(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】EBV関連がんの処置のための抗LMP2 TCR-T細胞療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220131BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20220131BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20220131BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220131BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220131BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220131BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20220131BHJP
C07K 14/55 20060101ALN20220131BHJP
C07K 14/57 20060101ALN20220131BHJP
C07K 14/525 20060101ALN20220131BHJP
C07K 14/535 20060101ALN20220131BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
C07K14/725
A61P35/00
A61K35/17 A
A61P35/02
A61K45/00 101
A61P43/00 121
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
C07K14/55
C07K14/57
C07K14/525
C07K14/535
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021510452
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 US2019063310
(87)【国際公開番号】W WO2020112815
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ワン, シャオ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】リー, チー-ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, グオピン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
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4B065AA94Y
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4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
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4H045DA18
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、抗LMP2 TCR-T細胞集団を含む、EBV関連がんの処置のための組成物、ならびにそれを作製および使用する方法を提供する。本開示は、がんを処置する方法を提供する。より詳細には、本開示は、潜伏膜タンパク質2(LMP2)に対して特異的な操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞を含む組成物、ならびにこれを作製および使用する方法、ならびにLMP2抗原を標的化するTCRを含む組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞の集団であって、ここで前記操作されたTCRは、潜伏膜タンパク質2(LMP2)抗原に応答して、T細胞を活性化する、T細胞の集団。
【請求項2】
前記操作されたTCRは、配列番号03のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のT細胞の集団。
【請求項3】
前記操作されたTCRは、配列番号09のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のT細胞の集団。
【請求項4】
前記LMP2抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号01)の配列を含む、請求項1~3のいずれかに記載のT細胞の集団。
【請求項5】
前記T細胞の集団は、治療上有効な量の、被験体においてLMP2を含むがんの処置のための細胞を含む、請求項1~4のいずれかに記載のT細胞の集団。
【請求項6】
前記被験体は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を発現する、請求項1~5のいずれかに記載のT細胞の集団。
【請求項7】
前記T細胞の集団のうちの少なくとも一部は、1種またはこれより多くのサイトカインを生成するかまたは生成する能力を有する、請求項1~6のいずれかに記載のT細胞の集団。
【請求項8】
前記1種またはこれより多くのサイトカインは、IL-2、IFN-γ、TNF-α、グランザイムA、グランザイムB、およびGM-CSFからなる群より選択される、請求項7に記載のT細胞の集団。
【請求項9】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される、請求項6~8のいずれかに記載のT細胞の集団。
【請求項10】
前記がんは、EBV関連がんである、請求項9に記載のT細胞の集団。
【請求項11】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である、請求項9に記載のT細胞の集団。
【請求項12】
前記がんは、リンパ腫である、請求項9に記載のT細胞の集団。
【請求項13】
前記がんは、胃がんである、請求項9に記載のT細胞の集団。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のT細胞の集団、および薬学的に受容可能なキャリアを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
前記薬学的に受容可能なキャリアは、治療上有効な量の、LMP2を含むがんの処置のための細胞の維持を支援する、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
少なくとも1種の治療剤をさらに含む、請求項14または15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
LMP2を含むがんに罹患している被験体を処置する方法であって、ここで前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~13のいずれかに記載のT細胞の集団または請求項14~16のいずれかに記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで前記投与は、前記がんに対する抗腫瘍応答を誘導する、方法。
【請求項18】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記がんは、EBV関連がんである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記がんは、リンパ腫である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記がんは、胃がんである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記抗腫瘍応答は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%、腫瘍容積の低減を生じる、請求項17~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
配列番号03のアミノ酸配列を含む操作されたTCRをコードするポリヌクレオチドを含む、単離された核酸分子。
【請求項25】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号08の核酸配列を含む、請求項24に記載の単離された核酸。
【請求項26】
請求項25に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項27】
配列番号09のアミノ酸配列を含む操作されたTCRをコードするポリヌクレオチドを含む、単離された核酸。
【請求項28】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号14の核酸配列を含む、請求項27に記載の単離された核酸。
【請求項29】
請求項28に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項30】
前記ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BAC))、およびウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびヘルペスウイルス)からなる群より選択される、請求項26または請求項29に記載のベクター。
【請求項31】
T細胞の集団を調製する方法であって、前記方法は、
(1)単離されたT細胞を、請求項24もしくは27に記載の単離された核酸または請求項26もしくは29に記載のベクターでトランスフェクトまたは形質導入する工程;および
(2)トランスフェクションまたは形質導入後の前記T細胞を拡大増殖する工程であって、ここで前記T細胞は、人工APCによって提示される抗CD3、抗CD3/抗CD28、またはLMPタンパク質の存在下で培養することによって拡大増殖される、工程、
を包含する、方法。
【請求項32】
前記単離されたT細胞は、ヒトから単離される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒトは、LMP2を含むがんに罹患している被験体である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
LMP2を含む前記がんに罹患している前記被験体は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を発現する、請求項31~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
潜伏膜タンパク質2(LMP2)抗原を含む腫瘍の増殖の阻害を、それを必要とする患者において行う方法であって、ここで前記方法は、前記患者に、治療上有効な量の、配列番号4または10の配列を有するTCRα鎖、および配列番号6または12の配列を有するTCRβ鎖を有する操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞の集団を投与する工程を包含し、ここで前記LMP2抗原を含む前記腫瘍の増殖は阻害される、方法。
【請求項36】
前記腫瘍は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記腫瘍は、EBV関連がんに由来する、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記がんは、鼻咽腔癌、リンパ腫、または胃がんである、請求項35または36に記載の方法。
【請求項39】
前記操作されたTCRは、配列番号4のTCRα鎖および配列番号6のTCRβ鎖を含む、請求項35~38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記TCRα鎖は、配列 AVVNNNDMRFG(配列番号5)を含むCDR3αを含み、前記TCRβ鎖は、配列 ASSPGRWYEQF(配列番号7)を含むCDR3βを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記操作されたTCRは、配列番号10のTCRα鎖および配列番号12のTCRβ鎖を含む、請求項35~38のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記TCRα鎖は、配列 AVLNNNDMRFG(配列番号11)を含むCDR3αを含み、前記TCRβ鎖は、配列 ASSQGRWYEAF(配列番号13)を含むCDR3βを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
配列番号03に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を共有するアミノ酸を含む、操作されたT細胞レセプター(TCR)。
【請求項44】
前記TCRは、配列番号4のTCRα鎖および配列番号6のTCRβ鎖を含む、請求項43に記載の操作されたTCR。
【請求項45】
前記TCRα鎖は、配列 AVVNNNDMRFG(配列番号5)を含むCDR3αを含み、前記TCRβ鎖は、配列 ASSPGRWYEQF(配列番号7)を含むCDR3βを含む、請求項44に記載の操作されたTCR。
【請求項46】
配列番号09に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を共有するアミノ酸を含む、操作されたT細胞レセプター(TCR)。
【請求項47】
前記TCRは、配列番号10のTCRα鎖および配列番号12のTCRβ鎖を含む、請求項46に記載の操作されたTCR。
【請求項48】
前記TCRα鎖は、配列 AVLNNNDMRFG(配列番号11)を含むCDR3αを含み、前記TCRβ鎖は、配列 ASSQGRWYEAF(配列番号13)を含むCDR3βを含む、請求項47に記載の操作されたTCR。
【請求項49】
前記操作されたTCRは、LMP2抗原に特異的に結合する、請求項43~48のいずれかに記載の操作されたTCR。
【請求項50】
前記LMP2抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号1)を含む、請求項49に記載の操作されたTCR。
【請求項51】
請求項43~50のいずれかに記載の操作されたTCRを発現するT細胞の集団、および薬学的に受容可能なキャリアを含む、薬学的組成物。
【請求項52】
LMP2を含むがんに罹患している被験体においてT細胞応答を誘導する方法であって、ここで前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項43~50のいずれかに記載の操作されたTCRを含むT細胞の集団または請求項51に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで前記投与は、前記がんに対する抗腫瘍応答を誘導する、方法。
【請求項53】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記がんは、EBV関連がんである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記がんは、リンパ腫である、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記がんは、胃がんである、請求項52に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2018年11月27日出願の米国仮特許出願第62/771,653号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本開示は、がんを処置する方法を提供する。より詳細には、本開示は、潜伏膜タンパク質2(LMP2)に対して特異的な操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞を含む組成物、ならびにこれを作製および使用する方法、ならびにLMP2抗原を標的化するTCRを含む組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
T細胞レセプター操作T細胞療法は、T細胞を遺伝的に改変してがんを処置する養子T細胞免疫療法の1タイプである。T細胞レセプター操作T細胞療法は、固形腫瘍を処置するにあたって有望であると示されている。1つの固形腫瘍タイプである鼻咽腔癌(NPC)は、中国南部および南アジアにおいて有病率が高く、後期ステージに関しては、処置選択肢がほとんどない。現在の標準治療は、非特異的毒性によって制限されている一方で、NPCはしばしば、エプスタインバーウイルス(EBV)感染と関連しており、これは、養子免疫療法の優れた標的となる。
【0004】
エプスタインバーウイルス(EBV)潜伏膜タンパク質2(LMP2)は、エプスタインバーウイルスのウイルスタンパク質である。LMP2抗原は、潜在的TCR T細胞標的であるので、LMP2抗原を含む細胞の標的化された排除は、正常細胞に対する毒性が制限された状態で、強い抗腫瘍特性を有し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
以下の詳細な説明においてさらに記載される概念の選択を導入するために、要旨が提供される。この要旨は、特許請求された主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図せず、特許請求された主題の範囲を限定する助けとして使用されることも意図されない。
【0006】
TCR T細胞療法は、T細胞が単離および改変され、その結果、改変されたT細胞ががん細胞を攻撃する処置の1タイプである。単離されたT細胞は、患者のがん細胞上のLMP2を特異的に認識するTCRを発現するように操作される。複数のTCR T細胞が、研究室の中で増殖され、患者に、代表的には注入によって与えられる。本発明者らは、抗原特異性を再指向したT細胞での次世代免疫細胞療法を実行して、免疫療法において使用され得るT細胞集団を生成するために必要とされる時間を短縮した。
【0007】
一局面において、本開示は、操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞の集団であって、ここで上記操作されたTCRは、潜伏膜タンパク質2(LMP2)抗原に応じてT細胞を活性化するT細胞の集団を提供する。ある特定の実施形態において、上記操作されたTCRは、配列番号03のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記操作されたTCRは、配列番号09のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態において、上記LMP2抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号01)の配列を含む。
【0008】
ある特定の実施形態において、上記T細胞の集団は、治療上有効な量の、被験体においてLMP2を含むがんの処置のための細胞を含む。いくつかの実施形態において、上記被験体は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を発現する。
【0009】
ある特定の実施形態において、上記T細胞の集団のうちの少なくとも一部は、1種またはこれより多くのサイトカインを生成するかまたは生成する能力を有する。いくつかの実施形態において、上記1種またはこれより多くのサイトカインは、IL-2、IFN-γ、TNF-α、グランザイムA、グランザイムB、およびGM-CSFからなる群より選択される。
【0010】
ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、上記がんは、EBV関連がんである。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である。ある特定の実施形態において、上記がんは、リンパ腫である。ある特定の実施形態において、上記がんは、胃がんである。
【0011】
別の局面において、本開示は、本明細書で開示されるとおりのT細胞の集団および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。ある特定の実施形態において、上記薬学的に受容可能なキャリアは、治療上有効な量の、LMP2を含むがんの処置のための細胞の維持を支援する。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、少なくとも1種の治療剤をさらに含む。
【0012】
なお別の局面において、本開示は、LMP2を含むがんに罹患している被験体を処置する方法であって、ここで上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の、本明細書で開示されるとおりのT細胞の集団または本明細書で開示されるとおりの薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで上記投与は、がんに対する抗腫瘍応答を誘導する、方法を提供する。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される。ある特定の実施形態において、上記がんは、EBV関連がんである。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である。ある特定の実施形態において、上記がんは、リンパ腫である。ある特定の実施形態において、上記がんは、胃がんである。ある特定の実施形態において、上記抗腫瘍応答は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%, 少なくとも80%、少なくとも90%、または100%、腫瘍容積の低減を生じる。
【0013】
別の局面において、本開示は、配列番号03のアミノ酸配列を含む操作されたTCRをコードするポリヌクレオチドを含む単離された核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、上記ポリヌクレオチドは、配列番号08の核酸配列を含む。
【0014】
別の局面において、本開示は、配列番号09のアミノ酸配列を含む操作されたTCRをコードするポリヌクレオチドを含む単離された核酸を提供する。ある特定の実施形態において、上記ポリヌクレオチドは、配列番号14の核酸配列を含む。
【0015】
なお別の局面において、本開示は、本明細書で開示されるとおりの核酸を含むベクターを提供する。ある特定の実施形態において、上記ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BAC))、およびウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびヘルペスウイルス)からなる群より選択される。
【0016】
一局面において、本開示は、T細胞の集団を調製する方法であって、ここで上記方法は、(1)単離されたT細胞を、本明細書で開示されるとおりの単離された核酸またはベクターでトランスフェクトまたは形質導入する工程;および(2)上記トランスフェクションまたは形質導入後のT細胞を拡大増殖する工程であって、ここで上記T細胞は、人工APCによって提示される抗CD3、抗CD3/抗CD28、またはLMPタンパク質の存在下で培養することによって拡大増殖される工程、を包含する方法を提供する。ある特定の実施形態において、上記単離されたT細胞は、ヒトから単離される。ある特定の実施形態において、上記ヒトは、LMP2を含むがんに罹患している被験体である。ある特定の実施形態において、上記LMP2を含むがんに罹患している被験体は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を発現する。
【0017】
別の局面において、本開示は、潜伏膜タンパク質2(LMP2)抗原を含む腫瘍の増殖の阻害を、それを必要性とする患者において行う方法であって、ここで上記方法は、上記患者に、治療上有効な量の、配列番号4または10の配列を有するTCRα鎖および配列番号6または12の配列を有するTCRβ鎖を有する操作されたT細胞レセプター(TCR)を含むT細胞の集団を投与する工程を包含し、ここで上記LMP2抗原を含む腫瘍の増殖は、阻害される方法を提供する。ある特定の実施形態において、上記腫瘍は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を含む。ある特定の実施形態において、上記腫瘍は、EBV関連がんに由来する。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌、リンパ腫、または胃がんである。
【0018】
ある特定の実施形態において、上記操作されたTCRは、配列番号4のTCRα鎖および配列番号6のTCRβ鎖を含む。ある特定の実施形態において、上記TCRα鎖は、配列 AVVNNNDMRFG(配列番号5)を含むCDR3αを含み、上記TCRβ鎖は、配列 ASSPGRWYEQF(配列番号7)を含むCDR3βを含む。
【0019】
ある特定の実施形態において、上記操作されたTCRは、配列番号10のTCRα鎖および配列番号12のTCRβ鎖を含む。ある特定の実施形態において、上記TCRα鎖は、配列 AVLNNNDMRFG(配列番号11)を含むCDR3αを含み、上記TCRβ鎖は、配列 ASSQGRWYEAF(配列番号13)を含むCDR3βを含む。
【0020】
なお別の局面において、本開示は、操作されたT細胞レセプター(TCR)であって、ここで上記TCRは、配列番号03に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を共有するアミノ酸を含む操作されたTCRを提供する。ある特定の実施形態において、上記TCRは、配列番号4のTCRα鎖および配列番号6のTCRβ鎖を含む。ある特定の実施形態において、上記TCRα鎖は、配列 AVVNNNDMRFG(配列番号5)を含むCDR3αを含み、上記TCRβ鎖は、配列 ASSPGRWYEQF(配列番号7)を含むCDR3βを含む。
【0021】
なお別の局面において、本開示は、操作されたT細胞レセプター(TCR)であって、ここで上記TCRは、配列番号09に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を共有するアミノ酸を含む操作されたTCRを提供する。ある特定の実施形態において、上記TCRは、配列番号10のTCRα鎖および配列番号12のTCRβ鎖を含む。ある特定の実施形態において、上記TCRα鎖は、配列AVLNNNDMRFG(配列番号11)を含むCDR3αを含み、上記TCRβ鎖は、配列 ASSQGRWYEAF(配列番号13)を含むCDR3βを含む。
【0022】
ある特定の実施形態において、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRは、LMP2抗原に特異的に結合する。ある特定の実施形態において、上記LMP2抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号1)を含む。
【0023】
一局面において、本開示は、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRを発現するT細胞の集団および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。
【0024】
別の局面において、本開示は、LMP2を含むがんに罹患している被験体においてT細胞応答を誘導する方法であって、ここで上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRを含むT細胞の集団、または本明細書で開示されるとおりの薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで上記投与は、上記がんに対する抗腫瘍応答を誘導する、方法を提供する。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病からなる群より選択される。ある特定の実施形態において、上記がんは、EBV関連がんである。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)である。ある特定の実施形態において、上記がんは、リンパ腫である。ある特定の実施形態において、上記がんは、胃がんである。
【0025】
本開示の別の局面は、本明細書で記載および例証される全てを提供する。
【0026】
本開示の前述の局面および他の特長は、本明細書において添付の図面とともに考慮して、以下の説明において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1A~1Bは、候補LMP2-A11 TCRの発現および活性を示すフローサイトメトリーの結果である。(A)候補TCR配列をレトロウイルスベクターにクローニングし、そのベクターをJurkat細胞に形質導入した。TCRb陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)
図1AにおけるJurkat細胞株を、HLA-A11-LMP2ペプチドリンカーを発現するように操作したRamosリンパ腫細胞と共培養した。T細胞活性化を、CD69発現を測定することによって定量した。TCR-NPC-A11-03として同定されるTCRを、LMP2特異的として同定した。
【0028】
【
図2】
図2A~2Bは、候補LMP2-A11 TCRの発現および活性を示すフローサイトメトリーの結果である。(A)候補TCR配列をレトロウイルスベクターにクローニングし、そのベクターをJurkat細胞に形質導入した。TCRb陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)1AにおけるJurkat細胞株を、HLA-A11-LMP2ペプチドリンカーを発現するように操作したRamosリンパ腫細胞と共培養した。T細胞活性化を、CD69発現を測定することによって定量した。TCR-NPC-A11-125として同定されるTCRを、LMP2特異的として同定した。
【0029】
【
図3】
図3A~3Bは、LMP2-A11 TCR-T細胞のインビトロ抗腫瘍活性を示すグラフである。TCR-NPC-A11-03(A)またはTCR-NPC-A11-125(B)を発現するように操作したPBMCを、HLA-A11またはHLA-A24に連結したLMP2ペプチドを発現するRamos細胞の混合集団と共培養した。競合的殺滅パーセンテージを、(1-A11:A24)×100として計算した。
【0030】
【
図4】
図4A~4Cは、LMP2-A11 TCR-T細胞のインビボ抗腫瘍活性を示すグラフである。Ramos(A11)リンパ腫細胞(5×10
6)を、NSGマウスに皮下接種した。13日後、1×10
7 TCR陽性TCR-NPC-A11-03またはTCR-NPC-A11-125 TCR-T細胞を、示されるように、尾静脈を介して注射した。腫瘍容積をモニターし、個々に(A)または平均として(B)プロットした。各群の動物の生存曲線を、(C)に示す。
【0031】
【
図5-1】
図5A~5Eは、ヒト初回投与(first-inhuman)Ad5f35-LMP1-2アデノウイルスベクター形質導入DCワクチン治験を示す(A)グラフおよび模式図、ならびにカプラン・マイアー生存分析(B)である。処置された16名の進行性NPC患者のうち、DCワクチン接種療法は、2名の患者(12.5%)において>18週間の疾患安定化および1名の患者において部分奏効を生じた。(C~E) EBV拡大増殖T細胞療法治験の模式図(C)、患者サンプル収集手順(D)、およびカプラン・マイアー生存分析。化学療法と養子EBV特異的T細胞療法とを組み合わせる進行性NPCに関するこのフェーズII臨床試験は、本開示の1つの実施形態によれば、3名の完全奏効および22名の部分奏効を伴って、71.4%という奏効率を達成した。
【0032】
【
図6-1】
図6A~6Bは、腫瘍抗原特異的TCRを詳細に吟味するために使用される実験プラットフォームおよびコンピュータープラットフォームを示すグラフおよび画像である。(A)患者由来のPBMCを、腫瘍抗原が増殖を刺激した後に、直接レパートリー配列決定(direct repertoire sequencing)またはTCR分析のためにアリコートに分けた。これらの2つのデータセットを、それらのモチーフ類似性に基づいて、TCRを一緒に偏りなくクラスター化するMotif分析に供した。このようにして、別個のTCR配列を用いてすら、刺激していないプールからの試験した腫瘍抗原を認識するTCRを、公知の腫瘍抗原特異性を有するTCRに関連付けた。(B)共有したMotifを有する特異的クラスターに由来する腫瘍抗原特異的TCRの多様性および頻度を、定量化した。この手順およびBMS CheckMate 143 Trialから集めた縦断的サンプル(longitude sample)を用いて、本発明者らは、抗PD-1または抗PD-1+抗CTLA4処置で処置した膠芽腫患者におけるT細胞クローン性拡大増殖の動態をモニターした。EGFRエピトープを、腫瘍関連抗原の代表として使用し、CMV pp65エピトープは、外因性抗原を代表した。
【0033】
【
図7-1】
図7A~7Dは、PEPCMV-HLA-A2特異的TCRクローニングおよびTCR-T検証を示すグラフおよびフローサイトメトリー分析である。単一T細胞RNASeqを行って、HLA-A2ドナーによって提示されるCMVpp65エピトープを認識するTCRをクローニングした。(A)クローニングしたTCRα鎖およびβ鎖のVセグメント利用。(B)レトロウイルス形質導入によって生成されるヒトTCR-T細胞。(C)CMVpp65-TCR-T細胞の抗原特異的活性化。左,刺激していない; 右, 抗原刺激した。CD107は、抗原誘導性脱顆粒(T細胞媒介性細胞溶解において重要な工程)のマーカーとして使用される。(D)A2-P8-036 TCR-Tによる抗原特異的殺滅。マウスOT-1トランスジェニックT細胞を、陽性コントロールとして使用した;CMVpp65ペプチド抗原負荷なしの標的細胞を、陰性コントロールとして使用した。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
本開示の原理の理解を促進する目的で、好ましい実施形態に対する参照がここで行われ、具体的文言が、その実施形態を説明するために使用される。にもかかわらず、本開示の範囲の限定がそれによって意図されず、本明細書で例証されるような本開示の変更およびさらなる改変は、本開示が関連する分野の当業者に通常想起されると企図されることは理解される。
【0035】
冠詞「1つの、ある(a)」および「1つの、ある(an)」は、その冠詞の文法上の対象が1または1より多い(すなわち、少なくとも1)ことに言及するために本明細書で使用される。例示によれば、「1つの要素(an element)」とは、少なくとも1つの要素を意味し、1より多くの要素を含み得る。
【0036】
用語「約(about)」とは、望ましい結果に影響を及ぼすことなく、数値範囲の端点を「わずかに上回る(slightly above)」または「わずかに下回る(slightly below)」可能性があるということを提供することによって、その端点に融通性をもたらすために使用される。
【0037】
本明細書全体を通じて、別段文脈が要求しなければ、語句「含む、包含する(comprise)」および「含む、包含する、が挙げられる(include)」およびバリエーション(例えば、「含む、包含する(comprises)」、「含む、包含する(comprising)」、「含む、包含する、が挙げられる(includes)」、「含む、包含する、が挙げられる(including)」)は、述べられた構成要素、特徴、要素もしくは工程、または構成要素、特徴、要素もしくは工程の群の包含を暗示するが、いかなる他の完全体もしくは工程の、または他の完全体もしくは工程の群の排除をも暗示しないことが理解される。ある特定の要素を「含む、包含する、が挙げられる」、「含む、包含する」または「有する(having)」として記載される実施形態はまた、それらある特定の要素「から本質的になる(consisting essentially of)および「からなる(consisting of)」として企図される。
【0038】
本明細書中の値の範囲の記載は、本明細書で別段記載されなければ、その範囲内に入る各別個の値に個々に言及する簡略表記法として働くことが意図されるに過ぎず、各別個の値は、それが、本明細書で個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。例えば、濃度範囲が、1%~50%として述べられる場合、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などのような値が、本明細書中で明示的に挙げられていることが意図される。これらは、具体的に何が意図されているかの例に過ぎず、挙げられる最低値と最高値との間ならびにその最高値および最低値を含む数値の全ての考えられる組み合わせが、本開示において明示的に述べられているとみなされるべきである。
【0039】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0040】
定義
本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」、「処置(treatment)」、「治療(therapy)」および/または「治療レジメン(therapy regimen)」とは、患者が示すかまたは患者が感受性のあり得る、疾患、障害または生理学的状態に対する応答においてなされる臨床的介入に言及する。処置の目的としては、疾患、障害もしくは状態の症状の緩和もしくは防止、上記疾患、障害もしくは状態の進行もしくは増悪を遅らせるもしくは停止する、および/または上記疾患、障害もしくは状態の寛解が挙げられる。
【0041】
用語「有効量(effective amount)」または「治療上有効な量(therapeutically effective amount)」とは、有益なまたは望ましい生物学的および/または臨床的結果をもたらすために十分な量に言及する。「有効量」または「治療上有効な量」は、医療従事者の熟練チームによって決定され得、画像検査、生体マーカー検査、またはさらなる検査の使用を含み得る。がんに関しては、治療上有効な量の投与は、がんの転移を防止するか、固形腫瘍のサイズもしくは質量の減少を生じるか、がんの増殖もしくは成長を阻害するか、または腫瘍の壊死を生じる。
【0042】
用語「疾患」とは、本明細書で使用される場合、生物の一部に影響を及ぼす、構造もしくは機能の任意の異常な状態および/または障害が挙げられるが、これらに限定されない。それは、外部因子(例えば、感染性疾患)によって、または内部の機能障害(例えば、がん、がんの転移など)によって引き起こされ得る。
【0043】
当該分野で公知であるように、がんは、一般に、制御されない細胞増殖と考えられる。本発明の組成物および方法は、LMP2を発現する任意のがん、およびその任意の転移を処置するために使用され得る。例としては、鼻咽腔癌(NPC)、リンパ腫、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌である。いくつかの実施形態において、上記がんは、リンパ腫である。いくつかの実施形態において、上記がんは、胃がんである。ある特定の実施形態において、上記がんは、EBV関連がんまたはEBV陽性がん、例えば、EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性バーキットリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌、またはEBV陽性胃がんである。
【0044】
鼻咽腔癌(NPC)は、遺伝的因子および環境的因子(例えば、エプスタインバーウイルスが関わるとされている)の両方と関連する多因子の悪性疾患である。ウイルスの影響は、エプスタインバーウイルス(EBV;ヒトヘルペスウイルス4ともいわれる)による感染と関連し、EBVは、最も一般的なウイルスのうちの1つである(例えば、米国にいる全人口のうちの約95%が、彼らが30~40歳になるときまでにこのウイルスに曝される)。従って、NPCが東南アジアの個体、特に、広東系中国人の祖先をもつ個人において高頻度であるのは、上記障害の発生の素因になる強い遺伝的因子があることを示唆する。高発生率を有する地方において、NPCは家族でクラスターを形成し、これは、地理および遺伝的特質の両方が疾患のリスクに影響を与え得ることを示唆する。NPCは、外科手術によって、化学療法によって、または放射線療法によって処置され得る。三次元原体放射線療法、強度変調放射線療法、粒子線療法および近接照射療法を含む種々の形態の放射線療法が存在する。その放射線療法は、頭頚部のがんの処置において一般に使用される。未分化鼻咽腔癌内のEBV潜伏タンパク質の発現は、本明細書で開示されるとおりの免疫ベースの治療に関して潜在的に利用され得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「被験体」および「患者」とは、本明細書で交換可能に使用され、ヒトおよび非ヒト動物の両方に言及する。本開示の用語「非ヒト動物」としては、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類など)が挙げられる。ある特定の実施形態において、上記被験体は、がんを有すると疑われるか、がんを有するか、またはがんに罹患しているヒト患者である。一実施形態において、上記ヒトは、LMP2を含むがんを有すると疑われる被験体である。別の実施形態において、上記ヒトは、LMP2を含むがんを有する被験体である。さらに別の実施形態において、上記ヒトは、LMP2を含むがんに罹患している被験体である。ある特定の実施形態において、上記被験体は、LMP2関連がんに罹患しているヒトである。ある特定の実施形態において、上記被験体は、EBV関連がんに罹患しているヒトである。ある特定の実施形態において、上記患者は、EBV血清陽性である。ある特定の実施形態において、上記LMP2抗原は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を有するMHCクラスI分子との複合体の状態にある。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「潜伏膜タンパク質2(latent membrane protein 2)」および「LMP2」とは、EBV抗原潜伏膜タンパク質2(LMP2)をいう。LMP2は、多くのEBV関連がんにおいて発現される。ある特定の実施形態において、上記LMP2抗原は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を有するMHCクラスI分子との複合体の状態にある。LMP2は、2つのアイソフォーム、LMP2AまたはLMP2Bで存在し得る。LMP2Aは、3つのドメイン:(a)N末端細胞質ドメイン(これは、WWドメイン含有E3ユビキチンリガーゼに結合するPYモチーフおよびSH2ドメイン含有タンパク質に結合するITAMを有する)、(b)細胞膜においてLMP2Aを局在させる12の膜貫通セグメントを有する膜貫通ドメイン、ならびに(c)LMP2タンパク質アイソフォームのホモダイマー化およびヘテロダイマー化を媒介する27アミノ酸のC末端ドメイン、を有するEBVがコードするタンパク質である。LMP2Bは、LMP2Aとは異なり、細胞質シグナル伝達ドメインのN末端の1~119アミノ酸を含まない。いくつかの実施形態において、上記LMP2抗原は、配列番号02のアミノ酸配列に由来するフラグメントであり得る。いくつかの実施形態において、上記LMP2抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号01)であり得る。
【化1】
【0047】
用語「T細胞レセプター」または「TCR」または「操作されたTCR」とは、抗原提示細胞(APC)の表面に示された抗原の認識を担うT細胞の表面で見出される分子をいう。各T細胞は、遺伝子をランダムに取りそろえることによって生成される特有のTCRを発現し、これは、T細胞がほぼ任意の感染に応答し得ることを確実にする。TCRはまた、細胞の内部の腫瘍特異的タンパク質(抗原)を認識し得る。腫瘍特異的タンパク質(すなわち、LMP2)がフラグメントへと分解される場合、それらは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とともに細胞表面に現れる。MHCクラスI分子は、細胞内タンパク質に由来するペプチド抗原を提示する。TCRは、腫瘍特異的タンパク質フラグメント/MHCの組み合わせを認識するように操作され得る。ある特定の実施形態において、LMP2抗原は、ヒト白血球抗原サブタイプA11(HLA-A11)を有するMHCクラスI分子との複合体の状態にある。TCR構造は、アルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖を含む2つの異なるタンパク質鎖から構成される。ある特定の実施形態において、上記TCRは、TCRがトランスフェクトされたT細胞においてTCRを形成するその能力を保持し、LMP2抗原を認識する能力を維持し、免疫学的に関連するサイトカインシグナル伝達に関与する限りにおいて、天然に存在する配列と比較して、1またはこれより多くのアミノ酸置換、欠失、挿入、または改変を有し得る。上記操作されたTCRは好ましくは、高いアビディティを有する関連する腫瘍関連ペプチドを示す標的細胞をも結合し、必要に応じて、関連する抗原(LMP2)を提示する標的細胞の効率的殺滅を媒介する。ヘテロダイマーTCRタンパク質は、不変のCD3鎖分子との複合体の一部として発現された高度に可変性のα鎖およびβ鎖から通常はなる。TCR α鎖およびβ鎖両方の可変ドメインは、各々、3個の超可変領域また相補性決定領域(CDR)を有する。1つの実施形態において、TCRは、TCR-NPC-A11-003を含む。別の実施形態において、TCRは、TCR-NPC-A11-125を含む。
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
【0048】
用語「TCR-T細胞」とは、本明細書で使用される場合、目的の抗原に応答して活性化され得る、本明細書で開示されるとおりの操作されたT細胞レセプターを発現するために、分子生物学的方法を通じて選択、単離および/または特徴付けされているT細胞またはT細胞の集団に言及する。いくつかの実施形態において、上記T細胞集団は、末梢血単核細胞(PBMC)を含み、これは、丸い核を有する任意の末梢血細胞である。PBMCは、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)、単球、および顆粒球(好中球、好塩基球および好酸球)から構成され得る。ヒトにおいて、リンパ球は、PBMC集団の大部分を構成し、続いて、単球、およびごく小さいパーセンテージの樹状細胞を構成する。いくつかの実施形態において、上記T細胞集団は、PBMCから単離される。いくつかの実施形態において、上記TCRは、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、およびγδT細胞を含む、TCRを含む任意の細胞上で改変され得る。ある特定の実施形態において、T細胞レセプターは、LMP2抗原に応じて活性化し得る配列を含む。一実施形態において、TCRは、TCR-NPC-A11-003を含む。別の実施形態において、TCRは、TCR-NPC-A11-125を含む。T細胞レセプターを操作し、発現させるための技術としては、それぞれのサブユニットを連結する天然のジスルフィド架橋を含むTCRヘテロダイマーの生成が挙げられるが、これらに限定されない(Garbocziら, (1996), Nature 384(6605): 134-41; Garbocziら, (1996), J Immunol 157(12): 5403-10; Changら, (1994), PNAS USA 91: 11408-11412; Davodeauら, (1993), J. Biol. Chem. 268(21): 15455-15460; Goldenら, (1997), J. Imm. Meth. 206: 163-169; 米国特許第6,080,840号)。
【0049】
用語「抗原」または「Ag」とは、本明細書で使用される場合、免疫応答を誘起する分子として定義される。この免疫応答は、抗体生成、特異的な免疫学的能力のある細胞の活性化のいずれか、または両方を含み得る。当業者は、実質的に全てのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が、抗原として働き得ることを理解する。さらに、当業者は、抗原が、必ずしも遺伝子の全長ヌクレオチド配列によってのみコードされないことを理解する。抗原が、合成して生成され得るか、生物学的サンプルに由来し得ることは、容易に明らかである。このような生物学的サンプルとしては、組織サンプル、腫瘍サンプル、細胞または生物学的流体が挙げられる得が、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、目的の抗原は、LMP2タンパク質のフラグメント(配列番号2)を含む。いくつかの実施形態において、目的の抗原は、SSCSSCPLSK(配列番号1)を含む。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」または「選択的に結合する」とは、抗体/抗原、TCR/エピトープ、リガンド/レセプター、核酸/相補的核酸、または他の結合対(例えば、サイトカインに対してサイトカインレセプター)に言及する場合、タンパク質および他の生物製剤の不均質な集団中のタンパク質の存在を決定する結合反応を示す。従って、指定された条件下では、特定されたTCRまたはその結合ドメインは、特定の抗原に結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質に対して、顕著な量で結合しない。特に、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRは、好ましくは唯一の特異的エピトープ(LMP2抗原)を選択的に認識または結合し、好ましくは、別のエピトープに対して交差反応性を全くまたは実質的に全く示さず、ここで上記エピトープは、1つのタンパク質(LMP2)に対して固有であり、その結果、その抗原認識構築物は、別のエピトープおよび別のタンパク質に対して交差反応性を全くまたは実質的に全く示さない。特異的結合はまた、例えば、企図した方法の、その結合する化合物、核酸リガンド、抗体、または抗体の抗原結合部位に由来する結合組成物が、任意の他の結合する化合物との親和性より、しばしば少なくとも25%大きい、よりしばしば少なくとも50%大きい、最もしばしば少なくとも100%(2倍)大きい、通常少なくとも10倍大きい、より通常少なくとも20倍大きい、および最も通常少なくとも100倍大きい親和性でその標的に結合することを意味し得る。ある特定の実施形態において、上記操作されたT細胞レセプターまたはその誘導体もしくはフラグメントは、LMP2抗原を特異的に結合する。TCRの誘導体またはフラグメントは、その親分子の抗原結合/認識能力、特に、その特異性および/または選択性を保持する。このような結合機能性は、CDR3領域の存在によって保持され得る。
【0051】
用語「投与」とは、この用語がヒト、霊長類、哺乳動物、哺乳動物被験体、動物、獣医学的被験体、プラシーボ被験体、研究用被験体、実験用被験体、細胞、組織、器官、または生物学的流体に適用される場合、上記被験体、細胞、組織、器官、または生物学的流体などへの外因性リガンド、試薬、プラシーボ、低分子、薬学的薬剤、治療剤、診断剤、または組成物の接触に言及するが、これらに限定されない。「投与」はまた、例えば、治療的方法、薬物動態的方法、診断的方法、研究方法、プラシーボ方法、および実験方法に言及し得る。細胞の処理は、上記細胞への試薬の接触、および流体への試薬の接触を包含し、この場合、流体は、上記細胞と接触した状態にある。「投与」はまた、例えば、細胞の、試薬、診断薬、結合組成物による、または別の細胞による、インビトロおよびエキソビボ処理を包含し得る。投与経路としては、静脈内投与または注入技術が挙げられ得るが、これらに限定されない。注入技術は、針またはカテーテルを経て上記活性化T細胞の集団の投与を包含し得る。代表的には、注入は、上記活性化T細胞の集団が、静脈内投与または皮下投与されることを意味する。ある特定の実施形態において、上記活性化T細胞の集団は、全身投与される。ある特定の実施形態において、上記活性化T細胞の集団は、静脈内投与される(すなわち、静脈内(IV)注射によって)。好ましい投与経路は、腹腔内または静脈内である。
【0052】
TCR-T細胞
本開示は部分的に、目的の抗原(例えば、LMP2)に応じて活性化され得るTCR-T細胞由来エフェクター細胞の調製およびレシピエントにおける使用に関する。本開示の1つの局面は、T細胞レセプター(TCR)を発現するT細胞の集団(上記TCRは、LMP2抗原に応じて活性化し得る配列を含む)を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になるTCR-T細胞由来エフェクター細胞集団を提供する。1つの実施形態において、TCRは、TCR-NPC-A11-003を含む。別の実施形態において、上記TCRは、TCR-NPC-A11-125を含む。
【0053】
本明細書で開示される方法において使用されるT細胞は、商業的に利用可能な単離方法を含め、当該分野で公知の方法によって単離され得る。T細胞の供給源としては、末梢血、臍帯血、骨髄、または造血幹細胞の他の供給源が挙げられるが、これらに限定されない。種々の技術が、細胞を分離して、所望のT細胞を単離または富化するために使用され得る。さらに、T細胞を拡大増殖するための方法は、当該分野で周知である(例えば、Cartellieriら, A Novel Ex Vivo Isolation and Expansion Procedure for Chimeric Antigen Receptor Engrafted Human T Cells, 2014を参照のこと)。調節性T細胞を単離および拡大増殖するための方法はまた、商業的に利用可能である(例えば、BD Biosciences, San Jose, Calif.; STEMCELL Technologies Inc., Vancouver, Canada; eBioscience, San Diego, Calif.; Invitrogen, Carlsbad, Calif.を参照のこと)。用語「拡大増殖する(expand)」とは、本明細書で使用される場合、T細胞の数の増大におけるように、数の増大に言及する。一実施形態において、T細胞は、培養物中に本来存在する数に対して数が増大するように、エキソビボで拡大増殖され得る。別の実施形態において、T細胞は、培養物中の他の細胞タイプに対して数が増大するように、エキソビボで拡大増殖され得る。用語「エキソビボ」とは、本明細書で使用される場合、生きている生物(例えば、ヒト)から除去され、その生物の外側で(例えば、培養ディッシュ、試験管、またはバイオリアクター中で)増殖させられている細胞に言及する。いくつかの実施形態において、T細胞は、IL-2の存在下で培養することによって拡大増殖され得る。ある特定の実施形態において、T細胞は、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体の存在下で培養することによって拡大増殖され得る。いくつかの実施形態において、T細胞は、IL-2の存在下で培養することによって、ならびに抗CD3抗体および/または抗CD28抗体の存在下で培養することによって、拡大増殖され得る。
【0054】
細胞を分離する手順としては、密度勾配遠心分離、細胞密度を改変する粒子への連結、抗体被覆磁性ビーズでの磁性分離、アフィニティクロマトグラフィー;モノクローナル抗体(mAb)に結合されるかまたはともに使用される細胞傷害性薬剤(補体および細胞毒素が挙げられるが、これらに限定されない)、ならびに固体マトリクス(例えば、プレートまたはチップ)に結合される抗体でのパニング、水ひ、フローサイトメトリー、または任意の他の簡便な技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
上記単離されたT細胞は、これらが本明細書で開示されるとおりの処置の方法において投与される被験体に対して自家または非自家であり得る。自家細胞は、操作されたTCRを含むT細胞の集団が投与されるべき被験体から単離される。ある特定の実施形態において、自家細胞は、操作されたTCRを含む単離されかつ拡大増殖された細胞が投与されるべき被験体から単離される。いくつかの実施形態において、上記細胞は、白血球除去法によって得られ得る。ここで白血球は、採られた血液から選択的に除去され、組み換えられ、次いで、ドナー被験体に再度輸液される。あるいは、被験体ではない非自家ドナーに由来する同種異系細胞が使用され得る。非自家ドナーの場合、上記細胞は、当該分野で周知であるように、適切なレベルの適合性を決定するために、ヒト白血球抗原(HLA)についてタイプ決定され、そしてマッチングされる。一実施形態において、上記T細胞の集団は、ヒト白血球抗原A11(HLA-A11)に対してマッチングされる。自家および非自家細胞の両方に関して、上記細胞は、当該分野で周知の方法を使用して、遺伝子操作および/または被験体への投与のために使用され得る準備ができるまで、必要に応じて低温保存され得る。
【0056】
サイトカイン放出は、有効なTCR T細胞ベースの療法のために、T細胞活性化および有効性の必要な結論であることから、上記活性化T細胞のうちの少なくとも一部が1もしくはこれより多くのサイトカインを生成するかまたは1もしくはこれより多くのサイトカイン(例えば、IL-2、TNF-α(アルファ)、およびIFN-γ(ガンマ)、グランザイムA、グランザイムB、GM-CSF、IL-1、IL-10、およびIL-1βからなる群より選択される1またはこれより多くのサイトカイン)を生成し得ることは好ましい。さらに、上記T細胞の集団のうちの少なくとも一部は、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CTLA4、CD16/CD56、CD18、CD25、CD40リガンド(gp39)、CD69、MHCクラスI、MHCクラスII、CD54、LFA-1、およびVLA-4からなる群より選択される1またはこれより多くの表面マーカーを発現する。
【0057】
治療用組成物
本明細書で記載されるT細胞集団の細胞組成物は、単独で、または薬学的に受容可能なキャリアとの組み合わせのいずれかにおいて、適切な抗腫瘍応答を誘導するために十分な量で被験体に投与され得る。上記応答は、特異的免疫応答、非特異的免疫応答、特異的および非特異的応答の両方、先天的応答、一次免疫応答、適応免疫、二次免疫応答、記憶免疫応答、免疫細胞活性化、免疫細胞増殖、免疫細胞分化、およびサイトカイン発現を含み得るが、これらに限定されない。
【0058】
本開示は、TCR T細胞集団の有効な量を被験体に投与することによって、上記被験体において抗腫瘍免疫を生成する方法を提供する。「有効量」は、本明細書で使用される場合、治療上または予防上の利益を提供する量を意味する。TCR T細胞の有効量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染もしくは転移の程度、および患者(被験体)の状態における個々の差異を考慮して、医師によって決定され得る。本明細書で記載されるとおりの抗LMP2操作されたTCRを含むT細胞の集団を含む薬学的組成物が、104~1011 細胞/kg 体重、好ましくは105~1010 細胞/kg 体重(それら範囲内の全ての整数値を含む)の投与量において投与され得ることが、一般に述べられ得る。いくつかの実施形態において、上記T細胞の集団は、約2×108 TCR-T細胞の注入によって投与される。いくつかの実施形態において、患者の1kgあたり約5×106~約5×107 TCR-T細胞が投与される。T細胞組成物およびT細胞集団はまた、これらの投与量において複数回投与され得る。上記細胞は、免疫療法において一般に公知である注入技術を使用することによって投与され得る(例えば、Rosenbergら, New Eng. J. of Med. 319: 1676, 1988を参照のこと)。特定の患者にとっての最適な投与量および処置レジメンは、上記患者を、疾患の徴候に関してモニターし、それに応じて上記処置を調節することによって、医療分野の当業者によって容易に決定され得る。
【0059】
本明細書で記載されるとおりのT細胞レセプターを発現するT細胞の集団を含む細胞組成物の有効量は、上記T細胞の集団の用量の1回の投与において与えられ得るが、1用量に制限されない。従って、上記投与は、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRを発現するT細胞の集団の2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、10用量、11用量、12用量、13用量、14用量、15用量、16用量、17用量、18用量、19用量、20用量、またはこれより多くの用量であり得る。ある特定の実施形態において、3用量が投与される。用量の1回より多くの投与が存在する場合、上記用量の投与は、1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、7分間、8分間、9分間、10分間、またはより長い時間間隔、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間などの間隔が空けられ得る。時間(hour)の文脈において、用語「約」とは、±30分間以内の任意の時間間隔を意味する。上記用量の投与はまた、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、またはこれより長い時間間隔、およびこれらの任意の組み合わせの時間間隔が空けられ得る。本発明は、時間において等しく空けられる投与間隔に限定されるのではなく、等しくない間隔での投与も包含し得る(例えば、1日間、4日間、7日間、および25日間での投与からなるプライミングスケジュールのような)。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能なキャリア」または「薬学的に受容可能な賦形剤」とは、操作されたTCRを含むT細胞の集団と組み合わせた場合、上記T細胞の集団が生物学的活性を保持することを可能にする任意の物質に言及する。例としては、標準的な薬学的キャリア(例えば、リン酸緩衝化食塩溶液、水、油/水エマルジョンのようなエマルジョン、アミノ酸ベースの緩衝液、または炭酸水素緩衝化溶液、および種々のタイプの湿潤剤)のうちのいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、上記キャリアは、被験体に投与される場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の不都合な反応を生じない。いくつかの実施形態において、上記キャリアを含む薬学的組成物は、発熱物質、ならびに被験体に有害であり得る他の不純物を含まない。薬学的に受容可能なキャリアとしては、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、被覆、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが挙げられ得る;これらの使用は、当該分野で周知である。受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、好ましくは、使用される投与量および濃度において不活性であり、緩衝液(例えば、リン酸、クエン酸、または他の有機酸);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリド、および他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンが挙げられる);キレート化剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩を形成する対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、Tween(登録商標)、Pluronics(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG))が挙げられる。このようなキャリアを含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化され得る(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, A. Gennaro,編, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990;およびRemington, The Science and Practice of Pharmacy 第21版. Mack Publishing, 2005を参照のこと)。選択されるキャリア、および使用されるキャリアの量は、投与様式に依存し得る。
【0061】
特定の被験体/患者に対する「有効量」は、処置されている状態またはがん、上記被験体の全体的な健康状態、投与の経路および用量、ならびに副作用の重篤度のような要因に依存して変動し得る。処置および診断の方法のガイダンスは、入手可能である(例えば、Maynardら, (1996) A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice, Interpharm Press, Boca Raton, Fla.; Dent (2001) Good Laboratory and Good Clinical Practice, Urch Publ., London, UKを参照のこと)。投与されるべき細胞数の決定は、当業者によって行われ、一部は、がんの範囲および重篤度、ならびにトランスフェクトした細胞が、既存のがんの処置のために投与されているのか、またはがんの防止のために投与されているのかに依存する。上記操作されたTCRを含むT細胞の集団を含む薬学的組成物の調製は、本開示に照らして、当業者に公知である。
【0062】
本開示の操作されたTCRを発現するT細胞の集団は、1用量で、または複数の投与量で投与され得、ここで各用量は、少なくとも100 細胞/kg 体重;少なくとも1,000 細胞/kg 体重;少なくとも10,000 細胞/kg 体重;少なくとも100,000 細胞/kg 体重;少なくとも1,000,000 細胞/kg 体重;少なくとも10,000,000 細胞/kg 体重;少なくとも100,000,000 細胞/kg 体重;少なくとも1×109 細胞/kg 体重;少なくとも10×109 細胞/kg 体重;少なくとも100×109 細胞/kg 体重;または少なくとも1×1012 細胞/kg 体重を含む。
【0063】
例えば、1回/週、2回/週、3回/週、4回/週、5回/週、6回/週、7回/週、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、4週間ごとに1回、5週間ごとに1回などの投与スケジュールが使用され得る。上記投与スケジュールは、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、および12ヶ月までまたはこれより長い合計期間にわたる投与を包含する。
【0064】
上記の投与スケジュールのサイクルが提供される。上記サイクルは、およそ、例えば、7日ごと;14日ごと;21日ごと;28日ごと;35日ごと;42日ごと;49日ごと;56日ごと;63日ごと;70日ごとなどに反復され得る。投与しない間隔は、サイクルの間に起こり得、ここで上記間隔は、およそ、例えば、7日間;14日間;21日間;28日間;35日間;42日間;49日間;56日間;63日間;70日間;などであり得る。この文脈において、用語「およそ」とは、±1日、±2日、±3日、±4日、±5日、±6日、または±7日を意味する。
【0065】
本開示に従うTCR T細胞はまた、1またはこれより多くのさらなる治療剤とともに投与され得る。さらなる治療剤との共投与のための方法は、当該分野で周知である(例えば、Hardmanら(編) (2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第10版, McGraw-Hill, New York, N.Y.; Poole and Peterson(編) (2001) Pharmacotherapeutics for Advanced Practice: A Practical Approach, Lippincott, Williams & Wilkins, Phila., Pa.; Chabner and Longo(編) (2001) Cancer Chemotherapy and Biotherapy, Lippincott, Williams & Wilkins, Phila., Pa.)。例としては、化学療法剤、放射線、抗がん剤、抗炎症剤、抗感染剤、NSAIDS、鎮痛剤(anti-pain agent)などが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる治療剤はまた、異なるTCR-Tエフェクター集団を含み得る。他の薬剤は、上記被験体の治療レジメン(例えば、他の免疫療法、チェックポイントインヒビター、免疫-腫瘍薬物(immuno-oncology drug)、標的化薬剤、化学療法、および/または放射線)のうちの一部であり得る。本開示の組成物と組み合わせて使用され得る薬剤/治療レジメンの例としては、CTLA-4インヒビター、PD-1インヒビター、および/もしくはPD-L1インヒビター、CSF-1Rインヒビター、TLRアゴニスト、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アレムツズマブ、アベルマブ、オファツムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、デュルバルマブ、サイトカイン療法、インターフェロン、インターフェロン-α、インターロイキン、インターロイキン-2、樹状細胞療法(例えば、Sipuleucel-T)、CHOP、シクロホスファミド、フルダラビン、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、ビノレルビン、ドキソルビシン、ドセタキセル、ブレオマイシン、ダカルバジン、ムスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン、エトポシド、シスプラチン、エピルビシン、フォリン酸、およびオキサリプラチンが挙げられるが、これらに限定されない。本開示のT細胞集団組成物は、上記さらなる治療剤の前に、上記さらなる治療剤と同時に、または上記さらなる治療剤の後に投与され得る。
【0066】
共投与は、必ずしも個体における同時の投与をいわず、むしろ、複数の治療剤の投与が、1つの処置計画の結果である限りにおいて、数時間またはさらには数日、数週間、またはより長く間隔を空けた投与を含み得る。共投与は、本開示のTCR T細胞集団を、上記1またはこれより多くのさらなる治療剤の前に、その後に、または同時に投与することを包含し得る。共投与は、本開示のTCR T細胞集団を、別のTCR T細胞集団の前に、その後に、または同時に投与することを包含し得る。例示的処置スケジュールにおいて、本開示のTCR T細胞集団(例えば、A11-003)は、複数日にわたるプロトコールにおける初期用量として、後の投与日に与えられる別のTCR T細胞集団(例えば、A11-125)とともに与えられ得るか;またはTCR T細胞(例えば、A11-125)は、複数日にわたるプロトコールにおける初期用量として、後の投与日に与えられるTCR T細胞(例えば、A11-003)とともに与えられ得る。他方で、A11-003 TCR T細胞およびA-125 TCR T細胞は、複数日にわたるプロトコールにおいて一日おきに投与され得る。これは、可能な投与プロトコールの限定的リストであることを意味しない。
【0067】
治療剤の有効量は、通常少なくとも10%、より通常少なくとも20%、最も通常少なくとも30%、代表的には少なくとも40%、より代表的には少なくとも50%、最も代表的には少なくとも60%、しばしば少なくとも70%、よりしばしば少なくとも80%、および最もしばしば少なくとも90%、従来的には少なくとも95%、より従来的には少なくとも99%、最も従来的には少なくとも99.9%、上記がんの症状を減少または改善する量である。例えば、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRを含むT細胞の集団の投与は、他のがん処置で処置したコントロールもしくは患者、または処置前の同じ患者と比較して、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約1ヶ月、約2ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、約1年、約2年、約5年、もしくは約10年、またはより長く、約1%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%、腫瘍増殖を低減する。
【0068】
治療剤の製剤は、例えば、凍結乾燥散剤、スラリー、水性液剤または懸濁剤の形態において、生理学的に受容可能なキャリア、賦形剤、または安定化剤と混合することによって、貯蔵のために調製され得る(例えば、Hardmanら (2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, New York, N.Y.; Gennaro (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, New York, N.Y.; Avisら(編) (1993) Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, NY; Liebermanら(編) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, NY; Liebermanら(編) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, NY; Weiner and Kotkoskie (2000) Excipient Toxicity and Safety, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y.を参照のこと)。
【0069】
作製方法
本開示は、本明細書で開示されるとおりの操作されたT細胞レセプター(TCR)を発現するT細胞の集団を調製する方法であって、ここで上記方法は、(1)単離されたT細胞を、本明細書で開示されるとおりの操作されたTCRをコードする核酸でトランスフェクトまたは形質導入する工程;ならびに(2)上記トランスフェクションまたは形質導入後の操作されたTCRを発現するT細胞を拡大増殖する工程であって、ここで上記T細胞は、IL-2ならびに/またはCD3抗体およびCD28抗体の存在下で培養することによって拡大増殖される工程、を包含する方法を提供する。ある特定の実施形態において、上記T細胞は、IL-2の存在下で培養することによって拡大増殖される。ある特定の実施形態において、上記T細胞は、抗CD3抗体の存在下で培養することによって拡大増殖される。ある特定の実施形態において、上記T細胞は、抗CD28の存在下で培養することによって拡大増殖される。ある特定の実施形態において、上記操作されたTCRを含むT細胞の集団を調製する方法は、約2週間、約3週間または約4週間かかる。ある特定の実施形態において、上記操作されたTCRを含むT細胞の集団を調製する方法は、2週間未満、3週間未満、または4週間未満、かかる。ある特定の実施形態において、上記T細胞は、IL-2、抗CD3抗体、および抗CD28抗体の存在下で培養することによって拡大増殖される。ある特定の実施形態において、上記単離されたT細胞は、哺乳動物から単離される。一実施形態において、上記哺乳動物はヒトである。ある特定の実施形態において、上記ヒトは、EBVに由来するLMP2を発現するがんに罹患している被験体である。上記方法の一実施形態において、上記単離されたT細胞は、HLA-A11を含む。
【0070】
T細胞に核酸を導入する方法としては、物理的、生物学的および化学的方法が挙げられる。ポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)を宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、パーティクルボンバードメント、マイクロインジェクション、またはエレクトロポレーションが挙げられる。核酸は、エレクトロポレーション、もしくはリポフェクションを使用するカチオン性リポソーム媒介性トランスフェクションを含む市販の方法を使用して、またはポリマー被包化を使用して、ペプチド媒介性トランスフェクションを使用して、または遺伝子銃のようなパーティクルガン法(biolistic particle delivery system)を使用して、標的細胞に導入され得る。核酸を宿主細胞に導入するための生物学的方法としては、DNAおよびRNAベクターの使用が挙げられる。ウイルスベクター、および特にレトロウイルスベクターは、核酸をヒト細胞に挿入するために広く使用される。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスに由来し得る。ベクターの例は、プラスミド、自律的に複製する配列、および転移因子である。さらなる例示的ベクターとしては、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC))、バクテリオファージ(例えば、λファージまたはM13ファージ)、および動物ウイルスが挙げられ得るが、これらに限定されない。ベクターとして有用な動物ウイルスの例としては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられ得るが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、上記TCRを含むベクターは、レトロウイルスベクターであり得る。
【0071】
本開示のなお別の局面は、T細胞レセプター(TCR)を発現する活性化T細胞を含む集団を含む、TCR-T細胞由来エフェクター細胞集団を調製する方法であって、上記TCRは、LMP2抗原に応じて活性化し得る配列を含み、上記方法は、目的のがん(例えば、NPC)を有する1名の患者または複数の患者を処置するために使用した1またはこれより多くの末梢血単核細胞(PBMC)をインビトロで接触させる工程;上記T細胞を、目的の抗原(例えば、LMP2)を発現する樹状細胞で刺激する工程;上記目的の抗原に応答するT細胞を単離および特徴づける工程;ならびに上記T細胞集団を拡大増殖する工程を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になる方法を提供する。いくつかの実施形態において、上記方法は、治療上有効な量の単離されたT細胞集団、またはその薬学的組成物を、上記目的のがんに罹患している患者に投与する工程をさらに包含する。ある特定の実施形態において、上記TCRは、TCR-NPC-A11-003(配列番号3)を含む。別の実施形態において、上記TCRは、TCR-NPC-A11-125(配列番号9)を含む。いくつかの実施形態において、上記目的のがんは、LMP2の発現によって特徴づけられる。いくつかの実施形態において、上記がんは、鼻咽腔癌(NPC)、胃がん、肺がん、黒色腫、乳がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、卵巣がん、神経芽腫、横紋筋肉腫、白血病およびリンパ腫からなる群より選択される。一実施形態において、上記がんは、NPCを含む。別の実施形態において、上記がんは、リンパ腫を含む。なお別の実施形態において、上記がんは、胃がんを含む。ある特定の実施形態において、上記がんは、EBV関連がんまたはEBV陽性がん、例えば、EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性バーキットリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌、またはEBV陽性胃がんである。
【0072】
使用方法
本開示に従うTCR-Tエフェクター細胞は、がんのような疾患に罹患している被験体を処置するために使用され得る。よって、本開示の別の局面は、LMP2で特徴づけられたがんに罹患している被験体においてT細胞応答を誘導する方法であって、上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の、本明細書で記載されるとおりのTCR-T細胞由来細胞集団を投与し、その結果、上記LMP2で特徴づけられたがんに対する抗腫瘍応答を誘導する工程を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になる方法を提供する。本開示のなお別の局面は、被験体においてがんを処置する方法であって、上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の、本明細書で提供されるとおりのTCR-T細胞に由来する集団を投与し、その結果、がんを処置する工程を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になる方法を包含する。
【0073】
本開示のなお別の局面は、本明細書で開示および例証される全てを提供する。
【0074】
以下の実施例は、例証によって提供されるのであって、限定によって提供されるのではない。
【実施例】
【0075】
実施例1. 2つの新規なTCR配列は、LMP2抗原に応じて活性化する。
NPC患者を処置するために以前使用し、EBV抗原潜伏膜タンパク質2(LMP2)を提示する受容細胞で刺激した末梢血単核細胞(PBMC)を得た。これは、LMP2抗原に応じて活性化し得る2種の新規なT細胞レセプター(TCR)配列(1)TCR-NPC-A11-003(AA配列番号03; DNA配列番号08)(
図1A~1Bを参照のこと)、および(2)TCR-NPC-A11-125(AA配列番号09; DNA配列番号14)(
図2A~2Bを参照のこと)の発見をもたらした。
【0076】
実施例2. 新規なTCR配列、TCR-NPC-A11-003およびTCR-NPC-A11-125は、LMP2抗原を発現する細胞を殺滅する。
実施例1のCD69活性化結果と一致して、TCR-NPC-A11-003およびTCR-NPC-A11-125はともに、HLA-A11に(しかしHLA-A24ではない)連結したLMP2ペプチドを発現するように操作したリンパ腫細胞を特異的に殺滅し得る(
図3A~3Bを参照のこと)。
【0077】
実施例3. 新規なTCR配列、TCR-NPC-A11-003およびTCR-NPC-A11-125は、マウスにおいてインビボで抗腫瘍活性を有する。
マウス異種移植片研究は、両方のTCRが、LMP2-A11陽性リンパ腫に対してインビボでの抗腫瘍有効性を有することを示す。A11陽性Ramosリンパ腫細胞(5×10
6)を、NSG
TM(NOD SCID gammaマウス)に皮下接種した。13日後、1×10
7 TCR陽性TCR-NPC-A11-003またはTCR-NPC-A11-125 TCR-T細胞を、尾静脈を介して注射した。腫瘍容積は、TCR-NPC-A11-003またはTCR-NPC-A11-125 TCR-T細胞を注射したマウスにおいて有意に低減し、これらのマウスはまた、処置していないマウスと比較して全生存において有意な増大を有した(
図4A~4Cを参照のこと)。
【0078】
まとめると、これらの知見は、LMP2-A11 TCR-T細胞を、LMP2 EBVウイルス抗原を有する細胞を選択的に殺滅し得ると特徴づける。これらTCR(TCR-NPC-A11-003およびTCR-NPC-A11-125)の両方が、HLA-A11血清型を有する患者細胞から同定されたことを注記することは重要である。HLA-A11は、東アジアにおいて特に一般的であるので、これらのTCRは、EBV関連NPCおよびリンパ腫(ホジキンリンパ腫およびバーキットリンパ腫を含む)に対する操作されたTCR-T細胞療法に有用性を有する。この治療アプローチはまた、EBV-CTL療法を確立するために必要とされる時間域(time window)を有意に減少させる。なぜなら患者特異的TCR-T細胞生成物は今や、わずか3週間で生成され得るからである。HLA-A11によって提示されるLMP2抗原を認識し得る他のTCR配列は以前に同定されていないので、これらの結果は、2種の新規なウイルス抗原特異的TCRを、少なくともEBV陽性NPC、胃がん、およびリンパ腫の処置のための有望な薬剤として明らかにする。
【0079】
実施例4. 進行性EBV特異的鼻咽腔癌における治療転帰を改善する体系的T細胞レセプターレパートリープロファイリングおよびクローニング
鼻咽腔癌(NPC)は、中国南部および東南アジアにおいて有病率が高く、後期ステージの疾患の処置選択肢はほとんどない。現行の標準治療は、非特異的毒性によって制限されている一方で、NPCはしばしば、エプスタインバーウイルス(EBV)感染と関連し、これは、養子免疫療法の優れた標的となる。ステージIV EBV関連NPCに関して、最近のフェーズ2臨床試験は、インビトロで拡大増殖したEBV特異的細胞傷害性Tリンパ球(EBV-CTL;
図5Aを参照のこと)を使用する印象的な奏効率を報告した。この研究は成功し、同じプロトコールを使用するフェーズ3治験は現在進行中であるが、登録した患者のうちのおよそ半数は、CTL処置レジメンに応答しなかった。これは、免疫回避を付与する未知の耐性機構の関与を示唆する。さらに、免疫療法に使用されるEBV-CTL細胞を生成する時間は、8~22週間の範囲に及んだ。これは、進行性NPCを有する多くの患者にとっては手が出せず、抗原特異性再指向T細胞での次世代免疫細胞療法を使用して有意に短縮化され得る。
【0080】
樹状細胞(DC)ワクチン接種は、T細胞に抗原を提示するDCの本質的な能力を使用するがん免疫療法の1タイプである。T細胞療法より生成が概して迅速でかつ安価である一方で、DCワクチンはまた、有効性においては信頼性がそれほど高くないが、DCワクチン接種に対する臨床的応答性の根底にある分子的な根拠は分かりにくい。2007年の臨床試験において、処置した16名の進行性NPC患者の中で、ヒト初回投与Ad5f35-LMP1-2アデノウイルスベクターで形質導入したDCワクチンは、2名の患者(12.5%)において>18週間の疾患安定化および1名の患者において部分奏効をもたらした(
図5Bを参照のこと)。
【0081】
T細胞レセプター(TCR)レパートリー配列決定を行って、応答者および非応答者におけるTRC多様性を詳細に吟味する。これは、耐性機構へのさらなる見識を提供し、NPCの処置に関する改善された免疫療法アプローチの開発を導く。
【0082】
I. 免疫療法への応答の根底にある分子決定因子の同定
a. 偏りのないプロファイリングを介したMPC予後因子の発見
EBV特異的DCワクチン接種への応答性を支配する分子を発見するために、体系的サイトカイン/ケモカイン/増殖因子アレイを利用する。簡潔には、進行性NPC患者から採取した末梢血単核細胞(PBMC)を、別個の免疫細胞集団(単球、マクロファージ、B細胞、NK細胞、ならびに細胞傷害性、ヘルパー、メモリー、および調節性T細胞を含むT細胞亜集団を含む)へとフローサイトメトリーによって選別する。選別した後に、mRNAおよびcDNAを生成し、>100の分泌型タンパク質のパネルを使用する包括的なqPCR遺伝子発現分析に供する。この手順は、合理的に標的化され得るか、またはそうでなければこの治療上の文脈において将来的な患者の転帰を改善するために利用され得る、DCベースの免疫療法に対する耐性を調節する特異的タンパク質の同定を可能にする。EBVによって駆動されるがんにおいて明らかにされた分子の役割の検証を、本明細書で記載されるEBV陽性リンパ腫モデルを使用して、エキソビボでおよびマウスにおいて行い得る。
【0083】
ii. DCワクチン処置した進行性NPCにおける応答者および非応答者のTCRレパートリーの分析
本発明者らは、種々のヒトおよびマウス組織内のTCRレパートリーを高い再現性を持ってプロファイリングするプラットフォーム/システムを開発した。そのシステムは、Illumina MiSeqプラットフォームでのTCR配列の優先的リードアウトを可能にする多重PCRシステムを含むか、からなるか、または本質的になる。そのシステムはさらに、抗原認識を可能にする最小構造決定因子を同定し、それによって、免疫療法の間の全体的なレパートリー変化から抗原特異的T細胞応答を信頼性高く詳細に吟味する、「Motif Analysis」といわれる新規なバイオインフォマティクスストラテジーを含む。これは、それらの標的化エピトープが、弱い親和性または低い存在量を有する場合に、TCRクローニングの機会を最適化するために重要である。
【0084】
本発明者らは、この新規システムを利用して、EBV特異的DCワクチン接種に応答した(n=3)または応答しなかった(n=13)かいずれかの進行性NPC患者からのPBMCサンプルにおいてTCRレパートリーを評価した。この分析のために、以下を比較する:
i)包括的なTCR多様性;
ii)EBV特異的T細胞応答;および
iii)各個々の患者に対して縦断的な腫瘍関連抗原(TAA)特異的T細胞応答
【0085】
また、優勢な抗原(例えば、抗PVクローン型)応答を同定する患者内レパートリー類似性を、比較する。さらに、上記方法は、以下の工程を包含する: i)包括的なTCR多様性分析を、以前に発表したように行い、個々の患者内のT細胞クローンの動的変化の包括的な検討を提供する。ii)EBV特異的T細胞応答に関しては、LMP1-2アデノウイルスベクターで形質導入したDCを、自家T細胞と共培養する。抗原で拡大増殖したT細胞をTCRレパートリー配列決定のために選別して、抗EBV T細胞レパートリーの幅および強度を決定する。
【0086】
iii)TAA特異的T細胞応答を評価するために、患者DC(PBMC由来)を、この研究において調査したTAA(例えば、EGFR、サバイビン)を表すペプチド/ペプチドプールに曝す。トレーニングデータセットとしての抗原で拡大増殖したCD4+およびCD8+ TCR配列(iiおよびiiiから)を用いて、TAAモチーフおよびモチーフ組み合わせを、同定し得る。Jaccard類似性(距離)=分析によって、ネットワークを構築し、TCRを、TCRの各対に関して計算したJaccard距離に基づくクラスターへとアセンブリする(
図6を参照のこと)。このようにして、本来の刺激されていないサンプル(iから)におけるTCRの新規なクローン型(幅)および頻度(深度)を発見する。TAA特異的TCRの集合的頻度を定量することによって、処置で誘起される抗腫瘍T細胞応答をモニターする。
【0087】
II. 分子生物学プラットフォーム開発 - NPCのTCR-Tストラテジーを可能にするコスト効率的TCRクローニング
a: EBV特異的TCRクローニング
単一T細胞RNA-Seq技術を使用する原理証明研究として、本発明者らは、サイトメガロウイルス(CMV)特異的TCRのハイスループットクローニングを成功裡に行った。これらのTCRを、レトロウイルス形質導入を通じてPBMCにおいて発現させ、それらの特異性および細胞傷害を、インビトロで検証した(
図7を参照のこと)。同じ技術を使用して、本発明者らは、TCR発現ウイルスの小さなライブラリー(20まで)をアセンブリし、本明細書で記載されるTCR生成手順を使用して、EBV特異的TCR-T細胞を生成した。EBV陽性NPC細胞株は樹立されていないことから、EBV陽性リンパ腫細胞を使用して、TCR-T細胞の殺滅能力を評価する。各TCR-T細胞株を、EBV陽性Rajiリンパ腫細胞を殺滅するが、EBV陰性Ramos細胞を殺滅しないその特異性に関してインビトロで試験する。この機能的試験に不合格である、あらゆるTCRを、RNA-Seqによって同定される場合に、類似の特徴を有する新たなTCRで置き換える。
【0088】
b: EBV陽性リンパ腫を有するマウスにおけるTCR-T細胞療法の安全性の確立
MHCヒト化マウスを、EBVエピトープに対して5種のCD4+および5種のCD8+ TCRからなる混合型TCR-T集団で処置する。このデザインにおいて、迅速なEBV特異的T細胞拡大増殖およびCD8+ T細胞を使用して、腫瘍に対する細胞溶解性活性を送達する;そしてCD4+ T細胞を、効率的なCD8+メモリーT細胞分化を強化して、長期間の保護を達成するために利用する。このストラテジーの臨床上の価値を、その毒性および有効性に対して形式的に試験する。潜在的な毒性を排除するために、動物毒性アッセイを行う。FDAガイドラインに従って、急性および慢性の毒性研究を、単一の齧歯類種において組織病理的毒性、発がん性、皮膚毒性、および神経毒性を評価するために、3用量レベルにおいて行う。急性研究は、静脈内(IV)注入、続いて2週間の観察期間を含む。慢性研究は、IV注入、続いて、6ヶ月間の観察期間からなる。用量レベルは、ヒト治験における灌流手順に類似の用量へと変換され、これは、将来的なヒト研究への直接的な変換を可能にする。全血球数、化学検査、酵素、および自己免疫血清学を毎週モニターし、マウスを体重および神経学的検査によって毎日評価する。マウスを、死亡時または毒性または神経学的な欠陥の規定された徴候を示す場合に剖検する。EBV TCR-T細胞の安全性を、以下に概説される全ての実験においても、同じ臨床的、化学的、免疫学的、組織病理的、および統計的評価を使用してモニターする。
【0089】
c: EBV陽性リンパ腫を有するマウスにおけるTCR-T細胞療法の有効性の確立
生成されたEBV TCR-Tストラテジーの有効性を、NOD/SCIDマウスにおける腫瘍異種移植片モデルを使用して評価する。1×106 EBV+ Raji細胞を皮下移植し、腫瘍サイズを毎日測定する。接種して3週間後、EBV TCR-T細胞(CD4+ TCR-T細胞、CD8+ TCR-T細胞、または組み合わせ)を、腫瘍を有するマウスに静脈内注入する。確立された腫瘍を有するマウスは、MTDのIV送達後に長期の生存を示すか、または2×107 EBV特異的TCR-T細胞という最大の実現可能な用量を評価する。2つのさらなる腫瘍を有するコホートは、コントロールのGFPで形質導入したT細胞または腫瘍単独とともに、用量を合わせたT細胞を受容する。これらの腫瘍をEBV特異的TCR-Tで処置することにおける成功は、同じTCRクローニング原理に基づいて、EBV陽性がんの将来の臨床試験の開発を導く。
【0090】
当業者は、本発明が、目的を果たし、言及される目的および利点、ならびにその中に内在するものを得るために十分に適合されることを容易に認識する。本明細書で記載される開示は、好ましい実施形態の現在の代表であり、例示であり、本発明の範囲に対する限定とは意図されない。その中での変更および他の使用は、当業者に想起され、それは、請求項の範囲によって規定されるとおりの本発明の趣旨の範囲内に包含される。
【0091】
本明細書で引用される任意の非特許文献または特許文献を含め、任意の参考文献が、先行技術を構成することは、認めない。特に、別段述べられなければ、本明細書中の任意の文献に対する言及は、これらの文献のうちのいずれかが米国または任意の他の国において当該分野での一般的技術常識の一部を形成するという自白を構成しないことが、理解される。上記参考文献の何らかの考察は、それらの著者らが主張することを述べ、出願人は、本明細書で引用される文献のうちのいずれかの正確さおよび適切であることに異議を唱える権利を留保する。本明細書で引用される全ての参考文献は、別段明示的に示されなければ、参考として完全に援用される。任意の定義および/または引用文献中で見出される記載との間で何らかの不一致が存在する場合には、本開示が優先するものとする。
【配列表】
【国際調査報告】