(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ASPH発現腫瘍の成長および進行の阻害
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220127BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220127BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220127BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220127BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220127BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220127BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220127BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220127BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220127BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20220127BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220127BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20220127BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220127BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220127BHJP
C12N 15/70 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K38/16
A61P35/02
A61K39/395 U
A61P35/04
A61P43/00 107
A61K48/00
A61K35/15
A61K45/06
C12N9/02 ZNA
C07K16/28
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/53
C12N15/70 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533435
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 US2019066174
(87)【国際公開番号】W WO2020123912
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500430718
【氏名又は名称】ロード アイランド ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワンズ ジャック アール.
(72)【発明者】
【氏名】ドン シャオクン
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC10
4B050DD07
4B050LL01
4C084AA01
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4C087BB44
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4H045AA11
4H045AA30
4H045BA15
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4H045CA40
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
対象の腫瘍を処置するための、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤とを含有する、対象における免疫治療のための組成物および方法が記載され、ここで、腫瘍は、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、組成物は、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する。活性構成要素としての前記組成物と薬学的に許容される担体とを含有する薬学的組成物、および精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤とを含有するコンビナトリアル組成物も記載され、腫瘍は、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトの逐次投与および/または同時投与を含む、対象における腫瘍を処置するための免疫治療のための組成物であって、
該組成物が、精製腫瘍抗原および免疫チェックポイント阻害剤を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、対象における腫瘍を処置するためのチェックポイント阻害剤、該組成物が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記組成物。
【請求項2】
抗原が、アスパラギン酸ベータ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)またはその抗原フラグメントである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:47)を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:49)を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項8】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項9】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであり、樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
チェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)阻害剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
PD-1阻害剤が抗プログラム死リガンド1(PD-L1)モノクローナル抗体である、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減する、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
内在性免疫系を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
分化抗原群8(CD8)
+細胞の活性化、分化抗原群4(CD4)
+細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
対象における腫瘍を処置するための免疫治療方法であって、
該方法が、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトを対象に投与する工程、およびチェックポイント阻害剤を投与する工程を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、該方法が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記方法。
【請求項21】
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項22記載の方法。
【請求項26】
精製ASPH抗原が、
のHLAクラスII拘束性配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項27】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項28】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項20記載の方法。
【請求項29】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項20記載の方法。
【請求項31】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
免疫化が、予防的免疫化および追加免疫化を含む、請求項20記載の方法。
【請求項35】
予防的免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
追加免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、請求項34記載の方法。
【請求項37】
チェックポイント阻害剤が、ワクチンコンストラクトと同時におよび/または逐次的に投与される、請求項20記載の方法。
【請求項38】
チェックポイント阻害剤が、5週間または6週間、週に2回、ワクチンと同時におよび/または逐次的に投与される、請求項20記載の方法。
【請求項39】
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、請求項20記載の方法。
【請求項40】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項20記載の方法。
【請求項41】
腫瘍が、肝細胞がん、胆管がん、非小細胞肺がん、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、胃がん、膵がん、食道がん、軟部組織がん、肉腫、骨肉腫、大腸がん、腎がん、骨髄性白血病、前立腺がん、膠芽腫、およびリンパ性白血病から選択される、請求項20記載の方法。
【請求項42】
腫瘍が肝細胞がんである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減することと関連する、請求項20記載の方法。
【請求項44】
内在性免疫系を刺激することと関連する、請求項20記載の方法。
【請求項45】
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成と関連する、請求項20記載の方法。
【請求項46】
CD8
+細胞の活性化、CD4
+細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化と関連する、請求項20記載の方法。
【請求項47】
活性構成要素としての請求項1~19のいずれか一項記載の組成物と薬学的に許容される担体とを含む、請求項20~46のいずれか一項記載の方法のための薬学的組成物。
【請求項48】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤とを含む、コンビナトリアル組成物であって、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられている、前記組成物。
【請求項49】
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、請求項48記載の組成物。
【請求項50】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項49記載の組成物。
【請求項51】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、請求項50記載の組成物。
【請求項52】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、請求項50記載の組成物。
【請求項53】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項50記載の組成物。
【請求項54】
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、請求項50記載の組成物。
【請求項55】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項50記載の組成物。
【請求項56】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項48記載の組成物。
【請求項57】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項56記載の組成物。
【請求項58】
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項48記載の組成物。
【請求項59】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項58記載の組成物。
【請求項60】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項58記載の組成物。
【請求項61】
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、請求項58記載の組成物。
【請求項62】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤とを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における転移を阻害するための免疫治療方法。
【請求項63】
ワクチンが、皮内経路、皮下経路、鼻腔内経路、筋肉内経路、腫瘍内経路、節内経路、リンパ管内経路、静脈内経路、胃内経路、腹腔内経路、腟内経路、膀胱内経路、または経皮経路によって投与される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーターとを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における原発性腫瘍の成長を阻害するための免疫治療方法。
【請求項65】
免疫モジュレーターがチェックポイント阻害剤を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
低い遺伝子変異量が、0.001から≦1の体細胞変異/メガベースを含む、請求項19記載の組成物。
【請求項67】
請求項1記載の組成物を対象に投与する工程を含む、対象における腫瘍の成長を阻害するためまたは対象における腫瘍の転移を阻害するための方法。
【請求項68】
対象への組成物の投与が、対象における腫瘍成長または腫瘍転移の相乗的阻害を生じる、請求項67記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、35U.S.C.第119条(e)に基づき、2018年12月13日に出願された米国仮出願第62/779,422号の恩典を主張し、この米国仮出願の全内容は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表の参照による組入れ
2019年11月11日に作成されたサイズ24,576バイトの配列表テキストファイル「21486-642001WO_Sequence_Listing_ST25.txt」の内容は、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、がんを処置するための免疫治療に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
膜貫通型がん胎児性タンパク質であり腫瘍関連抗原(tumor associated antigen)(TAA)であるアスパルチルアスパラギニルβ-ヒドロキシラーゼ(Aspartyl asparaginyl β-hydroxylase)(ASPH)は、多くのタイプの悪性細胞上に現れるが、成人では(胎盤を除き)正常細胞には現れない。固形腫瘍のおよそ80%は、腫瘍細胞の増殖、生存、遊走、侵襲、幹細胞性および転移に必要ながん遺伝子であるASPHを(隣接する正常組織と比較して)過剰発現する。がん治療の分野は長足の進歩を遂げてきたが、これらの破壊的疾患に現在利用することができる効果的なアプローチは少ない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、腫瘍の発生、成長、再燃および進行ならびに身体の他の部位および器官への転移拡散の予期せぬ劇的な阻害を達成するための方法を提供することにより、がん治療の積年の課題に対する解決策を提供する。比較的低い腫瘍遺伝子変異量(tumor mutation burden:TMB)(場合に応じて比較的「高い」と見なされる>1、10、100または>100体細胞変異/メガベースと比較して、例えば0.001~≦1体細胞変異/メガベースを保因するもの)または比較的低頻度のネオアンチゲン発現を特徴とする特定クラスの腫瘍の具体的に定義された精製腫瘍抗原(例えばASPHのN末端ペプチド(表4のSEQ ID NO:47))を発現するラムダファージ1)に対する抗原特異的免疫応答は、免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤を含む)の逐次投与または同時投与によって、著しく増幅させることができる。例えば低TMBは、高TMBとの対比で、例えば>1、10、100または>100体細胞変異/メガベース(高TMB)と比べて、0.001~≦1体細胞変異/メガベース(低TMB)である。
【0006】
投与とは、化合物または組成物を、個別に、または(2種以上の化合物または剤を)組み合わせて、同時にまたは逐次的に投与することを包含するものとする。例えば精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトは、チェックポイント阻害剤と同時に投与されうる。
【0007】
別の例では、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトが、チェックポイント阻害剤に対して逐次的に投与されうる。「逐次」投与とは、2タイプの剤(例えば精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤)の投与の間の秒単位、分単位、時間単位または日単位の時間差を意味する。これらの剤は任意の順序で投与されうる。
【0008】
本発明は、血液悪性疾患(白血病など)およびさまざまな固形腫瘍、例えば肝臓、膵臓、胃、食道、結腸、直腸、胆管、胆嚢、軟部組織(例えば肉腫)、中枢神経系(例えば多形性神経膠芽腫)、頭頸部(例えば扁平細胞)、骨(骨肉腫)、軟骨(軟骨肉腫)、肺(例えば非小細胞)、尿生殖路(例えば腎臓、卵巣、子宮頸部)、前立腺および乳房(トリプルネガティブを含む)から派生する悪性疾患の処置に、幅広く応用される。いくつかの態様において、本方法は、黒色腫および小細胞肺がんなど、ネオアンチゲンの生成を生じる比較的高頻度の腫瘍特異的DNA変化または比較的高いTMB(場合に応じて比較的「低い」と見なされる1体細胞変異/メガベースと比較して、例えば>100体細胞変異/メガベースを保因するもの)を特徴とする腫瘍クラスの処置を含まない。
【0009】
これらの方法は、ヒト固形腫瘍の大部分において過剰発現される単一の化学的に定義された膜貫通抗原、例えばASPHに対する免疫応答を刺激する。続いて、例えばファージ、樹状細胞、DNAベース、RNAベース、染色体外DNA(ecDNA)ベース、およびペプチドベースの製剤など、さまざまなワクチンモダリティで抗原特異的なB細胞免疫応答およびT細胞免疫応答を生成させると、免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤を含む)によって、驚くべきレベルの増幅が起こる。本明細書記載の方法の利点としては、特異的で明確に定義された抗原配列、例えば完全長ASPHまたはASPHの選択的スプライシングバリアント、例えばASPHのN末端および/またはC末端エピトープの正確なターゲティングゆえに、有害副作用がほとんどまたは全くないこと、および免疫チェックポイント(例えばPD-1、PD-L1)阻害剤の使用量が有意に低減されることが挙げられる。
【0010】
したがって本発明は、対象の腫瘍を処置するための、精製腫瘍関連抗原(およびその誘導体)に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤など)とを同時にまたは逐次的に含む、対象における免疫治療のための組成物および方法を特徴とし、本組成物は、対象における自己免疫を誘導することなく、抗原特異的な抗腫瘍適応免疫応答を増強する。好ましくは腫瘍は、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられる。例えば、YarchoanらならびにSchumacherおよびSchreiberは、膵がんおよび肝細胞がん(HCC)に見られるような、比較的低頻度の、ネオアンチゲンを作り出すTMBの定量を記載している(例えばYarchoan et al.,Nat. Rev. Cancer. 2017 Apr;17(4):209-222. Epub 2017 Feb 24、Schumacher and Schreiber,Science 2015 Apr 3;348(6230):69-74参照、これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。しかし、膵がんとHCCはどちらも、腫瘍細胞上に極めて高レベルのASPH発現を有し、正常細胞にはそれがない。加えて、非小細胞肺がんには比較的高頻度のネオアンチゲン生成が認められ、これはASPHも高度に発現する。したがって、下記表1に記載するように大半の固形腫瘍において、ASPH発現はネオアンチゲン生成またはTMBとほとんど関連しない。
【0011】
例えば精製抗原、例えば単一の化学的に定義された抗原は、アスパラギン酸ベータ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)またはその抗原フラグメントおよびそれらの誘導体(例えば選択的スプライシングバリアント、切断型、変異体、融合物または翻訳後修飾物)である。例えばワクチンコンストラクトは精製ASPH抗原およびその誘導体を発現する。精製ASPH抗原およびその誘導体は、例えば成熟完全長抗原(SEQ ID NO:46)ならびに精製N末端ASPHペプチド、好ましくはASPHタンパク質配列の最初の三分の一(例えばSEQ ID NO:47)または精製C末端ASPHペプチド、好ましくはASPHペプチド配列の最後の三分の一(例えばSEQ ID NO:48)を含む。例示的な抗原は、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチド、例えば、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列、またはYPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む。
【0012】
いくつかの態様において、ワクチンコンストラクトは、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む。例えばファージワクチンはラムダファージベースのワクチンであり、樹状細胞ワクチンは単離されたASPH(およびその誘導体)が負荷された(例えばインキュベートまたはトランスフェクトされた)樹状細胞を含む。
【0013】
本組成物および方法は、例えばプログラム細胞死タンパク質1(Programmed cell death protein-1)(PD-1)シグナルの遮断または阻害を果たすための免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤を含む)も包含し、例えばPD-1シグナル遮断は、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物を包含する。いくつかの例において、PD-1シグナル遮断は、抗PD-1モノクローナル抗体または抗プログラム死リガンド1(Programmed death-ligand 1)(PD-L1)モノクローナル抗体または抗プログラム死リガンド2(PD-L2)モノクローナル抗体を使って果たされる。
【0014】
本組成物は、腫瘍の発生、成長、再燃/再発、進行、もしくは異なる部位/器官への転移拡散、またはそれらの組合せを低減する。本組成物は、内在性適応(細胞性および体液性)免疫系も刺激する。例えば本組成物は、ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、もしくはそれらの組合せの生成を刺激し、および/または分化抗原群(cluster of differentiation)8(CD8)+細胞の活性化、分化抗原群4(CD4)+細胞の活性化、成熟樹状細胞の活性化、もしくはそれらの組合せの活性化を刺激する。
【0015】
上述のとおり、腫瘍は、比較的低いTMBまたは比較的低いネオアンチゲン量を有するがんである。例えば、ネオアンチゲンを生成するASPH中の変異の頻度は比較的低い、すなわちまれである(例えば0.001~≦1体細胞変異/メガベースを保因する)。被検対象からの試料中のTMBは、がんの状態が既知である1つまたは複数の細胞のリファレンス試料におけるTMBと比較される。被検試料が陽性と記録されるかどうかを決定するための閾は、所望する感度または特異度に応じて変更することができる。
【0016】
本明細書において使用される用語「ネオアンチゲン」は、その抗原を対応する野生型の親抗原とは異なるものにする少なくとも1つの変化を有する、腫瘍特異的な変異遺伝子によってコードされる抗原である。腫瘍特異抗原(TSA)に属する腫瘍ネオアンチゲンは、腫瘍細胞の表面上にディスプレイされ、主要組織適合性(MHC)複合体との関連においてネオアンチゲン特異的T細胞受容体(TCR)によって特異的に認識される、ペプチドのレパトアである。例えば抗原はタンパク質であり、ネオアンチゲンは腫瘍細胞中の変異または腫瘍細胞に特異的な翻訳後修飾によって生じるものである。ネオアンチゲンはポリペプチド配列またはヌクレオチド配列を含むことができる。変異は、フレームシフトインデルもしくは非フレームシフトインデル、ミスセンス置換もしくはナンセンス置換、スプライス部位変化、ゲノム再配列またはゲノム融合、構造バリアント、またはネオORF(neoORF)を生じる任意のゲノム変化または発現変化を含むことができる。変異は、選択的スプライシングによって引き起こされるスプライスバリアント(例えばエクソンスキッピング)も含むことができる。本明細書において使用される用語「腫瘍ネオアンチゲン」は、対象の腫瘍細胞または腫瘍組織には存在するが、その対象の対応する正常細胞または正常組織には存在しない、ネオアンチゲンである。諸態様において、本明細書で使用される用語「ネオアンチゲンベースのワクチン」は、1つまたは複数のネオアンチゲン、例えば複数のネオアンチゲンに基づくワクチンコンストラクトである。
【0017】
また、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤を含む)とを対象に同時にまたは逐次的に投与する工程を含む、対象の腫瘍を処置する免疫治療方法も、本発明内であり、ここで、腫瘍は、比較的低頻度のネオアンチゲン発現または比較的低頻度のTMBを含むと特徴づけられている。例えば免疫チェックポイント阻害剤(例えば上述のようにPD-1、PD-L1またはPD-L2の阻害剤)は、腫瘍抗原ワクチン(ファージワクチン、樹状細胞ワクチン、または対象の抗原、例えば精製ASPHまたはその抗原性フラグメントもしくはそれらの誘導体を含有する他のワクチン製剤)の投与と一緒に、例えば同時に、またはその前に、またはその後に、例えば逐次的に、投与される。本方法は、対象における自己免疫を誘導することなく、抗腫瘍免疫応答を増強する。例えばワクチンコンストラクトは、精製N末端ASPHペプチドまたは精製C末端ASPHペプチドなどの精製ASPH抗原を発現する。例示的なペプチドは上述のとおりであり、配列は下記表4に掲載する。
【0018】
本方法は、予防的免疫化および1回または複数回の追加免疫化を包含する。例えば予防的免疫化は、ワクチンコンストラクトを、1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む。追加免疫化は、ワクチンコンストラクトを、1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む。免疫チェックポイント阻害剤は、ワクチンコンストラクトと同時に投与されるか、ワクチンコンストラクトの後に投与され、例えばチェックポイント阻害剤は5週または6週にわたって週に2回投与される。さらにまた、その後、長期ブースターは3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月ごとに1回の免疫化も含みうる。
【0019】
処置される腫瘍クラスは上述のとおりであり、好ましくは、肝細胞がん(HCC)、胆管がん、非小細胞肺がん、(トリプルネガティブ)乳がん、胃がん、膵がん、食道がん、胆嚢がん、軟部組織肉腫(脂肪肉腫など)、骨肉腫、軟骨肉腫、結腸直腸がん、腎がん、頭頸部扁平上皮がん、骨髄性またはリンパ性白血病、尿生殖路(例えば子宮頸)がん、卵巣がん、甲状腺がん、前立腺がん、頭頸部がん、および多形性神経膠芽腫などの固形腫瘍である。例えば腫瘍はHCCである。
【0020】
本方法は、腫瘍の発生、成長、再発/再燃、進行、もしくは異なる部位/器官への転移拡散、またはそれらの組合せを低減することと関連する。例えば本方法は、内在性適応(細胞性および体液性)免疫系を、例えばASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成を介して刺激することにより、前述の抗腫瘍効果を達成する。より具体的に述べると、本方法は、CD8+細胞の活性化、CD4+細胞の活性化、成熟樹状細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化と関連する。
【0021】
また、活性構成要素として、対象の腫瘍を処置するための、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトおよび免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤など)と、薬学的に許容される担体とを含む、対象における免疫治療のための薬学的組成物であって、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する組成物も、本発明内である。
【0022】
本発明の別の一局面には、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤を同時にまたは逐次的に含む、コンビナトリアル組成物が含まれる。好ましくは腫瘍は、好ましくは比較的低頻度のTMBまたはネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられる。精製腫瘍抗原、例えば単一の化学的に定義された抗原は、例えばアスパラギン酸ベータ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)またはその抗原フラグメントおよびそれらの誘導体である。例えばワクチンコンストラクトは、成熟完全長抗原、精製N末端ASPHペプチドまたは精製C末端ASPHペプチドを含む精製ASPH抗原を発現する。精製ASPH抗原の例として、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチド、例えば、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列、またはYPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列が挙げられる。
【0023】
免疫チェックポイントは対象の免疫系に固有の共刺激要素および抑制要素を含む。免疫チェックポイントは、対象の免疫系が病原性感染に応答する時に組織が損傷されるのを防ぐために、自己寛容を維持し、生理学的免疫応答の持続時間と強度を調整するのを助ける。免疫応答は、T細胞が、腫瘍細胞にユニークな「外来」抗原(例えば非自己抗原または腫瘍ネオアンチゲン)または腫瘍細胞の特徴である「外来」抗原(例えば腫瘍関連抗原(TAA))を認識した時にも開始されうる。T細胞からの対象の免疫応答を制御するために使用される共刺激シグナルと抑制シグナルの間の平衡は、免疫チェックポイントおよびそれらの誘導体によって調整されうる。T細胞は、胸腺においてT細胞が成熟し活性化した後に、炎症および傷害/損傷の部位に移動して、防御機能を果たすことができる。T細胞機能は、直接作用によって、または防御免疫系に関与するサイトカインおよび膜リガンドのリクルートメントを介して、生じうる。T細胞の成熟、活性化、増殖および機能に関与する段階は、共刺激シグナルおよび抑制シグナルを介して、すなわち免疫チェックポイントを介して、調節されうる。腫瘍は、免疫エスケープ機序として、チェックポイント機能を調節不全にし、リプログラムし、または編集することができる。したがって免疫チェックポイントのモジュレーターの開発は、治療的価値を有しうる。免疫チェックポイント分子およびそれらの誘導体(例えば翻訳後修飾物、切断型、融合タンパク質)の非限定的な例としては、リンパ球活性化遺伝子3(Lymphocyte-activation gene 3)(LAG3)、グルココルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)(GITR)、Bリンパ球およびTリンパ球アテニュエーター(B-and T-lymphocyte attenuator)(BTLA)、キラー免疫グロブリン様受容体(killer immunoglobulin-like receptor)(KIR)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation)(VISTA)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4)(CTLA4、これはCD152(分化抗原群152)としても公知である)、B7-H3(CD276)、Vセットドメイン含有T細胞活性化阻害因子1(V-set domain-containing T-cell activation inhibitor 1)(VTCN1)/B7-H4、Bリンパ球およびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)/CD272、OX40/CD134、CD27、CD70、CD137、CD122、CD180、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックスタンパク質(Thymocyte selection-associated high mobility group box protein)(TOX)、CD28、誘導性T細胞共刺激分子(Inducible T-cell Co-Stimulator)(ICOS)、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有タンパク質3(T-cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3)(TIM3、これはA型肝炎ウイルス細胞性受容体2(Hepatitis A virus cellular receptor 2)(HAVCR2)としても公知である)、IgドメインおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)(TIGIT)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、NADPHオキシダーゼ2(NOX2)、シアル酸結合性免疫グロブリン型レクチン7(Sialic acid-binding immunoglobulin-type lectin 7)(SIGLEC7)/CD328、SIGLEC9/CD329、SIGLECT-15、アデノシン受容体2(A2aR)、プログラム死タンパク質(programmed death protein)(PD1)、プログラム死タンパク質リガンド1(programmed death protein ligand 1)(PD-L1)、プログラム死タンパク質2(PD-2)、プログラム死タンパク質リガンド2(PD-L2)/B7-DC、CD40、およびCD40リガンド(CD40L)/CD154が挙げられる。諸態様において、免疫チェックポイント阻害剤は例えばPD-1を含む。別の態様において、免疫チェックポイント阻害剤は例えばPD-L1を含む。
【0024】
免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合する化合物または組成物である。例えば阻害剤はタンパク質ポリペプチドまたは例えば低分子を含む非タンパク質化合物を含む。例えば免疫チェックポイントタンパク質は、LAG3、BTLA、KIR、CTLA4、ICOS、TIM3、A2aR、PD1、PD-L1、PD-L2、およびCD40Lなどを含む。いくつかの態様において、ポリペプチドまたはタンパク質は抗体またはその抗原結合性フラグメントである。いくつかの態様において免疫チェックポイント阻害剤は阻害性核酸分子である。いくつかの態様において、阻害性核酸分子はsiRNA分子、shRNA分子またはアンチセンスRNA分子である。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、オプジーボ/ニボルマブ、キートルーダ/ペンブロリズマブ、テセントリク/アテゾリズマブ(抗PD-L1 mAb)、バベンチオ/アベルマブ(抗PD-L1 mAb)、イミフィンジ/デュルバルマブ(抗PD-L1 mAb)、リブタヨ/セミプリマブ-rwlc(抗PD-1 mAb)、ピディリズマブ、CA-170(PD-L1/VISTAアンタゴニスト)、CA-327(PD-L1/TIM3アンタゴニスト)、AMP-224、AMP-514、STI-A1110、TSR-042、RG-7446、BMS-936559、BMS-936558、MK-3475、CT O11、MPDL3280A、MEDI-4736、MSB-0020718C、AUR-012およびSTI-A1010で構成される。
【0025】
「低分子」は、低い分子量(例えば約2,000Da未満または約1,000Da未満の分子量)を有する有機化合物、無機化合物または有機金属化合物を広く意味しうる。低分子は、約2,000Da未満の分子量、約1,500Da未満の分子量、約1,000Da未満の分子量、約900Da未満の分子量、約800Da未満の分子量、約700Da未満の分子量、約600Da未満の分子量、約500Da未満の分子量、約400Da未満の分子量、約300Da未満の分子量、約200Da未満の分子量、約100Da未満の分子量、または約50Da未満の分子量を有しうる。
【0026】
低分子は有機物または無機物である。例示的な有機低分子として、脂肪族炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、有機酸、エステル、単糖および二糖、芳香族炭化水素、アミノ酸、ならびに脂質が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。例示的な無機低分子は、微量のミネラル、イオン、遊離基および代謝産物を含む。あるいは、低分子は、フラグメントまたは小部分またはより長いアミノ酸鎖からなって、酵素の結合ポケットを満たすように、合成的に操作することもできる。典型的には低分子は1キロダルトン未満である。
【0027】
例えばワクチンコンストラクトはファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む。例示的なファージワクチンとしてはラムダファージベースのワクチンが挙げられ、例示的な樹状細胞ワクチンとしては単離されたASPH負荷樹状細胞が挙げられる。
【0028】
別の例として、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物などのPD-1遮断薬またはPD-1阻害薬である。いくつかの態様において、PD-1シグナル遮断薬は抗PD-1モノクローナル抗体または抗PD-L1モノクローナル抗体である。
【0029】
諸局面において、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤とを対象に投与する工程を含む、対象における転移を阻害する免疫治療方法が、本明細書において提供される。例えばワクチンは、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、腫瘍内、節内、リンパ管内、静脈内、胃内、腹腔内、腟内、膀胱内、経皮、その他の経路によって投与される。
【0030】
本明細書において使用される用語「転移」、「転移性」および「転移性がん」は、互換的に使用することができ、ある器官から別の隣接していない器官または身体部位への、がんなどの増殖性疾患または増殖性障害の拡散を指す。がんは派生部位、例えば肝臓に生じ、その部位を原発性腫瘍、例えば原発性肝がんという。原発性腫瘍または派生部位において一部のがん細胞は、その局所領域における周囲の正常組織に浸透し浸潤する能力、および/またはリンパ系もしくは脈管系の壁を透過し、その系を通って体内の他の部位および組織へと循環する能力を獲得する。原発性腫瘍のがん細胞から形成される臨床的に検出可能な二次腫瘍を転移性腫瘍または続発性腫瘍という。がん細胞が転移する場合、転移性腫瘍およびその細胞は元の腫瘍のものと類似していると推定される。したがって、肺がんが乳房に転移する場合、乳房のその部位における続発性腫瘍は、異常な乳房細胞からなるのではなく、異常な肺細胞からなる。乳房におけるこの続発性腫瘍を転移性肺がん(metastatic lung cancer)という。したがって転移性がんという語句は、対象が原発性腫瘍を有するか有していたことがあり、かつ対象が1つまたは複数の続発性腫瘍を有する疾患を指す。非転移性がんという語句または転移性ではないがんを有する対象という語句は、対象が原発性腫瘍を有しかつ1つ以上の続発性腫瘍を有しない疾患を指す。例えば転移性肺がんとは、原発性肺腫瘍を有するかその病歴を有し、第2の1つまたは複数の場所(例えば肝臓、骨、脳)に、他の器官、例えば乳房に起源を有する原発性腫瘍から拡散した1つまたは複数の続発性腫瘍を有する対象における疾患を指す。
【0031】
他の局面において、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーターとを対象に同時にまたは逐次的に投与する工程を含む、対象における原発性腫瘍の成長を阻害する免疫治療方法が、本明細書において提供される。諸態様において、免疫モジュレーターはチェックポイント阻害剤である。例えば、対象における原発性腫瘍の成長を阻害する免疫治療方法は、(例えば
図1または
図9に示すプロトコールを使って)精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーター(チェックポイント阻害剤を含む)とを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む。
【0032】
投与とは、化合物または組成物を、個別に、または(2種以上の化合物または剤を)組み合わせて、同時にまたは逐次的に投与することを包含するものとする。例えば精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトは、チェックポイント阻害剤と同時に投与されうる。
【0033】
別の例では、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトが、チェックポイント阻害剤に対して逐次的に投与されうる。「逐次」投与とは、2タイプの剤(例えば精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤)の投与の間の秒単位、分単位、時間単位または日単位の時間差を意味する。これらの剤は任意の順序で投与されうる。
【0034】
記載の組成物および方法は、本治療方法が対象における腫瘍成長または腫瘍転移の相乗的阻害を生じる点で、がん/悪性腫瘍成長と診断されそれを患っている対象に、有益な治療効果を与える。
【0035】
本明細書において開示される各態様は、開示される他の態様にも適用可能であると想定される。したがって、本明細書に記載のさまざまな要素の組合せはいずれも、本発明の範囲内である。
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、その好ましい態様の以下の説明および特許請求の範囲から明白になる。別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験では、本明細書に記載するものと類似するか等価な方法および材料を使用することができるが、適切な方法および材料を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1A】
図1Aは、アスパルチルアスパラギニルβ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)発現BNL(例えば肝臓;BNL 1ME A.7R.1細胞株(ATCC受託番号TIB-75))細胞を使った肝がんのマウスモデルに関する実験プロトコールの図である。
【
図2】
図2Aは、Balb/cマウスにおいてBNL細胞によって生成させた皮下腫瘍の画像である。
図2Bは、Balb/cマウスにおいて、皮下注射されたBNL細胞によって生成し、さまざまな試薬で処置された、異種移植片腫瘍の成長曲線を表すグラフである。
【
図3】
図3は、対照と比較した、PD-1阻害剤のみまたはワクチンのみによる処置後および併用処置後に、BNL細胞によって生成させた肝腫瘍の代表的肉眼所見の画像である。
【
図4】
図4は、インビトロでの、BNL細胞に対するマウス脾細胞の細胞傷害性を表すグラフである。
【
図5】
図5は、ASPH発現4T1乳がん細胞に対する再刺激後の脾細胞(BNL腫瘍を有し、ワクチン+PD-1阻害剤で処置されたマウスに由来するもの)のインビトロ細胞傷害性を示す棒グラフである。
【
図6】
図6は、インビトロでの再刺激後のマウス脾細胞からのインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)分泌を示す一連の画像である。肝がんモデルのマウスをBNL細胞によって生成させ、対照と比較して、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置および併用処置を行った。
【
図7】
図7Aは、BNL細胞によって生成させた肝腫瘍の組織学的特徴を示す画像である。
図7Bは、免疫組織化学(IHC)による、腫瘍へのCD3
+T細胞の浸潤を示す画像である。
図7Cは、腫瘍浸潤性CD3
+T細胞数の算出を表す棒グラフである。
***P<0.001。
【
図8】
図8は、BNL細胞によって生成させたマウス肝がんモデルにおいて、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみおよび併用に応答して刺激された抗原(ASPH)特異的抗体(B細胞応答)を、対照と比較して表す棒グラフである。
【
図9A】
図9は、ASPH発現4T1細胞によって生成する正所性マウス乳がんモデルのための実験プロトコールを表す画像である。
【
図9B】
図9は、ASPH発現4T1細胞によって生成する正所性マウス乳がんモデルのための実験プロトコールを表す画像である。
【
図10】
図10は、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の原発性乳腺腫瘍の成長曲線を、対照と比較して示すグラフである。
【
図11】
図11は、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の乳腺腫瘍の肉眼所見を、対照と比較して示す画像である(28日目)。
【
図12】
図12は、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の肺の転移性病巣の低減を、対照と比較して表す棒グラフである。
【
図13】
図13Aは、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の多臓器転移量(multi-organ metastatic burden)の低減を、対照と比較して示す棒グラフである。
図13Bは、転移を有するマウスと転移を有さないマウスを対比して表す棒グラフである。
図13Cは、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の多臓器転移量の低減を、対照と比較して示す表である。
【
図14】
図14は、4T1細胞によって生成させた正所性乳がんモデルのワクチン接種マウスにおける原発性腫瘍成長に対するPD-1阻害剤の用量依存的抗腫瘍効果を表すグラフである。
【
図15】
図15は、4T1細胞によって生成させた正所性乳がんモデルのワクチン接種マウスにおける肺転移に対するPD-1阻害剤の用量依存的抗腫瘍効果を示す棒グラフである。
【
図16】
図16は、ASPH発現4T1細胞に対する脾細胞のインビトロ細胞傷害性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、ASPH発現4T1細胞によって生成させた正所性乳がんモデルのワクチン接種マウスにおける抗原(ASPH)特異的T細胞活性化(IFNγ分泌によって実証されるもの)を示す画像である。
【
図18】
図18Aは、IHCによる、対照と比較した、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の、原発性乳腺腫瘍に浸潤したCD3
+リンパ球および腫瘍へのCD3
+T細胞の浸潤を示す画像である。
図18Bは、腫瘍浸潤性CD3
+T細胞数の算出を示す棒グラフである。
【
図19】
図19Aは、IHCによる、対照と比較した、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の、肺転移に浸潤したCD3
+リンパ球および転移性病巣へのCD3
+T細胞の浸潤を示す画像である。
図19Bは、腫瘍浸潤性CD3
+T細胞の数の算出を示す棒グラフである。
【
図20】
図20Aは、免疫組織化学IHCによる、対照と比較した、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の正所性マウスモデルにおける原発性乳がん腫瘍および肺転移中のCD8
+(エフェクター)CTLの特徴づけ、ならびに原発性腫瘍および肺の転移性病巣へのCD3
+T細胞の浸潤を示す画像である。
図20Bは、腫瘍浸潤性CD3
+T細胞の数の算出を表す棒グラフである。
図20Cは、腫瘍浸潤性CD3
+T細胞の数の算出を表す棒グラフである。
【
図21】
図21Aは、免疫組織化学IHCによる、対照と比較した、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の正所性マウスモデルにおける原発性乳がん腫瘍および肺転移中のCD45RO
+(メモリー)CTLの特徴づけ、ならびに原発性腫瘍および肺の転移性病巣へのCD45RO
+T細胞の浸潤を示す画像である。
図21Bは、腫瘍浸潤性CD45RO
+T細胞の数の算出を表す棒グラフである。
図21Cは、腫瘍浸潤性CD45RO
+T細胞の数の算出を表す棒グラフである。
【
図22】
図22は、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみによる処置後および併用処置後の正所性マウス乳がんモデルにおいて生成された抗原(ASPH)特異的抗体(B細胞応答)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
アスパルチルアスパラギニルβ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)は、多くのタイプの悪性疾患の細胞表面に存在する腫瘍関連抗原(TAA)、例えば膜貫通タンパク質であり、ヒトがんの免疫治療の標的である。アスパルチルASPHは、多くのシグナリング分子に見いだされるアスパルチル残基およびアスパラギニル残基のβ炭素のヒドロキシル化を触媒することが観察されている。(例えばEngel,FEBS Lett. 1989;251:1-7、Jia et al.,J. Biol. Chem. 1992;267:14322-14327、Lavaissiere et al.,J. Clin. Invest. 1996;98:1313-1323、Wang et al.,J. Biol Chem. 1991;266:14004-14010参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。その酵素活性は、上皮成長因子(EGF)様リピートを含有する基質に加えて、三価鉄およびα-ケトグルタル酸の存在に依存する(例えばEngel,FEBS Lett. 1989;251:1-7参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0039】
発がんに際し、ASPHは細胞表面に移動してN末端領域とC末端領域とを細胞外環境に露出することになり、その機能は宿主の免疫応答によって調整される。さらに重要なことに、これらの領域に存在する抗原エピトープの存在は、ASPHを有する腫瘍細胞に特異的なT細胞応答を、効率よく刺激する(例えばTomimaru et al.,Vaccine 2015;33:1256-1266参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。ASPHは、肝細胞がん(HCC)および胆管がんの同系動物モデルにおいて、ここで提示するλファージワクチンとの類似性を有する樹状細胞(DC)微粒子ワクチンを使った免疫治療の実行可能な標的である(例えばNoda et al. Hepatology 2012;55:86-97、Shimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。ASPHは哺乳類の進化の過程で高度に保存されている。これは、初期発生中の胚では発現されるが、出生時にこの遺伝子は発現停止されて、正常細胞が悪性表現型に形質転換する時にしか再活性化されない(例えばLavaissiere et al.,J. Clin. Invest. 1996;98:1313-1323、Aihara et al.,Hepatology 2014;60:1302-1313参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0040】
ASPHは発がんに直接寄与する。というのも、その過剰発現は腫瘍細胞の増殖、遊走および侵襲を刺激するからである(例えばAihara et al.,Hepatology 2014;60:1302-1313;Ince et al.,Cancer Res. 2000;60:1261-1266、Sepe et al.,Lab Invest. 2002;82:881-891参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。4T1細胞によって生成させた乳がんの正所性マウスモデルにおいて、ファージワクチン接種が肺転移を実質的に低減したという知見は興味深いことだった。正常組織におけるASPHの発現は一般に極めて低いか無視できる程度および/または検出不可能であるが、侵襲性の高い組織である胎盤は例外で、ここでのASPHの遺伝子発現およびタンパク質発現は、HCCなど、多くの悪性疾患に見いだされるレベルに匹敵する。これに関連して、タンパク質発現に関する免疫組織化学(IHC)染色およびmRNAレベルに関する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)関連HCCのおよそ85%ならびに胆管がんの≧95%は、ASPH遺伝子のアップレギュレーションを呈することが明らかになっている(例えばNoda et al. Hepatology 2012;55:86-97、Shimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135、Aihara et al.,Hepatology 2014;60:1302-1313、Cantarini et al.,Hepatology 2006;44:446-457、Huang et al.,PLoS One 2016;11:e0150336、Iwagami et al.,Hepatology 2015参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0041】
ASPHは、発がん中に、以下の機序を一因として、その生物効果を発揮することが見いだされている:1)Notchシグナリングカスケードの活性化を促進する、2)カスパーゼ3切断によってアポトーシスを阻害する、3)RB1のリン酸化によって細胞増殖を強化する、4)細胞老化を遅延させる、および5)がん幹様細胞を生成する(例えばHuang et al.,PLoS One 2016;11:e0150336、Iwagami et al.,Hepatology 2015、Dong et al.,Oncotarget 2015;6:1231-1248参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。ASPHの転写調節は、インスリン(IN)/インスリン受容体基質1(IRS-1)/急速進行性線維肉腫(Rapidly Accelerated Fibrosarcoma)(RAF)/ラット肉腫(RAS)/マイトジェン活性化タンパク質(MAP)/細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、IN/IRS-1/ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)/AKT(プロテインキナーゼB)およびWingless/Integrated(WNT)/β-カテニンシグナリングなどといった周知のシグナリングカスケードによって制御される(Cantarini et al.,Hepatology 2006;44:446-457、Tomimaru et al.,Cancer Lett. 2013;336:359-369)。この状況において、ASPHは、上流の成長因子シグナリング経路をNotch活性化およびそれに続くNotch標的遺伝子の下流発現に結びつけるキー分子になって、肝がん発生などの発がんに関与する。腫瘍細胞では、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)によるASPHの翻訳後修飾も、このタンパク質のN末端領域に位置するモチーフのリン酸化によって起こる(de la Monte et al.,Alcohol 2009;43:225-240)。
【0042】
二重トランスジェニックマウスモデルにおいて正常な肝臓の悪性表現型への形質転換を促進するのに、IN/インスリン様成長因子1(IGF1)/IRS1媒介経路ならびにWNT/β-カテニンおよびASPH/Notchシグナリングカスケードの活性化が必要かつ十分であることが示されていることは興味深い(例えばChung et al.,Cancer Lett. 2016;370:1-9参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。したがって、この推定上の発がんタンパク質の発現および機能の阻害は、治療との関連を有するだろう。
【0043】
免疫治療は特に魅力的である。というのも、ASPHは、1)さまざまな悪性疾患において細胞表面に高発現する膜貫通タンパク質であり、2)正常ヒト組織(胎盤を除く)では極めて低レベル/検出不可能なレベルで発現し、3)がん細胞の増殖、遊走、侵襲および転移の促進に明確な役割を有し、4)高発現は、早期疾患再発、全生存の低減および高未分化中悪性度表現型を特徴とするがん患者の予後不良を与えるからである(例えばMaeda et al.,Cancer Detect. Prev. 2004;28:313-318、Wang et al.,Hepatology 2010;52:164-173参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0044】
ある免疫治療アプローチでは、関心対象のタンパク質を負荷した樹状細胞(DC)が注射される。DCは、抗原を認識/捕捉し、加工し、T細胞に提示することでT細胞媒介性免疫を誘導し調節する専門の抗原提示細胞(APC)である。DCは、実験動物だけでなく、腫瘍を有する患者を免疫化するのにも、広く使用されている。DCワクチンは、感作され活性化され負荷された抗原、例えば精製抗原、例えば本明細書に記載ASPHまたはその抗原性フラグメントである。DCワクチンは、例えばASPH発現腫瘍を哺乳動物対象、例えばヒト患者から低減し、排除するために使用される。本組成物および方法は、伴侶動物および家畜、例えばヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタ対象における使用にも適している。ASPH発現腫瘍には、消化管(例えば食道、胃、結腸、直腸)、膵臓、肝臓(例えば胆管細胞がん、肝細胞がん)、乳房、前立腺、子宮頸部、卵巣、ファロピウス管、喉頭、(非小細胞)肺、甲状腺、胆嚢、腎臓、膀胱および脳(例えば膠芽腫)の腫瘍、ならびに他の多くの腫瘍など、大半の腫瘍タイプが含まれる。ASPH発現腫瘍は、(隣接する)正常組織と比較してASPHの発現レベルが増加している原発性腫瘍ならびにそのようなASPH発現原発性腫瘍からの転移によって生じる腫瘍を含む。
【0045】
本ワクチン接種法において使用される樹状細胞は、任意で、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびIFN-γを含むサイトカインの組合せを使ってエクスビボで活性化されてから、対象に投与される。後者の工程により、T細胞媒介性抗腫瘍免疫応答を刺激する能力が強化された、感作されたDCの集団が得られる。感作DCの改良された生産方法は、単離されたDCを、ASPHおよびその抗原性フラグメントなどの抗原、または腫瘍抗原の組合せ、例えばASPHおよびアルファ-フェトプロテイン(AFP)と接触させ、成熟活性化抗原提示細胞(APC)の集団が得られるようにDCを処理することによって実行される。抗原インキュベーション工程後に、サイトカインの組合せ(サイトカインカクテル)によってDCを成熟化する。例えば、この組合せはGM-CSFおよびIFN-γを含む。別の例では、この組合せはインターロイキン-4(IL-4)をさらに含む。任意で、この組合せは、分化抗原群40リガンド(CD40L)、TNFα、IL1β、IL6、PGE2、toll様受容体(TLR)リガンドのアゴニスト(例えばTLR7/8アゴニストであるCL097(イミダゾキノリン化合物R848誘導体))、または他の免疫モジュレーターを含む。DCは、サイトカインの組合せに少なくとも10時間(例えば12、24、36、40、48時間またはそれ以上)ばく露される。抗原は可溶型であるか、または固形支持体に結合される。例えば固形支持体は、生分解性ビーズまたは生分解性粒子などのポリスチレンビーズを含む。樹状細胞は白血球アフェレーシスまたはサイタフェレーシス(cytopheresis)など公知の方法によって対象から取得される。
【0046】
ASPHを使った樹状細胞ワクチンは、免疫応答性マウスにおいて、定着した肝細胞がん(HCC)を治癒させることがわかる。ASPH負荷樹状細胞ワクチンは、ヒトでもASPH発現腫瘍の成長を低減することで腫瘍量を減少させ、腫瘍を根絶する(例えば米国特許出願公開第20110076290号参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0047】
予防的および治療的「ファージワクチン」は、がんの予防と処置の両方に使用することができる。例えばがんワクチン治療は、例えばバクテリオファージが発現するASPHフラグメントを使ってASPHなどの汎がん特異的抗原を標的とするように設計される。バクテリオファージ表面発現ASPHは免疫原性が高い。さらに、ワクチンとしてのASPHフラグメントのバクテリオファージ送達は、抗原提示およびファージのアジュバント特性を提供することにより、自己抗原寛容の問題を克服することができる。バクテリオファージはラムダ、T4、T7またはM13/f1のいずれであってもよい。
【0048】
バクテリオファージディスプレイは、免疫系に対してペプチドの好ましい提示を達成するシンプルな方法である。組換えバクテリオファージは、その表面にディスプレイされた複数コピーのエピトープに対する強いCD8+Tリンパ球(CTL)応答をインビトロでもインビボでもプライミングすることができ、Tヘルパー細胞を活性化し、特異的抗体の産生を誘発することが、いずれも通常はアジュバントなしでできる。
【0049】
ASPHなどのがん特異的抗原をディスプレイするラムダファージによるワクチン接種には、潜在的な利点がいくつかある。利点の一つは、同じラムダファージ上に複数コピーのペプチドがディスプレイされることであり、ひとたび最初のファージディスプレイがなされたら、その後の生産は、ペプチドを担体にカップリングする現行のプロセスよりも、はるかに容易かつ安価なはずである。また、ファージディスプレイされたペプチドは、その粒子性ゆえに、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)I経路とMHC II経路のどちらにもアクセスすることができるというよい証拠もあり、細胞外抗原として応答の大部分は抗体(MHCクラスII)に偏るだろうと予想されるものの、ラムダファージディスプレイワクチンは免疫系の細胞性アームと体液性アームをどちらも刺激することができることが示唆される。粒子状の抗原、特にファージは、クロスプライミングによってMHC I経路にアクセスできることが明らかにされている。これは、おそらくこのプロセスが細胞性応答の刺激を担うことを示している。CD8+T細胞によって媒介されるこの再活性化された細胞性応答は、がん細胞を排除するのに役立つ。がんにおける先天免疫の役割も十分に確立された事実である。ラムダファージは非特異的免疫刺激因子としても作用することができる。外来DNA(おそらくCpGモチーフの存在による)とファージコートの反復ペプチドモチーフとの組合せが、非特異的免疫刺激を担っている。
【0050】
要するに、ラムダファージ粒子は全体として、それをワクチン送達媒体として理想的なものにする固有の特徴を、数多く有している。ファージディスプレイワクチンとしての使用にとって、ファージの粒子性は、それらが、可溶性組換えタンパク質よりもはるかに容易かつ安価に精製されるはずであることを意味している。加えて、ペプチド抗原は、天然のアジュバント特性を有する不溶性の免疫原性担体に既に共有結合でコンジュゲートされており、ワクチンバッチごとに繰り返さなければならない複雑な化学的コンジュゲーションと下流の精製工程とを必要としない(例えば米国特許出願公開第20140271689号参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0051】
マウスASPH発現BNL細胞株(ATCC受託番号TIB-73)は、同系BALB/cマウスの皮下に埋植すると、迅速な成長をもたらす。接種された動物は、極めて重篤な肝がん(例えばHCC)のモデルであり、4~5週間後には早くも、大きなサイズと低分化状態とを特徴とする進行した肝腫瘍ゆえに、安楽死させることが必要になりうる(例えばShimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。BNL誘導腫瘍におけるASPH発現のレベルはロバストである(例えばShimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。この肝がんモデル系を使って(
図1)、全ASPHペプチドを含有する樹状細胞(DC)ベースのワクチンを使った免疫治療的アプローチがHCCの成長および進行を阻害するかどうかという疑問に取り組んだ。ラムダ1ファージN末端ASPHペプチド含有ワクチンコンストラクトがHCCの成長および進行を阻害するかどうか、そしてさらに、抗腫瘍効果がチェックポイント阻害剤の同時投与または逐次投与によって増幅されるかどうかを調べる追加の試験も実施した(
図2A~2B)。
【0052】
免疫化スケジュールは、早期の疾患再発を防止し、定着したマイクロ転移性疾患の成長と進行を遅らせる試みとして、HCC腫瘍を切除する前の予防的ワクチン接種とそれに続くブースター投与による使用が提案されている仮定上の臨床状況を、そのスケジュールが模倣することになるように設計された。外科手術後は少数の残存腫瘍細胞が残りうるが、それらは、λファージが生成する免疫応答(例えばKundig et al.,J. Allergy Clin. Immunol. 2006;117:1470-1476、Sartorius et al.,J. Immunol. 2008;180:3719-3728、Zhikui et al.,J. Biomol. Screen 2010;15:308-313参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)とチェックポイント阻害剤である抗PD1抗体とによって、効果的に消失させまたは低減させることができるだろう。
【0053】
本明細書に記載する1つまたは複数の方法は、他のがん治療との比較で(以下に列挙する)利点を有する。(1)表1に示すようにヒト固形腫瘍の大部分において高度に過剰発現している単一の化学的に定義された(または精製されたもしくは単離された)細胞表面抗原(ASPH)に対する免疫応答を刺激する。(2)この抗原特異的なB細胞免疫応答およびT細胞免疫応答の生成は、ワクチン(ファージ、樹状細胞、DNAベースの製剤およびペプチド製剤)で達成することができる。(3)この抗原特異的免疫応答は、免疫チェックポイント阻害剤の逐次投与または同時投与で、著しく増幅させることができる(例えばMoser et al,J. Immunol. Methods 2010;353:8-19、Sambrook and Maniatis,Molecular cloning. Second Edition. ed. New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。(4)腫瘍の発生、成長および進行ならびに身体の他の部位への転移拡散の驚くべき予想外の劇的な阻害を示す。
【0054】
本発明は、例えば表1に示すように、現在治療方法がないか、あっても数少ない場合がある、肝細胞(HCC)肝がん、膵がん、胃がん、食道がんおよびトリプルネガティブ乳がんならびに肉腫などといった、固形腫瘍の処置に幅広く応用される。
【0055】
免疫チェックポイント遮断は、免疫細胞-腫瘍細胞相互作用の調整によるがん管理の高度な戦略である。チェックポイント遮断薬、例えば抗プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)/プログラム死リガンド(Programmed death-ligand)1(PD-L1)抗体は、比較的限定的な副作用で顕著な抗腫瘍応答を与えうる非常に有望ながん治療アプローチに、急速になりつつある。
【0056】
PD-1/PD-L1経路は、腫瘍誘導性免疫抑制を媒介する高度なチェックポイント分子の良い例である。生理的には、PD-1/PD-L1経路は、正常組織を損傷から守るために、抗原を発現している場所における炎症の程度を制御する。標的細胞上のMHC複合体によって発現される抗原をT細胞が認識すると、炎症性サイトカインが産生されて、炎症プロセスを開始する。これらのサイトカインは標的組織におけるPD-L1発現をもたらし、それがT細胞上のPD-1タンパク質に結合して免疫寛容を生じる。これは、作用可能な抗原の存在下でさえ、免疫系が、炎症応答を開始するための制御を失う現象である。一定の腫瘍、最も注目すべきは黒色腫において、この保護機序はPD-L1の過剰発現によって悪用され、結果として、腫瘍に対する免疫応答の生成を回避する。PD-1/PD-L1阻害剤は薬理学的にはPD-1/PD-L1相互作用を防止し、よって腫瘍細胞を殺すための正の免疫応答を容易にする(例えばAlsaab et al.,Front Pharmacol. 2017,Aug 23;8:561参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。PD-1の第2のリガンドであるPD-1リガンド2(PD-L2)も、T細胞応答の調節に関与する。PD-L1特異的T細胞とPD-L2特異的T細胞は交差反応しないので、PD-L1とPD-L2は異なるT細胞抗原である。PD-L2特異的T細胞を(例えばワクチン接種)によって活性化することは、抗がん免疫治療のための魅力的な戦略になる。というのも、PD-L2特異的T細胞は、標的細胞を殺すことにより直接的に、またPD-L2発現免疫抑制細胞に応答して炎症誘発性サイトカインを微小環境中に放出することにより間接的にも、抗がん免疫を支えることができるからである(例えばLatchman et al.,Nat. Immunol. 2001,Mar;2(3):261-268、Ahmad et al.,Oncoimmunology,2017,Nov 1;7(2):e1390641. eCollection 2018参照。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0057】
(表1)試験されたヒト腫瘍のうち免疫組織化学でASPHを発現している腫瘍のパーセント
PRC=中華人民共和国;USA=アメリカ合衆国
【0058】
最近は、4種を上回るチェックポイント阻害剤(例えば抗体)が、PD-1、PD-L1および細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)を標的とするために商品化されている。下記の表2および表3に、臨床試験中の免疫治療剤、抗PD-L1および抗PD-1を、考えうる併用治療を含めて、いくつか選んで示す(例えばAlsaab et al.,Front Pharmacol. 2017,Aug 23;8:561参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0059】
(表2)臨床試験中の例示的免疫治療剤(抗PD-L1)
【0060】
(表3)臨床試験中の例示的免疫治療剤(抗PD-1)
【0061】
抗PD-1/PD-L1治療応答の大成功と効力にも関わらず、それは特定タイプのがんに限定されている。例えば免疫チェックポイント阻害剤はこれまでの所、ユーイング肉腫および前立腺がんなど、遺伝子変異量が低いがんのサブセットでは、活性をほとんどまたは全く示していない。結腸直腸がんを有する選別されていない患者の集団におけるPD-1阻害剤の臨床治験では、活性はほとんど~全く観察されなかった(例えばYarchoan et al.,Nat. Rev. Cancer. 2017 Apr;17(4):209-222. Epub 2017 Feb 24、Schumacher and Schreiber,Science 2015 Apr 3;348(6230):69-74、Postow et al.,N. Engl.J. Med. 2018 Jan 11;378(2):158-168。これらの文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0062】
一般的定義
別段の具体的定義がある場合を除き、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、当技術分野(例えば細胞培養、分子遺伝学および生化学)の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有するものとする。
【0063】
数値または数値範囲に関連して本明細書において使用される用語「約」は、文脈上、より限定された範囲が必要である場合を除き、具陳または主張された数値または数値範囲の±10%を意味する。
【0064】
上記の説明および特許請求の範囲では、「のうちの少なくとも1つ」または「のうちの1つまたは複数」などの語句が、要素または特徴の連結的リスト(conjunctive list)と共に使用する場合がある。2つ以上の要素または特徴のリストでは、「および/または」という用語が使用される場合もある。これらの語句は、それが使用される文脈と暗にまたは明示的に矛盾する場合を除き、列挙された要素または特徴のいずれかを個別に意味するか、具陳された要素または特徴のいずれかを具陳された他の要素または特徴のいずれかとの組合せとして意味するものとする。例えば「AおよびBのうちの少なくとも1つ」、「AおよびBのうちの1つまたは複数」ならびに「Aおよび/またはB」は、それぞれに「Aのみ、Bのみ、またはAとBを一緒に」を意味する。3つ以上の項目を含むリストについても同様に解釈されるものとする。例えば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」、「A、BおよびCのうちの1つまたは複数」ならびに「A、Bおよび/またはC」は、それぞれに「Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを一緒に、AとCを一緒に、BとCを一緒に、またはAとBとCを一緒に」を意味する。加えて、上記および特許請求の範囲における「に基づく」という用語の使用は、具陳されていない特徴または要素も許容されるように、「に少なくとも部分的には基づく」を意味するものとする。
【0065】
パラメータ範囲が与えられている場合は、その範囲内のすべての整数およびその10分の1単位の値も本発明によって提供される。例えば「0.2~5mg」は、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mgなど、5.0mgを含みかつ5.0mgまでの開示である。
【0066】
低分子は、質量が2000ダルトン未満の化合物である。低分子の分子質量は好ましくは1000ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満であり、例えば化合物は500ダルトン未満、400ダルトン未満、300ダルトン未満、200ダルトン未満または100ダルトン未満である。
【0067】
本明細書にいう「単離された」または「精製された」低分子、核酸分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、組換え技法によって生産された場合には他の細胞材料または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には化学前駆体その他の化学物質を実質的に含まない。精製された化合物は、少なくとも60重量%(乾燥重量)の関心対象化合物である。好ましくは調製物は少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の関心対象化合物である。例えば精製された化合物は、所望の化合物が重量で少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、98%、99%または100%(w/w)であるものである。純度は、任意の適当な標準的方法によって、例えばカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって、測定される。精製または単離されたポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA))またはポリペプチドは、その自然状態においてそれに隣接している遺伝子または配列を含まない。精製されたとは、ヒト対象への投与にとって安全な無菌度、例えば感染性物質または毒性物質を欠くことも規定する。精製または単離されたポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA))は、その自然状態においてそれに隣接している遺伝子または配列を含まない。精製または単離されたポリペプチドは、その天然状態においてそれに隣接しているアミノ酸または配列を伴わない。
【0068】
同様に、「実質的に純粋」とは、本来それに付随している構成要素から分離されたヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。通例、ヌクレオチドおよびポリペプチドは、それらが少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、さらには99重量%であって、それらに本来付随しているタンパク質および天然の有機分子を含まない場合には、実質的に純粋である。
【0069】
製剤または製剤構成要素の「有効量」および「治療有効量」という用語は、所望の効果を提供するのに十分な、単独でのまたは組合せでの製剤または構成要素の量を意味する。例えば「有効量」は、哺乳動物において有益な臨床効果を達成するのに必要な、単独でのまたは組合せでの化合物の量を意味する。最終的には、担当の医師または獣医師が、適当な量と投薬レジメンとを決定する。
【0070】
「処置する」および「処置」という用語は、本明細書において使用される場合、有害な状態、障害または疾患に苦しむ臨床症状を示す個体に、症状または徴候の重症度および/もしくは頻度の低減を達成し、症状もしくは徴候および/もしくはそれらの基礎にある原因を排除し、ならびに/または損傷の改善もしくは矯正を容易にするために、剤または製剤を投与することを指す。対象における疾患を「阻害する」または対象における疾患の「阻害」という用語は、対象における状態、障害または疾患の進行および/または併発を防止しまたは低減することを意味する。例えば阻害には癒着形成を阻害することが含まれる。
【0071】
「を含む(comprising)」という移行語は、「を包含する(including)」、「を含有する(containing)」または「を特徴とする」と同義であって、包摂的(inclusive)または非限定的(open-ended)であり、具陳されていない追加の要素または方法工程を排除しない。対照的に、「からなる」という移行句は、特許請求の範囲において明記されていない要素、工程または成分をいずれも排除する。「から本質的になる」という移行句は、特許請求の範囲を、明記された材料または工程ならびに特許請求の範囲に係る発明の「基本的で新規な特徴に実質的な影響を及ぼさないもの」に限定する。
【0072】
「対象」、「患者」、「個体」などの用語は、本明細書において使用される場合、限定を意図せず、広く互換的に使用されうる。すなわち、「患者」と記載される個体は、必ずしも所与の疾患を有するわけではなく、単に医学的アドバイスを求めているだけでもよい。「対象」という用語は、本明細書において使用される場合、動物界の任意のメンバー、例えば哺乳動物を含む。一態様において、対象はヒトである。別の一態様において、対象はマウスである。例えば対象は哺乳動物である。哺乳動物の非限定的な例として、齧歯類(例えばマウスおよびラット)、霊長類(例えばキツネザル、ガラゴ、サル、類人猿およびヒト)、ウサギ、イヌ(例えば伴侶犬、介助犬、または使役犬、例えば警察犬、軍用犬、競争犬もしくはショードッグ)、ウマ(例えば競走馬および使役馬)、ネコ(例えば飼い猫)、家畜(例えばブタ、ウシ、ロバ、ラバ、バイソン、ヤギ、ラクダおよびヒツジ)、ならびにシカが挙げられる。諸態様において、対象はヒトである。
【0073】
本明細書において使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上そうでないことが明らかである場合を除き、複数の指示対象を包含する。したがって例えば「1つの疾患(a disease)」、「1つの疾患状態(a disease state)」または「1つの核酸(a nucleic acid)への言及は、1つまたは複数のそのような態様への言及であり、当業者に公知のそれらの等価物などを包含する。
【0074】
本明細書にいう「処置」は、例えば障害の進行の阻害、後退または停止を包含する。処置は、障害の任意の1つまたは複数の症状の防止または改善も包含する。本明細書にいう対象における疾患進行または疾患併発の「阻害」とは、対象における疾患進行および/または疾患併発を防止または低減することを意味する。
【0075】
本明細書において、障害に関連する「症状」には、その障害に関連する任意の臨床症状発現または検査所見が含まれ、対象が感知しまたは観察することができるものに限定されない。
【0076】
治療化合物の量に関して本明細書にいう「有効」は、本開示の方法で使用した場合に、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、甚だしい有害副作用(例えば毒性、刺激またはアレルギー応答)を伴わずに所望の治療的応答をもたらすのに十分な化合物の量を指す。
【0077】
本明細書にいう「薬学的に許容される」担体または賦形剤とは、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、甚だしい有害副作用(例えば毒性、刺激またはアレルギー応答)を伴わないヒトおよび/または動物での使用に適した担体または賦形剤を指す。それは、例えば、本化合物を対象に投与するための対象への薬学的に許容される溶媒、懸濁剤または媒体であることができる。
【0078】
「配列同一性のパーセンテージ」は、ある比較ウインドウで2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定され、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のうち、比較ウインドウ内の部分は、それら2つの配列の最適アラインメントのために、リファレンス配列(付加も欠失も含まないもの)と比べて付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。パーセンテージは、両配列中に同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定することで一致位置の数を得て、一致位置の数を比較のウインドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の百分率を得ることによって算出される。
【0079】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列との関連において「同一」または「同一性」パーセントという用語は、配列比較アルゴリズムを使うか手作業によるアラインメントと目視点検とによる測定で、比較ウインドウまたは指定された領域で最大の一致が得られるように比較しアラインメントした場合に、同じであるか、または指定されたパーセンテージのアミノ酸残基またはヌクレオチドが同じである(例えばポリペプチド配列全体またはその個々のドメインの指定された領域において50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性)、2つ以上の配列または部分配列を指す。少なくとも約80%同一であるそのような配列は、「実質的に同一」であるといわれる。いくつかの態様において、2つの配列は100%同一である。一定の態様において、2つの配列は配列のうちの一方(例えば配列の長さが異なる場合は2つの配列のうちの短い方)の全長にわたって100%同一である。さまざまな態様において、同一性は被検配列の相補鎖も指しうる。いくつかの態様において、同一性は、少なくとも約10~約100、約20~約75、約30~約50のアミノ酸長またはヌクレオチド長の領域にわたって存在する。一定の態様において、同一性は、少なくとも約50アミノ酸長である領域にわたって、より好ましくは100~500、100~200、150~200、175~200、175~225、175~250、200~225、200~250またはそれ以上のアミノ酸長である領域にわたって、存在する。
【0080】
配列比較では、通例、一つの配列がリファレンス配列としての役割を果たし、被検配列がそれと比較される。さまざまな態様において、配列比較アルゴリズムを使用する場合は、被検配列とリファレンス配列がコンピュータに入力され、必要であれば部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。好ましくは、デフォルトプログラムパラメータを使用するか、代替パラメータを指定することができる。次に配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づき、リファレンス配列に対して、被検配列の配列同一性パーセントを計算する。
【0081】
「比較ウインドウ」とは、連続位置数(例えば少なくとも約10~約100、約20~約75、約30~約50、100~500、100~200、150~200、175~200、175~225、175~250、200~225、200~250)のうちのいずれか一つのセグメントであって、そのセグメント内で、配列が、同じ連続位置数のリファレンス配列と、それら2つの配列を最適にアラインメントした後に比較されうるものを指す。さまざまな態様において、比較ウインドウは、アラインメントされる2つの配列のうちの一方または両方の全長である。いくつかの態様において、比較される2つの配列は異なる長さを含み、比較ウインドウはそれら2つの配列の長い方または短い方の全長である。比較される配列のアラインメント方法は、当技術分野において周知である。比較される配列の最適なアラインメントは、例えばSmith&Waterman,Adv. Appl. Math. 2:482(1981)のローカルホモロジーアルゴリズムによって、またはNeedleman&Wunsch,J. Mol. Biol. 48:443(1970)のホモロジーアラインメントアルゴリズムによって、またはPearson&Lipman,Proc. Nat’l. Acad. Sci.U SA 85:2444(1988)の類似性検索法(search for similarity method)によって、またはこれらのアルゴリズムのコンピュータへの実装(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって、または手作業によるアラインメントと目視検査とによって、行うことができる(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds. 1995 supplement)参照)。
【0082】
さまざまな態様において、配列同一性パーセントおよび配列類似性パーセントを決定するのに適したアルゴリズムはBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれAltschul et al.,Nuc. Acids Res. 25:3389-3402(1977)およびAltschul et al.,J. Mol. Biol. 215:403-410(1990)に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0を、本明細書記載のパラメータで使用することで、核酸およびタンパク質の配列同一性パーセントを決定しうる。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、当技術分野では公知のとおり、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)から公的に利用可能である。このアルゴリズムでは、まず、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントした時に、何らかの正の値を有する閾スコアTとマッチするか、またはそれを満たす、クエリ配列中の長さWの短いワードを同定することによって、高スコアリング配列ペア(high scoring sequence pair)(HSP)を同定する。Tは近隣ワードスコア閾(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschulら,前掲)。これらの初期近隣ワードヒットは、それらを含有するさらに長いHSPを見いだすための検索を開始するためのシードとしての役割を果たす。このワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合は、パラメータM(マッチ残基のペアに対する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に対するペナルティスコア;常に<0)を使って算出される。アミノ酸配列の場合はスコアリングマトリックスを使って累積スコアを算出する。各方向へのワードヒットの伸長は、累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下した時、または累積スコアが1つまたは複数の減点残基アラインメント(negative-scoring residue alignment)によってゼロ以下になった時、またはどちらかの配列の末端に到達した時に、停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXはアラインメントの感度および速さを決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルト値として、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルト値として、ワード長(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング行列を使用する(Henikoff&Henikoff,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915(1989)参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両鎖の比較を使用する。
【0083】
本発明は対象の腫瘍を処置するために使用される薬学的組成物をさらに提供する。例示的な薬学的に許容される担体としては、生理的に許容される塩、ポロキサマー類似体とカーボポール、カーボポール/ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カーボポール-メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒアルロン酸、シクロデキストリンおよび石油からなる群より選択される化合物が挙げられる。
【0084】
本明細書記載の組成物および方法は、上述の処置を必要とする哺乳動物である対象にとって有用である。哺乳動物は、例えばヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ならびに食品消費用に飼育される家畜または動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリおよびヤギである。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0085】
本明細書記載の組成物は全身性にまたは局所性に投与される。好ましい一態様において、本組成物は医学的に適当な場合に投与される。
【0086】
本発明をより完全に理解することが容易になるように、以下に実施例を記載する。以下の実施例では、本発明を為し実施するための例示的形態を例証する。ただし本発明の範囲は、これらの実施例に開示される具体的態様に限定されず、これらの実施例の目的は例示でしかない。代替的方法を利用して類似する結果を得ることができるからである。
【実施例】
【0087】
実施例1:ASPHに対するファージワクチン接種と抗PD-1チェックポイント阻害剤治療の逐次施行および同時施行は、組み合わせて送達した場合に腫瘍の成長および進行を著しく予想外に低減する
腫瘍、例えばHCCなどの肝腫瘍の腫瘍成長と進行を、当技術分野において認識されている同系マウスモデルで調べた。実験プロトコールを
図1に記載する。4つのマウス群(n=10/群)を設けた:(1)対照、(2)PD-1遮断のみ、(3)ASPH関連ペプチドを発現するファージワクチンのみ、および(4)PD-1遮断+ワクチン。簡単に述べると、N末端ヒトASPHペプチドを発現するファージワクチンを使って、動物を、1週間間隔で3回、免疫化してから、BNLマウスヘパトーマ細胞を皮下に接種し、その後、5~6週間にわたって週に2回投与される抗PD-1モノクローナル抗体によるPD-1遮断を行った。腫瘍サイズは記載されているように測定した(例えばIwagami et al.,Heliyon 2017;3:e00407参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
図2Aおよび2Bに示すように、対照(無処置)をPD-1遮断+ワクチン群と比較すると、HCCの発生と成長に顕著な相違があった。
図3は、腫瘍成長に対するワクチンのみまたはPD-1遮断のみのあまり大きくない抗腫瘍効果も示しており、それらは対照群と併用群の中間である。併用治療では、BALB/cマウスから摘出されるHCCの腫瘍体積に対して、顕著で相乗的な効果が観察された。抗PD-1抗体+ASPHに対するファージワクチン接種の併用を受けたマウスでは、観察期間中、HCCの成長は、あったとしても極めて小さい。
【0088】
CD8
+
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびCD4
+
ヘルパーT細胞の抗原特異的活性化はファージ免疫化およびPD-1遮断によって刺激される
【0089】
腫瘍の発生および成長に対して内在性免疫系によって媒介される抗腫瘍効果を上げるには、CD8
+細胞とCD4
+細胞の両方の活性化が必要である。CD8
+CTL活性を測定する細胞傷害性アッセイは、以下に述べるように行った:BNLヘパトーマ細胞を96ウェルプレートに播種し、1時間付着させた後、実施例1、
図1に記載するさまざまな4つの群に由来する脾細胞の懸濁液を、2:1~20:1のさまざまな脾細胞対標的細胞比で、4時間、加えた。BNL細胞からのLDH放出を記載のとおり細胞傷害活性の指標として測定した(例えばShimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。対照脾細胞を抗PD-1+ワクチン投与の組合せから得られたものと比較すると、CTL活性の顕著な増加があった。抗PD-1のみおよびワクチンのみでは中間の応答が生成し、ファージワクチン接種はBNLヘパトーマ標的細胞溶解に関して抗PD-1投与(PD-1遮断)と同程度に有効だった。(
図4)。
【0090】
次に、トリプルネガティブ乳がん細胞、すなわちエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体および過剰のHER2タンパク質に関して検査結果が陰性であるがん細胞(例えば4T1;ATCC受託番号CRL-2539)を使って、脾細胞が実施例1、
図1に記載の4つの動物群に由来する、別のインビトロ細胞傷害性アッセイを行った。4T1細胞もマウスASPHを細胞表面に発現することが以前に示されているからである。ワクチン+PD-1同時投与群では、非処置対照と比較して、CD8
+CTL活性の顕著な増加があった。この実施例により、
図5に示されているように、インビボでASPHに感作された脾細胞は、細胞表面にASPHを内在性に発現する他の腫瘍細胞タイプを殺すためにも使用できることが明らかになった。
【0091】
フローサイトメトリー分析による、脾細胞集団中の活性化された抗原(ASPH)特異的なCD4
+細胞およびCD8
+細胞のパーセントを
図6に示す。ファージワクチンおよび培養細胞に添加された組換えASPHタンパク質による刺激後に、インターフェロンガンマの分泌によって測定されるASPH特異的なCD4
+活性とCD8
+活性には、本質的な増加があった。ASPHワクチン投与のみまたは抗PD-1投与のみと比較して、併用治療では、最も高レベルの活性が観察された。したがってこれらの試験は、PD-1遮断とファージ免疫化の併用治療により、インビボで起こる抗腫瘍効果にとって決定的に必要なタイプの細胞性免疫応答が達成されることを実証した。
【0092】
図7Aは、4つの群におけるBNL腫瘍の組織学的外観を示している。免疫組織化学(IHC)によって測定されるASPH発現はロバストであり、すべての腫瘍処置群で等しい。
図7Bは、対照と比較した、抗PD1阻害剤のみまたはワクチンのみおよびPD-1阻害剤とワクチン投与との両方の併用で処置した動物の腫瘍へのCD3
+T細胞(茶色)の浸潤を示している。
図7Cは、対照と比較して、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみよりさらに有意な、併用の相乗効果を示している。併用処置された腫瘍ではCD3
+T細胞(TIL)の浸潤が著しく予想外に強化されている。この知見は、併用治療による腫瘍の成長および進行の劇的な減少の説明の一つになる。
【0093】
重要なことに、ASPH発現BNL細胞によって生成させた肝がんモデルのワクチン群および併用群のマウスでは、抗原(ASPH)特異的抗体(B細胞応答)が検出された(
図8)。
【0094】
実施例2:ASPHに対するファージワクチン接種と抗PD-1チェックポイント阻害剤治療の逐次施行および同時施行は、組み合わせて送達した場合に、同系マウスモデルにおける乳腫瘍の成長および進行を著しく予想外に低減する
以下に述べる実験では当技術分野において認識されている同系マウスモデルを使用した。実験プロトコールを
図9に示す。以下のとおり、4つのマウス群(n=10/群):1)対照、2)PD-1遮断(マウス抗PD-1 mAb)のみ、3)N末端ASPHペプチド(表4のSEQ ID NO:47)を発現するラムダ1ファージワクチン、および4)PD-1遮断+ワクチン。N末端ヒトASPHペプチドを発現するファージワクチンを使って、動物を、1週間間隔で3回、免疫化してから、4T1マウス乳がん細胞の正所性(乳房脂肪パッド)接種を行い、その後、5~6週間にわたって週に2回投与される抗PD-1モノクローナル抗体によるPD-1遮断を行った。腫瘍サイズは記載されているように測定した(例えばIwagami et al.,Heliyon 2017;3:e00407参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。
図10に図示するグラフからわかるように、対照(無処置)をPD-1遮断+ワクチン群と比較すると、乳がんの発生と成長に顕著な相違があった。
図11は、腫瘍成長に対するワクチンのみまたはPD-1遮断のみのあまり大きくない抗腫瘍効果も示しており、それらは対照群と併用群の中間である。BALB/cマウスでの原発性腫瘍の成長と乳がんの肺転移の両方に対する併用治療の顕著な予想外の効果に注目されたい(
図12)。抗PD-1抗体+ASPHに対するファージワクチン接種を受けたマウスでは、観察期間全体にわたって、乳がんの成長、進行および多臓器転移(肝臓、リンパ節、脾臓、副腎および腎臓など、異なる遠隔部位におけるもの)が劇的に低減している(
図13A~13C)。さらにまた、ワクチン接種マウスではPD-1阻害剤の用量依存的抗腫瘍効果が観察された(
図14および15)。高用量(200μg)のPD-1阻害剤は、原発性腫瘍の成長と肺転移の両方に対して最大の阻害効果を示した。
【0095】
CD8
+
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびCD4
+
ヘルパーT細胞の抗原特異的活性化がラムダ1ファージ免疫化とPD-1遮断によって刺激されることが、フローサイトメトリー、インビトロ細胞傷害性、免疫組織化学およびELISAによって実証される。
【0096】
腫瘍の発生および成長に対して内在性免疫系によって媒介される抗腫瘍効果を上げるには、CD8
+細胞とCD4
+細胞の両方の活性化が必要である。CD8
+CTL活性を測定する細胞傷害性アッセイは、以下に述べるように行った:4T1細胞を96ウェルプレートに播種し、1時間付着させた後、実施例2、
図9に記載するさまざまな4つの群に由来する脾細胞の懸濁液を、2:1~20:1のさまざまな脾細胞対標的細胞比で、4時間、加えた。4T1細胞からのLDH放出を記載のとおり細胞傷害活性の指標として測定した(例えばShimoda et al.,J. Hepatol. 2012;56:1129-1135参照。この文献の内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる)。対照脾細胞を抗PD-1+ワクチン投与の組合せから得られたものと比較すると、CTL活性の著しく相乗的な増加があった。例えば、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤の複合的効果は、各剤を別々に使用した場合の精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトの効果とチェックポイント阻害剤の効果の和よりも大きい。抗PD-1のみおよびワクチンのみでは中間の応答が生成し、ファージワクチン接種は4T1標的細胞溶解に関して抗PD-1投与(PD-1遮断)と同程度に有効だった。(
図16)。
【0097】
フローサイトメトリー分析による、脾細胞集団中の活性化された抗原(ASPH)特異的CD4
+細胞およびCD8
+細胞のパーセンテージを
図17に示す。ファージワクチンおよび培養細胞に添加された組換えASPHタンパク質による刺激後に、IFNγの分泌によって測定されるASPH特異的CD4
+およびCD8
+活性には、本質的な増加があった。ASPHワクチン投与のみまたは抗PD-1投与のみと比較して、併用治療では、最も高レベルの活性が観察された。したがってこれらの研究は、PD-1遮断とファージ免疫化の併用治療により、インビボで起こる抗腫瘍効果にとって決定的に必要なタイプの細胞性免疫応答が達成されることを実証している。
【0098】
図18Aおよび18Bは、対照、抗PD-1阻害剤のみ、ワクチン群のみ、およびPD-1阻害剤とワクチン投与の併用での、原発性腫瘍へのCD3
+T細胞(茶色)の浸潤を示している。
図19は、対照と比較して、ワクチンのみまたはPD-1阻害剤のみのどちらかよりも強い、肺転移に対する併用の実質的相乗効果を示している。併用群では、原発性腫瘍でも肺転移でも、CD3+T細胞(TIL)のうち、CD8
+エフェクター細胞傷害性CTL(
図20Aおよび20B)とCD45RO
+メモリーCTL(
図21Aおよび21B)の浸潤が、著しく相乗的に強化されている。この知見は、併用治療による腫瘍の成長および進行の劇的で相乗的な減少の説明の一つになる。
【0099】
重要なことに、4T1細胞によって生成させた乳がんモデルのワクチン群および併用群のマウスでは、抗原(ASPH)特異的抗体(B細胞応答)が検出された(
図22)。
【0100】
【0101】
他の態様
本発明をその詳細な説明と合わせて記載したが、上記の説明は本発明を例示しようとするものであって、添付の特許請求の範囲によって規定されるその範囲を限定しようとするものではない。他の局面、利点および変更態様は、特許請求の範囲の範囲内にある。
【0102】
本明細書において言及する特許文献および科学文献は、当業者にとって利用可能である知識を立証している。本明細書において引用する参考文献、例えば米国特許、米国特許出願公開、米国を指定するPCT特許出願、公開された外国特許および特許出願は、いずれも、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本明細書において引用するアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBI提出物は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用する他の公表された参考文献、文書、原稿および科学文献は、いずれも、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合は、定義を含めて本明細書が優先される。加えて、材料、方法および実施例は単なる例示であって、限定を意図していない。
【0103】
本発明をその好ましい実施形態について具体的に示し、説明したが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、その形態および詳細にさまざまな変更を加えうることは、当業者には理解されるであろう。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトの逐次投与および/または同時投与を含む、対象における腫瘍を処置するための免疫治療のための組成物であって、
該組成物が、精製腫瘍抗原および免疫チェックポイント阻害剤を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、対象における腫瘍を処置するためのチェックポイント阻害剤、該組成物が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記組成物。
【請求項2】
抗原が、アスパラギン酸ベータ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)またはその抗原フラグメントである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:47)を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:
48)を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項8】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項9】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであり、樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
チェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)阻害剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
PD-1阻害剤が抗プログラム死リガンド1(PD-L1)モノクローナル抗体である、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減する、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
内在性免疫系を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
分化抗原群8(CD8)
+細胞の活性化、分化抗原群4(CD4)
+細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化を刺激する、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
対象における腫瘍を処置するための免疫治療方法であって、
該方法が、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトを対象に投与する工程、およびチェックポイント阻害剤を投与する工程を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、該方法が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記方法。
【請求項21】
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項22記載の方法。
【請求項26】
精製ASPH抗原が、
のHLAクラスII拘束性配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項27】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項28】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項20記載の方法。
【請求項29】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項20記載の方法。
【請求項31】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
免疫化が、予防的免疫化および追加免疫化を含む、請求項20記載の方法。
【請求項35】
予防的免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
追加免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、請求項34記載の方法。
【請求項37】
チェックポイント阻害剤が、ワクチンコンストラクトと同時におよび/または逐次的に投与される、請求項20記載の方法。
【請求項38】
チェックポイント阻害剤が、5週間または6週間、週に2回、ワクチンと同時におよび/または逐次的に投与される、請求項20記載の方法。
【請求項39】
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、請求項20記載の方法。
【請求項40】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項20記載の方法。
【請求項41】
腫瘍が、肝細胞がん、胆管がん、非小細胞肺がん、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、胃がん、膵がん、食道がん、軟部組織がん、肉腫、骨肉腫、大腸がん、腎がん、骨髄性白血病、前立腺がん、膠芽腫、およびリンパ性白血病から選択される、請求項20記載の方法。
【請求項42】
腫瘍が肝細胞がんである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減することと関連する、請求項20記載の方法。
【請求項44】
内在性免疫系を刺激することと関連する、請求項20記載の方法。
【請求項45】
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成と関連する、請求項20記載の方法。
【請求項46】
CD8
+細胞の活性化、CD4
+細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化と関連する、請求項20記載の方法。
【請求項47】
活性構成要素としての請求項1~19のいずれか一項記載の組成物と薬学的に許容される担体とを含む、請求項20~46のいずれか一項記載の方法のための薬学的組成物。
【請求項48】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤とを含む、コンビナトリアル組成物であって、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられている、前記組成物。
【請求項49】
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、請求項48記載の組成物。
【請求項50】
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、請求項49記載の組成物。
【請求項51】
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、請求項50記載の組成物。
【請求項52】
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、請求項50記載の組成物。
【請求項53】
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、請求項50記載の組成物。
【請求項54】
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、請求項50記載の組成物。
【請求項55】
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、請求項50記載の組成物。
【請求項56】
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、請求項48記載の組成物。
【請求項57】
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、請求項56記載の組成物。
【請求項58】
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項48記載の組成物。
【請求項59】
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、請求項58記載の組成物。
【請求項60】
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、請求項58記載の組成物。
【請求項61】
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、請求項58記載の組成物。
【請求項62】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤とを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における転移を阻害するための免疫治療方法。
【請求項63】
ワクチンが、皮内経路、皮下経路、鼻腔内経路、筋肉内経路、腫瘍内経路、節内経路、リンパ管内経路、静脈内経路、胃内経路、腹腔内経路、腟内経路、膀胱内経路、または経皮経路によって投与される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーターとを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における原発性腫瘍の成長を阻害するための免疫治療方法。
【請求項65】
免疫モジュレーターがチェックポイント阻害剤を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
低い遺伝子変異量が、0.001から≦1の体細胞変異/メガベースを含む、請求項19記載の組成物。
【請求項67】
請求項1記載の組成物を対象に投与する工程を含む、対象における腫瘍の成長を阻害するためまたは対象における腫瘍の転移を阻害するための方法。
【請求項68】
対象への組成物の投与が、対象における腫瘍成長または腫瘍転移の相乗的阻害を生じる、請求項67記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、その好ましい態様の以下の説明および特許請求の範囲から明白になる。別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験では、本明細書に記載するものと類似するか等価な方法および材料を使用することができるが、適切な方法および材料を以下に説明する。
[本発明1001]
腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトの逐次投与および/または同時投与を含む、対象における腫瘍を処置するための免疫治療のための組成物であって、
該組成物が、精製腫瘍抗原および免疫チェックポイント阻害剤を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、対象における腫瘍を処置するためのチェックポイント阻害剤、該組成物が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記組成物。
[本発明1002]
抗原が、アスパラギン酸ベータ-ヒドロキシラーゼ(ASPH)またはその抗原フラグメントである、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、本発明1002の組成物。
[本発明1004]
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:47)を含む、本発明1003の組成物。
[本発明1005]
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチド(SEQ ID NO:49)を含む、本発明1003の組成物。
[本発明1006]
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、本発明1003の組成物。
[本発明1007]
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、本発明1003の組成物。
[本発明1008]
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、本発明1003の組成物。
[本発明1009]
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1010]
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであり、樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、本発明1009の組成物。
[本発明1011]
チェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)阻害剤である、本発明1001の組成物。
[本発明1012]
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、本発明1011の組成物。
[本発明1013]
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、本発明1011の組成物。
[本発明1014]
PD-1阻害剤が抗プログラム死リガンド1(PD-L1)モノクローナル抗体である、本発明1011の組成物。
[本発明1015]
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減する、本発明1001の組成物。
[本発明1016]
内在性免疫系を刺激する、本発明1001の組成物。
[本発明1017]
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成を刺激する、本発明1001の組成物。
[本発明1018]
分化抗原群8(CD8)
+
細胞の活性化、分化抗原群4(CD4)
+
細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化を刺激する、本発明1001の組成物。
[本発明1019]
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、本発明1001の組成物。
[本発明1020]
対象における腫瘍を処置するための免疫治療方法であって、
該方法が、精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトを対象に投与する工程、およびチェックポイント阻害剤を投与する工程を含み、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられており、該方法が、対象における自己免疫を誘導することなく抗腫瘍免疫応答を増強する、前記方法。
[本発明1021]
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、本発明1020の方法。
[本発明1022]
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、本発明1021の方法。
[本発明1023]
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、本発明1022の方法。
[本発明1025]
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、本発明1022の方法。
[本発明1026]
精製ASPH抗原が、
のHLAクラスII拘束性配列を含む、本発明1022の方法。
[本発明1027]
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、本発明1022の方法。
[本発明1028]
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、本発明1020の方法。
[本発明1029]
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、本発明1028の方法。
[本発明1030]
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、本発明1020の方法。
[本発明1031]
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、本発明1030の方法。
[本発明1033]
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、本発明1030の方法。
[本発明1034]
免疫化が、予防的免疫化および追加免疫化を含む、本発明1020の方法。
[本発明1035]
予防的免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、本発明1034の方法。
[本発明1036]
追加免疫化が、ワクチンコンストラクトを1週間間隔で3回、対象に投与する工程を含む、本発明1034の方法。
[本発明1037]
チェックポイント阻害剤が、ワクチンコンストラクトと同時におよび/または逐次的に投与される、本発明1020の方法。
[本発明1038]
チェックポイント阻害剤が、5週間または6週間、週に2回、ワクチンと同時におよび/または逐次的に投与される、本発明1020の方法。
[本発明1039]
腫瘍が、低い遺伝子変異量を有するがんである、本発明1020の方法。
[本発明1040]
腫瘍が固形腫瘍である、本発明1020の方法。
[本発明1041]
腫瘍が、肝細胞がん、胆管がん、非小細胞肺がん、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、胃がん、膵がん、食道がん、軟部組織がん、肉腫、骨肉腫、大腸がん、腎がん、骨髄性白血病、前立腺がん、膠芽腫、およびリンパ性白血病から選択される、本発明1020の方法。
[本発明1042]
腫瘍が肝細胞がんである、本発明1041の方法。
[本発明1043]
腫瘍の発生、腫瘍の成長、腫瘍の進行、異なる部位への転移拡散、またはそれらの組合せを低減することと関連する、本発明1020の方法。
[本発明1044]
内在性免疫系を刺激することと関連する、本発明1020の方法。
[本発明1045]
ASPH特異的B細胞免疫応答の生成、ASPH特異的T細胞免疫応答の生成、またはそれらの組合せの生成と関連する、本発明1020の方法。
[本発明1046]
CD8
+
細胞の活性化、CD4
+
細胞の活性化、またはそれらの組合せの活性化と関連する、本発明1020の方法。
[本発明1047]
活性構成要素としての本発明1001~1019のいずれかの組成物と薬学的に許容される担体とを含む、本発明1020~1046のいずれかの方法のための薬学的組成物。
[本発明1048]
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトとチェックポイント阻害剤とを含む、コンビナトリアル組成物であって、該腫瘍が、低頻度のネオアンチゲン発現を含むと特徴づけられている、前記組成物。
[本発明1049]
抗原が、ASPHまたはその抗原フラグメントである、本発明1048の組成物。
[本発明1050]
ワクチンコンストラクトが精製ASPH抗原を発現する、本発明1049の組成物。
[本発明1051]
精製ASPH抗原が、精製N末端ASPHペプチドを含む、本発明1050の組成物。
[本発明1052]
精製ASPH抗原が、精製C末端ASPHペプチドを含む、本発明1050の組成物。
[本発明1053]
精製ASPH抗原が、SEQ ID NO:1~45からなる群より選択される精製ペプチドである、本発明1050の組成物。
[本発明1054]
精製ASPH抗原が、
のヒト白血球抗原(HLA)クラスII拘束性配列を含む、本発明1050の組成物。
[本発明1055]
精製ASPH抗原が、YPQSPRARY(SEQ ID NO:26)のHLAクラスI拘束性配列を含む、本発明1050の組成物。
[本発明1056]
ワクチンコンストラクトが、ファージワクチンまたは樹状細胞ワクチンを含む、本発明1048の組成物。
[本発明1057]
ファージワクチンがラムダファージベースのワクチンであるか、または樹状細胞ワクチンが単離ASPH負荷樹状細胞を含む、本発明1056の組成物。
[本発明1058]
チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、本発明1048の組成物。
[本発明1059]
PD-1阻害剤が、PD-1阻害抗体、PD-1阻害核酸、PD-1阻害性低分子、またはPD-1リガンド模倣物である、本発明1058の組成物。
[本発明1060]
PD-1阻害剤が抗PD-1モノクローナル抗体である、本発明1058の組成物。
[本発明1061]
PD-1阻害剤が抗PD-L1モノクローナル抗体である、本発明1058の組成物。
[本発明1062]
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫チェックポイント阻害剤とを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における転移を阻害するための免疫治療方法。
[本発明1063]
ワクチンが、皮内経路、皮下経路、鼻腔内経路、筋肉内経路、腫瘍内経路、節内経路、リンパ管内経路、静脈内経路、胃内経路、腹腔内経路、腟内経路、膀胱内経路、または経皮経路によって投与される、本発明1062の方法。
[本発明1064]
精製腫瘍抗原に対する免疫化のためのワクチンコンストラクトと免疫モジュレーターとを対象に同時におよび/または逐次的に投与する工程を含む、対象における原発性腫瘍の成長を阻害するための免疫治療方法。
[本発明1065]
免疫モジュレーターがチェックポイント阻害剤を含む、本発明1064の方法。
[本発明1066]
低い遺伝子変異量が、0.001から≦1の体細胞変異/メガベースを含む、本発明1019の組成物。
[本発明1067]
本発明1001の組成物を対象に投与する工程を含む、対象における腫瘍の成長を阻害するためまたは対象における腫瘍の転移を阻害するための方法。
[本発明1068]
対象への組成物の投与が、対象における腫瘍成長または腫瘍転移の相乗的阻害を生じる、本発明1067の方法。
【国際調査報告】