(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(54)【発明の名称】アフィニティークロマトグラフィーを用いたワクチン用ウイルスの精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/02 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
C12N7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533347
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 KR2019018101
(87)【国際公開番号】W WO2020130672
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0166428
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521253631
【氏名又は名称】エイチケー イノエン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】HK INNO.N CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ジェリム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジナ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ウン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドン エク
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065BD14
4B065CA45
(57)【要約】
本発明は、アフィニティークロマトグラフィーを用いたワクチン用ウイルスの分離及び精製方法に関し、具体的には、ワクチン用ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーを用いて、高純度及び高収率のワクチン用ウイルスを得ることのできる精製方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップを含む、ワクチン用ウイルスの精製方法。
(a)ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムにエンテロウイルス含有試料を装填(loading)するステップ
(b)洗浄溶液で洗浄するステップ
(c)溶出溶液を用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするエンテロウイルスを回収するステップ
【請求項2】
前記樹脂は、前記エンテロウイルスに特異的に結合するように設けられたものである、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記樹脂は、硫酸デキストランを含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項4】
前記樹脂は、ヘパリンを含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項5】
前記(c)ステップの溶出溶液は、塩化ナトリウムを含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項6】
前記(c)ステップは、塩濃度が0.1~0.9Mの範囲の溶出溶液を用いて、前記アフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを回収することを含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項7】
前記(c)ステップは、塩濃度が0.1~0.5Mの範囲の溶出溶液を用いて、前記アフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを回収することを含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項8】
前記(b)ステップの洗浄溶液は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス-塩化水素、2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)、3-morpholinopropane-1-sulfonic acid(MOPS)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム及び(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid(HEPES)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項9】
前記(a)ステップの前に、平衡溶液で前記カラムを平衡化するステップをさらに含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項10】
前記平衡溶液は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス-塩化水素、2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)、3-morpholinopropane-1-sulfonic acid(MOPS)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム及び2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid(HEPES)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含む、請求項9に記載の精製方法。
【請求項11】
前記(a)ステップ及び前記(b)ステップの少なくとも1つのステップの後に、平衡溶液で前記カラムを平衡化するステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項12】
前記(a)ステップ及び前記(b)ステップの少なくとも1つのステップの後に、再平衡溶液で前記カラムを再平衡化するステップをさらに含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項13】
前記試料は、ヒト由来でない宿主細胞から得られたものである、請求項1に記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフィニティークロマトグラフィーを用いたワクチン用ウイルスの分離及び精製方法に関し、具体的には、ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーを用いて、高純度及び高収率のワクチン用ウイルスを得ることのできる、ウイルスの分離及び精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト由来でない他種由来の細胞を宿主細胞として用いて培養したワクチン用ウイルスは、宿主由来物質の除去を必要とする。宿主由来物質の除去のために、従来技術においては、ショ糖密度勾配遠心分離法、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどが用いられていた。これらの方法は、ウイルス精製において通常用いられる方法であり、ウイルスの種類に関係なく容易に適用することができるので、アフィニティークロマトグラフィーより多く用いられている。
【0003】
最も古くから用いられている方法であるショ糖密度勾配遠心分離法は、ショ糖により生じた密度差を用いてウイルスを精製する方法であり、別途の工程研究が必要なく、研究初期段階で最も多く用いられる方法である。この方法を産業的生産段階に適用するためには高価な装置が別途に必要であり、ショ糖を除去するための透析工程やサイズ排除クロマトグラフィーなどの工程を追加しなければならないので総工程時間が長くなるという欠点がある。また、ショ糖の粘度と高浸透圧がウイルスの感染性タンパク質に影響を与え、全工程のウイルス収率が低くなるという研究も報告されている(非特許文献1)。
【0004】
サイズ排除クロマトグラフィー方法はタンパク質の変性や浸透圧による影響などがない方法であり、先行技術文献(特許文献1,2)においては、サイズ排除クロマトグラフィー方法による手足口病不活性化ワクチンの製造について開示している。しかし、サイズ排除クロマトグラフィー方法は、前処理工程として過度な濃縮過程を伴うので、前記濃縮過程によりウイルスの構造が変化したり、工程の追加により収率が低下するという欠点がある。また、サイズ排除クロマトグラフィー方法は、規模拡大に制限があるので、研究段階に適用するのは比較的容易であるが、産業的に大量生産する規模に適用するには限界がある。
【0005】
ウイルス試料の体積に関係なく用いることのできるイオン交換クロマトグラフィーを用いた研究も行われている(特許文献1,非特許文献2)。ほとんどの研究は、DEAEなどの電荷を帯びた樹脂にウイルスを吸着させ、その後塩濃度が高いバッファーで溶出させる方法を用いている。しかし、イオン交換クロマトグラフィーを用いるためには、試料の塩濃度を低くするための透析工程が必要であるが、工程の追加により収率が低下するという欠点がある。また、ウイルスは1つのタンパク質で構成されているのではなく、各種タンパク質が構造をなし、様々な電荷を帯びているので、ウイルス溶出条件を決定する工程研究が必要である。さらに、ウイルスに類似した電荷を帯びた不純物が共に溶出されるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許第101695570号明細書
【特許文献2】中国特許第101780278号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Peng HH et al.(2006) Anal Biochem, 354(1):140-147
【非特許文献2】Ashok Raj Kattur Venkatachalam et al.(2014) Virology Journal, 11:99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした背景の下、本発明者らは、純度及び収率が高いワクチン用ウイルスを精製する方法を見出すべく努力した結果、アフィニティークロマトグラフィーを用いて高純度及び高収率のワクチン用ウイルスを得ることのできる精製方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムにワクチン用ウイルス含有試料を装填(loading)するステップと、(b)洗浄溶液で洗浄するステップと、(c)溶出溶液を用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを回収するステップとを含む、ワクチン用ウイルスの精製方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記精製方法により精製したワクチン用ウイルスを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による精製方法によれば、目的とするワクチン用ウイルス以外の他の不純物をほとんど除去することができ、大量生産に適用することができ、高い純度及び収率でワクチン用ウイルスを精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の精製方法の実行手順を示す図である。
【
図2】硫酸デキストランを含むCapto
TM DeVirS樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図3】硫酸デキストランを含むCapto
TM DeVirS樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図4】ヘパリンを含むHiTrap Heparin樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図5】ヘパリンを含むHiTrap Heparin樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図6】Fractogel DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図7】Fractogel DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図8】Fractogel TMAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図9】Fractogel TMAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図10】CIM DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【
図11】CIM DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0015】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本明細書に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0016】
図1は本発明の精製方法の実行手順の一例を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の一態様は、(a)ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムにワクチン用ウイルス含有試料を装填(loading)するステップと、(b)洗浄溶液で洗浄するステップと、(c)溶出溶液を用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを回収するステップとを含む、ワクチン用ウイルスの精製方法を提供する。
【0018】
以下、前記ワクチン用ウイルスの精製方法の各ステップについて具体的に説明する。まず、(a)ステップは、ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムにワクチン用ウイルス含有試料を装填(loading)するステップである。
【0019】
前記ワクチン用ウイルス含有試料は、ワクチン用ウイルスを含有するものであれば、物質や製造方法が限定されるものではない。具体的には、前記ワクチン用ウイルス含有試料にはエンテロウイルスが含まれるが、これに限定されるものではない。前記試料は、ヒト由来でない宿主細胞から得られたものであるが、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明における「アフィニティークロマトグラフィー」とは、特定タンパク質との親和性により結合する物質を用いるクロマトグラフィー法を意味する。特定タンパク質との親和性により結合する物質は、官能基(functional group)が高分子物質に結合したものであり、極性又は非極性溶液中に溶解している親和性のある物質に結合する。
【0021】
本発明の目的上、前記アフィニティークロマトグラフィーは、ワクチン用ウイルス親和性樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーであってもよい。具体的には、ワクチン用ウイルスタンパク質に特異的に結合する樹脂を用いてクロマトグラフィーを行うことができる。例えば、ワクチン用ウイルス親和性樹脂には、硫酸デキストラン、ヘパリン及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つが含まれてもよい。例えば、CaptoTM DeVirS(GE Healthcare)、HiTrap Heparin(GE Healthcare)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ワクチン用ウイルスタンパク質に特異的に結合する樹脂であればいかなるものでもよい。
【0022】
例えば、前記CaptoTM DeVirS樹脂は硫酸デキストラン(Dextran Sulfate)を含み、HiTrap Heparin樹脂はヘパリンを含むので、ワクチン用ウイルスタンパク質に特異的に結合することができる。
【0023】
一具体例として、前記(a)ステップのワクチン用ウイルス含有試料の装填前に、pH7.5~pH8.0の平衡溶液でカラムを平衡化するものであってもよい。前記平衡溶液は、具体的には、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス-塩化水素、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropane-1-sulfonic acid)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム及びHEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0024】
一具体例として、前記方法は、前記(a)ステップの前に、イオン交換クロマトグラフィー、濃縮及び/又は透析ステップをさらに含んでもよい。これは、ワクチン用ウイルス含有試料の1次的な不純物を除去して試料の純度を高めるためのものである。具体的には、前記(a)ステップの前に、ワクチン用ウイルス含有試料の濃縮及び透析を行い、イオン交換クロマトグラフィーで精製するステップを予め行い、その後親和性樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーカラムに装填(loading)するようにしてもよい。親和性樹脂に結合しない1次的な不純物を除去し、試料の純度を高めるための作業であれば、いかなるものでもよい。
【0025】
一具体例として、前記アフィニティークロマトグラフィーを用いたワクチン用ウイルスの精製方法は、アフィニティークロマトグラフィーの前に、別途の濃縮又は透析工程を行わない方法であってもよい。この場合、工程が簡単であり、かつ収率及び純度の高い結果が得られる。
【0026】
前記ワクチン用ウイルスの精製方法における(b)ステップは、洗浄溶液で洗浄するステップであり、試料が装填されたクロマトグラフィーカラムに洗浄溶液を適用するステップである。
【0027】
前記洗浄溶液は、pH7.5~pH8.0の範囲であってもよい。具体的には、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropane-1-sulfonic acid)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム及びHEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の目的上、(b)ステップにおいては、洗浄溶液によりワクチン用ウイルス親和性樹脂に非特異的に結合した不純物が除去される。
【0029】
一具体例として、前記精製方法は、(a)又は(b)ステップの後に、平衡溶液で樹脂と親和性のない不純物を排出するステップをさらに含んでもよい。前記ステップは、具体的には、1回以上行うことができ、一般に、平衡になるまで制限なく行うことができる。
【0030】
一具体例として、前記精製方法は、前記(a)又は(b)ステップの後に、再平衡溶液で再平衡化するステップをさらに含んでもよい。前記再平衡溶液は、洗浄ステップと溶出ステップ間で、いかなる反応も起こさず、目的とするワクチン用ウイルスが溶出されない(a)ステップの平衡溶液と同じ条件で溶液を流した後、再び溶出溶液を流す前に流して洗浄溶液と溶出溶液間をブリッジングする役割を果たす。
【0031】
具体的には、前記再平衡溶液は、pH7.5~pH8.0の範囲であってもよい。また、具体的には、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス-塩化水素、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropane-1-sulfonic acid)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム、HEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0032】
前記ウイルスの精製方法における(c)ステップは、溶出溶液を用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを回収するステップである。
【0033】
前記溶出溶液は、pH7.5~pH8.0の範囲であってもよい。具体的には、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、トリス-塩化水素、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropane-1-sulfonic acid)、PIPES、リン酸カリウム、塩化カリウム及びHEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid)からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、前記溶出溶液は、0.1M~0.5Mの塩化ナトリウムを含むものであってもよいが、アフィニティークロマトグラフィーカラムから目的とするワクチン用ウイルスを分離させることのできる塩であれば、いかなる濃度のものが用いられてもよい。
【0035】
本発明の精製方法により分離される、目的とするワクチン用ウイルスとは、純度が88%以上のものを意味し、具体的には、純度90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上又は98%以上であるが、これらに限定されるものではない。前記「純度」とは、不純物が除去された純粋なワクチン用ウイルスの度合いを意味するものであり、例えば純度が92%であれば、残りの8%が不純物であることを意味する。また、純度は、単に溶出溶液から分離された物質の純度を表すものであるが、装填した試料の純度が何%であるかにより最終純度の値が変化することがある。
【0036】
前記「不純物」とは、目的とするワクチン用ウイルス以外のあらゆる物質が含まれ、例えば宿主由来のDNA、宿主由来のタンパク質、内毒素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、前記ワクチン用ウイルスの純度は、溶出溶液の総蛋白量から宿主由来の不純物を特異的に測定できるように設けられたELISA(enzyme-linked immunosorbentassay)法により分析することができるが、これに限定されるものではなく、CEX-HPLCやSEC-HPLCなどを用いて分析することができることは言うまでもない。
【0038】
本発明における前記ウイルスは、エンテロウイルスであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の精製方法で精製されたワクチン用ウイルスは、ワクチン又は免疫原性組成物として用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の他の態様は、前記精製方法により精製したワクチン用ウイルスを提供する。前記ワクチン用ウイルスは、ワクチン又は免疫原性組成物として用いられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を示す。しかし、これらの実施例は本発明の理解を容易にするためのものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
硫酸デキストランを含むCaptoTM DeVirS樹脂を用いた精製
実施例1においては、硫酸デキストランリガンドを含むCapto DeVirS樹脂を用いてワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認した。
【0043】
平衡溶液及び洗浄溶液として20mMリン酸ナトリウムpH7.5バッファーを用い(0M塩化ナトリウム)、溶出溶液として平衡溶液の塩化ナトリウムが2MになるようにpH7.5バッファーで調製して用いた。
【0044】
まず、エンテロウイルスを含むワクチン用ウイルス含有試料をカラムに装填し、その後洗浄溶液を流して洗浄を行った。次に、0~2M塩化ナトリウムの溶出溶液を直線濃度勾配で流して溶出した液を回収し、ワクチン用ウイルス含有量をTCID50で測定して不純物含有量を求めた。
【0045】
図2及び
図3は硫酸デキストランを含むCapto
TM DeVirS樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【0046】
図2及び
図3に示すように、装填した試料とFlow through(F/T)の不純物量から、多量の不純物が除去されることが確認され、装填した試料のウイルス含有量に対するFlow through(F/T)のウイルス含有量から、ワクチン用ウイルスが損失することなく、ほとんどのワクチン用ウイルスが精製されることが確認された。
【0047】
一方、溶出溶液の塩化ナトリウム濃度を0Mから2Mに増加して各分画を採取した結果、塩濃度が0.1~0.9Mの範囲、好ましくは塩濃度が0.1~0.5Mの範囲の分画を採取したときに、多量の不純物が除去されると共に、ワクチン用ウイルスが損失することなく、ほとんどのワクチン用ウイルスが精製されることが確認された。
【0048】
例えば、塩濃度が0.1~0.5Mの範囲の分画3、4を採取したときに、ワクチン用ウイルスが約81.1%回収され、その際の不純物の除去率が約97.7%であったので、他の分画と比べて不純物の含有量が非常に低いことが確認された。
【0049】
実施例2
ヘパリンを含むHiTrap Heparin樹脂を用いた精製
実施例2においては、ヘパリンリガンドを含むHiTrap Heparin樹脂を用いてワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認した。
【0050】
平衡溶液及び洗浄溶液として50mMトリス-HCl pH8.0バッファーを用い、溶出溶液として平衡溶液の塩化ナトリウムが2Mになるように調製して用いた。
【0051】
まず、エンテロウイルスを含むワクチン用ウイルス含有試料をカラムに装填し、その後洗浄溶液を流して洗浄を行った。次に、0~2M塩化ナトリウムの溶出溶液を直線濃度勾配で流して溶出した液を回収し、ワクチン用ウイルス含有量をTCID50で測定して不純物含有量を求めた。
【0052】
図4及び
図5はヘパリンを含むHiTrap Heparin樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【0053】
図4及び
図5に示すように、装填した試料の不純物量とFlow through(F/T)の不純物量を比較して、装填した試料から多量の不純物が除去されることが確認された。また、装填した試料に含まれるウイルス量とFlow through(F/T)に含まれるウイルス量を比較して、ワクチン用ウイルスが損失することなく、ほとんどのワクチン用ウイルスが精製されることが確認された。
【0054】
一方、溶出溶液の塩化ナトリウム濃度を0Mから2Mに増加して各分画を採取した。その結果、塩濃度が0.1~0.9Mの範囲、好ましくは塩濃度が0.1~0.5Mの範囲、最も好ましくは塩濃度が0.1~0.3Mの範囲の分画を採取したときに、多量の不純物が除去されると共に、ワクチン用ウイルスが損失することなく、ほとんどのワクチン用ウイルスが精製されることが確認された。
【0055】
例えば、塩濃度0.1~0.5Mの範囲の分画4~7を採取したときに、ワクチン用ウイルスが約85.4%回収され、その際の不純物の除去率が92.0%であることが確認された。
【0056】
比較例1.Fractogel DEAE樹脂を用いた精製
比較例1においては、DEAE(Diethylaminoethyl)を含むFractogel DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認した。
【0057】
平衡溶液及び洗浄溶液として50mMトリス-HCl pH8.0バッファーを用い、溶出溶液として平衡溶液の塩化ナトリウムが2Mになるように調製して用いた。
【0058】
まず、エンテロウイルスを含むワクチン用ウイルス含有試料をカラムに装填し、その後洗浄溶液を流して洗浄を行った。次に、溶出溶液を直線濃度勾配で流して溶出した液を回収し、ワクチン用ウイルス含有量をTCID50で測定して不純物含有量を求めた。
【0059】
図6及び
図7はFractogel DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【0060】
図6及び
図7に示すように、塩濃度を高くして各分画を採取したときに、特定塩濃度の分画11において、ワクチン用ウイルスが約25.7%回収され、その際の不純物除去率が51.3%であった。すなわち、他の分画と比べてワクチン用ウイルスの回収率が相対的に高い分画において、不純物の含有量が非常に高いことが確認された。
【0061】
比較例2.Fractogel TMAE樹脂を用いた精製
比較例2においては、TMAE(Trimethylammoniumethyl)を含むFractogel TMAE樹脂を用いてワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認した。
【0062】
平衡溶液及び洗浄溶液として50mMトリス-HCl pH8.0バッファーを用い、溶出溶液として平衡溶液の塩化ナトリウムが2Mになるように調製して用いた。
【0063】
まず、エンテロウイルスを含むワクチン用ウイルス含有試料をカラムに装填し、その後洗浄溶液を流して洗浄を行った。次に、溶出溶液を直線濃度勾配で流して溶出した液を回収し、ワクチン用ウイルス含有量をTCID50で測定して不純物含有量を求めた。
【0064】
図8及び
図9はFractogel TMAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【0065】
図8及び
図9に示すように、塩濃度を高くして各分画を溶出したときに、特定分画(分画5)において、ワクチン用ウイルスが約20.5%回収され、その際の不純物除去率が89.2%であることが確認された。
【0066】
比較例3.CIM DEAE樹脂を用いた精製
比較例3においては、DEAEで構成されたディスク状の単一体を用いてワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認した。
【0067】
平衡溶液及び洗浄溶液として50mMトリス-HCl pH8.0バッファーを用い、溶出溶液として平衡溶液の塩化ナトリウムが2Mになるように調製して用いた。
【0068】
まず、エンテロウイルスを含むワクチン用ウイルス含有試料をカラムに装填し、その後洗浄溶液を流して洗浄を行った。平衡溶液と溶出溶液を所定の割合で混ぜ、塩化ナトリウムの濃度がそれぞれ100mM、140mM、200mM、400mM及び600mMになるように段階濃度勾配で流して溶出した液を回収し、ワクチン用ウイルス含有量をTCID50で測定した。
【0069】
図10及び
図11はCIM DEAE樹脂を用いてワクチン用ウイルスを精製した結果を示す図である。
【0070】
図10及び
図11に示すように、塩濃度を高くして各分画を溶出したときに、140mMの塩濃度において、ワクチン用ウイルスが約34.2%回収されることが確認され、工程中に圧力が非常に高くなるため実際の工程に適用するには困難があることが確認された。
【0071】
実施例1、2及び比較例1~3の方法及び結果を表1にまとめた。
【0072】
【0073】
前記結果は、本発明のアフィニティークロマトグラフィーを用いたワクチン用ウイルスの精製方法が、従来のイオン交換クロマトグラフィーを用いた精製方法に比べて、不純物除去率が高く、高い収率で目的とするワクチン用ウイルスを分離できることを示唆するものである。
【0074】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。例えば、実施例1及び2においては、それぞれ硫酸デキストランを含む樹脂及びヘパリンを含む樹脂を例に挙げて、ワクチン用ウイルス精製収率及び不純物除去率を確認したが、実施例に従って硫酸デキストランとヘパリンを所定の割合で混合した樹脂を用いてもよいことは言うまでもない。
【0075】
本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【国際調査報告】