(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】神経温存および性機能維持が可能な、選択的な前立腺のファルマコアブレーションを誘発する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20220131BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220131BHJP
C07K 7/04 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K38/10
A61P13/08
C07K7/04 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021507930
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(85)【翻訳文提出日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 US2019047868
(87)【国際公開番号】W WO2020041680
(87)【国際公開日】2020-02-27
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517433430
【氏名又は名称】ナイモックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】NYMOX CORPORATION
【住所又は居所原語表記】777 Terrace Avenue Hasbrouck Heights,New Jersey 07604 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】アヴァーバック, ポール
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA811
4C084ZA812
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA17
4H045EA20
(57)【要約】
小ペプチドに基づく化合物および製薬学的に許容し得る担体を含有する組成物を用いて、選択的な腺のファルマコアブレーションを行う方法を開示する。前立腺の過剰成長物を選択的に破壊する方法は、アブレーションの対象部位に構造的に近接した重要な神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、尿道筋構造、および構造要素を実質的にまたは完全に保存する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腺の過剰成長物を選択的に破壊する方法であって、必要な患者に対し、前立腺のかなりの部分を治療するのに十分な量のフェキサポチドトリフルタート(Fexapotide Triflutate)を投与する工程と、投与部位に構造的に近接した神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を実質的に保存しながら、腺の過剰成長物を選択的に破壊する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたフェキサポチドトリフルタートおよび担体を投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物の体重比で約0.04ないし約4mg/kgの範囲内のフェキサポチドトリフルタートを投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物の体重比で約0.05ないし約3mg/kgの範囲内のフェキサポチドトリフルタートを投与する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物の体重比で約0.06ないし約1.7mg/kgの範囲内のフェキサポチドトリフルタートを投与する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物の体重比で約0.12ないし約4mg/kgの範囲内のフェキサポチドトリフルタートを投与する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記前立腺の異なる部位にフェキサポチドトリフルタートを複数回投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物の体重比で約0.04ないし約4mg/kgの範囲未満の量のフェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし8週間の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物の体重比で約0.04ないし約4mg/kgの範囲未満の量のフェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし4週間の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物の体重比で約0.04ないし約4mg/kgの範囲未満の量のフェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし6か月の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物の体重比で約0.04ないし約4mg/kgの範囲未満の量のフェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし4か月の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
フェキサポチドトリフルタートを複数回投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約2か月ないし約10年の範囲内である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約8か月ないし約4年の範囲内である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約1年ないし約2年の範囲内である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
フェキサポチドトリフルタートが、経口投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、腫瘍内投与、局所投与、経直腸投与、経腹膜投与、および経皮投与からなる群から選択される方法によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、1回の投与につき、前記前立腺の体積を約15%ないし約75%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、前記前立腺の体積を約33%ないし約48%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月23日に出願された米国特許出願第16/110,549号からの優先権を主張するものであり、この出願の全内容が引用により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本願はASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。当該ASCII形式の書面は、2019年8月22日に作成されたものであるが、ファイル名がNymox-0505946-SeqListing.txtであり、そのサイズは635バイトである。
【背景技術】
【0003】
各実施形態は、小ペプチドに基づく化合物および製薬学的に許容し得る担体を含有する組成物を用いて、選択的な前立腺のファルマコアブレーションを行う方法を含む。より詳細には、各実施形態は、アブレーションの対象部位に構造的に近接した重要な神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、尿道筋構造、および構造要素を保存しながら、前立腺の過剰成長物を選択的に破壊する方法を含む。
【0004】
多くの医療的治療および処置の本質は、有害なまたは不要な組織の除去または破壊を伴う。そのような治療の例には、癌性または前癌性の成長物の外科的除去、化学療法による転移性腫瘍の破壊、および腺性(例えば前立腺)過形成の低減が含まれる。他の例には、不要な顔毛の除去、疣贅の除去、および不要な脂肪組織の除去が含まれる。
【0005】
良性前立腺過形成(BPH)は高齢男性によく見られ、活動や幸福感を妨げるなど、生活の質に影響を与える症状がある。BPHは、尿閉、感染症、膀胱結石、および腎不全の危険性を伴う進行性の疾患であり得る。軽度から中等度の症状を持つ多くの男性は処置なしで順調であるが、それ以外の男性においては厄介な症状や合併症が進行し、医学療法や手術に至る場合がある。
【0006】
米国および欧州では、LUTS、BPH、LUTS/BPHの治療において医師を支援するためのガイドラインが制定されている。Oelke M, et al., European Association of Urology(ヨーロッパ泌尿器科学会), Eur. Urol. 2013年7月; 64(1):118-40を参照のこと。ガイドラインには、症状を呈しているが投薬や外科的介入が必要ない男性に対する経過観察(WW)から、薬物治療、外科的介入までの様々な治療オプションについて説明がなされている。薬物治療のガイドラインでは、α遮断薬(αアドレナリン拮抗薬)、5α還元酵素阻害薬(5ARI)、抗ムスカリン薬(抗コリン薬)、PDE5阻害薬(タダラフィル)、併用療法、バソプレッシン類似物質などが使用される。また、α遮断薬と5ARIや抗ムスカリン薬との併用療法も推奨されている。
【0007】
経尿道的前立腺切除術などの前立腺手術は、絶対的な適応症または薬物治療抵抗性のBPH、LUTS、または急性尿閉(AUR)を罹患する男性に適応される。手術の適応となるのは、尿閉、肉眼的血尿、尿路感染症、膀胱結石などの重篤な症状である。低侵襲治療としては、経尿道的マイクロ波治療や経尿道的針治療がある。また、手術ができない男性には、カテーテル治療の代わりとして前立腺ステントを用い得る。様々な治療の選択肢が存在するにも関わらず、前立腺肥大症に起因し得る厄介な症状を治療するための有効かつ安全な薬剤に対する医療的ニーズが満たされないままになっている。これらの症状は、慢性尿路感染症、失禁、急性・慢性尿閉、腎不全などのより深刻な問題を引き起こす可能性がある。
【0008】
有害なまたは不要な細胞および組織を破壊し、したがってそれらの除去を容易にするかまたはそれらの更なる成長を阻害する一方で、主に局所効果を有し全身毒性が最小限又は皆無である、有効な組成物が必要である。また、有効な組成物で治療した後であっても、侵襲的外科的処置の必要性を低減する必要がある。
【0009】
有害なまたは不要な細胞および組織を破壊し、従ってそれらの除去を容易にするかまたはそれらの更なる成長を阻害する能力を有することが知られている薬剤は、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808,713号(「良性前立腺過形成の患者に対する手術の必要性を低減させる方法」)、2015年1月27日に出願された米国特許出願第14/606,683号(「細胞の破壊または除去を必要とする疾患を治療する方法」)、2015年6月12日に出願された米国特許出願第14/738,551号(「望ましくない細胞増殖物の除去または破壊を必要とする疾患を治療するための配合組成物」)、米国特許出願公開第2007/0237780号(放棄済)、米国特許出願公開第2003/0054990号(現米国特許第7,172,893)、米国特許出願公開第2003/0096350号(現米国特許第6,924,266号)、米国特許出願公開第2003/0096756号(現米国特許第7,192,929号)、米国特許出願公開第2003/0109437号(現米国特許第7,241,738号)、米国特許出願公開第2003/0166569号(現米国特許第7,317,077号)、米国特許出願公開第2005/0032704号(現米国特許第7,408,021号)、および米国特許出願公開第2015/0148303号(現米国特許第9,243,035号)に開示されており、これらの開示内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0010】
組織の良性の過増殖という異常に対しては、生物から細胞を除去することが望ましい。良性腫瘍は、身体全体に転移はしないが、病気の症状を引き起こす細胞増殖物である。そのような腫瘍は、脳などの器官におけるアクセス不能なエリアに位置する場合、致死的であり得る。良性腫瘍ができるのは、肺、脳、皮膚、下垂体、甲状腺、副腎皮質および髄質、卵巣、子宮、精巣、結合組織、筋肉、腸、耳、鼻、咽喉、扁桃、口、肝臓、胆嚢、膵臓、前立腺、心臓、および他の器官である。
【0011】
多くの場合、手術は癌の治療の第一歩である。手術の目的は様々である。場合によっては、明らかな腫瘍のできるだけ多くを取り除くため、または少なくともそれを「減量」する(腫瘍の大部分を除去して、他の手段で治療する必要性がより少なくなるようにする)ために、手術が行われる。癌の種類や場所によっては、手術によって患者の症状が緩和される場合もある。例えば、外科医が膨張する脳腫瘍の大部分を取り除くことができる場合、頭蓋内の圧力が低下し、患者の症状が改善することが見込まれる。
【0012】
ただし、全ての腫瘍が手術に適しているわけではない。体の特定の部位に位置する腫瘍は、完全に除去することが不可能となる場合がある。そうした腫瘍の例は、脳幹(呼吸を制御する脳の部分)の腫瘍、または主要な血管の内部およびその周辺に増殖した腫瘍である。これらの場合、腫瘍除去に伴う高い危険性のため手術の役割は限られている。
【0013】
一部の症例では、腫瘍組織を減量することは必要ないという単純な理由で、そうした目的の手術が行われない。その一例はホジキンリンパ腫であり、これは化学療法と放射線療法の組み合わせに非常によく反応するリンパ節の癌である。ホジキンリンパ腫では、治癒を達成するために手術はほとんど必要ないが、ほぼ常に診断の確立のために手術が行われる。
【0014】
化学療法は、癌治療の別の一般的な形態である。本質的に、化学療法は、急速に分裂する細胞(腫瘍に見られるものなど)を体全体で特異的に攻撃する薬物(通常は経口でまたは注射によって投与される)の使用を伴う。これにより、化学療法は、既に転移している癌や、血液およびリンパ系を通って広がる可能性が高いが、原発腫瘍から転移した明確な証拠がない腫瘍の治療に有用である。化学療法はまた、手術および放射線療法に対する限局性腫瘍の応答を向上するために使用され得る。これは、例えば頭頸部の癌の一部の場合である。
【0015】
残念なことに、正常時において急速に分裂するヒトの体内の他の細胞(例えば、胃や髪の内層)も化学療法の影響を受ける。この理由のため、多くの化学療法剤は、悪心、嘔吐、貧血、脱毛または他の症状などの望ましくない副作用を誘発する。これらの副作用は一時的なものであり、これらの副作用の多くを緩和するのに役立つ薬剤が存在する。我々の知見が増え続けるにつれて、研究者らは、癌細胞を殺滅する能力がより優れているだけでなく、患者の副作用がより少ない、新しい化学療法剤を考案した。
【0016】
化学療法は、様々な方法で患者に施される。丸剤を含むものや、静脈注射または他の注射によって投与されるものがある。注射可能な化学療法の場合、患者は治療のために医院または病院に行く。他の化学療法剤は、血流中への連続注入を1日当たり24時間必要とする。これらのタイプの化学療法では、患者が着用する小型ポンプを埋め込むために、軽微な外科的処置が行われる。その後、ポンプは薬を徐々に投与する。多くの場合、恒久的なポートが患者の静脈内に配置され、繰り返し針を刺す必要性を排除する。
【0017】
良性腫瘍および先天的異常は、外科手術、放射線療法、薬物療法、熱的または電気的アブレーション、凍結療法などを含む様々な方法によっても治療することができる。良性腫瘍は転移しないが、大きく増殖し、再発する可能性がある。良性腫瘍の外科的摘出は手術の全般的な困難性および副作用を伴い、脳下垂体腺腫、脳の髄膜腫、前立腺肥大など一部の良性腫瘍に対して繰り返し行わなければならないことが多い。加えて、良性腫瘍によって引き起こされる症状を改善するために非外科的治療を受けている患者の一部は、依然としてその後の侵襲的外科的処置を必要とする。Leporによる「良性前立腺過形成の治療法」(泌尿器科レビュー、Vol.13、No.1、pp.20-33(2011))は、良性前立腺過形成を治療する際の薬物療法の有効性およびその後の侵襲的外科治療の必要性に関する様々な研究を開示している。
【0018】
これらの例の全てまたは大部分において、BPH、LUTS、またはAURに関連付けられる望ましくない症状を、従来の療法の危険性および副作用を伴わずに除去、破壊、または改善することができる治療、またはこれらの望ましくない症状をより正確に除去、破壊、または改善することができる治療が必要とされている。
【0019】
多くの前立腺疾患では、過剰に増殖した組織の除去が一般的に必要とされる。前立腺癌は、外科的手段および/または放射線、化学療法、あるいは局所的治療によって除去される。BPHでは、症状が重篤な場合、肥大した移行部腺の過剰成長組織には、外科的切除、またはレーザー、マイクロ波、高強度超音波、熱針穿刺、蒸気、その他の移行部組織破壊の方法によるアブレーションが必要となる。
【0020】
組織を破壊するアブレーション法では、組織破壊の範囲が顕微鏡レベルで非選択的であるが、これは壊死を引き起こす非選択的な力(高エネルギー変換、放射線)に起因すると考えられる。そのため、望ましくない毒性や重要な隣接構造物への回復不能な損傷を避けるために、顕微鏡(組織学)レベルで構造的に選択的な組織破壊を効果的に行うことができる治療法が必要とされている。例えば、経尿道的切除術、高エネルギーレーザーによる切除術などは、前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を頻繁に損傷し、その結果、永久的な射精障害やインポテンツが頻繁に発生し、より低頻度ではあるが、失禁などの他の望ましくない事象も発生する。
【0021】
前述の関連技術の説明を含む本記載全体を通して、本明細書に記載されたすべての公に入手可能な文書(すべての米国特許および公開特許出願を含む)は、参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる。前述の関連技術の説明は、如何なる形であれ、係属中の米国特許出願を含む上記文書の何れかが本開示の先行技術であることを認めるものではない。更に、記載された製品、方法、および/または装置に関連する欠点についての本明細書における記載は、如何なるものであれ、実施形態を限定するものではない。実際、実施形態の態様は、記載された欠点による害を被ることなく、記載された製品、方法、および/または装置の特定の特徴を含んでもよい。
【発明の概要】
【0022】
当技術分野では、前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を維持しながら、前立腺組織の過剰成長物において選択的にアポトーシスを誘導するための、新規で、毒性が低く、頻度が低い(例えば、毎日または毎週薬を服用する必要がない)治療法が必要とされている。前立腺組織の過剰成長物に対する以前の治療法は、前立腺内の選択された部位に焦点を当てていたため、比較的不完全な治療となっていたか、焦点が絞られていない場合は、隣接する組織、神経、筋組織に修復不可能な損傷を与えていた。また、前立腺組織の過剰成長物を治療するためにペプチドを注射する以前の方法は、前立腺の限られた部位に少量(約0.25mg/ml)のペプチドを集中的に投与するものであった。したがって、より広範囲の組織に投与することができ、一方で前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織などの隣接組織を保存できる、前立腺組織の過剰成長物を除去する治療法の必要性も残っている。本明細書に記載の実施形態は、これらの必要性を満たすものである。
【0023】
本開示は、アミノ酸配列Ile-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leuで記述される特定のペプチド(フェキサポチドトリフルタート(Fexapotide Triflutate)または「FT」)を含む特定のペプチドが、前立腺組織の過剰成長物において選択的にアポトーシスを誘導する一方で、前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を維持することができるという発見を部分的に前提としている。
【0024】
本開示はまた、FTを単独で、または追加の活性剤と組み合わせて使用することにより、他の組織との相互作用による既知の重大な分子的有害事象なしに、哺乳動物の不要な細胞増殖を治療および/または死滅させることができるという発見を部分的に前提としている。FTはこれまで、不要な細胞増殖を破壊するために使用されてきたが、アポトーシスを選択的に誘導することは知られていなかった。その結果、FTを用いた以前の治療では、神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織などの健康な細胞の破壊を避けるために、望ましくない細胞増殖の部位に直接注入することが一般的であった。本発明者は、FTが選択的な前立腺のファルマコアブレーションを誘導し、その結果、組成物をより広範囲に、好ましくはより低侵襲的に投与することができ、著しく高い投与量で投与することができることを予期せずに発見した。一実施形態によれば、前立腺のかなりの部分を治療するのに十分な量のFTを投与することにより、選択的な前立腺のファルマコアブレーションを誘導する方法が提供される。
【0025】
組成物は、エアロゾル、注入、ボーラス注射、植え込み装置、徐放システムなどによって、筋肉内、経口、静脈内、腹腔内、脳室内(柔組織内)、脳室内、腫瘍内、病巣内、皮内、髄腔内、鼻腔内、眼内、動脈内、局所、経直腸、経腹膜、経皮投与することができる。あるいは、FTペプチドをインビボで発現させることもできる。そのためには、FTペプチドを発現する遺伝子を投与する、そのような産生を誘発するワクチンを投与する、または遺伝子改変によりインビボでペプチドを発現する細胞、細菌またはウイルスを導入する、等の手段を用いる。
【0026】
別の実施形態では、FTペプチドを含む組成物を単独で、または、哺乳動物における望ましくない細胞増殖物を治療および/または死滅させることができる少なくとも1つの付加的な活性剤と組み合わせて投与することにより、FTペプチドを含まない対照組成物を投与する場合と比較して、前立腺体積を最大10%低減させる。
【0027】
前述の一般的な説明および後述の詳細な説明は何れも、例示的かつ説明的なものであり、特許請求される実施形態のさらなる説明を提供することが意図されている。他の目的、利点および特徴が、以下の各実施形態の詳細な説明から当業者に容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】FTを投与した哺乳動物と対照群との24時間から7日間の平均前立腺体積を示すグラフである。
【0029】
【
図1B】FTを投与した哺乳動物と対照群との0ヶ月から12ヶ月の平均前立腺体積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施形態を説明する前に、本発明は、説明されている特定の方法論、プロトコル、細胞株、ベクターおよび試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、専ら特定の実施形態を説明するためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の各実施形態の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0031】
本明細書で使用される用語および語句は、他に指示されない限り、以下に示すように定義される。本明細書を通して、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別の意味に規定される場合を除き、複数の指示対象への言及を含む。したがって、例えば、「宿主細胞」への言及は、複数の宿主細胞を含み、「抗体」への言及は、1つまたは複数の抗体および当業者に知られているその均等物への言及である。
【0032】
本明細書に記載されるアミノ酸およびアミノ酸残基は、以下の表に示される一般に認められた1文字または3文字のコードに従って参照され得る。
【表A1】
【0033】
本明細書で使用されるフェキサポチドトリフルタート(「FT」)は、以下のアミノ酸配列を有する17量体ペプチドを表す:Ile-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leu (SEQ ID NO. 1)FTは米国特許第6,924,266号、 第7,241,738号、 第7,317,077号、 第7,408,021号、 第7,745,572号、 第8,067,378号、 第8,293,703号、 第8,569,446号、 および第8,716,247号、ならびに、米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号および第2016/0215031号明細書に開示されている。これらの特許および出願公開の開示内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
FTは以下の通り表される。
SEQ ID NO. 1(配列番号1):IDQQVLSRIKLEIKRCL または Ile-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu- Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leu
【0034】
「フラグメント」という用語は、タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列の連続した部分配列からなり、スプライス変異体などの天然に存在するフラグメントおよび天然に存在するインビボプロテアーゼ活性から生じるフラグメントを含むタンパク質またはポリペプチドを指す。こうしたフラグメントは、アミノ末端、カルボキシ末端、および/または内部(天然スプライシングなどによる)で、一部切除(truncated)されていてもよい。こうしたフラグメントは、アミノ末端メチオニンを伴いまたは伴わずに調製されてもよい。「フラグメント」という用語は、直接またはリンカーを介して連結される、共通のまたは共通でない連続するアミノ酸配列を有する、同じタンパク質またはペプチド由来の同一または異なるフラグメントを含む。当業者は、本明細書に概説されたガイドラインおよび手順を用いて、過度の実験をすることなく、実施形態で使用するのに適したフラグメントを選択することができるであろう。
【0035】
「変異体」という用語は、本明細書記載のタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列に比較した際、1以上のアミノ酸置換、欠失、および/または挿入が存在している、タンパク質またはポリペプチドを指し、該用語には、こうして記載されるタンパク質またはペプチドの天然に存在するアレル変異体または選択的スプライシング変異体が含まれる。「変異体」という用語には、類似のまたは相同のアミノ酸あるいは似ていないアミノ酸による、ペプチド配列中の1以上のアミノ酸の置換が含まれる。どのアミノ酸を類似または相同と認定可能であるかに関する多くの基準がある(Gunnar von Heijne、Sequence Analysis in Molecular Biology、123-39頁(Academic Press、ニューヨーク州ニューヨーク、1987年)。好ましい変異体には、1つ以上のアミノ酸位置でのアラニン置換が含まれる。他の好ましい置換には、タンパク質の全体の正味電荷、極性、または疎水性に対してほとんどまたはまったく影響しない、保存的置換が含まれる。保存的置換を、以下の表2に示す。
【表A2】
表3は、アミノ酸置換の別のスキームを示す。
【表A3】
【0036】
他の変異体は、より保存的でないアミノ酸置換からなることも可能であり、(a)例えばシートまたはらせんコンフォメーションとしての、置換領域のポリペプチド主鎖の構造、(b)標的部位での分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖の大きさの維持に対して、影響がより有意に異なる残基を選択することなどがある。一般的に、機能に対して、より有意な影響を有すると期待される置換は、(a)グリシンおよび/またはプロリンが別のアミノ酸に置換されるか、あるいは欠失されるかまたは挿入されるもの;(b)親水性残基、例えばセリルまたはスレオニルが、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、またはアラニルに対して(またはこれらによって)置換されるもの;(c)システイン残基が任意の他の残基に対して(またはこれらによって)置換されるもの;(d)電気的陽性側鎖を有する残基、例えばリジル、アルギニル、またはヒスチジルが、陰性電荷を有する残基、例えばグルタミルまたはアスパルチルに対して(またはこれらによって)置換されるもの;あるいは(e)大きな側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンが、こうした側鎖を持たないもの、例えばグリシンに対して(またはこれらによって)置換されるものである。他の変異体には、新規グリコシル化部位および/またはリン酸化部位を生成するように設計されたもの、あるいは存在するグリコシル化部位および/またはリン酸化部位を欠失させるように設計されたもののいずれかが含まれる。変異体には、グリコシル化部位、タンパク質分解的切断部位および/またはシステイン残基での少なくとも1つのアミノ酸置換が含まれる。変異体にはまた、リンカーペプチド上のタンパク質またはペプチド・アミノ酸配列の前または後にさらなるアミノ酸残基を含む、タンパク質およびペプチドも含まれる。例えば、ジスルフィド結合形成によるペプチドの環化を可能にするため、FTのペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端両方に、システイン残基を付加することも可能である。「変異体」という用語はまた、ペプチドの3’端または5’端の何れかに隣接する、少なくとも1つから25個まで、またはそれより多い追加的なアミノ酸を持つFTのアミノ酸配列を有するポリペプチドも含む。
【0037】
「誘導体」という用語は、プロセシングおよび他の翻訳後修飾などの天然プロセスによるだけでなく、例えば1以上のポリエチレングリコール分子、糖、ホスフェート、および/または他のこうした分子が、野生型タンパク質またはFTに天然に付着していない場合に、こうした分子を付加するなどの、化学的修飾技術によって化学的に修飾されている、化学的修飾タンパク質またはポリペプチドを指す。誘導体には塩が含まれる。こうした化学的修飾は、基本的教科書に、そしてより詳細なモノグラフに、並びに多量の研究文献によく記載され、そしてこれらは当業者に周知である。同じ種類の修飾が、所定のタンパク質またはポリペプチドのいくつかの部位に同じ度合いでまたは異なる度合いで存在してもよいことが認識されるであろう。また、所定のタンパク質またはポリペプチドが、多くの種類の修飾を含有してもよい。修飾は、タンパク質またはポリペプチドのどの部位で生じることも可能であり、そうした部位には、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシ末端が含まれる。修飾には、例えば、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋の形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシ化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、ホスホリル化、プレニル化、ラセミ化、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADP-リボシル化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化などのトランスファーRNAが仲介するタンパク質へのアミノ酸の付加、およびユビキチン化が含まれる。例えばProteins--Structure And Molecular Properties, 第2版, T.E. Creighton,W.H. Freeman and Company,ニューヨーク(1993年)およびWold, F.,“Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects,” Posttranslational Covalent Modification Of Proteins中, 1-12頁, B.C. Johnson監修,Academic Press, ニューヨーク(1983年); Seifterら,Meth. Enzymol. 182:626-646(1990年)およびRattanら,“Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging,” Ann. N.Y. Acad. Sci. 663:48-62(1992年)を参照されたい。「誘導体」という用語には、分枝する、あるいは分枝して環状に、または分枝せずに環状になる、タンパク質またはポリペプチドを生じる化学的修飾が含まれる。環状、分枝および分枝環状タンパク質またはポリペプチドは、翻訳後天然プロセスから生じる可能性があり、そしてまた、完全に合成的な方法で作成することも可能である。
【0038】
「相同体」という用語は、2つのポリペプチドのアミノ酸の位における類似性を比較するのに一般的に用いられる標準法によって決定されるように、FTのアミノ酸配列と少なくとも60%同一であるタンパク質を指す。2つのタンパク質の間の類似性または同一性の度合いは、限定されるわけではないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.監修,Oxford Unversity Press,ニューヨーク,1988年; Biocomputing: Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.監修,Academic Press,ニューヨーク,1993年; Computer Analysis of Sequence Data,第I部,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.監修,Humana Press,ニュージャージー州,1994年; Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987年; Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.監修,M Stockton Press,ニューヨーク,1991年;ならびにCarillo H.and Lipman,D.,SIAM,J. Applied Math.,48:1073(1988年)に記載されるものを含む、既知の方法によって、容易に計算可能である。同一性を決定する好ましい方法は、試験する配列間で最大のマッチを生じさせるように設計される。同一性および類似性を決定する方法は、公的に利用可能なコンピュータプログラムに体系化されている。
【0039】
2つの配列間の同一性および類似性を決定する際に有用な好ましいコンピュータプログラム法には、限定されるわけではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J.ら, Nucleic Acids Research, 12(1):387(1984))、BLASTP、BLASTN、およびFASTA、Atschul, S.F.ら, J. Molec. Biol., 215:403-410(1990)が含まれる。BLAST Xプログラムは、NCBIおよび他の供給源(BLAST Manual、Altschul、S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、Md.20894;Altschul、S.ら、J.Mol.Biol.、215:403-410(1990年))から公的に入手可能である。例えば、GAP(ウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ、ウィスコンシン州マディソン)などのコンピュータアルゴリズムを用いて、配列同一性パーセントを決定しようとする2つのタンパク質またはポリペプチドを、各々のアミノ酸が最適にマッチするように、並列させる(アルゴリズムに決定されるような「マッチしたスパン」)。
【0040】
ギャップオープニングペナルティ(平均対角の3倍として計算;「平均対角」は、用いる比較マトリックスの対角の平均であり;「対角」は、特定の比較マトリックスによる、各完全アミノ酸マッチに割り当てられたスコアまたは数字である)およびギャップ伸長ペナルティ(通常、ギャップオープニングペナルティの1/10)、ならびにPAM250またはBLOSUM62などの比較マトリックスを、アルゴリズムと組み合わせて用いる。標準比較マトリックス(PAM250比較マトリックスに関しては、Dayhoffら: Atlas of Protein Sequence and Structure, vol.5, supp.3を参照されたい;BLOSUM62比較マトリックスに関しては、Henikoffら, Proc. Natl. Acad. Sci USA, 89:10915-10919を参照されたい)もまた、アルゴリズムに使用可能である。次いで、アルゴリズムによってパーセント同一性が計算される。相同体は、場合によって、対応するタンパク質またはペプチドと比較した際、典型的には、1以上のアミノ酸置換、欠失、および/または挿入を有するであろう。
【0041】
「融合タンパク質」という用語は、一つ以上のペプチドが、抗体、またはFabフラグメントまたは短鎖Fvのような抗体フラグメントなどの(これに制限されるわけではない)タンパク質に組換え融合しているまたは(共有結合および非共有結合を含めた)化学的に複合している(conjugated)タンパク質を意味する。「融合タンパク質」という用語は、更に、ペプチドの多量体(すなわち、二量体、三量体、四量体およびそれより多い多量体)を意味する。このような多量体は、一つのペプチドを含むホモマー多量体;二つ以上のペプチドを含むヘテロマー多量体;および少なくとも一つのペプチドおよび少なくとも一つの他のタンパク質を含むヘテロマー多量体を含む。このような多量体は、疎水性、親水性、イオン性および/または共有結合の会合、結合またはリンクの結果であってもよく、リンカー分子を用いた架橋結合によって形成されてもよく、または間接的に、例えば、リポソーム形成によって連結されていてもよい。
【0042】
「ペプチド模倣体(mimetic)」または「模倣体」という用語は、ペプチドまたはタンパク質の生物学的活性を模倣するが、もはや化学的性質はペプチド性でない、すなわちもはやペプチド結合(すなわちアミノ酸間のアミド結合)をまったく含有しない、生物学的活性化合物を指す。本明細書において、ペプチド模倣体という用語は、より広い意味で用いられ、事実上、もはや完全にペプチド性でない分子、例えば偽ペプチド、半ペプチドおよびペプトイドなどが含まれる。この、より広い意味でのペプチド模倣体の例(ペプチドの一部が、ペプチド結合を欠く構造と交換されている場合)を以下に記載する。完全な非ペプチドであれ、また部分的な非ペプチドであれ、本発明の実施形態のペプチド模倣体は、そのペプチド模倣体の基となるペプチドの活性基の三次元配置を緊密に真似る、反応性化学部分の空間的配置を提供する。活性部位の幾何学的形状がこのように類似である結果、ペプチド模倣体は、ペプチドの生物学的活性に似た、生物学的系に対する影響を有する。
【0043】
本発明の実施形態のペプチド模倣体は、好ましくは、三次元形状および生物学的活性両方において、本明細書記載のペプチドに実質的に類似である。当該技術分野に知られるペプチドを構造的に修飾してペプチド模倣体を生成する方法の例には、D-アミノ酸残基構造を導く、主鎖キラル中心の反転が含まれ、D-アミノ酸残基構造は、特にN末端で、不都合に影響を及ぼす活性を伴わずに、タンパク質分解的分解に対して、増進した安定性を導く。この例は、論文“Tritriated D-ala1-Peptide T Binding”, Smith C.S.ら, Drug Development Res., 15, 371-379頁(1988年)に記載される。第二の方法は、NからCの鎖間イミドおよびラクタムなどの、安定性のための環状構造の改変である(Edeら, Smith and Rivier(監修)“Peptides: Chemistry and Biology”, Escom, Leiden(1991年)中,268-270頁)。これの一例は、米国特許第4,457,489号(1985年)、Goldstein、G.らに開示されるものなどの、コンフォメーション的に制限されたチモペンチン様化合物で与えられており、前記特許の開示は参照により全体として本明細書に組み込まれる。第三の方法は、ペプチド内のペプチド結合を、タンパク質分解に耐性を与える偽ペプチド結合により置換することである。
【0044】
ペプチド構造および生物学的活性に概して影響を与えない、いくつかの偽ペプチド結合が記載されている。このアプローチの1つの例は、逆反転(retro-inverso)偽ペプチド結合で置換することである(“Biologically active retroinverso analogues of thymopentin”, Sisto A.ら, Rivier, J.E. and Marshall, G.R.(監修)“Peptides, Chemistry, Structure and Biology”, Escom, Leiden(1990年)中, 722-773頁, およびDalpozzoら(1993年), Int. J. Peptide Protein Res., 41:561-566、本明細書に援用される)。この修飾に従って、ペプチドのアミノ酸配列は、1つ以上のペプチド結合が、逆反転偽ペプチド結合と交換されていることを除いて、上述のペプチドの配列と同一であってもよい。好ましくは、最もN末端のペプチド結合が置換されており、これはこうした置換が、N末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して、耐性を与えるであろうためである。アミノ酸の化学基を類似構造の他の化学基で置換することによってさらに修飾することもできる。生物学的活性を全く損失させないか、またはほとんど損失させずに、酵素的切断に対する安定性を増進させることが知られる別の適切な偽ペプチド結合は、還元アイソスター偽ペプチド結合である(Couderら(1993年)、Int.J.Peptide Protein Res.、41:181-184、参照により全体として本明細書に組み込まれる)。
【0045】
従って、これらのペプチドのアミノ酸配列は、1つ以上のペプチド結合が、イソスター偽ペプチド結合によって交換されていることを除いて、FTの配列と同一であってもよい。好ましくは、最もN末端のペプチド結合が置換されており、これはこうした置換が、N末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して、耐性を与えるであろうためである。1つ以上の還元アイソスター偽ペプチド結合を有するペプチドの合成が当該技術分野において知られている(Couderら(1993年)、上記引用)。他の例は、ケトメチレンまたはメチルスルフィド結合の導入によるペプチド結合の置換などである。
【0046】
本明細書記載のペプチドのペプトイド誘導体は、生物学的活性に重要な構造的決定基を保持するが、ペプチド結合が取り除かれ、それによってタンパク質分解に対する耐性が与えられた、別の種類のペプチド模倣体に相当する(Simonら, 1992年, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:9367-9371、本明細書にその全体が援用される)。ペプトイドは、N-置換グリシンのオリゴマーである。いくつかのN-アルキル基が記載されており、各々は天然アミノ酸の側鎖に対応する(Simonら(1992年)、上記引用)。ペプチドのアミノ酸のいくつかまたは全てを、交換されるアミノ酸に対応するN-置換グリシンと交換することが可能である。
【0047】
「ペプチド模倣体」または「模倣体」という用語にはまた、以下に定義するような、逆Dペプチドおよび鏡像異性体も含まれる。
【0048】
「逆Dペプチド」という用語は、ペプチドのL-アミノ酸配列に比較した際、逆の順に配置されたD-アミノ酸からなる、生物学的活性タンパク質またはペプチドを指す。したがって、L-アミノ酸ペプチドのカルボキシ末端残基は、D-アミノ酸ペプチドのアミノ末端になるなどである。例えば、ペプチドETESHは、HdSdEdTdEdになり、ここで、Ed、Hd、Sd、およびTdは、それぞれ、L-アミノ酸、E、H、S、およびTに対応するD-アミノ酸である。
【0049】
「鏡像異性体」という用語は、あるペプチドのアミノ酸配列中の一つ以上のL-アミノ酸残基が、対応するD-アミノ酸残基で置き換えられている生物学的に活性なタンパク質またはペプチドを意味する。
【0050】
本明細書中で用いられる「組成物」という言葉は、FTおよび必要に応じて付加的な活性剤を含有する任意の組成物を広く意味する。その組成物は、乾燥配合物、水溶液、または滅菌組成物を含むことができる。FTを含む組成物は、ハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。それらプローブは、凍結乾燥された形で貯蔵することができ、また、炭水化物などの安定剤と会合させることができる。ハイブリダイゼーションの場合、プローブは、塩類、例えば、NaCl;界面活性剤、例えば、硫酸ドデシルナトリウム(SDS);および他の成分、例えば、デンハート溶液、脱脂乳、サケ精子DNA等を含有する水溶液中に配置することができる。
【0051】
付加的な活性剤がFTとともに使用される実施形態では、「活性剤」という表現は、必要な患者に治療効果を提供する任意の薬剤、より好ましくは、不要な細胞増殖物および/または組織増殖物を除去することができる任意の薬剤を示すために使用される。適切な活性剤には、(i)抗癌活性剤(アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、RNA/DNA代謝拮抗剤、および抗有糸分裂剤など)、(ii)良性成長物を治療するための活性剤、例えば、抗ニキビおよび抗疣贅活性剤、(iii)抗アンドロゲン化合物(酢酸シプロテロン(1α,2β-メチレン-6-クロロ-17α-アセトキシ-6-デヒドロプロゲステロン)タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)、(iv)アルファ1-アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、ブナゾシン、インドラミン、アルフゾシン、シロドシン)、(v)5α-レダクターゼ阻害剤(フィナステリド、デュタステリド)、(vi)ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(タダラフィル)およびそれらの組み合わせ、が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0052】
本発明者は、特定の理論や操作に拘束されることを意図しないが、FTを単独で、または別の活性剤と組み合わせて投与すると、前立腺上皮のアポトーシスが起こり、広範囲ではあるが選択的な腺上皮細胞の消失および萎縮が起こることを予期せず発見した。本発明者はさらに、前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織などの隣接組織を維持しながら、選択的な腺上皮細胞の消失および萎縮が達成されることを発見した。
【0053】
本明細書に記載の組成物を投与した哺乳動物は、FTを含まない対照組成物を投与した場合と比較して、単回投与あたり、約15~約75%、または約25~約50%、または約33~約48%の範囲内の量で前立腺の収縮を示した。
【0054】
本発明の実施形態は、前立腺組織の過剰成長に罹患した哺乳動物を治療する方法を含み、当該方法は、FTを単独で、または付加的な活性剤の投与と組み合わせて、哺乳動物に1回または2回以上投与することを含む。この方法には、FTを含む組成物を筋肉内に、経口的に、静脈内に、腹腔内に、大脳内に(柔組織内に)、脳室内に、病巣内に、眼内に、動脈内に、髄腔内に、腫瘍内に、鼻腔内に、局所的に、経皮的に、皮下に、皮内に、経直腸的に、または経腹膜的に単独で、または担体に複合された形で投与することが含まれるが、これらには限定されない。FTを含む組成物は、単独で、または付加的な活性剤と組み合わせて、前立腺のかなりの部分を治療するのに十分な量で投与することができる。「かなりの」という用語は、前立腺のほとんどまたはすべてを意味することが意図されており、前立腺の75%以上、または80%以上、または85%以上、または90%以上、または95%以上、または98%以上、または前立腺全体を含むことができる。そのように組成物を投与するには、前立腺の1つの領域に組成物をより高用量で投与すること、および/または前立腺の2つ以上、3つ以上、または10個までの異なる対象部位に組成物を投与することが求められ、その結果従来の投与法よりも著しく高用量となる。増加した投与量で実質的に前立腺全体に投与された場合、FTを含む組成物は、前立腺全体により多くのアクセスがあることで、より小さな癌の予防にさらに有用であると考えられる。例えば、本明細書に記載の組成物を投与すると、前立腺癌の発生率が著しく低下する(典型的な発生率は約20%であるが、1%となる)。
【0055】
いかなる哺乳動物も本発明の使用により利益を得ることができる。哺乳動物には、ヒト、マウス、ウサギ、イヌ、ヒツジおよび他の家畜、さらには獣医師、動物園の飼育係、野生動物保護作業員によって治療されたまたは治療可能な任意の哺乳動物が含まれる。好ましい哺乳動物としては、ヒト、ヒツジおよびイヌが挙げられる。本明細書では、「哺乳動物」という言葉と「患者」という言葉とは、互換的に使用される。
【0056】
FTの他のより小さなフラグメントを、これらのペプチドが同じ又は類似の生物活性を有するように選択し得ることが当業者には明らかであろう。当業者は、FTの他のフラグメントも、これらのペプチドが同じまたは類似の生物学的活性を有するように選択することができる。各実施形態のペプチドはこれらの他のフラグメントを包含する。一般に、各実施形態のペプチドは少なくとも4つのアミノ酸、好ましくは少なくとも5つのアミノ酸、更に好ましくは少なくとも6つのアミノ酸を有する。
【0057】
また、本発明の実施形態は、2つ以上のFT配列を連結してなるFTを含む組成物を付加的な活性剤とともに投与することを含む、前立腺の過剰成長を罹患する哺乳動物(または患者)を治療する方法を包含する。FTが所望の生物学的活性を有する限り、2つ以上のFT配列も、所望の生物学的活性を有することになろう。
【0058】
本発明の実施形態に包含されるFT並びにそのフラグメント、変異体、誘導体、相同体、融合タンパク質及び模倣体は、当業者に公知の方法を用いて製造できる。例えば、組換えDNA技術、タンパク質合成、ならびに、天然のペプチド、タンパク質、変異体、誘導体及び相同体の分離等の方法を用いることができる。FTならびにそのフラグメント、変異体、誘導体、相同体、融合タンパク質および模倣体は、当業者に公知の方法を用いて他のペプチド、タンパク質ならびにそれらのフラグメント、変異体、誘導体および相同体から製造することができる。そのような方法は、ペプチドまたはタンパク質を切断してFTにするプロテアーゼの使用を含むが、これに限定されない。例えば、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に開示されている任意の方法を使用して、本明細書に記載のFTペプチドを調製することができる。
【0059】
本発明の実施形態は、BPH、LUTS、AUR、前立腺癌、または細胞の過剰成長物の除去または破壊を必要とする他の疾患を患う哺乳動物を治療し、それによって、腺組織を選択的に除去するとともに、治療の対象部位に構造的に近接した主要な神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、尿道筋組織、および構造要素を完全またはほぼ完全に保存する方法に関する。そのような方法は、投与の必要がある哺乳動物に治療上有効量のFTを単独でまたは付加的な活性剤と組み合わせて、前立腺のかなりの部分を治療するのに十分な量だけ投与することを含む。投与を必要とする哺乳動物は、BPH、LUTS、AUR、または前立腺癌に罹患している哺乳動物であり、良性前立腺過形成(BPH)を併発していることは関わりがない。
【0060】
付加的な活性剤を使用する場合には、当該付加的な活性剤として、以下から選択される1つ以上の活性剤を使用できる。(i)抗癌活性剤(アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、RNA/DNA代謝拮抗剤、および有糸分裂阻害剤など)、(ii)良性増殖を治療するための活性剤、例えば、抗ニキビおよび抗疣贅活性剤(サリチル酸)、(iii)抗アンドロゲン化合物(酢酸シプロテロン(1α、2β-メチレン-6-クロロ-17α-アセトキシ-6-デヒドロプロゲステロン)タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)、(iv)α1-アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、ブナゾシン、インドラミン、アルフゾシン、シロドシン)、(v)5α-レダクターゼ阻害剤(フィナステリド、デュタステリド)、(vi)ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(タダラフィル)およびそれらの組み合わせ。好ましくは、付加的な活性剤は、タムスロシン、フィナステリド、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、タダラフィル、アルフゾシン、シロドシン、デュタステリド、デュタステリドとタムスロシンの組み合わせ、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択される。
【0061】
本明細書に記載される治療用組成物は、薬学的に許容される担体と混合された治療有効量のFTを含み得る。一部の代替的な実施形態において、追加的な活性剤をFTと同じ組成物に含ませて投与することができ、また他の各実施形態において、FTを含む組成物が注射として投与され、一方で追加的な活性剤が経口医薬品(ゲル、カプセル、錠剤、液体など)の形態で処方される。担体材料は、注射用の水、好ましくは哺乳動物への投与用溶液に通常含まれている他の材料を補充した水であり得る。通常、FTは、生理学的に許容される1つ以上のキャリア、賦形剤または希釈剤と組み合わせて、精製されたFTペプチドを含む組成物の形態で投与される。中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンを混合した生理食塩水は適当な担体の例である。好ましくは、製品は適当な賦形剤(例えば、ショ糖)を用いて凍結乾燥物として処方される。所望であれば他の標準的担体、希釈剤、及び賦形剤を含んでもよい。本発明の組成物は、当業者に公知の適当な範囲のpH値を有する緩衝液、例えばpH約7.0~8.5のトリス緩衝液、又はpH約4.0~5.5の酢酸緩衝液も含みうる。これにさらにソルビトール又はその適切な代替物が加わってもよい。
【0062】
経口投与用の固体剤形は、カプセル、錠剤、ピル、散剤及び顆粒剤を含むが、これらに限定されない。そのような固体剤形の場合、付加的な活性剤、および/またはFTは以下の少なくとも1つと混合され得る:(a)クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムのような1つ以上の不活性賦形剤(または担体);(b)デンプン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、およびケイ酸のような充填剤または増量剤;(c)カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖およびアカシアのような結合剤;(d)グリセロールのような保湿剤;(e)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の複合ケイ酸塩、および炭酸ナトリウムのような崩壊剤;(f)パラフィンのような溶液凝固遅延剤;(g)第四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤;(h)アセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールのような湿潤剤;(i)カオリンおよびベントナイトのような吸着剤;および(j)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール類、ラウリル硫酸ナトリウム、またはそれらの混合物のような滑沢剤。カプセル、錠剤、およびピルの場合、剤形は緩衝剤も含み得る。
【0063】
経口投与用の液体剤形は、製薬学的に許容しうるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルを含む。液体剤形は、活性化合物のほかに、当該技術分野で通常使用されている不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶媒、可溶化剤、及び乳化剤を含みうる。乳化剤の例は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類、例えば綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール類、ソルビタンの脂肪酸エステル類、又はこれらの物質の混合物などである。
【0064】
そのような不活性希釈剤のほかに、該組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味料、風味料及び着香料などのアジュバントを含むこともできる。
【0065】
本発明の組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、特定の組成物及び投与法にとって所望の治療的応答を得るのに有効な量のFTおよび付加的な活性剤を得るために、変動しうる。従って、選択される用量レベルは、所望の治療効果、投与経路、所望の治療期間、および他の要因によって決まる。
【0066】
ヒトを含む哺乳動物の場合、体表面積に基づいて有効量を投与できる。様々な大きさ、種の動物、およびヒトに関する用量の相互関係(mg/M2体表面に基づく)は、E.J.Freireichらによって、Cancer Chemother.Rep.、50(4):219(1966年)に報告されている。 体表面積は、個体の身長および体重からおよそ決定できる(例えば、Scientific Tables、Geigy Pharmaceuticals、ニューヨーク州アーズリー、537-538頁(1970年)参照)。
【0067】
宿主に投与されるFTおよび任意に付加される活性剤の総日用量は、1回量でも分割量でもよい。用量単位組成物は、1日量を構成するのに使用され得るようなその量の約数に相当する量を含有し得る。しかしながら、任意の特定の患者に対する特定の用量レベルは、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間および経路、投与薬物の効力、吸収および排出速度、他の薬物との組合せ、および治療される特定の疾患の重症度などの様々な要因によって異なるであろうことは理解されよう。組成物は注射または注入の形態で1回のみ投与されることが好ましく、また他の好ましい実施形態においては、組成物は前立腺内の複数の部位に投与される。この実施形態において、組成物の投与の間隔は、2ヶ月から10年まで、または8ヶ月から4年まで、または約1年を超える範囲(例えば、1年から2年の間)で変動しうる。
【0068】
本発明の実施形態にかかるFTを含む組成物を投与する方法は、当該組成物を、エアロゾル、注入、ボーラス注射、植え込み装置、徐放システムなどによって、筋肉内、経口、静脈内、腹腔内、脳室内(柔組織内)、脳室内、腫瘍内、病巣内、皮内、髄腔内、鼻腔内、眼内、動脈内、局所、経直腸、経腹膜、経皮投与することを含むが、これには限定されない。例えば、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に開示されている任意の投与方法を使用することができる。
【0069】
ある実施形態において、単離されたFTペプチドと組み合わせて投与される少なくとも一つの活性剤は、以下の(1)-(40)からなる群から選択される:(1)5α-レダクターゼ阻害剤および/または抗エストロゲン、(2)5α-レダクターゼ阻害剤および/またはアロマターゼ阻害剤、(3)5α-レダクターゼ阻害剤および/または17β-HSD阻害剤、(4)5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(5)5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(6)5α-レダクターゼ阻害剤、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(7)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(8)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(9)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および17β-HSD阻害剤、(10)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(11)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(12)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(13)17β-HSD阻害剤、および抗エストロゲン、(14)17β-HSD阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(15)17β-HSD阻害剤、アロマターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(16)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(17)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(18)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(19)抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(20)抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、および抗アンドロゲン、(21)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(22)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(23)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(24)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(25)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(26)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(27)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(28)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(29)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および17β-HSD阻害剤、(30)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(31)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(32)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(33)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、および抗エストロゲン、(34)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(35)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、アロマターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(36)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(37)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(38)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(39)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、および(40)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、および抗アンドロゲン。
【0070】
組織培養遺伝学的アレイデータに基づけば、FTは、前立腺上皮細胞におけるカスパーゼ経路(カスパーゼ7、8、10、カスパーゼリクルートドメイン6、11、14、DIABLOの活性化)、腫瘍壊死因子経路(TNF1、TNFSF6、TNFSF8、TNFSF9、CD70リガンド、TNFRSF19L、TNFRSF25、TRAF2、TRAF3、TRAF4、TRAF6受容体の活性化)、およびBCL経路(BIK、HRK、BCL2L10、BCL3の活性化)をin vitroで刺激する新しい分子である。FTは、細胞膜の完全性の喪失、ミトコンドリアの代謝停止、RNAの枯渇、DNAの溶解と凝集、細胞の断片化と細胞の消失を選択的に引き起こす。アポトーシスの過程では、典型的な超微細構造の漸進性の変化として、膜の破壊と膨潤、徐々に深くなる核の浸潤、最終的には膜のブレブ形成、そして細胞死とアポトーシス小体への断片化が起こる。組織学的には、アポトーシスのマーカーが免疫組織化学的に陽性となる典型的なアポトーシスによる変化が、治療後数週間にわたって注射部位全体に認められる。
【0071】
FTは、BPH患者および低悪性度(T1c)の前立腺癌患者を対象とした広範囲な試験が行われている。この化合物とプラセボ対照薬は、9回のヒト臨床試験において1700以上の手順で経直腸投与された。BPH患者を対象としたこれらの大規模な長期臨床試験では、FTは0.25mg/mlの濃度で投与された(2.5mgのFTは、体積比で前立腺の約15~20%に投与されたことになる)。例えば、Shore, et al., “The potential for NX-1207 in benign prostatic hyperplasia: an update for clinicians,” Ther Adv. Chronic Dis., 2(6),377-383頁(2011)を参照のこと。本明細書に記載された実施形態に従い、またFTが前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を保存するという予想外の発見を踏まえて、FTは従来考えられていたよりも著しく多量に投与することができる。特定の実施形態では、FTは、単独または別の活性剤と組み合わせて、平均体重の男性(約86kg)に対して、約3.5mg~約350mg(約0.04~約4mg/kgに換算)、または約4.0mg~約250mg、または約5.0mg~約150mg、または約10.0mg~350mg、またはこれらの範囲の間の任意の値の量で投与することができる。他の実施形態では、従来の投与法と同じ用量のFT(2.5mg、すなわち体積比で前立腺の12-20%)、またはより少ない用量のFTを、同一の処置中に前立腺の複数の部位に、または1日から1週間までの範囲の異なる時間間隔で同じまたは異なる部位に、必要に応じて最大約8週間繰り返し投与して、全体の投与量を上記の範囲内に増やし、実質的に前立腺全体を治療することができる。また、本発明者は、体重換算で0.28~1.6mg/kgのFTで処理したビーグル犬を用いた研究において、前立腺内単発注射によるFT処理後に前立腺重量が一貫して減少することを見出した(FT処理後のn=8の前立腺重量平均は4.36gで、体重の3.4%であり、これに対して対照のn=9の前立腺重量平均は8.96gで、体重の6.4%であった)。
【0072】
以下の実施例は本発明の各実施形態を説明するために提供する。しかしながら、各実施形態はこれらの実施例に記載されている特定の条件または詳細事項に限定されるものではないことが理解されるべきである。本明細書全体を通じて、米国特許を含む公的に入手可能な文献への何れかまたは全ての参照は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。特に、本発明の実施形態は、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に含まれる例を参照により明示的に組み込む。これらの文献の各々は、そこに明記されている特定のペプチドが、正常なげっ歯類の筋肉組織、皮下結合組織、真皮などの組織において、in vivoで細胞死を引き起こすための有効な薬剤であることを明らかにしている。
【実施例】
【0073】
実験は5年間に渡って異なる時期に行われたため、1グループあたりのラットの数は同等であるものの、厳密には均一ではない。すべてのプロトコルは、適用される規則に従って行われ、動物の取り扱いに関するトレーニングを受けた者が、麻酔薬やその他の技術を用いて、痛みを伴わない処置技術を確保し、常に動物を人道的に扱うようにして実施した。
実施例1
【0074】
生後2カ月で体重200~300gのSprague-Dawley系ラット(n=268)を1ケージ当たり2~5匹のグルーブに分けて室温(24~26℃)で飼育し、標準的な制限のない食事と水を与えた。これらをエーテルで麻酔し、濃度が0.1-2.0mg/mLのFT0.3mLをpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解したものを、無菌的な予防措置と無菌的な技術を用いて、抗生物質を使用せずに、#26ゲージの滅菌針を滅菌シリンジに装着して腹腔鏡下で注射した。これらの動物には、従来ヒトに投与されていた量の約20倍の量の「全腺」注射を行った。対照動物(n=103)には、(1)PBSビヒクルのみ、(2)水で希釈した塩酸(pH3.0~5.0)、(3)pH7.4のPBSに溶解した不活性合成ペプチド(n=8)、のいずれかの0.5mL溶液を注射したか、あるいは(4)注射なしとした。ラットは毎日観察され、処理後24時間から12カ月の間隔をおいていずれかの麻酔下で無痛で殺処分された。
【0075】
ラットのサブグループには、繰り返し注射(週1回の頻度で2回から8回)を行った(表1)。死後の検査は前立腺に限られた(ラット、ウサギ、イヌを対象とした完全な独立した毒物学的研究が、ここでは報告されていない別の研究で実施され、FTの毒性作用は示されていない)。
【0076】
前立腺を摘出して二等分し、10%ホルマリン液に浸した後、パラフィンに包埋して切片とし、(1)ヘマトキシリン・エオジン(H&E)、(2)神経線維のBielschowsky銀染色法、(3)免疫組織化学的TUNEL染色により染色を行った。TUNEL(Terminal deoxynucleotidyl transferase (dUTP) nick end labeling)は、アポトーシスの際に生じる二本鎖のDNA切断における3′-水酸基末端を標識することで、DNAの断片化を検出
する。前立腺細胞株(PC3およびLNCAP)を0.001または0.25mg/mLのFTで、6、24、48ウェルプレートにおいて処理し、0、12、24、48時間後に収穫してペレット化した。切片化したペレットを電子顕微鏡で観察した(Analytical Biological Services社, Wilmington, デラウェア州; and Paragon BioServices社, Baltimore, メリーランド州)。また、同じ条件で処理した細胞株を、処理後にアネキシンV免疫蛍光法を用いてin vitroで染色し、紫外線下で観察して、in vitroでの細胞消失を定量的に評価した(Multitox-Fluor, Promega社)。アネキシンVは、細胞膜の外葉に外在するとアポトーシスのマーカーとなるホスファチジルセリンに結合する。
【0077】
アポトーシスは,24時間後,48時間後,72時間後,4~8日後,1ヶ月後,3ヶ月後,6ヶ月後,12ヶ月後に殺処分されたラットのH&E染色切片を用いて,顕微鏡的に評価した。FT処理ラットのすべての切片を2名の別々の観察者が観察し,各切片における萎縮とアポトーシスの程度,神経の有無,神経の組織学的な正常性と異常性を集計した。TUNEL染色は、21匹の動物で評価した(処理後72時間および7日)。前立腺の体積(8本の垂直な直径の平均値(1つの切片につき2本の90度をなす直径を、4つの切片に対して設定した)を用いて球に近似し、4/3π(D/2)3の計算により算出)を、すべての動物およびすべての対照で評価した。接線方向に切断されたブロックや切片は測定から除外した。
【0078】
処理(処理化合物の濃度、処理の頻度、処理後から殺処分するまでの間隔)、および顕微鏡的に得られた体積測定に従った動物群の概要を表1に示す。
表1-FT処理ラットおよび対照における前立腺体積
【表B1】
【表B2】
【0079】
すべての頻度、濃度、時間間隔におけるFT処理ラットの平均体積は476.8mm3(SD(標準偏差) 310.3)であり、対照の平均体積717.3mm3(SD 402.4)と比較した(p<.0001、CI -317.62~-163.38)。すべての濃度のFT処理ラットの処理後7日未満の平均体積は297.3mm3(SD 106.9)で、対照群の7日未満の平均体積(n=64)である587.5mm3(SD 292.8)と比較した(p<.0001、CI -343.15~-237.31)。
【0080】
図1Aおよび
図1Bには、FTを1mg/ml投与したラットとビヒクル単独(PBS)を投与したラットの平均体積がグラフで示されている。十分な効力を持つ、時点が一致した個々の値はすべて、ビヒクル対照注射動物と比較してFT処理ラットで統計的に有意に減少した。0.5~5.0mg/mlの範囲の単回投与で見られた体積の減少には明らかな一貫した違いはなく、1mg/mLまたは2mg/mLの投与量でFTを単回投与したラットと複数回投与したラットの間にも明らかな違いはなかった。
【0081】
対照切片では、時折、針の挿入痕が認められる例があった(6/92対照ラット)。pH3.0-5.0のHclを注入した2匹(2/12)のラットでは、局所的な虚血性または出血性の梗塞と壊死があり、これらは断面積の5%未満であった。その他のpH3.0-5.0のHClで処理した動物では、局所的な壊死を伴う顕微鏡的な病巣(断面積の2%未満)が見られた。その他、注射によって断面積の5%を超える血腫が生じた例はなかった。すべての対照は神経の存在を示した。対照は、FT処理ラットの前立腺における、下記の組織学的特徴を示さなかった。未処理の対照では、アポトーシスの発生数はまばらであった(100倍の視野あたり1未満)。未処理の対照や、ビヒクル単独またはPBS中の不活性ペプチドで処理された対照では、腺上皮は有意な持続的変化を示さなかった。PBSを注入した前立腺は、72時間未満の時間間隔で腫れた。生理食塩水を注入したラットの前立腺では、7日を超える時間間隔で腫れが検出されなかった。
【0082】
FT処理ラットでは、対照群では認められなかった以下の組織学的変化が認められた。(1)アポトーシスによる変化:高色素性の濃縮したジグザグ状の核の非常に顕著な細胞変化が生じた大きな領域に、より小さな丸い壊れた核とアポトーシス小体の出現が見られ、青白さを伴う細胞溶解、セルゴースト、細胞消失が見られた。これらの変化は24時間後、48時間後、72時間後、1週間後に認められ、そしてその後の数週間で減退した。6ヵ月後と1年後には、アポトーシスによる変化はほとんど見られなくなった。(2)TUNEL陽性:暗褐色の免疫ペルオキシダーゼTUNEL染色が、上記1のアポトーシスの変化の領域に見られた。3)6ヵ月および1年を含むすべての時点で神経が正常に見えること。(4)前立腺全体の体積が著しく減少する萎縮が見られること。組織学的には、最初は腺上皮が破壊され、徐々に脱落していき、次第に消失していった。6ヵ月から1年後には、前立腺全体の腺上皮がほぼ完全に、あるいは完全に消失していた。間質の結合組織は残っており、神経や血管はすべての時間間隔で無傷であった。したがって、FTを投与すると、哺乳動物の前立腺の腺上皮でアポトーシスが起こり、腺上皮細胞が広範囲に、しかし選択的に消失し、萎縮する。
【0083】
24~48時間後にin vitroで見られた超微細構造の変化は以下の通りである。(1)核の変化(顕著な陥没や折れ曲がりを伴う超複雑な電子密度の高い核)、(2)核膜の崩壊と最終的に顕著な核のブレブ、(3)小胞の膨潤と崩壊を伴う小器官の崩壊、(4)進行する細胞の崩壊、断片化、破断による消失。In vitroでのアネキシンV陽性は、前立腺細胞株で実証された。未処理の対照と、培地またはPBSビヒクルで処理した対照ウェルは陰性であった。
【0084】
RNAの定量的測定では、FT処理した前立腺細胞株で24時間後に枯渇が見られた。In vitroの定量的な細胞死と細胞消失の測定では、0.001mg/mLのFT投与量に比べて0.25mg/mLのFT投与量で有意な細胞枯渇が見られた(表2)。in vivoでは,0.5~5.0 mg/mLの用量の注射を行ったラットの前立腺体積に統計的な差は認められなかった。また,単回注入と比較して,繰り返し注入しても全体的に一貫して有意な変化は認められなかった。
【0085】
ここに例示されている研究は、FTがラットの前立腺上皮のアポトーシスを引き起こし、広範囲ではあるが選択的に腺上皮細胞の消失と萎縮をもたらすことを示している。今回報告された研究での前立腺体積の減少は、対照群と比較して33~50%の範囲である。今回報告された研究における投与量は、前立腺の体積とほぼ同じ量を注入することで、FTがすべてのまたはほぼすべての腺房上皮細胞集団に到達できるようにした。ラットの前立腺は、ヒトのBPH腺に比べて細胞性が高く、後者は最大で50%が間質構造である。さらに、ヒトのBPH前立腺は最大で70~100g以上あり、ヒトの前立腺体積あたりのFT量(10mL投与)は、ラットの前立腺体積あたりの実験投与量に比べて比率的に小さい。
【0086】
神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を温存した状態で、前立腺の移行部にある過剰成長した前立腺を腺特異的に分子アブレーションすることは、前立腺治療薬の新しい作用機序であり、重要な効果をもたらす。前立腺は、男性の生殖機能に重要な役割を果たしており、骨盤内の多くの重要な構造物(尿道、膀胱、直腸、精嚢)に近接して位置している。非特異的なアブレーションが患者の何割かに行われた場合、必然的に骨盤内の重要な構造物に回復不能な損傷を与え、その結果、機能障害が生じる。既知のアブレーション用の装置や薬剤、およびそれらに付随する損傷による毒性について検討した結果、一般的に、前立腺の神経組織、間質組織、血管組織、および結合組織の損傷は、性機能障害(射精障害、インポテンツ、性欲減退)を生じさせ、尿道の損傷は、逆行性射精および/または狭窄を生じさせ、直腸または膀胱の損傷は、失禁、瘻孔、狭窄、および/または機能障害を生じさせることが示唆された。FTの特異性により、非特異的なアブレーションによる他の構造物へのダメージから生じる多くの有害事象を回避できる。
【0087】
非特異的アブレーションの広範でよく知られた毒性作用は、高エネルギー伝導アブレーション技術(レーザー、針状アブレーション、マイクロ波、凍結療法、高強度超音波)および放射線(外部ビーム、ブラキセラピー・シード)に関する機器の研究文献や機器のラベル、および非特異的研磨剤(石炭酸、アルコールなど)に関する文献に記載されている。前述の方法やその他の方法では、非特異的なアブレーションが行われ、デリケートな隣接構造にある程度の永久的なダメージを与えることは避けられない。全身に投与される化学療法は、急速に成長する癌組織に有効であるが、基礎代謝率の高い、あるいは化学療法と共通の受容体を持つ他の脆弱な組織には副作用がある。そのため、従来の化学療法は、他の組織に対してある程度の毒性を持つのが普通である。例えば、5αリダクターゼ阻害剤(5-ARI)は、テストステロン経路の遮断剤であり、個々の前立腺腺細胞の体積を減少させることで前立腺のサイズを縮小させる。5-ARIによる細胞収縮は可逆的であり、それ自体はアブレーションではない。5-ARIは、前立腺の細胞やそれに隣接する細胞をアブレーションするものではないが、5-ARIは、テストステロン経路の不均衡に起因する他の組織への多くの好ましくない副作用(女性化乳房、インポテンツ、性欲減退、高悪性度前立腺癌のリスクの可能性など)がある。
【0088】
ここで実証されているように、FTの投与は、神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織などの重要な構造物を含む隣接する周囲の組織に識別可能な損傷を与えることなく、一貫して有意で選択的な前立腺上皮のアポトーシスによる細胞消失と腺の縮小をもたらす。FTの選択的な性質により、従来よりも大量に投与すること、および実質的に腺全体に投与することが可能であり、その結果、良性の過剰成長を完全またはほぼ完全に回復させ、その後の治療の必要性を排除することができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2020-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺の過剰成長物を選択的に破壊する方法であって、必要な
哺乳動物に対し、前立腺の
95%を超える部分を治療する
べく、前立腺の2か所を超えて10か所までの異なる部位にフェキサポチドトリフルタート(Fexapotide Triflutate)を
複数回の注入により投与する工程と、投与部位に構造的に近接した神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を実質的に保存しながら、腺の過剰成長物を選択的に破壊する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたフェキサポチドトリフルタートおよび担体を投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし8週間の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし4週間の期間にわたって投与する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし6か月の期間にわたって投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
フェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし4か月の期間にわたって投与する工程を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
フェキサポチドトリフルタートを
複数回の注入により複数回投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約2か月ないし約10年の範囲内である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約8か月ないし約4年の範囲内である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
フェキサポチドトリフルタートを投与する間隔が約1年ないし約2年の範囲内である、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
フェキサポチドトリフルタートが、経口投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、腫瘍内投与、局所投与、経直腸投与、経腹膜投与、および経皮投与からなる群から選択される方法によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、1回の投与につき、前記前立腺の体積を約15%ないし約75%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記前立腺の体積を約33%ないし約48%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項
13に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要な哺乳動物において前立腺の過剰成長物を選択的に破壊する
医薬品であって、
フェキサポチドトリフルタート(Fexapotide Triflutate)を含み、前立腺の95%を超える部分を治療するべく、前立腺の2か所を超えて10か所までの異なる部位に
治療有効量を
前立腺内注射による複数回の注入により投与
したとき、投与部位に構造的に近接した神経組織、間質組織、血管組織、結合組織、および尿道筋組織を実質的に保存しながら、腺の過剰成長物
が選択的に破壊
される、医薬品。
【請求項2】
前記医薬品がさらに担体
を含む、請求項1に記載の
医薬品。
【請求項3】
前記複数回の注入が、フェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし8週間の期間にわたって投与する
ことを含む、請求項1に記載の
医薬品。
【請求項4】
前記複数回の注入が、フェキサポチドトリフルタートを週1回、2週間ないし4週間の期間にわたって投与する
ことを含む、請求項3に記載の
医薬品。
【請求項5】
前記複数回の注入が、フェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし6か月の期間にわたって投与する
ことを含む、請求項1に記載の
医薬品。
【請求項6】
前記複数回の注入が、フェキサポチドトリフルタートを月1回、2か月ないし4か月の期間にわたって投与する
ことを含む、請求項5に記載の
医薬品。
【請求項7】
前記複数回の注入による投与における注入の間隔が約2か月ないし約10年の範囲内である、請求項
6に記載の
医薬品。
【請求項8】
前記間隔が約8か月ないし約4年の範囲内である、請求項
7に記載の
医薬品。
【請求項9】
前記間隔が約1年ないし約2年の範囲内である、請求項
7に記載の
医薬品。
【請求項10】
1回の投与につき、前記前立腺の体積を約15%ないし約75%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項1に記載の
医薬品。
【請求項11】
前記前立腺の体積を約33%ないし約48%の範囲内の量だけ縮小させる、請求項
10に記載の
医薬品。
【国際調査報告】