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▶ アルセロールミタルの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-04
(54)【発明の名称】鋼をレーザー切断する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220128BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220128BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20220128BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/60
B23K26/38 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533543
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(85)【翻訳文提出日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 IB2019060016
(87)【国際公開番号】W WO2020121088
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/059988
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マノハール,ムラリ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168JA02
(57)【要約】
重量%で以下:C:0.01~0.29;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40;Cr:0.5~0.75、及び残りは鉄及び不純物である組成を有する合金鋼シート/プレートを、レーザー切断するための方法であって、この合金鋼は、Cu及びNiを意図的に加えられておらず、かつ0.05%未満の総累計量のCu及びNiしか含まない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法であって、以下の工程:
鋼切断レーザーを提供する工程;
レーザー切断可能な合金鋼シート/プレートを提供する工程であって、ここで、前記合金鋼シート/プレートは、重量%で、以下:
C:0.01~0.29;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40;Cr:0.5~0.75、及び残りは鉄及び不純物である組成を有し、前記合金鋼は、Cu及びNiが意図的に加えられておらずかつ0.05%未満の総累計量のCu及びNiしか含まず;
前記鋼切断レーザーからのレーザービームを前記レーザー切断可能な合金鋼シート/プレートに向ける工程;及び
前記レーザー切断可能な合金鋼シート/プレートを、前記レーザービームで切断する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記鋼は、Si:0.15~0.40をさらに含む、請求項1に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項3】
前記鋼は、C:0.10~0.25をさらに含む、請求項1に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項4】
前記鋼は、Mn:0.8~1.2をさらに含む、請求項3に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項5】
前記鋼は、Si:最大0.15をさらに含む、請求項4に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項6】
前記鋼は、Cr:0.55~0.75をさらに含む、請求項5に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項7】
前記鋼は、C:0.12~0.23をさらに含む、請求項1に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項8】
前記鋼は、Mn:0.8~1.05をさらに含む、請求項7に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項9】
前記鋼は、Si:0.02~0.14をさらに含む、請求項8に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【請求項10】
前記鋼は、Cr:0.55~0.72をさらに含む、請求項9に記載の合金鋼シート/プレートをレーザー切断するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、軟/低合金鋼をレーザー切断する方法、及びより詳細には、レーザー切断に好適な軟/低合金鋼を切断する方法に関する。具体的には、本発明は、レーザー切断に好適な改善された切断品質を有する軟/低合金鋼をレーザー切断するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
レーザー切断及びレーザー精密切断は、複雑な外形が正確、迅速かつ力をかけない処理を必要とする、種々の種類の素材に適用される。レーザーは、狭い切みぞ(切断によって作られるスリット)を作るので、高精度の切断を達成する。この方法は、最小限の歪みしかもたらさず、多くの場合、後処理が必要なく、構成成分は僅かな入熱に供されるだけであり、大抵は、切断ドロスをもたらさずに済む。
【0003】
ほぼ全ての金属が、レーザー切断され得る:軟鋼、ステンレス鋼及びアルミニウムは、最も一般的な適用である。他のレーザー切断パーツは、木、プラスチック、ガラス及びセラミックから作られる。ダイカッティングなどの代替の技術と比較すると、レーザー切断は、少量バッチ生産について費用効率が高い。レーザー切断の大きな利益は、小さな焦点径、小さな切みぞ幅及び高い削り速度をもたらす、局在化したレーザーエネルギー入力である。基本的に、レーザーによる金属の切断は、焦点を当てたレーザーの焦点内において、素材のそれ自体の融点より高い局所加熱を通して起こる。炭素及び低合金鋼の場合、このレーザービームと同軸の酸素の噴射が、アシストガスとして使用されて、酸素及び鋼による発熱反応が、実質的に切断作用に寄与する。得られた融解/酸化材料が、レーザービームと同軸に向けられたガス流によって除かれることにより、切みぞが形成される。低合金(軟)鋼について、詳細には、酸素が、切断ガスとして一般的に使用される。
【0004】
「CO2 laser beam cutting of steels: Material issues」,Murali Manohar,Journal of Laser Applications 18,101(2006)において述べられているように、通常、厚い(20~25mm)プレートにおけるきれいなかつ一定のレーザー切断品質を得るために、Cu、Ni、及びCrなどの残留元素は最小限であることが必須である。また、圧延(as-rolled)条件及びショットブラスト条件の両方において、良好なレーザー切断を確実にするために残留元素が最小限であることが必須であるので、鋼forレーザー切断についての鋼の適合性は、単純な「レーザー迅速パラメーター(LRP)」(LRP=%Cu+%Ni+%Crと規定されている)によって定量可能である。また、接着スケール及び密度スケールは、LRPの増大に伴って増大することも述べられており、後者は、0.45%~0.5%近くのLRP値にて水平になる。Manoharは、Cu-Niに富んだ層が、スケール-鋼境界に存在し、濃縮度は、Cu及びNiが増大するにつれ増大することを見出した。Manoharは、許容できるレーザー切断用(laser ready)鋼は、有意な量のCu及びNiを有していなければならず、Crは、重要性が低いかもしれないことを示しているとみられる。すなわち、Manoharは、「Cu及びNiを含む鋼は、それらの元素を含まないものよりもより良く切断されることが見出された。しかし、圧延ミルプレート及びショットブラストミルプレートによる結果とは対照的に、Cu及びNiが存在している場合であっても、Crは、ラボプレートにおいて、切断品質を低下させることが見出された」ことを決定した。このことは、Cu及びNiによって切断の間に果たされる役割は、Crによって果たされる役割とは異なっているかもしれないことを示唆する。Manoharは、Cu及びNiにのみ依存し、Crには依らない切断メカニズムを提唱している。
【0005】
Ni及びCuを非含有(0.84Crを含む)の軟鋼の32mm厚プレートのレーザー切断品質を簡潔に論じたが、Manoharは、より低価格の軟鋼が、0.3~0.35の間のCr及びLRPを0.45までにするよう過不足のないNi及びCuを用いて、製造され得ることを、示唆している。このような鋼が存在するというデータは、ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“CO2 laser beam cutting of steels:Material issues”,Murali Manohar,Journal of Laser Applications 18,101(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当該分野には、レーザー切断用(laser ready)軟/低合金鋼を、改善された切断品質で、レーザー切断する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、改善されたレーザー切断可能な鋼を、レーザー切断する方法である。本方法は、以下の工程を含む:鋼切断レーザーを提供する工程、及びレーザー切断可能な合金鋼シート/プレートを提供する工程。合金鋼シート/プレートは、重量%で、以下:C:0.01~0.29;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40;Cr:0.5~0.75、及び残りは鉄及び不純物である組成を有し、この合金鋼は、Cu及びNiが意図的に加えられておらず、かつ0.05%未満の総累計量のCu及びNiしか含まない。本方法は、鋼切断レーザーからのレーザービームをレーザー切断可能な合金鋼シート/プレートに向ける工程、及びレーザー切断可能な合金鋼シート/プレートを、レーザービームで切断する工程を、さらに含む。
【0009】
本発明の方法は、C:0.01~0.29;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40、(好ましくは、より厚いプレートについては、Si:0.15~0.40);Cr:0.5~0.75;及び残りは鉄及び不純物である、広い組成範囲を有する鋼を切断する。さらに、本発明の方法は、Cu及びNiを意図的に加えられていない合金を含む。すなわち、この合金は、残渣レベルのCu及びNiしか含まず、より多くを含まなくてもよい。本発明の方法において、Cu及びNiの最大累計量は、(重量%で):Cu+Ni≦0.05%である。本方法の好ましい実施形態において、Cu及びNiの最大累計総量は、0.02%未満である。
【0010】
好ましくは、本発明の方法の合金は、重量%で:C:0.10~0.25;Mn:0.8~1.2;Si:最大0.15;及びCr:0.55~0.75の組成を有する。最も好ましくは、本発明の方法の合金は、重量%で:C:0.12~0.23;Mn:0.8~1.05;Si:0.02~0.14;及びCr:0.55~0.72の組成を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
しばしばレーザーによって切断される軟鋼の1つの型は、構造応用のためのASTM A36型鋼である。A36軟鋼プレートについての構成的詳細は、重量%で:C:最大0.29;Mn:0.80~1.20;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40、(好ましくは、より厚いプレートについては、0.15~0.40)である。この鋼は、最小で250MPaの耐力強度を有さねばならない。
【0012】
レーザーによって切断され得る別の型の鋼は、ASTM A572型鋼である。A572についての構成的詳細は、重量%で:C:最大0.26;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40、(好ましくは、より厚いプレートについては、0.15-0.40)である。この鋼は、最小で290MPaの耐力強度を有さねばならない。
【0013】
本発明は、改善されたレーザー切断可能な種類のこのようなA36及びA572鋼をレーザー切断するための方法である。本発明の方法は、以下の工程:鋼切断レーザーを提供する工程、及びC:0.01~0.29;Mn:0.50~1.35;P:最大0.04;S:最大0.05;Si:最大0.40、(好ましくは、より厚いプレートについては、Si:0.15~0.40);Cr:0.5~0.75;及び残りは鉄及び不純物である広範な組成範囲を有する鋼シート又はプレートを提供する工程を含む。本方法はまた、鋼切断レーザーからのレーザービームをレーザー切断可能な合金鋼シート/プレートに向ける工程、及びレーザー切断可能な合金鋼シート/プレートをレーザービームで切断する工程を含む。
【0014】
本発明の方法はさらに、Cu及びNiを意図的に加えられていない合金を、提供する。すなわち、この合金は、残渣レベルのCu及びNiしか含まず、より多くを含まなくてもよい。本発明の方法において、鋼は、(重量%で):Cu+Ni≦0.05%の最大累計量の、Cu及びNiを含む。好ましい実施形態において、Cu及びNiの最大累計量は、0.02%未満である。
【0015】
好ましくは、本発明の方法の合金は、重量%で:C:0.10~0.25;Mn:0.8~1.2;Si:最大0.15;及びCr:0.55~0.75の組成を有する。最も好ましくは、本発明の方法の合金は、重量%で:C:0.12~0.23;Mn:0.8~1.05;Si:0.02~0.14;及びCr:0.55~0.72の組成を有する。
【0016】
本発明の方法のために有用な、レーザー切断可能な鋼の例が、表1に示される。この組成は、重量%で示される。Cu及びNiは、残渣量でしか存在しない。
【0017】
【表1】
【0018】
表2は、3つの先行技術の(市販の)レーザー切断鋼比較サンプルの組成を、重量%で開示する。示されるように、先行技術の鋼は、故意に加えられた量のCu及びNi、ならびに本発明の鋼よりも有意に低含量のCrを有する。
【0019】
【表2】
【0020】
本発明の方法に有用な合金及び比較例のプレート(25.5mm及び19mm)を、そのレーザー切断性能について試験した。この切断性能を、熱延(as-hot-rolled)条件及び熱延/ショットブラスト条件の両方において試験した。25mm厚までの組成範囲内の熱延コイルを、圧延条件、ショットブラスト条件及び酸洗(pickled & oiled)条件において試験した。レーザー切断試験は、本発明の鋼プレート及びコイルのレーザー切断品質が、比較先行技術例レーザー切断用(laser ready)鋼プレートよりも良好であることを示す。
【国際調査報告】