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特表2022-512613間葉系間質細胞を拡大するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】間葉系間質細胞を拡大するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/51 20150101AFI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 9/48 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K35/51
A61P29/00
A61K45/00
A61P37/02
A61P37/06
A61P9/10
A61P9/00
A61P11/00
A61P1/04
A61K39/395 U
A61K38/19
A61K38/20
C12N5/077
C12N9/26
C12N9/48
C12N9/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518730
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(85)【翻訳文提出日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 US2019054901
(87)【国際公開番号】W WO2020073029
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】62/741,933
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュポール、エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、カタユン
(72)【発明者】
【氏名】メント、マイエラ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B050LL10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD39
4B065BD44
4B065CA44
4C084AA19
4C084DA01
4C084DA12
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB59
4C087BB64
4C087MA56
4C087MA57
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA68
4C087ZB07
4C087ZB09
4C087ZB11
(57)【要約】
【課題】 間葉系間質細胞(MSC)の集団の拡大とその使用が提供される。
【解決手段】 間葉系間質細胞(MSC)の集団を拡大するための方法が本明細書中に提供され、その方法は、臍帯組織に由来するMSCの集団をプレ活性化サイトカインカクテルで処理する工程を含む。それらのMSCで免疫障害を処置する方法がさらに本明細書中に提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯組織由来の間葉系間質細胞(MSC)を拡大するための方法であって、
(a)臍帯組織からMSCの集団を取得する工程;
(b)前記MSCを、TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17からなる群より選択される少なくとも3つのサイトカインの存在下においてプレ活性化する工程;および
(c)拡大されたMSCの集団を取得するために、前記プレ活性化されたMSCを拡大する工程
を含む、方法。
【請求項2】
臍帯組織由来の前記MSCの集団が、予め凍結保存されている集団である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取得工程が、前記臍帯組織を酵素カクテルで処理する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素カクテルが、ヒアルロニダーゼおよびコラゲナーゼを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コラゲナーゼが、コラゲナーゼNB4/6である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素カクテルが、DNAseをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒアルロニダーゼが、0.5~1.5U/mLの濃度である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒアルロニダーゼが、1U/mLの濃度である、請求項4~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記コラゲナーゼが、0.1~1U/mLの濃度である、請求項4~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記コラゲナーゼが、0.5U/mLの濃度である、請求項4~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記DNAseが、200~300U/mLの濃度である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記DNAseが、250U/mLの濃度である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記MSCが、プレ活性化の前に少なくとも85%の培養密度まで培養される、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記MSCが、プレ活性化の前に6~8日間培養される、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
少なくとも5億個のMSCが、プレ活性化の前に取得される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記プレ活性化工程が、12~24時間である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記プレ活性化工程が、16時間である、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記MSCが、TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17の存在下においてプレ活性化される、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
TNFα、IFNγおよび/またはIL-1βが、5~15ng/mLの濃度である、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
TNFα、IFNγおよび/またはIL-1βが、10ng/mLの濃度である、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記IL-17が、20~40ng/mLの濃度で存在する、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記IL-17が、30ng/mLの濃度で存在する、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記拡大工程が、機能的閉鎖系において行われる、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記機能的閉鎖系が、バイオリアクターである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記バイオリアクターが、中空繊維バイオリアクターである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
拡大工程が、7日未満にわたって行われる、請求項1~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
拡大工程が、5~6日間行われる、請求項1~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記MSCが、少なくとも50倍拡大される、請求項1~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記MSCが、少なくとも70倍拡大される、請求項1~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記MSCが、28時間未満の倍加時間を有する、請求項1~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記拡大されたMSCの集団が、骨髄MSCよりも高い免疫抑制性の表現型を有する、請求項1~30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記拡大されたMSCの集団が、サイトカインによるプレ活性化なしで拡大された臍帯組織由来のMSCよりも高い免疫抑制性の表現型を有する、請求項1~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記免疫抑制性の表現型が、抗アポトーシス因子、抗炎症因子、免疫調節因子および/または化学誘引ホーミング因子の発現によって測定される、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
抗アポトーシス因子が、VGEFおよび/またはTGFβである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗炎症因子が、TSG-6である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記化学誘引ホーミング因子が、CXCR4およびCXCR3である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記免疫調節性因子が、PD-L1、IDO、PGE2、IL-10およびTGFβからなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記拡大されたMSCの集団が、骨髄由来のMSCと比べて、幹細胞性マーカーおよび/またはケモカインレセプターの高発現を有する、請求項1~37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記幹細胞性マーカーが、Nestin、Stro-1、Oct-4、NanogおよびCox-2からなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ケモカインレセプターが、VEGF、HLA-G、PGE、CXCR4、IL-10およびTGFβからなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記拡大されたMSCの集団が、骨髄由来のMSCと比べて、接着および侵入に関係する遺伝子の高発現を有する、請求項1~40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記接着および侵入に関係する遺伝子が、GLG1、VCAM1、CXCR4、ICAM1、CSF3、CXCL3、CXCL8、SELPG、STAT1、IFITT3、ISG15、STAT2、MX1、OAS1、IFI6、JAK2、TAP1、IFI35、IFITM1、PSM89、IRF1、IFITM3、PTPN2、RELA、IFNAR2、HSP90AA1、JUN、ARNT、HIF1およびCUL2からなる群より選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記方法が、GMP準拠である、請求項1~42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記拡大されたMSCを凍結保存する工程をさらに含む、請求項1~43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびDNaseを含む、臍帯組織を解離するための組成物。
【請求項46】
前記組成物が、MSCを単離するために臍帯組織を解離する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物が、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびDNaseからなる、請求項45または46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が、BSAまたはトリプシン阻害剤を含まない、請求項45~47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記コラゲナーゼが、コラゲナーゼNB4/6である、請求項45~48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記ヒアルロニダーゼが、0.5~1.5U/mLの濃度である、請求項45~49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記ヒアルロニダーゼが、1U/mLの濃度である、請求項45~50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記コラゲナーゼが、0.1~1U/mLの濃度である、請求項45~51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記コラゲナーゼが、0.5U/mLの濃度である、請求項45~52のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記DNAseが、200~300U/mLの濃度である、請求項45~54のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記DNAseが、250U/mLの濃度である、請求項45~54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
請求項1~44のいずれか1項に記載の方法によって作製された拡大されたMSCおよび薬学的に許容され得るキャリアを含む、薬学的組成物。
【請求項57】
炎症性疾患の処置における本発明者らのための、請求項56に記載の組成物。
【請求項58】
被験体における炎症性疾患を処置する方法であって、前記方法は、治療有効量の臍帯組織由来MSCを前記被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項59】
前記被験体が、ヒトである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記臍帯組織由来MSCが、請求項1~44のいずれか1項に従って作製される、請求項58または59に記載の方法。
【請求項61】
前記臍帯組織由来MSCが、予め凍結保存されている、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記炎症性疾患が、移植片対宿主病(GVHD)、自己免疫疾患、急性虚血性脳卒中、心筋損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または炎症性腸疾患である、請求項58~60のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記MSCが、同種異系である、請求項58~62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記MSCが、全身投与または局所投与される、請求項58~63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
前記MSCが、直腸、鼻、頬側、膣、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、病巣内もしくは頭蓋内の経路を介してまたは埋め込みレザバーを介して投与される、請求項58~64のいずれかに記載の方法。
【請求項66】
前記MSCが、少なくとも1つのさらなる治療薬とともに投与される、請求項58~65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記少なくとも1つのさらなる治療薬が、治療有効量の免疫調節剤または免疫抑制剤である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記免疫抑制剤が、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、抗体、化学療法剤照射、ケモカイン、インターロイキン、またはケモカインもしくはインターロイキンの阻害剤である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
炎症性障害を処置するための、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法によって作製された治療有効量の拡大されたMSCの使用。
【請求項70】
前記炎症性疾患が、移植片対宿主病(GVHD)、自己免疫疾患、急性虚血性脳卒中、心筋損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または炎症性腸疾患である、請求項69に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年10月5日出願の米国特許仮出願第62/741,933号の利益を主張する。この仮出願の全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
背景
1.分野
本発明は、概して、医学および免疫学の分野に関する。より詳細には、本発明は、間葉系間質細胞の拡大およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
過去10年間にわたって、骨髄由来間葉系間質細胞(BM-MSC)が、移植片対宿主病、虚血性/非虚血性循環器疾患、虚血性脳卒中をはじめとした種々の臨床状況において、および遺伝子送達媒体として、治療に使用されてきた。BM-MSCの限界としては、ドナーの年齢が上がるにつれてその細胞の数および分化能が低下すること、BM-MSC産物の品質が一定しないこと、ならびに必要なBM吸引手技が侵襲性であることが挙げられる。正常な乳児の誕生後、臍帯血組織(CBt)は通常、廃棄されるので、この出発物質の収集は、非侵襲性である。CBt-MSCは、BM-MSCよりも速くかつ多い数に拡大でき、類似の免疫抑制特性を有する。したがって、臨床で使用するために多数のCBt-MSCを作製するGMP準拠の手順を開発する必要性がまだ満たされていない。
【発明の概要】
【0004】
要旨
第1の実施形態において、本開示は、CBt由来のMSCを拡大するための方法を提供し、その方法は、臍帯組織からMSCの集団を取得する工程;TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17からなる群より選択される少なくとも3つのサイトカインの存在下においてそれらのMSCをプレ活性化する工程;および拡大されたMSCの集団を取得するために、そのプレ活性化されたMSCを拡大する工程を含む。特定の態様において、この方法は、GMP準拠である。いくつかの態様において、臍帯組織由来のMSCの集団は、予め凍結保存されているか、または新鮮なもしくは予め凍結保存された臍帯組織に由来する。
【0005】
いくつかの態様において、上記取得工程は、臍帯組織を酵素カクテルで処理する工程を含む。その酵素カクテルは、ヒアルロニダーゼおよびコラゲナーゼを含み得る。ある特定の態様において、コラゲナーゼは、コラゲナーゼNB4/6である。さらなる態様において、酵素カクテルは、DNAseをさらに含む。ヒアルロニダーゼは、0.5~1.5U/mLの濃度、例えば、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4または1.5U/mLであり得る。いくつかの態様において、コラゲナーゼは、0.1~1U/mLの濃度、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1U/mLである。ある特定の態様において、DNAseは、200~300U/mLの濃度、例えば、200、225、250、275または300U/mLである。
【0006】
上記MSCは、プレ活性化の前に、少なくとも85%の培養密度、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の培養密度まで培養され得る。いくつかの態様において、上記MSCは、プレ活性化の前に6~8日間、例えば、6、7または8日間培養される。ある特定の態様において、少なくとも5億個、例えば、6億、7億、8億、9億または10億個のMSCが、プレ活性化の前に取得される。プレ活性化は、12~24時間、例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間であり得る。
【0007】
ある特定の態様において、上記MSCは、TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17の存在下においてプレ活性化される。いくつかの態様において、TNFα、IFNγおよび/またはIL-1βは、5~15ng/mLの濃度、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ng/mLまたはそれを超える。ある特定の態様において、IL-17は、20~40ng/mLの濃度、例えば、20、25、30、35、40ng/mLまたはそれを超える濃度で存在する。
【0008】
いくつかの態様において、上記拡大は、バイオリアクターなどの機能的閉鎖系において行われる。例えば、バイオリアクターは、中空繊維バイオリアクターである。ある特定の態様において、拡大は、7日未満、例えば、6、5または4日間行われる。上記MSCは、少なくとも50倍、例えば、少なくとも55、60、65、70、75、80倍またはそれを超えて拡大され得る。いくつかの態様において、上記MSCは、28時間未満、例えば、27、26、25または24時間の倍加時間を有する。いくつかの態様において、上記方法は、拡大されたMSCを凍結保存する工程をさらに含む。
【0009】
ある特定の態様において、拡大されたMSCの集団は、骨髄MSCよりも高い免疫抑制性の表現型を有する。いくつかの態様において、拡大されたMSCの集団は、サイトカインによるプレ活性化なしで拡大されたCBt由来MSCよりも高い免疫抑制性の表現型を有する。特定の態様において、その免疫抑制性の表現型は、抗アポトーシス因子(例えば、VGEFおよび/またはTGFβ)、抗炎症因子(例えば、TSG-6)、免疫調節因子および/または化学誘引ホーミング因子(例えば、CXCR4およびCXCR3)の発現によって測定される。いくつかの態様において、免疫調節因子は、PD-L1、IDO、PGE2、IL-10およびTGFβからなる群より選択される。具体的な態様において、拡大されたMSCの集団は、BM-MSCと比べて、幹細胞性マーカーおよび/またはケモカインレセプターの高発現を有する。例示的な幹細胞性マーカーとしては、Nestin、Stro-1、Oct-4、NanogおよびCox-2が挙げられ、ケモカインレセプターとしては、VEGF、HLA-G、PGE、CXCR4、IL-10およびTGFβが挙げられる。いくつかの態様において、拡大されたMSCの集団は、いくつかの免疫制御経路、例えば、T細胞疲弊、顆粒球の接着および血管外遊出、抗原提示経路、免疫応答の負の制御、Notchシグナル伝達の正の制御、リンパ球アポトーシスプロセスの正の制御、無顆粒白血球の接着および血管外遊出、低酸素に対する細胞応答の制御、TGFβシグナル伝達、NFKβシグナル伝達、IL-6シグナル伝達、iNosおよびeNosシグナル伝達1、STAT4およびPI3Kシグナル伝達の正の制御、ならびにT細胞アポトーシスの誘導に関連する遺伝子の発現を誘導した。ある特定の態様において、拡大されたMSCの集団は、接着および侵入に関係するホーミングレセプターおよび重要な接着分子をはじめとした、血管外遊出およびホーミングに関係する遺伝子の高発現を有する。例示的な接着マーカーおよび侵入マーカーとしては、GLG1、VCAM1、CXCR4、ICAM1、CSF3、CXCL3、CXCL8、SELPG、STAT1、IFITT3、ISG15、STAT2、MX1、OAS1、IFI6、JAK2、TAP1、IFI35、IFITM1、PSM89、IRF1、IFITM3、PTPN2、RELA、IFNAR2、HSP90AA1、JUN、ARNT、HIF1およびCUL2が挙げられる。
【0010】
本開示はさらに、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびDNaseを含む、臍帯組織を解離するための組成物を提供する。いくつかの態様において、その組成物は、MSCを単離するために臍帯組織を解離する。ある特定の態様において、その組成物は、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびDNaseからなる。特定の態様において、その組成物は、BSAもしくはトリプシン阻害剤を含まないか、またはBSAもしくはトリプシン阻害剤を本質的に有しない。例えば、コラゲナーゼは、コラゲナーゼNB4/6である。ヒアルロニダーゼは、0.5~1.5U/mL、例えば、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4または1.5U/mLの濃度であり得る。いくつかの態様において、コラゲナーゼは、0.1~1U/mLの濃度、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1U/mLである。ある特定の態様において、DNAseは、200~300U/mLの濃度、例えば、200、225、250、275または300U/mLである。いくつかの態様において、CBt由来のMSCは、予め凍結保存されている。
【0011】
さらなる実施形態は、上記実施形態の方法によって作製された拡大されたMSCおよび薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物を提供する。炎症性障害の処置において使用するための上記実施形態の方法によって作製された拡大されたMSCを含む組成物が、さらに本明細書中に提供される。いくつかの態様において、その炎症性疾患は、移植片対宿主病(GVHD)、自己免疫疾患、急性虚血性脳卒中、心筋損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または炎症性腸疾患である。特定の態様において、それらのMSCは、同種異系である。それらのMSCは、全身投与または局所投与され得る。
【0012】
別の実施形態において、被験体における炎症性疾患を処置する方法が提供され、その方法は、治療有効量のCBt由来MSC、例えば、本実施形態に従って作製されたCBt-MSCを前記被験体に投与する工程を含む。特定の態様において、被験体は、ヒトである。いくつかの態様において、CBt由来のMSCは、予め凍結保存されている。
【0013】
いくつかの態様において、炎症性疾患は、GVHD、自己免疫疾患、急性虚血性脳卒中、心筋損傷、ARDSまたは炎症性腸疾患である。特定の態様において、MSCは、同種異系である。MSCは、全身投与または局所投与され得る。例えば、MSCは、直腸、鼻、頬側、膣、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、病巣内もしくは頭蓋内の経路を介してまたは埋め込みレザバーを介して投与される。さらなる態様において、MSCは、少なくとも1つのさらなる治療薬とともに投与される。いくつかの態様において、少なくとも1つのさらなる治療薬は、治療有効量の免疫調節剤または免疫抑制剤である。特定の態様において、免疫抑制剤は、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、抗体、化学療法剤照射、ケモカイン、インターロイキン、またはケモカインもしくはインターロイキンの阻害剤である。
【0014】
さらなる実施形態は、炎症性障害を処置するための、治療有効量のCBt由来MSC(例えば、本実施形態に従って作製されたCBt-MSC)の使用を提供する。いくつかの態様において、CBt由来MSCは、予め凍結保存されている。いくつかの態様において、炎症性疾患は、GVHD、自己免疫疾患、急性虚血性脳卒中、心筋損傷、ARDSまたは炎症性腸疾患である。特定の態様において、MSCは、同種異系である。MSCは、全身投与または局所投与され得る。例えば、MSCは、直腸、鼻、頬側、膣、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、病巣内もしくは頭蓋内の経路を介してまたは埋め込みレザバーを介して投与される。さらなる態様において、MSCは、少なくとも1つのさらなる治療薬とともに投与される。いくつかの態様において、少なくとも1つのさらなる治療薬は、治療有効量の免疫調節剤または免疫抑制剤である。特定の態様において、免疫抑制剤は、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、抗体、化学療法剤照射、ケモカイン、インターロイキン、またはケモカインもしくはインターロイキンの阻害剤である。
【0015】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、この詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および改変が明らかになるので、その詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、単に例証として与えられることが理解されるべきである。
【0016】
以下の図面は、本明細書の一部を成し、本開示のある特定の態様をさらに実証するために含められる。本開示は、本明細書中に提示される具体的な実施形態の詳細な説明とともに、これらの図面の1つ以上を参照することによってよりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】臍帯組織からMSCを単離および拡大するためのGMP準拠プロトコルを示している概略図。
【0018】
図2】バイオリアクターを用いて、臍帯組織由来のプレ活性化されたMSCを拡大および作製するためのGMP準拠プロトコルを示している概略図。
【0019】
図3】テルモバイオリアクターにおける骨髄および臍帯組織からのMSCの大規模拡大のデータ。
【0020】
図4】臍帯組織由来のMSCが、骨髄由来のMSCより高レベルの幹細胞性マーカーを発現していることを示しているフローサイトメトリー解析。
【0021】
図5A】プレ活性化されたCBt-MSCは、T細胞の増殖および活性化に対して未処置CBt-MSCよりも高い抑制効果を示す。未処置MSCと対比した、プレ活性化MSCによって媒介されるCD4T細胞増殖の抑制。
図5B】プレ活性化されたCBt-MSCは、T細胞の増殖および活性化に対して未処置CBt-MSCよりも高い抑制効果を示す。未処置MSCと対比した、プレ活性化MSCによって媒介されるCD4+T細胞活性化の抑制。
【0022】
図6A】CBt-MSCのプレ活性化は、それらの免疫抑制性の治療能力を向上させる。プレ活性化されたCBt-MSCは、プレ活性化された骨髄MSCよりも高い免疫抑制性の表現型を示す。
図6B】CBt-MSCのプレ活性化は、それらの免疫抑制性の治療能力を向上させる。MSCのプレ活性化は、免疫制御性分子TGS-6の分泌を増加させる。
図6C】CBt-MSCのプレ活性化は、それらの免疫抑制性の治療能力を向上させる。CBt-MSCのプレ活性化は、それらの表面上の免疫調節性分子の発現を誘導し、それらの治療効果を最大にする。
【0023】
図7】サイトカイン(TNF、IFN、IL1およびIL-17)の本カクテルによるCBt-MSCのプレ活性化が、市販の調製物よりも高い治療効果を有する。
【0024】
図8A】新鮮なCBt由来MSCは、異種移植片対宿主病(GVHD)マウスモデルにおいて生存時間を延長した。GVHDコントロールと比べて、新鮮なBM由来MSCまたはCBT由来MSCを投与されたマウスの全生存時間の有意な延長が示されている。
図8B】新鮮なCBt由来MSCは、異種移植片対宿主病(GVHD)マウスモデルにおいて生存時間を延長した。GVHDコントロールと比べて、(BM-またはCBT-MSCで)処置されたマウスの肝臓、脾臓および結腸のGVHD徴候のわずかな低減を実証している病理組織学的サンプル。
図8C】新鮮なCBt由来MSCは、異種移植片対宿主病(GVHD)マウスモデルにおいて生存時間を延長した。尾静脈を介してマウスに注入されたDiR免疫蛍光標識MSCを用いた短期間の体内分布実験。CBt-MSCは、BM-MSCと比べて72時間にわたって有意な残留性の改善を示した。
【0025】
図9A】CBt-MSCの活性化は、より高い免疫抑制特性を有するユニークなプロファイルを明らかにした。休止MSCと活性化MSCとの間で差次的に発現された遺伝子のヒートマップは、休止CBt-MSCと比べて、活性化CBt-MSCにおいて、816個の遺伝子のアップレギュレーションおよび383個の遺伝子のダウンレギュレーションを示した。
図9B】CBt-MSCの活性化は、より高い免疫抑制特性を有するユニークなプロファイルを明らかにした。休止CBt-MSCおよび活性化CBt-MSCに対して評価された遺伝子のIngenuity Pathway Analysis(IPA)は、細胞の活性化が、いくつかの免疫制御経路(例えば、T細胞疲弊、免疫応答の負の制御、IL-6シグナル伝達およびT細胞アポトーシスの誘導)に関連する遺伝子の発現を誘導したことを明らかにした。
【0026】
図10A】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。活性化CBt-MSCおよび休止CBt-MSCから抽出されたRNAにおいて行われたIPA解析のヒートマップは、活性化CBtMSCにおける接着および侵入に関係するホーミングレセプターおよび重要な接着分子をはじめとした、血管外遊出およびホーミングと関係するいくつかの遺伝子の活性化を明らかにした。
図10B】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。フローサイトメトリーによって評価された、活性化CBT MSCおよび休止MSCにおけるホーミングレセプター、接着分子および侵入タンパク質(メタロプロテイナーゼ)のヒートマップ。
図10C】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。72時間の蛍光解析の後、活性化CBT-MSCが、コントロールCBt-MSCよりも長く、最大3日間マウスに残留したことが観察された。
図10D】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。72時間の蛍光解析の後、活性化CBT-MSCが、コントロールCBt-MSCよりも長く、最大3日間マウスに残留したことが観察された。
図10E】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。注射の3時間後、48時間後および72時間後にマウス組織を回収し、平均放射効率を組織別に計算した。肺については図10F、肝臓については図10Gおよび脾臓については図10Hに示されているように、コントロールMSC群と比べて活性化CBt-MSC群では、蛍光レベルがより高い傾向が示された。
図10F】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。注射の3時間後、48時間後および72時間後にマウス組織を回収し、平均放射効率を組織別に計算した。肺については図10F、肝臓については図10Gおよび脾臓については図10Hに示されているように、コントロールMSC群と比べて活性化CBt-MSC群では、蛍光レベルがより高い傾向が示された。
図10G】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。注射の3時間後、48時間後および72時間後にマウス組織を回収し、平均放射効率を組織別に計算した。肺については図10F、肝臓については図10Gおよび脾臓については図10Hに示されているように、コントロールMSC群と比べて活性化CBt-MSC群では、蛍光レベルがより高い傾向が示された。
図10H】活性化は、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布を高めた。注射の3時間後、48時間後および72時間後にマウス組織を回収し、平均放射効率を組織別に計算した。肺については図10F、肝臓については図10Gおよび脾臓については図10Hに示されているように、コントロールMSC群と比べて活性化CBt-MSC群では、蛍光レベルがより高い傾向が示された。
【0027】
図11A】凍結保存された活性化CBt-MSCは、新鮮な活性化CBt-MSCと比べて、類似の生存能、表現型、およびT細胞活性化制御の有効性を示した。アネキシンVおよびヨウ化プロピジウムアッセイを用いたフローサイトメトリーによって測定されたCBt-MSCの生存能に関する代表的なFACSプロット。
図11B】凍結保存された活性化CBt-MSCは、新鮮な活性化CBt-MSCと比べて、類似の生存能、表現型、およびT細胞活性化制御の有効性を示した。すべての異なる比において、CD3/CD28ビーズで活性化されたT細胞の全体的な抑制を示している、T細胞増殖CFSEアッセイの代表的なヒストグラム。
図11C】凍結保存された活性化CBt-MSCは、新鮮な活性化CBt-MSCと比べて、類似の生存能、表現型、およびT細胞活性化制御の有効性を示した。免疫抑制因子の発現の持続性を示している、新鮮なまたは凍結/解凍された細胞を用いたときの活性化MSCの表現型の代表的なFACSプロット。
【0028】
図12A】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。図12Aは、マウス群を用いたインビボ実験を要約している(1群につきn=8匹のマウス)。未処置(GVHDコントロール)、非活性化CBt-MSCのレシピエント、およびレシピエント活性化CBt-MSCの生存曲線。このデータは、非活性化MSCまたはコントロールと比べたときの、活性化CBT-MSCのレシピエントに対する延命効果を示している。
図12B】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。図12Bは、マウス群を用いたインビボ実験を要約している(1群につきn=8匹のマウス)。他の2群に対して活性化CBt-MSCのレシピエントの体重減少が小さいことを示している体重変動率。
図12C】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。図12Cは、マウス群を用いたインビボ実験を要約している(1群につきn=8匹のマウス)。活性化CBT-MSC群のGVHDがより低いことを再度示している平均GVHDスコア。
図12D】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。終了時点におけるマウスの3群間で比較した門脈肝臓炎症。
図12E】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。未処置マウス(コントロール)、休止CBt-MSCで処置されたマウスおよび活性化(活性化された)MSCで処置されたマウスの血液学的検査の比較。これらの血液検査には、WBC数、MCV、MCHC、ヘマトクリット、ヘモグロビン、血小板数、RBC数、MCH、RDW、アルブミン、アルカリホスファターゼ、カリウム、LDH、AST、グルコース、ALT、リン、総タンパク質が含まれる。結果は、コントロール群または非活性化MSC群と比べて、活性化MSCで処置された群における血小板数、グルコース、WBC数および肝機能(ALT、AST)の改善を示している。
図12F】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。活性化CBt-MSCと非活性化CBt-MSCの両方が、コントロールマウスと比べて炎症性サイトカインの存在を減少させたことを明らかにしている、マウスの血液中のサイトカインレベルの結果。
図12G】凍結保存された活性化CBt-MSCは、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減した。24日目のマウスの血液中のヒトCD45のパーセンテージ。左のパネルは、各群の代表的なFACSプロットを示しており、右のパネルは、コントロール群(未処置)と比較した統計比較を伴うバープロットを示しており、**p値<0.01、****p値<0.0001は、両方のMSCレシピエント群の血液中のヒトCD45細胞がより少ないことを示しており、活性化MSCが、非活性化MSCレシピエントよりも少ないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
例証的な実施形態の説明
骨髄由来のMSCは、長年、難治性の移植片対宿主病(GVHD)を処置するために使用されており、より最近では、虚血性脳卒中、循環器疾患、炎症性腸疾患および急性呼吸窮迫症候群をはじめとした再生医学の状況において使用されている。胎盤静脈からの臍帯血が大規模に評価されたが、骨髄と比べてMSCの生成が全く一定せず、不十分であり、MSCの起源としては最適には及ばない。したがって、本開示のある特定の実施形態は、臍帯組織に由来するMSCを拡大するための方法を提供する。本方法は、バイオリアクター内で大量のCBt由来MSCを作製するための、優良製造規範(good manufacturing practice)(GMP)準拠の頑強な方法を提供する。
【0030】
特に、MSCを拡大するための本方法は、プレ活性化なしで作製されたものよりも有意に抑制性であるCBt由来MSCを作製するプレ活性化工程を含み得る。プレ活性化工程は、MSCをサイトカイン、例えば、TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17の存在下において培養する工程を含み得る。したがって、本方法は、新規のGMP準拠システムを用いて、より短い時間でCBt由来MSCをBM由来MSCよりも大量に作製できる。ゆえに、CBt-MSCをBM由来MSCよりも安価かつ効率的に作製できる。
【0031】
本研究において、プレ活性化され、拡大されたMSCは、BM由来MSCよりも多くの「幹細胞性」マーカーを発現すると見出された。それらの幹細胞性マーカーの発現が高まると、プレ活性化され、拡大されたMSCが、脳、心臓、消化管および肺をはじめとした生命維持に不可欠な器官のより特異的な再生を提供できるようになり得る。本プレ活性化されたMSCはまた、GVHDでは消化管および皮膚をはじめとした炎症部位に、ならびに急性の炎症が生じている再生医学の状況では脳および心臓に、ホーミングする能力を高め得る、より高レベルの免疫抑制性因子およびケモカインレセプター(VEGF、HLA-G、PGE、CXCR4、IL-10およびTGFβを含む)を発現する。本方法によって作製された活性化MSCは、いくつかの免疫制御経路、例えば、T細胞疲弊、顆粒球の接着および血管外遊出、抗原提示経路、免疫応答の負の制御、Notchシグナル伝達の正の制御、リンパ球アポトーシスプロセスの正の制御、無顆粒白血球の接着および血管外遊出、低酸素に対する細胞応答の制御、TGFβシグナル伝達、NFKβシグナル伝達、IL-6シグナル伝達、iNosおよびeNosシグナル伝達1、STAT4およびPI3Kシグナル伝達の正の制御、ならびにT細胞アポトーシスの誘導に関連する遺伝子の発現を誘導したことも見出された。活性化されたMSCは、活性化されたCBtMSCにおける接着および侵入に関係するホーミングレセプターおよび重要な接着分子をはじめとした、血管外遊出およびホーミングと関係するいくつかの遺伝子、例えば、GLG1、VCAM1、CXCR4、ICAM1、CSF3、CXCL3、CXCL8、SELPG、STAT1、IFITT3、ISG15、STAT2、MX1、OAS1、IFI6、JAK2、TAP1、IFI35、IFITM1、PSM89、IRF1、IFITM3、PTPN2、RELA、IFNAR2、HSP90AA1、JUN、ARNT、HIF1およびCUL2の活性化も示した。
【0032】
本システムを用いることにより、再生医学として患者に注入するための、GMP準拠の機能的閉鎖系において多数の臨床グレードのCBt由来MSCを作製することができる。したがって、本明細書中に提供される高度に免疫抑制性のMSCを、例えば、炎症状態、例えば、GVHDおよび自己免疫疾患の処置のために、ならびに急性虚血性脳卒中、心筋損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)および炎症性腸疾患をはじめとした再生医学の状況において、使用するための方法がさらに本明細書中に提供される。
【0033】
I.定義
本明細書中で使用されるとき、特定の構成要素に関する「本質的に含まない」は、その特定の構成要素が、意図的に組成物に製剤化されていないことおよび/または夾雑物としてですらもしくは微量ですら存在しないことを意味するために本明細書中で使用される。ゆえに、ある組成物の任意の意図されない混入に起因する、その特定の構成要素の総量は、0.05%未満、好ましくは、0.01%未満である。標準的な分析方法ではその特定の構成要素の量を検出できない組成物が最も好ましい。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、「a」または「an」は、1つ以上を意味し得る。請求項で使用されるとき、語「a」または「an」は、語「~を含む」とともに使用されるとき、1つまたは1つより多いことを意味し得る。
【0035】
請求項での用語「または」の使用は、選択肢だけを指すと明示的に示されない限り、またはそれらの選択肢が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢だけおよび「および/または」を指すという定義を支持する。本明細書中で使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2のものまたはそれ以上のものを意味し得る。用語「約」とは、述べている値プラスまたはマイナス5%のことを指す。
【0036】
用語「間葉系幹細胞」、「間葉系間質細胞」または「MSC」は、本明細書中で使用されるとき、中胚葉に由来する多能性体性幹細胞であって、とりわけ結合組織、骨髄の間質、脂肪細胞、真皮および筋肉を含む多様な表現型を有する子孫細胞を生成する自己再生能および自己分化能を有する多能性体性幹細胞のことを指す。MSCは、一般に、マーカーCD19、CD45、CD14およびHLA-DRが陰性であり、マーカーCD105、CD106、CD90およびCD73が陽性であることを特徴とする細胞マーカー発現プロファイルを有する。MSCは、任意のタイプの組織から単離され得る。一般に、MSCは、骨髄、脂肪組織、臍帯または末梢血から単離され得る。特定の実施形態において、MSCは、骨髄由来の幹細胞である。
【0037】
用語「機能的閉鎖」とは、系全体を密閉するか、または収集システムに通じるすべての接続部に滅菌バリアフィルターを設けることによって、流体の無菌性を確保するように密封された系のことを指す。
【0038】
用語「バイオリアクター」とは、滅菌された閉鎖系において、栄養分を細胞に提供し、代謝産物を除去し、ならびに細胞成長を促す生理化学的な環境を提供する、大規模細胞培養系のことを指す。特定の態様において、生物学的および/または生化学的プロセスは、モニターされたおよび制御された環境条件および操作条件下で、例えば、pH、温度、圧力、栄養分供給および廃棄物除去の下で生じる。本開示によると、本方法とともに使用するのに適したバイオリアクターの基本クラスには、中空繊維バイオリアクターが含まれる。
【0039】
用語「中空繊維」は、バイオリアクター内に含められた細胞に栄養分(溶液中の)を送達する際に使用するためのおよびバイオリアクター内に含められた細胞から廃棄物材料(溶液中の)を除去するために使用するための、規定のサイズ、形状および密度のポアを含む(任意の形状の)中空構造を含むと意図されている。本開示では、中空繊維は、吸収性または非吸収性の材料から構築され得る。繊維には、管状の構造が含まれるが、これに限定されない。
【0040】
「免疫障害」、「免疫関連障害」または「免疫媒介性障害」とは、疾患の発症または進行において免疫応答が重要な役割を果たす障害のことを指す。免疫媒介性障害としては、自己免疫障害、同種移植片拒絶反応、移植片対宿主病ならびに炎症性およびアレルギー性の状態が挙げられる。
【0041】
「自己免疫疾患」とは、免疫系が、正常な宿主の一部である抗原(すなわち自己抗原)に対して免疫応答(例えば、B細胞応答またはT細胞応答)を起こし、結果として組織に対して損傷を起こす疾患のことを指す。自己抗原は、宿主細胞に由来し得るか、または通常、粘膜表面にコロニー形成している(共生生物として知られている)微生物などの共生生物に由来し得る。
【0042】
用語「移植片対宿主病(GVHD)」とは、骨髄移植の一般的で重篤な合併症のことを指し、ここで、移植レシピエント自身の組織に対する、免疫学的に能力のある供与されたリンパ球の反応が存在する。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは含む任意の移植において起こり得る合併症である。いくつかの実施形態において、GVHDは、慢性GVHD(cGVHD)であり、いくつかの実施形態では、GVHDは、急性GVHD(aGVHD)である。
【0043】
「免疫応答のパラメータ」は、免疫応答の任意の特定の測定可能な態様であり、それらとしては、サイトカインの分泌(IL-6、IL-10、IFN-γなど)、ケモカインの分泌、遊走または細胞蓄積の変化、免疫グロブリンの産生、樹状細胞の成熟、制御性の活性、制御性B細胞の数、および免疫系の任意の細胞の増殖が挙げられるがこれらに限定されない。免疫応答の別のパラメータは、免疫学的攻撃に起因する任意の器官の構造的損傷または機能的低下である。当業者は、公知の研究室アッセイを用いて、これらのパラメータのいずれか1つの上昇を容易に判断できる。1つの非限定的な具体例では、細胞増殖を評価するために、H-チミジンの組み込みを評価し得る。免疫応答のパラメータの「実質的な」上昇は、コントロールと比べたときのこのパラメータの有意な上昇である。実質的な上昇の非限定的な具体例は、少なくとも約50%の上昇、少なくとも約75%の上昇、少なくとも約90%の上昇、少なくとも約100%の上昇、少なくとも約200%の上昇、少なくとも約300%の上昇および少なくとも約500%の上昇である。同様に、免疫応答のパラメータの阻害または低下は、コントロールと比べたときのこのパラメータの有意な低下である。実質的な低下の非限定的な具体例は、少なくとも約50%の低下、少なくとも約75%の低下、少なくとも約90%の低下、少なくとも約100%の低下、少なくとも約200%の低下、少なくとも約300%の低下および少なくとも約500%の低下である。統計的検定、例えば、ノンパラメトリックANOVAまたはT検定を用いることにより、第2の作用物質を用いて応答するサンプルのパーセントと比べたときの、1つの作用物質によって誘導される応答の規模の差を比較することができる。いくつかの例では、p≦0.05が有意であり、観察される任意のパラメータの上昇または低下が確率変動に起因する確率が5%未満であることを示唆する。当業者は、有用な他の統計的アッセイを容易に特定できる。
【0044】
疾患もしくは状態を「処置する」または疾患もしくは状態の処置とは、その疾患の徴候または症状を軽減する目的で、1つ以上の薬物を患者に投与することを含み得るプロトコルを実行することを指す。処置の望ましい効果としては、疾患の進行速度の低下、疾患状態の回復または緩和、および予後の緩解または改善が挙げられる。軽減は、現れる疾患または状態の徴候または症状が現れた後のみならず現れる前に生じ得る。したがって、「処置する」または「処置」は、疾患または望ましくない状態を「予防する」またはそれらの「予防」を含み得る。さらに、「処置する」または「処置」は、徴候または症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、詳細には、患者に対して周辺効果しか及ぼさないプロトコルを含む。
【0045】
本願全体にわたって使用される用語「治療効果」または「治療的に有効な」とは、この状態に対する医学的処置に関して被験体の福祉を促進または向上する何らかのことを指す。これには、ある疾患の徴候または症状の頻度または重症度の低下が含まれるが、これらに限定されない。例えば、癌の処置は、例えば、腫瘍サイズの減少、腫瘍の侵襲性の低下、癌の成長速度の低下、または転移の予防を含み得る。癌の処置とは、癌を有する被験体の生存時間の延長のことも指し得る。
【0046】
「被験体」および「患者」とは、ヒトまたは非ヒト、例えば、霊長類、哺乳動物および脊椎動物のことを指す。特定の実施形態において、被験体は、ヒトである。
【0047】
本明細書中で広く使用されるとき、「薬学的に許容され得る」とは、適正な医学的判断の範囲内であって、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応なしに、または合理的なベネフィット/リスク比に見合う他の問題もしくは合併症なしに、人間および動物の組織、器官および/または体液との接触において使用するのに適した、化合物、材料、組成物および/または剤形のことを指す。
【0048】
「薬学的に許容され得る塩」は、上で定義されたように薬学的に許容され得る、かつ所望の薬理学的活性を有する、本明細書中に開示される化合物の塩を意味する。そのような塩には、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など);または有機酸(例えば、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第三級ブチル酢酸、トリメチル酢酸など)と形成される酸付加塩が含まれる。薬学的に許容され得る塩には、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応できるときに形成され得る塩基付加塩も含まれる。許容され得る無機塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。許容され得る有機塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。本発明の任意の塩が、全体として薬理学的に許容され得る限り、その塩の一部を形成する特定の陰イオンまたは陽イオンは重要ではないことが認識されるべきである。薬学的に許容され得る塩ならびにそれらの調製方法および使用方法のさらなる例は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,and Use(P.H.Stahl & C.G.Wermuth eds.,Verlag Helvetica Chimica Acta,2002)に提示されている。
【0049】
「薬学的に許容され得るキャリア」、「薬物キャリア」または単に「キャリア」は、化学物質の運搬、送達および/または輸送に関わる活性成分薬剤とともに製剤化される、薬学的に許容され得る物質である。薬物キャリアは、例えば、薬物バイオアベイラビリティを調節するため、薬物代謝を低減するためおよび/または薬物毒性を低減するための制御放出技術をはじめとした、薬物の送達および有効性を改善するために使用され得る。いくつかの薬物キャリアは、特定の標的部位への薬物送達の有効性を高め得る。キャリアの例としては、リポソーム、ミクロスフェア(例えば、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)からできているもの)、アルブミンミクロスフェア、合成ポリマー、ナノ繊維、タンパク質-DNA複合体、タンパク質結合体、赤血球、ビロソームおよびデンドリマーが挙げられる。
【0050】
用語「培養する」とは、好適な培地中で細胞をインビトロにおいて維持、分化および/または増殖することを指す。「濃縮される」は、ある細胞が生物内に存在している組織で見られるパーセンテージよりも高い、全細胞に対するパーセンテージで存在する細胞を含む組成物を意味する。
【0051】
「単離された」生物学的構成要素(例えば、血液学的材料の一部、例えば、血液構成要素)とは、その構成要素が天然に存在する生物の他の生物学的構成要素から実質的に分離または精製された構成要素のことを指す。単離された細胞は、その細胞が天然に存在する生物の他の生物学的構成要素から実質的に分離または精製された細胞である。
【0052】
本明細書中で使用されるとき、用語「実質的に」は、所望の構成要素の少なくとも80%、より好ましくは、所望の構成要素の90%、または最も好ましくは、所望の構成要素の95%を含む組成物を表すために用いられる。いくつかの実施形態において、その組成物は、所望の構成要素の少なくとも80%、82%、84%、86%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または98%を含む。
【0053】
II.間葉系間質細胞
本開示は、MSCの拡大に関する。培養において使用されるMSCとしては、任意の幹細胞起源、例えば、臍帯、臍帯血、胎盤、胚性幹細胞、脂肪組織、骨髄または他の組織特異的間葉に由来する細胞が挙げられ得る。これらのサンプルは、新鮮サンプル、凍結サンプルまたは冷蔵サンプルであり得る。特定の態様において、MSCは、臍帯組織、およびこれらのCBt由来MSCを拡大するための方法に由来する。特定の態様において、MSCは、自家性または同種異系であり得るヒトMSCである。
【0054】
A.臍帯組織からのMSCの単離
1つの実施形態において、MSCは、1つ以上の酵素活性の存在下において単離される。組織からの細胞単離において使用するための広範囲の消化酵素が当該分野で公知であり、それらには、消化性が低いと考えられている酵素(例えば、デオキシリボヌクレアーゼおよび中性プロテアーゼであるディスパーゼ)から消化性が高いと考えられている酵素(例えば、パパインおよびトリプシン)に及ぶ酵素が含まれる。現在好ましいのは、粘液溶解性(mucolytic)酵素活性、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシンまたはエラスターゼ)およびデオキシリボヌクレアーゼである。より好ましいのは、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼおよび粘液溶解性活性から選択される酵素活性である。細胞は、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびディスパーゼのうちの1つ以上の活性の存在下において単離され得る。
【0055】
臍帯組織は、哺乳動物、例えば、ヒトから入手され得る。特に、臍帯組織は、待機的帝王切開術の後の正期新生児から入手される。臍帯組織は、ペニシリン/ストレプトマイシンなどを含むプラズマライト(plasmalyte)に入れられた状態で運ばれ得る。次いで、臍帯組織は、分割され、例えば、30~90分間、特に70、71、72、73、74、75、76、77、78、79または80分間、30~40℃、特に37℃においてインキュベートされ得る。
【0056】
臍帯組織は、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよび/またはDNAseを含む本明細書中に提供される酵素カクテル中で解離され得る。特に、コラゲナーゼは、コラゲナーゼ-NB4/6(Serva)である。次いで、臍帯組織は、GentleMACS Octo Dissociator(Miltenyi)などの解離装置(dissociator)において解離され得る。次いで、その細胞懸濁液が、濾過され、洗浄され、培地、例えば、pen-strepとともに10%血小板溶解物、L-グルタミン、ヘパリンを含むアルファ-MEM培地(完全培地)に再懸濁され、T175フラスコに播種され、次いで、MSCが約80%コンフルエントになるまで培養される。次いで、それらの細胞は、回収され、抗生物質を含まない完全培地を用いて約80%コンフルエンスまで拡大される。その培養は、約6~8日間、特に約7日間であり得る。
【0057】
MSC培養用の細胞培養表面としては、標準的な組織培養容器および2次元表面(シート、スライド、培養皿、培養フラスコ、バッグ、培養ボトルまたはマルチウェルディッシュを含む)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0058】
上記成長条件を提供することにより、細胞に対する培養液、サプリメント、雰囲気の条件および相対湿度に関する広範囲の選択肢が可能になる。好ましい温度は、37℃であるが、しかしながら、温度は、他の培養条件および細胞または培養物の所望の用途に応じて、約35℃~39℃の範囲であり得る。
【0059】
当業者は、成長培地に補充されるものが多様であり得ること、および成長培地が当該分野で公知の任意の方法で変更され得ること、および特定の理由のために最適化され得ることを認識するだろう。さらに、上記細胞は、血清添加の非存在下の既知組成の培地をはじめとした他の多くの培養液中でも成長できる。いくつかのそのような培地が、下記に例証される。上記細胞の通例の培養および維持に加えて、そのような分化能のある(potent)細胞から特定の細胞型または特定の細胞の祖先への分化に影響するための他の多くの培地が当該分野で公知である。当業者は、これらの培地が多くの目的に有用であり、本発明の範囲内に含められるが、必ずしも通例の培養および拡大にとって好ましいわけではないことを認識するだろう。
【0060】
培養液に対する上記細胞の柔軟性に加えて、それらの細胞は、種々の環境条件下で成長できる。特に、上記細胞は、広範囲の雰囲気条件下で成長できる。現在好ましいのは、約5%~約20%Oの範囲またはそれ以上のOの雰囲気である。上記細胞は、これらの条件下、通常、約5%COの存在下において、および窒素としての大気のバランスにおいて、成長培地中で十分に成長し、拡大する。当業者は、上記細胞が、種々の培地中のより広い範囲の条件を許容し得ること、および特定の目的に対する最適化が適切であり得ることを認識するだろう。
【0061】
培養前の細胞の凍結保存または本明細書中に開示される拡大された細胞の凍結保存は、公知の方法に従って行われ得る。例えば、細胞を「凍結培地」、例えば、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含み、5~10%グリセロールも含むまたは含まない培養液に、例えば、約1~2×10細胞/mlの密度で懸濁し得る。それらの細胞を、ガラスバイアルまたはプラスチックバイアルに分注し得、次いで、密封し、プログラマブルフリーザーまたはパッシブフリーザーの凍結チャンバーに移し得る。最適な凍結速度は、経験的に決定され得る。例えば、融解熱によって約-1℃/分の温度変化をもたらす凍結プログラムが使用され得る。細胞を含むバイアルが-80℃に到達したら、それらは液体窒素貯蔵領域に移され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、任意の幹細胞起源から単離されたばかりの細胞を凍結保存して、細胞バンクを構成してもよく、必要に応じ、その一部を解凍することによって取り出し、次いでそれを用いて本発明の拡大された細胞を作製してもよい。解凍は、迅速に、例えば、バイアルを液体窒素から37℃のウォーターバスに移すことによって、行われ得る。解凍されたバイアルの内容物は直ちに、栄養培地(nutritive medium)などの適切な培地を含む培養容器に滅菌条件下で移され得る。それらの細胞を、培養中に、例えば倒立顕微鏡を用いて細胞増殖を検出するために毎日調べてよく、適切な密度に到達したらすぐに継代培養してよい。
【0063】
必要に応じ、細胞を細胞バンクから取り出し、インビトロにおいて、例えば、3次元足場培養物として、またはインビボにおいて、例えば、組織の再構成または修復が必要とされる部位に細胞を直接投与することによって、新しい幹細胞または組織の作製に用いてよい。本明細書中に記載されるように、本開示の拡大されたMSCは、それらの細胞が最初に被験体自身の組織から単離された被験体において組織を再構成または修復するために使用され得る(すなわち、自己細胞)。あるいは、本明細書中に開示される拡大されたMSCは、任意の被験体において組織を再構成または修復するためのユビキタスなドナー細胞として使用され得る(すなわち、異種細胞)。
【0064】
B.MSCのプレ活性化
次いで、臍帯組織から単離されたMSCは、プレ活性化のためにサイトカインの存在下において培養され得る。そのサイトカインは、TNFα、IFNγ、IL-1βおよび/またはIL-17であり得、特に、TNFα、IFNγ、IL-1βおよびIL-17である。プレ活性化工程は、約12~24時間、例えば、13、14、15、16、17、18または19時間、特に16時間であり得る。TNFα、IFNγおよび/またはIL-1βは、5~15ng/mLの濃度、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13または14ng/mL、特に約10ng/mLであり得る。IL-17は、20~40ng/mLの濃度、例えば、25、30または35ng/mL、特に約30ng/mLで存在し得る。
【0065】
C.バイオリアクター内でのMSCの拡大
次いで、上記MSCは、バイオリアクターなどの機能的閉鎖系において拡大され得る。拡大は、Quantum Bioreactor(Terumo)において、例えば、4~10日間、特に5~6日間、行われ得る。
【0066】
バイオリアクターは、静的バイオリアクター、撹拌フラスコバイオリアクター、回転壁容器バイオリアクター、中空繊維バイオリアクターおよび直接灌流バイオリアクターを含む一般的なカテゴリーに従ってグループ化され得る。バイオリアクター内では、細胞は、浮遊していてもよく、または多孔性の3次元足場(ヒドロゲル)上に播種されて固定化されていてもよい。
【0067】
中空繊維バイオリアクターは、培養中の物質移動を向上させるために使用され得る。中空繊維バイオリアクターは、中空繊維に基づいた3D細胞培養系であり、その中空繊維は、10~30kDaという典型的な分子量カットオフ(MWCO)範囲を有する並行して配置された小型の半透性毛細管膜である。これらの中空繊維膜は、束ねられて、管状のポリカーボネートシェル内に収容されて、中空繊維バイオリアクターカートリッジを形成していることが多い。入口および出口が付いているそれらのカートリッジ内は、中空繊維内の毛細管内(IC)の空間と中空繊維の周りの毛細管外(EC)の空間の2コンパートメントである。
【0068】
したがって、本開示の場合、バイオリアクターは、中空繊維バイオリアクターであり得る。中空繊維バイオリアクターは、その繊維の管腔内に細胞が包埋されていて、管腔外の空間を培地が灌流していてもよいし、あるいは、中空繊維を通って気体および培地の灌流を提供して、管腔外の空間内で細胞が成長してもよい。本開示に適した中空繊維バイオリアクターは、当該分野で公知であり、それらとしては、Caridian(Terumo)BCT Quantum Cell Expansion Systemが挙げられ得るが、これに限定されない。
【0069】
中空繊維は、バイオリアクターにおける栄養分の送達および廃棄物の除去に適しているべきである。中空繊維は、任意の形状であってよく、例えば、円形および管状または同心円状の輪の形状であってよい。中空繊維は、吸収性または非吸収性の膜で構成され得る。例えば、中空繊維の好適な構成要素としては、ポリジオキサノン、ポリラクチド、ポリグラクチン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/トリメチレンカーボネート、セルロース、メチルセルロース、セルロースポリマー、セルロースエステル、再生セルロース、プルロニック(登録商標)、コラーゲン、エラスチンおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0070】
バイオリアクターは、細胞を播種する前にプライミングされ得る。そのプライミングは、PBSなどの緩衝液で洗い流すことを含み得る。プライミングは、バイオリアクターをフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングすることも含み得る。次いで、そのバイオリアクターは、アルファMEMなどの培地で洗浄され得る。
【0071】
上記MSCは、バイオリアクターに約100~1,000細胞/cm、例えば、約150細胞/cm、約200細胞/cm、約250細胞/cm、約300細胞/cm、例えば、約350細胞/cm、例えば、約400細胞/cm、例えば、約450細胞/cm、例えば、約500細胞/cm、例えば、約550細胞/cm、例えば、約600細胞/cm、例えば、約650細胞/cm、例えば、約700細胞/cm、例えば、約750細胞/cm、例えば、約800細胞/cm、例えば、約850細胞/cm、例えば、約900細胞/cm、例えば、約950細胞/cmまたは約1000細胞/cmの密度で播種され得る。特に、それらの細胞は、約400~500細胞/cmの細胞密度、例えば、約450細胞/cmで播種され得る。
【0072】
バイオリアクターに播種される細胞の総数は、約1.0×10~約1.0×10細胞、例えば、約1.0×10~5.0.0×10、5.0×10~1.0×10、1.0×10~5.0×10、5.0×10~1.0×10細胞であり得る。特定の態様において、バイオリアクターに播種される細胞の総数は、約1.0×10~約3.0×10、例えば、約2.0×10細胞である。
【0073】
上記細胞は、任意の好適な細胞培養液に播種されてよく、それらの多くは、商業的に入手可能である。例示的な培地としては、DMEM、RPMI、MEM、Media199、HAMSなどが挙げられる。1つの実施形態において、培地は、アルファMEM培地、特に、L-グルタミンが補充されたアルファMEMである。培地は、以下のうちの1つ以上が補充され得る:成長因子、サイトカイン、ホルモンまたはB27、抗生物質、ビタミンおよび/または小分子薬物。特に、培地は、無血清であり得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、上記細胞は、室温でインキュベートされ得る。恒温器は、加湿され得、約5%COかつ約1%Oである雰囲気を有し得る。いくつかの実施形態において、CO濃度は、約1~20%、2~10%または3~5%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、O濃度は、約1~20%、2~10%または3~5%の範囲であり得る。
【0075】
III.使用方法
本開示の拡大されたMSCは、疾患および損傷の処置および回復において幅広く応用される。本開示の拡大されたMSCは、組織の修復、再構成および再生ならびに遺伝子の送達をはじめとした多くの治療用途において有用である。本開示のMSCは、系統拘束(lineage-committed)細胞と無拘束(uncommitted)細胞の両方を含み得るので、複数の治療目標を達成するために、両方の細胞型を一緒に、いくつかの実施形態では同時に用いることができる。例えば、いくつかの実施形態において、本開示の拡大されたMSCは、幹細胞移植片として直接使用できるか、または本明細書中の上記で述べたように懸濁液中もしくは細胞培養支持足場上の幹細胞移植片として使用できる。
【0076】
本開示のある特定の実施形態は、炎症性障害または免疫媒介性障害を処置または予防するために本明細書中に提供されるMSCを使用するための方法に関する。その方法は、治療有効量のMSCを被験体に投与することによってその被験体における炎症性障害または免疫媒介性障害を処置または予防する工程を含む。
【0077】
本方法に従って作製されたMSCは、実験的および治療的な用途をはじめとした多くの潜在的な用途を有する。特に、そのような細胞集団は、望ましくないまたは不適当な免疫応答を抑制する際に極めて有用であることが想定される。
【0078】
1つの実施形態では、自己免疫疾患または炎症性疾患に罹患している被験体に、本明細書中に提供されるMSCが投与される。1つの実施形態において、その被験体は、自己免疫疾患を有する。自己免疫疾患の非限定的な例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および自己免疫性睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック多発性皮膚炎(celiac spate-dermatitis)、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素病、クローン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、1型糖尿病または免疫媒介性糖尿病、重症筋無力症、ネフローゼ症候群(例えば、微小変化群、巣状糸球体硬化症または膜性腎症)、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎(例えば、結節性多発性動脈炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎または疱疹状皮膚炎脈管炎)、白斑ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。したがって、本明細書中に開示される方法を用いて処置され得る自己免疫疾患のいくつかの例としては、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、クローン病;潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、糸球体腎炎、強直性脊椎炎、脈管炎または乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。被験体は、喘息などのアレルギー性障害も有し得る。
【0079】
さらに別の実施形態では、被験体は、移植される器官または幹細胞のレシピエントであり、拡大されたMSCを用いて、拒絶反応が予防および/または処置される。特定の実施形態において、被験体は、移植片対宿主病を有するか、または移植片対宿主病を発症するリスクがある。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは含む任意の移植に関して起こり得る合併症である。GVHDには、急性と慢性の2種類がある。急性GVHDは、移植後の最初の3ヶ月以内に現れる。急性GVHDの徴候としては、手および足における赤みがかった発疹が挙げられ、それは、剥皮または皮膚の水疱形成を伴って広がることがあり、より重篤になることがある。急性GVHDは、胃および腸にも影響することがあり、その場合、筋痙攣、悪心および下痢が認められる。皮膚および目の黄変(黄疸)は、急性GVHDが肝臓に影響していることを示唆する。慢性GVHDは、その重症度に基づいて等級付けされる:ステージ/グレード1が軽度であり;ステージ/グレード4が重度である。慢性GVHDは、移植の3ヶ月後またはそれ以降に発症する。慢性GVHDの症状は、急性GVHDの症状と似ているが、さらに、慢性GVHDは、眼の粘液腺、口の唾液腺ならびに胃壁および腸を滑らかにする腺にも影響し得る。移植される器官の例としては、臓器移植片、例えば、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、肺および/または心臓、あるいは細胞移植片、例えば、小島、肝細胞、筋芽細胞、骨髄または造血性幹細胞もしくは他の幹細胞が挙げられる。移植片は、複合性の移植片、例えば、顔面の組織であり得る。MSCは、移植の前、移植と同時、または移植の後に、投与され得る。いくつかの実施形態において、MSCは、移植の前に、例えば、移植の少なくとも1時間前、少なくとも12時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前または少なくとも1ヶ月前に投与される。1つの非限定的な具体例では、治療有効量のMSCの投与は、移植の3~5日前に行われる。
【0080】
さらなる実施形態において、被験体への治療有効量のMSCの投与は、その被験体における炎症を処置または阻害する。したがって、上記方法は、治療有効量のMSCを被験体に投与して炎症過程を阻害する工程を含む。炎症性障害の例としては、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性障害、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、および慢性ウイルス感染症または慢性細菌感染症に起因する慢性炎症が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に開示される方法は、アレルギー性障害を処置するためにも用いることができる。
【0081】
MSCの投与は、免疫抑制または炎症阻害が所望であるときはいつでも、例えば、疾患または炎症の最初の徴候または症状が現れたときはいつでも利用できる。これらは、一般的な徴候または症状、例えば、疼痛、浮腫、体温上昇であってもよいし、罹患器官の機能不全に関係する特定の徴候または症状であってもよい。例えば、腎臓移植片拒絶では、血清クレアチニンレベルの上昇があり得るのに対して、GVHDでは、発疹があり得、喘息では、息切れおよび喘鳴があり得る。
【0082】
MSCの投与は、目的の被験体における免疫媒介性疾患を予防するためにも利用され得る。例えば、MSCは、移植レシピエントになる予定の被験体に移植の前に投与され得る。別の例では、MSCは、T細胞枯渇なしで同種異系骨髄移植を受ける被験体に投与される。さらなる例では、MSCは、糖尿病の家族歴を有する被験体に投与され得る。他の例では、MSCは、喘息発作を予防するために、喘息を有する被験体に投与される。いくつかの実施形態では、治療有効量のMSCが、症状に先立って被験体に投与される。MSCの投与は、制御性細胞を含まない他の治療を受けた患者と比べて、その後の免疫学的事象もしくは症状(例えば、喘息発作)の発生率もしくは重症度の低下または患者の生存時間の改善をもたらし得る。
【0083】
処置の有効性は、当業者に公知の多くの方法によって測定され得る。1つの実施形態では、白血球数(WBC)を用いて、被験体の免疫系の応答性を測定する。WBCは、被験体における白血球の数を測る。当該分野で周知の方法を用いて、被験体の血液サンプル中の白血球を、他の血液細胞から分離し、計数する。白血球の正常値は、約4,500~約10,000白血球/μlである。それより少ない白血球数は、その被験体における免疫抑制の状態を示唆し得る。
【0084】
別の実施形態において、被験体における免疫抑制は、Tリンパ球の数を用いて測定され得る。当該分野で周知の方法を用いて、被験体の血液サンプル中の白血球を、他の血液細胞から分離する。Tリンパ球は、当該分野における標準的な方法、例えば、免疫蛍光法またはFACSを用いて、他の白血球と区別される。T細胞またはT細胞の特定の集団の数の減少は、免疫抑制の尺度として使用できる。処置前のT細胞の数(または特定の集団内の細胞の数)と比べたときの、T細胞の数またはT細胞の特定の集団の数の減少を用いることにより、免疫抑制が誘導されたことを示すことができる。
【0085】
他の例では、炎症を評価するために、炎症部位における好中球浸潤が測定され得る。好中球浸潤を評価するために、ミエロペルオキシダーゼ活性が測定され得る。ミエロペルオキシダーゼは、多形核白血球および単球のアズール親和性顆粒に存在する血液タンパク質である。ミエロペルオキシダーゼは、ハロゲン化物イオンがそれらのそれぞれの次亜ハロゲン酸に酸化するのを触媒し、それらの次亜ハロゲン酸は、微生物殺滅のために食細胞によって使用される。したがって、組織におけるミエロペルオキシダーゼ活性の低下は、好中球浸潤の低減を反映し、炎症阻害の尺度として働き得る。
【0086】
別の例では、被験体の有効な処置は、その被験体におけるサイトカインレベルを測定することによって測定され得る。体液中または細胞サンプル中のサイトカインレベルが、従来の方法によって測定される。例えば、酵素免疫スポットまたは「ELISPOT」アッセイなどのイムノスポットアッセイが使用され得る。このイムノスポットアッセイは、単一細胞レベルでサイトカイン分泌を検出するための高感度の定量的アッセイである。イムノスポット法および応用法は、当該分野で周知であり、例えば、欧州特許第957359号に記載されている。標準的なイムノスポットアッセイの変法が当該分野で周知であり、それは、本開示の方法においてサイトカイン産生の変化を検出するために用いることができる(例えば、米国特許第5,939,281号および米国特許第6,218,132号を参照のこと)。
【0087】
治療有効量のMSCは、非経口投与、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、胸骨内、心臓内もしくは関節内注射または注入をはじめとしたいくつかの経路によって投与され得る。
【0088】
免疫抑制の誘導または炎症の処置もしくは阻害において使用するためのMSCの治療有効量は、処置される被験体において所望の効果を達成する量である。例えば、これは、進行を阻害するために必要なMSCの量、または自己免疫性疾患もしくは同種免疫性疾患を後退させるために必要なMSCの量、または自己免疫疾患によって引き起こされる症状、例えば、疼痛および炎症を和らげることができるMSCの量であり得る。これは、炎症に伴う症状、例えば、疼痛、浮腫および体温上昇を和らげるために必要な量であり得る。これは、移植された器官の拒絶反応を減少させるまたは予防するために必要な量でもあり得る。
【0089】
上記MSCは、疾患状態を回復させるために、上記疾患と一致した処置レジメンで、例えば、1日から数日間にわたって1回または数回で、投与され得るか、または疾患の進行を阻害するためおよび疾患の再発を予防するために、長期間にわたる定期的な投与で投与され得る。製剤において用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重篤度にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。MSCの治療有効量は、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプならびに投与様式に依存する。いくつかの実施形態において、ヒト被験体の処置において使用され得る用量は、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10または少なくとも3.8×1010制御性細胞/mで変動する。ある特定の実施形態において、ヒト被験体の処置において使用される用量は、約3.8×10~約3.8×1010制御性細胞/mで変動し得る。さらなる実施形態において、MSCの治療有効量は、約5×10細胞/kg体重~約7.5×10細胞/kg体重、例えば、約2×10細胞~約5×10細胞/kg体重または約5×10細胞~約2×10細胞/kg体重で変動し得る。MSCの正確な量は、被験体の年齢、体重、性別および生理学的状態に基づいて当業者によってすぐに決定される。有効量は、インビトロモデルまたは動物モデルの試験系から導かれた用量反応曲線から外挿され得る。
【0090】
本開示の拡大されたMSCは、投与前にキャリア媒質中に入れられ得る。注入に向けて、本開示の拡大されたMSCは、任意の生理的に許容され得る媒質に入れられた状態で、静脈内を含む血管内に投与され得るが、再生および分化にとって適切な部位がそれらの細胞にあり得る場合、それらは、骨髄などの他の好都合な部位に導入されてもよい。通常、少なくとも約1×10細胞/kg、少なくとも約5×10細胞/kg、少なくとも約1×10細胞/kg、少なくとも約2×10細胞/kg、少なくとも約3×10細胞/kg、少なくとも約4×10細胞/kg、少なくとも約5×10細胞/kg、少なくとも約6×10細胞/kg、少なくとも約7×10細胞/kg、少なくとも約8×10細胞/kg、少なくとも約9×10細胞/kg、少なくとも約10×10細胞/kgまたはそれ以上が投与される。例えば、Ballen et al.(2001)Transplantation 7:635-645を参照のこと。MSCは、注射、カテーテル法などをはじめとした任意の方法によって導入され得る。所望であれば、さらなる薬物または成長因子が同時投与され得る。興味深い薬物としては、5-フルオロウラシル、ならびにIL-2、IL-3、G-CSF、M-CSF、GM-CSF、IFNγおよびエリトロポイエチンなどのサイトカインを含む成長因子が挙げられる。さらに、MSCは、コラーゲン、マトリゲルを伴ってそれらだけでまたは他のヒドロゲルとともに注射され得る。
【0091】
1つの実施形態において、本開示の拡大されたMSC集団は、損傷したまたは罹患した間葉系組織(例えば、心臓、膵臓、肝臓、脂肪組織、骨、軟骨、内皮、神経、アストロサイト、真皮など)を修復または再構成するために使用され得る。拡大されたMSCが、損傷部位に移動するかまたは配置されると、それらは、分化して新しい組織を形成し、器官の機能を補完できる。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、血管新生を促進するために使用され、ゆえに酸素供給および組織からの廃棄物除去を改善する。これらの実施形態では、本開示の拡大されたMSCを用いることにより、分化した組織および器官(例えば、心不全におけるような虚血性心臓または脳卒中におけるような虚血性神経)の機能を高めることができる。
【0092】
本開示の拡大されたMSCは、遺伝子治療を必要とする患者において遺伝子治療のためにも使用され得る。いくつかの実施形態では、特に、一過性の遺伝子発現が必要とされる場合、または細胞の成熟および分裂によって遺伝子導入が促される場合に、より成熟した系統拘束細胞が有用であり得る。例えば、いくつかのレトロウイルスベクターは、遺伝子がインテグレートされるために細胞が細胞周期を繰り返す(cycling)ことを必要とする。新しい治療的な遺伝子を送達するために幹細胞および前駆細胞に形質導入するための方法は、当該分野で公知である。
【0093】
投与されるMSCは、本明細書中に記載される細胞とさらなる目的の細胞との混合物も含み得る。さらなる目的の細胞としては、分化した肝臓細胞、分化した心筋、分化した膵臓細胞などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0094】
拡大されたMSCは、免疫媒介性障害を処置するための1つ以上の他の治療薬と併用して投与され得る。併用療法としては、1つ以上の抗菌剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤および抗真菌剤)、抗腫瘍剤(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセル、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫枯渇剤(immune-depleting agents)(例えば、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリンまたは糖質コルチコイド、例えば、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)、抗炎症剤(例えば、糖質コルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)または非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェンまたはナプロキセンナトリウム))、サイトカイン(例えば、インターロイキン-10またはトランスフォーミング成長因子-ベータ)、ホルモン(例えば、エストロゲン)またはワクチンが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリンおよびタクロリムス);mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン);ミコフェノール酸モフェチル、抗体(例えば、CD3、CD4、CD40、CD154、CD45、IVIGまたはB細胞を認識する抗体);化学療法剤(例えば、メトトレキサート、トレオスルファン、ブスルファン);照射;またはケモカイン、インターロイキンまたはそれらの阻害剤(例えば、BAFF、IL-2、抗IL-2R、IL-4、JAKキナーゼ阻害剤)を含むがこれらに限定されない免疫抑制剤または免疫寛容誘発剤が投与され得る。そのようなさらなる医薬品は、所望の効果に応じて制御性B細胞の投与前、投与中または投与後に投与され得る。上記細胞および作用物質のこの投与は、同じ経路または異なる経路による投与、および同じ部位または異なる部位における投与であり得る。
【0095】
IV.キット
いくつかの実施形態において、例えば、MSCを作製するための1つ以上の培地および構成要素を含み得るキットが提供される。そのような製剤は、因子のカクテルを、MSCとの併用に適した形態で含み得る。その試薬系は、必要に応じて、水性の媒質に入れられた状態または凍結乾燥された形態で包装され得る。キットの容器手段としては、構成要素が入れられ得る、好ましくは、適切に等分され得る、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段が一般に挙げられる。キットに1つより多い構成要素が存在する場合、そのキットは、通常、さらなる構成要素が別々に入れられ得る第2の、第3のまたは他のさらなる容器も含む。しかしながら、構成要素の様々な組み合わせが、1つのバイアルに含められてもよい。キットの構成要素は、乾燥粉末として提供されてもよい。試薬および/または構成要素が、乾燥粉末として提供されるとき、その粉末は、好適な溶媒を加えることによって再構成され得る。その溶媒は、別の容器手段内に提供されてもよいことが想定される。キットは、典型的には、商業的販売のためにキットの構成要素を閉じ込めた状態で含めるための手段も含む。そのような容器としては、所望のバイアルを保持する射出成形またはブロー成形のプラスチック容器が挙げられ得る。キットは、使用するための指示書、例えば、印刷された形式またはデジタル形式などの電子的な形式の指示書も含み得る。
【実施例
【0096】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含められる。以下の実施例に開示される手法は、本発明の実施において十分に機能すると本発明者らが発見した手法であり、ゆえにその実施にとって好ましい形式であると考えることができることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、それらの変更は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、なおも同様または類似の結果をもたらすと認識するべきである。
【0097】
実施例1-間葉系間質細胞の拡大
Terumo Quantum Cell Expansionシステム(使用したバイオリアクター)は、GMPに適合した細胞作製のために設計された自動中空繊維細胞培養プラットフォームである。簡潔には、臍帯組織を正常分娩から入手し、ヒアルロニダーゼ含有酵素カクテル(コラゲナーゼNB6 0.5U/ml、ヒアルロニダーゼ1U/mlおよびDNAse250U/ml)を使用してその組織を消化した。消化後、その細胞をフラスコにプレーティングし、数日間培養した。細胞が約85%コンフルエントになったら、トリプシン処理し、再度プレーティングし、培養し、コンフルエントになったら、継代数1(P1)として取り出し、凍結した(図1)。
【0098】
次いで、P1細胞を解凍し、Quantum Bioreactorにおいて4~6日間拡大した(培養密度に達するまで)。そのバイオリアクター内のグルコースレベルおよびラクテートレベルに基づいて理想的な培養密度が特定されたら、その細胞を、TNF、IFN-γ、IL-1βおよびIL-17を含む本サイトカイン組み合わせで16時間プレ活性化し、洗浄し、回収し、様々なアッセイにおいて評価するか、または臨床での使用に向けて凍結した(図2)。
【0099】
2000万個の臍帯組織由来MSCおよび骨髄由来MSCをそのバイオリアクターに加えたとき、臍帯組織を用いて作製されたMSCの数は、より短い時間で、骨髄由来のMSCの数のほぼ2倍になった(図3)。CBt-MSCは、有意に多い数の「幹細胞性」マーカーNestin、Stro-1、Oct-4、NanogおよびCox-2を発現した(図5)。重要なことには、プレ活性化されたCBt-MSCは、ベースラインの(活性化されていない)CBt-MSCまたはBM-MSCよりも抑制性であった(図5)。それらは、より高レベルの抗アポトーシス因子(VGEF、TGFβ)、抗炎症/抗増殖因子(TSG-6)、免疫調節因子(PD-L1、IDO、PGE2、IL-10、TGFβ)および化学誘引ホーミング因子(CXCR4、CXCR3)を発現した(図6)。したがって、プレ活性化され、拡大されたCBt-MSCは、臨床的に妥当な多い量で効率的に作製され、他のMSC調製物よりも高い治療効果を有した(図7)。
【0100】
実施例2-材料および方法
CBtは、待機的帝王切開術の後の、正期新生児の同意した健康な母体から入手した。そのCBtを、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むプラズマライトに入れた状態で運んだ。そのCBtを7等分に切断し、GentleMACS Octo Dissociator(Miltenyi)において、コラゲナーゼ-NB4/6(Serva)およびヒアルロニダーゼ(Sigma Aldrich)を含み、DNase(Genentech)を含むまたは含まない、様々な酵素の組み合わせを含むC-Tubes(Miltenyi)内で37℃において76分間インキュベートした。その細胞懸濁液を濾過し、洗浄し、pen-strepとともに10%血小板溶解物、L-グルタミン、ヘパリンを含むアルファ-MEM培地(完全培地)に再懸濁し、T175フラスコに播種し、次いで、MSCが80%コンフルエントになるまで培養した。それらの細胞を回収し、抗生物質を含まない完全培地を用いてT175フラスコにおいて80%コンフルエンスまで拡大してP1とした。
【0101】
P1の回収後、MSCを典型的なMSC表面マーカーの発現についてフローサイトメトリーによって解析し、凍結保存した。続いて、Quantum Bioreactor(Terumo)において5~6日間、拡大を行った。CBt-MSCの免疫抑制能を、CD4T細胞増殖アッセイ(CFSE)およびCD4T細胞サイトカイン分泌アッセイによってインビトロで試験した。CBt-MSCの半数をインターフェロンガンマでプレ活性化し、次いで、96ウェルプレートに播種し、残りの半数を未処置で播種した。翌日、そのMSCを、単離された10個のCD4T細胞と1:1、1:2、1:10および1:20の比でインキュベートした。ネガティブコントロールを除くすべてのウェルにCD3/28ビーズ(ThermoFisher Scientific)を加えた。単離されたT細胞をCFSEで10分間染色し、次いで、10%ウシ胎児血清(FBS)とインキュベートした後、MSCと共培養した。
【0102】
72時間後、ウェルをBFA(10×)、PMA(100×)およびイオノマイシン(10×)で処置した。ウェルの半数を回収し、洗浄し、抗CD4(Biolegend)およびLive-Dead色素(ThermoFisher Scientific)で染色した。次いで、Cytofix/Cytoperm Fixation and Permeabilization Solution(BD Biosciences)に続いて、1×緩衝液を加え、細胞をIL-2(BD)、TNF-アルファ(BD)およびインターフェロンガンマ(BD Biosciences)について染色した。5日目に、残りのウェルを回収し、抗CD4-APC(Biolegend)およびLive-Dead(ThermoFisher Scientific)で染色した。すべてのサンプルに対してFortessa X20(BD Biosciences)を用いてフローサイトメトリーを行い、次いで、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0103】
酵素消化後、DNaseなしのサンプルは、P0からP1への成長が不良だった(10日までに80%未満のコンフルエント)ので、排除した。NB4、ヒアルロニダーゼおよびDNaseを標準的な酵素組み合わせとした。51×10E6個という中央値のCBt-MSC(45~62×10E6個の範囲の細胞)でバイオリアクターに播種した後、バイオリアクター内で5~6日間拡大することによって、1495×10E6個という中央値のCBt-MSCが得られた(1245~1935×10E6の範囲)。CBt-MSCの倍加時間(MSCが増殖し、数が2倍になるのに必要な時間)の中央値は、28.2時間(24.5~29.7の範囲)だった(n=3)。免疫抑制アッセイは、CBtMSCが、用量依存的様式でCD4T細胞の増殖を阻害することを実証した。さらに、CBt-MSCは、CD4T細胞の各後続世代を用いたとき、刺激されたCD4T細胞上のサイトカイン発現(IFNγ、TNFα、IL-2)を減少させた。したがって、本方法は、CBt全体からMSCを単離するための新規の標準化されたGMP準拠プロトコルを提供する。免疫抑制特性を有するCBt-MSCの大規模拡大を、Terumoバイオリアクターにおいて迅速かつ効率的に行うことができる。
【0104】
実施例3-間葉系幹細胞の特徴付け
実施例1において得られたMSCを、インビボで特徴付けることにより、それらの機能を測定した。新鮮なCBt由来MSCは、異種移植片対宿主病(GVHD)マウスモデルにおいて生存時間を延長させたことが見出された(図8)。
【0105】
NSG(NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ)7週齢雄マウスをJackson Laboratory(Bar Harbor,ME,USA)から購入し、実験前の1週間、順化させた。マウス(11週齢)に致死線量以下で照射し(300cGy)、その24時間後である実験の0日目に、2×10個のG-動員末梢血前駆細胞(PBPC)を移植した。次いで、そのマウスに、BMまたはCBt由来のMSCを注入1回あたり2×10の用量で5回、+8、+11、+14、+18および+21日目に尾静脈注射を介して投与した。生存時間、体重減少、毛衣の手触り、身体活動、皮膚の完全性および背中の曲がり具合を毎日記録した。Cooke et alが記載した臨床スコアリングシステムを用いてGVHDの重症度を評価した。1群あたり5匹のマウスを用い、実験を3回行った。結果は、GVHDコントロールと比べて、新鮮なBM由来MSCまたはCBT由来MSCを投与されたマウスの全生存時間の有意な延長を示した(図8A)。
【0106】
いくつかの実験では、750nmで励起し、782nmに発光ピークを有するNIR親油性カルボシアニン色素であるXenolight DiR(Perkin Elmer,Rodgau,Germany)でBM-MSCまたはCBt-MSCを標識した。細胞をPBSに再懸濁し(1×10細胞/ml)、DiR(10μg DiR/ml)と37℃において30分間インキュベートした。次いで、それらの細胞を培養液で2回洗浄して、組み込まれなかった色素を除去した。図8Bは、GVHDコントロールと比べて、(BM-またはCBT-MSCで)処置されたマウスの肝臓、脾臓および結腸のGVHD徴候のわずかな低減を実証している病理組織学的サンプルを示している。図8Cおよび8Dは、尾静脈を介してマウスに注入されたDiR免疫蛍光標識MSCを用いた短期間の体内分布実験を示している。CBt-MSCは、BM-MSCと比べて72時間にわたって有意な残留性の改善を示した。
【0107】
次に、CBt-MSCの活性化が、より高い免疫抑制特性を有するユニークなプロファイルを明らかにしたことが見出された(図9)。CBt-MSCを、1%L-グルタミンおよび5%ヒト血小板溶解物が補充されたアルファMEM培地を用いて、85%コンフルエンスになるまで培養した。次いで、培地を活性化培地(1%L-グルタミン、IFNガンマ(10ng/ml)、TNFアルファ(10ng/ml)、IL-1B(10ng/ml)およびIL-17(10ng/ml)が補充されたアルファMEM培地)に24~36時間、交換した。その後、細胞を回収し、RNAを抽出し、製造指示書に従って精製した(RNeasy Plus Mini Kit,Qiagen)。1つの培養条件につき12個のサンプルを解析した。RNAの抽出、cDNAの事前増幅および配列決定の品質管理を行った後、cDNAライブラリーを調製し、これらの細胞のトランスクリプトームをIllumina HiSeq2500システムにおいて配列決定した。RNAseqデータの解析は、MD Anderson Bioinformatics部門が行った。TOPHAT2 v2.0.1346を用いて、シーケンシングリードをヒト参照ゲノム(hg38)とアラインメントした。マッピングされたリードを、hg38 GENCODE v25遺伝子モデルに基づくHTSEQ47,48を用いてカウントすることによって、遺伝子発現レベルを測定した。差次的に発現された遺伝子を、EdgeRパッケージ48をFDR(誤発見率)カットオフ<0.01および倍率変化>2で用いて特定した。Ingenuity Pathway Analysis(登録商標)(IPA(登録商標),Qiagen)を使用して、ネットワーク解析を行った。
【0108】
図9Aに要約されているように、休止MSCと活性化MSCとの間で差次的に発現された遺伝子のヒートマップは、休止CBt-MSCと比べて、活性化CBt-MSCにおいて、816個の遺伝子のアップレギュレーションおよび383個の遺伝子のダウンレギュレーションを示した。休止UC-MSCおよび活性化UC-MSCに対して評価された遺伝子のIngenuity Pathway Analysis(IPA)は、細胞の活性化が、いくつかの免疫制御経路(例えば、T細胞疲弊、免疫応答の負の制御、IL-6シグナル伝達およびT細胞アポトーシスの誘導)に関連する遺伝子の発現を誘導したことを明らかにした(図9B)。
【0109】
活性化によって、GVHD異種移植マウスモデルにおいてCBt-MSCのホーミングおよび体内分布が高まったことも観察された(図10)。活性化CBt-MSCおよび休止CBt-MSCから抽出されたRNAにおいてそれらを対比させて行われたIPA解析は、活性化CBtMSCにおける接着および侵入に関係するホーミングレセプターおよび重要な接着分子をはじめとした、血管外遊出およびホーミングと関係するいくつかの遺伝子の活性化を明らかにし、これが、ヒートマップに示されている(図10A)。フローサイトメトリーによって評価された、活性化CBT MSCおよび休止MSCにおけるホーミングレセプター、接着分子および侵入タンパク質(メタロプロテイナーゼ)のヒートマップ(図10B)。体内分布実験の場合、GvHD誘導後(0日目にPBPC注入)、DiRで予め標識された休止CBt-MSCまたは活性化CBt-MSCを+8日目に尾静脈注射によってNSGマウスに投与した(マウス1匹につき2×10個のMSC)。
【0110】
図10Cおよび10Dに示されているように、72時間の蛍光解析の後、活性化CBT-MSCが、コントロールCBt-MSCよりも長く、最大3日間マウスに残留したことが観察された。図10Eに示されているように、次いで、注射の3時間後、48時間後および72時間後にマウス組織を回収し、平均放射効率を組織別に計算した。肺については図10F、肝臓については図10Gおよび脾臓については図10Hに示されているように、コントロールMSC群と比べて活性化CBt-MSC群では、蛍光レベルがより高い傾向が示された。
【0111】
次に、凍結保存された活性化UCMSCが、新鮮な活性化UCMSCと比べて、類似の生存能、表現型、およびT細胞活性化制御の有効性を示したことが観察された(図11)。活性化された細胞を回収し、2週間凍結した。その後、細胞を解凍し、それらの表現型を、フローサイトメトリーを用いて解析した。図11Aは、アネキシンVおよびヨウ化プロピジウムアッセイを用いたフローサイトメトリーによって測定されたCBt-MSCの生存能に関する代表的なFACSプロットを示している。CBtMSC(休止および活性化)によって媒介されるT細胞免疫抑制をCFSEアッセイによって評価した。簡潔には、リンパ球を健常志願者のPBMNCから得て、フィコールによって単離した。T細胞を、PantT細胞マイクロビーズ(Miltenic)を用いて単離し、5(6)-カルボキシフルオレセインジアセテートN-スクシンイミジルエステル(CFSE;Sigma-Aldrich)で染色した。次いで、それらをリンパ球培地:10%FBS、1%L-グルタミン、ペニシリン(100単位/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を含むRPMI1640培地(Gibco,Grand Island,NY,USA)に懸濁した。共培養アッセイの場合、100ulのMSCを96ウェルプレートに異なる濃度(1×10/ml、0.5×10/ml、1×10/ml)で播種し、1時間インキュベートした。上記アッセイの場合、CD3/CD28ビーズ(Invitrogen)で刺激された10個のリンパ球を、MSC単層上に4日間播種した。その後、細胞を回収し、洗浄し、生存能(Live/Dead Aquia Fluorescence)、CD3、CD8、CD4について染色した。T細胞の増殖をフローサイトメトリーによって評価した。ナイーブ(未刺激)リンパ球(ネガティブコントロール)、およびMSCなしの刺激T細胞(ポジティブコントロール)をコントロールとして使用した。図11Bは、T細胞増殖CFSEアッセイの代表的なヒストグラムを示しており、すべての異なる比において、CD3/CD28ビーズで活性化されたT細胞の全体的な抑制が示されている。図11Cは、免疫抑制因子の発現の持続性を示している、新鮮なまたは凍結/解凍された細胞を用いたときの活性化MSCの表現型の代表的なFACSプロットを示している。
【0112】
凍結保存された活性化CBt-MSCが、全生存時間を延長し、GVHD毒性を低減させたことも観察された(図12)。上に記載されたように、マウスに300cGyを照射した後、24時間以内に2×10個のG-動員PBPCを注入した。CBt-MSCを解凍し、DPBSで2回洗浄し、食塩水に2×10細胞/0.1mLの濃度で再懸濁した。そのCBt-MSCを、すべての実験で解凍の3時間以内に注入した。GVHDコントロールマウスには、0.1mLの食塩水溶液を注射した。この実験の場合、各群から11匹のマウスを用いた。各群の3匹のマウスを、組織学的解析のために24日目に安楽死させた。マウスを麻酔し、血液を採取し、処理した。ヒトリンパ球集団をフローサイトメトリーによって測定した。血漿サンプルを解析して、マイクロアレイアッセイを用いてサイトカインを測定した。アッセイは、3つ組で行われた。
【0113】
図12A~Cは、マウス群を用いたインビボ実験を要約している(1群につきn=8匹のマウス)。図12Aは、未処置(GVHDコントロール)、非活性化CBt-MSCのレシピエント、およびレシピエント活性化CBt-MSCの生存曲線を示している。このデータは、非活性化MSCまたはコントロールと比べたときの、活性化CBT-MScのレシピエントに対する延命効果を示した。図12Bは、他の2群に対して活性化CBt-MSCのレシピエントの体重減少が小さいことを示している体重変動率を示している。図12Cは、平均GVHDスコアを示しており、これは、活性化CBT-MSC群のGVHDがより低いことを再度示している。図12Dは、終了時点におけるマウスの3群間で比較した門脈肝臓炎症を示している。図12Eは、未処置マウス(コントロール)、休止CBt-MSCで処置されたマウスおよび活性化(活性化された)MSCで処置されたマウスの血液学的検査の比較を示している。これらの血液検査には、WBC数、MCV、MCHC、ヘマトクリット、ヘモグロビン、血小板数、RBC数、MCH、RDW、アルブミン、アルカリホスファターゼ、カリウム、LDH、AST、グルコース、ALT、リン、総タンパク質が含まれる。結果は、コントロール群または非活性化MSC群と比べて、活性化MSCで処置された群における血小板数、グルコース、WBC数および肝機能(ALT、AST)の改善を示している。
【0114】
図12Fは、マウスの血液中のサイトカインレベルの結果を示しており、活性化CBt-MSCと非活性化CBt-MSCの両方が、コントロールマウスと比べて炎症性サイトカインの存在を減少させたことを明らかにした。図12Gは、24日目のマウスの血液中のヒトCD45のパーセンテージを示している。左のパネルは、各群の代表的なFACSプロットを示しており、右のパネルは、コントロール群(未処置)と比較した統計比較を伴うバープロットを示しており、**p値<0.01、****p値<0.0001は、両方のMSCレシピエント群の血液中のヒトCD45細胞がより少ないことを示しており、活性化MSCが、非活性化MSCレシピエントよりも少ないことを示している。
【0115】
本明細書中に開示および特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく実施および実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態の点から説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更が適用されてもよいことが当業者には明らかだろう。より詳細には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質を本明細書中に記載される作用物質の代わりに用いてもよいことが明らかだろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0116】
文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する範囲で、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
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図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A-1】
図5A-2】
図5B-1】
図5B-2】
図6A
図6B
図6C-1】
図6C-2】
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
図11A
図11B-1】
図11B-2】
図11C-1】
図11C-2】
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図12G
【国際調査報告】