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特表2022-512626粘膜炎症性疾患の処置のための方法及び医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】粘膜炎症性疾患の処置のための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220131BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 16/40 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P1/04
A61P11/00
A61P11/06
C07K16/40 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518955
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2019076804
(87)【国際公開番号】W WO2020070240
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】18306305.6
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19305531.6
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】505112071
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レーヌ・1
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE RENNES 1
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】521138523
【氏名又は名称】エニオス・アプリケーションズ・プライベート・リミテッド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ENIOS APPLICATIONS PRIVATE LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェ,エリク
(72)【発明者】
【氏名】オジェ-ドゥニ,エリク
(72)【発明者】
【氏名】チャトジオアノウ,アリストテリス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA681
4C084ZA682
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB22
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
粘膜は、環境障害及び感染から宿主を保護する組織、細胞及びエフェクター分子の統合ネットワークである。粘膜表面における免疫の調節不全は、胃腸系(クローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群)及び呼吸器系(喘息、アレルギー及び慢性閉塞性肺障害)に影響を及ぼすものなどの粘膜炎症性疾患につながると考えられる。Anterior Gradient 2(AGR2)は、小胞体(ER)におけるタンパク質品質コントロールのレギュレーションに関与する二量体プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーメンバーである。マウス腸におけるその欠失は組織炎症を増加させ、炎症性腸疾患(IBD)の発症を促進する。今回、本発明者らは、AGR2二量体形成のモデュレーションが、特に単球誘引を促進するAGR2(eAGR2)の分泌を介して炎症促進性表現型をもたらすことを実証する。本発明者らは、IBD、具体的にはクローン病では、AGR2二量体化モデュレーターのレベルが選択的にデレギュレーションされ、これが疾患の重症度と相関することを示す。したがって、本発明者らは、AGR2が、粘膜における炎症促進性反応の全身的な警報シグナルに相当することを実証する。したがって、本発明は、それを必要とする被験体における粘膜炎症性疾患を処置する方法であって、前記被験体に、eAGR2の炎症促進活性を中和する治療有効量の薬剤を投与することを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする被験体における粘膜炎症性疾患を処置する方法であって、前記被験体に、eAGR2の炎症促進活性を中和する治療有効量の薬剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記被験体が炎症性腸疾患(IBD)を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IBDが、クローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記被験体が呼吸器系に影響を及ぼす粘膜炎症性疾患を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体が喘息又は慢性閉塞性肺障害を患っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤が、eAGR2に特異的な抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、配列番号2(PLMIIHHLDECPHSQALKKVFA)に示されているアミノ酸配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22個を含むエピトープに結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、配列番号2に示されているエピトープに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が、以下のCDR:
-H-CDR1:DYNMD(配列番号3)
-H-CDR2:DINPNYDTTSYNQKFQG(配列番号4)
-H-CDR3:SMMGYGSPMDY(配列番号5)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む重鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、以下のCDR:
-L-CDR1:RASKSVSTSGYSYMH(配列番号6)
-L-CDR2:LASNLES(配列番号7)
-L-CDR3:QHIRELPRT(配列番号8)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む軽鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体が、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3の少なくとも1つを含む重鎖、並びに/又は以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3の少なくとも1つを含む軽鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体が、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、配列番号9に示されている重鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、位置65、67、68及び70における4つの置換により突然変異された配列番号9に示されている重鎖を含み、前記置換が、
-位置65のリジン(K)がグルタミン(Q)に変更され、
-位置67のリジン(K)がアルギニン(R)に変更され、
-位置68のアラニン(A)がバリン(V)に変更され、
-位置70のロイシン(L)がメチオニン(M)に変更されることを特徴とし、
前記位置の前記番号が、Kabatナンバリングシステムに対応する、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が、配列番号10に示されている重鎖を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、配列番号11(IHHLDECPHSQALKKVFAENKEIQKLAEQ)に示されているアミノ酸配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27又は28個を含むエピトープに結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が、配列番号11に示されているエピトープに結合する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が、以下のCDR:
-H-CDR1:NYGMN(配列番号12)
-H-CDR2:WINTDTGKPTYTEEFKG(配列番号13)
-H-CDR3:VTADSMDY(配列番号14)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む重鎖を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が、以下のCDR:
-L-CDR1:RSSQSLVHSNGN(配列番号15)
-L-CDR2:IYLH(配列番号16)
-L-CDR3:SQSTHVPLT(配列番号17)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む軽鎖を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体が、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3の少なくとも1つを含む重鎖、並びに/又は以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3の少なくとも1つを含む軽鎖を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、AGR2への結合について、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体と交差競合する、請求項8に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が、AGR2への結合について、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体と交差競合する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、粘膜炎症性疾患の処置のための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
粘膜(気道、腸、口腔及び子宮頸部上皮を含む)は、環境障害及び感染から宿主を保護する組織、細胞及びエフェクター分子の統合ネットワークである。粘膜表面における免疫の調節不全は、胃腸系(クローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群)及び呼吸器系(喘息、アレルギー及び慢性閉塞性肺障害)に影響を及ぼすものなどの粘膜炎症性疾患の驚くべき世界的な増加の原因であると考えられる。したがって、粘膜炎症性疾患の処置のための新規治療が必要である。
【0003】
最近、異なる疾患の発症に関与する重要な病態生理学的機構として、小胞体(ER)におけるタンパク質ホメオスタシス(タンパク質恒常性)のレギュレーションが浮かび上がった。タンパク質ミスフォールディングの負担に対処するERの能力は、フォールディング及びミスフォールディングの動態及び熱力(タンパク質恒常性境界とも称される)によりコントロールされ、これらはそれ自体が、ERタンパク質ホメオスタシスネットワーク能力に関連する。ERは、ER常在分子シャペロン、フォールディング触媒、品質コントロール及び分解機構の協調作用を通じて、新たに合成されたタンパク質の適切なフォールディングを保証する。フォールディング触媒であるAnterior gradient 2(AGR2)は新生タンパク質鎖に結合し、それは、ERホメオスタシスの維持に必要である3、4、5。AGR2の喪失は腸炎症に関連し6、7、いくつかの研究は、未解消小胞体ストレスが自然発生的な腸炎症につながることを実証している。哺乳動物では、AGR2は、一般に、粘液分泌上皮細胞において発現され、パネート及び杯腸前駆細胞において高発現され、回腸及び結腸におけるレベルが最も高い9、10、11。杯細胞では、AGR2はムチン2(MUC2)と混合ジスルフィド結合を形成し、その正しいフォールディング及び分泌を可能にする6、7。MUC2は、上皮表面胃腸管を覆って共生細菌に対する第1防御線を付与する胃腸管粘液の必須成分である。AGR2のノックアウトは腸細胞によるMUC2分泌を阻害し、それにより、腸粘液の量を減少させ、ヒト炎症性腸疾患(IBD)によく似た自然発生的な肉芽腫性回腸結腸炎をもたらす。したがって、AGR2発現の低発現及びその変異体のいくつかは、IBDのリスク因子として同定された12。しかしながら、AGR2とIBDの病因との間の強い関連性にもかかわらず、AGR2がその活性をレギュレーションしてIBDの発症に寄与する分子機構は依然として理解困難である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、粘膜炎症性疾患の処置のための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により定義される。
【0005】
発明の詳細な説明:
粘膜は、環境障害及び感染から宿主を保護する組織、細胞及びエフェクター分子の統合ネットワークである。粘膜表面における免疫の調節不全は、胃腸系(クローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群)及び呼吸器系(喘息、アレルギー及び慢性閉塞性肺障害)に影響を及ぼすものなどの粘膜炎症性疾患につながると考えられる。Anterior Gradient 2(AGR2)は、小胞体(ER)におけるタンパク質品質コントロールのレギュレーションに関与する二量体プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーメンバーである。マウス腸におけるその欠失は組織炎症を増加させ、炎症性腸疾患(IBD)の発症を促進する。今回、本発明者らは、AGR2二量体形成のモデュレーションが、特に単球誘引を促進するAGR2(eAGR2)の分泌を介して炎症促進性表現型をもたらすことを実証する。本発明者らは、IBD、具体的にはクローン病では、AGR2二量体化モデュレーターのレベルが選択的にデレギュレーションされ、これが疾患の重症度と相関することを示す。したがって、本発明者らは、AGR2が、粘膜における炎症促進性反応の全身的な警報シグナルに相当することを実証する。
【0006】
したがって、本発明は、それを必要とする被験体における粘膜炎症性疾患を処置する方法であって、前記被験体に、eAGR2の炎症促進活性を中和する治療有効量の薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0007】
本明細書で使用される場合、「粘膜炎症性疾患」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、粘膜の腫れ又は刺激を指す「粘膜炎症」を特徴とする任意の疾患を指す。使用される場合、「粘膜」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、体腔内の湿性組織であって、粘液を分泌し、上皮で覆われた湿性組織を表す。粘膜組織の例としては、限定されないが、口腔粘膜、例えば頬及び舌下;鼻粘膜;眼粘膜;生殖器粘膜;直腸粘膜;耳粘膜;肺粘膜;気管支粘膜;胃粘膜;腸粘膜;嗅粘膜;子宮粘膜;並びに食道粘膜が挙げられる。
【0008】
いくつかの実施態様では、粘膜炎症性疾患は胃腸系に影響を及ぼし、典型的には、炎症性腸疾患(IBD)、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群が挙げられる。「炎症性腸疾患」又は「IBD」という用語は、潰瘍性大腸炎及びクローン病の総称として使用される。「クローン病」又は「CD」という用語は、本明細書では、胃腸管の慢性炎症を伴う症状を指すために使用される。クローン病関連炎症は、通常、腸に影響を及ぼすが、口から肛門に至る任意の場所で発生し得る。炎症が腸壁の全ての層に広がり、腸間膜及びリンパ節が関与するという点で、CDはUCとは異なる。多くの場合、前記疾患は不連続である(すなわち、腸の重症部分は、明らかに無病領域から分離される)。CDでは、腸壁はまた肥厚して閉塞につながり得、瘻孔及び裂傷の発生も珍しくない。本明細書で使用される場合、CDは、限定されないが、(回腸及び大腸に影響を及ぼす)回腸結腸炎;(回腸に影響を及ぼす)回腸炎;胃十二指腸CD(胃及び十二指腸における炎症);空腸回腸炎(空腸における炎症の斑点状の点);及びクローン病(肉芽腫性)大腸炎(大腸にのみ影響を及ぼす)を含むいくつかのタイプのCDの1つ以上であり得る。「潰瘍性大腸炎」又は「UC」という用語は、本明細書では、大腸及び直腸の炎症を伴う症状を指すために使用される。UCを有する患者では、結腸粘膜が主に関与する炎症反応がある。典型的には、炎症は均一かつ継続的であり、正常粘膜の介在領域はない。表面粘膜細胞並びに腺窩上皮及び粘膜下層は、好中球浸潤を伴う炎症反応に関与する。最終的に、この反応は、典型的には、上皮損傷及び上皮細胞の喪失に進行し、複数の潰瘍形成、線維症、異形成及び結腸の縦方向退縮をもたらす。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、結腸クローン病の処置に特に適切である。本明細書で使用される場合、結腸CDと別称される「結腸クローン病」という用語は、本明細書で使用される場合、炎症が結腸に実質的に局在するクローン病を意味する。
【0009】
いくつかの実施態様では、粘膜炎症性疾患は呼吸器系に影響を及ぼし、典型的には、喘息及び慢性閉塞性肺疾患が挙げられる。本明細書で使用される場合、「喘息」という用語は、原因となる炎症に関連してもよいし又は関連しなくてもよい可逆的な気流閉塞及び/又は気管支過敏性として現れる疾患を指す。喘息の例としては、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、コルチコステロイドナイーブ喘息、慢性喘息、コルチコステロイド耐性喘息、コルチコステロイド難治性喘息、喫煙による喘息、コルチコステロイドでコントロールされない喘息、及び例えばExpert Panel Report 3: Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma, National Asthma Education and Prevention Program (2007) (“NAEPP Guidelines”)(これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)で言及されている他の喘息が挙げられる。本明細書で使用される場合、「COPD」という用語は、本明細書で使用される場合、慢性閉塞性肺疾患を指す。「COPD」という用語は、2つの主な症状:肺気腫及び慢性閉塞性気管支炎を含む。
【0010】
本明細書で使用される場合、「処置」又は「処置する」という用語は、疾患に罹患するリスクがあるか又は疾患に罹患したと疑われる患者、及び病気であるか又は疾患若しくは病状を患っていると診断された患者の処置を含む防止的又は予防的処置及び治癒的又は疾患改変的処置の両方を指し、臨床的再発の抑制を含む。処置は、障害若しくは再発性障害の1つ以上の症候を予防し、治癒し、その発生を遅延させ、その重症度を減少させ、若しくは改善するために、又はこのような処置の非存在下で予想されるものを超えて被験体の生存を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に障害を獲得し得る被験体に投与され得る。「治療レジメン」は、病気の処置のパターン、例えば治療中に使用される投与パターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。「導入レジメン」又は「導入期間」という語句は、疾患の初回処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間中に高レベルの薬物を患者に提供することである。導入レジメンは、維持レジメン中に医師が用いるであろうよりも多い用量の薬物を投与すること、維持レジメン中に医師が投与するであろうよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含み得る「ローディングレジメン」を(部分的又は全体的に)用い得る。「維持レジメン」又は「維持期間」という語句は、病気の処置中に患者の維持のために、例えば長期間(数カ月間又は数年間)にわたって患者を寛解に保つために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、薬物を一定の間隔で、例えば毎週、毎月、毎年などで投与する)又は間欠療法(例えば、中断処置、間欠処置、再発時処置、又は特定の所定の基準[例えば、疾患出現など])の達成時の処置を用い得る。
【0011】
本明細書で使用される場合、「AGR2」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、プロテインジスルフィドイソメラーゼファミリーメンバーであるanterior gradient 2(Gene ID:10551)をコードする遺伝子を指す。ゲノム配列は、NCBIデータベースにおいてNC_000007.14のアクセッションナンバーで参照される。ヒトAGR2の例示的なアミノ酸配列は、配列番号1により表される。
【化1】
【0012】
本明細書で使用される場合、「eAGR2」という用語は、例えば、Fessart, D., et al. Secretion of protein disulphide isomerase AGR2 confers tumorigenic properties. Elife 5(2016)に記載されている分泌型のAGR2を指す。eAGR2は、AGR2について記載されているのと同じアミノ酸配列を有するとみなす。
【0013】
いくつかの実施態様では、「eAGR2の炎症促進活性を中和する薬剤」という表現は、eAGR2により誘導される単球のリクルートを阻害する任意の分子を指す。薬剤は、小有機分子又は任意の生体分子であり得る。分子がeAGR2の炎症促進活性を中和し得るかを決定するためのアッセイは、本明細書の実施例セクションに開示されているもののように実施され得る。いくつかの実施態様では、薬剤は、eAGR2に特異的な抗体である。
【0014】
したがって、本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指すために使用され、この用語は、抗原結合ドメインを含む抗体フラグメント、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、TandAb二量体、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv、ds-scFv、Fd、線状抗体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメント、バイボディ、トリボディ(それぞれ二重特異性又は三重特異性のscFv-Fab融合物);sc-ダイアボディ;カッパ(ラムダ)体(scFv-CL融合物);BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー、T細胞を誘引するscFv-scFvタンデムで);DVD-Ig(二重特異性フォーマットの二重可変ドメイン抗体);SIP(ミニボディの一種である小さな免疫タンパク質);SMIP(「小さなモジュラー免疫医薬品」scFv-Fc二量体;DART(ds安定化ダイアボディ「二重親和性再ターゲティング」);1つ以上のCDRを含む小さな抗体模倣物などを含む。様々な抗体ベースの構築物及びフラグメントを調製及び使用するための技術は当技術分野で周知である(Kabat et al., 1991(これは、参照により本明細書に具体的に組み込まれる)を参照のこと)。特に、ダイアボディは、欧州特許出願公開第404,097号及び国際公開公報第93/11161号にさらに記載されているのに対して、線状抗体は、Zapata et al. (1995)にさらに記載されている。抗体は、従来の技術を使用してフラグメント化され得る。例えば、F(ab’)2フラグメントは、抗体をペプシンで処理することにより生成され得る。得られたF(ab’)2フラグメントを処理してジスルフィド架橋を還元して、Fab’フラグメントを生産し得る。パパイン消化は、Fabフラグメントの形成につながり得る。Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、dAb、TandAb、ds-scFv、二量体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメント並びに他のフラグメントもまた、リコンビナント技術により合成され得るか、又は化学的に合成され得る。抗体フラグメントを生産するための技術は周知であり、当技術分野で説明されている。例えば、Beckman et al., 2006; Holliger & Hudson, 2005; Le Gall et al., 2004; Reff & Heard, 2001 ; Reiter et al., 1996;及びYoung et al., 1995はそれぞれ、有効な抗体フラグメントの生産を記載しており、それを可能にする。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は一本鎖抗体である。本明細書で使用される場合、「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、軽鎖を生来的に欠くラクダ科哺乳動物に見られ得るタイプの抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体もまた「nanobody(登録商標)」である。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明については、上記で引用されている先行技術並びに欧州特許出願公開第0368684号、Ward et al. (Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、Holt et al., Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490;及び国際公開公報第06/030220号、国際公開公報第06/003388号も参照のこと。
【0015】
天然抗体では、2つの重鎖がジスルフィド結合により互いに連結され、各重鎖はジスルフィド結合により軽鎖に連結される。2つのタイプの軽鎖、すなわちラムダ(l)及びカッパ(k)がある。抗体分子の機能的活性を決定する5つの主な重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEがある。各鎖は、別個の配列ドメインを含有する。軽鎖は、2つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4(α、δ、γ)~5つ(μ、ε)のドメイン、すなわち1つの可変ドメイン(VH)及び3~4つの定常ドメイン(CHと総称されるCH1、CH2、CH3及びCH4)を含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原への結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(CL)及び重鎖(CH)の定常領域ドメインは、重要な生物学的特性、例えば抗体鎖会合、分泌、経胎盤移動、補体結合及びFcレセプター(FcR)への結合を付与する。Fvフラグメントは、免疫グロブリンのFabフラグメントのN末端部分であり、1つの軽鎖及び1つの重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性にある。抗体結合部位は、主に超可変又は相補性決定領域(CDR)由来の残基から構成される。時折、非超可変又はフレームワーク領域(FR)由来の残基は抗体結合部位に参加し得るか、又は全体的なドメイン構造及びそれ故に結合部位に影響を与え得る。CDRは、ネイティブ免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を一緒に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの各軽鎖及び重鎖は、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3及びH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と表記される3つのCDRを有する。したがって、抗原結合部位は、典型的には、各重鎖及び軽鎖V領域由来のCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。抗体可変ドメイン中の残基は、Kabatらにより考案されたシステムにしたがって慣例的にナンバリングされる。このシステムは、Kabat et al., 1987, in Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA(以下、「Kabat et al」)に記載されている。このナンバリングシステムは、本明細書で使用される。Kabat残基表記は、配列番号の配列中のアミノ酸残基の直線的なナンバリングに常に直接対応するとは限らない。実際の直線的なアミノ酸配列は、フレームワーク又は相補性決定領域(CDR)にかかわらず、基本可変ドメイン構造の構造要素の短縮又はそれへの挿入に対応する厳格なKabatナンバリングよりも少数の又はさらなるアミノ酸を含有し得る。残基の正確なKabatナンバリングは、抗体の配列中の相同性の残基と「標準」Kabatナンバリング配列とのアライメントにより、所定の抗体について決定され得る。重鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムにしたがって残基31~35B(H-CDR1)、残基50~65(H-CDR2)及び残基95~102(H-CDR3)に位置する。軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムにしたがって残基24~34(L-CDR1)、残基50~56(L-CDR2)及び残基89~97(L-CDR3)に位置する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、他のターゲット分子との比較的低い検出可能な反応性を有しながら、ターゲット分子(例えば、抗原上に提示されるエピトープ)に検出可能に結合する抗体の能力を指す。特異性は、本明細書の他の箇所に記載されているように、例えば、Biacore機器を使用して結合又は競合結合アッセイにより相対的に決定され得る。特異性は、例えば、他の無関係な分子への非特異的結合に対する特定の抗原への結合の親和性/アビディティが約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、10.000:1以上の比であることにより示され得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、ターゲット分子(例えば、エピトープ)へ抗体の結合の強度を意味する。結合タンパク質の親和性は、解離定数Kdにより与えられる。抗体の場合、前記Kdは、[Ab]×[Ag]/[Ab-Ag](ここで、[Ab-Ag]は抗体抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は未結合抗体のモル濃度であり、[Ag]は未結合抗原のモル濃度である)として定義される。親和性定数Kaは、1/Kdにより定義される。結合タンパク質の親和性を決定するための好ましい方法は、Harlow, et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988)、Coligan et al., eds., Current Protocols in Immunology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience, N.Y., (1992, 1993)及びMuller, Meth. Enzymol. 92:589-601 (1983)(これらの参考文献は、全体が参照により本明細書に組み入れられる)に見られ得る。結合タンパク質の親和性を決定するための当技術分野で周知の1つの好ましい標準的な方法は、Biacore機器の使用である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「結合」という用語は、例えば、塩橋及び水橋などの相互作用を含む共有結合的、静電的、疎水的並びにイオン結合的及び/又は水素結合的相互作用による2つの分子間の直接的な会合を指す。特に、本明細書で使用される場合、所定のターゲット分子(例えば、抗原又はエピトープ)への抗体の結合の文脈における「結合」という用語は、典型的には、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下又は約10-11M以下のKに対応する親和性による結合である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体が結合する1つ又は複数のタンパク質上に位置する特定のアミノ酸配置を指す。エピトープは、多くの場合、分子の化学的に活性な表面基、例えばアミノ酸又は糖側鎖からなり、特定の三次元構造特徴及び特定の電荷特徴を有する。エピトープは線状又は立体構造的であり得、すなわち、抗原の様々な領域におけるアミノ酸(これらは必ずしも隣接しなくてもよい)の2つ以上の配列を伴う。
【0020】
いくつかの実施態様では、抗体はヒト化抗体である。本明細書で使用される場合、「ヒト化」は、CDR領域外のアミノ酸の一部、ほとんど又は全部が、ヒト免疫グロブリン分子由来の対応するアミノ酸で置き換えられた抗体を表す。ヒト化の方法としては、限定されないが、米国特許第4,816,567号、米国特許第5,225,539号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,693,762号及び米国特許第5,859,205号(これらは、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されているものが挙げられる。
【0021】
いくつかの実施態様では、抗体は完全ヒト抗体である。完全ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の大部分についてトランスジェニックなマウスを免疫化することにより調製され得る。例えば、米国特許第5,591,669号、米国特許第5,598,369号、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,545,807号、米国特許第6,150,584号及びそれらで引用されている参考文献(これらの内容は、参照により本明細書に組み入れられる)を参照のこと。
【0022】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は抗体フラグメントである。本明細書で使用される場合、「抗体フラグメント」という用語は、(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布により)抗原のエピトープと特異的に相互作用する能力を保持するインタクトな抗体の少なくとも1つの部分、好ましくはインタクトな抗体の抗原結合領域又は可変領域を指す。抗体フラグメントの例としては、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)、Fvフラグメント、一本鎖抗体分子、特にscFv抗体フラグメント、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、VHドメインとCHIドメインとからなるFdフラグメント、線状抗体、単一ドメイン抗体、例えばsdAb(VL又はVHのいずれか)など、ラクダVHHドメイン、抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体、例えばヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントなど及び抗体の単離されたCDR又は他のエピトープ結合フラグメントが挙げられる。抗原結合フラグメントはまた、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR及びビス-scFvに組み込まれ得る(例えば、Hollinger and Hudson, Nature Biotechnology 23:1126-1136, 2005を参照のこと)。抗原結合フラグメントはまた、ポリペプチドをベースとする足場、例えばフィブロネクチンタイプIIIに移植され得る(フィブロネクチンポリペプチドミニボディについて記載する米国特許第6,703,199号を参照のこと)。抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと称される2つの同一の抗原結合フラグメントと、残りの「Fc」フラグメント(容易に結晶化する能力を反映する名称)とを産生する。
【0023】
本発明の抗体のフラグメント及び誘導体(これらは、特に記述又は文脈上明確な矛盾がない限り、本出願で使用される「抗体」という用語に包含される)は、当技術分野で公知の技術により生産され得る。「フラグメント」は、インタクトな抗体の部分、一般には抗原結合部位又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2及びFvフラグメント;ダイアボディ;連続アミノ酸残基の1つの非中断配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体フラグメント(本明細書では「一本鎖抗体フラグメント」又は「一本鎖ポリペプチド」と称される)、限定されないが(1)一本鎖Fv分子、(2)1つの軽鎖可変ドメインのみを含有する一本鎖ポリペプチド又は軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含有するそのフラグメントであって、会合した重鎖部分を有しないもの及び(3)1つの重鎖可変領域のみを含有する一本鎖ポリペプチド又は重鎖可変領域の3つのCDRを含有するそのフラグメントであって、会合した軽鎖部分を有しないもの;並びに抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられる。本発明の抗体のフラグメントは、標準的な方法を使用して得られ得る。
【0024】
例えば、Fab又はF(ab’)フラグメントは、従来の技術にしたがって、単離された抗体のプロテアーゼ消化により生産され得る。公知の方法を使用して免疫反応性フラグメントを改変して、例えば、in vivoのクリアランスを遅延させ、より望ましい薬物動態プロファイルを得ることができると認識され、フラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)で改変され得る。PEGをFab’フラグメントにカップリング及び部位特異的にコンジュゲーションするための方法は、例えば、Leong et al., Cytokines 16 (3): 106-119 (2001)及びDelgado et al., Br. J. Cancer 5 73 (2): 175- 182 (1996)(これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。
【0025】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は一本鎖抗体である。本明細書で使用される場合、「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、軽鎖を生来的に欠くラクダ科哺乳動物に見られ得るタイプの抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体もまた「nanobody(登録商標)」である。
【0026】
いくつかの実施態様では、抗体は、ヒト重鎖定常領域配列を含むが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導しない。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、FcgRIIIA(CD16)ポリペプチドに実質的に結合することができるFcドメインを含まない。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、Fcドメインを欠く(例えば、CH2及び/又はCH3ドメインを欠く)か、又はIgG2若しくはIgG4アイソタイプのFcドメインを含む。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ、一本鎖抗体フラグメント、又は複数の異なる抗体フラグメントを含む多重特異性抗体からなるか又はそれらを含む。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、毒性部分に連結されていない。いくつかの実施態様では、抗体が、変化したC2q結合及び/又は減少若しくは無効化した補体依存性細胞傷害(CDC)を有するように、アミノ酸残基から選択される1つ以上のアミノ酸は異なるアミノ酸残基で置き換えられ得る。このアプローチは、ldusogieらによる米国特許第6,194,551号にさらに詳細に記載されている。
【0027】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下の参考文献(これらの内容は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている18A4又はヒト化形態の前記抗体を含むその誘導体形態の1つである:
-Guo, Hao, et al. “A humanized monoclonal antibody targeting secreted anterior gradient 2 effectively inhibits the xenograft tumor growth.” Biochemical and biophysical research communications 475.1 (2016): 57-63.
-Guo, H., et al. “Tumor-secreted anterior gradient-2 binds to VEGF and FGF2 and enhances their activities by promoting their homodimerization.” Oncogene 36.36 (2017): 5098.
-Qudsia, Sehar, et al. “A novel lentiviral scFv display library for rapid optimization and selection of high affinity antibodies.” Biochemical and biophysical research communications 499.1 (2018): 71-77及び
-米国特許出願公開第20140328829号Dawei Li, Zhenghua Wu, Hao GuoQi Zhu, Dhahiri S. Mashausi “Agr2 blocking antibody and use thereof”
【0028】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、マウス抗ヒトモノクローナル抗体18A4又はそのヒト化若しくはキメラ形態である。18A4抗体は、the Wuhan University, Luojiashan, Wuchang, Wuhan, Hubei Provinceの住所においてCCTCC-C200902の寄託番号で2009年1月19日にChina Center of Type Cell Collection (CCTCC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株から入手可能である。
【0029】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、AGR2のプロテインジスルフィドイソメラーゼ活性ドメイン内に位置するエピトープに結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号2(PLMIIHHLDECPHSQALKKVFA)に示されているアミノ酸配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22個を含むエピトープに結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号2に示されているエピトープに結合する。
【0030】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:
H-CDR1:DYNMD(配列番号3)
H-CDR2:DINPNYDTTSYNQKFQG(配列番号4)
H-CDR3:SMMGYGSPMDY(配列番号5)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む重鎖を含む。
【0031】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:
L-CDR1:RASKSVSTSGYSYMH(配列番号6)
L-CDR2:LASNLES(配列番号7)
L-CDR3:QHIRELPRT(配列番号8)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む軽鎖を含む。
【0032】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3の少なくとも1つを含む重鎖、並びに/又は以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3の少なくとも1つを含む軽鎖を含む。
【0033】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む。
【0034】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号9:QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTDYNMDWVRQAPGQGLEWIGDINPNYDTTSYNQKFKGKATLTVDKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARSMMGYGSPMDYWGQGTLVTVSSに示されている重鎖を含む。
【0035】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、位置65、67、68及び70における4つの置換により突然変異された配列番号9に示されている重鎖を含み、前記置換は、
-位置65のリジン(K)がグルタミン(Q)に変更され、
-位置67のリジン(K)がアルギニン(R)に変更され、
-位置68のアラニン(A)がバリン(V)に変更され、
-位置70のロイシン(L)がメチオニン(M)に変更されることを特徴とし、
位置の番号は、Kabatナンバリングシステムに対応する。
【0036】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号10:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASKSVSTSGYSYMHWYQQKPGQAPRLLIYLASNLESGIPARFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQHIRELPRTFGGGTKLEIKに示されている軽鎖を含む。
【0037】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、Arumugam, Thiruvengadam, et al. “New Blocking Antibodies against Novel AGR2-C4. 4A Pathway Reduce Growth and Metastasis of Pancreatic Tumors and Increase Survival in Mice.” Molecular cancer therapeutics 14.4 (2015): 941-951(この内容は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている抗体の中から選択される。
【0038】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号11(IHHLDECPHSQALKKVFAENKEIQKLAEQ)に示されているアミノ酸配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27又は28個を含むエピトープに結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号11に示されているエピトープに結合する。
【0039】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:
H-CDR1:NYGMN(配列番号12)
H-CDR2:WINTDTGKPTYTEEFKG(配列番号13)
H-CDR3:VTADSMDY(配列番号14)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む重鎖を含む。
【0040】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:
L-CDR1:RSSQSLVHSNGN(配列番号15)
L-CDR2:IYLH(配列番号16)
L-CDR3:SQSTHVPLT(配列番号17)
の少なくとも1つ又は少なくとも2つを含む軽鎖を含む。
【0041】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3の少なくとも1つを含む重鎖、並びに/又は以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3の少なくとも1つを含む軽鎖を含む。
【0042】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む。
【0043】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、AGR2への結合について、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体と交差競合する。
【0044】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、AGR2への結合について、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体と交差競合する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「交差競合する」という用語は、抗原の特定の領域に結合する能力を共有するモノクローナル抗体を指す。本開示では、「交差競合する」モノクローナル抗体は、標準的な競合結合アッセイにおいて、抗原に対する別のモノクローナル抗体の結合に干渉する能力を有する。非限定的な理論によれば、このようなモノクローナル抗体は、それが競合する抗体と同じ又は関連する又は近くの(例えば、構造的に類似する又は空間的に近接する)エピトープに結合し得る。抗体Aが抗体Bの結合を、前記抗体の1つを欠くポジティブコントロールと比較して少なくとも60%、具体的には少なくとも70%、より具体的には少なくとも80%減少させる場合(その逆も同様である)、交差競合は存在する。当業者が認識するように、競合は、異なるアッセイ設定で評価され得る。1つの適切なアッセイは、表面プラズモン共鳴技術を使用して相互作用の程度を測定し得る(例えば、BIAcore 3000機器(Biacore, Uppsala, Sweden)を使用することによる)Biacore技術の使用を伴う。交差競合を測定するための別のアッセイは、ELISAベースのアプローチを使用するもの。さらに、交差競合に基づく「ビニング」抗体のハイスループットプロセスは、国際公開公報第2003/48731号に記載されている。
【0046】
本発明によれば、上記交差競合抗体は、以下のCDR:i)配列番号3(DYNMD)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号4(DINPNYDTTSYNQKFQG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号5(SMMGYGSPMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号6(RASKSVSTSGYSYMH)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号7(LASNLES)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号8(QHIRELPRT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体の活性を保持する。
【0047】
本発明によれば、上記交差競合抗体は、以下のCDR:i)配列番号12(NYGMN)に示されているVH-CDR1、ii)配列番号13(WINTDTGKPTYTEEFKG)に示されているVH-CDR2及びiii)配列番号14(VTADSMDY)に示されているVH-CDR3を含む重鎖、並びに以下のCDR:i)配列番号15(RSSQSLVHSNGN)に示されているVL-CDR1、ii)配列番号16(IYLH)に示されているVL-CDR2及びiii)配列番号17(SQSTHVPLT)に示されているVL-CDR3を含む軽鎖を含む抗体の活性を保持する。
【0048】
当技術分野で周知の任意のアッセイは、交差競合抗体が所望の活性を保持するかを同定するために適切であろう。例えば、単球遊走を妨げる能力を決定することからなる実施例に記載されているアッセイは、抗体が前記能力を保持するかを決定するために適切であろう。
【0049】
「治療有効量」は、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比における粘膜炎症性疾患の処置のための本発明の薬剤の十分な量を意味する。化合物の1日総使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で担当医師により決定されると理解されよう。任意の特定の被験体のための特定の治療有効用量レベルは、被験体の年齢、体重、一般健康、性別及び食事;投与時間、投与経路及び用いられる特定の化合物の排泄速度;処置期間;用いられる特定のポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知の類似の要因を含む様々な要因に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされるものよりも低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは当技術分野の技能範囲内であることが周知である。しかしながら、製品の1日投与量は、0.01~1,000mg/成人/日の幅広い範囲で変動し得る。好ましくは、組成物は、処置すべき被験体への投与量の症候性調整のために、活性成分 0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgを含有する。医薬は、典型的には、活性成分 約0.01~約500mg、好ましくは活性成分 1mg~約100mgを含有する。有効量の薬物は、通常、0.0002mg/kg~約20mg/体重kg/日、特に約0.001mg/kg~7mg/体重kg/日の投与量レベルで供給される。
【0050】
典型的には、本発明の薬剤を薬学的に許容し得る賦形剤及び場合により持続放出マトリックス、例えば生分解性ポリマーと組み合わせて、医薬組成物を形成し得る。「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の又は他の厄介な反応を生じさせない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、非毒性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、封入材料又は任意のタイプの製剤化助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物では、活性成分は単独で、又は別の活性成分と組み合わせて、単位投与形態で、慣例的な薬学的支持体との混合物として動物及びヒトに投与され得る。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁液又は溶液、舌下及び頬側投与形態、エアゾール、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下腔内及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含む。典型的には、医薬組成物は、注射されることができる製剤にとって薬学的に許容し得るビヒクルを含有する。これらは、特に、等張滅菌生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど又はこのような塩の混合物)であり得るか、又は場合に応じて滅菌水若しくは生理食塩水の添加により注射液の構成を可能にする乾燥(特に、凍結乾燥)組成物であり得る。注射用途に適切な医薬形態としては、滅菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び滅菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、前記形態は滅菌のものでなければならず、容易なシリンジ利用性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から防腐されていなければならない。遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩として本発明の化合物を含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中で、並びに油中で調製され得る。保存及び使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の成長を防止する保存剤を含有する。本発明の薬剤は、中性又は塩形態の組成物に製剤化され得る。薬学的に許容し得る塩としては、(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)酸付加塩が挙げられ、これは、無機酸、例えば塩酸若しくはリン酸など又は有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などで形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩もまた、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム又は水酸化鉄及び有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどから誘導され得る。担体はまた、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、及び界面活性剤の使用により維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することによりもたらされ得る。滅菌注射液は、必要量の活性化合物を適切な溶媒中に、必要であれば上記に列挙されている他の成分のいくつかと共に組み込み、続いて、滅菌濾過することにより調製される。一般に、分散液は、基本分散媒と、上記に列挙されているものからの必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクルに様々な滅菌活性成分を組み込むことにより調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、典型的な調製方法は、予め滅菌濾過されたその溶液から活性成分と任意のさらなる所望の成分との粉末をもたらす真空乾燥及び凍結乾燥技術である。溶媒としてのDMSOの使用が極めて迅速な浸透をもたらし、高濃度の活性剤を小さな腫瘍領域に送達することが想定される場合、直接注射のためのより多くの又はより高濃度の溶液の調製も企図される。製剤化により、溶液は、投与製剤と適合するように、及び治療的に有効な量で投与されるであろう。製剤は、様々な剤形で、例えば上記タイプの注射液で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども用いられ得る。水溶液による非経口投与の場合、例えば、溶液を必要な場合には適切に緩衝化すべきであり、最初に、十分な生理食塩水又はグルコースを用いて液体希釈剤を等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適切である。これに関連して、用いられ得る滅菌水性媒体は、本開示を考慮して当業者には公知であろう。処置されている被験体の症状に応じて、投与量のいくらかの変動は必然的に起こるであろう。いずれにしても、投与責任者は、個々の被験体のための適切な用量を決定するであろう。
【0051】
本発明は、以下の図及び実施例によりさらに例証される。しかしながら、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図1B】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図1C】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図1D】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図1E】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図1F】eAGR2媒介性単球誘引。A)新たに単離したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAGR2 AA突然変異体を過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、FCS/SSCパラメータ又はCD14単球マーカーを使用してフローサイトメトリーにより、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。B及びC)新たに単離したPBMCを、TMED2及びAGR2 WT(B)又はAGR2 AA突然変異体(C)のいずれかを過剰発現する細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。D)新たに単離したPBMCを、TMED2についてサイレンシングした細胞により馴化した培地に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。次いで、図1Aに示されているように、遊走細胞を特性評価及び定量した。(*):p<0.05。E)新たに単離したPBMCを、漸減用量のリコンビナントAGR2に対するボイデンチャンバーに入れ、24時間インキュベーションした。単球遊走のポジティブコントロールとしてCCL2サイトカインを使用した。ns:統計的に非有意、(*):p<0.05、(**):p<0.01、(***):p<0.005。F)上記のようにボイデンチャンバーを使用して、AGR2媒介性単球遊走に対するAGR2遮断抗体の影響を試験した。リコンビナントヒトAGR2の濃度は200ng/mlであり、漸減量の抗体を20μg~1μgで使用した。無関係な抗体(アイソタイプ)を最大用量 20μgで使用した。データは、3回の独立した実験の代表である。
図2】ボイデンチャンバーを使用して、単球化学誘引アッセイを実施した。AGR2媒介性単球化学誘引に対する3つの抗AGR2抗体(クローン1C3, Abnova (10ug); sc54569, Santacruz biotech (10ug); 自作抗体 (Pr Ted Hupp, CRUK) Mab3.4 (漸増用量))の影響を試験した。ナイーブ遊走は白色囲み枠で示されており、CCL2媒介性化学誘引はポジティブコントロールとして使用されている。AGR2媒介性化学誘引が示されている。アイソタイプ抗体(abnova)はネガティブコントロール(ISO)として使用されている。
【実施例
【0053】
方法:
材料-(2μg/mlで又は別途示されているように使用した)チュニカマイシンはCalbiochem (Guyancourt, France)からのものであり、(500nMで又は別途示されているように使用した)タプシガルギンはCalbiochemからのものであり、(5mMで又は別途示されているように使用した)アゼチジン-2-カルボン酸及び(0.5mMで又は別途示されているように使用した)DTTはSigma (St. Louis, MO, USA)からのものであった。siRNAライブラリーは、RNAi(http://rnai.co.jp/lsci/products.html)からのものであった。DSPは、Thermo-Fisher - Pierce (Villebon-sur-Yvette, France)からのものであった。
【0054】
プラスミド構築物-この報告で使用した構築物は、pcDNA5/FRT/TO(Invitrogen)プラスミドに由来するものであった。標準的なPCR及び制限ベースのクローニング手順により、IRE1の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインをコードするセグメントをpcDNA5/FRT/TOプラスミドにクローニングした。Gateway(商標)クローニング技術(Life Technologies)を使用して、hORFeomev8.1に存在するベイト及びプレイをpcDNA5/FRT/TO/IRE1に直接移入した。QuickChange(登録商標)II部位特異的突然変異誘発キット(Agilent Technologies)を用いてPCR突然変異誘発により、突然変異体構築物を得た。XBP1スプライシングレポーターは、以前に記載されているものであった(Samali et al., 2010)。hTMED2発現プラスミドは、Sino Biological (HG13834-CF)から入手した。GFP-LC3プラスミドは、Dr P. Codogno (Paris, France)からの寄贈であった。AGR2 cDNA(WT、E60A、Δ45及びAA)はGenewiz (Sigma-Aldrich)から入手し、pcDNA3.1プラスミドにクローニングした。
【0055】
siRNAスクリーニング-ER常在タンパク質 274個をターゲティングする特注のsiRNAライブラリーを使用して、スクリーニングを実施した。HEK293T細胞 5000個をブラック96ウェルプレートに播種した。1日後、リン酸カルシウム沈殿手順を使用して、AGR2/WTベイト 200pg、siRNA 1.5pmol及びXBP1ルシフェラーゼレポーター 3ngを細胞にトランスフェクションした。並行して、AGR2 WTベイトの非存在下でsiRNA及びXBP1ルシフェラーゼレポーターをトランスフェクションすることにより、カウンタースクリーニングを実施した。トランスフェクションの2日後、EnVisionマルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA, USA)で化学発光により、ルシフェラーゼ活性を測定した。生の値をlog2変換し、プレートの平均シグナルに対して正規化した。各反復について、プレートの負の平均シグナルを別々に差し引き、分位正規化を実施した。T検定及びクラスカル・ワリス検定統計分析を実施して、有意な候補のリストを選択した。
【0056】
患者及びサンプルの分析-ヒト上行結腸及び回腸の生検は、Beaujon HospitalのIBD消化器科から入手した。プロトコールは地域倫理委員会と合意したものであり(CPP-Ile de France IV No. 2009/17)、参加前に全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。(2012~2015年に連続して)健常コントロール 32人、UCを有する患者 8人及びCDを有する患者 40人を選択し、この研究に含めた。古典的な臨床的特徴並びに放射線学的、内視鏡的及び組織学的所見に基づいて、全ての患者を診断した。右結腸又は回腸末端の非炎症領域から全ての生検を採取し、専門GI病理医が分析した。非罹患領域は、炎症のいかなる肉眼的/内視鏡的及び組織学的な兆候も有しない粘膜領域として定義した。組織転写プロファイルを保存するために、生検標本をRNA抽出まで-80℃で保存した。
【0057】
免疫組織化学。結腸のパラフィン包埋切片をキシレンで脱パラフィン処理し、再水和し、内因性ペルオキシダーゼ除去のために3%過酸化水素中でインキュベーションし、抗原回復のために沸騰10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中で10分間加熱した。次いで、ImmPRESS試薬キット(VectorLaboratories)を使用して、切片を処理した。CD163(AbCam, ab87099)、TMED2(Santa Cruz Biotechnology, sc-376459)及びAGR2(Novus Biologicals, NBP1-05936)に対する一次抗体を使用した。
【0058】
結果:
AGR2は、小胞体中で、ストレスによりレギュレーションされるホモ二量体を形成する
構造研究は、AGR2が、それぞれ残基E60(データは示さず)及びC81(Patel et al., 2013; Ryu et al., 2012)を介して二量体を形成することを示した。分子動力学を使用して、E60がAGR2二量体化に関与する結果を確認した(データは示さず)。分子モデリングアプローチを使用して、AGR2の二量体対単量体の平衡も調査した。実際、野生型及び突然変異体二量体の200ns分子動力学シミュレーションを実施することにより、E60A突然変異体の減少した二量体安定性を検証した(データは示さず)。各単量体のE60は、他の単量体のK64への塩橋を形成することにより、二量体を安定化する。WT系は依然として、シミュレーション全体を通じて安定であるのに対して、E60A突然変異体形態は、相互作用エネルギーの喪失に付随して、RMSD(回転半径及び距離測定)の増加により確認されるように急速に解離する。これらの結果は、AGR2が単量体及びホモ二量体形態の両方で存在し得ることを示している。
【0059】
本発明者らの細胞モデルにおけるAGR2の二量体化を検証するために、以前に検証されたAGR2に対するsiRNA(Higa et al., 2011)及びその対応するコントロールsiRNAを細胞にトランスフェクションした。次いで、化学架橋剤DSPで細胞を処理した。非還元(データは示さず)又は還元(データは示さず)条件のいずれかで架橋タンパク質を分離し、ウエスタンブロットにより分析した。データは、AGR2がホモ二量体として主に存在することを明らかにした。また、AGR2はER中のタンパク質品質コントロールに関与するので(Higa et al., 2011)、本発明者らは、AGR2二量体化に対するERホメオスタシス破壊の影響を評価した。ツニカマイシン処理細胞のDSP媒介性タンパク質架橋は、AGR2ホモ二量体が、ツニカマイシンにより誘導されたERストレスで消失したのに対して、総AGR2発現レベルが有意に変化しなかったことを明らかにした(データは示さず)。
【0060】
AGR2が二量体化する機構をさらに精査するために、本発明者らは、ERMITアッセイを開発した(データは示さず)。ERMITは、既存のER-MYTH酵母アッセイ(Jansen et al., 2012)を適合させた、IRE1シグナル伝達経路の機能的相補性に基づく哺乳動物ツーハイブリッド法である。IRE1は、通常、分子シャペロンBiPとのその会合により、不活性状態で維持される。ER中のミスフォールディングタンパク質の蓄積により、ERストレスが発生し、IRE1は、BiPへの結合についてそれらのタンパク質と競合する。活性化されると、IRE1は、2つのコンセンサス部位でXBP1 mRNAを切断して、非在来型のスプライシング反応を開始させる。このスプライシングmRNAは、機能的XBP1転写因子の生成につながる(Hetz et al., 2015)。ERMITアッセイでは、IRE1の管腔ドメインを異なるベイトタンパク質で置き換え(データは示さず)、ERストレスとは無関係に、ベイト及びプレイ相互作用がIRE1活性化及びそれに続くXBP1スプライシングにつながる。XBP1スプライシングルシフェラーゼレポーター系により、このスプライシングをモニタリングする(Hetz et al., 2015)。
【0061】
AGR2がER中で二量体化するかを決定するために、本発明者らは、IRE1の管腔ドメインをAGR2野生型(WT)又は2つのAGR2二量体化不活性突然変異体(E60A、C81A又はE60A/C81A二重突然変異体(DM))で置き換えた。IRE1の膜貫通及びWT又はキナーゼ失活(KD)細胞質ドメインをポジティブコントロールとして使用した。これらのAGR2-IRE1キメラ構築物をHEK293T細胞にトランスフェクションし、ウエスタンブロット(データは示さず)及び免疫蛍光顕微鏡法(データは示さず)により、それらの発現及びERへの局在を検証した。次いで、異なるAGR2ベイトをトランスフェクションしたHEK293T細胞により産生されたERMITシグナルを定量した(データは示さず)。IRE1過剰発現はその自動活性化を誘導するので(Hetz et al., 2015)、少量のトランスフェクションプラスミドを使用してERMITアッセイを最適化して、IRE1自動活性化が検出不可能であることを保証した。活性化アッセイの有効性の確認では、全てのIRE1 KDベイトが発光シグナルを90%超減少させたが(データは示さず)、これは、観察されたシグナルが内因性IRE1の活性化によるものではなかったことを裏付けている。AGR2-WTベイトは最も高いシグナルを産生したが、これは、AGR2の二量体化がER中で起こったことを示している。C81A突然変異体は、AGR2-WTと比べてシグナルの25%の減少を示したのに対して、E60A又はDMはシグナルを約80%減少させた。これは、AGR2がER中で二量体化すること、及びE60残基がこのin vivo相互作用において重要な役割を果たすのに対して、C81がそうではないことを実証している。また、DTT処理により誘導されたERストレスは、試験した全ての構築物について観察された発光の減少により評価されるように、AGR2ホモ二量体の用量依存的解離を示した(データは示さず)。タプシガルギン又はツニカマイシンによりERストレスを誘導したところ、同じ結果が観察された(データは示さず)。次いで、各ERストレッサーについて、IC50を計算した(データは示さず)。
【0062】
また、35S-メチオニンパルスチェイス及びそれに続くAGR2免疫沈降を使用して、ERにおけるストレス関連AGR2機能を評価して、他のパートナーへのAGR2結合のダイナミクスを調査した。HeLa細胞においてこの方法を使用して、5つのAGR2結合パートナーを可視化した(データは示さず)。興味深いことに、これらのタンパク質とAGR2との会合の動態は、基本及びERストレス条件の間で異なっていた。バンド2、3及び4に対応するタンパク質とAGR2との会合は、ERストレスにより不安定化したが、バンド1及び5に対応するタンパク質のものは安定化した(データは示さず)。これらのデータは、タンパク質フォールディング需要が細胞フォールディング能力を超えない場合に、AGR2がホモ二量体として主に存在するモデルを本発明者らに提案したが、ストレスの場合、AGR2ホモ二量体は解離してそれらのシャペロン/品質コントロール特性を明らかにする。また、本発明者らのデータはまた、単量体対二量体AGR2の比が、ERタンパク質恒常性を選択的にコントロールするための強力な手段に相当し得ることを示唆している。
【0063】
AGR2二量体レギュレーターの同定及びTMED2の機能的特性評価
AGR2二量体対単量体状態をレギュレーションする機構を特性評価するために、本発明者らは、特定のERMITベースのsiRNAスクリーニングを設計し、ER常在タンパク質 274個をターゲティングする特注のsiRNAライブラリーの影響を試験した(データは示さず)。カウンタースクリーニングは、XBP1sレポーターのみをトランスフェクションした細胞を使用した(データは示さず)。本発明者らは、AGR2二量体形成を正又は負にモデュレーションするsiRNAを同定し、二量体化のインヒビター又はエンハンサーとして作用するタンパク質の同定を可能にした。候補AGR2ホモ二量体エンハンサー(42個)又はインヒビター(29個)に相当するタンパク質 合計71個を同定した(データは示さず)。これらの候補の遺伝子オントロジー及びReactomeアノテーションに基づく機能経路分析は、タンパク質生産的フォールディング及びERADプロセスでは、AGR2ホモ二量体エンハンサーが強化されており、カルシウムホメオスタシス、ERストレス及び細胞死プロセスに関連する機能では、AGR2ホモ二量体インヒビターが有意に強化されていたを明らかにした(データは示さず)。注目すべきことに、二量体エンハンサー(データは示さず)又はインヒビター(データは示さず)間では、高いネットワーク接続性が観察されたが、それは、二量体の場合には生産的タンパク質フォールディング及び単量体の場合にはミスフォールディングタンパク質(ストレス)の管理におけるAGR2機能を裏付けている。これらのデータはまた、本発明者らの主な仮説を裏付けており、ERの適切な機能におけるAGR2二量体化コントロールの重要性を補強している。
【0064】
スクリーニングで見出されたAGR2二量体化の正のレギュレーター(データは示さず)の中で、本発明者らは、カーゴレセプターとして機能することが以前に示されている(Barlowe, 1998)p24ファミリーメンバーであるTMED2を同定した。また、酵母S.cerevisiaeにおけるp24ファミリーメンバーは、AGR2が属するタンパク質ファミリーであるPDIと相互作用することが示された(データは示さず)。TMED2とAGR2との間の機能的相互作用をさらに特性評価するために、本発明者らは、最初に、これら2つのタンパク質が複合体で見られ得るかを評価した。このため、HEK293Tコントロール細胞若しくはツニカマイシンで処理した細胞(データは示さず)から、又はツニカマイシンによる処理の前後のマウス結紮結腸ループモデル(データは示さず)から、基本及びERストレス条件下で共免疫沈降を行った。この組織では、AGR2及びTMED2は両方とも高発現されるので、マウス結腸を選択した。in vitro及びin vivoの両方で、AGR2は、ERストレスにより解離したTMED2との複合体で見出された(データは示さず)。この観察結果は、基本及びストレス条件下で、AGR2が異なる機能的複合体で存在することを示唆しており、結果は、AGR2が、ERへの輸入、ゴルジ装置への輸出又はERADに主に寄与していた本発明者らのsiRNA及びプロテオミクススクリーニング(Higa et al., 2011)により裏付けている(データは示さず)。広範なタンパク質間ドッキングを使用して、AGR2単量体及び二量体とTMED2との相互作用の可能性を調査した(データは示さず)。TMED2とAGR2単量体との間の同定された相互作用配向は大部分が不安定であり、AGR2二量体形成の可能性を遮断するであろう(データは示さず)。他方、TMED2とAGR2二量体との間のドッキングは、TMED2がN末端/二量体界面領域で両AGR2単量体と同時に相互作用し(データは示さず)、2つの構造と静電表面との間の完全な相補性が認められる(データは示さず)いくつかの配座異性体を描写した。次に、本発明者らは、AGR2ホモ二量体化のTMED2レギュレーションの根本的な機構を調べた。TMED2過剰発現は、DSP媒介性架橋を使用して評価したところ、AGR2ホモ二量体形成の増強につながった(データは示さず)。TMED2とAGR2との間の相互作用の機能的役割をさらに特性評価するために、本発明者らは、TMED2と相互作用することができない突然変異体AGR2であって、それにより、TMED2機能に直接影響を及ぼさない突然変異体AGR2を生成しようとした。この目的のために、分子モデリングアプローチを行って、TMED2-AGR2相互作用に関与するアミノ酸残基を同定して、K66及びY111が重要な役割を果たし得ることを明らかにした(データは示さず)。このため、K66及びY111をアラニン残基に突然変異させ(以下、AGR2 AAと称される)、共免疫沈降を使用して、AGR2とTMED2との間の相互作用を評価した。予想通り、AGR2w及びTMED2は共免疫沈降したのに対して、TMED2とAGR2 AAとの間の相互作用は損なわれた(データは示さず)。次に、本発明者らは、AGR2レベルに対するTMED2発現変化の影響をモニタリングした。興味深いことに、TMED2の過剰発現は、AGR2発現の減少(データは示さず)及びERMITシグナルの減少につながり、これは発現の喪失と相関する(データは示さず)。対照的に、TMED2のサイレンシングは、ERMITシグナルの減少ではなくAGR2発現の増強(データは示さず)につながり、これは有効な二量体化阻害を示す(データは示さず)。
【0065】
AGR2の二量体化能力はそのシャペロン機能に影響を及ぼさないが、その局在を変化させる
AGR2二量体化の機能的関連性を探るために、本発明者らは、AGR2がカーゴ分泌をどのようにレギュレーションするかを試験した。このため、プロテオミクス研究で報告された、AGR2と2つの原形質膜GPIアンカータンパク質CD59及びLYPD3との以前に記載されている相互作用を、単量体AGR2 E60Aをベイトとして使用し、CD59又はLYPD3のいずれかをプレイとして使用したERMITを使用して確認し、OS9をネガティブコントロールとして使用した(データは示さず)。さらに、本発明者らは、CD59 WT及び突然変異体形態CD59 C94Sを使用して、ER品質コントロール及びタンパク質分泌へのAGR2の寄与をモニタリングした。後者は、そのミスフォールディングにより、細胞膜にもはや効率的に輸出されず、発現レベルが同様であるにもかかわらず(データは示さず)、ER内腔に蓄積する(データは示さず)。本発明者らはまた、AGR2 WT及びAAが両方ともGFP-CD59 WT又はC94Sと相互作用したことを見出した(データは示さず)。興味深いことに、AGR2及びTMED2発現レベルの改変は、CD59分解及び輸送に影響を与えた(データは示さず)。実際、AGR2サイレンシングは、細胞内CD59 WT(25%)及びCD59 C94S(50%)の発現の減少につながり、それは、細胞表面における両タンパク質の発現に対してさらに影響を与えなかったが、それは、ERにおける品質コントロールにおける細胞内AGR2の役割を示唆している(データは示さず)。TMED2サイレンシングは、細胞内CD59(WT又はC94Sのいずれか)の発現の減少につながり、細胞表面発現についても同様の効果が観察された(データは示さず)。これらのデータは、AGR2とTMED2との間の相互作用がタンパク質フォールディング及び輸送に対して選択的なレギュレーションを発揮し、ERにおけるタンパク質品質コントロールに寄与することを示した。AGR2 AAの機能性を試験するために、レスキュー実験を行い、AGR2 WT又はAGR2 AAのいずれかの過剰発現が、全体的に及び細胞表面においてGFP-CD59(WT又はC94S)の発現を回復させたことを示したが(データは示さず)、それは、AGR2 AAが、ERフォールディング及び品質コントロール機構に参加するその能力を保全していたことを示している。
【0066】
さらに、本発明者らは、通常及びERストレス条件下におけるカーゴタンパク質の分泌に対するAGR2の影響を調査しようとした。AGR2ペプチド結合部位はアルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)に存在することを考慮して(データは示さず)、本発明者らは、AGR2がこのカーゴの分泌に影響を与えるかを試験した。本発明者らは、基本及びストレス条件下でイムノブロットにより、A1ATの分泌に対するAGR2のサイレンシングの効果を調べた(データは示さず)。基本条件下では、AGR2のサイレンシングはA1AT分泌の動態に影響を及ぼさなかったので、AGR2はA1ATの分泌に関与していなかった。しかしながら、ERストレス時において、AGR2の非存在下では、ERにおけるA1ATの保持は減少した。これは、AGR2がERホメオスタシスの感知にも関与し得ることを示唆している。最後に、AGR2の存在は、HT29細胞におけるMUC2の発現を安定化したが、これは、ERタンパク質恒常性におけるAGR2の重要な役割をさらに裏付けている。加えて、PTTIYYペプチド(AGR2結合;(Clarke et al., 2011))によるHT29細胞の処理は、ERストレス時にMUC2発現をレスキューしたが(データは示さず)、これは、MUC2品質コントロールにおけるAGR2/MUC2相互作用の重要性を示唆している。
【0067】
本発明者らは、iAGR2発現レベルに対するTMED2発現変化の影響を観察したので、本発明者らは、この現象に関与する根本的な分子機構を調査しようとした。最初に、細胞内AGR2(iAGR2;データは示さず)のレベルを減少させると思われるTMED2の過剰発現の効果は、ERAD薬理学的インヒビターにより低減されなかった(データは示さず)。しかしながら、本発明者らは、オートファジーが関与する代替的な分解機構によりこれが発生し(データは示さず)、クロロキン処理により低減されたことを見出した(データは示さず)。これは、TMED2過剰発現により誘導されるAGR2のリソソーム/オートファジー依存的分解を示した。しかしながら、本発明者らが細胞外環境でAGR2の存在を試験したところ、本発明者らは、予想外の電気泳動移動度を有する抗AGR2免疫反応性バンドを検出した(約37kDa、データは示さず)。これは、TMED2を過剰発現する細胞が異常な分泌特徴を示し得ることを示した。低温電子顕微鏡を使用して、TMED2過剰発現細胞により放出された不溶性物質であって、コントロール細胞と比較して細胞外小胞の非常に不均一なプロファイル(及びCD63染色)を示した不溶性物質を分析することにより、これを確認した(データは示さず)。まとめると、これらのデータは、TMED2の過剰発現が、異常なAGR2実体の放出を含む異常な分泌特徴につながることを示している。他方、TMED2サイレンシングは、AGR2の細胞内画分の増加をもたらし(iAGR2、データは示さず)、培地中のAGR2分泌の上昇を促進した(eAGR2;データは示さず)。最後に、本発明者らは、構成的単量体(E60A)又は二量体(Δ45)AGR2形態が分泌に関してどのように作用するかを試験した。本発明者らの結果は、AGR2 E60AがAGR2 WTよりも効率的に分泌され、逆に、AGR2 Δ45が細胞内に保持されたことを示している(データは示さず)。重要なことに、TMED2過剰発現又はサイレンシングは、AGR2 AAの分泌にさらに影響を与えなかったが(データは示さず)、それは、AGR2分泌に関するAGR2/TMED2相互作用の依存性を実証している。総合すると、これらの結果は、AGR2二量体対単量体状態の変化が、(変化した分泌物質の一部として、又は単量体として)細胞外環境におけるAGR2放出に影響を与えることを示している。
【0068】
AGR2二量体化コントロールの病態生理学的意味
AGR2は炎症に対する腸上皮の過敏性に関与していたので(Zhao et al., 2010)、及びTMED2は、AGR2二量体状態をレギュレーションすることが見出されたので、本発明者らは、変化したTMED2発現を示すマウスもまた腸表現型を示すと仮定した。この仮説を試験するために、本発明者らは、より低レベルのTMED2を発現するマウスの腸におけるAGR2及びMUC2の発現を評価した(ヘテロ接合欠損;(Hou et al., 2017))。興味深いことに、TMED2ハイポモルフマウスでは、慢性腸炎症の典型的な兆候、例えば粘膜分泌の喪失、炎症性細胞浸潤、並びに近位結腸及び回腸の両方における粘膜の過剰増殖が観察された(データは示さず)。さらに、TMED2ハイポモルフマウスは、WTマウスよりも低いAGR2及びMUC2の両方の全体的発現レベルを示し(データは示さず)、それにより、AGR2欠損マウスで観察された結果を部分的に表現型模写した。最近、本発明者らは、eAGR2が、EMTプログラムを誘導することにより細胞に対してシグナリング特性を発揮し得ることを示したように(Fessart et al., 2016)、及び本発明者らの細胞モデルでは、TMED2サイレンシングがeAGR2の放出の増強につながったので、本発明者らは、eAGR2もまた、炎症促進性細胞の化学誘引において役割を果たし得ると推論した。化学誘引におけるeAGR2の直接関与を決定するために、独立した健常ドナー 3人から精製したPBMCを、AGR2 WT、E60A、Δ45又はAAを過剰発現する細胞により馴化した培地に曝露した。AGR2が細胞外環境で見出された場合、すなわち、AGR2 WT、E60A又はAAをトランスフェクションした細胞由来の馴化培地を使用した場合にのみ、PBMCからの単球の化学誘引が観察された(図1A)。AGR2 WT若しくはAAを過剰発現し、同時にTMED2を過剰発現する細胞由来の培地(図1B及び1C)、TMED2についてサイレンシングした細胞由来の培地(図1D)、又はリコンビナントヒトAGR2(図1E)を使用した場合、同様の結果が得られた。注目すべきことに、AGR2遮断抗体は、全ての場合において、単球遊走を妨げることができた(図1B、1C、1F)。これらの実験は、全ての場合において、eAGR2が単球誘引を選択的に促進することができることを明らかにしたが、それは、eAGR2を炎症促進性表現型に関連付け、炎症促進性ケモカインとしての細胞外機能獲得型AGR2を解明している。まとめると、本発明者らの結果は、TMED2とAGR2との間の相互作用及び拡大により、AGR2の単量体対二量体状態を腸における炎症促進性表現型に関連付ける。ヒトIBDにおけるこれらの結果の関連性を試験するために、本発明者らは、最初に、IBD患者由来の結腸生検におけるAGR2二量体レギュレーターの病態生理学的関連性の発現レベルを評価した。最初に、健常コントロール、潰瘍性大腸炎(UC)を有する患者及びクローン病(CD)を有する患者(IBDの2つの主なクラス)由来の非炎症結腸生検において、上記で同定された候補 71個のうちの52個を試験した(データは示さず)。CDでは、遺伝子 52個のうちの12個のメッセンジャーRNA発現レベルが有意に異なることが見出されたが、UCでは、3個のみが有意差を示した(データは示さず)。結腸CD患者(CC)では、AGR2モデュレーターの発現の差異は増大した(データは示さず)。これらの知見を裏付けるために、健常コントロール及び回腸結腸CDを有する患者からなる検証コホートを使用して、目的の遺伝子 52個のmRNA発現レベルを評価した。CDを有する患者では、以前に同定された遺伝子 12個を含む遺伝子 14個が有意に異なっていたが、これは、最初の知見を裏付けている(データは示さず)。これは、健常コントロールからのCD患者の区別を可能にした(データは示さず)。また、機能強化分析は、CDでは、サイレンシングがAGR2二量体形成を破壊した遺伝子 6個がアップレギュレーション又はダウンレギュレーションされたこと(すなわち、TMED2、RPN1、KTN1、LMAN1、AMFR、AKAP6)、及びCDでは、サイレンシングがAGR2二量体化を促進した遺伝子 4個が体系的にダウンレギュレーションされたこと(すなわち、P4HTM、SYVN3、CES3、SCAP)を明らかにした。CD、主に正常腸上皮細胞では、TMED2 mRNA(データは示さず)及びタンパク質(データは示さず)発現が増加した。活動性(A)CDを有する患者では、TMED2過剰発現が検出され、結腸粘膜におけるCD163陽性マクロファージの高いリクルートと相関していた(データは示さず)。注目すべきことに、休止(Q)CDを有する患者は、AGR2全体染色の中程度の喪失を示したが、これはおそらく、その起こり得る分泌と相関していた(データは示さず)。これらのデータは、AGR2二量体化のレギュレーションが、CDで観察され得る結腸粘膜における炎症促進性反応及びマクロファージの濃縮に関連することを示している。活動性又は休止CDを有する患者における機能的マクロファージの多様性及び局所分布の精査は、AGR2の臨床的関連性をさらに定義するであろう。
【0069】
また、AGR2媒介性単球化学誘引に対する3つの抗AGR2抗体(クローン1C3, Abnova (10ug); sc54569, Santacruz biotech (10ug); 自作抗体 (Pr Ted Hupp, CRUK) Mab3.4 (漸増用量))の影響を試験した(図2)。AGR2遮断抗体は、単球遊走を妨げることができた。
【0070】
考察:
この研究で提示された結果は、ERでは、AGR2が単量体又は二量体構成で存在し、AGR2二量体対単量体状態のモデュレーションが、腸上皮細胞における新規ERタンパク質恒常性センサー機構に相当し得ることを示している。また、本発明者らは、タンパク質TMED2との相互作用を介してAGR2二量体化のレギュレーションの機構を同定する。さらに、本発明者らのデータは、炎症性細胞のリクルートにおけるAGR2の予想外の介入を部分的に通じて、AGR2二量体化の摂動をヒトにおける炎症性腸疾患に関連付ける。まとめると、本発明者らの結果は、ERタンパク質恒常性コントロールと炎症促進性全身性ストレス反応との間の分子関連性を立証しており、これは、異常な場合には、結腸における疾患状態として判明する。
【0071】
本発明者らは、最初に、過剰なAGR2二量体又はAGR2単量体が炎症促進性反応、すなわち全身適応反応をもたらすので、各形態の相対濃度が初期分泌経路の適切な機能に関連し得ると推論した。これに関連して、AGR2二量体及び単量体の相対的平衡の調節不全は、ERタンパク質恒常性不均衡の兆候であり得る。IBDとの関連では、初期分泌経路内のタンパク質ホメオスタシス及びUPRを介した摂動へのその適応は、疾患発症において重要な役割を果たすことが示されている(Grootjans et al., 2016)。本研究では、本発明者らは、AGR2がこのような適応機構の重要なプレーヤーであることを同定し、本発明者らはさらに、基本条件下では、AGR2がゴルジ輸出成分と主に相互作用して適切なタンパク質フォールディングを保証する一方、ERストレス中には、それがERAD装置と機能的複合体を形成して、ERからミスフォールディングタンパク質を排除することを実証した。また、この研究は、腸炎症の程度及びいくつかの特徴を定義することができる可能性がある初期事象として、AGR2状態、すなわち単量体対二量体均衡の同定を提供する。これは、過活動免疫消化器系による胃腸管の慢性炎症及び潰瘍を特徴とするIBDにとって特に魅力的である。本発明者らのデータは、AGR2二量体化の摂動が、そのクライアントタンパク質の変動的な発現レベルにより、IBD発症につながり得ることを示唆している。細胞外AGR2(これは、他のモデルで以前に見出されたように、上皮間葉移行マーカー13を誘導して、クローン病の特徴である線維症を促進し、一方では、損傷部位へのマクロファージのリクルートを促進して、非コントロール炎症のために組織をプレコンディショニングし得る)の放出を通じて、これはいくつかのレベルで実際に関連し得る。
【0072】
興味深いことに、本発明者らの結果はまた、AGR2とTMED2との間の相互作用が、二量体を安定化することにより、AGR2二量体化コントロールにおいて重要な役割を果たすことを立証している。適切に合成されない突然変異体形態のタンパク質のヘテロ接合性発現に起因するマウスにおけるTMED2発現の変化(Hou et al., 2017)は、結腸ホメオスタシス及び炎症の変化をもたらした。また、TMED2の過剰発現は活動性CDで検出され、細胞外環境では、オートファジー依存性AGR2放出を介した炎症にも関連し得る(Park et al., 2009; Zhao et al., 2010)。同様の機構を他のAGR2発現細胞、例えば膵臓、胆汁又は肺上皮に適用し得る。タンパク質恒常性不均衡は、腫瘍の攻撃性を駆動することができる主なガン特徴として浮かび上がったので(Chevet et al., 2015)、この研究からの知見は、ガン生物学にさらに適用可能であり得る。本発明者らの知見を考慮すると、AGR2二量体化のコントロールも同様に、ガン発生における関連因子であり得る。高いAGR2発現及び体液へのその分泌は多くガンタイプで報告されており、腫瘍形成促進性表現型及び患者転帰不良に関連していた(Brychtova et al., 2015; Chevet et al., 2013; Obacz et al., 2015)。しかしながら、ガン細胞におけるAGR2の主要形態が何であるか、AGR2二量体対単量体の形成がどのように正確にレギュレーションされるか、及びAGR2二量体化の生物学的/機能的結果は何であるか?について疑問が残る。これらの問題は、より深い調査を必要とする。まとめると、本発明者らのデータは、この区画におけるタンパク質恒常性境界のレギュレーションに寄与し、その変化が炎症促進性反応につながるAGR2などのERセンサーの存在の最初の証拠を提供する。
【0073】
参考文献:
本出願を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する最新技術を説明する。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表1】


図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
【配列表】
2022512626000001.app
【国際調査報告】