(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(54)【発明の名称】非侵襲性グルコースセンサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533325
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(85)【翻訳文提出日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 IB2019057576
(87)【国際公開番号】W WO2020121073
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ボウカイマ アッシム
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK10
4C038KL07
4C038KX01
(57)【要約】
ラマン分光法及びPPGの組み合わせを使用して、血液中のグルコース又は別の分析物の濃度を非侵襲的に測定するための光学デバイス。このデバイスは、時間可変の信号を収集するための光検出器、好ましくは、埋込フォトダイオード(PPD)を含むCMOSイメージング装置と、心律動に適合する周波数範囲で発生する光信号の変化に基づいてグルコース濃度を決定するように配置された論理回路とを含む。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の分析物の濃度をインビボで決定するための光学デバイスであって、
指又は手首等の身体の感知された領域への光学的結合のための光学インターフェースと、
紫外光、可視光又は赤外光を前記感知された領域に送るために配置された光源と、
前記感知領域からの散乱光を受ける集光システムと、
前記分析物の濃度によって影響を受ける時間可変の信号を生成する光学検出器と、
前記時間可変の信号に基づいて、前記感知領域の血液中の前記分析物の濃度を決定するように配置された論理回路と
を含む光学デバイス。
【請求項2】
前記感知領域に存在する血液の量を示す時間可変のPPG信号を生成するフォトプレチスモグラフィデバイスを含む請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記散乱光から、前記分析物の分子における非弾性散乱で生成されたスペクトル成分を選択するために配置された光学フィルタを含み、前記光学検出器が、前記スペクトル成分の強度に比例する時間可変のラマン信号を生成する請求項1又は請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記フォトプレチスモグラフィデバイスが、前記感知領域からの散乱した光放射の強度を取得して、前記散乱した光放射の前記強度から心律動に対応する周期的なPPG信号を抽出するように配置されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記光源がパルス化されており、前記光学検出器が前記光源のパルスと同期して読み取られる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記フォトプレチスモグラフィデバイスが第2の時間可変の信号を提供する第2の別個の光学検出器を含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記論理回路が、前記時間可変の信号を前記PPG信号によってスケーリングし、かつ/又は前記ラマン信号を前記PPG信号と相関させるように配置されている請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記光源が、レーザダイオード又は発光ダイオードであり、前記光源が前記可視領域又は近赤外領域の光を発する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記フィルタが、波長分散回折格子又は干渉フィルタを含む請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記フィルタが、グルコースラマン散乱光に対応する波長を通過させるように調整されている請求項2から請求項9のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項11】
ウェアラブルデバイスに含まれ、前記分析物の前記濃度の連続測定又は擬連続測定を提供するために配置されている請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項12】
前記分析物がグルコースである請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項13】
前記光学検出器が、感光性ピクセルのアレイを有するCMOS集積回路と、前記ピクセルから又は前記ピクセルの一部から平均的な照明値を同時に読み取るための回路とを含む請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項14】
身体の一部における分析物の濃度を非侵襲的に決定する方法であって、
指又は手首等の前記身体の感知された領域を、実質的に単色の可視光又は赤外光で照明する工程と、
前記感知された領域から散乱された光を受ける工程と、
前記分析物のラマン散乱に帰属することができる前記散乱光の成分の強度を決定する工程と、
前記散乱光から、前記感知領域に存在する血液の量を示す時間可変のPPG信号を決定する工程と、
前記成分の前記強度及び前記PPG信号に基づいて前記濃度を決定する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の分析物の濃度をインビボで決定するための非侵襲性の装置、及び好ましい実施形態では、ヒトにおいて血糖値を決定するための非侵襲性のセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
血漿中を循環するグルコースの量である血糖は、糖尿病、低血糖、及び他の代謝障害の管理、診断、及び予防において最も重要な臨床パラメータである。一般に、適正な糖尿病治療は、血中グルコース濃度を可能な限り長く正常に近い値に維持することを目指すべきであると認識されている。栄養補給、ストレス、運動及び他の事象が血糖値に強く影響するため、糖尿病の管理には頻繁な血糖値の測定が不可欠である。
【0003】
血糖値は、血中濃度に結びついた臨床パラメータの一例に過ぎない。糖尿病治療だけでも、他の糖分や、血中タンパク質に結びついたグルコース画分は非常に重要である。血液中で日常的に測定されている他の分析物としては、酸素、CO2、電解質、タンパク質、窒素物質、栄養素、脂肪、コレステロール等が挙げられる。
【0004】
既存の血糖値測定器では、指先をランセットで刺して少量の血液を採取する必要がある。糖尿病患者は1日に何度も糖値を測定しなければならない可能性があるため、この採取は非常に好ましくないことは明らかであり、グルコース及びその他の代謝産物の血中濃度を測定する非侵襲性の技術の開発に拍車をかけている。それにもかかわらず、血液中の臨床的に重要な分析物の非侵襲性のインビボ測定は依然として困難である。
【0005】
血液中のグルコース又は他の分析物のポータブルメータを開発する試みとして、多くの光学的測定技術が研究されてきた。これらには、吸収分光法(特に赤外スペクトル)、弾性散乱、及び様々なタイプのラマン(非弾性)散乱が含まれる。多くの努力にもかかわらず、これらの手段によって、臨床使用に十分な精度の測定値を得ることは依然として困難である。
【0006】
実験室の試料において、ラマン散乱により試料中の様々な分析物の濃度を定量的に測定することが知られている。これらの技術は、原則として、濃度が既知の標準溶液による較正が必要である。
【0007】
インビボ測定から得たラマンスペクトルの中のグルコースのピークを検出することができる機器が知られている。これらのスペクトルを処理して、臨床的に価値のある血糖の測定値を得るための信頼できる方法は、特に、従来の較正がないためにまだ不足している。というのも、特に、照明の条件と調べられる組織の光学的特性が、被験者(対象)ごとに、及び位置ごとに大きく変化する可能性があるからである。
【0008】
フォトプレチスモグラフィ(光電式容積脈波記録法)(PPG)は、不均一な(irrorated)組織における、例えば皮膚における光の吸収の変化を観察することによって心律動を検出するために使用される光学技術である。このような技術は、特に個人用の運動モニターに使用されている。
【0009】
ラマン分光法及びPPGでは、p-n接合フォトダイオード、p-i-nフォトダイオード(PINダイオードとしても公知)、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)、光電子増倍管、マイクロチャンネルプレート等、いくつかの公知のタイプの光子検出器が使用されている。
【0010】
固体イメージセンサは、携帯電話、カメラ及び科学イメージング機器に広く使われている。これらのデバイスでは、光を電気信号に変換することは、埋込光検出器(pinned photodetector、PPD。PINダイオードと混同しないように)のアレイによって行われ、各PPDは、入射光によって生成された光電子が所望の時間だけ集積されることが可能な埋設されたポテンシャルウェル領域と、集積された電荷をセンスノードに転送するために開くことができる転送ゲートとを有する。CMOSイメージセンサは、通常、各ピクセルに何らかの形の増幅装置を含み、それは、多くの場合、ソースフォロワートランジスタである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非侵襲的に、好ましくは連続的に信頼性の高い測定を提供するという点で先行技術の制限を克服する、血液中の分析物の濃度を決定するための光学デバイスを提案する。
【0012】
本発明によれば、これらの目的は、添付の請求項によって達成される。
【0013】
本開示は、血糖がラマン分光法によって決定される好ましい場合について詳細に説明しているが、実際には、本発明は、ラマン分光法、蛍光、吸収分光法、又は任意の他の適切な光学分析技術のいずれかによって、血液中の他の分析物の濃度を決定することに拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明は、例示として与えられ、図によって示される実施形態の説明の助けを借りて、よりよく理解されるであろう。
【0015】
【
図1a】
図1aは、本発明に係る光学デバイスの可能な構造を模式的にかつ簡略化して示す。
【
図1b】
図1bは、本発明に係る光学デバイスの可能な構造を模式的にかつ簡略化して示す。
【
図2】
図2は、指又は手首の皮膚等、身体の感知領域から散乱された光の予想されるラマンスペクトルのプロットである。
【
図3】
図3は、感知領域の血液量の変化を示すフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号である。
【
図4】
図4は、パルス状の励起及び読み出しを示す。
【
図5】
図5は、本発明に適用可能なPPD感光性ピクセルの構造を模式的に示す。
【
図6a】
図6a~
図6dは、
図5に表されたPPDピクセルの異なるポテンシャルと、それに対応するキャリアの移動を、動作の連続した段階で示したものである。
【
図6b】
図6a~
図6dは、
図5に表されたPPDピクセルの異なるポテンシャルと、それに対応するキャリアの移動を、動作の連続した段階で示したものである。
【
図6c】
図6a~
図6dは、
図5に表されたPPDピクセルの異なるポテンシャルと、それに対応するキャリアの移動を、動作の連続した段階で示したものである。
【
図6d】
図6a~
図6dは、
図5に表されたPPDピクセルの異なるポテンシャルと、それに対応するキャリアの移動を、動作の連続した段階で示したものである。
【
図7】
図7は、低消費電力の二重相関サンプリングステージの簡略化した回路図である。
【
図9】
図9は、複数のマクロピクセルから発生される信号を処理するように設計された電子回路の1つの可能な配置である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1aは、本発明の一態様に係るデバイスを簡略化して模式的に示す。このデバイスは、光放射で組織をプローブし、後方散乱光を収集して測定するために、指の皮膚又は手首の皮膚等、身体の血管のある部分に適用することができる、表されていない光学インターフェースを有する。
【0017】
表された例では、励起光源60は、適切な光学装置61と共に、光のビーム62を組織10に向けるために使用される。好ましくは、光源60は、狭いスペクトルの発光を有し、例えばVCSELレーザ等の固体レーザであってもよい。光源60の発光は、電磁スペクトルの近紫外、可視、近赤外、又は中赤外の領域に集中していてもよい。
【0018】
本発明のデバイスは、試料10から散乱して戻ってきた光放射を収集するように配置されている。好ましくは、集光装置71は、検出器上の受けた光の強度を高めるために使用される。試料10から出てくる光はコリメートされていないので、検出器41及び42上により多くの光を送るために、鏡等の非イメージング集光装置が有利に使用されてもよい。
【0019】
他の変形例では、集光装置71が撮像対物レンズであってもよく、検出器41がイメージセンシングアレイであってもよい。このような実現例は、分析物の濃度を検出して測定するだけでなく、その分布を画像上に表示することも可能である。
【0020】
本実施形態によれば、試料10から受け取った散乱光の少なくとも一部は、調べられた分析物から予想される特徴的なラマン放射を選択するように選択された関心領域の波長のみを本質的に通過させる光学バンドパスフィルタ又はモノクロメータフィルタ72によってフィルタリングされる。
【0021】
図2は、グルコースを含む試料から散乱された光のスペクトルを示す。このプロットは、光の強度を、シフトΔw=1/λ
0-1/λ
1に対して報告しており、λ
0及びλ
1は、それぞれ励起光及び散乱光の波長を表す。このスペクトルは、連続したバックグラウンド、及び様々な分子における励起光の非弾性(ラマン)散乱に由来するいくつかのピークを提示する。ダブルピーク104は、グルコースの存在を明らかにしている。ハッシュ化された領域105は、モノクロメータ72によって選択された関心領域である。
【0022】
本発明の実現例の非図示の態様は、モノクロメータフィルタ72の代わりに、回折格子又は分光器のような分散装置を含んでもよく、関心領域における強度ではなく、ラマンスペクトル102のプロファイルを再構成するように配置されるであろう。この変形例は、複数の分析物を同時に検出して測定し、ラマンスペクトルの特定のピークやシグネチャによってそれらを識別することができる。この変形例は、連続的なバックグラウンド成分を推定して差し引くこともでき、測定の精度を向上させることができる。
【0023】
本発明の別の変形例では、光源60は、調整可能なレーザ等の調整可能な狭帯域光源であってもよいし、複数の個別に選択可能な固定波長の狭帯域光源を組み合わせてもよい。光源の波長を変更することは、モノクロメータ72によって定められたウィンドウ105を維持したまま、
図2のスペクトル102をシフトさせることになり、本発明は、様々な波長での異なるピークによって明らかにされる異なる分析物を検出することができるようになる。この変形例では、マイクロメカニカルな可動ミラーを備えたVCSELレーザが有利に使用されてもよいが、適切にコンパクトな調整可能な光源であればいずれも適用可能である。
【0024】
別の変形例では、モノクロメータ72を調整可能にすることで、発光源60の波長を一定に保ちながら、複数の分析物の特徴的な発光ピークを選択することが可能になる。この目的のために、MEMS調整可能なファブリ・ペロー(Fabry-Perot)フィルタ及び他の光学デバイスが採用されてもよい。
【0025】
上述したラマン散乱は自然発生的なプロセスであり、得られる放射線は弱い。グルコースの特徴的なピークを検出するには、弾性的に散乱した放射線を減衰させるための選択的な光学フィルタと、高感度の光検出器が必要である。後述する高性能の検出器デバイスを採用することにより、及びシグネチャ(特徴的な)ピークの振幅をバックグラウンドよりも大きくすることにより、この技術の精度を向上させることができる。誘導ラマン散乱(SRS)やコヒーレントラマン散乱(CARS/CSRS)は、複数のレーザ光を用いて共鳴により増幅されたラマン信号を生成する物理的プロセスである。他の増幅メカニズムも知られており、本発明に組み込むことができる。
【0026】
一実施形態では、本発明は、身体の感知された領域に任意の瞬間に存在する血液の量を示す時間可変のPPG信号を生成するフォトプレチスモグラフィデバイスも含む。この技術も、身体10の感知された領域から散乱された光の検出に基づいており、ある任意の瞬間に感知された領域に存在する血液量に対応する強度のほぼ周期的な成分を見つけることで構成されている。この成分は、心律動と同調しており、心臓の活動を測定するために、とりわけ個人の運動モニターに使用されている。
【0027】
図3は、典型的なPPG装置で収集された、時間の関数としての光強度をプロットする。PPG信号202は、予想される心臓のリズムと適合する周波数によって特徴付けられる。それは、ゆっくりと変化するバックグラウンドの上に位置し、明確にするためにここでは表されていない、様々な性質のノイズ及び妨害物を常に伴うものである。妨害物及びノイズは、電子的な制限、被験者の動き、その他の原因による可能性があり、PPG信号を容易に圧倒してしまう。いくつかの信号処理技術を使用して、これらの不要な効果からPPG信号202を抽出することができる。
【0028】
図1に戻ると、両方の検出器41及び42の出力は、ADC51によってデジタル化され、マイクロコントローラユニットでありうる論理回路52によって処理され、センサ41からのラマン信号及びセンサ42からのPPG信号に基づいて、感知領域の血液中の分析物の濃度が決定される。
【0029】
本発明の実現のこの例では、PPG信号は、ラマン検出器41とは別の特定の光検出器42に由来する。PPG検出器42によって感知された光はモノクロメータ72によってフィルタリングされないので、PPG検出器42は、強度がラマン放射よりもはるかに高い弾性散乱光に対して作用する。これは、より高い信号が得られるので有利であるが、本発明の変形例では、単一のフォトセンサセンサ41が時間可変のラマン信号を生成する。
図1bは、別個の光学PPG検出器を使用しない可能な配置を示す。プロセッサユニット52は、心律動に適合した方法で変化するラマン信号の成分を検出するようにプログラムされている。この成分は、照明された領域内の血液の脈動画分におけるグルコースの濃度に関連する。
【0030】
この実施形態では、PPG光検出器は、光源60から放出され、試料10から弾性的に散乱された光に感応する。本発明は、PPGセンサのための別個の光源を有する変形例も含むことができる。
【0031】
図4に示すように、光源(複数可)は、心律動に関連する過渡的な現象を認識するのに十分な反復率で一連のパルスを発してもよい。本発明に制限を加えることなく、このアイデアを固定するために、心律動は、0.67Hz~3.3Hzの基本周波数に対応する、40~200bpmの間で変化すると仮定してもよい。光源は150Hzの反復率でパルスを発してもよい。
【0032】
示された例では、グルコース濃度は誘導ラマン散乱によって測定される。2つの光源が異なる周波数の光を放出する:ポンプ光源60aは角周波数wpの光子を放出し、ストークス光源60bは角周波数wsの光子aを放出する。両光子の周波数の差(wp-ws)がグルコースの分子における固有の振動回転遷移の周波数に対応する場合、周波数wpの光子の強度は減少するのに対して、周波数wsの光子の強度はそれに応じて増加する。この信号は共鳴的に増強され、自然ラマン散乱の信号よりもかなり高い。好ましくは、光源60a及び60bの少なくとも一方(場合によっては両方)は、心律動(プロット66)に関連する現象を認識するのに十分な高さの反復率、例えば150Hzでパルス化される。
【0033】
ポンプビーム62a及びストークスビーム62bが、
図4の上方部のように、グルコース溶液17によって吸収されると、フォトセンサ41によって収集される信号211は、溶液17の濃度によって決定される一定の減衰を有する一連の等しいパルスからなる。
【0034】
グルコース溶液がある量の生きた不均一な組織10で置き換えられた場合、ラマン信号212は、組織の不均一さの瞬間的な値及び血糖に応じて変化する。
図4を参照すると、受信したラマン信号212の強度は、一定又は緩やかに変化するバックグラウンドの上に、心律動に相関した変動成分215を有する。論理回路52は、試料212から心拍数と適合する変動成分215を抽出するようにプログラムされている。変動成分215は、血液の脈動画分中のグルコース濃度に相関しており、その振幅は血糖を計算するために使用され、一方、バックグラウンド照明、ランダムノイズ、組織中のグルコースに起因する一定成分は破棄される。
【0035】
別の図示しない変形例では、モノクロメータ72が省略され、二重の検出器41、42が単一の波長分解検出システムに置き換えられ、ラマン信号とPPG信号の両方が生成される。PPG信号を生成するために広帯域の波長の光に反応するものと、調べられた分析物の関心領域105の光にのみ反応する他のものとがある、感光性ピクセルのアレイを含む複合検出器を想像することもできよう。これは、既に述べたように、吸収フィルタのモザイク、又は回折格子や分散装置によって得られる可能性がある。
【0036】
好ましくは、光検出器で生成された信号は、ADC51によってデジタル化される前に、適切な回路によって前処理される。このフロントエンドは、図面には明示されていないが、光検出器に含まれていてもよく、別個のものであってもよく、状況に応じて、アナログ増幅、集積、フィルタリング、ベースライン減算等の機能を実装することができる。論理回路52は、例えば、自動ゲイン制御又は自動ベースライン減算を実施するために、フロントエンドのパラメータを制御するように配置されてもよい。
【0037】
重要なことに、論理回路52は、予想される心臓の周波数で調整されたデジタルバンドパスフィルタ、又は他の適切な処理によって、PPG信号の振幅205を抽出するようにプログラムされている。この値は、励起光源の強度、及び身体の感知された領域に存在する血液の量によって決定される。本発明によれば、PPG信号の振幅は、ラマンデータから分析物濃度の定量を抽出するために使用され、標準化された試料での較正ができないことを回避することができる。論理回路MCUは、G∝IR/IPとして濃度を決定することができ、この式中、IRはラマン信号の強度を表し、IPはPPG信号の強度を表す。
【0038】
ラマン信号の強度IRは、試料中のグルコースの濃度に依存し、一方、PPG信号の振幅は、脈動する血液の分量に関係する。両方の信号が入射ビーム62に由来するので、ラマン信号とPPG信号との間の比IR/IPは、変動する照明及び光伝播からほとんど独立している。
【0039】
一実施形態では、ラマン信号の強度が十分である場合、論理回路52は、IR信号の時間変化を分析し、PPG信号の時間変化と相関がある、又はPPG信号と同じ周波数を有する成分を抽出するようにプログラムされている。このようにして、論理回路は、試料10中の脈動血液画分に含まれるグルコースの寄与分のみを保持し、G∝I’R/IPとして血糖を推定する。この式中、I’Rは、PPG信号と時間的に相関しているか、又は同じ周波数を有するラマン強度の成分を表す。
【0040】
いくつかのデバイスを光検出器41及び42に使用することができる。好ましい実現例では、本発明のデバイスは、CMOSイメージングセンサのピクセルに、主な要素が
図5に模式的に表されている埋込フォトダイオード(PPD)を採用する。それらは、下層のp層151(基準ポテンシャルに接続されていてもよい)とp+埋込み層(pinning layer)153に挟まれたn型の埋設されたポテンシャルウェル領域152を含む。光子誘起キャリアが存在しない空乏状態では、
図6aに示すように、ウェル領域152のポテンシャルは、埋込みポテンシャルと呼ばれる正の値V
pを自発的にとる。転送ゲート領域155は、ゲート154上のポテンシャルV_TGによって高さを制御できるポテンシャル障壁であり、センスノード領域158は、トランジスタ157によって所定の値V
RSTで帯電され、ソースフォロワー160によって読み出されることができるn+領域である。この図及び以下の図では、PPDのp+-n-p構造は、2つの向かい合った従来の接合ダイオードを含むシンボルで示されているが、文献では、このような構造は様々な方法で示されている。
【0041】
重要なことに、そしてフォトダイオード及び他の光検出器とは異なって、PPDは入射光強度に比例した光電流を生成しない。なぜなら、通常の状態では、光電子はn領域152のポテンシャルウェルに集まるからである。光電子は、ゲート電極154に十分なポテンシャルを印加することによって転送ゲート下の障壁が下がるまで、収集領域152に蓄積される。PPDは本質的に集積素子である。PPDの別の利点は、非常に低い暗電流及びショットノイズ、並びに低照度レベルでの優れた性能にある。
【0042】
図6a~
図6dは、このようなピクセルの読み出しに含意される一連の動作を示しており、
図6aは集積段階を示している。このサイクルは、PPDのポテンシャルウェルが空乏状態にあり、バリアV
Bが閉じていて、ゲート電極154が低ポテンシャルになっている状態から始まる。入射する放射線は、ウェルに蓄積される光電子に変換される。
【0043】
図6bは、
図6aの集積の直前又は最中に行われる可能性のあるリセット操作を示しており、トランジスタ157は一瞬導通状態に設定され、それによってセンスノードは決定された正のポテンシャルV
RSTに帯電され、その後は浮いたままとなる。
【0044】
集積段階の終わりに、
図6cに示す転送段階が行われる。転送ゲート電極154に適切な高いポテンシャルを印加することによって、ポテンシャル障壁が一瞬下げられる。光電子は、より低いポテンシャルのセンスノードに移行する。
【0045】
図6dに見える読み出し最終段階では、ポテンシャル障壁が再び上昇し、ソースフォロワーは値V
TRANを感知する。集積電荷値は、Q=(V
TRAN-V
RST)・C
SNであり、この式中、C
SNはセンスノードの容量を表す。
【0046】
好ましくは、ソースフォロワー160は、リセット時のセンスノードのポテンシャルVRST及び転送後のポテンシャルVTRANの相関二重サンプリングを行う。差VTRAN-VRSTは、数値的に求めてもよいし、よりよいのは、専用のアナログ回路によって求めることである。相関関係のある二重サンプリングは、一定のVRST値を除去するだけでなく、フリッカーノイズを低減する。
【0047】
図8は、本発明の範囲内で、連続する2つの相関試料間の差を計算するために使用されてもよいスイッチドキャパシタ回路222の簡略化された回路図を示す。この回路は、同じ値の2つのキャパシタC1、C2を含み、これらのキャパシタC1、C2は、スイッチS1、S2をそれぞれ瞬間的に閉じることによって、入力から別々に帯電することができ、また、スイッチS3を閉じてスイッチS1、S2を開いたままにすることによって、反対の極性で並列に接続することができる。これらのスイッチは、MOSFETで実装してもよいし、その他の方法で実装してもよい。
【0048】
可能な動作シーケンス(ただし、唯一の可能性ではない)では、
図8の二重相関サンプリング回路の入力をピクセルの出力に接続し、そして、リセットスイッチ160が閉じている間に、スイッチS1を閉じて、値V
RSTをキャパシタC1にコピーしてもよい。連続して、上述の集積と転送のフェーズの後、スイッチS2を瞬間的に閉じて、値C
TRANをキャパシタC2にコピーする。S1、S2を開き、S3を閉じることで、キャパシタC1、C2は並列に接続されるが、C1の極性は逆になる。この段階の出力は、(V
TRAN-V
RST)/2である。
【0049】
有利には、二重相関サンプリングステージ222は、ポータブル及びウェアラブルな用途において最も重要である無視できる電力消費で、高速かつ正確な方法でVRST値の減算を実行することができる。本発明のデバイスは、上で例示したように、ピクセルのリセット電圧VRSTを減算するために、あるいはバックグラウンド照明値を減算するために、あるいはデータ処理で必要とされる他の値を減算するために、複数のこのような段階を含んでもよい。本発明のデバイスは、例えば、キャパシタの値を選択して加重減算を行うことや、出力バッファのゲインを1(ユニティ)とは異なるものにすること等、様々な状況で有用である可能性があるいくつかの変更が可能である。
【0050】
図8は、本発明の好ましい実施形態で使用される光検出器デバイスの一部の構造を表している。
図5のピクセルに関して、各ピクセルはここでは、PPDポテンシャルウェルと正電圧源との間に追加のシンク(sink)ゲート194を有している。この追加のシンクゲートにより、電荷をセンスノードに転送することなく、PPDの蓄積ウェルを空にすることができる。これは、例えば、電子グローバルシャッターを実装するために使用されてもよい。
【0051】
図8のデバイスの別の改良点は、複数のPPDが相互に接続されて「マクロピクセル」180を形成することである。マクロピクセルの各セルは、PPDと2つの転送ゲートを有するが、それらはすべて同じセンスノードSNを共有し、ソースフォロワーとリセットトランジスタを共通して有する。マクロピクセルの中の個々のピクセルは、すべてのシンクゲートの制御電極が相互に接続され、転送ゲートのすべての制御電極が相互に接続された状態で配置されており、蓄積ウェルの空化、集積、転送の各フェーズがマクロピクセルのすべてのピクセルにおいて同時に行われるようになっている。これは、複数のピクセルから共有のセンスノードにローリング方式で電荷を転送するアーキテクチャとは異なる。
【0052】
マクロピクセルは、ピクセルの空間的にコンパクトなクラスタ、アレイの行/列、又はアレイ内のピクセルの任意の配列に対応してもよく、それらは、図示のように電気的に接続されていれば、表面上にどのように配置されていても構わない。
【0053】
図8のマクロピクセルの配置が有利なのは、複数の個別のPPDからの光電子が共有のセンスノードに転送され、マクロピクセルが大きな面積を持つ単一の光検出器のように動作するが、PPDの固有の低ノイズ能力を備えているからである。ピクセルは同期して動作するので、集積ウィンドウを時間的に正確に決定することができる。
【0054】
図6eに示す
図6a~6dの動作サイクルの興味深い変形例は、転送ゲート電圧V_TGの値を、ポテンシャル障壁がずっと下がらず、値V
B<V
Pに低下するように適応させることからなる。このようにして、PPDのポテンシャルウェルを一部だけ空にする。これは、V
TRANから一定の値を差し引くことになり、例えば、バックグラウンド照明の値をゼロにするために使用することができる。重要なのは、ポテンシャルウェルに残された電荷は、次の集積の前にシンクトランジスタ194によって放電され、連続するサイクルには影響しないことである。
【0055】
図9は、
図1のラマン検出器41及び/又はPPG検出器42の位置にある、本発明の実現例に適したPPD光検出器の可能な実装を示す。この図は、関連する読み出し及びデジタル化エレクトロニクスの一部も示しており、これらのサブ回路は、光検出器と同じチップに全体的又は部分的に組み込まれてもよい。
【0056】
図9の検出器は、
図7に示すように、マクロピクセルで編成された複数のPPDピクセルを含む。各マクロピクセルは、ピクセルの列に対応してもよく、100,000以上の個々のピクセルを含んでもよいアレイの受光面全体をカバーするように、列と同じ数のマクロピクセルがあってもよい。
covered。
【0057】
マクロピクセルは、各マクロピクセルから電荷を集めて平均化する平均化ステージ44に接続されている。各ピクセルの最初の試料は、スイッチS2及びS3を開き、スイッチS1を閉じることによって、キャパシタCに蓄積される。次に、スイッチS1が開かれ、スイッチS2が閉じられ、第2の試料がキャパシタC'に蓄積される。これらの試料の平均化は、スイッチS3を閉じることで行われる。これにより、すべてのキャパシタC、C’それぞれが並列に接続され、実質的にそれぞれの試料の電荷全体を蓄積する2つの大きなキャパシタになる。このプロセスにより、平均化と複数のサンプリングを無視できる程度の電力消費で行うことができる。
【0058】
キャパシタCに蓄積された電荷は、スイッチS4を瞬間的に閉じることによってサンプル・アンド・ホールド・ステージ45に転送され、ADC51によってデジタル化される。その後、サンプル・アンド・ホールドはSZによってリセットされ、スイッチS%が閉じられてキャパシタC’に蓄積された電荷がサンプリングされてデジタル化される。
【0059】
本発明の回路は、個々のピクセルがローリング方式で別々に読み取られる従来のイメージセンサとは対照的に、(アレイ全体の)マクロピクセルのすべてのピクセルを、一貫したタイミングで同時に読み取り、平均的な照明値を提供することに留意されたい。
【0060】
図9の回路は、リセット電圧V
RSTやバックグラウンド照明値のような基礎値の特定の減算をハードウェアで実装するために、
図7に関連して上述したような二重相関サンプリングステージ、又は機能的に同等のステージを含んでもよい。これにより、ADC51のレートを低減することができる可能性があり、また、
図7の二重サンプリングステージの消費電力は非常に低いため、携帯機器のバッテリ寿命の向上につながる。
【符号の説明】
【0061】
10 不均一な組織
17 標準溶液
41 ラマンフォトセンサ
42 PPGフォトセンサ
44 平均化機構
45 サンプル・アンド・ホールド
51 ADC
52 論理回路、マイクロコントローラ
59 ディスプレイ
60 光源、レーザ
60a ラマンポンプ光源
60b ラマン誘導源
61 照明光学系
62 入射ビーム
66 光パルス
71 集光装置
72 フィルタ、モノクロメータ
102 ラマンスペクトル
105 関心領域
150 ピクセル
151 下層
152 蓄積ウェル
153 埋込み層
154 転送ゲート電極
155 転送チャンネル
157 リセットトランジスタ
158 センスノード
160 ソースフォロワー
180 マクロピクセル
194 シンクトランジスタ
202 PPG信号
205 PPG信号のAC成分の振幅
211 定常ラマン信号
212 時間可変のラマン信号
215 ラマン信号の脈動成分
222 二重相関サンプリングステージ
【国際調査報告】