(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】操作された長鎖散在反復エレメント(LINE)トランスポゾンおよびそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220131BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220131BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220131BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/85 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/63 Z
A61K48/00
A61K31/7105
A61P43/00
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521154
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 US2019057244
(87)【国際公開番号】W WO2020082076
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン, ショーン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC41
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
操作されたトランスポゾンおよびそれらの使用方法が提供される。トランスポゾンは代表的には、RNA成分およびタンパク質成分を含む。RNA成分は、例えば、DNA標的化配列、1つまたは複数のタンパク質結合モチーフ、および標的DNAに組み込まれる目的の核酸配列を含むことができる。タンパク質成分は代表的には、RLE LINEエレメントタンパク質に由来し、DNA結合ドメイン、RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメイン、およびエンドヌクレアーゼを含み得る。細胞のゲノムに核酸配列を導入するための医薬組成物および使用方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA標的化配列と、1つまたは複数のタンパク質結合モチーフ(PBM)と、DNA標的部位に組み込まれる目的の核酸配列とを含むRNA成分であって、前記DNA標的化配列、前記タンパク質結合モチーフ、および目的の配列は、親長鎖散在反復(LINE)エレメントタンパク質に由来するタンパク質成分に結合し、cDNAに逆転写され得、前記cDNAがDNAの前記DNA標的部位に組み込まれ得るように、作動可能に連結されている、RNA成分。
【請求項2】
前記タンパク質成分が、RNA結合ドメイン、リンカードメイン、逆転写酵素、DNAエンドヌクレアーゼのうちの1つまたは複数を含み、前記1つまたは複数のタンパク質結合モチーフが、前記RNA成分を、前記タンパク質成分の前記RNA結合ドメイン、リンカードメイン、逆転写酵素、DNAエンドヌクレアーゼ、またはこれらの組合せに結合させる、請求項1に記載のRNA成分。
【請求項3】
親LINEもしくはSINE骨格からのまたはそれに由来するエレメントを含み、RNA成分の前記目的の核酸配列が、前記LINEまたはSINEとは異種である;
タンパク質成分が、親LINEからのまたはそれに由来するエレメントを含む;あるいは
それらの組合せである、
請求項1または2に記載のRNA成分。
【請求項4】
前記DNA標的化配列が、前記親LINEまたはSINEとは異種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項5】
前記目的の配列が、遺伝子、遺伝子の断片、または機能性核酸をコードする、請求項1~4のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項6】
親LINEもしくはSINEエレメントからのまたはそれに由来する3’PBM配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項7】
CRISPR/Casトレーサー配列、CRISPR/Casガイド配列、またはこれらの組合せを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項8】
前記親LINEもしくはSINEエレメントからのまたはそれに由来する5’PBM配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項9】
前記5’PBMが、非機能性IRES配列を含む、請求項8に記載のRNA成分。
【請求項10】
リボザイムをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項11】
前記リボザイムが、デルタ肝炎ウイルス様リボザイムである、請求項10に記載のRNA成分。
【請求項12】
前記親LINEまたはSINEが、制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)LINEである、請求項2~10のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項13】
前記RLE LINEが、R2 LINEである、請求項10に記載のRNA成分。
【請求項14】
前記RNA成分の前記親LINEまたはSINE骨格、および前記タンパク質成分の前記親LINE骨格が、同じLINEであるか、ならびに/または前記SINEが、前記LINEに由来するか、もしくは前記LINEの祖先である、請求項3~13のいずれか一項に記載のRNA成分。
【請求項15】
DNA結合ドメイン、RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメインおよびエンドヌクレアーゼを含むタンパク質成分であって、前記DNA結合ドメイン、RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメインおよびエンドヌクレアーゼは、DNA標的部位においてRNA成分およびDNAに結合し得、前記RNA成分からcDNAへの逆転写、および前記DNA標的部位において、前記DNAへの前記cDNAの組込みを助長し得るように、作動可能に連結されている、タンパク質成分。
【請求項16】
前記RNA成分が、DNA標的化配列と、1つまたは複数のタンパク質結合モチーフと、前記DNA標的部位に組み込まれる目的の核酸配列とを含む、請求項15に記載のタンパク質成分。
【請求項17】
前記RNA成分が、親LINEもしくはSINE骨格からのまたはそれに由来するエレメントを含み、RNA成分の前記目的の核酸配列が、前記LINEまたはSINEとは異種である;
タンパク質成分が、親LINEからのまたはそれに由来するエレメントを含む;あるいは
それらの組合せである、
請求項15または16に記載のタンパク質成分。
【請求項18】
前記DNA結合ドメインが、親LINE DNA結合ドメインと比較して変異している、請求項15~17のいずれか一項に記載のタンパク質成分。
【請求項19】
前記DNA結合ドメインが、前記親LINE DNA結合ドメインと比較して代替DNA結合ドメインで置換されている、請求項15~17のいずれか一項に記載のタンパク質成分。
【請求項20】
前記DNA結合ドメインが、別のDNA結合タンパク質からのDNA結合ドメインである、請求項19に記載のタンパク質成分。
【請求項21】
前記DNA結合ドメインが、ヘリックスターンヘリックス、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、ウイングドヘリックス、ウイングドヘリックスターンヘリックス、ヘリックスループヘリックス、HMGボックス、Wor3ドメイン、OBフォールドドメイン、免疫グロブリンフォールド、B3ドメイン、TALエフェクター、またはRNAガイドドメインのうちの1つまたは複数を含む、請求項19または20に記載のタンパク質成分。
【請求項22】
前記RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメインおよびエンドヌクレアーゼのうちの1つまたは複数の配列が、前記親LINEエレメントタンパク質の配列と同じである、または前記親LINEエレメントタンパク質と比較して前記RNA成分に対する結合もしくは酵素活性を改善するように変異している、請求項15~22のいずれか一項に記載のタンパク質成分。
【請求項23】
前記親LINEまたはSINEが、制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)LINEである、請求項17~22のいずれか一項に記載のタンパク質成分。
【請求項24】
前記RLE LINEが、R2 LINEである、請求項23に記載のタンパク質成分。
【請求項25】
前記RNA成分の前記親LINEまたはSINE骨格、および前記タンパク質成分の前記親LINE骨格が、同じLINEであるか、ならびに/または前記SINEが、前記LINEに由来するか、もしくは前記LINEの祖先である、請求項17~24のいずれか一項に記載のタンパク質成分。
【請求項26】
請求項1~14のいずれか一項に記載のRNA成分をコードするベクター。
【請求項27】
請求項15~25のいずれか一項に記載のタンパク質成分をコードするベクター。
【請求項28】
請求項1~14のいずれか一項に記載のRNA成分と、請求項15~25のいずれか一項に記載のタンパク質成分とを含む操作されたトランスポゾン。
【請求項29】
前記DNA標的部位での組込み反応中に生産的な4方向ジャンクションが形成される、請求項28に記載のトランスポゾン。
【請求項30】
請求項1~14のいずれか一項に記載のRNA成分、請求項15~25のいずれか一項に記載のタンパク質成分、請求項26に記載のベクター、請求項27に記載のベクター、請求項28または29に記載の操作されたトランスポゾン、またはこれらの任意の組合せを含む、医薬組成物。
【請求項31】
1つまたは複数の細胞のゲノムに目的の核酸配列を導入する方法であって、前記1つまたは複数の細胞を、(i)請求項15~25のいずれか一項に記載のタンパク質成分もしくは請求項17に記載のベクターと組み合わせて、請求項1~14のいずれか一項に記載のRNA成分もしくは請求項26に記載のベクターと、または(ii)請求項28もしくは29に記載の操作されたトランスポゾンと接触させるステップを含む方法。
【請求項32】
前記細胞をin vitroで接触させる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
次いで前記細胞が対象に導入される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞をin vivoで接触させる、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞における前記目的の核酸配列の発現が、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状、または疾患もしくは障害の根底にある分子経路を改善する、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
有効数の細胞が、それを必要とする対象を処置するために修飾される、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、これによりその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年10月19日に出願した米国特許出願第62/748,227号に基づく利益および優先権を主張するものである。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、米国国立科学財団により与えられた助成0950983の下、政府支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表への参照
17,183バイトのサイズを有する「UTSB_18_47_PCT_ST25.txt」という名称のテキストファイルとして提出した配列表は、連邦規則集第37巻1条52項(e)(5)に従ってこれにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
技術分野
本発明は、一般に、ゲノム修飾のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
ゲノム編集技術は、がん、遺伝障害およびHIV/AIDSを含むがこれらに限定されない、様々な疾患および障害の治療に役立つ可能性がある。体細胞のゲノム編集は、治療法の開発の有望な分野であり、複合酵素編集ツールCRISPR-Cas9が、ヒト胚の生殖細胞系列からヒトβグロビン(HBB)遺伝子を除去するために使用された(Otieno, (2015), J Clin Res Bioeth 6:253. doi: 10.4172/2155-9627.1000253)。しかし、歴史的に、遺伝子編集技術の臨床応用は、数ある懸念の中でも特に、編集事象の低い頻度、高いオフターゲット事象、またはこれらの組合せにより、制限されてきた。
【0006】
したがって、本発明の目的は、遺伝子送達および遺伝子編集のための改善された組成物および方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Otieno, (2015), J Clin Res Bioeth 6:253. doi: 10.4172/2155-9627.1000253
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
操作されたトランスポゾンおよびそれらの使用方法が提供される。トランスポゾンは代表的には、RNA成分およびタンパク質成分を含む。RNA成分は、例えば、DNA標的化配列と、1つまたは複数のタンパク質結合モチーフと、DNA標的部位に組み込まれる目的の核酸配列とを含み得る。DNA標的化配列、タンパク質結合モチーフ、および目的の配列は代表的には、制限酵素様エンドヌクレアーゼ長鎖散在反復(RLE LINE)エレメントタンパク質に由来するタンパク質成分に結合し、逆転写され、生じたcDNAが、例えば細胞ゲノム内の、DNAのDNA標的部位に組み込まれるように、作動可能に連結されている。目的の配列は、例えば、遺伝子もしくはその断片、または機能性核酸をコードすることができる。
【0009】
タンパク質への結合に関与するRNAセグメントであるタンパク質結合モチーフ(PMB)は代表的には、タンパク質成分のRNA結合ドメイン(ドメイン-1)、逆転写酵素、リンカードメイン、エンドヌクレアーゼ、またはこれらの組合せに結合する。
【0010】
RNA成分は、親LINEもしくはSINE骨格からのまたはそれに由来するエレメントを含むことができ、RNA成分の目的の核酸配列は、LINEまたはSINEとは通常は異種である。代表的な実施形態では、DNA標的化配列は、親LINEまたはSINEとは異種である。RNA成分は、例えば、親LINEもしくはSINEエレメントからのまたはそれに由来する3’PBM配列、CRISPR/Casトレーサー配列、CRISPR/Casガイド配列、あるいはこれらの組合せ、親LINEもしくはSINEエレメント、好ましくは、いずれかのIRES配列が非機能性である親LINEもしくはSINEエレメント、からのまたはそれに由来する5’PBM配列、リボザイム、例えばデルタ肝炎ウイルス様リボザイム、あるいはこれらの任意の組合せを含み得る。
【0011】
タンパク質成分は代表的には、RLE LINEエレメントタンパク質に由来し、1つまたは複数のDNA結合ドメイン、1つまたは複数のRNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメイン、およびエンドヌクレアーゼを含み得る。代表的には、DNA結合ドメイン、RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメインおよびエンドヌクレアーゼは、DNA標的部位においてRNA成分およびDNA(例えば、細胞ゲノムDNA)に結合し得、RNA成分からcDNAへの逆転写、およびDNAのDNA標的部位へのcDNAの組込みを助長するように、作動可能に連結されている。代表的には、DNA結合ドメインは、親LINE DNA結合ドメインと比較して変異しているか、または親DNA結合ドメインが代替DNA結合ドメインで置換されている。一部の実施形態では、DNA結合ドメインは、別のDNA結合タンパク質からのDNA結合ドメイン、またはそのモチーフ、例えば、ヘリックスターンヘリックス、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、ウイングドヘリックス、ウイングドヘリックスターンヘリックス、ヘリックスループヘリックス、HMGボックス、Wor3ドメイン、OBフォールドドメイン、免疫グロブリンフォールド、B3ドメイン、TALエフェクター、もしくはRNAガイドドメインである。代表的には、RNA結合ドメイン、逆転写酵素、リンカードメインおよびエンドヌクレアーゼのうちの1つまたは複数についての配列は、LINEエレメントタンパク質の配列と同じであるか、または好ましくは、親LINEエレメントタンパク質と比較してRNA成分もしくは標的DNAに対する結合および/もしくは酵素活性を改善するように変異している。
【0012】
一部の実施形態では、RNA成分の親LINEもしくはSINE骨格、およびタンパク質成分の親LINE骨格は、同じLINEであるか、ならびに/またはSINEは、LINEに由来するか、もしくはLINEの祖先である。RNA成分のRNA配列、タンパク質配列のアミノ酸配列、またはこれらの組合せは、親骨格の組換え配列および/またはバリアントであり得る。
【0013】
RNA成分およびタンパク質成分をコードするベクター、ならびに成分、ベクター、および/またはそれらから形成される操作されたトランスポゾンを含む、医薬組成物も、提供される。好ましくは、トランスポゾンは、DNA標的部位への組込み反応中に生産的な4方向ジャンクションを形成することができる。
【0014】
使用方法も提供される。例えば、1つまたは複数の細胞のゲノムに目的の核酸配列を導入する方法は、1つまたは複数の細胞を、(i)タンパク質成分もしくはタンパク質成分をコードするベクターと組み合わせてRNA成分もしくはRNA成分をコードするベクターと、または(ii)RNA成分とタンパク質成分の両方を含む操作されたトランスポゾンと、接触させるステップを含み得る。細胞をin vitroまたはin vivoで接触させることができる。一部の実施形態では、次いで、ex vivo修飾細胞は必要とする対象に導入される。一部の実施形態では、組成物は、それを必要とする対象に直接投与される。
【0015】
疾患および障害を処置する方法も提供される。そのような使用では、細胞における目的の核酸配列の発現は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状、または疾患もしくは障害の根底にある分子経路を改善することができる。好ましい実施形態では、有効数の細胞が、疾患または障害を有する対象を処置するために修飾される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1Aは、R2Bm構造の略画図である。R2Bm RNA(波線)およびオープンリーディングフレーム(ORF)構造(囲み枠)。ORFは、既知および未知の機能の保存ドメイン:ジンクフィンガー(ZF)、Myb(Myb)、逆転写酵素ドメイン(RT)、システイン-ヒスチジンリッチモチーフ(CCHC)、およびPD-(D/E)XK型制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)をコードする。R2タンパク質に結合する5’および3’非翻訳領域に存在するRNA構造にはそれぞれ、5’および3’タンパク質結合モチーフ(PBM)と見なされる。角括弧は、本文書で使用されるR2Bm RNAの個々のセグメント:5’PBM RNA(320nt)、3’PBM RNA(249nt)、エレメントの5’末端のRNA(25または40nt)、およびRNA3’末端(25または40nt)を示す。
【
図1B】
図1Bは、R2Bm組込み反応の略画図である。4ステップ組込みモデルが、28S rDNA(平行線)のセグメントに関して描かれている。R2タンパク質サブユニット(六角形)が、挿入部位(縦棒)の上流に結合され、R2タンパク質サブユニットが、挿入部位の下流に結合される。上流サブユニットは、3’PBM RNAと会合するが、下流サブユニットは、5’PBM RNAと会合する。標的DNA上のタンパク質サブユニットのフットプリントが示されている。-40bp~-20bpの、しかし、第1鎖DNA切断後に挿入部位(縦線)の真上へと成長する、上流フットプリント。挿入部位の直前から+20bpまでの下流サブユニットフットプリント(Christensen, et al., Nucleic Acids Res 33, 6461 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。組込みの4ステップは、(1)標的DNAのボトム/第1鎖のDNA切断、(2)TPRT、(3)標的DNAのトップ/第2鎖のDNA切断、および(4)第2鎖DNA合成である。第4ステップは、これまでin vitroで直接観察されたことがない。実施例1~8で使用される標的部位のオーバーラップ部分が角括弧で示されている。
【0017】
【
図2A】
図2Aおよび2Bは、非特異的4方向ジャンクション(2A)および線状DNA(2B)DNA構築物の略図である。4方向ジャンクションの設計および配列は、(Middleton and Bond, Nucleic Acids Res 32, 5442 (2004))からのものであり、b、x、hおよびrDNAオリゴをアニーリングすることによりこれを形成した。結果として得られたジャンクションの各アームは、25bpであった。線状DNAは、xオリゴとhオリゴの組合せであるオリゴにオリゴbをアニーリングすることにより生成した。したがって、ジャンクションDNAと線状DNAは、共通のDNAオリゴ(オリゴb)を共有した。線状およびジャンクションDNAの形成および精製の前に32Pで共有DNAオリゴの5’末端を標識した(星印)。
【0018】
【
図3】
図3は、いくつかの線状、3方向、および4方向分岐DNA構築物の略図である。直線は、DNAを表し、波線は、RNAを表す。細線は、
図2A~2Bに描かれている非特異的DNAを表す。太線は、28S rDNAならびにR2エレメント由来の配列を表す。R2配列は、エレメントの5’および3’末端からのものである。28S配列は、7bpの上流DNAを加えた下流DNA(28Sd)である。各構築物の「アーム」は、長さ25bpである。論考のために各構築物に番号が付与されている。星印は、鎖が前の図におけるように末端標識されたことを示す。一方がR2 3’アームにDNA二重鎖を有し、他方が、TPRTの結果であるRNA/DNAハイブリッドを有する、構築物vの2つのバージョンを試験した。検出可能な第2鎖DNA切断は、構築物i~vには見られなかった。第2鎖DNA切断は、構築物vi~viiiで検出することができた。
【0019】
【
図4A】
図4Aは、部分的ジャンクションに対する切断について試験するための、
図3からの4方向ジャンクションのいくつかの誘導体の略図である。構築物に番号を付与した。線状28S標的DNAにおいて過去に使用した下流DNAの量(Christensen, et al., Nucleic Acids Res 33, 6461 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))と等しくするために、28S下流(28Sd)DNAアームを47bp増加させた。
【
図4B】
図4Bは、
図4Aの構築物の各セットについての結合された割合(f結合)の関数としての切断された割合(f切断)のグラフである。ドットの直径は、R2Bmによる構築物の相対切断性を描写する。
【
図4C】
図4Cは、上流28S DNAを含む4方向ジャンクションにおけるDNA切断を試験するために設計された構築物の略図である。28S上流(28Su)DNAアームは、73bpであり、線状標的DNAにおいて通常使用される上流DNAの量(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, J Mol Biol 336, 1035 (2004))に相当する。黒線はDNAであり、細線は非特異的DNAであり、太線は、28SまたはR2由来のDNAのどちらかである。
【
図4D】
図4Dは、
図4Cの構築物の各セットについての結合された割合(f結合)の関数としての切断された割合(f切断)のグラフである。ドットの直径は、R2Bmによる構築物の相対的切断性を描写する。略号および記号は、前の図における通りである。
【0020】
【
図5】
図5は、DNA切断(-dNTP)および切断と第2鎖合成(+dNTP)反応についての変性ゲル分析のための4方向ジャンクションの略図である。
【0021】
【
図6A】
図6Aは、すでに切断されている生成物を極近位に保持するためにおよびどのアームが鋳型として使用されるのかを試験するために設計された、構築物の略図である。5’および3’アームの長さを変えた(40bp対25bp)。28S下流アームは47bpであり、28S上流アームは73bpであった。
【
図6B】
図6Bは、上流タンパク質サブユニットが、第2鎖合成に関与する可能性が高いのか、下流タンパク質サブユニットが、第2鎖合成に関与する可能性が高いのか、を試験するために設計された構築物の略図である。
【
図6C】
図6Cは、結合された割合(f結合)の関数としての合成された割合(f合成)のグラフである。
【0022】
【
図7】
図7Aは、R2組込みの新モデルを示す略図である。R2 28S標的部位が、新たなR2エレメントの挿入に至る第1鎖切断および第2鎖切断の位置とともに表示されている。組込み反応の最初のステップ(I、ii)は、標的部位が、図示を目的として第2鎖挿入部位付近で90°曲げられていることを除き、
図1Bの場合と同様である。ステップiiiは、4方向ジャンクションを生成する第2鎖切断部位付近の鋳型ジャンプ/組換え事象を描写する。ステップivは、第2鎖切断を描写する。最後に、ステップvは、第2鎖DNA合成を描写する。略号:up(挿入部位の上流の標的配列)、dwn(挿入部位の下流の標的配列)。
図7Bは、L1組込みの新モデルを示す略図である。標的部位が表示されており、エレメント挿入時に標的部位重複(tsd)が発生するように第1鎖および第2鎖切断がずらして配置されている。これらのステップは、鋳型ジャンプが、標的のtsd領域を移動させて/融解して4方向ジャンクションを生成することを除き、R2の場合と同様である。
【0023】
【
図8A】
図8Aは、R2標的部位、28S rDNA、および挿入モデルを示す、略画図である。3’PBM RNAと会合しているR2タンパク質は、挿入部位(縦線)の20~40塩基上流(28Su)に結合し、5’PBM RNAと会合しているタンパク質は、挿入部位の20塩基下流に結合する(Christensen, et al., Nucleic Acids Res. 33, 6461-6468 (2005), Christensen and Eickbush, J. Mol. Biol. 336, 1035-1045 (2004))。挿入は、5ステップで起こる:(1)上流タンパク質サブユニットエンドヌクレアーゼによる第1鎖切断。(2)上流タンパク質サブユニット逆転写酵素による第1鎖合成(TPRT)。(3)4方向ジャンクション分岐型構造(略図中で拡大されている)を生じさせる結果となる上流標的DNA(28Su)への鋳型ジャンプ/との組換え。(4)下流タンパク質サブユニットのエンドヌクレアーゼによる第2鎖切断。(5)下流タンパク質サブユニットの逆転写酵素による第2鎖合成。
【
図8B】
図8Bは、RLE LINE(配列番号31~44)のリンカー領域の複数の配列および二次構造のアラインメントである。星印は、変異した残基を表し、半三角形は、推定αフィンガーおよびジンクナックル領域において生成される二重点変異体を表す。この研究のために生成した二重点変異体は、GR/AD/A、H/AIN/AALP、SR/AIR/A、SR/AGR/A、C/SC/SHC、CR/AAGCK/A、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aであった。最上部の角括弧により示されているように、最初の4つの変異体は推定αフィンガー領域内にあり、最後の4つの変異体はジンクナックル領域内にある。二次構造はAli2Dにより予測され、灰色棒はαヘリックスを表し、矢印はβ鎖を表す。略語:R2Bm=Bombyx mori、R2Dm=Drosophila melanogaster、R2Dana=Drosophila ananassae、R2Dwil=Drosophila willistoni、R2Dsim=Drosophila simulans、R2Dpse=Drosophila pseudoobscura、R2Fauric=Forficula auricularia、R2Amar=Anurida maritima、R2Nv-B=Nasonia vitripennis、R2Lp=Limulus polyphemus、R2Amel=Apis mellifera、R2Dr=Danio rerio、R8Hm-A=Hydra magnipapillata、R9Av-1=Adineta vaga。
【0024】
【
図9】
図9Aおよび9Bは、3’(9A)および5’PBM(9B)RNAの存在下で標的DNAに結合する変異体の能力を報告する棒グラフである。野生型(WT)タンパク質活性が1に設定され、それで変異型タンパク質活性がWT活性の割合(fWT活性)として与えられている。各グラフの棒は、左から右へ、R2:WT、H/AIN/AALP、C/SC、SHCを表す。
【0025】
【
図10-1】
図10A~10Dは、αフィンガー変異型タンパク質によるDNA結合を示す棒グラフである。
図10Aおよび10Bは、線状標的DNAに結合する変異体の相対能力を報告する。WTおよびKPD/A WTは、陽性対照としての役割を果たし、その一方で、Pet28aおよびDNAのみのレーンは、陰性対象としての役割を果たした。標準偏差が棒の最上部に提示されている。
図10Cは、分岐型挿入中間体のアナログへの結合を報告する。基質の略図中の星印は、5’末端標識された鎖を示す。
図10Dは、RNAの非存在下でのαフィンガー変異型タンパク質の線状標的DNA結合活性を報告する。各グラフの棒は、左から右へ、R2:KPD/A WT、GR/AD/A、SR/AIR/A、SR/AGR/Aを表す。
【0026】
【
図11】
図11は、αフィンガー変異型タンパク質による第1鎖DNA切断活性を示す散布図である。第1鎖切断を受ける標的DNAの割合(f切断)を変性ゲルから定量した。散布図は、各々のタンパク質濃度でタンパク質により結合された標的DNAの割合(f結合)の関数としてプロットされた、切断された標的DNAの割合(f切断)を示す。WT、GR/AD/A、SR/AIR/AおよびSR/AGR/Aについてのデータ点が、アスタリスク、白い四角形、灰色の四角形、および黒い四角形によりそれぞれ表されている。
【0027】
【
図12A】
図12Aは、すでに切断されている標的DNAが3’PBM RNAおよびdNTPの存在下でR2タンパク質とともにインキュベートされた、第1鎖合成アッセイについての実験機構の説明図である。
【
図12B】
図12Bは、タンパク質滴定系列にわたってのR2タンパク質により結合されたDNAの割合(f結合)の関数としての合成されたDNAの割合(f合成)を示す散布図である。記号および略号は、前の図における通りである。
【0028】
【
図13A】
図13Aは、線状標的DNAに対するαフィンガー変異型タンパク質による第2鎖切断活性の散布図である。EMSAゲルを使用して、R2タンパク質により結合された標的DNAの割合を計算した。変性ゲルを使用して、R2タンパク質により切断された標的DNAの割合を計算した。記号および略号は、前の図における通りである。
【
図13B】
図13Bは、4方向ジャンクションDNAに対するαフィンガー変異型タンパク質による第2鎖DNA切断活性の散布図である。EMSAゲルを使用して、R2タンパク質により結合された標的DNAの割合を計算した。変性ゲルを使用して、R2タンパク質により切断された標的DNAの割合を計算した。記号および略号は、前の図における通りである。
【0029】
【
図14A】
図14Aは、すでに切断されている4方向ジャンクションDNAがdNTPの存在下でR2タンパク質とともにインキュベートされた、第2鎖合成アッセイについての実験機構の説明図である。
【
図14B】
図14Bは、第2鎖合成活性の散布図である。記号および略号は、前の図における通りである。
【0030】
【
図15A】
図15Aは、ジンクナックル変異型タンパク質による第1鎖切断活性を示す散布図である。切断された標的DNAの割合(f切断)が、各々のタンパク質濃度でタンパク質により結合された標的DNAの割合(f結合)の関数としてプロットされている。
【
図15B】
図15Bは、ジンクナックル変異型タンパク質による第1鎖合成活性を示す散布図である。グラフは、TPRTによる第1鎖合成を経る標的DNAの割合(f合成)を、タンパク質により結合されたすでに切断されている線状標的DNAの割合(f結合)の関数としてプロットしている。
【
図15C】
図15Cは、4方向ジャンクション標的DNAに対するジンクナックル変異体の第2鎖切断活性を示す散布図である。グラフは、第2鎖が切断された標的DNA(f切断)を、タンパク質により結合された4方向ジャンクションDNAの割合(f結合)の関数としてプロットしている。
【
図15D】
図15Dは、結合されたDNAの関数としての、線状標的DNAに対するジンクナックル変異体による第2鎖切断活性の散布図である。
【0031】
【
図16】
図16は、ジンクナックル変異体の第2鎖合成活性の散布図である。実験機構は、
図14Aの場合と同様である。
【0032】
【
図17A】
図17Aは、R2Bm、ヒト L1(L1H)およびSaccharomyces cerevisiae Prp8のORF構造を示す一連のドメインマップである(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017), Wan, et al., Science (80-.)(2016) doi:10.1126/science.aad6466;Bertram, et al., Cell (2017);doi:10.1016/j.cell.2017.07.011;Qu, et al., Nat. Struct. Mol. Biol.(2016);doi:10.1038/nsmb.3220;Nguyen, et al., Nature 530, 298-302 (2016);Galej, et al., Current Opinion in Structural Biology (2014). doi:10.1016/j.sbi.2013.12.002;Blocker, et al., RNA 11, 14-28 (2005))。リンカー領域内の、アスタリスクが付いているαヘリックスの配列(丸みのある棒)は、よく整列している。色付きのαヘリックスおよびβ鎖の残部(矢印)は、構造的に類似したナックルを形成する(ことができる)。
【
図17B】
図17Bは、R2BmのRTおよびRLEのモデルである(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017))。
【
図17C】
図17Cは、Prp8の大きい断片のcryo-Em構造である(Wan, et al., Science (80-.). (2016). doi:10.1126/science.aad6466)。
【
図17D】
図17Dは、Bスプライソソーム複合体からのPrp8およびRNAのcryo-EM構造である(Bertram, et al., Cell (2017). doi:10.1016/j.cell.2017.07.011)。スプライソソームのRNA成分により形成された分岐型構造も示されている。
【0033】
【
図18A】
図18Aは、操作されたLINEのRNA成分の略図である。HDV=デルタ肝炎ウイルスリボザイム(必要に応じた);PBM=タンパク質結合モチーフ(1つのエレメントからのものであることもあり、ヘテロRNPを形成する場合、2つのエレメントからのものであることもある);Prom=ORF発現のためのpol IIプロモーターおよび関連転写因子結合部位;ORF=TPRTによってゲノムに持ち込まれる遺伝子のORF;tracr=トレーサーRNA;tracr/ガイド=標準的なcas9標的化RNA;TS=標的配列。トレーサー、ガイド、またはトレーサー/ガイドを、in cis(上記の通り)またはin transで供給することができる。
【
図18B】
図18Bは、操作されたDNA結合ドメインを伴うRLE ORFの略図である。R2または他のRLEタンパク質発現構築物を、所期の細胞における直接産生のために細菌(使用のために精製するために)または真核生物発現系に発現させることができる。操作されたDB=ZFライブラリーからのZF、またはtalen、またはcas9(EN-)。注記:R2中のDBは、ZFおよびMybである。αF=αフィンガー。
【
図18C】
図18Cは、標的部位におけるRLE LINE結合の2つの異なるモデルの略図である。
【
図18D】
図18Dは、RLE LINE組込みの2つの異なるモデルの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書で使用される場合、用語「担体」または「賦形剤」は、1つまたは複数の活性成分と組み合わせられる有機または無機成分である、製剤中の天然または合成不活性成分を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、活性成分の生物活性の有効性に干渉しない非毒性物質を意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療有効量」は、処置される障害、疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状を軽減するのに十分な、またはそうでなければ所望の薬理学的および/もしくは生理的効果を提供するのに十分な投薬量を意味する。正確な投薬量は、対象に依存する可変要素(例えば、年齢、免疫系健康状態など)、処置される疾患または障害、ならびに投与される薬剤の投与経路および薬物動態などの、様々な因子によって変わることになる。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「予防」または「予防すること」は、疾患または障害により引き起こされる1つもしくは複数の症状のリスクがあるまたはその素因を有する対象または系に、疾患もしくは障害の特定の症状の停止、疾患または障害の1つまたは複数の症状の低減または予防、疾患または障害の重症度の低下、疾患または障害の完全な根絶、疾患もしくは障害の安定化またはその発症または進行の遅延を生じさせるために、組成物を投与することを意味する。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「構築物」は、1つまたは複数の単離されたポリヌクレオチド配列を有する組換え遺伝子分子を指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「調節配列」は、別の核酸配列の機能、例えば転写および/または翻訳、を制御および調節する核酸配列を指す。原核生物に適する制御配列は、プロモーター、必要に応じてオペレーター配列および/またはリボソーム結合部位を含み得る。真核細胞がプロモーター、ターミネーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーなどの配列を利用することは公知である。調節配列は、ウイルス遺伝子の転写および複製を制御するウイルスタンパク質認識エレメントを含む。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子」は、その鋳型またはメッセンジャーRNAを介して、特定のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に特有のアミノ酸の配列をコードする、DNA配列を指す。用語「遺伝子」は、RNA産物をコードするDNA配列も指す。ゲノムDNAに関して本明細書で使用される場合の遺伝子という用語は、調節配列ばかりでなく、介在する非コード領域も含み、5’および3’末端を含み得る。
【0041】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドという用語は、タンパク質およびそれらの断片を含む。ポリペプチドは、「内在性」であることもあるか、または「外来性」であることもあり、外来性とは、それらが、「異種」である、すなわち、利用される宿主細胞にとって異質であること、例えば、細菌細胞により産生されるヒトポリペプチドを意味する。ポリペプチドは、本明細書ではアミノ酸残基配列として開示される。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、別のDNAセグメントを挿入して挿入されたセグメントの複製を引き起こすことができるレプリコン、例えば、プラスミド、ファージまたはコスミドを指す。ベクターは、発現ベクターであり得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「発現ベクター」は、1つまたは複数の発現制御配列を含むベクターを指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「トランスフェクトされた」または「形質導入された」は、異種核酸分子が導入された宿主細胞または生物を指す。核酸分子は、宿主のゲノムに安定的に組み込まれていることもあるか、または核酸分子は、安定したまたは不安定な染色体外構造として存在することもある。そのような染色体外構造は、自己複製性であることもある。形質転換細胞または生物は、形質転換プロセスの最終産物ばかりでなく、そのトランスジェニック子孫も包含し得る。「非形質転換」または「非形質導入」宿主は、異種核酸分子を含有しない細胞または生物を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「外来性」は、核酸に関しては、宿主体内に通常存在する核酸を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「異種」は、それらが通常は見られない場所に存在するエレメントを指す。例えば、内在性プロモーターが異種核酸配列、例えば、プロモーターに作動可能に連結された状態で通常は見られない配列に、連結されていることもある。プロモーターエレメントを説明するために本明細書で使用される場合、異種は、ネイティブプロモーターにおいて通常見られるものとは配列、種または数のいずれかの点で異なる、プロモーターエレメントを意味する。例えば、プロモーター配列内の異種制御エレメントは、プロモーター制御を増強するために付加される異なるプロモーターの制御/調節エレメントであることもあるか、または同じプロモーターの追加の制御エレメントであることもある。したがって、用語「異種」は、「外来性」および「非ネイティブ」エレメントも包含し得る。
II.操作されたトランスポゾン
【0047】
長鎖散在反復エレメント(LINE)は、生命の樹にわたって真核生物のゲノムに見られる自律転位因子(TE)の大量に存在する多様な群である。LINEはまた、非自律短鎖散在反復エレメント(SINE)を動員する。SINEは、複製するためにLINEのタンパク質機構を利用する。LINEおよびSINEの移行は、がんへの進行に、遺伝子発現のモジュレーション、ゲノム再編成、DNA修復を含む、ゲノム進化に、および新たな遺伝子の供給源として、関連付けられている。LINEは、標的DNAのニックを逆転写のプライマーとして使用してエレメントRNAがDNAの挿入部位に逆転写される、ターゲットプライムド逆転写(TPRT)と呼ばれるプロセスにより複製される(Luan, et al., Cell 72, 595 (1993);Cost, et al., EMBO J 21, 5899 (2002);Moran, et al., Eds.(ASM Press, Washington, DC, 2002), pp. 836-869)。LINEは、挿入反応の重要なステップを実行するために使用されるタンパク質をコードする。LINEタンパク質は、それら自体のmRNAを結合し、標的DNAを認識し、第1鎖標的DNA切断を実行し、TPRTを実行する。これらのタンパク質は、第2鎖標的DNA切断および第2鎖エレメントDNA合成も実行すると考えられているが、このことについての証拠はわずかである(Luan, et al., Cell 72, 595 (1993);Cost, et al., EMBO J 21, 5899 (2002);Moran, et al., Eds.(ASM Press, Washington, DC, 2002), pp. 836-869;Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005);Kulpa and Moran, Nat Struct Mol Biol 13, 655 (2006);Dewannieux and Heidmann, Cytogenet Genome Res 110, 35 (2005);Doucet, et al. Mol Cell 60, 728 (2015);Christensen, et al., Nucleic Acids Res 33, 6461 (2005);Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016);Martin, RNA Biol 7, 67 (2010);Martin, J Biomed Biotechnol 2006, 45621 (2006);Matsumoto, et al., Mol Cell Biol 26, 5168 (2006);Zingler et al., Genome Res 15, 780 (2005);Kurzynska-Kokorniak, et al., J Mol Biol 374, 322 (2007);Ichiyanagi, et al. N. Okada, Genome Res 17, 33 (2007);Gasior, et al., J Mol Biol 357, 1383 (2006);Suzuki et al., PLoS Genet 5, e1000461 (2009);Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。
【0048】
LINEの初期分岐系統群は、制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)をコードするが、後期分岐LINEは、脱プリン脱ピリミジン部位DNAエンドヌクレアーゼ(APE)をコードする(Eickbush and Malik, in Origins and Evolution of Retrotransposons, Craig, NL, Craigie, R, Gellert, M, A. M. Lambowitz, Eds.(ASM Press, Washington, DC, 2002), pp. 1111-1146;Yang, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 96, 7847 (1999);Feng, et al., Cell 87, 905 (1996);Weichenrieder, et al., Structure 12, 975 (2004))。両方のタイプのエレメントは、機能的に同等の組込みプロセスによって組み込まれると考えられる(Moran, et al., Eds.(ASM Press, Washington, DC, 2002), pp. 836-869;Han, Mob DNA 1, 15 (2010);Fujiwara, Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015);Eickbush and Eickbush, Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015))。
【0049】
コードされた核酸結合、エンドヌクレアーゼ、およびポリメラーゼ機能を使用して、一連の順序付けられたDNA切断および重合事象により、複製が起こる(Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006);Shivram, et al., Mobile Genetic Elements, 1:3, 169-178 (2011);下記の実施例も参照されたい)。エレメントにコードされたタンパク質は、翻訳されると、それらが翻訳された転写物とともに、リボ核タンパク質(RNP)粒子を形成し、すなわち、cis型優先性と呼ばれるプロセスである。RNPは、標的DNAに結合し、DNA鎖の一方を切断し、標的部位の露出した3’-OHをプライマーとして使用してエレメントRNAをcDNA(cDNA)に逆転写する-ターゲットプライムド逆転写(TPRT)と呼ばれるプロセス。次いで、反対の標的DNA鎖が切断される。cDNAが二本鎖DNAになり、組込み事象が完了する。新たに逆転写されたDNAの標的部位への組込み成功は、DNAと、RNAと、トランスポゾンのタンパク質成分と、標的部位DNAとの相互作用に依存する。
【0050】
LINEおよびSINEレトロトランスポゾンからのまたはそれらに由来する配列および機構を利用する操作されたRNA成分およびタンパク質成分、ならびにそれらから形成される操作されたトランスポゾンが提供される。本明細書で使用される場合、LINEまたはSINEに「由来する」とは、RNAおよび/またはタンパク質成分が、そのドメインの1つまたは複数の起源を辿ると親LINEまたはSINEの対応するRNAまたはタンパク質成分に行き着くことを意味する。一部の実施形態では、操作されたRNAまたはタンパク質成分は、親LINEまたはSINEの対応するRNAまたはタンパク質成分と比較して欠失された、置換された、付加されたまたは変異した1つまたは複数のドメインを有する。一部の実施形態では、操作されたRNAおよび/またはタンパク質成分は、親LINEまたはSINEの対応するRNAまたはタンパク質成分の核酸またはアミノ酸配列に対して少なくとも50、60、70、75、80、85、80、95またはそれより高いパーセントの配列同一性を有する。操作されたRNAおよび/またはタンパク質成分は、親LINEまたはSINEの対応するRNAまたはタンパク質成分とは異種である配列、例えば全ドメインなど、を含むことができる。操作されたRNAおよび/またはタンパク質成分は、組換え配列であることもある。
【0051】
代表的には、ゲノムに挿入/送達される目的の遺伝子を含有するRNA成分は、操作されたタンパク質成分に結合され得る。RNAは、DNAに変換され、タンパク質成分により媒介されるターゲットプライムド逆転写(第1鎖DNA切断、遊離した標的部位3-OHからのcDNAのプライミング、第2鎖切断、第2鎖合成)によりゲノムに挿入される。
【0052】
挿入部位を変えるために、アミノ末端ZF/myb、リンカーのαフィンガー(下記の実施例を参照されたい)、およびRLE(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))を含む、RLE LINEの既存のDNA結合領域を、目的の新たな部位に結合するように、およびそれを切断するように、修飾または置換することができる。ZF/mybは、目的の新たな部位に標的化するDNA結合ドメインで置換されことになる候補である。一部の実施形態では、一般に、リンカー、RT、RLEを適所で修飾することができる。異なるRLE LINE骨格を全体的におよび部分的に使用することおよび交換することができる。アミノ末端ドメインに使用するためのDNA結合モジュールの可能性のある供給源としては、ジンクフィンガーライブラリーからのジンクフィンガー、Talen、CRISPR/cas、および下記でより詳細に論じられるような他のものが挙げられる。
【0053】
再標的化された遺伝子送達系を操作されたするためにトランスポゾンのコードおよび非コード核酸配列を変更する場合、系の成分部分の各々が構造的および機能的適合性を維持しつつ、所望の部位(例えば、遺伝子位置)に特異的に標的化もすることを確実にするような手順を踏まなければならない。重要な構造エレメントの設計上の考慮事項は、下記で詳細に論じられる。実施者により選択される成分部分にかかわらず、RNA結合活性、DNA結合活性、DNAエンドヌクレアーゼ活性、逆転写酵素(RT)活性、および第2鎖合成による組込みの完了を完全なものにするために操作されたトランスポゾンが基本的な活動を行うことが確実にできるように注意を払うべきである。
A.操作されたトランスポゾンの構造
【0054】
例示的な操作されたトランスポゾンに基づくRLE LINE骨格は、
図18A~18Dに概要が示されている。操作されたトランスポゾンは、RNA成分およびタンパク質成分を含む。
1.RNA成分
【0055】
一般に、RNA成分は、RNA成分へのタンパク質成分の結合を助長することを可能にするまたは助長するエレメント;DNA標的部位への操作されたトランスポゾンの標的化、好ましくは結合(例えば、プライミング)、を助長することを可能にするまたは助長するエレメント;およびタンパク質成分もしくは他のエンドヌクレアーゼ、逆転写酵素もしくはin transで提供される補助エレメントのエンドヌクレアーゼ活性、逆転写活性および組込み活性のうちの1つもしくは複数を助長することを可能にするまたは助長するエレメントを含む。最低限、その一次構造と二次構造の両方を含むRNA成分の設計は、DNA標的部位への目的のオープンリーディングフレームの適切な組込みを妨げてはならず、好ましくは、そのような組込みに役立たなければならない。
【0056】
操作されたトランスポゾンの例示的RNA成分は、
図18Aで例示される。したがって、例えば、操作されたトランスポゾンのRNA成分は、標的配列(TS)、リボザイム(例えば、デルタ肝炎ウイルスリボザイム)(HDV)、tracr配列(例えば、tracr、ガイド、またはtracr/ガイド配列、例えばCas9標的化RNA)、IRES/PBMタンパク質結合モチーフドメインをコードする配列、プロモーター(例えば、ORF発現を確実にするためのpol IIプロモーターまたは転写因子結合部位)(Prom)、標的部位に挿入するための目的の導入遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)、およびPBMタンパク質結合モチーフのうちの1つまたは複数を含むことができる。トレーサー、ガイド、またはトレーサー/ガイドを、in cisまたはin transで供給することができる。RNA成分は、LINEトランスポゾンからのオープンリーディングをコードする配列を含む必要がなく、好ましくは含まない。
【0057】
短鎖散在反復エレメント(SINE)は、APE LINEの寄生体である。SINEは、LINEのタンパク質成分を動員してゲノムに組み込まれる。そのようなSINEは、LINEタンパク質を結合するためのおよびゲノムへの挿入のための最小のRNA必要要件に相当し、または少なくともほぼそれに相当する。RLE LINEのSINEは、SIDEと呼ばれており、SIDEは、短鎖内部欠失エレメント(Short Internally Deleted Element)に相当する。RLE LINE R2は、デルタ肝炎ウイルス様リボザイムと、親LINEエレメントの3’PBM RNA成分とを有する、様々なショウジョウバエ種に存在するSIDEを有する(D. G. Eickbush, T. H. Eickbush, Mob DNA 3, 10 (2012))。
【0058】
リボザイムは、rRNA/R2同時転写物からエレメントRNAを切断するために使用され、親R2はもちろんSIDEにも存在する(Eickbush, et al., Mol Cell Biol (2010);Eickbush, et al., Mob DNA 3, 10 (2012))。R2エレメントによりコードされるHDVリボザイムの多くは、rDNA/R2エレメント同時転写物を、例えば、エレメントRNAの5’末端に一部のリボソーム配列を残すように切断する。下記で提示される実験で説明されるように、標的配列は、存在する場合、TPRT後に上流標的配列にアニーリングして4方向ジャンクション組込み中間体を形成するために使用される。4方向ジャンクション組込み中間体は、組込み反応の後半への入口である。HDVが全ての標的配列を取り除くR2エレメントについては、鋳型ジャンプが起こって4方向ジャンクションを形成する。RNAは同時転写物として作製されないので、リボザイムは、操作されたRNAにおいて必要に応じたものであり得る。しかし、リボザイム(例えば、HDVリボザイム)の存在は、細胞のRNAseによる分解からエレメントRNAを保護するのに役立つ可能性がある。加えて、R2タンパク質は、HDVリボザイムと相互作用する可能性があり、および/または組込み反応に役立つ可能性がある。
【0059】
操作されたRNA上の標的配列の存在は、特に、そのmRNA上に標的配列を残すことが公知であるR2エレメントからのタンパク質およびRNA成分を使用する場合、4方向ジャンクションの形成に役立つ可能性がある。
【0060】
CRISPR/Casを、DNA結合ドメインまたはDNA結合+DNA切断ドメインのどちらかとして操作されたRNAタンパク質粒子(RNP)の駆動を助長するために使用する場合には、操作されたCRISPR/Cas-9系のRNA成分を操作されたR2「SIDE」RNAに含めることができる。
【0061】
3’PBMは、重要なRNAエレメントである。3’PBM RNAは、TPRTを受けることができるR2タンパク質に結合するRNAの唯一の構造成分であり、したがって、3’PBM RNAは、ゲノムに組み込まれる操作されたRNAにとって重要な成分であろう。操作されたRNAに使用する3’PBM RNAの配列および構造を、親LINE RNAおよびそれに結合する親タンパク質とマッチさせなければならない。
【0062】
5’PBM RNAは、SIDE組込みには必要とされないが、一般に、組み込まれる完全長R2エレメントの重要な成分である。その存在は、組込み可能なRNAタンパク質粒子(RNP)を形成するのに役立ち、RNAを分解から保護するのに役立ち、組込み反応の後半に入るためのタイミング機構としての機能を果たす(Christensen, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006);下記の実施例も参照されたい)。R2 LINEによりそのmRNAを翻訳するために使用される内部リボソーム進入部位(IRES)候補が、5’PBM内に含有される。5’PBM RNAを操作されたRNAに使用する場合、IRESを非機能性にする(例えば、変異させる、欠失させる、排除する、など)必要があり得る。
【0063】
操作されたRNA成分内のLINE ORF配列を、ゲノムに組み込むべき目的の遺伝子または調節配列で置換することができる。
2.タンパク質成分
【0064】
操作されたRLE LINEタンパク質は、RNA成分に結合し、単独で、またはin transで提供される他のエンドヌクレアーゼ、逆転写酵素または補助エレメントと相まって、目的の遺伝子の逆転写およびDNA標的部位への組込みを助長するように設計される。LINEに基づくタンパク質は、LINEトランスポゾンのオープンリーディングフレームのタンパク質ドメインの多くまたは全てを含むことができる。一般に、操作されたLINEタンパク質は、RNA成分に結合し、ゲノムDNAに結合し、標的DNAの第1鎖を切断し、TPRTを実行し、4方向ジャンクション中間体に結合し、4方向ジャンクションを切断し、第2鎖合成を助長するように、設計される。
【0065】
タンパク質成分は、例として一般的RLE ORF骨格を使用して
図18Bで例示される。例示されているタンパク質は、N末端DNA結合ドメイン(DB)、RNA結合ドメイン(RB)、逆転写酵素(RT)、推定αフィンガー(αF)とジンクナックル様CCHCモチーフとを含むリンカー、および制限酵素様DNAエンドヌクレアーゼ(RLE)を含む。
【0066】
R2BmにおけるDBは、ZFおよびmybを有する。R2Lp、R8HmおよびR9Avでは、それは、3つのZFおよび1つのmybを有する。NeSL-1では、それは、2つのZFを有する。R2Bmでは、mybは、タンパク質サブユニットを挿入部位の下流に配置することおよび5’PBM RNAの存在下でそれを行うことが公知である(Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。同じ部位を標的するR2Lpでは、mybは、標的部位の上流に結合する。mybが挿入部位の上流に結合する配列は、下流部位の縮重パリンドロームである(Thompson and Christensen, Mobile Genetic Elements 1, 29 (2011))。NeSLでは、ZFは、挿入部位の上流に結合し、第1鎖切断への標的化に役立つと考えられている(Shivram, et al., Mob Genet Elements 1, 169 (2011))。R2Bmにおけるジンクフィンガーは、NeSLの場合と同様に、第1鎖DNA切断への標的化に関与すると考えられている(Shivram, et al., Mob Genet Elements 1, 169 (2011))。R8およびR9を含む、R2系統群エレメントはまた、タンパク質サブユニットの上流配列および恐らく下流配列への結合を補助するためにZFおよびmybを使用する(Shivram, et al., Mob Genet Elements 1, 169 (2011))。上述の通り、R2 SIDEは、5’PBM RNAを欠いており、それ自体は、親LINEがするように下流にタンパク質サブユニットを事前に配置しない。骨格LINEトランスポゾンからのDBを適所で変異させて、または異なるDNA結合ドメイン、例えば、ライブラリーからのZF、もしくは別様に公知のZF、もしくはtalen、もしくはcas9などで置換して、新たな部位に標的化することができる。DBは、R2エレメントの場合は挿入部位の上流と下流の両方と接触するが、NeSL-1の場合は標的配列の上流のみと接触すると考えられている。一部の事例では上流の配列に結合するように、および他の事例では上流の配列と下流の配列の両方に結合するように、操作されたタンパク質を設計することができる。
【0067】
リンカードメインは、
図18Bに描写されているように、αFおよびCCHCジンクナックル様ドメインを含む(Mahbub, et al., Mob DNA 8, 16 (2017))。下記の実施例で説明されるように、αFおよびCCHCジンクナックルは、組込み反応の全ての段階において標的DNAを切断および合成のために適切な位置に配置する。特に、αFは、4方向ジャンクションの結合および認識に重要である。4方向ジャンクションは、第2鎖DNA切断および第2鎖DNA合成への入口である。R2Bmでは、挿入部位の下流の配列(すなわち、4方向ジャンクションのノースアーム)は、DNA切断に重要であり、DBにより認識される。R2 LINE RNPでは、タンパク質サブユニットは、5’PBM RNAとの会合によって下流DNA配列にすでに結合されている。サウス、ウエストおよびイーストアームの構造および配列もタンパク質により認識される。R2 SIDE RNPは、タンパク質サブユニットを挿入部位の下流にではなく、上流部位にのみ事前に配置する。NeSLのようなエレメントは、DBによって挿入部位の下流の配列に結合しない可能性が高い。その代わり、4方向ジャンクションの認識およびエンドヌクレアーゼの配置は、リンカー、特にαF、により行われる。4方向ジャンクションの認識は、配列特異的でもあり、構造特異的でもある。αFは、4方向ジャンクションの中心と接触すると考えられており、これは、スプリコソーム内の5’スプライス部位の多分岐型RNAに結合するPrp8のαFに類似している(Mahbub, et al., Mob DNA 8, 16 (2017))。下記の実験も参照されたい。したがって、新たな部位に標的化するためのRLE LINEタンパク質の操作は、アミノ末端DNA結合ドメインばかりでなくリンカー、特にαF、の修飾も含み得る。
【0068】
標的切断特異性の多くは、DBおよびリンカーに繋留されているRLEに起因し得るが、エンドヌクレアーゼは、標的DNAとの何らかの重要な接触点を作り、何らかの特異性を有するように見える(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016)および下記の実験)。したがって、新たな部位へのトランスポゾンの標的化は、RLEの修飾を含み得る。
【0069】
R2BmのRNA結合ドメイン(RB)は、3’PBM RNAと5’PBM RNAの両方に結合する(Jamburuthugoda and Eickbush, Nucleic Acids Res 42, 8405 (2014))。RNA結合ドメインは、操作されたトランスポゾンのRNAに、逆転写および標的部位への組込みに至る方法で、結合することができなければならない。代表的には、親タンパク質をおよび同じ親LINEからのPBM RNAを使用することにより、果たすことができる。しかし、上流3’PBM結合サブユニットに一方の親LINEを使用し、下流5’PBM結合サブユニットに別の親LINEを使用することが有利であることもある。タンパク質およびRNA成分の操作により導入される摂動を補正するために、必要に応じてRNA結合ドメインを変異させることができる。
【0070】
図18Cおよび18Dは、RNA成分に結合する操作されたトランスポゾンの2つのモデル(18C)ならびに逆転写およびDNA標的部位への組込み(18D)を図示する。タンパク質サブユニットは、所望の遺伝子位置に結合するように操作される。異なるRLE系列は、挿入部位の上流および下流に結合するために様々な立体配置のアミノ末端DBを使用するように見えるので、タンパク質サブユニットは、同じ親RLE起源のものであることもあるか、または異なる親RLE起源のものであることもある。設計は、(1)R2 LINE様組込みおよび(2)R2 SIDE様組込みという、2つの挿入モデル(
図18D)を考慮に入れることができる。
【0071】
DB、リンカーおよびRLEにおける変異(例えば、点変異)は、DNA結合および認識がこれらのドメインの各々を含むので、エレメントへの再標的化の際に必要とされる可能性が高いであろう。
B.RNAおよびタンパク質成分の配列源
1.親レトロトランスポゾン
【0072】
操作されたレトロトランスポゾンは代表的には、親LINEもしくはSINE/SIDEとも呼ばれる、既存のLINEもしくはSINE/SIDE、またはLINEもしくはSINE/SIDE骨格から構築される。したがって、LINEおよびSINEの適切な核酸配列およびアミノ酸配列を、目的の標的部位への目的の遺伝子の組込みを果たすために必要に応じて調整すること、変異させること、または別様に修飾することができる。
【0073】
例えば、既知RLE LINEまたはSIDEに由来し得る、3’PBMを含むがこれらに限定されない、RNA成分配列がある。タンパク質成分配列は代表的には、RLE LINEに由来する。上記で論じられているように、RNA成分およびタンパク質成分は、目的の遺伝子の適切な逆転写および組込みを確実にすることに適合性でなければならない。
【0074】
2つの主要LINE群がある。2つの群は、共通のRTおよびリンカー(αFおよびIAP/gag様CCHCジンクナックル)を共有する。2つの群は、エレメントRNPの形成および宿主DNAへの組込みに使用される、それらのオープンリーディングフレーム(ORF)構造、RNA結合ドメイン、DNA結合ドメイン、およびDNAエンドヌクレアーゼドメインが異なる。
【0075】
より早期の分岐群は、単一のORFを有する。ORFは、N末端ジンクフィンガーおよびMybモチーフと、RTと、gagナックル様モチーフと、制限酵素様エンドヌクレアーゼ様フォールド(RLE)を有するII型制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)とを有する多機能タンパク質をコードする(Eickbush, et al., Microbiol Spectr. 2015;3:MDNA3-0011. doi: 10.1128/microbiolspec.MDNA3-0011-2014;およびEickbush, ”R2 and related site-specific non-long terminal repeat Retrotransposons.”In: Craig NL, Craigie R, Gellert M, Lambowitz AM, editors. Mobile DNA II. Washington, DC: ASM Press;2002. p. 813-35において概説されている)。LINEのこの群は、一般に、組込み中に部位特異的である。
【0076】
昆虫R2エレメントは、この早期分岐LINE群のよく研究されている例である。Muhbub, et al., Mobile DNA (2017) 8:16 DOI 10.1186/s13100-017-0097-9nは、R2 RTの最新モデルを、RTとエンドヌクレアーゼ間のリンカー領域の分析とともに提示している。RT、リンカーおよびRLEの配列-構造アラインメントとともに、R2タンパク質分解データは、RLE LINEが、RTドメインとRLEドメインとを有する高度に保存される真核生物スプライシング因子であるPrp8の大きい断片と、多数の共通点を共有することを示す。
【0077】
RLE LINEおよびそれらのSIDEを、操作されたトランスポゾンのRNAおよびタンパク質成分を誘導するための親骨格としてまたは基礎として使用することができる。
2.DNA結合ドメイン源
【0078】
一部の実施形態では、LINEまたはSINEの1つもしくは複数のDNA結合ドメインまたはそれらのモチーフを、代替DNA結合ドメインで修飾または置換することができる。例えば、N末端ZF(および存在する場合にはMybモチーフ)は、これらのモチーフを含有する全ての部位特異的RLE保有非LTRレトロトランスポゾンについての標的化モジュールの大部分に相当し得る。MybおよびZFは、新たな部位への標的化を可能にする修飾を受けることができる。修飾中に、個々のZFおよびMybモチーフが獲得または喪失され得る。加えて、様々な核酸結合活性(5’UTR RNA結合、3’UTR RNA結合、上流DNA結合、および下流DNA結合)と触媒活性(第1鎖切断、TPRT、第2鎖切断、および第2鎖合成)の間の物理的/時間的関連性の構成を、エレメントが移行するにつれて、ゲノム内の新たな部位に標的化するように再構成することができる。組込みおよびリンカー領域に関する特定の考慮事項は、上記でも論じられている。
【0079】
一部の実施形態では、代用DNA結合ドメインは、DNA結合タンパク質のDNA結合ドメインまたはそのモチーフに由来する。DNA結合ドメインの例としては、ヘリックスターンヘリックス、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、ウイングドヘリックス、ウイングドヘリックスターンヘリックス、ヘリックスループヘリックス、HMGボックス、Wor3ドメイン、OBフォールドドメイン、免疫グロブリンフォールド、B3ドメイン、TALエフェクター、RNAガイドドメイン、例えばCasタンパク質中のもの、が挙げられるが、これらに限定されない。
3.導入遺伝子源
【0080】
上記で紹介された通り、RNA成分は代表的には、本明細書では導入遺伝子とも呼ばれる目的の遺伝子、および目的のオープンリーディングフレームをコードする。一部の実施形態では、導入遺伝子配列は、1つまたは複数のタンパク質または機能性核酸をコードする。導入遺伝子は、モノシストロン性であることもあるか、またはポリシストロン性であることもある。一部の実施形態では、導入遺伝子は、多遺伝子性である。LINEは、3~7KB範囲であり、それらのSINE/SIDEは、数百塩基であるので、導入遺伝子は、同様のサイズであり得る。より大きい導入遺伝子も可能であり得る。
【0081】
開示される操作されたトランスポゾンを使用して、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子導入、遺伝子タグ付け、導入遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、遺伝子変異などを誘導することができる。例えば、トランスポゾンを使用して、標的DNA配列に核酸材料を付加させる、すなわち、挿入または補充する(例えば、タンパク質、siRNA、miRNAなどをコードする核酸を「ノックイン」する)こと、タグ(例えば、6×His、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質など)、赤血球凝集素(HA)、FLAGなど)を付加させること、遺伝子に調節配列(例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、2Aペプチド、開始コドン、停止コドン、スプライスシグナル、局在化シグナルなど)を付加させること、核酸配列を修飾する(例えば、変異を導入する)ことなどができる。したがって、組成物は、例えば、遺伝子療法において、例えば、疾患を処置するためにまたは抗ウイルス、抗病原体もしくは抗がん治療薬として、使用される場合、DNAを、部位特異的、すなわち「標的化された」方法で修飾するために、例えば、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子編集、遺伝子タグ付けなどに使用することができる。
【0082】
したがって、標的部位に組み込まれるRNA成分の配列は代表的には、本明細書では、目的の遺伝子、導入遺伝子、または目的のオープンリーディングフレームと呼ばれるが、一部の実施形態では、目的の遺伝子が完全長遺伝子でも完全長導入遺伝子でもなく、むしろ遺伝子の断片、調節エレメント、または別の非翻訳エレメントであることは理解されるであろう。
a.目的のポリペプチド
【0083】
導入遺伝子は、目的の1つまたは複数のポリペプチドをコードすることができる。ポリペプチドは、任意のポリペプチドであることができる。例えば、導入遺伝子によりコードされる目的のポリペプチドは、生物に治療もしくは予防効果を提供するポリペプチドであることもあるか、または生物の疾患もしくは障害を診断するために使用され得るポリペプチドであることもある。導入遺伝子は、遺伝性疾患または障害を代償または別様に補正することができる。導入遺伝子は、がん、自己免疫障害、寄生虫感染症、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症または他の感染症の処置において機能することができる。発現される導入遺伝子は、免疫系の細胞のリガンドもしくは受容体として機能するポリペプチドをコードすることもあるか、または生物の免疫系を刺激もしくは阻害するように機能することができるポリペプチドをコードすることもある。
【0084】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、選択可能なマーカー、例えば、真核細胞において有効である選択可能なマーカー、例えば薬物耐性選択マーカーを含む。この選択可能なマーカー遺伝子は、選択培養培地で成長する形質導入宿主細胞の生存または成長に必要な因子をコードすることができる。選択遺伝子の形質導入を受けていない宿主細胞は、培養培地で生き残らないであろう。代表的な選択遺伝子は、抗生物質もしくは他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、カナマイシン、ゲンタマイシン、ゼオシンもしくはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質、栄養要求性欠損を補完するタンパク質、または培地から差し引かれた重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0085】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、レポーター遺伝子を含む。レポーター遺伝子は代表的には、宿主細胞に存在も発現もされない遺伝子である。レポーター遺伝子は代表的には、何らかの表現型変化または酵素的特性を提供するタンパク質をコードする。そのような遺伝子の例は、K. Weising et al. Ann. Rev. Genetics, 22, 421 (1988)において提供されている。好ましいレポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子およびGFP遺伝子が挙げられる。
【0086】
iPC、インターロイキン、受容体、転写因子ならびにアポトーシス誘発性および抗アポトーシスタンパク質を産生するものを含む、追加の遺伝子。
b.機能性核酸
【0087】
導入遺伝子は、機能性核酸をコードすることができる。機能性核酸は、特定の機能、例えば、標的分子に結合する機能または特定の反応を触媒する機能を有する、核酸分子である。機能性核酸分子は、次の非限定的なカテゴリーに分けることができる:アンチセンス分子、siRNA、miRNA、アプタマー、リボザイム、三重鎖形成分子、RNAi、および外部ガイド配列。機能性核酸分子は、標的分子が有する特定の活性のエフェクター、阻害剤、モジュレーターおよび刺激因子として作用することができ、または機能性核酸分子は、いずれの他の分子とも無関係の新規活性を有することができる。
【0088】
機能性核酸分子は、任意の巨大分子、例えば、DNA、RNA、ポリペプチドまたは糖鎖と相互作用することができる。したがって、機能性核酸は、標的ポリペプチドのmRNAもしくはゲノムDNAと相互作用することができ、またはポリペプチド自体と相互作用することができる。多くの場合、機能性核酸は、標的分子と機能性核酸分子間の配列相同性に基づいて他の核酸と相互作用するように設計される。他の状況では、機能性核酸分子と標的分子間の特異的認識は、機能性核酸分子と標的分子間の配列相同性に基づかず、むしろ、特異的認識が生じるのを可能にする三次構造の形成に基づく。
c.発現エレメント
【0089】
上記で紹介された通り、導入遺伝子は、標的DNA部位に組み込まれると導入遺伝子発現を可能にする発現制御配列を含むことができ、またはそのような発現制御配列に作動可能に連結され得る。作動可能に連結は、開示される配列が、遺伝子構築物に、発現制御配列が目的の配列の発現を有効に制御するように組み入れられることを意味する。発現制御配列の例としては、プロモーター、エンハンサー、および転写終結領域が挙げられる。プロモーターは、核酸配列分子の領域、代表的には、転写が開始する地点(一般に、RNAポリメラーゼIIの開始部位付近)の上流100ヌクレオチド以内の領域、で構成されている、発現制御配列である。
【0090】
一部のプロモーターは、「構成的」であり、調節の影響の非存在下で転写を指示する。一部のプロモーターは、「組織特異的」であり、1つまたは少数の組織型において排他的にまたは選択的に転写を開始する。一部のプロモーターは、「誘導性」であり、誘導因子の影響下で遺伝子転写を達成する。誘導は、例えば、生理応答、外部シグナルに対する応答、の結果として、または人工的操作の結果として、起こり得る。一部のプロモーターは、テトラサイクリンの存在に応答し、「rtTA」は、リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子である。そのようなプロモーターは、当業者に周知である。一般に使用されるプロモーターおよびエンハンサー配列は、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、シミアンウイルス40(SV40)、およびヒトサイトメガロウイルスに由来する。SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列は、哺乳動物宿主細胞における構造遺伝子配列の発現のための他の遺伝子エレメント、例えば、SV40起源、早期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライスおよびポリアデニル化部位を提供するために使用され得る。ウイルス早期および後期プロモーターは、両方が、ウイルス複製起点も含有し得る断片としてウイルスゲノムから容易に得られるため、特に有用である。哺乳動物宿主細胞における使用のための例示的な発現ベクターは、当技術分野において周知である。
【0091】
プロモーターの制御下にコード配列を置くために、ポリペプチドの翻訳リーディングフレームの翻訳開始部位をプロモーターの下流1ヌクレオチド~約50ヌクレオチドの間に配置することが好ましい。エンハンサーは、時間、位置およびレベルの点で発現特異性を提供する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは、転写部位から様々な距離に位置するときに機能することができる。エンハンサーは、転写開始部位から下流に位置することもできる。コード配列は、RNAポリメラーゼが、コード配列をmRNAに転写することができ、次いで、それがコード配列によりコードされるタンパク質に翻訳され得る場合、細胞内の発現制御配列に「作動可能に連結」されており、細胞内の発現制御配列の「制御下」にある。
C.設計上の考慮事項
【0092】
操作されたトランスポゾンを設計する際の重要な考慮事項は、標的部位への操作されたトランスポゾンの組込み方法である。RNAおよびタンパク質成分への修飾は、標的部位への目的の遺伝子の組込みを確実にする方法で行わなければならない。
1.4方向分岐型DNA中間体
【0093】
第2鎖DNA切断は、切断部位が一般にパリンドロームでないため、依然として不可解である:第2の切断部位の周囲の配列は、第1鎖部位の周囲の配列と無関係であることが多い。加えて、切断は、平滑末端化状態または位置のずれた状態を生じさせることがあり、後者は、そのエレメントの切断事象の位置のずれに依存して標的部位重複もしくは標的部位欠失のどちらかに至る。このずらして配置される切断は、数塩基離れている(例えば、R2Bmでは2bp)こともあるか、またはかなり遠く離れている、例えばR9では126bp、こともある(Gladyshev and Arkhipova, Gene 448, 145 (2009), Christensen and Eickbush, J Mol Biol 336, 1035 (2004))。APE LINEでは、一般に、切断は、例えば挿入時にわずかな10~20標的部位重複を生じさせるように、ずらして配置される(Zingler, et al., Cytogenet Genome Res 110, 250 (2005);Christensen, et al. Genetica 110, 245 (2001);Ostertag, et al., Annu Rev Genet 35, 501 (2001))。LINEを有するAPE(APE LINE)からのエンドヌクレアーゼは、線状標的DNA上の第1のDNA切断部位に対して多少の特異性を有するが、第2のものに対してはそれよりはるかに低い特異性を有するように見える(Feng, et al., Cell 87, 905 (1996), Zingler, et al., Cytogenet Genome Res 110, 250 (2005), Christensen, et al. Genetica 110, 245 (2001), Feng, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 95, 2083 (1998), Maita, et al., Nucleic Acids Res 35, 3918 (2007))。LINEを有するRLE(RLE LINE)からのエンドヌクレアーゼは、同様に標的部位認識に関与する(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))。しかし、両方の場合、タンパク質中の未同定DNA結合ドメインによりDNAに繋留されているエンドヌクレアーゼを含む、第1鎖切断と第2鎖切断の異なる特異性を説明するために、切断のさらなる指定子が想起された。もう1つの複雑化因子は、第1の切断事象がエレメントRNAの存在下で起こるはずであり、その一方で、第2の切断事象が、先験的推論によれば、エレメントRNAの非存在下で起こるはずであることであるが、これは、in vitroでの実証が困難であった(Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。
【0094】
第2鎖DNA合成は、20年より長きにわたり未解決のままであり、in vitroで直接観察されたことがいまだかつてない(Cost, et al., EMBO J 21, 5899 (2002), Zingler et al., Genome Res 15, 780 (2005), Han, Mob DNA 1, 15 (2010), Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Kajikawa, et al., Gene 505, 345 (2012))。第2鎖合成は、第2鎖切断事象により生成された遊離3’-OHのプライマー作用が消失され、エレメントによりコードされた逆転写酵素により合成されると考えられている。標的(ds)DNA末端が、in vitro反応での第2鎖DNA切断後に互いに遠のいたときに、どのようにして提案されたプライマー-鋳型会合が生じるのかは不明である(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。
【0095】
Bombyx moriからのR2エレメントであるR2Bmは、LINEの挿入反応を研究するために使用されてきた多数のモデル系の1つである(Eickbush and Eickbush, Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015))。R2エレメントは、部位特異的であり、28S rRNA遺伝子の「R2部位」を標的とする(Eickbush and Eickbush, Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015))。R2エレメントは、N末端のジンクフィンガー(ZF)およびmybドメイン(Myb)と、中央の逆転写酵素(RT)と、制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)と、C末端のgagナックル様CCHCモチーフとを有する、単一のオープンリーディングフレームをコードする(
図1A)。R2Bmタンパク質は、E.coliにおいて発現され、in vitro反応に使用するために精製された。
【0096】
R2Bmタンパク質およびRNAのin vitro研究は、R2Bmの組込みのモデル(
図1B)をもたらした(Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。一方がR2 RNAの3’タンパク質結合モチーフ(PBM)に結合し、他方が5’PBMに結合する、R2タンパク質の2つのサブユニットが、組込み反応に関与すると考えられる。5’および3’PBM RNAは、2つのサブユニットの役割を指示するものであり、TPRTによるエレメント組込みを生じさせる結果となる一連のDNA切断および重合ステップを調整する(
図1A)。エレメントの3’PBMに結合されたタンパク質サブユニットは、R2相互作用部位の上流の28S rDNA配列と相互作用する。上流サブユニットのRLEは、第1の(ボトム/アンチセンス)DNA鎖を切断する。第1鎖標的DNA切断後、サブユニットのRTは、切断事象により生成された3’-OHをプライマーとして使用して第1鎖cDNAを合成するTPRTを実行する。5’PBM RNAに結合されたタンパク質サブユニットは、ZFおよびMybドメインによってR2挿入部位の下流の28S rDNA配列と相互作用する。下流サブユニットのRLEは、第2の(トップ/センス)DNA鎖を切断する。しかし、第2鎖DNA切断は、恐らく、タンパク質を「RNA非結合」立体構造にするTPRTのプロセスにより、5’PBM RNAがサブユニットから抜き取られてしまうまで、起こらないと考えられる。第2鎖DNA切断は、in vitro反応ではRNAの非存在下で起こらない。第2鎖切断は、この報告までは、狭い範囲のR2タンパク質、5’PBM RNAおよび観察される目標DNA比を必要とした(Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。加えて、第2鎖切断は、上流標的-DNAを下流標的-DNAから分離するため、上流標的-DNAから下流-DNAに結合しTPRT産物までの第2鎖DNA合成の開始は問題が多い(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。
【0097】
DNAエンドヌクレアーゼは、LINEの組込み反応において中心的な役割を果たす。早期分岐LINEに見られるRLEは、エンドヌクレアーゼのPD-(D/E)XKスーパーファミリーのバリアントである(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016), Yang, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 96, 7847 (1999))。LINE RLEは、古細菌ホリデイジャンクションリゾルバーゼに対して配列および構造相同性を有する(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))。しかし、以前の研究は、R2タンパク質がホリデイジャンクションリゾルバーゼとして機能することができるのか否かについて、および挿入機構において果たし得るこの推定的機能に何らかの関連性があるのならどのような関連性があるのかについて、未解決の問題を残した。分岐型DNAに対して導入機能を果たすR2タンパク質の能力を下記の実施例で詳しく調査した。結果は、組込み特異的4方向ジャンクションが、組込み事象の重要な中間体であり、組込み事象の後半への入口であることを示す。この4方向ジャンクションは、構造と配列の両方によってRLEタンパク質により認識される。構造および配列上の必要要件を使用して、機能性操作されたトランスポゾンの設計を助長することができる。
a.R2タンパク質は、一般的なホリデイジャンクションリゾルバーゼではなく、リゾルバーゼ様反応においてそれ自体の組込み中間体を切断する。
【0098】
R2タンパク質は、非特異的4方向DNAジャンクションであるホリデイジャンクションに、非特異的線状DNAよりも優先的に結合することが判明した。R2タンパク質は、マイナスRNA立体構造である場合、ジャンクションDNAに結合するための大きな表面を有するように見える。これは、R2タンパク質のマイナスRNA立体構造が、第2鎖DNA切断を行う可能性が高いので、R2組込みに関して機構的に意味がある。5’RNAの存在は、非特異的ジャンクションDNA(および一般に非特異的DNA)への結合を消失させる。R2タンパク質のどの部分が、4方向DNAジャンクションに結合するのかは不明であり、それはエンドヌクレアーゼでない可能性もある。実際、下記の実験は、リンカー、特にリンカーのαフィンガーを、4方向ジャンクションDNA認識および結合の主要決定因子として意味づける。5’PBM結合部位がジャンクション結合表面にオーバーラップするのかどうか、またはRNAの欠如が、ひいてはジャンクション結合表面を露出させるタンパク質立体構造変化を促進するのかどうかも、不明である。5’および3’PBM RNAについての結合表面は、R2タンパク質の大部分にわたって分布していると考えられているが、現在、唯一同定されているRNA結合エリアは、ドメイン-1およびドメイン0である(Jamburuthugoda and Eickbush, Nucleic Acids Res 42, 8405 (2014))。CCHCジンクナックルもエレメントRNAに結合すると考えられているが、その真の機能は、依然として不明である。5’PBM RNAが4方向ジャンクション様模倣体を形成するという可能性もある。ホリデイジャンクションリゾルバーゼのDNA結合表面は、大きく、高い正電荷を有し、そのため、R2タンパク質が、結合するためのこの正の表面の一部の使用を、R2 RNAへの結合に役立たせるのは理にかなったことである(Wyatt and West, Cold Spring Harb Perspect Biol 6, a023192 (2014))。
【0099】
R2は、RNAの非存在下で非特異的DNAジャンクションに結合するが、次いで、これらのジャンクションを分解することができず、DNA切断、特に、対称的DNA切断は、起こらなかった。それ故、R2タンパク質は、厳密に言えばホリデイジャンクションリゾルバーゼではない。しかし、28S rDNAおよびR2配列を含有する、より特異的な4方向ジャンクションでは、第2/トップ鎖の28S rDNA切断事象は、4方向ジャンクションに操作されたボトム/第1鎖の切断とほぼ対称であった。このDNA切断活性は、非常にホリデイジャンクションリゾルバーゼに似ている。
【0100】
鋳型ジャンプおよび二本鎖状である5’(サウス)アームの存在は、切断性について、下流28S rDNA(ノース)アームにおける標的配列の存在を超えて、最も重要なジャンクション決定因子であるように見えた。一本鎖イーストアームは、さらに刺激性である。
【0101】
興味深いことに、R2タンパク質が溶液中で二量体として存在する(このことについての説得力のある証拠はない)場合を除き、結合対DNA活性グラフは線形であり、したがって、単量体であるエンドヌクレアーゼと一致する(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006))。ジャンクションの中央のDNA配列も重要であり得るが、R2特異的ジャンクションの全てが、挿入部位のどちらかの側に5~7塩基の28S配列を含有したので、試験された構築物はこの見込みに対応しない。加えて、各ジャンクションは、少なくとも25bpのR2 5’末端配列および25bpのR2 3’末端配列を含有した。R2 3’アームは、あまり重要でないように見えた。二重鎖を形成したR2 3’アームを有することも阻害性であった。全てのDNAバージョンにおいて、R2 3’アームの除去は、それでもやはり、かろうじてではあるが、切断性であった。4方向ジャンクションの共有結合によって閉環した全てのDNAバージョンは、R2タンパク質による切断が困難でもあったが、RNA-DNAハイブリッドの特に5’アームにおける欠如は、切断性低下の一因となり得るので、第1鎖切断事象の存在は、切断性にも関与するように見えた。
【0102】
4方向ジャンクション内の全標的部位の存在は、ウエストアーム(すなわち、28S上流DNAアーム)が鋳型ジャンプ構造(「フラップを伴うギャップ」)を含む場合を除き、DNA切断に対して阻害であった。このデータは、鋳型ジャンプ由来のウエストアームが、極めて狭い安定性範囲内にあらねばならず、安定でありすぎるまたは硬すぎると阻害性であることを、さらに示す。低すぎる融解温度は、大量の一本鎖可動性領域の解離および/もしくは形成、ならびに切断忠実度の付随する低下をもたらす。
b.R2Bm組込みの新モデル
【0103】
R2Bmの挿入反応の後半についてより深く理解することにより、改善されたR2Bm組込みモデルを提示することができた(
図7A)。組込み反応の前半は、
図1Bのステップ1および2と同一である。しかし、TPRT後、新モデルは、4方向ジャンクションを形成することになる、R2 RNAの5’末端からR2挿入部位の上流の28S rDNAのトップ鎖への鋳型ジャンプまたは組換え事象(ステップ3)を提案する。このステップは、現況ではin vitroで起こらないが、たとえそうであるにせよ、宿主因子を利用して形成することができるステップである。しかし、cDNAの上流標的DNAとの会合は、多くの以前のデータと一致し、4方向ジャンクションは、完全長エレメント挿入に至る、5’ジャンクション形成、第2鎖DNA切断および第2鎖DNA合成の単純な統一機構を提示する。
【0104】
このモデルにより、R2BmエレメントRNAの5’末端に結合された「上流」リボソームRNA配列が完全長エレメント挿入に必要なものであると述べられた以前のin vivo実験(Fujimoto et al., Nucleic Acids Res 32, 1555 (2004), Eickbush, et al., Mol Cell Biol 20, 213 (2000))の意味が理解される。つい最近、R2 RNA転写物のバイオインフォマティクスおよびin vitro研究により、R2 RNAとリボソームRNAは同じ大きい転写物の一部として同時転写されると判定された(Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Eickbush and Eickbush, Mol Cell Biol (2010))。次いで、R2 RNAは、R2 RNAの5’末端付近に見られるHDV様リボザイムによって大量のリボソームRNAからプロセシングされる(Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Eickbush and Eickbush, Mol Cell Biol (2010))。しかし、多数のR2エレメントについては、最終的なプロセシングされたR2 RNAは、R2Bmの場合、リボソームRNAの5’末端27nt上に多少のリボソームRNAを保持する(Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013))。この多量のリボソームRNAを保持するエレメントについては、鋳型ジャンプは、鋳型ジャンプではなくむしろストランド侵入または組換え事象であり得る(Fujimoto et al., Nucleic Acids Res 32, 1555 (2004);Eickbush, et al., Mol Cell Biol 20, 213 (2000))。しかし、他のR2エレメントについては、リボザイムが、プロセシングされたR2 RNA(例えば、Drosophila simulans R2)上にリボソーム配列を残さず、
図7Aに図示されているような鋳型ジャンプが起こると予測される(Kurzynska-Kokorniak, et al., J Mol Biol 374, 322 (2007), Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Stage and Eickbush, Genome Biol 10, R49 (2009), Bibillo and Eickbush, J Mol Biol 316, 459 (2002))。APE LINEとRLE LINE両方のRTは、相同性を一切用いずに鋳型の一方の末端からもう一方の始点にジャンプする能力があることが示された(Bibillo and Eickbush, J Mol Biol 316, 459 (2002))。鋳型ジャンプは、両方のタイプのエレメントの5’ジャンクション形成に関与すると長年考えられたきた(Kurzynska-Kokorniak, et al., J Mol Biol 374, 322 (2007), Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Stage and Eickbush, Genome Biol 10, R49 (2009), Bibillo and Eickbush, J Mol Biol 316, 459 (2002))。鋳型ジャンプに加えて、LINE逆転写酵素は、DNA合成中にDNAとRNAの両方を鋳型として使用することができ、重合中に二重鎖を移動させることができる(Kurzynska-Kokorniak, et al., J Mol Biol 374, 322 (2007))。
【0105】
最近報告されたR2 RLEの古細菌ホリデイジャンクションリゾルバーゼとの類似性は、R2が分岐型DNAに結合し、それを切断することができるか否かについての問題を提起した(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016)、Mukha, et al., Front Genet 4, 63 (2013))。結局のところ、R2タンパク質は、実際、RNAの非存在下で4方向ジャンクションに結合し、それを切断することができる。第2鎖DNA切断は、
図7Aのステップ4である。第2鎖切断は、R2特異的4方向ジャンクションにおいて第1鎖切断の真向かいで起こり、これは、ホリデイジャンクションリゾルバーゼを想起させる反応である。隣接挿入部位エリアからの配列および挿入部位の下流の配列が切断の駆動に役立ったので、第2鎖切断は、構造と配列の両方に依存する。
【0106】
サウスアーム、すなわちR2 5’アームは、重要な切断決定因子であった。5’PBM RNAの存在は、非特異的4方向ジャンクションへの結合を防止し、特定のジャンクションのDNA切断を防止する。R2タンパク質は、RNAの非存在下でしか切断しない。3方向TPRTジャンクションは、DNA切断の良好な基質ではなかった。
【0107】
R2Bmのような、5’末端にrRNA配列を有するエレメントについては、cDNA鎖が
図2~8Aステップ3に描写されているジャンクションを形成している間にヘテロ二重鎖から移動したRNA鎖にまたは移動した「ボトム鎖」標的DNAフラップに何が起こるのか、および移動した鎖がDNA切断において果たす役割は、もしあるのであれば、何であるのかは、不明である。移動したRNAは、R2Bm組込み4方向ジャンクション構築物に含まれず、フラップは、非特異的DNAであった。加えて、上流サブユニットのそのサブユニットが線状28S rDNAに結合したときに観察される最小DNaseフットプリントに27ntのリボソーム配列が侵入した場合、ジャンプ/組換えによって上流タンパク質サブユニットが除去されるか否かについては、また調査されていない(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, J Mol Biol 336, 1035 (2004))。移動した標的DNA鎖とともに全標的配列を含有する、
図4Aおよび4Cの構築物は、全標的配列を有し標的DNAが移動していないジャンクションが取る挙動よりも、上流標的配列を欠いているジャンクションにはるかに近い挙動を取る。組換えられたcDNA/標的DNA二重鎖は、R2Bmについて考えられるものとマッチするこれらの構築物中の27bpであった(Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013))。
【0108】
このモデルを支持する第五および最終選択の証拠は、4方向ジャンクションの切断が第2鎖DNA合成の天然プライマー-鋳型を生成することである。「下流結合」サブユニットは、第2鎖DNA合成をプライミングするように見える(
図7A、ステップ5)。
【0109】
in vivoでは、宿主因子は、ジャンクションの半分同士を、第2鎖合成をプライミングするのに十分な長さに一緒に保持し続けるのに役立ち得る。in vitroでは、プライマー鋳型は、少なくとも上流標的DNAアームが非特異的DNAからなる場合、遊離される。
c.異なる切断位置のずれを有するLINEへのR2モデルの外挿
【0110】
第1鎖切断部位に対する第2鎖DNA切断部位の位置は、種によってかなりばらつきがあり、R2系統群によってさらにいっそうばらつきが大きい。R2Bmにおける第1および第2のDNA切断事象の位置のずれは、2bpの小さい5’オーバーハングであり、これは、エレメントの挿入時に2bp標的部位欠失をもたらす。ショウジョウバエでは、R2エンドヌクレアーゼは、平滑末端型切断を生じさせる(Stage and Eickbush, Genome Biol 10, R49 (2009))。他のR2エレメントは、小さい3’オーバーハングを生じさせる。
図7Aで提示されるモデルは、これらの小さい位置のずれのいずれかを有するエレメントについて同様に効果的である。4方向ジャンクションを生成するためにTSD領域の局所的融解または移動、続いての鋳型乗り換えを仮定することにより、このモデルを、適度な3’オーバーハング位置のずれを有するエレメントに適応させることができる。APE LINEは、10~20の範囲の適度な3’オーバーハング位置のずれを生じせる傾向がある。APE LINEが、第2鎖DNA切断および合成を駆動するために4方向ジャンクション構造を使用するかどうかは、まだ判定されていない。完全長L1およびAluエレメントの5’ジャンクションのバイオインフォマティクス解析は、上流標的配列への鋳型ジャンプを示し、DNA修復プロセスが挿入事象失敗のための5’ジャンクション形成への代替経路になり得ることを示す(Zingler et al., Genome Res 15, 780 (2005), Ichiyanagi, et al. N. Okada, Genome Res 17, 33 (2007), Gasior and Deininger, DNA Repair (Amst) 7, 983 (2008), Coufal, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 108, 20382 (2011), Richardson, et al., Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015))。
【0111】
L1のツインプライミングは、第2鎖合成に関連する、しかし異常な、現象である(Ostertag and Kazazian, Genome Res 11, 2059 (2001))。cDNAと上流標的DNA間の会合が、一部のR1事象について考えられている(Stage and Eickbush, Genome Biol 10, R49 (2009))。リボソーム配列は、R1Bmの第1鎖合成中のエレメント-RNA/標的-DNA相互作用ならびにいくつかの他の部位特異的LINEにとっても重要であるが、R2Bmにとっては重要でないように見える(Fujiwara, Microbiol Spectr 3, MDNA3 (2015), Anzai, et al., Nucleic Acids Res 33, 1993 (2005), Luan, et al., Mol Cell Biol 16, 4726 (1996))。小数のLINEは、非常により大きくずらされた配置を有する。R2系統群メンバーであるR9 Avエレメントは、126bpの位置のずれを生じさせる(Arkhipova, et al., Mob DNA 3, 19 (2012))。より大きく位置がずれている場合、Dループの開口部によって、鋳型ジャンプおよび4方向ジャンクションの形成が可能になる。
d.組込みを維持するための設計上の考慮事項
【0112】
ゲノムDNA標的部位の設計、および操作されたLINEタンパク質によりゲノムに挿入されることになる操作されたRNAの設計では、組込み反応中に生産的な4方向ジャンクションが形成されるように留意しなければならない。操作されたRNAの5’末端における標的配列の存在または非存在は、親LINEのHDVが、切断されたときに標的配列を残すか否かに依存することになる。大部分のリボザイムは、標的DNAに由来する10~25ntのRNAを残す。R2Bmリボザイムは、標的配列を残す。R2Dmリボザイムは残さない。標的配列の残存により、4方向ジャンクションの形成方法、ジャンクションのウエストアームの安定度、ならびに第2鎖切断事象の位置および忠実度が決まる。ウエストアームの安定性(鋳型ジャンプエリアのサイズ)は、一部は、上流サブユニットの挿入部位のどれ程上流に結合するように設計されるかによって決まるように見える。R2エレメントおよびNeSLについては、この距離は、約2ターンのウエストアームヘリックスを形成するための余地を残して挿入部位の上流約10~20塩基である。R2BMは、親LINE(裏付ける生化学の大部分がこれに関して行われている)であるので、R2Bmは、好ましい親LINEタンパク質および親RNAである。
【0113】
DNA切断事象位置のずれによって、4方向ジャンクションのイーストアームが一本鎖状になるのか否か、または二本鎖状になるのか否かが決まる。3’オーバーハングを生じさせる結果となる位置のずれは、一本鎖イーストアームを有する4方向ジャンクションを生じさせる。一本鎖イーストアームは、第2鎖DNA切断を刺激する。R2Bmでは、位置のずれは、細胞RNAseがイーストアームのRNA/DNA二重鎖からRNAを除去するような時までイーストアームがRNA/DNA二重鎖であるような位置のずれである。
【0114】
サウスアームは、4方向ジャンクションの認識および切断の主要決定因子でもあるので、操作されたRNAは、サウスアームになる操作されたRNAの5’末端の配列が、親LINEタンパク質/RNAを基準に適切な配列および特性を確実に有するようにすることによって、そのアームの配列および構造エレメントを維持することが必要となる。
2.リンカー領域
【0115】
LINEは、ターゲットプライムド逆転写(TPRT)と呼ばれるプロセスにより新たな部位に組み込まれる。エレメントによりコードされたDNAエンドヌクレアーゼは、宿主クロマチンにニックを生じさせて遊離3’-OH基を露出させる。3’-OH基は、エレメントによりコードされた逆転写酵素により、挿入部位におけるエレメントRNAの逆転写のためのプライマーとして使用される。LINEは、逆転写酵素の下流に不変gag様ジンクナックルシステイン/ヒスチジンリッチモチーフ(CX2-3CX7-8HX4C)をコードする(Jakubczak, et al., J. Mol. Biol.(1990). doi:10.1016/0022-2836(90)90303-4, Matsumoto, et al., Mol. Cell. Biol. 26, 5168-5179 (2006))。ナックル内のシステインとヒスチジンの間隔は、LINEに見られるナックルに特有である。ジンクナックルのすぐ上流に一連の予測ヘリックスがある(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017))。
【0116】
Bombyx mori(R2Bm)からのR2 LINEは、タンパク質として生化学レベルでLINEの組込み反応を詳細に分析するために活性形態で精製されin vitroアッセイで使用され得るモデル系として役立っている、部位特異的LINEである(Jakubczak, et al., J. Mol. Biol.(1990). doi:10.1016/0022-2836(90)90303-4, Kojima, et al., Mol. Biol. Evol.(2006). doi:10.1093/molbev/msl067;Gladyshev, et al., Gene (2009). doi:10.1016/j.gene.2009.08.016)。R2 ORFは、DNA結合に関与するN末端のジンク-フィンガー(ZF)およびmybドメインと、RNA結合(RB)ドメインと、中央の逆転写酵素(RT)と、いくつかの保存された予測ヘリックス(HINALPモチーフ)およびgag様ジンクナックル(CCHCモチーフ)を含有するリンカー領域と、PD-(D/E)XK II型制限酵素様エンドヌクレアーゼ(RLE)ドメインとを有する、多機能性タンパク質をコードする(
図1A)(Jakubczak, et al., J. Mol. Biol.(1990). doi:10.1016/0022-2836(90)90303-4, Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017), Burke, et al., Mol. Cell. Biol.(1987). doi:10.1128/MCB.7.6.2221.Updated, Yang, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 96, 7847-52 (1999), Christensen, et al., Nucleic Acids Res.33, 6461-6468 (2005), Jamburuthugoda, et al., Nucleic Acids Res.42, 8405-8415 (2014), Christensen, et al., Mol. Cell. Biol. 25, 6617-6628 (2005))。5’および3’非翻訳領域(UTR)に対応するR2 RNA配列は、フォールディングして別個の構造になり、これらの構造は、R2タンパク質に結合することが公知であり、したがって、5’PBMおよび3’PBMとそれぞれ呼ばれる(
図1A)(Kierzek, et al., Nucleic Acids Res.(2008), doi:10.1093/nar/gkm1085, Kierzek, et al., J. Mol. Biol. 390, 428-442 (2009), Christensen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17602-17607 (2006))。5’PBMおよび3’PBM RNAへの結合は、タンパク質立体構造、および組込み反応における役割を制御する(
図8B)(Christensen, et al., Mol. Cell. Biol. 25, 6617-6628 (2005))。RNA、DNAおよびタンパク質成分の選択的付加により、組込み反応の別個の段階をアッセイすることが可能になる。
【0117】
3’PBMに結合されたR2タンパク質は、タンパク質が挿入部位を基準にして上流28S DNA配列(28Su)に結合することを可能にする立体構造をとる。28Suと接触して上流タンパク質サブユニットを形成するR2タンパク質のドメインは、大部分が同定されていないままである(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res.44, 3276-3287 (2016), Thompson, et al., Elements 1, 29-37 (2011), Shivram, et al., Mob. Genet. Elements 1, 169-178 (2011))。5’PBMに結合されたR2タンパク質は、タンパク質が下流28S DNA配列(28Sd)に結合するのを可能にする立体構造をとる。R2タンパク質のZFおよびMybモチーフは、28Sdと相互作用することによって下流タンパク質サブユニットを形成することが公知である主要な残基を含む(Christensen, et al., Nucleic Acids Res.33, 6461-6468 (2005))。上流および下流タンパク質サブユニットは、DNA切断、続いてのDNA合成を各々が含む2つの半反応において、R2エレメントの組込みを触媒する(Christensen, et al., Mol. Cell. Biol. 25, 6617-6628 (2005))。組込みの5つのステップは、(1)上流サブユニットからのエンドヌクレアーゼが、標的DNAにニックを入れて、挿入部位で3’-OHを露出させるステップ、(2)露出した3’-OHが、上流サブユニットの逆転写酵素によりTPRTにプライマーとして使用されるステップ、(3)逆転写されたものの5’末端からのcDNAが、上流標的DNA配列と会合して4方向ジャンクションを形成する、鋳型ジャンプまたは組換え事象が起こるステップ、(4)下流サブユニットが、4方向DNAジャンクションを切断するステップ、(5)切断事象により生成された3’-OHがエレメントの第2鎖DNA合成にプライマーとして使用されるステップを含む。
【0118】
全てのLINEにおいてRTの後に位置するリンカー領域の役割は、以前からずっと幻である(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017))。点変異をリンカーのgag様ジンクナックルおよび推定αフィンガーに導入した(
図8B)。CCHCモチーフの間隔は、LINEに特有である(Malik, et al., Mol. Biol. Evol. 16, 793-805 (1999), Fanning and Singer, Nucleic Acids Res.(1987). doi:10.1093/nar/15.5.2251)。APE含有ヒトLINE-1エレメントを使用する以前のin vivo研究では、リンカー領域のCCHCモチーフ内の最初の2つのシステインの変異は、LINE-1レトロ転位を有意に低減させた(Moran, et al., Cell 87, 917-927 (1996))。ヒトLINE-1を用いた別のin vivo研究では、最初の2つのシステインが変異したときにRNP複合体のレベル低減が観察され、これは、核酸結合に見込まれるその役割を示していた(Doucet, et al., PLoS Genet.6, 1-19 (2010))。ジンクナックル構造が、セリンへの最初の3つのシステインの置換により変更されたとき、RNA結合活性の低減がないことが、ヒトLINE-1エレメントについてin vitroで報告された(Piskareva, et al., FEBS Open Bio 3, 433-437 (2013))。しかし、同じ研究で、RTのC末端側の配列は、RNA結合に関与することが見出された。LINE-1エレメントにおける推定αフィンガーの上流の残基の変異は、in vivoでレトロ転位活性を低減させた(Moran, et al., Cell 87, 917-927 (1996))。ジンクナックルそれ自体とともにジンクナックルの上流のヘリックスは、真核生物スプライシング因子であるPrp8のαフィンガーおよび非ジンクナックルとともに整列すると報告されている(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017), Wan, et al., Science (80-.). (2016). doi:10.1126/science.aad6466, Bertram, et al., Cell (2017). doi:10.1016/j.cell.2017.07.011)。
【0119】
下記の実施例は、DNA結合、第1鎖DNA切断、第1鎖DNA合成、第2鎖DNA切断、および第2鎖DNA合成について試験する条件下でR2Bmの推定αフィンガーおよびジンクナックルの全体にわたって発生する一連の二重変異のin vitro機能に対する影響を試験する。結果は、機能性操作されたトランスポゾンの設計を助長するために使用することができる結論をもたらす。
a.リンカーの主な役割はエレメントRNAを結合することであるように見えない。
【0120】
CCHC変異は、リボ核タンパク質(RNP)複合体内へのORF2タンパク質の蓄積を低減させ、これは、エレメントRNAへの結合に関与する可能性があることを含意した(Doucet, et al., PLoS Genet.6, 1-19 (2010))。同様に、推定αフィンガーの上流の配列は、in vivoでレトロ転位活性を低減させることが判明した(Moran, et al., Cell 87, 917-927 (1996))。ヒトL1エレメントとマウスL1エレメントの間のドメイン交換実験も、ジンクナックルのすぐ上流の配列がin vivoでレトロ転位に重要であることを示す(Wagstaff, et al., PLoS One 6, (2011))。上流配列は、よく解明されていない複雑だがモジュール式の方法で、ジンクナックルとタンパク質の他の部分とに機能的に連結される。多数のこれらのドメイン交換が推定αフィンガーの中指に存在する。加えて、αフィンガーおよびジンクナックルの大部分を含有するL1HのORF2のC末端の180アミノ酸を含有するポリペプチドは、in vitroでRNAに非特異的に結合することが判明したが、システインの変異は、核酸結合に影響を与えなかった(Piskareva, et al., FEBS Open Bio 3, 433-437 (2013))。
【0121】
in vitro研究は、R2Bmのジンクナックルおよびαフィンガーの変異がエレメント5’PBM RNAまたは3’PBM RNAへの結合を明白には低減させないことが判明した。しかし、注目すべきは、RNA結合が、EMSAゲルにおける明確に区別できるDNA-RNA-タンパク質複合体の形成により推測されることである(Jamburuthugoda, et al., Nucleic Acids Res. 42, 8405-8415 (2014), Christensen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17602-17607 (2006))。5’PBM RNAまたは3’PBM RNAのどちらかとのタンパク質-DNAおよびタンパク質DNA-RNA複合体は、EMSAゲルにおいて固有の明確に定義された泳動パターンを有する(Christensen, et al., Mol. Cell. Biol. 25, 6617-6628 (2005))。したがって、タンパク質-核酸複合体へのRNAの組入れに影響を与えるアミノ酸を、一般的タンパク質滴定系列においてタンパク質-DNA複合体のタンパク質-DNA-RNA複合体に対する比の変化として検出することができる。同一のアッセイ系を使用して、RT -1およびRT 0ドメインはRNA結合ドメインであると判定された(Jamburuthugoda, et al., Nucleic Acids Res. 42, 8405-8415 (2014))。RNA結合への変化がはっきりしないため、タンパク質滴定ではなくRNA滴定も、変異のいくつかを用いて行った。とは言え、RNA結合の役割を無視することはできない。RNA結合表面は、あまりにも大きく、R2タンパク質の表面にわたって点突然経変異があまりにも広く分布しているので、アッセイで観察可能な差を生じさせることができない。これが、単一の点変異ではなく二重点変異が使用された理由の1つである(Jamburuthugoda, et al., Nucleic Acids Res. 42, 8405-8415 (2014))。
【0122】
ジンクナックルのコアCCHCモチーフ(C/SC/SHC)へのおよび推定αフィンガーのHINALPモチーフ(H/AIN/AALP)への変異は、EMSAゲルにおいて安定なゲル泳動タンパク質-核酸複合体を形成するために不安定性をもたらすタンパク質構造の局所的破壊と一致する。明確に異なるタンパク質-DNAまたはタンパク質-DNA-RNAバンドが観察されなかったので、これら2つの変異体でのEMSAからRNAが結合されたか否かを識別できなかった。ジンクナックルおよびαフィンガー領域の全ての他の変異は、WTタンパク質と同様のパターンで適切なタンパク質-RNA-DNA複合体を効率的に形成する能力を保持した。
b.リンカーは組込み反応の前半の間にRLEおよびRTに核酸を提示する。
【0123】
この研究で試験された変異体の各々についてのDNA結合、切断、および合成結果の比較要約は、下記の表2で提示される。CCHCモチーフのコア(C/SC/SHC)へのおよびHINALPモチーフのコア(H/AIN/AALP)への変異は、非拘束DNAエンドヌクレアーゼ、および安定した上流結合タンパク質-核酸複合体の形成不能をもたらす。全ての他の変異体は、正常な上流タンパク質-RNA-DNA複合体を形成することができる。αフィンガー変異のうちの2つ(SR/AIR/AおよびSR/AGR/A)は、過度に拘束され切断されないエンドヌクレアーゼをもたらした。変異体の一方は、3’PBM RNAの存在下でDNA結合が損なわれず、他方の変異は、3’PBM RNAの存在下で標的化DNAに結合するタンパク質の能力を実際に増加させたので、第1鎖切断の実行不能は、上流DNA配列に結合する変異体の能力に関係なかった。もっと正確に言えば、第1鎖DNA切断のために標的DNAおよび/またはDNAエンドヌクレアーゼを配置するために残基R849、R851、R854およびR856が使用される。
【0124】
切断されると、αフィンガーGR/AD/AおよびSR/AIR/A変異体は、すでにニックが入っている標的DNAでは第1鎖cDNA合成(TPRT)を実行することができなかった。これは、RTおよび/または核酸成分を互いに対して配置する上での変異残基の役割を示す。実際、GR/AD/A変異体は、TPRTの実行不能および上流DNA配列への結合のわずかな低減以外のあらゆる他の主要表現型を欠いていた。ジンクナックル変異体CR/AAGCK/A、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aは、第1鎖DNA切断をわずかに低減させ、ほぼ野生型の第1鎖DNA合成活性を保持した。上流DNA結合は、注意深く検査されず、正常に見えた。
c.リンカー領域は組込み反応の後半の鍵である。
【0125】
組込み反応の後半は、R2タンパク質が5’PBM RNAと会合され、ひいては線状標的DNA上の挿入部位の下流のDNA配列に結合されることから始まる。CCHCモチーフのコア(C/SC/SHC)へのおよびHINALPモチーフのコア(H/AIN/AALP)への変異は、非拘束DNAエンドヌクレアーゼ、および安定した下流結合タンパク質-核酸複合体の形成不能をもたらす。全ての他の変異体は、線状標的DNAで正常な下流タンパク質-RNA-DNA複合体を形成することができ、線状DNAへの結合に最小限の影響しか及さないように見えた。とは言え、SR/AIR/A変異は、線状DNAの下流配列への結合のわずかな減少を示し、ジンクナックル変異体は定量的に試験されなかった。
【0126】
組込みの後半は、下流サブユニットが「RNA非結合」状態であるときにのみ進行する(Christensen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17602-17607 (2006))。第2鎖DNA切断は、線状DNAに対して起こり得るが、これが起こるには5’RNA、DNAおよびタンパク質比の複雑なセットが必要であり、第2鎖DNA切断は、第2鎖合成が起こらないという意味で非生産的である(Christensen, et al., Mol. Cell. Biol. 25, 6617-6628 (2005), Christensen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17602-17607 (2006))。この理由から、組込み反応の後半、特に、第2鎖DNA切断および第2鎖合成には、4方向ジャンクションの形成が機構的に必要であると今では考えらる(実施例1~8を参照されたい)。4方向ジャンクションは、RNAの非存在下でジャンクションを適切に切断し、切断生成物は、第2鎖合成の基質である(実施例1~8を参照されたい)。
【0127】
CR/AAGCK/A変異体を除いて、試験したジンクナックルおよびαフィンガー変異体は全て、線状DNAに対して第2鎖切断を実行することができなかった(表2)が、重要なこととして、ジンクナックル変異体は、より重要な4方向ジャンクションに対する第2鎖切断を損なわせなかった。ジンクナックルの最も近くにあるαフィンガー変異、SR/AIR/AおよびSR/AGR/Aは、4方向ジャンクションへの結合を大きく低減させ、第2鎖DNA切断を消失させる。第2鎖合成は、これら2セットの変異による影響を同様に受けた。結果は、αフィンガーが4方向ジャンクションの認識にとって重要であること、ならびに結合されたDNAをエンドヌクレアーゼおよび逆転写酵素に提示することを示す。ジンクナックル変異体HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aは、第2鎖合成を著しく低減させた。これは、ジンクナックル残基が、プライマー伸長のための切断されるジャンクションおよび/または逆転写酵素の配置に関与することを示す。
d.APE LINEとのおよびPrp8との構造的および機能的接続
【0128】
R2Bmによりコードされるタンパク質は、2つの球状ドメインからなると判定された。2つのドメインのうちの大きい方(
図17A~17Dにおいて着色されている)は、RT、RLE、およびリンカーと呼ばれるこれら2つの間の領域を含有する(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017))。リンカー領域の末端は、不変ジンクナックル、およびそのジンクナックルの上流にいくつかの保存されたヘリックスを含有する。上流ヘリックスは、「推定αフィンガー」と本明細書では呼ばれ、そのHINALPモチーフがR2Bmではαフィンガーの中心にある。APE LINEは、推定αフィンガーとRTを超えて位置するジンクナックルとを有する「リンカー」も含有する(
図17A~17D)。
【0129】
R2Bmの大きい球状ドメインでRLE LINEは、真核生物スプライシング因子Prp8の大きな断片と配列類似性ばかりでなく構造的類似性も共有する(
図17A~17Dを参照されたい)。Prp8は、RT、RLE、およびRTとRLEの間のリンカー領域を有する。Prp8におけるリンカー領域の末端の方に、非ジンクナックル構造がある。非ジンクナックルの上流には、LINEにおいてジンクナックルの上流に見られるヘリックスとともに整列する一連のヘリックスがある。Prp8における非ジンクナックルの上流のヘリックスは、非常に有望かつ重要なαフィンガーを形成する。αフィンガーは、逆転写酵素を超えて突出している(
図17Cを参照されたい)(Bertram, et al., Cell (2017). doi:10.1016/j.cell.2017.07.011)。Prp8におけるαフィンガーとの類似性により、RLE LINEの対応する領域は、「推定αフィンガー」と呼ばれる(Mahbub, et al., Mob. DNA 8, 1-15 (2017))。Prp8では、非ジンクナックル、αフィンガーおよびRT親指が一緒に作用して、スプライス部位およびスプライソソームRNAに結合する。非ジンクナックルおよびαフィンガーは、Prp8では動的であり、スプライシング領域の全ての態様にわたってタンパク質およびタンパク質-RNA立体構造変化を受ける/促進する。U4/U6.U5トリsnRNPにおいておよびB複合体においてαフィンガーおよび非ジンクナックルが重要な分岐型RNA構造に結合するという事実は、特に興味深い。
【0130】
本明細書で報告するデータは、R2Bmリンカーの実際の構造がどんなものであろうと、リンカーが、4方向ジャンクション組込み中間体の認識の中核をなすことを示す。それはまた、EN、RTおよび基質DNAを互いに対して正しく配置するためのタンパク質-DNA立体構造スイッチまたはハブとして作用する。
e.組込みを維持するための設計上の考慮事項
【0131】
リンカー領域は、重要なDNA結合領域およびタンパク質-核酸立体構造制御領域である。リンカー領域は、特異的または非特異的接触点を作る。αフィンガーとIAP/Gag様ジンクナックルの両方が、DNA切断およびDNA合成事象をモジュレートする。特に、αフィンガーは、4方向ジャンクションへの結合に関与する。αフィンガーは、5’スプライス部位の中心に位置するPrp8、多分岐RNA構造、のαフィンガーのように、4方向ジャンクションの中心に接触すると考えられる。トランスポゾンαフィンガーも、非特異的接触点に加えて塩基特異的接触点を作る可能性が高い。リンカーはまた、LINE RNAへの結合に関与すると考えられる。操作されたLINEタンパク質、操作されたRNA、および標的DNAを設計する場合、ある特定の標的DNA配列とRNA配列の間の親タンパク質接触を維持すること、または新たに所望されるDNA/RNA接触点を作ることになるようにリンカーを変異させること、どちらかに注意を払わなければならない。
III.使用方法
【0132】
開示される組成物は、目的のDNA標的部位に目的の遺伝子を導入するためにex vivoまたはin vivoで使用することができる。例えば、好ましい実施形態では、操作されたトランスポゾンのRNA成分およびタンパク質成分が細胞に送達され、またはそうでなければ細胞に発現され、目的の遺伝子が細胞のゲノムの目的のDNA標的部位に組み込まれる。RNA成分をRNAとして送達することができ、またはRNA成分をコードするDNA(例えば、発現ベクター)として送達することができる。タンパク質成分をタンパク質として送達することができ、またはタンパク質成分をコードするRNAもしくはDNA(例えば、発現ベクター)として送達することができる。一部の実施形態では、タンパク質をコードするベクターが細菌または真核生物発現系に発現され、タンパク質が回収され、標的細胞に送達される。一部の実施形態では、RNAは、in vitro転写により調製され、および/またはタンパク質は、in vitro転写/翻訳により調製される。RNAおよびタンパク質成分を同じまたは異なるベクターから発現させることができる。
A.ベクターおよび宿主細胞
【0133】
操作されたトランスポゾンを調製するためのベクターおよび宿主細胞も提供される。好適な発現ベクターとしては、限定ではないが、例えば、バクテリオファージ、バキュロウイルス、タバコモザイクウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウィルスおよびアデノ随伴ウイルスに由来する、プラスミドおよびウイルスベクターが挙げられる。非常に多くのベクターおよび発現系が、Novagen(Madison、WI)、Clontech(Palo Alto、CA)、Stratagene(La Jolla、CA)、およびInvitrogen Life Technologies(Carlsbad、CA)のような会社から市販されている。
【0134】
発現ベクターは、タグ配列を含むことができる。タグ配列は代表的には、コードされたポリペプチドとの融合体として発現される。そのようなタグを、ポリペプチド中の任意の場所、例えば、カルボキシル末端またはアミノ末端のどちらかなどに挿入することができる。有用なタグとしては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c-myc、赤血球凝集素、Flag(商標)(Kodak、New Haven、CT)、マルトースE結合タンパク質およびプロテインAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
発現させるべき核酸を含有するベクターを宿主細胞に移入することができる。用語「宿主細胞」は、組換え発現ベクターを導入することができる原核および真核細胞を含むように意図される。本明細書で使用される場合、「形質転換(される/された)」および「トランスフェクト(される/された)」は、多数の技法のうちの1つによる細胞への核酸分子(例えば、ベクター)の導入を包含する。特定の技法に限定されないが、多数のこれらの技法は、当技術分野において十分に確証されている。原核細胞を、例えば電気穿孔または塩化カルシウム媒介形質転換により、核酸で形質転換することができる。核酸を、例えば、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、電気穿孔またはマイクロインジェクションをはじめとする技法により、哺乳動物細胞にトランスフェクトすることができる。
【0136】
ポリペプチドを発現および産生させるための有用な原核細胞系および真核細胞系は、当技術分野において周知であり、例えば、Escherichia coli株、例えばBL-21、および培養哺乳動物細胞、例えばCHO細胞である。
B.細胞ゲノムの編集方法
【0137】
方法は代表的には、細胞のゲノムを修飾するために有効量の操作されたトランスポゾンと細胞を接触させるステップを含む。本明細書中で論じられるように、細胞を操作されたレトロトランスポゾンと接触させることは、RNA成分とタンパク質成分の両方が同じ細胞内に同時に存在することを意味する。一部の実施形態では、RNAおよびタンパク質成分は、細胞との接触前に混合される。一部の実施形態では、それらを細胞と別々に接触させ、それらは細胞内で初めて複合体を形成する。一部の実施形態では、成分の一方または両方は、DNAが細胞内で発現したときに送達される。これらの実施形態のいずれも、細胞への核酸またはタンパク質の送達を助長するための、電気穿孔、リポフェクション、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストランまたは他の適切なトランスフェクション法の使用を含み得る。
【0138】
下記でより詳細に論じられるように、接触は、ex vivoまたはin vivoで行われ得る。好ましい実施形態では、方法は、治療結果を達成するために有効量の操作されたレトロトランスポゾンと標的細胞の集団を接触させるステップを含む。
【0139】
例えば、有効量または治療有効量は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状を処置、阻害もしくは軽減するのに十分な投薬量、またはそうでなければ所望の生理的効果、例えば、疾患もしくは障害の根底にある根本的な病態生理学機序の1つもしくは複数の軽減、阻害もしくは好転を提供するのに十分な投薬量であり得る。
【0140】
製剤は、投与方法に適合するように作製される。薬学的に許容される担体は、一つには、投与される特定の組成物によって決まり、その組成物を投与するために使用される特定の方法によっても決まる。したがって、核酸とタンパク質とを含有する医薬組成物の多種多様な適切な製剤がある。正確な投薬量は、様々な因子、例えば、対象に依存する可変要素(例えば、年齢、免疫系健康状態、臨床症状など)によって変わることになる。
1.ex vivo遺伝子治療
【0141】
一部の実施形態では、細胞のex vivo遺伝子治療は、対象における遺伝性障害を含むがこれらに限定されない、疾患または障害の処置に使用される。ex vivo遺伝子治療のために、細胞を対象から単離し、ex vivoで組成物と接触させて、挿入された導入遺伝子を含有する細胞を生じさせることができる。好ましい実施形態では、細胞は、処置される対象からまたは同系宿主(syngenic host)から単離される。標的細胞は、操作されたレトロトランスポゾンとの接触の前に対象から除去される。一部の実施形態では、細胞は、造血前駆細胞または幹細胞である。好ましい実施形態では、標的細胞は、CD34+造血幹細胞である。CD34+細胞などの造血幹細胞(HSC)は、赤血球を含む全ての血液細胞型を生じさせる多能性幹細胞である。したがって、CD34+細胞を、例えば、サラセミア、鎌状赤血球症またはリソソーム蓄積症を有する患者から単離し、開示される組成物および方法を使用して変異型遺伝子をex vivoで変更または修復し、処置または治療として細胞を患者に導入し直すことができる。
【0142】
幹細胞は、当業者により単離され、濃縮されることもある。CD34+および他の細胞のそのような単離および濃縮方法は、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第4,965,204号、同第4,714,680号、同第5,061,620号、同第5,643,741号、同第5,677,136号、同第5,716,827号、同第5,750,397号および同第5,759,793号において開示されている。造血前駆細胞および幹細胞が濃縮された組成物に関して本明細書で使用される場合、「濃縮された」は、細胞の天然源に見られるものより高度に存在する所望のエレメントの集団(例えば、造血前駆細胞および幹細胞)を示す。細胞の組成物は、細胞の天然源よりも、少なくとも1桁、好ましくは2または3桁、より好ましくは10、100、200または1000桁濃縮され得る。
【0143】
前駆細胞または幹細胞を単離したら、それらを、任意の適切な培地で成長させることにより繁殖させることができる。例えば、前駆細胞または幹細胞を、因子の分泌に関連して骨髄もしくは肝臓から得ることができるものなどの間質細胞からの馴化培地において、または幹細胞の増殖を支持する細胞表面因子を含む培地において、成長させることができる。望ましくない細胞の除去に適切なモノクローナル抗体を利用して、造血細胞から間質細胞を取り除くことができる。
【0144】
修飾細胞を、対象への投与前に、培地で維持することまたは繁殖させることもできる。培養条件は、一般に、細胞型に依存して当技術分野において公知である。
【0145】
他の実施形態では、技術は、CAR Tに基づく治療の一部として使用される。免疫細胞が回収され(例えば、T細胞)、患者の血液から採取される。キメラ抗原受容体(CAR)は、操作されたトランスポゾンを使用して細胞のゲノムの標的部位に導入される。多数のCAR T細胞を研究所で成長させ、注入により患者に投与することができる。CAR T細胞療法は、いくつかの種類のがんの処置に使用される。
2.in vivo遺伝子治療
【0146】
開示される組成物をin vivo遺伝子治療のために対象に直接投与することができる。
a.医薬製剤
【0147】
開示される組成物は、好ましくは、治療上の使用に適切な医薬担体と組み合わせて利用することができる。そのような組成物は、有効量の組成物、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
【0148】
in vivoで投与されたヌクレオチドが細胞および組織に取り込まれ、分配されることは、当業者には理解されよう(Huang, et al., FEBS Lett., 558(1-3):69-73 (2004))。例えば、Nyceらは、アンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド(ODN)が、吸入されたとき、内因性サーファクタント(肺細胞により産生される脂質)に結合し、さらなる担体脂質を必要とせずに肺細胞により取り込まれることを示した(Nyce, et al., Nature, 385:721-725 (1997))。小さい核酸は、T24膀胱癌組織培養細胞に容易に取り込まれる(Ma, et al., Antisense Nucleic Acid Drug Dev., 8:415-426 (1998))。
【0149】
開示される組成物は、適切な医薬担体中の局所、局所性または全身投与用の製剤中に存在することもある。Remington’s Pharmaceutical Sciences, 15th Edition by E. W. Martin (Mark Publishing Company, 1975)は、代表的な担体および調製方法を開示している。化合物は、細胞に標的化するための、生分解性もしくは非生分解性ポリマーもしくはタンパク質で形成された適切な生体適合性マイクロカプセル、微小粒子、ナノ粒子もしくはマイクロスフェアに、またはリポソームに封入されていることもある。そのような系は、当業者に周知であり、適切な核酸とともに使用するために最適化され得る。
【0150】
核酸送達のための様々な方法が、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1989);およびAusubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1994)において記載されている。そのような核酸送達系は、所望の核酸、例として、限定ではなく、「裸の」核酸としての「裸の」形態での核酸、または送達に適するビヒクルに、例えば、カチオン性分子もしくはリポソーム形成性脂質の複合体に配合された核酸、またはベクターの成分もしくは医薬組成物の成分としての核酸、のいずれかを含む。核酸送達系を、直接、例えば、それを細胞と接触させることにより、細胞に提供することができ、または間接的に、例えば、任意の生物学的プロセスの作用によって、細胞に提供することができる。核酸送達系を、エンドサイトーシス、受容体標的化、ネイティブもしくは合成細胞膜断片とのカップリング、電気穿孔などの物理的手段、核酸送達系とポリマー担体、例えば制御放出フィルムもしくはナノ粒子もしくは微小粒子との併用、ベクターの使用、細胞の周囲の組織もしくは流体への核酸送達系の注射、細胞膜を横断する核酸送達系の単純拡散により、または細胞膜を横断する任意の能動もしくは受動輸送機構により、細胞に提供することができる。加えて、核酸送達系を、ウイルスベクターの抗体関連標的化および抗体媒介固定化などの技法を使用して、細胞に提供することができる。
【0151】
局所投与用の製剤としては、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、座薬、スプレー、液剤および粉末を挙げることができる。従来の医薬担体、水性、粉末もしくは油性基剤、または増粘剤を、所望に応じて使用することができる。
【0152】
例えば、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内および皮下経路による投与などの、非経口投与に適する製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にさせる溶質を含有し得る、水性および非水性、等張性無菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、分散剤、安定剤、および保存薬を含有し得る、水性および非水性無菌懸濁液、溶液またはエマルジョンが挙げられる。注射用の製剤を、必要に応じて保存薬が添加された、例えばアンプル内または複数回投与用容器内の、単位剤形で提供することができる。組成物は、ある特定の実施形態では対象の血液と等張性であり得る、無菌水性または非水性溶液、懸濁液およびエマルジョンのような形態をとることができる。非水性溶媒の例は、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油、ラッカセイ油、ピーナッツ油、鉱物油、注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル、または固定油、例えば合成モノもしくはジグリセリドなどである。水性担体としては、水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョンまたは懸濁液、例えば、生理食塩水および緩衝媒体などが、挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、1,3-ブタンジオール、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または固定油が挙げられる。静脈内用ビヒクルとしては、水分および栄養補給剤、ならびに電解質補給剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づくものなど)が挙げられる。保存薬および他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなども存在することがある。加えて、滅菌固定油が溶媒または懸濁化媒体として従来利用されている。このために、合成モノまたはジグリセリドをはじめとする任意の無菌性固定油を利用することができる。加えて、オレイン酸などの脂肪酸を注射剤の調製に使用することができる。担体製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Paで見つけることができる。当業者は、過度の実験に頼ることなく、組成物を調製および製剤化するための様々なパラメーターを容易に決定することができる。
【0153】
単独で、または他の適する成分と組み合わせて、本開示組成物を、吸入によって投与されるエアロゾル製剤にすることもできる(すなわち、それらを「噴霧する」ことができる)。エアロゾル製剤を、加圧された許容可能な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素および空気に、入れることができる。吸入による投与のために、化合物は、適する噴射剤を使用することで、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー押出の形態で送達される。
【0154】
一部の実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体を、製剤成分、例えば、塩、担体、緩衝剤、乳化剤、希釈剤、賦形剤、キレート剤、充填剤、乾燥剤、抗酸化剤、抗菌剤、保存薬、結合剤、増量剤、シリカ、可溶化剤または安定剤とともに含む。一実施形態では、核酸は、細胞取込み改善するために、C32官能基を有する、コレステロール誘導体、ラウリン酸誘導体およびリトコール酸誘導体のような、親油基にコンジュゲートされる。例えば、コレステロールは、siRNAの取込みおよび血清中安定性を増強することが、in vitro(Lorenz, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 14(19):4975-4977 (2004))およびin vivo(Soutschek, et al., Nature, 432(7014):173-178 (2004))で実証されている。加えて、LDLなどの、血流中の種々のリポタンパク質へのステロイドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドの結合は、完全性を保護し、生体内分布を助長することが、示されている(Rump, et al., Biochem. Pharmacol., 59(11):1407-1416 (2000))。細胞取込みを増加させるために上記の化合物に結合またはコンジュゲートすることができる他の基としては、アクリジン誘導体;架橋剤、例えば、ソラレン誘導体、アジドフェナシル、プロフラビン、およびアジドプロフラビン;人工エンドヌクレアーゼ;金属錯体、例えば、EDTA-Fe(II)およびポルフィリン-Fe(II);アルキル化部分;ヌクレアーゼ、例えば、アルカリホスファターゼ;ターミナルトランスフェラーゼ;抗体酵素;コレステリル部分;親油性担体;ペプチドコンジュゲート;長鎖アルコール;リン酸エステル;放射性マーカー;非放射性マーカー;炭水化物;ならびにポリリシンまたは他のポリアミンが、挙げられる。Levyらの米国特許第6,919,208号にも増強送達方法が記載されている。これらの医薬製剤を、それ自体が公知である方法で、例えば、従来の混合、溶解、造粒、研和、乳化、カプセル封入、捕捉または凍結乾燥プロセスによって、製造することができる。
b.投与方法
【0155】
一般に、核酸およびタンパク質組成物を投与する方法は、当技術分野において周知である。特に、現在使用されている製剤とともに、核酸治療薬にすでに使用されている投与経路は、上記の操作されたトランスポゾンの好ましい投与および製剤化経路を提供する。好ましくは、組成物は、遺伝子治療を必要とする動物などの、遺伝子操作を受ける生物に注射される。
【0156】
本開示組成物は、経口経路、静脈内経路、腹腔内経路、筋肉内経路、経皮経路、皮下経路、局所経路、舌下経路、直腸経路、鼻腔内経路、肺内経路を含むがこれらに限定されない多数の経路、および他の好適な手段により、投与することができる。組成物をリポソームによって投与することもできる。そのよう投与経路および適切な製剤は、一般に、当業者に公知である。
【0157】
製剤の投与は、遺伝子編集組成物がそれらの標的に到達することを可能にする任意の許容される方法により果たすことができる。
【0158】
当業者に公知の任意の許容される方法を使用して、対象に製剤を投与することができる。投与は、処置される状態に依存して、限局的(すなわち、特定の領域、生理系、組織、臓器もしくは細胞型への投与)であることもあり、全身的であることもある。
【0159】
注射は、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内または腹腔内注射であり得る。一部の実施形態では、注射を複数の位置に投与することができる。移植は、移植可能な薬物送達系、例えば、マイクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックス、ポリマー系、例えば、マトリックス浸食および/または拡散系、ならびに非ポリマー系、例えば、圧縮、融合もしくは部分融合ペレットを挿入すること含む。吸入は、吸入器内のエアロゾルとともに、単独でのまたは吸収され得る担体に結合されている組成物を、投与することを含む。全身投与については、組成物がリポソームに封入されている方が好ましいこともある。
【0160】
組成物を、薬剤および/またはヌクレオチド送達系の組織特異的取込みを可能にする方法で送達することができる。技法は、組織または臓器局在デバイス、例えば、創傷被覆材または経皮送達系の使用、侵襲的デバイス、例えば、血管または尿道カテーテルの使用、ならびに介入デバイス、例えば、薬物送達能力があり、拡張デバイスまたはステントグラフトとして構成された、ステントの使用を含む。
【0161】
製剤を、生体内分解性移植物を使用して拡散によりまたはポリマーマトリックスの分解により送達することができる。ある特定の実施形態では、製剤の投与を、ある特定の期間、例えば、数時間、数日、数週間、数箇月または数年にわたっての、組成物への連続曝露を生じさせる結果となるように、設計することができる。これは、例えば、製剤の反復投与により、または組成物が反復投与なしに長期間にわたって送達される徐放もしくは制御放出送達系により、果たすことができる。そのような送達系を使用する製剤の投与は、例えば、経口剤形、ボーラス注入、経皮パッチまたは皮下移植物により得る。一部の場合には、組成物の実質的に一定した濃度を維持する方が好ましいこともある。
【0162】
適する他の送達系としては、持続放出、遅延放出、徐放または制御放出送達系が挙げられる。このような系は、多くの場合、反復投与を回避することができ、したがって対象および医師にとっての利便性を増す。多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者に公知である。それらは、例えば、ポリ乳酸および/もしくはポリグリコール酸、ポリ無水物、ポリカプロラクトン、コポリオキサレート、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、ならびに/またはこれらの組み合わせなどの、ポリマーに基づく系を含む。核酸を含有する前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。他の例としては、脂質に基づく非ポリマー系、例えば、ステロール、例えばコレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸もしくは中世脂肪、例えばモノ、ジおよびトリグリセリドなど;ヒドロゲル放出系;リポソームに基づく系;リン脂質に基づく系;シラスティック系;ペプチドに基づく系;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤;または部分融合移植物が、挙げられる。具体的な例としては、オリゴヌクレオチドがマトリックス内の製剤に含有されている浸食系(例えば、米国特許第4,452,775号、同第4,675,189号、同第5,736,152号、同第4,667,013号、同第4,748,034号および同第5,239,660号に記載のもの)、または活性成分が放出速度を制御する拡散系(例えば、米国特許第3,832,253号、同第3,854,480号、同第5,133,974号および同第5,407,686号に記載のもの)が挙げられる。製剤は、例えば、マイクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックス、またはポリマー系として存在することもある。一部の実施形態では、系は、例えば、操作されたトランスポゾンを含有する製剤の拡散または浸食/分解速度の制御によって、組成物の徐放または制御放出が生じることを可能にし得る。加えて、ポンプに基づく機器である送達系を使用して、1つまたは複数の実施形態を送達することができる。
【0163】
放出が一気に起こる系の例としては、ポリマーマトリックスに封入されているリポソームに組成物が捕捉されている系;特定の刺激、例えば、温度、pH、光または分解酵素に感受性であるリポソーム;およびマイクロカプセルコア分解酵素を伴うイオンコーティングされたマイクロカプセルに組成物が封入されている系が、挙げられる。阻害剤の放出が漸進的および連続的である系の例としては、例えば、マトリックス内にある形態で組成物が含有されている浸食系、および組成物が、例えばポリマーを通って、制御された速度で浸透する、侵出系が、挙げられる。このような徐放系は、ペレットまたはカプセルの形態であり得る。
【0164】
一部の実施形態では、長期放出型移植物の使用が特に適していることがある。本明細書で使用される場合、「長期放出」は、組成物を含有する移植物が、治療有効レベルの組成物を少なくとも30もしくは45日間、好ましくは少なくとも60もしくは90日間、または一部の場合にはよりいっそう長期間、送達するように構築および構成されることを意味する。長期放出型移植物は、当業者に周知であり、上記の放出系の一部を含む。
c.粘膜および肺内投与のための好ましい製剤
【0165】
活性薬剤およびその組成物を肺内または粘膜投与用に製剤化することができる。投与は、肺、鼻、経口(舌下、頬側)、膣または直腸粘膜への組成物の送達を含み得る。
【0166】
一実施形態では、化合物は、鼻腔内投与または経口吸入などの、肺内送達用に製剤化される。気道は、外気と血流の間でのガス交換に関与する構造である。肺は、ガス交換が起こる肺胞が最終端にある分岐構造である。肺胞の表面積は、呼吸器系の中で最大であり、そこで薬物吸収が行われる。肺胞は、線毛のない薄い上皮、または粘液層によって覆われており、サーファクタントであるリン脂質を分泌する。気道は、中咽頭と喉頭とを含む上気道に続いて下気道を包含し、下気道は、気管、続いて、気管支および細気管支への二分岐を含む。上および下気道は、誘導気道と呼ばれる。終末細気管支は、次いで呼吸細気管支に別れ、次いで、最終呼吸器ゾーンである肺胞、または肺の深部に至る。肺の深部、または肺胞は、全身性薬物送達のために吸入される治療用エアロゾルの一次標的である。
【0167】
低分子量薬から構成されている治療用組成物の肺内投与は、例えば、喘息を処置するためのベータ-アンドロゲンアンタゴニストに見られる。肺において活性である他の治療剤は、全身投与され、肺吸収によって標的化されている。経鼻送達は、以下の理由のため治療薬の投与のための有望な技法であると見なされる:鼻は、非常に多くの微絨毛により上皮が覆われていることから薬物吸収に利用可能な大きい表面積を有する;上皮下層は、血管に富んでいる;静脈血は、鼻から直接全身循環に進むため、肝臓における初回通過代謝による薬物の損失を回避する;経鼻送達は、より低い用量、治療薬血中レベルのより急速な到達、薬理学的活性のより迅速な開始、より少ない副作用、cm3(多孔性上皮基底膜)当たりの高い総血流量をもたらす;および経鼻送達は、利用しやすい。
【0168】
本明細書で使用される場合のエアロゾルという用語は、溶液または懸濁液の状態であり得る、粒子の霧状ミストの任意の調製物を、それが噴射剤を使用して生成されるか否かを問わず、指す。エアロゾルは、超音波または高圧処理などの標準的技法を使用して生成することができる。
【0169】
肺用製剤のための担体は、ドライパウダー製剤のためのものと、溶液としての投与のためのものに分けることができる。治療剤を気道に送達するためのエアロゾルは、当技術分野において公知である。上気道経由での投与のための製剤を、滴剤としてのもしくはスプレーとしての鼻腔内投与のために、緩衝されたまたは未緩衝の溶液、例えば水もしくは等張食塩水に添加して製剤化すること、または懸濁液として製剤化することができる。好ましくは、そのような溶液または懸濁液は、鼻分泌物に対して等張であり、ほぼ同じpH、例えば、約pH4.0~約pH7.4、またはpH6.0~pH7.0の範囲のpHである。緩衝剤は、生理学的に適合性であるべきであり、単なる例としてリン酸緩衝液を含む。例えば、代表的な鼻充血除去薬は、約6.2のpHに緩衝されていると記載されている。当業者は、経鼻および/または上気道投与用の非侵害性水溶液についての適切な塩分量およびpHを容易に決定することができる。
【0170】
好ましくは、水溶液は、水であるか、塩および/もしくは緩衝剤を含有する生理学的に許容される水溶液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)であるか、または動物もしくはヒトへの投与に許容される任意の他の水溶液である。そのような溶液は、当業者に周知であり、蒸留水、脱イオン水、純または超純水、食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)を含むが、これらに限定されない。他の適する水性ビヒクルとしては、リンゲル液および等張塩化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。水性懸濁液は、懸濁化剤、例えば、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンおよびトラガカントゴム、ならびに湿潤剤、例えばレシチンを含み得る。水性懸濁液のための適する保存薬は、p-ヒドロキシ安息香酸エチルおよびp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルを含む。
【0171】
別の実施形態では、低毒性有機(すなわち、非水性)クラス3残留溶媒である溶媒、例えば、エタノール、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、エチルエーテルおよびプロパノールが、製剤に使用され得る。溶媒は、製剤を容易にエアロゾル化するその能力に基づいて選択される。溶媒は、化合物と有害に反応してはならない。化合物を溶解する、または化合物の懸濁液を形成する、適切な溶媒を使用するべきである。溶媒は、溶液または懸濁液のエアロゾルの形成を可能にするのに十分なほど揮発性であるべきである。溶液または懸濁液の揮発度を高めるために、所望に応じて、追加の溶媒またはエアロゾル化剤、例えばフレオンを添加することができる。
【0172】
一実施形態では、組成物は、少量の、当業者に周知のポリマー、界面活性剤または他の賦形剤を含有し得る。この文脈での「少量」は、肺内への化合物の取込みに影響を与え得るまたは取込みを媒介し得る賦形剤が存在しないこと、および存在する賦形剤が、肺内への化合物の取込みに悪影響を与えない量で存在することを意味する。
【0173】
ドライ脂質パウダーは、それらの疎水性のため、エタノールに直接分散させることができる。クロロホルムなどの有機溶媒中で保存する脂質については、所望される量の溶液がバイアルに入れられ、窒素を流しながらクロロホルムが蒸発されてガラスバイアルの表面に乾燥薄膜を形成する。この薄膜は、エタノールでの再構成時に容易に膨潤する。脂質分子を有機溶媒に完全に分散させるために、懸濁液が超音波処理される。脂質の非水性懸濁液を、再使用可能なPARI LC Jet+ネブライザー(PARI Respiratory Equipment、Monterey、CA)を使用して無水エタノールで調製することもできる。
C.処置される疾患
【0174】
本開示操作されたトランスポゾンは、単一遺伝子の変異により引き起こされる遺伝的欠損、遺伝性障害および疾患の処置に、例えば、点変異により引き起こされる遺伝的欠損、遺伝性障害および疾患の修正に、特に有用である。標的遺伝子が、遺伝性障害の原因である変異を含有する場合には、本開示組成物を、標的遺伝子のDNA配列を正常に回復させることができる変異性修復に使用することができる。標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内にあることもあるか、またはイントロン内にあることがある。標的配列は、標的遺伝子の発現を調節するDNA配列、例えばプロモーターまたはエンハンサー配列など、の中にあることもある。本開示トランスポゾンは、加えてまたは代替的に、目的の遺伝子の野生型もしくは同等のおよび強化されたバージョンを細胞に送達することができ、または新たな(例えば、異種)遺伝子を細胞に送達することができる。したがって、この技術は、遺伝子を修復もしくは置換することができ、遺伝子を補完することができ、または新たな遺伝子を加えることができる。
【0175】
標的遺伝子が、無秩序な増殖を、例えばがん細胞において、引き起こすがん遺伝子である場合には、操作されたトランスポゾンは、遺伝子を不活性化するおよび細胞の無制御な増殖を終結または低減させる変異を引き起こすのに有用である。操作されたトランスポゾンは、増殖を抑制するその能力を喪失したリプレッサー遺伝子を活性化するための有用な抗がん剤でもある。標的遺伝子は、がんに対する宿主の免疫応答を増強するために、免疫調節因子、例えばPD-1、をコードする遺伝子であることもある。したがって、操作されたトランスポゾンを、PD-1の発現を低減させるまたは防止するように設計することができ、低減させるまたは防止するのに有効な量で投与することができる。
【0176】
操作されたトランスポゾンを、例えば、ウイルスの適切な増殖または機能に必要なウイルスゲノムの特定の部分を修飾するように設計すると、抗ウイルス剤として使用することができる。
【実施例】
【0177】
Muhbub, et al., Mobile DNA (2017) 8:16 DOI 10.1186/s13100-017-0097-9は、特に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
(実施例1)
R2タンパク質は非特異的線状DNAよりも非特異的4方向ジャンクションDNAに優先的に結合する。
材料および方法
タンパク質精製
【0178】
R2Bmタンパク質発現および精製は、以前に発表されたように行った(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))。手短に述べると、R2発現プラスミドを含有するBL21細胞をLBブロスで成長させ、IPTGで誘導した。誘導細胞を遠心分離によりペレット化し、再浮遊させ、リゾチームとトリトンX-100とを含有するHEPES緩衝液で穏やかに溶解した。細胞DNAおよび破壊片を遠心沈降させ、R2Bmタンパク質を含有する上清をTalonレジン(Clontech #635501)で精製した。R2Bmタンパク質をTalonレジンカラムから溶出し、50mM HEPES pH7.5と、100mM NaClと、50%グリセロールと、0.1%トリトンX-100と、0.1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)と、2mMジチオトレイトール(DTT)とを含有するタンパク質保存用緩衝液中で保存し、-20℃で保存した。ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で泳動させた試料のSYPRO Orange(Sigma #S5692)染色によりR2タンパク質を定量した後、保存のためにBSAを添加した。全ての定量は、デジタル写真のFIJIソフトウェア解析(Schindelin et al., Nat Methods 9, 676 (2012))を使用して行った。
核酸調製
【0179】
28S R2標的DNA配列、非標的(非特異的)DNA配列およびR2配列を含有するオリゴを、Sigma-Aldrichから取り寄せた。上流(28Su)および下流(28Sd)標的DNAという呼称は、28S rRNA遺伝子内のR2挿入二分染色体を基準とする。オリゴ配列を表1で報告する。
【0180】
全ての線状DNAは、長さ50bpであった。3方向および4方向ジャンクションの大部分についての各アームは、第2鎖合成生成物を観察するために28S DNAアーム長を戦略的に変えたcDNA合成について試験したジャンクションを除いて、長さ25bpであった。構築物の略図を主要な図において提供する。28Sd配列を有するオリゴは、28S rDNAのR2挿入部位後の25bpまたは47bpどちらかを含有した。挿入部位に及ぶように上流配列の7塩基対もこれらの「下流」オリゴに含めた。28Su配列を有するオリゴは、挿入部位の前の72bp、および28S rDNAのR2挿入部位後の5bpも含有した。最大のオリゴは、28S rDNAの上流の72bpおよび下流の47bpを含有した。いくつかのオリゴは、3’RNAまたは5’RNAのどちらかに相補的な25bpの配列を組み込んだ。R2Bmの最初および最後の25bpに対応する配列のより短いオリゴ(25bp)も、構築物の多くに使用した。非特異的4方向ジャンクションのx、h、bおよびr鎖についての配列は、Middletonら(Middleton and Bond, Nucleic Acids Res 32, 5442 (2004))から得た。構築物を、成分オリゴアニーリング手順により形成した:20pmolの標識オリゴを66pmolの各低温オリゴと混合した。プライマーをSSC緩衝液(15mMクエン酸ナトリウムおよび0.15M塩化ナトリウム)中で、2分間95℃で、続いて10分間65℃で、10分間37℃で、そして最後に10分間、室温でアニーリングした。成分オリゴの1つに5’32P末端標識を施した後、他の成分オリゴをアニーリングした。アニーリングされたジャンクションを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製し、ゲル溶出用緩衝液(0.3M酢酸ナトリウム、0.05%SDSおよび0.5mM EDTA pH8.0)で溶出し、クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させ、Tris-EDTAに再浮遊させた。共通の標識オリゴを共有するジャンクションを、DNA数が等しくなるようにし、そうでなければ精製された構築物の等体積をR2反応に一般に使用した。R2 3’PBM RNA(249nt)、5’PBM RNA(320nt)、および非特異的RNA(180nt)は、以前に発表されたようなin vitro転写により生成した(Gasior, et al., J Mol Biol 357, 1383 (2006))。
R2Bm反応および分析
【0181】
R2タンパク質および標的DNA結合および切断反応は、主として、以前に報告されたように実行した(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))。手短に述べると、各DNA構築物を、5’PBM RNA、3’PBM RNAおよび非特異的RNAの存在および非存在下でR2タンパク質に結合するおよびDNA切断を受けるその能力について試験した。全ての反応物は、過剰な低温コンペティターDNAであるdIdCを含有した。反応物を分析のために電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)ゲルおよび比較変性ゲル上に負荷した。分岐型および線状DNAに結合する能力をEMSAゲルから得、DNAを切断する能力および切断位置を変性尿素ゲルから得た。切断のマッピングを補助するために変性ゲルでの反応と並行してA+Gラダーを泳動させた。第2鎖合成アッセイは、RNAの非存在下でDNA切断反応にdNTPを加えることによって実行した。全てのゲルを乾燥させ、ホスフォイメージャースクリーンに曝露し、ホスフォイメージャー(Molecular dynamics STORM 840)を使用してスキャンした。得られた16ビットTIFF画像を、最も強いバンドが暗灰色になるように線形補正した。補正されたTIFFファイルを、FIJIを使用して定量した(Schindelin et al., Nat Methods 9, 676 (2012))。
【0182】
表1.線状およびジャンクションDNAを構築するために使用したDNAおよびRNAオリゴヌクレオチドを提示する表。「Comp」は、相補鎖を表す。
【表1-1】
【表1-2】
結果
【0183】
ホリデイジャンクションリゾルバーゼは、4方向DNAジャンクション(ホリデイジャンクション)に結合し、それを対称に切断し、その結果、ジャンクションを線状DNAに分解した。ホリデイジャンクションリゾルバーゼは、DNA配列ではなくDNA構造を認識する。古細菌ホリデイジャンクションリゾルバーゼと構造相同性およびアミノ酸配列相同性を共有するR2 RLEは、同様のDNA結合および切断活性を提示し得る。
【0184】
4方向DNA分岐型構造を認識し、それに結合するR2タンパク質の可能性を、非特異的線状および非特異的4方向ジャンクションDNAに対するR2タンパク質の相対結合能力を-個々におよび競合的に-比較することにより試験した(
図2A~2B)。線状およびジャンクションDNAは、相補的オリゴをアニーリングすることにより形成した。線状およびジャンクションDNAは、アニーリング前に放射活性物質で標識した共通のDNAオリゴを共有した。共通の標識DNA鎖を共有することにより、放射能減衰カウントを、線状DNAとジャンクションDNA間のDNA濃度を均等化するためのプロキシとすること、および類似のDNA配列をプローブすることが可能になった。DNA結合を電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)により分析した。RNAの非存在下(
図2A~2B)では、R2タンパク質は、タンパク質濃度系列にわたって個々に検査したときに非特異的線状DNAと非特異的4方向ジャンクションDNAの両方にほぼ等しい効率で結合した。しかし、競合結合反応では、R2タンパク質は、線状DNAよりも4方向ジャンクションへの結合の明確な優先性を有した。ジャンクションDNAは、より多数の全塩基対(100bp;各アームは25bpである)を含有したが、線状DNAは、より少なかった(50bp)ことに留意されたい。しかし、R2タンパク質は、ジャンクションDNAの大部分が結合し終えるまで線状DNAに結合しなかったので、DNA「長」の差(2倍より大きい差)が、競合反応において観察される結合親和性に対して有意な影響を与えた可能性は低い。
【0185】
線状DNAとジャンクションDNAの両方についての泳動パターンは、近似していた。シグナルの一部分がウェルに詰まり、ウェルからゲル中のかすかなタンパク質-DNA複合体へと下に延びるスメアを伴った。線状およびジャンクションDNAについてのゲル泳動タンパク質-DNA複合体は、ゲル内のほぼ同じ位置に泳動した。線状DNAの場合、スメアは、ウェルから遊離DNAまでずっと続いた。泳動パターン、特に、ジャンクションDNAに結合したR2タンパク質の泳動パターンは、DNA切断前にRNAの非存在下でそれ自体の標的DNAに結合したR2タンパク質の泳動パターンと同様であった(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005)、Christensen and Eickbush, J Mol Biol 336, 1035 (2004))。
【0186】
非特異的RNA(nsRNAと略記する)の存在下で、R2タンパク質は、やはりジャンクションDNAに優先的に結合し、RNAの非存在下でも同様であった。この場合もやはり、ウェルからゲル中の主要複合体へと延びるスメアがあった。ジャンクションおよび線状タンパク質-RNA-DNA複合体は、ゲル内の同様の、しかし明確に異なる位置へと泳動した。R2 3’PBM RNAの存在下で、R2タンパク質は、ジャンクションDNAに結合し、非特異的RNAに関してもほぼ同様であり、この場合もやはり、4方向ジャンクションDNAの方が非特異的線状DNAより優先された。興味深いことに、5’PBM RNAの存在下では、挙動が異なった(次の節を参照されたい)。
(実施例2)
3’PBM RNAではなく5’PBM RNAは、非特異的4方向DNAジャンクションへの結合を阻害する。
【0187】
4方向ジャンクションDNAに結合するR2タンパク質を、非特異的RNA、3’PBM RNA、および5’PBM RNAの様々なRNA濃度にわたって直接比較するためのアッセイを設計した。各RNA滴定セットについて、使用したタンパク質の量は、RNAを欠いている反応でジャンクションDNAの大部分に結合するのに十分な量であった。一般に、3つのRNAのいずれの添加も、材料をウェルから引き出し、ゲルに引き入れた。R2 RNAは、材料をウェルから引き出し、ゲルに引き入れる効率がより高かった。同様の現象は、R2タンパク質がその通常の(線状)28S標的DNAにR2 RNAの存在下で結合されたときに観察される(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005), Christensen and Eickbush, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 17602 (2006), Christensen and Eickbush, J Mol Biol 336, 1035 (2004))。線状28S標的DNAへの結合とは異なり、5’PBM RNAの存在は、4方向ジャンクションDNAへのR2タンパク質の結合を大きく阻害した。5’PBM RNAの存在のみがジャンクションDNAへのR2タンパク質の結合に大きな影響を与え、阻害は5’PBM RNA濃度に対応した。非特異的線状DNAおよび3方向ジャンクションへの結合は、5’RNAの存在による影響をあまり受けなかったが、それでもやはり、その存在下で低減された。この阻害は、下流28S rDNA配列がDNA構築物のいずれかに存在する場合、観察されない(Christensen, et al., Nucleic Acids Res 33, 6461 (2005), Zingler, et al., Cytogenet Genome Res 110, 250 (2005))。
(実施例3)
R2タンパク質は非特異的4方向ジャンクションDNAを分解しない。
【0188】
RNAの非存在下で様々なタンパク質濃度にわたって非特異的線状および非特異的4方向ジャンクションに結合したR2タンパク質の反応からのDNAを、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりDNA切断現象について分析した。ジャンクションおよび線状DNAの各鎖を、異なるDNA鎖の5’末端を逐次的に放射性同位体で標識することにより、DNA切断事象について独立して追跡した。ランダム低強度バックグラウンド切断の複雑なパターンが、特にタンパク質過剰の場合に発生した。R2タンパク質が過剰に存在した場合、同様のバックグラウンド切断事象が、RNAの非存在下でその正常な28S標的DNAに結合したR2タンパク質について発生した。非特異的ジャンクションに対するバックグラウンド切断は、同じ配列の線状DNA内の同一の位置で切断が起こるので、構造により駆動されるものではなかった。3つのRNA(5’PBM RNA>3’PBM RNA>非特異的RNA)のいずれについての存在も、ランダムバックグラウンドDNA切断を消失させた。
(実施例4)
線状標的DNAおよびTPRT生成物は第2鎖切断の不良な基質である。
【0189】
R2Bmは、28S rDNAの特定の部位に挿入される。挿入部位の下流の標的配列に結合されたタンパク質サブユニットが、第2鎖(すなわち、トップ鎖)DNA切断に関与するエンドヌクレアーゼを提供することが分かった。しかし、第2鎖切断は、今に始まったことではないが達成および研究するのが難しかった。これまで、第2鎖切断は、狭い範囲の5’PBM RNA、R2タンパク質およびDNA比を必要とした。以前のデータは、第2鎖が切断され得る前に第1鎖DNA切断がほぼ確実に必要とされること、下流サブユニットがDNAに結合されなければならない(これは、5’PBM RNAを必要とする)こと、および次いで、第2鎖切断が起こるために5’PBM RNAが下流サブユニットから解離しなければならないことを示した。in vivoでは、完全長R2 RNAに関して、TPRTプロセスは、5’PBM RNAを下流サブユニットから取り出し、その結果、下流サブユニットを「RNA非結合」状態にし、ひいては第2鎖DNA切断を開始させると考えられることになる。
【0190】
R2タンパク質が、RNAの非存在下で分岐型DNAに結合することができることを考慮して、RNAの非存在下でDNAを切断する下流サブユニットの能力におけるDNA構造の役割を調査した。下流サブユニットに関連する活性を単離するために、DNA構造は、上流に結合するR2タンパク質サブユニットの結合部位ではなく下流R2タンパク質サブユニットの結合部位を含有した。上流DNA配列を、前の図に使用した4方向ジャンクションに由来する非特異的DNAに置き換えた。下流28S DNAを含有する線状DNAは、第1鎖DNA切断事象の存在または非存在にかかわらず、第2鎖切断の基質ではなかった(
図2、構築物iiiおよびiv)。R2タンパク質により切断され得るTPRT後アナログ(構築物v)も、基質ではなかった。TPRTアナログは、TPRT反応から考えると、第1(ボトム)鎖切断部位ですでに切断されており、R2エレメントの3’末端に対応するcDNA配列に共有結合で連結されている、下流28S DNAを含有する3方向ジャンクションであった。構築物のcDNA部分にアニーリングしたのは、25bpのR2 RNAまたは同じ25bpのDNAバージョンのどちらかであった。R2Bmタンパク質は、これらの3方向ジャンクションのトップ鎖を切断することができなかった。R2 3’配列含有アームが、RNA-DNA二重鎖の形態であるか、DNA二重鎖の形態であるかは、問題ではなかった。
(実施例5)
特定の4方向ジャンクションがR2タンパク質により切断される。
【0191】
線状およびTPRT-ジャンクション(
図3、構築物iii~v)DNAとは異なり、標的配列とR2配列とを含む4方向ジャンクションは、R2タンパク質により切断され ることが判明した(
図3、構築物viii)。構築物viiiは、TPRT-ジャンクション(構築物v)に類似していたが、追加のアームである5’R2アームを有した。R2 5’アームとR2 3’アームは、両方とも、長さ25bpであり、RNA-DNA二重鎖からなった。構築物viiiは、cDNAと標的DNA間の提案されている会合を模倣する。R2Bm mRNAの5’末端は、上流標的DNAに対応するrRNA配列を含有すると考えられている(Eickbush, et al., PLoS One 8, e66441 (2013), Stage and Eickbush, Genome Biol 10, R49 (2009), Fujimoto et al., Nucleic Acids Res 32, 1555 (2004), Eickbush, et al., Mol Cell Biol 20, 213 (2000))。したがって、逆転写されたcDNAは、標的のトップ鎖とハイブリダイズして4方向ジャンクションを形成することができた。同じジャンクションの完全に共有結合によって閉環した全てのDNAバージョンを、より低い程度にだが、切断することもでき(
図3、構築物viを参照されたい)、R2 3’アームを欠いている構築物を切断することもできた(構築物vii)。
(実施例6)
第2鎖DNA切断のさらなる探究。
【0192】
第2鎖切断についての構造上の必要要件をさらに詳しく調査するために、
図3構築物viiiの多数の構造バリアント(すなわち、部分的ジャンクション)を切断性について試験した(
図4A~4B、構築物i~viii)。
図3構築物viiiは、28S下流アームの長さを、
図3構築物viiiで使用した元の25bpではなく47bpに増加させたことを除き、
図4A構築物iと同一である。この調整は、
図4A~4B構築物中の下流DNAを、以前の公表文献(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res 44, 3276 (2016))で使用された過去の線状DNA構築物に含まれていた下流DNAの量と一致させるためのものであった。部分的ジャンクション(
図4A~4B、ジャンクションii~viii)の切断性を試験した理由は、結合および切断反応において少ないが存在する夾雑部分的ジャンクションに起因した可能性がある
図3で観察されたDNA切断シグナルが、あったとすれば、どの程度あるのかを判定するためであった。それは、RNA成分の細胞による除去を模倣する構築物(例えば、細胞RNaseによる;構築物vi~viii)が、R2タンパク質により切断される点で無傷RNA-DNA二重鎖を有する構築物より向上したのか、または悪化したのかを判定するためでもあった。部分的ジャンクション(複合体iiおよびiii)のうちのいくつかは、切断され得、したがって、完全ジャンクション(複合体i)を含有する反応における全切断にある程度寄与する可能性があるように見えた。両方のRNA成分を欠いていた4方向ジャンクション(複合体vi)は、ほぼ切断不能であった。これは、二本鎖R2アームの必要性を示す。5’末端RNAを欠いてたが3’末端RNAを含有した4方向ジャンクション(構築物vii)も、感知可能に切断することができなかった。これは、R2 5’アームにおけるRNA-DNA二重鎖の存在の重要性を示す。3’末端RNAを欠いていたが5’末端RNAを含有した4方向ジャンクション(構築物viii)は、良好に切断した。実際、それは、構築物iよりも効率的に切断された。これは、R2 3’アーム内の二重鎖の存在が、ある程度阻害性であること、しかし5’アーム内の二重鎖の存在が刺激性であることを示す。
【0193】
第2鎖DNA切断に対する上流標的配列の相対的重要性を調査するために、73bpの上流28S DNAを4方向ジャンクションに組み入れた(
図4C~4D;構築物ii~iv)。構築物iiでは、47bpの下流28S DNAを非特異的DNAで置換し、構築物iiiは、全標的DNA配列(73bpの上流28S DNAおよび47bpの下流28S DNA)を含有した。構築物iiを、前の図の場合と同様に下流標的DNAを含有したが上流のものを含有しなかった構築物iよりもはるかに低い効率でだが、切断することができた。構築物iiを切断することができるという事実は、恐らく、構築物iと構築物iiの両方に共通の12bp(DNAの上流の7bpおよび下流の5bp)が、DNA切断の指示の助長に関与し得ることを示す。逆説的に、全標的配列を含有する構築物iiiは、構築物iiと比べても切断される効率が低かった。鋳型ジャンプ中に起こると考えられる、フラップの付加、または鎖の移動(構築物iv)は、ジャンクションの切断性を著しく増大させた。
(実施例7)
第2鎖切断はdNTPの存在下で第2鎖合成に至る。
【0194】
第2鎖切断が第2鎖合成に進むことができるかどうかを試験するために、dNTPをDNA切断反応に加えた。第2鎖合成について試験するために使用した構築物は、
図4A~4Bの構築物iであった。これは、比較的良好に切断した。様々なR2タンパク質濃度を使用し、変性(
図5)および非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により反応を分析した。4方向ジャンクションの標識鎖は、非切断72ntであり、第2鎖DNA切断時には長さ24ntであった(変性ゲル上にSSCと記した)。第2鎖合成(SSS)、すなわち、DNA切断後の標識鎖の伸長は、変性ゲルで分析すると50nt生成物を生成することになる。第2鎖DNA合成は、変性ゲルにおいてタンパク質滴定系列の上端部でのみ観察された。この理由は、未変性(EMSA)ゲルで明らかになる。切断されると、4方向ジャンクションは、下流アームとR2 3’アームとを含有する1つのDNA、および「上流」アームとR2 5’アームとを含有する1つのDNAである、2つの線状DNAに分解される。R2タンパク質は、DNA切断後に下流28S DNAを含有するDNAに結合したままであるよう見えたが、非特異的「上流」DNAを含有するDNAを伴うDNAは遊離された。遊離DNAプライマー-鋳型は、タンパク質が過剰に存在する場合にのみR2 RTにより伸長される。第2鎖切断および第2鎖合成の生成物の泳動位置をEMSAゲルの隣に示す。
【0195】
dNTPの存在下、変性ゲル上での完全長オリゴより高いシグナルは、R2により伸長される元の完全長オリゴに起因する。in cisまたはin transで鋳型を与えると、R2は、ほぼあらゆる3’末端を捕らえ、伸長させることができる(Bibillo, et al., J Biol Chem 279, 14945 (2004), Bibillo and Eickbush, J Mol Biol 316, 459 (2002))。
(実施例8)
すでに切断されているDNA構築物における第2鎖合成。
【0196】
プライマー-鋳型は、上流DNAが4方向ジャンクションに存在しない場合、タンパク質-DNA複合体から遊離されるが、これは、全標的配列を含有するジャンクションではin vivoで起こらないと考える人もいるだろう。一つには、そう考えるのは、下流サブユニットが第2鎖合成を実行すると考えられているからである(Christensen and Eickbush, Mol Cell Biol 25, 6617 (2005))。残念なことに、全標的配列を有するジャンクションは、あまり切断されず(
図4Cおよび4D)、第2鎖合成は、in vitroで試験したとき検出レベル未満である。この理由から、第2鎖切断後アナログを生成した。第2鎖切断生成物ともに繋留された状態に保つために、R2 3’および5’末端「RNA」を共有結合で連結させたが、RNAの代わりに便宜上DNAを使用した。第2鎖切断生成物を含有する上流28S DNAは、繋留された立体配置でプライマー伸長(すなわち、第2鎖合成)を経ることができる。5’末端cDNA鎖を鋳型として使用した(
図6A)。
【0197】
どのR2タンパク質サブユニットが第2鎖合成に使用されるのかを判定するために、線状の(
図6B、複合体ivおよびv)および繋留された(
図6B、複合体iおよびiii)第2鎖切断後生成物を、第2鎖合成を経るそれらの相対的な能力について試験した(
図6C)。結果は、第2鎖切断に関与する4方向ジャンクションに結合されたサブユニットと一致する。複合体iiiは、第2鎖合成の最も効率の高い基質であり、複合体は、最も効率の低い基質であった。
(実施例9)
HINALPおよびCCHCモチーフのコア残基の変異は、標的DNA結合に影響を与え、DNA切断特異性の喪失をもたらす。
材料および方法
変異
【0198】
リンカー領域の推定αフィンガー(HINALPモチーフ領域)およびジンクナックル(CCHCモチーフ領域)の役割を調査するために、多数の二重点変異体を生成した(
図8B)。推定αフィンガー領域の変異は、GR/AD/A、VH/ATH/A、H/AIN/ALP、SR/AIR/AおよびSR/AGR/Aを含んだ。H/AIN/AALPおよびSR/AIR/A変異は、野生型(WT)タンパク質と比較して回収される可溶性タンパク質を低減させる結果となった。VH/ATH/A変異は可溶性タンパク質を生じさせなかったので、それをこの研究から除外した。ジンクナックル領域の変異は、C/SC/SHC、CR/AAGCK/A、E/AT/AT、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aであった(
図8B)。C/SC/SHC変異は、野生型(WT)タンパク質と比較して回収される可溶性タンパク質の大幅に低減させる結果となった。E/AT/AT変異は使用可能な量のタンパク質を生じさせなかったので、それをこの研究から除外した。
タンパク質および核酸調製
【0199】
タンパク質は、以前に発表されたように発現させ、精製した(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res.44, 3276-3287 (2016))。QuikChange部位特異的変異誘発キット(Stratagene #200523-5)を使用して、GR/AD/A、SR/AIR/A、SR/AGR/A、H/AIN/ALP、C/SC/SHC、CR/AAGCK/A、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/A変異体を生成した。5’PBM(320nt)、3’PBM(249nt)、線状標的DNA、および4方向ジャンクションは、以前に発表されたように調製した(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res.44, 3276-3287 (2016))。
R2Bm反応および分析
【0200】
DNA結合、第1および第2鎖切断、ならびに第1および第2鎖合成反応は、以前に報告されたように実行した(Govindaraju, et al., Nucleic Acids Res.44, 3276-3287 (2016))。
【0201】
DNA結合アッセイのために、タンパク質を除く全ての成分を含有するマスターミックスを作製し、小分けした。データセットの中の試験する全てのタンパク質にわたって3ulのタンパク質を既知の等化した濃度で添加することにより結合反応を開始させた。二重反復の反応をデータセットごとに用意し、2つの異なるデータセットを各々異なるタンパク質濃度で生成した。WTおよびWT KPD/Aタンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性およびエンドヌクレアーゼ欠損変異についての結合活性参照および陽性対照としての役割をそれぞれ果たした。
【0202】
DNA切断アッセイのために、タンパク質およびDNAを除く全ての成分を含有するマスターミックスを作製し、小分けした。タンパク質希釈系列からのタンパク質を5分間、37℃で放置してRNAに結合させた後、標的DNAを添加して切断反応を開始させた。反応物を30分間、37℃でインキュベートした。反応物を氷上に保持し、次いで、5%未変性(1×Tris-ホウ酸-EDTA)ポリアクリルアミドゲルでおよび変性(8M尿素)7%ポリアクリルアミドゲルで泳動させた。
【0203】
第1および第2鎖合成反応物は、マスターミックス中の標識標的DNAを、タンパク質を除く全ての他の成分とともに含んだ。DNA切断のない変異体を、正常な切断能力のある変異体とともに試験することができるように、すでに切断されている線状DNAを使用した。第2鎖合成アッセイのための標的DNA基質は、第2鎖がすでに切断されている4方向ジャンクションDNAであった。この基質は、第2章で説明する。切断アッセイと同様に、反応を未変性ポリアクリルアミドゲルと変性ポリアクリルアミドゲルの両方により分析した。
【0204】
全てのゲルを乾燥させ、ホスフォイメージャー(Molecular dynamics STORM 840)およびFIJI(Schindelin, et al., Nat. Methods (2012). doi:10.1038/nmeth.2019.Fiji)を使用して定量した。
結果
【0205】
二重点変異体がHINALP領域において4つ生成され、ジンクナックル領域において4つ生成された。H/AIN/AALPおよびC/SC/SHC変異体は、ほぼ同一の表現型を有するように見える。変異の両方のセットは、線状DNAへのDNA結合を著しく損なわせ、線状DNAがEMSAゲルにおいて正しいDNA-RNA-タンパク質複合体を形成する能力も著しく損なわせる(
図9A~9B)。ウェル複合体、およびウェルから下って遊離DNAに至る拡散スメアしか、観察されなかった(
図9A~9B)。この観察は、上流結合条件(すなわち、3’PBM RNAの存在)および下流結合条件(すなわち、5’PBM RNAの存在)の両方に当てはまる。ジンクナックルモチーフのシステインおよびヒスチジン残基は、推定亜鉛配位残基である。C/SC/SHC変異は、リンカーの局所的ミスフォールディングを促進し得る。H/AIN/AALP変異も、リンカーのフォールディングに影響を与え得る。
【0206】
3’PBM RNAの存在下では、H/AIN/AALPおよびC/SC/SHC変異体は、挿入部位における第1鎖切断をほとんどまたは全く示さなかった。第2鎖DNA切断は、5’PBM RNAの存在下で同様に消失された。部位特異的DNA切断ではなく、大量に存在する無差別な切断が、標的DNAの両方の鎖の異常な部位で観察された。
(実施例10)
推定αフィンガーの変異は、DNA結合、特に、特定の分岐型組込み中間体アナログへのDNA結合に影響を与える。
【0207】
推定αフィンガーが、上流および/または下流標的DNA配列へのタンパク質の固定に関与するかどうかをより良好に判定するために、コアHINALPモチーフの周囲の変異を試験した。GR/AD/A、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体を、3’PBM RNAの存在下および5’PBM RNAの存在下で線状標的に結合するそれらの能力について試験した。2つの陽性対照である、WT R2タンパク質と、アラニンに変異させたRLEの触媒残基(KPD/A)を有するR2タンパク質とを使用して、DNA切断に影響を与えるかまたは与えないαフィンガー変異(次の節を参照されたい)を適切に制御するために、DNA切断をノックアウトしたが、DNA結合をノックアウトしなかった。電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を使用して、変異体のDNA結合能力を対照R2タンパク質と比較してアッセイした(
図10A~10B)。二重反復のレーンに負荷し、二重反復の結合反応を実行した。ベクター対照抽出物レーンおよび無タンパク質レーンが、陰性対照レーンとしての役割を果たした。
【0208】
上流標的DNA結合は、GR/AD/A変異によって中等度に低減(24%)され、SR/AIR/A変異によって極軽度に低減(13%)された。しかし、上流標的DNA結合活性は、SR/AGR/A変異体により32%まで有意に増加された(
図10A~10B)。GR/AD/AおよびSR/AGR/A変異体についての下流標的DNA結合活性は、WT活性と同様であり、約13%の軽度の減少しか有さなかった。SR/AIR/A変異は、19~28%の範囲で結合を減少させた。3つの変異体は全て、タンパク質-RNA-DNA複合体の泳動パターンに、たとえあったとしても、大きい影響を与えないようであったが、より多くのウェル複合体形成がSR/AIR/A変異体について観察された(
図10A~10B)。RNAの非存在下で線状標的DNAに結合する変異体の能力を
図10Dに提示する。
【0209】
4方向ジャンクション組込み中間体に結合する変異体の能力も試験した。4方向ジャンクションは、鋳型ジャンプステップ後に28S rDNAがとる分岐型構造を模倣し、28Sd rDNA配列(ノースアーム)、非特異的配列(ウエストアーム)、R2 5’末端RNA-DNA二重鎖(サウスアーム)、およびR2 3’末端RNA-DNA二重鎖(イーストアーム)を含有する(
図10C)(実施例1~8も参照されたい)。4方向ジャンクションDNAを、ウエストアームの5’末端のトップ鎖において放射性同位体で標識した。ジャンクションDNAをRNAの非存在下でR2タンパク質とともにインキュベートし、分割量をEMSAゲルで泳動させた(
図10C)。上で説明したように定量した後、2つの変異体は、4方向ジャンクションに結合するR2タンパク質の能力を有意に、SR/AIR/Aは63%およびSR/AGR/Aは48%、低下させることを示したが、GR/AD/A変異体の結合活性は、WT活性のものと同等であり、12%の軽度の低下しか示さなかった。
(実施例11)
推定αフィンガーの変異は第1鎖DNA切断を低減させる
【0210】
第1鎖DNA切断を実行するGR/AD/A、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体の能力をアッセイした。R2タンパク質を3’PBMに事前に結合させ、次いで、標的DNAとともにインキュベートした。タンパク質滴定系列を使用した(7つの1:3タンパク質希釈物)。各反応物の分割量をEMSAゲルでおよび変性(8M尿素)ポリアクリルアミドゲルで泳動させた。標的DNAをボトム鎖(すなわち、28Sアンチセンス鎖)の5’末端において32Pで標識し、したがって、この鎖の切断を変性ゲルにおいて追跡することができた。
【0211】
EMSAゲルのタンパク質濃度がより高いレーン(最初の2つ)において、RNA濃度を一定に保持すると、RNAの非存在下で見られるものに対応するタンパク質-DNA複合体が、WT、GR/AD/AおよびSR/AGR/A変異体について観察され、タンパク質がRNA濃度と等価に近づくと、DNA-複合体がタンパク質-RNA-DNA複合体とともに出現し、次いで、全てがウェルに詰まった。変異は、WTと比較してタンパク質-RNA-DNA複合体の泳動パターンに大きな影響を与えるようには見えなかった。変異体の各々についての切断活性を、EMSAゲルから計算した結合したDNAの割合(f結合)の関数としての、尿素変性ゲルから計算した切断されたDNAの割合(f切断)の散布図として、報告する。GR/AD/A変異体は、R2タンパク質の第1鎖切断活性に影響を与えなかったが、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体は、第1鎖DNA切断を受ける結合されたタンパク質の能力を有意に低下させた(
図11)。R2切断部位を超えての切断は、WTについても変異体についても観察されなかった。
(実施例12)
推定αフィンガーの変異は第1鎖cDNA合成を低減させる
【0212】
HINALP領域が、TPRT(第1鎖DNA合成)に影響を与えるかどうかを調査するために、第1/ボトム鎖上の挿入部位にニックを有する、すでに切断されている標的DNAを、3’PBM RNAおよびdNTPの存在下でR2タンパク質とともにインキュベートした(
図12A)。標的DNAをボトム鎖の5’末端において放射性同位体で標識して、TPRT生成物の形成を追跡した。タンパク質滴定系列にわたっての反応物の分割量を、EMSAおよび変性ポリアクリルアミドゲルでアッセイした。R2タンパク質により結合された標的DNAの割合(f結合)の関数としてのTPRTを受けた標的DNAの割合(f合成)のグラフを
図12Bで報告する。GR/AD/AおよびSR/AIR/A変異体は、TPRT活性を完全に消失させた一方で、SR/AGR/A変異体は、第1鎖合成活性をおおよそ50%低下させた(
図12B)。
(実施例13)
推定αフィンガーの変異は第2鎖DNA切断に影響を与える
【0213】
GR/AD/A、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体が第2鎖切断に対して果たす役割を、もしあれば、判定するために、2つの異なる切断アッセイに着手した:(1)5’PBM RNAの存在下での線状標的DNAに対する、および(2)RNAの非存在下での4方向ジャンクションDNAに対する切断。線状DNAに対して、R2タンパク質は、5’PBM RNAの存在下で挿入部位の下流に結合するが、RNAが複合体から解離した時点でしか切断しなかった。この解離は、RNAのタンパク質に対する比が、タンパク質滴定系列にわたって低下する(RNAを一定に保持する)と起こる(Christensen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17602-17607 (2006))。EMSAゲルでは、変異体のタンパク質-RNA-DNA複合体の泳動パターンは、WTのものと同様であったが、主要タンパク質-RNA-DNA複合体の真下に位置する第2鎖切断生成物に対応するバンドが、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体については非存在であった。変性ゲルでは、第2鎖切断生成物のシグナルが、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体については見えなかった。非特異的切断は、変異体のいずれについても観察されなかった。GR/AD/Aは、WT活性を示したが、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体は、R2タンパク質のエンドヌクレアーゼ活性をノックアウトして線状標的DNAの第2鎖の切断を生じさせた(
図13A)。
【0214】
上述の通り、4方向ジャンクション組込み中間体を使用して第2鎖切断活性も試験した(
図13B)。第2鎖DNA切断は、タンパク質が、「RNA非」結合状態である場合に起こると考えられており
16、したがって、DNA切断の適切な基質は、鋳型ジャンプにより形成される4方向ジャンクション中間体である。使用したジャンクションDNAの略図を
図10Cに示す。ジャンクションDNAをウエストアームの5’末端において放射性同位体で標識して、28S DNAのトップ鎖に対する切断を追跡した。変異体の切断活性を、前の標的DNA切断アッセイに関して示したように、しかしRNAの非存在下で、WTと対照して試験した。散布図(
図13B)に示されているように、4方向ジャンクションDNAの第2鎖を切断するエンドヌクレアーゼ活性は、SR/AIR/AおよびSR/AGR/A変異体により完全にノックアウトされたが、GR/AD/A変異体は、WT切断活性またはそれより良好な活性を示した。
(実施例14)
推定αフィンガーの変異は第2鎖合成に影響を与える
【0215】
HINALP変異体の第2鎖切断活性を試験することに加えて、同じ変異体を、第2鎖DNA合成活性を試験するために設計した実験に付した。DNA切断があまり効率的でないので、すでに切断されているDNAを使用し、上流および下流末端がin vitroでDNA切断後に分離するので、2つの末端を、イーストアームとサウスアームの間(すなわち、R2 5’末端配列とR2 3’末端配列の間)の共有結合性連結によって一緒に保持した(
図14A~14Bの略図を参照されたい)(実施例1~8も参照されたい)。この第2鎖切断後アナログは、以前の研究で開発し、報告した。HINALP変異体を、この構築物を使用して第2鎖DNA合成活性について試験した(
図14C)。ウエストアームの5’末端を放射性物質で標識して、新たに合成された第2鎖を変性ゲルで可視化した(
図14A~14Bに黒色星印により示されている)。
図14Cに示されているグラフは、EMSAおよび変性ゲルから、第1鎖合成アッセイについて前に説明したようにして得た。GR/AD/A変異体は、最高タンパク質濃度で第2鎖合成量が低下することを除き、よりWTのように動作するようである。SR/AIR/A変異は、標的DNAの約40%がタンパク質結合状態になるまではよりWTのように見えるが、タンパク質濃度の増加に伴って、第2鎖合成が有意に減少する。SR/AGR/A変異体は、
図14Cグラフに示されているように第2鎖を合成するR2タンパク質の能力を大幅に減少させる。
(実施例15)
ジンクナックル領域の残基の変異は標的DNA切断および第2鎖合成に影響を与える
【0216】
C/SC/SHC変異体は、標的DNA結合および切断に影響を与えることを示したが、CCHC領域の役割を、この領域の3つの追加の二重点変異体:CR/AAGCK/A、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aを用いて、さらに調査した(
図8B)。これらの変異体を、前に説明したようにDNA切断活性および新たな鎖の合成活性についてアッセイした。
【0217】
3つの変異体全てが、挿入部位で第1鎖を切断するR2タンパク質の能力をほんのわずかしか低下させず(
図15A)、それらは、TPRTによる第1鎖合成活性に対していかなる影響も与えないようであった(
図15B)。CR/AAGCK/A、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/A変異体は、第1鎖切断および合成についてはほぼWTであったが、これらの変異体のうちの少なくとも2つ、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aは、線状DNAに対する第2鎖切断活性を有意に消失させた(
図15D)。挿入部位における第2鎖切断活性の低下に加えて、RT/AH/A変異体のエンドヌクレアーゼが線状標的のトップ鎖を隣接部位で切断することも判明した。変異体の第2鎖切断活性も4方向ジャンクション標的DNAを使用して試験したが、3つの変異体全てがWT活性を示した(
図15C)。さらにこの場合もやはり、RT/AH/A変異体のエンドヌクレアーゼは、非R2特異的部位に対する追加の切断を示した。
【0218】
図14に示されているような、すでにニックが入っている4方向ジャンクションDNAを用いる第2鎖合成アッセイを、HINALP領域変異体について前に説明したように3つのCCHC領域変異体について行った。
図16に示されているように、CR/AAGCK/Aについての標的DNAの結合単位当たりの第2鎖合成生成物形成は、WTのものと非常によく似ていたが、HILQ/AQ/AおよびRT/AH/Aについては、第2鎖合成生成物形成の劇的な減少があった。
【0219】
表2: DNA結合、切断および合成結果の要約。
【表2】
該当なし(N.A.)、試験していない(N.T.)
「++」:+30%およびそれより高度
「+」:+15%~30%
「WT」:WT活性の15%~-15%:機能的にWT
「-」:-15%~-30%:わずかな低減
「--」:-30%~-50%:大幅な低減
「---」:-50%~75%:著しい低減
「φ」:75%またはそれより高度:機能的に無効
【0220】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての専門および科学用語は、本開示発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に引用した公表文献、およびそれらの公表文献を引用する材料は、参照により特に組み込まれる。
【0221】
当業者は、本明細書に記載する本発明の特定の実施形態の多くの均等物に気付くであろう、または常例的実験のみを使用してそのような均等物を突き止めることができるであろう。そのような均等物は、後続の特許請求の範囲により包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】