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特表2022-512415酸化タングステンナノ粒子を合成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(54)【発明の名称】酸化タングステンナノ粒子を合成する方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/02 20060101AFI20220127BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20220127BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20220127BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C01G41/02
C09D11/037
C09D11/326
C09C3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533573
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019083640
(87)【国際公開番号】W WO2020120250
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】1872893
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515357185
【氏名又は名称】ジーンズインク エスア
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(72)【発明者】
【氏名】リマージュ ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルシーニ コリン
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン ルイ-ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】エル カセミ ヴィルジニー
【テーマコード(参考)】
4G048
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AD04
4G048AE06
4G048AE08
4J037AA08
4J037CB09
4J037DD05
4J037DD07
4J037DD08
4J037EE14
4J037EE47
4J039AB02
4J039BA13
4J039BA36
4J039BE01
(57)【要約】
本発明は、酸化タングステンナノ粒子を合成する方法、及び特許請求の範囲に記載される合成方法に基づき得ることができる酸化タングステンナノ粒子に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンナノ粒子を合成する方法であって、以下の連続した工程:
a)ハロゲン化タングステン化合物を、120℃以上、好ましくは150℃以上の標準沸点を有するアルコール中に溶解する工程と、
b)温度を、60℃と前記アルコールの前記標準沸点の5℃未満との間、好ましくは70℃と100℃との間の値に制御する工程と、
c)シュウ酸を添加する工程と、
d)前記温度を、80℃と前記アルコールの前記標準沸点の5℃未満との間の値、好ましくは工程b)の前記温度より少なくとも高い温度に制御する工程と、
e)シュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化タングステン化合物は、六塩化タングステンである、請求項1に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項3】
前記アルコールは、ポリオール及び/又はポリオール誘導体である、請求項1又は2に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項4】
前記アルコールは、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、及び/又はこれらの上述のアルコールの混合物である、請求項3に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項5】
前記アルコールは、エチレングリコール及び/又はジエチレングリコールである、請求項4に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項6】
前記工程a)及び工程b)の結果として得られる溶液は、0.005から0.1の間、好ましくは0.010~0.025の間のハロゲン化タングステン化合物(例えば、六塩化タングステン(WCl))対アルコール(例えば、ジエチレングリコール)のモル比を特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項7】
前記シュウ酸を、前記工程c)で使用される前に、0.001~0.1の間、好ましくは0.005から0.020の間のシュウ酸対水のモル比で水中に溶解する、請求項1~6の何れか1項に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項8】
前記酸化タングステンナノ粒子は、長球形である、請求項1~7の何れか1項に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項9】
透過型電子顕微鏡法によって得られた画像の測定による前記酸化タングステンナノ粒子の平均面積は、1nm~20nmの間、好ましくは5nm~15nmの間であり、及び/又は前記ナノ粒子の平均周長は、3nm~20nmの間、好ましくは5nm~15nmの間であり、及び/又は前記酸化タングステンナノ粒子の平均直径は、0.5nm~7nmの間、好ましくは1nm~5nmの間である、請求項8に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項10】
前記酸化タングステンナノ粒子は、10nm未満のD50値を有する、請求項8に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項11】
前記工程e)で得られた前記酸化タングステンナノ粒子を、前記酸化タングステンナノ粒子に化学的又は物理的に結合されていないあらゆるものを除去することを可能にする洗浄に供し、ここで、前記洗浄はエタノールを使用して行われ、かつ前記酸化タングステンナノ粒子は、引き続き25mg/gを超えるエタノール中の酸化タングステンナノ粒子の濃度でエタノール中に保持される、請求項1~10の何れか1項に記載の酸化タングステンナノ粒子を合成する方法。
【請求項12】
シュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子を製造するための、請求項1~11の何れか1項に記載の合成方法の使用であって、シュウ酸配位子の量を、前記合成方法の工程c)及び工程d)の間に温度及び/又はシュウ酸の濃度を介して制御することを特徴とする、酸化タングステンナノ粒子の使用。
【請求項13】
請求項1~11の何れか1項に記載の合成方法によって得られる、シュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子。
【請求項14】
インキ配合物における、請求項13に記載のシュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子の使用であって、前記酸化タングステンナノ粒子を合成する工程の間に、かつインキを配合する前の全ての工程の間に常に液相が存在することを特徴とする、酸化タングステンナノ粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タングステンナノ粒子を合成する方法に関する。本発明はまた、特許請求の範囲に記載される合成方法に基づき得ることが可能な酸化タングステンナノ粒子に関する。より詳細には、本発明は、多数の用途で有利に使用することができる広範囲のインキへと配合することができる酸化タングステンナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
三酸化タングステン(WO3)は、その非常に有望な特性により、非常に幅広い潜在的な利用分野を有している。実例は、太陽電池、リチウム電池、光触媒、ガスセンサ、エレクトロクロミックデバイス及び/又は電子デバイスの分野での、並びにスーパーキャパシタ電極の形での使用である。
【0003】
利用可能な合成方法の主な不利点は、単一の再現可能な合成方法を使用して、上記の多数の用途で後に使用することが可能となる形態及び特性を有する三酸化タングステンを調製することができないことにある。
【0004】
酸化タングステンを合成するための最も普及している方法の1つは、タングステン酸ナトリウムNa2WO4・2H2Oを水に溶解し、ゲルが得られるまで溶液を塩酸HClと混和し、引き続き上記ゲルを溶解して安定化された分散液を得ることを含む。この手法は、例えば、中間ゲルの特性評価の難しさ、その再現性の難しさ、及び信頼できる工業的利用に適合し得ない不純物のレベルを含む様々な理由で上述の不利点を示す。
【0005】
非特許文献1は、タングステン酸ナトリウムからのこの種類の合成の優れた典型例である。その記事の第928頁の左側欄には、白色のゼラチン質の沈殿物(特定評価されていない)を得ることがまさに上記プロセスの必須の合成工程を構成することが述べられており、これは上述の不利点を示唆している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】2000年4月のジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ・アンド・テクノロジー(J. Mater. Res.)第15巻,第4号,第927頁,「ナノ結晶性酸化タングステン薄膜(Nanocrystalline tungsten oxide thin film:)」と題されたサンら(Sun et al.)による
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多数の様々なインキへと配合することができる三酸化タングステンナノ粒子の簡単で再現的な調製を可能にする代替的な合成方法を提供することによって先行技術の1つ以上の不利点を克服し、従って多数の用途でこれらを使用することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、上記目的は、以下の連続した工程:
a)ハロゲン化タングステン化合物を、120℃以上、好ましくは150℃以上の標準沸点を有するアルコール中に溶解する工程と、
b)温度を、60℃とアルコールの標準沸点の5℃未満との間、好ましくは70℃と100℃との間の値に制御する工程と、
c)シュウ酸を添加する工程と、
d)温度を、80℃とアルコールの標準沸点の5℃未満との間の値、好ましくは工程b)の温度より少なくとも高い温度に制御する工程と、
e)シュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子を得る工程と、
を含む、酸化タングステンナノ粒子を合成する方法によって達成される。
【0009】
本発明の文脈において、あらゆるハロゲン化タングステン化合物、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはフッ素原子及び/又はこれらの原子の2つ以上の混合物を含むと共に、任意にまた1つ以上の酸素原子を含むタングステン化合物を有利に使用することができる。実例は、臭化タングステン(II)、塩化タングステン(II)、ヨウ化タングステン(II)、臭化タングステン(III)、塩化タングステン(III)、四塩化タングステン(IV)、臭化タングステン(V)、塩化タングステン(V)、フッ化タングステン(V)、オキシ三臭化タングステン(V)、オキシ三塩化タングステン(V)、臭化タングステン(VI)、塩化タングステン(VI)、ジオキシ二臭化タングステン(VI)、ジオキシ二塩化タングステン(VI)、ジオキシ二ヨウ化(VI)、フッ化タングステン(VI)、オキシ四臭化タングステン(VI)、オキシ四塩化タングステン(VI)、オキシ四フッ化タングステン(VI)、及びハロゲン化タングステン(VI)である。本発明による好ましい一実施形態では、六塩化タングステンが使用される。本発明の文脈においては、あらゆる出所の六塩化タングステンを有利に使用することができる。98重量%を超える、好ましくは99重量%を超える六塩化タングステンの純度を示す市販の化合物が好ましい。実例として、以下の特徴:99%、式WCl6、分子量396.57、粉末形態、融点275℃、沸点346℃、及び密度3.52を有するアルファ・エイサー(Alfa Aesar)社製の六塩化タングステン(CAS番号13283-01-7)を用いて本発明の実施例を実施した。
【0010】
本発明の文脈においては、120℃以上、好ましくは150℃以上の標準沸点(即ち、1気圧(1013.25hPa)の圧力での沸点)の条件を満たす限りは、あらゆるアルコール、例えばポリオール及び/又はポリオール誘導体を有利に使用することができる。例としては、グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコールなど)、及び/又はグリコールエーテル(例えば、グリコールモノエーテル又はジエーテル、例としては、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、ジグリム、エチルジグリム、ブチルジグリムが挙げられる)、及び/又はグリコールエーテルアセテート(例えば、2-ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、及び/又は上述の溶剤の2つ以上の混合物が挙げられる。本発明による好ましい一実施形態では、使用されるアルコールは、グリコール、例えばエチレングリコール、又は好ましくはジエチレングリコールである。本発明の文脈においては、あらゆる出所のアルコールを有利に使用することができる。98重量%を超える、好ましくは99重量%を超えるアルコールの純度を示す市販の化合物が好ましい。
【0011】
1種のアルコール(好ましくは混合物中の最高濃度を有するアルコール)が120℃以上、好ましくは150℃以上の標準沸点の条件を満たす限りは、2種(又はそれより多種)の異なるアルコールの混合物をハロゲン化タングステン化合物のための溶剤として使用することができる。好ましくは、アルコールの混合物の場合に、存在する全てのアルコールは、120℃以上、好ましくは150℃以上の標準沸点の条件を満たす。
【0012】
本発明による合成方法の好ましい変形形態とはならないが、追加の非アルコール性溶剤も工程a)の間に許容される。
【0013】
本発明による特定の一実施形態では、選択されるアルコールは、グリコール、例えば、非置換のグリコール、より詳細にはエチレングリコール、好ましくはジエチレングリコールである。そのアルコールは、好ましくは、工程a)で使用される溶剤の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、更には100重量%に相当する。
【0014】
本発明による特定の一実施形態では、工程a)及び工程b)の結果として得られる溶液は、澄明な青色の溶液である。本発明による特定の一実施形態では、工程a)及び工程b)の結果として得られる溶液は、0.001~0.5の間、例えば0.005~0.1の間、好ましくは0.010~0.025の間のハロゲン化タングステン化合物(例えば、六塩化タングステン(WCl6))対アルコール(例えば、ジエチレングリコール)のモル比を特徴とする。
【0015】
本発明の文脈においては、あらゆる出所のシュウ酸を有利に使用することができる。98重量%を超える、好ましくは99重量%を超えるシュウ酸の純度を示す市販の化合物が好ましい。本発明による合成方法の好ましい変形形態とはならないが、シュウ酸二水和物を使用することも可能である。
【0016】
本発明による特定の一実施形態では、シュウ酸をまず溶解させた後に、上述の工程c)で使用する。実例として、この溶解は、有利には水中で行われ得る。本発明による特定の一実施形態では、温度が少なくとも25℃、好ましくは少なくとも40℃となるようにシュウ酸溶液の温度を制御及び/又は加熱した後に、そのシュウ酸溶液を上述の工程c)で使用する。この温度は、例えば90℃未満、好ましくは80℃未満であることとなる。本発明による特定の一実施形態では、工程c)で使用される前に、シュウ酸は澄明な無色の溶液の形で存在する。本発明による特定の一実施形態では、工程c)で使用される前に、シュウ酸溶液は、0.0005~0.5の間、例えば0.001~0.1の間、好ましくは0.005~0.020の間のシュウ酸対水のモル比を特徴とする。
【0017】
本発明による特定の一実施形態では、工程c)は、反応媒体の発色が濃い青色に変わることを特徴とする。本発明による一実施形態では、工程c)は、0.0001~0.1の間、例えば0.0005~0.030の間、好ましくは0.001~0.015の間のハロゲン化タングステン化合物(例えば、六塩化タングステン(WCl6))対溶剤(例えば、ジエチレングリコール及び水)のモル比を特徴とし、ここで、上記比は、WCl6のモル数を、ジエチレングリコールのモル数と水のモル数との合計で割ったものに相当する。
【0018】
本発明による特定の一実施形態では、工程c)は、0.0005~0.2の間、例えば0.001~0.05の間、好ましくは0.004~0.012の間のシュウ酸対溶剤(好ましくは、ジエチレングリコール及び水)のモル比を特徴とし、ここで、上記比は、シュウ酸のモル数を、ジエチレングリコールのモル数と水のモル数との合計で割ったものに相当する。
【0019】
本発明による特定の一実施形態では、工程c)は、0.25~0.75の間、例えば0.4~0.6の間、好ましくは0.45~0.55の間の六塩化タングステン(WCl6)対シュウ酸のモル比を特徴とする。
【0020】
本出願人は、本発明による合成方法により、既存の合成方法では得ることができなかったシュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子が入手可能となることを見い出した。これらの新しいナノ粒子は、優れた形態及びシュウ酸配位子の優れた含有量を特徴とする。
【0021】
この説明に縛られることを望むものではないが、本出願人は、上記で規定された合成工程の組み合わせによって、より詳細には工程c)及び工程d)の間の温度及びシュウ酸濃度の変動の制御によって、用途の広いナノ粒子、即ち、様々な形態及びシュウ酸配位子の含有量を示すナノ粒子の製造が可能となったと考えている。従って、本発明はまた、合成方法の工程c)及び工程d)の間の温度及びシュウ酸濃度の変動を介して制御される形態及びシュウ酸配位子の含有量を有する酸化タングステンナノ粒子を製造するための特許請求の範囲に記載される合成方法の使用に関する。これにより、これらのナノ粒子は汎用的となり、つまり、これらのナノ粒子を様々な用途向けのインキへと配合することができる。
【0022】
更に、本出願人はまた、このようにして得られた酸化タングステンナノ粒子を多数の様々なインキへと配合することができ、従ってこれらの酸化タングステンナノ粒子を多数の用途で使用することが可能となることも見い出した。同様に、酸化タングステンナノ粒子の合成の間から、上記ナノ粒子を含むインキの配合及びそれらの最終用途までを通して液相を維持することによって、このインキとしての使用及び利用の幅広い可能性が可能となるように思われる。従って、以下に示されるように、本発明の特定の一実施形態によれば、酸化タングステンナノ粒子を調製する工程の間、及びインキ配合物に使用される他の化合物を添加する前の全ての工程(例えば、以下で言及される洗浄工程及び精製工程)の間に、常に液相が存在する。つまり、本発明による好ましい特徴において、酸化タングステンナノ粒子は、インキとしてのそれらの最終用途の前に決して単離及び乾燥されない。従って、好ましくは、酸化タングステンナノ粒子は、これらが分散されている液相(例えば、溶剤)と継続的に接触したままである。このアプローチにより、ナノ粒子を単離/乾燥する工程を一切省くことができ、その結果、生産コスト並びに個人の健康及び安全性の面で優れた影響を伴う。更に、本出願人は、単離/乾燥工程が、必然的にシュウ酸配位子の部分的な破壊又はそれどころか完全な破壊にもつながり、それにより本発明の利点から恩恵を受ける可能性が打ち消されると考えている。
【0023】
本発明による特定の一実施形態では、特許請求の範囲に記載される方法の工程e)で得られた酸化タングステンナノ粒子は、ナノ粒子に化学的又は物理的に結合されていないあらゆるものを除去することを可能にする洗浄に供される。この洗浄は、好ましくはアルコールを用いて行われ、実例として、好ましくはエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール及びヘキサノール、並びにそれらの異性体(例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール)、及び/又は上記一価脂肪族アルコールの2種以上の混合物から成る群から選択される一価脂肪族アルコールを使用することができる。エタノールが好ましいアルコールであり、酸化タングステンナノ粒子は、引き続き好ましくはエタノール中に保持される。洗浄を、有利には遠心分離及び/又は重力沈降によって行うこともできる。得られる最終的な溶液は、好ましくは、エタノール中の25mg/gを超えるWO3-x・xH2O、例えば、エタノール中の50mg/gを超えるWO3-x・xH2Oの濃度を特徴とする。この溶液は、好ましくは濃い青色であり、例えば2℃~10℃の間、例えば3℃~5℃の間の温度で冷蔵庫に保管される。
【0024】
本発明による酸化タングステンナノ粒子を基礎とするインキは多くの利点を示し、そのうち、非限定的な例として、以下:
a)塗布後:現在OPVで使用されている塗布されるPEDOT:PSS(空気及び配合物での酸性度に影響を受けやすい)よりもはるかに高い経時安定性、
b)それらの利用分野における多様性;好ましい例として、オプトエレクトロニクス、太陽電池、及びセキュリティが挙げられる、
c)溶剤及びナノ粒子の非毒性、
d)ナノ粒子の固有の特性の保全、そして特に、
e)電子特性の保全、
が挙げられる。
【0025】
従って、本発明により、小サイズのシュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子が入手可能となる。これらのナノ粒子は、多様で様々な形態を取り得る;実例としては、予め規定された形状を有しない場合に、ビーズ(例えば、1nm~100nm)、ロッド(例えば、200nm~300nm未満の長さL)、ワイヤ(例えば、数100nm又は更には数μmの長さを有する)、ディスク、星状体(stars)、角錐体、四脚体(tetrapods)、又は結晶体(crystals)が挙げられる。
【0026】
本発明の一変形実施形態によれば、ナノ粒子は、1nmから50nmの間、好ましくは2nmから20nmの間の寸法を有する。本出願人は、10nm未満の寸法を有するナノ粒子の製造さえも繰り返しかつ一貫して達成しており、これはこの分野ではかなりの進歩とみなされる。
【0027】
本発明の好ましい一変形実施形態によれば、特許請求の範囲に記載される合成方法は、その特徴的な工程によって、長球形状及び/又は球形状を有するナノ粒子を入手可能にした。本発明及び以下の特許請求の範囲では、「長球形状」という用語は、形状が球形状に似ているが、完全な円形ではない(「準球形」)、例えば楕円体形状であることを表している。ナノ粒子の形状及びサイズは、有利には、顕微鏡によって、より詳細には、サーモフィッシャー・サイエンティフィック(ThermoFisher Scientific)社製の透過型電子顕微鏡(TEM)機器によって、以下の実施例に記載される指示に従って判定され得る。従って、本発明のこの変形実施形態によれば、ナノ粒子は長球形であり、好ましくは、このTEM判定によって、1nm2~20nm2の間、好ましくは5nm2~15nm2の間の平均ナノ粒子面積、及び/又は3nm~20nmの間、好ましくは5nm~15nmの間の平均ナノ粒子周長、及び/又は0.5nm~7nmの間、好ましくは1nm~5nmの間の平均ナノ粒子直径により特徴付けられる。本発明のこの変形実施形態によれば、ナノ粒子は長球形であり、代替的に、マルヴェルン(Malvern)社製のNanosizer S機器によって以下の実施例に記載の指示に従って、1nm~50nmの間、好ましくは2nm~20nmの間、例えば10nm未満のD50値で特徴付けられる。D50は、ナノ粒子の個数基準で50%が下回る直径である。
【0028】
本発明によるナノ粒子合成の特定の例を、以下で例示として説明する:一方の容器内で80℃で磁気撹拌しながら、澄明な青色の溶液が得られるまで、六塩化タングステンをジエチレングリコールと混合する。他方の容器で、周囲温度で磁気撹拌しながら、澄明な無色の溶液が得られるまでシュウ酸を水中に溶解する。引き続き、シュウ酸の水溶液を六塩化タングステン溶液に80℃で磁気撹拌しながら添加する。添加が完了したら、反応媒体の温度を111℃に高め、撹拌を3時間継続し、こうして(沈降及び洗浄後に)三酸化タングステンナノ粒子が入手可能となる。この合成により、高度に制御された粒子サイズ分布を有する三酸化タングステンナノスフェアが入手可能となる。
【0029】
従って、こうして得られたシュウ酸配位子を含む酸化タングステンナノ粒子は、多くの様々なインキへと有利に配合することができることから、多様で様々な用途を実現することが可能となる。
【0030】
本発明によるナノ粒子の追加の利点は、これらが非圧縮圧力条件下で、例えば、通常条件又は周囲条件に近い又はそれと同一である圧力条件で調製され得るということにある。通常又は周囲の圧力条件の値から40%未満外れた値を維持することが好ましい。例えば、本出願人は、ナノ粒子(及び任意にインキ)を調製する間の圧力条件を、通常条件又は周囲条件の値の前後で30%以下、好ましくは15%だけ変動する値に維持することが好ましいことを確認した。従って、これらの圧力条件の制御が、有利にはこれらの条件を満たすためにインキ調製装置に含まれ得る。
【0031】
非圧縮条件下での調製と関連する利点は、当然ながらより高い使用しやすさにも現れる。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、本発明によるナノ粒子に基づき配合されたインキは、有利には、あらゆる印刷方法、より詳細には、以下の印刷方法:インクジェット、吹き付け、ドクターブレード、スピンコーティング、及びスロットダイコーティングにおいて使用され得る。
【0033】
従って、本発明は、同様に「セキュリティ」、太陽電池、センサ(例えば、ガスセンサ)、タッチパッド、バイオセンサ、及び非接触技術の規定の分野における上記インキの使用に関する。
【0034】
従って、本発明が、特許請求の範囲に記載される本発明の利用分野から逸脱することなく、多くの他の特定の形の実施形態を可能にすることは当業者には明らかである。従って、本実施形態は例示的実施形態とみなされるべきであり、添付の特許請求の範囲によって規定される範囲内で変更され得る。
【実施例
【0035】
上記本文に記載される特定の合成例に従って、WO3ナノ粒子を得た。上記の詳細な説明における指示に従って、WO3ナノ粒子をエタノール中に保持した。
【0036】
熱重量分析による有機相(結晶格子に閉じ込められた水+シュウ酸)の%の測定
これらの測定を、TAインスツルメンツ(TA Instruments)社製の熱重量分析装置(TGA)を使用して、以下の特性に従って行った。
a)測定方法:TGA
b)昇温:20℃/分
c)温度範囲:周囲温度→600℃
【0037】
有機相の%は10%から15%の間である。
【0038】
ナノ粒子のサイズ及び形態の決定と統計
これらの測定を、サーモフィッシャー・サイエンティフィック(ThermoFisher Scientific)社製の透過型電子顕微鏡(TEM)機器を使用して、次の特性に従って行った。
a)TEM-BF(明視野画像)を300kVで作成した
b)低倍率用の50μm対物レンズ絞り
c)高解像度用の対物レンズ絞りなし
d)寸法測定をTEM画像においてDigital Micrographソフトウェアを使用して行った。
【0039】
測定値を以下の表に報告する(20個の粒子にわたる平均)。
【0040】
【表1】
【0041】
以下の表には、エレクトロニクス分野に特に適したインキ組成(同じWO3ナノ粒子から配合した)が含まれている。
【0042】
【表2】
【0043】
添加剤は、セルロース系レオロジー調整剤から選択されるレオロジー調整剤である。
【0044】
成分は、各組成物ついてそれらの重量基準の濃度と共に表に示されている。
【0045】
上記の3種の配合物は、以下の物理化学的特徴を有する。
【0046】
これらの3種のインキ組成物について粘度測定を行った。
【0047】
インキ粘度の測定
これらの測定を、TAインスツルメンツ(TA Instruments)社製のAR-G2レオメーター機器を使用して、次の特性に従って行った。
a)温度:20°C
b)せん断:10-40-1000s-1
c)1゜の円錐状スピンドル
【0048】
測定値を以下の表に報告する。
【0049】
【表3】
【0050】
これらの3種のインキ組成物について、粒子サイズ分布の研究も行った。
【0051】
これらの測定を、マルヴェルン(Malvern)社製のNanosizer S機器を使用して、次の特性に従って行った。
a)測定方法:DLS
b)セルタイプ:光学ガラス
c)材料:WO3
d)温度:20.0℃
e)インキSW91011についての粘度3cP、及びインキSW91014についての粘度3cP、及びインキSW91018についての粘度5.5cP
f)屈折率:インキSW91011については1.380、並びにインキSW91014及びSW91018については1.340
【0052】
流体力学的径及びD50値を、以下の表に報告する。
【0053】
【表4】
【0054】
これらの3種のインキ組成物について、表面張力測定も行った。
【0055】
これらの測定を、アポロ・インスツルメンツ(Apollo Instruments)社製の張力計機器を使用して、以下の特性:
a)ペンダントドロップ法
b)温度:20℃
c)インキSW91011についての密度0.803、及びインキSW91014についての密度0.981、及びインキSW91018についての密度0.985に従って行った。
【0056】
表面張力の値を、以下の表に報告する。
【0057】
【表5】
【0058】
上記の3種の配合物を硬質及び柔軟性のある支持体に塗布したところ、粗さ及び電気的特性の点で有望な結果が得られた。
【0059】
KLAテンコール(KLA Tencor)社製のAlpha Step IQ機械式形状測定装置で、3種のインキについて5nm未満の粗さが測定された。
【0060】
マイクロワールド(Microworld)社製のAMP55T機器でホール効果によって、SW91011について以下の電気的特性が測定された。
【0061】
【表6】
【0062】
3種の配合物を多層太陽電池システムにも組み込んだところ、電気的性能は有望である。
【0063】
従って、これらをプリンテッド・エレクトロニクス分野で、より詳細にはOPV(有機太陽電池)モジュールの実現のために、HTL層(正孔輸送層)の供給源として使用することを想定することができる。
【0064】
これらのインキは、以下の印刷方法及び以下のタイプのOPV構造に特に適している。
【0065】
【表7】
【国際調査報告】