(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】二機能性融合タンパク質およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20220131BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220131BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220131BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20220131BHJP
C07K 16/22 20060101ALN20220131BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220131BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K38/16
A61P27/02
C07K7/08
C07K16/22
C12N15/62
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519734
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(85)【翻訳文提出日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 US2019055764
(87)【国際公開番号】W WO2020077169
(87)【国際公開日】2020-04-16
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521005971
【氏名又は名称】トリカン・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Trican Biotechnology Co., Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ホアン-ツー・チェン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ・ジウン-シヤン
(72)【発明者】
【氏名】スー・チョン-ユエン
(72)【発明者】
【氏名】リィ・チョン-クァ
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ユン-ティン
(72)【発明者】
【氏名】リン・リィ-ツェン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084BA01
4C084BA41
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、補体および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を同時に標的とする二機能性融合タンパク質を提供する。二機能性融合タンパク質は、ヒトタンパク質の2つ以上のドメインを含み、全てヒト配列のものであり、したがって非免疫原性であると予期され、補体およびVEGF関連疾患を標的とするヒトにおいて治療的に使用することができる可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体シグナル伝達経路および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)シグナル伝達経路、または両方を阻害する二機能性融合タンパク質であって、融合タンパク質が、補体C5開裂ブロッカー、VEGF阻害モチーフ、および接合点でのGSリンカーを含む、二機能性融合タンパク質。
【請求項2】
リンカーで融合される、1つ以上の補体C5結合モチーフ含有フラグメントおよび1つ以上のVEGF結合モチーフ含有フラグメントを含み、それにより補体および血管形成の阻害において、同時に、有意に改善された有効性を提供する、二機能性融合タンパク質。
【請求項3】
補体C5結合モチーフが、C-末端でVEGFトラップを有する該二機能性融合タンパク質を生成するために使用され、および短いリンカーがその間に挿入される、請求項2に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項4】
補体C5結合モチーフが、エクリズマブの重鎖である、請求項3に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項5】
VEGF結合モチーフが、VEGFR1 ECD D2およびVEGFR2 ECD D3 キメラドメインを含む、請求項3に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項6】
短いリンカーが、短いフレキシブルな(flexible)GSリンカーである、請求項3に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項7】
短いフレキシブルなGSリンカーが、配列番号3に示されているアミノ酸を有する、請求項6に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項8】
配列番号1に示されているアミノ酸を有する、請求項3に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項9】
VEGF結合モチーフが、間に短いリンカーを有する該二機能性融合タンパク質を構築するように、補体C5結合モチーフのC-末端で融合される、請求項2に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項10】
VEGF結合モチーフが、ラニビズマブFabの重鎖を含有するフラグメントである、請求項9に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項11】
補体C5結合モチーフが、エクリズマブのScFvフラグメントである、請求項9に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項12】
短いリンカーが、短いフレキシブルなGSリンカーである、請求項9に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項13】
短いフレキシブルなGSリンカーが、配列番号3に示されているアミノ酸を有する、請求項12に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項14】
配列番号2に示されているアミノ酸を有する、請求項9に記載の二機能性融合タンパク質。
【請求項15】
請求項1-14のいずれかに記載の融合タンパク質またはフラグメント、および薬学的に許容される担体を含む、補体およびVEGF関連疾患の処置のための医薬組成物。
【請求項16】
補体およびVEGF関連疾患が、アテローム性動脈硬化症、加齢黄斑変性症、急性心筋梗塞(AMI)、糸球体腎炎、喘息、血栓症、深部静脈血栓症、多発性硬化症、アルツハイマー病、自己免疫性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、多発性硬化症、糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、骨関節症、乾癬性関節炎、CNS炎症性疾患、重症筋無力症、糸球体腎炎、および自己免疫性血小板減少症、動脈瘤、非定型溶血性尿毒症症候群、自然胎児喪失、再発性胎児喪失、外傷性脳損傷、乾癬、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性血管浮腫、卒中、出血性ショック、敗血症性ショック、冠動脈バイパス移植(CABG)術のような手術による合併症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような肺の合併症、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、多臓器不全および癌からなる群から選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
補体およびVEGF関連疾患が、加齢黄斑変性症である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
処置を必要とする対象において補体およびVEGF関連疾患を処置するための方法であって、方法は、請求項1-14のいずれかに記載の二機能性融合タンパク質の治療有効量を該対象に投与することを含み、補体およびVEGF関連疾患は、アテローム性動脈硬化症、加齢黄斑変性症、急性心筋梗塞(AMI)、糸球体腎炎、喘息、血栓症、深部静脈血栓症、多発性硬化症、アルツハイマー病、自己免疫性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、多発性硬化症、糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、骨関節症、乾癬性関節炎、CNS炎症性疾患、重症筋無力症、糸球体腎炎、および自己免疫性血小板減少症、動脈瘤、非定型溶血性尿毒症症候群、自然胎児喪失、再発性胎児喪失、外傷性脳損傷、乾癬、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性血管浮腫、卒中、出血性ショック、敗血症性ショック、冠動脈バイパス移植(CABG)術のような手術による合併症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような肺の合併症、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、多臓器不全および癌からなる群から選択される、方法。
【請求項19】
補体およびVEGF関連疾患が、加齢黄斑変性症である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗C5抗体の重鎖がVEGFトラップと融合されるか、または抗VEGF抗体Fabの重鎖が抗C5抗体ScFvフラグメントと融合される、二機能性融合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
加齢黄斑変性症(AMD)は、米国および他の先進国において高齢者(>50歳)中の失明および視覚障害の主な原因である(1)。AMDの85%は、ドルーゼン(drusen)と呼ばれる細胞残屑が網膜と脈絡膜の間に蓄積する乾燥した(滲出性ではない)形態である。進行性乾性AMDにおいて、中心の地理的萎縮が起こり、眼の中心の視力が失われる。湿性(滲出性または新生血管)型のAMDは、異常な血管(脈絡膜血管新生、CNV)が脈絡膜から黄斑の後ろのブルッフ(Bruch)膜を通って成長し、急速な視力喪失をもたらす、より重症の型である。近年、補体活性化がAMDの病因に主要な役割を果たすことを示す証拠が増えている(2)。ドルーゼンにおいて高レベルの補体タンパク質が検出されている。遺伝学的研究により、H因子(CFH)、CFHR1、CFHR3、C2、C3、C5、B因子、I因子を含む補体タンパク質の遺伝子におけるAMDリスクと多型の関連が確認されている。特にCFH Y402H対立遺伝子はAMDリスクと高い相関がある。補体活性化産物のレベルの上昇は、AMD患者の血漿においても見られる。その結果、いくつかの補体阻害剤が現在、AMDの処置のために臨床試験中である。
【0003】
補体系は、多くの血漿タンパク質および細胞膜タンパク質からなる先天性免疫系の機能的エフェクターである。補体の活性化は、サイトカインの放出および活性化カスケードの増幅を誘発する一連のプロテアーゼ活性化カスケードにつながる。補体活性化の最終結果は、細胞殺傷性の膜侵襲複合体(MAC)の活性化、アナフィラトキシンC3aおよびC5aによって引き起こされる炎症、および病原体のオプソニン作用である。C5開裂によって開始されるMACは、侵入性病原体および損傷した、壊死性、およびアポトーシス性の細胞を排除するために不可欠である。
【0004】
病原体に対する防御および過剰な炎症の回避との間の微妙なバランスが、補体系についてなし遂げられる必要がある(3)。多くの炎症性、自己免疫性、神経変性および感染症は、過剰な補体活性と関連していることが示されている。虚血/再灌流障害の病因は、補体活性化が、急性心筋梗塞、卒中、出血性および敗血症性ショック、および冠状動脈バイパス移植手術の合併症を含む多くの疾患において炎症誘発性損傷をもたらすことを示している(4)。補体経路は、全身性エリテマトーデス(5)、リウマチ性関節炎、乾癬、および喘息(6)を含む多くの自己免疫疾患の主な原因のようである。補体活性化は、アルツハイマー病(7)および、ハンチントン病、パーキンソン病、およびAMD(8)などの他の神経変性疾患の病態とも相関している。
【0005】
補体系は、古典的経路、代替経路、およびレクチン経路の3つの異なる経路を介して活性化することができる(9)。3つの経路はすべて、補体成分C3およびC5をそれぞれ開裂するC3-転換酵素およびC5-転換酵素の重要なプロテアーゼ複合体を通過する。古典的経路は、C1qが抗体IgMまたはIgGに結合することによって開始され、補体成分C2およびC4を開裂して、C2a、C2b、C4a、およびC4bを生成するC1複合体の活性化をもたらす。次に、C4bおよびC2bは、古典的経路C3-転換酵素を形成し、C3のC3aとC3bへの開裂を促進する。次に、C3bは、C4bC2b(C3-転換酵素)に結合することによってC5-転換酵素を形成する。レクチン経路は、C3-転換酵素の下流の古典的経路と同一であり、病原体表面上のマンノース残基へのマンノース結合レクチン(MBL)の結合によって活性化される。次に、MBL関連セリンプロテアーゼMASP-1およびMASP-2は、C4およびC2を開裂して、古典的経路と同じC3-転換酵素を形成することができる。抗原を必要とする特異的免疫応答である古典的およびレクチン経路とは異なり、代替経路は、低レベルで継続的に活性である非特異的免疫応答である。C3の自発的な加水分解は、C3aとC3bにつながる。C3bはB因子に結合し、D因子を促進してB因子をBaとBbに開裂する。P因子(プロペルジン)の結合によって安定化することができるC3bBb複合体は、C3をC3aおよびC3bに開裂する代替経路のC3-転換酵素である。C3bはC3bBb複合体に結合して、代替経路のC5-転換酵素であるC3bBbC3b複合体を形成することができる。3つの経路すべてからのC5-転換酵素は、C5をC5aおよびC5bに開裂することができる。次に、C5bは、C6、C7、C7、C8、および複数のC9分子を動員して組み立て、MACを組み立てる。これにより、病原体または細胞を殺すまたは損傷する可能性のある穴や細孔が膜に作成される。
【0006】
補体タンパク質に対するいくつかのモノクローナル抗体が治療薬として使用されている(10)。C5タンパク質に対するヒト化抗体であるエクリズマブは、2007年に発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の処置に承認されている(特許は2021年3月16日に米国で、2020年5月1日にヨーロッパで失効する)。エクリズマブは、臨床でAMDを処置するために全身的に試験された。試験において忍容性は良好であったが、エクリズマブは臨床においてGA(AMDの進行型)の成長率を有意に低下させなかった。考えられる説明は、使用されたエクリズマブの投与量が少ないためか、エクリズマブが機能するのに十分なレベルを達成するために直接的な硝子体内注射が必要である可能性がある。ペキセリズマブおよびテシドルマブなどのいくつかの抗C5抗体は、現在、地図状萎縮、非感染性全ブドウ膜炎、滲出性黄斑変性症、非感染性後部ブドウ膜炎、および/または加齢黄斑変性症を処置するための試験においてテストされる。C5a(TNX-558)、D因子(TNX-234)、P因子、およびC3bに対する抗体が開発され、さまざまな疾患モデルで評価されている。さらに、ヒトC5のアプタマーインヒビター(ARC1905)およびC3に対する13アミノ酸の環状ペプチド(コンパスタチン)が、AMD疾患を処置するための臨床試験で評価されている。
【0007】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、血管形成を促進する最も重要なタンパク質の1つであり、既存の血管ネットワークから新しい血管を発達させる厳密に制御されたプロセスである(11)。ヒトVEGF遺伝子ファミリーは、5つのメンバーを含む:VEGF-A VEGF-B、VEGF-C、VEGF-Dおよび胎盤成長因子(PlGF)。加えて、VEGF-A、VEGF-B、およびPlGFの複数のアイソフォームは、選択的RNAスプライシングによって生成される(12)。VEGF-Aは、ファミリーの典型的なメンバーであり、最も研究されているメンバーでもある。VEGF-Aは、内皮細胞の有糸分裂誘発を刺激し、細胞の生存および増殖を促進し、細胞の遊走を誘発し、微小血管の透過性を高めることが示されている。VEGFファミリーのすべてのメンバーは、細胞表面のVEGF受容体(VEGFR)に結合することにより、細胞性応答を刺激する。VEGFR受容体は、7つの免疫グロブリン(IG)様ドメインからなる細胞外領域を有するチロシンキナーゼ受容体である。VEGFR-1(Flt-1)は、VEGF-A、-B、およびPIGFに結合し、VEGFのデコイ受容体またはVEGFR-2の調節因子として機能することができる。VEGFR-2(KDR/Flk-1)は、すべてのVEGFアイソフォームに結合し、VEGFが誘導する血管形成シグナル伝達の優勢なメディエーターである。VEGFR-3(Flt-4)は、VEGF-CおよびVEGF-Dに結合するが、VEGF-Aには結合せず、リンパ管新生の主要なメディエーターとして機能する。
【0008】
血管形成は、創傷治癒および月経周期などの発達および通常の生理学的プロセス中に必要であり、AMD、RA、糖尿病性網膜症、腫瘍増殖および転移を含む多くの疾患の病因に関与していることが証明されている。血管形成の阻害は、治療への適用に効果的であることが示されている。VEGF-Aに対するいくつかの阻害剤がFDAによって承認されている。例えば、VEGF-Aに対するヒト化抗体(Avastin)、VEGF-Aに対する抗体Fabフラグメント(Lucentis)、およびVEGFトラップ(Eylea)。Avastinは、転移性結腸直腸癌(mCRC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、グリア芽腫(GBM)、および転移性腎臓癌(mRCC)の処置に承認されている。LucentisおよびEyleaは湿性AMDの処置に承認されている。Brolucizumab、Varisacumab、Conberceptなど、他の多くの抗VEGF分子が現在臨床開発中である。
【発明の概要】
【0009】
発明の簡潔な概要
本発明の目的は、上記問題を解決するために補体およびVEGF経路をより有効におよび同時に阻害することによって、加齢黄斑変性症(AMD)などの種々の補体およびVEGF関連疾患を処置することができる治療剤を開発すること、および結果として、補体およびVEGFを同時に標的とする二機能性融合タンパク質が、抗補体および抗VEGF有効性を有効に示すことを見出すことである。
【0010】
本発明は、補体シグナル伝達経路およびVEGFシグナル伝達経路を阻害する融合タンパク質であって、融合タンパク質が、補体結合ドメインおよびVEGF結合ドメインを含む、融合タンパク質を提供する。
【0011】
1つの局面において、本発明は、短いフレキシブルな(flexible)リンカーで融合される、1つ以上のC5結合モチーフ含有フラグメントおよび1つ以上のVEGF結合モチーフ含有フラグメントを含み、それにより補体および血管形成の阻害において、同時に、有意に改善された有効性を提供する、二機能性融合タンパク質を提供する。
【0012】
1つの態様において、本発明は、補体およびVEGFを同時に標的とし、および補体C5開裂ブロッキング活性および抗血管形成有効性を同時に提供する、C5Vである二機能性融合タンパク質であって、C5は、エクリズマブの重鎖のような補体C5結合モチーフであり;Vは、VEGFR1 ECD D2およびVEGFR2 ECD D3、またはそのキメラドメインのようなVEGF結合モチーフであり;および短いフレキシブルなGSリンカーは、各ドメインの正しい折りたたみおよび最小限の立体障害を保証するように間に挿入される、二機能性融合タンパク質を提供する。
【0013】
他の態様において、本発明は、補体およびVEGFを同時に標的とし、および補体C5開裂ブロッキング活性および抗血管形成有効性を同時に提供する、VC5である二機能性融合タンパク質であって、Vは、ラニビズマブFabの重鎖のようなVEGF結合モチーフであり;C5は、エクリズマブのScfvのような補体C5結合モチーフであり;および、短いフレキシブルなGSリンカーは、重鎖およびScfv間に置かれる、二機能性融合タンパク質を提供する。
【0014】
さらに他の態様において、本発明は、補体およびVEGF関連疾患の処置のために有用である二機能性融合タンパク質を提供する。
【0015】
したがって、本発明はまた、本開示の二機能性融合タンパク質および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
1つの態様において、医薬組成物が、補体およびVEGF関連疾患の処置のために有用である。
【0017】
さらに、本発明は、処置を必要とする対象において補体およびVEGF関連疾患を処置するための方法であって、本明細書に記載されている二機能性融合タンパク質の治療有効量を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0018】
1つの態様において、本明細書に記載されている補体およびVEGF関連疾患は、アテローム性動脈硬化症、加齢黄斑変性症、急性心筋梗塞(AMI)、糸球体腎炎、喘息、血栓症、深部静脈血栓症、多発性硬化症、アルツハイマー病、自己免疫性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、多発性硬化症、糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、骨関節症、乾癬性関節炎、CNS炎症性疾患、重症筋無力症、糸球体腎炎、および自己免疫性血小板減少症、動脈瘤、非定型溶血性尿毒症症候群、自然胎児喪失、再発性胎児喪失、外傷性脳損傷、乾癬、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性血管浮腫、卒中、出血性ショック、敗血症性ショック、冠動脈バイパス移植(CABG)術のような手術による合併症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような肺の合併症、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、多臓器不全および癌からなる群から選択される。優先的には、補体およびVEGF関連疾患は、加齢黄斑変性症および癌である。より優先的には、補体およびVEGF関連疾患は、加齢黄斑変性症である。
【0019】
本発明の1つ以上の態様の詳細は、以下の説明に示されている。本発明の他の特徴または利点は、以下の図面およびいくつかの態様の詳細な説明から、およびまた特許請求の範囲から明らかである。
【0020】
図面のいくつかの図の簡単な説明
前述の要約、ならびに以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むと、よりよく理解されるであろう。本発明を説明する目的のために、現在好ましい態様が図面に示されている。
【0021】
図において:
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、補体C5開裂ブロッキング活性およびVEGF阻害活性を同時に有する二機能性融合タンパク質の概略図である。二機能性融合タンパク質C5Vは、エクリズマブの重鎖をそのC-末端でVEGF阻害モチーフと融合させることによって生成された。このコンストラクトで使用されるVEGF結合モチーフは、VEGFR1 D2およびVEGFR2 D3キメラドメイン(特許は2020年に米国で、ヨーロッパでは2021年に失効する)を含む。二機能性融合タンパク質VC5は、Lucentis由来のFabの重鎖Fd鎖(Lucentisの特許は2020年6月に米国で、2022年にヨーロッパで失効する[1])をそのC-末端でエクリズマブ(Scfv)と融合させることによって生成された。両方の融合タンパク質は、柔軟性および折りたたみを保証するために、機能的エンティティ間に短いGSリンカーを含む。
【0023】
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ精製された二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5のSDS-PAGEゲル分析である。2μgのタンパク質を各レーンにロードした。レーン1は非還元状態である。レーン2は還元状態である。
【0024】
【
図3】
図3は、精製された二機能性融合タンパク質を使用する補体C5の直接的なインビトロ結合である。結合したタンパク質は、洗浄後、C5V用のHRP-コンジュゲートされたヤギ抗-ヒトIgG Fc特異的抗体、またはVC5用のHRP-コンジュゲートされたヤギ抗-ヒトFab特異的抗体で検出された。
【0025】
【
図4】
図4は、VEGFと精製された二機能性融合タンパク質との直接的なインビトロ結合を示す。結合したタンパク質は、洗浄後、C5V用のHRP-コンジュゲートされたヤギ抗-ヒトIgG Fc特異的抗体、およびVC5用のHRP-コンジュゲートされたヤギ抗-ヒトFab特異的抗体で検出された。
【0026】
【
図5】
図5は、溶液中のVEGF-Aに対する二機能性融合タンパク質のアフィニティー評価である。二機能性融合タンパク質およびVEGFを溶液中で一晩インキュベートした後、サンドイッチELISAアッセイによって遊離VEGF濃度を決定した。
【0027】
【
図6】
図6は、精製された二機能性融合タンパク質による代替補体経路の阻害である。正常ヒト血清を、まず二機能性融合タンパク質の種々の濃度でインキュベートし、次に5mMのMg
2+および5mMのEGTAの存在下でウサギ赤血球を溶解するために使用した。溶血は、OD 412nmでの吸収によって検出された。
【0028】
【
図7】
図7はHUVEC細胞増殖阻害アッセイの結果である。HUVECは、2%FBSを有する内皮細胞増殖培地(Lonza、Inc.)で維持された。96ウェル平底マイクロタイタープレートをコラーゲンでコーティングし、次に50μlの1nMのVEGF-A(R&D systems、USA)とさまざまな濃度の融合タンパク質とともにインキュベートした。5% CO
2を有する37℃で72時間インキュベート後、10μlのMTS検出試薬(Promega、USA)を各ウェルに添加し、次に450/650nmでのOD吸収を測定することによって細胞増殖をアッセイした。
【0029】
【
図8】
図8は、VEGF誘導性のHUVEC細胞の管形成に対する二機能性融合タンパク質C5Vの阻害効果を示す。内皮ネットワーク形成の定量化は、Image J血管形成システム(5画像/サンプル)によって実行され、VEGF処置と比較した倍率変化として表される。
【0030】
【
図9】
図9は、VEGF誘導性の内皮細胞浸潤に対する二機能性融合タンパク質C5Vの阻害効果を示す。
【0031】
【
図10】
図10Aおよび10Bは、二機能性融合タンパク質C5Vによるマウスにおけるレーザー誘発性脈絡膜血管新生(CNV)の阻害を示す。
図10Aは、レーザー誘発性CNVモデルにおける血管漏出を表す。
図10Bは、レーザー誘発性CNV病変の定量化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
この開示は、記載された特定の方法および実験条件は変化し得るため、記載された特定の方法および実験条件に限定されないことを理解されたい。
【0033】
本開示の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は特定の態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図しないことも理解されたい。
【0034】
本明細書で別段の定義がない限り、本明細書で使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0035】
本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」および「an」ならびに定冠詞「the」は、それらが使用される文脈が明らかに他のことを示さない限り、単数形および複数形の両方を含むことを意図する。
【0036】
ある局面において、本発明は、補体C5およびVEGF経路を同時に標的とする二機能性融合タンパク質に関する。補体およびVEGF経路が加齢黄斑変性症(AMD)を含む多くの疾患に関与するため、補体およびVEGFに対する二重特異性阻害活性を有するタンパク質は、補体またはVEGFのいずれかを個々に阻害するタンパク質よりも有意に優れた治療的有効性を提供する可能性がある。本発明において、該二機能性融合タンパク質は、そのC-末端で抗C5抗体の重鎖を、VEGFR1細胞外ドメイン2およびVEGFR2細胞外ドメイン3を含むVEGF阻害モチーフと融合することによって作成される二機能性融合タンパク質C5Vであってよい。他方、該二機能性融合タンパク質は、抗VEGF抗体FabのFd鎖をそのC-末端で抗C5抗体Scfvフラグメントと融合することによって生成される二機能性融合タンパク質VC5であってよい。二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5は、補体C5タンパク質およびVEGFに高いアフィニティーで結合でき、および細胞ベースのアッセイにおいて補体およびVEGF経路の機能をそれぞれ阻害することができることも示されている。二機能性融合タンパク質は、ヒトタンパク質のドメインを含み、およびすべてヒト起源であり、および非免疫原性であると予期され、およびしたがって、補体および血管形成関連疾患を処置するための治療法としてさらに開発することができる可能性がある。
【0037】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」という用語は、2つ以上の結合タンパク質、またはモチーフ、または異なる遺伝子をコードするペプチド/アミノ酸フラグメントの接続によって作成されたタンパク質を指し、それらの遺伝子の翻訳は元のタンパク質のそれぞれに由来する多機能特性を有する単一または複数のポリペプチドをもたらす。融合タンパク質は、抗体にコンジュゲートされたタンパク質、異なる抗体にコンジュゲートされた抗体、またはFabフラグメントにコンジュゲートされた抗体を含むことができる。
【0038】
本明細書で使用される場合、「補体」という用語は、補体カスケードの任意の小さなタンパク質を指し、文献では補体系または補体カスケードとときどき呼ばれる。補体の活性化は、サイトカインの放出および活性化カスケードの増幅を引き起こす一連のプロテアーゼ活性化カスケードにつながり、細胞殺傷性の膜侵襲複合体(MAC)の活性化、アナフィラトキシンC3aおよびC5aによって引き起こされる炎症、および病原体のオプソニン作用に至る。C5開裂によって開始されるMACは、侵入性病原体および損傷した、壊死性、およびアポトーシス性の細胞を排除するために不可欠である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「Fab」という用語は、抗原に結合する抗体上の領域を指す。これは、軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメイン、および重鎖抗体の可変ドメインおよび第1の定常ドメインで構成される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、2つのペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を連結するために使用されるペプチド結合によって結合される、アミノ酸残基またはフラグメント、または2つ以上のアミノ酸残基を含むポリペプチドを指す。リンカーは、任意のヒト免疫グロブリンアイソタイプ、サブクラス、またはアロタイプの野生型または変異体の免疫グロブリンFc領域である、Fcフラグメントであってよい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「Scfv」という用語は、重(VH)鎖および軽(VL)鎖の可変領域からなる一本鎖フラグメント可変領域を指し、これらは、大腸菌で機能的形態において容易に発現することができるフレキシブルなペプチドリンカーによって一緒に結合され、アフィニティーの増加および特異性の変化などのScfvの特性を改善するタンパク質操作を可能にする。
【0042】
本発明において、VEGFブロッキング活性を有する任意のモチーフ、ペプチド、タンパク質、またはフラグメント、例えば、抗VEGF抗体、VEGFトラップ、またはD1-D7のような、VEGF受容体(VEGFR)細胞外Igドメイン、特にVEGFR1細胞外Igドメイン2(ECD、D2)、VEGFR2細胞外Igドメイン3(ECD、D3)を使用してよい。
【0043】
本発明において、補体C5に結合する任意のモチーフ、ペプチド、タンパク質、またはフラグメント、例えば、エクリズマブの重鎖またはScfvを使用してよい。
【0044】
補体およびVEGFは、いくつかの疾患、例えばAMDに関与するため、補体C5の開裂およびVEGF活性を同時にブロックするために、補体C5およびVEGFに対する二機能性融合タンパク質が、その処置のために本発明において作成される。
【0045】
本発明の1つの態様において、エクリズマブの重鎖を有するフラグメントは、C-末端でVEGFトラップを有する二機能性融合タンパク質C5V(配列番号:1)であって、短いフレキシブルなGSリンカー(配列番号:3)が各ドメインの正しい折りたたみおよび最小限の立体障害を保証するように間に挿入される、二機能性融合タンパク質C5Vを生成するために使用される。関連する態様において、C5V融合タンパク質は、配列番号1と少なくとも約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0046】
好ましくは、二機能性融合タンパク質C5Vの該VEGFトラップは、VEGFR1 ECD D2およびVEGFR2 ECD D3を含む。
【0047】
本発明の別の態様において、ラニビズマブFabの重鎖を含むフラグメントは、補体C5結合モチーフのC-末端で融合され、折りたたみが正しく、および立体障害が最小限にされることを保証するように間に短いフレキシブルなGSリンカー(配列番号3)を有する二機能性融合タンパク質VC5(配列番号2)を構築する。関連する態様において、二機能性融合タンパク質VC5は、配列番号2と少なくとも約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0048】
特に、二機能性融合タンパク質VC5の該補体C5結合モチーフは、エクリズマブのScFvフラグメントを含む。
【0049】
さらなる態様において、本発明に記載されている全ての融合タンパク質は、発現されたタンパク質の細胞外分泌のためのシグナルペプチド(配列番号4)によって導かれる。
【0050】
二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5の得られる配列は、それぞれ、配列番号1および配列番号2に示される。
【0051】
本発明において、上記の二機能性融合タンパク質C5Vおよび/またはVC5は、HEK293細胞によって一過性に発現され、およびプロテインGクロマトグラフィーを介してトランスフェクトされた細胞培養上清から精製される。90%を超える純度を有する生成物が単一ステップの精製プロセスで得られ、すべての融合タンパク質が適切に形成および発現されることが見いだされる。
【0052】
本発明の1つの態様において、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5の補体C5への結合能力は、ELISA結合アッセイを使用することによって検証される。1つの態様において、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5は、それぞれEC50 3.57nMおよび2.77nMで補体C5タンパク質への強い結合を示す。
【0053】
本発明の別の態様において、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5のVEGFへの結合能力は、ELISA結合アッセイを使用することによって検証される。1つの態様において、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5は、それぞれEC50 0.288nMおよび1.675nMでVEGF-Aタンパク質への強い結合を示す。
【0054】
本発明のさらに他の態様において、溶液中の二機能性融合タンパク質C5VのVEGFへの結合親和性は、競合結合アッセイによって決定される。本発明において、C5V融合タンパク質は、高親和性でVEGF-Aタンパク質に結合し、および、C5Vは、EyleaよりもVEGF-Aタンパク質に対してより高い結合親和性を有する。
【0055】
当分野で知られており、本明細書に記載されている(例えば、実施例2-7)アッセイは、本開示の二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5の生物学的活性を同定および試験するために使用することができる。いくつかの態様において、補体経路およびVEGF-依存性HUVEC増殖を阻害するための二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5の能力を試験するためのアッセイが提供される。
【0056】
本開示のある局面は、代替補体経路に対する二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5の阻害活性に関する。具体的には、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5は、Mg2+およびEGTAの存在下でウサギ赤血球の溶解を阻害するために、正常なヒト血清とインキュベートする。本発明の1つの態様において、C5VおよびVC5による赤血球溶血のIC50は、それぞれ25.31nMおよび36.65nMである。
【0057】
加えて、VEGF活性は、VEGF依存性HUVEC細胞増殖を測定することによって特徴付けてよい。ある態様によれば、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5およびVEGFAは、コラーゲンでプレコートされたウェルにロードされ、次に、HUVEC細胞は、ここで培養されることができる。インキュベーション後、細胞増殖をMTSアッセイによって分析され、C5VおよびVC5のIC50は、それぞれ0.195nMおよび0.313nMである。
【0058】
したがって、1つの局面において、本発明は、本開示の二機能性融合タンパク質および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0059】
いくつかの態様において、本発明は、補体経路を阻害することにおける使用のための医薬組成物を提供する。いくつかの態様において、本発明は、VEGFシグナル伝達経路を阻害することにおける使用のための医薬組成物を提供する。いくつかの態様において、本発明は、補体活性化およびVEGFシグナル伝達経路を阻害するための有効量の融合タンパク質を対象に投与することを含む、対象において補体活性化およびVEGFシグナル伝達経路を阻害することにおける使用のための医薬組成物を提供する。
【0060】
いくつかの態様において、医薬組成物は、限定はしないが、アテローム性動脈硬化症、黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症)、急性心筋梗塞(AMI)、糸球体腎炎、喘息、血栓症、深部静脈血栓症、多発性硬化症、アルツハイマー病、自己免疫性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、多発性硬化症、糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、骨関節症、乾癬性関節炎、CNS炎症性疾患、重症筋無力症、糸球体腎炎、および自己免疫性血小板減少症、動脈瘤、非定型溶血性尿毒症症候群、自然胎児喪失、再発性胎児喪失、外傷性脳損傷、乾癬、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性血管浮腫、卒中、出血性ショック、敗血症性ショック、冠動脈バイパス移植(CABG)術のような手術による合併症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような肺の合併症、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、多臓器不全および癌を含む補体および/またはVEGF関連疾患の処置のために使用することができる。いくつかの態様において、本明細書に記載されている融合タンパク質によって処置または予防することができる癌は、結腸直腸癌、転移性結腸直腸癌、非小細胞性肺癌、リンパ腫、白血病、腺癌、グリア芽腫、腎臓癌、転移性腎臓癌、胃癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、卵巣癌、子宮内膜癌、および乳癌を含む。
【0061】
いくつかの態様において、医薬組成物は、限定はしないが、湿性加齢黄斑変性症、乾性加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、糖尿病性網膜浮腫、糖尿病性黄斑浮腫、後水晶体繊維増殖症、網膜中心閉塞、網膜静脈閉塞、虚血性網膜症、高血圧性網膜症、ブドウ膜炎(例えば、前部、中部、後部、または全ブドウ膜炎)、ベーチェット病、ビエット(Biett)のクリスタリンジストロフィー、眼瞼炎、緑内障(例えば、開放隅角緑内障)、血管新生緑内障、角膜の新血管形成、脈絡膜新血管形成(CNV)、網膜下新血管形成、角膜炎症、および角膜移植による合併症を含む眼疾患の処置のために使用することができる。
【0062】
種々の態様において、補体および血管形成に関与する疾患はAMDであってよい。
【0063】
本明細書で使用される「加齢性黄斑変性症(AMD)」という用語は、読書、裁縫、および運転などの「直進(straight-ahead)」活動に必要な鋭い中心視力をぼかす深刻な眼の状態である。通常、AMDは目の一部である黄斑に影響を及ぼす。ほとんどのAMDは、網膜および脈絡膜の間に蓄積している細胞残屑を有する乾燥型である。進行性乾性AMDにおいて、中心の地図状萎縮が起こり、眼の中心の視力が失われる。湿性型AMDは、異常な血管(脈絡膜新血管形成、CNV)が脈絡膜から黄斑の後ろのブルッフ膜を通って成長する、より重症の型である。これらの血管は血液や体液を網膜に漏らし、視力の歪みを引き起こして直線を波打つように見せ、死角や中心視力の喪失を引き起こす。これらの異常な血管は最終的に瘢痕化し、中心視力が永久に失われる。
【0064】
本発明による医薬組成物は、二機能性融合タンパク質を単独で、または薬学的に許容される担体と一緒に含む適切な形態に製剤でき、賦形剤または希釈剤をさらに含むことができる。担体は、溶媒、分散媒体、等張剤などであってよい。担体は、液体、半固体、または固体の担体であってよい。いくつかの態様において、担体は、水、塩水または他のバッファー(血清アルブミンおよびゼラチンなど)、炭水化物(単糖類、二糖類、およびグルコース、スクロース、トレハロース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、またはデキストリンを含む他の炭水化物など)、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔性マトリックス、結合剤、増量剤、コーティング剤、安定剤、防腐剤、抗酸化剤(アスコルビン酸およびメチオニンを含む)、キレート剤(EDTAなど)、塩形成対イオン(ナトリウムなど)、非イオン性界面活性剤[TWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)など]、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0065】
本発明の医薬組成物は、任意の方法により、ヒトを含む哺乳動物に投与してよい。例えば、本発明の組成物は、経口または非経口(parietally)に投与してよい。非経口(parietal)投与は、限定はしないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、または直腸投与であってよい。
【0066】
医薬組成物は、補体および/またはVEGF関連疾患を予防または処置するための2つ以上の追加の有益な化合物を含むことができる。
【0067】
いくつかの態様において、医薬組成物は、処置される該疾患または障害を処置するための2つ以上の追加の治療薬を含むことができる。例えば、追加の薬剤は、抗-脂質異常症剤、PPAR-αアゴニスト、PPAR-βアゴニスト、PPAR-γアゴニスト、抗-アミロイド剤、リポフスチンのインヒビター、視覚光サイクルモジュレーター、抗酸化剤、神経保護剤、アポトーシスインヒビター、壊死インヒビター、C反応性タンパク質インヒビター、インフラマソームのインヒビター、抗炎症剤、免疫抑制剤、マトリクスメタロプロテイナーゼのモジュレーター、補体系または成分のインヒビター、および抗血管形成剤であってよい。
【0068】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明され、これは、さらなる限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0069】
実施例1 補体およびVEGF経路の両方を阻害する二機能性融合タンパク質の発現および精製
【0070】
補体C5開裂に結合および阻害する活性を有する抗体または抗体フラグメントは、補体活性化ブロッカーとして使用することができる。抗VEGF抗体フラグメントまたはVEGFトラップは、VEGF阻害モチーフとして使用することができる。二機能性発現ベクターを生成するために、cDNAを合成および使用した。補体C5開裂ブロッカーは、
図1に示されるように、VEGF阻害モチーフのN-末端またはC-末端のいずれかの末端に配置することができる。融合タンパク質は、機能的エンティティ間にGSリンカーを含み、細胞からの分泌のためにN-末端にシグナルペプチドで誘導された。精製した発現ベクターを使用してHEK293細胞を一過性にトランスフェクトし、細胞培養培地を96時間のインキュベーション後に回収し、プロテインGクロマトグラフィーを介して精製した。2μgの精製された二機能性融合タンパク質を、還元および非還元条件下でPAGE分析した(
図2Aおよび2B)。1段階精製の純度は、どちらの場合も90%を超えている。
【0071】
実施例2 二機能性融合タンパク質の補体C5およびVEGFへのインビトロ結合
【0072】
ELISAで補体C5またはVEGFに対する精製された融合タンパク質の直接結合をテストするために、C5またはVEGF-Aでプレコートされたウェル(100ng/ウェル)を、0~30nMの精製されたタンパク質とともに1時間インキュベートした。洗浄後、HRP-コンジュゲートされた抗-ヒトFc抗体(Jackson Immunochemicals、USA)の1:2500希釈を、さらに1時間のインキュベーションのために各ウェルに添加した。最終洗浄後、TMB試薬(ThermoFisher、USA)を添加し、450nmでのOD吸収を測定し、Prism4を使用してシグモイドカーブフィッティングによってデータを分析した。
図3に示されるように、二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5は、それぞれEC
50 3.57nMおよび2.77nMでC5への強い結合を示した。二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5はまた、それぞれ0.288nMおよび1.675nMのEC
50でVEGF-Aへの強い結合を示した(
図4)。
【0073】
溶液中のVEGFに対する融合タンパク質の結合親和性をよりよく評価するために、5pMのVEGF-A(R&D Systems、Inc.)を、0~100pMの精製されたタンパク質とともに一晩インキュベートした。翌日、DEV00キット(R&D Systems、USA)を使用して遊離VEGF濃度を測定した。シグモイドカーブフィッティングによって分析されたデータ。
図5に示されるように、二機能性融合タンパク質C5Vは、VEGF-Aタンパク質に高親和性で結合し、C5VはEyleaよりもVEGF-Aタンパク質に対して高い結合親和性を有する。
【0074】
実施例3 二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5による代替補体経路の阻害
【0075】
古典的およびレクチン補体経路はCa
2+およびMg
2+イオンの両方を必要とするのに対し、補体の代替経路の活性化はMg
2+のみを必要とします。したがって、5mMのMg
2+および5mMのEGTA(EGTAはCa
2+を優先的にキレートする)がアッセイに含まれているとき、代替補体活性は、古典的経路タンパク質の存在下でアッセイすることができる。溶血アッセイは、代替補体活性化に対する融合タンパク質の阻害を評価するために使用することができる。実験において、1.25×10
7ウサギ赤血球/ml(Er, Complement Technology, Inc.)の90%溶解した正常なヒト血清(CompTech、USA)の希釈を、37℃で30分間インキュベート後に最初に測定した。アッセイは、5mMのMgCl
2および5mMのEGTAを含有するGVB
0バッファー(0.1% ゼラチン、5mM Veronal、145mM NaCl、0.025% NaN
3、pH7.3)で行った。代替補体経路の阻害は、Erの90%を溶解することができる正常なヒト血清の希釈を0~500nMの精製された融合タンパク質C5VおよびVC5と37℃で1時間混合することによって開始された。次に、血清およびErの30分間インキュベート後、Erの溶血をアッセイした。Prism4を使用してデータを分析した。
図6の結果は、二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5が補体代替経路について、それぞれ25.31nMおよび36.65nMのIC
50を有することを示す。
【0076】
実施例4 血管形成ブロッカーによるVEGF依存性HUVEC増殖アッセイの阻害
【0077】
精製された二機能性融合タンパク質C5VおよびVC5を使用して、細胞ベースアッセイにおいてVEGF活性を阻害した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC cells、Lonza、USA)は、VEGFブロッカーによって阻害することができるVEGF依存性細胞増殖を実証するために一般的に使用される。実験において、HUVECは2%FBSを含む内皮細胞増殖培地(Lonza、USA)で維持される。コラーゲンでプレコートされたウェルに、Medium-199(10% FBS、Hyclone、USA)における1×10
5細胞/mlで50μlのHUVECを各ウェルに追加する前に、1時間37℃でウェルあたり50μlの1nMのVEGF-A(R&D systems、Inc.)および種々の濃度のC5VまたはVC5をロードした。5% CO
2を含む37℃で72時間インキュベート後、10μlのMTS検出試薬(Promega、USA)を各ウェルに添加し、次に450/650nmでのOD吸収を測定することによって細胞増殖をアッセイした。
図7に示されるとおり、二機能性融合タンパク質C5VまたはVC5の能力は、それぞれ、0.195nMおよび0.313nMのIC
50を有するVEGF依存性HUVEC増殖を阻害するための優れた能力を示した。
【0078】
実施例5 二機能性融合タンパク質C5VによるVEGF誘導性内皮細胞管形成の阻害
【0079】
血管形成におけるC5Vの機能を調べるために、インビトロでMatrigelチューブ形成アッセイをヒト臍帯静脈内皮細胞で実施した。HUVEC細胞を血清を含まない基本培地で2時間インキュベートし、次にアキュターゼによりトリプシン処理した。4x103 HUVEC細胞を、VEGF(1μg/ml)とEylea(100μg/ml)またはC5Vタンパク質(100μg/ml)を含むMatrigelプレコートウェルに37℃で4.5時間播種した。内皮ネットワーク形成の定量化は、Image J血管形成システム(5画像/サンプル)によって実行された。
【0080】
VEGF処理下で、Matrigel上で4.5時間培養したとき、HUVEC細胞は初期血管管状ネットワークを示した。しかし、二機能性融合タンパク質C5Vは、管状構造の形成を妨害した(
図8Aおよび8B)。
【0081】
実施例6 二機能性融合タンパク質C5VによるVEGF誘導性内皮細胞浸潤の阻害
【0082】
VEGF刺激に対する二機能性融合タンパク質C5Vの浸潤効果をトランスウェル分析によって調べた。浸潤アッセイは、製造元の指示に従って、トランスウェルインサートをMatrigel Basement Membrane Matrix(BD Biosciences、San Diego、CA、USA)でプレコートすることによって実行された。Medium-199と共にHUVEC細胞(2x105)を上部ウェルに配置した。リガンドヒトVEGF(0.2μg/ml)を下部チャンバーにおいてEylea(2μg/ml)またはC5V(2μg/ml)と個々に混合した。トランスウェルプレートを5%インキュベーター内で24時間インキュベートし、上部ウェルから下部チャンバーに向かって細胞を移動させた。次に、膜インサートを固定し、1%クリスタルバイオレットで染色した。膜インサートの下面に付着した細胞を顕微鏡で可視化し、ImageJソフトウェアを使用して移動した細胞の平均数を計算した。
【0083】
図9Aおよび9Bに示されるとおり、二機能性融合タンパク質C5Vは、VEGFによって誘導されるHUVEC細胞の浸潤を有意に阻害した。
【0084】
実施例7 二重特異性タンパク質C5Vは、レーザー誘発性CNVマウスモデルにおいて新血管形成を阻害する
【0085】
VEGFおよびC5は、眼の新血管新生疾患の特徴である病理学的新血管形成および血管透過性に強く関連しているようである。高レベルのC5は、ヒトの湿性加齢性黄斑変性症(AMD)および炎症における疾患重症度とも相関している。我々は、VEGFおよびC5を共標的化する革新的なデザインを生成した。我々は、レーザー誘発性脈絡膜新血管形成マウスモデルによる血管形成に対する二重特異性タンパク質C5Vの効果をテストした。レーザー誘発性CNVモデルにおいて、オスのC57BL/6マウスに、ビヒクルコントロール、Eylea(40μg)またはC5V(40μg)を1日目に右眼に硝子体内注射した(n=5/グループ)。ブルッフ膜へのレーザー誘発損傷は、レーザー適用部位の気泡であることが確認された。眼底フルオレセイン血管造影(FFA)分析のために、麻酔をかけた動物に5%フルオレセインナトリウムを腹腔内注射した。Micron III網膜イメージング顕微鏡(Phoenix Research Laboratories、San Ramon、CA、USA)を使用して画像をキャプチャした。OCT画像はレーザーの21日後に取得され、新血管新生病変の体積は楕円体として測定された。楕円体の体積は、式 V=4/3πabcによって計算され、ここで、a(幅)、b(深さ)、およびc(長さ)は、楕円体の水平面または垂直面の半径である。
【0086】
図10Aに示されるとおり、二機能性融合タンパク質C5Vは、レーザー誘導性CNVモデルで血管漏出を減少させた(
図10A)。光コヒーレンストモグラフィー(OCT)による楕円体としてのレーザーCNV病変の定量化は、二機能融合タンパク質C5V処置後の病変体積の有意な減少を示した(
図10B)。
【0087】
本発明は、好ましい実施形態によって開示されてきたが、本発明を限定することを意図するものではない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、改変および修飾を行うことができるであろう。したがって、本発明の保護の範囲は、添付される特許請求の範囲によって定義されるものによって支配されるものとする。
【0088】
【配列表】
【国際調査報告】