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特表2022-512547三次元ヒドロゲル構造を製造するための方法及びそのようなヒドロゲル構造を層状に構築するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】三次元ヒドロゲル構造を製造するための方法及びそのようなヒドロゲル構造を層状に構築するための装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20220131BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 25/06 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D7/24 303A
B05D7/24 301E
G01N25/06 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021514121
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(85)【翻訳文提出日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2019072999
(87)【国際公開番号】W WO2020052981
(87)【国際公開日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】18194428.1
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン、ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウア、ユリア
(72)【発明者】
【氏名】ゲップ、ミィヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、ベンヤミン
【テーマコード(参考)】
2G040
4D075
【Fターム(参考)】
2G040AB02
2G040AB11
2G040BA02
2G040BA25
2G040CB04
2G040EA08
2G040FA01
2G040GC01
2G040ZA08
4D075AC06
4D075AC08
4D075AC09
4D075AC78
4D075AC88
4D075AC91
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4D075AC96
4D075BB08Z
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4D075BB93Y
4D075BB95Y
4D075CA47
4D075CA48
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4D075DB13
4D075DC30
4D075EA06
4D075EA12
4D075EA33
4D075EB07
4D075EB13
4D075EB45
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC13
4D075EC35
(57)【要約】
本発明は、層構築技術によって三次元の、好ましくは多孔性のヒドロゲル構造を製造するための方法に関し、この方法は、以下のステップを含む。好ましくは液体アルギン酸塩溶液である液体ヒドロゲル溶液と、好ましくは可搬型であるサンプルキャリアとを提供するステップ(S1)。凍結した3D層状ヒドロゲル構造を製造するために、温度がヒドロゲル溶液の凝固点よりも低い温度環境でサンプルキャリア上に液体ヒドロゲル溶液を層状に塗布するステップ(S2)。3D層状ヒドロゲル構造の多孔率、すなわち3D層状ヒドロゲル構造における小さな空隙、空洞、及び/又はくぼみの割合を有利に増加させるために、本発明による方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造を製造するために、例えば凍結乾燥により、凍結した3D層状ヒドロゲル構造を乾燥させるステップ(S3)を更に含む。本発明は更に、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置にも関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
-好ましくは液体アルギン酸塩溶液である液体ヒドロゲル溶液とサンプルキャリア(4)とを提供するステップ(S1)と、
-凍結した3D層状ヒドロゲル構造(1a)を製造するために、温度が前記ヒドロゲル溶液の凝固点よりも低い温度環境で、前記サンプルキャリア(4)上に前記液体ヒドロゲル溶液を層状に塗布するステップ(S2)と、
-多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を製造するために前記凍結した3D層状ヒドロゲル構造(1a)を乾燥させるステップ(S3)と
を含む層構築技術によって三次元の3Dヒドロゲル構造を製造するための方法。
【請求項2】
前記層状塗布ステップ(S2)が、
-前記液体ヒドロゲル溶液の計量放出用のプリントヘッド(2)と、
-前記サンプルキャリア(4)を収容するための支持体(3)と、
-3つの空間方向で前記支持体(3)に対する前記プリントヘッド(2)の相対位置を変更するように構成されている位置決め装置(5)と
を含む前記三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置(10)によって実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)前記乾燥ステップ(S3)は、前記凍結した3D層状ヒドロゲル構造(1a)から凍結水の少なくとも一部を減圧下で凍結乾燥及び/又は昇華させることによって実施される、及び/又は
b)前記乾燥ステップ(S3)は、赤外線(IR)乾燥によって又は臨界点乾燥法によって実行される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a)前記層状塗布ステップ(S2)において、前記3Dヒドロゲル構造の第1の細孔特性は、少なくとも1つの第1の動作パラメータによって調整される、及び/又はb)前記乾燥ステップ(S3)において、前記3Dヒドロゲル構造の第2の細孔特性は、少なくとも1つの第2の動作パラメータによって調整される
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記3Dヒドロゲル構造の前記第1及び/又は前記第2の細孔特性が
a)細孔分布、
b)多孔率、
c)平均細孔径、
d)平均細孔配向、
e)平均細孔形状、及び/又は
f)平均細孔容積
であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1の動作パラメータが
a)前記温度環境の前記温度、
b)前記温度環境の温度分布及び/又は温度勾配、
c)前記液体ヒドロゲル溶液が前記サンプルキャリア上に塗布される雰囲気の組成、
d)前記液体ヒドロゲル溶液の濃度、
e)前記液体ヒドロゲル溶液の粘度、及び/又は
f)前記層状塗布の速度
を含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも第2の動作パラメータが
a)周囲温度、
b)周囲圧力、及び/又は
c)前記乾燥手順の持続時間
を含むことを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項2による場合、前記少なくとも1つの第1の動作パラメータが、前記プリントヘッド(2)と前記サンプルキャリア(4)との間の間隔、及び/又は前記プリントヘッド(2)と前記最後に塗布されたヒドロゲル溶液の層との間の間隔を含むことを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
-前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を機械的に構造化するステップであって、好ましくは
a)前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)にチャネルが溶融される及び/又はドリルで開けられる、及び/又は
b)前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)の表面が粗面化及び/又は研磨される、及び/又は
c)規定された形状がスタンプによって前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)に圧入される
ステップを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
-前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を乾燥環境及び/又は保護ガス雰囲気で貯蔵するステップ、
-前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を好ましくは-100℃よりも低い温度である低温環境で貯蔵するステップ、及び/又は
-前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を好ましくは水である液体で湿らせるステップ
のうちの1つを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
-好ましくはBa2+、Mg2+、Ca2+、Fe2+、及び/又はSr2+である多価カチオンによる化学的架橋によって前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)をゲル化させるステップ、及び/又は
-前記多孔性3Dヒドロゲル構造(1b)を好ましくは細胞外マトリックスからのタンパク質であるタンパク質、及び/又は好ましくはヒト細胞である細胞でコーティングするステップ
のうちの1つを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体ヒドロゲル溶液が以下の添加剤、
-細孔形成に影響を与える好ましくは塩結晶であるポロゲン、
-増量剤、
-界面活性剤、
-ポリエチレングリコール、
-好ましくは細胞外マトリックスからのタンパク質であるタンパク質、
-好ましくはヒト細胞である細胞、
-コラーゲン及び/又はゼラチン、
-好ましくは砂糖及び/又は食塩の溶液である水溶液、及び/又は
-多価カチオンによる化学的架橋用のゲル化剤
のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記液体ヒドロゲル溶液が、好ましくはコラーゲンである化学的に誘発される架橋によってゲル化する第1の添加剤と、好ましくはゼラチンである熱的に誘発される架橋によってゲル化する第2の添加剤とを含有することを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
-好ましくは液体ヒドロゲル溶液である液体材料の計量放出用のプリントヘッド(2)と、
-好ましくは窒素である冷ガスを供給するように構成された断熱トレイ(6)と、
-サンプルキャリア(4)を収容するために前記断熱トレイ(6)の内側に配設された、好ましくはグリッド状の支持体(3)と、
-3つの空間方向で前記支持体(3)に対する前記プリントヘッド(2)の相対位置を変更するように構成されている位置決め装置(5)と
を含む三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置(10)。
【請求項15】
a)前記プリントヘッド(2)は、液滴形成を防止するために疎水性材料及び/又はコーティングによって囲まれている投与針(7)を含む、及び/又は
b)前記断熱トレイ(6)が2つの層(6a、6b)から構成され、前記第1の層(6a)は前記第2の層(6b)よりも低い熱伝導率を有する、及び/又は
c)供給される前記冷ガスの前記温度は可変的に調整され得る、及び/又は
d)前記サンプルキャリア(4)がガラスで作られる
ことを特徴とする、請求項14に記載の装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層構築技術によって三次元の、好ましくは多孔性のヒドロゲル構造を製造するための方法に関する。本発明は更に、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、架橋された親水性ポリマーネットワークであり、大量の水やその他の液体を吸収することができる。それらの生体適合性、それらの組織のような機械的特性、及び治療用有効成分及び/又は細胞の容易な組み込みのために、ヒドロゲルは、生体組織の合成製造、いわゆる「組織工学」に特に適している。
【0003】
このために、通常、ヒドロゲルの足場構造が最初に作成され、その上にその後、又は場合によってはすでにそれらの製造中に、生細胞が適用される。これに関連して、例えば合成移植に必要なもののように可能な限り現実的な組織構造を製造するための適切なヒドロゲル足場を作成するために、3D印刷技術構造の使用も従来技術で知られている。たとえば、B.Fischerらによる科学記事「3D printing of hydrogels in a temperature controlled environment with high spatial resolution」、CDBME、2、109(2016)は、最初に凍結したヒドロゲル足場構造を作成し、それがその後ゲル化によって架橋され、それによって安定化されるために、-20℃~-15℃の温度での3Dプリンターによるアルギン酸塩溶液の層状塗布を開示している。
【0004】
しかしながら、これに関連して問題となることは、足場構造が、ヒドロゲル構造内の細胞の成長、栄養素供給、及び移動のための適切な多孔率も有していなければならないということである。この問題を解決するために、欧州特許出願公開第2679669号明細書は、印刷手順の前に、好ましくはゼラチンであるゲル添加剤をヒドロゲル溶液に更に添加することを提案している。分散して配分されたゼラチンの液滴は、既存の空間がヒドロゲル溶液で完全に満たされるのを防ぎ、ヒドロゲル溶液の安定化(ゲル化)後、簡単に洗い流すことができ、その結果、空隙又は細孔を有するヒドロゲル構造が現れる。しかしながら、この方法の不利な点は、ヒドロゲルとゲル添加剤の混合物を使用すると、分離プロセスのために、ヒドロゲル足場構造全体にわたる均一な細孔分布が保証されないという事実である。さらに、ヒドロゲル構造のゲル化中に、ゼラチン粒子がまだ存在するため、内部へのゲル化溶液の拡散が妨げられ、不均一なゲル化又は微細構造の喪失につながる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2679669号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.Fischer et al.,“3D printing of hydrogels in a temperature controlled environment with high spatial resolution”,CDBME,2,109(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、三次元の、好ましくは多孔性のヒドロゲル構造を製造するための方法、及び以前の解決策の不利な点が回避され得る装置を提供することである。より具体的には、この点に関して、本発明の目的は、制御可能で規定された細孔特性を有する多孔性ヒドロゲル構造を作成するための容易な可能性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、独立請求項の方法及び装置によって、本発明に従って達成される。本発明の有利な実施形態及び適用は、独立請求項の主題であり、図を部分的に参照して、以下の説明においてより詳細に説明される。
【0009】
本発明によれば、層構築技術によって三次元の3Dヒドロゲル構造を製造するための方法が提供され、この方法は以下のステップを含む。
【0010】
好ましくは液体アルギン酸塩溶液である液体ヒドロゲル溶液と、好ましくは可搬型であるサンプルキャリアとを提供するステップである。液体ヒドロゲル溶液は、例えば0.3~1.5%のアルギン酸塩水溶液であり得、サンプルキャリアは、好ましくは熱伝導性材料で作られる。
【0011】
この方法は、凍結した3D層状ヒドロゲル構造を製造するために、温度がヒドロゲル溶液の凝固点よりも低い温度環境で、サンプルキャリア上に液体ヒドロゲル溶液を更に層状に塗布するステップを含む。好ましくは、層状に塗布するステップは、層構築技術で通常行われるように、前に塗布された層上に新しい層が塗布されるような方法で行われ、前に塗布された層はまた、特定の場合には可能な限りすでに凍結されている。このために、温度環境の温度は、冷ガスによって、例えばサンプルキャリアの領域への冷たい窒素ガスの供給を通して調整され得る。あるいは、しかしながら、温度の調整は、冷たい液体、例えば液体窒素、熱交換器装置、及び/又はペルチェ素子装置によっても起こり得る。
【0012】
3D層状ヒドロゲル構造の多孔率、すなわち3D層状ヒドロゲル構造における小さな空隙、空洞、及び/又はくぼみの割合を有利に増加させるために、本発明に係る方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造を製造するために凍結した3D層状ヒドロゲル構造を乾燥させるステップを更に含む。この乾燥ステップは、層状塗布の直後、すなわち、完全な3D層状ヒドロゲル構造が作成された直後に行うことができ、或いは、乾燥は、層状塗布と同時にすでに行うこともできる。
【0013】
乾燥は、凍結乾燥によって達成され得る。あるいは、赤外線(IR)乾燥、又はいわゆる臨界点又は超臨界点乾燥(CPRD)法が乾燥に使用され得る。さまざまな乾燥方法が組み合わせられ得、例えば、そのためさまざまな乾燥方法が時間の経過とともに連続して使用される。
【0014】
臨界点又は超臨界点乾燥は、溶媒(CO/メタノール/アセトンなど)の相転移が圧力と温度により影響を受ける乾燥の形態であり、固体から気体に(凍結乾燥)又は液体から気体に(沸騰/沸騰直前)移行する代わりに、液体から超臨界流体に移行し、次に気体状態に移行する。利点は、相の境界が越えられることがなく、その結果、乾燥による悪影響(構造の喪失など)が回避されることである。
【0015】
さらに、乾燥、例えば昇華乾燥又はリュフィリゼーションとも呼ばれ得る凍結乾燥は、複数の段階、すなわち、異なる周囲温度及び/又は周囲圧力での主乾燥ステップ及びさらなる乾燥ステップで行われ得る。したがって、有利には、乾燥し、それにより貯蔵可能である多孔性3Dヒドロゲル構造が作成され得る。これに関連して、「多孔性3Dヒドロゲル構造」という表現は、乾燥ステップを通して得られる3Dヒドロゲル構造を示すものである。3Dヒドロゲル構造の多孔率は更に、このようにして均質で大容量の構造も作成され得るという利点を提供し、これは、構造のその後のゲル化においてもゲル化剤が3Dヒドロゲル構造の内部に迅速且つ均一に浸透でき、したがって、構造の実際の安定化前に構造の解凍及び融解がゲル化によって防止されるためである。
【0016】
それにより、3D層状ヒドロゲル構造の正確で再現性のある製造を有利に達成するために、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置による層状塗布のステップが本発明の一態様に従って実行され得る。これに関連して、装置は、3D印刷装置とも呼ばれ得る。このために、装置は、例えば液体アルギン酸塩溶液である液体ヒドロゲル溶液の計量放出用のプリントヘッドと、サンプルキャリアを収容するための支持体と、3つの空間方向で支持体に対するプリントヘッドの相対位置を変更するように構成されている位置決め装置の特徴を含むことができる。これに関連して、相対位置の「変更」は、固定された支持体に対するプリントヘッドの動き、固定されたプリントヘッドに対する支持体の動き、そしてまた互いに対する両方の構成要素の動きを含むことができる。好ましくは、これに関連して印刷媒体又はインクとも呼ばれ得るヒドロゲル溶液の塗布量の配置及び/又は投与は、制御装置によって制御される。さらに、ここでのプリントヘッドは、投与針、押出機ダイ及び/又は他の投与装置、及び/又はヒドロゲル溶液の温度を調節するための加熱装置を含むことができる。
【0017】
しかしながら、1つの変形によれば、層状塗布は、手動操作の投与装置、例えばピペットを用いても実行され得る。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、乾燥ステップは、凍結した3D層状ヒドロゲル構造から凍結水の少なくとも一部を減圧下で昇華させることを含むことができる。以前に液体であったヒドロゲル溶液が追加的又は代替的に水の代わりに他の溶媒も含む場合、乾燥ステップは追加的又は代替的に、凍結した3D層状ヒドロゲル構造から適切な凍結溶媒の少なくとも一部を減圧下で昇華させることを含むことができる。ここで、「減圧」という表現は、より具体的には、標準圧力よりも低い、すなわち1013mbar未満の低圧、好ましくは粗真空又は微真空を示すことができる。好ましくは、凍結した3D層状ヒドロゲル構造は、昇華の間、凍結状態及び/又は室温よりも低い温度に保たれる。このようにして、その形状及び構造が大部分保持されている3D層状ヒドロゲル構造の有利に穏やかな乾燥が達成される。追加的又は代替的に、乾燥は、赤外線乾燥、臨界点乾燥、及び/又は超臨界点乾燥によって達成され得る。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、3Dヒドロゲル構造の第1の細孔特性、例えば細孔分布は、少なくとも1つの第1の動作パラメータによって層状塗布のステップで調整され得る。追加的又は代替的に、3Dヒドロゲル構造の第2の細孔特性、例えば平均細孔径は、少なくとも1つの第2の動作パラメータによって乾燥ステップで調整され得る。言い換えれば、所望の第1及び/又は第2の細孔特性は、第1及び/又は第2の動作パラメータの関数として調整され得、又は第1及び/又は第2の動作パラメータは、特定の第1及び/又は第2の細孔特性を達成するように特に選択され得る。この目的のために、この方法は、例えば、好ましくは予め決定された特性曲線を使用して、第1の細孔特性の関数として第1の動作パラメータの値を設定するステップ、及び/又は好ましくは予め決定された特性曲線を使用して、第2の細孔特性の関数として第2の動作パラメータの値を設定するステップを含むことができる。第1及び第2の細孔特性は、異なる又は同じ細孔特性のいずれかであり得る。例えば、3Dヒドロゲル構造の細孔特性の多孔率は、氷晶形成における関連する増加の結果として、層状塗布のステップでヒドロゲル水溶液の濃度を減少させることによって増加され得る。さらに、層状塗布のステップ、そしてまた乾燥ステップの両方で、それぞれの場合において、複数の細孔特性、例えば、細孔分布と平均細孔径が調整され得る。好ましくは、第1及び/又は第2の細孔特性はまた、場所に応じてプロセスにおいて可変的に調整され得る。細孔特性に対する適切なパラメータの影響は、これに関連して、適切な予備実験又は一連の試験によって決定され得、パラメータは特定の値の範囲で変化され、細孔特性に対する結果として生じる影響が観察される。さらに、この依存関係の相関は、特性曲線の形式でも保存され得る。したがって、有利なことに、規定された細孔特性を有する3Dヒドロゲル構造は、特に、細孔特性の局所的変化、より具体的には組織転移を通して作成され得、及び/又は病理学的変化、例えば、傷跡が複製され得る。
【0020】
この態様のさらなる発展によれば、3Dヒドロゲル構造の第1及び/又は第2の細孔特性は、細孔分布、多孔率、平均細孔径、平均細孔配向、平均細孔形状、及び/又は平均細孔容積であり得る。例えば、第1及び/又は第2の細孔特性は、実際、特定の表面及び/又は本発明の範囲から逸脱することなく何か他の、明示的に指名されない、好ましくは統計的な、細孔特性の特徴付けのための量でもあり得る。前述の量は、例えば弾性などの3Dヒドロゲル構造の重要な物理的特性の決定に寄与するため、これらの量の特定の調整を通じて、ヒドロゲル構造の特性の信頼できる制御を有利に達成することが可能である。したがって、可能な限り現実的な組織構造がこの方法で作成され得る。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1つの第1の動作パラメータは、温度環境の温度、温度環境の温度分布及び/又は温度勾配、液体ヒドロゲル溶液がサンプルキャリア(例えば、液体窒素とドライアイスの混合物)上に塗布される雰囲気の組成、液体ヒドロゲル溶液の濃度、液体ヒドロゲル溶液の粘度、及び/又は層状塗布の速度を含むことができる。例えば、液体ヒドロゲル溶液の濃度を下げることにより、多孔率の増加を達成することが可能である。これに関連して、好ましくは、より具体的には温度及び粘度などの相関量とともに、これらの複数の動作パラメータが、3Dヒドロゲル構造の第1の細孔特性の調整において考慮される。さらに、前述の動作パラメータは、監視及び/又は変更が容易であるため、このことは、規定された細孔特性を備えた3Dヒドロゲル構造の信頼できる容易な製造を有利に可能にする。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも第2の動作パラメータは、周囲温度、周囲圧力、及び/又は乾燥手順の持続時間を含むことができる。ここで、周囲温度と周囲圧力の量は、乾燥ステップ中のサンプルキャリアの局所的な温度及び圧力として理解され得る。さらに、層状塗布と乾燥を同時に行う場合、周囲温度は、層状塗布のステップで「温度環境の温度」として指定された量と同じであり得る。好ましくは、上記の複数の動作パラメータもまた、3Dヒドロゲル構造の第2の細孔特性の調整において考慮される。ここでも、動作パラメータの容易な監視及び/又は変更により、規定された細孔特性を備えた3Dヒドロゲル構造の信頼できる容易な製造が有利に可能になる。
【0023】
本発明に係る方法が上記のような3D印刷装置を用いて実行される場合、本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1つの第1の動作パラメータは、プリントヘッドとサンプルキャリアとの間の間隔及び/又はプリントヘッドと最後に塗布されたヒドロゲル溶液の層との間の間隔を含むことができる。好ましくは、これは、液体ヒドロゲル溶液の新しい層の塗布中の最上層に対して、特に好ましくは調節された間隔である。これに関連して、発明者の側で、ヒドロゲル構造の多孔率は、プリントヘッドと最後に塗布されたヒドロゲル構造の層との間の間隔を拡大することによって増加され得ることが確立された。したがって、ここでも、規定された細孔特性を有する3Dヒドロゲル構造が、容易且つ確実に有利に作成され得る。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、この方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造を機械的に構造化するステップを含むことができる。言い換えれば、多孔性3Dヒドロゲル構造は、乾燥ステップの後に更に機械的に処理され得る。例えば3Dヒドロゲル構造内の血管を有利にモデル化するために、例えば、多孔性3Dヒドロゲル構造にチャネルが溶融される及び/又はドリルで開けられ得る。これに関連して、多孔性3Dヒドロゲル構造の血管新生について述べることも可能である。さらに、多孔性3Dヒドロゲル構造の表面は、粗面化及び/又は研磨され得る。また、例えば、規定された形状はスタンプによって多孔性3Dヒドロゲル構造に圧入され得る、及び/又は規定された形状は多孔性3Dヒドロゲル構造から打ち抜かれ得る。有利なことに、機械的構造化により、3Dヒドロゲル構造の局所特性は更に変化され得るため、可能な限り現実的な組織モデルが作成され得る。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、この方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造を乾燥環境に貯蔵するステップを含むことができる。好ましくは、これに関連して、環境は、大気湿度が低く、及び/又は乾燥剤、例えばシリカゲルと接触している。代替的又は追加的に、貯蔵は、酸化を防ぐために、例えば窒素又は無酸素雰囲気を備えた保護ガス雰囲気中で実施され得る。したがって、3D層状ヒドロゲル構造の早期の乾燥の結果として、これらは長期間にわたって有利に維持され得、その間、物理的及び/又は化学的変化、例えば、別の方法では湿度の高い条件下で起こるであろう加水分解は、おそらく抑制され得る。
【0026】
追加的又は代替的に、この方法はまた、低温環境において多孔性3Dヒドロゲル構造を貯蔵するステップを含むことができる。それにより、低温環境は、好ましくは-100℃未満、特に好ましくは-120℃未満の温度を有する。追加的又は代替的に、この方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造を好ましくは水及び/又は他の溶媒である液体で湿らせることを含むこともできる。好ましくは、このステップは、多孔性3Dヒドロゲル構造の先程説明された貯蔵の直後に行われる。したがって、これに関連して、多孔性3Dヒドロゲル構造の再水和についても述べることが可能である。多孔性3Dヒドロゲル構造の湿潤の結果として、湿った状態が、細胞及び/又はタンパク質でのその後のコーティングのために再び有利に提供され得る。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、この方法は、好ましくはBa2+、Mg2+、Ca2+、Fe2+及び/又はSr2+である多価カチオンによる化学的架橋により多孔性3Dヒドロゲル構造をゲル化させるステップを含むことができる。このために、好ましくは、多孔性3Dヒドロゲル構造は、BaCl溶液などの溶液の浴中でインキュベートされる。特に好ましくは、多孔性3Dヒドロゲル構造をゲル化させるステップは、凍結した3D層状ヒドロゲル構造を乾燥させるステップの後に行われる。有利なことに、この結果として、ゲル化剤はまた、3Dヒドロゲル構造の内部に迅速且つ均一に浸透することができる。あるいは、乾燥ステップはまた、多孔性3Dヒドロゲル構造のゲル化の後に起こり得るか、又は方法は、さらなるゲル乾燥ステップ、すなわち、ゲル化した3Dヒドロゲル構造を凍結乾燥によって更に乾燥させるステップを含むことができる。有利なことに、ゲル化した3Dヒドロゲル構造の貯蔵寿命は、このようにして再び延長される。
【0028】
追加的又は代替的に、この方法はまた、多孔性3Dヒドロゲル構造を、好ましくは細胞外マトリックスからのタンパク質であるタンパク質、及び/又は好ましくはヒト細胞である細胞でコーティングするステップを含むことができる。ここで、「細胞外マトリックス」という用語では、細胞間空間内のすべての高分子の全体を示すことが意図されている。簡単に言えば、それは細胞の外側に位置する組織の構造成分で構成され得る。これに関連して、多孔性3Dヒドロゲル構造の活性化又は機能化について述べることも可能である。さらに、多孔性3Dヒドロゲル構造は、細胞培養液とインキュベートされ得る。有利なことに、この方法で患者及び/又は疾患に固有の組織モデルが作成され得るため、例えば、それらに対して新しい薬剤が試され得る。
【0029】
3Dヒドロゲル構造のその後の機能化に加えて、又はその代わりに、実際の印刷の前にすでにさまざまな添加剤がヒドロゲル溶液に追加され得る。したがって、使用される印刷物質はもはや純粋なヒドロゲル溶液ではないため、これに関連して、「ハイブリッドインク」という表現は、層状塗布に使用される物質にも使用され得る。ここで、液体ヒドロゲル溶液は、以下の添加剤のうちの少なくとも1つを含有することができる。
-ポロゲン、すなわち、細孔形成及び促進物質(欧州特許第1141128号明細書も参照)、例えば塩。したがって、ポロゲンは、NaCl結晶などの塩結晶など、特に細孔を作成又は拡大することができる物質である。
-界面活性剤、界面活性剤は乾燥、そしてまた細孔の形成にも影響を与える可能性がある(例:Pluronic又はTween)、
-ポリエチレングリコール、
-好ましくは細胞外マトリックスからのタンパク質であるタンパク質、
-好ましくはヒト細胞である細胞、
-コラーゲン、
-ゼラチン、
-増量剤、増量剤は乾燥中の足場構造に安定化効果をもたらす(例:PEG、糖類など)、
-好ましくは砂糖及び/又は食塩の溶液である水溶液、及び/又は
-多価カチオンによる化学的架橋用のゲル化剤。
【0030】
このようにして、有利には、ヒドロゲル構造におけるさまざまな添加剤のより均一な分布が、拡散プロセスによる後のコーティングで可能であるよりも達成され得る。たとえば、ここで、後のゲル化剤の一部、例えばBaCIは、塗布中に構造に統合され得、このようにして「内から外へ」、すなわち外部からのアクセスが困難な場所でも機能する。さらに、多孔性3Dヒドロゲル構造は、更により具体的には、例えば、それによって血管系の空隙又はチャネルを特に作成するためにヒドロゲル溶液に添加される、例えば砂糖及び/又は食塩の溶液などのゲル化不可能な溶液を用いて考案され得る。ヒドロゲル溶液への前述の物質の「添加」に加えて又は代えて、この方法はまた、純粋な形態で、すなわち液体ヒドロゲル溶液との組み合わせなしで、上記の物質の1つ以上を塗布するステップを含むことができる。
【0031】
本発明のさらなる態様によれば、液体ヒドロゲル溶液は、好ましくはコラーゲンである化学的に誘発される架橋によってゲル化する第1の添加剤と、好ましくはゼラチンである熱的に誘発される架橋によってゲル化する第2の添加剤とを含有することができる。言い換えれば、塗布された媒体又はハイブリッドインクは、3つの異なるゲル化タイプ(イオン、化学的及び熱的誘発)を有する物質を含む。これに関連して、3つの物質のその後のゲル化は、同時に、部分的に同時に、又は連続して起こり得る。有利なことに、3Dヒドロゲル構造の局所特性は、この結果として、なお更に変化され得るか、又はより具体的に考案され得、このようにして、可能な限り現実的な組織モデルが作成され得る。
【0032】
3D印刷装置とも呼ばれ得る三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置の有利な実施形態が以下に説明される。すでに上記で説明されたように、前記装置は、好ましくは液体ヒドロゲル溶液である液体材料の計量放出用のプリントヘッドと、サンプルキャリアを収容するための支持体と、3つの空間方向で支持体に対するプリントヘッドの相対位置を変更するように構成されている位置決め装置とを含む。これに関連して、相対位置の「変更」は、固定された支持体に対するプリントヘッドの動き、固定されたプリントヘッドに対する支持体の動き、そしてまた互いに対する両方の構成要素の動きを含むことができる。さらなる態様によれば、3D印刷装置は更に、好ましくは窒素である冷ガスが供給される断熱トレイを有することができる。言い換えれば、断熱トレイは、好ましくは窒素である冷ガスが供給されるように構成され得る。しかしながら、代替的に、冷たい液体、例えば液体窒素も、断熱トレイに供給され得る。したがって、本方法を実行するために簡単な方法で適切な低温環境が作られ得る。さらに、サンプルキャリアを収容するための支持体は、断熱トレイ内に配設され得、グリッド状の支持体として構成され得る。有利なことに、これは、第一に、サンプルキャリアに良好な機械的保持を提供し、第二に、断熱トレイを通って流れる冷却剤の動きをできるだけ妨げない。
【0033】
有利には、この装置は、液体ヒドロゲル溶液の層状塗布の前述の方法ステップを実行するのに特に適しており、本明細書で開示される装置は更に、この方法の過程ですでに説明されたようにすべての特徴も有することができ、その逆も同様である。それは、したがって、方法に従って開示された方法の特徴が、装置に関しても開示され、請求可能であるべきであり、したがって、装置に従って開示された装置の特徴が、方法に関しても開示され、請求可能であるべきであることを意味する。しかしながら、更に、3D印刷装置はまた、主題自体としての方法とは無関係に開示され、請求可能であるべきである。
【0034】
さらなる態様によれば、装置のプリントヘッドは、液滴形成を防止するために、疎水性材料及び/又は疎水性コーティング及び/又はパラフィルム及び/又はネスコフィルムによって囲まれている投与針を含むことができる。あるいは、好ましくはパラフィンワックス及びポリエチレンでできている別の可撓性の疎水性材料も使用され得る。これにより、投与針上での液滴形成が可能な限り防止されることが有利である。
【0035】
追加的又は代替的に、断熱トレイはまた、2つの層から構成され得、第1の層は第2の層よりも低い熱伝導率を有する。これに関連して、高い壁と平らな底を備えたオープントップコンテナはトレイであると理解され得る。ここで、好ましくは、これに関連して第1の層と呼ばれ得る、より外側にある層は、より内側にある層よりも低い熱伝導率を有する。好ましくは、第2の層は、サンプルキャリアを収容するために支持体と接触している。したがって、有利には、収容手段、したがってサンプルキャリアの同時の効果的な冷却とともに、環境に関して十分な断熱を達成することが可能である。
【0036】
追加的又は代替的に、供給される冷ガスの温度は可変的に調整され得る。好ましくは、温度は、特定の値に調整及び/又は調節され得る。特に好ましくは、例えば窒素が供給されるガスの温度は、冷ガス装置によって-180℃~25℃の範囲で調整され得る。あるいは、供給される液体の温度、熱交換器装置、及び/又はペルチェ素子装置もまた、可変的に調整され得る。有利なことに、温度を単純に変えることにより、結果として生じる3Dヒドロゲル構造の細孔特性は特異的に調整され得る。
【0037】
追加的又は代替的に、サンプルキャリアはガラスで作られ得る。さらに、サンプルキャリアは、フィルム、膜、及び/又は多孔性材料を含むことができる。好ましくは、サンプルキャリアは本質的に長方形の形状を有する。有利には、サンプルキャリアとヒドロゲル構造との間の十分な熱結合はこのようにして達成され得、同時に、サンプルキャリアからのヒドロゲル構造の容易な分離が可能である。
【0038】
本発明の前述の態様及び特徴は、自由に互いに組み合わせられ得る。本発明のさらなる詳細及び利点は、添付の図面を参照して以下に説明される。図は次のことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態に係る層構築技術によって3Dヒドロゲル構造を製造するための方法のフローチャートである。
図2】本発明のさらなる実施形態に係る方法のフローチャートである。
図3】本発明のさらなる実施形態に係る選択された方法ステップの概略図である。
図4】従来技術でこれまでに知られている方法(上)及び本発明の実施形態(下)に係る3Dヒドロゲル構造の概略的に表された形態の比較である。
図5】従来技術でこれまでに知られている方法(上)及び本発明の実施形態(下)に従って製造された3Dヒドロゲル構造の写真及び顕微鏡写真の比較である。
図6】本発明の一実施形態に係る、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置の概略図である。
図7図6に示されている装置の一部分の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明の一実施形態に係る層構築技術によって3Dヒドロゲル構造を製造するための方法のフローチャートを示す。この目的のために、ステップS1において、例えば0.3~1.5%のアルギン酸塩水溶液である液体ヒドロゲル溶液と、好ましくは可搬型であるサンプルキャリア4とが提供される。「アルギン酸塩」という用語は、主に褐藻から得られる非分岐アニオン性多糖鎖を意味する。次に、ステップS2において、液体ヒドロゲル溶液は、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aを製造するために、温度がヒドロゲル溶液の凝固点よりも低い温度環境でサンプルキャリア4上に層状に塗布される。このために、通常のヒドロゲル水溶液は、例えば-10℃~0℃の範囲の凝固点を有し、これに関して、液体ヒドロゲル溶液の凝固点はまた、単純に冷却して液体から固体への相転移の温度を観察することによって実験的に決定され得る。好ましくは、層状塗布は、本明細書に記載されているように、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置10によって行われる。次に、ステップS3において、多孔性3Dヒドロゲル構造1bを製造するために、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aが乾燥される。乾燥ステップは、例えば、昇華乾燥又はリュフィリゼーションとも呼ばれ得る凍結乾燥によって実施され得る。この目的のために、凍結溶媒例えば凍結水の少なくとも一部が、減圧下、すなわち1013mbar未満の圧力で、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aから昇華され得る。したがって、有利なことに、3D層状ヒドロゲル構造の多孔性、すなわち、3D層状ヒドロゲル構造における小さな空隙、空洞、及び/又はくぼみの割合が増加され得、更に、製造された構造の貯蔵寿命が改善され得る。追加的又は代替的に、乾燥は、赤外線乾燥、臨界点乾燥、及び/又は超臨界点乾燥によって達成され得る。
【0041】
図2は、本発明のさらなる実施形態に係る方法のフローチャートを示す。図1に示される実施形態とは対照的に、この方法は、多孔性3Dヒドロゲル構造1bが、多価カチオン、例えばBa2+、Mg2+、Ca2+、Fe2+及び/又はSr2+による化学的架橋によってゲル化される追加のステップS4を含む。イオンゲル化とも呼ばれるこの手順では、多価カチオンがポリマー鎖の間に堆積され、その結果、ポリマー鎖の会合、及びそれによる連結ポリマーネットワークの形成が、静電相互作用によって誘導される。言い換えれば、3Dヒドロゲル構造は寸法的に安定する。この目的のために、多孔性3Dヒドロゲル構造1bは、好ましくは、BaCl溶液などのゲル化溶液の浴中でインキュベートされる。好ましくは、これは、3Dヒドロゲル構造がまだ凍結された状態で起こり得る。この結果として、有利には、ヒドロゲルの寸法的に安定した足場構造が得られ、その上にその後組織モデルを製造するために生細胞が適用され得る。
【0042】
図3は、本発明のさらなる実施形態に係る選択された方法ステップの概略図を示す。これ以上詳細には説明されない液体ヒドロゲル溶液と、ガラススライドの形態の可搬型サンプルキャリア4とが提供された後、ステップiは、温度がヒドロゲル溶液の凝固点よりも低い温度環境におけるサンプルキャリア4への液体ヒドロゲル溶液の層状塗布を概略的に示し、したがって、前の方法ステップS2に対応する。層状塗布のために、この場合、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置10が使用される。これは、投与針7による液体ヒドロゲル溶液の計量放出用のプリントヘッド2と、サンプルキャリア4を収容するためのグリッド状の支持体3と、3つの空間方向で支持体3に対するプリントヘッド2の相対位置を変更するように構成されている位置決め装置5(図示せず)とを含む。これに関連して、支持体3及びサンプルキャリア4は、ここで示されるように、複数のサンプルキャリア4が支持体3上に配置され得るように寸法決定され得る。ステップiiは、3D印刷装置から取り出された可搬型サンプルキャリア4を示し、その上に凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aが配置されている。ここで、サンプルキャリア4は、例えば凍結乾燥又は他の任意の乾燥タイプの装置に移され得、そこで次の乾燥させる方法ステップが行われ、一方では同時に、さらなる凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aが3D印刷装置で製造される。ステップiiiは、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aを、例えば凍結乾燥によって、乾燥させることにより製造された多孔性3Dヒドロゲル構造1bを示し、それにより方法ステップS3に対応する。乾燥手順の間に、含有された溶媒又は水の少なくとも一部が、例えば昇華によって、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aから除去される。凍結乾燥が使用される場合、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aを取り巻く周囲圧力は、好ましくは数mbar以下の圧力範囲に調整して下げられ得る。有利なことに、この結果として、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aの穏やかな乾燥が達成され、その間、その形状及び構造は大部分が保持される。ステップivは、サンプルキャリア4から分離された多孔性3Dヒドロゲル構造1bを示し、これは、その後、ゲル化され、機械的に構造化され、及び/又は貯蔵され得る。
【0043】
図4は、従来技術で知られている方法と比較して、寸法的に安定な、すなわちゲル化された多孔性3Dヒドロゲル構造1bの製造に関して本発明に係る方法から生じる利点を明らかにしている。ここでの出発点は、好ましくは層構築技術によって製造された凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aである。上方に図示されるように、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aが、先行技術で知られている方法に従って直ちにゲル化される場合、ゲル化溶液は、構造内に存在する溶媒のために3D層状ヒドロゲル構造の内部にゆっくりとしか浸透又は拡散することができない。したがって、凍結領域は、ゲル化によって安定化される前に解凍され得る。その結果、右上のイメージに概略的に示されているように、これらの領域の構造が失われる。下方に図示されるように、この問題は乾燥ステップによって大幅に回避され得る。ここで、凍結した3D層状ヒドロゲル構造1aは、例えば凍結乾燥によって、最初に乾燥され、その間に、構造内に存在する溶媒が抜ける。続くゲル化において、ゲル化剤、例えばBaClは、構造に均一に、可能な限り妨げられることなく浸透できる。この結果、右下のイメージに示されているように、内部の微細な細孔構造さえも保持される。
【0044】
図5は、従来技術でこれまでに知られている方法(上)及び本発明の実施形態(下)に従って製造された実際の3Dヒドロゲル構造の写真及び顕微鏡写真の比較を示す。ここで、画像A1は、3D圧力とそれに続くゲル化によって、すなわち、従来技術で知られている方法で作製されたヒドロゲル構造を示す。これに関連して、矢印は、解凍の進行が速すぎることによる前述の構造の喪失を示しており、前記構造の喪失は、画像A2に拡大して表されている。溶融プロセスによる液化及び関連する圧縮のためにこの領域にもはや存在しない多孔性構造では、ここでの細胞の成長はほとんど不可能である。対照的に、画像A3は、十分に高い(望ましい)多孔率がまだ存在する同じサンプルの領域を示す。全体を通して均一なヒドロゲル構造を達成するために、本発明に係る方法は、追加のゲル乾燥ステップを含む。3D印刷によって製造され、次に乾燥(ここでは凍結乾燥)及びゲル化された対応する3Dヒドロゲル構造が、画像B1に示されている。見てわかるように、4倍(B2)及び10倍(B3)に拡大すると、サンプルは構造全体にわたって十分に高い多孔率を有し、圧縮領域は現れていない。
【0045】
図6は、本発明の一実施形態に係る、三次元ヒドロゲル構造を層状に構築するための装置10の概略図を示す。これに関連して、3D印刷装置とも呼ばれる装置10は、好ましくは液体ヒドロゲル溶液である液体材料の計量放出用の加熱可能な投与針7を備えたプリントヘッド2を含む。この目的のために、液体材料は、例えば、加熱可能な投与針7から空気圧によって押し出され得る。さらに、装置10は、冷ガス、例えば-50℃の冷窒素ガスが供給される断熱トレイ6を備える。特に好ましくは、供給される冷ガスの温度は、可変的に調整され得る。このために、断熱トレイ6は、可能な限り水平に向けられているプレート8上に配置され得る。さらに、装置10は、サンプルキャリア4を収容するために断熱トレイ6の内側に配設されたグリッド状の支持体3と、3つの空間方向で支持体3に対するプリントヘッド2の相対位置を変更するように構成されている位置決め装置5とを備える。この場合、位置決め装置5は、固定された支持体3又は固定されたサンプルキャリア4に対するプリントヘッド2の相対的な移動を可能にするガイド機構を備えたポータル様構造として具体化されている。これに関連して、凍結した3D層状ヒドロゲル構造を製造するために、好ましくはヒドロゲル溶液である材料の新しい層は、それぞれの場合において、これ以上詳細には示されていない制御装置によって位置決め装置5を適切に制御することにより、前に塗布され、且つ可能な限りすでに凍結された層上に塗布され得る。
【0046】
図7は、図6に示されている装置10の一部分の詳細を示す。ここでは特に、グリッド状の支持体3、そしてまた断熱トレイ6を参照する必要がある。これに関連して、断熱トレイは2つの層6a、6b(内層と外層)から構成され、各層6a、6bは、1つの側、この場合は上部が開いた中空ブロックを形成する。より外側にある層6aは、より内側にある層6bよりも熱伝導率が低い。言い換えれば、外層6aは、内層6bよりも熱伝導性が低く、すなわち、内層6bよりも熱をよりよく遮断する。さらに、ここでの2つの層6a、6bのそれぞれは、例として異なる厚さを有するが、2つの層6a、6bは、本発明の範囲から逸脱することなく同じ厚さを有することもできる。内層6bに固定された、サンプルキャリア4を収容するためのグリッド状の支持体3もある。この場合、この自立構造は、平行に配設されている長方形のプロファイルを有する複数の支持バーを含む。断熱トレイ6の内層6bと同様に、それぞれの支持バーもまた、その上にあるサンプルキャリア4が熱に対して十分な接続を有することを保証するために、可能な限り熱を伝導する材料で作られる。支持体3のグリッド状の構造は、第一に、サンプルキャリア4に良好な機械的保持を提供し、第二に、断熱トレイ6を通って流れる低温ガスの動きをできるだけ妨げない。同時に、外層6aは、環境からの内部空間の可能な限り最良の断熱を確実にする。
【0047】
本発明は、特定の例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更が実施され得、同等物が代替として使用され得ることは当業者には明らかである。したがって、本発明は、開示された例示的な実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての例示的な実施形態を含むものである。より具体的には、本発明はまた、参照されるクレームとは独立して、従属クレームの主題及び特徴に対する保護を請求する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】