(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】角皮症を処置するためのEGFRインヒビター
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220131BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/517 20060101ALN20220131BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20220131BHJP
C12N 9/14 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/00 ZNA
A61P43/00 111
C12N9/12
A61K31/517
C12N9/99
C12N9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518152
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(85)【翻訳文提出日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2019076803
(87)【国際公開番号】W WO2020070239
(87)【国際公開日】2020-04-09
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ボーデメール,クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】グレコ,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブーシェイ,クロード
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050GG02
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC421
4C084ZC422
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC46
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
オルムステッド症候群(OS)は、古典的には、両側性断節性の手足背部に拡大する(transgredient)掌蹠角化症(PPK)と開口周辺部の角化性斑との組み合わせを特徴とする稀な遺伝性皮膚症である。本発明者らは、異なるTRPV3変異に関連したオルムステッド症候群及び紅痛症を有する3人の患者において、EGFRインヒビター(例えば、エルロチニブ)を用いた処置により目覚ましい結果を得た。3ヶ月未満で、薬物は、過角化症及び疼痛の完全な消失を誘導した。食欲不振及び不眠症は、成長の改善とともに消失した。したがって、本発明は、角皮症に対するEGFRインヒビターの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置上有効な量のEGFRインヒビターを患者に投与することを含む、それを必要としている患者における角皮症を処置する方法。
【請求項2】
前記患者が、掌蹠角化症に罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記患者が、びまん性掌蹠角化症(例えば、びまん性表皮剥離性掌蹠角化症、びまん性非表皮剥離性掌蹠角化症、メレダ病)、限局性掌蹠角化症(例えば、線状掌蹠角化症)、点状掌蹠角化症(例えば、KPPP(keratosis punctata palmaris et plantaris)、有棘角化症、限局性肢端過角化症)、びまん性掌蹠角化症(例えば、変動性紅斑角皮症、Sybert型掌蹠角化症、オルムステッド症候群、及びNaegeli-Franceschetti-Jadassohn症候群)、限局性掌蹠角化症(例えば、パピヨン-ルフェーブル症候群、先天性爪肥厚症I型、先天性爪肥厚症II型、口腔粘膜過角化症を伴う限局性掌蹠角化症、及びカミサ病)、外胚葉異形成(クラウストン有汗性外胚葉異形成、先端角化症、及び網状色素性皮膚症)、症候群性角化症(例えば、フォーヴィンケル症候群、食道癌に関連する掌蹠角化症、掌蹠角化症及び痙性対麻痺、ナクソス病、線状掌蹠角化症、縮毛症、並びに左心室拡張型心筋症、角膜炎・魚鱗癬・難聴症候群、Corneodermatosseous症候群、Huriez症候群、眼皮膚チロシン血症、心臓・顔・皮膚症候群、及びシェプフ-シュルツ-パッサルゲ症候群)からなる群から選択される先天性角化症に罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記患者が、オルムステッド症候群に罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記患者が、p.G568C、p.G573S、p.G573C、p.L673F、p.W692G等の少なくとも1つのTRPV3変異、及びp.Gln216_Gly262del等の劣性変異を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、20歳未満であるか、又は18歳未満であるか、又は15歳未満である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、紅痛症にも罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記EGFRインヒビターが、ブリガチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イコチニブ、ラパチニブ、サピチニブ、バンデタニブ、バルリチニブ、アファチニブ、カネルチニブ、ダコミチニブ、ネラチニブ、オシメルチニブ、ペリチニブ、及びロシレチニブからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記EGFRインヒビターが、エルロチニブである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記EGFRインヒビターが、EGFRの活性化及びシグナル伝達の経路のインヒビターである、請求項1の方法。
【請求項11】
前記EGFRの活性化及びシグナル伝達の経路のインヒビターが、ADAM17インヒビター又はTGFαインヒビターから選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記EGFRインヒビターが、外用製剤で前記患者に投与される、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角皮症のためのEGFRインヒビター又はEGFRの活性化及びシグナル伝達の経路のインヒビターの使用に関する。
【0002】
背景技術:
「角皮症」とは、皮膚の顕著な肥厚を意味する用語である。角皮症は、遺伝する場合もある(遺伝性)。特に、オルムステッド症候群(OS)は、古典的には、両側性断節性の手足背部に拡大する(transgredient)掌蹠角化症(PPK)と開口周辺部の角化性斑との組み合わせを特徴とするが、かなりの臨床的不均一性を示す稀な遺伝性皮膚症である。この疾患は、通常、出生時又は幼児期に発症する。OSは、両方の性別で観察されるが、男性の症例がより高頻度である。最も示唆的な症状は、PPKを偽性アイユーム及び開口周辺部の角化性斑と関連付ける。高頻度で随伴する特徴としては、毛髪及び爪の異常、白色角化症、角膜デフォルト、及び再発性感染症が挙げられる。過角化症の部位における疼痛及び掻痒は可変的であるが、重症化する場合もある。報告されているOS症例のほとんどは散発性であるが、遺伝様式の異なる家族性症例も報告されている。局所的又は全身的な過角化症の現在の処置法(主に、皮膚軟化剤、角質溶解剤、レチノイド、又はコルチコステロイド)は対症療法であり、そして、一時的に部分的な緩和を提供するにすぎない。疼痛及び掻痒の特異的な管理は、疾患の罹患率を下げるために重要である。この疾患は、衰弱性かつ進行性の角皮症であり、そして、指の自然切断により患者の把持及び歩行が妨げられ、そして、患者が車椅子に拘束される場合もある。したがって、新たな処置法の選択肢が極めて重要であり、そして、疾患の機序のより深い理解から期待される。
【0003】
2012年以降、TRPV3(一過性受容器電位バニロイド-3)遺伝子の機能獲得型変異がOSの原因として報告されている(Wilson, Neil J., et al. "Expanding the phenotypic spectrum of Olmsted syndrome." The Journal of investigative dermatology 135.11 (2015): 2879.)。TRPV3変異と臨床症状との関連性は確立されていなかったが、Chengらの研究(Cheng, Xiping, et al. "TRP channel regulates EGFR signaling in hair morphogenesis and skin barrier formation." Cell 141.2 (2010): 331-343.)では、Ca2+透過性の非選択的カチオンチャネルとして動作するTRPV3シグナル伝達が、マウス及びヒトのケラチノサイトにおいてEGFRのトランス活性化によって媒介され、そして、ポジティブフィードバックによって増幅されることが実証された。EGFRのTRPV3トランス活性化のプロセスは、EGFRの活性化につながる、EGFRリガンドTGF-αの膜前駆体を切断する、TACEとも呼ばれる膜プロテアーゼADAM17の活性化を伴う。この発見のヒントは、TGF-α及びEGFRの低次形態変異に起因することが既に示されているwaved-1及びwaved-2の変異体に類似するカールしたひげ及びパーマヘアの表現型を示す、非条件的な又はケラチノサイトを標的とするTRPV3ノックアウトマウスの表現型であった(Schneider, Marlon R., et al. "Beyond wavy hairs: the epidermal growth factor receptor and its ligands in skin biology and pathology." The American journal of pathology 173.1 (2008): 14-24.)。皮膚生物学におけるEGFRの役割は複雑であるが、EGFR及びTGF-αトランスジェニックマウスで観察された表現型は、EGFRがケラチノサイトの増殖及び分化、並びにより一般的には皮膚の恒常性において重要な役割を果たしていることを示す(Schneider, Marlon R., et al."Beyond wavy hairs: the epidermal growth factor receptor and its ligands in skin biology and pathology."The American journal of pathology 173.1 (2008): 14-24.)。
【0004】
発明の概要:
本発明は、角皮症に対するEGFRインヒビターの使用に関する。具体的には、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0005】
発明を実施するための形態:
本発明の第1の目的は、それを必要としている患者における角皮症を処置する方法であって、処置上有効な量のEGFRインヒビターを該患者に投与することを含む方法に関する。
【0006】
本明細書で使用するとき、用語「角皮症」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、皮膚の顕著な肥厚を意味する用語である。角皮症の分類は、遺伝性であるかどうか及びその臨床的特徴に依存する。びまん性角皮症は、手掌及び足底の大部分で発症する。限局性角皮症は、主に、圧迫領域(pressure areas)で発症する。点状型角皮症は、手掌及び足底に小さなこぶができる。ほとんどの場合、異常な皮膚は、手掌及び足底のみに生じるが(手足背部には拡大しない)、時には、手及び足の甲にも広がることがある(手足背部に拡大する)。
【0007】
幾つかの実施態様では、角皮症は、掌蹠角化症である。用語「掌蹠角化症」又は「PPK」は、手掌及び足底の表皮の持続的な肥厚の任意の形態を示し、そして、遺伝性病態及び後天性病態を含む。PPKは、症状及び臨床所見に関して大きく異なる、大きく多様な症状群を表す。PPKは、湿疹、乾癬、及び扁平苔癬等の炎症性皮膚疾患では後天性である場合があり、そして、腫瘍随伴性現象として報告されている。遺伝的に決定されるPPKは、様々な機序によって遺伝したり、散発的に発生したりする個々の稀な障害の不均一な群である。
【0008】
幾つかの実施態様では、先天性角化症は、びまん性掌蹠角化症(例えば、びまん性表皮剥離性掌蹠角化症、びまん性非表皮剥離性掌蹠角化症、メレダ病)、限局性掌蹠角化症(例えば、線状掌蹠角化症)、点状掌蹠角化症(例えば、掌蹠点状角化症(keratosis punctata palmaris et plantaris)、有棘角化症、限局性肢端過角化症)、びまん性掌蹠角化症(例えば、変動性紅斑角皮症、Sybert型掌蹠角化症、オルムステッド症候群、及びNaegeli-Franceschetti-Jadassohn症候群)、限局性掌蹠角化症(例えば、パピヨン-ルフェーブル症候群、先天性爪肥厚症I型、先天性爪肥厚症II型、口腔粘膜過角化症を伴う限局性掌蹠角化症、及びカミサ病)、外胚葉異形成(クラウストン有汗性外胚葉異形成、先端角化症、及び網状色素性皮膚症)、症候群性角化症(例えば、フォーヴィンケル症候群、食道癌に関連する掌蹠角化症、掌蹠角化症及び痙性対麻痺、ナクソス病、線状掌蹠角化症、縮毛症、並びに左心室拡張型心筋症、角膜炎・魚鱗癬・難聴症候群、Corneodermatosseous症候群、Huriez症候群、眼皮膚チロシン血症、心臓・顔・皮膚症候群、及びシェプフ-シュルツ-パッサルゲ症候群)を含む。
【0009】
幾つかの実施態様では、後天性角皮症は、エイズ随伴角皮症、ヒ素性角化症、皮膚硬結、更年期性角皮症、うおのめ(鶏眼)、湿疹、ヒト乳頭腫ウイルス、膿漏性角皮症、扁平苔癬、ノルウェー疥癬、腫瘍随伴性角皮症、乾癬、反応性関節炎、第二期梅毒、足白癬、セザリー症候群、皮膚疣状結核薬誘発性角皮症を含む。
【0010】
幾つかの実施態様では、患者は、オルムステッド症候群に罹患している。本明細書で使用するとき、用語「オルムステッド症候群」又は「OS」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、両側性断節性の手足背部に拡大する掌蹠角化症と開口部周辺の角化性斑との組み合わせを特徴とする遺伝性掌蹠角化症を指す。この用語はまた、開口部周辺の角化性斑を伴う断節性掌蹠角化症(PPK)としても知られている。この疾患は、通常、出生時、新生児期、又は幼児期、小児が歩行及び把持を始めたときに発症し、そして、経時的に悪化する。この疾患は、緩徐であるが、進行性の経過をとる。
【0011】
幾つかの実施態様では、患者はTRPV3変異を有している。本明細書で使用するとき、用語「TRPV3」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、一過性受容器電位カチオンチャネルサブファミリーVメンバー3を指す。TRPV3のヒトアミノ酸配列は、配列番号1によって表される。
【化1】
【0012】
OSに関連するTRPV3変異は当技術分野において周知であり、そして、p.G568C、p.G573S、p.G573C、p.L673F、P.W692G等のミスセンス変異、及びp.Gln216_Gly262del等の劣性変異を含む。TRPV3遺伝子における変異は、当技術分野における任意の好適な方法によって同定され得るが、特定の実施態様では、該変異は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は配列決定のうちの1つ以上によって同定される。
【0013】
幾つかの実施態様では、患者は20歳未満である。幾つかの実施態様では、患者は18歳未満である。幾つかの実施態様では、患者は15歳未満である。幾つかの実施態様では、患者は、5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、17歳、又は18歳である。
【0014】
幾つかの実施態様では、患者は、紅痛症にも罹患している。本明細書で使用するとき、用語「紅痛症」は、当該技術分野において一般的な意味を有し、そして、主に足、及び頻度は低いが手(四肢)で発症する稀な病態を指す。これは、突発性又は事実上ほぼ持続性であり得る、患部四肢の激しい灼熱痛、重度の発赤(紅斑)、及び皮膚温度の上昇を特徴とする。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「処置」又は「処置する」とは、疾患に罹患するリスクがあるか又は疾患に罹患していると疑われる患者並びに病気であるか又は疾患若しくは病状を患っていると診断された患者の処置を含む、予防的又は防止的な処置及び治癒的又は疾患修飾性の処置の両方を指し、そして、臨床的再発の抑止を含む。処置は、障害若しくは再発障害の1つ以上の症状を予防する、治癒させる、発症を遅延させる、重篤度を低減する、若しくは寛解させるために、又はこのような処置を行わない場合に予測される生存期間を超えて被験体の生存期間を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に該障害に罹患する可能性のある被験体に施してよい。「処置レジメン」とは、病気の処置パターン、例えば、処置中に用いられる投薬パターンを意味する。処置レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。語句「導入レジメン」又は「導入期間」とは、疾患の初期処置に用いられる処置レジメン(又は処置レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目的は、処置レジメンの初期期間中に高レベルの薬物を患者に与えることである。導入レジメンは、維持レジメン中に医師が使用するであろう用量よりも高用量の薬物を投与すること、維持レジメン中に医師が薬物を投与するであろう頻度よりも高頻度で薬物を投与すること、又はこれらの両方を含み得る「負荷レジメン」を(部分的に又は全体的に)使用し得る。語句「維持レジメン」又は「維持期間」とは、病気の処置中に患者を維持するため、例えば、長期間(数ヶ月間又は数年間)にわたって患者の寛解状態を保つために用いられる処置レジメン(又は処置レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、毎週、毎月、毎年等の一定間隔で薬物を投与する)又は間欠療法(例えば、断続処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定基準[例えば、疾患の顕在化等]を満たしたときの処置)を使用し得る。
【0016】
特に、EGFRインヒビターは、疼痛、特に過角化症の領域に関連する疼痛を緩和するのに特に好適である。また、EGFRインヒビターは、食欲不振及び不眠症の処置だけでなく、過角化症の完全消失の誘導にも好適である。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「EGFR」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、本明細書では、当技術分野におけるその通常の意味に従う、すなわち、上皮成長因子受容体又はErbB-1(ヒトではHER1)を意味することを意図する。それは、受容体のErbBファミリーのメンバーである。天然に存在するEGFRは、細胞表面で発現し、そして、上皮成長因子(EGF)及びトランスフォーミング成長因子α(TGFα)を含む特異的リガンドの結合によって活性化される。その成長因子リガンドによって活性化されると、EGFRは、不活性な単量体形態から活性なホモ二量体へと移行する。EGFRはまた、ErbB2/Her2/neu等のErbB受容体ファミリーの他のメンバーと対を形成して、活性化されたヘテロ二量体を生じさせ得る及び/又は活性化されたEGFRの形態のクラスターを形成し得る。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「EGFRインヒビター」は、当技術分野において現在公知であるか又は将来的に同定されるであろう任意のEGFRインヒビターを指し、そして、患者に投与すると、天然リガンドのEGFRへの結合に起因する下流の生物学的効果のいずれかを含む、患者におけるEGFRの活性化に関連する生物学的活性を阻害する任意の化学的実体を含む。このようなEGFRインヒビターは、EGFRの活性化又はEGFRの活性化の下流の生物学的効果のいずれかをブロックすることができる任意の剤を含む。このようなインヒビターは、受容体の細胞内ドメインに直接結合し、そして、そのキナーゼ活性を阻害することによって作用することができる。あるいは、このようなインヒビターは、EGFR受容体のリガンド結合部位又はその一部を占有し、それによって、受容体がその天然のリガンドにアクセスできないようにし、その結果、その正常な生物学的活性を阻止又は低減することによって作用する場合もある。あるいは、このようなインヒビターは、EGFRポリペプチドの二量体化又はEGFRポリペプチドと他のタンパク質との相互作用を調節することによって作用する場合もある。また、EGFRインヒビターは、EGFRの活性化及びシグナル伝達の経路のインヒビターも含み、そして、特にADAM17及びTGFβのインヒビターを含むが、その理由は、これらタンパク質がEGFR(トランス)活性化経路の構成要素として作用するためである。
【0019】
EGFRインヒビターは当技術分野で周知であり、そして、例えば、キナゾリンEGFRインヒビター、ピリド-ピリミジンEGFRインヒビター、ピリミド-ピリミジンEGFRインヒビター、ピロロ-ピリミジンEGFRインヒビター、ピラゾロ-ピリミジンEGFRインヒビター、フェニルアミノ-ピリミジンEGFRインヒビター、オキシンドールEGFRインヒビター、インドロカルバゾールEGFRインヒビター、フタラジンEGFRインヒビター、イソフラボンEGFRインヒビター、キナロンEGFRインヒビター、及びチロホスチンEGFRインヒビター、例えば以下の特許公報に記載されているもの、並びに該EGFRインヒビターの全ての薬学的に許容し得る塩及び溶媒和物を含む:国際公開公報第96/33980号、同第96/30347号、同第97/30034号、同第97/30044号、同第97/38994号、同第97/49688号、同第98/02434号、同第97/38983号、同第95/19774号、同第95/19970号、同第97/13771号、同第98/02437号、同第98/02438号、同第97/32881号、同第98/33798号、同第97/32880号、同第97/3288号、同第97/02266号、同第97/27199号、同第98/07726号、同第97/34895号、同第96/31510号、同第98/14449号、同第98/14450号、同第98/14451号、同第95/09847号、同第97/19065号、同第98/17662号、同第99/35146号、同第99/35132号、同第99/07701号、及び同第92/20642号;欧州特許出願第520722号、同第566226号、同第787772号、同第837063号、及び同第682027号;米国特許第5,747,498号、同第5,789,427号、同第5,650,415号、及び同第5,656,643号;並びに独国特許出願第19629652号。低分子量EGFRインヒビターの追加の非限定的な例は、Traxler, P (1998)に記載されているEGFRインヒビター及びAl-Obeidi FA et al. (2000)に記載されているもののいずれかを含む。
【0020】
幾つかの実施態様では、本発明に係るEGFRインヒビターは、ブリガチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イコチニブ、ラパチニブ、サピチニブ、バンデタニブ、バルリチニブ、アファチニブ、カネルチニブ、ダコミチニブ、ネラチニブ、オシメルチニブ、ペリチニブ、及びロシレチニブからなる群から選択される。
【0021】
幾つかの実施態様では、本発明のEGFRインヒビターは、エルロチニブ(6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)-4-キナゾリン-4-イル]-(3-エチニルフェニル)アミン)である(米国特許第5,747,498号;国際公開公報第01/34574号、及びMoyer JD. et al. (1997))。エルロチニブは、式:
【化2】
の構造を有する。
【0022】
幾つかの実施態様では、本発明のEGFRインヒビターは、ゲフィチニブ(ZD1839又はIRESSA(登録商標)としても知られている;Astrazeneca)である(Woodburn et al., 1997, Proc. Am. Assoc. Cancer Res. 38:633)。国際公開公報第96/33980号(実施例1)に開示されている化合物は、式:
【化3】
の構造を有する。
【0023】
別の実施態様では、EGFRインヒビターは、HB-EGFによるEGFR活性化を部分的に又は完全にブロックすることができる抗体又は抗体断片からなり得る。抗体ベースのEGFRインヒビターの非限定的な例は、Modjtahedi, H., et al., 1993, Br. J. Cancer 67:247-253;Teramoto, T., et al., 1996, Cancer 77:639-645;Goldstein et al., 1995, Clin.Cancer Res. 1:1311-1318; Huang, S. M., et al., 1999, Cancer Res. 15:59(8):1935-40;及びYang, X., et al., 1999, Cancer Res.59:1236-1243に記載されているものを含む。したがって、EGFRインヒビターは、モノクローナル抗体Mab E7.6.3(Yang, X. D. et al. (1999))若しくはMab C225(ATCCアクセッション番号HB-8508、米国特許第4,943,533号)、又はこれらの結合特異性を有する抗体若しくは抗体断片であってよい。好適なモノクローナル抗体EGFRインヒビターは、IMC-C225(セツキシマブ又はERBITUX(商標)としても知られている;Imclone Systems)、ABX-EGF(Abgenix)、EMD 72000(Merck KgaA、Darmstadt)、RH3(York Medical Bioscience Inc)、及びMDX-447(Medarex/Merck KgaA)を含むが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「ADAM17」又は「TACE」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、GenBankアクセッション番号NP_003174.3(ヒト)、NP_033745.4(マウス)、及びNP_064702.1(ラット)の代表的なTACE配列のいずれかと実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。TACEをコードしている好適なcDNAは、GenBankアクセッション番号NM_003183.4(ヒト)、NM_009615.5(マウス)、及びNM_020306.1(ラット)で提供されている。ADAM17インヒビターは当技術分野において周知であり、そして、典型的には、国際公開公報第2012005229号、同第0012467号、同第0012478号、同第0035885号、同第0044709号、同第0044710号、同第0044711号、同第0044713号、同第0044716号、同第0044723号、同第0044730号、同第0044740号、同第0044749号、同第0046189号、同第0046221号、同第0056704号、同第0059285号、同第0069812号、同第0069819号、同第0069821号、同第0069822号、同第0069827号、同第0069839号、同第0071514号、同第0075108号、同第0112592号、同第0122952号、同第0130360号、同第0144189号、同第0155112号、同第0160820号、同第0162733号、同第0162742号、同第0162750号、同第0162751号、同第0170673号、同第0170734号、同第0185680号、同第0187870号、同第0187883号、同第0204416号、同第0206215号、同第9005719号、同第9402447号、同第9504715号、同第9506031号、同第9633166号、同第9633167号、同第9633968号、同第9702239号、同第9718188号、同第9718207号、同第9719050号、同第9719053号、同第9720824号、同第9724117号、同第9742168号、同第9743249号、同第9743250号、同第9749674号、同第9807742号、同第9816503号、同第9816506号、同第9816514号、同第9816520号、同第9830541号、同第9830551号、同第9832748号、同第9837877号、同第9838163号、同第9838179号、同第9839326号、同第9843963号、同第9851665号、同第9855449号、同第9902510号、同第9903878号、同第9906410号、同第9918076号、同第9931052号、同第9937625号、同第9910080号、同第9942436号、同第9958531号、及び同第9961412号に記載の化合物を含む。
【0025】
幾つかの実施態様では、ADAM17インヒビターは、W-3646、Ro-32-7315、GW-3333、アプラタスタット、又は(3S)-N-ヒドロキシ-4[[4[(4-ヒドロキシブタ-2-イニル)オキシ]フェニル]スルホニル]-2,2-ジメチルチオモルホリン-3-カルボキサミド、GW-4459、CGS-33090A、DPC-333、TNF-484、WTACE2、SP-057、SL-422、FYK-1388、及びKB-R7785からなる群から選択される。また、以下のADAM17インヒビターも有利である:3-[3-[N-イソプロピル-N-(4-メトキシフェニルスルホニル)アミノ]フェニル]-3-(3-ピリジル)-2(E)-プロペノヒドロキサム酸、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-N-[(1S,2S)-2-メチル-1-[(2-ピリジニルアミノ)カルボニル]ブチル]ペンタンアミド、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-N-[(1S)-4-[[イミノ(ニトロアミノ)メチル]アミノ]-1-[(2-チアゾリルアミノ)カルボニル]ブチル]-2-(2-メチルプロピル)ヘキサンアミド、(αR,1α,4β)-α-[[(4-エトキシフェニル)スルホニル](4-ピリジニルメチル)アミノ]-N-ヒドロキシ-4-プロポキシシクロヘキサンアセトアミド、及び(αR)-N-ヒドロキシ-α,3-ジメチル-2-オキソ-3-[4-(2-メチル-4-キノリニルメトキシ)フェニル]-1-ピロリジンアセトアミド。別の例は、BMS566394を含む。
【0026】
「処置上有効な量」とは、任意の医学的処置に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比でオルムステッド症候群を処置するのに十分なEGFRインヒビターの量を意味する。本発明の化合物及び組成物の合計日用量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の被験体についての具体的な処置上有効な用量レベルは、処置される障害及び該障害の重症度;使用される具体的な化合物の活性;使用される具体的な組成物;被験体の年齢、体重、全身健康、性別、及び食生活;使用される具体的な化合物の投与時間、投与経路、及び排出速度;処置期間;使用される具体的なポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知の類似要因を含む、様々な要因に依存する。例えば、所望の処置効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルの化合物の用量で開始し、そして、該所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の技能の範囲内である。しかし、生成物の日用量は、成人1人当たり1日当たり0.01~1,000mgという広範囲にわたって変動し得る。典型的には、処置される被験体に対する投与量を症状に合わせて調整するために、組成物は剤 0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、及び500mgを含有する。医薬は、典型的には、剤 約0.01mg~約500mg、好ましくは、剤 1mg~約100mgを含有する。有効な量の薬物は、通常、1日当たり0.0002mg/kg(体重)~約20mg/kg(体重)、特に、1日当たり約0.001mg/kg(体重)~7mg/kg(体重)の投与量レベルで供給される。
【0027】
典型的には、本発明のEGFRインヒビターを、薬学的に許容し得る賦形剤及び任意で生分解性ポリマー等の徐放性マトリクスと組み合わせて、医薬組成物を形成する。用語「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」とは、必要に応じて、哺乳類、特にヒトに投与したときに副作用、アレルギー反応、又は他の有害反応が生じることのない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤とは、非毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、又は任意の種類の製剤補助剤を指す。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であってもよい。
【0028】
幾つかの実施態様では、本発明のEGFRインヒビターを外用製剤で投与することが望ましい場合がある。本明細書で使用するとき、用語「外用製剤」は、皮膚に塗布され得る製剤を指す。外用製剤は、物質の外用及び経皮の投与の両方に使用することができる。本明細書で使用するとき、「外用投与」は、処置的に活性な剤等の物質の皮膚又は被験体の身体の局所領域への送達を意味するように、その従来の意味で使用される。本明細書で使用するとき、「経皮投与」とは、皮膚を介した投与を指す。経皮投与は、活性物質の全身送達が望ましい場合に適用されることが多いが、全身吸収を最小限に抑えて皮膚の下にある組織に活性物質を送達するのにも有用である。典型的には、外用の薬学的に許容し得る担体は、本発明のEGFRインヒビターが皮膚表面に直接塗布されたときに安定かつ生物学的に利用可能なままである、医薬品の外用投与のために従来通り使用可能な任意の実質的に非毒性の担体である。例えば、皮膚のケラチン層を角質層に浸透させるのに有効な当技術分野において公知のもの等の担体が、本発明のEGFRインヒビターを関心対象の領域に送達するのに有用であり得る。このような担体は、リポソームを含む。本発明のEGFRインヒビターは、従来の方法で媒体中に分散又は乳化させて液体調製物を形成することもでき、半固体(ゲル)又は固体の担体と混合してペースト、粉末、軟膏、クリーム、ローション等を形成することもできる。好適な外用の薬学的に許容し得る担体は、水、緩衝生理食塩水、石油ゼリー(ワセリン)、ペトロラタム、鉱油、植物油、動物油、有機及び無機のワックス、例えば、微結晶、パラフィン、及びオゾケライトのワックス、天然ポリマー、例えば、キサンタン、ゼラチン、セルロース、コラーゲン、デンプン、又はアラビアガム、合成ポリマー、アルコール、ポリオール等を含む。担体は、水混和性担体組成物であってもよい。このような水混和性の外用の薬学的に許容し得る担体組成物は、処置の開始時に1つ以上の適切な成分を用いて作製されるものを含み得る。外用の許容し得る担体は、本発明のEGFRインヒビターが皮膚表面に直接塗布されたときに安定かつ生物学的に利用可能なままである、外用投与のために従来通り使用可能な任意の実質的に非毒性の担体である。好適な美容的に許容し得る担体は、当業者に公知であり、そして、美容的に許容し得る液体、クリーム、オイル、ローション、軟膏、ゲル、又は固形物、例えば、従来の美容ナイトクリーム、ファンデーションクリーム、日焼けローション、日焼け止め、ハンドローション、メイクアップ及びメイクアップベース、マスク等を含むが、これらに限定されない。当技術分野において公知の通り患者に外用投与するのに有効な任意の好適な担体又はビヒクル、例えば、クリームベース、クリーム、リニメント、ゲル、ローション、軟膏、フォーム、溶液、懸濁液、エマルション、ペースト、水性混合物、スプレー、エアロゾル化された混合物、Crisco(登録商標)等のオイル、軟石鹸、並びに皮膚又は粘膜等のヒト及び/又は動物の体表面への外用投与に薬学的に好適な任意の他の調製物を使用することができる。外用の許容し得る担体は、上述の外用の薬学的に許容し得る担体と類似又は同一の性質を有していてよい。本発明のEGFRインヒビターの皮膚への接触時間を長くするために、本発明のEGFRインヒビターの皮膚への放出を制御し、そして、長時間にわたって皮膚に付着する又は皮膚上でそれ自体を維持する送達系を有することが望ましい場合がある。本発明のEGFRインヒビターの持続又は遅延の放出は、本発明のEGFRインヒビターの投与頻度を低下させる及び/又は投与量を減少させる、より効率的な投与を提供し、そして、より良好な患者コンプライアンスを提供する。湿潤環境における持続又は遅延の放出に好適な担体の例は、ゼラチン、アラビアガム、キサンタンポリマーを含む。処置される領域における任意の油性、脂肪性、ろう質、又は湿潤の環境に曝露された際に本発明のEGFRインヒビターを放出することができる医薬担体は、熱可塑性若しくは可撓性熱硬化性の樹脂、又は熱可塑性樹脂を含むエラストマー、例えばポリハロゲン化ビニル、ポリビニルエステル、ポリハロゲン化ビニリデン、及びハロゲン化ポリオレフィン、エラストマー、例えばブラシリエンシス(brasiliensis)、ポリジエン、並びにハロゲン化された天然及び合成のゴム、並びに可撓性熱硬化性樹脂、例えばポリウレタン、エポキシ樹脂等を含む。制御された送達システムは、例えば、米国特許第5,427,778号に記載されており、これは、本発明のEGFRインヒビターを皮膚部位に送達するためのゲル製剤および粘性溶液を提供する。ゲルは、皮膚の潤いを保つために高含水量を有する、皮膚の滲出液を吸収する能力を有する、塗布が容易である、及び洗浄によって容易に取り除けるという利点を有する。好ましくは、徐放性又は遅延放出性の担体は、ゲル、リポソーム、マイクロスポンジ、又はミクロスフィアである。本発明のEGFRインヒビターは、抗生物質、他の皮膚治癒剤、及び抗酸化剤を含むがこれらに限定されない、他の薬学的に有効な剤と組み合わせて投与することもできる。幾つかの実施態様では、本発明の外用製剤は、浸透促進剤を含む。本明細書で使用するとき、「浸透促進剤」とは、活性剤(例えば、薬物)等の分子の皮膚への又は皮膚を介した輸送を改善する剤を指す。皮膚内又は皮下のいずれかの体内の異なる部位で様々な病態が発生し得るので、化合物の送達を標的とする必要性が生じる。したがって、「浸透促進剤」を使用して、活性剤の皮膚若しくはその下の組織への直接的な送達、又は全身分布を介した疾患若しくはその症状の部位への間接的な送達を支援することができる。浸透促進剤は、純粋な物質であってもよく、異なる化学実体の混合物を含んでいてもよい。
【0029】
以下の図面及び実施例によって本発明を更に説明する。しかし、これら実施例及び図面は、いかなる手段によっても、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0030】
実施例:
オルムステッド(OS)症候群は、過角化症の部位における激痛のような追加の特徴を随伴する、主に掌蹠角化症(PPK)を特徴とする不均一な遺伝性皮膚症である。2012年以降、TRPV3(一過性受容器電位バニロイド-3)遺伝子の機能獲得型変異がOSの原因として報告されている(Wilson, Neil J., et al."Expanding the phenotypic spectrum of Olmsted syndrome."The Journal of investigative dermatology 135.11 (2015): 2879.)。TRPV3変異と臨床症状との関連性は確立されていなかったが、Chengらの研究(Cheng, Xiping, et al."TRP channel regulates EGFR signaling in hair morphogenesis and skin barrier formation."Cell 141.2 (2010): 331-343.)では、Ca2+透過性の非選択的カチオンチャネルとして動作するTRPV3シグナル伝達が、マウス及びヒトのケラチノサイトにおいてEGFRのトランス活性化によって媒介され、そして、ポジティブフィードバックによって増幅されることが実証された。この発見のヒントは、TGF-α及びEGFRの低次形態変異に起因することが既に示されているwaved-1及びwaved-2変異体に類似するカールしたひげ及びパーマヘアの表現型を示す非条件的な又はケラチノサイトを標的とするTRPV3ノックアウトマウスの表現型であった(Schneider, Marlon R., et al."Beyond wavy hairs: the epidermal growth factor receptor and its ligands in skin biology and pathology."The American journal of pathology 173.1 (2008): 14-24.)。皮膚生物学におけるEGFRの役割は複雑であるが、EGFR及びTGF-αトランスジェニックマウスで観察される表現型は、EGFRがケラチノサイトの増殖及び分化、そして、より一般的には皮膚の恒常性において重要な役割を果たしていることを示す(Schneider, Marlon R., et al."Beyond wavy hairs: the epidermal growth factor receptor and its ligands in skin biology and pathology."The American journal of pathology 173.1 (2008): 14-24.)。実際、OS患者の皮膚生検の病理学的検査では、EGFRが基底上細胞のトランスグルタミナーゼを刺激する役割と一致して、全ての表皮細胞コンパートメントが増幅され、そして、角質層が厚くなると共にEGFRの発現が拡大していることが示された。このことから、本発明者らは、既に臨床症状及びTRPV3変異が報告されている3名のOS患者の処置のために、TRPV3の構成的活性化によって開始される悪循環を断ち切ることを目的として、EGFRインヒビターエルロチニブの使用を提案した。
【0031】
患者1及び2は、p.Gly568Cys及びp.Gln216_Gly262delの劣性変異を有する18歳及び15歳の2人の兄弟の患者であり(Duchatelet, Sabine, et al. "Olmsted syndrome with erythromelalgia caused by recessive transient receptor potential vanilloid 3 mutations." British Journal of Dermatology 171.3 (2014): 675-678)、そして、患者3(Duchatelet, Sabine, et al. "A new TRPV3 missense mutation in a patient with Olmsted syndrome and erythromelalgia." JAMA dermatology 150.3 (2014): 303-306.)は、優性ヘテロ接合性ミスセンス変異p.Leu673Pheを有する14歳の少女である。患者1及び3は、鎮痛剤に対して抵抗性のある紅痛症状を伴う重度の非対称性PPK(患者1は足底のみ)を有しており、そして、症状を軽減するために、氷を当てる、冷水に足を長時間浸ける等の冷却法を使用しており、その結果、潰瘍化を伴う浸漬傷害及び皮膚の浸軟による感染症が生じていた。皮膚症状と進行性の足の変形との組み合わせにより、患者は3歳から車椅子に拘束されていた。患者2は、重症度の低い紅痛症を伴う軽度のPPKを有していた。
【0032】
体重及び身長に応じて、エルロチニブを患者1及び2では100mg、そして、患者3では50mgで開始した。腹痛及び吐き気のため、患者2では直ちに50mgに減量した。血漿濃度、耐容性、及び効率に関連して、30日目及び60日目に投与量を調整した。患者1及び2では数日以内に、そして患者3ではそれ以降に急速な疼痛の軽減が観察され、3ヶ月後には完全に消失し、自発的に鎮痛薬もやめられた。角皮症は徐々に消失し、そして、患者2では30日目、患者1及び3では90日目に後退が完了した。過角化症の領域に関連する疼痛緩和は、異常なケラチノサイトによって分泌されるメディエーターが、皮膚に存在する侵害ニューロン受容体をトリガーする可能性があることを示唆しているが、その性質はまだ特定されていない。エルロチニブの唯一の持続性副作用は、患者1における中等度の挫瘡反応であった。
【0033】
患者は、エルロチニブ処置を継続的に維持しなければならないが、特に小児の発育における長期的な作用はよく分かっていないため、寛解状態を維持する最低用量でならないことが予想される。異常なケラチノサイトの生物学的特性は、通常侵襲的な成長特性並びにDNA修復及びアポトーシスの欠陥を細胞に与える変異の蓄積に起因する悪性細胞の生物学的特性とは異なるので、腫瘍学で観察される処置に対する抵抗性は、これら患者では生じないと予測される。
【0034】
結論として、3名の患者の劇的な改善は、エルロチニブがOSの第1の効率的な処置法であることを示し、そして、EGFRシグナル伝達がTRPV3の機能獲得型変異に起因する症状の主要なメディエーターであるという仮説を裏付けるものである。
【0035】
参照文献:
本願全体を通して、様々な参照文献によって、本発明が関連する技術分野の状況を説明している。これら参照文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】