、さらにより好ましくは2.0%~6.9%の修飾度を有する。修飾度(MoD)は、-CH2-O-CH2-CHO基の数を修飾ヒアルロン酸誘導体中に存在するN-アセチル-D-グルコサミン単位の総数で割ったものとして定義される。例えば、15.0%のMoDは、修飾ヒアルロン酸誘導体が、100個のN-アセチル-D-グルコサミン単位当たり15個の-CH2-O-CH2-CHO基を含むことを意味する。また例えば、37.0%のMoDは、修飾ヒアルロン酸誘導体が、100個のN-アセチル-D-グルコサミン単位当たり37個の-CH2-O-CH2-CHO基を含むことを意味する。この幾分低い修飾度は、比較的低粘度のヒドロゲルが必要とされる美容的用途のためのヒドロゲルを調製するのに特に適していることが見出された。また、そのような低粘度のヒドロゲルは、細い針を通して注入することができ、これにより、注入前にその特性を徹底的に決定およびチェックすることができるヒドロゲルのin vitro調製(すなわち、予備形成ヒドロゲルの形成)が可能になるが、ヒドロゲルがin situで調製される場合、これは不可能である。
【0056】
本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体から形成されたヒドロゲルの硬度(または剛性;例えば弾性係数によって示される)は、前記ヒドロゲルにおいて形成された架橋の数および密度に依存し、また前記ヒドロゲルにおいて形成された架橋の数および密度は、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度に直接依存するため、修飾度は、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体から形成されたヒドロゲルの硬度に直接影響する。したがって、修飾度は、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体の重要な特徴である。
【0057】
修飾度(MoD)は、中でも1H NMR、UV/VisおよびIR、滴定、HPLC、SEC、粘度等の分光分析および/または分光学的分析法によって決定され得る。好都合には、修飾度は、1H NMRによって決定される。MoDを決定するための例示的な方法は、実施例のセクションに示されている。
【0058】
分子量(モル質量とも呼ばれる)は、それから形成されるゲルの特性に直接影響を与える修飾ヒアルロン酸誘導体の別の重要な特性である。好ましくは、修飾ヒアルロン酸誘導体は、0.1~2.5MDa、より好ましくは0.2~1.5MDa、さらにより好ましくは0.4~1.3MDa、さらにより好ましくは0.6~1.1MDaの重量平均分子量を有する。
【0059】
多糖(例えばHA)の「分子量」、「モル質量」、「平均分子量(mean molecular weight)」、「平均モル質量(mean molar mass)」、「平均分子量(average molecular weight)」、および「平均モル質量(average molar mass)」を表す本明細書のすべての数値は、ダルトン(Da)単位の重量平均分子量(もしくは質量平均分子量もしくは重量平均モル重量)またはMw(wは重量である)を示すものとして理解されるべきである。質量平均分子量(MW)は、次のように定義される:Mw=ΣiNiMi
2/ΣiNiMi(式中、Niは、モル質量Miの分子の数である)。
【0060】
固有粘度測定(例えばEuropean Pharmacopoeia 7.0-Hyaluronic Acid monograph No.1472,01/2011)、キャピラリー電気泳動(CE)(例えばKinoshita et al.,Biomed.Chromatogr.,2002,16:141-45による)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(例えばKim et al.,Food Chem.,2008,109:63-770による)、およびサイズ排除クロマトグラフィーと組み合わせたマルチアングルレーザー光散乱(SEC-MALLS)(例えばHokputsa et al.,Eur.Biophys.J.Biophys.Lett.,2003,32:450-456)等、HAの分子量を決定するために様々な方法を本明細書に適用することができる。
【0061】
本発明の枠組み内で、HAポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)またはMark-Houwinkの式による粘度測定によって決定される。GPC技術では、最大数メガパスカル(MPa)の圧力で、充填されたポリマー粒子のマトリックスを通してポリマー溶液を溶出する。当業者には周知であるように、低分散度標準を使用すると、保持時間をモル質量と相関させることができる。
【0062】
本発明に関連して、質量平均モル質量(Mw)もまた、これが一般に粘度平均モル質量またはMvと呼ばれるにもかかわらず、Mark-Houwinkの式によって決定され得る。Mark-Houwinkの式は、固有粘度(η)と分子量Mと間の関係を示し、固有粘度のデータからポリマーの分子量を決定すること、およびその逆を可能にする。本発明の文脈内で、固有粘度は、好ましくは、欧州薬局方7.0(ヒアルロン酸モノグラフNo.1472、01/2011)に定義された手順に従って測定される。本発明の枠組み内では、平均分子量は、好ましくは、Mark-Houwinkの式を使用して固有粘度から計算され得る粘度平均分子量(Mn)である。
[η]=KxMη
a
[η]=m3/kgでの固有粘度、Mη=粘度平均分子量、K=2.26×10-5、およびa=0.796であり、ここで、上記のように、固有粘度は、好ましくは、European Pharmacopoeia 7.0(Hyaluronic Acid monograph No.1472,01/2011)で定義されている手順に従って測定される。
【0063】
分子量の決定はまた、実施例のセクションにおいて例示されている。
【0064】
好ましくは、修飾ヒアルロン酸誘導体は、以下の構造の少なくとも1つの二糖単位を含む。
【化6】
式中、「Ac」は、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、またはアルカリ土類金属イオンから選択される。カルボン酸基は、プロトン化された形態(すなわちR=H)で存在する代わりに、負電荷のバランスをとるために特定の対イオンが存在しなくても、脱プロトン化された形態(すなわちR=負電荷)で存在し得ることを理解されたい。この状況は、例えば、負電荷のバランスをとる対イオンが溶媒和され、脱プロトン化されたカルボン酸の近くにランダムに位置する溶液で発生する。
【0065】
修飾ヒアルロン酸誘導体は、以下の構造の少なくとも1つの二糖単位をさらに含み得る。
【化7】
式中、「Ac」は、上記で定義された通りであり、R
1、R
2、R
3およびR
4は、Hおよび-CH
2-CHOから独立して選択され、R
5は、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、アルカリ土類金属イオン、および-CH
2-CHOから選択され、ただし、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOであり、R
1が-CH
2-CHOである場合、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOである。
【0066】
好ましくは、GlcNAc単位のC6炭素原子に存在するアルデヒド基の数(すなわちR1=-CH2-CHO)を修飾ヒアルロン酸誘導体中に存在するアルデヒド基の総数(GlcNAc単位のC6炭素原子に存在するアルデヒド基を含む)で割ったものは、0.60~1、好ましくは0.65~1、より好ましくは0.70~1、さらにより好ましくは0.75~1、さらにより好ましくは0.80~1、さらにより好ましくは0.85~1、さらにより好ましくは0.90~1、さらにより好ましくは0.95~1、さらにより好ましくは0.97~1、さらにより好ましくは0.98~1、さらにより好ましくは0.99~1、最も好ましくは1である。
【0067】
第2の態様において、本発明は、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体を調製するための方法に関する。この方法は、a)少なくとも1つのN-アセチル-D-グルコサミン単位の-CH2-OH基が、以下の式-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OHの部分に修飾されることを特徴とするグリセロール修飾ヒアルロン酸を提供するステップと;b)グリセロール修飾ヒアルロン酸を水性媒体に溶解して、可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を得るステップと;c)前記可溶化されたグリセロール修飾ヒアルロン酸を酸化剤と反応させ、前記-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基の少なくとも一部を、式-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基に変換し、それによりアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を得るステップとを含む。
【0068】
好ましくは、酸化剤は、過ヨウ素酸塩または酢酸鉛(IV)、好ましくは過ヨウ素酸塩である。より好ましくは、酸化剤は、過ヨウ素酸ナトリウムである。
【0069】
上記のように、本発明の方法は、分子量の劇的な減少、長い反応時間、および望ましくない副反応(例えばカルボン酸への酸化)等の、アルデヒド修飾ヒアルロン酸の調製において典型的に生じる欠点を示さないことが見出された。例えば、ポリマー主鎖を酸化し、それによってポリマー主鎖の破壊およびヒアルロン酸の分子量の減少をもたらすことが知られている過ヨウ素酸ナトリウムが酸化剤として使用されたとしても、本発明の方法では、ポリマー主鎖の酸化は生じない、またはほとんど生じないことが見出された。
【0070】
この驚くべき挙動の理由は次の通りである:過ヨウ素酸塩はトランスジオールよりもシスジオールに有利であり、過ヨウ素酸塩でトランスジオールを酸化するには、比較的過酷な条件および/または長い反応時間が必要である。ポリマー主鎖のヒドロキシル基は互いにトランス配向しているが、グリセロール部分の-OH基(例えば-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH)は自由に回転可能である。したがって、グリセロール部分のビシナルジオールは、過ヨウ素酸塩酸化のために十分にアクセス可能であり、酸化反応(すなわちステップc))は、ポリマー骨格で酸化が起こらないように、比較的短時間で穏やかな条件下で実行され得る。例えば、ステップc)の酸化反応は、1時間未満で、さらには10分で実行され得ることが見出された。
【0071】
さらに、第1の態様の得られた修飾ヒアルロン酸誘導体の特性は、基本的なパラメータ、例えば出発物質濃度、酸化剤の量、および反応時間を変更するだけで容易に変更(微調整)され得ることが見出された。
【0072】
好ましくは、本発明の方法は、
d)好ましくはエチレングリコールを添加することにより、ステップc)の反応を停止するステップ;
e)好ましくは有機溶媒、好ましくはエタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物中で修飾ヒアルロン酸誘導体を沈殿させ、沈殿物を生理食塩水に再溶解し、前記有機溶媒中に修飾ヒアルロン酸誘導体を再び沈殿させることにより、修飾ヒアルロン酸誘導体を精製するステップ;
f)ステップe)で得られた修飾ヒアルロン酸誘導体を乾燥させるステップのうちの1つ以上をさらに含む。
【0073】
好ましくは、グリセロール修飾ヒアルロン酸は、0.1~5.0MDa、より好ましくは1.0~3.0MDa、より好ましくは1.0~2.0MDa、さらにより好ましくは1.1~1.9、さらにより好ましくは1.2~1.8MDa、より好ましくは1.3~1.7MDa、さらにより好ましくは1.4~1.6MDaの重量平均分子量を有する。グリセロール修飾ヒアルロン酸はまた、2.0~5.0MDa、または2.5~5.0MDa、または3.0~5.0MDa、または3.0~4.5MDa、または3.0~4.0MDaの重量平均分子量を有し得る。
【0074】
また、好ましくは、グリセロール修飾ヒアルロン酸は、5~25%、好ましくは10~20%の修飾度を有する。この場合、修飾度は、-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基の数を、グリセロール修飾ヒアルロン酸中に存在するN-アセチル-D-グルコサミン単位の総数で割ったものとして定義される。例えば、25.0%のMoDは、グリセロール修飾ヒアルロン酸が100個のN-アセチル-D-グルコサミン単位当たり25個の-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基を含むことを意味する。50.0%のMoDは、グリセロール修飾ヒアルロン酸が100個のN-アセチル-D-グルコサミン単位当たり50個の-CH2-O-CH2-CHOH-CH2OH基を含むことを意味する。その修飾度は、美容的用途のための架橋ヒドロゲルを調製するための所望の(幾分低い)アルデヒド修飾度を有するアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を調製するのに特に適していることが示されている。
【0075】
好ましくは、ステップc)は、4~35℃、より好ましくは15~35℃、さらにより好ましくは20~30℃、さらにより好ましくは20~25℃、さらにより好ましくは21~23℃、さらにより好ましくは約22℃の温度で実行される。これらの幾分低い反応温度は、本発明に従って得られたアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体が、美容的用途のヒドロゲルを調製するための適切な修飾度を有することを確実にすることが示されている。
【0076】
ステップc)は、5~120分、好ましくは5~65分、より好ましくは10~60分、さらにより好ましくは10~50分、さらにより好ましくは10~40分、さらにより好ましくは10から30分、さらにより好ましくは10から20分の期間実行されることが好ましい。これらの幾分短い反応時間もまた、本発明に従って得られたアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体が、美容的用途のヒドロゲルを調製するための「正しい」修飾度を有することを確実にすることが示されている。
【0077】
(アルデヒド)修飾度は、反応時間の増加とともに増加し、調製された修飾ヒアルロン酸誘導体の分子量は、反応時間の増加とともに若干減少することが見出された。
【0078】
さらに、酸化剤、好ましくは過ヨウ素酸ナトリウムが、グリセロール修飾ヒアルロン酸の二糖反復単位のモル量を基準として0.01~0.5モル当量、好ましくは0.01~0.3モル当量、より好ましくは0.04~0.3モル当量、さらにより好ましくは0.04~0.1モル当量の量で存在することが好ましい。
【0079】
(アルデヒド)修飾度は、酸化剤の量の増加とともに増加し、分子量は、酸化剤の量の増加とともに減少することが見出された。
【0080】
さらに、グリセロール修飾ヒアルロン酸は、総反応体積を基準として2~50g/L、好ましくは2~40g/L、より好ましくは3~38g/L、より好ましくは4~36g/Lの量で存在することが好ましい。
【0081】
(アルデヒド)修飾度は、グリセロール修飾ヒアルロン酸の量の増加とともに増加し、分子量は、グリセロール修飾ヒアルロン酸の量の増加とともに減少することが見出された。
【0082】
第3の態様において、本発明は、第2の態様で説明された方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。
【0083】
また、この態様において、修飾ヒアルロン酸誘導体は、アルデヒド基、好ましくはGlcNAc単位のC6炭素原子に存在し、構造-CH2-O-CH2-CHOを有するアルデヒド基以外の化学修飾を含まないことが好ましい。
【0084】
さらに、第2の態様で説明された方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体は、1.0%~20.0%、より好ましくは1.0%~15.0%、さらにより好ましくは1.0%~10.0%、さらにより好ましくは1.5%~10.0%、さらにより好ましくは1.5%~8.0%、さらにより好ましくは1.8%~7.0%、さらにより好ましくは2.0%~6.9%。の修飾度を有することが好ましい。
【0085】
さらに、第2の態様で説明された方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体は、0.1~2.5MDa、好ましくは0.2~1.5MDa、より好ましくは0.4~1.3MDa、さらにより好ましくは0.6~1.1MDaの重量平均分子量を有することが好ましい。
【0086】
さらに、第2の態様で説明された方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体は、以下の構造の少なくとも1つの二糖単位を含むことが好ましい。
【化8】
式中、「Ac」は、上記で定義された通りであり、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、またはアルカリ土類金属イオンから選択される。この場合も、カルボン酸基は、プロトン化された形態(すなわちR=H)で存在する代わりに、負電荷のバランスをとるために特定の対イオンが存在しなくても、脱プロトン化された形態(すなわちR=負電荷)で存在し得ることを理解されたい。
【0087】
さらに、第2の態様で説明された方法によって得られる修飾ヒアルロン酸誘導体は、以下の構造の少なくとも1つの二糖単位をさらに含み得る。
【化9】
式中、「Ac」は、上記で定義された通りであり、R
1、R
2、R
3およびR
4は、Hおよび-CH
2-CHOから独立して選択され、R
5は、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、アルカリ土類金属イオン、および-CH
2-CHOから選択され、ただし、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOであり、R
1が-CH
2-CHOである場合、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは-CH
2-CHOである。
【0088】
さらに、この態様においても、GlcNAc単位のC6炭素原子に存在するアルデヒド基の数(すなわちR1=-CH2-CHO)を修飾ヒアルロン酸誘導体中に存在するアルデヒド基の総数(GlcNAc単位のC6炭素原子に存在するアルデヒド基を含む)で割ったものは、0.60~1、好ましくは0.65~1、より好ましくは0.70~1、さらにより好ましくは0.75~1、さらにより好ましくは0.80~1、さらにより好ましくは0.85~1、さらにより好ましくは0.90~1、さらにより好ましくは0.95~1、さらにより好ましくは0.97~1、さらにより好ましくは0.98~1、さらにより好ましくは0.99~1、最も好ましくは1である。
【0089】
第4の態様において、本発明は、美容的用途における架橋ヒドロゲルのin situ形成のための本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体の使用に関する。
【0090】
本発明の美容的用途は非治療的である。好ましくは、本発明の美容的用途は非外科的である。
【0091】
好ましくは、第1および第3の態様で説明された修飾ヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、眉間のライン、ほうれい線、二重顎、マリオネットライン、顎ライン、頬交連、口腔周囲の皺および目じりの皺、皮膚のくぼみ、傷跡、こめかみ、眉の皮下サポート、頬部および頬の脂肪パッド、目の下の溝、鼻、唇、頬、あご、口腔周囲領域、眼窩下領域、および顔の非対称性を含む皺および皮膚のラインを処置するための架橋ヒドロゲルのin situ形成に使用される。
【0092】
第5の態様において、本発明は、予備形成された架橋ヒドロゲルの形成のための、本発明の(アルデヒド)修飾ヒアルロン酸誘導体または本発明の方法によって得られた修飾ヒアルロン酸誘導体の使用に関する。
【0093】
ヒドロゲルは、好ましくは、本発明の(アルデヒド)修飾ヒアルロン酸誘導体を、1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体と反応させることによって形成される。架橋ヒドロゲルを調製するために本発明の(アルデヒド)修飾ヒアルロン酸誘導体を使用することは、一般的に使用されるBDDEベースの製造方法に勝る様々な利点を有する。第1に、有毒な化学物質を使用せず、また好ましくは副生成物として水のみが生成されるため、得られたヒドロゲルを精製するために費やす時間が少なくて済み、したがって、全体の生成がはるかに簡単かつ迅速になる。さらに、精製は潜在的な汚染源であるため、汚染のリスクを大幅に減らすことができる。
【0094】
さらに、美容的用途は幾分低粘度のヒドロゲルを必要とするため、調製された予備形成されたヒドロゲルは、細い針を通る良好な注入性を示すことが見出された。しかしながら、注入力を減少させる必要がある場合は、非架橋多糖、好ましくはヒアルロン酸を潤滑相として加えることができる。
【0095】
ヒドロゲルは、好ましくは緩衝媒体、好ましくは生理学的緩衝液、より好ましくはリン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液または酢酸緩衝液、さらにより好ましくはリン酸緩衝液中で形成される。好ましくは、緩衝液は人工容器内に存在する。
【0096】
第6の態様において、本発明は、治療用途、好ましくは腹圧性尿失禁、膣乾燥、膀胱尿管逆流、声帯不全、および声帯の内側化の処置のための架橋ヒドロゲルのin situ形成における使用のための、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体に関する。
【0097】
好ましくは、またこれは本発明によるアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体から調製されたヒドロゲルを使用するすべての態様に当てはまるが、修飾ヒアルロン酸誘導体は、修飾HA誘導体の1つ以上のアルデヒド基との共有結合を形成することができる1つ以上の求核性官能基を含む第2の多糖誘導体と一緒に使用される。
【0098】
好ましくは、またこれは第2の多糖誘導体を使用するすべての態様に当てはまるが、第2の多糖誘導体は、天然多糖または半合成多糖に由来する。適切な多糖の特定の例には、セルロース、デキストラン、デンプン、アルギネート、ヒアルロン酸、ペクチン、キチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパロサン等が含まれる。
【0099】
第2の多糖誘導体がヒアルロン酸誘導体であることが特に好ましい。この場合、求核性官能基は、好ましくは、D-グルクロン酸部分のカルボン酸基を介してヒアルロン酸骨格に結合している。
【0100】
好ましくは、修飾HA誘導体の1つ以上のアルデヒド基と共有結合を形成することができる求核性官能基は、アミノ、アミノオキシ、カルバゼートまたはヒドラジド部分であり、好ましくはヒドラジド部分である。
【0101】
本明細書で使用される「ヒドラジド部分」という用語は、ヒドラジド官能基およびヒドラジド末端基または残基を含み、通常、炭素原子の総数が15、10、5、4、3または2以下である。ヒドラジド部分は、好ましくはヒドラジド(すなわち[多糖]-C(O)-NH-NH2)またはジヒドラジド部分、特に一般式
[多糖]-C(=O)-NH-NH-R1-C(=O)-NH-NH2のジヒドラジド部分であり、
式中R1=共有結合、C(=O)、C(=O)-O-R2、(C=O)-R2であり、R2=直鎖または分枝状C1、C2、C3、C4、C5またはC6アルキルまたはアルケニル基である。本明細書における使用に特に好ましいのは、カルボジヒドラジド(CDH)である。CDHがヒドラジド部分として使用され、多糖のカルボキシル基と結合している場合、得られる修飾多糖は次のペンダントヒドラジド末端部分:多糖-C(=O)-Rを有し、式中、Rは-NH-NH-C(=O)-NH-NH2である。
【0102】
好ましくは、第2の多糖誘導体の求核性官能基は、第2の多糖誘導体が由来する多糖の遊離カルボン酸基を介して多糖骨格に結合している。カルボン酸基の修飾は、水溶性カップリング試薬を使用して、当技術分野で知られている任意の方法によって行うことができる。例えば、適切な方法は、ヒドラジド末端部分をカルボキシル基とカップリングして対応する多糖アシルヒドラジドを形成するためのカップリング試薬としてのEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)の使用等の標準的なカルボジイミド化学の使用を含む(例えばWO95/15168を参照されたい)。他の使用可能なカップリング試薬は、DMTMM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド;例えばWO2016/097211を参照されたい)等のトリアジン化合物、N,N-ジスクシンイミジルカーボネート等の活性エステル、およびテトラメチルアミニウム塩(例えばHATU)である。
【0103】
好ましくは、第2の多糖は、以下の構造を有する少なくとも1つの二糖単位を含むヒアルロン酸誘導体である。
【化10】
式中、「Ac」は、上記で定義された通りである。
【0104】
互いに接触すると、修飾ヒアルロン酸誘導体のアルデヒド基および第2多糖誘導体の求核性官能基は、修飾ヒアルロン酸誘導体および第2多糖誘導体を対象の体内の標的部位に同時注入した後に共有結合を自発的に形成し、それにより標的部位で架橋ヒドロゲルを形成する。代替として、修飾ヒアルロン酸誘導体のアルデヒド基および第2の多糖誘導体の求核性官能基は、それらがin vitroで接触した後に自発的に共有結合を形成する。この場合、修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖は、好ましくは、上記で定義された緩衝液中に存在し、緩衝液は、好ましくは、人工容器内に存在する。
【0105】
第7の態様において、本発明は、以下の構造単位を含む架橋ヒドロゲルに関する。
【化11】
式中、「Ac」は、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される。
【0106】
好ましい実施形態によれば、架橋ヒドロゲルは、予備形成された架橋ヒドロゲルである。好ましくは、前記予備形成されたヒドロゲルは、予め充填されたシリンジ等のすぐに使用できる送達システム内に存在する。好ましくは、前記予備形成された架橋ヒドロゲルは無菌であり、好ましくは美容的用途のために、患者の体内にすぐに注入され得る。ヒドロゲルは、好ましくは、湿式加熱(例えばオートクレーブ)によって滅菌される。好ましくは、まずヒドロゲルがシリンジ等の送達システムに充填され、得られたすぐに使用できる送達システム、例えば事前に充填されたシリンジが次いで滅菌に供される。好ましくは、前記予備形成された架橋ヒドロゲルは、潤滑相として、非架橋多糖、好ましくはヒアルロン酸をさらに含む。その潤滑段階は、美容的な用途で一般的に使用されるような細い針を通した注入力を低下させ、ヒドロゲルが架橋形態で存在していても、細い針を通して注入できることを保証する。好ましくは、非架橋多糖は、多糖の総量を基準として1%~30重量%、より好ましくは5重量%~20重量%、さらにより好ましくは7重量%~15重量%、さらにより好ましくは8重量%~12重量%、さらにより好ましくは9重量%~11重量%、さらにより好ましくは約10重量%の量で存在する。また好ましくは、前記予備形成された架橋ヒドロゲルは、局所麻酔薬、好ましくはリドカイン、多価アルコール(ポリオールとも呼ばれる)、ビタミン、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、金属、酸化防止剤、アミノ酸、ならびにセラミック粒子麻酔薬、好ましくはリドカインをさらに含む。好ましくは、局所麻酔薬は、多糖の総重量を基準として0.05重量%~2重量%、より好ましくは0.1重量%~1重量%、さらにより好ましくは0.1重量%~0.8重量%、さらにより好ましくは0.1重量%~0.6重量%、さらにより好ましくは0.1重量%~0.4重量%、さらにより好ましくは0.2重量%~0.4重量%、さらにより好ましくは約0.3重量%の量で存在する。好ましくは、ポリオールは、0.5重量%~5.0重量%、より好ましくは1.0重量%~3.0重量%、さらにより好ましくは1.5重量%~2.5重量%、さらにより好ましくは1.8重量%~2.2重量%、さらにより好ましくは約2.0重量%の量で存在する。ポリオールは、好ましくはマンニトールである。
【0107】
第8の態様において、本発明は、本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体を上記で定義された第2の多糖誘導体と接触させることによって得られる架橋ヒドロゲルに関連し、架橋ヒドロゲルは、好ましくは以下の構造単位を含む。
【化12】
式中、「Ac」は、-C(O)CH
3を示し、Rは、水素、アルカリ金属イオン、好ましくはNa、およびアルカリ土類金属イオンから選択される。
【0108】
好ましくは、第7および第8の態様において説明された架橋ヒドロゲルは、1Hzで50~1000Pa、より好ましくは50~500Pa、さらにより好ましくは50~300Pa、さらにより好ましくは50~150Paまたは150~300Paの貯蔵弾性率を有する。貯蔵弾性率は、0.1~10Hzの周波数走査を使用して、1Paの振動応力で25℃で行われるレオロジー測定によって決定され得る。
【0109】
一実施形態によれば、接触は、in situで、すなわち患者の体内で行われる。別の実施形態によれば、接触は、in vitroで、すなわち、ヒトまたは動物の体の外で、好ましくは上記で定義された緩衝媒体中で行われる。好ましくは、緩衝媒体は、人工容器内に配置される。
【0110】
第9の態様において、本発明は、架橋ヒドロゲルを調製する方法、好ましくは美容的方法に関する。この方法は、a)本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体を含む第1の前駆体溶液と、それとは別に、上述の第2の多糖誘導体を含む第2の前駆体溶液とを提供するステップと;b)第1の前駆体溶液および第2の前駆体溶液をin situで架橋可能な混合物に混合するステップと;c)in situで架橋可能な混合物を患者の体内の標的部位に注入して、標的部位に架橋ゲルを形成するステップとを含む。
【0111】
好ましくは、ステップa)で提供される第1の前駆体溶液および第2の前駆体溶液は無菌である。
【0112】
「滅菌」または「無菌」という用語は、本明細書で使用される場合、加熱滅菌、特に湿式加熱滅菌(例えば蒸気滅菌)を指し、好ましくはオートクレーブを指すことを意図する。オートクレーブは、120℃~132℃で0.3分~20分、または121℃~130℃で0.5分~10分、例えば121℃で0.5分~2分で行うことができる。
【0113】
ステップb)で得られたin situで架橋可能な混合物は、低い注入力で細い針を通して容易に注入可能であり、例えば、皮膚の改善、皮膚の成形または良好なボリューム化効果を提供する。これは有利にも細い針の使用を可能にし、これは一方で患者の快適さを高め(注入時の痛みの軽減、背圧の低下)、さらに施術者がヒドロゲルを様々な皮膚の層等の所望の標的部位に正確かつ安全に(血管の詰まりなしに)注入することを可能にする。
【0114】
混合および注入は、以下に記載されるようなダブルバレルシリンジ、または同時押し出しおよび付随する混合、ならびに患者の体内にある針(またはカニューレ)を通したin situでの架橋可能な混合物の注入の前に第1および第2の前駆体溶液が物理的に分離される任意の他の適切なシリンジシステムを使用して達成され得る。したがって、同時注入は、体内の標的部位にin situで架橋可能な混合物を堆積させる前の予備的な架橋を回避するくらい速くなければならない。一方、in situで架橋可能な混合物が周囲の組織に広がるのを避けるために、ゲル化時間は適度に短くなければならない。
【0115】
したがって、好ましくは、ステップa)において、第1および第2の前駆体溶液は、マルチバレルシリンジ、好ましくはダブルバレルシリンジの異なるバレルに存在し、ステップb)の混合は、前記マルチバレルシリンジからの押し出し中に生じる。
【0116】
「マルチバレルシリンジ」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも2つの別個のバレルを備え、2つ以上のプランジャを有し得るシリンジを意味することを意図する。「ダブルバレルシリンジシステム」という用語は、本明細書で使用される場合、2つの別個のバレルを備え、1つまたは2つのプランジャを有し得る任意のシステムまたはデバイス、通常はシリンジを意味することを意図する。さらに、マルチバレル、例えばダブルバレルシリンジシステムは、一般に、シリンジシステムの端部を密封するために、チップキャップ、または針シールド付きもしくはなしの針もしくはカニューレを含む。バレルは一般に、十分な第1および第2の前駆体溶液を収容するための貯蔵容量を有する。バレルは、ガラス、プラスチック、または他の適切な材料で作製され得、異なる形状、内径、材料組成、透明度等を有し得る。さらに、マルチバレルシリンジシステムは、2つの一体的に接続されたシリンジ、すなわち2つの一体的に接続されたバレル、およびバレルから内容物を分配するためのモノまたはダブルプランジャアセンブリを有するシリンジの形態のダブルバレルシリンジシステムであってもよい。また、シリンジシステムは、2つの取り外し可能に接続されたバレルおよび2つまたは1つの取り外し可能に接続されたプランジャを含み得る。
【0117】
さらに、第1の前駆体溶液および/または第2の前駆体溶液は、幹細胞を含む細胞、ならびに脂肪細胞、脂肪、脂質、成長因子、サイトカイン、薬物、および生物活性因子等の追加の物質を含んでもよい。より具体的には、第1の前駆体溶液および/または第2の前駆体溶液は、局所麻酔剤、多価アルコール(ポリオールとも呼ばれる)、ビタミン、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、金属、酸化防止剤、アミノ酸、およびセラミック粒子を含んでもよい。
【0118】
本発明の文脈内で、局所麻酔薬の添加は、注入時の痛みを軽減するその能力の観点から特に望ましい。例示的な局所麻酔薬には、アンブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベンゾカイン、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジシクロミン、エクゴニジン、エクゴニン、塩化エチル、エチドカイン、ベータユーカイン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、イソブチルp-アミノベンゾエート、メシル酸ロイシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ネパイン、オクトカイン、オルソカイン、オキセタザイン、パレトキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、シュードコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミン、およびそれらの塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
好ましくは、麻酔薬は、リドカインHClの形態等のリドカインである。第1および/または第2の前駆体溶液は、例えば、0.05重量%~8.0重量%、0.1重量%~4.0重量%、0.2重量%~3.0重量%、0.3重量%~2.0重量%、または0.4重量%~1.0重量%のリドカイン濃度を有し得る。
【0120】
本明細書における使用に適したポリオールには、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、プロピレングリコール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、およびラクチトールが含まれるが、これらに限定されない。本明細書での使用に特に適しているのは、マンニトールおよびグリセロールである。さらに、ポリオールは、好ましくはグリコールであり、任意選択で前述のポリオール化合物の1つ以上、特にマンニトールと組み合わされている。適切なビタミンは、ビタミンC、ビタミンEおよびB群のビタミン、すなわちB2、B3、B5、B6、B7、B9およびB12ビタミンの1つ以上を含む。ビタミンは、細胞代謝を刺激および維持するために、したがってコラーゲン産生を促進するために存在し得る。特にビタミンC、ビタミンEおよびビタミンB6は、ここでの使用に好ましい。軟組織充填剤組成物における使用に好ましい塩は、亜鉛塩である。セラミック粒子は、好ましくはヒドロキシアパタイト粒子、例えばカルシウムヒドロキシルアパタイト(CaHA)粒子である。
【0121】
代替として、第1の前駆体溶液は、修飾ヒアルロン酸誘導体からなり、および/または第2の前駆体溶液は、第2の多糖誘導体からなる。
【0122】
また、第1の前駆体溶液は、修飾ヒアルロン酸誘導体および水性緩衝液からなってもよく、ならびに/または第2の前駆体溶液は、第2の多糖誘導体および水性緩衝液からなってもよい。
【0123】
第1の前駆体溶液中に存在する修飾ヒアルロン酸誘導体の量は、0.1重量%~5.0重量%、好ましくは0.5重量%~4.0重量%、より好ましくは1.0重量%~3.0重量%、最も好ましくは1.5重量%~2.5重量%であってもよく、第2の前駆体溶液中に存在する第2の多糖誘導体の量は、0.1重量%~5.0重量%、好ましくは0.5重量%~4.0重量%、より好ましくは1.0重量%~3.0重量%、最も好ましくは1.5重量%~2.5重量%であってもよい。さらに、同時注入された修飾ヒアルロン酸誘導体と第2の多糖誘導体との重量比は、好ましくは15:85~85:15、より好ましくは30:70~70:30、最も好ましくは40:60~60:40または50:50(修飾ヒアルロン酸誘導体対第2の多糖誘導体)である。
【0124】
第1および第2の前駆体溶液は、典型的には、1Hzおよび25℃での振動レオロジー測定により決定される0.001Pa・s~5.0Pa・s、特に0.005Pa・s~3.0Pa・s、好ましくは0.01Pa・s~2.0Pa・s、より好ましくは0.1Pa・s~1.8Pa・sの低い複素粘度を有する。さらに、第1および第2の前駆体溶液は両方とも、標準的な1.0mlガラスシリンジ(BD Hypak SCF、1mlの長いRF-PRTC、ISO11040、内径6.35mm)を使用して約0.21mm/秒の速度での押出で30G針(TSK Laboratory)を通して測定される、0.01N~15N、好ましくは0.1N~10N、より好ましくは0.5N~7.5N、最も好ましくは0.01N~50Nまたは1.0~5.0Nの低い押出力によって特徴付けられ得る。
【0125】
in situで架橋可能な混合物は、上記のように測定した場合、好ましくは、0.1Pa・s~100Pa・s、または0.1Pa・s~75Pa・s、または1.0Pa・s~75Pa・s、より好ましくは1Pa・s~50Pa・sまたは5Pa・s~50Pa・sの複素粘度を有する。さらに、組成物の注入力は、上記のように測定した場合、好ましくは0.01N~20Nまたは0.01~10N、より好ましくは0.1N~10N、最も好ましくは1.0N~5.0Nである。
【0126】
患者の体内に入るin situで架橋可能な混合物、すなわち2つの前駆体溶液の混合物は、好ましくは、0.1重量%から5.0重量%の修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖誘導体の総量を含む。
【0127】
本発明によれば、液体組成物中に存在するヒドラジドおよびアルデヒド官能化HA誘導体の総量は、好ましくは0.1重量%~5.0重量%、特に0.5重量%~4.0重量%、より好ましくは1.0重量%~3.0重量%、最も好ましくは1.5重量%~2.5重量%である。さらに、ヒドラジド官能化HA誘導体対アルデヒド官能化HA誘導体の修飾比は、好ましくは15:85~75:25、より好ましくは25:75~60:40、特に好ましくは40:60~60:40、最も好ましくは50:50である。
【0128】
注入されたin situで架橋可能な混合物は、in situで迅速かつ効率的に架橋して、体内の標的部位で共有結合的に架橋されたヒドロゲルを形成する。架橋反応を誘発するために、添加剤、触媒、pHスイッチ、UV照射、またはその他の外部刺激(または「トリガー」)は必要ない。特に、架橋剤は使用されず、また必要ない。架橋反応によって生成される唯一の副生成物は、典型的には、ヒドロゲルおよび/または周囲の組織によって容易に吸収される水である。
【0129】
さらに、in situで形成された架橋ヒドロゲルは、軟組織充填材料として使用するための好ましい機械的、化学的およびレオロジー的特性を示す。特に、ボリュームを生み出す能力が高い。また、本発明のin situ架橋ヒドロゲルは、生分解性でありながら、延長されたin vivo滞留時間を有する。さらに、それは望ましくは、麻酔薬(例えばリドカイン)および様々な他の成分(例えば、幹細胞および脂肪細胞を含む細胞、脂肪、脂質、成長因子ならびにビタミン)を含み得る。したがって、本発明のin situで架橋可能な組成物は、美容的目的のための皮膚充填剤としての使用に特に適している。
【0130】
第10の態様において、本発明は、架橋ヒドロゲルを調製する方法に関する。この方法は、ヒトまたは動物の体の外で行われることを理解されたい。換言すれば、この方法によって調製された架橋ヒドロゲルは、予備形成された架橋ヒドロゲルである。この方法は、以下のステップを含む。
ステップa):上記で定義された緩衝液を提供するステップ。
ステップb):本発明による(または本発明の方法に従って調製された)修飾ヒアルロン酸誘導体を添加し、上記で定義された第2の多糖誘導体を緩衝液に添加するステップ。修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖誘導体は、緩衝液に任意の可能な順序で同時にまたは連続して添加され得る。任意選択で、非架橋多糖、好ましくはヒアルロン酸が、ステップb)で緩衝液に添加され得る。非架橋多糖はまた、修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖誘導体のいずれか1つと同時に、またはその後に添加され得る。
ステップc):緩衝液中で修飾ヒアルロン酸誘導体および第2の多糖誘導体を架橋して、それにより架橋ゲルを調製するステップ。
ステップd):任意選択で、上記で定義された非架橋多糖を添加するステップ。
ステップe):任意選択で、ステップc)またはd)で得られたヒドロゲルをふるい分けおよび脱気するステップ。
ステップf):任意選択で、ステップc)、d)、またはe)で得られたヒドロゲルを、容器、好ましくはシリンジ、より好ましくはすぐに使用できるシリンジに充填するステップ。
ステップg):任意選択で、ステップf)で得られたゲルを含む容器を滅菌するステップ。
【0131】
好ましくは、ステップd)は、方法の一部である。また、好ましくは、ステップe)、f)、およびg)は、方法の一部である。より好ましくは、ステップd)、e)、f)、およびg)は、方法の一部である。
【0132】
架橋ヒドロゲルを調製する本発明の方法は、架橋ヒドロゲルを調製するBDDEベースの方法よりも非常に有利である。特に、本発明の方法は、著しくより単純であり、より誤りが発生しにくい。これは、ヒドロゲルを調製するためのBDDEベースの方法が以下の一般的なステップ:
1.HA溶解
2.BDDEの追加
3.高温での架橋反応
4.中和
5.透析チューブへの充填
6.緩衝液(PBS等)に対する透析
7.ゲル濃度の調整および添加剤の添加(例えば、潤滑相、リドカイン等)
8.ふるい分けおよび脱気
9.シリンジへの充填
10.滅菌
を含む一方で、本発明の方法は以下の一般的なステップ:
1.両成分の緩衝液への溶解
2.潤滑相の追加(ある場合)
3.待機(室温のみでの架橋反応)
4.ふるい分けおよび脱気
5.シリンジへの充填
6.滅菌のみを含むためである。
したがって、本発明の方法は、著しくより少ない数のプロセスステップを含み、これにより、本発明のステップがはるかに単純に、より速く、したがってより安価になる。さらに、本発明の方法では、透析による比較的エラーが発生しやすい精製を回避することができるので、本発明の方法は、汚染のリスクが著しく低いことを示している。さらに、本発明の方法では有害なBDDEが必要とされないため、本発明の方法は、より少ない健康および環境リスクをもたらす。
【0133】
ゲルの特性、特にレオロジー特性は、修飾ヒアルロン酸誘導体(および第2の多糖誘導体)の修飾度によって微調整され得ることが見出された。さらに、ゲルの特性、特にレオロジー特性は、緩衝液中のポリマー濃度を調整することによって微調整され得る。一般に、ポリマー濃度が高いと、調製された架橋ヒドロゲルの貯蔵弾性率(G’)が高くなる。好ましくは、緩衝液中の本発明の修飾ヒアルロン酸誘導体の濃度は、1g/L~40g/L、より好ましくは2g/L~30g/L、さらにより好ましくは5g/L~25g/L、さらにより好ましくは10g/L~25g/L、さらにより好ましくは12g/L~25g/L、さらにより好ましくは15g/L~25g/Lである。好ましくは、緩衝液中の第2の多糖誘導体の濃度は、1g/L~40g/L、より好ましくは2g/L~30g/L、さらにより好ましくは5g/L~25g/L、さらにより好ましくは10g/L~25g/L、さらにより好ましくは12g/L~25g/L、さらにより好ましくは15g/L~25g/Lである。
【0134】
好ましくは、ステップc)における架橋は、1時間~24時間、より好ましくは2時間~20時間、さらにより好ましくは2時間~18時間、さらにより好ましくは2時間~16時間、さらにより好ましくは3時間~16時間、さらにより好ましくは4時間~15時間、さらにより好ましくは4時間~14時間、さらにより好ましくは5時間~12時間、さらにより好ましくは6時間~10時間、さらにより好ましくは7時間~9時間、さらにより好ましくは約8時間行われる。
【0135】
好ましくは、ステップc)における架橋は、20℃~35℃の温度で、より好ましくは20℃~30℃で、さらにより好ましくは20℃~25℃で行われる。
【0136】
好ましい実施形態によれば、非架橋多糖は、ステップb)で添加される。別の好ましい実施形態によれば、非架橋多糖は、ステップd)で添加される。別の好ましい実施形態によれば、非架橋多糖は、ステップb)およびd)で添加される。好ましくは、非架橋多糖は、多糖の総量を基準として1重量%~30重量%、より好ましくは5重量%~20重量%、さらにより好ましくは7重量%~15重量%、さらにより好ましくは8重量%~12重量%、さらにより好ましくは9重量%~11重量%、さらにより好ましくは約10重量%の最終濃度で存在するように、ステップb)および/またはステップd)で添加される。
【0137】
第11の態様において、本発明は、(i)上記のような第1の前駆体溶液を含む第1の容器、および(ii)上記のような第2の前駆体溶液を含む第2の容器を備える、架橋ヒドロゲルのin situ形成のためのキットに関する。
【0138】
上記の第1および第2の前駆体溶液の様々な実施形態もまた、この態様に適用されることが理解される。これには、例えば、第1および第2の前駆体溶液が、好ましくは、マルチバレルシリンジ、好ましくはダブルバレルシリンジの異なるバレルに存在することが含まれる。異なるバレル内の第1および第2の前駆体溶液を含むマルチバレルシリンジのシステムはまた、「送達システム」として示され得る。
【0139】
キットは、使用説明書をさらに含み得る。
【0140】
「容器」という用語は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラスまたはプラスチックのボトル、バイアル、カープル、または他の任意の密封された容器を含む。
【0141】
「使用説明書」は、好ましくは、美容的または治療的用途、特に本明細書で定義される美容的または治療的用途の目的での生物学的組織の置換もしくは充填、または生物学的組織の体積の増加における使用のための説明書、特に好ましくは美容的な使用における皮膚充填剤としての使用説明書である。
【0142】
ここで、本発明は、以下の非限定的な例によってさらに説明される。
【実施例】
【0143】
化学物質
本発明に関連して使用される化学物質は、以下の供給業者から入手され、さらに精製することなく使用された。
【表1】
【0144】
機器
以下の実験機器が、本発明に関連して使用された。
【表2】
【0145】
本発明のアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を合成するための一般的な手順
グリセロール修飾HA(粉末または繊維の形態)を量り取り、必要な量の溶媒(精製水または緩衝液)を加え、均一なポリマー溶液を得るために混合物を攪拌する。その後、酸化剤(過ヨウ素酸ナトリウム)を加え、溶液を所望の時間激しく攪拌する。反応を停止するために、失活光剤(例えばビシナルジオール(1,2-ジオール)、好ましくはエチレングリコール)を加え、続いてNaClを加える。精製は、反応混合物を有機溶媒(例えばエタノールまたはイソプロパノール)に注ぐことによって行われる。沈殿物を収集し、生理食塩水にもう一度溶解し、続いて有機溶媒(例えばエタノール)で2回目の沈殿を行う。生成物を収集し、有機溶媒(例えばエタノール)ですすぎ、真空下で一定時間(例えば一晩)乾燥させる。
【0146】
特性評価
1.分子量
マルチアングル光散乱検出器、屈折率検出器、および粘度計と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、材料の分子量を決定した。2mgの乾燥修飾HAを10mLのPBS緩衝液に25℃で4時間かけて溶解し、0.2mg/mLの濃度にすることで試料を調製した。試料溶液を0.45μmフィルタでろ過し、クロマトグラフィー用の1.8mLバイアルに入れた。その後、50μLのこの溶液をシステムに注入した(溶離液PBS緩衝液、流速0.7mL/分、カラム温度35℃)。クロマトグラムの例を
図1に示す。
【0147】
2.修飾度
本発明のアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度を、
1H NMRを用いて測定した。すなわち、調製されたアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を、最初にチロシンヒドラジドで標識した:66mgのアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を15mLの水に溶解し、続いて88mgのチロシンヒドラジドを加えた。反応は20時間起こり、次いで150mgのNaClを加えた。反応混合物を75mLのエタノール中で沈殿させた。沈殿物を収集し、生理食塩水(15mLの水に150mgのNaCl)に溶解した。エタノール沈殿を再度行った。固体を収集し、真空下で乾燥させた。その後、標識されたアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体を、20mgの材料を300単位のヒアルロニダーゼで40℃で一晩消化することにより、1H NMR測定用に処理した。その後、約6.9ppmのピーク面積(チロシンヒドラジドからの芳香族プロトン)を約2.0ppmのピーク面積(ポリマー骨格の-CH
3プロトン)と比較することにより、MoDを決定する。チロシン標識アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の例示的な1H NMRスペクトルを
図2に示す。
【0148】
実施例1(アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の分子量およびMoDに対する出発物質(グリセロール修飾HA)の濃度の影響)
上記の一般的な手順に従って反応を行った。反応時間は10分、0.1当量で一定に保たれた。NalO
4を塗布し、22℃で反応させた。グリセロール修飾HAの濃度を変化させた。
調製された材料の特性に対するグリセロール修飾HAの影響を次の表に示す。
【表3】
【0149】
実施例1.1
1.49gのグリセロール修飾HA(乾燥損失(LoD)は6.2%)を量り取り、続いて315gの水を加え、混合物を22℃で16時間撹拌して均一な溶液を得た。その後、35gの水に溶解した0.074g(0.35mmol)の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、混合物を22℃で10分間激しく撹拌した。酸化を止めるために、3.9mL(69mmol)のエチレングリコールを素早く加えた。その後、均質な混合物が得られるまで1.75gのNaClを撹拌しながら加え、溶液を1.75Lのエタノール中で沈殿させた。ポリマーを収集し、新しい皿に入れ、1.75gのNaClを加え、それらを350mLの水に溶解した。均質な混合物を1.75Lの新鮮なエタノールに注ぎ、固体を収集し、生成物を真空下で乾燥させて、白色繊維を得た。材料特性:2.1%(mol/mol)のMoDおよび1.1MDaのMw
【0150】
実施例1.4
13.4gのグリセロール修飾HA(LoDは6.2%)を量り取り、続いて315gの水を加え、混合物を22℃で16時間撹拌して均一な溶液を得た。その後、35gの水に溶解した0.663g(3.1mmol)の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、混合物を22℃で10分間激しく撹拌した。酸化を止めるために、34.7mL(620mmol)のエチレングリコールを素早く加えた。その後、2800mLの水および16gのNaClを加え、均一な混合物が得られるまで撹拌し、溶液を16Lのエタノール中で沈殿させた。ポリマーを収集し、新しい皿に入れ、16gのNaClを加え、それらを3000mLの水に溶解した。均質な混合物を16Lの新鮮なエタノールに注ぎ、固体を収集し、生成物を真空下で乾燥させて、白色繊維を得た。材料特性:6.1%(mol/mol)のMoDおよび0.6MDaのMw
【0151】
実施例2(アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の分子量およびMoDに対する酸化剤(過ヨウ素酸ナトリウム)の量の影響)
上記の一般的な手順に従って反応を行った。反応中のグリセロール修飾HAの濃度を12g/Lで一定に維持し、反応時間は10分であり、室温で反応を行った。変化させた唯一のパラメータは、過ヨウ素酸ナトリウムの量であった。調製した材料の特性を次の表に示します(グリセロール修飾ヒアルロン酸の二糖繰り返し単位のモル量に基づくNalO
4の当量を示しています)。
【表4】
【0152】
実施例2.1
4.48gのグリセロール修飾HA(LoDは6.2%)を量り取り、続いて315gの水を加え、混合物を22℃で16時間撹拌して均一な溶液を得た。その後、35gの水に溶解した0.11g(0.51mmol)の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、混合物を22℃で10分間激しく撹拌した。酸化を止めるために、11.6mL(207mmol)のエチレングリコールを加えた。その後、700mLの水および5.25gのNaClを加え、均一な混合物が得られるまで撹拌し、溶液を5Lのエタノール中で沈殿させた。ポリマーを収集し、新しい皿に入れ、5.25gのNaClを加え、それらを1000mLの水に溶解した。均一な混合物を5Lの新鮮なエタノールに注ぎ、固体を収集し、生成物を真空下で乾燥させて、白色繊維を得た。材料特性:2.9%(mol/mol)のMoDおよび1.0MDaのMw
【0153】
実施例2.4
4.48gのグリセロール修飾HA(LoDは6.2%)を量り取り、続いて315gの水を加え、混合物を22℃で16時間撹拌して均一な溶液を得た。その後、35gの水に溶解した0.44g(2.1mmol)の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、混合物を22℃で10分間激しく撹拌した。酸化を止めるために、11.6mL(207mmol)のエチレングリコールを加えた。その後、700mLの水および5.25gのNaClを加え、均一な混合物が得られるまで撹拌し、溶液を5Lのエタノール中で沈殿させた。ポリマーを収集し、新しい皿に入れ、5.25gのNaClを加え、それらを1000mLの水に溶解した。均一な混合物を5Lの新鮮なエタノールに注ぎ、固体を収集し、生成物を真空下で乾燥させて、白色繊維を得た。材料特性:6.8%(mol/mol)のMoDおよび0.6MDaのMw
【0154】
実施例3(アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の分子量およびMoDに対する反応時間の影響)
上記の一般的な手順に従って反応を行った。反応中のグリセロール修飾HAの濃度は、12 g/L、0.1当量で一定に保たれました。NalO4を使用し、22℃で反応させた。変化させた唯一のパラメータは反応時間であった。調製された材料の特性を次の表に示す。
【表5】
【0155】
実施例3.4
4.93gのグリセロール修飾HA(LoDは6.2%)を量り取り、続いて345gの水を加え、混合物を22℃で16時間撹拌して均一な溶液を得た。その後、39gの水に溶解した0.22g(1.0mmol)の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、混合物を22℃で60分間激しく撹拌した。酸化を止めるために、12.7mL(227mmol)のエチレングリコールを加えた。その後、770mLの水および6gのNaClを加え、均一な混合物が得られるまで撹拌し、溶液を6Lのエタノール中で沈殿させた。ポリマーを収集し、新しい皿に入れ、6gのNaClを加え、それらを1100mLの水に溶解した。均一な混合物を6Lの新鮮なエタノールに注ぎ、固体を収集し、生成物を真空下で乾燥させて白色繊維を得た。材料特性:6.1%(mol/mol)のMoDおよび0.7MDaのMw。
【0156】
実施例4:in situヒドロゲルの調製へのアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の適用
アルデヒド基を有するヒアルロン酸は、in situで架橋可能なヒドロゲルの調製に使用することができる。すなわち、アルデヒド基(求電子基)を有するヒアルロン酸ナトリウム塩は、求核基(例えば、ヒドラジド基)を有する多糖と共有結合的に反応して、in situ架橋ゲルを形成し得る。アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体の修飾度および分子量に応じて、異なるレオロジー特性を有するゲルを得ることができる。
調製されたアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体のゲル化性能を確認するために、材料を水または緩衝液に溶解し、ガラス製シリンジに充填して滅菌した。同様に、ヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩も水または緩衝液に溶解し、シリンジに充填して滅菌した。その後、2つの溶液の内容物を混合し、ポリマーを互いに架橋(化学反応)させた。すなわち、一方のポリマーのヒドラジド基が他方の材料のアルデヒド基と反応し、ヒドラゾン結合の形成によってゲルが形成された(以下のスキームを参照されたい)。調製されたゲルを、混合してから24時間後にレオロジー特性を測定することにより特性決定した。コーン-プレート形状(直径50mm、角度0.1°、CP50-1、ギャップサイズ0.1mm)を備えたレオメータを使用して、貯蔵弾性率(G’)を25℃で測定した。0.1~10Hzの周波数スキャンを使用して1Paの応力で試料を振動させたが、示されている値は1Hzでのものである。
【化13】
実施例4.1:
アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体(実施例1.1の材料:MoD=2.1%、Mw=1.1MDa)を3mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、ガラス製シリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。ヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩(MoD=2.1%、Mw=1.3MDa)を3mMリン酸緩衝液(緩衝液は0.6重量%のリドカインを含み、pH7であった)に溶解し、ガラスシリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。その後、0.6gのアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体溶液を空のガラスシリンジ内に量り取り、続いて0.6gのヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩溶液を加えた。シリンジをプランジャストッパで閉じ、ルアーロックコネクタを介して空のシリンジに接続し、内容物を一方のシリンジからもう一方のシリンジに40回押し出した。その後、内容物の入ったシリンジを閉じ、22℃で24時間架橋を行った。その後、ゲルのレオロジー特性を測定した。ゲルは68Paの貯蔵弾性率に達した。
実施例4.2:
アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体(実施例2.1の材料:MoD=2.9%、Mw=1.0MDa)を3mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、ガラス製シリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。ヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩(MoD=2.1%、Mw=1.3MDa)を3mMリン酸緩衝液(緩衝液は0.6重量%のリドカインを含み、pH7であった)に溶解し、ガラスシリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。その後、0.6gのアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体溶液を空のガラスシリンジ内に量り取り、続いて0.6gのヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩溶液を加えた。シリンジをプランジャストッパで閉じ、ルアーロックコネクタを介して空のシリンジに接続し、内容物を一方のシリンジからもう一方のシリンジに40回押し出した。その後、内容物の入ったシリンジを閉じ、22℃で24時間架橋を行った。その後、ゲルのレオロジー特性を測定した。ゲルは164Paの貯蔵弾性率に達した。
実施例4.3:
アルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体(実施例2.4の材料:MoD=6.8%、Mw=0.6MDa)を3mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、ガラス製シリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。ヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩(MoD=2.1%、Mw=1.3MDa)を3mMリン酸緩衝液(緩衝液は0.6重量%のリドカインを含み、pH7であった)に溶解し、ガラスシリンジに充填し、蒸気滅菌(127℃、6.5分)した。その後、0.6gのアルデヒド修飾ヒアルロン酸誘導体溶液を空のガラスシリンジ内に量り取り、続いて0.6gのヒドラジド修飾ヒアルロン酸ナトリウム塩溶液を加えた。シリンジをプランジャストッパで閉じ、ルアーロックコネクタを介して空のシリンジに接続し、内容物を一方のシリンジからもう一方のシリンジに40回押し出した。その後、内容物の入ったシリンジを閉じ、22℃で24時間架橋を行った。その後、ゲルのレオロジー特性を測定した。ゲルは277Paの貯蔵弾性率に達した。
【0157】
実施例5(酸化反応においてグリセロール修飾HAを使用することの重要性)
過ヨウ素酸ナトリウムで酸化することにより、炭水化物の構造にアルデヒド基を導入できることが知られている。しかしながら、この合成に必要な反応時間は長く、酸化がポリマーの主鎖で起こっているため、反応によりポリマーの分子量が大幅に減少する。これを回避するために、つり下がったグリセロール単位がHA主鎖のヒドロキシル基よりも酸化を受けやすいため、グリセロール修飾HAを酸化に使用することができる。これを確認するために、天然HAおよびグリセロール修飾HAを同じ条件下で酸化し、それらの特性をテストした。反応条件は次の通りである:ポリマー濃度:12g/L;反応温度:22℃、過ヨウ素酸ナトリウム0.1eg(ヒアルロン酸繰り返し単位の数に対して)。酸化された天然HAおよび酸化されたグリセロール修飾HAのゲル化性能を次の表に示す。
【表6】
結果は、グリセロール修飾HAの酸化に使用される穏やかな条件下では、天然HAは、ヒドラジド修飾ヒアルロン酸溶液と混合したときにゲルを形成し得る材料を生成できないことを示している。
【0158】
実施例6(予備形成されたヒドロゲルの調製)
濃度の異なる2つのゲル[10mg/mL(実施例6.1);20mg/mL(実施例6.2)]を調製した。
実施例6.1
2.5gのヒドラジド修飾HA(平均分子量1.5MDaおよび修飾度2.1%)ならびに2.5gのアルデヒド修飾HA(本発明に従って調製;平均分子量1.1MDaおよび修飾度4.3%)を、Kenwoodボウル内に秤量し、続いて450mlの10mMリン酸緩衝液(pH7、2重量%のマンニトールおよび0.3重量%のリドカインを含む)を加えた。混合物を8時間撹拌し、次いで10mMリン酸緩衝液中に10mg/mLの濃度で非架橋HAを含む溶液50mLを加え、その後、得られた生成物をシリンジに充填し、127℃で6.5分間滅菌した。レオロジー特性(滅菌前後)、押し出し力(滅菌後)、pHおよび浸透圧を測定することにより、ゲルを特性決定した。得られたデータを次の表に示す。
【表7】
実施例6.2
5.0gのヒドラジド修飾HA(平均分子量1.5MDaおよび修飾度2.1%)ならびに5.0gのアルデヒド修飾HA(本発明に従って調製;平均分子量1.1MDaおよび修飾度4.3%)を、Kenwoodボウル内に秤量し、続いて450mLの10mMリン酸緩衝液(pH7、2重量%のマンニトールおよび0.3重量%のリドカインを含む)を加えた。混合物を8時間撹拌し、次いで10mMリン酸緩衝液中に20mg/mLの濃度で非架橋HAを含む溶液50mLを加え、その後、得られた生成物をシリンジに充填し、127℃で6.5分間滅菌した。レオロジー特性(滅菌前後)、押し出し力(滅菌後)、pHおよび浸透圧を測定することにより、ゲルを特性決定した。得られたデータを次の表に示す。
【表8】
実施例6.1および6.2に見られるように、得られたヒドロゲルの特性は、単にポリマー濃度を変更することによって微調整することができる。
【0159】
実施例7(本発明の方法に従って調製されたゲルの熱安定性)
本発明の方法に従って調製された予備形成されたゲルの熱安定性をテストするために、2つの製剤を調製し、40℃の炉内に置いた。ゲルのレオロジー特性を、様々な時点(0、3、6、9、および12週)で調査した。
ゲル1:
0.45gのヒドラジド修飾HA(分子量1.8MDa、修飾度3.7%)を、シリンジ内で0.6重量%のリドカインを含む生理食塩水中に溶解した。第2のシリンジ内で、0.45gのアルデヒド修飾HA(本発明に従って調製;分子量1.2MDaおよび修飾度3.7%)を30mLの25mM PBS緩衝液(1.25gのマンニトールを含む)に溶解した。
HA-ヒドラジド溶液およびHA-アルデヒド溶液を含むシリンジを、ルアーロックコネクタを介して接続し、内容物を激しく混合した。その後、均一な混合物をガラス製のBDシリンジに充填し、127℃で6.5分間滅菌した。ゲルを含むシリンジを40℃の炉内に置いた。
ゲル2:
0.45gのヒドラジド修飾HA(分子量1.8MDa、修飾度3.7%)を、シリンジ内で0.6重量%のリドカインを含む生理食塩水中に溶解した。第2のシリンジ内で、0.45gのアルデヒド修飾HA(本発明に従って調製;分子量1.2MDaおよび修飾度3.7%)を30mLの3mM PBS緩衝液(マンニトールなし)に溶解した。
HA-ヒドラジド溶液およびHA-アルデヒド溶液を含むシリンジを、ルアーロックコネクタを介して接続し、内容物を激しく混合した。その後、混合物をガラス製のシリンジに充填し、127℃で6.5分間滅菌した。ゲルを含むシリンジを40℃の炉内に置いた。
結果を
図3および
図4に示す。見てわかるように、両方のゲルが同様の良好な熱安定性を示している。
【国際調査報告】